【発明の詳細な説明】
ペンテン酸誘導体の製造法
本発明は、パラジウム、リン配位子及び酸助触媒を含む触媒系の存在下に、ア
ルコキシブテン化合物又はアリールオキシブテン化合物を一酸化炭素と接触させ
ることにより、夫々ペンテン酸アルキル又はペンテン酸アリールを製造する方法
に関する。
そのような方法は、国際特許出願公開第9629300号公報においてアルキルペン
テン酸エステルの製造のために開示されている。この特許出願は、パラジウム化
合物、ホスフィン配位子及び酸助触媒を含む触媒系の存在下に、1.1のモル比
の3−メトキシ−1−ブテン及び1−メトキシ−2−ブテンの混合物と一酸化炭
素とのカルボニル化反応を開示している。ペンテン酸メチルへの報告された収率
は、PdCl2、ジフェニルホスフィノピリジン及びパラ‐トルエンスルホン酸から
成る触媒系を使用して、5時間後に63%であった。
この方法の欠点は、カルボニル化反応の速度が比較的低いことである。更に、
ペンテン酸エステル化合物への収率が、大規模における商業的使用のためにこの
方法をより魅力的にするために改善される必要がある。
本発明の目的は、ペンテン酸エステル化合物への反応速度及び選択性が改善さ
れているところの、アルコキシブテン又はアリールオキシブテンから出発するペ
ンテン酸エステル化合物の製造法を提供することである。
この目的は、3−アルコキシ−1−ブテン対1−アルコキシ−2−ブテンのモ
ル比及び3−アリールオキシ−1−ブテン対1−アリールオキシ−2−ブテンの
モル比が夫々4より大きいことで達成される。
本発明に従う方法の反応速度は、国際特許出願公開第9629300号公報に記載さ
れた反応速度より著しく高いことが見出された。更に、3−ペンテン酸エステル
化合物への選択性が著しく改善される。他の利点は、反応のより高い速度の故に
、該方法はより低温で行われ得ることである。高温は、ホスフィン配位子の分解
をもたらす。従って、ペンテン酸誘導体の1キログラム当りのホスフィン配位子
の消費速度は、より低温における本発明に従う方法を使用するときより低い。
更なる利点は、これらの改善された結果が、ハロゲン化合物が存在しないか、
又はほんの僅かな量が存在するプロセスにおいて達成され得ることである。更に
、本発明に従う方法は、国際特許出願公開第9629300号公報に開示されているよ
うな強酸の使用を必要としない。良好な結果が弱酸を使用して達成され得る。該
方法がハロゲン及び/又は強酸の不存在下に行われ得るという事実は、主要な利
点として注目され得る。
他の利点は、2−ペンテン酸誘導体の異性体への選択性が、現状の方法の状態
が使用されるときより低いことである。例えば、異性体混合物が、ペンテン酸エ
ステルの異性体混合物から出発する5−ホルミル吉草酸
エステルへのヒドロホルミル化反応における出発化合物として使用されるとき、
これは有利である。2−ペンテン酸エステルは、ヒドロホルミル化において所望
しない副反応をもたらし、そして2−ペンテン酸エステルの量を低下させること
は、ヒドロホルミル化においてより少ない副生成物の形成をもたらす。これは、
例えば、国際特許出願公開第9506027号公報に説明されている。
アルコキシ基及びアリールオキシ基は夫々、C1〜C20のアルコキシ基及びC6
〜C20のアリールオキシ基であり得る。これらの基は置換されていてもよい。ア
ルコキシブテン及びアリールオキシブテンは、次の一般式:
(ここで、Rは、好ましくは脂肪族、脂環族又は芳香族基である)
により与えられ得る。芳香族基R1を有する可能なRO基の例は、フェニル、クレ
ジル、キシレニル又はナフ
チルである。最も好ましくはフェニルである。好ましくはペンテン酸アルキルは
、本発明に従う方法により製造され、ここで、Rは、1〜20個の炭素原子を持
つアルキル基である。可能なアルキル基の例は、メチル、エチル、イソプロピル
、n−プロピル、n−ブチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2−プロピルヘ
プチル、イソ−ノニル、デシル又はベンジルである。低い沸点の故に、結果とし
てペンテン酸メチル又はペンテン酸メチルエチルが容易に取り扱い可能である故
に、最も好ましくはメチル又はエチルが使用される。更に、これらの化合物は、
例えば、国際特許出願公開第9519331号公報又は欧州特許出願公開第662467号公
報に開示されているようなε‐カプロラクタム又はアジピン酸を製造するための
他の方法において前駆体として有利に使用され得る。
ブテン−2−誘導体に対するブテン−1−誘導体の請求された比で本発明の方
法を実行することが必須であると分かった。この方法において、より高い反応速
度が達成される。出発組成物中のブテン誘導体の合計量に対するブデン−1−誘
導体の量は、好ましくは80%より高く、そしてより好ましくは95%より高い。生
成物1キログラム当りの触媒系のより少ない消費が、これらの範囲で本発明に従
う方法を実行するとき観察される。
反応は、パラジウム、リン配位子及び酸助触媒を含む
触媒系を使用して実行される。
リン配位子は、国際特許出願公開第9629300号公報に開示されているような配
位子であり得、ここで、該特許出願は引用することにより本明細書に組込まれる
。好ましくは、配位子は、単座又は多座のホスフィン配位子である。単座ホスフ
ィン配位子は、次の一般式:
(R1、R2及びR3は夫々独立して、置換されていてもよい有機基を表す)
により描かれ得る。この有機基は、C1〜C20のアルキル基、C6〜C18のアリー
ル基又は4〜12個の炭素原子を持つ環状基であり得、ここで、環状基の環はま
た一個以上のヘテロ原子、例えば窒素を含む。アルキル基は、なかんずく、メチ
ル、エチル、イソプロピル、ターシャリー−ブチル、シクロペンチル、シクロヘ
キシル又はシクロオクチルを含む。ヘテロ原子を含む環状基の例は、なかんずく
、6−メチル−2−ピリジル及び4,6−ジメチル−2−ピリジルを含む。アリ
ール基は、例えば、ナフチル、フェニル、ベンジル、クメニル、メシチル、トル
イル及びキシリルを含む。有機基は、例えば、ハロゲン原子、例えば、Cl、Br若
しくはF、又はC1〜C6のアルキル、C6〜C18のアリール、C1〜C6のアルコ
キシ、カルボキシ、カルボアルコキシ、
アシル、トリハロゲンメチル、シアノ、ジアルキルアミノ、スルホニルアルキル
又はアルカノイルオキシ基により置換され得る。置換基は、電子吸引性又は電子
供与性を持つ基であり得る。
単座のホスフィン配位子は、例えば、トリ−p−トリルホスフィン、トリ−p
−メトキシフェニルホスフィン、ジフェニルペンチルポスフィン又はジメチルフ
ェニルホスフィンを含む。好ましくはトリフェニルホスフィンが入手容易である
故に、この化合物が使用される。
好ましくは多座のホスフィン配位子が使用される。それは次の一般式:
(ここで、nは2〜6であり、Wは、2〜40個の炭素原子を持つ多価(原子価は
nに等しい)の有機架橋基であり、そしてR4及びR5は夫々独立して、置換され
ていてもよい有機基を表す)
により表される。式(4)において、nは好ましくは2である。R4及びR5のた
めの有機基は、R1、R2及びR3のために上記で示したものと同じであり得る。
更に、R1及びR2は、一個の二価の有機基、例えば、
ジアリール基又はC2〜C20のアルケニル基を形成し得る。典型的なアルケニル
基はブテニルである。ジアリール基の例はジフェニル及びジナフチル基を含む。
式(4)の有機基のための置換基は、単座ホスフィン配位子のために上記で述べ
たものと同じであり得る。
好ましくは、多座のホスフィン配位子は、式(5)
(ここで、R6及びR7は、R4及びR5のために上記で述べたものと同じであり得
る)
に従う二座のホスフィン配位子(n=2)である。好ましくは基R4、R5、R6及
び/又はR7の一個以上が脂肪族基である。可能な脂肪族及びアリール基の例は
、R1、R2、R3、R4及びR5のために上記で述べられている。
二価の有機架橋基は、C2〜C10のアルキリデン基、例えば、エチレン、トリ
メチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン又はトランス‐1,2−シクロブテン
;及び例えば、ジナフチル又はジフェニルのようなC6〜C20の二価のアリール
基を含む。好ましくは、リン原子を結合する最も短い鎖中の炭素原子の数は、3
個又は4個である。この鎖中に、一個の末端にないヘテロ原子、例えば、酸素又
は硫黄が存在してもよい。二個のリン
原子を結合する最も短い鎖中の4個の炭素原子を持つ二価の架橋基Wの種類は、
式(6)
(ここで、Xは、−O−又は−S−原子であり、かつYは、酸素、硫黄、窒素、
ケイ素又は炭素原子又はこれらの原子の組合せを含む基である)
により示される。式(6)により描かれたような架橋を持つ二座のホスフィン配
位子の例は、国際特許出願公開第9530680号公報に記載されており、ここで、該
公報は引用することにより本明細書に組込まれる。
二座のホスフィン配位子は、なかんずく、1,3−ビス(ジフェニルホスフィ
ノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、2,3−ジメチ
ル−1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(n−ブチル
フェニルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブ
タン、1,4−ビス(シクロヘキシルフェニルホスフィノ)ブタン、1,3−ビ
ス(ジ−p−トリルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジ−p−メトキシフ
ェニルホスフィノ)ブタン、2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)−2−ブテ
ン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)−2−オキソプロパン、2−メチル
−2−(メチルジフェニルホスフィノ)−1,3−ビス(ジ
フェニル‐ホスフィノ)プロパン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)ビ
フェニル、2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)ナフタレン、1,2−ビス(
ジフェニルホスフィノ)シクロヘキサン、2,2−ジメチル−4,5−ビス(ジ
フェニルホスフィノ)ジオキソラン、2,3−o−イソプロピリデン−2,3−
ジヒドロキシ−1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)−ブタン(DIPO)、トラン
ス−1,2−ビス(ジ(m−メチルフェニル)−ホスフィンメチル)シクロブタ
ン、トランス−[(ビシクロ[2.2.1]−ヘプタン−2,3−ジイル)ビス(
メチレン)]−ビス[ジフェニルホスフィン]、トランス−[(ビシクロ[2.2.
2]オクタン−2,3−ジイル)ビス(メチレン)]−ビス[ジフェニルホスフィン
]、トランス−1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ−メチル)シクロブタン(DP
MCB)、トランス−1,2−ビス(ジフェニル−ホスフィンメチル)トランス−3
,4−ビス(フェニル)−シクロブタン及び2,2’−ビス(ジフェニルホスフ
ィノ)−1,1’−ビナフチル(BINAP)を含む。
基Wはまた、遷移金属の二価のビス(n−シクロペンタジエニル)配位基であ
り得る。遷移金属は、Fe、Zr、Co、Ni、Ti、Ru及びWから選ばれ得る。好ましく
はFeが使用され、その場合、架橋基はフェロセニル基と言われる。
フェロセニル架橋基を持つ二座のホスフィン配位子は、例えば、1,1’−ビ
ス(ジフェニル‐ポスフィノ)フェロセン、1,1’−ビス(ジイソブチル‐ホ
スフィノ)フェロセン、1,1’−ビス(ジイソプロピルホスフィノ)フェロセ
ン、1,1’−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセン、1,1’−ビ
ス(イソブチル‐シクロヘキシルホスフィノ)−フェロセン、1,1’−ビス(
ジ−t−ブチルホスフィノ)フェロセン、1,1’−ビス(イソプロピルフェニ
ルホスフィノ)−フェロセンを含む。
ホスフィン配位子対パラジウムのモル比は、本発明に従う方法において使用さ
れる特定のホスフィン配位子に依存する。この比は、好ましくは1:1〜100
:1であろう。多座のホスフィン配位子のために、この比は好ましくは1:1〜
10:1である。単座のホスフィン配位子を使用するとき、この比は好ましくは
5:1より大きい。この比が余りに大きいとき、触媒系の触媒効果はより弱く、
かつ副生成物、例えば、ビニルシクロヘキセン及び高分子量生成物が形成され得
る。多座及び単座のホスフィン配位子の両方は、カルボニル化の間に同時に存在
し得る。
適切な液相が形成されるような量で反応物又は(副)生成物の一つの過剰量を
使用することがまた可能であるけれども、原則として、全ての不活性溶媒が補助
的な溶媒として適している。(副)生成物の例は、C9‐
エステル及び他の高沸点副生成物である。不活性溶媒の例は、例えば、ジメチル
スルホキシド、ジイソプロピルスルホンのようなスルホキシド及びスルホン;芳
香族溶媒、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン;エステル、例えば、酢酸メ
チル、吉草酸メチル、ペンテン酸エステル及びブチロラクトン;ケトン、例えば
、アセトン又はメチルイソブチルケトン;エーテル、例えば、アニソール、トリ
オキサノン、ジフェニルエーテル及びジイソプロピルエーテル;及びこれら溶媒
の混合物である。好ましくはジフェニルエーテルが、付随的な溶媒として使用さ
れる。
本発明に従う方法において、反応はペンテン酸アルキル又はアリールのエステ
ル基に対応する任意のアルコールの添加なしに行われ得ることが分かる。もし、
追加のアルコールがプロセスに供給されないなら、反応は通常、ブテン−1−誘
導体の1モル当り0.01モルより少ないアルコールの存在下に行われるであろ
う。
パラジウムは、不均一パラジウム化合物又は均一パラジウム化合物として反応
混合物に加えられ得る。しかし、均一系が好ましい。パラジウムはホスフィン配
位子とその場で錯体を形成する故に、最初のPd化合物の選択は通常重要ではない
。均一なパラジウム化合物は、例えば、硝酸、スルホン酸、12個より多くない
炭素原子を持つアルカンカルボン酸又はハロゲン(Cl、Br、I)化水素の例えば
、パラジウム塩を含む。金属
パラジウムがまた使用され得る。典型的な均一パラジウム化合物は、PdCl2、PdB
r2、PdI2、Na2PdI4、K2PdI4、PdCl2(ベンゾニトリル)2及びビス(アリルパラ
ジウムクロリド)を含む。適切な、ハロゲンを含まないパラジウム化合物の他の
群は、パラジウム錯体、例えば、パラジウムアセチルアセトネート(Pd(acac)2
)、Pd(II)アセテート、パラジウムニトレートPd(NO3)2、o−トリルホスフ
ィンパラジウム、及びジ−パラジウム−トリス(ジベンジリデンアセトン)Pd2
(dba)3である。典型的な不均一パラジウム化合物は、例えば、カルボン酸基含
有イオン交換体のようなイオン交換体上のパラジウム化合物である。カルボン酸
基含有イオン交換体は、商標名Amberlite IRC 50及びAmberlite IRC 84(Rohm &
Haas)のもとで市販されている。他の不均一触媒は、担体触媒上に固定された
リンであり、ここで、パラジウムは固定されたリンと錯体を形成する(ここで、
リンは触媒系の配位子である)。担体は、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、
シリカ、アルミナ、シリカ‐アルミナ又はゼオライト担体を含む。
反応混合物中のパラジウム濃度は、単位反応器体積当りの反応速度がより大き
くなるであろう故に、好ましくは可能な限り高い。均一触媒系のための上限は通
常、反応混合物中のパラジウムの溶解度により決定されるであろうし、そして例
えば、上記において使用された
特定のパラジウム化合物に依存するであろう。この上限は、当業者により容易に
決定され得る。しかし、本発明に従う方法はまた、固体パラジウム化合物の存在
下に均一触媒系により行われ得る。
反応は好ましくは、18℃において水中で測定された2〜6のpKaを有するプロ
トン酸の存在下に行われる。好ましい酸は、1〜30個の炭素原子を有するカルボ
ン酸である。これらのカルボン酸は、ヒドロキシ、C1〜C4のアルコキシ、例え
ば、メトキシ、アミン又はハロゲン化物基、例えば、Cl、I及びBrにより置換さ
れ得る。典型的なカルボン酸は、安息香酸、酢酸、吉草酸、ペンテン酸、ノナン
酸及びブタン酸である。酸は好ましくは、4.5未満のpKaを持つ立体障害され
たカルボン酸である。典型的な立体障害されたカルボン酸は、立体障害された安
息香酸、例えば、2−フルオロ安息香酸及び2−(トリフルオロメチル)−安息
香酸、C1〜C4アルキル置換された安息香酸、例えば、2,6−ジメチル安息香
酸、2,4,6−トリメチル安息香酸及びヒドロキシ置換された安息香酸、例え
ば、メタ−及びパラヒドロキシ安息香酸及び他の置換された安息香酸、例えば、
2,6−ジフルオロ安息香酸又は2,4,6−トリブロモ安息香酸である。最も
好ましくは、2,4,6−トリメチル安息香酸が使用される。
カルボン酸対パラジウムのモル比は、本発明に従う方法において好ましくは1
0:1より大きい。実際上の
理由は別として、この比に上限はない。何故ならば、上で説明したように、パラ
ジウム濃度は好ましくは可能な限り高い故に、これは実際上の上限をもたらすで
あろう。更に、最適なカルボン酸対パラジウム比は助触媒として使用されるとこ
ろの特定のカルボン酸に依存することが分かった。カルボン酸は、カルボニル化
反応の溶媒として役立ち得る。
温度は、好ましくは25〜200℃である。圧力は特に重要ではなく、そして通常
、1〜100MPaの範囲である。圧力は好ましくは2MPaより大きい。上限は重要でな
い。プロセス装置が非常に高価になる故に、非常に高い圧力は不利である。実際
的かつ好ましい上限はそれ故約10MPaである。
一酸化炭素は、純粋な形態又は例えば、窒素、希ガス又は二酸化炭素のような
不活性ガスで希釈された形態で使用され得る。通常、5%より多い水素は望まれ
ない。何故ならば、これは、カルボニル化条件においてブテン誘導体の水素化を
引起し得る。
好ましくは連続法が使用される。連続法のための反応器システムの例は、直列
の連続攪拌槽反応器(CSTR)であり、触媒系、可能な溶媒、化合物1及び一酸化
炭素は第一反応器に供給される。本発明の方法に従う種々の比は、種々の反応物
と触媒成分との供給比を制御することにより維持され得る。
ペンテン酸誘導体は、2−、3−及び4−ペンテン酸
誘導体の混合物として得られであろう。通常最初に、本発明に従う方法において
得られる混合物中に存在するより揮発性の化合物が分離される。例えば、一酸化
炭素が通常、簡単なフラッシュ操作により分離されるであろう。ペンテン酸誘導
体より揮発性である他の化合物は、任意の未転化のブテン誘導体を含むであろう
。
本発明はまた、次の段階、即ち、
(a)ブタジエンが、夫々、式(1)
及び式(2)
に従うブテン−1及びブテン−2誘導体の混合物へと、触媒の存在下にROHと反
応されること;
(b)任意的にブテン−2−誘導体からブテン−1−誘導体が分離されること、
そして
(c)ブテン−1−誘導体が、パラジウム、ホスフィン配位子及び酸助触媒を含
む触媒系の存在下にペンテン酸誘導体へと一酸化炭素と反応されること(ここで
、ブテン−1−誘導体対ブテン−2−誘導体のモル比が4より高い)
が行われる方法に関する。
本発明のこの実施態様に従う段階(a)は、例えば、米国特許第4343120号明
細書、米国特許第4590300号明細書、ドイツ国特許出願公開第2550902号公報及び
欧州特許出願公開第25240号公報に開示された、通常公知の方法により行われ得
る。これらの刊行物の完全な開示は引用することにより本明細書に組込まれる。
均一触媒系の例は、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、1,2−ビス
−(ジフェニルホスフィン)エタン、n−ブチルリチウム又は1,2−ビス(ジ
アルキル−ホスフィノ)エタン−パラジウムを含む。段階(a)は、好ましくは
酸触媒の存在下、そしてより好ましくは不均一酸触媒の存在下に行われる。可能
な酸触媒の例は、硫酸、スルホン酸、例えば、メタンスルホン酸若しくはトリフ
ルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、又は不均一酸触媒、例え
ば、強い酸性のイオン交換樹脂、例えば、スルホン化されたポリスチレン−ジビ
ニルベンゼンイオン交換樹脂である。
適切な樹脂の特定の例は、Amberlite IR 120 H、Amberlite A 252、Amberlite
XE 307、Amberlyst 15 H、Amberlyst CSP−2、Dowex50−X−4、Dowex MSC−14
、Duolite C−20、Permutit QH又はChempro C−20及びNafion(Amberlite、Amber
lyst、Dowex、Duolite、Permutit、Chempro及びNafionは登録された商標である)
を含む。
段階(a)は、付随的な溶媒の存在下に実行され得る。溶媒の例は、芳香族溶
媒、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロベンゼン及び欧州特許出
願公開第25240号公報に開示されているような非塩基性非プロトン性極性溶媒で
ある。適切な非塩基性非プロトン性極性溶媒は、非環状又は環状スルホン、スル
ホキシド、ケトン、(ポリ)エーテル、ニトロメタン及びγ‐バレロラクトンで
ある。これらの化合物の例は、欧州特許出願公開第25240号公報においてより詳
細に開示されている。最も好ましくは環状スルホン、例えば、スルホラン又はア
ルキルスルホラン(ここで、1〜8個の炭素原子を有する少なくとも一個のアルキ
ル基が存在する)が使用される。環状スルホンが、これらの高い沸点が段階(b
)において有利である故に、好ましい。
ブタジエンは、例えば、スチームクラッカーのC4−カットとして得られるブ
テン及びブチンの混合物中に存在し得る。
親核性化合物対ブタジエンのモル比は、最大20:1であり得る。好ましくはこ
の比は、1:1〜6:1である。
段階(a)は、温和な温度範囲で行われ得る。好ましくは温度範囲は40〜200
℃である。
段階(a)は、好ましくは液相において行われる。それ故、圧力は、液相中に
反応物を保持するために十分なほど少なくとも高い。圧力は、0.1〜20MPaそして
好ましくは2〜6MPaであり得る。
ブテン誘導体(アルコキシ‐ブテン及びアリールオキシ‐ブテン)は通常、ブ
タジエンより低い毒性である。更に、ブタジエンは、貯蔵/移送すると、有害な
重合反応を生じさせ得る。それ故、ブタジエンに代えてブテン誘導体を貯蔵又は
移送することが有利であり得る。
段階(b)は任意的に、任意の公知の分離方法、例えば、抽出又は結晶化によ
り行われ得る。もし、段階(a)において得られる混合物中のブテン−1−誘導
体対ブテン−2−誘導体のモル比が4より高いなら、該混合物は、触媒及び好ま
しくは任意の未転化のブタジエンを分離した後、段階(c)において直接に使用
され得る。好ましくは段階(b)は、分離されるべき化合物の沸点の相違を使用
することにより実行される。通常、ブタジエン、ブテン−1−誘導体、ブテン−
2−誘導体及び酸性触媒は、増加する順序において沸点を有する。
段階(c)は、上記のように実行され得る。
本発明は、続く限定するものでない実施例により説明される。
実施例I
次の段階(a)〜(c)が行われた。
(a)5リットルのオートクレーブ中で、302グラムのブタジエンが、4MPaの窒
素雰囲気下に120℃で140グラムのAmberlist CSP−2(酸性基を持つイオン交換体
、AmberlistはRohm & Haasの商標である)の
存在下に6時間、2.4リットルのトルエン(溶媒)中の538グラムのメタノールと
反応させられた。
(b)段階(a)で得られたトルエンフラクションを水で洗浄した後、50グラム
の3−メトキシ−1−ブテンが、バッチ式蒸留により混合物から回収された。3
−メトキシ−1−ブテンは98%純度であった。
(c)120ミリリットルの機械的に攪拌されたハステロイ‐C製オートクレーブ
に、0.056グラム(0.25ミリモル)の酢酸パラジウム、0.533グラム(1.25ミリモ
ル)のビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、0.82グラム(5ミリモル)の2,
4,6−トリメチル安息香酸、0.5グラムのオルト‐ジクロロベンゼン(ODCB、G
C内部標準)及び33グラムのトルエン溶媒が入れられた。該溶液は、初圧2.07MPa
(300psi)下に140℃の温度に加熱された。反応は、5グラムのトルエン中の3
−メトキシ−1−ブテンの4.3グラム(50ミリモル)の溶液を注入し、かつ5.17M
Pa(750psi)に全圧を調節することにより開始された。一酸化炭素が、5.17MPa
(750psi)一定に全圧を維持するように貯槽からオートクレーブに連続的に供給
された。試料が、GC分析の間隔で取り出された。1時間後、仕込まれた3−メト
キシ−1−ブテンの88%が、95.2%の選択率でメチル−3−ペンテノエート(M3
P;シス及びトランス異性体)に転換された。メチル−2−ペンテノエート(M2P
;殆どトランス異性体)への選択性は2.9%
であった。M3Pの形成のための一次速度定数は、1時間当りパラジウムの1モル
当り305モルのM3Pのターンオーバー(turnover)に対応して、2.11hr-1であった
。
実施例II
実施例Iの段階(b)において得られた3−メトキシ−1−ブテンの5グラム
が、0.064グラムの酢酸パラジウム、0.62グラムのビス(ジフェニルホスフィノ
)プロパン、0.96グラムの2,4,6−トリメチル安息香酸及び53グラムのジフ
ェニルエーテル(溶媒)を含む160ミリリットルのハステロイ‐C製オートクレ
ーブに注入された。圧力は、一酸化炭素を加えることにより5MPaに調節された。
140℃で1時間該混合物を攪拌した後、3−メトキシ−1−ブテンの転換率は、
ペンテン酸メチルへの>98%の選択性を伴って47%であった。2−ペンテン酸メ
チルへの選択率は1.8%であった。
比較例A
実施例Iの段階(c)が、3−メトキシ−1−ブテンが70%の1−メトキシ−
2−ブテン及び30%の3−メトキシ−1−ブテンを含むメトキシブテン混合物に
置換えられたことを除いて繰り返された。1時間後、M3Pへの転換率はたった31
%であり、M3Pへの選択性は94.5%であり、かつM2Pへの選択性は2.6%であった
。6時間後、M3Pへの転換率は88%であり、M3Pへの選
択性は92.35%であり、かつM2Pへの選択性は5.8%であった。M3Pの形成のための
一次速度定数は、1時間当りパラジウムの1モル当り54モルのM3Pのターンオー
バー頻度(turnover frequency)に対応して、0.37hr-1であった。
比較例B
実施例IIIの実験が、3−メトキシ−1−ブテンが、高圧ポンプから注入され
たブタジエンとメタノールの等モル量(1/1)により置換えられたことを除いて
繰り返された。1時間後、M3Pへの転換率は55%であり、M3Pへの選択性は97%で
あり、かつM2Pへの選択性は1.2%であった。2時間後、M3Pへの転換率は86.4%
であり、M3Pへの選択性は96.4%であり、かつM2Pへの選択性は2.4%であった。M
3Pの形成のための一次速度定数は、1時間当りパラジウムの1モル当り144モル
のM3Pのターンオーバー頻度に対応して、1.00hr-1であった。
実施例III〜VIII
25ミリリットルのガラスライニングされた圧力容器に、50ミリリットルトルエ
ン中に、4.3グラム(50ミリモル)の3−メトキシ−1−ブテン、0.034グラム(
0.15ミリモル)の酢酸パラジウム、0.75モルの二座のホスフィン配位子(表1参
照)、0.495グラム(3ミリモル)の2,4,6−トリメチル安息香酸及び0.5グラ
ムのo−ジクロロベンゼン(GC内部標準)を含む
溶液の2.5ミリリットルが仕込まれた。該圧力容器は、まず窒素で(2回)パー
ジされ、そして次いで、COで(2回)パージされることにより空気が取り除かれ
た。該容器は次いで、3.45MPa(500psi)COに加圧され、そして4時間攪拌しつ
つ140℃に加熱された。圧力は、140℃において5.17MPa(750psi)に維持された
。4時間後、加熱は停止され、そして該圧力容器は、室温まで放冷された。過剰
のガスが排出され、そして生成物はGCにより分析された。示された配位子につい
ての結果は表1に与えられている。
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(72)発明者 シエルケン,オットー,エリク
オランダ国,6136 ビージー シッタル
ド,フリークストラート 4