JP2001245659A - 野菜由来の不凍活性物質 - Google Patents

野菜由来の不凍活性物質

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Hitoshi Obata
斉 小幡
Hidehisa Kawahara
秀久 河原
Keigo Komura
啓悟 小村
Shoji Kaneko
昌二 金子
Noriko Sakamoto
紀子 坂本
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Ikeda Shokken KK
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 野菜由来で、食品や食品添加材の成分として
安全に使用することができる不凍活性物質と、この不凍
活性物質を効率よく、しかも安全に製造する方法を提供
する。 【解決手段】 (1) 18℃以下の低温で生育可能な野
菜、または低温耐性を有する野菜植物から抽出された不
凍活性物質と、野菜を18℃以下の温度環境におくことに
より不凍活性物質を誘導、蓄積させるか、または野菜を
サリチル酸またはアブシジン酸含有物により処理した
後、低温環境におくことによって、その植物の不凍活性
物質含有量を高めた後、植物体から不凍活性物質を取得
することを特徴とする不凍活性物質の製造方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、植物由来
であって、食品等に安全に使用することのできる新規な
不凍活性物質と、その製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、植物や魚類、昆虫等が産生す
る不凍タンパク質複合体としての「不凍活性物質」が知
られている。この不凍タンパク質は、氷の結晶表面を認
識し、氷の結晶が成長することを抑制する作用を有して
おり、霜害防除剤、冷凍食品の品質向上、細胞・組織の
保存、低温手術での利用等における有用性が指摘されて
いる。
【0003】植物ではイネ科を中心に多くの報告がある
(Plant Physiology, 104:971-980,1994; Physiologia
Plantarum, 100:327-332, 1997; Plant Physiology,
119:1361-1369, 1999; Physiologia Plantarum, 99:42
3-432, 1997; Science, 282:115-117, 1998; Bioche
m. J., 340:385-391, 1999; FEBS Letter, 44:171-17
8, 1999; 特許WO9906565; WO9937673; US5686249;
EP843010)。しかしながら、イネ科植物は不凍タンパク
質の生産性が低く、実用化に至っていない。
【0004】その他には、魚類や昆虫由来のものが報告
されている(Can. J. Zool., 66:403-408, 1988; J.Bi
ol. Chem., 261:15690-15695, 1986; J.Biol. Chem.,
260:12904-12909, 1985; FEBS Letter, 402:17-20, 19
97; Nature, 388:727-728,1997; J. Comp. Physiol.,
B168:225-232, 1998; 特許DE19611969; WO9621001;
WO9702343; WO9212722; EP511317; US5118792; WO
9110361; WO9746674)。しかしながら、魚類や昆虫由
来の不凍活性物質の場合には、いずれも安定性と生産性
に問題がある。
【0005】また、魚類や昆虫由来のものなどは一部遺
伝子組み換え技術を用いて生産性を高めているものもあ
る(特許WO9216618; WO9728260; JP03232896; US584
9537; CA2040566; WO9900493; WO9640973)。しかし
ながら、遺伝子組み換え体に対する消費者の反発から、
食品に応用されるには至っていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】前記のとおり、不凍活
性物質は様々な産業分野においての有用性が指摘されて
おり、多くの試みがなされているが、実用化にまでは至
っていない。生産性や安定性、安全性に問題があるため
である。
【0007】この出願の発明者らは、安全に食品等への
利用が可能で、しかも安価に生産性よく製造可能な不凍
活性物質を得ることを目的として鋭意研究を重ねた結
果、身近な冬野菜が、低温処理することによって、耐熱
性のある不凍活性物質を著量に誘導することを見出し
た。
【0008】さらにこの出願の発明者らは、サルチル酸
やアブシジン酸を野菜に接触させることによって、野菜
の不凍活性物質含有量を高めることができることを見出
した。すなわち、植物では昆虫や害虫の接触により、グ
ルカナーゼやキチナーゼ等のパソジェニシスプロテイン
グループが誘導されることが知られているが、これらの
タンパク質はアブシジン酸やサリチル酸でも誘導され
る。また、小麦等の植物では、グルカナーゼやキチナー
ゼ等が不凍タンパク質として報告されている。しかしな
がら、野菜由来の不凍活性物質がサルチル酸やアブシジ
ン酸処理によってその発現量を増加させることは従来全
く知られておらず、この発明者らによって初めて見出さ
れた新規な知見である。
【0009】この出願の発明は、このような新規な知見
に基づいてなされたものであって、野菜由来の新規な不
凍活性物質と、その製造方法を提供することを課題とし
ている。
【0010】
【課題を解決するための手段】この出願は、前記の課題
を解決するものとして、以下の(1)〜(9)の発明を提供す
る。 (1) 18℃以下の低温で生育可能な野菜、または低温耐
性を有する野菜から抽出された不凍活性物質。 (2) 野菜が、アブラナ科、セリ科、ユリ科またはキク
科に属する植物である前記発明(1)の不凍活性物質。 (3) アブラナ科の野菜が、ハクサイ、ダイコン、ブロ
ッコリー、チンゲン菜、コマツナ、カブ、シロナ、野沢
菜、広島菜、ミズナまたはそれらの類縁品種、若しくは
それらの改良品種のいずれかである前記発明(2)の不凍
活性物質。 (4) キク科の野菜が、春菊またはその類縁品種、若し
くはその改良品種のいずれかである前記発明(2)の不凍
活性物質。 (5) セリ科の野菜が、ニンジンまたは類縁品種、若し
くはその改良品種のいずれかである前記発明(2)の不凍
活性品種。 (6) ユリ科の野菜が、ネギまたはその類縁品種、若し
くはその改良品種のいずれかである前記発明(2)の不凍
活性物質。 (7) 野菜を18℃以下の温度環境におくことにより不凍
活性物質を誘導、蓄積させた後、野菜組織から不凍活性
物質を取得することを特徴とする不凍活性物質の製造方
法。 (8) 野菜をサリチル酸またはアブシジン酸含有物、若
しくはそれらの類縁体含有物と接触させ、その植物の不
凍活性物質含有量を高めた後、野菜組織から不凍活性物
質を取得することを特徴とする不凍活性物質の製造方
法。 (9) 野菜をサリチル酸またはアブシジン酸含有物、若
しくはそれらの類縁体含有物と接触させ、その野菜の不
凍活性物質含有量を高め、さらに野菜を18℃以下の温度
環境におくことにより不凍活性物質を誘導、蓄積させた
後、野菜組織から不凍活性物質を取得することを特徴と
する不凍活性物質の製造方法。
【0011】以下、これらの発明の実施形態について詳
しく説明する。
【0012】
【発明の実施の形態】発明(1)の不凍活性物質は、18℃
以下の低温で生育可能な野菜、または低温耐性を有する
野菜からの抽出物である。このような野菜は、アブラナ
科、セリ科、ユリ科またはキク科に属する植物野菜であ
る。さらに具体的には、アブラナ科の野菜としては、ハ
クサイ、ダイコン、ブロッコリー、チンゲン菜、コマツ
ナ、カブ、シロナ、野沢菜、広島菜、ミズナまたはそれ
らの類縁品種、若しくはそれらの改良品種等である。ま
た、キク科の野菜としては、春菊またはその類縁品種、
若しくはその改良品種であり、セリ科の野菜としては、
ニンジンまたは類縁品種、若しくはその改良品種であ
り、さらにユリ科の野菜としては、ネギまたはその類縁
品種、若しくはその改良品種等である。そして、このよ
うな不凍活性物質は、この出願の発明(7)〜(9)の方法に
よって製造することができる。
【0013】発明(7)の方法は、前記の野菜を18℃以下
の温度環境におくことにより不凍活性物質を誘導、蓄積
させた後、野菜組織から不凍活性物質を取得することを
特徴とする不凍活性物質の製造方法である。具体的に
は、各野菜を−5℃〜18℃、好ましくは0℃〜8℃程度
の低温で1日以上低温保存する。次いで、野菜を適当な
大きさに切断し、洗浄の後、緩衝液に浸漬して緩衝液が
野菜片中に十分に浸透するようにする。その際に、減圧
下(例えば、700 mHg以下)に10分〜1時間、好ましく
は20分から40分間程度置くことによって緩衝液の浸透効
率を向上させることができる。その後、緩衝液中から植
物片を取り出し、遠心脱水等の手段により野菜片中に浸
透している緩衝液を回収することによって、不凍活性物
質を含有する抽出液を得ることができる。緩衝液の種類
は食品学的に許容されるものであれば特段の制限はな
く、例えば酢酸ナトリウム緩衝液等の公知のものを使用
することができる。
【0014】発明(8)は、野菜をサリチル酸含有物また
はサリチル酸類縁体含有物と接触させ、その野菜の不凍
活性物質含有量を高めた後、野菜組織から不凍活性物質
を取得することを特徴とする不凍活性物質の製造方法で
ある。サリチル酸やアブシジン酸を植物に接触させる方
法としては、例えば、これらの化合物の溶液を野菜片に
噴霧するなどの手段を採用することができる。そして、
サリチル酸やアブシジン酸に接触させた状態で1日以上
置き、発明(7)と同様の方法で野菜片から不凍活性物質
を含有する抽出液を回収すればよい。
【0015】発明(9)の方法は、前記発明(6)と発明(7)
のプロセスを連続して行う製造方法である。低温保存と
サリチル酸やアブシジン酸との接触を組み合わせること
によって、不凍活性物質の誘導、蓄積が促進され、さら
に効率良く不凍活性物質を得ることができる。
【0016】以上の方法によって製造される不凍活性物
質は、野菜由来であり、またその製造方法にも何らの有
害性がないことから、食品(特に冷凍保存される食品)
や、食品添加材の成分として安全に使用することができ
る。
【0017】以下、実施例を示してこの出願の発明につ
いてさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発
明は以下の例によって限定されるものではない。
【0018】
【実施例】実施例1 ハクサイ、ダイコン、ブロッコリー、キャベツ、チンゲ
ン菜、コマツナ、カブ、シロナ、野沢菜、広島菜、ミズ
ナ、京ミズナ、春菊、ニンジン、ネギを、4℃で1日〜
4週間低温保存した後、適当な大きさに切断した。各野
菜材料500 gを水洗後良く水を切って野菜片が十分に浸
る程度の緩衝液(25mM Tris-HCl緩衝液、pH8.5または25
mM 酢酸アンモニウムl緩衝液、pH4.5)に浸漬した。野
菜片中に緩衝液が良く浸漬するよう減圧下(700 mHg以
下)に30分程度置いた後、緩衝液中から野菜片を取り出
し、遠心脱水して、野菜片中にしみこんだ緩衝液を回収
し、不凍活性物質抽出液を得た。
【0019】表1は、各野菜から得られた抽出液のタン
パク濃度と、熱ヒステリシスである。なお、熱ヒステシ
スとは不凍活性物質の活性の程度を示す指標である。す
なわち、通常、水の凍結温度と氷の融解温度は同一であ
るが、不凍活性物質が存在するとそれが氷結晶と結合す
るため、水の凍結温度が通常より低下する。この時に生
じる氷の融解温度と水の凍結温度の差を「熱ヒステシス
(deg)」といい、この数値が高い程、凍結活性物質の
活性が高いことを意味する。
【0020】
【表1】
【0021】実施例2 ダイコンを用いて低温処理による不凍活性の経時的変化
を調べた。抽出方法は実施例1で示したのと同様に行っ
た。結果は図1に示したとおりであり、植物を低温処理
することで、不凍活性物質が誘導生成していることが確
認された。また、常温から低温処理した場合には、低温
処理の約2週間後から不凍活性物質の誘導が上昇するこ
とも確認された。 実施例3 各植物を低温下に1週間置いて不凍活性物質を誘導させ
た後、実施例1と同様の方法により、不凍活性物質を抽
出した。また、大根葉に20mMサリチル酸溶液を噴霧して
1週間低温誘導させた後、実施例1と同様にして不凍活
性物質を抽出した。
【0022】表2は、各植物から得られた抽出液のタン
パク濃度と、不凍活性(熱ヒステリシス)である。サリ
チル酸溶液を噴霧することで、1週間という短期間で、
低温処理と同等もしくはそれ以上の不凍活性物質が誘導
されることが明らかになった。
【0023】さらに、低温処理とサリチル酸処理とを組
み合わせることで、不凍活性物質の誘導が促進されるこ
と確認している。また、アブシジン酸や他の同様の作用
を有する化合物を用いた場合も同様の結果が得られた。
【0024】
【表2】
【0025】実施例4 大根葉から実施例1の方法で抽出した不凍活性物質のSD
S-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を行っ
た。結果は図2に示したとおりである。誘導された不凍
タンパク質の一部はN末端アミノ酸配列と、タバコ由来
の抗体を用いたウエスタンブロッティングから、グルカ
ナーゼ、キチナーゼであることが確認された。またそれ
らの熱ヒステリシスをそれぞれ測定したところ、不凍活
性を有し不凍タンパク質であることが確認された。 実施例5 大根葉 10 kgを水洗い後、フードスライサー(エムラ販
売社製)で 5 mm程度の幅に切断した。切断した大根
葉、および4〜10℃の25 mM 酢酸アンモニウム緩衝液(p
H 4.5)50 kgを、80 L容加圧真空ニーダー(梶原産業社
製)に投入し、撹拌混合後、30分間減圧状態(700 mHg
以下)を保った。常圧に戻して大根葉をザルに回収し、
余分の緩衝液を除いた後、遠心脱水機(関西遠心機社
製)で数秒間(800 x g)遠心し、大根葉に付着した緩
衝液を脱水除去した。同条件で 40分間再度遠心し、浸
漬によって大根葉中に浸透した緩衝液を回収し、大根葉
不凍活性物質の抽出液 6.95 kgを得た。抽出液中のタン
パク質含量は 788 mgであった。また、熱ヒステシスは
0.179 degであった。 実施例6 カブ葉 10 kgから、実施例2と同様の手順で不凍活性物
質を含有する抽出液 4.1 kgを得た。抽出液中の蛋白質
含量は598 mgであった。また、熱ヒステシスは0.103 de
gであった。
【0026】
【発明の効果】以上詳しく説明したとおり、この出願の
発明によって、野菜植物由来で、食品や食品添加材の成
分として安全に使用することができる不凍活性物質が提
供される。また、この出願の発明によって、この不凍活
性物質を効率よく、しかも安全に製造する方法が提供さ
れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】低温誘導による不凍活性物質量の経時的変化を
示したグラフである。
【図2】ダイコン葉から抽出した不凍活性物質のSDS-ポ
リアクリルアミドゲル電気泳動図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) A23L 1/30 A23L 1/30 B C12N 9/42 C12N 9/42 (72)発明者 河原 秀久 大阪府吹田市山手町3丁目3番35号 学校 法人関西大学工学部生物工学科内 (72)発明者 小村 啓悟 広島県福山市南松永町2丁目15番12−4号 (72)発明者 金子 昌二 広島県福山市南手城町2−30−12 (72)発明者 坂本 紀子 広島県福山市北美台9−16 Fターム(参考) 2B022 AB11 AB13 AB15 BA11 DA19 EA10 4B016 LC06 LG05 LG08 LG10 LK04 LP02 4B018 LB10 MD53 MD90 ME13 4B050 CC01 DD13 EE03 FF02C HH01 LL02

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 18℃以下の低温で生育可能な野菜、また
    は低温耐性を有する野菜から抽出された不凍活性物質。
  2. 【請求項2】 野菜が、アブラナ科、セリ科、ユリ科ま
    たはキク科に属する野菜である請求項1の不凍活性物
    質。
  3. 【請求項3】 アブラナ科の野菜が、ハクサイ、ダイコ
    ン、ブロッコリー、チンゲン菜、コマツナ、カブ、シロ
    ナ、野沢菜、広島菜、ミズナまたはそれらの類縁品種、
    若しくはそれらの改良品種のいずれかである請求項2の
    不凍活性物質。
  4. 【請求項4】 キク科の野菜が、春菊またはその類縁品
    種、若しくはその改良品種のいずれかである請求項2の
    不凍活性物質。
  5. 【請求項5】 セリ科の野菜が、ニンジンまたは類縁品
    種、若しくはその改良品種のいずれかである請求項2の
    不凍活性品種。
  6. 【請求項6】 ユリ科の野菜が、ネギまたはその類縁品
    種、若しくはその改良品種のいずれかである請求項2の
    不凍活性物質。
  7. 【請求項7】 野菜を18℃以下の温度環境におくことに
    より不凍活性物質を誘導、蓄積させた後、野菜組織から
    不凍活性物質を取得することを特徴とする不凍活性物質
    の製造方法。
  8. 【請求項8】 野菜をサリチル酸またはアブシジン酸含
    有物、若しくはそれらの類縁体含有物と接触させ、その
    野菜の不凍活性物質含有量を高めた後、野菜組織から不
    凍活性物質を取得することを特徴とする不凍活性物質の
    製造方法。
  9. 【請求項9】 野菜をサリチル酸またはアブシジン酸含
    有物、若しくはそれらの類縁体含有物と接触させ、その
    野菜の不凍活性物質含有量を高め、さらに野菜を18℃以
    下の温度環境におくことにより不凍活性物質を誘導、蓄
    積させた後、野菜組織から不凍活性物質を取得すること
    を特徴とする不凍活性物質の製造方法。
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