JP2001064727A - 溶接性及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高張力鋼の製造方法 - Google Patents

溶接性及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高張力鋼の製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】この発明は、溶接性並びに歪時効後の靭性に優
れた60キロ級直接焼入れ焼戻し鋼の製造方法を提供す
る。 【解決手段】 重量%で、C:0.04〜0.09%、
Si:0.1〜0.5%、Mn:1.2〜1.8%、N
b:0.01〜0.05%、sol.Al:0.002
〜0.070%、N:0.001〜0.004%を含
み、且つPcm≦0.20%、Ceq(WES)≦0.
42%を満足する鋼を、再結晶温度域でld/hm≧
1.0を満たす圧延を1パス以上、引き続き、未再結晶
温度域で累積圧下率10〜60%で圧延後、Ar3以上
の温度から直接焼入れし、400〜630℃で焼戻す。
Pcm=C+Mn/20+Si/30+Cu/20+N
i/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B,
Ceq(WES)=C+Mn/6+Si/24+Ni
/40+Cr/5+Mo/4+V/14

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、水圧鉄管、圧力
容器、ラインパイプ及び海洋構造物等に用いられる60
キロ級構造用鋼で、特に曲げなどの冷間加工後において
も優れた低温靭性を有する歪時効後の靭性に優れた鋼の
製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】鋼を冷間で塑性変形すると歪時効脆化と
呼ばれる靭性が劣化する現象が生ずる。歪時効脆化に間
しては主に自動車ボデイ用の薄鋼板を対象に研究が行な
われてきたが、近年、構造物の信頼性に対する要求が高
まり、厚鋼板においても素材段階のみならず加工や不慮
の事故などにより塑性変形を受けた後の靭性が問題視さ
れるようになってきた。
【0003】歪時効脆化を評価する試験として5%の引
張り予歪を付与し、250℃で1時間の時効処理後シャ
ルピー試験を行なう歪時効シャルピー試験が知られ、近
年、材料評価試験の一つとして要求される事例が増えて
いる。
【0004】厚鋼板を対象とする歪時効脆化抑制の技術
として、特開平5−320820号、特開昭59−18
2915号及び特開昭56−127750号等がある
が、いずれも一般的な600MPa級厚肉鋼板を対象と
した技術ではない。
【0005】特開平5−320820号には引張り強度
400MPa級の球状船首用低降伏点焼入れ鋼が開示
されている。鋼材組織を整粒化し、歪時効後の靭性劣化
を防止するものであるが、C量が0.002〜0.03
%、他の強化元素も殆ど含有されていない成分組成が対
象であり、60キロ級鋼に適用することは出来ない。
【0006】特開昭59−182915号はTMCP型
500MPa級鋼での歪時効脆化を抑制する製造方法を
開示している。TMCP50キロ鋼を冷間加工した場
合、冷間加工後の脆化がフェライト・ベイナイト組織の
フェライト相に歪が集中することにより生じることに着
目し、フェライト中の固溶N,固溶Cを冷却停止温度の
制御により低減させ、フェライト相の脆化を抑制する技
術である。このため、室温付近まで冷却され、焼入れ組
織となる60キロ級鋼には適用できない。
【0007】特開昭56−127750号には600M
Pa級鋼の歪時効脆化抑制技術が記載されているが、本
技術はVN析出型の鋼において、0.01%以上のN含
有により生ずる歪時効脆化をCaまたはMgの添加によ
り抑制できることを示している。しかし、本技術は、a
s rollあるいはノルマで製造するVN鋼に限って
その効果を発揮するもので、実施例の鋼もC量が0.1
2%以上と高く、Pcmも0.25%以上と溶接施工性に
劣る鋼が記載され、現在の一般的な需要家の要望に応え
るものではない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】以上、述べたように、
溶接施工性に優れた60キロ級厚肉鋼材で塑性変形させ
た後の脆化を抑制する技術は未だ完成されていない。本
発明は、溶接性に優れ、かつ歪時効後にも優れた靭性を
有する60キロ級高張力鋼の製造方法を提供するもので
あり、具体的には歪時効シャルピー試験の破面遷移温度
vTs(aged)がー40℃以下となる60キロ級高
張力鋼の製造方法を提供する。
【0009】
【課題を解決するための手段】従来、歪時効後の靭性劣
化機構については、薄鋼板の場合、鋼中に固溶している
CやNと歪付与による転位との相互作用により、転位の
動きが妨げられ、降伏点が上昇し、脆化することが知ら
れている。しかし、本発明者等が厚肉鋼を対象に、歪時
効後の靭性劣化度の異なる鋼の固溶CとNを内部摩擦測
定法によりスネークピーク測定を行った結果、いずれの
鋼においても固溶CとN量は3ppm未満であり、厚肉
鋼の歪時効後の靭性劣化に固溶CとN量の積極的影響は
認められず、その原因として薄鋼板のフェライト主体に
対し、厚肉鋼がベイナイト主体組織であることより、組
織的相違によるものと推察された。
【0010】そこで、本発明者等は、鋼材の成分組成と
熱処理条件を種々変化させ、歪時効特性に及ぼす組織の
影響について,詳細に検討し、以下に述べるNb含有厚
肉鋼に特有の歪時効特性を把握した。
【0011】1.C含有量の減少は歪時効後の靭性劣化
を軽減する。
【0012】2.焼戻しによる母相の軟化傾向とNb炭
窒化物の析出により、母材の強度と靭性のバランスは6
30℃付近を境に変化する。図1は母材の強度と靭性に
及ぼす焼戻し温度の影響を模式的に示すもので、630
℃付近より低温側においては、焼戻し温度の上昇に伴
い、Nb炭窒化物が整合析出し、強度は上昇し、靭性は
若干劣化する。
【0013】歪時効後の靭性も焼戻し温度の上昇に伴
い、劣化するが、歪時効前後の靭性差は小さい。一方、
630℃付近より高温側では、焼戻し温度の上昇に伴
い、母相が更に軟化すると同時に、Nb炭窒化物が成長
し母相との整合度が低下し強度上昇効果を失うため、強
度は低下する。母材靭性は回復するが、歪時効後の靭性
は回復せず、劣化するため、歪時効前後の靭性差は拡大
する。
【0014】3.焼戻しにより、組織は変化し、焼戻し
温度が低いほどセメンタイトが比較的微細に析出する。
その析出サイトは旧オーステナイト結晶粒界、ベイナイ
トのパケット境界および旧オーステナイト結晶粒内に分
散しているのが観察された。焼戻し温度が高くなると、
セメンタイトが凝集粗大化し、析出サイトも旧オーステ
ナイト結晶粒界、ベイナイトのパケット境界のみとなっ
た。
【0015】4.焼入れ時のオーステナイト結晶粒径が
細かいほど、またベイナイトのパケットサイズが小さい
ほど歪時効後の靭性劣化は軽減される。
【0016】5.旧オーステナイト粒界に数μm以下の
膜状のフェライトが存在すると実質的な粒界面積の増加
となり、セメンタイトが微細化する傾向が見られた。
【0017】6.歪時効後のシャルピー衝撃試験におけ
る脆性破面の破壊単位はベイナイトのパケットサイズに
対応する。
【0018】これらの結果より、Nb含有厚肉鋼の靭性
劣化はセメンタイトの析出によるもので、旧オーステナ
イト結晶粒界とベイナイトのパケット境界に析出するセ
メンタイトのサイズ、析出量により歪時効後の靭性が支
配されることが把握された。そして、セメンタイトのサ
イズ、析出量に影響を与える因子として、直接的にはC
量と焼戻し温度、間接的には一定のセメンタイト量に対
し析出サイトを増加させ、析出サイズを小さくする効果
を有する旧オーステナイト結晶粒、ベイナイトのパケッ
トサイズ、旧オーステナイト粒界上に析出する膜状のフ
ェライトが認められた。
【0019】すなわち、歪時効後の靭性に影響を与える
主な製造条件はC量、焼戻し温度、旧オーステナイト結
晶粒径とベイナイトのパケットサイズに影響を与えるス
ラブ加熱温度並びに再結晶域での圧延方法、及びフェラ
イト析出量に影響を及ぼす未再結晶温度域での累積圧下
率となる。
【0020】本発明は以上の知見を基に更に検討を加え
てなされたものである。
【0021】1. 重量%で、C:0.04〜0.09
%、Si:0.1〜0.5%、Mn:1.2〜1.8
%、Nb:0.01〜0.05%、sol.Al:0.
002〜0.07%、N:0.001〜0.004%を
含み、且つPcm≦0.20%、Ceq(WES)≦
0.42%を満たす鋼を、加熱後900〜1000℃の
温度域でld/hm≧1.0の圧延を1パス以上行い、
引き続きAr3以上900℃未満の温度域で累積圧下率
10〜60%の圧延を行い、圧延後Ar3以上より直接
焼入れ後、400〜630℃で焼戻すことを特徴とする
溶接性及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高張力鋼
の製造方法。
【0022】但し、Pcm=C+Mn/20+Si/3
0+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15
+V/10+5B, Ceq(WES)=C+Mn/6+Si/24+Ni/
40+Cr/5+Mo/4+V/14。
【0023】ld:投影接触弧長 ld=(R・(hi
−ho))1/2 hm:平均板厚 hm=(hi+2ho)/3 R:ロール半径、hi:圧延前の板厚、ho:圧延後の
板厚 2. 鋼組成として、更に重量%でCr:0.1〜0.
5%を含有する1記載の溶接性及び歪時効後の靭性に優
れた60キロ級高張力鋼の製造方法。
【0024】3. 鋼組成として、更に重量%でMo:
0.02〜0.3%、Cu:0.1〜0.6%の一種ま
たは二種を含有する1又は2記載の溶接性及び歪時効後
の靭性に優れた60キロ級高張力鋼の製造方法。
【0025】4. 鋼組成として、更に重量%でNi:
0.1〜0.5%を含有する1乃至3の何れかに記載の
溶接性及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高張力鋼
の製造方法。
【0026】5. 鋼組成として、更に重量%でV:
0.01〜0.08%を含有する1乃至4の何れかに記
載の溶接性及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高張
力鋼の製造方法。
【0027】6. 鋼組成として、更に重量%でTi:
0.005〜0.02%、Ca:0.001〜0.00
4%の一種または二種を含有する1乃至5の何れかに記
載の溶接性及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高張
力鋼の製造方法。
【0028】7. スラブ加熱温度を1150℃未満と
することを特徴とする1乃至6の何れかに記載の溶接性
及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高張力鋼の製造
方法。
【0029】
【発明の実施の形態】以下に本発明における成分組成、
製造条件について説明する。
【0030】1.製造条件 C:0.04%以上0.09%以下 Cは所定の強度を確保するため添加する。0.04%未
満では厚肉材の場合60キロ級の引張り強度を確保する
ことが困難で、0.09%を超えると,歪時効後の靭性
が劣化するため、0.04%以上0.09%以下添加す
る。
【0031】Si:0.1%以上0.5%以下 Siは所定の強度、靭性を確保するために添加する。
0.1%未満ではその効果が十分でなく、0.5%を超
えると効果が飽和し、溶接熱影響部の靭性が著しく劣化
するため、0.1%以上0.5%以下添加する。
【0032】Mn:1.2%以上1.8%以下 Mnは所定の強度を確保するために添加する。1.2%
未満では厚肉材の場合60キロ級の引張り強度を確保す
ることが困難で、1.8%を超えると、溶接熱影響部の
靭性が著しく劣化するため1.2%以上1.8%以下添
加する。
【0033】Nb:0.01%以上0.05%以下 Nbは、圧延時のオーステナイトの再結晶を抑制し、直
接焼入れ時のオーステナイト粒界を活性化させ、膜状フ
ェライトの生成を容易とする。また、焼戻し時にNb炭
化物として析出し、強度上昇に有効なため添加する。
0.01%未満ではそれらの効果が不十分で、0.05
%超えでは著しいNb炭化物の析出強化により靭性が劣
化するため0.01%以上0.05%以下添加する。
【0034】sol.Al:0.002%以上0.07
%以下 Alは脱酸のため添加する。sol.Al量で0.00
2%未満の場合、その効果が十分でなく、0.07%を
超えて添加すると鋼材の表面疵が発生しやすくなるた
め、0.002%以上0.07%以下添加する。
【0035】N:0.001%以上0.004%以下 Nは、圧延加熱時AlあるいはTiと結びつきAlN,
TiNを生成し、オーステナイトを微細化させる。0.
001%未満ではその効果が十分でなく、0.004%
を超えて含有すると焼入れ焼戻し後も固溶Nにより著し
い歪時効脆化を生じるため、0.001%以上0.00
4%以下とする。
【0036】Pcm≦0.20、Ceq(WES)≦
0.42 Pcm,Ceq(WES)は、溶接低温割れ性、溶接熱
影響部の靭性の指標で、Pcmが0.20%を超えた場
合、予熱無しの溶接では低温割れが生じる可能性があ
り、Ceq(WES)が0.42を超えた場合、大入熱
溶接の熱影響部靭性が著しく劣化するためPcm≦0.
20、CeqWES≦0.42とする。ここでPcm=
C+Mn/20+Si/30+Cu/20+Ni/60
+Cr/20+Mo/15+V/10+5B,Ceq
(WES)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+
Cr/5+Mo/4+V/14とする。
【0037】以上が本発明鋼における基本的な成分組成
であるが、所望する特性を向上させるため、Cr,M
o,Cu、Ni,V,Ti,Caを単独または複合添加
することが可能である。
【0038】Cr:0.1%以上0.5%以下 Crは、強度、靭性を確保するために添加する。0.1
%未満では、その効果が不十分で、0.5%を超えると
溶接性ならびに溶接熱影響部の靭性が著しく劣化するた
め、0.1%以上0.5%以下添加する。
【0039】Mo:0.02%以上0.3%以下、C
u:0.1%以上0.6%以下の一種または二種 Moは強度を向上させ、特に厚肉材で有効なため添加す
る。0.02%未満ではその効果が十分でなく、0.3
%を超えると溶接性及び溶接熱影響部の靭性が著しく劣
化するため0.02%以上0.3%以下とする。Cuは
強度を向上させるため添加する。
【0040】0.1%未満ではその効果が十分でなく、
0.6%を超えて添加するとCu割れの懸念が高まるた
め0.1%以上0.6%以下とする。
【0041】Ni:0.1%以上0.5%以下 Niは靭性を向上させるため添加する。0.1%未満で
はその効果が十分でなく、0.5%を超えると鋼材コス
トの上昇が著しいので0.5%以下とする。
【0042】V:0.01%以上0.08%以下 Vは焼戻し時、炭化物として析出し、強度を向上させる
ため添加する。0.01%未満ではその効果が十分でな
く、0.08%超えでは著しいV炭化物の析出強化によ
り靭性が劣化するため0.01%以上0.08%以下と
する。
【0043】Ti:0.005%以上0.02%以下、
Ca:0.001%以上0.004%以下の一種又は二
種 Ti、Caは母材靭性並びに溶接熱影響部の靭性を向上
させるため添加する。Tiは圧延加熱時あるいは溶接
時、TiNを生成しオーステナイト粒径を微細化する。
【0044】0.005%未満ではその効果が十分でな
く、0.02%を超えて添加すると圧延時にTiNbの
複合炭化物が析出し、焼戻し時のNb炭化物の析出量が
不足するようになり強度低下が生じるため、0.005
%以上0.02%以下とする。
【0045】CaはCa硫化物として鋼中に存在し、圧
延加熱時あるいは溶接時、オーステナイト粒径を微細化
する。0.001%未満ではその効果が十分でなく、
0.004%を超えて添加すると多量のCa硫酸化物に
より清浄度を著しく劣化させるため、0.001%以上
0.004%以下とする。
【0046】更に本発明ではB,O、P,Sを以下の範
囲に規制することが望ましい。
【0047】B:0.0002%以下、O:0.001
%以上0.004%以下 Bは本発明では不純物元素として扱う。直接焼入れ時、
固溶Bとして存在すると旧オーステナイト粒界における
膜状フェライトの生成が抑制されるため溶解原料の選別
などにより0.0002%以下に規制する。Oは不可避
不純物であるが、0.001%未満とすることは製造コ
ストが高価となり、0.004%を超えると多量のCa
硫酸化物が集合し、清浄度を劣化させるため、0.00
1%以上0.004%以下とする。
【0048】P≦0.010%、S≦0.002% P,Sは不純物元素で、P≦0.010%、S≦0.0
02%とした場合、中央偏析が軽減され、板厚中央の靭
性及び溶接性を向上させる。
【0049】2.圧延条件 900〜1000℃での圧延:ld/hm≧1.0を満
たす圧延を1パス以上歪時効後の靭性劣化を抑制するた
め、Nb含有鋼の再結晶温度の低温域である900〜1
000℃において、ld/hm≧1.0を満たす圧延を
1パス以上行い、回復の早い温度域で板厚中央部まで有
効に加工歪を導入する。
【0050】圧延温度が900℃未満では再結晶が十分
でなく、1000℃を超えると再結晶粒径が大きくなる
ため、900〜1000℃とする。ld/hmは1.0
未満では板厚中央部まで再結晶を励起する十分な加工歪
が加わらないため1.0以上とする。
【0051】Ar3以上900℃未満の温度域での圧
延:累積圧下率10〜60%の圧延歪時効後の靭性劣化
を抑制するため、Nb含有鋼の未再結晶温度域において
累積圧下による加工歪の蓄積を行い、フェライト変態を
促進する。
【0052】圧延温度はAr3未満では直接焼入れ開始
時にフェライト変態の進行により焼入れ性が低下し、所
定の強度が得られず、900℃以上では再結晶により、
加工歪が蓄積されずフェライト変態が不十分となるた
め、Ar3以上900℃未満とする。累積圧下率は10
%未満ではフェライト変態が促進されず、60%を超え
るとその効果が飽和し、鋼材の異方性が急激に増大する
ため、累積圧下率10〜60%とする。
【0053】3.熱処理条件 本発明鋼はその製造方法を直接焼入れ焼戻しに限定す
る。再加熱焼入れ焼戻し処理により、Pcm≦0.20
%、Ceq(WES)≦0.42%を満足する組成の板
厚30mm以上の厚肉鋼材で60キロ級の引張り強度を
得る事は困難であり、直接焼入れ焼戻しにより製造す
る。
【0054】焼入れ温度:Ar3以上 所定の強度、靭性が得られる焼入れ性を確保するため、
焼入れ時の組織をオーステナイト単相とする。Ar3は
例えばAr3=910−310C−80Mn−20Cu
−15Cr−55Ni−80Moとして求められる。
【0055】焼戻し温度:400℃以上、630℃以下 焼戻しは、母相の軟化による靭性回復と、Nb炭窒化物
の析出強化による強度―靭性バランスの向上を目的に行
う。400℃未満ではその効果が明確でなく、630℃
を超えると歪時効後の靭性を著しく劣化させるため、4
00℃以上、630℃以下とする。
【0056】スラブ加熱温度:1150℃以下 スラブ加熱温度は1150℃を超えると、オーステナイ
ト結晶粒が急激に粗大化し、その後の圧延による細粒化
が困難となり歪時効後の靭性が劣化する場合があるた
め、1150℃以下とすることが好ましい。
【0057】
【実施例】表1に実施例に用いた供試鋼の化学成分を示
す(表示しない残部は実質的にFe及び不可避不純物よ
りなる)。これらの化学成分を有する鋳片を加熱後、3
5〜75mmに圧延した。圧延後、直ちに、Ar3点以
上の温度から直接焼入れし、その後、焼戻しを実施し
た。表2に製造条件、表3に鋼板の特性を示す。
【0058】機械的特性として強度、靭性および歪時効
後の靭性を求めた。引張り試験は1/4tより、採取し
たJIS14A号(14φ)試験片を用いた試験とし
た。
【0059】衝撃試験は、1/4tより長手方向が圧延
方向と直角になるように採取した2mmVノッチシャル
ピー衝撃試験片(JIS4号標準試験片)を用いた試験
とした。歪時効後の靭性は板状の試験片に、5%引張り
予歪を付与し、250℃で1時間の時効処理後、引張方
向に2mmVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、試
験を行った。
【0060】以下、実施例について詳細に説明する。表
1における鋼種A〜Fは請求項1乃至6の何れかに記載
の発明を満足する成分組成の鋼で、鋼種GはC量、Pc
mが発明の範囲外となっている。表2、3における鋼番
1〜7は鋼種A〜Fを用いた製造例で請求項1乃至7の
何れかに記載の発明の実施例となっている。
【0061】歪時効後のvTsはー40℃以下、歪時効
の前後でのvTsの変化は小さく、良好な耐歪時効脆化
性が得られている。鋼番8,9は、鋼種A,Bによる製
造例であるが、未再結晶域:Ar3以上900℃未満の
温度域での圧延条件が本発明の範囲外となっている。鋼
番8は累積圧下率が高すぎ、異方性が大きい。鋼番9は
累積圧下率が低く、歪時効によるvTsの劣化度が大き
い。鋼番10は再結晶温度域でld/hmが1.0以上
の圧延を行わなかったため、歪時効によるvTsの劣化
度が大きい。鋼番11は焼戻し温度が630℃を超えて
いるため、歪時効によるvTsの劣化度が大きい。鋼番
12は鋼種Fによる製造例であるがスラブ加熱温度が1
150℃を超えて高く、耐歪時効脆化性に若干劣ってい
る。鋼番13は鋼種Gによる製造例で、成分組成が本発
明の範囲外であり、耐歪時効脆化性に劣っている。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【発明の効果】本発明によれば、直接焼入れ時に、旧オ
ーステナイト粒界に膜状のフェライトが生成され、実質
的な粒界面積が増大されるため、焼戻しにおいて析出す
るセメンタイトに集中する歪が小さく、歪時効後の靭性
に優れると共に、溶接性に優れる60キロ級直接焼入れ
焼戻し鋼の製造方法の提供が可能で、産業上その効果は
極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】強度及び歪時効前後のvTsに及ぼす焼戻し温
度の影響を模式的に示す図
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 和田 典己 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 (72)発明者 小林 孝之 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 (72)発明者 辻 章嘉 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 (72)発明者 小俣 一夫 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 Fターム(参考) 4K032 AA01 AA04 AA08 AA11 AA14 AA16 AA19 AA21 AA22 AA23 AA27 AA29 AA31 AA35 AA36 BA01 CA01 CA02 CC03 CD06 CF01 CF02

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、C:0.04〜0.09%、
    Si:0.1〜0.5%、Mn:1.2〜1.8%、N
    b:0.01〜0.05%、sol.Al:0.002
    〜0.07%、N:0.001〜0.004%を含み、
    且つPcm≦0.20%、Ceq(WES)≦0.42
    %を満たす鋼を、加熱後900〜1000℃の温度域で
    ld/hm≧1.0の圧延を1パス以上行い、引き続き
    Ar3以上900℃未満の温度域で累積圧下率10〜6
    0%の圧延を行い、圧延後Ar3以上より直接焼入れ
    後、400〜630℃で焼戻すことを特徴とする溶接性
    及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高張力鋼の製造
    方法。 但し、Pcm=C+Mn/20+Si/30+Cu/2
    0+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+
    5B, Ceq(WES)=C+Mn/6+Si/24+Ni/
    40+Cr/5+Mo/4+V/14。 ld:投影接触弧長 ld=(R・(hi−ho))
    1/2 hm:平均板厚 hm=(hi+2ho)/3 R:ロール半径、hi:圧延前の板厚、ho:圧延後の
    板厚
  2. 【請求項2】 鋼組成として、更に重量%でCr:0.
    1〜0.5%を含有する請求項1記載の溶接性及び歪時
    効後の靭性に優れた60キロ級高張力鋼の製造方法。
  3. 【請求項3】 鋼組成として、更に重量%でMo:0.
    02〜0.3%、Cu:0.1〜0.6%の一種または
    二種を含有する請求項1又は2記載の溶接性及び歪時効
    後の靭性に優れた60キロ級高張力鋼の製造方法。
  4. 【請求項4】 鋼組成として、更に重量%でNi:0.
    1〜0.5%を含有する請求項1乃至3の何れかに記載
    の溶接性及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高張力
    鋼の製造方法。
  5. 【請求項5】 鋼組成として、更に重量%でV:0.0
    1〜0.08%を含有する請求項1乃至4の何れかに記
    載の溶接性及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高張
    力鋼の製造方法。
  6. 【請求項6】 鋼組成として、更に重量%でTi:0.
    005〜0.02%、Ca:0.001〜0.004%
    の一種または二種を含有する請求項1乃至5の何れかに
    記載の溶接性及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高
    張力鋼の製造方法。
  7. 【請求項7】 スラブ加熱温度を1150℃未満とする
    ことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の溶接
    性及び歪時効後の靭性に優れた60キロ級高張力鋼の製
    造方法。
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