JP2000319068A - 炭素・黒鉛複合成形体 - Google Patents

炭素・黒鉛複合成形体

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 曲げ強さ、電気伝導度、熱伝導度、ガス透過
性、腐食電流等の固体高分子型及びりん酸型燃料電池の
セパレータ板に要求される特性を具備した複雑な形状の
炭素・黒鉛複合成形体を安価に提供する。 【解決手段】 炭素化時に自己焼結性を有する平均粒径
が10μm以下の炭素質炭素化合物微粒子と10〜70
μmの黒鉛微粒子を主とする構成成分を乾燥脱水し、乾
燥状態で攪拌混合し、造粒し最大粒径0.5mm以下の
造粒体を得て、これを成形し、得られた生成形体を非酸
素雰囲気下、炭素化して得た炭素・黒鉛複合成形体。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は自己焼結性を有する
炭素質炭素化合物微粒子と天然黒鉛及び人造黒鉛からな
る群から選ばれた少なくとも1種類の黒鉛質炭素微粒子
を主構成成分とする微粒子混合物を成形、炭素化して得
られる炭素・黒鉛複合成形体に関する。特に、本発明は
曲げ強さ、電気伝導度、熱伝導度、ガス透過性、腐食電
流等の固体高分子型及びりん酸型燃料電池のセパレータ
板に要求される特性を満たす炭素・黒鉛複合成形体を提
供するものである。更に、本発明は燃料電池の溝付きセ
パレータ板に見られる複雑な形状の成形体をプレスで一
発成形したものを炭素化するだけで、繁雑な後処理工程
を省いて実用に供することができる炭素・黒鉛複合成形
体を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】炭素質炭素と黒鉛質炭素とからなる複合
材料の製造方法は種々提案されており、有機質炭素、炭
素質炭素から選ばれた少なくとも1種類の炭素質炭素粉
と人造黒鉛、天然黒鉛から選ばれた少なくとも1種類の
黒鉛質炭素粉を使用するものが多い。炭素質炭素と黒鉛
質炭素の複合の目的は種々有るが一般的にはこれらの組
合せによって黒鉛の持つ特質を1000℃前後の焼成で
得られる成形体に賦与できることがあげられる。また黒
鉛質炭素の持つ弱点を炭素質炭素で補填することがあげ
られる。
【0003】例えば特開昭59−26907号公報に記
載の実施例には、予め3000℃で熱処理した粒度44
μm以下が99%含有される黒鉛微粉80重量部にレゾ
ール系フェノール樹脂20重量部を常温にて混和したペ
ーストをロール成形(周速0.3m/min)し、4m
m厚みのシートとし、これを硬化させた後、1000℃
/10時間の昇温速度で最高温度1000℃に熱処理し
製品とする。ロール成形後加圧硬化(0.1kg/cm
2 )した場合の製品特性は、 サイズ;300mm×400mm×厚み3.2mm 嵩密度;1.703(g/cm3 ) 比抵抗;165×10-5(Ω・cm) 曲げ強さ;323(kg/cm2 ) 通気率;3.5×10-5(cm2 /sec) であったと記載されている。
【0004】該公報では有機質炭素と黒鉛質炭素の複合
の目的をりん酸型燃料電池セパレータ板に要求される低
比抵抗値を黒鉛質炭素が分担し、低通気率をレゾール系
フェノール樹脂の炭化物、即ちグラッシーカーボンが分
担することで所望機能を賦与することに置いている。該
公報では溝付きセパレータ板の製法に関しても溝付きロ
ールもしくは溝付きの硬化時抑え鋼板による成形方法を
開示している。近年の実用化レベルのりん酸型燃料電池
では平板のセパレータ板と溝付き多孔質電極板の組合せ
が一般的であり、フェノール樹脂のように炭素化時の収
縮量が大きい有機質炭素使用系では溝付きセパレータの
ような複雑形状品の製造には適していないことが明らか
である。
【0005】本発明者の一人は特開昭61−19973
7号公報でキノリン不溶分;70重量%以下、メソフェ
ーズ含有量;40%以上、加熱溶融温度上限;400
℃、1000℃での炭素化収率;少なくとも70%とい
う性状を有するメソフェーズ含有ピッチと黒鉛粉を混合
して得られる粉体を好ましくは該ピッチの加熱溶融温度
以上に加熱して加圧成形した後に不活性雰囲気中適正温
度で焼成することにより、1000℃焼成時の体積変
化;3%以下の生品と焼成品の間で線収縮率が1%未満
の寸法安定性を有しつつ、体積固有抵抗;5.0mΩ・
cm、曲げ強さ;>200kg/cm2 というセパレー
タ板に適した特性を有する黒鉛質成形体の製造方法を提
案している。
【0006】また特公平7−35250号公報では特開
昭61−199737号公報に開示したのと同様の特性
を有する黒鉛質成形体の製法として黒鉛質微粉を懸濁さ
せたメソフェーズピッチ前駆体を含むタール留分中の軽
質留分を不活性ガスを吹き込んで350〜500℃に加
熱して留去し、キノリン可溶分5〜90重量%を含むメ
ソフェーズ含有ピッチを黒鉛質微粉表面に析出させた炭
素質前駆体を用いる方法を開示している。
【0007】また、特公平4−75189号公報では、
(1)黒鉛粉末をメソフェーズピッチ前駆体を含むター
ル留分中に懸濁させる工程、(2)上記の懸濁液に不活
性ガス(例:窒素ガス、炭酸ガス、アルゴン等)で35
0〜500℃で熱処理し、メソフェーズピッチを黒鉛粒
子上に生成させた炭素質前駆体を得る工程、(3)上記
炭素質前駆体を400〜800℃で加圧成形し、生成形
体とする工程、(4)上記生成形体を不活性雰囲気下で
炭素化または黒鉛化する工程からなる黒鉛質成形体の製
法を開示している。
【0008】この製法は炭素質前駆体を成形して生成形
体を得る手法としてホットプレス処理する方法を開示し
ている。
【0009】炭素質前駆体粉を溝付きセパレータ板のよ
うな複雑な形状に成形した生品を焼成する過程で発生す
る線収縮率の微妙な差がもたらす炭素化品の歪みや残存
応力を(3)が示すホットプレス工程で解消することが
できる。また、特公平6−102630号公報では、上
記特公平4−75189号公報記載の(3)工程を省略
して黒鉛モールド等を用いて、真空下または不活性ガス
雰囲気下で、800〜3000℃で加圧成形して黒鉛質
成形体を製造する方法を開示している。
【0010】該発明に従えば表裏に直交する多数の溝を
有する溝付きセパレータを一発成形することが可能とな
る。同時にガス不透過性、熱伝導度及び電気伝導度等燃
料電池セパレータ板に要求される特性も満たすことがで
きる。また、特開昭62−187167号公報ではりん
酸型燃料電池のガス分離板として使用できるガス不透過
性にすぐれた黒鉛質成形体を簡略化した工程にて製造す
る方法として、コールタール、ナフサ分解残さ等を35
0〜550℃程度で熱処理して得たキノリン不溶分;9
5重量%以下、メソフェーズ含有量;35重量%以下、
1000℃での炭素化収率;70重量%以上であるメソ
フェーズ含有ピッチを鱗片状天然黒鉛または人造黒鉛か
ら選ばれた黒鉛粉100重量部に対して5〜60重量部
添加し、ついでこの混合物を真空下または不活性ガス雰
囲気下で昇温速度150〜3000℃/時程度で700
〜3000℃に加熱し、圧力50〜2000kg/cm
2 程度に加圧成形する方法を提案している。また、特許
第2566589号公報では黒鉛質炭素、炭素質炭素、
無機化合物、金属及び金属化合物から選ばれた1種また
は2種以上の素材とメソフェーズ含有ピッチとからなる
炭素系複合成形体原料の製造方法において、(1)黒鉛
質炭素、炭素質炭素、無機化合物、金属及び金属化合物
から選ばれた1種または2種以上の素材とメソフェーズ
ピッチ前駆体を含むタール留分中に懸濁させてスラリー
を調製する工程、(2)懸濁液スラリーに(イ)炭素数
5〜20の脂肪族もしくは脂環式炭化水素及び(ロ)炭
素数3〜5の脂肪族もしくは脂環式ケトン化合物から成
る群より選ばれた1種以上の溶剤を溶剤比(Sn)2〜
15(溶剤重量/原料タール重量)の割合で添加して0
〜60℃で処理することにより該素材表面にメソフェー
ズ前駆体を含む多環芳香族ポリマーを析出させて、処理
溶剤を分離後処理された該スラリーをリンス用溶剤比
(Sr)1〜15(溶剤重量/原料タール重量)の割合
で0〜60℃で洗浄処理し、該素材とメソフェーズ前駆
体を含む多環芳香族ポリマーとから成る混合体を分離す
る工程、(3)該混合体を不活性ガス雰囲気下350〜
520℃で熱処理して多環芳香族ポリマーをメソフェー
ズ含有ピッチ化させる工程、の3工程を用いることを特
徴とする炭素系複合成形体原料の製造方法を開示してい
る。
【0011】該方法では黒鉛質炭素や炭素質炭素は勿論
のことSiC、AlN、B4 C、TiC、Si34
の粉体の表面を完璧にメソフェーズ含有ピッチで被覆す
ることができる。従って複数の組成物含有粉体表面に均
質なピッチ被覆を行うことができる特徴を有する。ま
た、使用される溶剤としてアセトンやヘプタンなどが挙
げられるが容易に回収再利用できる特徴を有する。また
特許第2566595号では上記特許第2566589
号で調製したメソフェーズ含有ピッチで被覆した黒鉛質
炭素からなる複合粉体を例に挙げて従来考えられなかっ
た複雑形状の精密成形体を金型通りの寸法で炭素化し大
量生産に供するに必須な炭素系粉体の造粒方法を開示し
ている。
【0012】該造粒方法は自己焼結性炭素系粉体及び所
望により黒鉛質炭素、炭素質炭素、金属及び無機化合物
からなる群から選ばれた少なくとも1種類の粉体を含む
炭素系粉体を結合剤及び湿潤剤の存在下に水に分散させ
たスラリーを加熱水蒸気を含むこともある加熱空気中で
噴霧乾燥して造粒する方法において、(1)該結合剤が
1000℃での炭化時に発泡体を作らず、且つ残炭収率
が10重量%以上の有機化合物であり、その使用量が炭
素系粉体100重量部に対して0.01から5重量部で
あること、(2)該湿潤剤が曇点が25℃以上の曇点範
囲を有する非イオン系界面活性剤であり、その使用量が
炭素系粉体100重量部に対して0.01から3重量部
であること、を特徴としている。
【0013】造粒に供される粉体は本発明者の上述先行
発明によって得られる全ての粉体を対象にすることがで
きる。鱗片状黒鉛表面をキノリン不溶分量97重量%の
メソフェーズ含有ピッチで被覆した炭素系組成物を該方
法で造粒して得られた平均粒径114μmの造粒品は肉
厚1.2mmの底と縦、横十文字の間仕切りを有する中
空箱形の薄肉品をロータリープレス機で連続的に製造す
ることができた。また1000℃迄9時間の昇温速度で
炭素化して得られた製品は金型寸法と同じ寸法に仕上が
り、底部分の収縮割れなどは認められず、100%近い
歩留まり率が得られた。また特許第2566589号及
び特許第2566595号を併合した特許が英(308
824:92.12.23)米(4985184:9
1.01.15)独(P3876913.1;92.1
2.13)仏(308824:92.12.23)4ケ
国に登録されている。
【0014】また特開平6−192660号公報では、
ピッチの前駆体組成物又は該ピッチの前駆体組成物と骨
材との混合物を熱処理して製造する際に、所望により分
散剤の存在下に特殊な静置熱反応容器に輻射加熱手法を
組み合わせて処理するピッチ含有組成物の製造方法を開
示している。
【0015】該方法において、黒鉛微粒子に見られる結
晶表面に水酸基やカルボキシル基のような表面活性点を
多く含む局部的親水性素材と親油性メソフェーズ含有ピ
ッチとの親和性を素材に適した各種分散剤を用いること
で画期的に高めることができ、複合特性の飛躍的向上が
果たされている。また、輻射加熱をうまく使うことで複
合成形体強度の重要な支配因子である熱処理温度の大型
反応装置内でのバラツキを±2℃以下に抑制すること
で、均質な複合素材の工業規模での大量生産が可能にな
った。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】本発明者の先行する特
許で開示されたりん酸型燃料電池の溝付きセパレータ板
に要求される特性を満たしたセパレータ板製造技術は、
近年地球環境問題から固体高分子型燃料電池積載自動車
が脚光を浴び、そこに使われる部材である溝付きセパレ
ータ板の特性を満たすことは固体高分子型が作動温度が
りん酸型の170〜200℃に比べて80℃前後と低い
ことから容易に理解できる。
【0017】しかしながら従来技術は大型発電装置とし
てのりん酸型燃料電池の溝付きセパレータ板に狙いを定
めた生産技術であるために、自動車の発電装置または家
庭用据え置き小型発電機としての固体高分子型燃料電池
で要求される低価格と数百万枚以上の膨大な生産量を満
たすには様々なハードルを超える必要がある。特に本発
明者の開示した従来技術では燃料電池セパレータ板に適
したメソフェーズ含有ピッチ被覆黒鉛複合粉体を製造す
るコストは大きな壁となる。メソフェーズ含有ピッチ被
覆黒鉛は800〜900℃でホットプレスすることで好
ましい特性を発現するが、大量生産性及び生産設備に課
題がある。また、大量自動無人プレス成形に適した造粒
方法も画期的技術であるが余り生産性が良くない噴霧乾
燥装置を必須とするためにコストアップにつながる。
【0018】一方メソフェーズ含有ピッチ粉と黒鉛粉の
混合物による製品は300℃以上の加熱プレスを必須と
する為、生産性及びコスト面で解決すべき問題を抱え
る。即ち本発明が解決すべき問題点は、時代が要求する
廉価な製品価格と既存技術が生み出す製品価格の差を新
たな技術の創出によって零にすることにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明者等は廉価な製品
を製出しつつ先行技術に示された物性を発現させる新規
な技術を創出すべく鋭意研究を行った。研究開発の大前
提として固体高分子型燃料電池溝付きセパレータ板に要
求される生産性及び物性値に係る以下の諸要請は満たさ
れねばならない。 生産性 (イ)200〜500mm角、厚さ1〜5mmの板の大
量生産ができること (ロ)深さ1mm、幅1〜2mmの燃料及び空気の供給
溝を板表面または表裏両面に容易に設置できること、好
ましくはプレス一発成形で設置できること。 物性値 (ハ)表面平滑度、反り等の機械的寸法 (ニ)曲げ強さ、圧縮強さ (ホ)体積固有抵抗 (ヘ)腐食電流 (ト)ガス透過率
【0020】本発明者らは以下の素材及び生産技術に関
する諸項目を満たすことで廉価製品の大量生産が可能と
考えた。 (1)大量生産されて市場に安定供給されている素材を
組み合わせた製品 (2)自動無人プレス操業に供する事ができる造粒粉体 (3)全工程を高生産効率設備機器で構築 従来技術での複雑形状黒鉛成形体の切削加工法や、グラ
ッシーカーボン成形体の製法では高コスト化が避けられ
ないことは当業者には自明のことである。
【0021】本発明者らは大量生産されて市場に潤沢に
供給されている、または要請に応じて供給することがで
きる黒鉛粉体及び自己焼結性炭素質化合物粉体で生成形
体を得て、これを炭素化して製品を得る簡便な手法で固
体高分子型及びりん酸型燃料電池セパレータ板を製造す
ることを基本概念として鋭意検討を進めた。
【0022】本発明者の先行する技術のうちメソフェー
ズ含有ピッチ被覆黒鉛の造粒品を用いれば所望の成形品
生産性と炭素化品物性値を得ることができる。一方該技
術ではピッチ被覆プロセスを新規に設ける必要があり生
産量見合いでは極めて高価な素材を使用せざるを得ない
問題がある。一方ピッチ被覆プロセスを省いたメソフェ
ーズ含有ピッチを粉砕ミルで黒鉛粉と混合したものを成
形する手法では、生産性が低い上に所望曲げ強さを得る
には加熱プレス成形を必須とするコストアップ要因があ
る。
【0023】本発明者らの一人は特願平11−2453
7号でセラミックス粉と変成生コークス粉の混合系で高
強度を発現させる手法として変成生コークス粉を3μm
程度に微粒子化して1μm程度のセラミックス粉と均一
に混合する手法を提案した。この手法ではセラミックス
微粒子が変成コークス微粒子を被覆することで曲げ強さ
を従来にないレベルに高めることができた。しかし該発
明の手法では生成形体が焼結成形体になるとき10%以
上の線収縮を起こすことから、本発明が目指す生成形体
と炭素化成形体の寸法が同じ、即ち線収縮が実質零の成
形体製法には直接結びつかないものであった。
【0024】本発明者らは上に述べた炭素・黒鉛複合成
形体の製造に係る普遍的な問題点を高価な設備や原料を
用いることなく解決することにより、優れた炭素・黒鉛
複合成形体を製造することを目的とし、鋭意研究を重ね
た結果、簡単な操作条件を組み合わせることで先行技術
が部分的には解決できても全体として解決できなかった
問題を以下に述べる要旨を製法で一気に解決できること
を見出して本発明を完成した。
【0025】本発明は、平均粒径が10μm以下、好ま
しくは1〜7μmの自己焼結性炭素質化合物微粒子と平
均粒径が10〜70μm、好ましくは15〜50μmの
黒鉛質炭素微粒子を乾燥状態で撹拌混合して得た混合物
に、必要に応じてポリエチレングリコール、蔗糖、メチ
ルセルロース及び高分子凝集剤等の水溶性且つ炭素質炭
素化合物及び黒鉛質炭素に粘着性を有する化合物群から
選ばれた少なくとも1種類の粒子相互粘着用添加剤を含
む水溶液もしくは水を加えて撹拌混合造粒して、最大粒
径が0.5mm以下の造粒体を得て、これを乾燥した後
に、必要に応じて種々の形状を刻印した金型押し板を有
する金型に充填した後に成形して得られる生成形体を不
活性雰囲気下1100〜1800℃、好ましくは120
0〜1600℃で焼結して得られる炭素・黒鉛複合成形
体を要旨とするものである。
【0026】
【発明の実施の形態】以下本発明を更に詳細に説明す
る。実施態様を、原料、混合/造粒、成形、焼成系に大
別して説明する。 原料系 (1)黒鉛質炭素微粒子として鱗片状及び土状天然黒鉛
及び人造黒鉛からなる群から選ばれた少なくとも1種類
の黒鉛質炭素微粒子を用いることができる。黒鉛の物性
及び供給安定性の両面で人造黒鉛がより好ましい。好ま
しい人造黒鉛として例えばティムカル社製KSシリーズ
をあげることができる。黒鉛成形体製造業から供給され
る各種人造黒鉛も対象として選択することができる。 (2)黒鉛微粒子の粒径は成形性の観点からは幅広く選
択できる。しかし、体積固有抵抗、熱伝導度、成形体強
度、生成形体と焼成成形体の寸法安定性及びガス透過率
などの諸物性値を同時に満たす観点からは余り大きくて
も小さくても本発明の目的に合致しなくなる。黒鉛微粒
子の平均粒径は10〜70μm、好ましくは15〜50
μmの範囲から選ぶことができる。セパレータ板の溝部
分の形状が微細になり、寸法精度やガス透過率の要求が
厳しくなると小粒径黒鉛が選択される。黒鉛粒子径が小
さくなればなるほど後述する強度発現機構から自己焼結
性炭素質化合物の量を増やすか、その平均粒子径を小さ
くする選択がなされる。本発明で用いることのできる代
表的な上市製品としては人造黒鉛ではテイムカル社のK
S44が、天然黒鉛では日本黒鉛社のCPB及びCPB
精製品がある。
【0027】(3)黒鉛含有量は幅広く選択できるが、
生成形品と炭素化成形品の寸法が同じになるように設定
するためには混合物の90〜50重量部、より好ましく
は85〜60重量部、更に好ましくは80〜65重量部
を選択することができる。なお、この黒鉛含有量範囲は
自己焼結性炭素質化合物の炭素化時焼結物性に支配され
る因子でもあり、自己焼結性炭素化合物特性をも踏まえ
て総合的に決定される。当然のことであるが黒鉛質炭素
含有量が高いほど電気伝導度及び熱伝導度等の黒鉛由来
特性が向上する余地がある。しかし自己焼結性炭素質化
合物の焼結特性や後述する平均粒子径等が不適切である
と、炭素化時に黒鉛質炭素が膨潤して折角の黒鉛質炭素
固有の特性を生かせなくなることもあるので、適切な設
計を要する。
【0028】(4)本発明で用いることができる自己焼
結性炭素質化合物は種々市販されている。γ成分(キノ
リン可溶トルエン不溶成分)含有量が3〜30重量%、
好ましくは5〜25重量%の自己焼結性炭素質化合物を
本発明の炭素・黒鉛複合成形体の出発原料として用いる
ことができる。γ成分含有量が少なすぎると所望の強度
を所定物性値の要求範囲内で発現できない。一方あまり
にも高すぎると例えばコールタールのように100℃以
下で溶けてしまい成形体形状の保持及び自己焼結性炭素
質化合物の偏在化を引き起こしてしまい本発明の用にた
たない。
【0029】本発明で用いることができる市販の自己焼
結炭素質化合物として大阪化成社製TGPシリーズ、M
PCシリーズ、大阪ガス社製MCMB、川崎製鉄社製K
MFC、呉羽化学社製KS等をあげることができる。ま
た、高軟化点ピッチもγ成分含有量を満たせば用いるこ
とができる。本発明の要求するγ成分含有量範囲を満た
す限り、自己焼結性炭素質化合物がコールタール、石油
系重質油のいずれを出発原料にしていても問題はない。
また大阪化成社製MPC−1のように空気酸化によって
酸素含有量を大きくした素材であっても何ら問題はな
い。
【0030】(5)自己焼結性炭素質化合物の平均粒子
径は本発明の実施において炭素・黒鉛複合成形体の曲げ
強さやガス透過率及び腐食電流値を支配する重要な因子
である。大阪化成社から市販されている商品「TGP3
000」を例にその粒子径効果を以下に示す。TGP3
000はγ成分含有量が21%の自己焼結性メソフェー
ズ含有ピッチの粉砕品(300メッシュ篩い下品)に位
置づけられる。TGP3000をそのまま用いても焼結
体を得ることはできる。しかし「TGP3000(30
0メッシュ篩い下品)/平均粒径25μmの人造黒鉛粉
=3/7」に混合して得た複合成形体の1000℃焼成
品の曲げ強さは100kg/cm2 以下であり、燃料電
池セパレータ板に要求される曲げ強さ値を満たすことが
できなかった。また製品のガス透過率、腐食電流値も不
適の領域であった。
【0031】「TGP3000」をジェットミル粉砕に
供して平均粒径が10、7、3、1μmの粉砕品を得、
上記比率で成形体を作ったところ、3μm品で曲げ強さ
250kg/cm2 が得られ、ガス透過率、腐食電流も
粒径の減少に比例して減少した。諸物性を総合的に満た
すことができる好ましい平均粒径は7μm以下であっ
た。特に好ましい平均粒径は3μm以下であった。この
現象は自己焼結性炭素微粒子の粒径が小さくなること
で、大きな黒鉛粒子の表面に隙間なく自己焼結性炭素粉
が充填されることに起因すると考えることができる。
【0032】即ち平均粒径=25μmの黒鉛粒(比重=
2.2)70%、平均粒径=50μmの自己焼結性炭素
粒(比重=1.8)30%が存在するとき、自己焼結性
炭素粒1個に対して黒鉛粒15個が存在するという計算
結果がある。従って上記粒径関係では焼結性を担う自己
焼結性炭素粒の存在効果は余り期待できないことが明ら
かである。自己焼結性炭素粒の平均粒径を10、7、3
μmに変えることで、黒鉛粒1個に対して8、24、3
03個の自己焼結性炭素粒が存在する計算になる。10
μmの場合は1個の黒鉛粒子表面の1/3を自己焼結性
炭素が被覆する計算になる。7、3μmではそれぞれ1
/2、1の表面を自己焼結性炭素粒が被覆する計算にな
る。実験の結果から黒鉛粒子表面の1/2を炭素粒が被
覆する計算値が得られる状況で、曲げ強さ、腐食電流、
ガス透過率の要求値が満たされることがわかる。また、
3μm品では効果がより完全になる。
【0033】一方炭素成分の被覆率が高くなると電気抵
抗値が大きくなり、燃料電池内部での抵抗損失が大きく
なることが予想される。しかし、油化電子(株)製「ロ
レスタ」で測定した体積固有抵抗値はTGPの平均粒径
3μm品で1.5〜1.7mΩ・cmであり、セパレー
タ要請値を満たすことができる。平均粒子径が1μm品
でも効果は3μm品と同じであった。従って黒鉛粒子径
の変動によってその表面被覆に要する自己焼結性炭素の
粒径も変動するがそれは簡単な計算によって予測するこ
とができる。
【0034】従って上記計算での被覆率が1程度を満た
せる最大の粒子径を求めることができる。黒鉛粒子が大
きくなれば7μm以上でも同じ効果が得られるように思
われるが、現実には成形体の溝部分には余り大きな黒鉛
粒子を用いるとガス透過性や溝の平滑性などに許容され
ない問題が発生する為に、黒鉛粒子の粒径自体も制限さ
れるため結果として自己焼結性炭素の平均粒径は7μm
が好ましい上限となる。
【0035】混合/造粒系 セパレータの厚みは燃料電池システムの重量支配因子で
あり、体積固有抵抗由来の内部発熱損失を支配する重要
因子でもあり当然薄いほど好ましい。本発明者らは薄板
を自動プレス成形する手法について鋭意検討をおこなっ
た。自動プレスで成形する為には粉体の流れ性がきわめ
て重要な支配因子であり、通常自動プレス金型での迅速
且つ均一な流れ性を確保するためには造粒粉体が使用さ
れる。黒鉛粉及び炭素粉の単純混合物では目的を達成す
ることはできない。
【0036】本発明者らの一人が提案した特許第256
6595号公報に開示された噴霧乾燥造粒方法は自動プ
レスに要求される特性を満たす流れ性に富んだ黒鉛/炭
素複合粉体を供給することができる。該発明の方法に従
ってメチルセルロースと界面活性剤を助剤に用いた黒鉛
/炭素複合粉体のスラリー水溶液を空気中で水蒸気など
を熱源に噴霧乾燥すれば所望の粒径の流れ性に富んだ造
粒粉体を製造することができる。本発明は特許第256
6595号公報開示の方法による造粒粉体製造方法を発
明の遂行の一形式として包含する。本発明者らは更に混
合と造粒の方法の検討を行った。
【0037】(6)本発明では1〜10μmの微細な自
己焼結性炭素質化合物と10〜70μmの黒鉛粒子を均
一に混ぜる操作の成否が、黒鉛粒子表面を自己焼結性炭
素粒子で被覆して成形体に所要の特性を発現させる上で
きわめて重要になる。この微細な粒子の均一混合はかな
りの困難が伴う。即ち擂潰機のような圧縮を伴う混合装
置を用いると、鱗片状の構造を有し、圧縮によって自己
成形性を発現する黒鉛粒子、特に巨大な鱗片を有する天
然黒鉛に顕著であるが、自己焼結性炭素質化合物粒子と
の混合前に黒鉛質炭素粒子が相互に付着してしまい所望
の特性発現ができなくなる。一方ボールミルのような粉
砕機能が優先する混合機では原料自体が粉砕され、所定
の混合比で設計した成形体性能の発現が難しくなる。
【0038】ハイスピードミキサーに代表される攪拌混
合機器では、回転羽根を用いて粉体を自由浮遊の状態で
混合するために上記のような問題が起こりにくい。本発
明者らはハイスピードミキサー(深江パウテック社製)
で混合条件を探索した。その結果炭素粉、黒鉛粉ともに
50℃以上、好ましくは100℃前後で乾燥した後に室
温から100℃の温度範囲で湿気が混合槽内に入り込ま
ないように乾燥空気や窒素ガスでパージしながら主とし
てアジテータを用いた混合を行うことで極めて良好な混
合状態が数分で達成できることを見出した。
【0039】(7)またこの混合粉を同じ機械で造粒し
た後に乾燥で水分を除去した造粒体は0.5mm以下の
粒径を有する。具体的には篩い目<0.425mmの篩
をほぼ100%通過する球状粒子が得られた。この場合
もアジテータを従来常識よりも高速の回転に供すること
で、所望の微細球状粒子を再現性良く製造できることが
見出された。これらの新規な発見に依って簡便にして生
産性の高い混合・造粒方法の完成を見るに到った。 (8)造粒は混合が終了した粉体に攪拌状態で造粒液を
添加することで達成される。造粒液は様々な形態を選択
することができる。もっとも単純な造粒液は水である。
ただし水造粒の場合は乾燥後に得られる造粒体は崩壊し
やすい。従って大きなコンテナーで造粒粉体を輸送する
ような製造形態には不向きであるが、造粒・乾燥・成形
がシステム化されている工場では水造粒でも所望の機能
が得られる。また、高分子凝集剤、ポリエチレングリコ
ール、メチルセルロース、蔗糖等水溶性と粘結性を兼ね
備えた各種化合物を粘結助剤として水に添加することで
より強度の高い造粒体を得ることができる。
【0040】セパレータ内に残存して電気化学反応に関
与することで腐食や発熱を起こすような元素を含まない
粘結助剤を選択することで目的は達成される。ただし、
ここで得られる造粒体の強度が高すぎるとプレス成形工
程で所定圧力で成形しても粒が崩壊しなくなる。極端な
場合成形体断面は造粒粒子の結合体として観察される。
このような場合にはガス透過率に代表される所望物性が
満たされなくなる。
【0041】従って粘結助剤の添加量はそれぞれの物性
に合わせて最適化する必要がある。具体的にはメチルセ
ルロース、高分子凝集剤やポリエチレングリコール系で
は重合度に関係なく外割で0.05〜1.0%、好まし
くは0.1〜0.5%が選択される。蔗糖では外割で
0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%、より好まし
くは1〜3%が選択される。添加量の差はポリエチレン
グリコールでは乾燥状態で強固な膜を形成するのに対し
て蔗糖は無数のひび割れが入った膜を形成することに起
因する。
【0042】即ちポリエチレングリコールでは強固な膜
がプレス与圧時に粒の崩壊を阻止する方向に働くのでそ
の添加量を極力少なくすることが必要である。一方、ポ
リエチレングリコールを添加すると通常の取り扱い時に
粒は崩壊し難いので極めて安定した流れ性が確保され
る。この造粒体は自動プレスでの一般的な材料均一充填
法に十分対応できる。蔗糖やメチルセルロースでもおな
じ効果が期待できる。更にこれらの系では炭素化時その
一部が炭素として成形体に残存し、炭素粒及び黒鉛粒の
粘結剤として作用するので成形体強度の向上に寄与す
る。また炭素化品の密度の向上にも寄与する。
【0043】(9)工業規模では混合と造粒は別々に行
うことが好ましい。これによって水を用いた機器に乾燥
粉体を導入する際の混合槽乾燥や付着物除去などの煩雑
な工程を省くことができ、混合、造粒各工程をほぼ無人
で操作できる。造粒品は乾燥工程を経た後にプレス成形
に供される。水分を含んだままでも成形することができ
るが、自動成形には適さない形態であることは当業者に
は自明のことである。ハイスピードミキサーのような機
器にマグネトロン乾燥装置を付与して造粒品の乾燥を行
うことができる。この場合水分は内部から蒸発するので
造粒粉体内部に無数の気孔を形成することができ、成形
与圧によって粒の崩壊を一層促進し、成形体のガス不透
過率の向上に寄与する。
【0044】成形系 燃料電池セパレータ板はその表面に複雑な形状の燃料ガ
ス(水素)及び酸化剤(空気)の流路を形成するものが
多い。特許に開示された情報からその形状は様々であ
る。片面だけに流路を形成したもの、両面に形成したも
の等製造者によって多くの提案がなされている。炭素成
形材料を扱う者においては自明のことであるが、係る複
雑な形状を炭素化または黒鉛化した板の上に形成するこ
とは極めて難しく工作機械を長時間占有する結果として
高価な製品にならざるを得ないのである。ましてやグラ
ッシーカーボンのように高硬度素材においては量産は極
めて難しい。
【0045】本発明の目的は係る複雑な形状をプレス金
型押圧面に予め刻印することで、自動プレス成形時に複
雑な形状も一発で成形することにある。勿論、側面の穴
などプレス成形の操作上設定が難しいものは後加工で形
成することになるが、一発成形方法を用いれば製造者提
案に合わせたプレス型を保有すれば複雑形状品の大量生
産を廉価に行うことができる。一発成形で複雑な形状を
付与することは技術的に可能であるが、大抵は炭素化時
に発生する収縮によって複雑形状が破壊される。板全体
が変形する等の問題が起きて実用に適さないのが実状で
ある。
【0046】本発明者の一人が提案した方法例えば特公
平6−102530号公報では、燃料電池セパレータを
黒鉛モールドを用いて成形する方法を開示している。ま
た、特許第256659号公報では造粒手段を合わせて
薄肉有底の複雑成形体を大量生産する方法を開示してい
る。本発明ではTGP3000というコールタール由来
のβ成分含有量が21%前後の自己焼結性炭素質化合物
を代表例に黒鉛との組み合わせで、係る生成形体と炭素
化成形体の寸法差が実質零の成形体用複合粉体を得るこ
とができるか否かについて検討した。
【0047】(10)TGP3000は200〜400
℃で分解ガス成分を大量に発生する素材であり、メソフ
ェーズ含有ピッチとしては特異な物性を有する。しか
し、TGP単独の成形体は極めて高強度になる特性を兼
ね備えている。先に述べた各種粒度に粉砕したTGP3
000をハイスピードミキサーでテイムカル社製人造黒
鉛「KS44」と種々比率で混合後蔗糖外割2%で造粒
し、乾燥した粉体を成形圧1トン/cm2 で成形し、不
活性ガス雰囲気下1℃/分の昇温速度で1200℃まで
昇温して炭素化成形体を得て、焼成前後の寸法変化を観
察した。
【0048】その結果TGP3000の平均粒径3μm
品ではTGP3000=30%、KS44=70%で焼
成前後で線収縮率は実質零であった。またTGP300
0=27〜30%の範囲内でも線収縮率は1%未満であ
った。TGP3000の平均粒径の変化によってその最
適値は多少変動したがTGP3000=26〜30%の
範囲内で線収縮率実質零の組成を設定できた。線収縮率
零の組成を設定できたことで、先行発明同様の複雑形状
品の一発成形がTGP3000という特殊であるが大量
生産されている商品の再粉砕品によって可能なことが確
認された。市販されているTGP2000(200メッ
シュ篩い下品)でも同様の試験を行い、同様成績を得
た。即ちTGP2000という組成物が本願発明の目的
に合致していることを見出した。
【0049】本発明者らは市販されている自己焼結性炭
素材料である「KMFC」、「MCMB」を用いて本願
発明の構成要素である乾式混合、湿式造粒の工程を経て
調製した乾燥造粒粉体で同様の試験を行いTGP300
0同様線収縮率零の組成を見出すことができた。自動プ
レス成形においては造粒粉体の嵩密度や成形時の圧密度
を基準に予め設定された量の造粒粉体より少し多い量を
金型枠内に投入した後に下枠を所定位置まで押し上げて
型上面に溢れ出た造粒体を刷毛切りして充填量を定め、
所定加圧動作に移るのが一般的な手法である。
【0050】この場合、造粒粉体の嵩密度が一定である
ことが製品厚みを一定にする上で重要である。また金型
枠内に容易に均一充填される流れ性も重要な因子であ
る。本発明の造粒粉体は係る要請を満たすことができ
る。特にポリエチレングリコールや蔗糖及びメチルセル
ロースを用いて湿式造粒した粉体は優れた流れ性と均一
な粒径分布を与えることができる。成形で得られた生成
形体が金型より少し大きめの寸法を与える、いわゆるス
プリングバック現象は良く知られている。この現象が起
きるときには成形体を金型から抜き出すときに破損する
確率が高くなることが知られているが、対応策として当
該業界の常識の範囲の技術であるが金型に抜き代と呼ば
れる微少なテーパを施すことがあげられる。
【0051】スプリングバックのかかった生成形体の寸
法と炭素化成形体の寸法を実質同じにすることが溝等の
変形を防ぐ上に一番効果的であるが、スプリングバック
線膨張率が1%前後の場合は、金型寸法までは収縮させ
ることができる。この場合は自己焼結性炭素材料の混合
比率を所定量増加させて所望の線収縮率を付与すること
で容易に材料設計が可能であり、所望寸法で金型を作っ
てその寸法の製品を得ることができる。スプリングバッ
ク量は成形圧にはほとんど影響されないことを実験的に
確認した。また成形圧は0.5トン/cm2 〜2トン/
cm2 の範囲で炭素化時の線収縮率に影響を与えないこ
とも確認された。
【0052】この二つの特徴が本発明の実施態様として
金型成形時に複雑な形状を生成形体に刻印することを可
能とする。即ち溝付きセパレータのように表面に幅1m
m、深さ1mm程度の溝を多数設置する場合、溝の有無
に合わせて造粒粉体の仕込量を微調整して成形面全体に
均一な成形圧を確保することは実質不可能だからであ
る。従って溝部分では成形圧の変動が必ず起き、これが
炭素化時の線収縮率に直接影響する限り生成形体での複
雑形状の刻印はできないのである。黒鉛加熱時の伸縮が
緩衝機構として作用して上記範囲の成形圧の変動を吸収
しているものと推測されるが、成形圧力の差が線収縮率
に影響しないという発見が必要に応じて溝付きセパレー
タ板をプレス一発成形で製造することを可能とした。
【0053】焼成系 本発明では自己焼結性炭素質化合物が炭素質炭素になる
温度まで不活性雰囲気下で熱処理を行うことで製品を得
ることができる。自己焼結性炭素質化合物は900℃前
後で水素を放出して炭素化を終了することが一般的に知
られている。従って通常の炭素化温度として知られてい
る1000℃まで加熱処理すれば炭素化は完了する。し
かし本発明での炭素化温度は1100〜1800℃、好
ましくは1150〜1600℃、更に好ましくは120
0〜1500℃から選択される。従来の炭素化温度より
高い温度を選択する理由は腐食電流の低減にある。
【0054】即ちプロトン型燃料電池ではりん酸であれ
高分子膜に硫酸基が固定された固体高分子型高分子であ
れ作動状態のセパレータ板には電流が流れ、水分とプロ
トンが共存しているために、作動温度の差がもたらす多
寡はあれ、黒鉛結晶や炭素結晶の端面に存在する官能基
での電気化学反応が起こり、それが腐食電流として観察
される。また腐食電流によって黒鉛や炭素の結晶組織が
破壊されることによって極端な場合セパレータ板がぼろ
ぼろになる現象が起きる。特に黒鉛結晶端面は多くの官
能基があることは良く知られており、ここが腐食電流の
発生源になる。また、炭素質炭素も炭化が不十分な場合
に残存する官能基によって腐食電流反応が生起される。
【0055】本発明の腐食電流対策は2通りある。ま
ず、黒鉛結晶端面官能基の反応阻害に関しては混合/造
粒の時点で自己焼結性炭素質化合物微粒子で黒鉛端面を
被覆し、炭素化時に自己焼結性炭素質化合物微粒子の溶
融焼結によって黒鉛結晶端面を保護してその反応性を低
下させる。次に炭素化温度を上記範囲に設定すること
で、炭素質炭素結晶及び黒鉛質炭素結晶の官能基を予め
除去し、大量の官能基が残存するときに起きる電気化学
反応の加速度的進行を抑え長時間の安定性を確保するこ
とにある。特に好ましい温度範囲1200〜1500℃
を選択すると初期腐食電流値は1000℃焼成時の1/
10以下に激減し、長時間の作動でも許容範囲内の電流
値にて推移する。
【0056】一方初期腐食電流値を高める原因として成
形時に使用するBNがあげられるので、これは使用しな
いか極力その使用量を削減することが好ましい。自己焼
結性炭素質化合物はその出発原料、熱処理方法及びγ成
分含有量によってその範囲が若干異なるが大凡200〜
500℃の炭素化温度域で分解ガスを放出しつつ炭素質
炭素へ推移していくことは良く知られている。200〜
500℃で成形体からの単位時間当たりのガス発生量が
多すぎると、ガス圧によって成形体の膨潤が起き、曲げ
強さ、ガス透過率、電気伝導度などの諸物性を悪化させ
るのみならず、時として製品の形態を失することにな
る。
【0057】昇温速度は自己焼結性炭素質化合物の成形
体用混合物中の含有量、γ成分含有量、成形体の面積や
成形圧によって最適化させる。これらの手法は当業者に
は公知の技術範囲であるが、本発明の生成形体の昇温速
度も150〜600℃の炭素化温度範囲は0.01〜5
℃/分、好ましくは0.1〜3℃/分より好ましくは
0.2〜2℃/分の範囲に設定することが要請される。
焼成時に成形体に外部から酸素が接触すると200〜5
00℃の温度域では自己焼結性炭素質化合物が酸素を吸
収して酸素含有炭素質化合物に変質する。この場合酸化
を受けなかった化合物との間で炭素化時線収縮率に差が
でる為製品の歪みや破壊をもたらすことになるので該温
度域で焼成中は酸素の侵入を抑止することが必要にな
る。
【0058】この温度域での酸素侵入抑止法として、従
来から知られている技術であるが、不活性ガス(窒素ガ
スが好ましい)雰囲気下炭素化があげられる。また通常
用いられる炭素化充填物である「コークスブリーズ」は
この温度域での酸素侵入抑止能力を有さないので、本発
明者らが特開平5−186265号公報で開示したコー
クスブリーズにアマニ油を混ぜて得た酸素透過抑止層を
容器上部に設置して500℃領域までの酸素侵入を実質
零とする方法も利用することができる。またアマニ油の
代わりにTGPの適当な粉砕品をコークスブリーズに混
ぜる方法でも同じ効果が得られる。600℃以上の炭素
化は1℃〜10℃/分の範囲から任意に選択することが
できる。ここでは炭素化最終段階での水素の脱離が起き
るが、すでに強度的に向上した段階での脱離であり、ガ
ス流路も確保されていることから緩速昇温を要しない。
なお、本発明で製造される炭素化された炭素・黒鉛複合
成形体に通常の切削加工機を用いて切削加工を施してセ
パレータ板などの製品を製造することも任意に行えるこ
とであることはいうまでもない。
【0059】実施例 以下に実施例をあげて本発明の内容を更に具体的に説明
する。 実施例1 110℃に保持された熱風循環型乾燥機で乾燥恒量に達
した平均粒子径が3μmの自己焼結性炭素質化合物微粒
子(大阪化成社製TGP3000をジェットミルで粉
砕)75gを深江パウテック社製ハイスピードミキサー
(LFS−GS−2J型)に投入し、アジテータ及びチ
ョッパー軸から乾燥窒素を吹き出して、アジテータ回転
数500rpm、チョッパー回転数平均1000rpm
で攪拌しつつ平均粒径が25μmのテイムカル社製人造
黒鉛(KS44)175gをスパチュラで5分間で投入
し、更に5分間攪拌を継続した。蓋の覗き窓から観察し
たところ粉体はなめらかに混合していた。
【0060】蔗糖5g、水75gからなる造粒用水溶液
をアジテータ回転数2000rpm、チョッパー回転数
500rpmで混合中の上記混合物に2分間で注入し、
3分間造粒を継続した。得られた造粒体を105℃の熱
風循環型乾燥機で乾燥し、室温に冷却した。網目0.4
25mmの篩で篩上を分離した。99%以上が篩下とし
て回収された。2軸600トン型プレス機に縦200.
0mm×横200.0mmの金型を設置し、上部押し型
面には幅1mm、深さ1mm、溝間隔2mmの溝を成形
体中央部分を縦断する形で5本設置した。篩下造粒体2
16gを投入し、ガス抜き操作後1トン/cm2 の成形
圧で成形し、厚み3.2mmの溝付き成形体を得た。
【0061】ステンレス容器に設置した平滑面を有する
厚み50mmの黒鉛板で成形体上下を挟み、周囲をコー
クスブリーズで覆い、上部はコークスブリーズにアマニ
油を混ぜた酸化防止層を設置した。マッフル炉に容器を
設置し蓋の上部からブリーズ層に導入されたアルミナパ
イプから5L/分の供給速度で窒素を供給しつつ毎分1
℃の昇温速度で1200℃まで加熱し2時間1200℃
に維持した後に炉冷した。得られた炭素化成形体は金型
寸法に比べて0.4%の線収縮率を与えた。金型によっ
て形成された溝はそのまま炭素化され、歪みや破壊は認
められなかった。平面部分から長さ100mm、幅10
mmの試験片を切削加工で切り出して、3点曲げ試験を
行い曲げ強さ2.5kgf/mm2 を得た。
【0062】平面部分から25mm角の試験片を切り出
し窒素を使って背圧1kg/cm2でガス透過率を求
め、3×10-5Ncc/分/cm2 を得た。また該試験
片を油化電子製ロレスタを用いて体積固有抵抗を測定
し、1.6mΩ・cmを得た。平面部分から10mm×
10mmの試験片を切り出して腐食電流を測定し、10
00分後に80μA/cm2 を得た。
【0063】
【発明の効果】本発明は、曲げ強さ、電気伝導度、熱伝
導度、ガス透過性、腐食電流等の固体高分子型及びりん
酸型燃料電池のセパレータ板に要求される諸特性を満た
す複雑な形状の炭素・黒鉛複合成形体を安価に提供する
ことを可能にするものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 4G032 AA04 AA12 AA13 BA04 GA03 GA06 GA12 5H026 AA04 BB00 BB01 BB02 BB03 BB04 BB08 CX07 EE05 EE06 HH01 HH05 HH08

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 炭素化時に自己焼結性を有する成分を含
    有する平均粒径が10μm以下の炭素質炭素化合物微粒
    子と天然黒鉛、人造黒鉛からなる群から選ばれた少なく
    とも1種類の平均粒径が10〜70μmの黒鉛質炭素微
    粒子を主たる構成成分とする微粒子を乾燥脱水した後に
    乾燥状態で撹拌混合して得られる均一混合粉体を水溶性
    且つ炭素質炭素化合物及び黒鉛質炭素に粘着性を有する
    化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種類の粒子
    相互結着用添加剤を含む水溶液もしくは水を加えて撹拌
    混合造粒して最大粒径が0.5mm以下の造粒体を得
    て、次いで水分を除去して得られる乾燥造粒体を一軸プ
    レス、二軸プレス、ロータリープレス、湿式静水圧プレ
    ス、乾式静水圧プレス等から選ばれた一つの成形機器で
    成形して得られる生成形体を非酸素雰囲気下で炭素化し
    て製造してなる炭素・黒鉛複合成形体。
  2. 【請求項2】 自己焼結性を有する成分を含有する炭素
    質炭素化合物微粒子のγ成分(キノリン可溶トルエン不
    溶成分)含有量が3〜30重量%である請求項1に記載
    の炭素・黒鉛複合成形体。
  3. 【請求項3】 主たる構成成分が、自己焼結性を有する
    成分を含有する炭素質炭素化合物微粒子を10〜50重
    量部、黒鉛質炭素微粒子を90〜50重量部含有する微
    粒子である請求項1に記載の炭素・黒鉛複合成形体。
  4. 【請求項4】 自己焼結性を有する成分を含有する炭素
    質炭素化合物微粒子の平均粒径が1〜7μmであり、黒
    鉛質炭素微粒子の平均粒径が15〜50μmである請求
    項1に記載の炭素・黒鉛複合成形体。
  5. 【請求項5】 粒子相互結着用添加剤が高分子凝集剤、
    ポリエチレングリコール、蔗糖、メチルセルロースから
    なる群から選ばれた少なくとも1種類の化合物である請
    求項1に記載の炭素・黒鉛複合成形体。
  6. 【請求項6】 非酸素雰囲気下での炭素化の最高温度が
    1100〜1800℃である請求項1に記載の炭素・黒
    鉛複合成形体。
  7. 【請求項7】 非酸素雰囲気下での炭素化が生成形体を
    ガス不透過性容器のコークスブリーズ中に埋設し容器上
    部をアマニ油含浸コークスブリーズで被覆した系で実施
    される請求項1又は6に記載の炭素・黒鉛複合成形体。
  8. 【請求項8】 炭素化時に自己焼結性を有する成分を含
    有する平均粒径が10μm以下の炭素質炭素化合物微粒
    子と天然黒鉛、人造黒鉛からなる群から選ばれた少なく
    とも1種類の平均粒径が10〜70μmの黒鉛質炭素微
    粒子を主たる構成成分とする微粒子を乾燥脱水した後に
    乾燥状態で撹拌混合して得られる均一混合粉体を水溶性
    且つ炭素質炭素化合物及び黒鉛質炭素に粘着性を有する
    化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種類の粒子
    相互結着用添加剤を含む水溶液もしくは水を加えて撹拌
    混合造粒して最大粒径が0.5mm以下の造粒体を得
    て、次いで水分を除去して得られる乾燥造粒体を一軸プ
    レス、二軸プレス、ロータリープレス、湿式静水圧プレ
    ス、乾式静水圧プレス等から選ばれた一つの成形機器で
    成形して得られる請求項1に記載の炭素・黒鉛複合成形
    体製造用生成形体。
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