JP2000290194A - 病原性細菌およびウイルス感染防御剤 - Google Patents

病原性細菌およびウイルス感染防御剤

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 病原性細菌およびウイルス感染防御剤、ある
いは病原性細菌およびウイルスに対する感染防御機能を
賦与した医薬品および飲食品を提供する。 【解決手段】 病原性細菌およびウイルス感染防御剤の
有効成分を鉄−ラクトフェリンとし、あるいは医薬品お
よび飲食品に鉄−ラクトフェリンを配合して病原性細菌
およびウイルスに対する感染防御機能を賦与する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄−ラクトフェリ
ンを有効成分とする病原性細菌およびウイルス感染防御
剤に関する。また、本発明は、病原性細菌およびウイル
スに対する感染防御機能を賦与した医薬品および飲食品
に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に病原性細菌のヒトへの感染は、標
的細胞、すなわち生体上皮の表層に存在する複合糖質の
糖鎖構造(レセプター)を認識して結合することにより
成立する。そして、この病原性細菌の生体への感染に対
する一般的な治療法として、抗生物質の使用がある。こ
の抗生物質は、増殖した病原性細菌を死滅させることに
より病気を治療しようとするもので、病原性細菌の感染
過程の最終段階で作用するものである。このように、抗
生物質による感染症の治療は、発病後の生体に対する治
療法としては非常に有効であるが、抗生物質の性格上、
様々な副作用、あるいはアレルギー症状を引き起こすな
ど問題も多い。
【0003】一般に、生体はこれらの病原性細菌による
感染に対し、その感染初期の段階において、防御機構を
備えている。例えば、消化管においては分泌型免疫グロ
ブリンAを主体とする免疫グロブリンによる生体防御機
構であり、これらの免疫グロブリンは病原性細菌の標的
細胞への付着を阻止することにより、生体を病原性細菌
による感染から守る。
【0004】ところで、一般にレセプターやレセプター
と類似した構造を持つ物質は、病原性細菌の細胞表層の
レセプター結合部位に特異的に結合し、病原性細菌の標
的細胞への結合を特異的に阻害することが期待されてい
る。この特異的な作用は、病原性細菌の感染を初期の段
階で阻止するという意味で前述の免疫グロブリンによる
生体防御機構に類似している。すなわち、このような病
原性細菌の受容体結合部位と特異的に結合する物質は、
病原性細菌による感染を未然に防ぎ、しかも作用が穏や
かで、副作用が少ない病原性細菌感染防御剤となり得
る。
【0005】一方、ウイルス感染症に関しては、現在ま
でに抗ウイルス剤に関する多くの研究がなされている。
しかし、ウイルスは、宿主細胞の増殖機能に依存して増
殖するという性質を有するため、薬剤による治療は困難
である。例えば、ウイルスの細胞への侵入を阻害するア
マンタジンがインフルエンザAに効果があるといわれて
いるが、治療効果が弱い上に、中枢神経毒性などの副作
用もあり、臨床薬としては殆ど利用されていない。現
在、我が国で使用が認可されている抗ウイルス剤として
は、ウイルス遺伝子の合成を阻害するアシクロビル(単
純ヘルペス、単純ヘルペス脳炎などに適用)、ビダラビ
ン(単純ヘルペス、単純ヘルペス脳炎などに適用)、点
眼剤用のイドクスウリジン(ヘルペス角膜炎に適用)、
そして、抗HIV剤としてアジドチミジン(AIDSに
適用)などがある。アジドチミジンについては、全身投
与でしばしば重篤な副作用が出現し、治療薬としてはま
だまだ問題を抱えている。
【0006】さらに、抗ウイルス剤として最近注目を集
めているものに、インターフェロンがある。インターフ
ェロンはウイルスの細胞内増殖を抑制する因子で、最近
では遺伝子組み換え技術により生産発売されているが、
高価であり、副作用も問題となっている。
【0007】これらの現状から、ウイルス性疾患への対
策として、ウイルス感染を予防するワクチン投与が最も
普及している。このワクチンには、ウイルスを何らかの
方法で弱毒化した生ワクチンやウイルスをホルマリン処
理などして作成した不活性化ワクチン、ウイルスの抗原
部分のみを精製したコンポーネントワクチンがある。こ
れらのワクチンにより、大部分のウイルス性疾患につい
ては予防が可能となっている。
【0008】しかし、最も代表的なウイルス性疾患の一
つであるインフルエンザを例にとった場合、ワクチンに
よる感染の予防は困難である。インフルエンザウイルス
はウイルスのエンベロープに抗原が存在し、この抗原を
ワクチンとして使用しているが、この抗原部分ではしば
しば変異を繰り返し、変異型のウイルスに対しては、旧
型のワクチンは何ら効果を示さないからである。また、
HIVのようにワクチンとして利用可能な抗原が不明な
ものや、臓器移植後の免疫抑制剤投与による免疫機能低
下時にしばしば発症するサイトメガロウイルス感染症な
どに対しては、ワクチンによりウイルス感染を防御する
ことは困難である。さらに、ワクチンによっては、その
ウイルス性疾患に罹患する危険性があり、ワクチンの接
種による副作用も考慮すべき問題である。
【0009】近年、ウイルス学研究の進展により、ウイ
ルスのヒトへの感染についても前述の病原性細菌による
感染の場合と同様に、標的細胞、すなわち生体上皮の表
層に存在する複合糖質の糖鎖構造などのウイルスレセプ
ターにウイルスが結合して、細胞内へウイルスが侵入す
ることが明らかになっている。例えば、HIVはTリン
パ球の表面に存在するCD4レセプターに結合する。こ
のため、CD4を大量に血中に投与することにより、A
IDS発症を防止することが可能になるといわれてい
る。また、インフルエンザウイルスは、やはり細胞表面
のシアル酸結合複合糖質分子をレセプターとして結合
し、ウイルス感染が成立するが、このレセプター分子、
もしくはレセプター分子構造を有する様な糖鎖構造を持
つものは、インフルエンザウイルスの細胞への結合を阻
害し、ウイルス感染を防止し、さらには、感染後の他の
細胞や組織への伝播を防御し得るものと考えられてい
る。
【0010】従来、病原性細菌やウイルスのレセプター
への結合を阻害して感染防御する効果を有する物質とし
て、κカゼインやそのプロテアーゼ分解物であるκカゼ
イングリコマクロペプチド(GMP)が知られている
(特開昭 63-284133号公報)。また、同様のメカニズム
でGMPが抗歯垢及び抗齲歯剤として有効であることが
知られている(特開昭 63-233911号公報)。さらに、山
川らは、インフルエンザウイルスによる赤血球凝集を阻
害する物質をヒト血球より単離し、この物質がシアル酸
を構成糖に持つ糖タンパク質であることを明らかにした
(山川他, 「生化学」, vol.31, pp.416-421, 1959) 。
【0011】ところで、乳中には感染防御機能を有する
タンパク質としてラクトフェリンが存在している。ラク
トフェリンの病原性細菌に対する作用は、その鉄キレー
ト力により病原性細菌の増殖に必要な鉄を奪い取り、そ
の結果、病原性細菌の増殖が抑制されるというものであ
る。しかしながら、ラクトフェリンによる病原性細菌の
増殖抑制効果は一時的なものであり、また、他の食品と
同時にラクトフェリンを摂取する場合、食品中の全ての
鉄分をキレートするために多量のラクトフェリンを摂取
する必要があるという問題がある。
【0012】なお、ラクトフェリンには、その鉄キレー
ト力に由来する機能とは全く別のメカニズム、すなわち
ラクトフェリンの分子中の糖鎖が病原性細菌の腸管細胞
への付着を阻止する機能が示唆されている。ラクトフェ
リンのウイルスに対する作用においては、病原性細菌に
対する作用と同様、ラクトフェリン分子中の糖鎖がウイ
ルスの細胞への付着を阻止する機能が示唆されており、
抗ウイルス剤として有効であることが開示されている
(特開平2-233619号公報)。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、従来よ
り、ラクトフェリンの持つ薬理作用について鋭意研究を
行ってきたところ、病原性細菌やウイルスの細胞への付
着を阻止する機能に関しては、市販されているような通
常のラクトフェリンと比較して、鉄−ラクトフェリンに
強い活性があることを見出した。そして、特に、ラクト
フェリン1g当たり15mg以上の炭酸および/または重炭酸
と10〜700mg の鉄とが結合した鉄−ラクトフェリンが、
病原性細菌やウィルスの細胞への付着を強く阻害するこ
とを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】したがって、本発明は、鉄−ラクトフェリ
ンを有効成分とする病原性細菌およびウイルス感染防御
剤を提供することを課題とする。また、本発明は、鉄−
ラクトフェリンを配合して、病原性細菌およびウイルス
に対する感染防御機能を賦与した医薬品および飲食品を
提供することを課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】ラクトフェリンは、通
常、1分子当たり鉄を2原子キレート結合する能力を有
している。本発明で使用する鉄−ラクトフェリンは、ラ
クトフェリンに特定の処理を行うことにより、ラクトフ
ェリン1分子当たり少なくとも3原子の鉄を安定に保持
できるようにしたものである。このような鉄−ラクトフ
ェリンは従来より知られている。例えば、ラクトフェリ
ン溶液に鉄塩を添加し、アルカリを加えて溶液のpHを高
めることにより得られる、鉄を安定に保持したラクトフ
ェリン粉末(特開平7- 17825号公報)、ラクトフェリン
のアミノ基に重炭酸イオンを介して鉄が結合した耐熱性
ラクトフェリン−鉄複合体(特開平6-239900号公報)、
あるいは炭酸、重炭酸およびラクトフェリンを含む溶液
に鉄を含有する溶液を混合して得られる炭酸または重炭
酸−鉄−ラクトフェリン複合体(特開平7-304798号公
報)などが知られている。
【0016】本発明で使用することができる鉄−ラクト
フェリンは、これらいずれの鉄−ラクトフェリンであっ
てもよい。鉄−ラクトフェリンは、鉄とラクトフェリン
とが結合した状態のものであって、鉄とラクトフェリン
とが結合しているか、あるいは他の物質を介して鉄とラ
クトフェリンとが結合しているものであって、いわゆ
る、鉄がイオン状態で存在していないものであればよ
い。特に、ラクトフェリン類に炭酸および/または重炭
酸と鉄とが結合した状態の鉄−ラクトフェリン結合体や
鉄−ラクトフェリン複合体を例示することができ、これ
らの鉄−ラクトフェリンを使用することが望ましい。こ
れらの鉄−ラクトフェリンは、耐熱性を有しているの
で、医薬品や飲食品に添加し、加工する際に加熱処理し
ても、感染防御機能の低下が起こり難いという特徴を有
している。また、これらの鉄−ラクトフェリンは、鉄の
収斂味や金属味などが全くしないという特徴を有してい
るので、風味上の問題も全くない。
【0017】本発明では、病原性細菌やウイルスに対す
る感染防御剤の有効成分として、あるいは病原性細菌や
ウイルスに対する感染防御機能を医薬品や飲食品に賦与
するために、鉄−ラクトフェリンを使用する。
【0018】なお、上述したような鉄−ラクトフェリン
を製造する際に使用することができるラクトフェリン類
としては、哺乳類の乳などの分泌液から分離して得られ
るラクトフェリンを例示することができるが、血液や臓
器などから分離されるトランスフェリンや卵から分離さ
れるオボトランスフェリンなども同様の特性を有してお
り、ラクトフェリン類として同様に使用することが可能
である。また、ラクトフェリン類は、完全に単離されて
いる必要はなく、他の成分が含まれているものであって
も構わない。さらに、遺伝子操作により、微生物、動物
細胞、トランスジェニック動物から生産されたラクトフ
ェリン類も、その安全性が保証されているものであれ
ば、使用することが可能である。そして、ラクトフェリ
ン類をタンパク質分解酵素で分解したものを使用するこ
ともできる。
【0019】また、上述したような鉄−ラクトフェリン
を製造する際に使用することができる鉄としては、硫酸
第一鉄、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、クエン酸鉄、クエ
ン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロ
リン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第
二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄などを例示することがで
きる。
【0020】
【発明の実施の形態】本発明の病原性細菌およびウイル
ス感染防御剤は、乳から簡単な処理により得られる、あ
るいは既に比較的安価に市販されているラクトフェリン
に、特定の処理を行うことにより得られる鉄−ラクトフ
ェリンを有効成分として使用する。
【0021】病原性細菌およびウイルス感染防御剤の剤
型は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散在、粉剤などにす
ればよく、経口的に投与することが望ましい。また、こ
れらの剤型は、従来から知られている通常の方法で製造
することができる。例えば、製剤の製造上許可される担
体や賦形剤などと混合して成型する。
【0022】また、本発明の病原性細菌およびウイルス
感染防御機能を賦与した医薬品および飲食品について
は、鉄−ラクトフェリンを前記したような剤型とし、医
薬品、特に経口剤に配合したり、あるいは鉄−ラクトフ
ェリンを牛乳、乳飲料、コーヒー牛乳、ジュース、ゼリ
ー、ビスケット、飴、パン、麺、ソーセージなどの飲食
品、さらには各種粉乳の他、乳児、幼児および低出生体
重児などを対象とする栄養組成物に配合したりする。
【0023】これらの医薬品および飲食品は、病原性細
菌やウイルスに対する感染防御機能を有しているので、
病原性細菌やウイルスに感染する疾病を予防し、あるい
は疾病を治療する用途に用いることができる。このよう
な疾病としては、大腸菌などの食中毒原因細菌類による
下痢、食中毒、ストレプトコッカス・ミュータンスなど
による齲蝕病、ヘリコバクター・ピロリ菌による胃潰瘍
や胃がん、インフルエンザウイルスによるインフルエン
ザ、サイトメガロウイルスによる妊婦などへの感染症が
知られている。
【0024】本発明において、病原性細菌やウイルスに
対する感染防御機能を発揮させるためには、成人の場
合、鉄−ラクトフェリンを一日当たり 0.1〜5,000mg 摂
取できるよう配合量などを調整すればよい。
【0025】次に実施例及び試験例を示し、本発明をさ
らに詳しく説明する。
【実施例1】水 10 l に市販のラクトフェリン (DMV
社製) 90g と塩化第二鉄 52gを溶解し、撹拌機で撹拌し
ながら重炭酸ナトリウム5gを添加して鉄−ラクトフェリ
ンを含む溶液を調製した。この溶液を分子量 5,000カッ
トの限外濾過膜で脱塩および濃縮した後、水を加えて容
量 10 l の溶液とした。なお、この鉄−ラクトフェリン
を含む溶液について、誘導結合プラズマ発光分光分析器
(ICP) で測定したところ、溶液中に含まれる鉄量は
102mg/100mlであった。次に、この溶液を凍結乾燥して
鉄−ラクトフェリン粉末100gを得た。なお、この鉄−ラ
クトフェリン粉末は、鉄を多く含んでいるにも関わら
ず、無味、無臭であった。
【0026】
【実施例2】水 2 lに重炭酸ナトリウム400gを添加し、
撹拌機で撹拌して調製した重炭酸ナトリウム過飽和溶液
中に、水 8 lに市販ラクトフェリン (DMV社製) 90g
と塩化第二鉄 52gを溶解した溶液を撹拌しながら添加
し、鉄−ラクトフェリン複合体を含む溶液を調製した。
この溶液を分子量 5,000カットの限外濾過膜で脱塩およ
び濃縮した後、水を加えて容量 10 l の溶液とした。な
お、この鉄−ラクトフェリン複合体を含む溶液につい
て、IPCで測定したところ、溶液中に含まれる鉄量は
101mg/100mlであった。次に、この溶液は凍結乾燥して
鉄−ラクトフェリン複合体粉末100gを得た。なお、この
鉄−ラクトフェリン複合体粉末は、鉄を多く含んでいる
にも関わらず、無味、無臭であった。
【0027】
【試験例1】病原性大腸菌のヒト小腸細胞(JTC-17)へ
の付着に対する阻止効果 実施例1で得られた鉄−ラクトフェリンおよび市販のラ
クトフェリンを試料とし、病原性大腸菌に対する感染防
御機能を調べた。この試験は3連で次のように行った。
すなわち、東京医科大学より分譲を受けたヒト小腸細胞
(JTC-17)を、5%牛胎児血清を含むダルベッコ変法イ
ーグル培地(5%FCS/DMEM)で、 25cm2底面積
培養フラスコに、37℃、二酸化炭素濃度5%で培養し
た。細胞がほぼコンフルエントの状態に増殖したら、常
法によりトリプシン−EDTAで細胞を剥がし取り、遠
心操作により細胞を集めた。そして、上清を吸い出し、
新たに5%FCS/DMEM 8mlに細胞を懸濁した。こ
の細胞懸濁液各1mlを10ml容ポリスチレンチューブ(20
95、ファルコン社製)に入れ、37℃で3日間培養した。
【0028】都立衛生研究所より分譲を受けた病原性大
腸菌H10407株および Pb176株をそれぞれ1白金耳取り、
普通ブイヨン培地4mlに、37℃で一夜培養した後、3,00
0rpm、10分間遠心分離することにより集菌し、これをpH
8に調整したPBSで3回洗浄した。その後、大腸菌を
pH8に調整したPBS 1mlに懸濁し、FITC 1mgを加
えて十分溶解し、4℃で3時間ゆっくり撹拌しながら反
応させ、大腸菌をFITCラベルした。ラベルした大腸
菌は、PBSで3回洗浄した後、PBS 3mlに懸濁し
た。このようにして調製し、FITCでラベルした大腸
菌懸濁液 400μlに、目的の試料(0.1%)PBS溶液 20
0μl を混合し、37℃で1時間インキュベートした。
【0029】一方、3日間の培養を終えたヒト小腸細胞
(JTC-17)を1,000rpmで5分間遠心分離して上清の培地
を除き、さらにPBSで3回洗浄し、これに上述の大腸
菌と試料とを混合してインキュベートした溶液 600μl
を加え、37℃で30分間インキュベートした。インキュベ
ート終了後、750rpmで5分間遠心分離し、細胞だけを沈
澱させ、細胞に付着せずに上清に残った大腸菌を吸い出
した。さらに、PBSで細胞を2回洗浄し、PBSで洗
浄した細胞に200Uトリプシン/PBS 900μlを加え、
激しく撹拌した。これに 0.1%SDS 100μl 、脱イオ
ン水1mlを加えて激しく撹拌し、30分間静置することに
より細胞を溶解した。
【0030】そして、蛍光分光光度計(日立フルオレッ
センススペクトロメーターF-3000)を用い、励起波長 5
20nmおよび蛍光波長 520nmでこの溶液の相対蛍光強度を
測定し、蛍光ラベルした大腸菌のヒト小腸細胞(JTC-1
7)への付着を評価した。その結果を表1に示す。な
お、試料を添加していない時の相対蛍光強度(ブラン
ク)を付着率 100%、蛍光ラベルした大腸菌のポリスチ
レンチューブへの非特異的な吸着(ポリエチレンチュー
ブ内に検体と同じ条件で測定した相対蛍光強度)を付着
率0%とし、各試料を添加した時の付着率を求めた。
【0031】
【表1】 ───────────────────────────── H10407株 Pb176株 ───────────────────────────── 市販のラクトフェリン 73 82 実施例1の鉄−ラクトフェリン 12 14 ─────────────────────────────
【0032】これによると、市販のラクトフェリンに比
べて、実施例1の鉄−ラクトフェリンが、病原性大腸菌
のヒト小腸細胞(JTC-17)への付着を強く阻止すること
が判る。
【0033】
【試験例2】齲歯原因菌のポリスチレンチューブへの付
着に対する阻止効果 実施例1で得られた鉄−ラクトフェリンおよび市販のラ
クトフェリンを試料として、ストレプトコッカス・ミュ
ータンスに対する感染防御機能を調べた。この試験は2
連で次のように行った。すなわち、3種のストレプトコ
ッカス・ミュータンス (ATCC-27670, ATCC-25175, ATCC
-27351) を1白金耳取り、ブレインハートフージョン
(BHI)培地4mlで一夜培養した後、3,000rpm、10分
間遠心分離することにより集菌し、上清の培地を吸い出
した。さらに、これをPBSで3回洗浄し、この菌体を
OD 650= 0.8となるようPBSに懸濁した。そして、菌
体懸濁液と試料溶液(0.1%) を当量混合し、10ml容量の
ポリスチレンチューブ(2095、ファルコン社製)に入
れ、よく撹拌し、37℃で3時間インキュベートした。イ
ンキュベート終了後、OD 650を測定し、次式から付着率
を求めた。その結果を表2に示す。 付着率(%)=〔{ 0.4− (試料のOD 650の値) }/
0.4〕× 100
【0034】
【表2】 ──────────────────────────────────── ATCC-27670 ATCC-25175 ATCC-27351 ──────────────────────────────────── 市販のラクトフェリン 71 78 81 実施例1の鉄−ラクトフェリン 31 29 36 ────────────────────────────────────
【0035】これによると、市販のラクトフェリンに比
べて、実施例1の鉄−ラクトフェリンが、齲歯原因菌の
ポリスチレンチューブへの付着を強く阻止することが判
る。
【0036】
【試験例3】インフルエンザウイルスに対する凝集反応
阻止(HI)活性 実施例1で得られた鉄−ラクトフェリンおよび市販のラ
クトフェリンを試料として、インフルエンザウイルスに
対する感染防御機能を調べた。この試験は次のように行
った。すなわち、インフルエンザウイルスのヒヨコ安定
化赤血球(武田薬品工業社製)およびヒト赤血球O型に
対するHI活性を測定した。HI活性は、前述した山川
らの方法 (生化学, vol.31, pp.416-421) に準じて測定
した。インフルエンザウイルスは、デンカ生研より入手
した不活化インフルエンザウイルスのA/山形/120/86(H1
N1) 、A/新潟/102/81/(H3N2)、A/四川、A/福岡/C29/85
(H2N2) 、B/長崎/1/87 、B/シンガポール/222/79 及び
静岡薬科大学より入手した不活化されていないインフル
エンザウイルスA/PR/8/34(H1N1) を用いた。ヒヨコ安定
化赤血球に対するHI活性の測定結果を表3に、ヒト赤
血球O型に対するHI活性の測定結果を表4にそれぞれ
示す。
【0037】
【表3】 ──────────────────────────────────── 市販のラクトフェリン 実施例1の鉄−ラクトフェリン ──────────────────────────────────── 山形 N.D N.D 新潟 0.25 0.063 四川 0.13 0.063 福岡 0.13 0.016 長崎 0.13 0.016 シンガポール 0.5 0.016 PR 0.5 0.063 ────────────────────────────────────
【0038】
【表4】 ──────────────────────────────────── 市販のラクトフェリン 実施例1の鉄−ラクトフェリン ──────────────────────────────────── 山形 0.25 0.063 新潟 0.13 0.063 四川 0.13 0.063 福岡 0.13 0.031 長崎 0.5 0.13 シンガポール 0.5 0.063 PR 4 0.5 ────────────────────────────────────
【0039】これによると、市販のラクトフェリンに比
べて、実施例1の鉄−ラクトフェリンが、強いHI活性
を示すことが判る。
【0040】
【試験例4】インフルエンザウイルスに対する感染防御
機能 実施例1で得られた鉄−ラクトフェリンおよび市販のラ
クトフェリンを試料として、静岡薬科大学より入手した
不活化されていないインフルエンザウイルスA/PR/8/34
(H1N1) およびA/愛知/2/68(H3N2) を段階的に希釈し、
5個のニワトリ10日卵に 0.1mlずつ尿液喰内腔内に接種
し、3日後、個々の卵の尿液50μl を採り、これを 0.5
%ヒヨコ安定化赤血球と混合、撹拌し、赤血球凝集反応
により感染率を決定した。 100%の感染率を示した希釈
倍率のウイルス希釈液 0.1mlに市販のラクトフェリンま
たは鉄−ラクトフェリンをそれぞれ 0.5mg溶解し、室温
で30分間インキュベートした後、ニワトリ10日卵に 0.1
mlずつ尿液喰内腔内に接種した。3日後、個々の卵の尿
液50μl を採り、赤血球凝集反応により感染率を決定し
た。1群5個の卵を使用し、各群の感染率を得た。その
結果を表5に示す。
【0041】
【表5】 ───────────────────────────────── 市販のラクトフェリン 実施例1の鉄−ラクトフェリン ───────────────────────────────── PR 60 20 愛知 40 0 ─────────────────────────────────
【0042】これによると、市販のラクトフェリンに比
べて、実施例1の鉄−ラクトフェリンが、インフルエン
ザウイルスに対する強い感染防御機能を示すことが判
る。
【0043】
【試験例5】サイトメガロウイルスに対する感染防御機
能 実施例1で得られた鉄−ラクトフェリンおよび市販のラ
クトフェリンを試料として、サイトメガロウイルス(C
MV)に対する感染防御機能を調べた。この試験は次の
ように行った。すなわち、ラクトフェリンまたは鉄−ラ
クトフェリンを2%血清添加MEM培地に5mg/mlとなる
ように溶解し、0.45μm のフィルターで濾過滅菌し、ス
トック溶液を必要に応じて2%血清添加MEM培地によ
り希釈して用いた。
【0044】ヒトCMV(Towne株) をラクトフェリンま
たは鉄−ラクトフェリン含有培養液(0.1mg/ml)で1時間
インキュベート後、ヒト胎児繊維芽細胞(HEL細胞)
に感染させた。さらに、ラクトフェリンを含まない培養
液をコントロールとした。24時間培養後、ヒトCMV陽
性血清で蛍光染色し、細胞へのヒトCMVの吸着能力を
測定した。その結果を表6に示す。
【0045】
【表6】 ─────────────────────────────── 蛍光陽性細胞数(平均値) ─────────────────────────────── 市販のラクトフェリン 11 実施例1の鉄−ラクトフェリン 0 コントロール 19 ───────────────────────────────
【0046】これによると、市販のラクトフェリンに比
べて、実施例1の鉄−ラクトフェリンが、ヒトCMVに
対する強い感染防御機能をを示すことが判る。
【0047】
【試験例6】ヘリコバクター・ピロリ菌に対する感染防
御機能 実施例1で得られた鉄−ラクトフェリンおよび市販のラ
クトフェリンを試料として、ヘリコバクター・ピロリ菌
に対する感染防御機能を調べた。この試験は次のように
行った。すなわち、M−BHMピロリー寒天培地(日研
生物医学研究所製)で生育したヘリコバクター・ピロリ
菌 (NCTC11637)をブルセラ液体培地 (Brucella Broth、
Difco Lab.) に播種し、ガスパックシステム(BBLCampy
Pak, Beckton Dickinson co.)により、微好気条件で一
夜振盪培養した。
【0048】胃ガン細胞(Kato III)は、5%牛胎児血清
を含むダルベッコ変法イーグル培地(5%FCS/DM
EM):ハムF−10(1:1)混合培地で、37℃、二
酸化炭素濃度5%で培養した。細胞が増殖したら培養液
1mlを遠心分離して胃ガン細胞を集めた。上清を吸い出
し、新たにPBS 1mlに細胞を懸濁した(106 cell/ml)
。この胃ガン細胞懸濁液各1mlに、上述のヘリコバク
ター・ピロリ菌と試料とを混合してインキュベートした
溶液1mlを加え、37℃で30分間インキュベートした。イ
ンキュベート後、ショ糖溶液(15%)14mlを加え、撹拌
後、遠心分離した。上清を吸引除去後、抗ヘリコバクタ
ー・ピロリウサギ抗体 100μl を加え、4℃で20分間イ
ンキュベートした。その後、PBS 15ml で洗浄を2回
繰り返し、それにFITCラベルした抗ウサギIgGヤ
ギ抗血清を加え、4℃で20分インキュベートした後、P
BS 15ml で洗浄を2回繰り返した。PBSで洗浄した
細胞に200Uトリプシン/PBS 900μl を加え、激しく
撹拌した。これに 0.1%SDS 100μl 、1mlの脱イオ
ン水を加えて激しく撹拌し、30分間静置することにより
細胞を溶解した。
【0049】そして、蛍光分光光度計(日立フルオレッ
センススペクトロメーターF-3000)を用い、励起波長 5
20nmおよび蛍光波長 520nmでこの溶液の相対蛍光強度を
測定し、 Kato III 細胞への付着を評価した。その結果
を表7に示す。なお、試料を添加していない時の相対蛍
光強度(ブランク)を付着率 100%、ピロリ菌および試
料を加えずに Kato III 細胞のみで一連の抗体反応を行
った細胞の相対蛍光強度を付着率0%とし、各試料を添
加した時の付着率を求めた。
【0050】
【表7】 ───────────────────────── 付着率(%) ───────────────────────── 市販のラクトフェリン 49 実施例1の鉄−ラクトフェリン 7 ─────────────────────────
【0051】これによると、市販のラクトフェリンに比
べて、実施例1の鉄−ラクトフェリンが、ヘリコバクタ
ー・ピロリ菌の胃ガン細胞(Kato III)への付着を強く阻
止することが判る。
【0052】
【実施例3】表8に示した配合で原料を混合した後、打
錠機で打錠して、病原性大腸菌およびウイルス感染防御
機能を賦与したタブレットを製造した。
【0053】
【表8】 ────────────────────────── 実施例2の鉄−ラクトフェリン 10.0(重量%) 還元麦芽糖 52.0 砂糖 15.0 クエン酸 18.7 香料 1.0 滑沢剤 1.3 ──────────────────────────
【0054】
【実施例4】表9に示した配合で原料を混合し、容器に
充填した後、加熱殺菌して、病原性細菌およびウイルス
感染防御機能を賦与した飲料を製造した。
【0055】
【表9】 ───────────────────────────── 実施例2の鉄−ラクトフェリン結合体 2.0(重量%) 果糖ブドウ糖液糖 8.0 クエン酸 0.6 リンゴ果汁 10.0 水 79.4 ─────────────────────────────
【0056】
【発明の効果】本発明の病原性細菌およびウイルス感染
防御剤、あるいは病原性細菌およびウイルス感染防御機
能を賦与した医薬品および飲食品は、病原性細菌および
ウイルスに対して、優れた感染防御機能を示す。しか
も、本発明で使用する鉄−ラクトフェリンは、比較的安
価に大量調製が可能であり、かつ極めて安全性が高いと
いう特徴を有している。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ラクトフェリン類1分子当たり、少なく
    とも3原子の鉄を保持した鉄−ラクトフェリンを有効成
    分とする病原性細菌またはウイルス感染防御剤。
  2. 【請求項2】 鉄−ラクトフェリンが、ラクトフェリン
    類に炭酸および/または重炭酸と鉄とが結合した鉄−ラ
    クトフェリン結合体および/または鉄−ラクトフェリン
    複合体である請求項1記載の感染防御剤。
  3. 【請求項3】 鉄−ラクトフェリンが、ラクトフェリン
    類1g当たり、15mg以上の炭酸および/または重炭酸と、
    10〜700mg の鉄とが結合した鉄−ラクトフェリン結合体
    および/または鉄−ラクトフェリン複合体である請求項
    1記載の感染防御剤。
  4. 【請求項4】 鉄−ラクトフェリンを配合して病原性細
    菌またはウイルス感染防御機能を賦与した医薬品または
    飲食品。
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