JP2000128017A - Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材 - Google Patents

Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 高強度で圧壊割れの起こらない軸圧壊特性に
優れるAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材を
得る。 【解決手段】 結晶粒内の(100)面の[100]及
び[010]方向のMg Si析出物の大きさの平均値
が20nm以上であり、かつ、(100)面の[00
1]方向のMgSi析出物の分布密度が100個/μ
以上であり、さらに、粒界上の析出物の大きさが1
000nm以下であるAl−Mg−Si系アルミニウム
合金押出形材。好ましい組成は、Mg:0.2〜1.6
%、Si:0.2〜1.8%、必要に応じてCu:1.
0%以下を含み、さらに、Mn:0.05〜0.5%、
あるいはTi:0.01〜0.1%、Cr:0.01〜
0.2%、Zr:0.01〜0.2%のいずれか1種又
は2種以上、を必要に応じて含む。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はアルミニウム合金押
出形材に関し、より詳しくは、形材の押出軸方向に圧縮
の衝撃荷重あるいは圧縮の静的付加を受けたとき、その
衝撃荷重及び静的負荷を吸収する作用をもち、特に自動
車用構造部材、例えばサイドメンバーやバンパーステイ
等に好適に適用されるアルミニウム合金押出形材に関す
る。
【0002】
【従来の技術】近年、環境保護の観点から、低燃費車、
電気自動車の開発に注目が集まっているが、その達成の
ためには車体の軽量化は必須である。一方、安全基準へ
の対応や車体性能の向上のため車体重量は増加する傾向
にある。このような状況の中、アルミニウム合金押出材
は、鉄に比べその比重が約1/3であること、優れたエ
ネルギー吸収性を有すること、さらには断面形状の自由
度が高いことから、自動車のバンパー補強材、フレーム
等に採用され、自動車部材における需要が伸びている。
自動車構造部材の中でも、特に自動車フレーム用には、
衝突時の衝撃エネルギー吸収のために、高い強度と蛇腹
変形時に割れの発生しない耐圧壊割れ性、すなわち優れ
た軸圧壊特性が要求されている。このような軸圧壊特性
が要求されるサイドメンバーやバンパーステイなどの自
動車フレーム用の素材として、例えば特開平9−256
096号公報では、高強度アルミニウム合金の中では比
較的耐食性に優れ、リサイクルの面でも他の系のアルミ
ニウム合金より優れているAl−Mg−Si系アルミニ
ウム合金の押出形材の適用が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、Al−
Mg−Si系アルミニウム合金は、合金成分の添加や熱
処理により強度を上げた場合、強度が高くなるに従い耐
圧壊割れ性が劣る傾向にあった。このため、高強度で圧
壊割れの起こらない軸圧壊特性に優れるアルミニウム合
金の開発が強く望まれていた。本発明は、かかる問題点
に鑑みてなされたものであり、軸圧壊特性(高強度と優
れた耐圧壊割れ性)に優れる自動車構造部材に好適なA
l−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材を提供する
ことを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、Al−M
g−Si系アルミニウム合金について、軸圧壊特性に優
れる押出形材を開発すべく種々の実験研究を行い、その
結果、合金の結晶粒内を観察したときの(100)面に
おける特定方位のMgSi析出物の大きさ及び分布状
態と、結晶粒界上のMgSi等の析出物の大きさがあ
る特定範囲にあるとき、優れた軸圧壊特性が得られるこ
とを見いだした。本発明はこの知見に基づいてなされた
ものである。すなわち、本発明に係るAl−Mg−Si
系アルミニウム合金押出形材は、結晶粒内の(100)
面の[100]及び[010]方向のMgSi析出物
の大きさの平均値が20nm以上であり、かつ、(10
0)面の[001]方向のMgSi析出物の分布密度
が100個/μm以上であり、さらに、粒界上のMg
Si等の析出物の大きさが1000nm以下であるこ
とを特徴とする。このAl−Mg−Si系アルミニウム
合金押出形材は軸圧壊特性に優れるので、クラッシャブ
ル部材(軸方向に圧縮の衝撃荷重あるいは圧縮の静的付
加を受けたとき、軸方向に潰れてその衝撃荷重及び静的
負荷を吸収する作用をもつ部材)として用いるのに好適
である。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明に係るアルミニウム合金押
出形材の、粒内析出物の大きさ及び分布密度と粒界析出
物の大きさの範囲限定理由は次の通りである。 (粒内析出物の大きさ)粒内のMgSi析出物は、人
工時効処理時に<100>方向にロッド状に析出し、転
位の運動を妨害することにより強度を上昇させる。結晶
粒内の(100)面の[100]及び[010]方向の
析出物の大きさの平均値が20nmに満たない場合、圧
縮変形時、転位が析出粒子をせん断する。この場合、そ
のすべり面((111)面)上では後続転位は極めて容
易に運動できるので、直線的な粗いすべり帯組織が形成
される。このため、粒界に応力集中を起こし粒界破断す
るため耐圧壊割れ性に劣る。この析出物の大きさは平均
値で30nm以上であるのがより望ましい。ただし、析
出物が大きくなりすぎると強度を低下させるため、平均
値が1000nmを超えないことが望ましい。 (分布密度)MgSi析出物の分布密度は、析出物の
大きさと同様に強度に影響を及ぼす。結晶粒内の(10
0)面の[001]方向の析出物の分布密度が100個
/μm以下の場合、強度が低く、圧縮変形時のエネル
ギー吸収量が低くなる。従って、分布密度は100個/
μm以上とする。この分布密度は、より高い強度を得
るという意味で400個/μm以上であることが望ま
しい。ただし、分布密度が大きくなりすぎると圧壊割れ
が起きやすくなるため、2000個/μm以下とする
のが望ましい。なお、上記のMgSi析出物の大きさ
及び分布密度は後述する測定方法で測定するものとす
る。 (粒界析出物)粒界上のMgSi析出物、Si単体等
は押し出し後又は溶体化処理後の冷却中に生成し、破断
形態に影響を及ぼす。粒界析出物の大きさが1000n
mを越えると、析出物が割れ起点となって粒界破断し、
耐圧壊割れ性に劣る。望ましくは500nm以下であ
る。
【0006】また、本発明に係るAl−Mg−Si系ア
ルミニウム合金押出形材において、結晶組織を繊維状組
織(ファイバー組織)とするのが望ましい。ここで、フ
ァイバー組織とは押出材にみられる熱間加工組織で、押
出方向に長く伸ばされた結晶粒組織のことである。な
お、材料が変形するときの材料内の歪は転位の動きによ
って導かれるが、この転位は結晶粒界等の金属結晶の並
びが不規則な部分において消失するため、結晶粒界等の
金属結晶の並びが不規則な部分は転位による格子のずれ
が蓄積し歪が集中することになる。従って、材料内での
転位の分布すなわち歪みの分布は結晶粒径が細かい方
が、材料全体の中で均一になりやすい。そして、圧壊時
に割れの発生を抑制するためには、変形歪みを材料内で
均等にさせる必要がある。再結晶を抑制し、ファイバー
組織、すなわち粒界を細かな状態に保持することによっ
て変形歪みを材料内に均等に分布させることができ、高
強度とともに耐圧壊割れ性を向上させることができる。
【0007】本発明に係るAl−Mg−Si系合金は、
Mg、Siを主成分とする析出硬化型合金である。好ま
しい組成として、Mg:0.2〜1.6%、Si:0.
2〜1.8%、必要に応じてCu:1.0%以下を含
み、さらに、Mn:0.05〜0.5%、あるいはT
i:0.01〜0.1%、Cr:0.01〜0.2%、
Zr:0.05〜0.2%のいずれか1種又は2種以
上、を必要に応じて含み、残部Al及び不純物からなる
組成を挙げることができる。なお、不純物としてFeは
0.7%以下、その他の不純物は0.05%以下、合計
で0.15%以下であれば、この合金の特性に影響を及
ぼすことはない。各成分の限定理由は次の通りである。
【0008】(Mg、Si)MgとSiはMgSi析
出物を形成し、合金に強度を付与する元素である。M
g:0.2%未満、Si:0.2%未満では、軸方向に
衝撃荷重や静的負荷が加わる構造部材又はエネルギー吸
収部材として必要な強度が得られない。一方、Mg:
1.6%超、Si:1.8%超では、押出形材の変形能
が低下して二次加工が難しくなり、また、押出軸方向の
変形により圧壊割れが生じやすくなる。従って、Mg:
0.2〜1.6%、Si:0.2〜1.8%とする。特
に好ましい範囲は、それぞれ0.4〜0.8%、0.7
〜1.1%である。 (Cu)Cuはその添加量に応じて合金のマトリックス
強度を向上させる作用があり、適宜添加される。この作
用を得るには0.1%以上添加するのが好ましい。しか
し、添加量が1%を超えると、耐食性、耐応力腐食割れ
性及び溶接性が低下し、また、押出軸方向の変形による
圧壊割れが生じやすくなる。従って、Cuを添加する場
合は、1.0%を上限とするのが望ましい。添加する場
合の特に望ましい範囲は0.45〜0.55%である。
【0009】(Mn)Mnは合金組織の再結晶化を抑制
し組織の微細化に効果があるため、適宜添加される。ま
た、この性質から押出形材のファイバー組織を安定化す
る働きがある。これらの効果は0.05%以上の添加で
顕在化してくるが、0.5%を超えると熱処理時のMg
の拡散を抑制し、熱処理性を劣化させるとともに、粗大
な化合物を生成し圧壊割れ性の悪化の原因となる。その
ため、添加量は0.05〜0.5%とするのが望まし
い。 (Ti、Cr、Zr)Tiは溶解鋳造時に核生成し鋳造
組織を微細にする作用があり、適宜添加される。その効
果は0.01%以上の添加で顕著となり、0.1%を超
えると粗大な化合物を生成し圧壊割れ性の悪化の原因と
なる。そのため、添加量は0.01〜0.1%とするの
が望ましい。Crは粒界のピン止め効果があり、押出形
材のファイバー組織を安定化する働きがあることから、
適宜添加される。その効果は0.01%以上の添加で顕
在化してくるが、0.2%を超えて添加した場合、押出
加工時の初期圧力を著しく高めてしまうため実用的でな
く、その添加量は0.01〜0.2%が好適である。Z
rはCrと同様粒界のピン止め効果があり、押出形材の
ファイバー組織を安定化する働きがあることから、適宜
添加される。その効果は0.01%以上の添加で顕在化
してくるが、0.2%を超えて添加してもファイバー組
織を安定化する効果がそれ以上上がらないため、その添
加量は0.01〜0.2%が好適である。
【0010】上記のAl−Mg−Si系アルミニウム合
金を用いて、本発明の押出形材を製造するには、常法に
則り溶解鋳造により鋳塊にした後、均質化処理し、所望
の断面形状に熱間押出直後に急冷(プレス焼入れ)する
か、熱間押出後溶体化焼入れを行う。熱間押出−プレス
焼入れは、押出加工の加工温度を利用して溶体化を兼ね
るもので、押出温度は溶体化温度とすることが重要であ
る。このときファイバー組織を得るには、押出温度を適
正温度に設定し、押出後のファイバー組織が再結晶して
粗大な再結晶粒へと変化しないようにし、あるいは熱間
押出後溶体化焼入れする場合も、熱間押出後又は溶体化
の過程でファイバー組織が再結晶して粗大な再結晶粒へ
と変化しないようにすればよい。そして、粒界析出物の
粗大化を防止し、その大きさを前記の範囲内にとどめる
ためには、溶体化後(前者の場合は押出後)、直ちに急
冷する必要がある。続いて時効処理を行い、粒内にMg
Siを析出させる。
【0011】なお、本発明に係るAl−Mg−Si系ア
ルミニウム合金押出形材を、特にサイドメンバーやバン
パーステイ等の自動車用構造部材として用いる場合に
は、高いエネルギー吸収量を得るため、時効処理後にお
いて200N/mm以上の引張強度、150N/mm
以上の耐力を有することが望ましい。
【0012】
【実施例】以下、本発明の実施例について、比較例と比
較して説明する。Mg及びSiを主要添加元素とする数
種のアルミニウム合金を通常の方法により溶製し、直径
155mmの鋳塊を得た。次に、これらの鋳塊に対して
550℃×8hrの均質化処理を施した後、押出温度が
500℃、押出速度が5m/分の条件で各ビレットを押
出加工し、直ちに水冷(平均冷却速度約12000℃/
min)又は空冷(同じく約190℃/min)し、長
片が60mm、短片が40mm、肉厚が2mmの角パイ
プを得た。その断面を図1に示す。次いで、これらの角
パイプに対して、人工時効処理を施し供試材とした。各
供試材の合金組成を表1に、その処理条件を表2に示
す。
【0013】
【表1】
【0014】
【表2】
【0015】これらの供試材からJIS5号試験片を採
取し、この試験片を用いて引張強さσ、耐力
σ0.2、破断伸びδをJISZ2241に規定する金
属材料引張試験に準じて測定した。また、各供試材(長
さ200mm)について圧壊試験を行った。図2は圧壊
試験方法を示す模式図である。万能試験機2により供試
材1の軸方向に荷重を加えた。そして、その試験結果に
基づいて変位−荷重線図を作成し、この変位−荷重線図
から変位量100mmまでのエネルギー吸収量を求め
た。また、圧壊試験により発生した割れの状態で、割れ
特性を評価した。ただし、割れが発生しなかったものを
○、割れが発生したものを×と評価した。さらに、供試
材から試料を採取し、透過型電子顕微鏡を用い、(10
0)面を観察面とし、倍率200000倍で、[10
0]方向及び[010]方向に析出した各MgSi析
出物のうち、当該方向の長さが5nm以上の析出物の
み、その長さを測定した。同じ観察面で、[001]方
向に析出した直径1nm以上のMgSi析出物の個数
を測定し、分布密度を求めた。それぞれの測定は、同一
の供試材において4視野実施し(合計観察面積0.16
μm)、その平均値を求めた。また、同一供試材を用
い、粒界上のMgSi、単体Siなどの析出物の大き
さ(最大値)を求めた。以上の結果を表3に示す。ま
た、サイドメンバー等の自動車用構造部材の材料として
の適性を総合評価し、その結果も表3に併せて示す。た
だし、サイドメンバー等の自動車構造部材として適して
いる場合を○、適していない場合を×で示した。
【0016】
【表3】
【0017】表3から明らかなように、本発明例に該当
する供試材No.1〜4はいずれも軸圧壊特性(エネル
ギー吸収量及び割れ性)が良好であった。一方、No.
4〜6はいずれも軸圧壊特性が満足できるものではなか
った。
【0018】
【発明の効果】本発明によれば、粒内析出物の大きさ、
分布密度及び粒界析出物の大きさを所定の範囲に規制し
たことにより、軸圧壊特性が極めて優れ、サイドメンバ
ー等の自動車構造用部材の材料として好適なアルミニウ
ム合金押出形材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例にて製造した中空形材の断面図であ
る。
【図2】 圧壊試験方法を示す模式図である。
【符号の説明】
1 供試材 2 万能試験機

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 結晶粒内の(100)面の[100]及
    び[010]方向のMgSi析出物の大きさの平均値
    が20nm以上であり、かつ、(100)面の[00
    1]方向のMgSi析出物の分布密度が100個/μ
    以上であり、さらに、粒界上の析出物の大きさが1
    000nm以下であることを特徴とするAl−Mg−S
    i系アルミニウム合金押出形材。
  2. 【請求項2】 結晶粒内の(100)面の[100]及
    び[010]方向のMgSi析出物の大きさの平均値
    が20nm以上であり、かつ、(100)面の[00
    1]方向のMgSi析出物の分布密度が100個/μ
    以上であり、さらに、粒界上の析出物の大きさが1
    000nm以下であることを特徴とするクラッシャブル
    部材用Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材。
  3. 【請求項3】 Mg:0.2〜1.6%(wt%、以下
    同じ)、Si:0.2〜1.8%を含むAl−Mg−S
    i系アルミニウム合金からなることを特徴とする請求項
    1又は2に記載されたAl−Mg−Si系アルミニウム
    合金押出形材。
  4. 【請求項4】 上記Al−Mg−Si系アルミニウム合
    金が、Cu:1.0%以下を含むことを特徴とする請求
    項3に記載されたAl−Mg−Si系アルミニウム合金
    押出形材。
  5. 【請求項5】 上記Al−Mg−Si系アルミニウム合
    金が、Mn:0.05〜0.5%を含むことを特徴とす
    る請求項4に記載されたAl−Mg−Si系アルミニウ
    ム合金押出形材。
  6. 【請求項6】 上記Al−Mg−Si系アルミニウム合
    金が、Ti:0.01〜0.1%、Cr:0.01〜
    0.2%、Zr:0.01〜0.2%のいずれか1種又
    は2種以上を含むことを特徴とする請求項4又は5に記
    載されたAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形
    材。
  7. 【請求項7】 結晶組織が繊維状組織であることを特徴
    とする請求項1〜6のいずれかに記載されたAl−Mg
    −Si系アルミニウム合金押出形材。
  8. 【請求項8】 引張強度が200N/mm以上、耐力
    が150N/mm以上であることを特徴とする請求項
    1〜7に記載されたAl−Mg−Si系アルミニウム合
    金押出形材。
  9. 【請求項9】 請求項1〜8のいずれかに記載されたア
    ルミニウム合金押出形材を使用したことを特徴とする自
    動車用構造部材。
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