JP2000080438A - 冷間加工性、切削加工性及びバリ取り性、並びに高周波焼入れ性に優れた機械構造用鋼材 - Google Patents

冷間加工性、切削加工性及びバリ取り性、並びに高周波焼入れ性に優れた機械構造用鋼材

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JP2000080438A JP10245834A JP24583498A JP2000080438A JP 2000080438 A JP2000080438 A JP 2000080438A JP 10245834 A JP10245834 A JP 10245834A JP 24583498 A JP24583498 A JP 24583498A JP 2000080438 A JP2000080438 A JP 2000080438A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 冷間加工性、切削加工性、バリ取り性、及び
高周波焼入れ性に優れた機械構造用鋼材を安価に製造す
る技術。 【解決手段】 C:0.45〜0.70wt.%、Si:
1.0〜2.0wt.%、Mn:0.10〜0.30wt.%以
下、P:0.005〜0.020wt.%、S:0.040
wt.%以下、sol.Al:0.010〜0.050wt.%、
N:0.0080wt.%以下、及び、Cu+Ni+Cr+
Mo:0.35wt.%以下を含有し、且つ、C含有率とC
u+Ni+Cr+Mo含有率との間には、0.30≦C
/2+(Cu+Ni+Cr+Mo)≦0.65の関係が
満たされており、残部がFe及び不可避的不純物からな
る鋼材であり、そして、その組織がフェライトと黒鉛と
からなっている。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、冷間加工性、切
削加工性及びバリ取り性に優れ、且つ高周波焼入れ性に
も優れた機械構造用鋼材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、機械構造用鋼として知られてい
る鋼材の内、冷間鍛造等のような冷間加工によって成形
した後に高周波焼入れ・焼戻しが施される鋼材について
は、その焼入れ性を確保するために、C含有率を0.3
5wt.%以上含有する、例えば、JIS S48C鋼が使
用されており、この鋼材には球状化焼鈍を施して軟質化
し、次いで、冷間鍛造等の冷間加工を行なっている。
【0003】このような球状化焼鈍が施された鋼材の場
合、そのC含有率が高いので、冷間鍛造等冷間加工時の
変形抵抗が大きく、その低減には限度がある。そして例
えば、冷間鍛造用金型の寿命の低下又は成形荷重の過多
によって冷間鍛造が不可能になる場合がある。また、冷
間成形後に外周切削やドリル切削加工を行なう場合、こ
れらの球状化焼鈍材では硬過ぎるために切削工具寿命の
低下を招いたり、また切り屑の分断性が悪いために、加
工を一時中断して切り屑の除去をしなければならず、生
産性が悪化する。そのために、球状化焼鈍が施された鋼
材よりも、冷間鍛造等の冷間加工性に優れ、且つ、その
後の切削加工性に優れた鋼材が強く望まれている。
【0004】このような背景から、焼鈍によって、金属
組織中のパーライトをフェライト及び黒鉛にする黒鉛化
鋼を、機械構造用鋼に適用することが提案されている。
例えば、特開平7−3390号公報には、黒鉛化焼鈍を
する前に鋼中にZrNを微細に析出させることによっ
て、黒鉛化の促進と黒鉛の微細化を図り、冷間鍛造性を
高める方法が開示されている(先行技術1という)。ま
た、窒化物を利用して黒鉛の微細化又は黒鉛化の促進を
図る方法として、下記方法が提案されている。例えば特
開平6−37685号公報には、鋼中のAlN又はBN
等を利用する方法が開示されている(先行技術2とい
う)。特開平6−279849号公報には、熱間圧延前
の加熱温度を規定してAlNを析出させ、これを利用す
る方法が開示されている(先行技術3という)。特開平
6−336644号公報には、Ti及びBを複合添加し
てTiN及びBNを生成させ、これを利用する方法が開
示されている(先行技術4という)。
【0005】また、特開平3−146618号公報に
は、鋼の化学成分の調整と共に、熱間圧延において低温
仕上及び/又は圧延後の加速冷却を施し、圧延後の組織
を微細化することによって、黒鉛化の促進と黒鉛の微細
化を図り、冷間変形抵抗を低減した冷間鍛造用鋼が開示
されている(先行技術5という)。そして、特開平6−
212351号公報、及び特公昭54−30366号公
報には、黒鉛のサイズとその面積率を特定の範囲に限定
し、更に、Pb等の快削性元素を添加することによっ
て、冷間鍛造性を改善すると共に、被削性を改善する方
法が開示されている(先行技術6という)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述した先行技術に
開示されている方法は、いずれも、鋼中に黒鉛を生成さ
せ、そのサイズを小さくすることを前提として、黒鉛化
鋼の冷間加工性を改善しようとするものである。ところ
が、本発明者等の研究によれば、このような黒鉛のサイ
ズを調整する方法では、黒鉛化鋼の組織中におけるフェ
ライトの低強度化と局部変形能との改善には限度があ
り、黒鉛化鋼における冷間鍛造等のような冷間加工性の
向上には限界があることがわかった。また、注意を要す
るのは、切削性についても、黒鉛のサイズが小さいほど
それは低下するということである。従って、切削性と共
に厳しい冷間加工性が要求される鋼材の場合には、上述
した先行技術の黒鉛化鋼を採用することは不適切であ
る。
【0007】上述した各先行技術には、切削加工にお
ける評価事項として重要であるバリ取り性についての記
述が見当たらない。この明細書では、切削加工法の代表
的形態として旋削加工と穴開け加工とを採り上げて考え
る。いずれの加工法における切削性も、工具寿命及び切
り屑処理性(切り屑分断長さ)で評価する。更に、この
発明では穴開け加工におけるドリル穴開け時の「バリ取
り性」を重要な評価対象として追加した。
【0008】こうして、この発明においては、冷間加工
性、高周波焼入れ性及び切削加工性の各々が一定の水準
以上にあり、且つ、切削加工性の内、特に「切り屑処理
性」及び穴開け加工における「バリ取り性」が、冷間加
工性及び高周波焼入れ性と共に、バランスよく備わって
いる鋼材を開発することを課題とする。切り屑処理性及
びバリ取り性が良好であることが、所定の機械構造用鋼
材を自動車部品その他各種製品の加工工程の効率化を図
る上で極めて重要であることは、既に周知のことであ
る。即ち、切り屑処理性及びバリ取り性は機械構造用鋼
材の切削加工工程において、生産効率向上のために従来
も重要な特性であると認識されていたが、これら両特性
を、冷間加工性及び高周波焼入れ性と共に、切削加工性
の重点項目として明確に課題に設定した研究・開発は見
当たらない。
【0009】以上より明らかなように、この発明の課題
は、冷間加工性、切削加工性、特に切り屑処理性及びバ
リ取り性、並びに高周波焼入れ性に優れた機械構造用鋼
材を開発することにあり、こうして、この発明の目的
は、所定の鋼棒線材の加工を効率的に行ない、高品質の
機械構造用鋼部品を安価に提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述した
観点から、冷間加工性、切削加工性、特に、切り屑処理
性及びバリ取り性、並びに高周波焼入れ性に優れた黒鉛
化鋼からなる機械構造用鋼材を開発すべく鋭意研究を重
ねた。
【0011】(1)先ず、機械構造用鋼としての切削性
を確保するために、黒鉛化鋼を採用し、黒鉛粒を微細化
しないことが重要であるとした。 (2)次いで、冷間加工性及び高周波焼入れ性に優れて
いることを重視した研究の結果、黒鉛化鋼の冷間加工性
は、金属組織中のフェライトの冷間加工性によってほぼ
決定されることを知見した。
【0012】(3)また、一般に炭素鋼鋼材において、
Cu、Ni、Cr及びMoその他のトランプエレメント
の混入量は、少ないほど望ましいとされ、鋼溶製時の使
用スクラップに対する制限や脱P処理を余儀なくされ、
製造コストアップ要因でもある。従来この発明の対象鋼
材においても同様に扱われてきた。これに対して、C
u、Ni、Cr及びMoの合計含有率を一定値以下に制
限することによって、黒鉛化鋼の冷間加工性を改善し得
ることを見い出した。
【0013】(4)この発明を完成させるに際しては、
更に、上記トランプエレメントの合計含有率の制限に加
えて、これら4種のトランプエレメントと、切削性向上
効果を有するC(炭素)含有率とを所定の関係を満たす
範囲内に制限すれば、冷間加工性と切削性との両特性を
確保でき、所期の目的を達成し得ることがわかった。
【0014】即ち、上記4種のトランプエレメントの合
計含有率をA、即ちA≡Cu+Ni+Cr+Mo(wt.
%)とした。更に、切削性に効果的なC(炭素)含有率
をAに加味して設定した指数Bとして、B≡C/2+
(Cu+Ni+Cr+Mo)を導入した。Bをこのよう
に設定した根拠は後述する(後記図1とその説明参
照)。そして、トランプエレメント合計含有率A(wt.
%)と、指数Bとの間に適切な制限を加えることによ
り、トランプエレメントを一定含有率まで許容しつつ、
冷間加工性及び高周波焼入れ性と共に、切削性、特に切
り屑処理性及びバリ取り性の向上をバランスよく実現で
きることを知見した。
【0015】こうして、上記知見に加えて、C含有率と
しては、所要の高周波焼入れ硬さを得るに必要な量だけ
添加し、鋼材の熱間圧延後の工程における金属組織の黒
鉛化のための焼鈍時間を短縮するために所定量のSiを
添加し、そして通常の機械構造用鋼に共通的に重要な上
記以外の成分を適宜添加した鋼片を、常法の熱間圧延工
程及び棒線圧延加工工程により棒線材を製造する。次い
で、適切な黒鉛化焼鈍により金属組織をフェライト+パ
ーライトから、フェライト+黒鉛にすることができる。
【0016】Cu、Ni、Cr及び/又はMoを所定の
制限値内で含むこの発明の黒鉛化鋼では、黒鉛化焼鈍時
間が従来のAlN等の窒化物の作用による黒鉛化鋼より
も、若干長くかかる傾向がある。しかしながら、その程
度は小さく、工業生産上差し支えなく、問題にはならな
いものであった。
【0017】この発明は、上記知見に基づきなされたも
のであって、この発明の構成要件は次の通りである。こ
の発明の冷間加工性、切削加工性及びバリ取り性、並び
に高周波焼入れ性に優れた機械構造用鋼材は、C:0.
45〜0.70wt.%、Si:1.0〜2.0wt.%、M
n:0.10〜0.30wt.%、P:0.005〜0.0
20wt.%、S:0.040wt.%以下、sol.Al:0.0
10〜0.050wt.%、N:0.0080wt.%以下、及
び、Cu+Ni+Cr+Mo:0.35wt.%以下を含有
していることが必要条件である。そして、注意すべき
は、上記C含有率及び上記Cu+Ni+Cr+Mo含有
率がとりうる範囲は、上記各範囲内であって、且つ両者
間に下記式:0.30≦C/2+(Cu+Ni+Cr+
Mo)≦0.65の関係が満たされる範囲内に制限され
ることである。そして、残部がFe及び不可避的不純物
からなる鋼材であり、その組織がフェライトと黒鉛とか
らなっていることに特徴を有するものである。
【0018】
【発明の実施の形態】次に、この発明の上記構成要件と
その限定理由について説明する。 (1)C:Cは、切削性、特に切り屑処理性ならびにバ
リ取り性向上のために必要である黒鉛を、鋼材の金属組
織中に確保するため、及び、高周波焼入れ性確保のため
に不可欠な成分である。そして、切り屑処理性を向上さ
せ、且つ高周波焼入れ性を確保するためには、Cは0.
45wt.%以上含有していることが必要である。しかしな
がら、C含有率が0.70wt.%を超えると、高周波焼入
れ後に焼き割れが発生し易くなる。従って、C含有率
は、0.45〜0.70wt.%の範囲内にしなければなら
ない。そして、C含有率は、この範囲内であって、且
つ、前述した指数:B≡C/2+(Cu+Ni+Cr+
Mo)が、0.30≦B≦0.65を満たすことが必要
である。即ち、C含有率は0.45〜0.70wt.%の範
囲内にあれば常によいということにはならない。その詳
細な内容と理由は指数Bの数値限定理由の項((9)
項)で後述する通りである。
【0019】(2)Si:Siは、黒鉛化を促進する有
効な元素であり、黒鉛化のための焼鈍時間の短縮化のた
めには、Siを1.0wt.%以上含有させる必要がある。
しかしながら、Si含有率が2.0wt.%を超えると、熱
間圧延時における鋼材表面の脱炭を助長し、その製品品
質を劣化させると共に、黒鉛化鋼中のフェライトに固溶
してこれを強化し、冷間変形抵抗及び切削抵抗を高める
という問題を生ずる。従って、Si含有率は、1.0〜
2.0wt.%の範囲内に限定する。
【0020】(3)Mn:Mnは、鋼の溶製過程で脱酸
を目的に添加される元素であり、その含有率が0.30
wt.%を超えると、Siと同様にフェライトを固溶強化
し、冷間変形抵抗を高める問題が生ずる。一方、S含有
率に応じた所要量により、熱間加工割れを防止する効果
をもつ。S含有率が0.040wt.%以下の場合にば、M
nを0.10wt.%以上含有させることにより熱間割れは
防止される。従って、Mn含有率は、0.10〜0.3
0wt.%の範囲内に限定する。
【0021】(4)P:Pは、鋼中に不可避的に混入し
て含まれる元素であり、その含有率が0.020wt.%を
超えると、著しく黒鉛化を阻害する。但し、P含有率が
低過ぎると切削性、バリ取り性が劣化する傾向がある。
またP含有率を低下させるほど脱Pコストがかかる。従
って、P含有率は0.005〜0.020wt.%の範囲内
に制限する。
【0022】(5)S:Sも鋼中に不可避的に混入し含
まれる元素であり、その含有率が0.040wt.%を超え
ると、鋼材の靱性を劣化させる。従って、S含有率は
0.040wt.%以下に制限する。
【0023】(6)sol.Al:Alは溶鋼の脱酸に有効
な元素であり、またAlNを析出させて結晶粒を微細化
する。また、Siと同様に黒鉛化を促進する元素であ
る。これらの効果を十分に発揮するためにはsol.Al含
有率として少なくとも0.010wt.%以上を必要とす
る。ところが、Alが過剰に添加されるとNと同様、冷
間鍛造性を劣化させるので、sol.Al含有率として0.
050wt.%以下にする必要がある。従って、sol.Al含
有率を0.010〜0.050wt.%の範囲内に限定す
る。
【0024】(7)N:Nも鋼中に不可避的に混入し含
まれる元素であり、その含有率が0.0080wt.%を超
えると、黒鉛化鋼材の冷間鍛造性を著しく阻害する。従
って、N含有率は0.0080wt.%以下に制限する。
【0025】(8)Cu+Ni+Cr+Mo:前述した
通り、Cu、Ni、Cr及びMoは、鋼の溶製過程で原
料のスクラップから不可避的に混入する元素であり、そ
の混入量を制限するために溶解原料のスクラップ品位の
制限を要する。このように、製造コスト低減の観点から
も、トランプエレメントの合計含有率A≡Cu+Ni+
Cr+Mo含有率の許容上限値の決定は重要となる。一
方、本発明者等の試験によれば、これらトランプエレメ
ントの合計含有率が0.35wt.%を超えると、この発明
で製造対象とする黒鉛化鋼の冷間冷間変形抵抗が増大す
ると共に、一方、Cu、Ni、Cr及びMoは、黒鉛化
鋼の局部変形能が著しく低下させるため、切屑処理性及
びバリ取り性を向上させる作用効果も有することがわか
った。従って、A≡Cu+Ni+Cr+Moの含有率
を、0.35wt.%以下に制限しなければならない。
【0026】(9)C/2+(Cu+Ni+Cr+M
o):ところで、この発明では、冷間加工性及び高周波
焼入れ性と共に、切削性、特に切り屑処理性及びバリ取
り性をバランスよく向上させた機械構造用鋼材の製造を
目標としている。そこで、本発明者等は、Cが黒鉛化鋼
材の切削加工性及びバリ取り性を向上させる作用効果を
有することに着眼した。その際、上記トランプエレメン
トの合計含有率A≡Cu+Ni+Cr+Moの含有率に
応じて、C含有率の適正範囲を、一層精度よく確定する
ことにした。この課題を解決するために、多数の試験結
果を解析した。その結果、切削性に効果的なC(炭素)
含有率をAに加味した指数をBとして、B≡C/2+
(Cu+Ni+Cr+Mo)を要因とし、一方、冷間加
工性及び高周波焼入れ性と共に、切削性もバランスよく
向上した鋼材の総合評価指数として、 鋼材の総合評価指数:ΣQ≡Q1 +Q2 +Q3 +Q4 但し、 Q1 :冷間加工性を示す特性値として限界圧縮率
(%)、 Q2 :高周波焼入れ性を示す特性値として高周波焼割れ
なし率(%)、 Q3 :切削性を示す特性値として、旋削加工における切
り屑処理性を示す3mm以下の切り屑の発生率(%)、 Q4 :バリ取り性を示す特性値としてバリ発生なし率
(%)を設定し、これを特性とすると、両者間の関係が
明確に整理されることがわかった。
【0027】図1に、上記関係を示す。同図には、成分
組成が本発明の範囲内にある場合(記号●)と本発明の
範囲外にある場合(記号□)とに層別して表記した。同
図によれば、指数Bが0.30〜0.65の範囲内にお
いて、本発明の範囲内に該当する記号●は、総合評価指
数ΣQが高値を示す。これに対して、本発明の範囲外に
該当する記号□は、指数Bの値のいかんにかかわらず総
合評価指数ΣQは高値を示さないことがわかる。ここ
で、総合評価指数ΣQは大きいほど望ましい。従って、
指数B≡C/2+(Cu+Ni+Cr+Mo)を、0.
30〜0.65の範囲内に限定するのがよい。
【0028】ここで、上記(9)項及び(8)項の要件
を共に満たす条件は、下記(1)及び(2)式からなる
連立不等式: 0.30≦C/2+(Cu+Ni+Cr+Mo)≦0.65 ----------------------(1) 0≦Cu+Ni+Cr+Mo≦0.35 ----------------------(2) を、CとCu+Ni+Cr+Moとについて解くことに
より求められる。図2は、上記連立不等式を解き、その
C含有率及びCu+Ni+Cr+Moの含有率を図示し
たものである。同図の斜線部領域がその解である。即
ち、本発明鋼材では、C含有率とCu+Ni+Cr+M
oの含有率との組み合わせが、図2の斜線部領域内にあ
ることが必要である。従って、下記点に注意する必要が
ある。(イ)Cu+Ni+Cr+Mo=0.30超え〜
0.35wt.%の場合には、C含有率の上限値は、Cu+
Ni+Cr+Mo含有率によって定まる0.70wt.%未
満の所定値以下に制限される。例えば、Cu+Ni+C
r+Mo=0.31wt.%のとき、C=0.45〜0.6
8wt.%、Cu+Ni+Cr+Mo=0.32wt.%のと
き、C=0.45〜0.66wt.%、Cu+Ni+Cr+
Mo=0.33wt.%のとき、C=0.45〜0.64w
t.%、Cu+Ni+Cr+Mo=0.34wt.%のとき、
C=0.45〜0.62wt.%、Cu+Ni+Cr+Mo
=0.35wt.%のとき、C=0.45〜0.60wt.%の
範囲内に制限される。また、(ロ)Cu+Ni+Cr+
Mo=0超え〜0.075wt.%の場合には、C含有率の
下限値は、Cu+Ni+Cr+Mo含有率によって定ま
る0.45wt.%超えの所定値以上に制限される。例え
ば、Cu+Ni+Cr+Mo=0.01wt.%のとき、C
=0.58〜0.70wt.%、Cu+Ni+Cr+Mo=
0.02wt.%のとき、C=0.56〜0.70wt.%、C
u+Ni+Cr+Mo=0.03wt.%のとき、C=0.
54〜0.70wt.%、Cu+Ni+Cr+Mo=0.0
4wt.%のとき、C=0.52〜0.70wt.%、Cu+N
i+Cr+Mo=0.05wt.%のとき、C=0.50〜
0.70wt.%、Cu+Ni+Cr+Mo=0.06wt.%
のとき、C=0.48〜0.70wt.%、Cu+Ni+C
r+Mo=0.07wt.%のとき、C=0.46〜0.7
0wt.%の範囲内に制限されるといった具合である。
【0029】次に、本発明の機械構造用鋼材の製造工程
の代表例を説明する。上述した化学成分組成を有する鋼
片を、電気炉又は転炉等製鋼精錬後の連続鋳造又は造塊
で鋳造後、適宜分塊圧延して製造する。上記鋼片を熱間
圧延工程及び適宜、棒線圧延加工工程を付加して棒線材
を製造する。こうして得られた棒線材を黒鉛化焼鈍し
て、金属組織がフェライトと黒鉛とからなる黒鉛化鋼材
としての棒線材を製造する。ここにおける金属組織は、
フェライトと黒鉛とが全体を主体的に占めているもので
あり、その他の組織が僅かに形成していてもよい。
【0030】このように、鋼材の金属組織をフェライト
と黒鉛とからなるものにすることにより、鋼材の低強度
化及び局部変形能特性と、切削性とを確保することが必
要である。
【0031】こうして得られた棒線材は、冷間鍛造等に
おける冷間加工性、旋削加工や穴開け加工等における切
削性、更にはバリ取り性に優れており、しかも高周波焼
入れ性に優れた機械構造用鋼材となっている。この鋼材
は更に冷間加工、切削加工、及び熱処理を経て機械構造
用鋼部品に製造される。なお、本発明により製造される
鋼材の特徴は、棒線材の他に鋼板、鋼管、形鋼等の鋼材
に対しても適用することができる。
【0032】
【実施例】次に、この発明の機械構造用鋼を、実施例に
よって更に詳細に説明する。表1及び2に、この試験で
使用した鋼片の成分組成を示す。
【0033】表1及び2で、鋼片No.1〜14は、本発
明の範囲内の成分組成をもち、鋼片No.15〜30は、
本発明の範囲外の成分組成をもつ。上記鋼片を電気炉及
び連続鋳造により製造し、次いで熱間圧延により直径4
0mmφの棒鋼に加工した。そして、得られた棒鋼を7
00℃×(5〜20)時間焼鈍した。鋼片No.1〜14
についてはすべて、フェライトと黒鉛とからなる組織を
もつ黒鉛化鋼の棒鋼に製造した(以下、それぞれを実施
例1〜14と呼ぶ)。これに対して、鋼片No.15〜2
9については、フェライトと黒鉛とからなる組織をもつ
黒鉛化鋼、又はフェライトと黒鉛とセメンタイトとから
なる組織をもつ黒鉛化鋼のいずれかの棒鋼を製造した
(以下、それぞれを比較例15〜29と呼ぶ)。なお、
鋼片No.30の成分組成は、従来公知の成分組成のJI
S S48Cに相当するものであり、その熱間圧延棒鋼
のみは、730℃×8時間の加熱・保持後、冷却してフ
ェライトと球状化セメンタイトとからなる従来組織の棒
鋼に製造した(以下、比較例30と呼ぶ)。。
【0034】上記のようにして製造された実施例及び比
較例の直径40mmφの棒鋼のそれぞれについて下記の
試験片を調製し、次の試験を行なった。
【0035】引張試験:JIS4号引張試験片を用い
て引張試験を行なった。 冷間据込み試験:冷間加工性試験として、下記試験を
行なった。 (イ)直径14mmφ×高さ21mmの試験片で、高さ
方向に深さ0.8mmのV状ノッチを試験片外周面に中
心軸に平行に入れ、端面の拘束下で冷間据込み試験を行
ない、限界圧縮率を測定した。また、(ロ)直径8mm
φ×高さ12mmの試験片で、端面の拘束下で冷間据込
み試験を行ない、真歪み0.8での変形抵抗を測定し
た。更に、 切削試験:前記直径40mmφの棒鋼を、直径34m
mに冷間引抜き加工後、切削試験を行なった。試験は、
外周旋削試験とドリル穴開け試験である。各切削試験の
条件及び評価方法を、表3に示す。
【0036】(イ)外周旋削試験においては、超硬工具
(材質P20)及びハイス工具(材質SKH4)の2種
類を用いて行なった。切削性の評価については、超硬工
具による外周旋削において、横逃げ面磨耗量VBが0.
2mmになる切削時間で工具寿命を評価し、切り屑の分
断性として全切り屑量の内、長さ3mm以下の切り屑が
占める重量比で切り屑処理性を評価した。また、切削後
の表面粗さを測定した。ハイス工具による外周旋削にお
いては、切削不能になるまでの時間で工具寿命を評価し
た。
【0037】(ロ)ドリル穴開け試験においては、ハイ
スドリル(材質SKH4)を用いて行なった。切削性の
評価について、40mm深さの穴を25個(総深さ10
00mm)開けることを1作業単位とし、この作業を繰
り返していき、25個目の穴開け時に切削不能となるよ
うな切削速度を求め、工具寿命の指標とした。また、バ
リ取り性を試験するために、別途、図3に示すドリルに
よる貫通穴開けを行なった。穴開け総個数中のバリが発
生した穴の個数割合を求めてバリ発生率とし、バリ取り
性を評価した。
【0038】高周波焼入れ試験:上記直径40mmφ
の棒鋼から、直径30mmφ×長さ200mmの試験片
を調製し、周波数:30kHz、電力:18.5kW、
コイル移動速度:3mm/分で、高周波焼入れをし、次
いで、150℃×2時間の焼戻しを行なった。そして、
表層焼入れ硬さHVを測定すると共に、表面を磁粉探傷
試験して焼割れの有無を調べた。以上の試験結果を表4
及び5に示す。なお、同表には、前記鋼材の総合評価指
数:ΣQ≡Q1 +Q2 +Q3 +Q4 を併記した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】試験結果より下記事項がわかる。 (1)実施例1〜14、比較例30について 本発明の機械構造用鋼材である実施例1〜14はいずれ
も、冷間加工性、切削性、バリ取り性、及び高周波焼入
れ性のすべてが本発明の目標を達成した機械構造用鋼材
であり、且つ、総合評価も良好である。即ち、 実施例1〜14では、引張強さが428MPa以下の
低い値であり、また変形抵抗も721MPa以下の低い
値であり、球状化焼鈍をした現行材の比較例30の変形
抵抗872MPaよりも低くなっている。更に、冷間加
工時の局部的変形能を表わす限界圧縮率は、49%以上
であり、球状化焼鈍をした現行材の比較例30の限界圧
縮率37%よりも優れている。
【0045】実施例1〜14では、外周旋削試験で、
超硬工具(P20)を用いた切削での工具寿命をみる
と、VB=0.2mmに達するまでの時間が41分以
上、またハイス工具での工具寿命をみると、切削不能ま
での時間が42分以上、そしてドリル穴開け試験での1
000mm長さで切削不能になる切削速度は88mm/
min以上となった(実施例10)。これらの値はいず
れも、球状化焼鈍した現行材の比較例30の各値よりも
高く、良好である。
【0046】実施例1〜14では、外周旋削試験での
3mm以下の切屑率は61%以上で、実施例1及び4が
80%以上と優れている。球状化焼鈍した現行材の比較
例30の32%より高く、切屑処理性に優れていた。切
削材の表面粗さについては、実施例3が12μmと特に
優れていた。その他の実施例では最大粗さが30μm以
下であり、球状化焼鈍した現行材の比較例30と同等な
いし若干良好な水準にある。
【0047】実施例1〜14の内、実施例1、4、
8、11及び12では、ドリル貫通穴開けでのバリは全
く発生せず、その他いずれの実施例においてもバリなし
率は、94%以上であり、現行材の比較例30の78%
より優れている。 実施例1〜14では、高周波焼入れ後の表面硬さはビ
ッカース硬さ672以上であり(実施例7)、球状化焼
鈍した現行材の比較例30と比べて同等以上となってい
る。
【0048】以上のように、本発明の範囲内にある黒鉛
化鋼の機械構造用鋼である実施例1〜14はいずれも、
現行の機械構造用鋼であるS48Cよりも優れた冷間加
工性、切削性及びバリ取り性を有し、また高周波焼入れ
性にも優れている。そして、機械構造用鋼としての総合
評価も高い。
【0049】(2)比較例15〜29について これに対して、本発明の範囲外にある黒鉛化鋼の機械構
造用鋼である比較例15〜29はいずれも、上記特性の
少なくとも一つにおいて、本発明の目標を達成していな
い。そして、総合評価も実施例1〜14に比べると若干
劣っている。
【0050】比較例15は、指数B≡C/2+(Cu
+Ni+Cr+Mo)が本発明の範囲を超えている。こ
の場合、A≡Cu+Ni+Cr+Mo=0.34wt.%で
あるから、Aは本発明の範囲内にある。しかし、図2よ
りわかるように、C含有率が本発明の範囲内となるため
には、C≦0.62wt.%でなければならない。ところ
が、比較例15ではC=0.65wt.%とそれよりも高
い。即ち、見方を変えると、C=0.65wt.%であるた
めに、指数Bが本発明の上限値を超えている。このた
め、総合評価指数がよくないと共に、高周波焼入れ後の
焼き割れ発生が認められる。
【0051】比較例16は、C含有率が本発明の下限
値よりも大幅に低いので、冷間加工性は良好であるが、
切削性、バリ取り性及び焼入れ性に劣り、表層硬さも低
い。また、組織中にセメンタイトが残存していることも
切削性を劣化させている一因であり、総合評価指数を悪
くしている。
【0052】比較例17は、P含有率が低いので冷間
加工性は良好であるが、本発明の下限値よりも低いの
で、バリ取り性が劣っている。比較例18は、逆にP含
有率が本発明の上限値を超えているので、黒鉛化が阻害
されて、組織中にセメンタイトが残留している。そのた
めに、冷間加工性に劣り、またバリ取り性も良くない。
【0053】比較例19は、C含有率が本発明の下限
値よりも低いので、高周波焼入れによる表層硬さが不十
分である。比較例20は、逆にC含有率が本発明の上限
値よりも高いので、高周波焼入れ後に焼き割れが発生し
ている。また、黒鉛粒が粗大で組織中に占める割合が多
過ぎるために、切削試験後の表面粗さが大きい。
【0054】比較例21は、Si含有率が本発明の下
限値よりも低いので、完全に黒鉛化されておらず、組織
中にセメンタイトが多く残存しているために、引張強さ
が530MPaと高い値であり、変形抵抗は高く、限界
圧縮率が27%と低く、更に工具寿命が短い。また、黒
鉛粒が組織中に占める割合が少な過ぎることに加え、黒
鉛粒が微細なために切屑処理性も悪く、バリ取り性も劣
っている。比較例22は逆に、Si含有率が本発明の上
限値よりも高いので、限界圧縮率が34%と低くなって
いる。また、比較例23は、Mn含有率が本発明の上限
値よりも高いので、限界圧縮率が低下している。
【0055】比較例24、25及び26はいずれも、
Cu+Ni+Cr+Mo含有率が本発明の上限値よりも
高いので、限界圧縮率が低く、局部変形能が劣化してい
る。また、指数B≡C/2+(Cu+Ni+Cr+M
o)の値も本発明の上限値を超えているので、総合評価
指数もよくない。
【0056】比較例27は、指数B≡C/2+(Cu
+Ni+Cr+Mo)が本発明の範囲を超えている。C
u+Ni+Cr+Mo=0.32wt.%であるから、C含
有率が本発明の範囲内となるためには、図2より、C≦
0.66wt.%でなければならないが、比較例27ではC
=0.69wt.%とそれよりも高い。そのために指数Bが
本発明の上限値を超えたということができる。このた
め、総合評価指数がよくないと共に、高周波焼入れ後の
焼き割れ発生が認められる。
【0057】比較例28は、N含有率が本発明の上限
値よりも高く、また、比較例29は、sol.Al含有率が
本発明の上限値よりも高いのでいずれも、限界圧縮率が
低下している。
【0058】
【発明の効果】以上述べたように、この発明によれば、
冷間鍛造のような冷間加工時において、変形抵抗が小さ
く、局部変形能が大きいので冷間加工性に優れており、
また、上記冷間加工後に行なう切削加工工程での切削性
が良好であり、バリ取り性も良好であり、更に、高周波
焼入れ性に優れている機械構造用鋼材を提供することが
で、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】機械構造用鋼材中のC/2+(Cu+Ni+C
r+Mo)の含有率と、鋼材材質の総合評価指数との関
係を、実施例及び比較例に層別して示すグラフである。
【図2】この発明の鋼材のC含有率とCu+Ni+Cr
+Moの合計含有率とが、当該両者間で満たさなければ
ならない関係の領域を斜線で示すグラフである。
【図3】鋼材の切削加工におけるバリ取り性を試験する
ために行なった、ドリルによる鋼材の貫通穴開け試験方
法を説明する概略斜視図である。
【符号の説明】
1 試験片 2 ドリル貫通穴 3 バリ

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】C :0.45〜0.70wt.%、 Si :1.0 〜2.0 wt.%、 Mn :0.10〜0.30wt.%、 P :0.005〜0.020wt.%、 S :0.040wt.%以下、 sol.Al:0.010〜0.050wt.%、 N :0.0080wt.%以下、及び、 Cu+Ni+Cr+Mo:0.35wt.%以下を含有し、
    且つ、前記C含有率と前記Cu+Ni+Cr+Mo含有
    率との間には、下記式: 0.30≦C/2+(Cu+Ni+Cr+Mo)≦0.
    65 の関係が満たされており、残部がFe及び不可避的不純
    物からなる鋼材であり、そして、その組織がフェライト
    と黒鉛とからなっていることを特徴とする、冷間加工
    性、切削加工性及びバリ取り性、並びに高周波焼入れ性
    に優れた機械構造用鋼材。
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