JP2000015447A - マルテンサイト系ステンレス鋼の溶接方法 - Google Patents

マルテンサイト系ステンレス鋼の溶接方法

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JP2000015447A
JP2000015447A JP20581598A JP20581598A JP2000015447A JP 2000015447 A JP2000015447 A JP 2000015447A JP 20581598 A JP20581598 A JP 20581598A JP 20581598 A JP20581598 A JP 20581598A JP 2000015447 A JP2000015447 A JP 2000015447A
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stainless steel
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martensitic stainless
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JP20581598A
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Hiroshige Inoue
裕滋 井上
Shigeru Okita
茂 大北
Masao Fuji
雅雄 藤
Hitoshi Asahi
均 朝日
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Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 耐サワー特性に優れた良溶接性マルテンサイ
ト系ステンレス鋼の溶接において、溶接金属の耐高温割
れ性、耐低温割れ性、靭性、強度および耐食性を向上さ
せる。 【解決手段】 重量%で、C:0.005〜0.12
%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.02〜2.
0%、Cr:11.0〜14.0%、Ni:7.0〜1
0.0%、Mo:1.0〜3.0%を含有し、P:0.
03%以下、S:0.01%以下に制限し、残部Feお
よび不可避不純物からなり、Cr当量/Ni当量比が
1.4以上1.8以下、かつCr当量×Ni当量が10
0以上150以下である溶接ワイヤを用いてガスシール
ドアーク溶接し、溶接金属のミクロ組織をオーステナイ
ト相+フェライト相+マルテンサイト相の3相組織と
し、溶接金属のCr%+1.6×Mo%の量を母材より
も0.3%以上多くする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はマルテンサイト系ス
テンレス鋼の溶接方法に関する。さらに詳しくは、例え
ば石油・天然ガスの輸送に使われるラインパイプ、貯蔵
に使われる容器、あるいはさらに強度、靭性と耐食性が
要求される用途において使用されるマルテンサイト系ス
テンレス鋼を溶接するのに適した溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年生産される石油・天然ガスは、湿潤
な炭酸ガスや硫化水素を含有するものが増加している。
こうした環境中で、炭素鋼や低合金鋼が著しく腐食する
ことは周知の事実である。従って、かかる腐食性の石油
・天然ガスの輸送に際しては、鋼管の防食対策として、
腐食抑制剤の添加が従来から一般的であった。しかし、
腐食抑制剤は、海洋油井では腐食抑制剤の添加・回収処
理に要する費用が膨大なものとなり、また海洋汚染の問
題もあって使用が困難になりつつある。従って、腐食抑
制剤を添加する必要がない耐食材料に対するニーズが、
最近大きくなっている。
【0003】こうした目的のために、炭酸ガス含有環境
等で優れた耐食性を有し、溶接性にも優れる鋼あるいは
鋼管が多く提案されている。これらは炭酸ガス含有環境
での耐食性を得るために、11〜15%程度のCrを含
有し、溶接性を改善する目的でCを低減し、強度と靭性
を確保するために焼入−焼戻熱処理を施して、組織を焼
戻マルテンサイトとするのが一般的である。例えば、特
開平4−99154号、特開平4−99155号、特開
平9−256115号の各公報には、CおよびNを低減
し、置換型オーステナイト安定化元素を添加した溶接性
の優れたラインパイプ用マルテンサイト系ステンレス鋼
が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、ラインパイ
プや圧力容器は溶接によって接続あるいは製造されるも
のであるが、上記のような溶接性の優れたマルテンサイ
ト系ステンレス鋼に適した溶接材料あるいは溶接方法が
従来無かった。「NKK技報」、1989年発行、第1
29号、第15〜22頁には、AISI410鋼をUO
E鋼管として製造し、Niを添加した共金系材料を用い
てTIG溶接継手(ラインパイプの現地円周溶接相当)
を作成した例が報告されている。しかし、同文献にもみ
られるように、マルテンサイト系ステンレス鋼の共金系
材料では、Niを多量に含有したとしても、溶接金属の
硬さが非常に硬くなる。また、この場合、溶接金属の低
温割れ感受性が高いため、予熱処理もしくは後熱処理が
必須である。したがって、マルテンサイト系ステンレス
鋼を従来の共金系あるいはマルテンサイト系ステンレス
鋼溶接材料を用いて溶接することは、施工上は困難であ
る。
【0005】一方、耐食性の優れた高Niオーステナイ
ト系ステンレス鋼や、Ni基超合金を溶接材料とした場
合には、溶接部の選択腐食は発生せず、溶接金属の硬さ
が低く、溶接金属の靭性を確保することができる。しか
し、オーステナイト系ステンレス鋼やNi基超合金は、
その結晶構造上、強度が低いという問題点がある。溶接
金属の強度が非常に低い場合、外部応力が負荷されると
溶接金属が集中的に変形し、破壊に至る恐れがある(ア
ンダーマッチングと称する)。従って、オーステナイト
系ステンレス鋼や高Ni合金を溶接材料として、マルテ
ンサイト系ステンレス鋼を溶接することにも大きな困難
があった。さらに、近年では二相ステンレス鋼溶接材料
も使用されているが、溶接金属の強度は低くアンダーマ
ッチングとなる場合が多い。そこで、本発明者らは、先
に溶接金属の組織がオーステナイト相+フェライト相+
マルテンサイト相の3相組織となる溶接ワイヤを特開平
10−146691号公報にて開示したが、使用環境の
観点から、さらなる溶接金属の靱性の向上が求められて
いる。
【0006】本発明はこうした現状に鑑みて、マルテン
サイト系ステンレス鋼を溶接するに際して、予熱および
後熱処理を必要とせず、溶接部の耐高温割れ性、耐低温
割れ性および靭性と強度に優れ、さらに、炭酸ガス含有
環境などでも優れた耐食性を有する溶接ワイヤを提供す
ることを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、下記
(1)〜(3)の通りである。
【0008】(1) 重量%で、C :0.035%以
下、Si:0.50%以下、Mn:0.1〜1.5%、
P :0.03%以下、S :0.005%以下、C
r:9.0〜13.0%、Ni:1.5〜6.5%、M
o:1.0〜3.0%、Al:0.06%以下、N :
0.02%以下を含有し、さらに必要に応じ、Cu:
0.3〜1.8%を含有し、残部Feおよび不可避不純
物からなり、主として焼戻しマルテンサイト組織からな
るマルテンサイト系ステンレス鋼の溶接方法において、
重量%で、C :0.005〜0.12%、Si:0.
01〜1.0%、Mn:0.02〜2.0%、Cr:1
1.0〜14.0%、Ni:7.0〜10.0%、M
o:1.0〜3.0%を含有し、さらに、P :0.0
3%以下、S :0.01%以下に制限し、残部Feお
よび不可避不純物からなり、さらに、数2で算出される
Cr当量とNi当量の関係において、Cr当量/Ni当
量比が、1.4以上1.8以下、かつ、Cr当量×Ni
当量が、100以上150以下であるマルテンサイト系
ステンレス鋼用溶接ワイヤを用いてガスシールドアーク
溶接し、溶接金属のミクロ組織をオーステナイト相+フ
ェライト相+マルテンサイト相の3相組織とするととも
に、溶接金属のCr%+1.6×Mo%の量を、母材の
マルテンサイト系ステンレス鋼よりも重量%で0.3%
以上多くすることを特徴とするマルテンサイト系ステン
レス鋼の溶接方法。
【0009】
【数2】 Cr当量(重量%)=Cr%+Mo%+1.5×Si% Ni当量(重量%)=Ni%+0.5×Mn%+30×
C%
【0010】(2) 前記マルテンサイト系ステンレス
鋼用溶接ワイヤが、重量%で、Cu:0.1〜2.0%
をさらに含有することを特徴とする前記(1)のマルテ
ンサイト系ステンレス鋼の溶接方法。
【0011】(3) 前記マルテンサイト系ステンレス
鋼用溶接ワイヤが、重量%で、Ti:0.005〜0.
05%、Al:0.005〜0.05%の1種または2
種をさらに含有することを特徴とする前記(1)または
(2)のマルテンサイト系ステンレス鋼の溶接方法。
【0012】
【発明の実施の形態】以下において、本発明をさらに詳
しく説明する。
【0013】本発明が対象とするマルテンサイト系ステ
ンレス鋼は、C :0.035%以下、Si:0.50
%以下、Mn:0.1〜1.5%、P :0.03%以
下、S :0.005%以下、Cr:9.0〜13.0
%、Ni:1.5〜6.5%、Mo:1.0〜3.0
%、Al:0.06%以下、N :0.02%以下を含
有し、必要に応じて、さらに、Cu:0.3〜1.8%
を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、主と
して焼戻しマルテンサイト組織からなる耐サワー特性に
優れた良溶接性マルテンサイト系ステンレス鋼であっ
て、耐食性と高強度が要求される鋼である。ここで、C
r、Ni、Moの含有量が上限値を超えるとマルテンサ
イト組織が十分確保できず強度が低くなり、また、下限
値を下回る場合は耐食性が十分ではなくなる。C、S
i、Mn、P、S、Al、Nは、靱性確保のためそれぞ
れ上限値を超えないように規制されるが、Mnのみ脱酸
の目的で0.1%以上添加される。Cuは、より高度な
耐食性が必要な場合に、選択的に添加される。添加量
は、耐食性に効果があり、靱性などの母材特性を劣化さ
せない範囲として0.3〜1.8%と規定する。本発明
は母材の降伏強度が650N/mm2 以上、−30℃で
の衝撃靱性が60J以上である場合に特に有効である。
【0014】本発明は、成分およびCr当量、Ni当量
を限定した溶接ワイヤを用いるマルテンサイト系ステン
レス鋼に最適な溶接方法を提供するものである。
【0015】まず、本発明にて使用するマルテンサイト
系ステンレス鋼用溶接ワイヤの必須成分の範囲を限定し
た理由を述べる。なお、本発明において%は、重量%を
意味する。
【0016】C : Cは溶接金属の強度を大きく上昇
させる元素として、またオーステナイト生成元素として
0.005%以上添加する。また、CはCr炭化物を生
成して耐食性を低下させる元素ではあるが、C量が0.
12%以下であればC添加による耐食性の低下はさほど
大きくはなく、母材であるマルテンサイト系ステンレス
鋼のそれを下回ることはない。しかし、C含有量が0.
12%を超えると溶接金属の耐食性と靭性が低下するの
で、上限は0.12%とする。
【0017】Si: Siは、溶接金属の脱酸剤および
強化元素として有効であるが、含有量が0.01%未満
ではその脱酸効果が充分ではなく、逆に1.0%を超え
て含有させても、その効果は飽和するばかりか、衝撃靭
性を低下させるので、Siの含有量範囲は0.01〜
1.0%に限定する。
【0018】Mn: Mnは、溶接金属の脱酸剤として
必要で、また溶接金属の組織を調整するためのオーステ
ナイト生成元素としても重要であって、0.02%以上
を含有させる必要がある。しかし、2.0%を超えて含
有させても、その効果はもはや飽和しているばかりか、
過剰にMnを含有させることは、材料の製造時に困難を
生ずるので、上限含有量は2.0%とする。
【0019】Cr: Crは、溶接金属の耐食性と強度
を確保するために、11.0%以上を含有させることが
必要であるが、14.0%を超えて含有させると、溶接
金属の強度を確保するためのマルテンサイト組織の生成
が困難となる。従って、Crの含有量は11.0〜1
4.0%とする。
【0020】Ni: Niは、溶接金属の組織中にオー
ステナイトを安定に生成させ、靭性と耐食性を確保する
元素として重要である。その含有量が7.0%未満では
衝撃靭性が不充分である。逆にNiの含有量が10.0
%を超えると、初晶凝固相がオーステナイト相となり、
溶接高温割れが発生しやすくなるとともに、オーステナ
イト分率が過大になって、溶接金属の強度が低下する。
従って、Niの含有量は7.0〜10.0%とする。
【0021】Mo: Moは溶接金属の耐食性と高強度
を確保するために添加する。Moが1.0%未満では、
溶接金属の耐食性と強度が充分ではなく、3.0%を超
えると、溶接金属中に金属間化合物を生成し、靭性が低
下する。従って、Moの含有量は1.0〜3.0%とす
る。
【0022】P : Pは多量に存在すると溶接金属の
耐高温割れ性および靭性を低下させるので、少ない方が
望ましく、0.03%以下に低減することが必要であ
り、少ないほど好ましい。
【0023】S : Sも多量に存在すると、耐溶接高
温割れ性、熱間加工性、延性および耐食性を低下させる
ので、少ない方が望ましく、0.01%以下に低減する
ことが必要である。溶接材料としての製造性を一段と改
善し、溶接金属の耐食性をさらに改善するためには、S
を0.005%以下に低減するのが好ましい。
【0024】次に、Cr当量およびNi当量の限定理由
を説明する。
【0025】本発明においては、上記必須成分の含有量
のみならず、それらの含有量から算出されるCr当量お
よびNi当量も特定の関係を満たす必要がある。Cr当
量およびNi当量は、数3のように定義する。
【0026】
【数3】 Cr当量(重量%)=Cr%+Mo%+1.5×Si% Ni当量(重量%)=Ni%+0.5×Mn%+30×
C%
【0027】そして、ワイヤのCr当量およびNi当量
の関係において以下の2つの条件、すなわち、Cr当量
/Ni当量比が、1.4以上1.8以下、かつ、Cr当
量×Ni当量が、100以上150以下を満たす必要が
ある。それぞれの限定理由は以下のとおりである。
【0028】Cr当量/Ni当量: Cr当量/Ni当
量が1.4未満では、溶接金属がオーステナイト単相凝
固となり高温割れ感受性が高まるとともに、強度の確保
が困難となる。また、1.8超では、フェライト含有量
が増すため、靭性が低下する。従って、Cr当量/Ni
当量比を1.4〜1.8に限定した。
【0029】Cr当量×Ni当量: Cr当量×Ni当
量が100未満では、溶接金属中のマルテンサイト含有
量が増すため、衝撃靭性が低下する。また、150超で
は、マルテンサイト含有量が減少するため、強度が低下
する。従って、Cr当量×Ni当量を100〜150に
限定した。
【0030】以上が本発明の溶接方法で使用するマルテ
ンサイト系ステンレス鋼用溶接ワイヤの必須要件である
が、本発明においては、必要に応じてさらに、以下の元
素を添加して、特性を一段と向上させることも可能であ
る。
【0031】Cu: Cuは、溶接金属の強度と耐食性
を高めるのに顕著な効果があり、また、靭性を確保する
ためのオーステナイト生成元素として、0.1%以上添
加されるが、2.0%を超えて添加しても、その効果は
もはや飽和するのに対して、溶接材料の製造性を低下さ
せるので、上限含有量は2.0%とする。
【0032】Ti: Tiは溶接金属における粒内の微
細フェライトの析出を促進し、靭性を向上させるため、
0.005%以上添加されるが、0.05%を超えると
溶接金属中のTi系介在物が増し、靭性を低下させるの
で、上限を0.05%とする。
【0033】Al: Alも溶接金属における粒内の微
細フェライトの析出を促進し、靭性を向上させるため、
0.005%以上添加されるが、0.05%を超えると
溶接金属中のAl系介在物が増し、靭性を低下させるの
で、上限を0.05%とする。
【0034】本発明の溶接方法は、上記溶接ワイヤを有
効に活用するもので、溶接後の溶接金属の組織とCr%
+1.6×Mo%の母材に対する過剰量を規定するもの
である。本溶接方法により、予熱しなくても、溶接金属
において強度、靭性、耐食性を十分に確保でき、本発明
が対象とするマルテンサイト系ステンレス鋼に対し、理
想的な溶接継手を提供できるものである。
【0035】溶接金属のミクロ組織を限定した理由を説
明する。
【0036】溶接金属のミクロ組織は、耐低温割れ性、
耐高温割れ性、強度、衝撃靭性、耐食性という複数の要
求特性を同時に満足するために、オーステナイト相+フ
ェライト相+マルテンサイト相の3相組織とすることが
必要である。フェライト単相では衝撃靭性が悪く、強度
も不足する。オーステナイト単相では高温割れの危険性
が大きく、また強度が著しく低い。マルテンサイト単相
では衝撃靭性に乏しく、また低温割れの危険性がある。
フェライト相+オーステナイト相の2相では耐割れ性お
よび靭性は良好であるが、強度不足である。フェライト
相+マルテンサイト相の2相では低温割れ感受性が高
く、また衝撃靭性が乏しい。オーステナイト相+マルテ
ンサイト相の2相では高温割れ感受性が高い。
【0037】オーステナイト相+フェライト相+マルテ
ンサイト相の3相組織とすることによって、靭性と耐低
温割れ性がオーステナイトで、強度がマルテンサイト
で、耐高温割れ性がフェライトでそれぞれ確保されるた
め、溶接金属の強度と靭性が高まり、高温割れが防止さ
れる。さらに、予熱あるいは後熱処理を施さなくても、
低温割れの発生が抑制される。
【0038】Cr%+1.6×Mo%を限定した理由は
次の通りである。
【0039】CrおよびMoは前述の通り、耐食性を向
上させる元素であるが、その効果はMoの方がCrの
1.6倍となるため、耐食性の指標としては、Cr%+
1.6×Mo%が有効である。一方、溶接金属は鋳造の
まま組織であるため、溶接凝固時の偏析が残留し、圧
延、熱処理を経た同組成の母材よりは耐食性が低下す
る。このため、溶接金属の耐食性を母材同等以上に確保
するためには、溶接金属のCr%+1.6×Mo%が母
材のマルテンサイト系ステンレス鋼のそれより0.3%
以上多くなることが必要で、0.3%に満たない場合、
母材の耐食性に劣るために、溶接金属が優先的に腐食を
受ける可能性がある。
【0040】
【実施例】以下に本発明の実施例について説明する。
【0041】表1に成分を示すマルテンサイト系ステン
レス鋼(板厚14.5mm)を母材として、開先角度6
0゜、ルート面1mmの開先を作製した。なお、表1の
鋼板は、焼入−焼戻熱処理を施して、降伏強度は710
N/mm2 以上である。また、表2に示す化学組成の鋼
を真空溶解で溶製した後、通常の方法で線引きし、溶接
用ワイヤとした。表1の母材に対し、これらの溶接用ワ
イヤを用いて200A−24V−40cm/minの条
件でMIG溶接を行った。なお、いずれの溶接に際して
も、予熱はまったく行わず、溶接後の熱処理も行ってい
ない。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】溶接金属のミクロ組織は、各溶接継手の断
面についてエッチングを施し、現出した組織から判別
し、表3にその結果を記載した。次に、各々の溶接継手
から、溶接金属に切欠が位置するようにJIS4号衝撃
試験片(フルサイズ)を採取し、衝撃試験を実施した。
また、溶接線に直交する方向において、平行部に溶接金
属、溶接熱影響部、母材を含むように、JIS5号引張
試験片を採取し、室温で引張試験を行った。一方、各溶
接継手の溶接金属から試験片を採取して、湿潤炭酸ガス
環境における腐食試験を行った。湿潤炭酸ガス環境にお
ける腐食試験条件は、試験温度120℃のオートクレー
ブ中で、炭酸ガス40気圧の条件で5%NaCl水溶液
中に30日間浸漬して、試験前後の重量変化から腐食速
度を算出した。さらに、高温割れ試験にはJIS Z
3155に記載のFISCO試験を採用し、低温割れ試
験にはJIS Z 3157に記載のU型溶接割れ試験
を採用した。各試験結果も表3に示した。
【0045】
【表3】
【0046】表3の高温割れ試験および低温割れ試験結
果において、○は割れが認められなかったもの、×は割
れが発生したものを示している。また、衝撃試験結果に
おいて、○は−30℃での吸収エネルギーが60J以
上、△は40〜60J、×は40J以下であったことを
それぞれ示している。引張試験結果においては、○は母
材部で破断し、溶接金属部では破断しなかったもの、×
は溶接金属部で破断したものを示している。腐食試験結
果においては、一般にある環境におけるある材料の腐食
速度が0.1mm/y未満の場合、材料は充分耐食的で
あり、使用可能であると考えられていることから、○は
腐食速度が0.1mm/y未満、×は0.1mm/y以
上を示している。
【0047】表3から明らかなように、本発明例である
No.1〜4は、溶接金属の組織がオーステナイト+フ
ェライト+マルテンサイトの3相組織となっており、溶
接時の予熱あるいは後熱処理を施さなくても、耐高温割
れ性および耐低温割れ性が良好で、溶接金属の衝撃靭性
も優れ、溶接金属の強度も高く(溶接金属では破断しな
い)、かつ溶接金属の耐食性が優れるという、多数の要
求特性を同時に満足できることがわかる。
【0048】これに対して、比較例であるNo.5は溶
接金属がフェライト単相であるため衝撃靭性が著しく悪
く、強度も低い。比較例No.6およびNo.10は溶
接金属がオーステナイト単相あるいはオーステナイト+
マルテンサイト組織となっているために溶接高温割れが
起こっている。さらに、No.6は強度が低く、No.
10は靭性および強度が低い。比較例No.7およびN
o.9は溶接金属がマルテンサイト単相あるいはマルテ
ンサイト+フェライト組織となって、低温割れが起こ
り、さらに、衝撃靭性が著しく低下している。また、N
o.7では耐食性が低い。比較例No.8は溶接金属が
フェライト+オーステナイトの2相組織で耐割れ性、靭
性および耐食性は優れているが、強度不足で溶接金属破
断を起こしている。また、比較例No.11は溶接金属
がオーステナイト+フェライト+マルテンサイト3相組
織となっているが、Cr当量/Ni当量が大きいため、
フェライト含有量が多く、靱性不足となっている。
【0049】
【発明の効果】本発明は予熱および後熱処理を必要とせ
ず、耐高温割れ性、耐低温割れ性、靭性、強度および耐
食性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の溶接を可
能とするものである。したがって、本発明の産業上の価
値は極めて大きなものであるといえる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 藤 雅雄 富津市新富20−1 新日本製鐵株式会社技 術開発本部内 (72)発明者 朝日 均 富津市新富20−1 新日本製鐵株式会社技 術開発本部内 Fターム(参考) 4E001 AA03 BB08 CA03 EA05

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、 C :0.035%以下、 Si:0.50%以下、 Mn:0.1〜1.5%、 P :0.03%以下、 S :0.005%以下、 Cr:9.0〜13.0%、 Ni:1.5〜6.5%、 Mo:1.0〜3.0%、 Al:0.06%以下、 N :0.02%以下 を含有し、さらに必要に応じ、 Cu:0.3〜1.8% を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、主と
    して焼戻しマルテンサイト組織からなるマルテンサイト
    系ステンレス鋼の溶接方法において、重量%で、 C :0.005〜0.12%、 Si:0.01〜1.0%、 Mn:0.02〜2.0%、 Cr:11.0〜14.0%、 Ni:7.0〜10.0%、 Mo:1.0〜3.0% を含有し、さらに、 P :0.03%以下、 S :0.01%以下 に制限し、残部Feおよび不可避不純物からなり、さら
    に、数1で算出されるCr当量とNi当量の関係におい
    て、 Cr当量/Ni当量比が、1.4以上1.8以下、か
    つ、 Cr当量×Ni当量が、100以上150以下であるマ
    ルテンサイト系ステンレス鋼用溶接ワイヤを用いてガス
    シールドアーク溶接し、溶接金属のミクロ組織をオース
    テナイト相+フェライト相+マルテンサイト相の3相組
    織とするとともに、溶接金属のCr%+1.6×Mo%
    の量を、母材のマルテンサイト系ステンレス鋼よりも重
    量%で0.3%以上多くすることを特徴とするマルテン
    サイト系ステンレス鋼の溶接方法。 【数1】 Cr当量(重量%)=Cr%+Mo%+1.5×Si% Ni当量(重量%)=Ni%+0.5×Mn%+30×
    C%
  2. 【請求項2】 前記マルテンサイト系ステンレス鋼用溶
    接ワイヤが、重量%で、 Cu:0.1〜2.0% をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のマ
    ルテンサイト系ステンレス鋼の溶接方法。
  3. 【請求項3】 前記マルテンサイト系ステンレス鋼用溶
    接ワイヤが、重量%で、 Ti:0.005〜0.05%、 Al:0.005〜0.05% の1種または2種をさらに含有することを特徴とする請
    求項1または2に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼
    の溶接方法。
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