JPH08132238A - 高Cr鋼の溶接方法 - Google Patents

高Cr鋼の溶接方法

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JPH08132238A
JPH08132238A JP27678994A JP27678994A JPH08132238A JP H08132238 A JPH08132238 A JP H08132238A JP 27678994 A JP27678994 A JP 27678994A JP 27678994 A JP27678994 A JP 27678994A JP H08132238 A JPH08132238 A JP H08132238A
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welding
steel
weld metal
austenite
strength
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JP27678994A
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Inventor
Hiroshige Inoue
裕滋 井上
Akihiro Miyasaka
明博 宮坂
Shigeru Okita
茂 大北
Satoyuki Miyake
聰之 三宅
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Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Corp
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 本発明は、高Cr鋼の溶接方法に係り、さら
に詳しくは、例えばラインパイプや圧力容器等に使用さ
れる高Cr鋼を溶接するのに適した、溶接金属の耐食性
と強度および靭性に優れた溶接方法に関する。 【構成】 Cr:7.5〜18%の高Crマルテンサイ
ト鋼の溶接方法において、C:0.005〜0.12
%、Si:0.01〜1%、Mn:0.02〜3%、C
r:18〜28%、Ni:5〜10%、Mo+0.5
W:1〜5%、Al:0.005〜0.5%を含有し、
P,SおよびNを低減した心線に、チタン酸化物:25
〜60%、金属炭酸塩:10〜30%、金属ふっ化物:
3〜15%を含有する被覆剤を塗布した被覆アーク溶接
棒を使用し、溶接金属の組織がフェライト+オーステナ
イト2相組織で、オーステナイト分率が30〜70%で
ある。あるいはさらに、Cu,N,Nb,V,Ti,Z
r,Taの1種以上を含有する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は高Cr鋼の溶接方法に係
り、さらに詳しくは、例えば石油・天然ガスの輸送に使
われるラインパイプ、あるいは貯蔵に使われる容器、あ
るいはさらに強度と耐食性が要求される用途において使
用される高Cr鋼を溶接するのに適した、耐食性と強度
および靭性に優れた溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年生産される石油・天然ガスは、湿潤
な炭酸ガスや硫化水素を含有するものが増加している。
こうした環境中で、炭素鋼や低合金鋼が著しく腐食する
ことは周知の事実である。従って、かかる腐食性の石油
・天然ガスの輸送に際しては、鋼管の防食対策として、
腐食抑制剤の添加が従来から一般的であった。しかし、
腐食抑制剤は、海洋油井では腐食抑制剤の添加・回収処
理に要する費用が膨大なものとなり、また海洋汚染の問
題もあって使用が困難になりつつある。従って、腐食抑
制剤を添加する必要がない耐食材料に対するニーズが、
最近大きくなっている。
【0003】こうした目的のために、炭酸ガス含有環境
等で優れた耐食性を有し、溶接性にも優れる鋼あるいは
鋼管が多く提案されている。これらは炭酸ガス含有環境
での耐食性を得るために、11〜15%程度のCrを含
有し、溶接性を改善する目的でCを低減し、強度と靭性
を確保するために焼入−焼戻熱処理を施して、組織を焼
戻マルテンサイトとするのが一般的である。例えば、特
開平4−99154号公報および特開平4−99155
号公報には、CおよびNを低減し、置換型オーステナイ
ト安定化元素とした溶接性の優れたラインパイプ用高C
r鋼が提案されている。
【0004】ところで、ラインパイプや圧力容器は溶接
によって接続あるいは製造されるものであることは周知
の通りであるが、上記のような溶接性の優れた高Cr鋼
に適した溶接材料あるいは溶接方法が従来なかった。N
KK技報(1989年発行、第129号、第15−22
頁)にはAISI410鋼をUOE鋼管として製造し、
Niを添加した共金系材料を用いてTIG溶接継手(ラ
インパイプの現地円周溶接相当)を作成した例が報告さ
れている。しかし、該文献にもみられるように、高Cr
鋼の共金系材料では、Niを多量に含有したとしても、
溶接金属の硬さが非常に硬くなる。この場合、使用環境
において、微量の硫化水素が混入すると溶接金属に応力
腐食割れを発生する恐れがある、という難点があった。
【0005】また、溶接後に焼戻熱処理を施して、溶接
金属の硬さを低減することは可能ではある。しかし、高
Cr鋼の場合には、熱処理温度と時間としては例えば
「620℃×1時間」といった、非常に高温かつ長時間
の熱処理が必要である。ラインパイプの敷設現場でこう
した熱処理を施すこと、巨大な圧力容器の溶接部あるい
は全体にこうした熱処理を施すこと等は、実際には極め
て困難であり、かつ膨大な費用と時間を要する。また、
TIG溶接は溶接速度が遅く、かつ1パスでの溶着金属
量が少ないので、構造物の溶接に適用すると施工コスト
が非常に高くなる、という難点もある。従って、高Cr
鋼を共金系あるいはマルテンサイト系ステンレス鋼溶接
材料を用いて溶接することは、施工上は困難である。
【0006】一方、低合金鋼を溶接材料とした場合に
は、溶接は容易であるし、溶接金属に関しては、溶接後
熱処理は不要である。しかし、低合金鋼は炭酸ガス含有
環境における耐食性が乏しい。耐食性の優れた高Cr鋼
母材に対して、耐食性の劣る低合金鋼溶接金属が接触し
ていると、溶接部が選択的に腐食されるために、構造物
の安全上、極めて危険であり、適用することはできな
い。
【0007】さらに、耐食性の優れた高Niオーステナ
イト系ステンレス鋼や、Ni基超合金を溶接材料とした
場合には、溶接部の選択腐食は発生せず、溶接金属の硬
さが低く、溶接金属の靭性を確保することができる。し
かし、オーステナイト系ステンレス鋼やNi基超合金
は、その結晶構造上、強度が低い、という問題点があ
る。一般的には、これらの材料の降伏強度は300〜4
00N/mm2 程度しかない。降伏強度が551N/mm2
以上にもなる高Cr鋼母材を、強度が非常に低い溶接金
属で溶接すると、外部応力が負荷された場合に溶接金属
が集中的に変形し、破壊に至る恐れがある(アンダーマ
ッチングと称する)。従って、オーステナイト系ステン
レス鋼や高Ni合金を溶接材料として、高Cr鋼を溶接
することにも大きな困難があった。
【0008】上記のように、溶接構造物においては、溶
接金属の強度が母材よりも低い、いわゆるアンダーマッ
チングは嫌われる場合が多く、溶接金属の強度が母材よ
りも高い方が好ましい場合も多い。母材の強度が一定で
あるとすると、溶接金属の強度を高めることが必要であ
る。この場合、強化手段は耐食性や靭性などの他の特性
を著しく低下させるものであってはならないのは、勿論
である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこうした現状
に鑑みて、高Cr鋼を溶接するに際して、炭酸ガス含有
環境等で優れた耐食性を有し、溶接部の靭性、強度、等
にも優れる溶接方法を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明の要旨は、
以下の通りである。 (1)重量%で、Cr:7.5〜18.0%を含有し、
ミクロ組織がマルテンサイト単相、またはマルテンサイ
ト50%以上および残部フェライトからなる高Cr鋼の
溶接方法において、重量%で、C :0.005〜0.
12%、 Si:0.01〜1.0%、Mn:0.
02〜3.0%、 Cr:18.0〜28.0
%、Ni:5.0%〜10.0%、 Al:0.
005〜0.5%、およびMoおよびWの1種または2
種をMo+0.5W:1.0〜5.0%、となるように
含有し、さらに、Pを0.03%以下、
Sを0.01%以下に制限し、残部Feおよび不可避
不純物からなるステンレス鋼心線に、重量%で、チタン
酸化物:25〜60%、 金属炭酸塩:10〜3
0%、金属ふっ化物:3〜15%を含有する被覆剤を塗
布した被覆アーク溶接棒を用いて溶接し、溶接金属のミ
クロ組織をオーステナイトとフェライトの2相組織と
し、オーステナイト分率を30〜70%とすることを特
徴とする高Cr鋼の溶接方法(第1発明)。 (2)前項におけるステンレス鋼心線はさらに、重量%
で、Cu:0.05〜3%、 N :0.
005〜0.2%の1種または2種を含有する前記
(1)に記載した高Cr鋼の溶接方法(第2発明)。 (3)前(1),(2)項におけるステンレス鋼心線は
さらに、重量%で、Nb,V,Ti,Zr,Taの1種
または2種以上の合計含有量で0.01〜1.0%を含
有する前記(1)あるいは(2)に記載の高Cr鋼の溶
接方法(第3発明)である。ここで本発明では、ミクロ
組織の面積率は、ポイントカウント法で測定した値と定
義する。
【0011】
【作用】以下に本発明において各成分等の範囲を限定し
た理由を述べる。なお、本願において%は、特に明記し
ない限り、重量%を意味する。第1に、ステンレス鋼心
線の成分限定理由を述べる。 C:Cは溶接金属の強度を大きく上昇させる元素とし
て、またオーステナイト生成元素として、0.005%
以上添加する。また、CはCr炭化物を生成して耐食性
を低下させる元素ではあるが、C量が0.12%以下で
あればC添加による耐食性の低下はさほど大きくはな
く、母材である高Cr鋼のそれを下回ることはない。し
かし、C含有量が0.12%を超えると溶接金属の耐食
性と靭性が低下するので、上限は0.12%とする。
【0012】Si:Siは、溶接金属の脱酸剤および強
化元素として有効であるが、含有量が0.01%未満で
はその脱酸効果が充分ではなく、1.0%を超えて含有
させても、その効果は飽和するばかりか、衝撃靭性を低
下させるので、Siの含有量範囲は0.01〜1.0%
に限定する。
【0013】Mn:Mnは、溶接金属の脱酸剤として必
要で、また溶接金属の組織を調整するためのオーステナ
イト生成元素としても重要であって、0.02%以上を
含有させる必要がある。しかし、3.0%を超えて含有
させても、その効果はもはや飽和しているばかりか、過
剰にMnを含有させることは、材料の製造時に困難を生
ずるので、上限含有量は3.0%とする。
【0014】Cr:Crは、溶接金属の耐食性と強度を
確保するために、18.0%以上を含有させることが必
要であるが、28.0%を超えて含有させると、溶接金
属の組織を調整するためには、オーステナイト生成元素
として多量の合金元素を添加しなければならず、これは
コストをいたずらに上昇させるばかりである。従って、
Crの含有量は18.0〜28.0%とする。
【0015】Ni:Niは、溶接金属の組織中にオース
テナイトを安定に生成させ、靭性と耐食性を確保する元
素として重要である。その含有量が5.0%未満では衝
撃靭性が不充分であり、またオーステナイト分率を確保
することが困難になる。Niの含有量が10.0%を超
えると、オーステナイト分率が過大になって、溶接金属
の強度が低下する恐れがあるのに対して、衝撃靭性を向
上させる効果はもはや飽和する。従って、Niの含有量
は5.0〜10.0%とする。
【0016】Al:Alは、脱酸剤として0.005%
以上の添加が必要である。しかし、0.5%を超えて添
加すると、粗大な酸化物系介在物を形成して、溶接金属
の耐食性と衝撃靭性を損なうので、上限含有量は0.5
%とする。
【0017】Mo+0.5W:Moおよび/またはWは
溶接金属の耐食性と高強度を確保するために添加する。
ここで、含有量が同じである場合に、Wの効果はMoの
効果の1/2であるので、両者を合計した効果はMo+
0.5Wで表わされる。そして、Mo+0.5Wが1.
0%未満では、溶接金属の耐食性と強度が充分ではな
く、5.0%を超えると、溶接金属のフェライトとオー
ステナイトの分率を適正に保つのが困難になるか、オー
ステナイト分率を30〜70%とするためには、オース
テナイト生成元素を過大に添加しなければならなくな
る。従って、Mo+0.5Wの値は1.0〜5.0%と
する。ここで、MoとWは、いずれかを単独に添加して
も良いし、両者を複合して添加しても良い。重要なこと
は、Mo+0.5Wで表わされる量が、1.0〜5.0
%の範囲に入っていることである。
【0018】P:Pは多量に存在すると靭性を低下させ
るので、少ない方が望ましく、0.03%以下に低減す
ることが必要であり、少ないほど好ましい。 S:Sも多量に存在すると熱間加工性、延性および耐食
性を低下させるので、少ない方が望ましく、0.01%
以下に低減することが必要である。溶接材料としての製
造性を一段と改善し、溶接金属の耐食性をさらに改善す
るためには、Sを0.005%以下に低減すると、より
好ましい。
【0019】以上が本発明方法で使用する被覆アーク溶
接棒におけるステンレス鋼心線の基本成分であるが、本
発明においては、必要に応じてさらに、以下の元素を添
加して、特性を一段と向上させた溶接材料も対象として
いる。
【0020】Cu:Cuは、溶接金属の強度と耐食性を
高めるのに顕著な効果があり、また、オーステナイト分
率を所定の範囲に調整するためのオーステナイト生成元
素として、0.05%以上添加されるが、3.0%を超
えて添加しても、その効果はもはや飽和するのに対し
て、溶接材料の製造性を低下させるので、上限含有量は
3.0%とする。
【0021】N:Nは、溶接金属において、オーステナ
イト分率を所定の範囲に調整するためのオーステナイト
生成元素として、また、溶接金属の強度を高める元素と
して、0.005%以上添加されるが、0.2%を超え
て含有させると、溶接金属にブローホールを生成するな
どの問題を生ずるので、上限含有量は0.2%とする。
【0022】Nb,V,Ti,Zr,Ta:Nb,V,
Ti,Zr,Taは溶接金属の硬さを低下させ、耐食性
を改善する効果があるので、1種または2種以上の合計
で0.01%以上添加する。しかし、過剰に添加しても
これらの効果は飽和するのに対して、靭性を低下させる
ので、Nb,V,Ti,Zr,Taの1種または2種以
上の合計含有量が1.0%を超えないものとする。
【0023】本発明方法で使用する被覆アーク溶接棒の
ステンレス鋼心線においては、上記の成分の他に、製造
性、靭性や耐食性などを調整する目的で、あるいは添加
合金元素に付随した不純物として、Sn,Sb,Bなど
を0.03%以下まで含有することができる。また、製
造性を改善する目的で、希土類元素(REM),Ca,
Mgなどを0.03%以下まで含有することも可能であ
る。なお、ここで希土類元素とは、原子番号が57〜7
1番および89〜103番の元素およびYを指す。ま
た、本発明では酸素の含有量は特に限定はしていない
が、酸素は酸化物系非金属介在物を生成する根源となる
不純物であるから、少ないほど好ましいのは当然であ
る。
【0024】第2に、本発明方法で使用する被覆アーク
溶接棒における被覆剤の成分限定理由を説明する。 チタン酸化物:チタン酸化物は、スラグの被包性を良く
し、特に下向や水平すみ肉姿勢におけるビード形状が良
好になる。しかし、25%未満では効果が不充分であ
り、また、60%を超えると立向姿勢でのスラグの流動
性が悪くなるので、25〜60%に制限する。なお、こ
こでいうチタン酸化物とは、ルチールやイルミナイト、
チタン酸カリなどに含有されるTiO2 をいう。
【0025】金属炭酸塩:金属炭酸塩は、立向姿勢での
スラグの流動性を若干良くし、棒焼け防止にも効果があ
る。しかし、過剰になるとスパッタが増加するので、1
0〜30%に制限する。なお、ここでいう金属炭酸塩と
は、CaCO3 やMgCO3などをいう。
【0026】金属ふっ化物:金属ふっ化物は、アークの
集中性を損なわせずに適度にアークの吹付けを強くする
ため、融合不良などの溶接欠陥防止に効果的である。こ
のような効果は、添加量が3%以上で顕著に現れるが、
15%を超えるとアークの吹付けが強くなり過ぎるの
で、3〜15%に制限する。なお、ここでいう金属ふっ
化物とは、CaF2 やMgF2 などをいう。
【0027】また、本発明方法で使用する被覆アーク溶
接棒の被覆剤においては、上記の成分の他に、良好な溶
接作業性や生産性確保のために、FeO,SiO2 ,A
23 ,CaO,MgO,K2 O,Na2 Oなどの金
属酸化物を添加することができるが、金属酸化物の合計
が10%を超えるとスパッタが増加するので、上限を1
0%とする。
【0028】第3に、本発明において、溶接金属のミク
ロ組織を限定した理由を説明する。 ミクロ組織:溶接金属のミクロ組織は、強度、衝撃靭
性、硬さ、耐食性という複数の要求特性を同時に満足す
るために、オーステナイト+フェライトの2相組織であ
ることが必要である。フェライト単相あるいはフェライ
トが70%以上の組織では、衝撃靭性が悪い、一方、オ
ーステナイト単相あるいはオーステナイトが70%以上
の組織では、溶接金属の強度が不足する。また、溶接金
属の組織がマルテンサイト単相あるいはマルテンサイト
が50%以上の組織であると、硬さが硬く、衝撃靭性に
乏しい。
【0029】オーステナイト+フェライトの2相組織と
することで、溶接金属の強度が高まる一方で、硬さが過
剰に上昇することを防止し、従って溶接に際して予熱あ
るいは後熱処理を施さなくても、溶接割れは発生せず、
さらに優れた衝撃靭性が得られる。ここで、溶接金属中
のオーステナイト分率が、30%未満ではフェライト分
率が過大になって、溶接金属の衝撃靭性が低下するとと
もに、フェライト硬さが高くなり過ぎる。一方で、オー
ステナイト分率が70%を超えると、成分をいかに調整
しても溶接金属の強度を確保することが困難になる。従
って、溶接入熱が8000〜40000kJ/cmの被覆ア
ーク溶接で、溶接金属のオーステナイト分率は30〜7
0%の範囲とすることが重要かつ必要である。
【0030】本発明方法では、ラインパイプや圧力容器
等の溶接に一般的に良く使用される被覆アーク溶接を対
象とする。溶接は、自動、半自動、手動、のいずれでも
良く、特に限定されるものではない。
【0031】本発明が対象とする高Cr鋼は、Cr量が
7.5〜18.0%であって、ミクロ組織がマルテンサ
イト単相、あるいはマルテンサイトを50%以上とし
て、残部フェライトを含むもので、高強度が要求される
鋼である。ここで、マルテンサイトが50%未満になる
と強度が充分ではなく、Cr量が18%超では、マルテ
ンサイトが50%以上確保できない、また、Cr量が
7.5%未満では耐食性が充分ではなくなる。本発明は
母材の降伏強度が483N/mm以上である場合に特に
有効であり、母材の強度が551/mm以上である場合
にはさらに一段と有効である。
【0032】高Cr鋼ではあっても、該鋼の組織がフェ
ライト単相、あるいはフェライトが50%超からなる場
合には、鋼自体の強度が必ずしも高くはないので、本発
明方法を適用する必要がない場合が多い。それは、こう
した鋼は、主として加工性を要求される薄板として使用
される場合が多く、母材あるいは溶接部の衝撃靭性に対
する要求がないか、あっても要求レベルが低いためであ
る。また、溶接部に要求される強度も、さほど高くない
からである。勿論、組織がフェライト単相、あるいはフ
ェライトが50%超からなる高Cr鋼に本発明方法を適
用しても、何ら問題はない。
【0033】本発明が対象とする高Cr鋼においてはC
r量が前述の範囲であれば、他の成分は特に限定される
ものではなく、いずれも適用可能である。本発明は、ラ
インパイプなどの鋼管の円周溶接に適用することは、勿
論可能であるし、圧力容器や構造物に使用される、鋼板
の溶接に適用することも勿論可能である。
【0034】
【実施例】以下に本発明の実施例について説明する。表
1に成分を示す高Cr鋼管(外径273.1mm、肉厚1
1.1mm)を母材とし、表2に成分を示す供試心線と表
3に示す被覆剤を表4に示す組み合わせにより作成した
被覆アーク溶接棒を用いて溶接継手を作成した。下向姿
勢での溶接条件は溶接電流;140A(AC)、アーク
電圧;22〜26V、溶接速度;20〜25cm/minとし
た、また、立向姿勢での溶接条件は溶接電流;100A
(AC)、アーク電圧;22〜24V、溶接速度;5〜
10cm/minとし、いずれも溶接に際して、予熱はまった
く適用せず、溶接後の熱処理も行っていない。なお、表
1の鋼管は、鋼管として製造された後に、焼入−焼戻熱
処理を施して、いずれも降伏強度を551N/mm2 以上
とした鋼管である。表4には各被覆アーク溶接棒を適用
した鋼管のNo.を記した。また、各溶接継手の断面に
ついて、エッチングして溶接金属の組織を現出した後
に、オーステナイト分率をポイントカウント法で測定し
た結果を、表4中にあわせて記載した。
【0035】次に、各々の溶接継手から、溶接金属に切
欠が位置するようにJIS4号衝撃試験片(フルサイ
ズ)を採取した後に、衝撃試験を実施した。溶接金属の
最高硬さは、荷重1kgのビッカーズ硬さとして測定し
た。溶接線に直交する方向において、平行部に溶接金
属、溶接熱影響部、母材を含むように、JIS5号引張
試験片を採取し、室温で引張試験を行った。一方、各溶
接継手の溶接金属から試験片を採取して、湿潤炭酸ガス
環境における腐食試験を行った。湿潤炭酸ガス環境にお
ける腐食試験条件としては、試験温度120℃のオート
クレーブ中で、炭酸ガス40気圧の条件で5%NaCl
水溶液中に30日間浸漬して、試験前後の重量変化から
腐食速度を算出した。腐食速度の単位はmm/yで表わした
が、一般にある環境におけるある材料の腐食速度が0.
1mm/y未満の場合、材料は充分耐食的であり、使用可能
であると考えられている。
【0036】各試験結果を表5に示した。表5の衝撃試
験結果において、○は破面遷移温度が−30℃以下、×
は破面遷移温度が−30℃を超えて0℃以下、××は破
面遷移温度が−0℃超であったことをそれぞれ表わして
いる。引張試験結果においては、○は母材部で破断し、
溶接金属部では破断しなかったもの、×は溶接金属部で
破断したものを表わしている。腐食試験結果としては、
腐食速度を示した。
【0037】表5から明らかなように、本発明例である
No.1〜5は、溶接作業性および溶接金属の衝撃靭性
が優れ、溶接金属の強度が高く、(溶接金属では破断し
ない)、溶接金属の最高硬さは低く、かつ溶接金属の耐
食性が優れるという、多数の要求特性を同時に満足でき
ることがわかる。また、これらの特性は、溶接時の予熱
あるいは後熱処理を施さない、溶接ままで得られてい
る。
【0038】これに対して、比較例であるNo.6は溶
接材料が低合金鋼ベースであるために、溶接金属の耐食
性と靭性が著しく悪い。比較例No.7は13%Cr−
4Ni共金系であって、溶接ままでは焼入ままのマルテ
ンサイト組織であり、溶接金属の硬さが非常に硬い。ま
た、比較例No.8はオーステナイト系溶接材料である
が、耐食性と衝撃靭性は良いものの、溶接金属の強度が
非常に低く、まったく不充分である。比較例No.9は
フェライト+オーステナイト2相混合組織ではあるもの
の、成分が適切ではなく、かつ溶接金属のオーステナイ
ト分率が不適切であるために、溶接金属の衝撃靭性が著
しく悪い。比較例No.10,11は被覆剤が適切でな
いため、靭性、強度、耐食性等の溶接金属の特性は優れ
ているが、溶接作業性は悪い。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
【発明の効果】以上述べたように、本発明は耐食性、強
度および靭性に優れた高Cr鋼の溶接方法を提供するこ
とを可能としたものであり、産業の発展に貢献するとこ
ろが極めて大である。
フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C22C 38/18 38/40 (72)発明者 三宅 聰之 千葉県富津市新富20−1 新日本製鐵株式 会社技術開発本部内

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、Cr:7.5〜18.0%を
    含有し、ミクロ組織がマルテンサイト単相、またはマル
    テンサイト50%以上および残部フェライトからなる高
    Cr鋼の溶接方法において、 重量%で、 C :0.005〜0.12%、 Si:0.01〜1.0%、 Mn:0.02〜3.0%、 Cr:18.0〜28.0%、 Ni:5.0%〜10.0%、 Al:0.005〜0.5%、およびMoおよびWの1
    種または2種をMo+0.5W:1.0〜5.0%、と
    なるように含有し、さらに、 Pを0.03%以下、 Sを0.01%以下に制限し、残部Feおよび不可避不
    純物からなるステンレス鋼心線に、 被覆剤全重量%で、 チタン酸化物:25〜60%、 金属炭酸塩 :10〜30%、 金属ふっ化物:3〜15%を含有する被覆剤を塗布した
    被覆アーク溶接棒を用いて溶接し、溶接金属のミクロ組
    織をオーステナイトとフェライトの2相組織とし、オー
    ステナイト分率を30〜70%とすることを特徴とする
    高Cr鋼の溶接方法。
  2. 【請求項2】 請求項1のステンレス鋼心線に、さらに
    重量%で、 Cu:0.05〜3%、 N :0.005〜0.2%の1種または2種を含有す
    ることを特徴とする請求項1記載の高Cr鋼の溶接方
    法。
  3. 【請求項3】 請求項1、あるいは2のステンレス鋼伸
    線に、さらに重量%で、Nb,V,Ti,Zr,Taの
    1種または2種以上で合計0.01〜1.0%を含有す
    ることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の高Cr
    鋼の溶接方法。
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