本実施の形態にかかるロータについて図面を用いて説明する。ロータは回転電機、例えばIPM(Interior Permanent Magnet)モータに用いられる。回転電機は、従来と同様に、圧縮機などに適用できる。
図1に本実施の形態にかかるロータ10の斜視図を示す。ロータ10は、ロータコア24とボンド磁石26とを備える。ロータコア24は、第1コアシート12を複数枚積層した二つのコアブロック14a,14bと、仕切りコア20dとを有する。第1コアシート12が積層される方向は、それぞれの厚さ方向であって、かつロータ10の回転軸Jに平行な軸方向である。仕切りコア20dは、軸方向において、コアブロック14a,14bに挟まれる。
コアブロック14aには磁石孔16aが、コアブロック14bには磁石孔16bが、仕切りコア20dには磁石孔22dが、それぞれ軸方向に沿って貫かれる。一つの磁石孔22dは、一つの磁石孔16aおよび一つの磁石孔16bと連通する。これら互いに連通する3つで一組の磁石孔16a,16b,22dは、一つの磁石孔28を形成する。
ボンド磁石26は磁石孔28を充填する。具体的にはボンド磁石26はボンド磁石26a,26b,26dを有し、それぞれ磁石孔16a,16b,22dを充填する。磁石孔28の数は任意であるが、ロータコア24の外周にN極とS極が交互に形成されるようにボンド磁石26が充填される。
第1コアシート12には貫通孔が設けられる。第1コアシート12が積層されることで、当該貫通孔は磁石孔16a,16bを実現する。このロータ10ではコアブロック14aに磁石孔16aが、コアブロック14bに磁石孔16bが、いずれも4個設けられている。
仕切りコア20dは第2コアシート18で構成される。仕切りコア20dに使用される第2コアシート18の枚数は、1枚の場合もあるし、軸方向に積層された複数枚の場合もある。第2コアシート18には貫通孔が設けられる。仕切りコア20dが含む第2コアシート18が1枚の場合には当該貫通孔が磁石孔22dとして機能する。
仕切りコア20dが積層された複数の第2コアシート18を含む場合には、当該貫通孔が磁石孔22dを実現する。磁石孔22dは、磁石孔16a,16bと同数設けられ、ここではその個数が4個の場合が例示されている。
第1コアシート12および第2コアシート18は軟磁性体の電磁鋼板を打ち抜き加工して形成して得ることができる。第1コアシート12および第2コアシート18の厚みは、例えば約0.2~1mmであり、好ましくは約0.3~0.5mmである。第1コアシート12および第2コアシート18の表面には絶縁膜が被覆され、積層された第1コアシート12間、および第2コアシート18間の渦電流を防止する。第1コアシート12および第2コアシート18の外周形状は、円形またはほぼ円形になっている。
ロータコア24は全体として円筒形状をしている。コアブロック14aとコアブロック14bとの間に仕切りコア20dが挟まれるので、ロータコア24の軸方向の両端にコアブロック14a,14bが配置される。
図2、図3、図4は、それぞれ図1の位置II―II,III-III,IV-IVにおけるロータ10の軸方向に垂直な断面図である。これらの図において軸方向は紙面垂直方向となる。位置II―II,III-III,IV-IVはそれぞれコアブロック14a、仕切りコア20d、コアブロック14bが存在する軸方向の位置を示す。
ロータコア24では段スキューが設けられる。コアブロック14aでは磁石孔16aの周方向Kの位置は一定であり、コアブロック14bでは磁石孔16bの周方向Kの位置は一定であり、仕切りコア20dでは磁石孔22dの周方向Kの位置は一定である。1つの磁石孔22dと、当該磁石孔22dに連通する磁石孔16aと、当該磁石孔22dに連通する磁石孔16bとは、周方向Kの位置が互いにずれている。図2、図3、図4ではかかる段スキューを明確にするため、ロータコア24の周方向Kの位置が揃っている。
図5は一つの同じ磁石孔22dと連通する磁石孔16a,16bを重ねて示す、軸方向に沿って見た平面図である。図6は当該一つの磁石孔22dを示す、軸方向に沿って見た平面図である。図5、図6のいずれにおいても軸方向は紙面垂直となる。磁石孔22dを軸方向に直交する平面に投影した形状は、磁石孔16aを当該平面に投影した形状と、磁石孔16bを当該平面に投影した形状とを重ね合わせた形状である。
図2、図3、図4を参照して、磁石孔16aは回転軸Jと同じ側の面16asおよび回転軸Jと反対側の面16anを有し、磁石孔16bは回転軸Jと同じ側の面16bsおよび回転軸Jと反対側の面16bnを有する。そしてこれらの面16as,16an,16bs,16bnの間に軸方向に沿って見て下記の位置関係がある場合には、磁石孔22dの外周は、これと連通する磁石孔16aの外周と磁石孔16bとを重ねた際に最も広くなった部分と一致する(図5、図6参照):面16anは面16bsと交差せずに面16bnと交差し、面16asは面16bnと交差せずに面16bsと交差する。
ボンド磁石26は、例えば磁石孔28の中に射出成形によって磁石材料を充填し、着磁によって形成される。ボンド磁石26には異方性を有するボンド磁石を使用する。磁石材料は、バインダ樹脂に磁性粉または磁性粒を混入したものである。バインダ樹脂は、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポニフェニレンサルファイド、液晶ポリマーなどである。磁性粉または磁性粒としてネオジムを含む異方性を有する磁性粉または磁性粒が挙げられ、例えばNdFeBが挙げられる。NdFeBの磁性粉または磁性粒のみではなく、SmFeNなどの磁性粉または磁性粒を混合しても用いてもよい。
磁石孔28は複数設けられる。但し、仕切りコア20dを挟む2つのコアブロック14a,14bの第1コアシート12の積層方向から見て、一のボンド磁石26が埋め込まれた磁石孔16aは、他のボンド磁石26が埋め込まれた磁石孔16bと重ならない。従って一の磁石孔28と他の磁石孔28が連通することは無い。
回転軸Jについての径方向において、コアブロック14aに複数の磁石孔16aが、コアブロック14bに複数の磁石孔16bが、仕切りコア20dに複数の磁石孔22dが、それぞれ設けられても同様のことが言える。つまり、一つの磁石孔22dを介して一つの磁石孔16aと連通する一つの磁石孔16bは、他の磁石孔16aとは連通しない。
図7は磁石孔22dにおけるボンド磁石26dの磁化の方向を示す断面図である。図7において軸方向mを併記した。磁石孔22dに埋め込まれたボンド磁石26dは、コアブロック14bに面した部分30が、軸方向mに磁化している。ボンド磁石26は単体で着磁するのではなく、ロータコア24内に射出された状態で着磁される。よって磁石材料が磁化するときに、磁石材料に接するコアブロック14bに対して垂直方向に磁化の方向が向く。ボンド磁石26が異方性を有する場合には、当該ボンド磁石26を形成するのに採用される磁石材料を射出成形時に磁場を掛けることで、コアブロック14bに対して垂直方向に磁化が発生する。
図8は、互いに連通する磁石孔16a,16b,22dにおけるボンド磁石26a,26b,26dの形状の関係を示す断面図である。但し、下記領域での位置における軸方向に平行な断面が示され、軸方向を図8の上下方向に採用した:軸方向に沿って見て面16bsと面16bnとの間に面16anが位置する領域(図5も参照)。
磁石孔16bの幅をwとし、磁石孔16bの磁石孔16aに対するずれ(当該領域においては面16an,bn間の距離)の最大値をd、仕切りコア20dの厚みをtとする。図5では磁石孔16a,16bはいずれも回転軸Jに対して凸となる弧状を呈する(図1~図4も参照)ので、最大値dは、面16an,16bnのそれぞれの端部の間で得られる。また当該領域ではd<wとなる。
図8の断面で考えると、ボンド磁石26dの減磁の大きさは、面16anの軸方向における磁石孔22d側の端と、面16bsの軸方向における磁石孔22d側の端との間の距離Lで決定される。L={(w-d)2+t2}1/2である。
ボンド磁石26bの減磁の大きさは幅wで決定される。幅wが薄くなるほどボンド磁石26bは減磁しやすくなり、所望の磁束を得にくくなる。したがって、幅wは、ボンド磁石26bから必要な磁束が得られる厚みよりも厚くすることが望ましい。距離Lについても同様であり、L≧wであると、ボンド磁石26dについても必要な磁束が得られ易い。つまり、仕切りコア20dは{d(2w-d)}1/2以上の厚みtを有することが望ましい。さらには、本発明を採用しない場合に比べて磁石を多く使うことになるが、それに応じた磁極面積を得られるため、ロータコア24全体の軸方向の厚さを小さくすることさえ可能である。
図9は,ロータ10とステータ7とを用いた回転電機6を示す断面図であり、軸方向に垂直な断面を示す。但し、図面の簡略のため、ロータ10およびステータ7のいずれについても詳細な構成は省略した。図1も参照して、ロータコア24の中心に回転軸用孔32が開けられる。回転軸用孔32には回転シャフト8が入れられて固定される。回転電機6が圧縮機に適用される場合、当該回転シャフト8は圧縮機構(不図示)まで延び、当該圧縮機の回転シャフトとしても機能する。ステータ7はロータ10の、従ってロータコア24の径方向外側の側方を囲んで配置される。ステータ7はコイル(図示省略)を備え、コイルに電流を流して発生させた磁場によって、ロータ10が回転する。
コアブロック14a,14bと仕切りコア20dとは互いに固定される。例えば、第1コアシート12、および第2コアシート18に締結用孔(図示省略)を設け、これに固定部材(図示省略)を挿入してコアブロック14a,14bと仕切りコア20dとを互いに固定する。例えば、固定部材はボルトとナット、またはリベットなどであり、ボルトあるいはリベットは、の軸が締結用孔に入れられて固定される。また、第1コアシート12、および第2コアシート18同士をカシメによって固定しても良い。
次に、ロータ10の製造方法について説明する。(1)電磁鋼板を準備し、これを所定形状に打ち抜く加工(「打ち抜き加工」)をおこない、第1コアシート12、および第2コアシート18を形成する。第1コアシート12と第2コアシート18とは外形が同じであるので、それぞれに共通の外形を形成した後、磁石孔16a,16b,22dを、別々の工程で打ち抜き加工して得ても良い。
上記のように磁石孔22dの形状は、例えば周方向Kに沿ってずれた位置にある磁石孔16aの投影と磁石孔16bの投影とを重ね合わせた形状である。したがって、磁石孔16a,16bを形成する共通の金型を使用し、第2コアシート18に対して2回の打ち抜き加工をおこなっても良い。1回目と2回目の打ち抜き加工において第2コアシート18を周方向Kに沿ってずらすことで、磁石孔22dを形成することができる。
なお、第1コアシート12、および第2コアシート18には、回転軸用孔32や締結用孔が必要であり、これらの孔も打ち抜き加工で形成する。
(2)ロータコア24を形成する。ロータコア24を形成する方法は、(a)第1コアシート12を所定枚数積層してコアブロック14bを形成し、(b)その上に第2コアシート18を所定枚数積層して仕切りコア20dを形成し、(c)さらにその上に第1コアシート12を所定枚数積層してコアブロック14aを形成する。第1コアシート12、および第2コアシート18を積層しながら、コアブロック14a,14bで仕切りコア20dが挟まれるように積層していく。
仕切りコア20dを挟み込む2つのコアブロック14a,14bは、磁石孔16a,16bがロータコア24の周方向Kにおいて互いにずれるように積層される。
上記(c)の後、必要に応じて(b)と(c)を繰り返すことで、必要な数のコアブロックと仕切りコアとが積層されたロータコアが形成される。
なお、所定個数のコアブロックと仕切りコアとを形成した後に、一対のコアブロックで仕切りコアが挟まれるように積層しても良い。
(3)第1コアシート12、および第2コアシート18が積層されただけでは第1コアシート12と第2コアシート18とが外れるため、上述した固定部材で固定する。更に、回転軸用孔32に回転シャフト8(図9参照)を入れて、固定する。
(4)磁石孔28にボンド磁石26を充填する。ボンド磁石26の充填は、上述した磁石材料を射出成形によって磁石孔28に流し込み、外部から磁場を印加して着磁し、流し込まれた磁石材料を硬化させることで実現される。
上記工程によってロータ10を製造する。ロータ10は、環状のステータ7の内側に配置され、回転電機6が得られる。
上記のように仕切りコア20dを形成する第2コアシート18は電磁鋼板であり、従来のように非磁性体ではない。よって従来のロータにあったトルクに寄与しない磁石が削減される。
上記のように仕切りコア20dでも減磁の影響が出ない形状が得られるので、仕切りコア20dからも必要な磁束が得られる。1つの磁石孔28にボンド磁石26を一体成型できるため、製造が容易である。異方性を有するボンド磁石26を使用することで、等方性のボンド磁石よりも磁束密度を高めることができる。磁石孔28がスキューしているので、スキューしていないロータに比べてコギングトルクが小さく、ロータのトルクが高い。
以上のように本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば、磁石孔16aや磁石孔16bの軸方向に沿って見た形状は円弧状に限定されず、直線状であっても良い。磁石孔16a,16bの形状に合わせて、磁石孔22dの形状も変更する。
コアブロックの数が3以上であってもよい。この場合、磁石孔をスキューさせる方向は一定とは限らない。図10はロータ40の構成を示す斜視図である。ロータ40はロータコア44と、ボンド磁石26a,26b,26c,26d,26eとを備える。
ロータコア44は三つのコアブロック14a,14b,14cと、二つの仕切りコア20d,20eとを有する。軸方向においてコアブロック14a,14bは仕切りコア20dを、コアブロック14b,14cは仕切りコア20eを、それぞれ挟む。
コアブロック14cはコアブロック14a,14bと同様にして、仕切りコア20eは仕切りコア20dと同様にして、それぞれ得られる。コアブロック14cには磁石孔16cが軸方向に貫き、磁石孔16cにはボンド磁石26cが充填される。仕切りコア20eには磁石孔22eが軸方向に貫き、磁石孔22eにはボンド磁石26eが充填される。
スキューの方向を除き、磁石孔22eの磁石孔16b,16cに対する位置関係は、磁石孔22dの磁石孔16a,16bに対する位置関係と同様である。
磁石孔16bは磁石孔16aに対して周方向Kの一方向R1にスキューする。磁石孔16cは磁石孔16bに対して周方向Kの他方向R2にスキューする。つまり磁石孔28はロータコア44の軸方向の一端から他端に向かう間に、一方向R1にスキューし、その後に他方向R2にスキューする。磁石孔16a,16b,16cをスキューさせる方向は限定されない。
実際の磁石孔28のスキューのさせ方は、回転電機のコギング周期の半分の角度ずつずらすことが考えられる。例えば、4極6スロット集中巻の回転電機の場合、コアブロックはその磁石孔が回転軸を中心として15°ずれるように積層される。コアブロックの磁石孔をずらす角度は、ロータコアの軸方向に沿った一端から他端にかけての角度である。
例えば、二つのコアブロック14a,14bが設けられるロータコア24では磁石孔16bが磁石孔16aに対して15°ずれるように、コアブロック14a,14bが積層される。また、ロータコアに四つのコアブロックが設けられる場合には、一定方向にスキューを設けるのであれば、コアブロックの磁石孔が軸方向に沿って順次5°ずつずれるようにコアブロックが積層される。
図10のように磁石孔28を一方向と他方向にスキューさせる場合、磁石孔16bを磁石孔16aに対して一方向R1に15°ずらし、磁石孔16cを磁石孔16bに対して他方向R2に15°ずらす。一方向R1と他方向R2にスキューさせる場合、1本の磁石孔28において、最大のずれ量が15°になれば良い。
図1で示されたロータ10、および図10で示されたロータ40は、いずれもインナーロータであった(図9も参照)。しかしアウターロータに本願を適用しても良い。アウターロータにおいて、少なくとも一つの仕切りコアと、仕切りコアを軸方向に挟む複数のコアブロックとが積層されたロータコアを採用する。
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。