WO2016043289A1 - 有機酸の製造方法 - Google Patents

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Abstract

 発酵により糖から有機酸を製造する方法において、有機酸の製造効率を向上させる。 発酵設備内で、遺伝子組換えにより有機酸を発酵生産できる能力を付与した分裂酵母によって糖を発酵させて有機酸を産生させ、前記発酵設備から抜き出した発酵液から有機酸を得る、有機酸の製造方法であって、下記発酵工程と該発酵工程に続く下記抜出工程との組合せを少なくとも2回繰り返すことを特徴とする。 発酵工程:発酵設備内に糖を含む原料液を加えて発酵開始時点の糖濃度を20g/L以上とし、発酵液の溶存酸素濃度を5ppb以上、500ppb以下に制御しながら発酵を行う工程。 抜出工程:発酵液の糖濃度が予め設定された糖濃度x(単位:g/L、x≦10)に達した時点で開始される、発酵設備から発酵液の一部を抜き出す工程であって、所定量の発酵液を抜き出して終了する工程。

Description

有機酸の製造方法
 本発明は、形質転換された分裂酵母を用いた発酵により有機酸を製造する方法に関する。
 例えば有機酸である乳酸は食品用途や、医療、化粧品等の化学原料用途に広く用いられている。また、乳酸を用いて得られるポリ乳酸は、微生物等により最終的に二酸化炭素と水にまで分解される生分解性プラスチックとして注目されている。そのため、乳酸等の有機酸を安価に高い生産性で製造することが必要である。
 乳酸の製造方法としては、乳酸菌により糖を発酵させ製造する生物学的方法が知られている。
 下記特許文献1および2には、形質転換された特定の分裂酵母を、糖を含む培養液中で培養することにより、解糖系により該糖から得られるピルビン酸が、乳酸脱水素酵素により還元されて乳酸が産生され、該乳酸を培養液から分離して取得する方法が記載されている。
 特許文献1および2には、培養方法として回分培養と連続培養が記載されている。連続培養法では、例えば、培養中の培養槽から培養液の一部を引き抜き、引き抜いた培養液から菌体を分離して乳酸を含む発酵液を得るとともに、菌体を含む培養上清を回収し、該培養上清にグルコースや新たな培養液を加えて培養槽に戻すことを繰り返して、連続的に培養する方法が記載されている。
 下記特許文献3には、出芽酵母であるサッカロミセス・セレビシエを用い、バッチ発酵(pH5.0に自動制御)によりグルコースから乳酸塩を得た発酵試験例が記載されている。具体的に、グルコースを含有する無機培地を用い、pHを5.0に自動制御しながら、酸素供給(溶存酸素濃度)を一定に保つと、酸素が制限(微生物の酸素要求量より酸素濃度が低い状態)になるまでバイオマスが指数関数的に増加し、酸素が制限になるとグルコースが消費されて乳酸塩およびピルビン酸塩が生産されたことが記載されている。グルコースが枯渇したらすぐに追加のグルコースを添加したことが記載されている。
国際公開第2011/021629号 国際公開第2014/030655号 特表2006-525025号公報
 特許文献1および2記載の方法において、培養槽から培養液の一部を引き抜いて得られる液には、菌体、乳酸、残った糖が含まれている。かかる液に対して固液分離を行うと菌体は分離できるが、乳酸と糖を分離することは容易でない。このため、固液分離後の発酵液を精製する際に、糖に起因する着色が生じ易いという問題がある。
 また本発明者等の知見によると、仮に培養槽において糖の全部が消費されるまで発酵を行った場合、糖がなくなった状態の培養槽中の培養液、および引き抜かれた培養液において、乳酸が経時的に減少する場合がある。これは菌体が飢餓状態となったために乳酸が消費されたと考えられる。かかる乳酸の減少が生じると、乳酸の製造効率が低下する。
 本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、発酵により糖から有機酸を製造する方法において、有機酸の製造効率を向上させることを課題とする。
 本発明の有機酸の製造方法は、発酵設備内で、遺伝子組換えにより有機酸を発酵生産できる能力を付与した分裂酵母によって糖を発酵させて有機酸を産生させ、前記発酵設備から抜き出した発酵液から有機酸を得る、有機酸の製造方法であって、下記発酵工程と該発酵工程に続く下記抜出工程との組合せを少なくとも2回繰り返すことを特徴とする。
 発酵工程:糖を含む原料液が加えられた、発酵開始時点の糖濃度が20g/L以上である発酵液を用い、発酵液の溶存酸素濃度を5ppb以上、500ppb以下に制御しながら糖の発酵を行う工程。
 抜出工程:発酵液の糖濃度が予め設定された糖濃度x(単位:g/L、x≦10)に達した時点で開始される、発酵設備から発酵液の一部を抜き出す工程であって、所定量の発酵液を抜き出して終了する工程。
 前記発酵工程の前に下記原料液供給工程を有することが好ましい。
 原料液供給工程:発酵設備内に糖を含む原料液を導入する工程。
 また、前記抜出工程において発酵液の溶存酸素濃度を5ppb以上に維持することが好ましい。
 さらに、前記抜出工程において、発酵設備内の発酵液を、菌体を含まない発酵液と菌体を含む発酵液とに分離して、前記菌体を含まない発酵液を抜き出し、前記菌体を含む発酵液を発酵設備内に残すことが好ましい。
 さらにまた、前記糖濃度xは1g/L以下であることが好ましい。
 前記形質転換された分裂酵母は、有機酸とエタノールとを併産する分裂酵母であるが好ましい。この場合、前記糖濃度xが1g/L以下かつ発酵液のエタノール濃度が1g/L以上に達した時点で抜出工程を開始することが好ましい。
 前記抜出工程において、前記発酵工程における発酵を継続しながら発酵液を抜き出すことが好ましい。この場合、前記抜出工程における発酵液の溶存酸素濃度を、60ppb以上、6000ppb以下の範囲内で、かつ抜出工程を開始する直前の溶存酸素濃度よりも50ppb以上高い濃度に制御して発酵を継続することが好ましい。
 前記発酵工程における発酵液のpHは1.5~4.5の範囲内にあることが好ましい。前記発酵工程においては中和による発酵液のpH調整を行わないことが好ましい。
 また、前記発酵設備が、発酵槽、液体を発酵槽に導入する液供給経路、発酵槽に酸素を供給する酸素供給手段、および、発酵槽から排出される発酵液を菌体を含まない分離液と菌体を含む非分離液とに分離する固液分離手段、を有し、発酵液の抜き出しを前記固液分離手段を介して菌体を含まない分離液を抜き出すことにより行うことが好ましい。この場合、前記固液分離手段によって分離された分離液を発酵設備から抜き出し、非分離液を発酵槽に戻すことが好ましい。
 前記分裂酵母は、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)であることが好ましい。
 前記有機酸は乳酸またはリンゴ酸であることが好ましい。
 本発明によれば、発酵により糖から有機酸を製造する方法において、有機酸の製造効率を向上させることができる。
本発明の有機酸の製造方法の一実施形態の説明図である。 本発明の有機酸の製造方法の一実施形態の説明図である。 本発明の有機酸の製造方法の一実施形態の説明図である。 実施例1の結果を示すグラフであり、図4(A)は発酵槽内の成分濃度を示したグラフ、図4(B)は発酵槽内の溶存酸素濃度を示したグラフである。 試験例1の結果を示すグラフである。 比較試験例1の結果を示すグラフである。 実施例2の結果を示すグラフであり、図7(A)は発酵槽内の成分濃度を示したグラフ、図7(B)は発酵槽内の溶存酸素濃度を示したグラフである。 試験例2の結果を示すグラフである。 比較試験例2の結果を示すグラフである。 実施例3の結果を示すグラフである。 試験例3の結果を示すグラフである。
 本発明において、「遺伝子組換えにより有機酸を発酵生産できる能力を付与した分裂酵母」を「形質転換した分裂酵母」ともいう。以下、単に菌ということもある。
 本発明において、発酵とは形質転換した分裂酵母を用いて原料の糖を有機酸に転換する処理をいう。
 本発明における発酵液とは、発酵中の液および発酵を経て発酵が終了した液を意味し、発酵により生成した有機酸を含む。発酵液には原料の糖が含まれていてもよく、発酵中の発酵液には形質転換した分裂酵母(生菌)が含まれる。なお、発酵開始時点の糖と分裂酵母(生菌)を含む(有機酸を含まなくてもよい)液も発酵液という。
 本発明における原料液とは、糖を含む液をいい、形質転換した分裂酵母(生菌)を含まない。
<形質転換した分裂酵母>
 本発明では発酵能を有する微生物として遺伝子を組換えにより有機酸を発酵生産できる能力を付与した分裂酵母を用いる。分裂酵母はシゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces属)の微生物である。
 本発明において「遺伝子を組換えた」分裂酵母とは遺伝子工学的手法により人為的に遺伝子を改変させた分裂酵母(すなわち、形質転換した分裂酵母)を意味する。特に本発明においては、遺伝子の改変により有機酸を発酵生産できる能力が付与された分裂酵母を用いる。なお遺伝子の改変は、異種生物由来の遺伝子の組み込みを必須とする。さらに、遺伝子を改変させた分裂酵母は、分裂酵母が本来有する遺伝子の一部の削除または染色体上の別の部位への挿入が行われていてもよい。
 宿主の分裂酵母としては、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、シゾサッカロミセス・ジャポニカス(Schizosaccharomyces japonicus)、シゾサッカロミセス・オクトスポラス(Schizosaccharomyces octosporus)等が挙げられる。上記分裂酵母のうち、耐酸性が高く、有機酸の生産能力が高い点からシゾサッカロミセス・ポンベ(以下、S.pombeともいう)が好ましい。
 形質転換した分裂酵母としては、有機酸を発酵生産できる能力を付与するために、その能力を付与できる外来遺伝子(例えば、乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子)を導入した分裂酵母が好ましい。また、有機酸の生産とエタノールの生産が拮抗して有機酸の生産効率がエタノールの生産により低下する場合は、分裂酵母のエタノールの生産に関連する遺伝子(例えば、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子)を欠失または失活させた分裂酵母が好ましい。
 本発明における形質転換した分裂酵母としては、後述のように、宿主本来のエタノール生産能よりも低いがある程度のエタノール生産能を有している分裂酵母が好ましい(例えば、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子群の一部の遺伝子のみを欠失または失活させた分裂酵母)。このような形質転換した分裂酵母は、後述のように、糖の利用効率を最終的に高くしやすく、工業的生産に好適である。かかる分裂酵母の具体例としては、例えば、WO2011/021629(特許文献1)、WO2014/030655(特許文献2)、WO2013/137277に記載された、遺伝子を組換えた分裂酵母が挙げられる。乳酸を製造する場合は、特に、外来の乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子(ldh遺伝子)を導入し、かつ分裂酵母が本来有するピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子(pdc遺伝子)群のうちpdc2遺伝子のみを欠失または失活させた、分裂酵母が好ましい。
 このような形質転換した分裂酵母は、また、特定の発酵条件(特に酸素濃度)を好適範囲に制御することにより、ほとんど増殖することなく糖から目的とする有機酸を生産することができる。
<糖>
 発酵原料の糖は、形質転換した分裂酵母が直接資化して有機酸を生産できるものであればよい。糖の好ましい例としては、リボース、アラビノース、キシロース等の五炭糖;グルコース、フルクトース、ガラクトース等の六炭糖;スクロース、トレハロース、セルビオース、マルトース等の二糖類;セルロース、デンプン等の多糖類等が挙げられる。
 これらのうち、資化が容易である点で六炭糖がより好ましく、グルコースが特に好ましい。
<原料液>
 原料液は、糖を含有する液(通常は水溶液)である。糖の他に、例えば、K、Na、Mg、Ca、Fe等の金属元素、ミネラル分(微量元素類)およびビタミン類を含んでいてもよい。
<有機酸>
 本発明では、形質転換した分裂酵母を用いて糖から有機酸を生産する。有機酸の例としては、酢酸、マロン酸、コハク酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、ピルビン酸、等が挙げられる。ここでヒドロキシカルボン酸は有機酸として考える。また光学異性体が存在する場合には、L体、D体またはラセミ体であってもよい。ただし工業的有用性が高いことから光学純度は高いことが好ましい。光学純度としては95%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。
 これらのうち汎用性が高く、市場の発展性(合成繊維用途や車載用途、代替プラスチック用途等)が望める点で、特に乳酸、リンゴ酸、コハク酸、3-ヒドロキシプロピオン酸が好ましく、乳酸とリンゴ酸が最も好ましい。
 本発明の有機酸の製造方法は、有機酸を、沈殿を形成させることなく水溶液として得る方法に特に好適である。
 また本発明の製造方法は、沸点が水(100℃)よりも高い有機酸の製造方法として特に好適である。本発明の製造方法のうち、発酵液から菌体を分離して得られる分離液が有機酸を含む水溶液である場合には、得られた有機酸と水を分離する手段として蒸留を適用することが考えられる。しかし一般に原料の糖は、蒸留では高沸成分または残渣として分離されることになる。この際目的とする有機酸の沸点が水より低い場合は蒸留での分離が容易である。一方、目的とする有機酸の沸点が水よりも高い場合には、目的とする有機酸と糖の分離が困難になりやすい。このため分離液に含まれる糖の濃度を下げることにより、有機酸の精製(特に蒸留精製)の負荷を低減することができる。
 本発明の有機酸の製造方法においては、発酵工程とそれに続く抜出工程の組合せを少なくとも2回繰り返す。この繰り返しによる発酵を、以下、反復回分発酵ともいう。
 発酵工程の前や抜出工程の後には他の工程を有していてもよい。通常、最初の発酵工程の前には発酵工程の準備のための工程(以下、準備工程という)を有し、最後の抜出工程の後には反復回分発酵を終了するための工程を有する。また、抜出工程とそれに続く次の発酵工程の間には、通常、原料液供給工程(発酵設備内に糖を含む原料液を導入する工程)を有する。原料液供給工程においては、発酵設備内の菌を含む発酵液に原料液が新たに加えられる。準備工程における原料液の導入も原料液供給工程(最初の原料液供給工程)とする。
 以下、本発明の有機酸の製造方法の一実施形態を例に、本発明をさらに説明する。この実施態様に使用される形質転換された分裂酵母は有機酸とエタノールとを併産する分裂酵母である。
 図1~3は、本発明の有機酸の製造方法の一実施形態を模式的に示した説明図である。
 図中符号1は発酵槽、2は原料液等の液体を供給する液供給経路、3は発酵液排出経路、4は戻り経路、10は固液分離手段、11は分離液排出経路をそれぞれ示す。図中、実線の矢印は液が流れている状態を表す。
 本発明において、「発酵設備」とは、発酵槽1および発酵槽1内と同じ状態にある系(発酵系)を構成する設備を意味する。すなわち図1~3において、発酵槽1、発酵液排出経路3、戻り経路4、および、固液分離手段10の一部(例えば膜分離装置であれば、膜の1次側)が発酵設備に含まれる。
 本実施形態において、発酵設備内(発酵系内)のある時点における液中の溶存酸素濃度は均一であるとみなし、発酵槽1内の液中溶存酸素濃度の値をその時点における発酵液の溶存酸素濃度とする。
 同様に、本実施形態において、発酵設備内(発酵系内)のある時点における液中の糖濃度は均一であるとみなし、発酵槽1内の液中糖濃度の値をその時点における発酵液の糖濃度とする。
 同様に、本実施形態において、発酵設備内(発酵系内)のある時点における液中のエタノール濃度は均一であるとみなし、発酵槽1内の液中エタノール濃度の値をその時点における発酵液のエタノール濃度とする。
 同様に、本実施形態において、発酵設備内(発酵系内)のある時点における液中の酸素濃度は均一であるとみなし、発酵槽1内の液中酸素濃度の値をその時点における発酵液の酸素濃度とする。
 図示していないが発酵槽1内の液に酸素を供給する酸素供給手段、該酸素の供給量を制御する手段、発酵槽1内の液中溶存酸素濃度を測定する手段、発酵槽1内の液中糖濃度をモニターする手段、発酵槽1内の液を均一に混合する手段、発酵槽1内の液温を所定の温度に保持する手段、および発酵槽1内の液を、発酵液排出経路3、固液分離手段10および戻り経路4を順に通って、発酵槽1へ送液する送液手段が設けられている。また必要に応じて各種測定装置を設けることができる。
 発酵槽1として、例えば気泡塔型発酵槽、撹拌翼付き発酵槽、管型発酵槽等が好適に用いられる。
 発酵槽1の容量は、特に限定されず適宜設定できる。本実施形態において発酵槽1の容量は、本実施形態の構成による効果が得られやすい点、および有機酸の製造効率の点で0.3L以上が好ましく、100L以上がより好ましく、1m以上がさらに好ましい。該容量の上限は定期保守・点検を行いやすい点からは1000m以下が好ましく、600m以下がより好ましい。
 酸素は通常、気体として発酵槽1内の液に供給される。供給される気体は、少なくとも酸素を含み発酵に悪影響のない気体であればよい。例えば、純酸素でもよく、酸素と、酸素以外の気体の1種以上(空気、窒素、二酸化炭素、メタン等)との混合気体でもよく、空気でもよい。入手容易であるため空気を用いることが好ましい。
 発酵槽1内の液に供給される気体の酸素濃度は、5~50体積%が好ましく、15~30体積%がより好ましい。該酸素濃度が上記範囲の下限値以上であると、菌が利用するために充分な量の酸素が供給しやすい。また該酸素濃度が上記範囲の上限値以下であると酸素濃度を高くする負荷が減るためガスの供給が容易になる。
 発酵槽1内の液中の液中溶存酸素濃度を測定する手段としては、一般的な溶存酸素計を用いることができる。
 発酵槽1内の液中糖濃度をモニターする手段としては、近赤外線センサー、酵素電極等を用いることができる。また試料を抜き出して高速液体クロマトグラフ(HPLC)法等で測定してもよい。
 固液分離手段10は、菌体を含む発酵液を、菌体を含まない分離液(菌体を含まない発酵液)と菌体を含む非分離液(菌体を含む発酵液)に分離する手段である。分離液は発酵設備から取り出され、非分離液は戻り経路4を通って発酵槽1に送られる。分離液および非分離液には有機酸が含まれる。ここにおいて、「菌体を含まない」とは、実質的に含まないことを意味する。湿重量で20g/L以下(好ましくは10g/L以下)の菌体(生菌)が含まれてもよい。
 固液分離手段10として、例えば、膜分離装置、遠心分離装置、抽出分離装置等が用いられる。菌体へのせん断応力等のストレスを抑制しやすい点、比較的装置の取り扱い性が容易である点で膜分離装置が好ましい。
 膜分離装置としては、発酵液中の有機酸を透過し、菌体を透過しない分離膜を備えたものであればよく、公知の膜分離装置を適宜用いることができる。分離膜は有機膜であってもよく、無機膜であってもよい。分離膜の材質として、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、セラミックス等が挙げられる。これらのうち比較的安価かつ耐久性が高く、安定供給が可能という点からは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンが好ましい。
 分離膜の形状は、特に限定されず、例えば平膜、中空糸膜などが挙げられる。
 分離膜は、平均孔径が0.01~3μmの細孔を有する多孔膜であることが菌体が透過しにくく、比較的高い透過流束(flux)を有する点で好ましい。分離膜の平均孔径は、0.1~0.65μmがより好ましい。
 膜分離装置の処理能力(透過流束)は、装置の規模によっても異なるが、例えば1~100L/m/hが好ましく、3~30L/m/hがより好ましい。
 予め形質転換された分裂酵母を含む培養液を調製することが好ましい。例えば、培養槽に液状の培地および菌体を供給し、酸素を含む気体を連続的に供給しつつ、所定の培養温度に保持することにより培養液を得る。培養槽内の培養液中の酸素濃度および培養温度は、菌体の増殖に適した培養条件に維持されるように制御される。通常、菌体の増殖に適した培養条件と、発酵による化成品の製造に適した発酵条件とでは好ましい酸素濃度条件が異なる。一般に発酵液中の好ましい酸素濃度は、培養に適した酸素濃度条件よりも低い。
 以下に、図1~3を用いて、本発明の有機酸の製造方法に関する実施態様の一例について説明する。
<準備工程>
 まず、発酵設備内に菌体を導入する。本実施形態では発酵槽1内に菌体を導入する。具体的には形質転換された分裂酵母を培養した培養液とともに発酵槽1内に導入する。
 また発酵設備に原料液を導入する(最初の原料液供給工程)。本実施形態では、液供給経路2を介して発酵槽1内に原料液を導入する。菌体の導入と、最初の原料液の導入は、どちらを先に行ってもよい。
 そして、図1に示すように、発酵槽1内の液(培養液および原料液)を、発酵液排出経路3、固液分離手段10および戻り経路4を順に通って、発酵槽1へ送液して循環させることが好ましい。
 図2に示すように、発酵槽1内の液を循環させながら、固液分離手段10から分離液排出経路11を経て、菌体を含まない分離液を抜き出すことにより、発酵槽1内の液中における菌体濃度を高めることができる。後述の発酵工程に先立ち、この方法で該菌体濃度を調整してもよい。
 発酵槽1内での生菌の量は、事前の発酵試験により好適な範囲を求めることが好ましい。すなわち好適な生菌の菌体濃度を試験により求め、発酵槽1の実効容量を乗じて生菌量とする。菌体濃度は、菌体の種類や培養条件にもよるが、発酵槽1の容量を小さく抑えるために、ある程度高密度での発酵を行うことが好ましい。
 例えば、形質転換された分裂酵母を用いて、グルコースを原料糖とし、乳酸を目的の有機酸とする場合、発酵槽1の液中の生菌の量(菌体濃度)は、乾燥重量換算で12~72g/Lが好ましく、24~48g/Lがより好ましい。該生菌の量が上記範囲の下限値以上であると発酵槽の単位体積当たりの有機酸の生産速度を高くできる。また、上限値以下あると菌体にかかるストレスが低く抑制できる点で、また酸素および糖を菌体に充分にかつ平均的に行き渡らせることがしやすい点で好ましい。
 なお、後述の実施例等で示す菌体濃度(以下「菌体濃度OD660」と記載する。)は、日本分光社製可視紫外分光器V550によって測定した波長660nmの光の吸光度(OD660)から換算した値である。660nmにおけるOD=1は、酵母乾燥重量の0.2g/L、湿重量の0.8g/Lに相当する。
<発酵工程>
 発酵工程は発酵開始時点に始まり、抜出工程の開始時点に終了する。発酵開始時点とは、発酵設備内において、糖と菌体が共存しかつ温度等の発酵条件が満たされて、形質転換された分裂酵母による糖の発酵が始まる時点をいう。
 最初の発酵工程では、上記準備工程で準備された、菌体および原料液が導入された発酵設備内で、形質転換された分裂酵母による発酵が行われ、有機酸が生産される。第2以降の発酵工程では、抜出工程を経た後の残余の発酵液(菌体を含む発酵液)に原料液供給工程を経て原料液が追加された発酵設備内で発酵が行われ、有機酸が生産される。
 本実施形態では、発酵槽1内の液を撹拌しつつ、また図1に示すように循環させながら、該液の温度を所定の発酵温度に制御し、発酵槽1内の液に、酸素を含む気体を通気させる。これにより該液中で発酵が進行し、酸素および糖が消費されて有機酸が生成される。エタノール等の副生成物が該有機酸と同時に生成されてもよい。特に発酵により有機酸とエタノールとが併産されることが好ましい。
 好ましい発酵温度は、用いる形質転換された分裂酵母によって応じて設定される。
 発酵工程においては、発酵設備内の発酵液の抜き出しは行わない。本実施形態では、上記のように発酵槽1内の発酵液を循環させるが、該循環系からの発酵液の抜き出しは行わない。
 一方、発酵工程の途中において、原料液の追加を行ってもよい。すなわち発酵の途中で、連続的または断続的に、糖を含む原料液を発酵設備に導入してもよい。原料液の追加は、糖濃度が高い時点で発酵による有機酸生産速度が低下する場合等に好ましく適用できる。
 発酵工程においては、発酵液の溶存酸素濃度を5ppb以上、500ppb以下に制御する。該溶存酸素濃度は、発酵槽1内の液に通気する、酸素を含む気体の酸素濃度または通気量(流量)、もしくは攪拌状態によって制御することができる。通気は連続的に行うことが好ましい。
 該溶存酸素濃度が高いほど糖の消費速度は速くなり、目的とする有機酸の生産速度が速くなる代りに、菌体の増殖が優先して進むようになる。
 該溶存酸素濃度は、10~200ppbが好ましく、20~150ppbがより好ましい。該溶存酸素濃度が上記範囲の下限値以上であると有機酸の良好な生産速度が得られやすい。該溶存酸素濃度が上記範囲の上限値以下であると有機酸の良好な収率が得られやすい。該溶存酸素濃度が上記上限値を超えると、分裂酵母は糖を消費して菌体の増殖に用いる割合が大きくなる。
 発酵工程開始時点における発酵設備内の液の糖濃度は20g/L以上である。
 最初の発酵工程においては、発酵工程開始時点における糖濃度は30g/L以上であることが好ましい。有機酸の生産効率を高くするためには、最初の発酵工程における発酵開始時点の液中の糖濃度は40g/L以上が好ましく、50g/L以上がより好ましい。
 一方、第2以降の発酵工程においては、発酵開始時点に発酵設備内に抜き出されていない残余の発酵液が存在し、かつその残余の発酵液中の糖濃度は低い。したがって、残余の発酵液の量が多い場合、新たに追加される原料液の量が少なくなることより、発酵開始時の残余の発酵液と追加原料液の混合液における糖濃度は低くなりやすい。残余の発酵液と追加原料液の混合液における発酵開始時の糖濃度は20g/L以上である。残余の発酵液の量を少なくする、追加原料液の糖濃度を高める等の方策で、残余の発酵液と追加原料液の混合液における糖濃度を高めることが好ましい。第2以降の発酵工程における、発酵開始時の液中の糖濃度は30g/L以上であることがより好ましく、50g/L以上がさらに好ましい。
 発酵工程の当初は原料の糖の濃度が高く、発酵が進むにつれて糖濃度は低下する。例えば、最初の発酵工程において原料液を一括で投入した直後の糖濃度は、500g/Lに達してもよい。第2以降の発酵工程を含めて発酵工程の当初の糖濃度は500g/L以下が好ましく、200g/L以下がより好ましく、100g/L以下がさらに好ましい。発酵液の糖濃度は、発酵が進むと低下し、下限値はゼロであってもよい。該糖濃度が上記範囲の上限値以下であると、生菌の菌体濃度を高く維持しやすい点で、また有機酸の生産効率を高くしやすい点で好ましい。
 発酵工程において、発酵開始後、発酵液の糖濃度をモニターする。本実施形態では発酵槽1内の液中糖濃度をモニターする。
 該発酵液の糖濃度が、予め設定された濃度x(単位:g/L、x≦10)以下に低下した時点以降に次の抜出工程を開始する。
 発酵槽1内の発酵液の有機酸の濃度は、発酵が進むにつれて上昇する。最初の発酵工程における発酵開始時の有機酸濃度は通常ゼロである。しかし、準備工程で増殖させた菌体をその培養液とともに発酵設備に供給した場合等では培養液中の有機酸が発酵開始時に存在してもよい。第2の発酵工程以降の発酵工程においては残余の発酵液中の有機酸が存在することより、発酵開始時の有機酸濃度はゼロではない。発酵工程における発酵開始時点の有機酸濃度は、5~60g/Lが好ましく、10~50g/Lがより好ましい。
 発酵工程終了時の有機酸濃度は、発酵工程開始時点の有機酸濃度よりも5g/L以上高いことが好ましく、10g/L以上高いことがより好ましく、30g/L以上高いことがさらに好ましい。発酵工程終了時の有機酸濃度の上昇値は、発酵工程開始時点の糖濃度にも依存する(すなわち、発酵工程開始時点の糖濃度が低い場合、糖のすべてが有機酸に転換されても上記上昇値に達しない場合がある)ことより、発酵工程開始時点の糖濃度は上記上昇値に達しうる糖濃度とすることが好ましい。
 発酵工程終了時の有機酸濃度は、発酵工程開始時点の有機酸濃度よりも高いことを前提に、15g/L以上であることが好ましく、25g/L以上であることがより好ましく、40g/L以上であることがさらに好ましい。
 また、発酵工程終了時の有機酸濃度は200g/L以下が好ましく、150g/L以下がより好ましく、120g/L以下がさらに好ましい。発酵工程終了時点の有機酸濃度が上記範囲の下限値以上であると有機酸の精製コストを抑制しやすく、上限値以下であると有機酸の良好な製造効率が得られやすい。
<抜出工程>
 抜出工程では、発酵設備内の発酵液の一部を抜き出して、有機酸を含む液を回収する。抜出工程は前記糖濃度のしきい値xが10g/Lとなった時点以降に開始され、所定量の発酵液を抜き出した時点で終了する。
 発酵液の抜出量は発酵設備内の全発酵液の一部である所定量である。抜出工程において抜き出される発酵液には菌体が含まれていてもよいが、発酵設備内の発酵液中の菌体量を所定量以上に維持して効率的に発酵を行うためには、抜出工程において発酵液とともに菌体までも抜き出さないことが好ましい。このため、抜出工程において、発酵液を、菌体を含まない発酵液と菌体を含む発酵液とに分離し、菌体を含まない発酵液を抜き出し、菌体を含む発酵液を発酵設備内に残すことが好ましい。
 本発明において、「発酵設備から発酵液を抜き出す」とは、発酵系内の発酵液を該発酵系外へ抜き出す操作を意味する。図1に示すように、発酵槽1内の発酵液を、発酵液排出経路3、固液分離手段10および戻り経路4を通って発酵槽1へ送液して循環させている場合、発酵槽1内と該循環経路内が発酵系内に該当する。
 本実施形態において、発酵工程では、図1に示すように、発酵槽1内の発酵液を、固液分離手段10を介して循環させる。発酵液の糖濃度が所定の濃度以下に低下したら、抜出工程で、図2に示すように固液分離手段10から分離液を抜き出す。これにより発酵槽1内の液量が減少する。
 固液分離手段10では、菌体を含まない分離液が分離液排出経路11を通って抜き出され、有機酸を含む発酵液として回収される。菌体を含む非分離液は戻り経路4を通って発酵槽1へ送液され、発酵設備内で循環させる。ただし、複数の抜出工程のうちの最後の抜出工程では、非分離液は発酵槽1へ送液されることなく発酵設備から取り出してもよい。
 抜出工程で抜き出す発酵液の液量は、発酵設備内(本実施形態では発酵槽1内、固液分離手段10内、発酵液排出経路3内、および戻り経路4内)の発酵液の合計量に対して、10~90体積%が好ましく、25~75体積%がより好ましく、30~70体積%がさらに好ましい。該抜き出す液量が上記範囲の下限値以上であると、良好な有機酸生産速度が得られ、上限値以下であると分離液と非分離液との分離が容易となり、また、菌体へのストレスも抑制しやすい。また、最後の抜出工程においては、抜き出す液量は、90体積%を超えてもよい。
 抜出工程を開始する糖濃度のしきい値x(単位:g/L)は、10g/L以下であり、この値が小さいほど、糖の含有量が少ない発酵液(分離液)が得られる。該xは3g/L以下が好ましく、1g/L以下がより好ましい。
 後述の実施例に示されるように、抜出工程において、発酵液の糖濃度が0g/Lとなる状態が存在しても、反復回分発酵を安定して行うことができる。
 発酵液の糖濃度を0g/Lとすると、有機酸を含み、糖を含まない発酵液(分離液)を得ることができ、有機酸の製造効率を向上させるうえで好ましい。
 抜出工程において、発酵液の抜き出し量、発酵液の抜き出し手段の種類、抜出手段の単位時間における処理量等により抜出工程に要する時間が変化するが、抜出工程に時間を要する場合が少なくない。特に、発酵液を菌体を含まない分離液と菌体を含む非分離液とに分離する固液分離手段として膜分離手段を用いて、菌体を含まない分離液を抜き出す場合には比較的長い時間を要する。抜出工程においては、通常、その工程の最中にも発酵が進行する。
 抜出工程の開始時に発酵液中の糖濃度が充分に低くなっている(例えば、1g/L以下)と、抜出工程中の発酵により糖に代わって有機酸が消費されやすくなる。したがって、抜出工程に要する時間が長いほど目的物の有機酸の生産効率が低下するおそれがある。
 本発明においては、抜出工程における発酵液の溶存酸素濃度を、発酵工程における発酵液の溶存酸素濃度と同等かそれ以上として、発酵液中の有機酸の消費を抑制することが好ましい。この場合、特に、有機酸とエタノールとを併産する分裂酵母を使用して、発酵を行うことが好ましい。これにより、抜出工程における有機酸の消費が抑制され、目的物の有機酸の生産効率が高まる。
 抜出工程における発酵液の溶存酸素濃度は発酵工程の発酵液の溶存酸素濃度と同じか高くすることが好ましい。すなわち、抜出工程における発酵液の溶存酸素濃度は5ppb以上に維持されることが好ましい。
 抜出工程においても発酵液の溶存酸素濃度は、発酵槽1内の液に通気する、酸素を含む気体の酸素濃度または通気量、もしくは攪拌状態によって制御することができる。抜出工程における発酵液の溶存酸素濃度は20ppb以上に維持されることが好ましく、60ppb以上に維持されることがより好ましい。抜出工程において、発酵液の溶存酸素濃度は、5ppb以上に維持されれば充分であるが、特に60ppb以上である時間帯を設けることが好ましい。該時間帯は断続的でも連続的でもよい。1回の抜出工程の開始から終了までの時間、すなわち固液分離手段10からの液の抜き出し開始から次工程で原料液が導入されるまでの時間に対して、発酵液の溶存酸素濃度が60ppb以上である時間帯の合計が50%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、100%でもよい。
 抜出工程において発酵液の溶存酸素濃度が上記の範囲となるように通気することにより、発酵液の糖濃度がxg/L(x≦10)以下に低下した状態でも、発酵液中の有機酸の減少が抑えられる。仮に発酵液の糖濃度がゼロになり、発酵液の溶存酸素濃度がゼロになると、形質転換された分裂酵母は発酵とは逆に有機酸を資化し生菌率を維持する。このため抜出工程においては、発酵液の溶存酸素濃度を、上記下限値を下回らないように維持する必要がある。このようにして発酵で生産された有機酸を消費することなく回収できる。
 抜出工程において、発酵液の溶存酸素濃度を、60ppb以上、6000ppb以下の範囲内で、かつ前記液の抜き出し開始直前の該溶存酸素濃度よりも50ppb以上高い状態が存在するように制御することが好ましい。
 具体的には、抜出工程において抜き出しを開始した後、次工程で原料液が導入されるまでの間における、該溶存酸素濃度の最大値が、60ppb以上、6000ppb以下の範囲内で、かつ抜き出し開始直前の該溶存酸素濃度よりも50ppb以上高くなるように制御することが好ましい。
 該溶存酸素濃度の最大値は、発酵槽1内の液に通気する、酸素を含む気体の酸素濃度または通気量、もしくは攪拌状態によって制御することができる。
 該溶存酸素濃度の最大値は、抜き出し開始直前の該溶存酸素濃度よりも100ppb以上高いことが好ましい。
 発酵工程においては、発酵液の溶存酸素濃度が上記の範囲内となるように通気されており、仮に抜出工程で発酵液の抜き出しを開始すると同時に、通気を停止すると、発酵液の溶存酸素濃度はゼロとなる。すなわち発酵液の溶存酸素は速やかに消費される。
 これに対して、本実施形態では、抜出工程で発酵液の抜き出しを開始した後も、通気を継続する。
 例えば発酵工程における通気量(一定でない場合は平均値)に対して、抜出工程における通気量(一定でない場合は平均値)を50~300~体積%とすることが好ましく、100~200体積%とすることがより好ましい。
 発酵工程における通気量(流量)および抜出工程における通気量(流量)はそれぞれ一定であることが好ましい。
 形質転換した分裂酵母が、有機酸とエタノールとを併産する酵母である場合、後述の試験例に示されるように、発酵液の糖濃度がxg/L(x≦10)以下に低下した状態において、酸素を含むガスの通気を行うことによって、発酵液中のエタノールを減少させて、有機酸の減少を抑えることができる。
 これは、発酵液の糖濃度が低下して飢餓状態にある分裂酵母が、エタノールを資化して生菌率を維持するためと考えられる。
 この場合、抜出工程において、抜き出し開始時点における、発酵液のエタノール濃度が1g/L以上であることが好ましく、3g/L以上であることがより好ましく、5g/L以上であることがさらに好ましい。
 エタノールは副生成物であり、該エタノール濃度の上限値は特に限定されないが、有機酸の良好な製造効率を得るうえで、50g/L以下が好ましく、30g/L以下がより好ましく、20g/L以下がさらに好ましい。
<分離液>
 本実施形態において分離液は、固液分離手段10で分離され、分離液排出経路11を通って抜き出される。分離液は、目的の有機酸を含み、菌体を含まない発酵液である。
 工程(4)では、発酵液の糖濃度がxg/L(x≦10)以下に低下した時点以降に、分離液の抜き出しを開始するため、糖の含有量が少ない発酵液(分離液)が得られる。
 該分離液中の糖濃度は1g/L以下が好ましく、0.5g/L以下がより好ましく、0.1g/L以下がさらに好ましく、ゼロであることが最も好ましい。
 該分離液中の糖濃度が上記範囲であると、分離液(発酵液)を精製する際に、糖に起因する着色が良好に抑えられる。
<反復回分発酵>
 最初の抜出工程において、所定量の発酵液を抜き出した後、図3に示すように、発酵槽1に原料液を導入し(第2の原料液供給工程)、続いて第2の発酵工程および第2の抜出工程を順に行って反復回分発酵を行う。
 さらに該第2の抜出工程の後、同様に原料液供給工程~抜抜出工程を繰り返してもよい。
 第2以降の原料液供給工程における発酵槽1に導入する原料液の量は、直前の抜出工程で抜き出した発酵液と同量とすることが好ましい。
 また、抜出工程終了から次に原料液供給工程開始までの間、残余の発酵液の溶存酸素濃度は前記抜出工程と同程度の溶存酸素濃度に維持することが好ましい。残余の発酵液の糖濃度が低いことより、この間に残余の発酵液中の有機酸が減少しやすいからである。ただし、抜出工程終了から次に原料液供給工程開始までの時間が短い場合は、その間における有機酸の減少が少ないことより、溶存酸濃度の調整を行わなくてもよい。
 本実施形態によれば、発酵工程とそれに続く抜出工程の組合せを複数回行うことにより、有機酸を含み糖の含有量が少ない発酵液(分離液)を得ることができる。
 発酵工程とそれに続く抜出工程の組合せは少なくとも2回繰り返し、これによって有機酸を効率良く製造することができる。本発明において、発酵工程とそれに続く抜出工程の組合せの繰り返し回数は、2回以上であるが、10回以上が好ましく、20回以上がより好ましい。繰り返し回数が多ければ糖からの有機酸の生産効率を高くできる点で好ましい。特に本発明にかかる形質転換された分裂酵母は、好ましくは低pH環境において、菌体の増殖をほとんど行わず、糖のほとんどを有機酸等の発酵生産に使用できる。
 特に、本実施形態では抜出工程において、菌体を含まない発酵液を抜き出し、菌体を含む液を発酵槽1に戻すため、菌体を追加的に導入しなくても反復回分発酵を行うことができる。
 本発明において、発酵液のpHは、発酵が進行するに従い、発酵により産生される有機酸により低下する。本発明に用いる形質転換された分裂酵母は耐酸性に優れ、生産された有機酸によりpHが低下しても安定して有機酸の発酵生産を継続することができる。菌を増殖させる菌体培養の場合はpHが低いと増殖率が低下するが、有機酸の生産を目的とする本発明における発酵においては、通常、pHを積極的に調整する必要はない。すなわち、本発明においては、発酵液のpHを高めるpH調整を行うことなく、発酵を継続させることができ、比較的低いpHの下で菌体量の増加を抑制して有機酸の生産効率を高めることができる。したがって、また、中和等によるpHの調整を行う必要がないことより、中和により中和塩が沈殿として生成することを回避しやすい。このため生産された有機酸の精製工程を簡素化しやすい。
 本発明における発酵工程や抜出工程における発酵液のpHは、通常、発酵開始当初および発酵終了近傍を除いて1.5~4.5の範囲内にある。発酵開始時点から発酵終了時点まで1.5~4.5であることが好ましい。発酵開始時点においては4.5よりも高いpHであってもよいが、6以下が好ましく、5以下がより好まし。例えば、発酵開始時点のpHが6であっても発酵が進行するに従い比較的短時間のうちに4.5以下となる。また、発酵が進んでも、pHが1.5未満となることも少なく、pHが1となっても発酵に支障は少ない。必要により発酵液のpH調整を行うこともできるが、pH調整はpHが6を超える場合や、1.5未満となる場合に行うことが好ましい。
 以下、実験例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載によっては限定されない。本実施例において、含有量の単位「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味する。
<実施例1>
 [菌体(分裂酵母)]
 ASP4156株(国際公開第2015/076393号参照)は、ARC010株(h- leu1-32 ura4-D18)(国際公開第2007/015470号参照)を親株として、Latour法(Nucleic Acids Res.誌、2006年、34巻、e11頁;および国際公開第2007/063919号参照)にてpdc2を欠損させ、Pediococcus acidilactici由来D-乳酸脱水素酵素(D-ldh)遺伝子発現カセット(hCMV-p.)およびLactobacillus pentosus由来D-ldh遺伝子発現カセット(hCMV-p.)をそれぞれ1コピーずつ染色体へ組込み作製された2コピー導入株である。ロイシンおよびウラシルの要求性は復帰されている。
 このASP4156株を菌体として、以下の試験に使用した。なおこのASP4156株は、D-乳酸を主に発酵生産し、エタノールを副次的に発酵生産する能力を有する。
[培養液]
 下記の条件で菌体を培養して、培養液を得た。
 5mLのYES培地(pH4.5)に、ASP4156株を植菌し、試験管にて32℃で24時間培養し、前培養1とした。さらに120mLのYES培地に、前培養1で得られた培養液2.4mLを植菌し、500mL坂口フラスコにて32℃で32時間培養し、前培養2とした。
 3Lジャーファーメンターを用いて、初発培地(1Nの硫酸水溶液を用いてpH4.5に調整済。)1080mLに、前培養2で得られた培養液120mLを加え、30℃で培養を開始した。ただし初発培地は、前培養液2の120mLを加えて1.2Lにした際に、以下の濃度となるように調整した。33g/Lの含水グルコース(含水率:8~9%)、20g/LのBioSpringer yeast extract、15g/Lの(NHSO、8g/LのKHPO、5.34g/LのMgSO・7HO、0.04g/LのNaHPO、微量元素類、およびビタミン類を含む。
 3Lジャーファーメンターでの培養開始から40時間後に、流加培地(1Nの硫酸水溶液を用いてpH4.5に調整済。)を用いて流加を開始した。流加培地は以下の濃度となるように調整した。550g/Lの含水グルコース(含水率:8~9%)、50g/LのBioSpringer yeast extract、9g/LのKHPO、4.45g/LのMgSO・7HO、3.5g/LのKSO、0.14g/LのNaSO、0.04g/LのNaHPO、微量元素類、およびビタミン類を含む。
 流加開始後、流加流量を経時的に増加させ、培養開始から132時間後に培養を終了した。培養中は12.5%アンモニア水の添加制御により、pHの下限値を4.5に保った。培養終了時の菌体濃度はOD660値=136(乾燥菌体重量27g/L)を示した。これを培養液とした。
[原料液]
 原料の糖としてグルコースを用いた。
 136.4g/Lの含水グルコース(含水率:8~9%)、5g/LのBioSpringer yeast extract、2.2g/LのNaHPO、1.05g/LのMgCl・6HO、1.0g/LのKCl、0.04g/LのNaSO、3.0g/Lのフタル酸水素カリウム、微量元素類、およびビタミン類を含む液を用意し、原料液とした。
 測定方法は以下の方法を用いた。
 [グルコース、エタノール、D-乳酸の濃度の測定]
 グルコースまたはエタノールの濃度の測定には王子計測機器社製の酵素電極法バイオセンサBF-5を用い、D-乳酸濃度の測定には、同バイオセンサBF-7を用いた。
 [DO(溶存酸素濃度)の測定]
 DO(溶存酸素濃度)の測定にはメトラートレド社製のInPro6900を用いた。
 [OD660吸光度(発酵液濁度)]
 OD660nmにおける吸光度を分光光度計(JASCO V-550 型)にて測定した。発酵液の原液で濃度が高い場合には、RO水により希釈を行い測定した。
 [pH]
 培養液または発酵液中のpHを常時測定しているプローブが示すオンラインpH値と接取した実際の培養液または発酵液が示すpHを比較するために、ハンディpH計(KS723)を用いた。
 [生菌率]
 発酵液をトリパンブルー染色液と等量混合し、検鏡観察にて染色された死細胞数と未染色の生細胞数をそれぞれ計数し、算出した。
 [D-乳酸光学純度]
 サンプルをフィルターろ過後、カラムの劣化を防ぐためpH5付近へ調整するとともに希釈し乳酸濃度を1g/Lとした。HPLC分析後、乳酸の光学純度を算出した。
 図1~3に示す工程を繰り返すことで反復回分発酵を行い、D-乳酸を製造した。
 発酵槽1は小松川化工機社製、1L発酵槽を用いた。発酵槽1は、槽内を撹拌するための撹拌翼(上下2段)を備えている。
 発酵槽1には気体(空気)を供給するために、上部から管を、その端部が底面付近となるように挿入した。すなわち気体の供給は発酵槽底部から液中に行うようにした。空気の供給にはエアコンプレッサーで加圧した圧縮空気をフィルターでろ過して用いた。
 固液分離手段10としては、膜分離装置(平均孔径:0.2μm、ポリスルホン製中空糸膜、GE Healthcare社製、Xampler CFP-2-E-3MA、膜面積は110cm。)を用いた。
 まず、培養液を発酵槽1内へ導入した。発酵槽1内への通気を開始した。通気量は0.25L/分とした。発酵槽1内の液温は28℃とした。
 以下の方法で菌体濃度を調整した。すなわち発酵槽1内の液を濃縮するために、発酵槽1内の液を、発酵液排出経路3、固液分離手段10および戻り経路4を順に通って発酵槽1へ戻る経路(以下、循環経路ということもある。)で循環させながら、固液分離手段10から分離液排出経路11を経て、分離液を抜き出した(図2)。分離液の抜き出し量は、発酵槽1内の液中における菌体濃度がOD660値=360(乾燥菌体重量72g/L)に濃縮される量とした。
 こうして濃縮した後の、発酵槽1および循環経路内の液の合計量は250mLであった。
 次いで、以下の方法で発酵槽1内を初期状態とした。すなわち、液を循環させつつ、250mLの原料液を供給した(最初の原料液供給工程、図3)。発酵槽1および循環経路内の液の合計量が500mLとなった時点を発酵開始時(発酵時間0時間)とした。この時点の液の菌体濃度はOD660値=180(乾燥菌体重量36g/L)であった。
 抜き出し時における循環経路内の液の流量は240mL/分とし、分離液の抜き出しを行っていない状態での、循環経路内の液の流量は10mL/分とした(以下、同様)。
 発酵開始後、循環経路内の液(発酵液)を循環させつつ、発酵槽1内の液中のグルコース濃度、エタノール濃度、およびD-乳酸濃度の経時変化を測定しながら発酵を行った(最初の発酵工程、図1)。また発酵槽1内の発酵液の溶存酸素濃度(DO)の経時変化を測定した。
 発酵槽1内の発酵液の糖濃度が0.9g/L未満に低下したことを確認した後、循環経路内の発酵液の250mL(全液量の1/2)を、固液分離手段10を介して抜き出して、分離液を得た(最初の抜出工程、図2)。250mLを抜き出すのに約1時間かかった。
 分離液の抜き出し中における、発酵槽1内の発酵液の溶存酸素濃度(DO)が5ppb以上に維持されるとともに、該DOの最大値が、抜き出し開始直前よりも50ppb以上高く、かつ60ppb以上、6000ppb以下の範囲内となるように通気量を制御した。
 250mLの抜き出しが終了した時点で、発酵槽1内に原料液を250mL導入して(第2の原料液供給工程、図3)、再び発酵を開始した(第2の発酵工程、図1)。分離液の引抜後、0.25L/分の流量で通気を継続して行った。
 そして、発酵槽1内の液中原料糖濃度が0.9g/L未満に低下したことが確認されたら、前回と同様にして、固液分離手段10から250mLの分離液を抜き出し(第2の抜出工程、図2)、その後250mLの原料液を導入して(第3の原料液供給工程、図3)、再度発酵を開始した。250mLの原料液を導入するのにかかった時間は4分間であった。
 これらの一連の操作を約210時間繰り返して、乳酸を含み、菌体を含まない分離液を断続的に得た。
 発酵開始時(発酵時間0時間)から210.3時間後まで、発酵槽1内の液のpHを調整するための操作は特に行わなかったが、該pHの値は2.2~4.2の範囲内であった。より具体的には、発酵開始時のpHの値は4.2であり、発酵開始から20時間後までは漸次低下する傾向にあり、その後はpH2.2~3.0の範囲内で推移した。
 また、発酵開始時(発酵時間0時間)から210.3時間後まで、途中で菌体を追加することは行わなかった。発酵槽1内の液の菌体濃度を表すOD660値は、発酵開始時は180に調整され、210.3時間後は約130程度であり、高い濃度に維持された。
 また生菌率は、発酵開始時を100%とすると、210.3時間後は約50%であり、高い状態が維持された。
 図4は、発酵開始時(発酵時間0時間)から210.3時間後までの、発酵槽1内のグルコース濃度、エタノール濃度、およびD-乳酸濃度の経時変化を示したグラフ(図4(A))と、発酵槽1内の溶存酸素濃度(DO)の経時変化を示したグラフ(図4(B))を並べて示したものである。
 図4(A)に示されるように、発酵が開始されると発酵槽1内のグルコース濃度が低下し、かつD-乳酸濃度およびエタノール濃度が増大している。このことから、発酵槽1内の液中でグルコースが消費されてD-乳酸およびエタノールが生産されたことがわかる。
 図4(A)に示されるように、本例の方法で発酵および分離液の抜き出しを反復して行うことにより、途中で菌体を補充することなく、約210時間で24回の回分発酵を安定して行うことができた。
 図4(B)のグラフにおいて、抜き出しが開始された後、抜き出しが終了するまでの間の、発酵槽1内の液の溶存酸素濃度(DO)は5ppb以上に維持された。また該DOの最大値は250ppb~1、050ppbであり、該最大値と抜き出し開始直前の該溶存酸素濃度との差は、270ppb~1、000ppb程度であった。
 [乳酸生産速度]
 分離液中の乳酸濃度から、乳酸生産速度(単位:g/L/h)を下記式(1)により求めた。
 総乳酸生成量(g)/発酵時の槽内発酵液量(L)/発酵時間(h) ・・・(1)
 発酵時の槽内発酵液量とは、発酵工程における発酵槽1内の液(発酵液)量を示す。
 [対糖乳酸収率]
 分離液中の乳酸濃度および糖濃度から、対糖乳酸収率(単位:%)を下記式(2)により求めた。
 総乳酸生成量(g)/{総糖供給量(g)-分離液中の総糖量(g)}×100 ・・・(2)
 本例において糖濃度はグルコース濃度である。発酵開始時のD-乳酸濃度は38.8g/L、発酵開始時の糖濃度は56.7g/Lである。なお発酵開始時に含まれているD-乳酸は、発酵用菌体取得のために実施された培養段階で生成したD-乳酸の持ち込み分である。
 発酵開始(t=0)から210.3時間後までに得られた分離液の合計量は6.4L、該分離液中のグルコース濃度は0.2g/L、エタノール濃度は10.1g/L、D-乳酸濃度は98.2g/L、D-乳酸光学純度は98.9(%e.e.)であった。
 このように、分離液に残存するグルコース濃度は、0.2g/Lと非常に低い値を示した。
 乳酸生産速度は6.0g/L/h、対糖乳酸収率は79.9%と高い乳酸生産性を示した。
 分離液中のD-乳酸の光学純度も非常に高い値を示した。
 以上の結果より、本例によれば、乳酸を含み、グルコース濃度が非常に低い分離液を得ることができるとともに、発酵槽内のグルコース濃度がほぼゼロになった後も乳酸の減少が生じないため、乳酸を効率良く製造することができることがわかる。
<試験例1>
 グルコース濃度がゼロになったときの、発酵に対する酸素濃度の影響を調べるために回分発酵を行った。菌体および原料液は実施例1と同じものを用いた。培養液を得るために、装置に5Lジャーファーメンターを用いた。植菌後の培養液量を2Lとして培養を開始し実施例と同様に培養液を得た。培養液から遠心分離処理により菌体を分離して、原料液で懸濁し菌体濃度がOD660値=180となるように調整した。
 発酵槽1は丸菱バイオエンジ社製3L発酵槽を用い、該懸濁液1.5Lを発酵槽1内へ導入し、1.5L/分の流量で通気した。発酵槽1内の液温は28℃とした。
 発酵槽内へ該縣濁液を導入した時を発酵開始時(発酵時間0時間)とし、発酵槽1内の液中のグルコース濃度、エタノール濃度、およびD-乳酸濃度の経時変化を測定しながら、31時間発酵を行った。発酵開始から8時間後にグルコース濃度がゼロ(0.5g/L未満)になったことを確認した。その後も通気を継続し条件を変えずに発酵を行った。実施例と同様に、発酵槽1内の液のpHを調整するための操作は特に行わず、該pHの値は2.7まで低下した。
 グルコース濃度、エタノール濃度、およびD-乳酸濃度の測定結果を図5に示す。
 発酵時間が0時間、8時間、31時間のときの各濃度の測定結果を表1に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
<比較試験例1>
 本例が試験例1と異なる点は、グルコース濃度がゼロ(0.5g/L未満)になった時点で通気を止めた点である。
 すなわち試験例1と同様にして発酵を行ったところ、発酵開始から8時間後にグルコース濃度がゼロ(0.5g/L未満)になったことを確認した。この時点で通気を中止した。その他は試験例1と同様に、発酵槽1内の液中のグルコース濃度、エタノール濃度、およびD-乳酸濃度の経時変化を測定しながら、31時間発酵を行った。
 グルコース濃度、エタノール濃度、およびD-乳酸濃度の測定結果を図6に示す。
 発酵時間が0時間、8時間、31時間のときの各濃度の測定結果を表2に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
 図5、6、表1、2の結果に示されるように、グルコース濃度がゼロ(0.5g/L未満)になった後に通気を継続した試験例1は、D-乳酸の減少が抑えられている。またエタノール濃度も減少していることから、エタノールが消費されて炭素源として利用されたと考えられる。
 一方、グルコース濃度がゼロになった時点で、通気を止めた比較試験例1は、グルコース濃度がゼロになった時点以降、D-乳酸濃度が減少し、エタノール濃度が増加した。D-乳酸が消費され、エタノールが生成する反応が進んだと考えられる。
 これらの結果より、実施例1において、発酵槽内のグルコース濃度がほぼゼロになった後もD-乳酸の減少が生じなかったのは、エタノールが消費されて炭素源として利用されたためと考えられる。
<実施例2>
 [菌体(分裂酵母)]
 ASP3631株(国際公開第2014/030655号参照)は、ARC010株(h- leu1-32 ura4-D18)(国際公開第2007/015470号参照)を親株として、Latour法(Nucleic Acids Res.誌、2006年、34巻、e11頁;および国際公開第2007/063919号参照)にてpdc2 を欠損させ、ヒト由来L-乳酸脱水素酵素(L-ldh)遺伝子発現カセット(hCMV-p.)およびLactobacillus pentosus由来L-ldh遺伝子発現カセット(hCMV-p.)をそれぞれ1コピーずつ染色体へ組込み作製された2コピー導入株である。ロイシンおよびウラシルの要求性は復帰されている。
 このASP3631株を菌体として、以下の試験に使用した。なおこのASP3631株は、L-乳酸を主に発酵生産し、エタノールを副次的に発酵生産する能力を有する。
[培養液]
 下記の条件で菌体を培養して、培養液を得た。
 200mLのYES培地(pH4.5)に、ASP3631株を植菌し、1L坂口フラスコにて32℃で30時間培養し、前培養とした。
 5Lジャーファーメンターを用いて、初発培地(1Nの硫酸水溶液を用いてpH3.9に調整済。)1800mLに、前培養で得られた培養液200mLを加え、28℃で培養を開始した。初発培地は、実施例1と同一組成の培地を用いた。
 5Lジャーファーメンターでの培養開始から33時間後に、流加培地(1Nの硫酸水溶液を用いてpH3.9に調整済。)を用いて流加を開始した。流加培地も実施例1と同一組成の培地を用いた。流加開始後、流加流量を経時的に増加させ、培養開始から76時間後に培養を終了した。培養中は12.5%アンモニア水の添加制御により、pHの下限値を3.9に保った。培養終了時の菌体濃度はOD660値=172(乾燥菌体重量34g/L)を示した。これを培養液とした。
[原料液]
 原料液は、実施例1と同一のものを用いた
 グルコース、エタノール、L-乳酸の濃度、DO(溶存酸素濃度)、OD660吸光度(発酵液濁度)、pH、生菌率の各項目の測定は、実施例1と同様に行った。
 図1~3に示す工程を繰り返すことで反復回分発酵を行い、L-乳酸を製造した。
 発酵槽1は実施例1と同一の小松川化工機社製、1L発酵槽を用いた。
 固液分離手段10としては、膜分離装置(平均孔径:0.45μm、ポリスルホン製中空糸膜、GE Healthcare社製、Xampler CFP-4-E-3MA、膜面積は110cm。)を用いた。
 まず、培養液を発酵槽1内へ導入した。発酵槽1内への通気を開始した。通気量は0.50L/分とした。発酵槽1内の液温は28℃とした。
 実施例1の方法で菌体濃度を調整した。分離液の抜き出し量は、発酵槽1内の液中における菌体濃度がOD660値=360(乾燥菌体重量72g/L)に濃縮される量とした。
 こうして濃縮した後の、発酵槽1および循環経路内の液の合計量は250mLであった。
 次いで、以下の方法で発酵槽1内を初期状態とした。すなわち、液を循環させつつ、600mLの原料液を供給した。発酵槽1および循環経路内の液の合計量が850mLとなった時点を発酵開始時(発酵時間0時間)とした。この時点の菌体濃度はOD660値=99(乾燥菌体重量20g/L)であった。
 抜き出し時における循環経路内の液の流量は240mL/分とし、分離液の抜き出しを行っていない状態での、循環経路内の液の流量は10mL/分とした(以下、同様)。
 発酵開始後、循環経路内の液(発酵液)を循環させつつ、発酵槽1内の液中のグルコース濃度、エタノール濃度、およびL-乳酸濃度の経時変化を測定しながら発酵を行った。また発酵槽1内の液(発酵液)の溶存酸素濃度(DO)の経時変化を測定した。
 発酵槽1内の液中原料糖濃度が0.9g/L未満に低下したことを確認した後、循環経路内の液(発酵液)の600mL(全液量の約7割)を、固液分離手段10を介して抜き出して、分離液を得た。600mLを抜き出すのに約2時間かかった。
 分離液の抜き出し中における、発酵槽1内の液の溶存酸素濃度(DO)が5ppb以上に維持されるとともに、該DOの最大値が、抜き出し開始直前よりも30ppb以上高く、かつ30ppb以上、6000ppb以下の範囲内となるように通気量を制御した。
 600mLの抜き出しが終了した時点で、発酵槽1内に原料液を600mL導入して、再び発酵を開始した。分離液の引抜後、0.50L/分の流量で通気を継続して行った。
 そして、発酵槽1内の液中原料糖濃度が0.9g/L未満に低下したことが確認されたら、前回と同様にして、固液分離手段10から600mLの分離液を抜き出した後、600mLの原料液を導入して、再度発酵を開始した。600mLの原料液を導入するのにかかった時間は6分間であった。
 これらの一連の操作を約77時間繰り返して、乳酸を含み、菌体を含まない分離液を断続的に得た。
 発酵開始時(発酵時間0時間)から76.7時間後までで5回の回分発酵を行うことができた。5回目の回分発酵後、発酵槽内のグルコース濃度がほぼゼロになった後も分離液の抜き出しを行わず、通気を続けた状態で放置し9時間の間(発酵85.7時間後まで)発酵液中のL-乳酸の推移を確認した。
 発酵槽1内の液のpHを調整するための操作は特に行わなかったが、該pHの値は2.4~3.7の範囲内であった。より具体的には、発酵開始時のpHの値は3.7であり、発酵開始から42時間後までは漸次低下する傾向にあり、その後はpH2.4~2.8の範囲内で推移した。
 また、発酵開始時(発酵時間0時間)から85.7時間後まで、途中で菌体を追加することは行わなかった。発酵槽1内の液の菌体濃度を表すOD660値は、発酵開始時は約100に調整され、85.7時間後は約110程度であり、高い濃度に維持された。
 また生菌率は、発酵開始時を100%とすると、85.7時間後は約90%であり、高い状態が維持された。
 図7は、発酵開始時(発酵時間0時間)から85.7時間後までの、発酵槽1内のグルコース濃度、エタノール濃度、およびL-乳酸濃度の経時変化を示したグラフ(図7(A))と、発酵槽1内の溶存酸素濃度(DO)の経時変化を示したグラフ(図7(B))を並べて示したものである。
 図7(A)に示されるように、発酵が開始されると発酵槽1内のグルコース濃度が低下し、かつL-乳酸濃度およびエタノール濃度が増大している。このことから、発酵槽1内の液中でグルコースが消費されてL-乳酸およびエタノールが生産されたことがわかる。
 図7(A)に示されるように、本例の方法で発酵および分離液の抜き出しを反復して行うことにより、途中で菌体を補充することなく、約77時間で5回の回分発酵を安定して行うことができた。
 図7(B)のグラフにおいて、抜き出しが開始された後、抜き出しが終了するまでの間の、発酵槽1内の液の溶存酸素濃度(DO)は5ppb以上に維持された。また該DOの最大値は40ppb~90ppbであり、該最大値と抜き出し開始直前の該溶存酸素濃度との差は、30ppb~80ppb程度であった。
 乳酸生産速度、対糖乳酸収率は、実施例1と同様に算出した。
 発酵開始時のL-乳酸濃度は26.1g/L、発酵開始時の糖濃度は81.0g/Lである。なお発酵開始時に含まれているL-乳酸は、発酵用菌体取得のために実施された培養段階で生成したL-乳酸の持ち込み分である。
 分離液の抜き出しは4回目の回分発酵後までは行ったが、5回目の回分発酵後には行わなかった。発酵開始(t=0)から4回目の回分発酵が終了した61.8時間後までに得られた分離液の合計量は2.6L、該分離液中のグルコース濃度は0.0g/L、エタノール濃度は6.6g/L、L-乳酸濃度は84.5g/Lであった。
 実施例1と同様に、分離液に残存するグルコース濃度は、0.0g/Lと非常に低い値を示した。
 乳酸生産速度は3.8g/L/h、対糖乳酸収率は62.3%と高い乳酸生産性を示した。
 以上の結果より、本例によれば、乳酸を含み、グルコース濃度が非常に低い分離液を得ることができるとともに、発酵槽内のグルコース濃度がほぼゼロになった後も乳酸の減少が生じないため、乳酸を効率良く製造することができることがわかる。
<試験例2>
 グルコース濃度がゼロになったときの、発酵に対する酸素濃度の影響を調べるために回分発酵を行った。菌体、培養液、原料液は実施例2と同じものを用いた。発酵槽1は丸菱バイオエンジ社製3L発酵槽を用いた。
培養液から遠心分離処理により菌体を分離して、原料液で懸濁し菌体濃度がOD660値=180となるように調整した。該懸濁液1.5Lを発酵槽1内へ導入し、1.5L/分の流量で通気した。発酵槽1内の液温は28℃とした。
 発酵槽内へ該縣濁液を導入した時を発酵開始時(発酵時間0時間)とし、発酵槽1内の液中のグルコース濃度、エタノール濃度、およびL-乳酸濃度の経時変化を測定しながら、70時間発酵を行った。発酵開始から7.8時間後にグルコース濃度がゼロになったことを確認した。その後も通気を継続し条件を変えずに発酵を行った。実施例と同様に、発酵槽1内の液のpHを調整するための操作は特に行わず、該pHの値は2.7まで低下した。
 グルコース濃度、エタノール濃度、およびL-乳酸濃度の測定結果を図8に示す。
 発酵時間が0時間、7.8時間、69時間のときの各濃度の測定結果を表1に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000003
<比較試験例2>
 本例が試験例2と異なる点は、グルコース濃度がゼロになった時点で通気を止めた点である。
 すなわち試験例2と同様にして発酵を行ったところ、発酵開始から7.7時間後にグルコース濃度がゼロになったことを確認した。この時点で通気を中止した。
 その他は試験例2と同様に、発酵槽1内の液中のグルコース濃度、エタノール濃度、およびL-乳酸濃度の経時変化を測定しながら、70時間発酵を行った。
 グルコース濃度、エタノール濃度、およびL-乳酸濃度の測定結果を図9に示す。
 発酵時間が0時間、7.7時間、69時間のときの各濃度および生菌率の測定結果を表2に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000004
 図8、9、表3、4の結果に示されるように、グルコース濃度がゼロになった後に通気を継続した試験例2は、L-乳酸の減少が抑えられている。またエタノール濃度も減少していることから、エタノールが消費されて生菌率が維持されたと考えられる。
 一方、グルコース濃度がゼロになった時点で、通気を止めた比較試験例2は、グルコース濃度がゼロになった時点以降、L-乳酸濃度が減少し、エタノール濃度が増加した。L-乳酸が消費され、エタノールが生成する反応が進んだと考えられる。
 これらの結果より、実施例2において、発酵槽内のグルコース濃度がほぼゼロになった後もL-乳酸の減少が生じなかったのは、エタノールが消費されて生菌率が維持されたためと考えられる。
<実施例3>
 [菌体(分裂酵母)]
 ASP5235株は、ARC019株(h- leu1-32 ura4-D18、Ade6-M216)(Strain name: JY741, NBRPID: FY7512))を親株として、Latour法(Nucleic Acids Res.誌、2006年、34巻、e11頁;および国際公開第2007/063919号参照)にてpdc2(系統名:SPAC1F8.07c)およびmae2遺伝子(系統名:SPCC794.12c)を欠損させ、サッカロミセス・セレビシエ由来のPYC(ScePYC)遺伝子発現カセット(hCMV-p.)およびロデロミセス エロンギスポルス(Lodderomyces elongisporus)由来のPYC(LelPYC)遺伝子発現カセット(hCMV-p.)をそれぞれ1コピーずつ染色体へ組込みPYC遺伝子2コピーを導入し、さらに、デルフチア・アシドボランス(Delftia acidovorans)由来のMDH(DacMDH)遺伝子発現カセット(hCMV-p.)およびハロモナス・エロンガタ(Halomonas elongata)由来のMDH(HelMDH)遺伝子発現カセット(hCMV-p.)をそれぞれ1コピーずつ染色体へ組込みMDH遺伝子2コピーを導入した株である。ロイシン、ウラシルおよびアデニンの要求性は復帰されている。
 このASP5235株を菌体として、以下の試験に使用した。なおこのASP5235株は、L-リンゴ酸を発酵生産する能力を有する。
[培養液]
 下記の条件で菌体を培養して、培養液を得た。
 200mLのYES培地(pH4.5)に、ASP5235株を植菌し、1L坂口フラスコにて32℃で64時間培養した。並行して、100mLのYES培地(pH4.5)に、ASP5235株を植菌し、500mL坂口フラスコにて32℃で64時間培養した。これらを前培養とした。
 5Lジャーファーメンターを用いて、初発培地(1Nの硫酸水溶液を用いてpH5.5に調整済。)3200mLに、前培養で得られた培養液300mL(200mL+100mL)を加え、28℃でバッチ培養を開始した。初発培地は、実施例1と同様の組成の培地を用いた。
 5Lジャーファーメンターでの培養開始から57時間後にバッチ培養を終了した。培養中は12.5%アンモニア水の添加制御により、pHの下限値を5.5に保った。培養終了時の菌体濃度はOD660値=35(乾燥菌体重量7g/L)を示した。これを培養液とした。
[原料液]
 実施例1の原料液組成を基として、含水グルコース(含水率:8~9%)濃度のみ165g/Lとして、他の組成は実施例と同一とした培地を用いた。
 グルコース、エタノール、リンゴ酸の濃度、DO(溶存酸素濃度)、OD660吸光度(発酵液濁度)、pH、生菌率の各項目の測定は、実施例1と同様に行った。
 図1~3に示す工程を繰り返すことで反復回分発酵を行った。すなわち遺伝子組換えにより有機酸(L-リンゴ酸)を発酵生産できる能力を付与した分裂酵母を用いて、L-リンゴ酸の発酵生産を行った。
 発酵槽1は実施例1と同一の小松川化工機社製、1L発酵槽を用いた。
 固液分離手段10としては、膜分離装置(平均孔径:0.45μm、ポリスルホン製中空糸膜、GE Healthcare社製、Xampler CFP-4-E-3MA、膜面積は110cm。)を用いた。
 まず、バッチ培養終了後の培養液から遠心分離処理により菌体を分離し、菌体濃度が36g(乾燥菌体換算)/L(OD660=180)になるように原料液で懸濁したものを発酵液とした。この発酵液0.5Lを発酵槽1内へ導入した。発酵槽1内への通気を開始した。通気量は0.50L/分とした。発酵槽1内の液温は28℃とした。
 次いで、発酵液を10mL/分の流量で循環経路内を循環させ発酵槽1内を初期状態とし、この時点を発酵開始時(発酵時間0時間)とした。菌体濃度はOD660値=223(乾燥菌体重量44g/L)であった。
 発酵開始後、循環経路内の液(発酵液)を循環させつつ、発酵槽1内の液中のグルコース濃度、エタノール濃度、およびリンゴ酸濃度の経時変化を測定しながら発酵を行った。また発酵槽1内の液(発酵液)の溶存酸素濃度(DO)の経時変化を測定した。
 発酵槽1内の液中原料糖濃度が0.9g/L未満に低下したことを確認した後、実施例1と同様にして、循環経路内の液(発酵液)の250mL(全液量の1/2)を、固液分離手段10を介して抜き出して、分離液を得た。250mLを抜き出すのに約1時間かかった。
 分離液の抜き出し中における、発酵槽1内の液の溶存酸素濃度(DO)が5ppb以上に維持されるとともに、該DOの最大値が、抜き出し開始直前よりも50ppb以上高く、かつ60ppb以上、6000ppb以下の範囲内となるように通気量を制御した。
 抜き出し時における循環経路内の液の流量は240mL/分とし、分離液の抜き出しを行っていない状態での、循環経路内の液の流量は10mL/分とした(以下、同様)。
 250mLの抜き出しが終了した時点で、発酵槽1内に原料液を250mL導入して、再び発酵を開始した。分離液の引抜後、0.50L/分の流量で通気を継続して行った。
 そして、発酵槽1内の液中原料糖濃度が0.9g/L未満に低下したことが確認されたら、前回と同様にして、固液分離手段10から250mLの分離液を抜き出した後、250mLの原料液を導入して、再度発酵を開始した。250mLの原料液を導入するのにかかった時間は4分間であった。
 これらの一連の操作を約45時間繰り返して、リンゴ酸を含み、菌体を含まない分離液を断続的に得た。
 発酵開始時(発酵時間0時間)から45.2時間後まで発酵槽1内の液のpHを調整するための操作は特に行わなかったが、該pHの値は2.5~4.0の範囲内であった。より具体的には、発酵開始時のpHの値は4.0であり、発酵開始から14時間後までは漸次低下する傾向にあり、その後はpH2.5~3.0の範囲内で推移した。
 また、発酵開始時(発酵時間0時間)から45.2時間後まで、途中で菌体を追加することは行わなかった。
 図10は、発酵開始時(発酵時間0時間)から45.2時間後までの、発酵槽1内のグルコース濃度、エタノール濃度、およびリンゴ酸濃度の経時変化を示したグラフである。
 図10に示されるように、発酵が開始されると発酵槽1内のグルコース濃度が低下し、かつリンゴ酸濃度およびエタノール濃度が増大している。このことから、発酵槽1内の液中でグルコースが消費されてリンゴ酸およびエタノールが生産されたことがわかる。
 図10に示されるように、本例の方法で発酵および分離液の抜き出しを反復して行うことにより、途中で菌体を補充することなく、約45時間で10回の回分発酵を安定して行うことができた。10回の回分発酵を通じて溶存酸素濃度(DO)は5ppb以上に維持された。
 抜き出しが開始された後、抜き出しが終了するまでの間も、発酵槽1内の液の溶存酸素濃度(DO)は5ppb以上に維持された。また、発酵中において、溶存酸素濃度(DO)は5ppb以上、500ppb以下に制御された。
 リンゴ酸生産速度、対糖リンゴ酸収率は、実施例1と同様に算出した。
 発酵開始時のリンゴ酸濃度は10.2g/L、発酵開始時の糖濃度は124.4g/Lである。なお発酵開始時に含まれているリンゴ酸は、菌体を原料液で懸濁した際に生成したものとみられる。
 発酵開始(t=0)から45.2時間後までに得られた分離液の合計量は2.5L、該分離液中のグルコース濃度は0.0g/L、エタノール濃度は60.1g/L、L-リンゴ酸濃度は21.9g/Lであった。
 実施例1と同様に、分離液に残存するグルコース濃度は、0.0g/Lと非常に低い値を示した。
 リンゴ酸生産速度は2.4g/L/h、対糖リンゴ酸収率は14.8%を示した。
 以上の結果より、本例によれば、リンゴ酸を含み、グルコース濃度が非常に低い分離液を得ることができるとともに、発酵槽内のグルコース濃度がほぼゼロになった後もリンゴ酸の減少が生じないため、リンゴ酸を効率良く製造することができることがわかる。
<試験例3>
 グルコース濃度がゼロになったときの、発酵に対する酸素濃度の影響を調べるために実施例3の10回目の回分発酵の後に続けて同様の操作で分離液の抜き出し、原料液の供給を行い1回の回分発酵を行った。
 発酵中は実施例3と同様に0.5L/分の流量で通気し、その他の発酵条件も実施例3と同様とした。発酵開始から3.8時間後にグルコース濃度がゼロになったことを確認した。その後も通気を継続し条件を変えずに発酵を行った。約44時間の試験を通じて溶存酸素濃度(DO)は5ppb以上に維持された。実施例と同様に、発酵槽1内の液のpHを調整するための操作は特に行わず、該pHの値は2.6まで低下した。
 グルコース濃度、エタノール濃度、およびリンゴ酸濃度の測定結果を図11に示す。
 発酵時間が0時間、3.8時間、43.8時間のときの各濃度および生菌率の測定結果を表5に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000005
 図11、表5の結果に示されるように、グルコース濃度がゼロになった後に通気を継続した試験例3は、リンゴ酸の減少が抑えられている。またエタノール濃度も減少していることから、エタノールが消費されて炭素源として利用されたと考えられる。
 この結果より、実施例3において、発酵槽内のグルコース濃度がほぼゼロになった後もリンゴ酸の減少が生じなかったのは、エタノールが消費されて炭素源として利用されたためと考えられる。
 なお、2014年9月19日に出願された日本特許出願2014-191402号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
 1 発酵槽
 2 液供給経路
 3 発酵液排出経路
 4 戻り経路
 10 固液分離手段
 11 分離液排出経路

Claims (15)

  1.  発酵設備内で、遺伝子組換えにより有機酸を発酵生産できる能力を付与した分裂酵母によって糖を発酵させて有機酸を産生させ、前記発酵設備から抜き出した発酵液から有機酸を得る、有機酸の製造方法であって、下記発酵工程と該発酵工程に続く下記抜出工程との組合せを少なくとも2回繰り返すことを特徴とする有機酸の製造方法。
     発酵工程:糖を含む原料液が加えられた、発酵開始時点の糖濃度が20g/L以上である発酵液を用い、発酵液の溶存酸素濃度を5ppb以上、500ppb以下に制御しながら糖の発酵を行う工程。
     抜出工程:発酵液の糖濃度が予め設定された糖濃度x(単位:g/L、x≦10)に達した時点で開始される、発酵設備から発酵液の一部を抜き出す工程であって、所定量の発酵液を抜き出して終了する工程。
  2.  前記発酵工程の前に下記原料液供給工程を有する、請求項1に記載の有機酸の製造方法。
     原料液供給工程:発酵設備内に糖を含む原料液を導入する工程。
  3.  前記抜出工程において発酵液の溶存酸素濃度を5ppb以上に維持する、請求項1または2に記載の有機酸の製造方法。
  4.  前記抜出工程において、発酵設備内の発酵液を、菌体を含まない発酵液と菌体を含む発酵液とに分離して、前記菌体を含まない発酵液を抜き出し、前記菌体を含む発酵液を発酵設備内に残す、請求項1~3のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
  5.  前記糖濃度xが1g/L以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
  6.  前記形質転換された分裂酵母が、有機酸とエタノールとを併産する分裂酵母である、請求項1~5のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
  7.  前記糖濃度xが1g/L以下かつ発酵液のエタノール濃度が1g/L以上に達した時点で抜出工程を開始する、請求項6に記載の有機酸の製造方法。
  8.  前記抜出工程において、前記発酵工程における発酵を継続しながら発酵液を抜き出す、請求項1~7のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
  9.  前記抜出工程における発酵液の溶存酸素濃度を、60ppb以上、6000ppb以下の範囲内で、かつ抜出工程を開始する直前の溶存酸素濃度よりも50ppb以上高い濃度に制御して発酵を継続する、請求項8に記載の有機酸の製造方法。
  10.  前記発酵工程における発酵液のpHが1.5~4.5の範囲内にある、請求項1~9のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
  11.  前記発酵工程において、中和による発酵液のpH調整を行わない、請求項1~10のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
  12.  前記発酵設備が、発酵槽、液体を発酵槽に導入する液供給経路、発酵槽に酸素を供給する酸素供給手段、および、発酵槽から排出される発酵液を菌体を含まない分離液と菌体を含む非分離液とに分離する固液分離手段、を有し、発酵液の抜き出しを前記固液分離手段を介して菌体を含まない分離液を抜き出すことにより行う、請求項1~11のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
  13.  前記固液分離手段によって分離された分離液を発酵設備から抜き出し、非分離液を発酵槽に戻す、請求項12に記載の有機酸の製造方法。
  14.  前記分裂酵母が、Schizosaccharomyces pombeである、請求項1~13のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
  15.  前記有機酸が乳酸またはリンゴ酸である、請求項1~14のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
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