本発明は、アフリカツメガエル由来の乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子が導入された酵母であって、ピルビン酸脱炭酸酵素1をコードする遺伝子が欠失し、野生型ピルビン酸脱炭酸酵素5をコードする遺伝子の塩基配列の一部が欠失、挿入、置換及び/又は付加された塩基配列からなる温度感受性ピルビン酸脱炭酸酵素5遺伝子を有する酵母と、概酵母を培養することを特徴とする乳酸の製造方法である。
本発明において、乳酸脱水素酵素コードする遺伝子(以下、ldh遺伝子ということがある)は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)とピルビン酸を乳酸と酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)に変換する活性を持つ乳酸脱水素酵素をコードしている遺伝子である。本発明で使用するldh遺伝子は、アフリカツメガエル(ゼノプス・レービス)由来のldh遺伝子である。具体的には、本発明で使用するアフリカツメガエル由来のldh遺伝子は、好ましくは、配列番号6に示す塩基配列を有するldh遺伝子である。該ldh遺伝子には、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化している遺伝的多型性や、既知の方法を用いて人工的に遺伝子に変異を導入する変異誘発などによる変異型の遺伝子も含まれる。
アフリカツメガエル由来のldh遺伝子の酵母への導入方法としては、該遺伝子をプラスミドにクローニングして導入しても良いし、酵母染色体上に組み込んでも良い。該遺伝子の発現様式としては、詳細は後記するが、遺伝子を発現させることができるプロモーターの支配下に該遺伝子が連結されていれば、プラスミドによる発現、または染色体への組み込みによる発現など特に限定されない。得られたプラスミドまたはPCR断片を酵母に導入するには、形質転換、形質導入、トランスフェクション、コトランスフェクションまたはエレクトロポレーション等の方法を用いることができる。
酵母のピルビン酸脱炭酸酵素(以下、PDCということがある)をコードする遺伝子群としては、ピルビン酸脱炭酸酵素1をコードする遺伝子(以下、PDC1遺伝子ということがある)、ピルビン酸脱炭酸酵素5をコードする遺伝子(以下、PDC5遺伝子ということがある)及びピルビン酸脱炭酸酵素6をコードする遺伝子(以下、PDC6遺伝子ということがある)の3種類が知られている。これらのうち、ピルビン酸脱炭酸酵素としての主要な機能を持つ遺伝子はPDC1遺伝子,およびPDC5遺伝子である。
本発明の酵母は、PDC1遺伝子を欠失させたものである。PDC1遺伝子を欠失させることにより、ピルビン酸脱炭酸酵素活性はPDC1遺伝子野生型と比較して低下する。PDC1遺伝子、PDC5遺伝子を共に欠失させるとピルビン酸脱炭酸酵素活性をさらに低下させることができるが、上記のとおり、グルコースを含む培地においては極めて生育が悪くなることが知られている。そこで、本発明においては、PDC5遺伝子に変異を導入することで適度にPDC5遺伝子由来のピルビン酸脱炭酸酵素活性を低下させることができ、酵母のエタノールへの代謝経路を制御することが可能になる。具体的には、本発明の酵母は、酵母細胞内のピルビン酸脱炭酸酵素の比活性が野生型酵母細胞内の比活性の3分の1以下に低下したものが好ましい。酵母細胞内のピルビン酸脱炭酸酵素の比活性は、PDC1遺伝子を欠失させることにより、野生型酵母の比活性の3分の1以下に低下させることが可能である。酵母細胞内のピルビン酸脱炭酸酵素の比活性は、後記の方法により測定することができる。
PDC1遺伝子の欠失は、通常酵母に用いられる栄養要求性マーカー遺伝子や、薬剤耐性遺伝子などの選択マーカーを用いたPDC1遺伝子座の相同組換えにより行うことが可能である。例えば、URA3、LEU2, TRP1, HIS3等の栄養要求性マーカー遺伝子(「メソッヅ イン エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、 101巻、p.202-211、G-418)や薬剤耐性遺伝子(「ジーン(Gene)」、 1083年、26巻、p243-253)を利用することができるが、これに限定されるものではない。
本発明の酵母は、野生型PDC5遺伝子の塩基配列の一部が欠失、挿入、置換及び/又は付加された塩基配列からなる温度感受性PDC5遺伝子を有するものである。ここで、一部塩基の欠失、挿入、置換及び/又は付加の変異は、いずれか単独の変異であってもよく、又はこれらの複数の組合せであってもよい。また、野生型PDC5遺伝子としては、配列番号21に示す塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。
本発明の酵母が有する温度感受性PDC5遺伝子としては、配列番号21に示す塩基配列からなる野生型PDC5遺伝子の変異体であることが好ましく、具体的には、配列番号19又は20のいずれかに示す塩基配列からなる遺伝子であることがより好ましい。
ピルビン酸脱炭酸酵素5の温度感受性とは、変異型ピルビン酸脱炭酸酵素5を有する酵母が、野生型ピルビン酸脱炭酸酵素5を持つ酵母に比較して、ある培養温度では同程度のピルビン酸脱炭酸酵素活性を示すが、培養温度を変化させて特定の培養温度以上になるとピルビン酸脱炭酸酵素5の消失又は低下を示す性質をいう。酵母の通常の培養温度は28℃から30℃であり、温度感受性を示す温度が通常の培養温度に近いほど、培養温度を変化させるために必要な熱量が少なくて済み、培養にかかるコストを低減させることが出来るので、好都合である。本発明においては、変異型ピルビン酸脱炭酸酵素5が34℃以上で温度感受性を示す酵母であることが好ましい。
PDC5遺伝子に変異を導入する具体的な方法は後記するが、通常行われる方法によりPDC5遺伝子のDNA配列を改変することで実現する。PDC5遺伝子の改変の方法としては、例えば変異剤を用いた突然変異株分離法(酵母分子遺伝学実験法、1996年,学会出版センター)を用いることができる。また、分子生物学的手法としては、例えばPCR反応を利用したランダム変異法(ピーシーアール・メソッズ・アプリケーション(PCR Methods Appl.)、1992年、第2巻、p.28-33.)を好適に用いることができる。
また、これら突然変異株群から温度感受性を有する突然変異株を取得する方法でも、該酵素活性低下株を得ることができる。これは、ピルビン酸脱炭酸酵素活性が検出されない酵母はグルコースを唯一炭素源とした場合、著しく生育が遅くなる性質を利用して該酵素活性低下株を取得する方法であって、後記のように、非制限温度条件下では、ピルビン酸脱炭酸酵素活性が残存しているため野生型酵母と同等程度の生育能力を示すが、制限温度条件下では該酵素活性が低下することで生育能力が著しく低下する変異株を取得することで、望ましい温度感受性を有する変異型PDC5遺伝子を得ることができる。
本発明の酵母としては特に制限はなく、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属又はクリベロミセス(Kluyveromyces)属に属する酵母が挙げられが、好ましくは、サッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する酵母である。そのサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する酵母は、好ましくはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
次に、本発明のPDC1遺伝子が欠失し、変異型PDC5遺伝子を有する酵母の取得方法を、より具体的に説明する。
まず、本発明の変異型PDC5遺伝子のスクリーニングを行うために、PDC1遺伝子とPDC5遺伝子の両方を欠失させたΔpdc1 Δpdc5二重欠失酵母を造成する。ここで、記号「Δ」は「欠失」を意味する。
Δpdc1 Δpdc5二重欠失酵母の造成の方法は、特に限定されないが、例えば変異剤を用いた突然変異株分離法、目的遺伝子欠失株分離法(「メソッズ・イン・イースト・ジェネティクス 2000年版(Method in Yeast Genetics 2000 Edition)、2000年、(米国)」)を用いることができる。目的遺伝子欠失株分離法を具体的に説明する。目的遺伝子座の欠失は、通常酵母に用いられる栄養要求性マーカー遺伝子や、薬剤耐性遺伝子などの選択マーカーを用いたPDC1遺伝子、PDC5遺伝子の相同組換えにより実施できる。例えば、URA3、LEU2、 TRP1、HIS3、ADE2、LYS2等の栄養要求性マーカー遺伝子、G418薬剤耐性遺伝子を利用することができるが、これに限定されるものではない。酵母がサッカロマイセス属に属する酵母であれば、目的遺伝子欠失株分離法を用いて、Δpdc1単独欠失株、Δpdc5単独欠失株を造成して、それらの2倍体からの四分子分離法によりΔpdc1 Δpdc5二重欠失酵母を造成することもできる。
次に、変異型PDC5遺伝子の作成方法について述べる。作成の方法は、特に限定されないが、ポリメレース連鎖反応(以下、PCRという)反応を利用した遺伝子工学的手法による取得方法を開示するが、この方法に限定されるわけではない。
特定の遺伝子のDNA配列を変異させる方法としては、ランダムに変異を導入する方法と部位特異的に変異を導入する方法がある。前者のランダム変異の導入方法としては、例えばPCR反応を利用した手法があり、これはDNAポリメラーゼによる遺伝子合成に誤りを起こさせることにより、改変された遺伝子DNA断片を調製することができる。ランダム変異を導入した断片の増幅方法は、例えば、部位特異的変異導入用キットMutan-K(TAKARA社製)を用いる方法や、ランダム変異導入用キットBD Diversify PCR Random Mutagenesis Kit(CLONTECH社製)を用いる方法などがある。
このように得られた変異型PDC5遺伝子の導入には、ギャップ修復法(「酵母分子遺伝学実験法」、学会出版センター、1996年)、すなわち、変異型PDC5遺伝子DNA断片、およびPDC5遺伝子をクローニングした自立複製能力があるプラスミドにおいて、PDC5遺伝子内に欠失して線状化したものを酵母細胞に同時に導入すると、変異型PDC5遺伝子DNA断片と欠失部分両端の相同性配列で相同組み換えが起こり、欠失部分の修復が行われ、同時にプラスミドが閉環され自立複製能力が復帰することを利用することができる。具体的には、PDC5遺伝子をクローニングした酵母用発現ベクターを適当な制限酵素により切断して得られる変異導入標的領域DNAを削除したベクターと、適当なプライマーを用いてPDC5遺伝子領域についてランダム変異を導入しながら増幅した断片を用いて、同時にΔpdc1 Δpdc5二重欠失酵母に導入することにより、変異導入標的領域にランダム変異を導入された変異型PDC5遺伝子がクローニングされた環状プラスミドが得られる。
ギャップ修復法による変異導入に用いるベクターは、正常な機能を持つPDC5遺伝子を自律複製型酵母−大腸菌シャトルベクターにクローニングすることによって得られる。この際、導入されるPDC5遺伝子領域には、当該遺伝子の上流域及び下流域に存在する当該遺伝子の発現を調節するオペレーター、プロモーター、ターミネーターおよびエンハンサー等のいわゆる調節配列をも含むことが好ましい。この調節配列によりクローニングしたPDC5遺伝子、あるいは変異型PDC5遺伝子を発現させることによって、得られたタンパク質の機能を調べることができる。
また、上記の変異導入で利用するベクターは、コピー数が少なく、例えば酵母のセントロメアの複製開始点と大腸菌のColE1複製開始点の両方を有しており、また、薬剤耐性遺伝子、URA3の酵母選択マーカー、および、アンピシリン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子を含む大腸菌の選択マーカーを有することが好ましい。例えば、YCp50、pRS315、pRS316、pAUR112またはpAUR123等のベクターが挙げられる。
ベクターと増幅遺伝子断片の微生物への導入方法には、形質転換、形質導入、トランスフェクション、コトランスフェクションおよびエレクトロポレーション等の方法があり、具体的には、例えば、酢酸リチウムを用いる方法(「ジャーナル オブ バクテリオロジー(Journal of bacteriology)」、1983年、第153巻、p.163-168)やプロトプラスト法(「モレキュラー・セル・バイオロジー(Molecular Cell Biology)」、1984年、第4巻、p.771-778)等によって実施できる。
また、得られた形質転換酵母の培養方法はすでに公知であり、例えば、「「メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、(米国)、第181巻」に記述の培地、及び方法を用いることができる。
次に、変異型PDC5遺伝子の導入によって、細胞内のピルビン酸脱炭酸酵素活性が変化した酵母の選抜方法について説明する。ピルビン酸脱炭酸酵素活性が変化したことの確認方法としては、上記のギャップ修復法でえられた各々の形質転換細胞を培養した破砕物について、後記の方法によりピルビン酸脱炭酸酵素比活性を測定し、野生型PDC5遺伝子を有する酵母に比較して変化していることを指標として選抜できる。
野生型PDC5遺伝子を有する酵母に比べてピルビン酸脱炭酸酵素比活性が低下した変異型PDC5遺伝子を有する形質転換酵母細胞の選抜は、変異型PDC5遺伝子を有する酵母のピルビン酸脱炭酸酵素比活性を測定し、野生型PDC5遺伝子を有する酵母に比較して該酵素比活性が低下した細胞を選抜することで行うことができる。また、あるいは変異型PDC5遺伝子が温度感受性を示す形質転換酵母を選抜することによって、より好ましい酵母の選抜ができる。
ここで、本発明でいう温度感受性とは、非制限温度条件においては野生型と同程度の生育を示し、制限温度条件において生育しなくなること形質を有することを意味する。例えば、酵母の一般的な培養温度である28℃乃至30℃という非制限温度条件下では、ピルビン酸脱炭酸酵素活性が残存していて野生型酵母と同等程度の生育能力を示すが、34℃という制限温度条件下では該酵素活性が低下することで生育能力が著しく低下する形質を有する酵母が例示される。温度感受性形質の細胞を選抜することで、変異型PDC5遺伝子を得ることができ、温度感受性を獲得した変異型PDC5遺伝子を有する本発明の酵母を用いることによって、PDC5遺伝子産物であるピルビン酸脱炭酸酵素の酵素活性に酵母の生育を依存させることができる。本発明では、選抜する好ましい温度条件として25℃、30℃、34℃が挙げられ、特に34℃が好ましいが、選抜する培養温度の設定はこれらに限定されない。
上記で選抜した酵母の細胞内のピルビン酸脱炭酸酵素活性の評価方法を説明する。該酵素活性は、以下(1)〜(3)に概略を示すプロンクらの方法(「イースト(Yeast)」、1996年、第12巻、p.1607−1633)を適時改変して測定することができる。
(1):ピルビン酸脱炭酸酵素により基質ピルビン酸からアセトアルデヒドが生じる。
(2):(1)において生じたアセトアルデヒドをアルコール脱水素酵素が還元型ニコチンアミドジヌクレオチド(NADH)を補酵素としてエタノールに変換する。
(3):(2)においてアルコール脱水素酵素がアセトアルデヒドをエタノールに変換する際に減少するNADHの量を測定する。
ここで、(2)において減少したアセトアルデヒドの量は、(1)において生じたアセトアルデヒドの量と等しいとすると、(3)で測定したNADHの減少量と(1)におけるピルビン酸の減少量は等しいこととなる。すなわち、酵母細胞内のピルビン酸脱炭酸酵素活性は、上記反応系のNADH減少量から測定できる。
また、酵母細胞内のピルビン酸脱炭酸酵素活性は、比活性を指標として比較することができる。すなわち、同条件下で培養した酵母からタンパク質を抽出し、その抽出液を用いてNADHの減少に伴う波長340nmにおける吸光度の変化を測定する。その際に、30℃において1分間当たりに1μmolのNADHを減少させる酵素量を1単位(Unit)と定義することにより、ピルビン酸脱炭酸酵素の比活性は、次の式(1)で表すことができる。ここで、Δ340は1分間あたりの波長340nmの吸光度の減少量、6.22は光路長1cmにおけるNADHのミリモル分子吸光係数である。同条件下で測定をで行い、算出されたピルビン酸脱炭酸酵素の比活性により該酵素活性を比較することができる。
次に、変異型PCD5遺伝子を有し、PDC1遺伝子が欠失したΔpdc1 改変pdc5酵母の造成について説明する。上記で得られた、変異型PDC5遺伝子がクローニングされたプラスミドを形質転換酵母より取得する。取得の方法は特に限定されないが、市販の酵母プラスミド回収キット、例えばYEASTMAKER Yeast Plasmid Isolation Kit(クロンテック社)などを用いることができる。得られたプラスミドのPDC5遺伝子配列内を切断しない制限酵素で消化、線状化したもので、上記のように造成したΔpdc1 Δpdc5二重欠失酵母を形質転換すると、PDC5遺伝子座に隣接するDNA配列と線状化プラスミドのDNA配列の相同領域で組み換えがおこり、PDC5を欠失した際に用いたマーカー遺伝子と変異型PDC5遺伝子とが置換され、目的とするΔpdc1 改変pdc5酵母を得ることができる。これは、「pop−in/pop−out法」(「メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、1987年、第154巻、p.164-174」に記載)を応用することで実施できる。
アフリカツメガエル由来の乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子(ldh遺伝子)が導入され、PDC1遺伝子が欠失し、温度感受性PDC5遺伝子を有する本発明の酵母を培養することによって、効率的に乳酸を製造することができる。
ldh遺伝子の発現様式としては、遺伝子を発現させることができるプロモーターの支配下に該遺伝子が連結されていれば、プラスミドによる発現、または染色体への導入による発現など特に限定されない。
プラスミドによる発現としては、乳酸脱水素酵素遺伝子を酵母の発現プラスミドに連結し、後述する遺伝子導入の方法に従って該プラスミドによる酵母の形質転換を行う方法が挙げられる。通常、酵母で利用する発現プラスミドは、例えば、酵母の2μmプラスミドの複製開始点(Ori)もしくはセントロメアの複製開始点と大腸菌のColE1複製開始点の両方を有しており、また、例えば、薬剤耐性遺伝子、URA3およびLEU2等の酵母選択マーカー、および大腸菌の選択マーカー(薬剤耐性遺伝子等)を有することが好ましい。また、導入した遺伝子を発現させるために、その遺伝子の発現を調節するオペレーター、プロモーター、ターミネーターおよびエンハンサー等のいわゆる調節配列をも含んでいることが望ましい。例えば、GAPDH(グリセルアルデヒド3’−リン酸デヒドロゲナーゼ)プロモーターおよびGAPDHターミネーターが挙げられる。
発現ベクターは、例えば、染色体挿入型のベクターであってもかまわない。染色体への導入による発現としては、例えば、乳酸脱水素酵素遺伝子を、染色体上の目的箇所に、好ましくはピルビン酸脱炭酸酵素1遺伝子のプロモーターの下流に、相同組み換えで挿入する方法が挙げられる。染色体上の目的箇所に乳酸脱水素酵素遺伝子を相同組換えで挿入する方法としては、乳酸脱水素酵素遺伝子の上流及び下流に、導入目的箇所に相同的な部分を付加するようにデザインしたプライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR断片を用いて酵母の形質転換を行う方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、形質転換株の選択を容易にするために、上記PCR断片には酵母選択マーカーを含んでも構わない。
本発明の酵母を培養して乳酸を製造する方法とは、本発明の酵母を発酵培地に接種して培養することで該酵母に乳酸を発酵培養液中に産成せしめ、その発酵培養液から乳酸採取することによる乳酸の製造方法のことである。
本発明の酵母を培養する発酵培地としては、該酵母が資化しうる炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、該酵母の培養を効率的に行える培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いても良い。炭素源としては、該酵母が資化しうるものであればよく、グルコース、フルクトース、シュークロース等の糖類、これらの糖類を含有する糖蜜、デンプン又はデンプン加水分解物などの炭水化物を用いることができる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機酸または有機酸のアンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティーブリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕、大豆粕加水分解物、各種醗酵菌体消化物等を用いることができる。無機塩類としては、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムなどを用いることができる。上記炭素源は、培養開始時に一括して添加してもよいし、又は培養中に分割して若しくは連続的に添加することもでき、50g/l〜150g/lの濃度で用いられる。
本発明の酵母の培養は、振とう培養もしくは撹拌培養などで行うことができる。酸素供給条件は特に限定されるものではないが、好気的条件下あるいは微好気条件下で好ましく行うことができる。培養中の発酵培養液のpHは2.5〜5.0に保持することが望ましく、このpHの調整はアルカリ溶液、アルカリ懸濁液、アルカリ性のガスを培養液に投入することで行うことができる。アルカリ溶液あるいはアルカリ懸濁液には水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、炭酸カルシウムを好ましく用いることができる。アルカリ性のガスにはアンモニアを好ましく用いることができる。
本発明の酵母の培養方法としては、回分培養、流加培養、ならびに連続培養を採用することができ、それぞれの培養の発酵培養液から乳酸を採取することで乳酸を製造することができる。培養温度は25〜35℃がよく、培養時間は、回分培養ならびに流加培養の場合は、通常24時間〜5日間である。
これらの培養方法のうち、本発明の酵母を連続培養することで乳酸を製造する方法が好ましい。連続培養とは、発酵培養を行っている発酵培養槽から、発酵培養液を連続的に抜き取り、抜き取った発酵培養液から生産物を回収するとともに発酵培地を前記の発酵培養液に追加しながら培養する方法であり、こうすることで乳酸を連続発酵することができる。連続培養の利点は、発酵培地を連続的に供給することから、目的生産物である乳酸の生産速度が向上する。また、発酵培養液を連続的に抜き取ることから発酵培養液中の乳酸濃度を抑えることが可能であり、目的生産物の濃度による生産能力阻害から回避できることから、乳酸の生産速度の向上が可能となる。培養温度は25〜35℃がよく、培養時間は所望の連続培養時間を設定できる。
更に分離膜を用いた連続培養を行うことで乳酸の連続発酵を行うこともできる。具体的には、本発明の酵母の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収するとともに未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、発酵培地を前記の発酵培養液に追加する連続発酵方法である。分離膜を用いた連続培養では、未濾過液に含まれる酵母が再び発酵培養液に保持または還流され、発酵培養槽内の酵母濃度が向上することから、乳酸の生産速度向上が可能となる。培養温度は25〜35℃が好ましく、培養時間は所望の連続培養時間を設定できる。
ここで、本発明の乳酸の製造法で用いることができる分離膜について説明する。分離膜としては多孔性膜を用いることが望ましい。多孔性膜とは、被処理水の水質や用途に応じた分離性能と透水性能を有するものである。多孔性膜の材質は前記性能を有していれば特に制限されないが、阻止性能および透水性能や分離性能、例えば、耐汚れ性の点から、多孔質樹脂層を含む多孔性膜であることが好ましい。
多孔質樹脂層を含む多孔性膜は、好ましくは、多孔質基材の表面に、分離機能層として作用とする多孔質樹脂層を有している。多孔質基材は、多孔質樹脂層を支持して分離膜に強度を与える。
本発明の乳酸の製造法で用いられる多孔性膜が、多孔質基材の表面に多孔質樹脂層を有している場合、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。
本発明の乳酸の製造法で用いられる多孔質基材の平均厚みは、好ましくは50μm以上3000μm以下である。
本発明の乳酸の製造法で用いられる多孔質基材の材質は、有機材料および/または無機材料等からなり、有機繊維が望ましく用いられる。好ましい多孔質基材は、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布であり、より好ましくは、密度の制御が比較的容易であり製造も容易で安価な不織布が用いられる。
また、多孔質基材の多孔質樹脂層には、有機高分子膜を好適に使用することができる。有機高分子膜の材質としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂などが挙げられる。有機高分子膜は、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物であってもよい。ここで主成分とは、その成分が50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。
有機高分子膜の材質は、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂およびポリアクリロニトリル系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が最も好ましく用いられる。
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられる。さらに、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三塩化フッ化エチレンなどが例示される。
また、分離膜として用いる多孔性膜の平均細孔径は、0.01μm以上1μm未満であることが望ましい。多孔性膜の平均細孔径が、0.01μm以上1μm未満であると、発酵に使用される微生物もしくは培養細胞による目詰まりが起こりにくく、かつ、濾過性能が長期間安定に継続する性能を有する。ここで、平均細孔径は、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡観察における、9.2μm×10.4μm四方の範囲内で観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めることができる。
分離膜として用いる多孔性膜においては、培養液の透過性が重要な性能の一つである。多孔性膜の透過性の指標として、使用前の多孔性膜の純水透過係数を用いることができる。本発明において、分離膜として用いる多孔性膜の純水透過係数は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10−9m3/m2/s/pa以上であることが好ましく、純水透過係数が、2×10−9m3/m2/s/pa以上6×10−7m3/m2/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。
多孔性膜の形状は、好ましくは平膜である。多孔性膜の形状が平膜の場合、その平均厚みは用途に応じて選択される。多孔性膜の形状が平膜の場合の平均厚みは、好ましくは20μm以上5000μm以下であり、より好ましくは50μm以上2000μm以下である。
また、本発明で用いられる多孔性膜の形状は、好ましくは中空糸膜である。多孔性膜が中空糸膜の場合、中空糸の内径は、好ましくは200μm以上5000μm以下であり、膜厚は、好ましくは20μm以上2000μm以下である。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編物を中空糸の内部に含んでいても良い。
上記のような多孔性膜を分離膜として用いて、本発明の酵母の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収するとともに未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、発酵培地を前記の発酵培養液に追加する連続発酵によって乳酸を製造することができる。
次に、分離膜を用いた連続発酵に用いる連続発酵装置の概要を説明する。本発明で用いることができる連続発酵装置は、本発明の酵母を発酵培養させるための発酵反応槽を有するものである。
本発明の乳酸の製造方法で用いることができる連続発酵装置のひとつの形態は、発酵反応槽と、その発酵反応槽内部に配設され分離膜を備えた発酵培養液を濾過するための分離膜エレメントと、その分離膜エレメントに接続され濾過された発酵生産物を排出するための手段を有する。該分離膜エレメントには分離膜として上述の多孔性膜が用いることができる。
本発明で用いられる連続発酵装置の別の形態は、発酵反応槽と、その発酵反応槽に発酵培養液循環手段を介して接続され内部に分離膜エレメントを備えた発酵培養液を濾過するための膜分離槽を有する。該分離膜エレメントには分離膜として上述の多孔性膜が用いることができる。
次に、本発明の乳酸の製造法で用いることができる連続発酵装置について、発酵反応槽と、その発酵反応槽内部に配設され分離膜を備えた発酵培養液を濾過するための分離膜エレメントと、その分離膜エレメントに接続され濾過された発酵生産物を排出するための手段からなる装置について、具体的に図面を用いて説明する。
図2は、本発明で用いることができる連続発酵装置の例を説明するための概略側面図である。本発明の乳酸の製造方法で用いることができる連続発酵装置のうち、分離膜エレメントが発酵反応槽の内部に設置された代表的な一例を図2の概略図に示す。
図2において、連続発酵装置は、内部に分離膜エレメント2を備えた発酵反応槽1と水頭差制御装置3で基本的に構成されている。発酵反応槽1内の分離膜エレメント2には、多孔性膜が組み込まれている。この多孔性膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを使用することができる。
次に、図2の連続発酵装置による連続発酵の形態について説明する。培地供給ポンプ7によって、培地を発酵反応槽1に連続的もしくは断続的に投入する。培地は、投入前に必要に応じて、加熱殺菌、加熱滅菌あるいはフィルターを用いた滅菌処理を行うことができる。発酵生産時には、必要に応じて、発酵反応槽1内の攪拌機5で発酵反応槽1内の発酵培養液を攪拌する。発酵生産時には、必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を発酵反応槽1内に供給することができる。発酵生産時は、必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵反応槽1内の発酵液のpHを調整し、必要に応じて、温度調節器10によって発酵反応槽1内の発酵培養液の温度を調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。
ここでは、計装・制御装置による発酵培養液の物理化学的条件の調節に、pHおよび温度を例示したが、必要に応じて、溶存酸素やORP(Oxidation Reduction Potential:酸化還元電位)の制御、オンラインケミカルセンサーなどの分析装置により、発酵液中のピルビン酸の濃度を測定し、発酵培養液中の乳酸の濃度を指標とした物理化学的条件の制御を行うことができる。また、培地の連続的もしくは断続的投入は、好ましくは、上記計装装置による発酵培養液の物理化学的環境の測定値を指標として、培地投入量および速度を適宜調節する。
図2において、発酵培養液は、発酵反応槽1内に設置された分離膜エレメント2によって、微生物と発酵生産物が、濾過・分離され、発酵生産物が装置系から取り出される。また、濾過・分離された微生物が装置系内に留まることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離は発酵反応槽1の水面との水頭差圧によって行い、特別な動力を必要としない。また、必要に応じて、レベルセンサ6および水頭差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度およびよび発酵反応槽1内の発酵培養液量を適当に調節することができる。上記の分離膜エレメントによる濾過・分離には、必要に応じて、ポンプ等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより、濾過・分離することもできる。また、別の培養槽(図示せず)で連続発酵により微生物または培養細胞を培養し、それを必要に応じて発酵反応槽1内に供給することができる。別の培養槽で連続発酵により微生物または培養細胞を培養し、その培養液を必要に応じて発酵反応槽1内に供給することにより、常にフレッシュな本発明の酵母による連続発酵が可能となり、高い生産性能を長期間維持した連続発酵が可能となる。
本発明の酵母を上述の培養条件で培養することにより、乳酸を含む発酵培養液、またはその濾過液を得ることができる。得られた乳酸の測定法に特に制限はないが、例えば、HPLCを用いる方法や、F−キット(ロシュ社製)を用いる方法などがある。乳酸の光学純度の測定法は特に制限されないが、例えば、HPLCを用いる方法によって測定することができる。
得られた培養液中の乳酸は、従来より知られている方法によって、精製することができる。例えば、微生物を遠心分離した発酵液をpH1以下にしてからジエチルエーテルや酢酸エチル等で抽出する方法、イオン交換樹脂に吸着、洗浄した後、溶出する方法、活性炭を用いて不純物を除去する方法、酸触媒の存在下でアルコールと反応させてエステルとしてから蒸留する方法、ならびにカルシウム塩やリチウム塩として晶析する方法などがある。また、分離膜を用いることで精製することも可能である。例えば、UF膜、NF膜によって乳酸と不純物とを分離精製することができる。また、前記精製された乳酸を濃縮する場合には、晶析、蒸留などの方法を採用しうる。また、RO膜を用いた濃縮も可能である。
以下、乳酸としてL−乳酸を選定し、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
下記、分子遺伝学的な実施の手法に関しては、特に断らないかぎり「「モレキュラー・クローニング 第3版(Molecular cloning 3rd ed.)」、1991年、(米国)」、「「メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、1991年、(米国)、第194巻」、「「メソッズ・イン・イースト・ジェネティクス 2000年版(Method in Yeast Genetics 2000 Edition)」、2000年、(米国)」に従った。
参考例1 ヒト由来L−ldh遺伝子のクローニング
ヒト由来L−ldh遺伝子のクローニングは下記のように実施した。具体的には、ヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結することでL−乳酸発酵能力を持つ酵母を造成した。ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)には、La−Taq(宝酒造)、あるいはKOD-Plus-polymerase(東洋紡)を用い、付属の取扱説明に従って行った。
ヒト乳ガン株化細胞(MCF−7)を培養回収後、TRIZOL Reagent(Invitrogen社製)を用いてtotal RNAを抽出し、得られたtotal RNAを鋳型としてSuperScript Choice System(Invitrogen社製)を用いた逆転写反応によりcDNAの合成を行った。これらの操作の詳細は、それぞれ付属のプロトコールに従った。得られたcDNAを続くPCRの増幅鋳型とした。
上記操作で得られたcDNAを増幅鋳型とし、配列番号1及び配列番号2で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRKOD-Plus-polymeraseによるPCRによりL−ldh遺伝子のクローニングを行った。各PCR増幅断片を精製し末端をT4 Polynucleotide Kinase(TAKARA社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、DNA Ligation Kit Ver.2(TAKARA社製)を用いて行った。ライゲーションプラスミド産物で大腸菌DH5αを形質転換し、プラスミドDNAを回収することにより配列番号3で表されるヒト由来L−ldh遺伝子がサブクローニングされたプラスミドを得た。得られたL−ldh遺伝子が挿入されたpUC118プラスミドを制限酵素XhoIおよびNotIで消化し、得られた各DNA断片を図1に示す酵母発現用ベクターpTRS11のXhoI/NotI切断部位に挿入した。このようにしてヒト由来L−ldh遺伝子発現プラスミドpL−ldh5(L−ldh遺伝子)を得た。
実施例1 アフリカツメガエル由来L−LDH遺伝子のクローニング
アフリカツメカエル(ゼノプス・レービス)由来のL−ldh遺伝子のクローニングは下記のように行った。L−ldh遺伝子は、PCR法によりクローニングを行った。PCRには、アフリカツメカエル(ゼノプス・レービス)の腎臓由来cDNAライブラリー(STRATAGENE社製)より、各付属のプロトコールに従い調製したファージミドDNAをPCRの鋳型とした。
PCR増幅反応には、KOD-Plus polymerase(東洋紡社製)を用い、反応バッファー、dNTPmixなどは付属のものを使用した。上記得られたファージミドDNAをそれぞれ50ng/サンプル、プライマーを50pmol/サンプル、およびKOD-Plus polymeraseを1ユニット/サンプルになるように50μlの反応系に調製した。反応溶液をPCR増幅装置iCycler(BIO−RAD社製)により94℃の温度で5分熱変成させた後、94℃(熱変成):30秒、55℃(プライマーのアニール):30秒、68℃(相補鎖の伸張):1分を1サイクルとして30サイクル行い、その後4℃の温度に冷却した。なお、配列番号4、配列番号5で表されるアフリカツメガエル由来L−ldh遺伝子増幅用プライマーは、5末端側にはSalI認識配列、3末端側にはNotI認識配列がそれぞれ付加されるようにして作製した。
各PCR増幅断片を精製し、末端をT4 polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、DNA Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用いて行った。ライゲーション溶液を大腸菌DH5αのコンピテント細胞(タカラバイオ社製)に形質転換し、抗生物質アンピシリンを50μg/mLを含むLBプレートに蒔いて一晩培養した。生育したコロニーについて、ミニプレップでプラスミドDNAを回収し、制限酵素XhoI(またはSalI)およびNotIで切断し、L−ldh遺伝子が挿入されているプラスミドを選抜した。これら一連の操作は、全て付属のプロトコールに従い行った。
このL−ldh遺伝子が挿入されたpUC118ベクターを制限酵素SalIおよびNotIで消化し、それぞれのDNA断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、定法に従いL−ldh遺伝子断片を精製した。ここで、得られたアフリカツメガエル由来L−ldh遺伝子のDNA配列を配列番号6に示す。得られたアフリカツメガエルL−ldh遺伝子断片を図1に示す酵母発現用ベクターpTRS11のXhoI/NotI切断部位にライゲーションし、上記と同様な方法によりL−ldh遺伝子が挿入された酵母発現用ベクターを選抜した。以後、このようにして作製したアフリカツメガエル由来のL−ldh遺伝子が挿入された発現ベクターをpL−ldh9とする。
実施例2 Δpdc1 Δpdc5二重欠失株の造成
下記、酵母分子遺伝学的な手法を実施に用いた生育培地としてはYPD培地、YPAD培地、YPG培地、YPAG培地、SD培地、SPO培地、は「「メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、1991年、(米国)、第194巻」に従い調整した。酵母最小培地であるSD培地には必要に応じて、アミノ酸及び核酸塩基[トリプトファン、チロシン、ヒスチジン、アルギニン、メチオニン、ウラシル(最終濃度各20mg/L)、チロシン、ロイシン、イソロイシン、リジン(各30 mg/L)、バリン(150 mg/L)、フェニルアラニン(60 mg/L)、スレオニン(200 mg/L)、およびアデニン(40 mg/L)]を加えて用いた。グリセロールを炭素源とした最小培地にはSG培地[グルコースの代わりにグリセロール30 g]を用いた。酵母の合成完全培地にはSC培地[1 literあたりグルコース20 g、Yeast Nitrogen Base w/o amino acids(Difco社製)6.7 g、ロイシンを除く標準19種アミノ酸76 mg、ロイシン380 mg、イノシトール76 mg、p-アミノ安息香酸8 mg、アデニン40 mg、およびウラシル76 mg]を用い、グリセロールを炭素源とした培地にはSCG培地[グルコースの代わりにグリセロール30 g]を用いた。必要に応じて任意のアミノ酸及び核酸塩基を加えない培地(例えばウラシルを加えない培地はSCG-Ura培地)を用いた。尚、これらはYeast Synthetic Drop-out Medium Supplements(Sigma-Aldrich社製)を用いても調整できる。四分子解剖用培地にはYPAD培地あるいはYPAG培地1 literに精製寒天粉末(ナカライ社製)20 gを加え、90 mmシャーレ(岩城硝子社製)に寒天培地12 mlを満たすことで調整した。5-FOA培地は1 literあたりグルコース20 g、Yeast Nitrogen Basew/o amino acids 6.7 g、Yeast Synthetic Drop-out Medium Supplements w/o uracil(Sigma-Aldrich社製) 1.92 g、ウラシル50 mg、および5-FOA(和光純薬社製)1 g(高圧蒸気滅菌後添加)を含む。平板培地を調整するときは、断らない限り1 literあたりBactoagar(Difco)20 g、あるいは精製寒天粉末(ナカライ社製)20 gを加えた。滅菌は1 kg/cm2、20分間の条件でオートクレーブを用い高圧蒸気滅菌した。
まず、Saccharomyces cerevisiae NBRC10505株のゲノムDNA上に存在するPDC1遺伝子を欠失した酵母を造成した。プラスミドpRS404を増幅鋳型として、配列番号7及び配列番号8で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRによりで表される塩基配列からなるプライマーセットを用いたPCRにより1.3kbのTRP1遺伝子DNA断片を増幅した。該断片を1.5%アガロースゲル電気泳動し、常法により精製した。その精製産物で常法により酵母NBRC10505株をトリプトファン非要求性に形質転換した。得られた形質転換細胞はゲノムDNA上のPDC1遺伝子がTRP1遺伝子に置換されているpdc1欠失株となっているはずである。それを確認するために、ゲノムDNAを増幅鋳型として、配列番号9及び配列番号10で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより得られた増幅産物を1.5%アガロース電気泳動した。ゲノムDNA上のPDC1遺伝子がTRP1遺伝子に置換されていた場合、1.3kbの増幅産物が得られる。一方、置換されていない場合、1.9kb産物が得られる。1.3kb産物が得られたことから、該形質転換体をPDC1遺伝子が欠失されたSW010株とした。
また、ゲノムDNA上に存在するPDC5遺伝子を欠失した酵母を下記のように造成した。プラスミドpRS406を増幅鋳型として、配列番号11及び配列番号12で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRによりで表される塩基配列からなるプライマーセットを用いたPCRにより1.3kbのURA3遺伝子DNA断片を増幅した。該断片を1.5%アガロースゲル電気泳動し、常法により精製した。その精製産物で常法により酵母NBRC10506株をウラシル非要求性に形質転換した。得られた形質転換細胞はゲノムDNA上のPDC5遺伝子がURA3遺伝子に置換されているpdc5欠失株となっているはずである。それを確認するために、ゲノムDNAを増幅鋳型として、配列番号13及び配列番号14で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより得られた増幅産物を1.5%アガロース電気泳動した。ゲノムDNA上のPDC1遺伝子がURA3遺伝子に置換されていた場合、1.2kbの増幅産物が得られる。一方、置換されていない場合、1.9kb産物が得られる。1.2kb産物が得られたことから、該形質転換体をPDC5遺伝子が欠失されたSW011株とした。Δpdc1 Δpdc5二重欠失株は下記のように造成した。上記得られたSW010株、SW011株を接合させ2倍体細胞を得た。該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖し、YPAG培地でそれぞれの胞子を生育させ、それぞれの一倍体細胞を得た。得られた一倍体細胞の栄養要求性を調べた。目的とするΔpdc1 Δpdc5二重欠失株は、ウラシルおよびトリプトファン非要求性を示すはずである。栄養供給性を調べた結果、ウラシルおよびトリプトファン非要求性を示した。得られたウラシル、およびトリプトファン非要求性株のゲノムDNAを増幅鋳型とし、配列番号9及び配列番号10で表されるオリゴヌクレオチド、並びに配列番号13及び配列番号14で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより、PDC1遺伝子、およびPDC5遺伝子が欠失されていることを確認した。このΔpdc1 Δpdc5二重欠失株をSW012株とした。SW012株はグルコースを唯一炭素源として生育しないことを確認した。
更にプラスミドpRS403を増幅鋳型として、配列番号11及び配列番号12で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRによりで表される塩基配列からなるプライマーセットを用いたPCRにより1.3kbのHIS3遺伝子DNA断片を増幅した。該断片を1.5%アガロースゲル電気泳動し、常法により精製した。その精製産物で常法により酵母NBRC10506株をヒスチジン非要求性に形質転換した。得られた形質転換細胞はゲノムDNA上のPDC5遺伝子がHIS3遺伝子に置換されているpdc5欠失株となっているはずである。それを確認するために、ゲノムDNAを増幅鋳型として、配列番号13及び配列番号14で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより得られた増幅産物を1.5%アガロース電気泳動した。ゲノムDNA上のPDC5遺伝子がHIS3遺伝子に置換されていた場合、1.3kbの増幅産物が得られる。一方、置換されていない場合、1.9kb産物が得られる。1.3kb産物が得られたことから、該形質転換体をpdc5が欠失されたSW013株とした。Δpdc1 Δpdc5二重欠失株は下記のように造成した。上記得られたSW010株、SW013株を接合させ2倍体細胞を得た。該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖し、YPAG培地でそれぞれの子嚢を生育させ、それぞれの一倍体細胞を得た。得られた一倍体細胞の栄養要求性を調べた。目的とするΔpdc1 Δpdc5二重欠失株は、ヒスチジンおよびトリプトファン非要求性を示すはずである。栄養供給性を調べた結果、得られたヒスチジンおよびトリプトファン非要求性株のゲノムDNAを増幅鋳型とし、配列番号9及び配列番号10で表されるオリゴヌクレオチド、並びに配列番号13及び配列番号14で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより、PDC1およびPDC5遺伝子が欠失されていることを確認した。このΔpdc1 Δpdc5二重欠失株をSW014株とした。SW014株はグルコースを唯一炭素源として生育しないことを確認した。
実施例3 pdc5ts変異遺伝子の取得
BY4741株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号15及び配列番号16で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより、PDC5遺伝子を含む2.7kbの増幅DNA断片を得た。該断片をNotIで消化し、予めNotIで消化しておいたプラスミドpRS316のNotI間隙に挿入した。得られたプラスミドpRS316−PDC5によって、SW013株をウラシル非要求性に形質転換した。該形質転換体がグルコースを唯一炭素源として生育能力が回復し、且つ37℃での生育能力を有していることを確認した。該形質転換体から、プラスミドpRS316−PDC5を常法によって回収し、pRS316に挿入した2.7kbの塩基配列を常法によって決定し、pRS316−PDC5はPDC5遺伝子が含まれていることを確認した。
次に、プラスミドpRS316−PDC5を増幅鋳型とし、配列番号17及び配列番号18で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとし、BD Diversify PCR Random Mutagenesis Kit(クロンテック社製)を用いたPCRによりPDC5をコードする1.7kbの増幅DNA断片を得た。該kitを用いたPCRにより、DNA増幅時に変異導入頻度が高くなり、上記得られた1.7kb断片は通常のPCRで得られる断片と比較して、変異を含む断片を含む頻度が高い。得られた1.7kb断片と、プラスミドpRS316−PDC5を制限酵素Van91I、Bpu1102Iにより消化し線状化したプラスミド断片によって、SW014株をウラシル非要求性に形質転換し、SC−Ura培地を用い25℃で保温することで生育する形質転換体を選択した。ギャップ修復法を応用した方法により、上記1.7kb断片と線状化プラスミドが相同組み換えを起こし、再び環状化したプラスミドを獲得した細胞のみが生育する。得られた形質転換体群を新鮮なSC−Ura培地にレプリカし34℃で保温した。レプリカした形質転換体群の中で34℃で生育しない形質転換体を2株選択し、pdc5温度感受性変異pdc5ts−9、およびpdc5ts−11とした。この形質転換体から常法によりプラスミドを回収し、上記1.7kb増幅DNA断片に対応する塩基配列を決定した。その結果、pdc5ts−9は、配列番号19で表される構造遺伝子DNAの1397番目の塩基がCからTへの一塩基置換変異、またpdc5ts−9は、配列番号20で表される構造遺伝子DNAの701番目の塩基がCからTへの一塩基置換変異であった。それぞれの該プラスミドをpdc5温度感受性変異アレルをもつpRS316−pdc5ts9、およびpRS316−pdc5ts11とした。
実施例4 pdc5ts変異株の造成
プラスミドpRS316−pdc5ts9およびpRS316−pdc5ts11をNotIで消化し、pdc5ts9およびpdc5ts11変異遺伝子を含む2.7kb断片を得た。該断片を用いてSW012株をウラシル要求性に形質転換し、5FOA培地で25℃に保温し生育する形質転換体を選択した。得られた形質転換体群を新鮮なSC−Ura培地にレプリカし34℃で保温した。レプリカした形質転換体群の中で34℃で生育しない形質転換体を選択し、pdc5ts9温度感受性変異株SW015株、pdc5ts11温度感受性変異株SW016株とした。
実施例5 pdc5ts変異株の諸性質
PDC野生型株、Δpdc1欠失株およびΔpdc1 pdc5温度感受性株のPDC活性を測定した。
(a)菌体からのタンパク質抽出
寒天培地上からNBRC10505株、SW010株、SW015株、およびSW016株をそれぞれ少量とり、3mLのYPD液体培地に植菌し一晩培養した(前培養)。前培養液を新しいYPD液体培地20mLに1%植菌し、100mL容坂口フラスコを用いて30℃の温度で24時間振とう培養した(本培養)。本培養液10mLを遠心分離により集菌、10mLのリン酸バッファーで洗浄後、1mLのリン酸バッファーに懸濁した。上記菌体懸濁液をエッペンドルフチューブに移し、さらに等量のガラスビーズ(SIGMA社製、直径0.6mm)を加え、Micro Tube Mixer(TOMY社製)を用い4℃で菌体を破砕した。このようにして菌体を破砕した後、遠心分離して得られる上清をPDC酵素液とした。
(b)PDC活性測定
上記(a)で得られたPDC酵素液の濃度を、ウシIgG(1.38mg/mL、BIO−RAD社製)をスタンダードとして作製した検量線をもとにBCA Protein Assay Kit(PIERCE社製)により測定し、それぞれのPDC酵素液が2mg/mLになるように滅菌水で希釈した。次に、表1に示した割合でPDC酵素液およびNADHを除いた混合液をセミミクロキュベットに分注し、測定を始める直前にPDC酵素液及びNADHを加え混合した。
各PDC酵素液の340nmにおける吸光度の減少を分光光度計(Ultrospec3300Pro アマシャム社製)で測定し、得られたΔ340の値を式(1)にあてはめ、ピルビン酸ナトリウム5mMについて、各PDCの比活性を算出した。その結果を表2に示す。
この結果、変異型PDC5遺伝子を有するpdc5ts9温度感受性変異株SW015株、pdc5ts11温度感受性変異株SW016株のPDC比活性は、NBRC10505株の1/3以下、且つSW010株より低いことが明らかになり、PDC5遺伝子の温度感受性変異酵母を取得することで、PDC比活性が低下した酵母を得ることができた。
比較例1、2 pdc5温度感受性変異株による乳酸発酵試験(ヒト由来LDH遺伝子)
上記で取得したpdc5温度感受性変異株の乳酸発酵試験を行った。ヒト由来LDH遺
伝子を含むプラスミドpL−ldh5でSW015株、およびSW016株を形質転換す
ることで、ヒト由来LDHを導入した。乳酸発酵試験には表3に示す乳酸発酵培地を高圧
蒸気滅菌(121℃、15分)した。
生産物である乳酸の濃度の評価は、下記に示す条件でHPLCを用いて評価した。
カラム:Shim−Pack SPR−H(島津社製)
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、
0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
また、L−乳酸の光学純度測定は以下の条件でHPLC法により測定した。
カラム:TSK−gel Enantio L1(東ソー社製)
移動相 :1mM 硫酸銅水溶液
流速:1.0ml/min
検出方法 :UV254nm
温度 :30℃。
また、L−乳酸の光学純度は次式で計算される。
光学純度(%)=100×(L−D)/(L+D)
ここで、LはL−乳酸の濃度、DはD−乳酸の濃度を表す。
グルコース濃度の測定にはグルコーステストワコーC(和光純薬)を用いた。
乳酸発酵試験条件を以下に示す。
醗酵装置:Bioneer−N(丸菱バイオエンジ社製)
培地:1L 乳酸発酵培地
培養温度:30℃
通気量:100 ml/min
撹拌速度:200 1/min
pH:5.0
中和剤:1N NaOH溶液。
まず、SW015株(比較例1)、およびSW016株(比較例2)を試験管で5mlの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し500ml容坂口フラスコで24時間振とう培養した(前培養)。前培養液を発酵装置に植菌し、乳酸発酵試験を行った。その結果を表4に示した。尚、産生されたL−乳酸の光学純度はすべて99.9%であった。
実施例6、7 pdc5温度感受性変異株による乳酸発酵試験(アフリカツメガエル由来LDH遺伝子)
上記で取得したpdc5温度感受性変異株の乳酸発酵試験を行った。アフリカツメガエ
ル由来LDH遺伝子を含むプラスミドpL−ldh9でSW015株、およびSW016
株を形質転換することで、アフリカツメガエル由来LDHを導入した。乳酸発酵試験には
表3に示す乳酸発酵培地を高圧蒸気滅菌(121℃、15分)した。
生産物である乳酸の濃度の評価には、下記に示すHPLCを用いて評価した。
カラム:Shim−Pack SPR−H(島津社製)
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、
0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
また、L−乳酸の光学純度測定は以下の条件でHPLC法により測定した。
カラム:TSK−gel Enantio L1(東ソー社製)
移動相:1mM 硫酸銅水溶液
流速:1.0ml/min
検出方法:UV254nm
温度:30℃。
また、L−乳酸の光学純度は次式で計算される。
光学純度(%)=100×(L−D)/(L+D)
ここで、LはL−乳酸の濃度、DはD−乳酸の濃度を表す。
グルコース濃度の測定にはグルコーステストワコーC(和光純薬)を用いた。
乳酸発酵試験条件を以下に示す。
醗酵装置:Bioneer−N(丸菱バイオエンジ社製)
培地:1L 乳酸発酵培地
培養温度:30℃
通気量:100 ml/min
撹拌速度:200 1/min
pH:5.0
中和剤:1N NaOH溶液。
まず、アフリカツメガエル由来プラスミドpL−ldh9で形質転換したSW015株(実施例6)、およびSW016株(実施例7)を試験管で5mlの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し500ml容坂口フラスコで24時間振とう培養した(前培養)。前培養液を発酵装置に植菌し、乳酸発酵試験を行った。その結果を表4に示した。尚、産生されたL−乳酸の光学純度はすべて99.9%であった。
比較例3 PDC5野生型株を用いた乳酸発酵(ヒト由来LDH遺伝子)
また、対照比較例としてPDC5野生型株を用いた発酵試験を行った。ヒト由来LDH遺伝子を含むプラスミドpL−ldh5でPDC5野生型株であるSW011株を形質転換した形質転換細胞を用い、pdc5温度感受性変異株と同条件で発酵試験を行った。その試験結果を表4に示した。
比較例4 PDC5野生型株を用いた乳酸発酵(アフリカツメガエル由来LDH遺伝子)
更に、対照比較例としてアフリカツメガエル由来LDH遺伝子を含むプラスミドpL−ldh9で形質転換したSW011株を、pdc5温度感受性変異株と同条件で発酵試験を行った。その試験結果を表4に示した。
これらの結果から、pdc5温度感受性変異株を用いることで、高い収率で乳酸の製造できることが明らかになった。
参考例2 多孔性膜の作成
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を、また溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)をそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、下記組成を有する原液を得た。
[原液]
・PVDF:13.0重量%
・DMAc:87.0重量%。
次に、上記の原液を25℃の温度に冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、密度が0.48g/cm3で、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布(多孔質基材)に塗布し、直ちに下記組成を有する25℃の温度の凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質基材に多孔質樹脂層が形成された多孔性膜を得た。
[凝固浴]
・水 :30.0重量%
・DMAc:70.0重量%
この多孔性膜をガラス板から剥がした後、80℃の温度の熱水に3回浸漬してDMAcを洗い出し、分離膜を得た。多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.1μmであった。次に、上記分離膜について純水透水透過係数を評価したところ、50×10-9m3/m2/s/Paであった。純水透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差は0.035μmで、膜表面粗さは0.06μmであった。
実施例8 pdc5温度感受性変異株による乳酸連続発酵試験
本発明の酵母としてアフリカツメガエル由来プラスミドpL−ldh9で形質転換した
SW015株を用い、発酵培地として表3に示す組成の乳酸発酵培地を用い、図2に示す
連続発酵装置を用いて連続培養を行い、乳酸の連続発酵試験を行った。また、上記の乳酸
発酵培地は、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌して用いた。分離膜エレメント部材
には、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜には、参考例2で作
成したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性膜を用いた。この実施例
9における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
[運転条件]
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:32(℃)
・発酵反応槽通気量:20(ml/min)
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・pH調整:1N NaOHによりpHを5に調整した
・滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽および使用培地は、総て121℃の温度で20分間のオートクレーブにより高圧蒸気滅菌した
・膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御(0.1kPa以上20kPa以下で制御)。
また、乳酸の濃度、乳酸の光学純度、ならびにグルコース濃度の測定は、実施例7と同様の方法で行った。
まず、pL−ldh9で形質転換したSW015株を、試験管で5mlの乳酸発酵培地で28℃の温度で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を、新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、28℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図2に示した連続発酵装置の1.5Lの乳酸発酵培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整、温度調整およびpH調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、乳酸発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵液量を1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵による乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、膜間差圧として0.1kPa以上20kPa以下となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過発酵液中の生産された乳酸濃度、乳酸の光学純度および残存グルコース濃度を測定した。また、その乳酸およびグルコース濃度から算出された投入グルコースから算出されたピルビン酸発酵生産性を、表5に示す。尚、連続発酵期間中のL−乳酸の光学純度は99.9%であった。
比較例5 PDC5野生型株を用いた連続乳酸発酵試験
対照比較例として、アフリカツメガエル由来LDHを含むプラスミドpL−ldh9で形質転換したSW011株を用いて、その他の条件はすべて実施例7と同様で連続乳酸発酵試験を行った。その試験結果を表5に示した。
これらの結果、pdc5温度感受性変異株を用いた連続発酵を行うことで、高い収率かつ高い生産速度で乳酸が製造できることが明らかになった。
以上の結果、アフリカツメガエル由来のldh遺伝子を導入したpdc5温度感受性変異株を培養して乳酸発酵を行うと、PDC5遺伝子野生型株やヒト由来のldh遺伝子を導入したpdc5温度感受性変異株を用いた場合より、乳酸の対糖収率ならびに乳酸生産速度が向上した。このことから、アフリカツメガエル由来のldh遺伝子と変異型PDC5遺伝子を有する比活性が低下した酵母を用いることで乳酸の効率的な生産が可能になることが明らかになった。