以下、本発明の実施形態に係る車両の電動制動装置について図面を参照しつつ説明する。
<本発明の実施形態に係る車両の電動制動装置の全体構成>
図1に示すように、この電動制動装置を備える車両には、制動操作部材BP、加速操作部材AP、電子制御ユニットECU、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRK、押圧力取得手段(押圧力センサ)FBA、位置取得手段(回転角センサ)MKA、及び、蓄電池BATが備えられている。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材であって、その操作量に基づいて、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKが、車輪WHLの制動トルクを調整し、車輪WHLに制動力が発生される。
制動操作部材BPには、制動操作量取得手段BPAが設けられる。制動操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。制動操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダ(図示せず)の圧力を検出するセンサ(圧力センサ)、制動操作部材BPの操作力、及び/又は、変位量を検出するセンサ(ブレーキペダル踏力センサ、ブレーキペダルストロークセンサ)が採用される。従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダ圧、ブレーキペダル踏力、及び、ブレーキペダルストロークのうちの少なくとも何れか1つに基づいて演算される。制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECUに入力される。
加速操作部材(例えば、アクセルペダル)APは、運転者が車両を加速するために操作する部材である。加速操作部材APには、加速操作量取得手段(例えば、ストロークセンサ、スロットル開度センサ)APAが設けられる。加速操作量Apaに基づいても、制動手段BRKが制御され得る。加速操作部材の操作量(加速操作量)Apaは、加速操作部材の操作力、及び、変位量(例えば、アクセルペダルのストローク)のうちの少なくとも何れか1つに基づいて演算され得る。また、エンジンのスロットル開度がApaとして採用され得る。加速操作量Apaは、電子制御ユニットECUに入力される。
なお、制動操作量Bpa、及び、加速操作量Apaのうちの少なくとも1つは、他の電子制御ユニット(例えば、操舵制御の電子制御ユニット、パワートレイン制御の電子制御ユニット)にて演算、又は、取得され、その演算値(信号)が通信バスを介して、ECUに送信され得る。
電子制御ユニットECUは、その内部に制動手段BRKを制御するための制御手段(制御アルゴリズム)CTLがプログラムされており、CTLに基づいてBRKを制御する。蓄電池(バッテリ)BATは、BRK、ECU等に電力を供給する電源である。
位置取得手段(例えば、角度センサ)MKAは、BRKの動力源である電気モータMTRのロータ(回転子)の実位置(例えば、実回転角)Mkaを検出する。位置取得手段MKAは、電気モータMTRの内部に設けられる。実位置Mkaは、電子制御ユニットECU(特に、制御手段CTL)に入力される。
押圧力取得手段FBAは、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押す力(押圧力)Fbaの反力(反作用)を取得(検出)する。具体的には、押圧力取得手段FBAでは、歪みゲージのように、力を受けた場合に生じる変位(即ち、歪み)に起因する電気的変化(例えば、電圧変化)に基づいて押圧力Fbaが検出される。押圧力取得手段FBAは、ボルト部材BLTとキャリパCPRとの間に設けられる。例えば、押圧力取得手段FBAはキャリパCRPに固定され、押圧部材PSNが摩擦部材MSBから受ける力が押圧力Fbaとして取得される。押圧力Fbaは、電子制御ユニットECU(特に、制御手段CTL)に、アナログ・デジタル変換手段(AD変換手段)ADHを介して入力される。FBAの検出信号は、アナログ値であるが、アナログ・デジタル変換手段ADHによってデジタル値に変換されて、電子制御ユニットECUに入力される。このとき、変換手段ADHのビット数によって、押圧力Fbaの分解能(最下位ビット、LSB:Least Significant Bit)が決定される。
<制御手段CTL>
制御手段CTLは、目標押圧力演算ブロックFBT、指示通電量演算ブロックIST、補正演算ブロックHSI、合成押圧力演算ブロックFBX、押圧力フィードバック制御ブロックIPT、待機位置制御ブロックICT、及び、通電量調整演算ブロックIMTにて構成される。なお、制御手段(制御プログラム)CTLは、電子制御ユニットECU内にプログラムされている。
目標押圧力演算ブロックFBTでは、制動操作量Bpa、及び、予め設定された目標押圧力演算特性(演算マップ)CHfbに基づいて、各車輪WHLの目標押圧力Fbtが演算される。目標押圧力Fbtは、電動制動手段BRKにおいて、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが回転部材(ブレーキディスク)KTBを押す力である押圧力の目標値である。Bpaが「0」以上、所定操作量bp0未満の場合には、Fbtは「0」に演算され、Bpaが所定操作量bp0以上の場合には、FbtはBpaの増加に従って、単純増加するように演算される。所定値bp0は、ブレーキペダルBPの「遊び」に相当する。ここで、「遊び」は、操作機構(マン・マシン・インタフェース)に設けられる、操作が実際の動作に影響しない範囲、或いは、隙間のことである。
指示通電量演算ブロックISTでは、予め設定された指示通電量の演算特性(演算マップ)CHs1、CHs2、及び、目標押圧力Fbtに基づいて、指示通電量Istが演算される。指示通電量Istは、電動制動手段BRKの電気モータMTRを駆動し、目標押圧力Fbtを達成するための、電気モータMTRへの通電量の目標値である。Istの演算マップは、電動制動手段BRKのヒステリシスを考慮して、2つの特性CHs1、CHs2で構成される。特性CHs1は押圧力を増加する場合に対応し、特性CHs2は押圧力を減少する場合に対応する。そのため、特性CHs2に比較して、特性CHs1は相対的に大きい指示通電量Istを出力するように設定されている。
ここで、通電量とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比が通電量として用いられ得る。
補正演算ブロックHSIでは、押圧力取得手段FBA(例えば、押圧力センサ)、及び、位置取得手段MKA(例えば、回転角センサ)のゼロ点補正が行われる。補正演算ブロックHSIには、FBAからの信号(押圧力Fba)、及び、MKAからの信号(実位置Mka)が入力され、ゼロ点の補正が行われて、補正後の実押圧力(修正押圧力)Fbc、及び、補正後の実位置(修正位置)Mkcが出力される。ここで、ゼロ点とは、押圧力取得手段FBAの場合には、実際に押圧力(MSBがKTBを押し付ける力)が発生していない状態での検出値(取得値)を表し、位置取得手段MKAの場合には、MSBとKTBとの間で押圧力が発生するか否かの境目(即ち、MSBとKTBとが接触するか否かのさかい)である基準位置を表す。ここで、FBAの出力値のゼロ点からの偏差(ズレ)をゼロ点ドリフトと称呼する。即ち、FBAのゼロ点ドリフトは、実際には押圧力が発生していない状況での偏差(値「0」からのズレ)である。
合成押圧力演算ブロックFBXでは、制動操作量Bpa、電気モータMTRの実際の位置(補正後)Mkc、及び、実際に発生している押圧力(補正後の押圧力実際値)Fbcに基づいて、合成押圧力Fbxが演算される。具体的には、電気モータのロータ位置(回転角)Mkcに基づいて押圧力の推定値Fbeが演算され、押圧力取得手段FBAによって取得される押圧力実際値Fbc、及び、押圧力推定値Fbeに夫々の寄与度(影響度合を決定する係数)Ka1、Ke2が考慮されて、合成押圧力Fbxが演算される。即ち、合成押圧力Fbxは、2つの異なる検出信号(Fbc、Mkc)に基づいて演算されるMSBがKTBに押し付けられる力(押圧力)に相当する。
押圧力推定値Fbeは、ロータ位置Mkc(補正されたMka)、及び、制動手段BRKの剛性値Gcpに基づいて推定される(Fbe=Mkc×Gcp)。押圧力実際値Fbc(補正されたFba)についての寄与度(第1寄与度)Ka1、及び、押圧力推定値Fbeについての寄与度(第2寄与度)Ke2は、制動操作量Bpaに基づいて演算される。第1、第2寄与度Ka1、Ke2は、合成押圧力Fbxの演算におけるFbc、Fbeの影響度合(寄与の程度)を決定する係数である。第1寄与度Ka1は制動操作量Bpaの増加にしたがって増加し、第2寄与度Ke2はBpaの増加にしたがって減少する。即ち、合成押圧力Fbxの演算において、制動操作量Bpaが小さい場合には電気モータの位置Mkcに基づいて演算される押圧力推定値Fbeの影響度が押圧力実際値Fbcの影響度よりも大きく、Bpaが増加するにしたがって、Fbcの影響度が増加され、Fbeの影響度が減少される。
押圧力フィードバック制御ブロックIPTでは、目標押圧力(目標値)Fbt、及び、合成押圧力Fbxに基づいて、押圧力フィードバック通電量Iptが演算される。指示通電量Istは目標押圧力Fbtに相当する値として演算されるが、電動制動手段BRKの効率変動により目標押圧力Fbtと押圧力Fbxとの間に誤差(定常的な誤差)が生じる場合がある。押圧力フィードバック通電量Iptは、目標押圧力Fbtと合成押圧力Fbxとの偏差(押圧力偏差)ΔFb、及び、予め設定された演算特性(演算マップ)CHpに基づいて演算され、上記の誤差を減少するように決定される。即ち、演算マップCHpに基づいて、押圧力フィードバック通電量Iptは、押圧力偏差ΔFb(=Fbt-Fbx)が増加するにしたがって、増大するように演算される。
待機位置制御ブロックICTでは、運転者によって制動操作部材BPが操作されていない場合、或いは、僅かに操作されている(車両を減速するほどには制動トルクが発生されてはない)場合における押圧部材PSNの位置を制御するための目標通電量Ictが演算される。このPSNの位置制御が、待機位置制御と称呼される。待機位置制御では、非制動時における押圧部材PSNの位置(即ち、MTRの位置)が制御され、結果的に、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの隙間(即ち、MSBの引き摺り状態)が調整される。待機位置制御ブロックICTでは、制動操作量Bpa、及び、加速操作量Apaに基づいて、待機位置制御を実行するための目標通電量Ictが演算される。待機位置制御の目標通電量(待機通電量)Ictは、加速操作量Apaが大きい場合(車両加速度が大きい場合)には、押圧部材PSNが、より回転部材KTBから離れるように決定される。そして、加速操作量Apaが「0(非操作)」に戻された後に、制動操作部材Bpaの増加にしたがって、PSNがKTBに近づくように、待機通電量Ictが決定される。
通電量調整演算ブロックIMTでは、電気モータMTRの最終的な目標値である目標通電量Imtが演算される。指示通電量Ist、押圧力フィードバック通電量Ipt、及び、待機通電量Ictが調整されて、目標通電量Imtが演算される。目標通電量Imtは、電気モータMTRの出力を制御するための最終的な通電量の目標値である。目標通電量Imtの符号(値の正負)に基づいて電気モータMTRの回転方向(押圧力が増加する正転方向、又は、押圧力が減少する逆転方向)が決定され、目標通電量Imtの大きさ(絶対値)に基づいて電気モータMTRの出力(回転動力)が制御される。
通電量調整演算ブロックIMTには、選択演算ブロックSNTが含まれ、押圧力フィードバック制御(Ist、Ipt)と、位置フィードバック制御(Ict)との選択(切り替え)が行われる。押圧力フィードバック制御が選択される場合(運転者が車両減速を要求している場合)には、選択演算ブロックSNTでは、指示通電量Istに対して押圧力フィードバック通電量Iptが加えられて、目標通電量Imt(=Ist+Ipt)が演算される。一方、位置フィードバック制御が選択される場合(運転者が車両減速を要求していない場合)には、SNTでは、待機通電量Ictが、最終的な目標通電量Imt(=Ict)として演算される。
<電動制動手段BRK>
本発明の実施形態に係る電動制動装置では、車両の車輪WHLの制動トルクの発生、及び調整が、電気モータMTRによって行われる。電動制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKは、ブレーキキャリパ(例えば、浮動型キャリパ)CPR、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTB、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSB、電気モータMTR、駆動手段(MTRを駆動するための電気回路)DRV、継手部材(例えば、オルダム継手)OLD、減速機GSK、回転・直動変換機(例えば、ねじ部材)NJB、押圧力取得手段FBA、位置取得手段MKA、及び、通電量取得手段IMAにて構成されている。
制動手段BRKには、公知の制動装置と同様に、公知のブレーキキャリパCPR、及び、摩擦部材MSBが備えられる。摩擦部材MSBが公知の回転部材KTBに押し付けられることによって摩擦力が発生し、車輪WHLに制動トルクが加えられて、制動力が発生される。
ブレーキキャリパCPRは、浮動型キャリパであり、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。キャリパCPR内で、押圧部材PSNがスライドされ、回転部材KTBに向けて前進又は後退される。押圧部材(ブレーキピストン)PSNは、回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付けて摩擦力を発生させる。
摩擦部材(例えば、裏板付きブレーキパッド)MSBは、摩耗した場合には交換が可能となっている。そのため、MSBとPSNとは、固定はされていない(一体として接合されてはいない)。即ち、摩擦部材(裏板付きブレーキパッド)MSBと押圧部材(ピストン)PSNとは分離された構造となっている。制動トルクが増加される場合には、押圧部材PSNが摩擦部材MSBの裏板部を押すことによって、MSBは回転部材(ブレーキディスク)KTBに向かって前進する。制動トルクが減少される場合には、BRK全体の剛性(CPRの剛性、及び、MSBの剛性)のため生じる反力によって、MSBはKTBから離れる方向に後退する。
電気モータMTRとして、ブラシ付モータ、或いは、ブラシレスモータが採用される。電気モータMTRの回転方向において、正転方向が、押圧部材PSNが回転部材KTBに近づいていく方向(押圧力が増加し、制動トルクが増加する方向)に相当し、逆転方向が、押圧部材PSNが回転部材KTBから離れていく方向(押圧力が減少し、制動トルクが減少する方向)に相当する。電気モータMTRの出力は、制御手段CTLにて演算される目標通電量Imtに基づいて決定される。具体的には、目標通電量Imtの符号が正(+:プラス)である場合(Imt>0)には、電気モータMTRが正転方向に駆動され、Imtの符号が負(-:マイナス)である場合(Imt<0)には、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。また、目標通電量Imtの大きさ(絶対値)に基づいて電気モータMTRの回転動力が決定される。即ち、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルクが大きく、目標通電量Imtの絶対値が小さいほど出力トルクは小さい。
駆動手段(電気モータMTRを駆動するための電気回路であり、駆動回路)DRVにて、目標通電量(目標値)Imtに基づき電気モータMTRへの通電量(最終的には電流値)が制御される。具体的には、駆動手段DRVには、複数のスイッチング素子(パワートランジスタであって、例えば、MOS-FET、IGBT)が用いられたブリッジ回路が構成される。電気モータの目標通電量Imtに基づいて、それらの素子が駆動され、電気モータMTRの出力が制御される。具体的には、スイッチング素子の通電/非通電の状態が切り替えられることによって、電気モータMTRの回転方向と出力トルクとが調整される。
電気モータMTRの出力(回転動力)は、継手部材OLD、減速機GSK、回転・直動変換機(ねじ部材)NJBの順で、押圧部材PSNに伝達される。そして、押圧部材(ブレーキピストン)PSNが、回転部材(ブレーキディスク)KTBに向かって前進・後退される。これにより、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが、回転部材KTBを押す力(押圧力)が調整される。回転部材KTBは車輪WHLに固定されているため、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの間に摩擦力が発生し、車輪WHLに制動力が生じる。
継手部材OLDは、電気モータMTRの回転軸(以下、モータ軸という。)と減速機GSKの回転軸(入力軸)との偏心(軸ズレ)を吸収するための軸継手であり、例えば、オルダム継手が採用される。オルダム継手では、ディスクの突起(キー)とスライダの溝(キー溝)との嵌合が滑ることによって、軸心が異なる2つの軸(モータ軸、入力軸)の偏心が吸収されて、回転動力(回転運動)が伝達される。
減速機GSKは、電気モータMTRの動力において、その回転速度を減じて、回転・直動変換機NJB(具体的には、ボルト部材BLT)に出力する。即ち、電気モータMTRの回転出力(トルク)が、減速機GSKの減速比に応じて増加され、ボルト部材BLTの回転力(トルク)が得られる。例えば、減速機GSKは、小径歯車SKH、及び、大径歯車DKHにて構成される。また、減速機GSKとして、歯車伝達機構のみならず、ベルト、チェーン等の巻き掛け伝達機構、或いは、摩擦伝達機構が採用され得る。
回転・直動変換機NJBは、送りねじであり、ボルト部材BLT、及び、ナット部材NUTにて構成されている。ボルト部材BLTは、減速機GSKの出力軸(例えば、大径歯車DKHの回転軸)に固定される。そして、ボルト部材BLTの回転動力は、ナット部材NUTを介して、直線動力(推力)に変換され、押圧部材PSNに伝達される。
ねじ部材NJBが台形ねじ(「滑り」によって動力伝達が行われる滑りねじ)にて構成される場合、ナット部材NUTには、めねじ(内側ねじ)が設けられ、ボルト部材BLTには、おねじ(外側ねじ)が設けられる。そして、ナット部材NUTのめねじと、ボルト部材BLTのおねじとが螺合される。減速機GSKから伝達された回転動力(トルク)は、ねじ部材NJB(互いに螺合するおねじとめねじ)を介して、押圧部材PSNの直線動力(推力)として伝達される。
ねじ部材NJBには、滑りねじに代えて、「転がり」によって動力伝達が行われる転がりねじ(ボールねじ等)が採用され得る。この場合、ナット部材NUT、及び、ボルト部材BLTにはねじ溝(ボール溝)が設けられ、ねじ溝にボール(鋼球)がはめ合わされることによって、回転・直動変換機構として作動される。
電気モータの駆動回路DRVには、実際の通電量(例えば、実際に電気モータに流れる電流)Imaを検出する通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAが備えられる。また、電気モータMTRには、ロータ(回転子)の実位置(例えば、回転角)Mkaを検出する位置検出取得手段(例えば、角度センサ)MKAが備えられる。さらに、摩擦部材MSBが回転部材KTBを実際に押す力(実押圧力)Fbaを取得(検出)するために、押圧力取得手段(例えば、押圧力センサ)FBAが備えられる。押圧力取得手段FBAはキャリパCRPに固定され、押圧部材PSNが摩擦部材MSBから受ける力が押圧力Fbaとして取得される。
上記の構成では、押圧力取得手段FBAは、押圧力Fbaを直接的に取得(検出)する。制動手段BRKの諸元(例えば、GSKのギア比、NJBのリード等)は既知であるため、FBAは、電気モータMTRから摩擦部材MSBまでの動力伝達経路内に存在する可動部材の「力に係わる状態量」を押圧力実際値(実押圧力)Fbaとして取得し得る。具体的には、上記の「力に係わる状態量」は、電気モータMTRの出力トルク、GSKの出力トルク、NJBの推力、PSNの推力、及び、MSBの押圧力のうちの少なくとも1つであり、該状態量(単一又は複数の状態量)、及び、BRKの諸元に基づいて、間接的に押圧力実際値Fbaが取得(演算)され得る。
同様に、制動手段BRKの諸元は既知であるため、位置取得手段MKAは、電気モータMTRから摩擦部材MSBまでの動力伝達経路内に存在する可動部材の「位置に係わる状態量」を位置(実位置)Mkaとして取得し得る。具体的には、上記の「位置に係わる状態量」は、電気モータMTRの位置、GSKの位置、NJBの位置、PSNの位置、及び、MSBの位置のうちの少なくとも1つであり、該状態量(単一又は複数の状態量)、及び、BRKの諸元(GSKのギア比、NJBのリード等)に基づいて、間接的に位置Mkaが取得(演算)され得る。即ち、MKAは、電気モータの位置Mkaを直接的に取得する他に、間接的に求め得る。
電動制動手段BRKとして、所謂、ディスク型制動装置(ディスクブレーキ)の構成が例示されているが、BRKは、ドラム型制動装置(ドラムブレーキ)であってもよい。ドラムブレーキの場合、摩擦部材MSBはブレーキシューであり、回転部材KTBはブレーキドラムである。同様に、電気モータMTRによってブレーキシューがブレーキドラムを押す力(押圧力)が制御される。電気モータMTRとして回転運動にてトルクを発生させるものが示されるが、直線運動にて力を発生させるリニアモータでもあってもよい。
上記構成の制動手段BRKでは、押圧力が減少される際に、電気モータの位置は変化するものの押圧力が減少しない状態が発生する区間(無効変位区間)が存在する。この無効変位は、電気モータMTRから押圧力取得手段FBAまでの動力伝達部材(継手部材OLD、減速機GSK等)の隙間(ガタ)に起因する。具体的には、動力伝達部材における隙間のため、押圧力の反作用を受ける部位(受圧面)が切り替わることによって発生する。継手部材(オルダム継手)では、キー(凸部)とキー溝(凹部)との間に隙間が存在し、減速機(減速歯車)では、バックラッシュ(Backlash)が存在する。押圧力の反作用を受ける場合には、一方の面(オルダム継手のキーとキー溝の面、減速歯車の歯面)が当接し、電気モータMTRの摩擦損失(トルク損失)が相殺される場合には、一方の面とは反対側の他方の面(一方の当接面とは異なる面)が当接する。この当接面が切り替わる隙間に対応する電気モータの変位(位置の変化)が、無効変位に相当する。
<オルダム継手OLD>
次に、図2を参照して、オルダム継手OLDにおける隙間について、詳細に説明する。オルダム継手OLDは、ディスクの突起(キー)とスライダの溝(キー溝)との嵌合が滑ることによって、回転動力を伝達する継手である。オルダム継手OLDは、入力ディスクHBM、スライダ(中間ディスク)SLD、及び、出力ディスクHBIにて構成される。そして、ディスクHBM、HBIの突起が、スライダSLDの溝に沿って滑ることによって、軸心が異なる2つの軸(モータ軸、入力軸)の偏心が吸収されて、回転動力(回転運動)が伝達される。
図2(a)に示すように、電気モータMTRの出力軸(モータ軸)に入力ディスクHBMが固定される。入力ディスクHBMのモータ軸が固定される面の反対側の面には、キー(突起)が設けられている。入力ディスクHBMのキーにかみ合うように、スライダSLDにはキー溝(窪み)が設けられる。スライダSLDのキー溝が設けられる反対側の面には、キー溝とは垂直に、別のキー溝が設けられる。スライダSLDのキー溝(窪み)とかみ合うように出力ディスクHBIにはキー(突起)が設けられ、キーをもつ面の裏側面で、減速機GSK(小径歯車SKH)の軸(入力軸)に固定される。即ち、入力ディスクHBMの突起と、出力ディスクHBIの突起とが垂直になるようにHBM、SLD、及び、HBIがかみ合わされている。オルダム継手OLDでは、HBM及びHBIのキーが、スライダSLDのキー溝に沿って滑ることで電気モータMTRの出力軸(モータ軸)と、減速機の入力軸との間の偏心が吸収される。
オルダム継手OLDに、比較的大きなトルクが負荷されると、HBM及びHBIのキー、SLDのキー溝が変形、或いは、磨耗し、バックラッシュ(運動方向における機械要素間の接触面の隙間)が増大する場合が生じ得る。図2(b)は、入力ディスクHBMとスライダSLDとの嵌合部の断面図である。摩耗等が生じていない場合には、キー及びキー溝は、僅かな隙間をもって、はめ合わされる。しかし、摩耗等によって隙間が増大すると、オルダム継手OLDの回転方向において、モータ出力軸が回転しても、GSKの入力軸が回転されない、無効変位(無効回転角)が発生する。オルダム継手OLDにおける無効変位が、押圧力(即ち、制動トルク)が減少される場合の「Mkaが減少されてもFbaが減少されない」状態が発生する1つの原因(他の原因は、GSKのバックラッシュ)となる。
<補正演算ブロックHSIの第1実施形態>
次に、図3の機能ブロック図を参照して、補正演算ブロックHSIの第1実施形態について説明する。補正演算ブロックHSIでは、位置取得手段MKA(例えば、回転角センサ)、及び、押圧力取得手段FBA(例えば、押圧力センサ)のゼロ点の補正が行われる。位置取得手段MKAのゼロ点は、MSBとKTBとの間で押圧力が発生するか否かの境目(即ち、MSBとKTBとが接触するか否かのさかい)である基準位置である。また、押圧力取得手段FBAのゼロ点は、実際に押圧力(MSBがKTBを押し付ける力)が発生していない状態を表す値である。ここで、FBAのゼロ点からの偏差(ズレ、オフセット)をゼロ点ドリフトと称呼する。
補正演算ブロックHSIは、位置変化量演算ブロックMKH、押圧力変化量演算ブロックFBH、第1剛性値演算ブロックGCQ、候補位置/候補力演算ブロックMFK、基準位置演算ブロックPZR、位置補正演算ブロックMKC、補正押圧力演算ブロックFZR、及び、押圧力補正演算ブロックFBCにて構成される。
位置変化量演算ブロックMKHでは、電気モータの実位置Mkaに基づいて位置変化量Mkhが演算される。具体的には、Mkaの過去値(過去の演算周期での値)mka[k]が記憶され、Mkaの現在値(今回の演算周期での値)mka[g]と比較され、その偏差が位置変化量Mkhとして演算される。即ち、Mkh=mka[k]-mka[g] に従って、位置変化量Mkhが演算される。ここで、過去値mka[k]は、演算周期において、現在(今回)に対して1周期、又は、複数周期前の演算値であり、現在値(今回値)mka[g]よりも所定時間(所定値)th0だけ以前の演算値である。即ち、演算周期において、過去値mka[k]から現在値mka[g]までは、所定周期(固定値)が経過している。
押圧力変化量演算ブロックFBHでは、押圧力実際値Fbaに基づいて押圧力変化量Fbhが演算される。具体的には、各演算周期において、Mkaの過去値mka[k]に対応したFbaの過去値fba[k]と、Mkaの現在値mka[g]に対応したFbaの現在値fba[g]とが比較され、その偏差が押圧力変化量Fbhとして演算される。即ち、Fbh=fba[k]-fba[g] に従って、押圧力変化量Fbhが演算される。mka[k]とfba[k]とは同一演算周期における値であり、mka[g]とfba[g]とは同一演算周期における値である。
第1剛性値演算ブロックGCQでは、位置変化量Mkh、及び、押圧力変化量Fbhに基づいて第1剛性値(実際の剛性値に相当)Gcqが演算される。具体的には、位置の変化量Mkhに対する押圧力の変化量Fbhが、第1剛性値Gcq(=Fbh/Mkh)として演算される。剛性値(実際値)Gcqは、キャリパCPR、及び、摩擦部材MSBの直列ばねのばね定数に相当する値である。このため、押圧力変化量(例えば、押圧力の時間変化量)Fbhが、位置変化量(例えば、位置の時間変化量)Mkhによって除算されて、第1剛性値Gcqが演算される。
候補位置/候補力演算ブロックMFKでは、電気モータMTRが逆回転される(即ち、Bpaが減少される)場合に、実位置Mka、実押圧力Fba、及び、第1剛性値Gcqに基づいて、電気モータの位置(回転角)の基準となる位置(基準位置)の候補(候補位置)Mkk、及び、押圧力を補正するための候補(候補力)Fkkが演算される。具体的には、第1剛性値Gcqが所定値gcqx以上の状態(1演算周期前の状態)から、gcqx未満の状態に遷移した時点(今回の演算周期)のMka、及び、Fbaが、候補位置Mkk、及び、候補力Fkkとして夫々記憶される。即ち、Gcqの演算周期において、前回値(1つ前の演算周期での演算値)gcq[g-1]がgcqx以上であり、今回値(現在の演算周期での演算値)gcq[g]がgcqx未満となる場合に、電気モータ位置の今回値mka[g]が候補位置Mkkとして演算され、押圧力の今回値fba[g]が候補力Fkkとして演算されて、記憶される。したがって、候補位置Mkkに対応する押圧力が、候補力Fkkとして記憶される。
基準位置演算ブロックPZRでは、実位置Mka、第1剛性値Gcq、及び、候補位置Mkkに基づいて基準位置pzrが決定される。具体的には、基準位置演算ブロックPZRでは、候補位置Mkkが決定された時点から、第1剛性値Gcqが所定値gcqx未満(Gcq<gcqx)であるか、否かが監視される。「Gcq<gcqx」の状態が、Mkaにおいて、動力伝達部材GSK等の隙間に相当する変位(隙間相当値)skhを超えて継続された時点で(即ち、該当する演算周期において)、候補位置Mkkが基準位置pzrに決定される。しかし、「Gcq<gcqx」の状態が、隙間相当値(変位)skhを超えては継続されない場合、Gcqがgcqx以上となった時点で、Mkkは忘却(リセット)される。
基準位置演算ブロックPZRでは、候補位置Mkkによって、新たに基準位置pzrが更新されるまでは、前回の制動時における値が、基準位置pzrとして設定されている。ここで、隙間相当値skhは、BRKの動力伝達経路における機械的な隙間に相当する値であり、設計値として予め設定されるしきい値である。
位置補正演算ブロックMKCでは、MKAによって取得されたMkaが、基準位置pzrによって補正されて、補正後の電気モータ位置(修正位置)Mkcが演算される。基準位置pzrとして設定された時点のMkaがゼロ点とされて、修正位置Mkcが演算される。換言すると、補正後の位置Mkcでは、MSBとKTBとの間で押圧力が発生するか否かの境目である基準位置pzrが、位置取得手段(回転角センサ)MKAのゼロ点位置とされる。
補正押圧力演算ブロックFZRでは、FBAによって取得されたFbaのゼロ点ドリフトに相当する補正押圧力fzrが、実位置Mka、第1剛性値Gcq、及び、候補力Fkkに基づいて演算される。基準位置pzrの決定方法と同様に、第1剛性値Gcqが所定値gcqx以上の状態(1演算周期前の状態)から、gcqx未満の状態に遷移した時点(今回の演算周期)の実押圧力Fbaが、候補力(補正押圧力の候補)Fkkとして記憶され、「Gcq<gcqx」の状態が、Mkaにおいて隙間相当値skhを超えて継続された時点で、候補力Fkkが、補正押圧力fzrとして採用される。したがって、基準位置pzr、及び、補正押圧力fzrは、同時に(同じ演算周期において)決定される。したがって、基準位置pzrに対応する押圧力が、補正押圧力fzrとして決定される。「Gcq<gcqx」の状態が、隙間相当値skhを超えては継続されない場合、Gcqがgcqx以上となった時点で、補正候補力Fkkは、一旦忘却(リセット)される。
押圧力補正演算ブロックFBCでは、補正押圧力fzrに基づいて実押圧力Fbaが補正され、補正後の押圧力(修正押圧力)Fbcが演算される。補正押圧力fzrが、押圧力取得手段FBAのゼロ点ドリフトに相当するため、実押圧力Fbaから補正押圧力fzrが差し引かれることによって誤差補償が行われ、修正押圧力Fbcが演算される。
MkaとFbaとの間では、夫々の検出信号に位相差が生じる場合がある。そのため、補正演算ブロックHSIでは、Mkaの変化速度(電気モータの速度)dMkaが所定速度(所定値)dmk1以下である場合に限って、補正演算処理が実行され得る。即ち、Bpaの操作速度dBpaが緩やかである場合(所定値dbp1未満の場合)に限定して、基準位置pzr、及び、補正押圧力fzrが決定され得る。
電気モータMTRが逆回転されて、Fbaが減少される場合には、基準位置pzrに近づいた所定の領域内で、MTRに速度制限(制限値dmk2)が設けられ得る。あるいは、MTRが予め設定された一定の速度dmk3でゼロ点に向けて戻され得る。即ち、Bpaが急に戻された場合であっても、PSNが基準位置pzrに近接するにしたがって、その速度が制限され得る。この結果、上記の位相差の影響が補償され得る。
また、時間と電気モータの変位との間には相互関係(電気モータの速度が一定の場合には、比例関係)が存在するため、隙間相当値として、変位のしきい値skhに代えて、時間のしきい値sktが採用され得る。即ち、隙間相当値に関する条件にて、「Gcq<gcqx」の状態が時間sktを超えて継続されたか、否かが判定される。
剛性値Gcq(BRKのばね定数に相当)が所定値gcqx未満になった時点で、直ちに基準位置pzrが判定されるのではなく、この状態(Gcq<gcqxの状態)が隙間相当値skh、sktを超えて継続されて、始めて基準位置pzrが決定される。このため、減速機等の動力伝達部材の隙間に起因する無効変位が存在しても、正確に基準位置pzrが決定され得る。また、剛性値(実際値)Gcqは、位置変化量Mkhに対する押圧力変化量Fbhの比率として演算されるため、取得手段(センサ)の誤差(特に、FBAのゼロ点ドリフト)の影響が補償され得る。なお、動力伝達部材の隙間(クリアランス)は、例えば、歯車のバックラッシュ、継手の隙間、軸受の隙間に因る。さらに、これらの隙間は、経年摩耗によって拡大され得る。このため、隙間相当値skh、sktは、経年摩耗を含む動力伝達部材の隙間を見込んだ値(予め設定された所定値)とされ得る。
「力」の検出は、起歪体の歪(力を受けた場合に生じる変位)が計測されることによって行われる。この歪検出においては、検出値のドリフト(オフセット)が課題となる。候補位置Mkkでの実押圧力Fbaが記憶され、隙間相当値の条件が満足されて、基準位置pzrが決定される時点の実押圧力Fbaに基づいて、ゼロ点ドリフト値fzrが決定される。このため、FBAのゼロ点ドリフトの補償が確実に行われ得る。
<合成押圧力演算ブロックFBX>
次に、図4を参照しながら、合成押圧力演算ブロックFBXの実施形態について説明する。合成押圧力演算ブロックFBXは、第1寄与度演算ブロックKA1、第2寄与度演算ブロックKE2、及び、第2剛性値演算ブロックGCPで構成される。
第1寄与度演算ブロックKA1にて、制動操作量Bpaに基づいて、第1寄与度Ka1が演算される。第1寄与度Ka1は、合成押圧力Fbxの演算における押圧力実際値(補正後の実押圧力)Fbcの影響度合を決定する係数である。第1寄与度Ka1は、制動操作量Bpa、及び、演算特性(演算マップ)CHkaに基づいて演算される。Bpaが所定値ba1未満の場合には、Ka1は「0」と演算され、Bpaが所定値ba1以上、且つ、所定値ba2(>ba1)未満の場合には、Ka1はBpaの増加にしたがって「0」から「1」まで増加(単純増加)される。Bpaが所定値ba2以上の場合には、Ka1は「1」と演算される。ここで、Ka1=0の場合には、Fbxの演算において、Fbcは用いられない。
第2寄与度演算ブロックKE2にて、制動操作量Bpaに基づいて、第2寄与度Ke2が演算される。第2寄与度Ke2は、合成押圧力Fbxの演算における押圧力推定値(推定押圧力)Fbe(Mkcに基づいて推定される押圧力)の影響度合を決定する係数である。第2寄与度Ke2は、制動操作量Bpa、及び、演算特性(演算マップ)CHkeに基づいて演算される。Bpaが所定値be1未満の場合には、Ke2は「1」と演算され、Bpaが所定値be1以上、且つ、所定値be2(>be1)未満の場合には、Ke2はBpaの増加にしたがって「1」から「0」まで減少(単純減少)される。Bpaが所定値be2以上の場合には、Ke2は「0」と演算される。ここで、Ke2=0の場合には、Fbxの演算において、Fbeは用いられない。
第2剛性値演算ブロックGCPにて、制動操作量Bpaに基づいて、第2剛性値Gcpが演算される。第2剛性値Gcpは、制動手段全体の剛性(ばね定数)に相当する。即ち、Gcpは、キャリパCPR、及び、摩擦部材MSBの直列ばねとしてのばね定数を表す。剛性値(推定値)Gcpは、制動操作量Bpa、及び、剛性特性(演算マップ)CHgcに基づいて演算される。ここで、CHgcは、Bpaに基づいて剛性値Gcpを推定するための特性である。Bpaが所定値bg1未満の場合には、Gcpは所定値gc1と演算され、Bpaが所定値bg1以上、且つ、所定値bg2(>bg1)未満の場合には、GcpはBpaの増加にしたがって所定値gc1から所定値gc2(>gc1)まで増加(単純増加)される。Bpaが所定値bg2以上の場合には、Gcpは所定値gc2と演算される。
第2剛性値Gcp、及び、電気モータMTRの実位置(補正後)Mkcに基づいて、押圧力推定値Fbeが演算される。押圧力推定値Fbeは、Mkcから推定される押圧力である。具体的には、制動手段全体のばね定数を表す第2剛性値Gcpに、電気モータMTRの実際の位置(回転角)Mkcが乗算されて、押圧力推定値Fbeが演算される。
押圧力実際値(補正後の実際の押圧力)Fbc、及び、第1寄与度Ka1に基づいて、合成押圧力FbxにおけるFbc成分である実際値成分Fbxaが演算される。Fbxaは、Ka1によって、その影響度合が考慮された押圧力実際値Fbcの成分である。具体的には、押圧力実際値Fbcに係数Ka1が乗算されて決定される(即ち、Fbxa=Ka1×Fbc)。押圧力推定値(Mkcに基づいて推定された押圧力)Fbe、及び、第2寄与度Ke2に基づいて、合成押圧力FbxにおけるFbe成分である推定値成分Fbxeが演算される。Fbxeは、Ke2によって、その影響度合が考慮された押圧力推定値Fbeの成分である。具体的には、押圧力推定値Fbeに係数Ke2が乗算されて決定される(即ち、Fbxe=Ke2×Fbe=Ke2×Gcp×Mkc)。そして、押圧力実際値による成分(実際値成分)Fbxa、及び、押圧力推定値による成分(推定値成分)Fbxeが加算されて、合成押圧力Fbxが演算される(即ち、Fbx=Fbxa+Fbxe=Ka1×Fbc+Ke2×Fbe)。したがって、合成押圧力Fbxは、Bpaの大きさに応じてFbc及びFbeの影響度合が加味された押圧力である。
実際の押圧力(補正前)Fbaは、「歪み(力が作用した場合の変形)」を検出する素子(歪み検出素子)によって検出される。一般的に、歪み検出素子からはアナログ信号が送信されて、それがアナログ・デジタル変換(AD変換)されて、電子制御ユニットECUに取り込まれる。補正前の実押圧力Fbaは、アナログ・デジタル変換手段ADHを介して、ECUに入力されるため、押圧力検出の分解能(解像度)は、AD変換の性能(分解能)に依存する。一方、電気モータの実際の位置(回転角)は、ホールIC、或いは、レゾルバからのデジタル信号として、ECUに取り込まれる。さらに、電気モータの出力は、GSK等によって減速されて押圧力に変換される。そのため、押圧力取得手段FBAにて取得される押圧力実際値Fbaよりも、位置取得手段MKAにて取得される電気モータの位置Mkaから演算される押圧力推定値Fbeの方が、押圧力の分解能(解像度)が高い。一方、押圧力推定値Fbeは、BRKの剛性(ばね定数)Gcpに基づいて演算される。第2剛性値Gcpは摩擦部材MSBの磨耗状態によって変動するため、押圧力実際値Fbaは、押圧力推定値Fbeよりも信頼性が高い(真値からの誤差が小さい)。
また、電気モータの位置Mkaに対する押圧力Fbaの特性(即ち、制動装置全体のばね定数の変化)は、非線形であり、「下に凸」の形状をもつ(図8を参照)。このため、押圧力Fbaが大きい領域では、押圧力Fbaの検出感度(変位に対する押圧力の変化量)は十分に高いため、押圧力実際値Fbaが、押圧力フィードバック制御に利用可能である。しかし、押圧力が小さい領域では、押圧力実際値Fbaの検出感度は低くなるため、押圧力実際値Fbaに加え(又は、代えて)、押圧力推定値Fbeが、押圧力フィードバック制御に採用されることが望ましい。
以上の知見から、制動操作量Bpaが小さい場合には、第1寄与度Ka1が相対的に小さい値に演算されるとともに、第2寄与度Ke2が相対的に大きい値に演算される。この結果、微小な制動トルクの調整が求められる押圧力が小さい領域(即ち、制動操作量が小さく、制動トルクが小さい領域)において、発生している押圧力検出の分解能(最下位ビット、LSB:Least Significant Bit)が向上され、精密な押圧力フィードバック制御が実行され得る。そして、制動操作量Bpaが大きい場合には、Ka1が相対的に大きい値に演算されるとともに、Ke2が相対的に小さい値に演算され、Mkc(即ち、Mka)から推定された押圧力推定値Fbeの影響度合が減少され、実際に検出された押圧力実際値Fbc(即ち、Fba)の影響度合が増加される。この結果、制動操作量Bpaに対する車両減速度の関係が一定であることが求められる押圧力が大きい領域(即ち、制動操作量が大きく、制動トルクが大きい領域)では、信頼度の高い(即ち、真値からの誤差が小さい押圧力に基づく)押圧力フィードバック制御が実行され得る。
さらに、制動操作量Bpaが所定操作量(所定値)ba1よりも小さい場合には、第1寄与度Ka1が「0(ゼロ)」に設定され得る。また、制動操作量Bpaが所定操作量(所定値)be2(>ba1)よりも大きい場合には、第2寄与度Ke2が「0(ゼロ)」に設定され得る。上述するように、Bpaが小さい(制動トルクが小さい)領域での押圧力フィードバック制御の分解能が向上されるとともに、Bpaが大きい(制動トルクが大きい)領域での押圧力フィードバック制御の信頼性が向上され得る。
第1、第2寄与度Ka1、Ke2の演算特性CHka、CHkeにおいて、制動操作量Bpa(X軸の変数)に代えて、目標押圧力Fbt、押圧力実際値Fba、及び、実位置Mkaのうちの少なくとも1つ(即ち、制動操作量に相当する値)が用いられる。Fbtは、Bpaに基づいて演算され、制御結果がFba(Fbc)、Mka(Mkc)であることに因る。
演算特性CHka、CHkeにおいて、所定値ba1とbe1とが等しく、且つ、所定値ba2とbe2とが等しく設定され得る。この場合には、第1寄与度演算ブロックKA1、及び、第2寄与度演算ブロックKE2のうちの何れか一方が省略され得る。第1寄与度演算ブロックKA1が省略される場合には、合成押圧力Fbxは、第2寄与度Ke2を用いて、Fbx=(1-Ke2)×Fbc+Ke2×Fbeに基づいて演算される。また、第2寄与度演算ブロックKE2が省略される場合には、合成押圧力Fbxは、第1寄与度Ka1を用いて、Fbx=Ka1×Fbc+(1-Ka1)×Fbeに基づいて演算される。なお、押圧力推定値Fbeは、剛性値Gcp、及び、電気モータの位置Mkcに基づいて演算される(即ち、Fbe=Gcp×Mkc)。
さらに、第1、第2寄与度Ka1、Ke2の演算特性において、Bpaが増加する場合(KA1、KE2にて実線で示す)の特性CHka、CHkeと、Bpaが減少する場合(KA1、KE2にて破線で示す)の特性CHkb、CHkfとが別個に設定され得る。第1寄与度Ka1の演算特性では、Bpaが増加する場合の演算特性CHkaが、Bpaが減少する場合の演算特性CHkbよりも大きく設定され得る。また、第2寄与度Ke2の演算特性では、Bpaが増加する場合の演算特性CHkeが、Bpaが減少する場合の演算特性CHkfよりも小さく設定され得る。
第1寄与度演算ブロックKA1にて、Bpaが増加する場合の演算特性CHka、及び、Bpaが減少する場合の演算特性CHkbが別個に設定され、CHkbはCHkaよりも相対的に小さい特性とされる。CHkaでは、Bpaが「0」以上、所定値ba1未満の場合にはKa1が「0」に、Bpaが所定値ba1以上、所定値ba2(ba1よりも大きい値)未満の場合にはBpaの増加に従ってKa1が単純増加するように、Bpaが所定値ba2以上の場合にはKa1が「1」に、夫々設定されている。CHkbでは、Bpaが所定値ba2以上ではKa1が「1」に、Bpaが所定値ba3以上、所定値ba2未満の場合にはBpaの減少に従ってKa1が単純減少するように、Bpaが「0」以上、所定値ba3未満の場合にはKa1が「0」に、夫々設定されている。ここで、所定値ba3は、所定値ba1よりも大きく、且つ、所定値ba2よりも小さい値である。例えば、Bpaがba1よりも大きく、ba3よりも小さい領域では、Bpaが増加される際にはKa1は「0」よりも大きい値に演算されるが、Bpaが減少されるときにはKa1は「0」に演算される。
同様に、第2寄与度演算ブロックKE2にて、Bpaが増加する場合の演算特性CHke、及び、Bpaが減少する場合の演算特性CHkfが別個に設定され、CHkfはCHkeよりも相対的に大きい特性とされる。CHkeでは、Bpaが「0」以上、所定値be1未満の場合にはKe2が「1」に、Bpaが所定値be1以上、所定値be2(be1よりも大きい値)未満の場合にはBpaの増加に従ってKe2が単純減少するように、Bpaが所定値be2以上の場合にはKe2が「0」に、夫々設定されている。CHkfでは、Bpaが所定値be2以上ではKe2が「0」に、Bpaが所定値be3以上、所定値be2未満の場合にはBpaの減少に従ってKe2が単純増加するように、Bpaが「0」以上、所定値be3未満の場合にはKe2が「1」に、夫々設定されている。ここで、所定値be3は、所定値be1よりも大きく、且つ、所定値be2よりも小さい値である。例えば、Bpaがbe1よりも大きく、be3よりも小さい領域では、Bpaが増加される際にはKe2は「1」よりも小さい値に演算されるが、Bpaが減少されるときにはKe2は「1」に演算される。
第1、第2寄与度演算ブロックKA1、KE2において、所定値ba3、be3は、電気モータ等の摩擦損失に相当する値fbmよりも大きい値に設定される。また、所定値ba1、be1は値fbmよりも小さい値に設定され得る。値ba3、be3が、摩擦損失相当値fbmよりも大きい値に設定されるため、Bpaが減少される場合に、Bpaがfbmに到る前に、Fbxの演算においてFbaが使用されなくなる。したがって、FbxはFbeのみに基づいて演算される。この結果、無効変位に起因する通電量の変動が防止され得る。さらに、Bpaが増加される場合には、無効変位の影響は生じないため、摩擦損失相当値fbmに関係なく値ba1、be1が設定され得るため、Bpaが小さい領域での押圧力分解能が確保され得る。なお、値fbmは、押圧力と同一物理量として演算されるが、制動手段の諸元(減速比、リード等)に基づいて、Bpaの相当値と同一物理量に変換され、ba3、be3が決定される。
さらに、電気モータの摩擦損失に相当する値fbmは、制動操作量Bpaが減少される場合の特性(MkcとFbcとの関係)に基づいて演算され、可変とされ得る。そして、演算(学習)された値fbmに基づいて、値ba3、be3が決定され得る。具体的には、制動操作量Bpaが減少される場合において、電気モータの位置Mkc、及び、押圧力実際値Fbcの時系列データが記憶される。記憶された時系列データに基づいて、Mkcが変化(減少)するにもかかわらず、Fbcが変化(減少)しない領域が抽出され、この領域のFbcに基づいて値fbmが演算される。そして、値fbmに、所定値fbo(正符号の値)が加算されて、値ba3、be3が演算され得る。電気モータ等の摩擦損失は経年変化によって変動するが、運転者による制動操作時に、この摩擦損失に相当する値fbmが学習されるため、適切な押圧力フィードバック制御が実行され得る。
第1、第2寄与度Ka1、Ke2の演算特性CHka、CHkb、CHke、CHkfにおいて、制動操作量Bpa(X軸の変数)に代えて、目標押圧力Fbt、押圧力実際値Fbc、及び、実位置Mkcのうちの少なくとも1つ(即ち、制動操作量に相当する値)が用いられる。Fbtは、Bpaに基づいて演算され、制御結果がFbc、Mkcであることに因る。また、所定値be3は所定値ba3と等しく設定され得る。
演算特性CHka、CHkb、CHke、CHkfにおいて、所定値ba1とbe1とが等しく、所定値ba2とbe2とが等しく、且つ、所定値ba3とbe3とが等しく設定され得る。この場合には、第1寄与度演算ブロックKA1、及び、第2寄与度演算ブロックKE2のうちの何れか一方が省略され得る。第1寄与度演算ブロックKA1が省略される場合には、合成押圧力Fbxは、第2寄与度Ke2を用いて、Fbx=(1-Ke2)×Fbc+Ke2×Fbeに基づいて演算される。また、第2寄与度演算ブロックKE2が省略される場合には、合成押圧力Fbxは、第1寄与度Ka1を用いて、Fbx=Ka1×Fbc+(1-Ka1)×Fbeに基づいて演算される。なお、押圧力推定値Fbeは、剛性値Gcp、及び、電気モータの位置Mkcに基づいて演算される(即ち、Fbe=Gcp×Mkc)。
第1寄与度演算ブロックKA1、第2寄与度演算ブロックKE2、及び、第2剛性値演算ブロックGCPにおいて、制動操作量Bpaに代えて、目標押圧力Fbt、押圧力実際値Fbc、及び、実位置Mkcのうちの少なくとも1つが、制動操作量に相当する値として用いられ得る。
<第2剛性特性演算ブロックCHGC>
第2剛性値演算ブロックGCPに、剛性特性記憶処理ブロックCHGCが設けられ、剛性演算特性CHgcの学習が行われ得る。図5は、剛性特性記憶処理ブロックCHGCの機能ブロック図である。剛性演算特性CHgcは、電気モータの位置Mkcに基づいて第2剛性値Gcpを演算(推定)するための演算マップである(図4を参照)。
剛性特性記憶処理ブロックCHGCでは、制動操作量Bpa、及び、第1剛性値演算ブロックGCQにて演算される第1剛性値(実際値)Gcqに基づいて、Bpaに対するGcqの特性が、連続的に記憶される。即ち、制動操作量Bpaと対応付けられて、第1剛性値Gcqが順次記憶され、記憶された特性が、剛性演算特性CHgcとして出力される。そして、CHgcに基づいて、第2剛性値(推定値)Gcpが演算される。換言すれば、実際の剛性値(実剛性値)Gcqが記憶されて特性CHgcが形成され、CHgcに基づいて、剛性値Gcpが推定される。
剛性特性記憶処理ブロックCHGCでは、剛性演算特性CHgcの学習(記憶)が、運転者が制動操作を行う度に実行され得る。このとき、制動操作量Bpaの時間変化量dBpaが所定値dbpx以上の場合には、特性CHgcが記憶されず、dBpaが所定値dbpx未満の場合において、CHgcが学習され得る。急制動時(dBpaが大きい場合)には、BpaとMka(Mkc)、Fba(Fbc)との位相差(即ち、Bpaに対する演算結果Gcqの時間的な遅れ)が過大となることに因る。また、電気モータの位置(回転角)Mkaが増加する場合(MTRが正転されるとき)のCHgcは採用されず、Mkaが減少する場合(MTRが逆転されるとき)のCHgcが採用され得る。このとき、Mkaの時間変化量(即ち、電気モータの速度)に制限が加えられ、MTRが緩やかに逆転され得る。これによって、上記の位相差の影響が補償され得る。
合成押圧力演算ブロックのKA1、KE2、及び、GCPにおいて、制動操作量Bpaに代えて、目標押圧力Fbt、押圧力実際値Fbc、及び、位置Mkcのうちの少なくとも1つ(即ち、制動操作量に相当する値)が用いられる。この場合には、採用されたFbt、Fbc、及び、Mkcのうちの少なくとも1つに対する第2剛性値Gcqの関係が、剛性演算特性CHgcとして記憶される。Fbc、及び、Mkcのうちの少なくとも1つが採用される場合には、上記の位相差の影響が生じ得ない。
また、剛性値演算ブロックGCPにて、上述した電気モータ等のトルク損失に対応する値fbmが演算され得る。制動操作量Bpaが減少される場合に、位置変化量Mkh、及び、押圧力変化量Fbhに基づいて第2剛性値Gcqが演算されるが、Gcqが減少して概ね「0」となった後に、再度増加する時点の押圧力実際値Fbcに基づいて値fbmが演算され得る。具体的には、Gcqが減少していき、所定値gcqy未満となった後に、所定値gcqz(gcqyよりも大きい値)以上となった時点での押圧力実際値に基づいて値fbmが決定される。このとき、値fbmは、押圧力と同一物理量として演算されるが、制動手段の諸元(減速比、リード等)に基づいて、Bpaの相当値と同一物理量に変換される。
<待機位置制御ブロックICT>
次に、図6を参照しながら、待機位置制御ブロックICT(図1を参照)の実施形態について説明する。
待機位置制御ブロックICTでは、運転者によって制動操作部材BPが操作されていない場合、或いは、僅かに操作されている(車両を減速するほどには制動トルクが発生されてはない)場合において、押圧部材PSNの待機位置制御が実行される。運転者の無意識、又は、予期しない動作が、実際の挙動に反映されないようにするため、操作できる範囲のうち、動作(即ち、車両減速)に反映されない範囲(隙間)が、BPの「遊び」として設定されている。即ち、待機位置制御では、運転者が加速操作を行っている場合、或いは、制動操作部材BPの「遊び」の範囲内で、BPを操作している場合における押圧部材PSNの位置(即ち、MTRの位置)が制御される。待機位置制御によって、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの隙間(クリアランス)が制御され、摩擦部材MSBの引き摺り状態が調整される。
待機位置制御ブロックICTは、踏み込み速度演算ブロックDBP、戻し速度演算ブロックDAP、目標待機位置演算ブロックPSB、及び、位置フィードバック制御ブロックPFBで構成される。ICTでは、制動操作量Bpa、加速操作量Apa、及び、電気モータ位置Mkcに基づいて、待機位置制御の目標通電量Ictが演算される。
踏み込み速度演算ブロックDBPにて、制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作量Bpaに基づいて、BPの踏み込み速度dBpaが演算される。具体的には、踏み込み速度dBpaは、制動操作量Bpaが時間微分されて演算され得る。ここで、Bpaが増加する場合に、dBpaが正符号(+)とされ、急にBPが踏み込まれる場合ほど、dBpaは大きい値となる。
戻し速度演算ブロックDAPにて、加速操作部材(アクセルペダル)APの操作量Apaに基づいて、APの戻し速度dApaが演算される。具体的には、戻し速度dApaは、加速操作量Apaが時間微分されて演算され得る。ここで、Apaが減少する場合に、dApaが正符号(+)とされ、急にAPが戻される(解放される)場合ほど、dApaは大きい値となる。
目標待機位置演算ブロックPSBにて、制動操作量Bpa、踏み込み速度(Bpaが増加するときの時間変化量)dBpa、加速操作量Apa、及び、戻し速度(Apaが減少するときの時間変化量)dApaのうちの少なくとも1つに基づいて目標待機位置Psbが演算される。目標待機位置Psbは、運転者による制動操作が行われていない場合、或いは、僅かに制動操作が行われた場合の押圧部材PSNの位置に相当する。ここで、「僅かな制動操作」とは、運転者は、BPに足を掛けてはいるが、その遊びの範囲内で操作を行っていて、制動トルクの発生(即ち、車両の減速)は期待していない状態に相当する。
目標待機位置Psbは、演算特性(演算マップ)CHps、及び、制動操作量Bpaに基づいて演算される。Bpaが「0」の場合(即ち、Bpaが操作されていない場合)、Psbは「0(即ち、基準位置pzr)」に演算される。そして、Bpaの増加にしたがって、目標待機位置Psbが増加されるように(即ち、PSNがKTBに近づくように)演算される。Bpaが所定値bp1以上の場合、目標待機位置Psbは、所定値ps1に制限され得る。ここで、所定操作量bp1は、目標押圧力演算ブロックFBTでの所定操作量bp0(BPの遊びに相当する値)以下の値である(図1を参照)。したがって、所定値ps1は、MSBとKTBとが僅かに接触している状態(即ち、MSBとKTBとの引き摺りが発生している状態)に相当する。値bp1は、BPの遊び相当値bp0と等しく設定され得る。
制動操作部材BPの踏み込み速度dBpaが大きいほど、目標待機位置Psbが大きく演算され得る。制動初期のdBpaが大きい場合は、運転者は車両の急減速を要求している。制動トルクの応答性を向上するため、dBpaの増加にしたがってPsbが大きく演算されて、Bpaが概ね「0」であってもMSBとKTBとが予め接触している状態にされ得る。
目標待機位置Psbは、加速操作量Apaを考慮して演算され得る。Apaが大きい場合(演算マップCHpsにおいてX軸のマイナス側への絶対値の増加で表す)には、Psbが基準位置pzrよりも小さい側(PSNの後退方向であって、KTBから離れている側)に演算される。運転者が加速操作部材APを操作している場合には、目標待機位置Psbが小さく演算されて、MSBとKTBとの接触(即ち、引き摺り)が回避され、車両の燃費が向上され得る。また、加速操作部材APの戻し速度dApaが大きいほど、その後に急制動が行われる蓋然性が高い。このため、制動トルクの応答性を確保することを目的に、目標待機位置Psbが大きい値(PSNの前進方向であって、KTBに近づく方向の値)に演算され得る。
待機位置フィードバック制御ブロックPFBでは、目標待機位置Psb、及び、実際の位置Mkcに基づいて、押圧部材PSNの待機位置が、フィードバック制御される。即ち、目標待機位置Psbと実際の位置Mkcとの偏差ΔPsに基づいて位置フィードバック通電量Ictが演算される。ここで、Ictは、押圧部材PSNを目標待機位置Psbにまで移動させるための電気モータMTRへの目標通電量である。
待機位置フィードバック制御ブロックPFBでは、先ず、目標待機位置Psbと実際の位置Mkcとの偏差ΔPs(=Psb-Mkc)が演算される。そして、位置偏差ΔPs、及び、演算特性(演算マップ)CHicに基づいて待機位置フィードバック通電量Ictが演算される。ここで、演算マップCHicは、ΔPsが増加するにしたがって、Ictが増大するように設定されている。
位置フィードバック通電量Ictは、調整演算ブロックIMTに送信され、他の通電目標値(Ist等)との調整が行われる。調整演算ブロックIMT内には、選択演算ブロックSNTが含まれ、押圧力に基づく通電目標値(IstとIptとの和)と、PSNの位置に基づく通電目標値(Ict)との切り替えが行われる。換言すれば、実質的には押圧力が発生し得ない待機位置Psbから基準位置pzrまでの間では、押圧部材(ピストン)PSNの位置制御が実行され、PSNが基準位置pzrから前進されて実際に押圧力が発生するようになると押圧力制御に切り替えられる。
MSBの引き摺りを回避するため、非制動時にPSNが、MSBがKTRとは接触し得ない位置に維持されている状態から、運転者の制動操作が行われる場面を想定する。待機位置フィードバック制御が行われること無く、押圧力制御が実行されると、待機位置Psbから基準位置pzrまでは、押圧力が発生し得ないため、押圧力フィードバック制御ブロックIPTにおける押圧力偏差ΔFb(=Fbt-Fbx)が増加し、電気モータMTRは急加速される。MSBが加速状態でKTBと接触を開始するため、押圧力が急上昇され、押圧力のオーバシュートが生じ得る。さらに、偏差ΔFbによって、本来は不必要な通電が行われ得る。一方、押圧力フィードバック制御の前段階として待機位置フィードバック制御が実行されると、待機位置Psbから基準位置pzrまでは位置情報(例えば、Mkc)に基づいて、PSNの位置が適正に制御される。このため、押圧力がオーバシュートすることなく、円滑に上昇され得るとともに、無駄な電気モータへの通電が抑制され得る。
<補正演算ブロックHSIの第2実施形態>
次に、図7の機能ブロック図を参照して、補正演算ブロックHSIの第2実施形態について説明する。
補正演算ブロックHSIでは、位置取得手段MKA(例えば、回転角センサ)、及び、押圧力取得手段FBA(例えば、押圧力センサ)のゼロ点の補正が行われる。位置取得手段MKAのゼロ点は、MSBとKTBとの間で押圧力が発生するか否かの境目(即ち、MSBとKTBとが接触するか否かのさかい)である基準位置である。また、押圧力取得手段FBAのゼロ点は、実際に押圧力(MSBがKTBを押し付ける力)が発生していない状態を表す値である。ここで、FBAのゼロ点からの偏差(ズレ、オフセット)をゼロ点ドリフトと称呼する。
補正演算ブロックHSIは、データ群記憶処理ブロックDTM、位置変化量データ群演算ブロックMKHT、押圧力変化量データ群演算ブロックFBHT、第1剛性値データ群演算ブロックGCQT、基準位置演算ブロックPZR、位置補正演算ブロックMKC、補正押圧力演算ブロックFZR、及び、押圧力補正演算ブロックFBCにて構成される。
データ群記憶処理ブロックDTMには、MKAの取得結果(実位置)Mka、及び、FBAの取得結果(実押圧力)Fbaが入力され、Mkaの時系列データ群Mka(t)、及び、Fbaの時系列データ群Fba(t)が記憶される。ここで、Mkaのデータ群Mka(t)と、Fbaのデータ群Fba(t)とは、同期されている。データ群記憶処理ブロックDTMには、電気モータの位置において、データ群記憶の開始位置pstを決定する開始位置決定ブロックPST、及び、データ群記憶の終了位置pfnを決定する終了位置決定ブロックPFNが含まれている。
図8を参照して、データ群記憶の開始位置pst、及び、終了位置pfnについて説明する。データ群Mka(t)、Fba(t)の記憶処理は、電気モータMTRが逆回転され、押圧部材PSNが回転部材KTBから離れていく場合(戻り方向に作動する場合)に実行される。開始位置pstから終了位置pfnまでの区間が、記憶区間mrkと称呼される。即ち、記憶区間mrkの一方の端点(KTBに近い側)が開始位置pstであり、他方の端点(KTBから離れた側)が終了位置pfnである。記憶区間mrkには、無効変位区間mkm、及び、ゼロ点(基準位置の真値)mk0が確実に含まれるように、基点が設定され、該基点に基づいて、mrk(即ち、pst、pfn)が決定される。ここで、mrkの決定に際しては、誤差影響を補償するため、所定値が加味される。
開始位置pstは、過去に設定された(今回の制動操作よりも以前に演算された)基準位置pzr[k](真値mk0に近傍する点)に基づいて決定される。即ち、過去の基準位置pzr[k]から所定値hmk1だけKTBに近づいた位置がpstに決定され得る。
開始位置pstは、無効変位区間mkm内の位置(基点)pmkに基づいて決定され得る。ここで、基点pmkは、過去のMka(t)、及び、Fba(t)に基づいて決定され得る。例えば、前回の一連の制動操作において、記憶されたMka(t)、及び、Fba(t)に基づいて、「Mkaは変化するが、Fbaが変化しない区間(即ち、無効変位区間mkm)」が抽出され、この区間に基づいて位置pmkが決定され得る。mkm内の基点pmkから所定値hmk3だけKTBに近づいた位置がpstに決定される。例えば、基点pmkは、過去データから推定されたmkmが始まる位置(点A)mk1に設定され得る。
さらに、開始位置pstは、ねじ部材NJBの可動範囲において、最もPSNがKTBから離れる限界位置mkzに基づいて決定され得る。NJBの可動範囲は、BRKの諸元において幾何学的に決まるため、限界位置mkzも予め設定された位置(例えば、ストッパ等で動きが制限される位置)である。mkzから所定値hmk5だけKTBに近づいた位置が開始位置pstに決定され得る。なお、限界位置mkzでは、押圧部材PSNが回転部材KTBから最も離れている。
開始位置pstの決定方法と同様に、終了位置pfnは、過去の基準位置pzr[k]に基づいて決定される。終了位置pfnが、pzr[k]から所定値hmk2だけKTBから離れた位置に決定される。また、無効変位区間mkm内の位置(基点)pmkに基づいて、終了位置pfnが決定され得る。終了位置pfnが、mkm内の基点pmkから所定値hmk4だけKTBから離れた位置に決定される。例えば、基点pmkは、過去データから推定されたmkmが終わる位置(点B)mk2に設定され得る。さらに、終了位置pfnは、限界位置(基点)mkzから所定値hmk6だけKTBに近づいた位置に決定され得る。
無効変位区間mkmは、電気モータMTRの摩擦損失と動力伝達部材の隙間によって決定されるため、所定値hmk1~hmk6は、耐久試験等の結果から実験的に求められ、予め設定され得る。また、過去の制動操作時において、記憶されたMka(t)、及び、Fba(t)に基づいて、大まかに無効変位区間mkm、及び、ゼロ点(真値)mk0が推定され、所定値hmk1~hmk6がmkm、及び、mk0を確実に含むように、適宜設定され得る。
データ群記憶処理ブロックDTMでは、電気モータの位置が、開始位置pstに達する時点から、終了位置pfnに達する時点までの間、電気モータの実位置Mka、及び、実押圧力Fbaが、演算周期毎に対応付けられ、データ群Mka(t)、及び、Fba(t)として順次記憶されていく。
図7に戻り、補正演算ブロックHSIの第2実施形態についての説明を続ける。位置変化量データ群演算ブロックMKHTでは、電気モータの実位置Mkaが記憶されたデータ群(位置データ群)Mka(t)に基づいて、位置変化量のデータ群Mkh(t)が演算される。具体的には、Mka(t)から、或る演算周期の実位置データmka[i]と、それから所定演算周期(所定時間)th0を経過した後の実位置データmka[j]とが抽出され、それらの差(mka[i]-mka[j])が位置変化量Mkhとして演算される。そして、Mkhが、各演算周期に対応付けられて、位置変化量データ群Mkh(t)が演算される。
押圧力変化量データ群演算ブロックFBHTでは、実押圧力Fbaが記憶されたデータ群(押圧力データ群)Fba(t)に基づいて、押圧力変化量のデータ群Fbh(t)が演算される。具体的には、Mka(t)と同様に、或る演算周期の実押圧力データfba[i]と、それから所定演算周期(所定時間)th0を経過した後の実押圧力データfba[j]とが抽出され、それらの差(fba[i]-fba[j])が押圧力変化量Fbhとして演算される。そして、Fbhが、各演算周期に対応付けられて、押圧力変化量データ群Fbh(t)が演算される。ここで、Mka(t)、Fba(t)、Mkh(t)、及び、Fbh(t)は、夫々が同期されている。例えば、位置mka[i]、押圧力fba[i]、位置変化量mkh[i]、及び、押圧力変化量fbh[i]は、同一演算周期における値である。
第1剛性値データ群演算ブロックGCQTでは、位置変化量データ群Mkh(t)、及び、押圧力変化量データ群Fbh(t)に基づいて第1剛性値(実際の剛性値に相当)のデータ群Gcq(t)が演算される。具体的には、同期された各演算周期において、位置変化量Mkhに対する押圧力変化量Fbhが、第1剛性値Gcq(=Fbh/Mkh)として演算される。剛性値(実際値)Gcqは、キャリパCPR、及び、摩擦部材MSBの直列ばねのばね定数に相当する値であるため、押圧力変化量(例えば、押圧力の時間変化量)Fbhが、位置変化量(例えば、位置の時間変化量)Mkhによって除算されて、第1剛性値Gcqが演算される。演算周期毎のGcqが記憶され、第1剛性値データ群Gcq(t)が形成される。
基準位置演算ブロックPZRでは、位置データ群Mka(t)、及び、第1剛性値データ群Gcq(t)に基づいて基準位置pzrが決定される。具体的には、基準位置演算ブロックPZRでは、剛性値データ群Gcq(t)から、Gcqがgcqx以上の状態(Gcq≧gcqx)から、Gcqがgcqx未満の状態(Gcq<gcqx)に遷移する時点が抽出される。そして、Mka(t)から、抽出された状態遷移の時点に対応する実位置Mkaが抽出される。上記のGcqの遷移点が複数存在する場合には、それらのうちで最も終了地点pfnに近接するMkaが基準位置pzrとして採用される。
位置補正演算ブロックMKCでは、MKAによって取得されたMkaが、基準位置pzrによって補正されて、補正後の電気モータ位置(修正位置)Mkcが演算される。基準位置pzrとして設定された時点のMkaがゼロ点とされて、修正位置Mkcが演算される。換言すると、補正後の位置Mkcでは、MSBとKTBとの間で押圧力が発生するか否かの境目である基準位置pzrが、位置取得手段(回転角センサ)MKAのゼロ点位置とされる。
補正押圧力演算ブロックFZRでは、FBAによって取得されたFbaのゼロ点ドリフトに相当する補正押圧力fzrが、第1剛性値データ群Gcq(t)、及び、押圧力データ群Fba(t)に基づいて演算される。基準位置pzrの決定方法と同様に、補正押圧力演算ブロックFZRでは、剛性値データ群Gcq(t)から、Gcqがgcqx以上の状態(Gcq≧gcqx)から、Gcqがgcqx未満の状態(Gcq<gcqx)に遷移する時点が抽出される。そして、Fba(t)から、抽出された状態遷移の時点に対応する押圧力Fbaが抽出される。上記のGcqの遷移点が複数存在する場合には、それらのうちで最も終了地点pfnに近接するFbaが補正押圧力fzrとして採用される。即ち、補正押圧力fzrは、基準位置pzrにおける押圧力Fbaである。
押圧力補正演算ブロックFBCでは、補正押圧力fzrに基づいて実押圧力Fbaが補正され、補正後の押圧力(修正押圧力)Fbcが演算される。補正押圧力fzrが、押圧力取得手段FBAのゼロ点ドリフトに相当するため、実押圧力Fbaから補正押圧力fzrが差し引かれることによって誤差補償が行われ、修正押圧力Fbcが演算される。
剛性値Gcq(BRKのばね定数に相当)が所定値gcqx未満になった時点で、直ちに基準位置pzrが判定されるのではなく、無効変位区間mkm、及び、ゼロ点(基準位置の真値)mk0が確実に包含され得るように、記憶処理の開始位置pst、及び、終了位置pfnが決定されて、Mka、Fbaが時系列データとして記憶される。そして、記憶されたデータ群Mka(t)、Fba(t)に基づいて剛性値のデータ群Gcq(t)が演算され、事後的に、基準位置pzr、及び、補正押圧力fzrが決定される。このため、減速機等の動力伝達部材の隙間に起因する無効変位が存在しても、正確に基準位置pzrが決定され得る。また、基準位置pzrに対応する実押圧力Fbaに基づいて、補正押圧力fzrが決定されるため、FBAのゼロ点ドリフトの補償が確実に行われ得る。さらに、剛性値Gcqは、位置変化量Mkhに対する押圧力変化量Fbhの比率として演算されるため、取得手段(センサ)の誤差(特に、FBAのゼロ点ドリフト)の影響が補償され得る。なお、動力伝達部材の隙間(クリアランス)は、例えば、歯車のバックラッシュ、継手の隙間、軸受の隙間に因る。さらに、これらの隙間は、経年摩耗によって拡大され得る。上記の所定値hmk1乃至hmk6は、経年摩耗を含む動力伝達部材の隙間を見込んだ値(予め設定された所定値)とされ得る。
MkaとFbaとの間では、夫々の検出信号に位相差が生じる場合がある。そのため、補正演算ブロックHSIでは、Mkaの変化速度(電気モータの速度)dMkaが所定速度(所定値)dmk1以下である場合に限って、補正演算処理が実行され得る。即ち、Bpaの操作速度dBpaが緩やかである場合(所定値dbp1未満の場合)に限定して、基準位置pzr、及び、補正押圧力fzrが決定され得る。
電気モータMTRが逆回転されて、Fbaが減少される場合には、基準位置pzrに近づいた所定の領域内で、MTRに速度制限(制限値dmk2)が設けられ得る。あるいは、MTRが予め設定された一定の速度dmk3でゼロ点に向けて戻され得る。即ち、Bpaが急に戻された場合であっても、PSNが基準位置pzrに近接するにしたがって、その速度が制限され得る。この結果、上記の位相差の影響が補償され得る。
<補正演算ブロックHSIの第3実施形態>
次に、図9の機能ブロック図を参照して、補正演算ブロックHSIの第3実施形態について説明する。第2実施形態では、剛性値Gcqが、所定比率gcqx以上の状態から所定比率gcqx未満の状態に遷移する時点の電気モータの実位置Mkaのうちで、終了位置pfnに最も近接する実位置Mkaに基づいて、基準位置pzrが決定される。一方、補正演算ブロックHSIの第3実施形態では、剛性値データ群Gcq(t)から、「Gcqが第1所定範囲内(所定値-gcqx1~gcqx2の範囲)に収まる状態」が、第1所定値に亘って継続される区間(第1区間kn1)が抽出される。そして、第1区間kn1における電気モータの実位置Mkaに基づいて、基準位置pzrが決定される。具体的には、第1区間kn1内において、最も開始位置pstに近接する位置が基準位置pzrに決定され得る。
第3実施形態において、補正演算ブロックHSIは、データ群記憶処理ブロックDTM、位置変化量データ群演算ブロックMKHT、押圧力変化量データ群演算ブロックFBHT、第1剛性値データ群演算ブロックGCQT、第1区間演算ブロックKN1、基準位置演算ブロックPZR、位置補正演算ブロックMKC、補正押圧力演算ブロックFZR、及び、押圧力補正演算ブロックFBCにて構成される。第1区間演算ブロックKN1、基準位置演算ブロックPZR、及び、補正押圧力演算ブロックFZR以外の演算ブロック(DTM等)は、第2実施形態と同様であるため、説明は省略する。
第1区間演算ブロックKN1では、第1剛性値データ群Gcq(t)に基づいて、第1剛性値Gcqが第1の所定範囲内に収まる状態(-gcqx1≦Gcq<gcqx2)が、第1所定値hmx1に亘って継続される区間が、第1区間kn1として抽出される。即ち、第1区間kn1内においては、Gcqが所定値-gcqx1以上、所定値gcqx2未満の条件(gcqx1、gcqx2は正符号の所定値)が満足され、この状態が所定変位hmx1に亘って継続される。ここで、所定値hmx1は、BRKの動力伝達部材の隙間(例えば、歯車のバックラッシュ、継手の隙間、軸受の隙間)に相当する値に設定され得る。さらに、これらの隙間は、経年摩耗によって拡大されるため、所定値hmx1は、経年摩耗を含む動力伝達部材の隙間を見込んだ値(予め設定された所定値)とされ得る。
基準位置演算ブロックPZRでは、位置データ群Mka(t)、及び、第1区間kn1に基づいて、基準位置pzrが決定される。具体的には、第1区間kn1内において、最も開始位置pstに近接する位置(即ち、最も終了位置pfnから離れた位置)が、基準位置pzrに決定され得る。
補正押圧力演算ブロックFZRでは、押圧力データ群Fba(t)、及び、第1区間kn1に基づいて、補正押圧力fzrが決定される。具体的には、第1区間kn1内において、最も開始位置pstに近接する位置(即ち、最も終了位置pfnから離れた位置)に対応する押圧力Fbaが、補正押圧力fzrに決定され得る。即ち、第2実施形態と同様に、基準位置pzrに対応する押圧力Fbaが、補正押圧力fzrに決定される。
無効変位mkmは、動力伝達部材(GSK等)の隙間に起因するが、該隙間を見越して、第1区間kn1が事後的に抽出されることによって、基準位置pzr、及び、補正押圧力fzrが決定されるため、第2実施形態と同様の効果を奏する。
<補正演算ブロックHSIの第4実施形態>
次に、図10の機能ブロック図を参照して、補正演算ブロックHSIの第4実施形態について説明する。第3実施形態では、Gcq(t)から、剛性値Gcqが第1の所定範囲内に収まる状態(-gcqx1≦Gcq<gcqx2)が、第1所定値hmx1に亘って継続される区間が、第1区間kn1として抽出されることによって基準位置pzr、及び、補正押圧力fzrが決定された。補正演算ブロックHSIの第4実施形態では、Gcq(t)に代えて、押圧力の時間変化量dFbaの時系列データ群dFba(t)に基づいて、「dFbaが第2の所定範囲内に収まる状態」が、第2の所定値に亘って継続される区間(第2区間kn2)が決定される。そして、第2区間kn2における電気モータの実位置Mkaに基づいて、基準位置pzrが決定される。具体的には、第2区間kn2内において、最も開始位置pstに近接する位置が基準位置pzrに決定され得る。
第4実施形態において、補正演算ブロックHSIは、データ群記憶処理ブロックDTM、第2区間演算ブロックKN2、基準位置演算ブロックPZR、位置補正演算ブロックMKC、補正押圧力演算ブロックFZR、及び、押圧力補正演算ブロックFBCにて構成される。データ群記憶処理ブロックDTM、及び、第2区間演算ブロックKN2以外の演算ブロック(MKC等)は、第3実施形態と同様であるため、説明は省略する。
データ群記憶処理ブロックDTMには、MKAの取得結果(実位置)Mka、及び、FBAの取得結果(実押圧力)Fbaが入力され、Mkaの時系列データ群Mka(t)、及び、Fbaの時系列データ群Fba(t)が記憶される。DTMには、電気モータの位置において、データ群記憶の開始位置pstを決定する開始位置決定ブロックPST、及び、データ群記憶の終了位置pfnを決定する終了位置決定ブロックPFNが含まれている。ここで、PST及びPFNは、第2実施形態と同様である。
併せて、データ群記憶処理ブロックDTMには、押圧力の時間変化量演算ブロックDFBTが包含される。時間変化量演算ブロックDFBTでは、押圧力データ群Fba(t)に基づいて、押圧力Fbaの時間変化量dFbaが演算され、dFbaが時系列に記憶される。具体的には、Fbaが時間微分されて、Mka等と同期され、押圧力時間変化量のデータ群dFba(t)が形成される。
第2区間演算ブロックKN2では、dFba(t)に基づいて、dFbaが第2の所定範囲内に収まる状態(-dfbx1≦dFba<dfbx2)が、第2所定値hmx2に亘って継続される区間が、第2区間kn2として抽出される。即ち、第2区間kn2内においては、dFbaが所定値-dfbx1以上、所定値dfbx2未満の条件(dfbx1、dfbx2は正符号の所定値)が満足されている。第3実施形態と同様に、この状態が所定変位hmx2に亘って継続される。ここで、所定値hmx2は、BRKの動力伝達部材の隙間(例えば、歯車のバックラッシュ、継手の隙間、軸受の隙間)に相当する値に設定され得る。さらに、これらの隙間は、経年摩耗によって拡大されるため、所定値hmx2は、経年摩耗を含む動力伝達部材の隙間を見込んだ値(予め設定された所定値)とされ得る。
電気モータMTRの位置が、基準位置pzr近傍で戻される際には、概ね一定の速度で逆回転される。このため、Gcq(t)と第1区間kn1の関係に代えて、dFba(t)と第2区間kn2の関係が採用され得る。この場合にも、第2実施形態と同様の効果を奏する。
<作用・効果>
次に、本願発明の第1実施形態に係る電動制動装置の時系列作動と作用・効果について説明する。図11は、制動操作量Bpaが「0(制動操作が行なわれない状態)」に向けて減少され、車輪WHLに付与される制動トルクが減少される場合の時系列線図である。なお、各々の丸印、及び、角印は、各演算周期における演算結果を示している。ここで、位置mkzは、限界位置と称呼され、ねじ部材NJBの可動範囲(例えば、ストッパ等で動きが制限される範囲)において、押圧部材PSNが回転部材KTBから最も離れる位置である。
時点t1にて、動力伝達面(動力伝達部材における動力伝達が行われる接触面)の切り替えが始まり、電気モータの変位は発生するが押圧力は変化しない状態(無効変位の状態)が開始される。電気モータの位置変化量(変位)Mkhに対する押圧力の変化量Fbhが、第1剛性値Gcqとして演算されるが、押圧力Fbaが変化しないため、Gcqは徐々に小さい値に演算される。
時点t2では、第1剛性値Gcqは、未だ、所定値(しきい値)gcqx以上である(Gcq≧gcqx)。時点t3にて、「Gcq≧gcqxの状態」から「Gcqがgcqx未満(Gcq<gcqx)の状態」に遷移する。この時点(t3)での位置Mka(=mkat3、角印)が候補位置Mkkとして記憶され、併せて、t3での押圧力Fbaが候補力Fkk(=fbat3、角印)として記憶される。また、時点t3にて、「Gcqがgcqx未満(Gcq<gcqx)の状態」の継続のカウントが開始される。
時点t4にて、動力伝達面が完全に切り替わり、無効変位の状態が終了する。時点t5では、「Gcqがgcqx未満の状態」が解消される。「Gcq<gcqx」の状態が、動力伝達部材GSK等の隙間に相当する電気モータの変位(隙間相当値に相当)skhを超えては継続されないため(即ち、t3からt5までの変位hmkt5がskh未満であるため)、Gcqがgcqx以上に遷移した時点t5にて、候補位置Mkk(mkat3)、及び、候補力Fkk(fbat3)は、忘却(リセット)される。ここで、隙間相当値skhは、動力伝達部材の隙間(例えば、歯車のバックラッシュ、継手の隙間、軸受の隙間)に相当する値である。これらの隙間は、経年摩耗によって拡大されるため、隙間相当値skhは、経年摩耗を含む動力伝達部材の隙間を見込んだ値(予め設定された所定値)とされ得る。
時点t7にて、再度、「Gcq≧gcqxの状態」から「Gcq<gcqxの状態」に遷移する。時点t7の位置Mka(=mkat7、角印)、及び、押圧力Fba(=fbat7、角印)が、夫々、候補位置Mkk、及び、候補力Fkkとして記憶される。そして、「Gcq<gcqxの状態」の継続が、電気モータの変位が積算され始める(即ち、電気モータの変位が測定され始める)。Mkkが記憶された位置(候補位置)mkat7からmkat8までの変位(t7からt8までのモータ位置の変化)hmkt8が、隙間相当値(隙間相当の変位)skhを超過した時点t8にて、候補位置Mkk(mkat7)が基準位置pzrに採用され、候補力Fkk(fbat7)が補正押圧力fzrに、夫々設定される。
そして、MKAによって取得された電気モータの実際の位置Mkaが、基準位置(MSBとKTBとの接触開始位置に相当)pzrによって補正され、補正後の位置Mkcが演算される。同様に、FBAによって取得された押圧力Fbaが、補正押圧力(FBAのゼロ点ドリフトに相当)fzrによって補正され、補正後の押圧力Fbcが演算される。このように、基準位置pzr、及び、補正押圧力fzrは、第1剛性値Gcqが、所定しきい値gcqx未満になった時点(例えば、t3)で、直ちには決定されない。Gcq<gcqxが満足された時点で候補位置Mkkと候補力Fkkとが記憶され、Gcq<gcqxが満足される状態が、隙間相当値skhを超過して継続された時点で、遡って、候補位置Mkk、及び、候補力Fkkが正式に基準位置pzr、及び、補正押圧力fzrに採用される。このため、上述する無効変位、検出分解能の影響が補償され、正確な取得値の補正が行われ得る。
電気モータMTRが逆回転されて、Fbaが減少される場合には、基準位置pzrに近づいた所定の領域内で、MTRに速度制限が設けられ得る。あるいは、MTRが予め設定された一定の速度でゼロ点に向けて戻され得る。即ち、Bpaが急に戻された場合であっても、PSNが基準位置pzrに近接するにしたがって、その速度が制限され得る。このため、MkaとFbaとの位相差の影響が補償され得る。
電気モータの変位と時間との間には相互関係が存在する。例えば、電気モータの速度が一定にされる場合には、変位は時間に比例する。このため、隙間相当値として、変位のしきい値skhに代えて、時間のしきい値sktが採用され得る。即ち、隙間相当値に関する条件にて、「Gcq<gcqx」の状態が、時間sktを超過して継続されたか、否かが判定される。
<作用・効果>
次に、図12、及び、図13の時系列線図を参照して、本願発明の実施形態の時系列作動と作用・効果について説明する。
図12は、第2実施形態について説明するものであり、制動操作量Bpaが「0(制動操作が行なわれない状態)」に向けて減少され、車輪WHLに付与される制動トルクが減少される場合の時系列線図である。なお、各々の丸印、及び、角印は、各演算周期における演算結果を示している。ここで、位置mkzは、限界位置と称呼され、ねじ部材NJBの可動範囲(例えば、ストッパ等で動きが制限される範囲)において、押圧部材PSNが回転部材KTBから最も離れる位置である。
過去のMka(t)とFba(t)との関係に基づいて無効変位区間mkm内に、データ記憶処理の開始位置pstを決定するための基点pkmが設定される。併せて、過去の基準位置pzr[k]が、データ記憶処理の終了位置pfnを決定するための基点とされる。開始位置pstが、基点pmkよりも所定値hmk3だけ回転部材KTBに近づいた位置に設定される。また、終了位置pfnが、基点pzr[k]よりも所定値hmk2だけ回転部材KTBから離れた位置に設定される。開始位置pst、及び、終了位置pfnに基づいて位置データ群Mka(t)、押圧力データ群Fba(t)の記憶処理が実行される。
時点u0にて、電気モータの実位置Mkaが、開始位置pstに到達し、記憶処理が開始される。そして、時点u8にて、実位置Mkaが、終了位置pfnに到達し、記憶処理が終了される。したがって、時系列データ群Mka(t)、Fba(t)は、時点u0からu8に亘って記憶されている。時点u8を過ぎてから事後的に、記憶されたデータ群に基づいて、基準位置pzr、補正押圧力fzrの決定が行われる。
Mka(t)、及び、Fba(t)に基づいて、夫々の変化量のデータ群Mkh(t)、Fbh(t)が演算される。そして、位置変化量データ群Mkh(t)に対する押圧力変化量データ群Fbh(t)が、剛性値データ群Gcq(t)として演算される。そして、Gcq(t)から、Gcqがgcqx以上の状態(Gcq≧gcqx)から、Gcqがgcqx未満の状態(Gcq<gcqx)に遷移する時点(状態遷移時点と称呼され、角印で指示)が抽出される。具体的には、該条件に、時点u3、u7が、状態遷移時点に相当し、これらに対応する実変位mkau3、mkau7が抽出される、そして、抽出された実位置mkau3、mkau7のうちで、最も終了地点pfnに近接するmkau7が、基準位置pzrとして採用される。併せて、基準位置pzrとして採用されたmkau7に対応する時点u7における押圧力Fba(=fbau7)が補正押圧力fzrに決定される。即ち、基準位置pzrに対応する押圧力Fba(fbau7)が補正押圧力fzrに採用される。
そして、位置取得手段MKAによって取得された電気モータの実際の位置Mkaが、基準位置pzrによって補正され、補正後の位置Mkcが演算される。同様に、押圧力取得手段FBAによって取得された押圧力Fbaが、補正押圧力fzrによって補正され、補正後の押圧力Fbcが演算される。
第1剛性値Gcqが、リアルタイムで演算され、所定しきい値gcqx未満になった時点で直ちに基準位置(MSBとKTBとの接触開始位置に相当)pzr、及び、補正押圧力(FBAのゼロ点ドリフトに相当)fzrは決定されない。データ記憶される記憶区間mrk(即ち、記憶処理の開始位置pstから終了位置pfnまでの区間)が、無効変位mkmの区間、及び、ゼロ点(基準位置の真値)を包括するように、設定される。記憶区間(pstからpfnまで)において、演算周期毎に、Mka、Fbaが時系列データ群Mka(t)、Fba(t)として記憶される。そして、事後的な演算処理によって、基準位置pzr、補正押圧力fzrが決定される。このため、上述する無効変位、検出分解能の影響が補償され、正確な取得値(Mka、Fba)の補正が行われ得る。
電気モータMTRが逆回転されて、Fbaが減少される場合には、基準位置pzrに近づいた所定の領域内で、MTRに速度制限が設けられ得る。あるいは、MTRが予め設定された一定の速度でゼロ点に向けて戻され得る。即ち、Bpaが急に戻された場合であっても、PSNが基準位置pzrに近接するにしたがって、その速度が制限され得る。このため、MkaとFbaとの位相差の影響が補償され得る。
次に、図13を参照して、第3、第4実施形態の作用・効果を説明する。補正演算ブロックHSIの第2実施形態では、Gcqの状態遷移の時点が抽出されるが、第3実施形態では、これに代えて、Gcqが継続的に概ね一定になる区間(第1区間kn1)が、Gcq(t)から抽出され、これに基づいて、基準位置pzr、補正押圧力fzrが決定される。また、電気モータの変位と時間との間には相互関係(電気モータの速度が一定の場合には、比例関係)が存在するため、第3実施形態におけるGcqに代えて、第4実施形態では、押圧力の時間変化量dFbaが採用され得る。図13は、主として、第3実施形態の場合を表し、括弧内に第4実施形態の場合(dFba、kn2等)を表す。
第2実施形態の場合と同様に、制動操作量Bpaが「0」に向けて減少される場合の時系列線図であり、各々の丸印、及び、角印は、各演算周期における演算結果を表している。また、限界位置mkzは、ねじ部材NJBの可動範囲内で、押圧部材PSNが回転部材KTBから最も離れる位置である。同様の方法によって、無効変位mkmの区間、及び、ゼロ点(基準位置の真値)を含むように、開始位置pst、及び、終了位置pfnが決定される(即ち、時点v0の実位置から、時点v9までの実位置が記憶区間mrkとされる)。位置pst、pfnに基づいて、時点v0からv9までのデータ群Mka(v0~v9)、Fba(v0~v9)が記憶される。Mka(v0~v9)、及び、Fba(v0~v9)に基づいて、Mkaの変化量データ群Mkh(v0~v9)に対するFbaの変化量データ群Fbh(v0~v9)の比率である剛性値データ群Gcq(v0~v9)が演算される。
そして、Gcp(v0~v9)に基づいて、Gcqが第1所定範囲内に収まる状態(-gcqx1≦Gcq<gcqx2、gcqx1及びgcqx2は正符号の所定値)が、第1所定値(変位hmx1)に亘って継続される第1区間kn1(位置mkav7からmkav8までの区間)が抽出(決定)される。第1区間kn1内において、最も開始位置pstに近接する位置(即ち、最も終了位置pfnから離れた位置)mkav7(角印)が、基準位置pzrに決定され得る。そして、第1区間kn1内において、最も開始位置pstに近接する位置(即ち、最も終了位置pfnから離れた位置)mkav7に対応する押圧力fbav7(角印)が、補正押圧力fzrに決定される。即ち、基準位置pzrに対応する押圧力Fbaが、補正押圧力fzrに決定される。
第4実施形態では、Gcqに代えて、Fbaの時間変化量dFbaが採用される。Fba(t)が時間微分されてdFba(t)が演算され、dFba(t)に基づいて、dFbaが第2所定範囲内に収まる状態(-dfbx1≦dFba<dfbx2、dfbx1及びdfbx2は正符号の所定値)が、第2所定値(変位hmx2)に亘って継続される第2区間kn2(位置mkav7からmkav8までの区間)が抽出(決定)される。第3実施形態と同様に、第2区間kn2内において、最も開始位置pstに近接する位置mkav7(角印)が、基準位置pzrに決定され、mkav7に対応する押圧力fbav7(角印)が、補正押圧力fzrに決定される。
所定値(変位のしきい値)hmx1、hmx2は、BRKの動力伝達部材の隙間(例えば、歯車のバックラッシュ、継手の隙間、軸受の隙間)に相当する値に設定され得る。さらに、これらの隙間は、経年摩耗によって拡大されるため、所定値hmx1、hmx2は、経年摩耗を含む動力伝達部材の隙間を見込んだ値(予め設定された所定値)とされ得る。
変位と時間との間には相互関係が存在する。例えば、電気モータの速度が一定にされる場合には、変位は時間に比例する。このため、変位(しきい値)hmx1、hmx2に代えて、時間のしきい値tx1、tx2が採用され得る。即ち、第1区間kn1として、「Gcqが第1所定範囲内に収まる状態が、第1所定時間tx1に亘って継続される区間」が抽出され、第2区間kn2として、「dFbaが第2所定範囲内に収まる状態が、第2所定時間tx2に亘って継続される区間」が抽出される。
以上、第3、第4実施形態においても、第2実施形態と同様な作用・効果を奏する。
<本願発明に係る実施形態のまとめ>
以下、本願発明の実施形態についてまとめる。
本願発明に係る車両の電動制動装置には、運転者による車両の制動操作部材(BP)の制動操作量(Bpa)を取得する制動操作量取得手段(BPA)と、伝達部材(GSK等)を介して、電気モータ(MTR)の動力を伝達することによって、前記車両の車輪(WHL)に固定された回転部材(KTB)に摩擦部材(MSB)を押し付けて、前記車輪(WHL)に制動トルクを発生させる制動手段(BRK)と、前記制動操作量(Bpa)に基づいて目標通電量(Imt)を演算し、前記目標通電量(Imt)に基づいて前記電気モータ(MTR)を制御する制御手段(CTL)と、が備えられる。
さらに、前記摩擦部材(MSB)が前記回転部材(KTB)を実際に押し付ける力である実押圧力(Fba)を取得する押圧力取得手段(FBA)と、前記電気モータ(MTR)の実位置(Mka)を取得する位置取得手段(MKA)と、が備えられる。そして、前記制御手段(CTL)によって、前記制動操作量(Bpa)が減少される場合に、前記実位置(Mka)の変化量(Mkh)に対する前記実押圧力(Fba)の変化量(Fbh)の比率(Fbh/Mkh)である剛性値(Gcq)が逐次演算され、前記剛性値(Gcq)が所定値(gcqx)以上から前記所定値(gcqx)未満に変化した時点(t3、t7)で、その時点の前記実位置(Mka)が候補位置(Mkk)として記憶され、前記候補位置(Mkk)が記憶されている状態において、前記剛性値(Gcq)が所定値(gcqx)未満である状態の継続が、前記伝達部材(GSK等)の隙間に相当する隙間相当値(skh、skt)未満である場合には、前記候補位置(Mkk)が忘却(リセット)され、前記候補位置(Mkk)が記憶されている状態において、前記剛性値(Gcq)が所定値(gcqx)未満である状態の継続が、前記隙間相当値(skh、skt)を超過する時点(t8)で、前記候補位置(Mkk)が、前記摩擦部材(MSB)と前記回転部材(KTB)とが接触し始める基準位置(pzr)に決定され、前記基準位置(pzr)に基づいて前記目標通電量(Imt)が演算される。例えば、基準位置pzrが、電気モータMTRの位置情報におけるゼロ点とされて、位置Mkcに基づくフィードバック制御が実行される。
剛性値Gcq(BRKのばね定数に相当)が所定値gcqx未満になった時点で、直ちに基準位置pzrが判定されるのではなく、この状態(Gcq<gcqx)が隙間相当値を超えて継続されて始めて基準位置pzrが決定される。このため、減速機等の伝達部材の隙間に起因する無効変位あっても、正確に基準位置(MSBがKTRを押すか否かのさかい位置)pzrが決定され得る。また、剛性値Gcqは、位置変化量Mkhに対する押圧力変化量Fbhの比率として演算されるため、取得手段(センサ)の誤差(特に、FBAのゼロ点ドリフト)の影響が補償され得る。なお、動力伝達部材の隙間(クリアランス)は、例えば、歯車のバックラッシュ、継手の隙間、軸受の隙間に因る。さらに、これらの隙間は、経年摩耗によって拡大され得る。このため、隙間相当値skh、sktは、経年摩耗を含む動力伝達部材の隙間を見込んだ値(予め設定された所定値)とされ得る。
同様に、本願発明に係る車両の電動制動装置では、前記制御手段(CTL)によって、前記制動操作量(Bpa)が減少される場合に、前記実位置(Mka)の変化量(Mkh)に対する前記実押圧力(Fba)の変化量(Fbh)の比率(Fbh/Mkh)である剛性値(Gcq)が逐次演算され、前記剛性値(Gcq)が所定値(gcqx)以上から前記所定値(gcqx)未満に変化した時点(t3、t7)で、その時点の前記押圧力(Fba)が候補力(Fkk)として記憶され、前記候補力(Fkk)が記憶されている状態において、前記剛性値(Gcq)が所定値(gcqx)未満である状態の継続が、前記動力伝達部材(GSK等)の隙間に相当する隙間相当値(skh、skt)未満である場合は、前記候補力(Fkk)が忘却(リセット)され、前記候補力(Fkk)が記憶されている状態において、前記剛性値(Gcq)が所定値(gcqx)未満である状態の継続が、前記隙間相当値(skh、skt)を超過する時点(t8)で、前記候補力(Fkk)が、前記押圧力取得手段(FBA)のゼロ点ドリフトに相当する補正押圧力(fzr)に決定され、前記補正押圧力(fzr)に基づいて前記目標通電量(Imt)が演算される。具体的には、押圧力取得手段FBAによる取得値Fbaから、押圧力の補正値fzrが差し引かれ、補正後の押圧力Fbcに基づいて、押圧力に基づくフィードバック制御が実行される。
「力」の検出は、起歪体の歪が計測されることによって行われるが、この歪検出においては、検出値のドリフトが課題となる。電気モータ位置の場合と同様に、押圧力Fba(補正量の候補である候補力Fkk)が記憶され、隙間相当値の条件が満足されて、押圧力のゼロ点ドリフトに相当する補正量(補正押圧力fzr)が決定される。このため、FBAのゼロ点ドリフトの補償が確実に行われ得る。なお、基準位置pzrと、補正押圧力fzrとは、同一の時点(演算周期)における演算値である。
本願発明の実施形態に係る車両の電動制動装置では、前記制御手段(CTL)は、前記制動操作量(Bpa)が前記制動操作部材(BP)の遊び(free movement)に相当する所定値(bp0)よりも大きい場合には、前記実押圧力(Fba)を前記補正押圧力(fzr)によって修正した押圧力(Fbc)に基づいて押圧力フィードバック制御(IPT)を実行し、前記制動操作量(Bpa)が前記所定値(bp0)よりも小さい場合には、前記実位置(Mka)を前記基準位置(pzr)によって修正した位置(Mkc)に基づいて位置フィードバック制御(ICT)を実行するように構成され得る。
さらに、本願発明の実施形態に係る車両の電動制動装置では、運転者による車両の加速操作部材APの加速操作量Apaを取得する加速操作量取得手段APAが備えられ、前記制御手段(CTL)は、前記加速操作量Apaに基づいて、前記位置フィードバック制御(ICT)を実行するようにも構成され得る。
加えて、本願発明の実施形態に係る車両の電動制動装置では、前記押圧力取得手段(FBA)は、実押圧力(Fba)として、前記摩擦部材(MSB)が前記回転部材(KTB)を押し付ける力を検出する素子(歪ゲージ等)から出力されたアナログ信号をアナログ・デジタル変換して得られたデジタル信号に基づく値を使用し得る。また、前記位置取得手段(MKA)は、前記電気モータ(MTR)の位置(Mka)として、前記電気モータ(MTR)の位置を検出する素子(ホールIC、レゾレバ、エンコーダ等)から直接出力されたデジタル信号に基づく値を使用し得る。
以上、本発明によれば、基準位置pzr、及び、補正押圧力fzrによって、MKA、及び、FBAの取得結果Mka、Fbaが精度良く修正(補正)され得るため、適切な位置フィードバック制御、及び、押圧力フィードバック制御が実行され得る。
<本願発明に係る実施形態のまとめ>
以下、本願発明の実施形態についてまとめる。
本願発明の実施形態に係る車両の電動制動装置には、運転者による車両の制動操作部材(BP)の制動操作量(Bpa)を取得する制動操作量取得手段(BPA)と、伝達部材(GSK等)を介して、電気モータ(MTR)の動力を伝達することによって、前記車両の車輪(WHL)に固定された回転部材(KTB)に摩擦部材(MSB)を押し付けて、前記車輪(WHL)に制動トルクを発生させる制動手段(BRK)と、前記制動操作量(Bpa)に基づいて目標通電量(Imt)を演算し、前記目標通電量(Imt)に基づいて前記電気モータ(MTR)を制御する制御手段(CTL)と、が備えられる。さらに、前記摩擦部材(MSB)が前記回転部材(KTB)を実際に押し付ける力である実押圧力(Fba)を取得する押圧力取得手段(FBA)と、前記電気モータ(MTR)の実位置(Mka)を取得する位置取得手段(MKA)が備えられる。そして、前記制御手段(CTL)は、前記制動操作量(Bpa)が減少される場合に、前記実位置(Mka)が、「前記実位置(Mka)は減少するが前記実押圧力(Fba)は減少しない無効変位区間(mkm)を含む記憶区間(mrk)の一方の端点である開始位置(pst)」から、「前記記憶区間(mrk)の他方の端点である終了位置(pfn)」に到るまで、前記実位置(Mka)についての位置データ群(Mka(t))、及び、前記実押圧力(Fba)についての押圧力データ群(Fba(t))を逐次記憶していき、前記位置データ群(Mka(t))、及び、前記押圧力データ群(Fba(t))に基づいて、前記摩擦部材(MSB)と前記回転部材(KTB)とが接触し始める基準位置(pzr)を決定し、前記基準位置(pzr)に基づいて前記目標通電量(Imt)を演算する。
或いは、本願発明の実施形態に係る車両の電動制動装置では、前記位置データ群(Mka(t))、及び、前記押圧力データ群(Fba(t))に基づいて、前記押圧力取得手段(FBA)のゼロ点ドリフトに相当する補正押圧力(fzr)を決定し、前記補正押圧力(fzr)に基づいて前記目標通電量(Imt)を演算する。
ここで、前記記憶区間(mrk)の前記開始位置(pst)、及び、前記終了位置(pfn)は、過去に設定された(今回の制動操作よりも以前に演算された)基準位置pzr[k]に基づいて決定され得る。
本願発明の実施形態に係る車両の電動制動装置では、前記制御手段(CTL)は、前記位置データ群(Mka(t))、及び、前記押圧力データ群(Fba(t))に基づいて、前記実位置(Mka)の変化量(Mkh)に対する前記実押圧力(Fba)の変化量(Fbh)の比率(第1剛性値Gcq)を演算し、前記比率(Gcq)が、所定比率(gcqx)以上の状態から前記所定比率(gcqx)未満の状態に遷移する時点(u3、u7)の前記実位置(mkau3、mkau7)のうちで、前記終了位置(pfn)に最も近接する前記実位置(mkau7)に基づいて、前記基準位置(pzr)を決定するように構成され得る。
本願発明の実施形態に係る車両の電動制動装置では、前記制御手段(CTL)は、前記位置データ群(Mka(t))、及び、前記押圧力データ群(Fba(t))に基づいて、前記実位置(Mka)の変化量(Mkh)に対する前記実押圧力(Fba)の変化量(Fbh)の比率(Gcq)を演算し、前記比率(Gcq)が第1所定範囲内(-gcqx1~gcqx2)に収まる状態が、第1所定値(tx1、hmx1)に亘って継続する第1区間(kn1)を決定し、前記第1区間(kn1)における前記実位置(Mka)に基づいて、前記基準位置(pzr)を決定するように構成され得る。
本願発明の実施形態に係る車両の電動制動装置では、前記制御手段(CTL)は、前記押圧力データ群(Fba(t))に基づいて、前記実押圧力の時間変化量(dFba)のデータ群(dFba(t))を演算し、前記時間変化量(dFba)が第2所定範囲内(-dfbx1~dfbx2)に収まる状態が、第2所定値(tx2、hmx2)に亘って継続する第2区間(kn2)を決定し、前記第2区間(kn2)における前記実位置(Mka)に基づいて、前記基準位置(pzr)を決定するように構成され得る。
また、本願発明の実施形態に係る車両の電動制動装置では、前記制御手段(CTL)は、前記基準位置(pzr)に対応する前記実押圧力(Fba)を前記補正押圧力(fzr)に決定するように構成され得る。
加えて、本願発明の実施形態に係る車両の電動制動装置では、前記押圧力取得手段(FBA)は、実押圧力(Fba)として、前記摩擦部材(MSB)が前記回転部材(KTB)を押し付ける力を検出する素子(歪ゲージ等)から出力されたアナログ信号をアナログ・デジタル変換して得られたデジタル信号に基づく値を使用し得る。また、前記位置取得手段(MKA)は、前記電気モータ(MTR)の位置(Mka)として、前記電気モータ(MTR)の位置を検出する素子(ホールIC、レゾレバ、エンコーダ等)から直接出力されたデジタル信号に基づく値を使用し得る。
以上、本発明によれば、電気モータMTRの実位置(実回転角)Mkaにおいて、無効変位mkm、ゼロ点(基準位置の真値)を含むように、開始位置pst、及び、終了位置pfnが決定される。そして、pstからpfnに到るまでの間に亘って、時系列データ群Mka(t)、Fba(t)が記憶される。Mka(t)、Fba(t)に基づいて、事後的に、基準位置pzr、補正押圧力(FBAのゼロ点ドリフト)fzrが決定される。このため、無効変位に起因する誤差の影響が抑制され得る。