WO2014136356A1 - 水圧転写用フィルムおよびそれを用いた転写被写体 - Google Patents

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Abstract

 水溶性あるいは水膨潤性の支持体フィルム(10)と、非水系溶媒に溶解したアクリル樹脂により支持体フィルム(10)の一面に形成されたインク吸収層(20)と、インク吸収層(20)上に形成された絵柄層(30)とを備える。

Description

水圧転写用フィルムおよびそれを用いた転写被写体
 本発明は、凹凸のある立体面や曲面を有する転写被写体に絵柄層を転写させることで意匠を付与する水圧転写工法で使用する水圧転写用フィルムとその転写被写体に関する。
 水圧転写工法は、意匠性に富む絵柄層を凹凸のある立体面や曲面を有する転写被写体に付与させることができる技術として知られている。
 従来、水圧転写工法で用いられる水圧転写用フィルムの製造には、支持体であるポリビニルアルコールフィルム等の水溶性または水膨潤性フィルムの上にグラビア印刷等の印刷手段によって絵柄層を形成する方法が採用されていたが、近年の多品種小ロット生産の要求増加に伴い、インクジェット工法により絵柄層を形成する方法が注目を集めている。
 インクジェット工法により絵柄層を形成する場合、インクジェット工法で使用するインクの粘度、表面張力、固形分濃度、乾燥速度等の関係から、支持体であるポリビニルアルコールフィルム等に直接インクを着弾させて絵柄層を形成することが困難である。このため、支持体であるポリビニルアルコールフィルム等の上にインクの溶媒を吸収させるためのインク吸収層を形成することが一般的である。このインク吸収層は、ポリビニルアルコール等の水溶性または水膨潤性フィルムを溶解しない非水系溶媒に樹脂を溶解させて、支持体であるポリビニルアルコールフィルム等の表面に塗工した後、乾燥させることで形成される。
 従来、水圧転写工法で用いられる水圧転写用フィルムとしては、特許第3952748号公報(特許文献1)に記載されたものがある。この水圧転写用フィルムは、支持体フィルムと、インク吸収層と、絵柄層とを備えていて、インク吸収層にウレタン樹脂等の伸展性の高い樹脂を用いて、凹凸のある立体面や曲面を有する転写被写体に密着できるようにしている。
特許第3952748号
 しかしながら、ウレタン樹脂ように伸展性が高い樹脂では、ゴムのような弾性があり、凹凸のある立体面や曲面を有する転写被写体を、この転写被写体の形状に沿って水圧転写用フィルムに押し当てた際に、インク吸収層がその弾性により元の形に戻ろうとして、水圧転写用フィルムにシワが発生してしまう。そのため、水圧転写用フィルムにシワが入った状態で絵柄層が転写被写体に転写されてしまい、絵柄層により転写された意匠が損なわれるという問題があった。
 また、樹脂の弾性力は樹脂の膜厚により変わるため、上記樹脂の膜厚を1μm未満まで薄くすれば、上記樹脂の弾性力を弱めることができるものの、インクを吸収する性能が低下してしまい、溢れが発生して絵柄層が形成できないという問題があった。
 そこで、この発明の課題は、水圧転写工程時にシワが発生せず、かつ、転写された意匠を損なわない水圧転写用フィルムを提供することにある。
 上記課題を解決するため、この発明の水圧転写用フィルムは、
 水溶性あるいは水膨潤性の支持体フィルムと、
 非水系溶媒に溶解したアクリル樹脂を上記支持体フィルムの片面に塗工した後、上記非水系溶媒を乾燥させることで形成されたインク吸収層と、
 上記インク吸収層上に形成された絵柄層と
を備えることを特徴とする。
 上記構成によれば、非水系溶媒に溶解したアクリル樹脂を上記支持体フィルムの片面に塗工した後、上記非水系溶媒を乾燥させることで形成されたインク吸収層が水圧転写用フィルムに設けられているので、インク吸収層は、膨潤、再溶解している状態では軟化しているため変形が容易であり、かつ、溶剤成分が乾燥するとそのままの形状を保持して軟化前の形状に戻ろうとする力が働かない。そのため、水圧転写工程時にシワが発生して、転写された意匠の形態が損なわれることを防止することができる。
 また、非水系溶媒に溶解したアクリル樹脂は、高分子化した場合における粘度上昇も小さく、取り扱いも容易であるため、水溶性および水膨潤性の支持体フィルムにも容易に塗工することができる。
 また、一実施形態の水圧転写用フィルムでは、
 上記絵柄層は、顔料と、分散剤と、アクリル樹脂と、有機溶媒とを少なくとも含むインクジェット用インクを用いたインクジェット印刷により形成され、
 上記有機溶媒は、グリコールエステルおよびグリコールエーテルの混合溶媒、あるいは、グリコールエステル、あるいは、グリコールエーテルを主溶媒としている。
 上記実施形態によれば、絵柄層は、顔料と、分散剤と、アクリル樹脂と、有機溶媒とを少なくとも含むインクジェット用インクを用いたインクジェット印刷により形成され、有機溶媒は、グリコールエステルおよびグリコールエーテルの混合溶媒、あるいは、グリコールエステル、あるいは、グリコールエーテルを主溶媒としているので、インクジェット用インクは、インク吸収層へ十分に浸透し、かつ、溶解によりインク吸収層を損傷させない。そのため、インクジェット用インクとインク吸収層とは相性がよく、薄い吸収層であっても割れや滲みが生じにくく、印刷性と転写性を安定して両立させることができる。
 また、一実施形態の水圧転写用フィルムでは、
 上記インク吸収層の厚さが、2~7μmである。
 上記実施形態によれば、インク吸収層の厚さが、2~7μmであるので、割れが目立たない絵柄形成と、シワがよらない転写安定性を両立しやすくなり、高品位の転写被写体を得ることが可能となる。
 また、一実施形態の水圧転写用フィルムでは、
 上記支持体フィルムは一定幅を有する短冊形状であり、
 上記支持体フィルム、上記インク吸収層、上記絵柄層の順に積層され、かつ、上記支持体フィルムの上記幅が、上記インク吸収層および上記絵柄層の幅よりも大きい。
 上記実施形態によれば、支持体フィルムは一定幅を有する短冊形状であり、支持体フィルム、インク吸収層、絵柄層の順に積層され、かつ、支持体フィルムの上記幅が、インク吸収層および絵柄層の幅よりも大きいので、水槽上に浮かべたときに、水圧転写用フィルムにおいて支持体フィルムがガイドチェンに最も近くなるため、水圧転写用フィルムがガイドチェンに接触した場合、この接触面のすべてが支持体フィルムとなり、残膜が付着したとしても水槽内で容易に除去が可能である。
 また、支持体フィルムにインク吸収層、絵柄層を積層した場合、各層の固さにより支持体フィルムがカールすることがある。このとき、着水により支持体フィルム裏面が吸水し、軟化するものの、表面はそのままの硬さを維持するため、表面が内側に巻かれるようにカールする。よって、ガイドチェンと接触する部分を確実に支持体フィルムのみにすることができ、付着残膜の除去を容易にすることができる。
 また、この発明の転写被写体では、上記いずれか1つの水圧転写用フィルムを用いて形成されると共に、転写被写体の表面が絵柄層、インク吸収層の順に形成される。
 上記実施形態によれば、転写被写体の表面に、この表面に近い方から、絵柄層、インク吸収層の順に転写されるので、転写被写体の表面をインク吸収層が覆う。そのため、絵柄層は転写物から剥離しにくく、外力による傷がつきにくい。また、トップコート処理(透明の保護層形成処理)を行う場合、インク吸収層はトップコート用の溶剤を吸収しやすいため、転写被写体の表面で溶剤が弾かれてムラが生じることなく、トップコートの乗りが良く、密着性も良い転写物を得ることが可能となる。
 また、この発明の水圧転写フィルムの製造方法は、
 水溶性あるいは水膨潤性の支持体フィルムの片面に、非水系溶媒に溶解したアクリル樹脂を塗工する工程と、
 上記支持体フィルムに塗工した上記アクリル樹脂を乾燥させてインク吸収層を形成する工程と、
 上記インク吸収層にインクジェット工法により絵柄層を形成する工程と
を順次行うことを特徴とする。
 上記構成によれば、水溶性あるいは水膨潤性の支持体フィルムの片面に、非水系溶媒に溶解したアクリル樹脂を塗工する工程と、上記支持体フィルムに塗工した上記アクリル樹脂を乾燥させてインク吸収層を形成する工程と、上記インク吸収層にインクジェット工法により絵柄層を形成する工程とを有するので、高分子化した場合における粘度上昇も小さく、取り扱いも容易である非水系溶媒に溶解したアクリル樹脂を、水溶性および水膨潤性の支持体フィルムに容易に塗工してインク吸収層を形成することができ、水圧転写工程時にシワが発生して、転写された意匠の形態が損なわれることを防止することができる水圧転写用フィルムを製造することができる。
 以上より明らかなように、この発明の水圧転写用フィルムによれば、水圧転写工程時にシワが発生せず、かつ、転写された意匠を損なわない水圧転写用フィルム、および、それを用いて鮮明に印刷された転写被写体を実現できる。
図1は、この発明の第1実施形態の水圧転写用フィルムの縦断面図である。 図2は、この発明の第2実施形態の水圧転写用フィルムの上面からみた概略図である。 図3は、上記水圧転写用フィルムのA-A線からみた縦断面図である。
 以下、この発明の水圧転写用フィルム1を図示の実施の形態により詳細に説明する。
 (第1実施形態)
 本発明の第1実施形態の水圧転写用フィルム1は、図1に示すように、水溶性または水膨潤性フィルムからなる支持体フィルム10と、インク吸収層20と、絵柄層30とを備えている。この水圧転写用フィルム1は、支持体フィルム10の上にインク吸収層20、絵柄層30の順に積層していて、支持体フィルム10、インク吸収層20および絵柄層30の幅方向Wのサイズがすべて同じになるように形成している。
 なお、本明細書でいう幅方向とは矢印Wで示す方向であり、幅方向Wのサイズとは、この方向における各層の長さを指す。
 上記支持体フィルム10は、水溶性または水膨潤性を有する短冊形状で、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、ゼラチン、にかわ、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、アセチルブチルセルロース等の樹脂からなっている。この支持体フィルム10の厚さとしては10~100μmが好ましく、本実施形態では、厚さ30μmのポリビニルアルコール樹脂からなる支持体フィルム10を使用している。
 なお、上記支持体フィルム10は、例えば、特開2005-60636号公報にて開示されているように、公知の技術を用いて製造することができる。
 上記インク吸収層20は、アクリル樹脂を非水系溶媒に溶解した塗工液を上記支持体フィルム10の片面上に塗工し、オーブン等の乾燥手段により非水系溶媒を蒸発させて形成している。
 上記インク吸収層20に用いられるアクリル樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸2ヒドロキシエチル共重合体などの1種単独または2種以上の混合物が用いられる。本実施形態では、アクリル酸ブチルと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体を用いている。
 また、アクリル樹脂を溶解する非水系溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の1価アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチレングリコール・モノ・メチルエーテル、エチレングリコール・モノ・エチルエーテル、エチレングリコール・モノ・ブチルエーテル、ジエチレングリコール・モノ・メチルエーテル、ジエチレングリコール・モノ・エチルエーテル、ジエチレングリコール・モノ・ブチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコール・モノ・エチルエーテル・アセテート、エチレングリコール・モノ・ブチルエーテル・アセテート、ジエチレングリコール・モノ・メチルエーテル・アセテート、ジエチレングリコール・モノ・エチルエーテル・アセテート、ジエチレングリコール・モノ・ブチルエーテル・アセテート等の酢酸エステル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類が単独あるいは混合溶剤として用いられる。本実施形態では、非水系溶媒の主成分(主溶媒)として酢酸エチルを使用している。なお、ガラス転移点を調整するため、後述するフタル酸ジオクチルを微量添加してもよい。
 また、水圧転写用フィルム1以外に用いられる転写フィルムのインク吸収層20の厚さは、一般に10~30μmであるが、水圧転写用フィルム1においては、印刷性と転写性を両立させるために、インク吸収層20の厚さが2~7μmであることが望ましい。インク吸収層20の厚さが2μm以下の場合、インク量が多いとインク吸収層20に層の厚さ全域に亘るひび割れが発生してしまい、転写品質が悪化する一方、インク吸収層20の厚さが7μm以上では、転写時にシワが発生する可能性が高くなる。
 本実施形態においては、インク吸収層20の樹脂成分として、アクリル酸ブチルと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体を用い、主溶媒として酢酸エチルを用いると共に、支持体フィルム10の樹脂として、ポリビニルアルコール樹脂を用いているが、2~7μmの薄層のインク吸収層20を安定して形成可能であった。そのため、割れが目立たない絵柄形成と、シワがよらない転写安定性を両立しやすくなり、高品位の転写体を得ることが可能となる。なお、転写時のシワの発生を更に低減するには、インク吸収層20の厚さは2~5μmの範囲であることが望ましい。
 更に、インク吸収層20の樹脂成分としてアクリル樹脂を用い、酢酸エチルを溶媒とした塗工液に対して、酢酸エチル溶媒で希釈したイソシアネート溶液を少量(~1%)添加したのち、水溶性ポリビニルアルコールの支持体フィルム10の表面に塗工して乾燥させてインク吸収層20を形成することで、印刷性と転写工程での柔軟性を更に兼ね備えた水圧転写用フィルム1を得ることが可能となる。イソシアネート溶液の添加により、インク吸収層20はイソシアネート基により部分的に三次元網目構造を形成することができる。このイソシアネート溶液の最適添加量は、アクリル樹脂成分及び後述する活性剤成分により異なるため、印刷性と転写性を更に高めるためには、実験により導出された量のイソシアネート溶液を添加することが望ましい。
 なお、比較実験として、インク吸収層20材料として一般的に良く用いられているポリウレタン樹脂を用いて酢酸エチル溶媒からなる塗工液を試作し検討を行った。ポリウレタン樹脂を用いたインク吸収層はゴムのような弾性があり、転写被写体をフィルムに押し当てた際に転写被写体の形状に沿って伸びるものの、その弾性力により元の形に戻ろうとするため、結果的にフィルムにシワが入ったまま転写されてしまい不適であった。
 上記インク吸収層20を形成する塗工液を支持体フィルム10上に塗工させる方法としては、グラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート等のコーティング手段を用いることができるが、支持体フィルム10は一般的にロール形状で梱包されており、ロール・ツー・ロールと呼ばれる処理方法が好ましく、グラビアコート、ロールコート、ダイコート等のコーティング手段が好ましい。なお、本実施形態では、グラビアコート法を用いている。
 上記インク吸収層20は、アクリル樹脂を非水系溶媒に溶解した塗工液を支持体フィルム10上に塗工した後、オーブン等の乾燥手段により加熱乾燥することで形成されるが、水圧転写工程において、支持体フィルム10が、着水後の軟化、溶解、膨潤する時間に加熱乾燥することによる変化が起きないように、加熱する温度は40~80℃、加熱時間は1分~10分であることが好ましい。本実施形態では、80℃のオーブンにより1分加熱乾燥している。
 上記水圧転写フィルムをロールで巻き取る等の際に、インク吸収層20に十分な柔軟性が付与されていないと、機械的なクラックが入ることがある。このクラックは、インク吸収層20を貫通することもあり、インク吸収層20におけるクラックの界面での濡れ広がりや浸透具合が変化する。そのため、絵柄層30形成の際に、インクジェット装置から吐出されたインクのインク吸収層20への着弾形状が乱れ、絵柄層30の質の低下を招き、転写された転写被写体の意匠が損なわれてしまう。さらに、水圧転写時の活性剤塗布工程では、上記クラックの発生箇所で活性剤の塗布ムラが発生し、絵柄層30の割れがおこりやすくなり、転写された転写被写体の意匠の更なる低下を招く。
 また、水圧転写工程において、着水後に支持体フィルム10が膨潤し、伸展する挙動を示すが、インク吸収層20に十分な柔軟性が付与されていないと、転写被写体を水圧転写用フィルム1に押し当てた際に、水圧転写用フィルム1にシワが入り、そのまま転写被写体に転写されるため、意匠が損なわれてしまう。
 このため、転写被写体に転写される意匠の品質の劣化を防ぐためには、インク吸収層20に一定の柔軟性を付与する必要があり、水圧転写工程における支持体フィルム10の伸展する挙動を妨げないよう、樹脂の柔軟性と相関があるガラス転移点を設定する必要がある。具体的には、インク吸収層20のガラス転移点を支持体フィルム10のガラス転移点以下に設定する。
 一方で、インク吸収層20のガラス転移点が低すぎるとインク吸収層20にタック性が発現するため、水圧転写用フィルム1をロールにした際にブロッキングの防止が不可欠になる。具体的には、ガラス転移点が室温未満のインク吸収層20を用いる場合、ブロッキング対策として保護部材が必要となるため、コスト高になってしまう。そのため、インク吸収層20のガラス転移点は、タック性が比較的抑えられる室温以上、具体的には、設計値でガラス転移点22℃以上であるのが好ましい。
 上記ガラス転移点の調整は、アクリル樹脂合成時における分子構造の設計、重合度の調整等により行うことができるが、それ以外に、例えば、フタル酸ジオクチルのようなフタル酸エステル類、アジピン酸エステル類等の可塑剤を添加することにより行うことができる。本実施形態ではフタル酸ジオクチルを可塑剤として添加している。
 本明細書において、ガラス転移点の測定は、示差走査熱量分析(DSC)法を用いて測定し、発熱量変化がある領域において、発熱量の変化量の中間点をガラス転移点としている。本実施形態では、支持体フィルム10のガラス転移点が70℃であることから、インク吸収層20のガラス転移点は、30℃~60℃が好ましく、ブロッキングの観点からガラス転移点55℃になるように調整している。
 上記インク吸収層20に用いられるアクリル樹脂の重量平均分子量と印字性(着弾径、にじみ)を評価した結果を表1に示す。分子量の調整は反応開始剤の量、反応時間、温度等の合成環境条件により行った。また、分子量の計測には光散乱法を用いた。なお、インク吸収層20の厚さはいずれも5μmとした。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
 (着弾径の評価)
 1滴吐出した際の着弾径を顕微鏡観察により見積もり、ノズル径を“1”とした場合の比例係数(例えば、ノズル径20μmのインクジェットヘッドから吐出されたインクの着弾径が40μmの場合、「2」、60μmの場合「3」)を表記している。
 (にじみの評価)
 各分子量のアクリル樹脂で構成したインク吸収層20に対し、後述するインク4色を印字後、目視あるいは顕微鏡観察(50倍)によりインクのにじみの有無を評価し、
 (1)○:4色すべてが目視、顕微鏡観察の両方でにじみが確認できない
 (2)△:4色すべてが目視ではにじみは確認できないが、4色のうち1色でも顕微鏡観察により確認できる
 (3)×:4色のうちどれか1色が目視、顕微鏡観察のどちらにおいてもにじみが確認できる
によって分類評価した。
 (粘度の計測)
 ブルックフィールド社製デジタル粘度計LVDV-Iを用いて計測した。
 表1からわかるように、インクジェット装置で絵柄層30を形成するためには、重量平均分子量が10000以上必要であることが分かる。
 印字性の観点からは、重量平均分子量50000以上が好ましく、絵柄層30の解像度を高めるために着弾径が小さくなる重量平均分子量100000以上がさらに好ましいが、高分子化すると塗工液の粘度が高くなり、塗工が困難になる。このため、取り扱いを考えると粘度1Pa・s以下となる重量平均分子量500000以下がさらに好ましい。
 上記絵柄層30は、インク組成物の溶媒成分がインク吸収層20に吸収されて、インク吸収層20上に残った固形分であり、インクジェット装置からインク組成物をインク吸収層20に吐出して形成する。そのため、インク内に含まれる色材成分や樹脂等の固形分が絵柄層30の構成物になるため、インク内に含まれる色材成分や樹脂成分の濃度により絵柄層30の発色性や膜厚が決まる。
 上記絵柄層30は、インクの溶媒成分によりインク吸収層20を溶解させると絵柄が鮮明に形成されないため、インク吸収層20を溶解しないインクの溶媒成分を選定する必要がある。このような溶媒成分として、本実施形態ではグリコールエーテル系溶媒とグリコールエステル系溶媒の混合溶媒を用いている。また、本実施形態では使用していないが、必要に応じて乾燥防止やレベリング性向上のための界面活性剤等を微量添加しても良い。
 また、上記絵柄層30の膜厚は、1μm~10μmの範囲にあるのが好ましい。これは、水圧転写工程において、水圧転写用フィルム1は、吸水し膨潤することで1.4倍程度伸展するため、家庭用プリンタなどで使用される場合に比べ、水圧転写用フィルム10の膜厚は厚くする方が好ましい一方、水圧転写用フィルム10の膜厚が厚くなりすぎると、水圧転写工程における着水後の水圧転写用フィルム1の挙動を妨げる、あるいは、水圧転写用フィルム1にシワが発生する等の原因となるからである。なお、本実施形態では3~4μmになるように絵柄層30を形成している。
 本発明による非水系インクジェット用インク組成物は、顔料と、顔料を分散させる分散剤と、アクリル樹脂と、有機溶媒とを少なくとも含んでいる。以下、各成分について説明する。
 (顔料)
 非水系インクジェット用インク組成物に使用される顔料は、特に限定されるものではなく、無機顔料でも有機顔料でも適宜選択できる。
 無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、カオリナイト、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、べんがら、クロムバーミリオン、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、チタンイエロー、酸化クロム、コバルトグリーン、コバルトブルー、群青、紺青などが挙げられる。
 有機顔料としては、例えば、モノアゾ顔料、ジアゾ顔料、ジアゾ縮合顔料、アゾメチン顔料などのアゾ顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、キノフタロン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、イミダゾロン顔料、ベンズイミダゾロン顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、オキサジン顔料、ジオキサジン顔料、フタロシアニン顔料などの多環式顔料などが挙げられる。
 具体的には、例えば、ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、34、35、37、42、53、65、74、81、83、93、94、95、110、111、128、129、138、150、151、153、154、155、157、175、180、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、17:1、27、29、60、ピグメントグリーン7、36、ピグメントレッド5、17、22、48:1、48:2、48:3、48:4、49:1、53:1、57:1、101、112、122、146、177、178、179、185、202、254,255、ピグメントバイオレット、19、23、50、ピグメントオレンジ13、16、ピグメントブラック7、ピグメントホワイト6、18、21などが挙げられる。これらの顔料は1種もしくは2種以上を混合して用いることができる。
 分散処理後の顔料の平均一次粒子径は、分散性と吐出性とを考慮すると、50~200nmであることが好ましく、さらには60~150nmであることがより好ましい。顔料の平均一次粒子径が前記範囲より小さい場合、凝集性が高まったり、発色性が悪くなったりする。また、逆に前記範囲より大きい場合、ノズルの目詰まりが起こりやすくなり、吐出性が不安定化する。
 インク組成物に占める配合量として、好ましくは、1~15重量%であり、より好ましくは、2~10重量%である。顔料の配合量が前記範囲より少ない場合、発色性が悪くなり、淡い色目しか表現できず、逆に前記範囲より多い場合、インク組成物自体の粘度安定性が悪くなり、インク品質が十分に保てなくなる。
 これらの顔料を顔料分散剤にて効果的に有機溶剤中に安定に分散させるためには、顔料の表面に反応性の官能基(ヒドロキシル基、カルボキシ基、スルホン酸基等)を備えているほうが、顔料分散剤との相互作用が高まり好適である。反応性の官能基がない場合でも、酸素プラズマ処理、UV照射処理などの表面処理を行えば、反応性の官能基を導入できる。
 (顔料分散剤)
 非水系インクジェット用インク組成物に使用される顔料分散剤としては、イオン性の界面活性剤や、アニオン性、もしくはカチオン性の高分子化合物等が使用できる。特に、塩基性官能基が分子鎖中に含まれる高分子化合物が、有機溶媒中での顔料表面に吸着性がよく、安定した分散効果が得られるので好ましい。
 具体的には、市販の商品として、BYKChemie社製Disperbyk-161、162、163、166、182、183、184、185、2000、2050、2150、味の素ファインテクノ株式会社製アジスパーPB-821、822、881、楠本化成株式会社製ディスパロンDA-703-50などが挙げられる。
 上記顔料分散剤は、顔料の種類、使用する有機溶剤の種類に応じて適宜選択する必要がある。顔料分散剤のインク組成物に占める配合量として、有機顔料に対しては、好ましくは、10~100重量%の範囲、より好ましくは、15~80重量%の範囲であり、無機顔料に対しては、好ましくは、0.5~8重量%の範囲、より好ましくは、1~5重量%の範囲で添加される。上記範囲より小さい場合、目的の分散性能が発揮されず凝集性が高くなり、逆に上記範囲より大きい場合、粘度が高くなるために吐出性が不安定化もしくはノズル目詰まりを引き起こす。
 (バインダー樹脂)
 非水系インクジェット用インク組成物に含まれるバインダー樹脂としては、インクジェット吐出性の観点から求められる制約条件と水圧転写用フィルム1上への描画性の観点から求められる制約条件とを両立させることが不可欠である。吐出性について、まずインクジェット装置に見合った吐出をするのにふさわしい粘度範囲で、なおかつ、吐出状態のばらつきが少なく、経時安定性も高くなくてはならない。そのためには分子量が高過ぎず、なおかつ、分子構造や重合度のばらつきが少ない樹脂であることが望ましい。描画性について、柔軟なインク吸収層20の伸展挙動に対して着弾形状も追従性を高めるためには、分子量が高過ぎず、なおかつ、分子設計の自由度が高い樹脂であることが重要である。柔軟なインク吸収層20として構造設計性に優れる樹脂を対象とする場合、インク組成物の分子設計の必要性を考慮した上で、本発明に用いるインクジェット用インク組成物に含まれるバインダー樹脂としては、アクリル樹脂がもっとも好適である。
 上記インクジェット用インク組成物に含まれるアクリル樹脂は、単体のモノマーもしくは複数のモノマーを公知のラジカル重合によって共重合させることで得られる。モノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル等のメタクリル酸エステルなどが挙げられる。
 他には、官能基を持つモノマーも用いることができ、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有モノマー、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有アクリル酸エステル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有メタクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸アミド、フマル酸アミド等のアミド基含有モノマー、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等の3級アミノ基含有モノマーなどが挙げられる。これらのモノマーは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせても使用できる。
 本発明に用いられるインクジェット用インク組成物に含まれるアクリル樹脂の重量平均分子量は、5000~20000の範囲であることが好ましく、さらには、7000~15000の範囲であることがより好ましい。インクジェット用インク組成物に含まれるアクリル樹脂の重量平均分子量がこの範囲より小さい場合、造膜性、色の定着性、光沢性のないインクジェット用インクになってしまう。また、逆に、インクジェット用インク組成物に含まれるアクリル樹脂の重量平均分子量が上記範囲より大きい場合、ノズルの目詰まりが起こりやすくなり、吐出性が不安定になる。
 また、インクのバインダー樹脂の重量平均分子量は、インク吸収層20のアクリル樹脂の重量平均分子量に比べ低いことが望ましい。上記水圧転写用フィルム1の絵柄層30及びインク吸収層20は、転写工程において、有機溶剤からなる活性剤をコートすることで軟化される。しかし、絵柄層30のバインダー樹脂の重量平均分子量の方がインク吸収層20のアクリル樹脂の重量平均分子量に比べ高い場合、絵柄層30の部分が活性剤で軟化されにくくなるだけでなく、絵柄層30の下に位置するインク吸収層20に活性剤が均一に浸透するのを阻害してしまい、絵柄濃度の違いで場所毎に柔軟性(転写時の付き回り)の差が大きくなってしまうためである。なお、この有機溶剤は、水圧転写フィルムの特性により適宜選択することが可能である。
 上記インクジェット用インク組成物に占めるアクリル樹脂の配合量は、好ましくは、2~8重量%の範囲である。アクリル樹脂の配合量がこの範囲より少ない場合、インク吸収層20への着弾後の形状保持力が弱くなったり、顔料の定着性が悪くなったりという問題が生じ、逆に上記範囲より多い場合、インクジェット用インク組成物の粘度が高くなり、インクジェットの吐出安定性が悪くなる。
 なお、吐出性能や描画性能が低下しない範囲で、上記アクリル樹脂以外にも、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ロジン系樹脂、アルキッド系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、セルロース系樹脂などを少量添加することで、着弾形状や発色性などの特性を補完することも可能である。
 (有機溶剤)
 本発明の非水系インクジェット用インク組成物に含まれる有機溶媒の主溶媒は、グリコールエステル系及びグリコールエーテル系溶媒を用いている。このグリコールエステル系及びグリコールエーテル系溶媒は、上記の顔料、顔料を分散させる分散剤、アクリル樹脂を溶解することができ、かつ、インクジェット吐出に適した溶液特性を与えることができる。
 グリコールエステル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。グリコールエステル系溶媒の溶剤は樹脂溶解性が良いため、分子量が高いアクリル樹脂であっても均一に溶解分散させやすく、アクリル樹脂の適用範囲が広がる。
 更に、グリコールエステル系溶媒は、前述のインク吸収層20に単に吸収されるだけでなく、その表層の一部を溶解させることで、インク中のバインダー樹脂とインク吸収層20の密着性を高める効果も有するため、溶剤中にグリコールエステル系溶媒が含まれていることは好適である。中でも、バインダー樹脂を安定的に分散させるとともに、インク吸収層20との密着性の効果が高い、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
 グリコールエーテル系溶媒は、インクジェット用インクの溶媒として良く用いられている。これは、乾燥によるインクジェットノズルの詰まり等の不具合に関連する沸点およびインクジェットヘッドから安定的に微小液滴を吐出させるための指標となる粘度が異なる複数の溶媒があり、その混合性が良いため、複数のグリコールエーテル溶媒を混ぜ合わせ、インクジェットヘッドの特性、使用環境に沿った形にブレンドすることが多いからである。
 上記インクジェット用インク組成物全体の粘度低下に寄与することができる低沸点のグリコールエーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル(124℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(135℃)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(144℃)、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル(152℃)、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(171℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(121℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(133℃)、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル(150℃)、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(170℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(171℃)などが挙げられる(溶剤名の後の括弧の数値は沸点を示す)。中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテルが好ましい。
 また、沸点が高くノズル詰まりの原因となる乾燥性を遅くできるグリコールエーテル系溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(202℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(189℃)、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(230℃)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(212℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(256℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(249℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(216℃)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(256℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(189℃)、ジプロピレングリコール-n-プロピルエーテル(212℃)、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(229℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(242℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(215℃)などが挙げられる(溶剤名の後の括弧の数値は沸点を示す)。中でも、インク吸収層20がアクリル樹脂の場合、インク吸収層20への浸透性の点で、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルが好ましい。
 本発明では、このようなグリコールエーテル系溶媒を単独でまたは複数を組み合わせて用いることで、インクジェット用インクが、インク吸収層20へ十分に浸透し、かつ、溶解によりインク吸収層20を損傷させることがない。そのため、インクジェット用インクとインク吸収層20とは相性がよく、薄い吸収層であっても割れや滲みが生じにくく、印刷性と転写性を安定して両立させることができ、印刷性及び転写性に適したインクジェット用インクを調合することが可能となる。
 (インクジェット用インク組成物の生成)
 本発明の非水系インクジェット用インク組成物は、上記の材料成分を、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル等の分散機を用いて撹拌・分散し、粘度を3~10mPa・sとなるように調整することで得ることができる。撹拌・分散されたインク組成物はメンブレンフィルター、カートリッジフィルター等のフィルターで濾過し、大きな粒子を除去することで、目的の非水系インクジェット用インク組成物が得られる。
 (水圧転写用フィルム1上へのインクジェット印刷)
 本発明による非水系インクジェット用インク組成物を用いての水圧転写用フィルム1上へのインクジェット印刷は、インクジェット装置により上記インクジェット用インク組成物の微小液滴を吐出し、インク吸収層20上に着弾させることで形成される。インクジェット装置としては、静電吸引型、圧電方式等、種々のインクジェット駆動方式を採用することができる。
 上記水圧転写用フィルム1のインクジェット用インクの調合例を説明する。
 まず、顔料としてピグメントブルー15:4を10重量%、顔料分散剤としてBYKChemie社製Disperbyk-2001を8重量%、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート82重量%の割合でビーズミルに仕込んで10時間分散を行い、顔料分散品を得た。
 次に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶媒でアクリル酸ブチルとメタクリル酸ジエチルアミノエチルのモノマーを用いてラジカル重合により、アクリル共重合体の樹脂液を作成した。なお、樹脂液は重量平均分子量が(A)4400、(B)9800、(C)18000、(D)25000、(E)38000 の5種類について固形分濃度50%で得た。
 上記顔料分散品を40重量%、樹脂液を10重量%、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルを20重量%、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを10重量%、プロピレングリコールモノメチルエーテルを10重量%の比率で混合し、樹脂液の重量平均分子量の異なる5種類のインクを得た。
 表2は、上記水圧転写用フィルム1の調合例のバインダー樹脂であるアクリル樹脂の分子量と、それに対する吐出性、着弾性および転写性の評価の結果を示している。以下、この評価結果について説明する。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
 (吐出性)
 インクジェット吐出評価機を用いて、インクジェット用インク組成物をガラス基板上の定められた位置にめがけて吐出させた際の、飛翔状態の観察、および着弾位置の測定を行い定常状態での吐出安定性を確認した。また、吐出を一旦停止し、3分停止後、5分停止後に再吐出を行うことで、吐出の経時安定性についても確認を行った。判定基準は次の通りである。
  [判定基準]
 (1)○:不吐出、液滴形状のばらつきや飛散、飛翔方向の乱れが
      ほとんどなく良好
 (2)△:不吐出、液滴形状のばらつきや飛散、飛翔方向の乱れが
      一部のノズルであるいは時々見られる
 (3)×:吐出中にシブキが見られたり、ノズル目詰まりが頻発したりする
 インク吸収層20の付いた水圧転写用フィルム1に1滴吐出した際の着弾径を顕微鏡観察により見積もり、ノズル径を“1”とした場合の相対的な大きさ(例えば、ノズル径20μmのインクジェットヘッドから吐出されたインクの着弾径が40μmの場合、「2」、60μmの場合「3」)を表記している。
 (転写性)
 上記インク吸収層20を有する水圧転写用フィルム1に、インクジェットで6種類のそれぞれにシアンベタ画像を印刷したサンプルを作成し、このフィルムを水面に浮かべ、所定時間が経過した後、キシレン、酢酸ブチル、エチルベンゼン、メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチルエトキシプロピレートの混合溶媒からなる活性剤をスプレー工法により塗布し、最大で約3倍の絵柄の伸びに相当する条件で被転写体に転写を行い、シアンベタ柄の割れや濃度ムラ発生の有無を確認した。判定基準は次の通りである。
  [判定基準]
 (1)○: 割れや、濃度ムラが発生しない
 (2)△: 部分的に割れや濃度ムラが発生する
 (3)×: 全体的に割れや白抜けが発生する
 なお、インク吸収層20を軟化させるために必要な活性剤量を塗布すると、バインダー樹脂の重量平均分子量4800の条件では、絵柄層が溶けてしまい、絵柄を保持できなくなったために、濃度ムラが発生していた。
 次に、複数色の顔料インクを同一走査中に滴下する場合の最適条件について検討する。
 従来のグラビア印刷では多色印刷において色毎に印刷及び乾燥を行うため、色毎の混色の問題はなかった。しかしながら、インクジェット工法で水圧転写用フィルム1に印刷する場合は、複数色のインクがそれぞれ乾燥工程を経ることなくほぼ同時に滴下されるため、黒ベタ画像などの高濃度部分では溶媒の過多や、低濃度部分では複数色の混色による発色性の悪化が懸念される。そこで、複数の番手のバーコーターを用いてインク吸収層20の厚さを1~10μmの範囲で作成し、印刷性と転写性を検討した。
 上記調合例の水圧転写用フィルム1のインク吸収層20と、印刷性および転写性の評価結果を表3に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000003
 (印刷性)
 インク吸収層20の厚さを1~10μmの範囲で変えたフィルムを作成し、CMYK4色それぞれ100%印刷して、計400%の黒ベタ画像をインクジェット印刷し、金属顕微鏡にて印刷表面を観察した。また、同様に単色で100%のベタ画像を印刷した。
  [判定基準]
 (1)○:割れが発生しない
 (2)△:細かい割れが発生する
 (3)×:大きな割れが発生する
 インク吸収層20の厚さが2μm以下の場合、インク吸収層20の厚さ全てに亘る割れが発生し、転写においてもその割れが強調されてNGであった。インク吸収層20の厚さが2μm~6μmの間では、絵柄層30に細かな割れが発生するが、割れはインク吸収層20の表層にのみ発生しており、転写においてこの割れが進展することなく、またシワも生じず、良好な結果が得られた。インク吸収層20の厚さが8~10μmでは、転写時にシワが発生しNGであった。なお、ベタ印刷部分において細かい割れが発生していることは、絵柄層30を区分けして、転写において絵柄を広がりやすくして転写性を良好にする効果がある。
 (転写性)
 上記インク吸収層20を有する水圧転写用フィルム1に、インクジェットで6種類のそれぞれにシアンベタ画像を印刷したサンプルを作成し、このフィルムを水面に浮かべ、所定時間が経過した後、キシレン、酢酸ブチル、エチルベンゼン、メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチルエトキシプロピレートの混合溶媒からなる活性剤をスプレー工法により塗布し、最大で約3倍の絵柄の伸びに相当する条件で被転写体に転写を行い、シアンベタ柄の割れや濃度ムラ発生の有無を確認した。判定基準は次の通りである。
  [判定基準]
 (1)○:目視で絵柄の割れやシワが確認できない
 (2)△:部分的に絵柄の割れやシワが確認できる
 (3)×:目視で絵柄の割れやシワが確認できる
 なお、常温時の粘度3~20cP(センチポアズ)及び表面張力25~35dyne/cmの範囲で複数試したが傾向は同じであり、着弾径(比例係数)が3以下の場合、低濃度部分での発色性(色再現性)は良好であった。
 次に、上記水圧転写用フィルム1を用いた水圧転写工程について説明する。
 上記水圧転写用フィルム1は、グラビアコータであるコート装置に取り付けられ、支持体フィルム10上の絵柄層30とインク吸収層20とが形成された面に活性剤が塗布される。
 上記活性剤に使用される溶媒としては、非水系溶媒であれば様々な溶媒から選択可能であるが、活性剤により絵柄層30およびインク吸収層50を活性化(軟化)させるために、絵柄層30およびインク吸収層20を再溶解させることができる成分、具体的には、絵柄層30を形成するためにインクジェット装置より吐出されるインクの成分、または、インク吸収層20を形成するために支持体フィルム10に塗布する塗工液に含まれる溶剤成分を含むものであるのが好ましい。
 また、活性剤にはインク吸収層20を形成するために、支持体フィルム10に塗布する塗工液に含まれる主溶媒を含むのが好ましい。これは、絵柄層30の方がインク吸収層20よりも薄く構成されると共に、絵柄層30の下層にあるインク吸収層20は、絵柄層30を経て活性剤が供給されるため、活性化されにくいことから、絵柄層30よりもインク吸収層20の方が活性化しやすい成分を選択する必要があるためである。
 上記活性剤の塗布後、上記水圧転写用フィルム1の活性剤塗布面の裏面側が着水するよう、水槽内に水圧転写用フィルム1が搬送される。水槽は常時一定流量、一方向の流れができるように流量調整されており、その水の流れに沿って、水圧転写用フィルム1が搬送される。着水後の搬送の際、水圧転写用フィルム1は支持体フィルム10が吸水することで膨潤、軟化する。このことにより、水圧転写用フィルム1は膨張し、その端部が水槽内のガイドチェンに接触し、そのサイズが規定される。その後、軟化した水圧転写用フィルム1に搬送方向と同じ方向から搬送された転写被写体を約斜め45°で押し当てることで支持体フィルム10に形成された絵柄層30の意匠を転写する。
 絵柄層30の意匠が転写された転写被写体は、不要な支持体フィルム10を洗い流すために流水洗浄が行われ、乾燥後にウレタン樹脂などで構成されたトップコート剤(透明の保護層形成剤)がコートされる。
 インクジェット工法の特徴の一つとして、多色インクを同時に吐出し、短時間で絵柄層30を形成することが挙げられるが、これを実現するためには、インクジェット装置から吐出されたインクをすばやく吸収する特性がインク吸収層20に求められ、インクの吸収が不十分であると、上述のようにインク吸収層20に大きな割れが生じ、漏れが発生して絵柄を形成できない。一方で、インクの吸収性を高めるためにインク吸収層20の厚さを増やすと、その後の転写工程でフィルムにシワが入り、転写被写体の意匠を損なってしまう。
 更に、インクジェット用インクという観点から見ると、グラビア印刷では、印刷するインク自体の粘度が高く、印刷後でも流動することなく固化するので、水溶性または水膨潤性フィルム上に直接、絵柄形成することができる。一方、インクジェット印刷では、使用するインク粘度が低く、固形分濃度も低いため、乾燥して固化するまでに液滴が濡れ広がってしまうため、直接、水溶性または水膨潤性フィルムに絵柄を描画することは困難である。そのため、着弾直後の液滴着弾径に近い状態を保持したまま固化させるには、印刷される転写フィルム表面にインク吸収層20を設けることが必要となる。すなわち、インクジェット印刷で転写フィルム上に高精細な装飾絵柄を形成するには、インク吸収層20を有する転写フィルムが不可欠となる。
 インク吸収層20の本来の目的は上記に記載した通りであるが、水圧転写という用途から、インクを吸収するだけでなく、十分な伸展性のある材料特性を備えていなければならない。これは、転写被写体を転写フィルムに押し当てた際に、その転写被写体の形状に沿ってシワなく密着していかなければ、絵柄の品質劣化の原因となるからである。材料への伸展性付与のためには分子構造の柔軟化、低分子化、分子間相互作用の抑制などの材料設計が必要となる。
 また、柔軟性を高めると、転写フィルムの膜強度が脆弱になる傾向があるため、溶剤に対する耐性が弱くなり、溶解性の強いインクに対しては浸食される懸念が生じる。従来の吐出性のよいインクジェット用インクで転写フィルムに印刷を行った場合、色がにじんだり、色目が淡かったりと十分な印刷品質が得られない。これはインク吸収層20が水圧転写プロセスに適した伸展性を重視した材料設計によって層形成されており、その結果、一般のインクジェット用紙のインク吸収層20とはインクの浸透性や溶解力の影響力が異なるからである。浸透力が弱いとインクを吸収しきれず形状ぼやけるし、溶解力が強すぎるとインク吸収層自体を溶かしてフィルムを損傷してしまうなどの問題が生じる。すなわち、水圧転写用のインク吸収層20は、一般的なインクジェット用紙のインク吸収層とは異なるという認識が必要で、インク組成についても水圧転写用のインク吸収層20に見合ったものに調整することで、転写フィルム上に高品質な絵柄を実現できる。
 本発明は上述した問題点に鑑みなされたものであって、インクジェット工法により鮮明に絵柄を形成することができ、かつ、水圧転写工程時にフィルムにシワが入らずに意匠を損なわない水圧転写用フィルム1を提供することができる。
 すなわち、上記水圧転写用フィルム1には、非水系溶媒に溶解したアクリル樹脂により、支持体フィルム10の一面に形成されたインク吸収層20が設けられているので、インク吸収層20は、膨潤、再溶解している状態では軟化しているため変形が容易であり、かつ、溶剤成分が乾燥するとそのままの形状を保持して軟化前の形状に戻ろうとする力が働かない。そのため、水圧転写工程時にシワが発生して、転写された意匠の形態が損なわれることを防止することができる。
 また、非水系溶媒に溶解したアクリル樹脂は、高分子化した場合における粘度上昇も小さく、取り扱いも容易であるため、水溶性および水膨潤性の支持体フィルム10にも容易に塗工することができる。
 さらに、上記絵柄層30に用いられる有機溶媒は、グリコールエステルおよびグリコールエーテルの混合溶媒、あるいは、グリコールエステル、あるいは、グリコールエーテルを主溶媒とするので、インクジェット用インクは、インク吸収層20へ十分に浸透し、かつ、溶解によりインク吸収層20を損傷させない。そのため、インクジェット用インクとインク吸収層20とは相性がよく、薄い吸収層であっても割れや滲みが生じにくく、印刷性と転写性を安定して両立させることができる。
 (第2実施形態)
 図2は、この発明の第2実施形態の水圧転写用フィルム11の上面からみた概略図である。図3は、上記水圧転写用フィルム11のA-A線からみた縦断面図である。この第2実施形態の水圧転写用フィルム11は、図2に示すように、支持体フィルム40と、インク吸収層50と、絵柄層60とを備えている。本実施形態の水圧転写用フィルム11の支持体フィルム40、インク吸収層50および絵柄層60は、上記第1実施形態の水圧転写用フィルム1の支持体フィルム10、インク吸収層20および絵柄層30と同様の成分・方法により形成されており、重複する部分については第1実施形態の説明を援用する。
 上記水圧転写用フィルム11は、ロール2に巻きつけられたロール状であり、支持体フィルム40の上にインク吸収層50、絵柄層60の順に積層している。また、図3に示すように、支持体フィルム40から絵柄層60に向かって、幅方向Wのサイズが漸次小さくなるよう形成している。
 上記支持体シート40の幅方向のサイズよりもインク吸収層50の幅方向Wのサイズを小さくするために、グラビアコート法で用いるグラビアコータの版のサイズを支持体シート40の幅方向Wのサイズよりも小さくしている。グラビアコート法では、グラビアコータ版のサイズにより塗工サイズを規定できることから、版サイズが支持体フィルム40の幅方向Wのサイズよりも小さいものを利用することで、水圧転写用フィルム11の構成を簡単に作製することができる。また、このように支持体フィルム40の幅方向のサイズよりも小さな版を使うことで、塗工液が支持体フィルム40のエッジから裏面に回り込むことを防ぐこともできる。
 ここで、グラビアコータの版のサイズとは、版胴のうちコート処理できるエリアを規定した微小凹凸のあるエリアの幅方向のサイズのことで、版胴のトータルサイズを指すものではない。
 上記絵柄層30の形成エリアの調整は、インクジェット装置の描画エリアの調整により簡単に行える。上記絵柄層60をインクジェット装置により形成する場合、インクジェット装置のフィルム搬送時のずれ、描画精度等を考慮する必要がある。すなわち、絵柄層60を形成するためのインクが、インク吸収層50が形成されていない領域に着弾すると、支持体フィルム40上に直接着弾するため、絵柄層60の意匠が崩れ、さらには、着弾したインクが濡れ広がるため、支持体フィルム10の意匠が損なわれる等の原因となってしまう。そのため、絵柄層30をインク吸収層30の内側に形成することで、インクが支持体フィルム40に直接着弾することを防いで、上記不具合の発生を抑制することができる。
 次に、上記水圧転写用フィルム11を用いた水圧転写工程について説明する。
 ロール2に巻きつけて形成された水圧転写用フィルム11は、グラビアコータであるコート装置に取り付けられ、支持体フィルム40上の絵柄層60とインク吸収層50が形成された面に活性剤が塗布される。
 活性剤の塗布後、水圧転写用フィルム11の活性剤塗布面の裏面側が着水するよう、水槽内に水圧転写用フィルム11がロール2から搬送される。水槽は常時一定流量、一方向の流れができるように流量調整されており、その水の流れに沿って、水圧転写用フィルム11が搬送される。着水後の搬送の際、水圧転写用フィルム11は支持体フィルム40が吸水することで膨潤、軟化する。このことにより、水圧転写用フィルム11は膨張し、その端部が水槽内のガイドチェンに接触し、そのサイズが規定される。その後、軟化した水圧転写用フィルム11にフィルム搬送方向と同方向から搬送された成形品を約斜め45°で押し当てることで支持体フィルム40に形成された絵柄層60とインク吸収層50とを転写する。
 上記水圧転写用フィルム11では、水温、活性剤種、活性剤塗布量により膨潤、軟化のタイミングが異なるが、絵柄層60、インク吸収層50の膨潤挙動、タイミングと、支持体フィルム40の膨潤挙動、タイミングとが異なると、シワの発生等の問題が発生するため、活性剤塗布量や塗布ムラがないよう調整することが必要である。そのため、塗布均一性があり、版形状により塗布量コントロールが容易なグラビアコータを用いている。
 絵柄層60とインク吸収層50とが転写された転写被写体は、不要な支持体フィルム40を洗い流すために流水洗浄が行われ、乾燥後にウレタン樹脂などで構成されたトップコート剤(透明の保護層形成剤)がコートされる。
 上記水圧転写用フィルム11は、次のような複合的な利点を有する。
 第一に、同種の樹脂からなるインク吸収層50同士は親和性が高くなり、それぞれを当接させておくと固着してしまう。よって、支持体フィルム40の幅方向Wのサイズよりも小さい幅で塗工して、一部が裏面に回り込むことを防止して、水圧転写用フィルム11をロールに巻き取って保管した後に、水圧転写用フィルム11同士が固着することを防ぐことができる。
 第二に、ロール2に巻きつけた水圧転写用フィルム11を着水させる場合に、幅方向Wの端まで塗工していると、水圧転写用フィルム11を内巻きにして水中に入り込んでしまう現象が生じる。このとき、水圧転写用フィルム11は水分で膨潤するが、水圧転写用フィルム11の水没により、インク吸収層50を軟化させるために事前に塗布していた活性剤が流れ出して、水面での水圧転写用フィルム11の幅方向Wの端部の伸びが抑えられ、結果として水圧転写用フィルム11全体が均一に広げることができる。また、水分により広がった水圧転写用フィルム11の動きを規制するためのガイド部材を用いる場合、インク吸収層20によるガイド部材の汚染を防止して、ラインメンテナンスが煩雑になることを防ぐことができる。
 上記第1,2実施形態の水圧転写用フィルム1,11において、複数色の顔料インクを同一走査中に滴下し、転写被写体に転写を行うとき、インクジェットインクの特性が、常温時の粘度3~20cP及び表面張力25~35dyne/cmの範囲であり、このインク吸収層20,50の上に着弾して広がった各色顔料インクの1ドットの液滴の大きさが、吐出したインクジェットのノズル径の3倍以下であることが望ましく、さらに、インク吸収層20,50が、通常の2倍前後となる吸収性を有することが望ましい。上記インクの着弾径の広がりを抑えることで、多色同時にインクを吐出しても、他色の着弾インクとの混じりあいを極力抑えることができ、高解像度の絵柄や模様を形成することが可能となる。
 特に、インクジェットヘッドのノズル径の3倍以下、とりわけ2倍前後の着弾径となるインク吸収性を有するインク吸収層20,50であれば、φ20μmのノズル径のインクジェット装置でも解像度600dpi以上の高解像で多色インクを吐出し、しかも混色を軽減することができるものであり、高品質な絵柄を実現することができる。一方、インクジェットヘッドのノズル径の3倍以上の着弾径となる場合は、インク吸収層20,50へのインクの吸収が遅いため、多色を同時に吐出する場合、混色したインクが滲んで、絵柄層30,60の意匠を損ねる場合がある。
 複数色の顔料インクを同一走査中に滴下し、転写被写体に転写を行うとき、上記インク吸収層20,50の厚さは、転写プロセスでの伸展性や支持体フィルム10,40への追従性より、10μm以下であることが必要で、2~6μmの範囲にあるのが好ましい。この膜厚のインク吸収層20,50であれば、一般的な顔料濃度7%程度のインクを水圧転写フィルム1,11全体に滴下する場合でも、十分なインク受容能力を有し、かつ、水圧転写時において、伸展性や支持体への追従性がより良好になる。なお、転写性だけを考慮して、インク吸収層20,50を2μm厚以下の薄いものにした場合、インク吸収層20,50が十分なインク保持量を持たないため、薄い色の絵柄層30,60しか形成できなかった。
 以上のように、例えば、一般的に高解像とされる印刷解像度600dpiの絵柄をプリントする場合に、解像度よりインク滴の着弾径が小さくすることができるため、同時に多色を吐出しても他色との混色を軽減することが出来る。このことは、印刷画質を良好にするものであり、特に、インクジェット装置によって複数色のインクをインク吸収層20,50上に同時吐出し、カラー画像の水圧転写フィルムを短時間で作成する場合においてはより好適となるものである。
 更に、インク吸収層20,50と、このインク吸収層20,50上に吐出されるインクのイオン性は其々相反し、カチオン性インクに対してアニオン性インク吸収層またはアニオン性インクに対してはカチオン性インク吸収層であることが望ましい。インクとインク吸収層20,50とが其々陰イオンと陽イオンの異なるイオン極性にすることによって、インク吸収層20,50へのインク浸透性がアップし、インク吸収層20,50上へのインク着弾径が大きく広がらないようにすることができる。
 また、上記水圧転写用フィルム1,11を用いて作成した転写被写体は、次のような有利な点を得ることができる。
 絵柄層30,60による意匠の薄い部分では、絵柄層30,60のバインダー樹脂量が少ないために、そのままでは、水圧転写用フィルム1,11と転写被写体の被転写面との密着性が良くないが、絵柄層30,60を覆うように透明のインク吸収層20,50が形成されるため、水圧転写用フィルム1,11と転写被写体との間の密着性及び耐久性を向上する事ができる。
 また、インクジェット工法により絵柄描画できる絵柄層30,60のバインダー樹脂は耐溶剤性に制約があるが、より耐溶剤性のあるインク吸収層20,50があることで、転写被写体に転写後のトップコート(透明の保護層形成)に用いる溶剤が限定されることがない。
 上記第1,第2実施形態の水圧転写用フィルム1,11の各々の構成要素は、可能ならば、お互いに入れ換え、あるいは追加してもよいことは勿論である。
1,11 水圧転写用フィルム
2 ロール
10,40 支持体フィルム
20,50 インク吸収層
30,60 絵柄層

Claims (6)

  1.  水溶性あるいは水膨潤性の支持体フィルム(10,40)と、
     非水系溶媒に溶解したアクリル樹脂を上記支持体フィルム(10,40)の片面に塗工した後、上記非水系溶媒を乾燥させることで形成されたインク吸収層(20,50)と、
     上記インク吸収層(20,50)上に形成された絵柄層(30,60)と
    を備えることを特徴とする水圧転写用フィルム(1,11)。
  2.  請求項1に記載の水圧転写用フィルム(1,11)において、
     上記絵柄層(30,60)は、顔料と、分散剤と、アクリル樹脂と、有機溶媒とを少なくとも含むインクジェット用インクを用いたインクジェット印刷により形成され、
     上記有機溶媒は、グリコールエステルおよびグリコールエーテルの混合溶媒、あるいは、グリコールエステル、あるいは、グリコールエーテルを主溶媒としていることを特徴とする水圧転写用フィルム(1,11)。
  3.  請求項1または2に記載の水圧転写用フィルム(1,11)において、
     上記インク吸収層(20,50)の厚さが、2~7μmであることを特徴とする水圧転写用フィルム(1,11)。
  4.  請求項1から3のいずれか1つに記載の水圧転写用フィルム(1,11)において、
     上記支持体フィルム(10,40)は一定幅を有する短冊形状であり、
     上記支持体フィルム(10,40)、上記インク吸収層(20,50)、上記絵柄層(30,60)の順に積層され、かつ、上記支持体フィルム(10,40)の上記幅が、上記インク吸収層(20,50)および上記絵柄層(30,60)の幅よりも大きいことを特徴とする水圧転写用フィルム(1,11)。
  5.  請求項1から4のいずれか1つに記載の水圧転写用フィルム(1,11)を用いて形成されると共に、被写体の表面が絵柄層(30,60)、インク吸収層(20,50)の順に形成されている転写被写体。
  6.  水溶性あるいは水膨潤性の支持体フィルム(10,40)の片面に、非水系溶媒に溶解したアクリル樹脂を塗工する工程と、
     上記支持体フィルム(10,40)に塗工した上記アクリル樹脂を乾燥させてインク吸収層(20,50)を形成する工程と、
     上記インク吸収層(20,50)にインクジェット工法により絵柄層(30,60)を形成する工程と
    を順次行うことを特徴とする水圧転写フィルム(1,11)の製造方法。
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