以下、図面等を参照して本発明の一実施形態について説明する。
燃料電池は電解質膜をアノード電極(燃料極)とカソード電極(酸化剤極)とで挟み、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)を供給することによって発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は以下の通りである。
アノード電極 : 2H2 →4H+ +4e- …(1)
カソード電極 : 4H+ +4e- +O2 →2H2O …(2)
この(1)及び(2)の電極反応によって燃料電池は1ボルト程度の起電力を生じる。
このような燃料電池を自動車用動力源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池を積層した燃料電池スタックとして使用する。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両駆動用の電力を取り出す。
図2は、本発明の一実施形態による燃料電池システム1の概略構成図である。
燃料電池システム1は、燃料電池スタック2と、カソードガス給排装置3と、スタック冷却装置4と、を備える。
燃料電池スタック2は、複数枚の燃料電池を積層したものであり、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて発電し、車両の駆動に必要な電力(例えばモータを駆動するために必要な電力)を発電する。
燃料電池スタック2にアノードガスを供給するアノードガス給排装置については、本発明の主要部ではないので、図面の煩雑を防止するために図示を省略した。アノードガスの供給方法としては、燃料電池スタック2からアノードガス排出通路に排出されたアノードオフガスを、ポンプ等によってアノードガス供給通路に戻し、再び燃料電池スタック2に供給して再利用する方法や、燃料電池スタック2から排出されたアノードオフガスをバッファタンク等に一時的に溜めておき、バッファタンクから燃料電池へと逆流させることで再利用する方法など、種々の方法を採用することができる。
カソードガス給排装置3は、カソードガス供給通路31と、フィルタ32と、カソードコンプレッサ33と、アフタークーラ34と、カソードガス排出通路35と、カソード調圧弁36と、軸パージ通路37と、を備える。
カソードガス供給通路31は、燃料電池スタック2に供給するカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路31は、一端がフィルタ32に接続され、他端が燃料電池スタック2のカソードガス入口孔21に接続される。
フィルタ32は、カソードガス供給通路31に取り込むカソードガス中の異物を取り除く。
カソードコンプレッサ33は、カソードガス供給通路31に設けられる。カソードコンプレッサ33は、フィルタ32を介してカソードガスとしての空気(外気)をカソードガス供給通路31に取り込み、燃料電池スタック2に供給する。
アフタークーラ34は、カソードコンプレッサ33よりも下流のカソードガス供給通路31に設けられる。アフタークーラ34は、カソードコンプレッサ33から排出されたカソードガスを冷却する。
カソードガス排出通路35は、燃料電池スタック2から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードオフガスは、カソードガスと、電極反応によって生じた水蒸気と、の混合ガス(湿潤ガス)である。カソードガス排出通路35は、一端が燃料電池スタック2のカソードガス出口孔22に接続され、他端が開口端となっている。
カソード調圧弁36は、カソードガス排出通路35に設けられる。カソード調圧弁36は、連続的又は段階的に開度を調節することができる電磁弁であり、その開度はコントローラ(図示せず)によって制御される。カソード調圧弁36の詳細な構成については、図2から図5を参照して後述する。
軸パージ通路37は、アフタークーラ34よりも下流のカソードガス供給通路31から分岐して、カソード調圧弁36の内部パージ通路365(図5参照)に接続される通路である。軸パージ通路37は、乾燥ガスとしてのカソードガスをカソード調圧弁36の内部パージ通路365に供給するための通路である。
スタック冷却装置4は、冷却水循環通路41と、ラジエータ42と、冷却水バイパス通路43と、三方弁44と、循環ポンプ45と、PTCヒータ46と、カソード調圧弁循環通路47と、を備える。
冷却水循環通路41は、燃料電池スタック2を冷却するための冷却水が循環する通路であって、一端が燃料電池スタック2の冷却水入口孔23に接続され、他端が燃料電池スタック2の冷却水出口孔24に接続される。以下では、冷却水循環通路41のうち、冷却水出口孔24側を上流側、冷却水入口孔23側を下流側として説明する。
ラジエータ42は、冷却水循環通路41に設けられる。ラジエータ42は、燃料電池スタック2から排出された冷却水を冷却する。
冷却水バイパス通路43は、ラジエータ42をバイパスさせて冷却水を循環させることができるように、一端が冷却水循環通路41に接続され、他端が三方弁44に接続される。
三方弁44は、ラジエータ42よりも下流側の冷却水循環通路41に設けられる。三方弁44は、冷却水の温度に応じて冷却水の循環経路を切り替える。具体的には、冷却水の温度が相対的に高いときは、燃料電池スタック2から排出された冷却水が、ラジエータ42を介して再び燃料電池スタック2に供給されるように冷却水の循環経路を切り替える。逆に、冷却水の温度が相対的に低いときは、燃料電池スタック2から排出された冷却水から排出された冷却水が、ラジエータ42を介さずに冷却水バイパス通路43を流れて再び燃料電池スタック2に供給されるように冷却水の循環経路を切り替える。
循環ポンプ45は、三方弁44よりも下流側の冷却水循環通路41に設けられて、冷却水を循環させる。
PTCヒータ46は、冷却水バイパス通路43に設けられる。PTCヒータ46は、燃料電池スタック2の暖機時などに通電されて、冷却水の温度を上昇させる。
カソード調圧弁循環通路47は、凍結によるカソード調圧弁36の固着を防止するために、カソード調圧弁36の内部に形成されたウォータジャケット363(図2~図4参照)に冷却水を導入するための通路である。カソード調圧弁循環通路47は、燃料電池スタック2の冷却水出口孔24近傍の冷却水循環通路41から分岐してカソード調圧弁36のウォータジャケット363に冷却水を導入する導入通路471と、カソード調圧弁36のウォータジャケット363から排出された冷却水を、再び燃料電池スタック2の冷却水出口孔24近傍の冷却水循環通路41に戻す戻し通路472と、を備える。
ここで、本実施形態のように燃料電池システム1を車両に搭載する場合は、外気温度が0℃を下回るような低温環境下においても、燃料電池システム1を確実かつ早期に始動させることが求められる。
燃料電池システム1の停止後、燃料電池スタック2やカソードガス排出通路35、カソード調圧弁36を乾燥させずに放置しておくと、低温環境下では、発電時の電極反応によって生じた水(以下「生成水」という。)が燃料電池スタック2やカソード調圧弁36の内部で凍結するおそれがある。そこで本実施形態では、燃料電池システム1が停止された後に、次回の零下始動に備えてカソードコンプレッサ33を駆動して燃料電池スタック2やカソード調圧弁36の内部の水分をシステム外部に排出する停止後乾燥運転を実施している。
そのため、燃料電池システム1の始動時には、基本的に燃料電池スタック2やカソード調圧弁36の内部は乾燥した状態となっている。
しかしながら、燃料電池システム1の始動後は発電時の電極反応によって生成水が生じる。そして、燃料電池スタック2の内部温度は、電極反応によって発生した熱によって、外気温から徐々に上昇していく。
したがって、燃料電池システム1の始動からしばらく経過して燃料電池スタック2の内部温度が0℃以上になると、徐々に燃料電池スタック2の内部から液体となった生成水がカソードガス排出通路35に流れ出す。
このときにカソード調圧弁36の内部温度が0℃未満だと、カソードガス排出通路35に流れ出してきた生成水がカソード調圧弁36の内部で凍結し、カソード調圧弁36が固着したり、カソード調圧弁36の開閉動作を妨げたりするおそれがある。
そこで本実施形態では、燃料電池システム1の起動後にカソードガス排出通路35に流れ出してきた生成水がカソード調圧弁36に到達する前に、カソード調圧弁36の内部温度を0℃以上にすべくカソード調圧弁36の内部にウォータジャケット363を形成し、そのウォータジャケットに冷却水を循環させることとしたのである。
以下、図2から図5を参照して、本実施形態によるカソード調圧弁36の詳細な構成について説明する。
図2は、本実施形態によるカソード調圧弁36の斜視図である。図3は、本実施形態によるカソード調圧弁36の平面図である。図4は、本実施形態によるカソード調圧弁36の底面図である。
図2から図4に示すように、カソード調圧弁36は、メインボディ361と、ボディカバー362と、を備える。
メインボディ361は、両端が開口した円筒状の通路である。燃料電池スタック2から排出されてカソードガス排出通路35を流れてきたカソードオフガスは、メインボディ361の一方(図2及び図3では図中上側、図4では図中下側)の開口端からメインボディ361の内部通路361aに流入する。そして、メインボディ361の内部通路361aに流入したカソードオフガスは、メインボディ361の他方(図2及び図3では図中下側、図4では図中上側)の開口端からカソードガス排出通路35に流出する。
ボディカバー362は、メインボディ361の外周面361bとの間に冷却水を流すためのウォータジャケット363が形成されるように、メインボディ361の外周面361b全体を覆うものであり、メインボディ361と一体形成される。
ボディカバー362は、カソード調圧弁36をカソードガス排出通路35に取り付けたときに重力方向上側となる面(以下「上面」という。)362cに、冷却水導入口362aと冷却水排出口362bとを備える。
冷却水導入口362aは、ウォータジャケット363内に冷却水を導入するための入口であって、前述した導入通路471が接続される。冷却水導入口362aは、メインボディ361の他方の開口端側、つまり、内部通路361aの下流側となる開口端側に形成される。冷却水導入口362aは、その開口面積が、冷却水排出口362bの開口面積よりも小さくなるように形成される。
冷却水排出口362bは、ウォータジャケット363内に導入した冷却水を排出するための出口であって、前述した戻し通路472に接続される。冷却水排出口362bは、冷却水導入口362aの形成部位を除くボディカバー362の上面362cのほぼ全面に形成される。
ボディカバー362の上面362cに形成された冷却水導入口362aからウォータジャケット363に導入された冷却水は、図4に矢印で示すように、メインボディ361の外周面361aの円周方向に流れてボディカバー362の上面362cに形成された冷却水排出口362bから排出される。つまり、冷却水導入口362aからウォータジャケット363に導入された冷却水は、重力方向下側へとメインボディ361の図中左側を円周方向に流れ、次にメインボディ361の下側を円周方向に流れる。その後、重力方向上側へとメインボディ361の図中右側を円周方向に流れて冷却水排出口362bから排出される。
これにより、メインボディ361の内部で生成水が溜まりやすいメインボディ361の下側を冷却水によって温めることができる。よって、メインボディ361の内部で生成水が凍結するのを抑制できる。
図5は、図3のカソード調圧弁36のV-V断面図である。
図5に示すように、メインボディ361の内部には、バタフライバルブ38が取り付けられる。バタフライバルブ38は、シャフト381と、弁体382と、を備える。
シャフト381は、メインボディ361の左右に取り付けられた一対のベアリング383によって、メインボディ361に対して回転自在に支持される。
弁体382は、メインボディ361の内部通路361aと略同等の径を有する円板形状をしており、メインボディ361の内部通路361aに位置するように、シャフト381に取り付けられる。弁体382は、シャフト381と一体となって回転する。これにより、メインボディ361の内部通路361aを流れるカソードオフガスの流量が制御され、燃料電池スタック2に供給されるカソードガスの圧力が制御される。
ここで、図5に示すように、メインボディ361とシャフト381との間には、シャフト381が回転できるように微小な隙間5が形成されている。燃料電池システム1の運転中にこの隙間5に生成水が浸入してしまうと、前述した停止後乾燥運転を実施したとしても、この隙間5に侵入した生成水を除去するのは難しい。メインボディ361とシャフト381との間の隙間5に侵入した生成水が凍結すると、シャフト381が回転できずに弁体382が固着するおそれがある。
そこで本実施形態では、メインボディ361の下側の外周面361bから下方に突出する2本のバルジ364をメインボディ361に設け、このバルジ364の内部にメインボディ361とシャフト381との間の隙間5に連通する内部パージ通路365を形成した。内部パージ通路365は、軸パージ通路37に接続されており、カソードガスが圧送される。これにより、軸パージ通路37を流れてきたカソードガスが、内部パージ通路365を介してメインボディ361とシャフト381との間の隙間5からメインボディ361の内部通路361aに導入されるので、メインボディ361とシャフト381との間の隙間5に生成水が浸入してくるのを抑制できる。
メインボディ361とシャフト381との間の隙間5と、ベアリング383と、の間は、Oリング384によってシールされる。
以上説明した通り、本実施形態によるカソード調圧弁36は、カソードオフガス(湿潤流体)が流れるメインボディ361と、メインボディ361の内部に設けられる弁体382と、メインボディ361の外周面361bを温めるための冷却水(加熱媒体)を流すウォータジャケット363が形成されるようにメインボディ361の外周面361bを覆うボディカバー362と、を備える。そして、ボディカバー362は、重力方向上側となるその上面362cに冷却水導入口362aと冷却水排出口362bとを有し、冷却水がボディカバー362の重力方向下側部分を経由するようにウォータジャケット363を形成する。
これにより、冷却水導入口362aからウォータジャケット363に導入された冷却水は、メインボディ361の外周面361bに沿って重力方向下側に流れた後、メインボディ361の外周面361bに沿って重力方向上側に流れて、冷却水排出口362bから排出される。そのため、メインボディ361の外周面361b全体を冷却水によって温めることができるので、メインボディ361の内部に設けられる弁体382が凍結によって固着するのを抑制することができる。
特にメインボディ361の内部に、シャフト381を回転させることでメインボディ361の内部の内部通路361aを開閉するバタフライバルブ38を取り付ける場合、バタフライバルブ38の弁体382の外縁部はメインボディ361の内部通路361aとほぼ接した状態となる。したがって、メインボディ361の外周面361b全体を冷却水によって温めることで、弁体382の外縁部とメインボディ361の内部通路361aとの間の生成水が凍結して弁体382が固着するのを効果的に抑制することができる。
また、メインボディ361の外周面361b全体を冷却水によって温めることで、メインボディ361の内部で特に生成水が溜まりやすい内部通路361aの下側を確実に温めることができる。したがって、生成水が凍結した氷によって弁体382の開閉動作が妨げられるのを抑制できる。
また、ボディカバー362の上面362cに冷却水排出口362bを形成することで、冷却水内に混入した空気がウォータジャケット363内に溜まるのを抑制することができる。これにより、冷却水によって効率的にメインボディ361を温めることができる。ウォータジャケット363内に空気が溜まると、その空気が邪魔をして冷却水によってメインボディ361を温めることができなくなるからである。
また、ボディカバー362の同じ面、すなわち上面362cに冷却水導入口362aと冷却水排出口362bとを形成したので、冷却水導入口362aに冷却水を導く導入通路471及び冷却水排出口362bから排出した冷却水が流れる戻し通路472を接続する際のレイアウトが容易となる。言い換えれば、ボディカバー362の異なる面に冷却水導入口362aと冷却水排出口362bとをそれぞれ形成すると、導入通路471及び戻し通路472を接続する際のレイアウトが煩雑となる。
さらに、冷却水導入口362aからウォータジャケット363に導入された冷却水は、燃料電池スタック2から排出された冷却水であり、その温度は燃料電池スタック2の内部温度と同等と考えることができる。したがって、燃料電池システム1の起動後にカソードガス排出通路35に流れ出してきた生成水がカソード調圧弁36に到達するときには、カソード調圧弁36の内部温度を燃料電池スタック2の内部温度相当(少なくとも0℃以上)まで上昇させておくことができる。よって、燃料電池システム1の起動後にカソードガス排出通路35に流れ出してきた生成水が、カソード調圧弁36の内部(メインボディ361の内部)で凍結するのを抑制できる。
また、本実施形態によるカソード調圧弁36は、冷却水導入口362aの開口面積が、冷却水排出口362bの開口面積よりも小さい。
前述したように、メインボディ361の内部で特に生成水が溜まりやすいのは、内部通路361aの下側である。冷却水導入口362aの開口面積が大きいと、冷却水導入口362a近傍のメインボディ361との間で熱交換が積極的に行われてしまい、冷却水がメインボディ361の下側の外周面361bに到達したときの冷却水の熱量が相対的に少なくなってしまう。これに対し、冷却水導入口362aの開口面積を相対的に小さくすることで、冷却水導入口362a近傍のメインボディ361との間で行われる熱交換量を少なくし、メインボディ361の下側の外周面361bを比較的高温の冷却水で温めることができる。よって、メインボディ361の内部で生成水が凍結するのをより確実に抑制することができる。
また、本実施形態によるカソード調圧弁36では、冷却水導入口362aを、メインボディ361内(内部通路361a)を流れるカソードオフガスの流れ方向下流側のボディカバー362の上面362cに形成した。
内部通路361aの下流側(メインボディ361内におけるカソードオフガスの排出側)は、圧力損失によって内部通路361aを流れるカソードオフガスの圧力が上流側と比べて低くなる。そのため、内部通路361aの上流側よりも下流側の方が生成水の凍結が起きやすい。したがって、冷却水導入口362aを内部通路361aの下流側に設けることで、内部通路361aの下流側を高温の冷却水で積極的に温めることができるので、生成水の凍結をより確実に抑制することができる。
また、本実施形態によるカソード調圧弁36は、メインボディ361の下部から下方に突出するバルジ364と、バルジ364の内部に形成され、メインボディ361とシャフト381との隙間5に連通するとともに、カソードガス(乾燥流体)が供給される内部パージ通路365と、を備える。このように、導入通路471や戻し通路472が接続されるボディカバー362の上面362c側とは反対側、すなわちメインボディ361の下側から軸パージ通路37が接続されるように内部パージ通路365を形成したので、導入通路471や戻し通路472、軸パージ通路37を全て同一面から接続する場合と比較して、メインボディ361、ひいてはカソード調圧弁36の小型化を図ることができる。また、レイアウトの自由度も向上する。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
本願は、2012年8月2日に日本国特許庁に出願された特願2012-172145号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。