WO2009148169A1 - アンミン白金錯体を高濃度に内包するリポソームを用いた腫瘍治療技術 - Google Patents

アンミン白金錯体を高濃度に内包するリポソームを用いた腫瘍治療技術 Download PDF

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Abstract

本発明は、副作用が少なく、腫瘍・がんに特異的に作用するアンミン白金錯体(特に、シスプラチン)を含む治療剤およびその利用法を提供する。本発明は、がんまたは腫瘍を処置するための組成物を提供する。この組成物は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を含み、そして該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含む。一つの実施形態において、前記標的指向性物質は、抗体および糖鎖からなる群より選択される。好ましい実施形態において、前記標的指向性物質は、シアリルルイスXまたは抗E-セレクチン抗体である。一つの実施形態において、前記がんまたは腫瘍は、大腸がん、肺がん、扁平上皮がん、乳がんおよび卵巣がんからなる群より選択される。

Description

アンミン白金錯体を高濃度に内包するリポソームを用いた腫瘍治療技術
 本発明は、アンミン白金錯体を高濃度に内包するリポソームを含む組成物およびその利用法に関する。詳細には、シスプラチンを高濃度に内包リポソームを含む組成物およびその利用法に関する。
 リポソームは、中空球状の脂質二分子膜構造を有する。従って、その脂質二重膜の内側に水溶性薬物を封入することができる。この理由により、リポソームは、医薬品、農薬、化粧品等の分野で広く研究され、利用されてきた。特に、外膜表面にリガンドを結合したリポソームについては、がん・腫瘍などの標的部位に選択的に薬物や遺伝子などを送達するためのDDS材料として多くの研究がなされてきた。
 しかし、がん・腫瘍の処置に用いる薬剤の多くは難水溶性であり、リポソームに封入できる薬物量は非常に少なかった。たとえば、シスプラチンの場合、水系以外には溶解せず、水系でも常温で約2mg/mlの飽和濃度しかないため、がん・腫瘍の処置に有効な量の薬剤を患者に投与するためには、投与されるリポソームの量は必然的に多くなるという不都合が存在する。
 特許文献1は、シスプラチン、カルボプラチン等の制ガン剤、アスピリン、アセトアミノフェン、インドメタシン等の解熱剤、酢酸コルチゾン等のホルモンなどを含有するリポソーム製剤を記載している。しかし、特許文献1に記載されるリポソーム製剤は、その製造工程に加熱工程を要する。一般に、リポソームは加熱により不安定になることが知られている。従って、特許文献1に記載される方法により製造されたリポソームは不安定である。特許文献1では、リポソームに内包されたシスプラチンの量は、8.9μg/mg 脂質が限度である。従って、特許文献1に記載される方法により製造されたリポソームはわずかな量しかシスプラチンを内包することができなかった。
 非特許文献1には、シスプラチンを内包させたリポソームが記載されている。しかし、このリポソームは、14.0μg/mg脂質ほどしかリポソームを内包することはできなかった。
 シスプラチンは、金属錯体の反応性を利用した制がん剤である。白金金属錯体であるシスプラチンは、無電荷の状態でがん細胞膜を透過して細胞内へ移行する。血中の塩化物イオン濃度は、103mmol/lであるが、細胞内では4mmol/lに低下することから、シスプラチンの塩化物イオンは水分子に置換され、細胞内では図1Aに示すような平衡状態にある。
 この状態のシスプラチンは細胞内のDNAと図1Bに示すような様式で結合し、DNAの複製を阻害することにより抗がん作用を発揮する。しかし、シスプラチンは腎毒性や難聴などの強い副作用があるので、これらの副作用を軽減させながらも抗がん作用を維持するために種々のシスプラチン誘導体および剤型、ならびに投与方法の開発が試みられてきた。
 しかし、水溶性が低いシスプラチンのような薬剤は高濃度でリポソームに内包することができないので、充分な量の薬剤を標的部位に送達させることは未だ成功していない。
 特許文献2には、脂質と錯体形成したシスプラチンを含有するリポソームの製造法が記載されている。しかし、引用文献2のリポソームには、脂質1mgあたり43μgの量のシスプラチンしか取り込まれていない。
 特許文献3には、脂質と錯体形成したシスプラチンを含有するリポソームの製造法およびシスプラチンを含む脂質組成物をネブライザを用いて投与したことが記載されている。しかし、引用文献3のリポソームには、脂質1mgあたり43μgの量のシスプラチンしか取り込まれていない。
 特許文献2および3では、リポソームに取り込まれたシスプラチンのほとんどがリポソーム膜面上に埋め込まれているか、または脂質膜間に存在し、リポソームの内水相にはほとんど含まれないと考えられる。従って、リポソームの内水相にシスプラチンを高濃度に内包するリポソームは記載されていない。
 従って、難水溶性薬物を大量に標的部位に送達させる技術を開発し、提供することに対して需要がある。
特開平5-255070号公報 特表2006-502233号公報 国際公開第2005/089448号パンフレット
Mary S.Newman,Gail T.Colbern,Peter K.Workingら、「Comparative pharmacokinetics,tissue distribution,and therapeutic effectiveness of cisplatin encapsulated in long-circulating,pegylated liposome(SPI-077)in tumor-bearing mice」、Cancer Chemother Pharmacol(1999)43:1-7頁
 本発明は、副作用が少なく、腫瘍・がんに特異的に作用するアンミン白金錯体(特に、シスプラチン)を含む治療剤およびその利用法を提供することを課題とする。
 上記の課題を解決するために、本発明者等は鋭意研究の結果、難水溶性白金錯体(例えば、シスプラチン)を高濃度に内包するリポソームの表面に標的指向性を含ませることにより、シスプラチンを腫瘍・がんに特異的に作用させることに成功した。それにより本発明の難水溶性アンミン白金錯体を高濃度に内包するリポソームを含む治療剤は、標的に対する薬効を少なくとも維持しながら、個体への副作用を最小限に抑えることを可能とし、上記課題を解決するに至ったものである。
 上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する。
(項目1)がんまたは腫瘍を処置するための組成物であって、該組成物は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包するリポソームを含み、そして該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含む、組成物。
(項目2)がんまたは腫瘍を処置するための組成物であって、該組成物は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を1mg脂質あたり43μgより多く内包するリポソームを含み、そして該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含む、組成物。
(項目3)前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、1mg脂質あたり200μg以下で含まれる、上記項目に記載の組成物。
(項目4)前記がんまたは腫瘍が、大腸がん、肺がん、扁平上皮がん、乳がんおよび卵巣がんからなる郡より選択される、上記項目に記載の組成物。
(項目5)前記標的指向性物質が、抗体および糖鎖からなる群より選択される、上記項目に記載の組成物。
(項目6)前記標的指向性物質が、シアリルルイスXまたは抗E-セレクチン抗体である、上記項目に記載の組成物。
(項目7)前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、1mg脂質あたり43μgより多く含まれる、上記項目に記載の組成物。
(項目8)前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、少なくとも500mg/mとなるように投与されるように処方される、上記項目に記載の組成物。
(項目9)がんまたは腫瘍を処置するための医薬の製造のための、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包するリポソームの使用であって、該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含む、使用。
(項目10)前記標的指向性物質が、抗体および糖鎖からなる群より選択される、項目9に記載の使用。
(項目11)前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、1mg脂質あたり43μgより多く含まれる、項目9または10に記載の使用。
(項目12)がんまたは腫瘍を処置するための、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包するリポソームであって、該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含む、リポソーム。
(項目13)前記標的指向性物質が、抗体および糖鎖からなる群より選択される、項目12に記載のリポソーム。
(項目14)前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、1mg脂質あたり43μgより多く含まれる、項目12または13に記載のリポソーム。
(項目15)がんまたは腫瘍を処置するための方法であって、該方法は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包するリポソームを該処置を必要とする被験者に投与する工程を包含し、該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含む、方法。
(項目16)前記標的指向性物質が、抗体および糖鎖からなる群より選択される、項目15に記載の方法。
(項目17)前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、1mg脂質あたり43μgより多く含まれる、項目15~16のいずれかに記載の方法。
(項目18)前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、少なくとも500mg/mとなるように投与される、項目15~17のいずれかに記載の方法。
 これらの使用、リポソーム、方法については、上記の1または複数の特徴をさらに、あるいは代替して含んでもよいことが理解され、それらも本発明の範囲内であることが理解される。
 従って、本発明のこれらおよび他の利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を読めば、明白である。
 これまで、リポソームに内包できないか、内包効率の低かった難水溶性アンミン白金錯体(例えば、シスプラチン)をリポソームに効率よく内包することが可能とし、従来達成できなかった濃度・量の難水溶性アンミン白金錯体(例えば、シスプラチン)をリポソーム中に内包させることができた。このリポソームでは、取り込まれたシスプラチンのほとんどがリポソームの内水相に存在すると考えられる(195Pt-NMRにより確認されている。)。このようにシスプラチンはリポソームの内水相に存在するので、リポソームが標的部位の細胞に取り込まれ、リポソーム膜が破壊されるまで、シスプラチンは放出されないと考えられる。さらに、このリポソームは所望の標的指向性を持たせることができる。従って、このようなリポソームを採用することにより、本発明の組成物は、従来技術よりはるかに低用量の難水溶性アンミン白金錯体含有リポソーム製剤を投与して、標的に対して従来と少なくとも同程度の薬効(例えば、抗がん作用)を維持しながら、個体に対する副作用を軽減することが可能となった。
 以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
 以下、各発明について、実施形態を詳しく説明する。
図1Aは、シスプラチンの細胞内での挙動を示す模式図である。シスプラチンは血漿中では、Ciイオン濃度が103mmolであるため、シスプラチンの状態で存在するが、細胞内においては、Clイオン濃度は、4mmolとなるため、シスプラチンのClイオンは解離して、水分子が配位した構造との平衡状態をとる。 図1Bは、シスプラチンがDNAと結合する様式を示す模式図である。A:単結合(monofunctionally bound)は、グアニン塩基と単結合した状態である。B:2本鎖交叉結合(interstrand crosslink)は、シスプラチンがDNAの二本鎖間で結合した状態である。C:1本鎖交叉結合(intrastrand crosslink)は、シスプラチンがDNAと単結合し、タンパク質とも単結合した状態である。D:DNA-タンパク質交叉結合(DNA-protein crosslink)は、グアニン塩基と単結合し、一方でタンパク質と結合した状態である。 図1Cは、cis-ジアミンジニトラト白金(II)(CDDP-3)およびcis-ジアミンジクロロ白金(II)(CDDP)の構造を示す図である。 図1Dは、ガングリオ系ガングリオシドの生合成経路を示す図である。 図2Aは、実施例1において調製されたcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームの粒子径の測定結果を強度による粒子径分布として示す。 図2Bは、実施例3において調製された、糖鎖を結合させたcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームの粒子径の測定結果を強度による粒子径分布として示す。 図3は、シスプラチン内包リポソームの作製を模式化した図である。 図4Aは、シスジアミンジニトラト白金(II)5mg/mlを150mM 塩化ナトリウムを含むTAPS緩衝液(pH8.4)に溶解し、25℃で静置(0時間、5分後、10分後、15分後、30分後および45分後)したときのUVスペクトルを示す。1:0時間、2:5分後、3:10分後、4:15分後、5:30分後、6:45分後。 図4Bは、コントロールとして、cis-ジアミンジクロロ白金(II)1mgをTAPS緩衝液1mlに溶解したときのUVスペクトルを示す。 図5は、シスプラチンの195PtNMRスペクトルを示す。シスプラチンは、-2160ppm、にケミカルシフトが観測された。図5bは、硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))の195PtNMRスペクトルを示す。この硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))は、-1620ppmにケミカルシフトが観測された。図5cは、硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))内包リポソーム(NaCl)の195PtNMRスペクトルを示す。このリポソームに内包された硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))のケミカルシフトは、外液中にNaClが含まれる場合、シスプラチンと同じ-2160ppmに観測された。図5dは、リポソームに内包させたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)をcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変化させないかった場合(4.75mM,重水)の195Pt-NMRスペクトルを示す。 図6は、実施例5において調製された抗体を結合させたcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームの粒子径の測定結果を強度による粒子径分布として示す。 図7は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームIを透過型電子顕微鏡により観察した写真である。cis-ジアンミンジニトラト白金(II)をリポソームIに内包後、150mM塩化ナトリウムを含有するTAPS緩衝液に交換した後のリポソームIを、H-7100S(HITACHI)により観察した。バーは100nmを示す。 図8は、シスプラチンの195PtNMRスペクトルを示す。測定にはINOVA-600(Varian社)を使用した。図8aは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)(6.6mM,重水)の195PtNMRスペクトルを示す。図8bは、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)(13.7mM,重水)195PtNMRスペクトルを示す。図8cは、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)をリポソームに内包後、外液を150mM塩化ナトリウムを含有する緩衝液に交換し、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)をcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換させた場合(4.75mM,重水)の195PtNMRスペクトルを示す。図8dは、リポソームに内包させたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)をcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変化させないかった場合(4.75mM,重水)の195Pt-NMRスペクトルを示す。 図9は、SKBr3:ヒト乳癌細胞に対する、シスプラチン内包リポソームによるインビトロの細胞増殖抑制活性を示す。縦軸は、細胞生存率(%)を示し、横軸は、添加したシスプラチン濃度(CDDP濃度;μM)を示す。細胞生存率(%)は、コントロールの生存率を100%としたときの、シスプラチンを添加した区分の細胞生存率(%)を示す。シスプラチン濃度は、細胞に添加したシスプラチンの終濃度を示す。黒丸:シスプラチン内包未修飾リポソーム、黒三角:シスプラチン内包SLX修飾リポソーム、黒四角:シスプラチン内包抗体修飾リポソーム 図10は、HT29:ヒト大腸癌細胞に対する、シスプラチン内包リポソームによるインビトロの細胞増殖抑制活性を示す。縦軸は、細胞生存率(%)を示し、横軸は、添加したシスプラチン濃度(CDDP濃度;μM)を示す。細胞生存率(%)は、コントロールの生存率を100%としたときの、シスプラチンを添加した区分の細胞生存率(%)を示す。シスプラチン濃度は、細胞に添加したシスプラチンの終濃度を示す。黒丸:シスプラチン内包未修飾リポソーム、黒三角:シスプラチン内包SLX修飾リポソーム、黒四角:シスプラチン内包抗体修飾リポソーム 図11は、A549:ヒト肺癌細胞に対する、シスプラチン内包リポソームによるインビトロの細胞増殖抑制活性を示す。縦軸は、細胞生存率(%)を示し、横軸は、添加したシスプラチン濃度(CDDP濃度;μM)を示す。細胞生存率(%)は、コントロールの生存率を100%としたときの、シスプラチンを添加した区分の細胞生存率(%)を示す。シスプラチン濃度は、細胞に添加したシスプラチンの終濃度を示す。黒丸:シスプラチン内包未修飾リポソーム、黒三角:シスプラチン内包SLX修飾リポソーム、黒四角:シスプラチン内包抗体修飾リポソーム 図12は、LLC:マウス肺癌細胞に対する、シスプラチン内包リポソームによるインビトロの細胞増殖抑制活性を示す。縦軸は、細胞生存率(%)を示し、横軸は、添加したシスプラチン濃度(CDDP濃度;μM)を示す。細胞生存率(%)は、コントロールの生存率を100%としたときの、シスプラチンを添加した区分の細胞生存率(%)を示す。シスプラチン濃度は、細胞に添加したシスプラチンの終濃度を示す。黒丸:シスプラチン内包未修飾リポソーム、黒三角:シスプラチン内包SLX修飾リポソーム、黒四角:シスプラチン内包抗体修飾リポソーム 図13は、A431:ヒト扁平上皮癌細胞に対する、シスプラチン内包リポソームによるインビトロの細胞増殖抑制活性を示す。縦軸は、細胞生存率(%)を示し、横軸は、添加したシスプラチン濃度(CDDP濃度;μM)を示す。細胞生存率(%)は、コントロールの生存率を100%としたときの、シスプラチンを添加した区分の細胞生存率(%)を示す。シスプラチン濃度は、細胞に添加したシスプラチンの終濃度を示す。黒丸:シスプラチン内包未修飾リポソーム、黒三角:シスプラチン内包SLX修飾リポソーム、黒四角:シスプラチン内包抗体修飾リポソーム 図14は、シスプラチン(CDDP)によるインビトロの細胞増殖抑制活性を示す。縦軸は、細胞生存率(%)を示し、横軸は、添加したシスプラチン濃度(μM)を示す。細胞生存率(%)は、コントロールの生存率を100%としたときの、シスプラチンを添加した区分の細胞生存率(%)を示す。シスプラチン濃度は、細胞に添加したシスプラチンの終濃度を示す。シスプラチン濃度に依存して、細胞の生存率が低下していく傾向が認められた。細胞株によって、シスプラチンに対する感受性に差が認められたが、いずれの細胞もシスプラチンに対して感受性を示した。白丸:HT29(ヒト大腸癌細胞)、黒菱形:A549(ヒト肺癌細胞)、黒丸:A431(ヒト扁平上皮癌細胞)、クロス(×):LLC(マウス肺癌細胞)、黒四角:SKOV3(ヒト卵巣癌細胞) 図15は、CDDP-SLX-Lipの急性毒性試験と体重変動との関係を示すグラフである。正常マウスBalb/c(雌性、8週齢)の尾静脈からCDDP-SLX-Lip(18mgCDDP相当/Kg、25mgCDDP相当/Kg、50mgCDDP相当/Kg体重)およびCDDP(18mg/Kg体重、25mg/Kg体重)を単回投与して、14日間の生存率を調べた結果である。縦軸は生存率(%)を示し、横軸は投与後の日数(日)を示す。黒三角:CDDP(25mg/Kg)、黒丸:CDDP(18mg/Kg)、白四角:CDDP-SLX-Lip(50mg/Kg)、白三角:CDDP-SLX-Lip(25mg/Kg)、白丸:CDDP-SLX-Lip(18mg/Kg) 図16は、投与前の体重を100%としたときの体重変動を示すグラフである。生存しているマウスの体重を測定した。縦軸は体重変動(%)を示し、横軸は投与後の日数(日)を示す。黒丸+点線:CDDP(25mg/Kg)、黒三角+点線:CDDP(18mg/Kg)、白四角:CDDP-SLX-Lip(50mg/Kg)、白丸:CDDP-SLX-Lip(25mg/Kg)、白三角:CDDP-SLX-Lip(18mg/Kg)、黒丸+実線:生理食塩水、黒三角+実線:HEPES緩衝液、黒四角+実線:リポソーム 図17aは、マウス体重1kgあたり25mgCDDP相当のCDDP-SLX-Lipを投与したマウス腎臓のH・E染色の結果を示す。 図17bは、マウス体重1kgあたり25mgCDDP相当のCDDP-SLX-Lipを投与した腎臓のTunel免疫組織化学的染色の結果を示す。 図17cは、マウス体重1kgあたり25mgCDDPを投与した腎臓のH・E染色の結果を示す。矢印は近位尿細管の拡張部位を示す。 図17dは、マウス体重1kgあたり25mgCDDPを投与した腎臓のTunel免疫組織化学的染色の結果を示す。矢印はTunel陽性細胞を示す。 図17eは、マウス体重1kgあたり25mgCDDP相当のCDDP-SLX-Lipを投与した脾臓のH・E染色の結果を示す。 図17fは、マウス体重1kgあたり25mgCDDP相当のCDDP-SLX-Lipを投与した脾臓のTunel免疫組織化学的染色の結果を示す。黒矢印は、Tunel陽性細胞を示す。 図17gは、マウス体重1kgあたり25mgCDDPを投与した脾臓のH・E染色の結果を示す。A:赤脾臓、B:濾胞 図17hは、マウス体重1kgあたりCDDPを投与した脾臓のTunel免疫組織化学的染色の結果を示す。黒矢印は、Tunel陽性細胞を示す。 図17iは、マウス体重1kgあたり25mgCDDP相当のCDDP-SLX-Lipを投与した肝臓のH・E染色の結果を示す。矢印は、小肉芽腫部位を示す。 図17jは、マウス体重1kgあたり25mgCDDP相当のCDDP-SLX-Lipを投与した肝臓のTunel免疫組織化学的染色の結果を示す。 図17kは、マウス体重1kgあたり25mgCDDPを投与した肝臓のH・E染色の結果を示す。 図17lは、マウス体重1kgあたり25mgCDDPを投与した肝臓のTunel免疫組織化学的染色の結果を示す。 図18は、A549細胞移植マウスに対するCDDP-LipおよびCDDP-SLX-Lipの抗腫瘍効果を示す。Bar:mean±SD、n=4、白三角は投与日を示す。縦軸は腫瘍体積(mm)であり、横軸は細胞移植後の日数である。黒丸:生理食塩水、黒三角:CDDP-SLX-Lip、黒四角:CDDP-Lip 図19は、シアリルルイスX結合シスプラチンリポソームの毒性および抗腫瘍活性を示すグラフである。黒丸はA549細胞、黒三角はSKBr3細胞、黒四角はA431細胞、白丸はLLC細胞、白三角はHT29細胞を示す。縦軸は生存率(%)であり、横軸は添加したCDDP濃度(μM)である。(Bar:平均±SD、n=3) 図20は、シアリルルイスX結合シスプラチンリポソームのがん部位への集積性を示すグラフである。CDDP-Lipは、CDDPを内包した未修飾リポソームであり、CDDP-SLX-Lipは、CDDPを内包したシアリルルイスX修飾リポソームを示す。縦軸は、白金量(ng/g 腫瘍)である。(Bar:平均±SD、n=3)
 以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
 (用語の定義)
 以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
 本明細書において「アンミン白金錯体」とは、アンモニアを有する白金錯体をいう。アンミン白金錯体としては、例えば、cis-ジアンミンジクロロ白金(II)<「シスプラチン(cisplatin)」として知られている。>、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)、cis-ジアンミン-1,1-シクロブタン-ジカルボキシラト白金(II)<カルボプラチンとして知られる。>、cis-ジアンミン(グリコラト)白金(II)<ネダプラチンとして知られる。>、(1R,2R-ジアンミンシクロへキサン)オキサラト白金(II)<オキザリプラチンとして知られる。>、cis-ジアンミンジブロモ白金(II)<抗がん活性を有する。>、μ-ヒドロキソ白金(II)<抗がん活性を有する。>などが挙げられるが、これらに限定されない。このうち、難水溶性のアンミン白金錯体としては、例えば、cis-ジアンミンジクロロ白金(II)、cis-ジアンミン-1,1-シクロブタン-ジカルボキシラト白金(II)、cis-ジアンミンジブロモ白金(II)等を挙げることができる。
 本明細書において「cis-ジアンミンジクロロ白金(II)(CDDP)」とは、シスプラチンともいう。これは、以下の構造を有する:
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000001
 シスプラチンは、種々のがん、腫瘍の処置に対して効果を有する。がん、腫瘍の例としては、例えば、精巣腫瘍、膀胱がん、腎盂・尿管腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、食道がん、子宮頸がん、神経芽細胞種、胃がん、小細胞肺がん、骨肉種、胚細胞腫瘍などが挙げられるが、これらに限定されない。ここで、がんは、腫瘍や白血病等のあらゆる新生物による疾患を含む。
 本明細書において「cis-ジアミンジクロロ白金(II)の水溶性形態」とは、水溶性の状態にあるシスプラチンをいう。例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II)の水溶性形態としては、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)(CDDP-3)などが挙げあれる。
 本明細書において、「cis-ジアンミンジニトラト白金(II)(CDDP-3)」は、シスプラチン硝酸体ともいう。これは、以下の構造を有する:
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000002
 本明細書において、「cis-ジアンミン-1,1-シクロブタン-ジカルボキシラト白金(II)」は、カルボプラチンともいう。これは、以下の構造を有する:
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000003
 カルボプラチンは、種々のがん、腫瘍の処置に対して効果を有する。がん、腫瘍の例としては、例えば、精巣腫瘍、膀胱がん、腎盂・尿管腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、食道がん、子宮頸がん、神経芽細胞種、胃がん、小細胞肺がん、骨肉種、胚細胞腫瘍などが挙げられるが、これらに限定されない。ここで、がんは、腫瘍や白血病等のあらゆる新生物による疾患を含む。
 本明細書において、「cis-ジアンミン(グリコラト)白金(II)」は、ネダプラチンともいう。これは、以下の構造を有する:
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000004
 ネダプラチンは、種々のがん、腫瘍の処置に対して効果を有する。がん、腫瘍の例としては、例えば、精巣腫瘍、膀胱がん、腎盂・尿管腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、食道がん、子宮頸がん、神経芽細胞種、胃がん、小細胞肺がん、骨肉種、胚細胞腫瘍などが挙げられるが、これらに限定されない。ここで、がんは、腫瘍や白血病等のあらゆる新生物による疾患を含む。
 本明細書において、「1R,2R-ジアンミンシクロへキサン)オキサラト白金(II)」は、オキザリプラチンともいう。これは、:
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000005
 オキザリプラチンは、種々のがん、腫瘍の処置に対して効果を有する。がん、腫瘍の例としては、例えば、精巣腫瘍、膀胱がん、腎盂・尿管腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、食道がん、子宮頸がん、神経芽細胞種、胃がん、小細胞肺がん、骨肉種、胚細胞腫瘍などが挙げられるが、これらに限定されない。ここで、がんは、腫瘍や白血病等のあらゆる新生物による疾患を含む。
 本明細書において、「cis-ジアンミンジブロモ白金(II)」は、以下の構造を有する:
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000006
cis-ジアンミンジブロモ白金(II)は、抗がん活性を有する。
 本明細書において、「μ-ヒドロキソ白金(II)二核錯体」は、例えば、以下の構造の化合物が挙げられる:
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000007
μ-ヒドロキソ白金(II)二核錯体は、抗がん活性を有する。
 これらの白金錯体において、Ptとアンミン配位子の結合は強い。従って、上記白金錯体は水溶液中では、PtとOの結合部分が解離した状態で存在する。
 本発明では、リポソームがリポソームとして存在する時点で水溶性の形態の白金錯体が接触して存在することが重要であると考えられる。したがって、シスプラチン以外の白金錯体であっても、いったん水溶性の形態にして、その後難水溶性の塩を形成することさえできれば本発明の効果が達成されることが理解される。当該分野において、上記白金錯体または他の白金錯体についてこのような水溶性および難水溶性の塩を形成するイオン種は知られているか、または適宜選択することができることから、シスプラチン以外の白金錯体であっても本発明を実施することができることが理解される。そして、水溶性の選択の基準としては、0.5g/100g水~10g/100g水(例えば、0.5g/100g水、1.0g/100g水、1.5g/100g水、2.0g/100g水、2.5g/100g水、3.0g/100g水、3.5g/100g水、4.0g/100g水、4.5g/100g水、5.0g/100g水、5.5g/100g水、6.0g/100g水、6.5g/100g水、7.0g/100g水、7.5g/100g水、8.0g/100g水、8.5g/100g水、9.0g/100g水、9.5g/100g水、10g/100g水以上(以上、上限)であり、10g/100g水、9.5g/100g水、9.0g/100g水、8.5g/100g水、8.0g/100g水、7.5g/100g水、7.0g/100g水、6.5g/100g水、6.0g/100g水、5.5g/100g水、5.0g/100g水、4.5g/100g水、4.0g/100g水、3.5g/100g水、3.0g/100g水、2.5g/100g水、2.0g/100g水、1.5g/100g水、1.0g/100g水以下(以上、下限)の任意の範囲の可能な組合せ)(水溶性のものの溶解度)、および難水溶性の選択の基準としては、0.0g/100g水~0.5g/100g水(例えば、0.0g/100g水、0.05g/100g水、0.1g/100g水、0.15g/100g水、0.2g/100g水、0.25g/100g水、0.3g/100g水、0.35g/100g水、0.4g/100g水、0.45g/100g水、0.5以上(以上、上限)であり、0.5g/100g水、0.45g/100g水、0.4g/100g水、0.35g/100g水、0.25g/100g水、0.2g/100g水、0.15g/100g水、0.1g/100g水、0.05g/100g水以下(以上、下限)の任意の範囲の可能な組合せ)(難水溶性のものの溶解度)として溶解度で表すことができる。
 本明細書において「白金錯体原料」とは、緩衝液と混ぜると水溶性アンミン白金錯体を形成し得る原料をいう。したがって、混合することで、水溶性アンミン白金錯体を形成することができる限り、どのような材料を用いてもよく、原料は、複数種類あってもよい。本明細書において使用され得る白金錯体原料としては、例えば、cis-〔Pt(NH〕、cis-〔Pt(NHCl〕、cis-〔Pt(NHBr〕、KPtClが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、cis-〔Pt(NH〕、cis-〔Pt(NHCl〕、cis-〔Pt(NHBr〕、KPtClは、硝酸銀(AgNO)を2等量(1.98等量)添加するだけで硝酸体になる。
 例えば、シスプラチンの場合であれば、シスプラチンの水に対する溶解性は、2mg/ml(室温)である。シスプラチン硝酸体は、20mg/mlである。つまり、シスプラチンの溶解度(室温)以上の白金錯体で使用することできる。当該分野において、上記シスプラチンまたは他の白金錯体についてこのような水溶性および難水溶性の塩を形成するイオン種は知られているか、または適宜選択することができることから、シスプラチン以外の白金錯体であっても、シスプラチンと同様に、その溶解性を考慮することによって適宜、選択することができる。このときに、加える硝酸銀の当量数を適宜調節することによって同様に実施することができる。また、臭化物イオンの濃度、ヨウ化物イオンの濃度は、いずれも塩化物イオンと同等で問題なく実施することができる。臭化物イオン、ヨウ化物イオンのほうが塩化物イオンよりも結合性が強いため、同条件でおこなっても、同様に難水溶性物質が形成されると考えられるため。また、それぞれのイオンのリポソーム膜透過性に差異はないと考えられることから、これらの要素を考慮して実施することができる。
 本明細書において「アンミン基」とは、アンモニア分子が別の基と結合したときに付される名称である。
 本明細書において「リポソーム」とは、通常、膜状に集合した脂質層および内部の水層から構成される閉鎖小胞を意味する。代表的に使用されるリン脂質のほか、コレステロール、糖脂質などを組み込ませることも可能である。リポソームは内部に水を含んだ閉鎖小胞であるため、水溶性の薬剤などを小胞内に保持させることも可能である。したがって、このようなリポソームによって、細胞膜を通過しえない薬物や遺伝子などを細胞内に送達するのに使われる。また、生体適合性も良いのでDDS用のナノ粒子性キャリア材料としての期待が大きい。本発明において、リポソームは、修飾基を付するために、エステル結合を付与する官能基を有する構成単位(例えば、糖脂質、ガングリオシド、ホスファチジルグリセロールなど)またはペプチド結合を付与する官能基を有する構成単位(例えば、ホスファチジルエタノールアミン)を有し得る。
 本発明において使用されるリポソームは、水溶性アンミン白金錯体を通過させることができさえすれば、どのような製法により作製されたものであってもよい。本発明において、リポソームは、複数の製造方法により調製されたリポソーム(例えば、改良コール酸塩法のもの、凍結乾燥法のもの)を混ぜ合わせて使用することもできる。なぜなら、水溶性アンミン白金錯体をリポソーム膜を介してリポソーム中に移行させ、維持できればよいからである。このようなリポソームは、その用途に応じて、構成脂質成分を組合せたリポソームへの水溶性白金錯体の内包量、内包効率、内包後の漏出およびリポソームの安定性などを検討することにより当業者が適宜、決定することができる。そして、その判断基準は以下のとおりである。
 内包量は、リポソーム中の白金量を原子吸光高度法(FAAS)により測定し、その用途に応じた白金量であればよい。
 内包効率は、初期白金錯体量に対するリポソームに内包された白金量を割合として算出することができる。用途にもよるが、たとえば、0.5%以上の白金錯体が内包されていればよい。
 内包後の漏出は、リポソーム中の白金量を原子吸光光度法(FAAS)によって経時的に定量し、内包直後の白金量と比較することにより評価することできる。
 リポソームの安定性は、粒子径分布を経時的に測定することによって、確認することができる。
 リポソーム膜は固すぎると物質を透過させず、柔らかすぎるとリポソーム自体が不安定になる。リポソーム膜の堅さは、リポソーム構成成分の種類、混合比などにより決定される。リポソーム膜の堅さおよび流動性は、リポソームのバリア能に影響する。
 水溶性物質がリポソーム内水相に留まるのは、脂質2重膜が水溶性物質に対する障壁として働いているためである。膜の流動性および透過性は、ゲル相と液晶相とで全く異なる。液晶相では一般に相転移温度の低い脂質が多く含まれるほど、また、温度が高いほど流動性は増加する。リポソームの内水相に封入した物質は、膜の相転移および流動性に依存して漏出性が変動する。
 飽和脂質で構成されるリポソームは、ゲル相では高いバリア能(透過しにくいが漏れにくい)を示す。飽和脂質で構成されるリポソームは、相転移温度以上にてバリア能を消失するが、液晶相の飽和脂質にコレステロールまたは少量の不飽和脂肪酸を添加するとバリア能が回復する。
 不飽和脂肪酸で構成されるリポソームは、液晶相でバリア能を有するが、温度の上昇に従って、流動性および低分子の膜透過性が上昇する。不飽和脂肪酸膜においてもコレステロールの添加は、膜のバリア能を高める。つまり、コレステロール含量が多くなると透過性は下がるが、内水相の物質は安定にとどめることができる。
 コレステロールが膜成分に含まれている場合、相転移の状態および膜の流動性は大きく変化する。コレステロールは不飽和脂質膜では、脂質分子間の相互作用を高め、流動性および膜透過性の減少を引き起こす。一方、飽和脂質に加えると相転移が消失し、ゲル相の温度でも流動性を有する膜となる。
 これらの効果は、コレステロールが脂質分子と複合体を形成するために生ずると考えられている。コレステロールが存在すると、相転移における劇的な流動性変化が消失するので、結果として、相転移温度以上では流動性の減少が生じ、一方、相転移温度以下では、流動性の増加が認められる。
 本発明において使用されるリポソームは、コレステロールが含まれる場合、封入させる物質が膜を通過し、リポソーム中に留まるリポソーム膜を硬さを達成するのに充分な比率(例えば、コレステロールがリン脂質に対して、例えば、約30~50モル%、約30モル%以上、約35モル%以上、約40モル%以上、約45モル%以上であり、約50モル%以下、約45モル%以下、約40モル%以下、約35モル%以下であってもよく、約50モル%以上または約30モル%であってもよく、それらの任意の範囲の可能な組み合わせ)で含まれ得る。
 本発明において使用されるリポソームは、水溶性アンミン白金錯体がそのリポソーム膜を通過してリポソーム中に入ることができるようなものであれば、どのようなものであってもよい。なぜなら、水溶性アンミン白金錯体が、その提供されたリポソームまたは形成されたリポソームの膜を通過してリポソーム内に移行し、その中に留まりさえすればよいからである。リポソームは、市販されているものを使用してもよく、例えば、日油などから市販されている。リポソームは、複数の製造方法により調製されたリポソーム(例えば、改良コール酸塩法のもの、凍結乾燥法のもの)を混ぜ合わせて使用することもできる。
 一般的なリポソームの調製および特徴付けは当該分野において公知であり、そして慣用的な実験および当該分野の技術常識しか必要としない。例えば、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、凍結乾燥法、逆相蒸発法により調製されたものであり得る(例えば、「リポソーム応用の新展開~人工細胞の開発に向けて~ 監修 秋吉一成/辻井薫 NTS p33~45(2005)」、「リポソーム 野島庄七 p21-40 南江堂(1988)」を参照のこと。)が挙げられ得る。
 例えば、その中でもコール酸透析法による方法が挙げられる。コール酸透析法では、a)脂質と界面活性剤の混合ミセルの調製、およびb)混合ミセルの透析により製造を実施する。次に本発明における糖鎖リポソームにおいて好ましい実施形態では、リンカーとしてタンパク質を使用することが好ましく、タンパク質に糖鎖が結合した糖タンパク質のリポソームへのカップリングは、以下の2段階反応によって行うことができる。a)リポソーム膜上のガングリオシド部分の過ヨウ素酸酸化、およびb)還元的アミノ化反応による酸化リポソームへの糖タンパク質のカップリングである。このような手法によって望ましい糖鎖を含む糖タンパク質をリポソームに結合することができ、所望の糖鎖を有する多種多様な糖タンパク質・リポソームコンジュゲートを得ることができる。リポソームの純度や安定性を見るために粒子径サイズ分布を調べることが非常に重要である。その方法として、ゲル濾過クロマト法(GPC)および走査型電顕(SEM)や動的光散乱法(DLS)などを使うことができる。一例として、ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンおよびコール酸ナトリウムを、35:40:15:5:5:167のタイプのリポソームを製造することができる。
 リポソームは、凍結乾燥法によっても作製することができる。凍結乾燥法は、例えば、H.Kikuchi,N.Suzuki et al,Biopharm.Drug Dispos.,17,589-605(1999)等により報告されている。例えば、以下の方法により調製することができる。リポソーム溶液を-40~-50℃で凍結させ、凍結乾燥させる。凍結乾燥粉末に内包物質溶液を添加して再水和する。限外濾過法または透析法で、内包されなかった物質を除去する。必要に応じて、最初のリポソーム溶液に糖などを添加する。また、目的に応じて、フレンチプレス法、メンブランフィルター法により粒子サイズを調整する。
 本明細書において使用される場合、用語「リポソーム原料」とは、緩衝液に混ぜるとリポソームを形成することができる脂質をいう。これらとしては、たとえば、実施例において使用されているミセル懸濁液が挙げられるが、水溶性アンミン白金錯体と接触するときにリポソームを形成することができ、水溶性アンミン白金錯体を通過させることができるような脂質であれば、これら以外のものであってもよい。本製造方法において使用されるリポソーム原料は、製造されるリポソームの用途に応じて、構成脂質成分を組合せたリポソームへの水溶性白金錯体の内包量、内包効率、内包後の漏れおよびリポソームの安定性を検討することにより当業者が適宜、決定することができる。
 本明細書において使用される場合、用語「脂質」とは、長鎖の脂肪族炭化水素またはその誘導体をいう。「脂質」は、例えば、脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、アルデヒドなどからなる化合物の総称である。本発明において使用されるリポソーム形成能を有する脂質またはリポソームを構成する脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン類、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類、糖脂質類(ガングリオシド類など)、ホスファチジルグリセロール類、スフィンゴミエリン類、コレステロール類等。
 ホスファチジルコリン類としては、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等が挙げられる。
 ホスファチジルエタノールアミン類としては、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等が挙げられる。
 ホスファチジン酸類としては、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジン酸が挙げられる。長鎖アルキルリン酸塩類としてはジセチルホスフェート等が挙げられる。
 糖脂質類としては、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド、ホスフナチド、グロボシド、ガングリオシド類等が挙げられる。ガングリオシド類としては、ガングリオシドGM1(Galβ1,3GalNAcβ1,4(NeuAα2,3)Galβ1,4Glcβ1,1’Cer)、ガングリオシドGDla、ガングリオシドGTlb等が挙げられる。
 ホスファチジルグリセロール類としては、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロ-ル、ジステアロイルホスファチジルグリセロール等が好ましい。
 このうち、ホスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類、糖脂質類、およびコレステロール類はリポソームの安定性を上昇させる効果を有するので、構成脂質として添加するのが望ましい。例えば、本発明において使用されるリポソームを構成する脂質として、ホスファチジルコリン類(モル比0~70%)、ホスファチジルエタノールアミン類(モル比0~30%)、ホスファチジン酸類、および長鎖アルキルリン酸塩からなる群から選択される1種以上の脂質(モル比0~30%)、糖脂質類、ホスファチジルグリセロール類およびスフィンゴミエリン類からなる群から選択される1種以上の脂質(モル比0~40%)、ならびにコレステロール類(モル比0~70%)を含むものが挙げられる。ガングリオシド、糖脂質またはホスファチジルグリセロールを含むことが好ましい。アルブミンのようなリンカーの結合が容易になるからである。
 本発明において使用されるリポソームを構成する脂質またはリポソーム原料としては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、コール酸ナトリウム、ジセチルフォスファチジルエタノールアミン-ポリグリセリン8G、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジン酸、ジオレオイルホスファチジン酸、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド、ホスフナチド、グロボチド、GM1(Galβ1,3GalNAcβ1,4(NeuAα2,3)Galβ1,4Glcβ1,1’Cer)、ガングリオシドGD1a、ガングリオシドGD1b、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、コール酸ナトリウム、ジセチルフォスファチジルエタノールアミン-ポリグリセリン8G、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールであり得る。
 本明細書において「アンミン白金錯体内包リポソーム」とは、アンミン白金錯体を内包するリポソームをいう。「アンミン白金錯体内包リポソーム」と「アンミン白金錯体含有リポソーム」とは、本明細書において交換可能に使用され得る。
 (製造方法)
 本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、以下の方法によって製造され得る。具体的には、この方法は、A)水溶性アンミン白金錯体、白金錯体原料またはその組合せを提供する工程;B)リポソーム、リポソーム原料またはその組合せを提供する工程:およびC)該水溶性アンミン白金錯体、白金錯体原料またはその組合せと、該リポソーム、該リポソーム原料またはその組合せとを含む混合物を調製し、リポソーム形成維持条件に供する工程であって、ただし、該リポソームが存在する時点で該白金錯体の形成する塩が水溶性の状態である条件に供する工程を包含する。本発明において使用される製造方法は、D)前記C)工程により得られた混合物を、前記白金錯体の形成する塩が難水溶性であるイオンを含む溶液の存在下に供する工程をさらに含み得る。
 好ましくは、前記D)工程は、i)形成されたリポソームを親水性化処理する工程;ii)該リポソームへ標的指向性物質を結合させる工程;iii)該修飾標的指向性物質が結合したリポソームを親水性化する工程ならびにiv)該親水性化したリポソームを含む溶液をフィルター濾過をする工程を包含し得る。
 1つの実施形態において、本製造方法では、前記C)工程において、前記水溶性アンミン白金錯体、白金錯体原料またはその組合せと、前記リポソーム、リポソーム原料またはその組合せとは、1:9~9:1の範囲内の比で混合され得る。
 1つの実施形態において、前記白金錯体懸濁液と脂質懸濁液とは、1:9~9:1の範囲内の比で混合され得る。
 好ましい実施形態において、前記白金錯体懸濁液と脂質懸濁液とは、7:3の比で混合され得る。
 別の実施形態において、前記白金錯体溶液とリポソームとは、1:9~9:1の範囲内(好ましくは、7:3)の比で混合され得る。
 1つの実施形態において、本製造方法では、前記C)工程において、前記混合物は、形成する塩が難水溶性であるイオンを実質的に含まない。前記形成する塩が難水溶性であるイオンは、例えば、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)、シアン化物イオン(CN)等であり得る。好ましくは、前記形成する塩が難水溶性であるイオンは、塩化物イオン(Cl)であり得る。1つの実施形態において、前記混合物は、塩化物イオン(Cl)を、0~4mMの範囲で含み得る。前記混合物は、形成する塩が難水溶性であるイオンを含まないか、含んだとしても白金錯体が難水溶性塩を形成するほど含んでいなければよい。
 1つの実施形態において、前記混合物は、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤(pH8.4)、炭酸緩衝剤(pH8.5)、リン酸緩衝剤(pH8.0)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝剤(pH7.2)、トリス(ヒドロキシ)アミノメタン緩衝剤、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸緩衝剤、N-トリス(ヒドロキシメチル)1-2-アミノエタンスルホン酸緩衝剤、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2エタンスルホン酸緩衝剤、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)緩衝剤、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-ヒドロキシプロパン-3-プロパンスルホン酸緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチルメチルグリシン)緩衝剤、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン緩衝剤、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸緩衝剤、3-N-シクロヘキシルアミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸緩衝剤、3-シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸緩衝剤等(好ましくは、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤(pH8.4))を含み得る。
 リポソーム、リポソーム原料またはその組合せ、白金錯体、白金錯体原料またはその組合せ、必要であれば緩衝液は、任意の順序で混合することができる。例えば、これらの順序は、1)リポソーム原料と白金錯体とを混合して緩衝液を添加する順序、2)リポソーム原料と緩衝液とを混合した後に、白金錯体を添加する順序、3)白金錯体を緩衝液に溶解した後にリポソーム原料を添加する順序であり得るが、これらに限定されない。なぜなら、リポソームが形成・維持される条件を保持する限り、どのような順序で混合されても、リポソームが存在する時点で水溶性アンミン白金錯体がリポソームに接触することができるかぎり、本発明は達成することができるからである。水溶液中で強酸性を示す白金錯体を用いる場合には、混合液は、pH6~10の範囲が好ましい。
 1つの実施形態において、本製造方法において使用され得る標的指向性物質は、例えば、抗体、糖鎖、レクチン、相補的核酸、レセプター、リガンド、アプタマー、抗原であり得る。好ましくは、標的指向性物質は、抗体、糖鎖であり得るが、これらに限定されない。なぜなら、標的指向性物質は、リポソームを破壊することなく、リポソームに標的指向性を付与するようなものであれば、よいからである。当業者は、標的にあわせて、リポソームに結合させる標的指向性物質を適宜、決定することができる。
 本発明において水溶性アンミン白金錯体は、好ましくは、2つのアンミン基を有し、より好ましくは、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)であり得る。
 好ましい製造方法としては、以下の工程:A)前記水溶性アンミン白金錯体を、第一緩衝液に溶解し、白金錯体溶液を調製する工程;B)前記リポソーム原料を提供する工程;C)該白金錯体溶液と、該脂質懸濁液とを混合し、前記リポソーム形成維持条件に供する工程を包含し得る。この方法では、該第一緩衝液および第二緩衝液は、該白金錯体が形成する塩が難水溶性であるイオンを含まないものが使用され得る。
 1つの実施形態において、本製造方法の前記B)工程は、B-i)リポソーム形成能を有する脂質を、メタノール・クロロホルム溶液に懸濁して攪拌し、該攪拌した溶液を蒸発させ、沈殿物を真空乾燥させることにより脂質膜を得る工程;およびB-ii)該脂質膜を、第二緩衝液に懸濁し、脂質懸濁液を形成する工程を包含し得る。
 より好ましい実施形態において、本発明において使用される製造方法は、A)工程として、(A1)cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液に溶解し、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を含む溶液を調製する工程であって、該N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液は、塩化物イオン(Cl)を含まないか、または塩化物イオン(Cl)を0~4mMの範囲で含む、工程;(A2)該cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を含む溶液のpHをpH6~10(好ましくは、pH8.4)に調節する工程を包含し得る。
 さらに、B)工程として、(B1)ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンおよびコール酸ナトリウムを(好ましくは、例えば、35:40:15:5:5:167のモル比)混合させて脂質を調製する工程;(B2)該脂質を、メタノール・クロロホルム(好ましくは、1:1)溶液に懸濁して攪拌し、該攪拌した溶液を蒸発させ、沈殿物を真空乾燥させることにより脂質膜を得る工程;および(B3)該脂質膜を、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH 8.4)に懸濁させて脂質懸濁液を作製する工程であって、該N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液は、塩化物イオン(Cl)を含まないか、または塩化物イオン(Cl)を0~4mMの範囲で含む、工程;および(B4)該脂質懸濁液を30℃~40℃で攪拌させ、窒素置換し、超音波処理する工程を包含し得る。
 さらに、C)工程として、(C1)pHが調節された該cis-ジアンミンジニトラト白金(II)溶液と、超音波処理した脂質懸濁液とを、1:9~9:1(好ましくは、7:3)の範囲内の比で混合して、分画分子量500~300,000(好ましくは、10,000)で限外濾過に供する工程を包含し得る。
 別の好ましい製造方法としては、A)前記水溶性アンミン白金錯体を、第一緩衝液に溶解し、白金錯体溶液を調製する工程;B)前記リポソームを提供する工程;およびC)該白金錯体溶液と、該リポソームとを混合し、前記リポソーム形成維持条件に供する工程を包含する方法が挙げられる。この方法では、該第一緩衝液は、該白金錯体が形成する塩が難水溶性であるイオンを含まないものが使用され得る。前記リポソームは、例えば、水溶性アンミン白金錯体が、リポソーム膜を通過して該リポソーム内に移行し、留まるために充分な組成を有し得る。前記リポソーム形成維持条件は、例えば、リポソームを破壊することなく維持すると同時に、前記水溶性アンミン白金錯体がリポソーム膜を通過して該リポソーム内に移行し、留まるために充分な条件であり得る。
 別のより好ましい実施形態において、本発明において使用される製造方法のA)工程は、(A1)cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液に溶解し、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を含む溶液を調製する工程であって、該N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液は、塩化物イオン(Cl)を含まないか、または塩化物イオン(Cl)を0~4mMの範囲で含む、工程;(A2)該cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を含む溶液のpHをpH6~10(好ましくは、pH8.4)に調節する工程を包含し得る。
 本発明において使用される製造方法のB)工程は、(B1)リポソームを提供する工程;(C1)pHが調節された該cis-ジアンミンジニトラト白金(II)溶液と、該リポソームとを、1:9~9:1の範囲内の比で混合して、分画分子量500~300,000(好ましくは、10,000)で限外濾過に供する工程を包含し得る。
 1つの実施形態において、本発明によるアンミン白金錯体を内包するリポソームは、以下の方法によって製造され得る。具体的には、この方法は、A)2つのアンミン基を有する水溶性の白金錯体を含む溶液を提供する工程;B)該水溶性の白金錯体を含む溶液とリポソーム形成能を有する脂質懸濁液とを混合して混合溶液を作製する工程;C)該混合溶液をリポソームが形成する条件に供する工程;およびD)該混合溶液を、形成する塩が難水溶性であるイオンを含む溶液の存在下に供する工程、を包含する。好ましくは、水溶性の白金錯体は、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)であり得る。
 1つの実施形態では、前記B)工程における前記脂質懸濁液は、i)脂質を、メタノール・クロロホルム溶液に懸濁して攪拌し、該攪拌した溶液を蒸発させ、沈殿物を真空乾燥させることにより脂質膜を得る工程;およびii)該脂質膜を、懸濁緩衝液に懸濁させる工程によって作製され得る。
 1つの実施形態において、前記メタノール・クロロホルム溶液は、メタノールとクロロホルムとを1:1の比で含み得る。
 1つの実施形態において、本方法は、前記B)工程に引き続き、前記脂質懸濁液を超音波処理する工程をさらに包含し得る。好ましくは、前記超音波処理する工程は、前記脂質容液を30℃~40℃で攪拌させ、窒素置換し、超音波処理する工程であり得る。
 1つの実施形態では、前記C)工程において、前記混合溶液を、リポソームが形成するのに十分な時間、前記リポソームが形成する条件下に供し得る。好ましくは、前記混合溶液をリポソームが形成する条件は、例えば、該混合溶液を限外濾過に供すること、該混合溶液を一晩静置すること等であり得る。さらに好ましくは、前記混合溶液をリポソームが形成する条件は、前記混合溶液を分画分子量10,000で限外濾過に供することであり得る。
 1つの実施形態では、前記D)工程は、前記C)工程において、リポソームの形成を確認した後に行われ得る。
 より好ましい製造方法としては、以下の工程:A-1)2つのアンミン基を有する水溶性の白金錯体を含む溶液を調製する工程;A-2)該水溶性の白金錯体を含む溶液のpHをpH6~10の範囲内に調節する工程;B-1)pHが調節された該cis-ジアンミンジニトラト白金(II)溶液と、超音波処理した脂質懸濁液とを、1:9~9:1の範囲内の比で混合して混合溶液を作製する工程;およびC-1)該混合溶液を限外濾過に供する工程;およびD-1)限外濾過後に、該混合溶液を塩化物イオン(Cl)の存在下に供する工程、を包含する方法が挙げられる。
 本発明によるcis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包するリポソームは、以下の方法によって製造され得る。具体的には、この方法は、(A1)cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を、塩化物イオン(Cl)を実質的に含まないN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液に溶解し、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を含む溶液を調製する工程;(A2)該cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を含む溶液のpHをpH8.4に調節する工程;(B1)ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンおよびコール酸ナトリウムを、35:40:15:5:5:167のモル比で混合させて脂質を調製する工程;(B2)該脂質を、メタノール・クロロホルム(1:1)溶液に懸濁して攪拌し、該攪拌した溶液を蒸発させ、沈殿物を真空乾燥させることにより脂質膜を得る工程;および(B3)該脂質膜を、塩化物イオン(Cl)を実質的に含まないN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)に懸濁させて脂質懸濁液を作製する工程、(B4)該脂質懸濁液を30℃~40℃で攪拌させ、窒素置換し、超音波処理する工程;(B5)pHが調節された該cis-ジアンミンジニトラト白金(II)溶液と、超音波処理した脂質懸濁液とを、7:3の範囲内の比で混合して混合溶液を作製する工程;(C1)該混合溶液を分画分子量10,000で限外濾過に供する工程;および(D1)限外濾過後に、該混合溶液を、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)、炭酸緩衝液(pH8.5)、PBS(pH8.0)およびHEPES緩衝液(pH7.2)からなる群より選択される少なくとも1つの緩衝液に曝す工程を包含する。
 本明細書において使用される場合、用語「混合物」とは、水溶性アンミン白金錯体、白金錯体原料またはその組合せ(本明細書において、水溶性アンミン白金錯体等とも称される。)と、リポソーム、該リポソーム原料またはその組合せ(本明細書において、リポソーム等とも称される。)とを混合して含むものをいう。
 本明細書において使用される場合、用語「混合溶液」とは、水溶性の白金錯体を含む溶液とリポソーム形成能を有する脂質懸濁液とを混合して作製した溶液をいう。
 リポソーム、リポソーム原料またはその組合せ、白金錯体、白金錯体原料またはその組合せ、必要であれば緩衝液は、任意の順序で混合することができる。例えば、これらの順序は、1)リポソーム原料と白金錯体とを混合して緩衝液を添加する順序、2)リポソーム原料と緩衝液とを混合した後に、白金錯体を添加する順序、3)白金錯体を緩衝液に溶解した後にリポソーム原料を添加する順序であり得るが、これらに限定されない。なぜなら、リポソームが形成・維持される条件を保持する限り、どのような順序で混合されても、リポソームが存在する時点で水溶性アンミン白金錯体がリポソームに接触することができるかぎり、本発明は達成することができるからである。水溶液中で強酸性を示す白金錯体を用いる場合には、混合液は、pH6~10の範囲が好ましい。
 すなわち、本発明では、リポソーム「形成・維持」条件を保持する限り問題がない、と理解される。
 理論に束縛されることを望まないが、水溶液中で強酸性の白金錯体(シスプラチン硝酸体含む)は、脂質成分とシスプラチン硝酸体の混合物を水溶液で再溶解する場合、アルカリ性の緩衝液で再懸濁する必要があり、酸性化では、脂質が分解することから、これらの条件を考慮することができる。アルカリ性の必要なレベルとしては、たとえば、80mgシスプラチン硝酸体を4mlのTAPS(pH8.4)に溶解するとき、1NNaOHが約350μl加える事を利用することができる。
 本発明において使用される製造方法では、この混合物を、リポソーム形成維持条件に供する工程であって、ただし、該リポソームが存在する時点で該白金錯体の形成する塩が水溶性の状態に供することにより、本発明によるアンミン白金錯体を内包するリポソームが作製され得る。この混合物は、pH6~10(好ましくは、pH8.4)の範囲内にありさえすればよい。なぜなら、中性付近のpHであれば、リポソームを形成することおよび/またはリポソームを維持することが可能であるからである。
 本明細書において使用される場合、用語「リポソーム形成維持条件」とは、リポソームが形成するか、および/またはリポソームが維持されるための条件をいう。リポソーム形成維持条件は、前記白金錯体溶液と前記脂質懸濁液との混合物を限外濾過に供すること、該溶液を一晩静置することを含み得る。前記白金錯体溶液と前記脂質懸濁液との混合物を限外濾過に供することおよび該混合物を一晩静置することは連続して実施されてもよい。リポソーム形成維持条件は、リポソームを破壊することなく維持すると同時に、前記水溶性アンミン白金錯体がリポソーム膜を通過して該リポソーム内に移行し、留まるために充分な条件であり得る。
 本明細書において使用される場合、用語「リポソームが形成する」条件とは、この混合物(例えば、混合溶液)中でリポソームが形成するための条件をいう。リポソームが形成する条件は、例えば、該混合物を限外濾過に供すること、該混合物を一晩静置すること等であり得る。さらに好ましくは、リポソームが形成する条件は、この混合物を分画分子量500~300,000(好ましくは、10,000)で限外濾過に供することであり得る。
 本明細書において使用される場合、用語「リポソームが維持される」条件とは、この混合物(例えば、混合溶液)中でリポソームが維持されるための条件をいう。リポソームが維持される条件は、例えば、理論に束縛されることを望まないが、リポソームは、pH6.0以下になると壊れ維持されない。界面活性剤を添加すると壊れる為、維持されない。超音波など物理化学的な力により壊れる為、維持されない。高温60℃以上になると壊れるので維持されない。外液中にCl、Br、I、SCN、CNまたは核酸塩基(グアニン、シトシン)が含まれると、水溶性白金錯体の状態で存在しないか、または不活性化する。(グアニン塩基のN7位の窒素と結合すると不活化することから、これらを考慮することができる。
 本明細書において使用される場合、用語「白金錯体の形成する塩が水溶性の状態である条件」とは、その混合物中で白金錯体の形成する塩が水溶性の状態となる条件をいう。例えば、このような条件としては、混合液を、白金錯体が形成する塩が難水溶性であるイオンを含まない溶液の条件下におくことをいう。形成する塩が難水溶性であるイオンは、例えば、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)、シアン化物イオン(CN)等(好ましくは、塩化物イオン(Cl))であり得る。この溶液は、形成する塩が難水溶性であるイオンを含まないか、含んだとしても白金錯体が難水溶性塩を形成するほど含んでいなければよい。この白金錯体の形成する塩が難水溶性であるイオンは、例えば、塩化物イオン(Cl)であれば、0~4mMの範囲で含まれ得る。なぜなら、塩化物イオン(Cl)の場合、この0~4mMという濃度は、体内で存在する濃度以下の濃度であるので、難水溶性の塩として析出することはないと考えられるからである。
 本明細書において使用される場合、用語「形成する塩が難水溶性であるイオンを含まない」とは、その溶液中で白金錯体が難水溶性塩を形成し得るイオンを実質的に含まないことをいう。形成する塩が難水溶性であるイオンは、例えば、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)、シアン化物イオン(CN)等であり得る。この溶液は、形成する塩が難水溶性であるイオンを含まないか、含んだとしても白金錯体が難水溶性塩を形成するほど含んでいなければよい。
 本明細書において使用される場合、難水溶性塩を形成し得るイオンを「実質的に含まない」とは、難水溶性塩を形成しない程度の濃度で該イオンを含み得ることをいう。例えば、難水溶性塩を形成し得るイオンが塩化物イオン(CL)であれば、その濃度は、体内で存在する濃度以下の濃度(約0~4mM程度)であるといえる。難水溶性塩を形成し得る濃度は、以下のような工程を包含する方法により、実験的に決定され得る:
 1)アンミン白金錯体を含む水溶液(6mM)を調製する工程;
 2)種々の濃度で難水溶性塩を形成し得るイオンを含む溶液(終濃度0~200mM)を調製する工程;
 3)2)工程の難水溶性塩を形成し得るイオンを含む溶液を、1)工程のアンミン白金錯体を含む水溶液に、該イオンが難水溶性塩を形成するまで添加する工程;および
 4)該イオンを含む溶液を添加した量から、難水溶性塩を形成し得る濃度を算出する工程。
 難水溶性塩を形成しない濃度は、他の塩についても同様に定義される。
 本明細書において使用される場合、用語「水溶性」とは、水に溶ける性質をいう。本発明によるアンミン白金錯体内包リポソームの製造方法によりリポソームに内包されるアンミン白金錯体は、好ましくは、難水溶性である。本明細書において使用される場合、用語「難水溶性」とは、水に溶けないか、ほとんど溶けない性質をいう。
 本明細書において「第一緩衝液」とは、水溶性アンミン白金錯体、その白金錯体の材料またはその組合せを溶解するための緩衝液をいう。
 本発明において使用される製造方法において、第一緩衝液は、その緩衝液中で白金錯体が難水溶性塩を形成し得るイオンを含まないものが使用され得る。この第一緩衝液は、形成する塩が難水溶性であるイオンを含まないか、含んだとしても白金錯体が難水溶性塩を形成するほど含んでいなければよい。形成する塩が難水溶性であるイオンとは、例えば、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)、シアン化物イオン(CN)等であり得る。この第一緩衝液は、例えば、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤(pH8.4)、炭酸緩衝剤(pH8.5)、リン酸緩衝剤(pH8.0)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝剤(pH7.2)、トリス(ヒドロキシ)アミノメタン緩衝剤、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸緩衝剤、N-トリス(ヒドロキシメチル)1-2-アミノエタンスルホン酸緩衝剤、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2エタンスルホン酸緩衝剤、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)緩衝剤、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-ヒドロキシプロパン-3-プロパンスルホン酸緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチルメチルグリシン)緩衝剤、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン緩衝剤、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸緩衝剤、3-N-シクロヘキシルアミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸緩衝剤、3-シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸緩衝剤等を含む緩衝液が使用され得る。好ましくは、第一緩衝液は、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤(好ましくは、pH8.4)を含む緩衝液であり得る。第一緩衝液は、pH6~10(好ましくは、8.4)の範囲内に調節され得る。本発明において第一緩衝液は、上記以外の緩衝液も使用することができる。なぜなら、形成する塩が難水溶性であるイオンを含まないか、含んだとしても白金錯体が難水溶性塩を形成するほど含んでいない緩衝液であれば、白金錯体が難水溶性の塩を形成することがないからである。
 本明細書において「白金錯体溶液」とは、水溶性アンミン白金錯体を第一緩衝液に溶解して調製した、水溶性の白金錯体を含む溶液をいう。白金錯体溶液は、例えば、シスプラチン硝酸体であれば、15mM~300mM 溶解度の範囲を基にシスプラチン硝酸体(分子量353)を基準として範囲を設定することができる。このような水溶性の白金錯体を含む溶液は、当該分野において公知であり、そして慣用的な実験および当該分野の技術常識しか必要としない。従って、このような溶液の調製は、当業者の技術範囲内である。
 本明細書において使用される場合、用語「水溶性の白金錯体を含む溶液」とは、水溶性の状態で白金錯体を含む溶液であればよい。この水溶性の白金錯体を含む溶液は、pH6~10(好ましくは、8.4)の範囲内に調節され得る。この水溶性の白金錯体を含む溶液は、形成する塩が難水溶性であるイオンを含まない溶液であり得る。
 本発明において使用される水溶性の白金錯体を含む溶液は、例えば、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤(pH8.4)、炭酸緩衝剤(pH8.5)、リン酸緩衝剤(pH8.0)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝剤(pH7.2)、トリス(ヒドロキシ)アミノメタン緩衝剤、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸緩衝剤、N-トリス(ヒドロキシメチル)1-2-アミノエタンスルホン酸緩衝剤、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2エタンスルホン酸緩衝剤、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)緩衝剤、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-ヒドロキシプロパン-3-プロパンスルホン酸緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチルメチルグリシン)緩衝剤、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン緩衝剤、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸緩衝剤、3-N-シクロヘキシルアミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸緩衝剤、3-シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸緩衝剤等を含み得る。好ましくは、水溶性の白金錯体を含む溶液は、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤(pH8.4)を含み得る。「白金錯体溶液」または「水溶性の白金錯体を含む溶液」は、上記以外の緩衝剤を含んでいてもよい。なぜなら、リポソームが存在する時点で、アンミン白金錯体を水溶性の状態に保つことができればよいからである。このような緩衝剤は、pH6~10に緩衝能を有し、白金錯体と結合性を有する陰イオンを含んでいなければ、リポソームを維持し、水溶性白金錯体を維持することができる。
 本明細書において使用される場合、用語「脂質懸濁液」とは、リポソーム形成能を有する脂質の懸濁液であり、リポソームを形成する条件に供したときにリポソームを形成する脂質が懸濁した任意の液をいう。膜状態で懸濁している場合は、「脂質膜懸濁液」ともいう。また、脂質が溶媒に溶解している場合には、「脂質溶液」ともいう。広義には、脂質溶液は、脂質懸濁状態のものも包含しうる。
 そのような「リポソーム形成能を有する脂質の懸濁液」の組成は、以下の説明のように、当業者は、その組成を適宜決めることができ、その範囲が明確に決定することができる。その説明は以下のとおりである:本発明において使用され得る脂質懸濁液は、リポソームの作製に一般的に用いられる脂質により作製され得る。リポソームの作製に一般的に用いられる脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、コレステロール等が挙げられる。リポソームの作製において代替的に使用され得る脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン、ガングリオシド、コール酸ナトリウム、ジセチルホスフェート、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ジホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スルホキシリボシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、本発明において使用され得る脂質懸濁液は、以下の範囲の組成であり得る:
ホスファチジルコリン:0~50mM
ホスファチジルエタノールアミン:0~3.3mM
コレステロール:0~26.1mM
ガングリオシド:0~9.3mM
コール酸ナトリウム:0~108.9mM
ジセチルホスフェート:0~3.29mM。
 このリポソーム形成能を有する脂質の懸濁液は、B-i)ポソーム原料である脂質を、メタノール・クロロホルム溶液(好ましくは、1:1)に懸濁して攪拌し、該攪拌した溶液を蒸発させ、沈殿物を真空乾燥させることにより脂質膜を得る工程;B-ii)該脂質膜を、第二緩衝液(懸濁緩衝液)に懸濁する工程によって作製され得る。この脂質懸濁液は超音波処理されていてもよい。この脂質懸濁液は、脂質として、ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンおよびコール酸ナトリウムを(好ましくは、35:40:15:5:5:167のモル比)で含み得る。本方法において、水溶性アンミン白金錯体を含む溶液と脂質懸濁液とは、1:9~9:1の範囲内(好ましくは、7:3)の比で混合され得る。
 本明細書において「第二緩衝液」とは、脂質懸濁液を溶解するための緩衝液をいう。この第二緩衝液は、本明細書において「懸濁緩衝液」ともいう。
 本発明において使用される製造方法において、第二緩衝液は、その緩衝液中で白金錯体が難水溶性塩を形成し得るイオンを含まないものが使用され得る。この懸濁緩衝液は、形成する塩が難水溶性であるイオンを含まないか、含んだとしても白金錯体が難水溶性塩を形成するほど含んでいなければよい。形成する塩が難水溶性であるイオンとは、例えば、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)、シアン化物イオン(CN)等であり得る。この第二緩衝液は、例えば、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤(pH8.4)、炭酸緩衝剤(pH8.5)、リン酸緩衝剤(pH8.0)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝剤(pH7.2)、トリス(ヒドロキシ)アミノメタン緩衝剤、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸緩衝剤、N-トリス(ヒドロキシメチル)1-2-アミノエタンスルホン酸緩衝剤、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2エタンスルホン酸緩衝剤、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)緩衝剤、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-ヒドロキシプロパン-3-プロパンスルホン酸緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチルメチルグリシン)緩衝剤、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン緩衝剤、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸緩衝剤、3-N-シクロヘキシルアミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸緩衝剤、3-シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸緩衝剤等を含む緩衝液が使用され得る。好ましくは、第一緩衝液は、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤(好ましくは、pH8.4)を含む緩衝液であり得る。第二緩衝液は、pH6~10(好ましくは、8.4)の範囲内に調節され得る。
 「第二緩衝液」または「懸濁緩衝液」は、上記以外の緩衝剤を含んでいてもよい。なぜなら、リポソームが存在する時点で、アンミン白金錯体を水溶性の状態に保つことができればよいからである。このような緩衝剤は、pH6~10に緩衝能を有し、白金錯体と結合性を有する陰イオンを含んでいなければ、リポソームを維持し、水溶性白金錯体を維持することができる。
 本明細書において、第一緩衝液と第二緩衝液とは、同じ組成であってもよいし、別の組成であってもよい。なぜなら、これらの緩衝液は、リポソームが存在する時点で白金錯体を水溶性の状態に保つことができるような緩衝液でありさえすれば、どのようなものであってもよいからである。
 本明細書において使用される場合、用語「白金錯体の形成する塩が難水溶性であるイオンを含む溶液の存在下」とは、白金錯体の形成する塩が難水溶性であるイオンが提供され得る環境下におくことをいう。好ましい実施形態において、白金錯体の形成する塩が難水溶性であるイオンを含む溶液の存在下は、塩化物イオン(Cl)の存在下であり得る。
 本明細書において、白金錯体の「形成する塩が難水溶性であるイオン」とは、例えば、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)、シアン化物イオン(CN)等であり得る。この第一緩衝液は、例えば、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤(pH8.4)、炭酸緩衝剤(pH8.5)、リン酸緩衝剤(pH8.0)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝剤(pH7.2)、トリス(ヒドロキシ)アミノメタン緩衝剤、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸緩衝剤、N-トリス(ヒドロキシメチル)1-2-アミノエタンスルホン酸緩衝剤、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2エタンスルホン酸緩衝剤、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)緩衝剤、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-ヒドロキシプロパン-3-プロパンスルホン酸緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチルメチルグリシン)緩衝剤、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン緩衝剤、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸緩衝剤、3-N-シクロヘキシルアミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸緩衝剤、3-シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸緩衝剤等を含む緩衝液が使用され得るが、これらに限定されない。好ましくは、第二緩衝液は、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝剤(好ましくは、pH8.4)を含む緩衝液である。本発明において第二緩衝液は、上記以外の緩衝液も使用することができる。なぜなら、緩衝液が、形成する塩が難水溶性であるイオンを含まないか、含んだとしても白金錯体が難水溶性塩を形成するほど含んでいなければ、白金錯体が難水溶性の塩を形成することがないからである。
 たとえば、以下を溶解度の例示としてあげることができる。
1.水溶性白金錯体(2分子の水分子が配位した状態)に対し2等量の塩化物イオン(Cl)および臭化物イオン(Br)およびヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)が存在すると水溶性白金錯体の2分子の配位水がこれらのイオンに置換して、難溶性の塩を形成する。1等量のイオンを含む場合、1分子の水分子がこれらのイオンによって置換される。イオンを含まない場合は、2分子の水分子が配位した構造をとる。
2.塩化物イオン(Cl)の場合、細胞内の塩化物イオン濃度が0~4mMで水分子が置換した構造となり、DNAと結合するといわれており、このことから塩化物イオンの範囲についてはmM表記させて頂きました。臭化物イオン(Br)およびヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)のうち、Br、Iの配位した錯体には、活性の強さに差があるが、活性があるといわれている。従って、細胞内の環境下では、水分子の配位した構造をとると考えられる。
 難水溶性物質は、Cl,Br,Iで抗がん活性があることが知られている。白金原子への結合性は、Cl<Br<Iの順になるといわれている。ClよりもBr,Iは、白金と結合しやすく、難溶性物質を形成しやすいと考えられる。従って、Clと同条件で難水溶性物質とすることができると考えられる。これらの条件を考慮して本発明を実施することができる。
 また、本発明において、難水溶性であれば、いったん本発明のリポソームが形成されると形成後、白金錯体がリポソームの外に出にくくなり、送達効率が上がることが企図される。
 本製造方法において、白金錯体の形成する塩が難水溶性であるイオン(例えば、塩化物イオン(Cl))は、例えば、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)、炭酸緩衝液(pH8.5)、PBS(pH8.0)またはHEPES緩衝液(pH7.2)、トリス(ヒドロキシ)アミノメタン緩衝液、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸緩衝液、N-トリス(ヒドロキシメチル)1-2-アミノエタンスルホン酸緩衝液、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2エタンスルホン酸緩衝液、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)緩衝液、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-ヒドロキシプロパン-3-プロパンスルホン酸緩衝液、トリス(ヒドロキシメチルメチルグリシン)緩衝液、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン緩衝液、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸緩衝液、3-N-シクロヘキシルアミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸緩衝液、3-シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸緩衝液等により提供され得るが、これらに限定されない。なぜなら、pH6~10に緩衝能を有し、白金錯体と結合性を有する陰イオンを含んでいなければ、リポソームを維持し、水溶性白金錯体を維持することができるからである。一般的な緩衝液の調製および特徴づけは、当該分野において公知であり、そして慣用的な実験および当該分野の技術常識しか必要としない。従って、目的とするアンミン白金錯体の難水溶性塩と、上記pH、緩衝液が含み得るイオン等を考慮して、当業者は、白金錯体が難水溶性の塩を形成するイオンを含む緩衝液を適宜、選択することができる。
 本方法において、塩化物イオン(Cl)は、NaCl、HCl、CaClにより提供され得るが、これらに限定されない。好ましくは、塩化物イオン(Cl)は、NaClにより提供され得る。
 好ましい実施形態において、本発明におけるリポソームは、ガングリオシド、糖脂質またはホスファチジルグリセロールを含ませてそれにペプチドなどのリンカーを結合させ、標的指向性物質(例えば、抗体、糖鎖、レクチン、相補的核酸、レセプター、リガンド、アプタマー、抗体など)を結合させることが可能である。
 本明細書において使用される場合、用語「標的指向性物質」とは、病態(特に、腫瘍)を特異的に認識するものをいう。本発明において使用される「標的指向性物質」としては、抗体、糖鎖、レクチン、相補的核酸、レセプター、リガンド、アプタマー、抗体等が挙げられ得るが、これらに限定されるものではない。なぜなら、標的指向性物質は、リポソームを破壊することなく、リポソームに標的指向性を付与するようなものであれば、よいからである。当業者は、標的にあわせて、リポソームに結合させる標的指向性物質を適宜、決定することができる。適切な架橋剤を用いることによって、あらゆる物質をリポソーム膜表面に修飾することができる。
 本明細書において使用される場合、用語「抗体」とは、免疫原である抗原によって惹起された特異的なアミノ酸配列を有する免疫グロブリン分子をいう。抗体は、B細胞により生産され、血液、体液中に存在する。抗体は、抗原と特異的に反応するという特徴を有する。抗体は、抗原の呈示による刺激の結果としてではなく自然に存在する場合もあり得る。基本的には、抗体の分子構造は各2本の軽鎖と重鎖とから形成されるが、二量体、三量体、五量体としても存在し得る。これらとしては、例えば、IgA、IgE、IgM、IgG等が挙げられるが、これらに限定されない。
 本明細書において「糖鎖」とは、単位糖(単糖および/またはその誘導体)が1つ以上連なってできた化合物をいう。単位糖が2つ以上連なる場合は、各々の単位糖同士の間は、グリコシド結合による脱水縮合によって結合する。このような糖鎖としては、例えば、生体中に含有される多糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、シアル酸ならびにそれらの複合体および誘導体)の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。したがって、本明細書では、糖鎖は、「多糖(ポリサッカリド)」、「糖質」、「炭水化物」と互換可能に使用され得る。また、特に言及しない場合、本明細書において「糖鎖」は、糖鎖および糖鎖含有物質の両方を包含することがある。代表的には、約20種類の単糖(グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、シアル酸ならびにそれらの複合体および誘導体など)が鎖状につながった物質で、生体の細胞内外のタンパク質や脂質に付いている。単糖の配列によって機能が異なり、通常は複雑に枝分かれしていて、人体には数百種類以上の多様な構造の糖鎖があると予想されており、さらに、人体において有用な構造は数万種類以上あると考えられている。細胞間での分子・細胞認識機能などタンパク質や脂質が生体内で果たす高次機能に関係していると見られているが、そのメカニズムは未解明の部分が多い。核酸、タンパク質に次ぐ第3の生命鎖として現在のライフサイエンスで注目されている。とりわけ、細胞認識におけるリガンド(情報分子)としての糖鎖の機能が期待され、その高機能材料開発への応用が研究されている。
 本明細書において「糖」または「単糖」とは、少なくとも1つの水酸基および少なくとも1つのアルデヒド基またはケトン基を含む、ポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンをいい、糖鎖の基本単位を構成する。本明細書において使用される場合、糖はまた、炭水化物ともいい、両者は互換的に用いられる。本明細書において使用される場合、特に言及するときは、糖鎖は、1つ以上糖が連なった鎖または配列をいい、糖または単糖というときは、糖鎖を構成する1つの単位をいう。ここで、n=2、3、4、5、6、7、8、9および10であるものを、それぞれジオース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、オクトース、ノノースおよびデコースという。一般に鎖式多価アルコールのアルデヒドまたはケトンに相当するもので、前者をアルドース,後者をケトースという。本発明では、いずれの形式のものでも使用され得る。
 本明細書において使用される場合、用語「レクチン」とは、細胞膜複合糖質(糖タンパク質および糖脂質)の糖鎖と結合能を有する物質をいい、細胞凝集,分裂誘発,機能活性化,細胞障害などの効果をおよぼす能力を有する。糖鎖を細胞が発信する情報分子とすれば、レクチンは受信分子であるといえる。一定の性質を有する細胞または組織は、それに相応したレクチンのパターンを有する。レクチンは、感染、生体防御、免疫、受精、標的細胞へのターゲティング、細胞分化、細胞間接着、新生糖タンパク質の品質管理および細胞内選別輸送などを実現する。レクチンは、多用な糖鎖結合性を有し、速やかな結合および解離という固有の物理化学的性質を有することにより厳格に制御されている。糖鎖認識蛋白質とも呼ばれる。植物レクチンについての研究は古く、既に約300種類が知られている。最近、動物レクチンについても活発に研究が行われており、新規レクチンの発見が続いている。動物細胞膜上に在る主要なレクチンファミリーのレクチン群(約100種類)に基づく多彩な糖鎖認識機能が研究されている。とりわけ、多様な構造をもつ糖鎖リガンドの構造情報を受け取るレセプター(情報受容蛋白質、または、標的分子)としての機能が注目されている。
 本明細書において使用される場合、用語「相補的核酸」とは、当該分野において用いられる最も広義の意味として定義され、核酸の塩基対合律により、互いに塩基対を形成し得る核酸をいう。これらとしては、例えば、DNA、RNA等が挙げられるが、これらに限定されない。
 本明細書において使用される場合、用語「レセプター」とは、「受容体」とも称され、細胞に存在して外部からの刺激を認識し、伝達するための構造を有するものをいう。これらとしては、例えば、細胞表面受容体、細胞内受容体等が挙げられるが、これらに限定されない。
 本明細書において使用される場合、用語「リガンド」とは、物質にとって、それ自体が非常に強固に吸着される分子をいう。これらとしては、例えば、タンパク質、核酸、化学物質等が挙げられるが、これらに限定されない。
 本明細書において使用される場合、用語「アプタマー」とは、種々の物質(タンパク質、化学物質など)の構造を認識し、結合し得る比較的分子量の小さい核酸をいう。これらとしては、例えば、RNAアプタマー、DNAアプタマー等が挙げられるが、これらに限定されない。
 本明細書において使用される場合、用語「抗原」とは、抗体の産生を促す働きを有する物質をいう。例えば、高分子の糖、タンパク質、それらの複合体、ウイルス、細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。
 本明細書中で使用される場合、「親水性化」は、リポソーム表面に親水性化合物を結合させることをいう。親水性化に用いる化合物としては、低分子の親水性化合物、好ましくは少なくとも1つのOH基を有する低分子の親水性化合物、さらに好ましくは、少なくとも2つのOH基を有する低分子の親水性化合物が挙げられる。また、さらに少なくとも1つのアミノ基を有する低分子の親水性化合物、すなわち分子中に少なくとも1つのOH基と少なくとも1つのアミノ基を有する親水性化合物が挙げられる。このような親水性化合物として、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンなどを含むトリス(ヒドロキシアルキル)アミノアルカン等のアミノアルコール類等が挙げられ、さらに具体的には、トリス(ヒドロキシメチノレ)アミノエタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノプロパン等が挙げられる。
 (アンミン白金錯体内包リポソーム)
このアンミン白金錯体内包リポソームは、水溶性アンミン白金錯体原料と、リポソーム原料とを混合して、リポソーム形成維持条件に供することによって得ることができる。
 1つの実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体(例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II))を、1mg脂質あたり43μgより多く、例えば、43.1、43.2、43.3、43.4、43.5、43.6、43.7、43.8、43.9、44、44.5、45、45.5、46、46.5、47、47.5、48、48.5、49、49.5、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、62.5、65、67.5、70、72.5、75、77.5、80、82.5、85、87.5、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200あるいはそれ以上、好ましくは、70μg以上、より好ましくは、85μg以上、最も好ましくは、100μg以上で含み得る。1つの実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体を、1mg脂質あたり200μg以下で含み得る。アンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体(例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II))を、1mg脂質あたり200μg以下、例えば、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、95、90、87.5、85、82.5、80、77.5、75、72.5、70、67.5、65、62.5、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49.5、49、48.5、48、47.5、47、46.5、46、45.5、45、44.5、44、43.9、43.8、43.7、43.6、43.5、43.4、43.3、43.2、43.1あるいはそれ以下、好ましくは、70μg以下、より好ましくは、85μg以下、最も好ましくは、100μg以下で含み得る。
 1つの実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体(例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II))を、例えば、1mgリン脂質あたり249.4より多く、例えば、249.5、249.6、249.7、249.8、249.9、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1160あるいはそれ以上、好ましくは、406μg、より好ましくは、493μg、最も好ましくは、580μg以上で含み得る。1つの実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体を、1mgリン脂質あたり1160μg以下で含み得る。アンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体(例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II))を、1mgリン脂質あたり1160μg以下、例えば、1100、1000、950、900、850、800、750、700、650、600、590、580、570、560、550、540、530、520、510、500、490、480、470、460、450、440、430、420、410、400、390、380、370、360、350、340、330、320、310、300、295、290、285、280、275、270、265、260、255、250、249.9、249.8、249.7、249.6、249.5、249.4あるいはそれ以下、好ましくは、580μg以下、より好ましくは、493μg以下、最も好ましくは、406μg以下で含み得る。
 1つの実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体(例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II))を、例えば、リポソーム1mlあたり43.1、43.2、43.3、43.4、43.5、43.6、43.7、43.8、43.9、44、44.5、45、45.5、46、46.5、47、47.5、48、48.5、49、49.5、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、62.5、65、67.5、70、72.5、75、77.5、80、82.5、85、87.5、90、95、100、110、120、130、140、150、200、250、300、350、400、450、500あるいはそれ以上、好ましくは、210μg以上、より好ましくは、255μg以上、最も好ましくは、300μg以上で含み得る。1つの実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体を、1mg脂質あたり500μg以下で含み得る。アンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体(例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II))を、リポソーム1mlあたり500μg以下、例えば、500、450、400、350、300、250、200、150、140、130、120、110、100、95、90、87.5、85、82.5、80、77.5、75、72.5、70、67.5、65、62.5、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49.5、49、48.5、48、47.5、47、46.5、46、45.5、45、44.5、44、43.9、43.8、43.7、43.6、43.5、43.4、43.3、43.2、43.1以下、好ましくは、210μg以下、より好ましくは、255μg以下、最も好ましくは、300μg以下で含み得る。
 1つの実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体(例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II))を、例えば、リポソーム1個あたり43.1×10-11、43.2×10-11、43.3×10-11、43.4×10-11、43.5×10-11、43.6×10-11、43.7×10-11、43.8×10-11、43.9×10-11、44×10-11、44.5×10-11、45×10-11、45.5×10-11、46×10-11、46.5×10-11、47×10-11、47.5×10-11、48×10-11、48.5×10-11、49×10-11、49.5×10-11、50×10-11、51×10-11、52×10-11、53×10-11、54×10-11、55×10-11、56×10-11、57×10-11、58×10-11、59×10-11、60×10-11、62.5×10-11、65×10-11、67.5×10-11、70×10-11、72.5×10-11、75×10-11、77.5×10-11、80×10-11、82.5×10-11、85×10-11、87.5×10-11、90×10-11、95×10-11、100×10-11、110×10-11、120×10-11、130×10-11、140×10-11、150×10-11、160×10-11、170×10-11、180×10-11、190×10-11、200×10-11μgあるいはそれ以上、好ましくは、70×10-11μg、より好ましくは、85×10-11μg、最も好ましくは、100×10-11μg以上で含み得る。1つの実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体を、リポソーム1個あたり200μg以下で含み得る。アンミン白金錯体内包リポソームは、アンモニアを有するアンミン白金錯体(例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II))を、リポソーム1個あたり200×10-11μg以下、例えば、200×10-11、190×10-11、180×10-11、170×10-11、160×10-11、150×10-11、140×10-11、130×10-11、120×10-11、110×10-11、100×10-11、95×10-11、90×10-11、87.5×10-11、85×10-11、82.5×10-11、80×10-11、77.5×10-11、75×10-11、72.5×10-11、70×10-11、67.5×10-11、65×10-11、62.5×10-11、60×10-11、59×10-11、58×10-11、57×10-11、56×10-11、55×10-11、54×10-11、53×10-11、52×10-11、51×10-11、50×10-11、49.5×10-11、49×10-11、48.5×10-11、48×10-11、47.5×10-11、47×10-11、46.5×10-11、46×10-11、45.5×10-11、45×10-11、44.5×10-11、44×10-11、43.9×10-11、43.8×10-11、43.7×10-11、43.6×10-11、43.5×10-11、43.4×10-11、43.3×10-11、43.2×10-11、43.1×10-11あるいはそれ以下、好ましくは、70μg×10-11以下、より好ましくは、85μg×10-11以下、最も好ましくは、100μg×10-11以下で含み得る。
 1つの実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、2つのアンモニアを有し得る。
 別の実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)の水溶性形態であり得る。
 別の実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体内包リポソームは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)であり得る。
 別の実施形態において、本発明のアンミン白金錯体を内包するリポソームは、脂質として、ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、コール酸ナトリウム、ジセチルフォスファチジルエタノールアミン-ポリグリセリン8G、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジン酸、ジオレオイルホスファチジン酸、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド、ホスフナチド、グロボチド、GM1(Galβ1,3GalNAcβ1,4(NeuAα2,3)Galβ1,4Glcβ1,1’Cer)、ガングリオシドGD1a、ガングリオシドGD1b、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール等を含み得るが、これらに限定されない。好ましくは、ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、コール酸ナトリウム、ジセチルフォスファチジルエタノールアミン-ポリグリセリン8G、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールであり得る。なぜなら、上記以外の脂質から構成されたリポソームであっても、リポソーム中にcis-ジアンミンジクロロ白金(II)および/またはその水溶性形態を含ませることができ、かつ、それらをリポソーム中に留めておくことができるような脂質により構成されていればよいからである。好ましくは、前記アンミン白金錯体を内包するリポソームは、ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンおよびコール酸ナトリウムを、35:40:15:5:5:167のモル比で含み得る。
 本発明において、リポソームは、複数の製造方法により調製されたリポソーム(例えば、改良コール酸塩法のもの、凍結乾燥法のもの)を混ぜ合わせて使用することもできる。
 1つの実施形態において、本発明において使用されるアンミン白金錯体を内包するリポソームは、標的指向性物質をさらに含み得る。前記標的指向性物質としては、例えば、抗体、糖鎖、レクチン、相補的核酸、レセプター、リガンド、アプタマーおよび抗原(好ましくは、抗体、糖鎖)が挙げられるが、これらに限定されない。なぜなら、適切な架橋剤を用いることによって、あらゆる物質をリポソーム膜表面に修飾することができるからである。
 ここで、本発明のアンミン白金錯体を内包するリポソームは、上述の(製造方法)に記載される任意の方法により製造することができる。
 (好ましい実施形態の説明)
 以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
 (組成物)
 1つの局面において、本発明は、がんまたは腫瘍を処置するための組成物を提供する。この組成物は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を含み、そして該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含み得る。
 1つの実施形態において、本発明は、がんまたは腫瘍を処置するための組成物を提供する。この組成物は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)(シスプラチン)を1mg脂質あたり43μgより多く内包するリポソームを含み得、かつ該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含み得る。
 本発明において使用されるシスプラチン内包リポソームでは、取り込まれたシスプラチンのほとんどがリポソームの内水相に存在すると考えられる(195Pt-NMRにより確認されている。)。このようにシスプラチンはリポソームの内水相に存在するので、リポソームが標的部位の細胞に取り込まれ、リポソーム膜が破壊されるまで、シスプラチンは放出されないと考えられる。さらに、このリポソームは、所望の標的指向性を持たせることができる。また、本発明において使用されるリポソームは、その表面が負電荷を帯びているので、非特異的な血管壁、血中成分との結合が低減され、より特異的な標的指向性を有する。さらに、リポソーム膜を親水性化により、マクロファージなどの貪食細胞による貪食を防ぎ、血中滞留性を高めることも可能である。従って、このようなリポソームを採用することにより、本発明の組成物は、従来技術よりはるかに低用量で投与しても、標的に対して従来と少なくとも同程度の薬効(例えば、抗がん作用)を維持しながら、個体に対する副作用を軽減することを可能にした。
 1つの実施形態において、本発明によるcis-ジアミンジクロロ白金(II)体内包リポソームは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を1mg脂質あたり43μgより多く、例えば、43.1、43.2、43.3、43.4、43.5、43.6、43.7、43.8、43.9、44、44.5、45、45.5、46、46.5、47、47.5、48、48.5、49、49.5、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、62.5、65、67.5、70、72.5、75、77.5、80、82.5、85、87.5、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200あるいはそれ以上、好ましくは、70μg以上、より好ましくは、85μg以上、最も好ましくは、100μg以上で含み得る。1つの実施形態において、本発明において使用されるリポソームは、例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を、1mg脂質あたり500μg以下で含み得る。cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を、1mg脂質あたり200μg以下、例えば、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、95、90、87.5、85、82.5、80、77.5、75、72.5、70、67.5、65、62.5、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49.5、49、48.5、48、47.5、47、46.5、46、45.5、45、44.5、44、43.9、43.8、43.7、43.6、43.5、43.4、43.3、43.2、43.1あるいは以下、好ましくは、70μg以下、より好ましくは、85μg以下、最も好ましくは、100μg以下で含み得る。
 別の実施形態において、本発明において使用されるリポソームは、例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を、1mgリン脂質あたり249.4より多く、例えば、249.5、249.6、249.7、249.8、249.9、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1160あるいはそれ以上、好ましくは、406μg、より好ましくは、493μg、最も好ましくは、580μg以上で含み得る。1つの実施形態において、本発明において使用されるリポソームは、例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を、1mgリン脂質あたり1160μg以下で含み得る。cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を、1mgリン脂質あたり1160μg以下、例えば、1100、1000、950、900、850、800、750、700、650、600、590、580、570、560、550、540、530、520、510、500、490、480、470、460、450、440、430、420、410、400、390、380、370、360、350、340、330、320、310、300、295、290、285、280、275、270、265、260、255、250、249.9、249.8、249.7、249.6、249.5、249.4あるいはそれ以下、好ましくは、580μg以下、より好ましくは、493μg以下、最も好ましくは、406μg以下で含み得る。
 別の実施形態において、本発明において使用されるリポソームは、例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を、リポソーム1mlあたり43.1、43.2、43.3、43.4、43.5、43.6、43.7、43.8、43.9、44、44.5、45、45.5、46、46.5、47、47.5、48、48.5、49、49.5、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、62.5、65、67.5、70、72.5、75、77.5、80、82.5、85、87.5、90、95、100、110、120、130、140、150、200、250、300、350、400、450、500あるいはそれ以上、好ましくは、210μg、より好ましくは、255μg、最も好ましくは、300μg以上で含み得る。1つの実施形態において、本発明において使用されるリポソームは、例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を、リポソーム1mlあたり500μg以下で含み得る。cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を、リポソーム1mlあたり500μg以下、例えば、500、450、400、350、300、250、200、150、140、130、120、110、100、95、90、87.5、85、82.5、80、77.5、75、72.5、70、67.5、65、62.5、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49.5、49、48.5、48、47.5、47、46.5、46、45.5、45、44.5、44、43.9、43.8、43.7、43.6、43.5、43.4、43.3、43.2、43.1以下、好ましくは、210μg以下、より好ましくは、255μg以下、最も好ましくは、300μg以下で含み得る。
 別の実施形態において、本発明において使用されるリポソームは、例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を、リポソーム1個あたり43.1×10-11、43.2×10-11、43.3×10-11、43.4×10-11、43.5×10-11、43.6×10-11、43.7×10-11、43.8×10-11、43.9×10-11、44×10-11、44.5×10-11、45×10-11、45.5×10-11、46×10-11、46.5×10-11、47×10-11、47.5×10-11、48×10-11、48.5×10-11、49×10-11、49.5×10-11、50×10-11、51×10-11、52×10-11、53×10-11、54×10-11、55×10-11、56×10-11、57×10-11、58×10-11、59×10-11、60×10-11、62.5×10-11、65×10-11、67.5×10-11、70×10-11、72.5×10-11、75×10-11、77.5×10-11、80×10-11、82.5×10-11、85×10-11、87.5×10-11、90×10-11、95×10-11、100×10-11、110×10-11、120×10-11、130×10-11、140×10-11、150×10-11、160×10-11、170×10-11、180×10-11、190×10-11、200×10-11μgあるいはそれ以上、好ましくは、70×10-11μg、より好ましくは、85×10-11μg、最も好ましくは、100×10-11μg以上で含み得る。1つの実施形態において、本発明において使用されるリポソームは、例えば、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を、リポソーム1個あたり200μg以下で含み得る。cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を、リポソーム1個あたり200×10-11μg以下、例えば、200×10-11、190×10-11、180×10-11、170×10-11、160×10-11、150×10-11、140×10-11、130×10-11、120×10-11、110×10-11、100×10-11、95×10-11、90×10-11、87.5×10-11、85×10-11、82.5×10-11、80×10-11、77.5×10-11、75×10-11、72.5×10-11、70×10-11、67.5×10-11、65×10-11、62.5×10-11、60×10-11、59×10-11、58×10-11、57×10-11、56×10-11、55×10-11、54×10-11、53×10-11、52×10-11、51×10-11、50×10-11、49.5×10-11、49×10-11、48.5×10-11、48×10-11、47.5×10-11、47×10-11、46.5×10-11、46×10-11、45.5×10-11、45×10-11、44.5×10-11、44×10-11、43.9×10-11、43.8×10-11、43.7×10-11、43.6×10-11、43.5×10-11、43.4×10-11、43.3×10-11、43.2×10-11、43.1×10-11あるいはそれ以下、好ましくは、70μg×10-11以下、より好ましくは、85μg×10-11以下、最も好ましくは、100μg×10-11以下で含み得る。
 別の実施形態において、本発明の組成物は、前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)が、少なくとも500mg/mとなるように投与されるように処方され得る。このcis-ジアミンジクロロ白金(II)は、例えば、約500~約2000mg/m、好ましくは、約500~約1800mg/m、より好ましくは、約500~約1400mg/m、最も好ましくは、約500~約1000mg/mであるが、これらに限定されない。本発明の組成物は、例えば、静脈内投与により投与されうる。シスプラチンは副作用が高いため、投与量が制限されており、その副作用を軽減するために、少量ずつを繰り返し投与することが余儀なくされている。これにより、がん・腫瘍細胞はシスプラチンに耐性を持つようになり、効かなくなることが、臨床上の問題となっている。この点について、理論に束縛されることを望まないが、本発明の組成物は副作用が少ないので、一度に大量のシスプラチンを投与することが可能であり、がん・腫瘍細胞を一気に死滅させることができると考えられる。さらに、本発明の組成物は、標的指向性物質を含ませることが可能であり、がん・腫瘍細胞をピンポイントでターゲティングすることが可能である。また、本発明の組成物は、がん・腫瘍細胞の抗腫瘍効果が実際に確認されていることから、がん・腫瘍組織の周辺に集積したのち、シスプラチンを除放することにより副作用を抑えつつ抗腫瘍効果を発揮していると考えられる。
 1つの実施形態では、本発明の組成物において、上記がんまたは腫瘍は、精巣腫瘍、膀胱がん、腎盂・尿管腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、食道がん、子宮頸がん、神経芽細胞種、胃がん、小細胞肺がん、骨肉種、胚細胞腫瘍などが挙げられるが、これらに限定されない。ここで、がんは、腫瘍や白血病等のあらゆる新生物による疾患を含む。好ましくは、がんまたは腫瘍は、大腸がん、肺がん、扁平上皮がん、乳がん、卵巣がんであり得る。
 1つの実施形態において、本発明の組成物に含まれ得る標的指向性物質は、例えば、抗体、糖鎖、レクチン、相補的核酸、レセプター、リガンド、アプタマー、抗原であり得る。好ましくは、標的指向性物質は、抗体(例えば、抗E-セレクチン抗体など)、糖鎖(例えば、シアリルルイスX(SLX)など)であり得るが、これらに限定されない。なぜなら、標的指向性物質は、リポソームを破壊することなく、リポソームに標的指向性を付与するようなものであれば、よいからである。当業者は、標的にあわせて、リポソームに結合させる標的指向性物質を適宜、決定することができる。
 本発明の組成物は、標的指向性物質を含ませることにより、がんまたは腫瘍などの標的部位にcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームを特異的に集積させることが可能となる。特に、シアリルルイスXまたは抗E-セレクチン抗体で修飾したリポソームは、血管新生を盛んに行うようながん・腫瘍に顕著に集積することから、がん細胞の成長および増殖ならびに血管新生を抑制すると考えられる。その結果、従来技術よりはるかに低用量のcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームを含む組成物を投与して、標的に対して従来と少なくとも同程度の薬効(例えば、抗がん作用)を維持しながら、個体に対する副作用を軽減することが可能となった。
 1つの実施形態において、本発明の組成物において、上記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、水溶性形態であり得る。
 別の実施形態において、本発明の組成物において使用され得るcis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包するリポソームは、脂質として、ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、コール酸ナトリウムコール酸ナトリウム、ジセチルフォスファチジルエタノールアミン-ポリグリセリン8G、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジン酸、ジオレオイルホスファチジン酸、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド、ホスフナチド、グロボチド、GM1(Galβ1,3GalNAcβ1,4(NeuAα2,3)Galβ1,4Glcβ1,1’Cer)、ガングリオシドGD1a、ガングリオシドGD1b、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール等を含み得るが、これらに限定されない。好ましくは、ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、コール酸ナトリウム、ジセチルフォスファチジルエタノールアミン-ポリグリセリン8G、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールであり得る。なぜなら、上記以外の脂質から構成されたリポソームであっても、リポソーム中にcis-ジアンミンジクロロ白金(II)および/またはその水溶性形態を含ませることができ、かつ、それらをリポソーム中に留めておくことができるような脂質により構成されていればよいからである。
 本発明の組成物において使用されるリポソームは、水溶性形態のcis-ジアンミンジクロロ白金(II)がそのリポソーム膜を通過してリポソーム中に入ることができるようなものであれば、どのようなものであってもよい。なぜなら、水溶性形態のcis-ジアンミンジクロロ白金(II)が、その提供されたリポソームまたは形成されたリポソームの膜を通過してリポソーム内に移行し、その中に留まりさえすればよいからである。リポソームは、市販されているものを使用してもよく、例えば、日油などから市販されている。リポソームは、複数の製造方法により調製されたリポソーム(例えば、改良コール酸塩法のもの、凍結乾燥法のもの)を混ぜ合わせて使用することもできる。
 一般的なリポソームの調製および特徴付けは当該分野において公知であり、そして慣用的な実験および当該分野の技術常識しか必要としない。例えば、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、凍結乾燥法、逆相蒸発法により調製されたものであり得る(例えば、「リポソーム応用の新展開~人工細胞の開発に向けて~ 監修 秋吉一成/辻井薫 NTS p33~45(2005)」、「リポソーム 野島庄七 p21-40 南江堂(1988)」を参照のこと。)が挙げられ得る。
 ここで、本発明において使用されるcis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包するリポソームは、上述の(製造方法)および(アンミン白金錯体内包リポソーム)に記載される任意の形態が使用され得る。
 本発明の組成物、医薬、製剤は、必要に応じて、適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアを含み得る。適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、蛍光色素、風味料、希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクルおよび/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の組成物は、アンミン白金錯体、および必要に応じて他の有効成分を、少なくとも1つの生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、ミセル、注射溶液、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的に使用される他の物質を補充することが可能である。
 本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、好ましくは、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、好ましくは、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α-トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリン);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられる。
 例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH約7.0-8.5のTris緩衝剤またはpH約4.0-5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
 以下に本発明における組成物の一般的な調製法を示す。なお、動物薬組成物、医薬部外品、水産薬組成物および化粧品組成物等についても公知の調製法により製造することができることに注意されたい。
 本発明の組成物は、薬学的に受容可能なキャリアと必要に応じて配合し、例えば、注射剤、懸濁剤、溶液剤、スプレー剤等の液状製剤として非経口的に投与することができる。薬学的に受容可能なキャリアの例としては、賦形剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤、崩壊阻害剤、吸収促進剤、吸収剤、湿潤剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等が挙げられる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の製剤添加物を用いることができる。また、本発明の組成物、医薬には、シアリルルイスX、脂質など以外の物質を配合することも可能である。非経口の投与経路としては、静脈内、筋肉内、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、局所投与、皮膚投与など等が挙げられるがそれらに限定されない。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製について、pH、等張性、安定性などを考慮することは、当業者の技術範囲内である。
 液状製剤における溶剤の好適な例としては、注射溶液、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油およびトウモロコシ油等が挙げられる。
 液状製剤における溶解補助剤の好適な例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウム等が挙げられるがそれらに限定されない。
 液状製剤における懸濁化剤の好適な例としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられる。
 液状製剤における等張化剤の好適な例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール等が挙げられるがそれらに限定されない。
 液状製剤における緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩およびクエン酸塩等が挙げられるがそれらに限定されない。
 液状製剤における無痛化剤の好適な例としては、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウムおよび塩酸プロカイン等が挙げられるがそれらに限定されない。
 液状製剤における防腐剤の好適な例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、2-フェニルエチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられるがそれらに限定されない。
 液状製剤における抗酸化剤の好適な例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α-トコフェロールおよびシステイン等が挙げられるがそれらに限定されない。
 注射剤として調製する際には、液剤および懸濁剤は殺菌され、かつ血液または他の目的のための注射部位における溶媒と等張であることが好ましい。通常、これらは、細菌保留フィルター等を用いるろ過、殺菌剤の配合または照射などによって無菌化する。さらにこれらの処理後、凍結乾燥等の方法により固形物とし、使用直前に無菌水または無菌の注射用希釈剤(塩酸リドカイン水溶液、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノールまたはこれらの混合溶液等)を添加してもよい。
 さらに、本発明における組成物は、着色料、保存剤、香料、矯味矯臭剤、甘味料等、ならびに他の薬剤を含んでいてもよい。
 本発明において使用される物質、組成物等の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、被験体の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の方法を被験体に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、被験体の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日-数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回-1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間-1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。投与する量は、処置されるべき部位が必要とする量を見積もることによって確定することができる。
 本明細書において「被験体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は、例えば、鳥類、哺乳動物などであってもよい。好ましくは、そのような動物は、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)であり得る。例示的な被験体としては、例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物が挙げられるがそれらに限定されない。さらに好ましくは、ヒトであり得る。
 本明細書において「処置するのに有効な量」とは、当業者に十分に認識される用語であり、意図される薬理学的結果(例えば、予防、治療、再発防止など)を生じるために有効な薬剤の量をいう。従って、処置有効量は、処置されるべき疾患の徴候を軽減するのに十分な量である。所定の適用のための有効量(例えば、処置有効量)を確認する1つの有用なアッセイは、標的疾患の回復の程度を測定することである。実際に投与される量は、処置が適用されるべき個体に依存し、好ましくは、所望の効果が顕著な副作用をともなうことなく達成されるように最適化された量である。有効用量の決定は十分に当業者の能力内にある。
 治療有効量、予防有効量などおよび毒性は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順(例えば、ED50、集団の50%において治療的に有効な用量;およびLD50、集団の50%に対して致死的である用量)によって決定され得る。治療効果と毒性効果との間の用量比は治療係数であり、それは比率ED50/LD50として表され得る。大きな治療係数を呈する薬物送達媒体が好ましい。細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータが、ヒトでの使用のための量の範囲を公式化するのに使用される。このような化合物の用量は、好ましくは、毒性をほとんどまたは全くともなわないED50を含む循環濃度の範囲内にある。この用量は、使用される投与形態、患者の感受性、および投与経路に依存してこの範囲内で変化する。一例として、投与量は、年齢その他の患者の条件、疾患の種類、使用する細胞の種類等により適宜選択される。
 以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本明細書の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
 以下、実施例により、本発明の構成をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において使用した試薬類は、特に言及した場合を除いて、市販されているものを使用した。
 (実施例1:cis-ジアンミンジクロロ白金(II)を内包したリポソームの調製)
 (cis-ジアミンジニトラト白金(II)(シスプラチン-硝酸体)の合成)
 4塩化白金カリウム(KPtCl)4.15g(10.0mmol)とヨウ化カリウム6.64g(40mmol)を、酸素を充分に除去した蒸留水50mlに完全に溶解した後、窒素雰囲気下で28%アンモニア水溶液1.35ml(22mmol)を添加し、撹拌することにより沈澱を得た。この沈澱物を水とエタノールで各々2回洗浄した後、常温で真空(~20mmHg)乾燥することにより、アンミン-白金中間体cis-〔Pt(NH〕4.49gを得た。このアンミン-白金中間体cis-〔Pt(NH〕2.41g(5.0mmol)を蒸留水30mlに懸濁させた後、硝酸銀1.68g(9.9mmol)を添加して、遮光下、24時間攪拌した。生成したヨウ化銀を濾別し、濾液をエバポレーターで濃縮し白色結晶を得た。この白色結晶を、冷蒸留水と冷エタノールで2回洗浄し、乾燥させ、シスプラチン-硝酸体として無色のcis-〔Pt(NH(NO〕を1.01g得た。
 (cis-ジアミンジニトラト白金(II)を内包したリポソームの調製)
 ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、コレステロール、ガングリオシド、ジセチルホスフェート(DCP)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)をモル比で、35:40:15:5:5の割合で合計脂質量45.6mgになるように混合し、コール酸ナトリウム46.9mgを添加し、メタノール・クロロホルム溶液(1:1)溶液3mlに溶解させた。37℃、1時間撹拌し、メタノール・クロロホルムをロータリーエバポレーターで蒸発させて、真空乾燥させた。得られた脂質膜をNaCl未添加のN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)3mlに懸濁させ、37℃、1時間撹拌した。次いで、この溶液を窒素置換し、超音波処理して、透明なミセル懸濁液を得た。次に、cis-ジアミンジニトラト白金(II)を54.1mgを秤量して、NaCl未添加のN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)7mlに溶解させ、ミセル懸濁液と混合し、PM10(Amicon Co.,USA)とNaCl未添加のN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)を用いた限外濾過(分画分子量:10,000)にかけ均一リポソーム10ml(35.5mg 脂質量)を調製した。
 (リポソーム中にcis-ジアミンジニトラト白金(II)が内包されたことの確認)
 本実施例で調製されたリポソームに、cis-ジアミンジニトラト白金(II)が内包されていることをフレームレス原子吸光光度法(FAAS)により確認した。
 フレームレス原子吸光光度法(FAAS)には、AA-6700 Atomic absorption Flame emission spectrophotometer(島津)を用いた。波長265.9nm、スリット幅0.5、ランプ電流14mAの条件下にて、120℃で30秒間、250℃で10秒間、700℃で20秒間、700℃で5秒間、2600℃で3秒間にわたって順次処理した。白金標準液(1mg Pt/ml、1000ppm)を精製水で希釈して、12.5ng/ml、25ng/ml、50ng/ml、100ng/ml、200ng/mlの溶液を調製し、検量線を作成した。リポソーム溶液を精製水で10000倍して、被検試料とした。
 (結果)
 本実施例において調製されたリポソーム中には、cis-ジアミンジニトラト白金(II)が323.33μg/1ml(91.08μg/mg脂質)内包されていた。得られたリポソームの脂質量は35.5mgであった。このcis-ジアミンジニトラト白金(II)のリポソームへの内包率は、5.9%であった。cis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームを含む溶液は、無色であった。
 (cis-ジアミンジニトラト白金(II)のcis-ジアミンジクロロ白金(II)への転換)
 cis-ジアミンジニトラト白金(II)が内包されたことが確認されたリポソームを、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)、炭酸緩衝液(pH8.5)、PBS(pH8.0)、またはHEPES緩衝液(pH7.2)に、25℃にて、96時間にわたり供する。これらの緩衝液は、いずれも最終濃度150mMのNaClが含まれている。
 その結果、無色の溶液は淡黄色に変化することが確認される。これは、cis-ジアミンジニトラト白金(II)が、cis-ジアミンジクロロ白金(II)に転換したことを示す。さらに、この変化は、吸光光度法、IR法、195Pt-NMR法により検出することができる。
 (吸光光度法)
 (1)最終濃度150mMのNaClが含まれるバッファーに96時間供したcis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームのNaClをバッファー交換により除き、10倍濃縮する。(2)100℃で、30分間の加熱後(リポソームの破壊)、クロロホルムにより溶媒抽出を行う。(3)水層を回収する。(4)回収した水層について波長200~400nmの吸収スペクトルを測定する。(5)cis-ジアミンジニトラト白金(II)を内包した直後(150mM NaClに供する前)のリポソームについても(2)~(4)の操作を行う。(6)バッファーに96時間供したcis-ジアミンジニトラト白金(II)リポソームと、cis-ジアミンジニトラト白金(II)の内包直後のリポソームについて、吸収スペクトルを比較することにより、cis-ジアミンジニトラト白金(II)からcis-ジアミンジクロロ白金(II)ヘの転換を確認することができる。
 (IR法)
 吸光光度法と同様に溶媒抽出を行う。水層を回収後、ロータリーエバボレーターを用いて水を蒸発させる。Nujol法により、IRスペクトルを測定し、最終濃度150mMのNaClが含まれるバッファーに96時間供したcis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームと、cis-ジアミンジニトラト白金(II)を内包した直後(150mMNaClに供する前)のリポソームのスペクトルを比較する。
 cis-ジアミンジニトラト白金(II)の状態である場合、Pt-O-Hの変角振動のスペクトルが、950~1100cm-1の領域に現れる。cis-ジアミンジクロロ白金(II)の状態である場合、Pt-Cl結合しかないので、950~1100cm-1の領域にはバンドは認められない。従って、cis-ジアミンジニトラト白金(II)からcis-ジアミンジクロロ白金(II)ヘの転換を確認することができる。
 白金錯体に関するIR法の詳細については、例えば、R.Fraggiani,B.Lippert,C.J.Lock and B.Rosenberg,J.Am.Chem.Soc.,99,777(1977)、F.D.Rochon,A.Morneau and R.Melason,Inorg.Chem.,27,10(1988)に記載されている。
 (リポソーム内に内包された硝酸体のシスプラチンへの変換)
 (195PtNMRスペクトルによる解析)
 リポソーム内に内包された硝酸体のシスプラチンへの変換は、195PtNMRスペクトルにより解析する。195PtNMRスペクトルの感度は、天然の13C-NMRスペクトルの感度より20倍大きい。また、195Ptの天然存在比は、33.8%であり、天然に存在する白金のHに対する相対感度は、3.4×10-3と比較的高い。さらにその化学シフトは1500ppmという極めて広い周波数領域に観測されるので、構造や結合性を調べる上で、極めて有用である。
 (サンプル調製)
 以下のように、シスプラチン、硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))および硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))内包リポソームのサンプルを調製する。
 シスプラチン:シスプラチン(M.W:300)2mgをDO1mlに溶解させてサンプルとする。(6.6mM)
 硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II)):硝酸体(M.W.365)5mgをDO1mlに溶解させてサンプルとする。(13.7mM)
 硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))内包リポソーム(NaCl):Pt濃度が4.75mMとなるように濃縮して使用する。
 (測定方法)
 NaPtCl(ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム(Sodium hexachloroplatinate(IV))をDOに溶解させて外部標準液を作成する。NMR装置は、INOVA-600(Varian社)を使用する。直径5mmの測定管にサンプルをいれて、測定を行う。
 この測定方法では、対照として測定したシスプラチンは、-2160ppm、硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))は、-1620ppmに各々ケミカルシフトが観測されることになる。したがって、目的とするリポソームに内包された硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))のケミカルシフトは、外液中にNaClが含まれる場合、シスプラチンと同じ-2160ppmに観測される。これらのケミカルシフト等を測定することにより、内包された硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))は、緩衝液中の塩化ナトリウム由来のClイオンにより置換され、シスプラチンに変換されているかどうかを確認することができる。
 (比較例1.塩化ナトリウムイオンの影響)
 DPPC、コレステロール、ガングリオシド、DCP、DPPEをモル比で、35:40:15:5:5の割合で合計脂質量45.6mgになるように混合し、コール酸ナトリウム46.9mgを添加し、メタノール・クロロホルム溶液(1:1)溶液3mlに溶解させた。37℃、1時間撹拌し、メタノール・クロロホルムをロータリーエバポレーターで蒸発させて、真空乾燥させた。得られた脂質膜をNaClを添加したN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)3mlに懸濁させ、37℃、1時間撹拌した。次いで、この溶液を窒素置換し、超音波処理して、透明なミセル懸濁液を得た。次に、cis-ジアミンジニトラト白金(II)を54.1mgを秤量して、NaClを添加したN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)7mlに溶解させ、ミセル懸濁液と混合し、PM10(Amicon Co.,USA)とNaClを添加したN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)を用いた限外濾過(分画分子量:10,000)にかけ均一リポソーム10mlを調製した。
 NaClを添加したN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)を用いた場合、cis-ジアミンジニトラト白金(II)はリポソームに内包されなかった。N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)緩衝液に溶解後、数十分で析出が生じた。これらは、吸光度法により確認した。測定には、UV2500PC(島津)吸光光度計を使用した。
 cis-ジアミンジニトラト白金(II)5mg/mlを150mM 塩化ナトリウムを含むTAPS緩衝液(pH8.4)に溶解し、25℃で静置し、経時的(0時間、5分後、10分後、15分後、30分後および45分後)にUVスペクトルを測定した。コントロールとして、cis-ジアミンジクロロ白金(II)1mgを塩化ナトリウム含有TAPS緩衝液1mlに溶解し、そのUVスペクトルを測定した。図4Aおよび図4Bに示されるように、45分後のUVスペクトルの吸収特性は、シスプラチンと同一の特性であった。45分後以上、放置しても、UVスペクトルに変化は認められなかった。従って、cis-ジアミンジニトラト白金(II)の水溶液を、150mM NaClを含むTAPSに溶解し、25℃で45分間静置すると、cis-ジアミンジニトラト白金(II)がcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変化することがわかった。これは、NaClの存在により、cis-ジアミンジニトラト白金(II)が水に難溶性のcis-ジアミンジクロロ白金(II)となり析出してきてしまうことに原因があると考えられる。
 (実施例2.リポソームの定量分析)
 (I.脂質定量)
 リポソームの構成脂質量を、コレステロール量を定量することにより算出した。脂質の定量にはデタミナーTC555キット(カタログ番号UCC/EAN128)(KYOWA Co.LTD)を用いた。標準物質として、キットに添付されている50mg/ml
 コレステロールを使用した。
 スタンダード溶液として、標準物質(50mg/ml:コレステロール)をPBS緩衝液で希釈し、0、0.1、0.25、0.5、0.75、1、5、10μg/20μl溶液を調製した。Cis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームをPBS緩衝液で5倍希釈し、検体溶液を調製した。スタンダード溶液、検体溶液をそれぞれ試験管に20μl分注した。各試験管に、TritonX-100(10%溶液)を17μl添加して撹拌し、その後、37℃、40分間、静置した。デタミナーTC555キットの酵素試薬を300μl添加して撹拌し、その後、37℃、20分間、静置した。吸光度540nmを測定し、スタンダード溶液により検量線を作成して、リポソームのコレステロール量を測定し、脂質量を求めた。
コレステロール量から脂質量を求める換算式
 脂質量(μg/50μl)=コレステロール量(μg/50μl)×4.51(換算係数)
 得られたリポソームの脂質量は3.55mg/mlであった。
 (II.粒子径分布および粒子径)
 リポソーム粒子を精製水で50倍に希釈して、ゼータサイザーナノ(Nan-ZS:MALVERN Co.LTD)を用いて測定した。
 リポソーム粒子の平均粒子径は、159nmであった(図2A)。
 (実施例3.糖鎖を結合させたcis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームの調製)
 実施例1の「cis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームの調製」と同様の方法により、cis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームを調製した。本実施例において調製されたリポソーム中には、cis-ジアミンジニトラト白金(II)が323.33μg/1ml(91.08μg/mg脂質)内包されていた。得られたリポソームの脂質量は35.5mgであった。このcis-ジアミンジニトラト白金(II)のリポソームへの内包率は、5.9%であった。cis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームを含む溶液は、無色であった。
 (リポソーム脂質膜面上の親水性化処理)
 cis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームの溶液10mlをXM300膜(Amicon Co.,USA)と炭酸緩衝液(pH 8.5)を用いた限外濾過(分画分子量:300,000)にかけ溶液のpHを8.5にした。次に、架橋試薬ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS;Pierce Co.,USA)10mgを加え、室温で2時間攪拌した。その後、さらに冷蔵下で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンとBSとの化学結合反応を完結した。そして、このリポソーム液をXM300膜と炭酸緩衝液(pH 8.5)で限外濾過(分画分子量:300,000)にかけた。次に、炭酸緩衝液(pH 8.5)1mlに溶かしたトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン40mgをリポソーム液10mlに加えた。次いで、この溶液を、室温で2時間攪拌後、冷蔵下で一晩攪拌し、分画分子量300,000で限外濾過し、遊離のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを除去し、該炭酸緩衝液をN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)に交換し、リポソーム膜上の脂質に結合したBSとトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとの化学結合反応を完結した。これにより、リポソーム膜の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン上にトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの水酸基が配位して水和親水性化された。
 (リポソーム膜面上へのヒト血清アルブミン(HSA)の結合)
 リポソーム膜面上へのヒト血清アルブミン(HSA)の結合は、既報の手法(Yamazaki,N.,Kodama,M.and Gabius,H.-J.(1994)MethodsEnzymol.242,56-65)により、カップリング反応法を用いて行った。すなわち、この反応は2段階化学反応で行い、はじめに、本実施例で得られた10mlのリポソーム膜面上に存在するガングリオシドを1mlのN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH 8.4)に溶かしたメタ過ヨウ素酸ナトリウム43mgを加え、冷蔵下で一晩攪拌して過ヨウ素酸酸化した。XM300膜とPBS緩衝液(pH 8.0)で限外濾過(分画分子量:300,000)することにより、遊離の過ヨウ素酸ナトリウムを除去し、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液をPBS緩衝液(pH8.0)に交換して、酸化されたリポソーム10mlを得た。このリポソーム液に、20mgのヒト血清アルブミン(HSA)/PBS緩衝液(pH 8.0)を加えて室温で2時間反応させ、次に2M NaBHCN/PBS緩衝液(pH 8.0)100μlを加えて室温で2時間、さらに冷蔵下で一晩攪拌してリポソーム上のガングリオシドとHSAとのカップリング反応でHSAを結合した。次いで、限外濾過(分画分子量:300,000)し、遊離のシアノホウ素酸ナトリウムおよびヒト血清アルブミンを除去し、この溶液の緩衝液を炭酸緩衝液(pH 8.5)に交換して、HSA結合リポソーム液10mlを得た。
 (糖鎖の調製)
 糖鎖として、シアリルルイスXを使用した。
 各糖鎖の質量を計測し、以下において使用するための前処理をした。
 (リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上への糖鎖の結合)
 本実施例において調製した各糖鎖2mgを精製水に溶解し、0.25gのNHHCOを溶かした0.5ml水溶液に加え、37℃で3日間攪拌した後、0.45μmのフィルターで濾過して糖鎖の還元末端のアミノ化反応を完結して、各糖鎖のグリコシルアミン化合物4mg/ml(アミノ化糖鎖溶液)を得た。次に、本実施例で得たリポソーム液の一部分10mlに架橋試薬3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP;Pierce Co.,USA)10mgを加えて室温で2時間、続いて冷蔵下で一晩攪拌し、XM300膜と炭酸緩衝液(pH 8.5)で限外濾過(分画分子量:300,000)して、遊離のDTSSPを除去し、DTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリポソーム10mlを得た。次に、このリポソーム液に上記のグリコシルアミン化合物(アミノ化糖鎖溶液)12.5、37.5、125、250、500、1250、2500μlを加えて、室温で2時間反応させ、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン/炭酸緩衝液(pH 8.5)を添加し、その後、冷蔵下で一晩攪拌し、リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにグリコシル化アミン化合物の結合を行った。XM300膜とHEPES緩衝液(pH 7.2)で限外濾過(分画分子量:300,000)して、遊離の糖鎖およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを除去した。その結果、糖鎖とヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリポソーム各10mlが得られた。
 (リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上の親水性化処理)
 本実施例で調製された糖鎖が結合したリポソームについて、それぞれ別々に以下の手順によりリポソーム上のHSAタンパク質表面の親水性化処理を行った。このリポソーム10mlに、別々に、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン26.4mgを加えて、室温で2時間、その後冷蔵下で一晩攪拌した後、XM300膜とHEPES緩衝液(pH 7.2)で限外濾過(分画分子量:300,000)し、未反応物を除去した。0.45μmのフィルターで濾過して、最終産物である親水性化処理された糖鎖が結合したリポソーム複合体各10ml(総脂質量15.2mg、総蛋白量1100μg、平均粒子径171nm)を得た。
 (cis-ジアミンジクロロ白金(II)がリポソームに内包されていることの確認)
 本実施例により調製された糖鎖の結合したリポソームを含む溶液は、無色から淡黄色に変化した。これは、リポソームに内包されたcis-ジアミンジニトラト白金(II)が、cis-ジアミンジクロロ白金(II)に転換したことを示す。さらに、この変化は、吸光光度法、IR法、195Pt-NMR法により検出することができる。
 (リポソーム内に内包された硝酸体のシスプラチンへの変換)
 (195PtNMRスペクトルによる解析)
 リポソーム内に内包された硝酸体のシスプラチンへの変換は、195PtNMRスペクトルにより解析した。
 (サンプル調製)
 以下のように、シスプラチン、硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))および硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))内包リポソームのサンプルを調製した。
 シスプラチン:シスプラチン(M.W:300)2mgをDO1mlに溶解させてサンプルとした。(6.6mM)
 硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II)):硝酸体(M.W.365)5mgをDO1mlに溶解させてサンプルとした。(13.7mM)
 硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))内包リポソーム(NaCl):Pt濃度が4.75mMとなるように濃縮して使用した。
 (測定方法)
 NaPtCl(ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム)をDOに溶解させて外部標準液を作成した。NMR装置は、INOVA-600(Varian社)を使用した。直径5mmの測定管にサンプル600μlをいれて、測定を行った。
 (結果)
 対照として測定したシスプラチンは、-2160ppm、硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))は、-1620ppmに各々ケミカルシフトが観測された(図5aおよび図5b)。目的とするリポソームに内包された硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))のケミカルシフトは、外液中にNaClが含まれる場合、シスプラチンと同じ-2160ppmに観測された(図5c)。このことから、内包された硝酸体(cis-ジアンミンジニトラト白金(II))は、緩衝液中の塩化ナトリウム由来のClイオンにより置換され、ほとんどが、シスプラチンに変換されていることが確認された。また、リポソームに内包させたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)をcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変化させない場合は、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)のケミカルシフト値である-1620ppmのピークも、cis-ジアミンジクロロ白金(II)のケミカルシフト値である-2160ppmも認められなかった(図5d)。
 本実施例において調製されたリポソーム中には、cis-ジアミンジクロロ白金(II)が253.98μg/1ml(78.38μg/mg脂質)内包されていた。得られたリポソームの脂質量は32.4mgであった。このcis-ジアミンジクロロ白金(II)のリポソームへの内包率は、4.59%であった。
 特許文献1の方法により製造されたリポソームに内包されるシスプラチンの量は、8.9μg/mg 脂質であり、得られたリポソームの脂質量は200mgである。従って、本方法により製造されたリポソーム1個あたりが内包するシスプラチンの量は、特許文献1のリポソームよりも約9倍量も多い。また、本実施例の方法では、54.1mgのcis-ジアミンジニトラト白金(II)(シスプラチンに換算すると46.0mg)をリポソームに内包させているのに対し、特許文献1では、約2倍量の100mgのシスプラチンをリポソームに内包させている。従って、単位脂質量当たりの内包効率は、内包されたシスプラチン量と内包に使用したシスプラチン量から換算すると、本発明の方法により製造されたリポソームが約18倍程度も優れているといえる。さらに、本発明の方法には加熱工程は含まれず、作製されたリポソームは安定であるといえる。
 また、非特許文献1に記載されるリポソームには、14.0μg/mg 脂質のシスプラチンが内包されている。従って、本方法により製造されたリポソーム1個あたりが内包するシスプラチンの量は、非特許文献1のリポソームよりも約5.6倍量も多い。
 従って、本方法により調製されるシスプラチン内包リポソームは、従来の方法により作製されたリポソームよりも非常に多くのシスプラチンを内包することができることが確認された。
 (実施例4.リポソームの定量分析)
 本実施例では、実施例3で調製した糖鎖の結合したCis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームの定量分析を行った。
 (I.タンパク質定量)
 リポソームに内包されたHSA量とリポソーム表面にカップリングしたHSAの総タンパク質量をBCA法により測定した。
 タンパク質量の測定は、Micro BCATM Protein Assay Reagentキット(カタログ番号23235BN)(PIERCE Co.LTD)を用いた。標準物質として、キットに添付された2mg/mlアルブミン(BSA)を使用した。
 スタンダード溶液として、標準物質(2mg/ml:アルブミン)をPBS緩衝液で希釈し、0、0.25、0.5、1、2、3、4、5μg/50μl溶液を調製した。Cis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームをPBS緩衝液で20倍希釈し、検体溶液を調製した。スタンダード溶液、検体溶液をそれぞれ試験管に50μl分注した。各試験管に3%ラウリル硫酸ナトリウム溶液(SDS溶液)を100μl添加した。キットに添付された試薬A、B、Cを、試薬A:試薬B:試薬C=48:2:50となるように混合し、各試験管に150μl添加した。この試験管を、60℃で1時間、静置した。室温に戻ってから、吸光度540nmを測定し、スタンダード溶液により検量線を作成して、リポソームのタンパク質量を測定した。リポソームのタンパク質量は、110μg/mlであった。
 (II.脂質定量)
 リポソームの構成脂質量を、コレステロール量を定量することにより算出した。脂質の定量にはデタミナーTC555キット(カタログ番号UCC/EAN128)(KYOWA Co.LTD)を用いた。標準物質として、キットに添付されている50mg/ml
 コレステロールを使用した。
 スタンダード溶液として、標準物質(50mg/ml:コレステロール)をPBS緩衝液で希釈し、0、0.1、0.25、0.5、0.75、1、5、10μg/20μl溶液を調製した。実施例3で調製した糖鎖の結合したCis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームをPBS緩衝液で5倍希釈し、検体溶液を調製した。スタンダード溶液、検体溶液をそれぞれ試験管に20μl分注した。各試験管に、TritonX-100(10%溶液)を17μl添加して撹拌し、その後、37℃、40分間、静置した。デタミナーTC555キットの酵素試薬を300μl添加して撹拌し、その後、37℃、20分間、静置した。吸光度540nmを測定し、スタンダード溶液により検量線を作成して、リポソームのコレステロール量を測定し、脂質量を求めた。
コレステロール量から脂質量を求める換算式
 脂質量(μg/50μl)=コレステロール量(μg/50μl)×4.51(換算係数)
 得られたリポソームの脂質量は3.24mg/mlであった。
 (III.粒子径分布および粒子径)
 リポソーム粒子を精製水で50倍に希釈して、ゼータサイザーナノ(Nan-ZS:MALVERN Co.LTD)を用いて測定した。
 リポソーム粒子の平均粒子径は、171nmであった(図2B)。
 (実施例5:抗体を結合させたcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームの調製)
 実施例1の「cis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームの調製」と同様の方法により、cis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームを調製した。このcis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームを含む溶液は無色である。
 (リポソーム脂質膜面上の親水性化処理)
 実施例1と同様の方法により、リポソーム脂質膜面を親水性化処理する。
 (標的指向性物質の調製)
 標的指向性物質として、腫瘍に特異的な抗体として抗E-セレクチン抗体を用いた。この抗体は、以下のようにして調製した。ATCCより抗ヒトE-selectinマウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞(Number:CRL-2515 CL3)を購入して精製した。細胞をRPMI 1640(GIBCO code.11875)/10%FBS/ペニシリン100unit/ml・ストレプトマイシン100μg/ml(Antibiotic Antimycotic solution,stabiklized SIGMA A5955)(ウシ胎児血清 SIGMA F0926)中、37℃、5%CO環境下で培養した。マウスBalb/c(日本SLC 雌性、6週齢)にプリスタン(500μl/mouse)を2回(5日間間隔)投与したのち、5×10のハイブリドーマ細胞をPBSに浮遊させ、1mlずつ腹腔内に注射した。注射後、14日目に開腹し、腹水を採取した。腹水に硫酸アンモニウム(0.4飽和)を添加して、10,000rpm×30分(4℃)で遠心し、沈殿を生理食塩水で溶解し、透析(3日間、4℃)を行った。10,000rpm×30分(4℃)で遠心し、上清に2容量の0.06M 酢酸緩衝液(pH4.8)を添加し、n-Caprylic acidを終濃度で、6.8%となるように添加し、室温で30分間撹拌した。10,000rpm×30分(0~4℃)で遠心し、透析(3日間、4℃)を行った。10,000rpm×30分(0~4℃)で遠心し、上清を回収した。腫瘍に特異的な抗体は、市販のものを用いることもできる(例えば、R&D systems(MN,USA)社製の抗E-セレクチン抗体(AF575)等)。
 (リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上への抗体の結合)
 本実施例で得たリポソーム液の一部分10mlに架橋試薬3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP;Pierce Co.,USA)10mgを加えて室温で2時間、続いて冷蔵下で一晩攪拌し、XM300膜と炭酸緩衝液(pH 8.5)で限外濾過(分画分子量:300,000)して、遊離のDTSSPを除去し、DTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリポソーム10mlを得た。次に、このリポソーム液に本実施例で調製した4.6mg/mlの抗E-セレクチン抗体3.26ml(15mg抗体)を10mlのリポソーム液に添加して、25℃で2時間反応させ、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン/炭酸緩衝液(pH 8.5)を添加し、その後、冷蔵下で一晩攪拌し、リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPに抗E-セレクチン抗体の結合を行った。XM300膜とHEPES緩衝液(pH 7.2)で限外濾過(分画分子量:300,000)して、遊離の抗E-セレクチン抗体およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを除去した。その結果、抗E-セレクチン抗体とヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリポソーム各10mlが得られた。
 (リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上の親水性化処理)
 本実施例で調製された抗E-セレクチン抗体が結合したリポソームについて、実施例3と同様の方法により親水性化処理を行った。
 (cis-ジアミンジクロロ白金(II)がリポソームに内包されていることの確認)
 本実施例により調製された抗E-セレクチン抗体の結合したリポソームを含む溶液は、無色から淡黄色に変化した。これは、リポソームに内包されたcis-ジアミンジニトラト白金(II)が、cis-ジアミンジクロロ白金(II)に転換したことを示す。さらに、この変化は、実施例1と同様の方法を用いて、吸光光度法、IR法、195Pt-NMR法により検出することができる。
 (リポソームの定量分析)
 本実施例で調製した抗E-セレクチン抗体の結合したCis-ジアミンジニトラト白金(II)内包リポソームの定量分析(タンパク質定量、脂質定量、粒子径分布および粒子径)を、実施例1と同様の方法により行った(図6)。
 (実施例6A:がん・腫瘍の処置についての有効性の検討)
 本実施例は、実施例1(糖鎖なしリポソーム)、実施例3(糖鎖修飾リポソーム)および実施例5(抗体修飾リポソーム)により調製したcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームが、がん・腫瘍の処置に有効であることを確認することを目的とする。
 (cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームの抗がん活性評価)
 (1.担がん部位への集積性:がん部位の集積cis-ジアミンジクロロ白金(II)量の評価)
 実施例3(シアリルルイスX修飾リポソーム)により調製したcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームをもちいた。
 6週齢のマウス(Balb/c、雌性)(各群1匹)の右大腿部の皮下に、1×10細胞のエールリッヒ腹水癌細胞(EAT細胞)(ATCC Number:CCL-77TM E (Ehrlich-Letter ascites))を移植して10日後に実験に用いた。cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包させたシアリルルイスX修飾リポソーム、およびコントロールとしてcis-ジアミンジクロロ白金(II)のみを、それぞれ1.7mg/kg体重(226μg/ml)でマウスに150μl、尾静脈投与した。投与後48、96時間後に腫瘍を摘出した。
 摘出した腫瘍組織(0.2~1.0g)のうち、0.1gに対して濃硝酸 1mLを添加し、5分間撹拌した。1時間静置したのち、60℃の水浴中で1時間加熱し、室温に戻した。この硝酸で処理した溶液100μlに蒸留水300μl添加した。フレームレス原子吸光光度法(FAAS:AA-6700 Atomic absorption flame emission spectrophotometer SIMAZU)で白金量を測定し、腫瘍1グラムあたりの白金量を比較した。(波長265.9nm、スリット幅 0.5、ランプ電流14mA、120℃ 30秒、250℃ 10秒、700℃ 5秒、2600℃ 3秒:検量線は、1mg/ml 白金標準液(NAKARAI)を蒸留水で希釈して、12.5ng/ml、25ng/ml、50ng/ml、100ng/ml、200ng/mlの溶液を作製した。)。結果を以下の表に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000008
白金濃度:組織1gあたりに存在した白金量(ng)
投与後時間:各リポソームを投与し、組織に存在する白金濃度を測定した時間
シスプラチン単独:cis-ジアミンジクロロ白金(II)のみ
SLX修飾:cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包した、シアリルルイスXで修飾したリポソーム。
 (考察)
 リポソーム投与の48時間後において、シアリルルイスX修飾リポソームを投与したマウスでは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)のみを投与したマウスに比べて、リポソームががん部位に顕著に集積していることが観察された。また、投与96時間後において、cis-ジアミンジクロロ白金(II)のみを投与すると、がん部位への集積は顕著に減少した。シアリルルイスX修飾リポソームでは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)のみを投与したときよりも2.5倍以上もcis-ジアミンジクロロ白金(II)が腫瘍部位に残存していることが確認された(表1)。
 (2.細胞増殖を抑制する活性の確認)
 本実施例では、実施例1(糖鎖なしリポソーム)、実施例3(糖鎖修飾リポソーム)および実施例5(抗体修飾リポソーム)により調製したcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームを用いた。
 エールリッヒ腹水癌細胞(EAT細胞)(ATCC Number:CCL-77TM
 E(Ehrlich-Letter ascites))を1×10細胞/100μl/ウェル(Falcon3072)で播種し、24時間培養後に試料を添加した。試料は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包未修飾リポソーム、cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包シアリルルイスXリポソーム、cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包抗E-セレクチン抗体修飾リポソームを、DMEM(ダルベッコ改変イーグル液体培地低グルコース SIGMA D6046)/10%FBS(ウシ胎児血清
 SIGMA F0926)/ペニシリン100unit/ml・ストレプトマイシン100μg/ml(Antibiotic Antimycotic solution,stabiklized SIGMA A5955))で希釈してcis-ジアミンジクロロ白金(II)量として10μg/mlに調製した。コントロールとして、cis-ジアミンジクロロ白金(II)のみをDMEM/10%FBSで溶解し、10μg/mlに調製したもの(シスプラチン単独)を用いた。次いで、この試料を、終濃度が、8.3μM、16.6μMとなるように培養細胞へ添加し、37℃,5%COインキュベーター内で48時間培養した。添加から48時間後の細胞数を、ホルマザン量を指標とするMTTアッセイを行い評価した。
 さらに、試料を含まない対象として、DMEM/10%FBSのみを添加したものついても、MTTアッセイを行った。
 細胞数測定用WST-8(キシダ化学)を各ウェルに20μl添加して、2時間後に吸光度450nmを測定した。吸光度の測定には、GEヘルスケア Ultrospec-6300を用いた。1試料あたり4区;n=3で実験を行った。結果を以下に示す。
(表2.各試料による細胞増殖の抑制)
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000009
試料:添加した試料の終濃度(μM)
試料なし:試料(cis-ジアミンジクロロ白金(II))を添加しなかった群の吸光度(450nm)の平均
シスプラチン単独:cis-ジアミンジクロロ白金(II)のみ
未修飾:cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包した、未修飾のリポソーム
SLX修飾:cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包した、シアリルルイスXで修飾したリポソーム
抗体修飾:cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包した、抗E-セレクチン抗体で修飾したリポソーム
平均:各試料を投与した後の吸光度(450nm)の平均
SD:標準偏差。
 (考察)
 試料を添加しなかった群では、吸光度(450nm)は0.480であった(表2、試料なし)。
 未修飾リポソーム、SLX修飾リポソームおよび抗体修飾リポソームを投与した群は、試料終濃度が8.3μMのときも、16.6μMのときも、cis-ジアミンジクロロ白金(II)単独のものとほぼ同様に効果があることが示された。この結果から、cis-ジアミンジクロロ白金(II)をリポソームに封入しても、抗がん作用は消失しないことが示された。シスプラチンが細胞内でリポソームから放出され、核酸と相互作用していることが確認できた。
 本実施例により、未修飾リポソーム、SLX修飾リポソームおよび抗体修飾リポソームの全てにおいて、リポソームに内包されたcis-ジアミンジクロロ白金(II)は、細胞に対して増殖抑制活性を示すことが確認された。
 (3.腫瘍の増殖抑制効果の確認)
 6週齢マウス(Balb/c 雌性)(各群3匹)の右大腿部の皮下に、1×10細胞のエールリッヒ腹水癌細胞(EAT細胞)(ATCC Number:CCL-77TM E(Ehrlich-Letter ascites))を移植した。移植の5日後、12日後、19日後に、cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包シアリルルイスX修飾リポソーム、および抗E-セレクチン抗体修飾リポソームを、それぞれ、1.5mg/kg(200μg/ml)でマウスの尾静脈に投与した。コントロールとして、生理食塩水、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を生理食塩水に200μg/mlとなるように溶解させた。この溶解した溶液を、同様に投与した。
 腫瘍の大きさは、腫瘍を移植した12日後、19日後、29日後に、デジタルノギス(Mitutoyo CD-S15C)を用いて、長径(Amm)および担径(Bmm)を測定することで確認した。(A×B)×0.4の計算式により腫瘍体積(mm)を計算した。
 この動物実験では、内包用のリポソームには、がんに指向させることが知られている糖鎖(SLX)および抗体を結合させたものを用いて、従来のシスプラチンに対する抗がん作用の改善を観察した。以下に結果を示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000010
腫瘍体積(mm
日数:腫瘍移植後、腫瘍の大きさを測定した時期
生理食塩水:生理食塩水のみ
シスプラチン単独:cis-ジアミンジクロロ白金(II)のみ
SLX修飾:cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包した、シアリルルイスXで修飾したリポソーム
抗体修飾:cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包した、抗E-セレクチン抗体で修飾したリポソーム
平均:各試料を投与した後の腫瘍体積(mm)の平均
SD:標準偏差。
 (結果および考察)
 この結果から、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包した、シアリルルイスX修飾リポソームまたは抗E-セレクチン抗体修飾リポソームを投与した場合、腫瘍細胞の移植後29日目において、腫瘍の大きさは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)単独および未修飾のリポソームを投与したものよりも顕著に小さかった。
 これは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包したリポソームは、シアリルルイスXまたは抗E-セレクチン抗体で修飾したことで、リポソームの腫瘍組織への集積性が高まったことにより、腫瘍にcis-ジアミンジクロロ白金(II)の効果が集中した結果と考えられる。
 本実施例では、シアリルルイスXおよび抗E-セレクチン抗体の修飾による効果が確認された。この結果より、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包させ、シアリルルイスXまたは抗E-セレクチン抗体で修飾したリポソームは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を単独で投与するよりも、顕著に少ない量で腫瘍の成長を抑制することが確認できた。このことから、シアリルルイスXまたは抗E-セレクチン抗体で修飾したリポソームが腫瘍の治療に有効であることが示された。
 また、従来の内包方法よりも脂質あたりまたはリン脂質あたりのシスプラチン内包量が顕著に増大させることができ、その結果、顕著な治療効果が奏されることも確認された。
 これは、たとえば、従来の抗がん剤内包リポソーム(Cancer Chemotther Pharmacol(1999)43:1-7 Comparative pharmacokinetics,tissue distribution,and therapeutic effectiveness of cisplatin encapsulated in long-circulating,pegylated liposome(SPI)in tumor-bearin mice)において達成されたものよりも顕著であることが理解される。この文献に記載されたSPI077リポソームは、アメリカで臨床利用されているリポソームである。この文献のFig1Aには、SPI077リポソームのデータが記載されているが、その投与量は、本実施例のリポソームよりはるかに多い。したがって、本発明は、全体の投与量を減らしつつ、同程度以上の効果を達成するといえる。がん種によっては、プローブ標識していないリポソーム(SPI077)で、本論文程度の抗がん活性が認められるため、糖鎖および抗体を認識プローブとして用いたリポソームは、このシスプラチン投与量で、更に効果が見込めると考えられる。
 (実施例6B.急性毒性試験)
 本実施例では、実施例3(糖鎖修飾リポソーム)と同様の方法により調製したcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームを用いた。
 (方法)
 Balb/c 雌性8週齢の正常マウス(各群4匹)に、シスプラチン(CDDP)およびシスプラチン内包リポソーム(シアリルルイスX修飾)を25mg/Kgおよび18mg/Kgで尾静脈投与した。投与後、2週間目までの生存率を確認した。
 (結果)
 シスプラチン25mg/Kgの投与量では、投与後5日後において、シスプラチンを単独で投与したマウスの生存率は0%であった。シスプラチン内包リポソーム(シアリルルイスX修飾)では、生存率は75%であった。
 シスプラチン18mg/Kgの投与量では、投与5日後において、シスプラチンを単独で投与したマウスの生存率は、25%であった。シスプラチン内包リポソーム(シアリルルイスX修飾)では、75%のマウスが生存した。
 (考察)
 シスプラチン内包リポソーム(シアリルルイスX修飾)は急性毒性が非常に低いことが実証された。つまり、シスプラチン単独では毒性を示す程度の投与量でも、シスプラチン内包リポソームであれば被験体に急性毒性を与えることなく投与することができる可能性がある。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000011
 (実施例6C.In vitro細胞増殖抑制活性)
 (方法)
 (細胞培養)
 対象として、HT29:ヒト大腸癌細胞(ATCC No.THB38)、A549:ヒト肺癌細胞(ATCC No.CCL-185)、A431:ヒト扁平上皮癌細胞(ATCC No.CRL-1555)、LLC:マウス肺癌細胞(理化学研究所:RCB0098)、SKBr3:ヒト乳癌細胞(理化学研究所:No.TKG0592)をそれぞれ購入して以下の実験に用いた。
 各細胞を、1×10個/50μL/ウェルとなるように、96ウェルマイクロプレート(Falcon 3072)に播き、24時間、5%CO下、37℃で培養した。細胞培養培地は、10%FBS(Biowest社 Code.No.S1823)および1% ペニシリン・ストレプトマイシン溶液(SIGMA P0781)を添加したDMEM(SIGMA D6046)をもちいた。
 (シスプラチン内包リポソーム-Hepese溶液の調製)
 本実施例では、実施例1(糖鎖なしリポソーム)、実施例3(糖鎖修飾リポソーム)および実施例5(抗体修飾リポソーム)と同様の方法により調製したcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソーム(シスプラチン内包リポソーム)を用いた。
 シスプラチン内包未修飾リポソームを、20mM Hepes緩衝液(pH7.2)で、0.4mMのシスプラチン濃度に希釈し、シスプラチン内包未修飾リポソーム-Hepese溶液を調製した。
 シスプラチン内包SLX修飾リポソームには、糖鎖として、シアリルルイスX(SLX)を用いた。シスプラチン内包SLX修飾リポソームを、20mM Hepes緩衝液(pH7.2)で、0.4mMのシスプラチン濃度に希釈し、シスプラチン内包SLX修飾リポソーム-Hepese溶液を調製した。
 シスプラチン内包抗体修飾リポソームには、腫瘍に特異的な抗E-セレクチン抗体を用いた。本実施例に用いた抗E-セレクチン抗体は、実施例5と同様の方法を用いて調製した:抗E-セレクチン産生ハイブリドーマ(CL-3)ATCC No.CRL-2515を購入して精製した。マウスBalb/c(日本SLC 雌性 6週齢)にプリスタンを0.5mL/マウスで2回(5日間間隔)投与した。ハイブリドーマを、RPMI 1640培地(GIBCO code.11875)/10%FBS/ペニシリン100unit/ml・ストレプトマイシン100μg/ml(Antibiotic Antimycotic solution,stabiklized SIGMA A5955)(ウシ胎児血清 SIGMA F0926)で、5%CO、37℃で培養した。PBSに細胞を懸濁して、5×10細胞/マウスでマウスの腹腔内に投与した。約2週間後に腹水を採取した。硫酸アンモニウム沈殿し、沈殿物をPBSに溶解させ、PBS緩衝液で透析(3日間、4℃)を行った。プロテインGカラム(HiTrap ProteinG colum 1mL)に透析後の溶液を通した。カラムを洗浄後、プロテインGに結合したモノクローナル抗体を0.1Mグリシン緩衝液(pH2.7)にて溶出し、溶出液を1M Tris緩衝液(pH9.0)で中和した。腫瘍に特異的な抗体は、市販のものを用いることもできる(例えば、R&D systems(MN,USA)社製の抗E-セレクチン抗体(AF575)等)。
 このシスプラチン内包抗体修飾リポソームを、20mM Hepes緩衝液(pH7.2)で、0.4mMのシスプラチン濃度に希釈し、シスプラチン内包抗体修飾リポソーム-Hepese溶液を調製した。
 (シスプラチン内包リポソーム溶液の添加)
 シスプラチンの終濃度が10μM、50μM、100μM、200μMとなるように、細胞培養物に、各シスプラチン内包リポソーム-Hepes溶液を添加した。より詳細には、終濃度200μMのときには、シスプラチン内包リポソーム-Hepes溶液をそのまま50μL添加した。終濃度が10μM、50μM、100μMで添加するときには、シスプラチン内包リポソーム-Hepes溶液を、上記細胞培養培地でさらに希釈し、50μLにしたものを用いた。
 コントロールとして、シスプラチン内包リポソーム-Hepes溶液の代わりに、20mM Hepes緩衝液(pH7.2)50μLを用いた。このコントロールは、シスプラチン内包リポソームの希釈に用いたHepes緩衝液が、細胞増殖能に対して与える影響を考慮するためのものである。1ウェル当たりに添加したHepes緩衝液の最大量である50μLをコントロールとして用いた。
 シスプラチン内包リポソーム-Hepes溶液またはコントロールを添加した72時間後に、WST-8(細胞増殖測定用試薬:キシダ化学 Code.No.260-96165)を各ウェルに10μL添加して、1時間、5%CO下、37℃で培養した。吸光度と生細胞数とが比例関係になることを利用して、細胞数を評価した。具体的には、BioRAD Model 680 マイクロプレートリーダーの吸光度計を用いて、吸光度450nmを測定し、細胞数を算出した。WST-8を添加して、1時間、5%CO下、37℃で培養した96穴マイクロプレートリーダーをマイクロプレートリーダー上におき、吸光度を測定した。シスプラチンの感受性は、このコントロールに対する生存数(%)で評価した。
 (結果)
 シスプラチン内包未修飾リポソーム、シスプラチン内包SLX修飾リポソームおよびシスプラチン内包抗体修飾リポソームを添加したすべての細胞株において、細胞生存率が減少した(図9~13)。つまり、すべての細胞株が、すべてのシスプラチン内包リポソームに対して感受性を示したといえる(図9~13)。また、これらのシスプラチン内包リポソームの間に、細胞生存率(感受性)の差は認められなかった。この結果から、シアリルルイスXまたは抗E-セレクチン抗体でのリポソームの修飾は、リポソームに内包させたシスプラチンの効果に影響しないことが確認された。
 (比較例6C.シスプラチン単独でのIn vitro細胞増殖抑制活性) (細胞培養)
 本比較例では、HT29:ヒト大腸癌細胞(ATCC No.THB38)、A549:ヒト肺癌細胞(ATCC No.CCL-185)、A431:ヒト扁平上皮癌細胞(ATCC No.CRL-1555)、LLC:マウス肺癌細胞(理化学研究所:RCB0098)、SKOV3:ヒト卵巣癌細胞(ATCC:Code.No.HTB-77)を用いた。各細胞を、1×10個/50μL/ウェルとなるように、96ウェルマイクロプレート(Falcon 3072)に播き、24時間、5%CO下、37℃で培養した。細胞培養培地は、10%FBS(Biowest社 Code.No.S1823)および1% ペニシリン・ストレプトマイシン溶液(SIGMA P0781)を添加したDMEM(SIGMA D6046)を用いた。
 (cis-ジアミンジクロロ白金(II)(シスプラチン)-Hepes溶液の調製)
 シスプラチンは、SIGMAから購入したP4394を用いた。本実施例で用いるシスプラチンは、ブリストル製薬株式会社、日本化薬、マルコ、ヤクルト、メルク、ファイザー、協和発酵等から購入したものを用いることもできる。また、シスプラチン硝酸体水溶液に、シスプラチン硝酸体に対し、1.98当量の塩化ナトリウム又は塩化カリウムを添加し、24時間、遮光下で撹拌する。生成する沈殿物を濾取して、冷水で2回洗浄することによって合成することも可能である。
 シスプラチンを、20mM Hepes緩衝液(pH7.2)で、0.4mMのシスプラチン濃度に希釈し、シスプラチン-Hepese溶液を調製した。
 (シスプラチン-Hepese溶液の添加)
 シスプラチン-Hepese溶液を、シスプラチンの終濃度が2μM、10μM、20μM、40μMとなるように上記細胞培養培地でさらに希釈し、細胞培養物に50μLずつ添加した。
 コントロールとして、シスプラチン-Hepese溶液の代わりに、20mM Hepes緩衝液(pH7.2)10μLを用いた。これを、上記細胞培養培地でトータル50μLに希釈し、細胞培養物に添加した。10μLというHepes量は、40μMでシスプラチン溶液を添加する場合に1ウェル当たりに添加されるHepes緩衝液の量と同じである。このコントロールは、シスプラチンの希釈に用いたHepes緩衝液が、細胞増殖能に対して与える影響を考慮するためのものである。
 シスプラチン-Hepes溶液またはコントロールを添加して72時間後に、WST-8(細胞増殖測定用試薬:キシダ化学 Code 260-96165)を各ウェルに10μL添加して、1時間、5%CO下、37℃で培養した。吸光度と生細胞数とが比例関係になることを利用して、細胞数を評価した。具体的には、BioRAD Model 680 マイクロプレートリーダーの吸光度計を用いて、吸光度450nmを測定し、細胞数を算出した。WST-8(細胞増殖測定用試薬:キシダ化学 Code.No.260-96165)を添加して、1時間、5%CO下、37℃で培養した96穴マイクロプレートリーダーをマイクロプレートリーダー上におき、吸光度を測定した。シスプラチンの感受性は、このコントロールに対する生存数(%)で評価した。
 (結果)
 すべての細胞の生存率がシスプラチンによって低下した(図14)。つまり、すべての細胞がシスプラチンに対して感受性を示した。比較例6Cでは、シスプラチンの終濃度が40μM以上では全ての細胞が死滅したので、40μMより高濃度の実験はしなかった。
 (実施例6Cおよび比較例6Cのまとめ)
 本実施例では、標的指向性物質の有無にかかわらず、すべてのシスプラチン内包リポソームが細胞生存率を低下させた(図9~13)。すなわち、標的指向性物質での修飾は、内包されたシスプラチンの効果に影響しないと考えられる。
 また、リポソームに内包していないシスプラチンに比べて、リポソームに内包されたシスプラチンは、高濃度を添加した場合でも細胞生存率が高いという結果が得られた。シスプラチン内包リポソームでは、リポソームが細胞内へ取り込まれた後、リポソームが壊れることによって、シスプラチンを細胞内に放出すると考えられることから、リポソームから細胞生存率を低下させるのに充分な量のシスプラチンが細胞質に放出されるまでにはある程度の時間が必要であるという可能性がある。本実施例の結果は、シスプラチン内包リポソームを添加して、72時間後のデータであるので、シスプラチン内包リポソームの添加から評価までの期間を延ばすことにより、シスプラチンと同程度の感受性を示すのではないかと考えられる。また、シスプラチン内包リポソームでは、長時間にわたって細胞にシスプラチンを除放できる可能性も考えられる。
 (実施例6D:他のがん・腫瘍の処置についての有効性の検討)
 実施例1(未修飾リポソーム)、実施例3(糖鎖修飾リポソーム)および実施例5(抗体修飾リポソーム)により調製されたcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームが、精巣腫瘍、膀胱がん、腎盂・尿管腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、食道がん、子宮頸がん、神経芽細胞種、胃がん、小細胞肺がん、骨肉種、胚細胞腫瘍の処置に有効であるか否かを確認する。
 雌性Balb/cマウスの大腿部皮下に、精巣腫瘍、膀胱がん、腎盂・尿管腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、食道がん、子宮頸がん、神経芽細胞種、胃がん、小細胞肺がん、骨肉種、胚細胞腫瘍の細胞(約2×10個)を移植し、がん組織が0.3~0.6gに発育したものを担がんマウスとして本実験に用いる。
 各々の担がんマウスに、各cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソーム(200μl)を、経口投与または尾静脈投与のいずれかで、それぞれ投与する。
 cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームを投与した全ての担がんマウスにおいて、実施例6Aと同様の方法および判断基準を用いて、がん・腫瘍の体積を測定し、体積の変化、および腫瘍・がんが消滅するか否かを判定することができる。
 したがって、本方法により作製されたcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームが、がん・腫瘍の処置に有効であるか否かを検討することができる。
 (実施例7:他の水溶性アンミン白金錯体での実験)
 (シスプラチン-硫酸体を内包したリポソームの調製)
 (シスプラチン-硫酸体の調製)
 4塩化白金カリウム(KPtCl)4.15g(10.0mmol)とヨウ化カリウム6.64g(40mmol)を、酸素を充分に除去した蒸留水50mlに完全に溶解した後、窒素雰囲気下で28%アンモニア水溶液1.35ml(22mmol)を添加し、撹拌することにより沈澱を得る。この沈澱物を水とエタノールで各々2回洗浄した後、常温で真空(~20mmHg)乾燥することによりアンミン-白金中間体cis-〔Pt(NH〕を得る。このアンミン-白金中間体cis-〔Pt(NH〕1.45g(3.0mmol)を蒸留水300mlに懸濁させた後、硫酸銀0.933g(3.0mmol)を添加して、攪拌しながら4時間反応させ、生成したヨウ化銀を濾別し、シスプラチン-硫酸体として、無色のcis-〔Pt(NHSO〕を得る。
 (シスプラチン-硫酸体の内包されたリポソームの調製)
 DPPC、コレステロール、ガングリオシド、DCP、DPPEをモル比で、35:40:15:5:5の割合で合計脂質量45.6mgになるように混合し、コール酸ナトリウム46.9mgを添加し、メタノール・クロロホルム溶液(1:1)溶液3mlに溶解させる。37℃、1時間撹拌し、メタノール・クロロホルムをロータリーエバポレーターで蒸発させて、真空乾燥させる。得られた脂質膜をNaCl未添加のN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノメタン(TAPS)緩衝液(pH8.4)3mlに懸濁させ、37℃、1時間撹拌する。次いで、この溶液を窒素置換し、超音波処理して、透明なミセル懸濁液を得る。次に、シスプラチン-硫酸体を50mgを秤量して、NaCl未添加のTAPS緩衝液(pH8.4)7mlに溶解させ、ミセル懸濁液と混合し、PM10(Amicon Co.,USA)とNaCl未添加のTAPS緩衝液(pH8.4)を用いた限外濾過(分画分子量:10,000)にかけ均一リポソーム10mlを調製する。
 (リポソーム中にシスプラチン-硫酸体が内包されたことの確認)
 本実施例で調製されたリポソームに、シスプラチン-硫酸体が内包されていることを、実施例1と同様の方法を用いて、フレームレス原子吸光光度法(FAAS)により確認する。
 その結果、リポソーム中に、シスプラチン-硫酸体が内包されているか否かを確認することができる。
 (シスプラチン-硫酸体のcis-ジアミンジクロロ白金(II)への転換)
 (1.緩衝液によるシスプラチン-硫酸体のcis-ジアミンジクロロ白金(II)への転換)
 シスプラチン-硫酸体が内包されたことが確認されたリポソームを、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)、炭酸緩衝液(pH8.5)、PBS(pH8.0)、またはHEPES緩衝液(pH7.2)に、25℃にて、96時間供する。これらの緩衝液は、いずれも最終濃度150mMのNaClが含まれている。
 その結果、無色の溶液は淡黄色に変化することが確認される。これは、シスプラチン-硫酸体が、cis-ジアミンジクロロ白金(II)に転換したことを示す。さらに、この変化は、実施例1と同様の方法を用いて、吸光光度法、IR法、195Pt-NMR法により検出することができる。
 (2.糖鎖を結合させたシスプラチン-硫酸体を内包したリポソームの調製)
 実施例2と同様の方法を使用して、シスプラチン-硫酸体が内包されたことが確認されたリポソームから、糖鎖を結合させたcis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包したリポソームを調製する。得られたリポソームにおいて、シスプラチン-硫酸体がcis-ジアミンジクロロ白金(II)へ転換したことは、実施例1と同様の方法を用いて、吸光光度法、IR法、195Pt-NMR法により検出することができる。
 (3.抗体を結合させたcis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包したリポソームの調製)
 実施例6と同様の方法を使用して、シスプラチン-硫酸体が内包されたことが確認されたリポソームの各溶液から、抗体を結合させたcis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包したリポソームを調製する。得られたリポソームにおいて、シスプラチン-硫酸体がcis-ジアミンジクロロ白金(II)へ転換したことは、実施例1と同様の方法を用いて、吸光光度法、IR法、195Pt-NMR法により検出することができる。
 (リポソームの定量分析)
 上記(シスプラチン-硫酸体のcis-ジアミンジクロロ白金(II)への転換)節で調製したリポソームの各々について、定量分析(タンパク質定量、脂質定量、粒子径分布および粒子径)を、実施例1と同様の方法により行う。
 (がん・腫瘍の処置についての有効性の検討)
 実施例5と同様の方法により、上記(シスプラチン-硫酸体のcis-ジアミンジクロロ白金(II)への転換)節で調製したリポソームの各々が、腫瘍・がんの処置に有効であるかどうかを確認する。
 その結果、これらの難水溶性薬剤を内包したリポソームを投与した全ての担がんマウスにおいて、がん・腫瘍の体積を測定し、体積の変化、および腫瘍・がんが消滅するか否かを検討することができる。
 したがって、本方法により作製されたcis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包したリポソームは、がん・腫瘍の処置に有効であるか否かがわかる。
 (実施例8:他の白金錯体での実験)
 実施例1と同様の方法を用いて、cis-ジアンミンジクロロ白金(II)の代わりに、cis-ジアンミン-1,1-シクロブタン-ジカルボキシラト白金(II)、cis-ジアンミン(グリコラト)白金(II)、(1R,2R-ジアンミンシクロへキサン)オキサラト白金(II)、cis-ジアンミンジブロモ白金(II)を内包させたリポソームを調製する。
 (リポソーム中に薬剤が内包されたことの確認)
 実施例1と同様の方法を使用して、フレームレス原子吸光光度法(FAAS)により、これら薬剤が水溶性形態としてリポソーム中に内包されたか否かを確認することができる。
 (水溶性薬剤から難水溶性薬剤への転換)
 (1.緩衝液による水溶性薬剤から難水溶性薬剤への転換)
 実施例1と同様の方法を使用して、水溶性薬物が内包されたことが確認されたリポソームの各溶液を、各々が形成する塩が難水溶性であるイオンを含む溶液に供する。その結果、水溶性薬剤が、難水溶性薬剤に転換したことを示す。さらに、この変化は、実施例1と同様の方法を用いて、吸光光度法、IR法、195Pt-NMR法により検出することができる。
 (2.糖鎖を結合させた難水溶性薬剤を内包したリポソームの調製)
 実施例3と同様の方法を使用して、水溶性薬物が内包されたことが確認されたリポソームの各溶液から、糖鎖を結合させた難水溶性薬剤を内包したリポソームを調製する。このリポソームについて、内包された水溶性薬剤が難水溶性薬剤へ転換したことは、実施例1と同様の方法を用いて、吸光光度法、IR法、195Pt-NMR法により検出することができる。
 (3.抗体を結合させた難水溶性薬剤を内包したリポソームの調製)
 実施例6と同様の方法を使用して、水溶性薬物が内包されたことが確認されたリポソームの各溶液から、抗体を結合させた難水溶性薬剤を内包したリポソームを調製する。このリポソームについて、内包された水溶性薬剤が難水溶性薬剤へ転換したことは、実施例1と同様の方法を用いて、吸光光度法、IR法、195Pt-NMR法により検出することができる。
 (リポソームの定量分析)
 上記(水溶性薬剤から難水溶性薬剤への転換)節で調製したリポソームの各々について、定量分析(タンパク質定量、脂質定量、粒子径分布および粒子径)を、実施例1と同様の方法により行う。
 (がん・腫瘍の処置についての有効性の検討)
 実施例5と同様の方法により、上記(水溶性薬剤から難水溶性薬剤への転換)節で調製したリポソームの各々が、腫瘍・がんの処置に有効であるかどうかを確認する。
 その結果、これらの難水溶性薬剤を内包したリポソームを投与した全ての担がんマウスにおいて、がん・腫瘍の体積を測定し、体積の変化、および腫瘍・がんが消滅するか否かを検討することができる。
 したがって、本方法により作製された難水溶性薬剤を内包したリポソームは、がん・腫瘍の処置に有効であるか否かがわかる。
 (実施例9.凍結乾燥空リポソームへのcis-ジアンミンジニトラト白金(II)の内包)
 本実施例では、本発明の内包技術がどのようなリポソームにも応用できることを確認するために、改良コール酸塩法(N.Yamazaki,M.kodama,H-J.Gabius,Methods Enzymol.,242,56-65(1994);N.Yamazaki,J.Membr.Sci.,41,249-267(1989);およびM.Hirai,H.Minematsu,N Kondo,K Oie,K.Igarashi,N.Yamazaki,BBRC.,353,553-558(2007))とは異なる凍結乾燥空リポソーム法(H.Kikuchi,N.Suzuki et
 al,Biopharm.Drug Dispos.,17,589-605(1999))により作製されたリポソームを用いて、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を内包させた。
 (cis-ジアンミンジニトラト白金(II)(CDDP-3)の合成)
 実施例1と同様の方法を用いた。cis-ジアンミンジニトラト白金(II)は、Daharaの方法(S.G.Dhara,Indian J.Chem.,7,335(1970))により合成した。
 塩化白金酸カリウム4.15g(10mmol)を蒸留水に溶解後、遮光、氷冷下で窒素を吹き込みながらヨウ化カリウム6.64g(40mmol)を加え5分間撹拌した。この反応溶液に28%アンモニア水溶液1.35mL(22mmol)を滴下し、3時間撹拌した。生成した黄色結晶を濾取し、蒸留水、エタノールで順次洗浄した後、40℃で10時間減圧乾燥した。ここで、アンミン-白金中間体cis-〔Pt(NH〕(cis-diamminediiodeplatinum(II)(CDDP-2))を4.49g得た。cis-〔Pt(NH〕2.41g(5mmol)を蒸留水に懸濁させた後、硝酸銀1.68g(9.9mmol)を加え、遮光下24時間撹拌した。生成したヨウ化銀を濾別し、濾液をエバポレーターで濃縮して白色結晶を得た。この白色結晶を冷蒸留水、エタノールで順次洗浄した後、40℃で10時間減圧乾燥し、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を1.01g得た。
 (2種類のリポソームの調製およびcis-ジアミンジクロロ白金(II)の内包)
 (1.改良型コール酸塩法(リポソームI))
 リポソームIは、実施例1の改良型コール酸塩法と同様の方法を用いて調製した。DPPC、コレステロール、ガングリオシド、DCP、DPPEをモル比で35:40:15:5:5の割合で合計脂質量45.6mgになるように混合し、コール酸ナトリウム46.9mgを添加して、メタノール・クロロホルム(1:1)溶液3mLに溶解させた。37℃、1時間撹拌後、メタノールとクロロホルムをロータリーエバポレーターで蒸発させ、真空乾燥後に塩化ナトリウム不含のTAPS(N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸)緩衝液(pH8.4)3mLに懸濁した。37℃で1時間撹拌した後、超音波処理をして透明なミセル懸濁液を得た。
 次に、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)(108.2mg)を塩化ナトリウム不含TAPS緩衝液(pH8.4)7mlに完全に溶解させ、1Mの水酸化ナトリウムでpH8.4に調製し、ミセル懸濁液と混合した。PM10(AMICON)と塩化ナトリウム不含TAPS緩衝液(pH8.4)を用いた限外濾過(分画分子量:10,000)によりリポソーム10mLを調製した。リポソーム外液をPM10(Amicon)を用いた限外濾過により150mMの塩化ナトリウム含有TAPS緩衝液(pH8.4)に置換し、リポソームに内包されたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)をcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換させた。
 (2.凍結乾燥法(リポソームII)
 凍結乾燥空リポソームは、COASTOME ELシリーズ(EL-01-PA、日油)を使用した。このCOASTOME EL-01-PA(負電荷リポソーム)の組成は、ジセチルフォスファチジルエタノールアミン-ポリグリセリン8G:ジパルミトイルホスファチジルコリン:コレステロール:ジパルミトイルホスファチジルグリセロール=4.2:11.4:15.2:11.4(μMol/バイアル)である。cis-ジアンミンジニトラト白金(II)(40mg)を塩化ナトリウム不含のTAPS緩衝液(pH8.4)2mLに溶解させ、1M水酸化ナトリウムでpH8.4に調製して凍結乾燥リポソームのバイヤル内に2mL滴下した。バイヤルを5回転倒混和し、PM10(AMICON)と塩化ナトリウム不含のTAPS緩衝液(pH8.4)を用いた限外濾過(分画分子量:10,000)によりリポソーム2mLを調製した。塩化ナトリウムを150mMとなるようにリポソーム溶液に添加し4℃、96時間撹拌して内包されたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)をcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換した。
 (比較例2.cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を用いることなく、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を直接内包させたリポソーム)
 比較例として、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)をリポソームに内包させcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換するのではなく、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を直接内包させたリポソームを調製した。
 (1.改良型コール酸塩法)
 cis-ジアミンジクロロ白金(II)を直接内包させたリポソームを、cis-ジアミンジクロロ白金(II)(SIGMA)28mgを150mM塩化ナトリウム含有TAPS緩衝液(pH8.4)7mlに完全に溶解させ、1M水酸化ナトリウムでpH8.4に調製し、ミセル懸濁液と混合して作製した。cis-ジアンミンジニトラト白金(II)のかわりにcis-ジアミンジクロロ白金(II)を用いることおよび緩衝液に塩化ナトリウムが含まれること以外、本実施例のcis-ジアンミンジニトラト白金(II)の内包と同様の方法を用いた。
 (2.凍結乾燥法)
 凍結乾燥空リポソームは、COASTOME ELシリーズ(EL-01-PA、日本油脂)を使用した。cis-ジアミンジクロロ白金(II)を直接内包させたリポソームを、以下のようにして作製した。COASTOME EL-01-PA を室温に戻した。シスプラチン4mgを150mM塩化ナトリウム含有TAPS緩衝液(pH8.4)2mlに完全に溶解させ、COASTOME EL-01-PAに添加し、3回転倒混和した。遊離のシスプラチンを除くために、分画分子量10,000の膜を用いて限外濾過を行った。
 (3.糖鎖で修飾したcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームIの製造)
 本実施例の改良コール酸法において調製したcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームIのうちの一部分を用いて、実施例3と同様の方法により、糖鎖で修飾したリポソームIを作製した。
 (リポソーム脂質膜面上の親水性化処理)
 cis-ジアミンジニトラト白金(II)内包したリポソームIの溶液10mlをXM300膜(Amicon Co.,USA)と炭酸緩衝液(pH 8.5)を用いた限外濾過(分画分子量:300,000)にかけ溶液のpHを8.5にした。次に、架橋試薬ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS;Pierce Co.,USA)10mgを加え、室温で2時間攪拌した。その後、さらに冷蔵下で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンとBSとの化学結合反応を完結した。そして、このリポソーム液をXM300膜と炭酸緩衝液(pH 8.5)で限外濾過(分画分子量:300,000)にかけた。次に、炭酸緩衝液(pH 8.5)1mlに溶かしたトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン40mgをリポソーム液10mlに加えた。次いで、この溶液を、室温で2時間攪拌後、冷蔵下で一晩攪拌し、分画分子量300,000で限外濾過し、遊離のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを除去し、該炭酸緩衝液をN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)に交換し、リポソーム膜上の脂質に結合したBSとトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとの化学結合反応を完結した。これにより、リポソーム膜の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン上にトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの水酸基が配位して水和親水性化された。
 (リポソーム膜面上へのヒト血清アルブミン(HSA)の結合)
 本実施例で得られた10mlのリポソームIの膜面上に存在するガングリオシドを1mlのN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH 8.4)に溶かしたメタ過ヨウ素酸ナトリウム43mgを加え、冷蔵下で一晩攪拌して過ヨウ素酸酸化した。XM300膜とPBS緩衝液(pH 8.0)で限外濾過(分画分子量:300,000)することにより、遊離の過ヨウ素酸ナトリウムを除去し、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液をPBS緩衝液(pH8.0)に交換して、酸化されたリポソーム10mlを得た。このリポソーム液に、20mgのヒト血清アルブミン(HSA)/PBS緩衝液(pH 8.0)を加えて室温で2時間反応させ、次に2M NaBHCN/PBS緩衝液(pH 8.0)100μlを加えて室温で2時間、さらに冷蔵下で一晩攪拌してリポソーム上のガングリオシドとHSAとのカップリング反応でHSAを結合した。次いで、限外濾過(分画分子量:300,000)し、遊離のシアノホウ素酸ナトリウムおよびヒト血清アルブミンを除去し、この溶液の緩衝液を炭酸緩衝液(pH8.5)に交換して、HSA結合リポソーム液10mlを得た。
 (糖鎖の調製)
 糖鎖として、シアリルルイスXを使用した。
 各糖鎖の質量を計測し、以下において使用するための前処理をした。
 (リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上への糖鎖の結合)
 糖鎖2mgを精製水に溶解し、0.25gのNHHCOを溶かした0.5ml水溶液に加え、37℃で3日間攪拌した後、0.45μmのフィルターで濾過して糖鎖の還元末端のアミノ化反応を完結して、各糖鎖のグリコシルアミン化合物4mg/ml(アミノ化糖鎖溶液)を得た。次に、本実施例で得たリポソームIの溶液の一部分(10ml)に架橋試薬3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP;Pierce Co.,USA)10mgを加えて室温で2時間、続いて冷蔵下で一晩攪拌し、XM300膜と炭酸緩衝液(pH 8.5)で限外濾過(分画分子量:300,000)して、遊離のDTSSPを除去し、DTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリポソーム10mlを得た。次に、このリポソーム液に上記のグリコシルアミン化合物(アミノ化糖鎖溶液)37.5μlを加えて、室温で2時間反応させ、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン/炭酸緩衝液(pH 8.5)を添加し、その後、冷蔵下で一晩攪拌し、リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにグリコシル化アミン化合物の結合を行った。XM300膜とHEPES緩衝液(pH 7.2)で限外濾過(分画分子量:300,000)して、遊離の糖鎖およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを除去した。その結果、糖鎖とヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリポソーム各10mlが得られた。
 (リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上の親水性化処理)
 本実施例で調製された糖鎖が結合したリポソームIについて、リポソーム上のHSAタンパク質表面の親水性化処理を行った。このリポソーム10mlに、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン26.4mgを加えて、室温で2時間、その後冷蔵下で一晩攪拌した後、XM300膜とHEPES緩衝液(pH 7.2)で限外濾過(分画分子量:300,000)し、未反応物を除去した。0.45μmのフィルターで濾過して、最終産物である親水性化処理された糖鎖が結合したリポソーム複合体各10mlを得た。
 (粒子径およびゼータ電位の測定)
 本実施例および比較例において調製した各リポソーム溶液(糖鎖なし)を純水で50倍に希釈して、動的散乱法により、ゼータサイザーナノNan-ZS(Malvern)を用いて測定した。
 cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を内包させた後、cis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換したcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームIの粒子径分布は、均一な粒度分布を示し、平均粒子径は159nmであった(表4)。cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を内包させた後、cis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換したcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームIIの粒子径分布は、均一な粒度分布を示し、平均粒子径は147nmであった(表4)。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000012
 リポソームIおよびIIの粒子径や形状の確認を行った結果、表4に示すように、cis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームの粒子径は、いずれのリポソームにおいても約150nmであった。腫瘍組織や炎症組織にリポソームを集積させるためには、リポソームの粒子径を調節することが重要となる。がん部位の新生血管や炎症部位の血管には、100~200nmの間隙が存在することが明らかにされていることから、リポソームIおよびリポソームIIの粒子の大きさは、血管内から組織へ移行して集積することができる程度であると考えられる(A.A.Gabizon,Cancer Res.,52,891-896(1992);S.K.Huang,F.J.Martin,G.Jay et al,Am.J.Pathol.,143,10-14(1993);S.K.Huang,E.Mayhew,S.Gilani et al,Cancer Res.,52,6774-6781(1992);およびN.Z.Wu,D.Da,T.L.Rudoll et al,Cancer Res.,53,3765-3770(1993))。
 (電子顕微鏡による観察)
 本実施例において調製した、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包したリポソームI(糖鎖なし)を1% 酢酸ウランによりネガティブ染色した(J.D.Almeida,C.M.Brand,D.C.Edwards and T.D.Heath,Lancet 2(7941).,899-901(1975)。具体的には、銅メッシュにリポソーム溶液を1滴滴下し、PBS緩衝液でよく洗浄し、1%酢酸ウランに数秒間浸した。余分な水分を吸い取り乾燥させた。その後、透過型電子顕微鏡H-7100S(HITACHI)により、粒子の形状と大きさを80000倍で観察した。
 その結果、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包したリポソームIは、均一な球状のリポソームであることがわかった(図7)。また、電子顕微鏡で観察されたリポソームIの粒子径は、動的散乱法による平均粒子径と一致する結果を得た。
 (脂質量の定量)
 実施例2と同様の方法を用いた。0.5%TitonX-100存在下でデタミナーTC555キット(KYOWA)を用いて、総コレステロール量を測定し、各脂質のモル比から総脂質量を算出した
 その結果、リポソーム量の目安となる脂質量は、リポソームIで3.5mg/mL、リポソームIIで7.6mg/mLであった(表4)。
 (cis-ジアンミンジニトラト白金(II)の定量)
 リポソームに内包されたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)は、フレームレス原子吸光光度法(FAAS)によりAA-6700 Atomic absorption flame emission spectrophotometer(SHIMAZU))を用いて定量した。波長265.9nm、スリット幅0.5、ランプ電流14mAの条件下、120℃で30秒間、250℃で10秒間、700℃で20秒間、700℃で5秒間、2600℃で3秒間、順次処理を行った。1mg/mL白金標準液(NAKARAI)を精製水で希釈して12.5ng/ml、25ng/ml、50ng/ml、100ng/ml、200ng/mlの溶液を調製し、検量線を作成した。リポソーム溶液は精製水で10,000倍希釈して被検試料とした。
 フレームレス原子吸光光度法(FAAS)で白金量を測定することによって、リポソームに内包されたcis-ジアミンジクロロ白金(II)の量を算出した結果、改良コール酸塩法では、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を内包させcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換したリポソームI溶液中のcis-ジアミンジクロロ白金(II)濃度は、91.08μg/脂質mg(323.3μg/mL)であった(表4左欄)。一方、cis-ジアミンジクロロ白金(II)をリポソームに直接内包した場合、0.306μg/脂質mg(1.07μg/mL)であった(表4左欄)。
 凍結乾燥法においては、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を内包させcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換したリポソームII溶液中のcis-ジアミンジクロロ白金(II)濃度は、117.5μg/脂質mg(893μg/mL)であった(表4右欄)。一方、cis-ジアミンジクロロ白金(II)をリポソームに直接内包した場合、17.7μg/脂質mg(134.6μg/mL)であった(表4右欄)。
 cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を内包させた後cis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換したときの脂質1mgあたりの内包量は、リポソームIでは、cis-ジアミンジクロロ白金(II)をリポソームに直接内包させたときの約300倍量であり、リポソームIIでは、6.6倍量であった。この結果、特に、リポソーム形成と同時に物質を内包させる改良コール酸塩法により作製したリポソームIの場合、より内包量の差が大きいことが確認された。
 cis-ジアンミンジニトラト白金(II)は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)よりも水溶性が約10倍高い。したがって、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)をリポソームに内包させた後cis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換する方法により、脂質1mgあたり約300倍量のcis-ジアミンジクロロ白金(II)がリポソームに内包されたことは、予測よりもはるかに高濃度でcis-ジアミンジクロロ白金(II)が内包されたといえる。また、リポソームIIにおいては、その差が約6~7倍の内包量の差であったことから、この内包技術は、特に、改良コール酸塩法で作製したリポソームIでより効果的であるといえる。
 一般的に、リポソーム形成と同時に物質を内包させる改良コール酸塩法を用いて作製したリポソームIの場合、cis-ジアミンジクロロ白金(II)のような無電荷の低分子化合物の内包量は非常に低い。このため、cis-ジアミンジクロロ白金(II)をリポソームに直接内包させる方法では、リポソームIは0.306μg/脂質mgのcis-ジアミンジクロロ白金(II)しか内包することができなかった。しかし、本発明の内包技術を用いた場合には、91.1μg/脂質mgのcis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包させることができた。改良コール酸塩法により作製したリポソームIのほうが、凍結乾燥空リポソーム法を用いて作製したリポソームIIよりもcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包量の差が大きく現れたことの原因は、改良コール酸塩法では無電荷の低分子化合物を内包させることがほとんどできないことにあると考えられる。
 また、本実施例のリポソームIおよびリポソームIIは、血中タンパク質との結合を防ぐために、リポソーム表面の電荷は負となるように負電荷を帯びた脂質成分により構成されているが正電荷のものでも適用可能であり、当業者は適宜設計変更することができる。cis-ジアンミンジニトラト白金(II)は、水溶液中でプラスの電荷を有することから、負電荷を有する脂質成分を用いたリポソームへの内包にとって有利な分子形態である可能性がある。EPR効果(Y.Matsumura and H.Maeda,Cancer Res.,46,6387-6392(1986))により炎症やがん部位をターゲティングするリポソームのほとんどが、血中滞留性を向上させるために表面電荷が負となるように設計されているので、汎用されている多くのリポソームにおいても同じように、本発明の内包技術を用いることにより難水溶性の薬物のリポソームへの内包量を増加させることができると考えられる。
 (cis-ジアンミンジニトラト白金(II)からcis-ジアミンジクロロ白金(II)への変換の確認)
 cis-ジアンミンジニトラト白金(II)の硝酸イオンが、150mM塩化ナトリウムの塩化物イオンによって置換することを、吸収スペクトル法を用いて確認した(比較例1および図4Aおよび図4B)。
 図4Aおよび図4Bに示す通り、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)の吸収スペクトル(図4A)は、塩化物イオンを添加した直後から経時的に変化し、図4Bに示すcis-ジアミンジクロロ白金(II)の吸収スペクトルと一致した。このことから、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)は、150mM 塩化ナトリウム存在下で99%以上がcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換したことが確認できた。
 次に、リポソームIおよびリポソームIIに内包されたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)が150mM塩化ナトリウム溶液中でcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換することを、195Pt-NMR法により確認した。
 (195Pt-NMR法)
 実施例3と同様の方法を使用した。cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を内包させたリポソームとして、本実施例において調製したリポソームIIを用いた。これらのリポソームに内包させたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)からcis-ジアミンジクロロ白金(II)への変換を、25℃で直径5mmの測定管にサンプルに入れINOVA-600(Varian社)を用いた195Pt-NMR法により解析した。
 (サンプル調製)
 ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウムを重水に50mMとなるように溶解して外部標準液とした。cis-ジアミンジクロロ白金(II)、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)をそれぞれ重水に終濃度6.6mM、13.7mMとなるように溶解させてサンプルとした。リポソームIIに内包したcis-ジアンミンジニトラト白金(II)をcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換した場合および変換しなかった場合のリポソームサンプルを凍結乾燥し、次いで重水に懸濁させて、いずれも白金濃度が4.75mMとなるように調製した。
 図8aおよびbに示すように、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を重水に溶解させた時のケミカルシフト値は、-2160ppmであり、また、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を重水に溶解させたときのケミカルシフト値は、-1620ppmであった。このケミカルシフト値は文献値と一致していた(B.Rosenberg,Biochimie.,60 859(1978))。図8cに示すように、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を内包させたリポソームIIの外液を150mM塩化ナトリウム含有TAPS(pH8.4)緩衝液とし、25℃で96時間放置後のケミカルシフト値は-2160ppmであり、図8aに示されるcis-ジアミンジクロロ白金(II)のケミカルシフト値と一致した。このことから、リポソームIIに内包されたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)がcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換していることが確認された。また、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)をcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変化させない場合は、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)のケミカルシフト値である-1620ppmのピークも、cis-ジアミンジクロロ白金(II)のケミカルシフト値である-2160ppmも認められなかった(図8d)。
 リポソームIについても、図5a~dおよび実施例3に示す通り、同様の結果が得られ、リポソームに内包されたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)がcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換していることが確認された。
 リポソームI(改良コール酸塩法)においてもリポソームII(凍結乾燥法)においても、195Pt-NMR法による解析では、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)の-1620ppmのケミカルシフトは認められず、cis-ジアミンジクロロ白金(II)のケミカルシフト位置である-2160ppmに確認された(図5cおよび図8c)。このことから、いずれのリポソームでも、リポソーム内のcis-ジアンミンジニトラト白金(II)は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)に構造が変化していることが確認された。
 また、リポソームに内包させたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)をcis-ジアミンジクロロ白金(II)に変換させなかった場合、図5dおよび図8dに示すように、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)の-1620ppmのケミカルシフトもcis-ジアミンジクロロ白金(II)のケミカルシフトも認められなかった。これは、内包されたcis-ジアンミンジニトラト白金(II)が、図3に示すように水分子の配位により、リポソームの膜成分と緩やかな相互作用をすることによって非常に多数の分子種となったために、ケミカルシフトとしては検出されなかったものと考えられる。
 (実施例10)
 本実施例は、実施例1、実施例3および実施例5と同様の方法により調製したシスプラチン内包リポソーム、および従来技術のシスプラチン内包リポソームについて治療効果の持続時間を確認することを目的とする。
 実施例3および実施例5と同様の方法によりシスプラチン内包リポソームを調製する。従来技術として、特許文献1~3および非特許文献1の記載に従って、シスプラチン内包リポソームを調製する。
 (細胞に対する効果)
 種々の腫瘍細胞株を購入し、培養する。各細胞培養物に、同じ用量で投与し、細胞培養物を経時的に観察する。腫瘍細胞の成長が抑制されるか、または腫瘍細胞が減少する期間を計測し、各シスプラチン内包リポソームの治療効果がどの程度の期間持続するか、検討する。
 (生体内での効果)
 対象として、マウスの大腿部皮下に、種々の腫瘍細胞を移植して種々の担がんマウスを調製する。シスプラチン内包リポソームを担がんマウスに対して同じ用量で同じ回数投与し、経時的に腫瘍を観察する。腫瘍の成長が抑制されるか、または腫瘍体積が減少している期間を計測し、各シスプラチン内包リポソームの治療効果がどの程度の期間持続するか、検討する。
 (比較例)
 コントロールとしてシスプラチン単独を用いる。本実施例と同様の実験を行い、シスプラチン単独での効果を検討する。
 (実施例11)
 本実施例は、実施例1、実施例3および実施例5と同様の方法により調製したシスプラチン内包リポソーム、および従来技術のシスプラチン内包リポソームについて治療効果が現れる時期を確認することを目的とする。
 実施例3および実施例5と同様の方法によりシスプラチン内包リポソームを調製する。従来技術として、特許文献1~3および非特許文献1の記載に従って、シスプラチン内包リポソームを調製する。
 (細胞に対する効果)
 種々の腫瘍細胞株を購入し、培養する。各細胞培養物に、同じ用量で投与し、細胞培養物を経時的に観察する。腫瘍細胞成長の抑制が始まる時期、または腫瘍細胞数の減少が始まる時期を各シスプラチン内包リポソームについて比較検討する。
 (生体内での効果)
 対象として、マウスの大腿部皮下に、種々の腫瘍細胞を移植して種々の担がんマウスを調製する。シスプラチン内包リポソームを担がんマウスに対して同じ用量で同じ回数投与し、経時的に腫瘍を観察する。腫瘍成長の抑制が始まる時期、または腫瘍体積の減少が始まる時期を各シスプラチン内包リポソームについて比較検討する。
 (比較例)
 コントロールとしてシスプラチン単独を用いる。本実施例と同様の実験を行い、シスプラチン単独での効果を検討する。
 (実施例12)
 本実施例は、実施例1、実施例3および実施例5と同様の方法により調製したシスプラチン内包リポソーム、および従来技術のシスプラチン内包リポソームについての治療効率を確認することを目的とする。
 実施例3および実施例5と同様の方法によりシスプラチン内包リポソームを調製する。従来技術として、特許文献1~3および非特許文献1の記載に従って、シスプラチン内包リポソームを調製する。
 (細胞に対する効果)
 種々の腫瘍細胞株を購入し、培養する。各細胞培養物に、同じ用量で投与し、細胞培養物を経時的に観察する。腫瘍細胞数を測定し、治療効率を検討する。
 (生体内での効果)
 対象として、マウスの大腿部皮下に、種々の腫瘍細胞を移植して種々の担がんマウスを調製する。シスプラチン内包リポソームを担がんマウスに対して同じ用量で同じ回数投与し、経時的に腫瘍を観察する。腫瘍体積を測定し、同じ用量を投与した場合の治療効果を各シスプラチン内包リポソームについて比較検討する。
 (比較例)
 コントロールとしてシスプラチン単独を用いる。本実施例と同様の実験を行い、シスプラチン単独での効果を検討する。
 (実施例13)
 本実施例は、実施例1、実施例3および実施例5と同様の方法により調製したシスプラチン内包リポソーム、および従来技術のシスプラチン内包リポソームについての再発の抑制効果を確認することを目的とする。
 実施例3および実施例5と同様の方法によりシスプラチン内包リポソームを調製する。従来技術として、特許文献1~3および非特許文献1の記載に従って、シスプラチン内包リポソームを調製する。
 (生体内での効果)
 対象として、マウスの大腿部皮下に、種々の腫瘍細胞を移植して種々の担がんマウスを調製する。シスプラチン内包リポソームを担がんマウスに投与し、経時的に腫瘍を観察する。腫瘍が消失した時点でリポソームの投与を中止する。その後、腫瘍が再発するか否かを観察する。
 (比較例)
 コントロールとしてシスプラチン単独を用いる。本実施例と同様の実験を行い、シスプラチン単独での効果を検討する。
 (実施例14)
 本実施例は、従来技術では治療できなかった腫瘍・がんに対する治療効果を検討する。
 本実施例は、実施例1、実施例3および実施例5と同様の方法により調製したシスプラチン内包リポソーム、および従来技術のシスプラチン内包リポソームを用いる。
 実施例3および実施例5と同様の方法によりシスプラチン内包リポソームを調製する。従来技術として、特許文献1~3および非特許文献1の記載に従って、シスプラチン内包リポソームを調製する。
 (細胞に対する効果)
 従来技術では治療できなかった腫瘍・がんの細胞株を購入し、培養する。各細胞培養物に、同じ用量で投与し、細胞培養物を経時的に観察する。腫瘍細胞数を測定し、治療効果を検討する。
 (生体内での効果)
 対象として、マウスの大腿部皮下に、従来技術では治療できなかった腫瘍・がんの細胞を移植して種々の担がんマウスを調製する。シスプラチン内包リポソームを担がんマウスに投与し、経時的に観察する。腫瘍・がんの体積を測定し、各シスプラチン内包リポソームについて治療効果を比較検討する。
 (比較例)
 コントロールとしてシスプラチン単独を用いる。本実施例と同様の実験を行い、シスプラチン単独での効果を検討する。
 (実施例15)
 CDDP:シスプラチン
 CDDP-3:シスプラチン硝酸体
 CDDP-SLX-Lip:CDDPを内包したシアリルルイスX修飾リポソーム
 CDDP-Lip:CDDPを内包した未修飾リポソーム
 本実施例では、毒性の強いCDDPをリポソームに内包して投与することにより、その毒性を軽減できるか否かについて検討した。本実施例では、以下の方法で調製したCDDP、CDDP-3、CDDP-SLX-LipおよびCDDP-Lipを用いた。CDDP(18mgまたは25mgCDDP相当量/Kg体重)およびCDDP-SLX-Lip(CDDP量として、25mgまたは50mgCDDP相当量/Kg体重)を各々正常マウスに尾静脈投与し、投与後5日間の生存を観察した。以下に詳述する。
 (CDDP、CDDP-3、CDDP-SLX-LipおよびCDDP-Lipの調製)
CDDP: CDDPはSIGMAから購入したP4394を用いた。HEPES(pH7.2)に溶解して、2mg/mlとした。
 (CDDP-3の合成)
 CDDP-3の合成は実施例1と同様の方法を用いた。cis-ジアンミンジニトラト白金(II)は、Daharaの方法(S.G.Dhara,Indian J.Chem.,7,335(1970))により合成した。
 塩化白金酸カリウム4.15g(10mmol)を蒸留水に溶解後、遮光、氷冷下で窒素を吹き込みながらヨウ化カリウム6.64g(40mmol)を加え5分間撹拌した。この反応溶液に28%アンモニア水溶液1.35mL(22mmol)を滴下し、3時間撹拌した。生成した黄色結晶を濾取し、蒸留水、エタノールで順次洗浄した後、40℃で10時間減圧乾燥した。ここで、アンミン-白金中間体cis-〔Pt(NH〕(cis-diamminediiodeplatinum(II)(CDDP-2))を4.49g得た。cis-〔Pt(NH〕2.41g(5mmol)を蒸留水に懸濁させた後、硝酸銀1.68g(9.9mmol)を加え、遮光下24時間撹拌した。生成したヨウ化銀を濾別し、濾液をエバポレーターで濃縮して白色結晶を得た。この白色結晶を冷蒸留水、エタノールで順次洗浄した後、40℃で10時間減圧乾燥し、cis-ジアンミンジニトラト白金(II)を1.01g得た。
 (CDDP-SLX-LipおよびCDDP-Lipの調製)
 本実施例の改良コール酸法において調製したcis-ジアミンジクロロ白金(II)内包リポソームIのうちの一部分を用いて、実施例3と同様の方法により、糖鎖で修飾したリポソームIを作製した。
 (リポソーム脂質膜面上の親水性化処理)
 cis-ジアミンジニトラト白金(II)内包したリポソームIの溶液10mlをXM300膜(Amicon Co.,USA)と炭酸緩衝液(pH 8.5)を用いた限外濾過(分画分子量:300,000)にかけ溶液のpHを8.5にした。次に、架橋試薬ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS;Pierce Co.,USA)10mgを加え、室温で2時間攪拌した。その後、さらに冷蔵下で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンとBSとの化学結合反応を完結した。そして、このリポソーム液をXM300膜と炭酸緩衝液(pH 8.5)で限外濾過(分画分子量:300,000)にかけた。次に、炭酸緩衝液(pH 8.5)1mlに溶かしたトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン40mgをリポソーム液10mlに加えた。次いで、この溶液を、室温で2時間攪拌後、冷蔵下で一晩攪拌し、分画分子量300,000で限外濾過し、遊離のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを除去し、該炭酸緩衝液をN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH8.4)に交換し、リポソーム膜上の脂質に結合したBSとトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとの化学結合反応を完結した。これにより、リポソーム膜の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン上にトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの水酸基が配位して水和親水性化された。
 (リポソーム膜面上へのヒト血清アルブミン(HSA)の結合)
 本実施例で得られた10mlのリポソームIの膜面上に存在するガングリオシドを1mlのN-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液(pH 8.4)に溶かしたメタ過ヨウ素酸ナトリウム43mgを加え、冷蔵下で一晩攪拌して過ヨウ素酸酸化した。XM300膜とPBS緩衝液(pH 8.0)で限外濾過(分画分子量:300,000)することにより、遊離の過ヨウ素酸ナトリウムを除去し、N-トリス(ヒドロキシメチル)-3-アミノプロパンスルホン酸緩衝液をPBS緩衝液(pH8.0)に交換して、酸化されたリポソーム10mlを得た。このリポソーム液に、20mgのヒト血清アルブミン(HSA)/PBS緩衝液(pH 8.0)を加えて室温で2時間反応させ、次に2M NaBHCN/PBS緩衝液(pH 8.0)100μlを加えて室温で2時間、さらに冷蔵下で一晩攪拌してリポソーム上のガングリオシドとHSAとのカップリング反応でHSAを結合した。次いで、限外濾過(分画分子量:300,000)し、遊離のシアノホウ素酸ナトリウムおよびヒト血清アルブミンを除去し、この溶液の緩衝液を炭酸緩衝液(pH8.5)に交換して、HSA結合リポソーム液10mlを得た。
 (糖鎖の調製)
 糖鎖として、シアリルルイスXを使用した。
 各糖鎖の質量を計測し、以下において使用するための前処理をした。
 (リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上への糖鎖の結合)
 糖鎖(SLX)2mgを精製水に溶解し、0.25gのNHHCOを溶かした0.5ml水溶液に加え、37℃で3日間攪拌した後、0.45μmのフィルターで濾過して糖鎖の還元末端のアミノ化反応を完結して、各糖鎖のグリコシルアミン化合物4mg/ml(アミノ化糖鎖溶液)を得た。次に、本実施例で得たリポソームIの溶液の一部分(10ml)に架橋試薬3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP;Pierce Co.,USA)10mgを加えて室温で2時間、続いて冷蔵下で一晩攪拌し、XM300膜と炭酸緩衝液(pH 8.5)で限外濾過(分画分子量:300,000)して、遊離のDTSSPを除去し、DTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリポソーム10mlを得た。次に、このリポソーム液に上記のグリコシルアミン化合物(アミノ化糖鎖溶液)37.5μlを加えて、室温で2時間反応させ、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン/炭酸緩衝液(pH 8.5)を添加した。その後、冷蔵下で一晩攪拌し、リポソーム膜面に結合したヒト血清アルブミン上のDTSSPにグリコシル化アミン化合物を結合させた。XM300膜およびHEPES緩衝液(pH 7.2)により限外濾過(分画分子量:300,000)をして、遊離の糖鎖およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを除去した。その結果、糖鎖とヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリポソーム(CDDP-SLX-Lip)各10mlが得られた。
 また、CDDP-Lipは、糖鎖SLXを添加しない以外、本実施例と同様の方法をお用いて作製した。本実施例において作製した、CDDPおよびCDDP-3を内包させたSLX修飾リポソームについて、実施例1および2と同様の方法を使用して、脂質量(mg/mL)、平均粒子径(nm)、脂質あたりのCDDP量(μg/mg)を測定した。脂質の定量には、0.5% TritonX-100存在下でデタミナーTC555キット(カタログ番号UCC/EAN128)(KYOWA Co.LTD)を用いて総コレステロール量を測定し、各脂質のモル比から総脂質量を算出した。平均粒子径は、リポソーム溶液を精製水で50倍に希釈して、ゼータサイザーナノ(Nan-ZS:MALVERN Co.LTD)を用いて25℃で測定した。CDDP量は、リポソーム溶液を精製水で10,000倍希釈して被検試料とし、その白金量をAA-6700(島津)を用いたフレームレス原子吸光光度法(FAAS)により定量した。測定条件:波長265.9nm、スリット幅 0.5、ランプ電流14mA、120℃ 30秒、250℃ 10秒、700℃ 20秒、700℃ 5秒、2600℃ 3秒、順次処理をおこなった。CDDP量は、
 式:A×(300/195)により算出した。Aは白金量、300はCDDPの分子量、195は白金の分子量である。その結果を以下の表に示す。

                 I        II   
内包に用いた物質        CDDP     CDDP3
脂質量(mg/mL)      3.5      3.5
平均粒子径(nm)       158      159
CDDP/脂質(μg/mg)  0.2      60.3  
I:CDDPを直接内包して作製したCDDPリポソーム
II:CDDP3を内包させた後、外液をNaClを含む緩衝液に置換して作製したCDDPリポソーム

 (急性毒性試験)
 急性毒性試験には限外濾過法(XM300;Amicon)により20倍に濃縮したCDDP-SLX-LipおよびCDDP-Lipを用いた。限外濾過の外液にはHEPES緩衝液(pH7.2)を用いた。CDDP-SLX-LipのCDDP濃度をフレームレス原子吸光光度法(FAAS)により測定した。定量方法の詳細は上述の通りである。このときのCDDP-SLX-LipのCDDP濃度は4mg/ml(脂質量70mg)であった。また、CDDP溶液を、CDDPをHEPES緩衝液(pH7.2)に溶解して、2mg/ml溶液になるように調製した。
 正常マウス Balb/c(雌性、8週齢 日本SLC)に、CDDP溶液、CDDP-SLX-Lip、生理食塩水200μl、20mM HEPES緩衝液(pH7.2)200μlまたはCDDPを内包していないSLXリポソーム(CDDP非内包SLXリポソーム)を各々、単回、尾静脈から投与した。実験には各群4個体を用いた。各投与量は以下の表に示す。投与後14日間の生存率を調べた。また、投与後5日間の体重を経時的に測定した。CDDP非内包SLXリポソームの投与脂質量は、CDDP-SLX-Lipを50mg CDDP相当/Kgマウス体重で投与したときの脂質量に合わせた。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000013
 (結果)
 25mg投与群では投与5日後の生存率は0%であったが、CDDP-SLX-Lipの20mgおよび50mg投与群では生存率は75%であり、リポソームに内包することにより相当毒性を軽減できることが判明した(図15)。さらにマウスの体重はCDDP18mg、25mg投与群では経時的な体重の減少が続き、CDDP18mg投与群では5日間で20%、CDDP25mg投与群では4日間で25%の体重減少が認められた。一方、CDDP-SLX-Lipを18mg、25mg、50mg投与群においては、投与後3日間でいずれも約15%の体重減少が認められたが、その後体重は増加し、投与5日後の体重減少は10%未満であった(図16)。以上の結果から、CDDP-SLX-Lipは優れた毒性軽減効果を示すことがわかった。
 (病理学的観察)
 正常マウスBalb/c(雌性、8週齢 日本SLC)(各区4匹)に、CDDPまたはCDDP-SLX-Lipを、マウス体重1kgあたり25mg CDDPに相当する量で投与し、4日後に腎臓、脾臓、肝臓を摘出して10%中性緩衝ホルマリン液で浸漬固定した。パラフィン包埋後2μmに薄切し、ヘマトキシリン・エオジン(H・E)染色およびTunel免疫組織化学的染色を行った。Tunel免疫組織化学的染色によるアポトーシスの検出にはIn situ Apoptosis Detection Kit(TaKaRa MK500)を用いた。
 (結果)
 CDDP(25mg/Kg体重)およびCDDP-SLX-Lip(CDDP25mg相当/Kg体重)を各々正常マウスに尾静脈投与して、3日目に腎臓、脾臓、肝臓を摘出し、組織切片をH.E染色およびTunel免疫染色した。その結果、腎臓では、CDDP-SLX-Lip投与群において、異常所見は認められず、Tunel陽性細胞は認められなかった(図17aおよびb)。一方、CDDP投与群においては近位尿細管の拡張が認められ、Tunel陽性のアポトーシスを起こした尿細管上皮細胞が散見された(図17cおよびd)。脾臓では、CDDP-SLX-Lip投与群において異常所見は認められず、Tunel陽性細胞がごく少数散見された(図17eおよびf)。しかし、CDDP投与群においてはリンパ球の壊死に伴う濾胞の萎縮、赤脾臓の細胞数の低下が認められた。また、濾胞では壊死したリンパ球が貧食され、Starry sky像が観察された。更に、濾胞および赤脾臓にTunel陽性細胞が数多く認められた。(図17gおよびh)。肝臓においては、CDDP-SLX-Lip投与群で軽微な良性の小肉芽腫の増加が認められたが、Tunel陽性細胞は認められなかった(図17iおよびj)。CDDP投与群では異常所見は認められず、Tunel陽性細胞も観察されなかった(図17kおよびl)。
 (In vivo抗腫瘍活性)
 本実施例では、In vitroにおいて、CDDP感受性の最も低かったA549細胞(A549:ヒト肺癌細胞(ATCC No.CCL-185)をマウスに移植し、CDDP-SLX-LipおよびCDDP-Lipの抗腫瘍効果を検討した。具体的には以下のようにおこなった。
 1×10個のA549細胞をヌードマウスBalb/c Slc-nu/nu(雌性、6週齢、各群4匹;日本SLC)の右側背部皮下に投与した。移植の5日後、12日後および19日後に200μlの生理食塩水、25mgCDDP相当/Kg体重のCDDP-SLX-LipまたはCDDP-Lipをそれぞれ尾静脈から投与した。移植の5日後、12日後、19日後、26日後にデジタルノギス(Mitutoyo CD-20C)を用いて腫瘍の長径(Amm)と短径(Bmm)を測定し、計算式(A×B)×0.5により腫瘍体積(mm)を算出した。
 図18に示すように、細胞移植後12日後において、CDDP-SLX-Lip投与群およびCDDP-Lip投与群の腫瘍体積(mm)は生理食塩水投与群と比較すると、いずれも小さく、リポソーム投与群間では差は認められなかった。しかし、細胞移植19日後には、CDDP-SLX-Lip投与群とCDDP-Lip投与群とでは抗腫瘍効果に明らかな差が観察された。具体的には、CDDP-SLX-Lip投与群の腫瘍体積が最も小さく、糖鎖で修飾していないCDDP-Lipよりも強い抗腫瘍効果が確認された(図18)。
 さらに、細胞移植26日目では、CDDP-Lip投与群とCDDP-SLX-Lip投与群において腫瘍体積の差がより拡大した。また、CDDP-SLX-Lip投与群では4匹中1匹のマウスに完全治癒効果が認められ、腫瘍が消失したことが判明した。
 (細胞培養)
 エールリッヒ腹水癌細胞(EAT)、ヒト大腸癌細胞(HT29)およびヒト扁平上皮癌細胞(A431)はATCCから購入した。ヒト肺癌細胞(A549)、マウス肺癌細胞(LLC)およびヒト乳癌細胞(SKBr3)は理化学研究所から各々購入した。すべての細胞の培養には10%FBS(Biowest)および1%ペニシリン・ストレプトマイシン溶液(SIGMA)を添加したDMEM(SIGMA)を用いた。培養は5%CO、37℃で行った。
 (CDDP-SLX-Lipのがん細胞増殖抑制活性)
 A549、HT29、A431、LLCおよびSKBr3の各細胞を1×10個/50μl/ウェルとなるように96穴マイクロプレートに播き、5%CO下、37℃で24時間培養した。CDDP-SLX-LipをCDDPの終濃度が10μM、50μM、100μM、200μMとなるように各ウェルに添加した。添加72時間後にWST-8(細胞数測定試薬 キシダ化学)を各ウェルに10μl添加して、5%CO下、37℃で1時間培養した。マイクロプレートリーダー(BioRAD)を用いて450nmの吸光度を測定し、吸光度と生細胞数とが相関関係にあることを用いて細胞数を推定した。具体的には、リポソーム未添加(コントロール)時の吸光度に対する添加時の吸光度(%)を算出し、細胞の生存率とした。
 図19に示されたように、5種類のがん細胞にCDDP-SLX-Lipを添加し、72時間後におけるIC50はSKBr細胞で200μM、TH29細胞で50μM、LLC細胞で175μM、A431細胞で100μMであった。A549細胞については、200μMのとき、65%の細胞生存率であった。細胞間で差が認められたが、いずれの細胞においてもCDDP-SLX-Lipを添加することによりCDDP感受性を示した。
 (CDDP-SLX-Lipのがん部位への集積性)
 5×10個のEAT細胞をマウス(Balb/c、雌性、6週齢:日本SLC)の右大腿部皮下に移植し、10日後に2.3mg/KgマウスのCDDPに相当するCDDP-SLX-LipおよびCDDP-Lipを尾静脈投与した。48時間後に摘出したがん0.1g当たり濃硝酸を1ml添加して、60℃の水浴中で1時間静置した。室温に戻した後、蒸留水で4倍希釈し白金量をFAASで定量し、リポソームの集積度とした。
 EAT細胞を移植した担がんマウスに、SLX修飾リポソームまたはSLX未修飾リポソームを投与し、48時間後のリポソームの集積性を、リポソームに内包されたCDDPの白金量を定量することにより調べた。その結果、図20に示すように、SLXを表面に結合させたCDDP-SLX-Lipのがん部位への集積は、糖鎖を結合していないCDDP-Lipの5.7倍であった。このことから、SLXがリポソームの標的指向性に影響を与えることが明らかになった。
 (考察)
 CDDP 25mg/Kg体重で投与した場合の急性毒性の検討では、投与後5日後の生存率は0%であった。しかし、CDDP-SLX-Lip25および50mg投与群の生存率は75%であり、体重についてもCDDP-SLX-Lipの場合、投与3日目以後で回復が認められた(図19)。CDDPの副作用の一つに、重篤な腎毒性が知られている。CDDP 25mg投与では、この腎毒性が近位尿細管の異常という形で確認された。これに対しCDDP-SLX-Lipの場合は、腎臓への毒性はまったく認められなかった。恐らく、CDDP-SLX-Lipは著しい体内動態の変化により、腎毒性を示さないような形で尿中から排泄されているものと考えられる。また、CDDP-SLX-Lipの脾臓への影響は、CDDPに比べ著しく軽度であった。肝臓で観察された小肉芽腫は、TUNELアッセイにおいてアポトーシスは認められなかった。CDDP非内包リポソームにおいても小肉芽種の増大が認められたことから、これはリポソームが肝臓でマクロファージに貧食された結果生じた良性の肉芽種であると考えられる(図20)。従って、CDDP-SLX-LipはCDDPに比べると極端に低毒性であり、マウスでは、CDDPで致死に至る25mg/Kg体重での投与が十分可能であることが示唆された。この知見から、抗悪性腫瘍薬のヒトへの投与量について検討する。ヒトの抗悪性腫瘍薬の投与量は、体表面積によって決定することができる。体表面積はDuboisの式によって計算することができる。
 体表面積(BSA:m)=0.007184×体重(Kg)0.425×身長(cm)0.725
 これを用いると、シスプラチンは、ヒトに対して、約30~約200mg/m/dayの範囲で点滴静脈投与される。例えば、170cm、60Kgのヒトでは、その体表面積は、1.9mとなる。従って、以下のようになる:
約57~約380mg/1.9m/60Kg/day → 約0.95~約6.33mg/Kg/day
 本件では、CDDPのマウス投与量は、約18~約50mg/Kg体重であり、これを170cm、60Kgのヒトへの投与量として換算すると、約1080~約3000mg/60Kg/1.9mとなる。これを静脈内投与に換算すると、約568~約1578mg/mとなる。
 各種がん細胞に対するin vitroでの細胞増殖抑制活性については、IC50値が細胞株によって多少変動したが、CDDP-SLX-Lipは添加72時間後において全てのがん細胞に対し増殖抑制活性を示した(図19)。また、CDDP-SLX-LipのIC50値は、CDDP単独投与に比し10~20倍高かった。これはCDDP-SLX-Lipの場合はリポソームとして一旦細胞内へ取り込まれた後、リポソームが壊れることによってCDDPが細胞内に放出されることから、細胞生存率を低下させるのに充分な量のCDDPがリポソームから細胞質に放出されるまでには、ある程度の時間を要する可能性がある。図19に示すデータは、CCDP-SLX-Lip添加72時間後の生存率であるので、リポソーム添加から評価までの時間を延ばすことにより、CDDPと同等の感受性を示すのではないかと考えられる。さらに、CDDP-SLX-Lipは、長時間にわたり細胞内にCDDPを除放する可能性もある。
 本発明者らは、以前、蛍光物質Cy5.5内包SLXリポソームを用いた蛍光イメージング実験によりSLX結合リポソームのがん部位への集積性が、投与48時間後に最も高いことを、確認し報告した[M.Hiraiら、BBRC.,353,553-558(2007)]。この知見をもとにして、本実施例では、CDDP-SLX-Lipのがん部位への集積量を投与48時間後に検討した。その結果、がん組織に含まれる白金量の測定から、CDDP-SLX-LipはCDDP-Lipよりも約6倍がん部位へ集積することが明らかになった(図20)。ここで、CDDP-Lipのデータは、リポソームのEPR効果[Y.Matsumuraら、Cancer Res,.46,6387-6392(1986)]による集積を反映するものと考えられる。
 In vitroの細胞増殖抑制実験によりA549細胞は、CDDP-SLX-Lipに対する感受性が他の細胞に比べ低いことが判明した(図19)。そこで、この感受性の低いA549細胞に対しCDDP-SLX-Lipがin vivoで抗腫瘍効果を示すか否かを検討した。具体的には、CDDP-SLX-LipおよびCDDP-Lipを各々CDDP25mg相当/Kg体重で投与したときの抗腫瘍活性を調べた。この濃度のCDDP-SLX-Lipは、図15および図16に示されたように、マウスに対し副作用が認められないことが明らかになっている。A549細胞を移植後5日後、12日後、19日目(7日ごと)に3回リポソームの尾静脈投与を行った。移植12日後においては、生理食塩水投与区と比較して、CDDP-SLX-LipおよびCDDP-Lip投与群の腫瘍体積はいずれも小さく、明確な抗腫瘍効果が認められた。しかし、両リポソーム間での差はなくリポソームに修飾されたSLXの有効性は認められなかった。しかし、移植後19日後および26日目には、CDDP-SLX-LipとCDDP-Lipとの間で明らかな差が見られ、SLXの有効性が認められた(図18)。このことは、A549細胞のCDDPに対する感受性に起因していると考えられる。すなわち、SLX結合リポソームを用いCDDPをがん部位に高濃度に集積させているが、A549細胞はCDDP感受性が低く(図19)、抗腫瘍活性が表れるまでに、19日間を要したのではないかと考えられる。CDDPに感受性の高い細胞を用いることにより、早期にCDDP-SLX-LipによるCDDP高濃度集積/抗腫瘍効果が見られる可能性が高い。また、本実施例では、がん移植後26日間の評価を行ったが、がん組織に集積したCDDP-SLX-LipからのCDDPの除放効果が期待できるため、より長期間の評価を行うことにより、CDDP-SLX-LipとCDDP-Lipとの抗腫瘍効果の差が大きくなることが考えられる。
 (実施例16:抗腫瘍活性試験)
 本実施例では、実施例1と同様の方法で調製したCDDP、CDDP-3、CDDP内包シアリルルイスX修飾リポソームおよびCDDP内包糖鎖未修飾リポソームを用いる。
 (SKBr3細胞株(ヒト乳癌細胞)を用いた抗腫瘍活性試験I)
 5週齢マウス(Balb/c Slc-nu/nu 雌)(各群5匹)の右大腿部の皮下に、1×10個のSKBr3細胞株(ヒト乳癌細胞:SK-Br-3 Code.No.04-030)を移植する。細胞の培養は、DMEM培地(2mM グルタミンおよび10% ウシ胎児血清添加、抗生物質無添加)を用い、37℃、5% CO下で行う。移植の5日後、12日後、19日後にCDDP内包シアリルルイスX修飾リポソーム、CDDP内包糖鎖未修飾リポソーム、CDDPをそれぞれ、マウス体重1kgあたりCDDP量25mg(200μl/マウス)でマウスの尾静脈に投与する。コントロールとして、HEPES緩衝液(pH 7.2)を200μl/マウスで同様に投与する。
 腫瘍の大きさは、デジタルノギス(Mitutoyo CD-S15C)を用いて、腫瘍の長径(mm)と短径(mm)を測定することにより経時的に(例えば、5日後、12日後、19日後および26日後)確認することができる。
 短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)×1/2 の計算式により腫瘍体積(mm)を計算する。また、腫瘍細胞投与日(0日目)および被験物質投与日(例えば、5日後、12日後、19日後および26日後)に測定を行う。体重は、電子天秤(エー・アンド・ディ株式会社、HY-3000)を用いて測定することができる。
 (SKBr3細胞株(ヒト乳癌細胞)を用いた抗腫瘍活性試験II)
 5週齢マウス(Balb/c 雌)(各群5匹)の右大腿部の皮下に、1×10個のSKBr3細胞株(ヒト乳癌細胞:SK-Br-3 Code.No.04-030)を移植する。細胞の培養は、DMEM培地(2mM グルタミンおよび10% ウシ胎児血清添加、抗生物質無添加)を用い、37℃、5%CO下で行う。移植の5日後、12日後、19日後に、リポソーム投与群には、CDDP内包シアリルルイスX修飾リポソーム、またはCDDP内包糖鎖未修飾リポソームを、マウス体重1kgあたりCDDP量1mgまたは4mg(200μl/マウス)でマウスの尾静脈からそれぞれ投与する。また、シスプラチン投与群には、マウス体重1kgあたりCDDP量1mgまたは4mg(200μl/マウス)でマウスの尾静脈から投与する。コントロールとして、HEPES緩衝液(pH 7.2)、CDDPを内包していない空リポソームを200μl/マウスで同様に投与する。
 腫瘍の大きさは、デジタルノギス(Mitutoyo CD-S15C)を用いて、腫瘍の長径(mm)と短径(mm)を測定することにより経時的に(例えば、5日後、12日後、19日後および26日後)確認することができる。短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)×1/2 の計算式により腫瘍体積(mm)を計算することができる。また、腫瘍細胞投与日(0日目)および被験物質投与日(例えば、5日後、12日後、19日後および26日後)に行う。体重は、電子天秤(エー・アンド・ディ株式会社 HY-3000)を用いて測定することができる。
 以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
 本発明は、リポソームに内包できないか、内包効率の低かった難水溶性アンミン白金錯体をリポソームに効率よく内包できるという有用性を有する。従って、経口投与できなかった難水溶性アンミン白金錯体をリポソーム製剤として利用するという有用性を提供する。

Claims (16)

  1. がんまたは腫瘍を処置するための組成物であって、該組成物は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包するリポソームを含み、そして該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含む、組成物。
  2. 前記標的指向性物質が、抗体および糖鎖からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
  3. 前記標的指向性物質が、シアリルルイスXまたは抗E-セレクチン抗体である、請求項1に記載の組成物。
  4. 前記がんまたは腫瘍が、大腸がん、肺がん、扁平上皮がん、乳がんおよび卵巣がんからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
  5. 前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、1mg脂質あたり43μgより多く含まれる、請求項1に記載の組成物。
  6. 前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、少なくとも500mg/mとなるように投与されるように処方される、請求項1に記載の組成物。
  7. がんまたは腫瘍を処置するための医薬の製造のための、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包するリポソームの使用であって、該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含む、使用。
  8. 前記標的指向性物質が、抗体および糖鎖からなる群より選択される、請求項7に記載の使用。
  9. 前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、1mg脂質あたり43μgより多く含まれる、請求項7に記載の使用。
  10. がんまたは腫瘍を処置するための、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包するリポソームであって、該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含む、リポソーム。
  11. 前記標的指向性物質が、抗体および糖鎖からなる群より選択される、請求項10に記載のリポソーム。
  12. 前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、1mg脂質あたり43μgより多く含まれる、請求項10に記載のリポソーム。
  13. がんまたは腫瘍を処置するための方法であって、該方法は、cis-ジアミンジクロロ白金(II)を内包するリポソームを該処置を必要とする被験者に投与する工程を包含し、該リポソームは、該リポソームの表面に標的指向性物質を含む、方法。
  14. 前記標的指向性物質が、抗体および糖鎖からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
  15. 前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、1mg脂質あたり43μgより多く含まれる、請求項13に記載の方法。
  16. 前記cis-ジアミンジクロロ白金(II)は、少なくとも500mg/mとなるように投与される、請求項13に記載の方法。
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