明 細 書
融合タンパク質の製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、複数のポリペプチドドメインがポリペプチドリンカ一部分により連結されて V、る構造を有する融合タンパク質を遺伝子工学手法によって生産させる際に、 mRN A中のポリペプチドリンカ一部分に対応する領域の翻訳速度を低下させるようにポリ ペプチドリンカ一部分を設計することを特徴とする融合タンパク質の製造方法を提供 する。
背景技術
[0002] 数多くの有用物質、特にタンパク質、ポリペプチド等の生物由来の物質の生産が、 遺伝子工学手法の確立により可能となってきている。従来、こうした生物由来の物質 は目的とする当該物質を含む天然の材料を初発物質として、抽出、精製等の手法に 基づいて単離されていた力 S、一般的に初発物質中では目的とする当該物質の含有 濃度は低ぐその収量には限界があった。これに対して、遺伝子工学手法を用いれ ば、タンパク質、ポリペプチド等をコードする遺伝子を当該遺伝子を発現することが可 能な遺伝子エレメントに連結して作製した組換えベクターを好適な宿主中に導入す ることにより、 目的とするタンパク質、ポリペプチド等を大量に発現することができる。 大量発現により得られる、 目的とするタンパク質、ポリペプチドを高濃度で含む調製 物から抽出又は精製を行うことにより、 目的とするタンパク質、ポリペプチドを高収率 で取得することが可能となった。
[0003] 遺伝子工学とは遺伝子を操作することにより、生物が本来持っている機能とは異な る機能を付与するか、生物機能を改変する技術の総称であり、変異誘発、細胞融合 の他、近年では組換え DNA技術がその中心技術となっている。遺伝子工学の産業 上の利用分野は、医療、分析 ·診断、農畜水産分野、食品及び化学分野と広範にわ たり、具体的には医薬、診断薬、分析試薬、組換え動物、組換え植物、酵素等数多く の製品が実用化されている。遺伝子工学は上記のように、生物が本来持っている機 能とは異なる機能を付与する、即ち、宿主生物が生来遺伝的には持っていない分子
を当該宿主中で発現させる手法であるため、時として導入する遺伝子の由来する生 物種(ドナー)と、当該遺伝子を発現させる宿主の生物種 (レシピエント)が相互に相 違する異種遺伝子発現の場合に、 目的として!/、た物質が目的とする態様で発現する 事ができな!/、とレ、う現象が観察されてきた。
[0004] 例えば、真核生物由来の糖鎖タンパク質を、大腸菌、枯草菌等の遺伝子組換えの 宿主として古くから用いられてきたような原核生物中において発現させた場合には、 原核細胞では糖鎖付加機構を有してレ、なレ、ため、生産される組換えタンパク質は糖 鎖を有しない。このため、糖鎖の存在がタンパク質の活性に対して必須であるときは 、当該組換えタンパク質は非活性型のタンパク質として生産されることになる。
[0005] 同様の例として、遺伝子の転写、翻訳における効率を決定する要因であるコドンの 使用頻度について、生物種による相違に起因する障害が指摘されてきた。真核生物 ミトコンドリアとカンジダ属酵母を除き、アミノ酸のコドンは全生物にほぼ共通であるが
、真核生物の遺伝子のコドン利用頻度と宿主となる原核生物のコドン利用頻度とに 差があり(非特許文献 1:コドン利用頻度のデータベース http:〃 www.kazusa.or.jpん 0 don/)、コドン利用頻度に関して以下のような観察がなされている。
[0006] 1)コドン選択パターンはタンパク質生産量と関係する一つの重要な因子である。例 えば、大腸菌に導入した真核生物由来の遺伝子が、大腸菌において使用頻度の少 ないコドンである lie (AUA)、 Arg(AGA)、 Leu (CUA)、 Arg(AGG)、 Pro (CCC)、 Gly ( GGA)を使用している場合、当該遺伝子によりコードされたタンパク質が発現しない、 又は、発現の途中で停止し分解を受けることがある。例え発現した場合でも、外来蛋 白質のみを多量に含む顆粒 (沈殿)(以下、封入体 (インクルージョンボディ)と指称す る。)を形成する。当該封入体は、タンパク質が分子内のジスルフイド結合等を通じて 本来保持する立体構造を有していないため、そのままでは目的とする活性が得られ ない。
[0007] 2)コドン選択パターンはタンパク質生産量のみでなぐ翻訳過程の正確度とも関係し 、 Arg (AGA)の代わりにし (AAA)を取り込んで異なるアミノ酸配列を有するタンパク 質が生産されることがある(非特許文献 2 :J.Mol.Biol., 262, 407-412, 1996)。
[0008] 3)生物のコドンの使用頻度と当該生物中の tRNA濃度の偏りとは完全には一致して
いないことが知られている。従って、当該生物におけるレアコドンを定義するためには 、生物におけるコドンの使用頻度の他にも当該生物中の tRNA濃度の偏りを参酌す ることが必要である。
[0009] 上記の観察から、真核生物由来の遺伝子コドンとして、宿主原核生物細胞で多用 される同義コドンを用いることが好ましいと予想されてきた。このため、遺伝子を化学 合成する際に、宿主菌のコドン使用の特徴に基づいて適したコドンを有する遺伝子 を合成すること(非特許文献 3 :細胞工学, 5, 212-221, 1986)が行われている。更 に、大腸菌のレアコドンに対応する tRNAを発現する組換えプラスミドを導入した宿 主(例えば大腸菌を宿主とした場合の CodonPlusTM (Stratagene社)等)の開発など がなされている。同様の技術を利用して、レアコドンに対応する tRNAを導入した大 腸菌で scFvを産生させ、生産量を上昇させた報告もされている(非特許文献 4 : J.Bio sci.Bioeng., 91(1), 53-7, 2001)。
[0010] 真核生物由来のタンパク質であって、医薬 ·診断薬等の用途に頻用されるタンパク 質としては、酵素、又は、抗体若しくはその断片が挙げられる。酵素は食品、医薬、 診断薬、化学等の広範な分野で使用されている。抗体は認識する抗原物質との親和 性の高さから診断薬や医薬分野で使用されている。抗体は、とりわけ血清中での安 定性が高ぐ抗原性が少ないことから医薬品として近年頻用されている。
[0011] 抗体の全長分子は、重鎖と軽鎖の二種類のポリペプチド分子が二分子ずつ会合し た分子であり、その活性化には糖鎖構造が重要であるため、抗体分子を活性型で生 産するためには、ドナーの真核細胞と同様の糖鎖付加活性を有するレシピエント中 で発現させることが必要である。これに対して全長抗体の断片を利用する抗体断片 は、抗体が抗原を十分に認識するのに必要な最小結合単位である、抗体の重鎖可 変領域 (H鎖 V領域)と軽鎖可変領域 (L鎖 V領域)が会合したヘテロ二量体分子であ る Fv分子、または H鎖 V領域ポリペプチドと L鎖 V領域ポリぺプチドとが任意のアミノ 酸配列を有するポリペプチドリンカ一で結合されている分子である。当該抗体断片は 、全長抗体と比較し血中半減期が短ぐ投与により人為的にその血中濃度の制御が 可能であり、その分子量が全長抗体の分子量よりも小さいために組織移行性に優れ ていること力 、全長抗体とは異なる医薬品としての優れた性質を有している。更に、
全長抗体を抗体断片化することにより、全長 IgG抗体では観察できない受容体に対 するァゴニスト活性を付与することが可能であるという報告がなされ (非特許文献 5: B1 ood, 105(2), 562-6, 2005)、その機能的優位性の観点からも医薬品としての可能 十生が高まってきている。
[0012] 抗体断片は活性型分子として機能するために糖鎖の付加が必要でないことから、ド ナ一の真核細胞と同様の糖鎖付加活性を有するレシピエント中で発現させることを 必要としない。このため、抗体断片は、生育速度が速ぐ生産量も大きいことから製造 における単位時間当たりの生産性、簡便性などの観点で優れている大腸菌、枯草菌 その他の微生物(酵母などの真核生物も含む)を宿主にした遺伝子工学手法を用い て生産することが可能である。
[0013] しかしながら、大腸菌を始めとする原核生物を宿主として抗体断片を発現させた場 合には、多くの真核生物由来のタンパク質がそうであるのと同様に、抗体断片分子同 士が凝集して封入体を形成するか、又は、封入体を形成しない場合でも適切な立体 構造を取らないために、抗体断片が抗原に対する結合活性を有しない等の現象がし ばしば認められている。こうした封入体を塩酸グァニジンや 0一メルカプトエタノール を用いて還元状態下で変性し透析により徐々に変性剤を除去することにより巻き戻し を促し、可溶型構造を形成し始める段階にジスルフイド結合の形成を促す酸化型グ ルタチオンと凝集抑制剤であるアルギニンを添加する方法が報告されて!/、る(非特許 文献 6 : J.Immunol.Method, 219, 119-29, 1998)。しかし、作業が煩雑な上時間も 要することから、抗体断片をその結合活性等を保持したまま可溶型で生産することが できる製造方法の開発が望まれて!/、た。
[0014] 本明細書において引用される参考文献は以下のとおりである。これらの文献に記載 される内容はすべて本明細書の一部としてここに引用する。これらの文献のいずれか 力 s、本明細書に対する先行技術であると認めるものではない。
非特許文献 1:コドン利用頻度のデータベース http:〃 www.kazusa.or.jpん odon/ 非特許文献 2 : J.Mol.Biol., 262, 407-412, 1996
非特許文献 3 :細胞工学, 5, 212-221, 1986
非特許文献 4 : J.Biosci.Bioeng., 91(1), 53-7, 2001
非特許文献 5 : Blood, 105(2), 562-6, 2005
非特許文献 6 :J.Immunol.Method, 219, 119-29, 1998
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0015] 本発明の課題は、抗体断片を可溶型で生産することができる製造方法を提供する ことにある。また、本発明の課題は、抗体断片を効率的に生産することができる製造 方法を提供することにある。更に、本発明の課題は、抗体断片を大量に生産すること 力 Sできる製造方法を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0016] 本発明者らは、抗体断片の機能ドメイン同士の結合に使用するリンカ一配列をコー ドするヌクレオチド配列を選択することにより、上記課題を解決することを見出し、本 発明を完成させた。
[0017] 本発明は、 2以上のポリペプチドドメインと、これらを連結するポリペプチドリンカ一 力、らなる融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、前記ポリペプチドリン カーをコードするポリヌクレオチドの配列は、前記ポリヌクレオチドが導入された宿主 細胞において前記ポリヌクレオチドから転写された mRNAが翻訳される際に、ポリぺ プチドリンカ一をコードする mRNAの領域の翻訳速度がそのすぐ上流側のポリぺプ チドドメインをコードする mRNAの領域の翻訳速度より遅くなるよう選択されることを 特徴とするポリヌクレオチドを提供する。すなわち、ポリペプチドリンカ一をコードする ポリヌクレオチドの配列は、ヌクレオチド配列から転写され生成した mRNAが翻訳さ れる際に、その翻訳速度が遅延するように選択される。
[0018] 好ましくは、ポリペプチドリンカ一をコードするヌクレオチドは、 1またはそれ以上のレ アコドンを含む。より好ましくは、レアコドンは、 GCC, CGG, AGG, CAA, CAC, C AT, CTA, CCC, CCA, TCCのいずれかから選択される。またより好ましくは、レア コドンは、 CGG, AGG, AGA, CTA, CCC, GGA, ATAのいずれかから選択され
[0019] また好ましくは、ポリペプチドリンカ一をコードするヌクレオチドは、当該ヌクレオチド 力、ら転写される mRNAの二次構造力 立体高次構造を取ることができる配列である
ことを特徴とする。さらに好ましくは、立体高次構造はステム ループ構造である。ま た好ましくは、ポリペプチドリンカ一をコードするヌクレオチドがコードするアミノ酸の使 用頻度は、当該ポリペプチドが導入された宿主細胞において低いことを特徴とする。 また好ましくは、融合タンパク質は抗体断片である。さらに好ましくは、抗体断片は SC
Fvまたは sc (Fv) 2である。
[0020] 特に好ましくは、ポリペプチドリンカ一をコードするヌクレオチドは、配列番号 6、 8、 1
0、 12又は 24に規定される配列を有する。
[0021] 別の態様においては、本発明は、上述の本発明のポリヌクレオチドが前記宿主細 胞において発現可能なように揷入されたベクターならびにこのベクターにより形質転 換された宿主細胞を提供する。好ましくは宿主細胞は原核生物の細胞であり、また好 ましくは、原核生物は大腸菌である。
[0022] さらに別の態様においては、本発明は、上述の本発明の宿主細胞を培養し、産生 された融合タンパク質を回収することを特徴とする融合タンパク質の製造方法を提供 する。
[0023] 本発明の 1つの態様においては、抗体断片の分子内の機能ドメインを結合するた めに使用されるリンカ一配列をコードするヌクレオチド配列について、その翻訳速度 が低下するような配列に改変又は設計された抗体断片遺伝子を作製し、当該遺伝子 により形質転換された宿主を培養することを特徴とする可溶型抗体断片の製造方法 が提供される。
[0024] また、別の態様においては、翻訳速度が低下するように、レアコドンを含む配列に 改変又は設計された抗体断片遺伝子を作製し、当該遺伝子により形質転換された宿 主を培養することを特徴とする可溶型抗体断片の製造方法が提供される。
[0025] 本発明の更に別の態様においては、翻訳速度が低下するように、 mRNAの二次構 造が立体高次構造を取ることができる配列に改変又は設計された抗体断片遺伝子を 作製し、当該遺伝子により形質転換された宿主を培養することを特徴とする可溶型抗 体断片の製造方法が提供される。
[0026] 本発明のさらに別の態様においては、抗体断片をコードする遺伝子によって形質 転換された宿主細胞における発現に際し、当該抗体断片の機能ドメインを結合する
ために使用されるリンカ一配列であって、当該リンカ一配列の翻訳速度が低下するよ うに改変又は設計されたリンカ一のヌクレオチド配列が提供される。
[0027] また、本発明の別の態様においては、抗体断片をコードする遺伝子によって形質 転換された宿主細胞における発現に際し、当該抗体断片の機能ドメインを結合する ために使用されるリンカ一配列であって、当該リンカ一配列の翻訳速度が低下するよ うに、レアコドンを含む配列に改変又は設計されたリンカ一のヌクレオチド配列が提 供される。
[0028] 本発明の更に別の態様においては、抗体断片をコードする遺伝子によって形質転 換された宿主細胞における発現に際し、当該抗体断片の機能ドメインを結合するた めに使用されるリンカ一配列であって、当該リンカ一配列の翻訳速度が低下するよう に、 mRNAの二次構造が立体高次構造を取ることができる配列に改変又は設計さ れたリンカ一のヌクレオチド配列が提供される。
[0029] 本発明の別の態様においては、抗体断片をコードする遺伝子によって形質転換さ れた宿主細胞における発現に際し、当該抗体断片の機能ドメインを結合するために 使用されるリンカ一配列であって、当該リンカ一配列の翻訳速度が低下するように、 当該リンカ一配列中のアミノ酸が宿主細胞において使用される頻度が低いアミノ酸で あることを特徴とするリンカ一のヌクレオチド配列が提供される。
[0030] また、本発明の別の態様においては、上記のリンカ一のヌクレオチド配列を含む抗 体断片をコードする遺伝子、この遺伝子を有するベクター、ならびにこのベクターによ つて形質転換された宿主細胞が提供される。
[0031] 更に別の態様においては、上記のリンカ一のヌクレオチド配列を含む抗体断片をコ ードする遺伝子を有するベクターによって形質転換された宿主細胞を培養し、その 培養液を精製することからなる抗体断片の製造方法が提供される。
発明の効果
[0032] 本発明の融合タンパク質のリンカ一をコードするヌクレオチド配列を用いれば、ドナ 一とは異なる生物種を宿主に用いて融合タンパク質を生産させた場合に、当該抗体 断片を可溶型で発現させることができる。また、本発明の抗体断片のリンカ一をコード するヌクレオチド配列を用いれば、ドナーとは異なる生物種を宿主に用いて抗体断片
を生産させた場合に、当該抗体断片を可溶型で発現させることができる。特に大腸 菌で発現させた場合に当該抗体断片を可溶型で発現させることができる。また、本発 明の抗体断片のリンカ一をコードするヌクレオチド配列を用いれば、ドナーとは異なる 生物種を宿主に用いて抗体断片を生産させた場合に、当該抗体断片の発現量を増 カロさせること力 Sできる。特に大腸菌で発現させた場合に当該抗体断片の発現量を増 カロさせること力 Sできる。更に、本発明の抗体断片のリンカ一をコードするヌクレオチド 配列を用いれば、ドナーとは異なる生物種を宿主に用いて scFv (single_chain Fv a ntibody fragment)及び sc (Fv) 2を生産させた場合に、当該 scFv及び sc (Fv) 2を可 溶型で発現させること力 Sできる。特に大腸菌で発現させた場合に当該 scFv及び sc ( Fv) 2を可溶型で発現させることができる。また、本発明の抗体断片のリンカ一をコー ドするヌクレオチド配列を用いれば、ドナーとは異なる生物種を宿主に用いて scFv及 び sc (Fv) 2を生産させた場合に、当該 scFv及び sc (Fv) 2の発現量を増加させること 力できる。特に大腸菌で発現させた場合に当該 scFv及び sc (Fv) 2の発現量を増加 させること力 Sでさる。
図面の簡単な説明
[図 1]図 1は、パンユング用ベクターを示す図である。
[図 2]図 2は、 scFv発現用ベクターを示す図である。
[図 3]図 3は、 IPTG誘導後の菌体増殖を示す図である。
[図 4]図 4は、ゲルクロマトグラフィによる立体構造の解析を示す図である。
[図 5]図 5は、 SDS-PAGEによる立体構造の解析を示す図である。
[図 6]図 6は、抗原結合カラムに対する scFvの結合を示す図である。
[図 7]図 7は、ビォチン化 scFvの抗原認識を示す図である。
[図 8]図 8は、 scFvの可溶性分子の生産性を示す図である。
[図 9]図 9は、 scFvの可溶化率を示す図である。
[図 10]図 10は、 scFvを産生する宿主細胞の増殖を示す図である。
[図 11]図 11は、 sc (Fv) 2を発現する菌体の増殖曲線を示す図である。
[図 12]図 12は、 sc (Fv) 2の SDS-PAGEによる解析結果を示す図である。
[図 13]図 13は、 sc (Fv) 2のウェスタンブロットによる解析結果を示す図である。
[図 14]図 14は、 sc (Fv) 2を発現する菌体の菌体内不溶性画分の経時変化を示す図 である。
[図 15]図 15は、 sc (Fv) 2を発現する菌体の菌体内可溶性画分の経時変化を示す図 である。
[図 16]図 16は、 sc (Fv) 2を発現する菌体の培養上清の経時変化を示す図である。
[図 17]図 17は、 sc (Fv) 2を発現する菌体の培養上清の Biacore解析によるセンサー グラムを示す図である。
[図 18]図 18は、図 17の拡大図である。
発明を実施するための最良の形態
[0034] 融合タンパク晳
本発明において、「融合タンパク質」とは、二若しくはそれ以上のタンパク質又はポリ ペプチドを、主に遺伝子工学に基づく手法により融合させることにより作製される人工 のタンパク質又はポリペプチドをいう。なお、本明細書においては、用語「タンパク質」 と「ポリペプチド」とは互換的に用いられる。融合タンパク質の作製方法は、遺伝子ェ 学に基づく手法(以下、「遺伝子工学的手法」と指称する。)が用いられることが多い 、それに限定されるものではない。融合タンパク質を構成する各タンパク質は、天 然に存在する全長タンパク質であってもよいし、各タンパク質中に存在する当該全長 タンパク質の全部又は一部の機能を発揮するために必要な領域であるポリペプチド ドメインであってもよい。こうしたポリペプチドドメインの例としてはカルモジュリン分子 中のカルシウム結合ドメインなどが挙げられる。ポリペプチドドメイン自身は自己安定 化機能を有することから、遺伝子工学的手法によって、あるタンパク質中のポリぺプ チドドメインを別のタンパク質のポリペプチドドメインと交換して新たな機能を有する融 合タンパク質であるキメラタンパク質を作製することができる(Science, 198(4321), 10 56-63, 1977)。キメラタンパク質は融合タンパク質の一類型であって、融合した各タ ンパク質のポリペプチドドメインが異なる種のタンパク質に由来するものを指称する。
[0035] また、各ポリペプチドドメインは同一分子から由来するものであってもよい。即ち、あ る天然の全長タンパク質がポリペプチドドメイン A+ポリペプチドドメイン B +ポリぺプ チドドメイン Cの各機能ドメインから構成されて!/、る場合に、各機能ドメイン間を結合し
た分子、例えば、ポリペプチドドメイン A +ポリペプチドドメイン Bから構成されるポリぺ プチド分子、ポリペプチドドメイン A+ポリペプチドドメイン Cから構成されるポリぺプチ ド分子、及びポリペプチドドメイン A +ポリペプチドドメイン B +ポリペプチドドメイン C 力も構成されるポリペプチド分子も、これらの各ポリペプチドドメイン間が後述するポリ ペプチドリンカ一分子により融合されていれば、本明細書中では融合タンパクの定義 に包含されるものとする。
[0036] また本発明において「ポリペプチド」とは広義のポリペプチド、即ち、鎖長が 50ァミノ 酸長より短いペプチドも包含する概念として用いられる。本定義によればペプチド結 合によってポリペプチドを構成するアミノ酸残基の数に特に制限はなぐ 1から 3000ァ ミノ酸までのアミノ酸からなるポリペプチドを含むものとする。好ましくは 1から 1500アミ ノ酸であり、より好ましくは 1から 1000アミノ酸、更に好ましくは 1から 500アミノ酸、特に 好ましくは 1から 300アミノ酸からなるポリペプチドである。
[0037] 「融合タンパク質」を作製するための遺伝子工学的手法を以下に簡潔に例示する。
あるタンパク質のポリペプチドドメインをコードするポリヌクレオチド配列を別のタンパ ク質のポリペプチドドメインをコードするポリヌクレオチド配列とインフレームで融合し て、更に、そのように作製されたポリヌクレオチドの 5'末端に、開始コドンである ATG、 及び 3'末端に終始コドンである TAA、 TGA又は TAGをインフレームで有しているよう なヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを人工的に作製する。このことにより一つ の読取り枠によって目的とする融合タンパク質がコードされる組換え DNAが構築でき る。こうした遺伝子工学的手法は、当業者であれば Molecular Cloning (A Laborator y Manual, し old spring Harbor Laboratory Press, NY, Vol. 1 , 2, ό (1989)) などに記載された手法に基づいて利用でき、通常の創作能力を発揮することにより 融合タンパク質を作製することができる。
[0038] こうした遺伝子工学的手法に基づき作製された、真核生物由来の融合タンパク質を コードする遺伝子を大腸菌等の原核細胞中で発現させた場合に直面する問題点とし て、タンパク質が発現しない、又は発現した場合であっても封入体の形成に起因する 活性型タンパク質が得られなレ、とレ、つた現象が知られてレ、る。この問題点を解決する ために、本発明は、封入体の形成を抑制して、当該融合タンパク質をより可溶型で産
生することができる製造方法を提供する。
[0039] 本発明において「可溶型」とは、レシピエント細胞の細胞質中における不溶性の封 入体を形成せずに、レシピエント細胞の細胞質、ペリブラズム、培養液の上清へ分泌 される分子型のことを意味するものである。可溶型及び不溶型融合タンパク質分子の 存在の確認は、後に実施例において記載する力 Knappikらの方法(Protein Eng., 8(1), 81-9, 1995)により行うことができる。本発明の効果を検証するための可溶型 及び不溶型の融合タンパク質分子の含有量についての分析方法は、実施例中で具 体的に記述する方法等を好適に使用することができる。
[0040] 上記の他に、融合タンパク質を作製する際に、互いに相違するタンパク質を由来と するポリペプチドドメインを融合させるために、リンカ一 (又はスぺーサーともいう)配列 を好適に使用することができる。当該リンカ一を構成するアミノ酸配列に特に限定は 無ぐ融合タンパク質中の各ポリペプチドドメインの機能が保持されるように好適に設 計される。例えば、融合タンパク質の例として、抗体断片を作製する場合には、当該リ ンカーとして GGGGSGGGGSGGGGS (配歹 IJ番号 13) (以下、(G4S)3と指称する。)が 一般的に用いられるが、融合タンパク質中の各ポリペプチドドメインの機能が保持さ れれば、上記の配列に限定されるものではない。本発明のリンカ一のアミノ酸長は限 定されずいかなるアミノ酸長を有するリンカ一でも良いが、通常は 5から 50アミノ酸、 好ましくは 13力も 30アミノ酸、更に好ましくは 15から 30アミノ酸である。本明細書中 で詳細に記載する力 本発明は融合タンパク質の作製に有用なポリペプチドリンカ一 と当該リンカ一をコードするポリヌクレオチドを提供する。
[0041] また、本発明は融合タンパク質以外の天然のタンパク質にも適用することができる。
例えば、天然の全長タンパク質が、ポリペプチドドメイン A+ポリペプチドドメイン B + ポリペプチドドメイン Cの各機能ドメインから構成されて!/、る場合に、各機能ドメイン間 を結合するスぺーサ一として機能しているポリペプチドをコードするポリヌクレオチド 配列を「ヌクレオチド配列から転写され生成した mRNAが翻訳される際に、その翻訳 速度が遅延するような配歹 IJ」に改変することによつても本発明の効果を得ることができ る。翻訳速度が遅延するとは、ポリペプチドリンカ一をコードする mRNAの領域の翻 訳速度がそのすぐ上流側のポリペプチドドメインをコードする mRNAの領域の翻訳
速度より遅いことを意味する。
[0042] 即ち、下記の段階
( 1 )天然のタンパク質の分子中に存在するポリペプチドドメインを決定し、
(2)各ポリペプチドドメイン間に存在するポリペプチド配列をコードするポリヌクレオチ ド配列を決定し、
(3)ポリヌクレオチド配列の翻訳速度が低下するような配列へ改変又は設計されたポ リヌクレオチドを作製し、
(4)当該ポリヌクレオチドが発現可能なように揷入されたベクターにより形質転換され た宿主を培養することを特徴とする天然タンパク質の製造方法を提供するものである
〇
[0043] 天然のタンパク質の分子中に存在するポリペプチドドメインは、例えば、 PROSITE, PROFILE, ProDom、 Pfamなどの公共データベースに登録されており、例えば、 Pfam ( http:〃 pfam.wustl.edu/hmmsearch. shtml)などの公共モチーフ検索プログラムを用い て所望のタンパク質の配列中にどの様なポリペプチドドメインが存在している力、、そし て、当該ポリペプチドドメインが所望のタンパク質のポリペプチド中のどのアミノ酸配 歹 IJからなる断片に対応するかを決定することができる。
[0044] 更に、本発明は、天然のタンパク質分子中のポリペプチド機能ドメイン中のコドンを 「ヌクレオチド配列から転写され生成した mRNAが翻訳される際に、その翻訳速度が 遅延するような配列」に改変することによるタンパク質の製造方法を提供する。この場 合、当該改変に係るコドンがコードするアミノ酸残基が改変前のアミノ酸残基と実質 的に同一のものが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。「実質的に同一 」とは、アミノ酸残基の側鎖の性質が保存されているアミノ酸相互の関係をいう。例え ばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸 (A、 I、 L、 M、 F、 P、 W、 Y、 V)、親水 性アミノ酸 (R、 D、 N、 C、 E、 Q、 G、 H、 K、 S、 T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸 (G、 A、 V、 L、 I、 P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸 (S、 T、 Υ)、硫黄原子含有側鎖を有す るアミノ酸(C、 M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸 (D、 N、 E、 Q)、塩 基含有側鎖を有するアミノ離 (R、 K、 Η)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸 (H、 F、 Y 、 W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。上記の
各グループ内に属するアミノ酸相互の関係を「実質的に同一」という。
[0045] 抗体断片
本発明により提供される融合タンパク質であって、特に好適に利用されるものとして は、抗体断片分子を挙げることができる。
[0046] 抗体断片分子の基礎となる全長抗体分子は、その分子構造上の特徴から、 IgA、 I gD、 IgE、 IgG、 IgMの大きく 5種類のクラスに類別されている。基本構造は各クラス 共通で、分子量 50,000から 70,000のポリペプチド鎖からなる重鎖(H鎖)と分子量 20,0 00から 30,000のポリペプチド鎖からなる軽鎖(L鎖)とから構成され、それぞれ相同な 二分子の H鎖と二分子の L鎖がジスルフイド結合及び非共有結合により結合している 。 H鎖及び L鎖のァミノ末端側のポリぺプチドドメインは同種の同一クラスの抗体でも アミノ酸配列が相互に一定せず可変領域 (V領域)と呼ばれている。重鎖の可変領域 は重鎖可変領域 (H鎖 V領域)、軽鎖の可変領域は軽鎖可変領域 (L鎖 V領域)とそ れぞれ呼ばれる。可変領域以外のポリペプチドドメインの構造及びアミノ酸配列はク ラス毎(サブクラスがある場合は、サブクラス)に一定で、定常領域 (C領域)と呼ばれ る。 (重鎖の定常領域は重鎖定常領域 (H鎖 C領域)、軽鎖の定常領域は軽鎖定常 領域 (L鎖 C領域)とそれぞれ呼ばれる。)抗体の抗原に対する結合部位は H鎖 V領 域及び L鎖 V領域によって構成され、抗原に対する結合の特異性は可変領域のアミ ノ酸配列により決定されて!/、る。 H鎖 V領域及び L鎖 V領域の内抗原に対する特異性 、親和性は基本的には H鎖 V領域が大きく寄与しているが(Nature, 341, 544-6, 1 989)、 L鎖 V領域との界面に存在する疎水性残基等に由来する可溶性の低さや、 H 鎖 V領域単独での抗原に対する親和性の低さから、抗原に対する十分な結合活性 を保持した分子として利用するには、 H鎖 V領域ポリペプチドのみでは十分でな!/、こ とが示された。
[0047] Skerraらは H鎖 V領域ポリペプチドと L鎖 V領域ポリペプチドをコードする遺伝子を シグナルペプチドドメインの下流に配して大腸菌中で発現することにより、 H鎖 V領域 ポリペプチドと L鎖 V領域ポリペプチドとが会合したヘテロ二量体分子である Fv分子 が大腸菌のペリプラズムに分泌されることを見出した(Science, 240(4855), 1038-41, 1988)。し力もながら、 H鎖 V領域と L鎖 V領域とが一対一で会合するへテロ二量体
である Fv分子を構成する構成分子である H鎖 V領域ポリペプチドと L鎖 V領域ポリぺ プチドとはその分子間相互作用が弱ぐ解離定数が 10— 5〜10—8M程度であることから 、 Fv分子はへテロ二量体としての分子構造が不安定であるとレ、う欠点を有して!/、た。 これに対し、 H鎖 V領域ポリペプチドと L鎖 V領域ポリペプチドとをポリペプチドリンカ 一で繋レヽ 7こ一本鎖仇体で、ある scFv (single— chain antibody fragment) 、、退 is子丄 学的に設計、作製され(Proc.Natl.Acad.Sci.USA·, 85(16), 5879-83, 1988)、へテ ロニ量体としての分子構造の不安定性の課題は解決した。
[0048] しかしながら、大腸菌等の原核細胞を宿主細胞として scFvなどを発現させた場合、 scFv同士が凝集して封入体が形成されることや、適切なポリペプチド鎖の折り畳み 力 Sされない等の問題点をなお包含しており、 scFvを効率的に製造することが望まれ ていた。一方、 scFvは二量体 (Diabody)化することにより、二重特異性抗体等の新た な機能を付与できることが知られている。そして、 scFvの二量体であるディアボディー を効率的に製造する方法も求められている。本発明はこうした scFv分子及びその二 量体であるディアボディーを、封入体を形成することなく可溶型で産生する製造方法 を提供する。
[0049] さらに、本発明の scFvには、 scFvを含むタンパク質も含有する。 scFvを含むタンパ ク質の例としては、例えば、 scFvに他のタンパク質のドメインポリペプチドを融合した 融合タンパク質(以下、 scFv融合タンパク質と指称する。)や、 2つの scFvが連結され た sc (Fv) 2などが含まれる。当該他のタンパク質のドメインポリペプチドとしては例え ば抗体 Fc領域ポリペプチド等が挙げられる。即ち、本発明における抗体断片とは、 s cFvの他、 scFv融合タンパク質、及び sc (Fv) 2等の抗体断片である。本発明は更に 、当該抗体断片をコードするポリヌクレオチドも提供する。
[0050] 本発明の抗体断片は、可変領域が本発明のポリペプチドリンカ一で連結されてい る融合タンパク質である。可変領域は、全長可変領域、可変領域の部分ポリペプチド 、可変領域に他のポリペプチドが付加したポリペプチド等のいずれでもよい。但し、抗 原への結合活性を維持することが好ましい。本発明の抗体断片が認識する抗原は特 に限定されず、如何なる抗原であってもよい。
[0051] 更に、本発明の抗体断片の一態様である scFvは、ダイマーなどを形成した際に 2
つの異なる抗原を認識する二重特異性抗体 (bispecific antibody)となるように設計さ れたディアボディーであってもよい。ディアボディーは、 2本のポリペプチド鎖から構 成されるダイマーであり、通常、ポリペプチド鎖は各々、同じ鎖中で L鎖 V領域ポリぺ プチド及び H鎖 V領域ポリペプチド力 互いに結合できない位に短い、例えば、 5アミ ノ酸残基程度のポリペプチドリンカ一により結合されている(Pro Natl.Acad.Sci.USA. , 90, 6444-8, 1993)。同一ポリペプチド鎖上にコードされる L鎖 V領域ポリペプチド と H鎖 V領域ポリペプチドとは、その間のリンカ一が短!/、ため単鎖可変領域フラグメン トを形成することが出来ず二量体を形成するため、ディアボディーは 2つの抗原結合 部位を有することとなる。二重特異性抗体は、異なる抗原を認識する二重特異性抗 体であってもよ!/、し、同一抗原上の異なるェピトープを認識する二重特異性抗体であ つてもよい。さらに、一方の抗原結合部位がタンパク質などを認識し、他方の抗原結 合部位が化学療法剤、細胞由来トキシン等の細胞傷害性物質を認識する二重特異 性抗体であってもよい。また、単量体であって二重特異性抗体(bispecific antibody) となるように設計された sc (Fv) 2であってもよ!/、。
通常、 sc (Fv) 2は 2つの L鎖 V領域ペプチド(VUと 2つの H鎖 V領域ペプチド(VH )の 4つの可変領域をリンカ一で結合して一本鎖にした抗体である(Hudson et al., J.Immunol.Methods., 231, 177-189, 1999)。 sc (Fv) 2は scFvと同様の方法で作 製すること力 Sできる力 2つの VHと 2つの VLの順序は特に限定されず、以下の様な 複数の態様で構築することが可能である。
(N末端) [¥ リンカー[¥し]リンカー[¥ リンカー[¥し] (C末端)
(N末端) [VL]リンカ一 [VH]リンカ一 [VH]リンカ一 [VL] (C末端)
(N末端) [¥ リンカー[¥し]リンカー[¥し]リンカー[¥ (C末端)
(N末端) [¥ リンカー[¥ リンカー[¥し]リンカー[¥し] (C末端)
(N末端) [¥し]リンカー[¥し]リンカー リンカー[¥ (C末端)
(N末端) [¥し]リンカー[¥ リンカー し]リンカー[¥ (C末端)
上記の sc (Fv) 2分子中の各機能ポリペプチドドメインを結合するリンカ一として本発 明のポリヌクレオチドでコードされるリンカ一をいずれかの位置で、又複数の箇所で 使用すること力でさる。
[0053] また、単量体であって二重特異性抗体(bispecific antibody)となるように設計され た sc (Fv) 2の場合は、互いに会合することによって抗原結合部位を形成する VLと V Hの分子中の位置関係についてシングルチェイン.ディアボディー型とビバレント scF V型との構造異性体が存在する。本発明においてシングルチェイン 'ディアボディー 型とは、上記の sc (Fv) 2分子中の各機能ポリペプチドドメインの配置が N末端から順 に以下の順列
[V領域 1 ]リンカ一 [V領域 2]リンカ一 [V領域 3]リンカ一 [V領域 4]リンカーで配置さ れている場合において、 V領域 1と V領域 4、及び、 V領域 2と V領域 3とが互いに会合 することによって各々一つの抗原結合部位を形成する構造を有する sc (Fv) 2分子の ことを指称する。また、ビバレント scFv型とは、上記の sc (Fv) 2分子中の各機能ポリ ペプチドドメインの配置が N末端から順に以下の順列
[V領域 1 ]リンカ一 [V領域 2]リンカ一 [V領域 3]リンカ一 [V領域 4]リンカーで配置さ れている場合において、 V領域 1と V領域 2、及び、 V領域 3と V領域 4とが互いに会合 することによって各々一つの抗原結合部位を形成する構造を有する sc (Fv) 2分子の ことを指称する。
[0054] 上記 sc (Fv) 2分子の構造異性体のうち、いずれの構造を有する場合であっても、 s c (Fv) 2分子中の各機能ポリペプチドドメインを結合するリンカ一として、本発明のポ リヌクレオチドでコードされるリンカ一をいずれかの位置で、または複数の箇所で使用 すること力 Sでさる。
[0055] 本発明は、上記のように作製された抗体断片をコードするポリヌクレオチドを提供す る。本発明のポリヌクレオチドを使用することにより、当該ポリヌクレオチドを大腸菌等 の原核細胞中で発現させた場合に、その発現が翻訳の段階で翻訳速度が制御され ることにより、封入体の形成 ·蓄積を抑制し可溶型で発現することができる。
[0056] scFv等の分子の作製に使用されるポリペプチドリンカ一
前述のように、 Fv分子についてのヘテロ二量体としての分子構造が不安定であると いう欠点が、 scFv作製技術の確立により解決した。一般的に広く用いられているポリ ペプチドリンカ一のアミノ酸配列としては、二次構造が強制されないようにグリシン残 基を多く含み、親水性を確保するためにセリン残基を導入した GGGGSGGGGSGGG
GS配列(配列番号 13)を有する (G4S)3であり、このようなポリペプチドリンカ一は一般 にフレキシブルリンカ一と称されている。し力、しな力 Sら、当該ポリペプチド配列を使用 した場合においても封入体の形成を阻止することができないため、上記以外のァミノ 酸配列を有し、封入体形成を回避できるポリペプチドリンカ一を設計する複数の試み がこれまでにもなされている(J.Immunol.Methods, 205(1), 43-54, 1997、及び Prot. Eng., 11(5), 405-410, 1998等)。
[0057] 本発明は、上記のリンカ一配列を介して融合されるタンパク質又はポリペプチドの 各ドメインの読取り枠が変化しないように、融合タンパク質及び当該融合タンパク質を インフレームで接続するために使用される、ポリペプチドリンカ一、及び当該ポリぺプ チドリンカーをコードするポリヌクレオチドを提供する。特に、本発明において提供す る融合タンパク質は、 scFvの他、 scFv融合タンパク質、及び sc (Fv) 2等の抗体断片 である。
[0058] 本発明のリンカ一のアミノ酸配列の具体例としては後述の実施例において詳細に 記載するが、下記のアミノ酸配列を有するリンカ一が好適に用いられる。
WVWSSRGQRSFRPSGRTVPL (配列番号 5) (以下、リンカ一 No.10と指称する。 ) KWLWTTRVRDRGHTSTMWS (配列番号 7) (以下、リンカ一 No.12と指称する。 ) ADGHCHLKNFPLKPPPYFSV (配列番号 9) (以下、リンカ一 Νο· 14と指称する。 ) LLKKLLKKLLKKLLKK (酉己歹 IJ番号 11) (以下、(LLKK)4と指称する。 )
GGGGSGGGGSGGGGS (酉己歹 IJ番号 13)
[0059] scFv等の分子の作製に使用されるポリペプチドリンカ一をコードするポリヌクレオチド
本発明のポリペプチドリンカ一をコードするヌクレオチド配列は、当該ヌクレオチド配 歹 IJから転写され生成した mRNAが翻訳される際に、その翻訳速度が遅延するように 設計されている。本発明のリンカ一によつて融合されるタンパク質又はポリペプチドの 各ドメインの読取り枠が変化しな!/、ようにインフレームで接続することができれば、レヽ ずれのヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドも好適に使用できる。具体例として 、後述の実施例において詳細に記載する下記のヌクレオチド配列を有するリンカ一を 好適に用いることができる。
GTGCCGCTT (配列番号 6)
AAGGUUGUUCUUUGGAC GAUGUGGAGU (酉己歹 lj番号 8)
GCGGATGGGCATTGTCA'
TTTCGGTT (酉己歹 IJ番号 10) 番号 12) 号 14)
本発明は、抗体断片のポリペプチドリンカ一部分の遺伝子配列を改変して、抗体断 片の翻訳速度をリンカ一部分において局所的に遅延させることにより、 目的とする抗 体断片を大腸菌において高発現および可溶型発現させることを可能とするものであ る。ポリペプチドリンカ一部分で翻訳を遅延させることは、翻訳後のアミノ末端及び力 ルポキシル末端の両末端ドメイン (scFvであれば V鎖 H領域及び V鎖 L領域ポリぺプ チドドメイン)のフォールデイングに大きく影響すると考えられる。上記のようにリンカ一 部分における翻訳を遅延させることは、ァミノ末端側ポリペプチドドメインの折り畳み がカルボキシル末端側ポリペプチドドメインの翻訳および折り畳みに先立って行われ ることを意味する。リンカ一部分で翻訳を遅延させることによって、すでに翻訳された ァミノ末端ドメインは折り畳み時に翻訳途中の折り畳まれていないカルボキシル末端 ポリペプチドドメインの干渉を受けることが少ないと考えられる。同時に、ァミノ末端ポ リペプチドドメインがある程度折り畳まれた状態でのカルボキシル末端ポリペプチドド メインの折り畳みは、両ポリペプチドドメインが折り畳まれて!/、な!/、状態で折り畳まれ るよりも効率的に行われると考えられる。したがって、抗体断片のポリペプチドリンカ一 部分のヌクレオチド配列を変更し、翻訳速度がポリペプチドリンカ一部分で一過的に 遅くなるように設計できれば、抗体断片の可溶化および高生産が期待できる。本発明 の抗体断片の製造方法にぉレ、て、抗体断片の構成ポリペプチドドメインである H鎖 V 領域及び L鎖 V領域は、ポリペプチド鎖として発現した状態で互いに会合できるような 分子間距離で存在できればよぐポリペプチドリンカ一に対してァミノ末端側にもカル
ボキシル末端側にもいずれの側の末端にも配置させることができる。
[0061] 本発明における、「ヌクレオチド配列から転写され生成した mRNAが翻訳される際 に、その翻訳速度が遅延するような配歹 IJ」とは、レシピエント細胞中での翻訳速度が 遅延するような配列であればレ、かなる特徴 ·構造を有する配列であってもよレ、。翻訳 速度を定量化する方法は当業者に公知であり、当該速度を測定可能である市販キッ ト(例えば、 Promega社製の E.coli S30 Extract System等)に添付の教示書を参照 することにより測定することが可能である。上記のような試験管内で測定する方法以 外に、生体内での翻訳速度を測定する方法としては、 Mol.Immunol.40, 717-22, 20 04に記載の方法を挙げることができる。
[0062] 「ヌクレオチド配列から転写され生成した mRNAが翻訳される際に、その翻訳速度 が遅延するような配列」とは例えば、レアコドンを含む配列である。レアコドンとは、レ シピエント細胞中での使用頻度の低いコドンを一般的に意味するものである。しかし ながら、生物のコドンの使用頻度と当該生物中の tRNA濃度の偏りとは完全には一 致していないことが知られている。レアコドンとは、あるコドンに対する tRNAの割合が 全体の 1.2%以下のものと定義する。翻訳速度は mRNAの各コドンに対応するトリプレ ットと相補的な tRNAとリボソームの濃度依存的に変化することが知られてはいるが、 コドンの使用頻度は tRNA濃度の偏りと完全には一致していない (Microbiol. Rev., 54(2), 198-210, 1990) 。大腸菌内において低濃度の tRNAが認識するコドンをレ アコドンと呼ぶ場合には、レアコドンは、 GCC (Ala, 0.95%)、 CGG (Arg, 0.99%)、 AG G (Arg, 0.65%) , CAA (Gin, 1.18%)、 CAC (His, 0.99%) , CAT (His, 0.99%)、 CTA ( Leu, 1.03%) , CCC (Pro, 1.11%) , CCA (Pro, 0.90%)、 TCC (Ser, 1.18%)のことを意 味する(括弧内は各コドンに対応するアミノ酸と tRNA濃度を参酌した頻度を示す)。
[0063] 従って、本明細書中においてレアコドンとは通常の意味で用いられるレアコドンの 他、レシピエント細胞中において低濃度の tRNAが認識するコドンも含むものである 。大腸菌の場合は、通常の意味で用いられるレアコドンとはゲノム上に認められるコド ンの出現頻度から算出したものであって、幾つかの公知文献で認められる。 (例とし は、 http://www.kazusa.or.jp/ codon/ cgi-bin/ showcodon.cgi?species=Eschenchia+ coli+%5Bgbbct%5D等を挙げる事ができる。 )そのようなコドンの例としては AGG (Arg,
0.26%)、 AGA(Arg, 0.46%)、 ATA (lie, 0.85%)、 CTA (Leu, 0.46%)、 CCC (Pro, 0.5 6%)、 GGA(Gly, 1.08%)、 CGG (Arg, 0.66%)が挙げられる(括弧内は各コドンに対応 するアミノ酸とゲノム上のコドン出現頻度を示す)。本発明においては、両者の定義の いずれかに該当するものであれば使用できるものとする。
[0064] 本発明においては、ポリペプチドリンカ一配列の設計において導入するレアコドン の数は特に限定されるものではなぐ任意の数のレアコドンを使用することができる。 例えば、ポリペプチドリンカ一が 20アミノ酸長からなる場合、導入するレアコドンの数 は 1から 20までが使用でき、好ましくは 1から 15、更に好ましくは 1から 10である。より好 ましくは 2から 10であり、特に好ましくは 2から 5である。
[0065] また、ポリペプチドリンカ一をコードするヌクレオチド配列が既にレアコドンを含む場 合であっても、当該ヌクレオチド配列に対して付加的にレアコドンの数を増大させるこ とにより、抗体断片の可溶型発現量をさらに増大させることもできる。
[0066] 本発明のポリペプチドリンカ一としては、いずれのヌクレオチド配列を有するポリヌク レオチドも好適に使用でき、例えばレアコドンを含むような「ヌクレオチド配列から転写 され生成した mRNAが翻訳される際に、その翻訳速度がレシピエント細胞中での翻 訳速度が遅延するような配列」を、新たに設計すること力 Sできる。また、本明細書の実 施例で示すように、公知のポリペプチドリンカ一中の特定のコドンを、「その翻訳速度 力 Sレシピエント細胞中での翻訳速度が遅延するような配歹 IJ」に改変することもできる。
[0067] 上記のレアコドンを含む配列以外の「ヌクレオチド配列から転写され生成した mRN Aが翻訳される際に、その翻訳速度が遅延するような配列」として、 mRNAの二次構 造が立体高次構造を取ることができるような配列を挙げることができる。即ち、 mRNA 力、らポリペプチドが翻訳される際に mRNAに沿ったリボゾームの進行を一時的に阻 害するのに十分安定した二次構造が形成される配歹 IJを意味する。当該二次構造の 更に好ましい例としては、局所的に熱力学的に安定な mRNAの局在性二重鎖いわ ゆるステムループ構造を形成する配列を挙げることができる。
[0068] 好適な例に基づけば、転写された mRNA中のポリペプチドリンカ一をコードするポリ ヌクレオチド配列中において複数のヌクレオチドが水素結合 (A-U、 G-C又は G-U)を 生じるような安定な局所二次構造をとる配列を挙げることができる。当該配列におい
て一連の連続した水素結合対を形成し、熱力学的に安定な、いわゆる「ステムール ープ」二次構造が形成される。
[0069] こうしたステム一ループ二次構造は、例えば、 RNAfold等(http:〃 rna.tbi.univie.ac .at/ cgi-bin/RNAfold.cgi)や http /www.nanobiopnys—saKura.net/FiyFol/IHyj^oli.htm 1等の遺伝子解析プログラムにより、その構造が有する自由エネルギー値と共に予測 すること力 Sでさる。
[0070] 更に、上記の「ヌクレオチド配列から転写され生成した mRNAが翻訳される際に、 その翻訳速度が遅延するような配列」として、ポリペプチドを導入すべき宿主細胞に おいて使用頻度が低いアミノ酸をコードする配列を挙げることができる。使用頻度が 低いアミノ酸とは、アミノ酸を特定の宿主細胞における使用頻度順に並べたときに、 頻度の最も低い 10アミノ酸、好ましくは 8アミノ酸、より好ましくは 5アミノ酸、さらに好ま しくは 1アミノ酸を意味する。
[0071] 好適な例に基づけば、融合タンパク質を導入すべき宿主細胞において使用頻度の 低いアミノ酸は、当該宿主細胞のゲノム情報をもとに、当該宿主細胞中で機能するこ とが想定されるポリペプチド配列を構成するアミノ酸を解析してその使用頻度を算出 することにより特定すること力 Sできる。宿主細胞がバクテリアである場合には、公共の データベース(例えば、 TIGR等 http:/Vcmr.tigr.org/tigr-scripts/CMR/shared/Geno mes.cgi?bacteria— only=l)等に予想読み取り枠のアミノ酸配列が登録されており、こ うした配列上におけるアミノ酸の出願頻度は、遺伝子配列解析プログラム(例えば、 G enetyx (日本 Genetyx社製)等)により解析することにより算出することができる。ゲノム 情報を基礎にして算出した解析結果の例として Protein Science 14, 617-25, 2005 を挙げること力 Sでさる。
[0072] また、ゲノム情報が明らかにされていない宿主細胞であっても、当該宿主細胞由来 であってその配列がデータベース上に登録されているポリペプチドを複数用意した 後に、上記の遺伝子解析プログラムにより解析することができる。
[0073] こうしたアミノ酸の例としては、例えば宿主細胞が大腸菌である場合はトリブトファン 、システィン、ヒスチジン、メチォニン、チロシン、グルタミン、フエ二ルァラニン等が挙 げられる。
[0074] 本発明のポリペプチドリンカ一配列の設計において導入すべき、宿主細胞におい て使用頻度が低いアミノ酸の残基数は特に限定されるものではなぐ任意の数の残 基数を使用することができる。例えば、ポリペプチドリンカ一が 20アミノ酸長からなる場 合、導入する当該アミノ酸の残基数は 1から 20までが使用でき、好ましくは 1から 15、 更に好ましくは 1から 10である。より好ましくは 2から 10であり、特に好ましくは 2から 5で ある。
[0075] 本発明のリンカ一をコードするポリヌクレオチドは当業者に公知の方法によって作 製すること力 Sできる。即ち、特定配列を有する合成 DNAとして半自動化された機械( 例えば、 PE Applied Biosytems社製 Models 392/394など。)を用いて固相合成法 により作成すること力 Sできる。ポリペプチドリンカ一をコードするポリヌクレオチドは、上 記の方法によって相補鎖も併せて化学合成法により合成した後に、熱変性 (例えば 9 5°Cで 10分等)の後アニーリングさせて二重鎖としてベクターへクローユングしてもよ いし、 PCR法により増幅することもできる。好適には PCR法が用いられる。特に、当該 リンカ一によつて連結されるポリペプチドドメインをコードするポリヌクレオチドとの融合 DNAを作成する際に、 PCR法を応用したフュージョン PCR法が好適に用いられる( Biotechniques, 12(6), 864-9, 1992)。
[0076] 上記記載の様に、ポリペプチドリンカ一部分にレシピエント細胞中におけるレアコド ン、ステムループを形成する様なヌクレオチド配歹 IJ、宿主細胞中の使用頻度が少な いアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を導入する方法としては、上記のように 合成法によりレアコドンを有するヌクレオチド配歹 1]、ステムループを形成する様なヌク レオチド配歹 IJ、宿主細胞中の使用頻度が少ないアミノ酸残基をコードするヌクレオチ ド配列を合成しても良いし、実施例で示すように既存のヌクレオチド配列に変異を導 入する方法によっても作製できる。当業者によく知られた変異導入方法としては、例 えば、部位特異的変異誘発法(Gene, 152, 271-5, 1995, MethodsInEnzymol. , 10 0, 468-500, 1983、 NucleicAcidsRes. , 12, 9441-56, 1984, MethodsInEnzymol. 154, 350-67, 1987、 Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 82, 488-492, 1985、 MethodsInEn zymol. 85, 2763-6, 1988)を用いて、本発明のポリペプチドリンカ一をコードするポ リヌクレオチドに適宜変異を導入することができる。
[0077] さらに、ポリペプチドリンカ一は、ポリペプチドドメインをインフレームで連結する他、 それ自体が何らかの機能を持つものであってもよい。例えば、リンカ一中にプロテア ーゼ切断ドメインを有するように設計した場合には、一度、融合タンパク質を産生させ た後に、当該融合タンパク質を当該プロテアーゼによって消化することにより、融合タ ンパク質を構成するポリペプチドドメインを別々に取得することが可能となる。また、リ ンカ一中に抗原ェピトープ配列を有するように設計した場合には、一度、融合タンパ ク質を産生させた後に、当該ェピトープを認識する抗体を使用して融合タンパク質を 精製することが可能となる(Biochem. Biophys. Res. Commun. 192(2), 720-7, 19 93)。また、当該ェピトープを認識する抗体を利用して当該融合タンパク質を検出す ることもできる。こうしたリンカ一中に揷入できる機能ドメインの数は一つに限らず、二 以上の種類のドメインを揷入することもできる。
[0078] scFvをコードする DNA、及び、当該 DNAを保持するベクター
scFvをコードする DNAは、重鎖可変領域ポリペプチドをコードする DNA、および 軽鎖可変領域ポリペプチドをコードする DNAの配列の全部又は一部を铸型とし、そ の両端を規定するプライマー対を用いて PCR法により増幅し、次いで、ポリペプチド リンカ一部分をコードする DNAの両端が各々重鎖、軽鎖と連結されるよう設計された プライマー対を組み合せてさらに増幅することにより取得することができる。また、一 且 scFvをコードする DNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および 該発現べクタ一により形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、そ の宿主を用いることにより、常法に従って scFvを得ることができる。
[0079] 本発明の scFv中の重鎖可変領域ポリペプチド及び軽鎖可変領域ポリぺプチドは、 既に公知の配列を用いてもよいし、当業者に公知の方法に従って新たに取得しても よい。本発明にはさらに、本発明のポリペプチドリンカ一又は本発明の scFvポリぺプ チドをコードする DNAを含む。上記のように作製された DNA配列を適切な宿主中、 例えば真核細胞中で発現可能となるプロモーター配列又は/及びェンハンサー配 列のような転写エレメントの下流であって、かつポリ Aシグナル配列の上流に配するよ うにベクター上で配置することにより、当該ベクターで形質転換された細胞中で上記 DNA配列がコードする抗体断片を発現することができる。また、上記転写エレメントと
開始コドン間に真核細胞のリボゾーム結合配列であるコザック配列(例えば、 CCACC 等)を揷入すれば翻訳の効率を上昇させることが可能となり、 目的とする抗体断片の 発現量を増加させることもできる。上記の抗体断片を培地中に発現させたい場合に は、開始コドンの下流にタンパク質分泌のドメインとして作用するシグナル配列を揷 入させるように設計すればよ!/、。
[0080] 例えば、本発明の融合タンパク質を製造するために用いられるベクターとしては、 哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、 pcDNA3 (Invitrogen社製)や、 pEGF_BOS (N uc.Acids.Res., 18(17), 5322, 1990)、 pEF、 pCDM8)、昆虫細胞由来の発現べクタ 一(例えば「Bac- to- BAC baculovirus expression system」(GIBCO BRL社製)、 pB acPAK8 (Clontech社製)、植物由来の発現ベクター(例えば、 pSBl、 pSB2 (共に、 J.G en.Microbiol., 130(10), 2527-34, 1984) )、動物ウィルス由来の発現ベクター(例え ば、 pHSV(Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 84(5), 1177-81, 1987)、 pMV- 7 (DNA, 7(3),
219-25, 1988) , pAdexl cw (Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 93(3), 1320-4, 1996) ) 、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、 pZipNeo (Cell, 37, 1053-1062, 1984 ) )、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen社製)、 pNVl l (Nature 357, 700-702, 1992)、 pESP-3 (Stratagene社製))などを好適に用 いること力 Sでさる。
[0081] また、ベクターにより形質転換された細胞を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤( ネオマイシン、 G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに 好ましい。即ち、通常形質転換に使用する宿主細胞が生存することができない濃度 の上記薬剤を含有する培地中で形質転換に供した一群の細胞を培養した場合にお いて、薬剤耐性遺伝子を含むベクターで形質転換された細胞のみが、当該ベクター 上に存在する薬剤耐性遺伝子が発現することにより、上記の薬剤を含有する培地中 でも生育する能力を獲得できるようになる。このような特性を有するベクターとしては、 例えば、 MAM, pDR2 (以上、 Clontech社製)、 pBK- RSV、 pBK- CMV、 pOPRSV、 O P13 (以上、 Stratagene社製)などが挙げられる。
[0082] CHO細胞、 COS細胞、 MH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合に好 適に使用できるプロモーターとしては、例えば SV40プロモーター(Nature, 277, 108
, 1979)、 MMLV-LTRプロモーター(Oncogene, 7(10), 2081-3, 1992)、 EFl aプ 口モーター(Nuc.Acids.Res·, 18, 5322, 1990)、 CMVプロモーター(US patent 51 68062号)を使用することができる。
[0083] 宿主として大腸菌を使用する場合は、ェンノヽンサ一配列やポリ Aシグナル配列を用 いることなくプロモーター配列の下流にリボゾーム結合配列(RBS)を配し、更に RBS の下流に上記のように作製された DNA配列をベクター上で配置することによって、 当該ベクターで形質転換された大腸菌中で上記 DNA配列がコードする融合タンパ ク質を発現すること力 Sできる。上記の融合タンパク質をペリブラズム中に発現させたい 場合には、開始コドンの下流にタンパク質分泌のドメインとして作用するシグナル配 列を揷入させるように設計すればよ!/、。
[0084] 本発明のベクターを導入する宿主細胞として大腸菌を使用する場合には、ベクター は、一般的に、ベクターを大腸菌(例えば、 JM109、 DH5 a、 HB 101 (以上、 Toyobo社 製)、 XLlBlue (Stratagene社製))などで大量に増幅させ大量調製するために、大腸 菌で増幅されるための複製起点である「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の 選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、 クロラムフエ二コール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有する。ベクターの 例としては、 M13、 pUC 19、 pBR322 (以上 Takara Shuzo社製)、 Bluescript, pCR-Scr ipt (以上、 Stratagene社製)などが挙げられる。また、 cDNAのサブクローニング、切り 出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、 pGEM-T (Promega社製)、 pDI RECT (Clontech社製)、 pT7 (Novagen社製)などが挙げられる。本発明の scFvを生 産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用であ る。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが 大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主を JM109、 DH5 a、 HB 101、 XLlBlueなどの大腸菌とした場合にお!/、ては通常、大腸菌で効率よく発現できるよう なプロモーター、例えば、 lacZプロモーター(Nature, 341, 544-6, 1989、及び、 FA SEB J. , 6, 2422-7, 1992)、 araBプロモーター(Science, 240, 1041-3, 1988)、 または T7プロモーター(Proc.Natl.Acad.Sci.USA·, 72(3), 784-8, 1975)などを有す る。このようなベクターとしては、上記ベクターの他に PGEX-5X- l (Amersham Pharm
acia社製)、「QIAexpress systemj (QIAGEN社製)、 pEGFP (Clontech社製)、または pET (Novagen社製。この場合、宿主は T7 RNA polymeraseを発現している BL21が 好ましい)などが挙げられる。
[0085] また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい 。蛋白質分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリブラズムに産生させる場 合、 pelBシグナル配列(J.BacterioL, 169, 4379, 1987)を使用すればよい。宿主細 胞へのべクタ一の導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクト口ポレーシヨン法を用い て fiうこと力 Sできる。
[0086] scFvをコードする DNAを保持するベクターによる形晳転換株
本発明はさらに、本発明のベクターを含む宿主細胞を提供する。本発明のベクター が導入される宿主細胞としては特に制限はなぐ例えば真核細胞や原核細胞などい 力、なる細胞を用いることも可能である力 本発明にお!/、て好適に用いられる宿主細胞 は原核細胞であり、特に好適に用いられる宿主は大腸菌である。
[0087] 真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用い ることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、 CHO (J.Exp.Med., 108, 9 45, 1995)、 COS, 3T3、ミエローマ、 BH (baby hamster kidney)、 Hela、 Vero、例 えばアフリカッメガエル卵母細胞(Nature, 291(5813), 338-340, 1981)等の両生類 細胞、、あるいは Si9、 Si21 (共に、 Clontech社製)、 Tn5 (Invitrogen社製)等の昆虫細 胞、が知られている。 CHO細胞としては、特に、 DHFR遺伝子を欠損した CHO細胞で ある dhfr_CHO (Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 77, 4216-20, 1980)や CHO K- l (Proc. Natl.Acad.Sci.USA, 60, 1275, 1968)を好適に使用することができる。動物細胞に おいて、大量発現を目的とする場合には CHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクタ 一の導入は、例えば、リン酸カルシウム法、 DEAEデキストラン法、カチォニックリポソ ーム DOTAP (ロシュディアグノステイクス社製)を用いた方法、エレクト口ポレーシヨン 法、リポフエクシヨン、 Biolistic法などの方法で行うことが可能である。
[0088] 植物細胞としては、例えば、ニコチアナ*タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞 が蛋白質生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞として は、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス'セレビ
シェ (Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、 ί列えば、、ァスぺノレギノレス (Aspergillus)属
、例えば、ァスペルギルス'二ガー(Aspergillus niger)が知られている。
[0089] 原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大 腸菌(E.coli)、例えば、 JM109, DH5 a、 HB 101等が挙げられ、その他、枯草菌 Marbu rgl68株、 BD 170株、 Bacillus licheniformisが知られている。
[0090] これらの細胞を目的とする DNAにより形質転換し、形質転換された細胞をインビト 口で培養することにより、本発明の融合タンパク質又は抗体断片を製造することが可 能である。
[0091] 前記のように発現、産生された融合タンパク質、又は抗体断片は、通常のタンパク 質の精製で使用されている公知の方法を単独で使用することによって又は適宜組み 合わせることによって精製できる。例えば、ァフィ二ティーカラム、イオンクロマトグラフ ィーカラム、疎水性クロマトグラフィーカラム、ゲルクロマトグラフィーカラム、フィルター 、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体断片を分離、 精製すること力 (、きる (Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lan e, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
[0092] 医薬組成物
別の観点においては、本発明は、融合タンパク質、又は抗体断片を有効成分として 含有する医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、常法に従って製剤化す ること »、でき (例えは、 Remington s Pharmaceutical Science, latest edition, Mark
Publishing Company, Easton, U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を共 に含むものであってもよい。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、 安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯 味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。 具体的には、軽質無水ケィ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カル メロースカノレシゥム、力ノレメロースナトリウム、ヒドロキシプロピノレセノレロース、ヒドロキシ プロピノレメチノレセノレロース、ポリビニノレァセターノレジェチノレアミノアセテート、ポリビニ ルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリダリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることが
できる。
[0093] 本発明の医薬組成物の投与方法は、経口、非経口投与のいずれかによつて実施 できる。特に好ましくは非経口投与による投与方法であり、係る投与方法としては具 体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与 の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによつ て本発明の医薬組成物が全身または局部的に投与できる。また、患者の年齢、症状 により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回の投与 にっき体重 1 kgあたり O.OOOlmgから lOOOmgの範囲で投与量が選択できる。あるいは 、例えば、患者あたり 0.001から 100000mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。しかし ながら、本発明の医薬組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。
[0094] 本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て 本明細書の一部としてここに引用する。また,本出願が有する優先権主張の基礎とな る出願である日本特許出願 2006-224657号の明細書および図面に記載の内容は全 て本明細書の一部としてここに引用する。
実施例
[0095] 以下に実施例により本発明をより詳細に説明する力 本発明はこれらの実施例によ り限定されるものではない。
[0096] 〔実施例 1〕抗ビスフエノール A抗体 scFv
<ランダムポリペプチドリンカ一を有する scFvライブラリの構築〉
ポリペプチドリンカ一の配列が scFvの生産性に及ぼす影響を検討するために、ビス フエノール Aを抗原とし、 20アミノ酸長のランダムなアミノ酸配列からなるポリペプチドリ ンカーを有する scFvのファージライブラリを調製し、パンユング操作を行なった。即ち 、フレキシブルリンカ一を有する scFvの遺伝子から PCRによって VH遺伝子および V L遺伝子を増幅した。 PCRの铸型には AB097940記載の配列を有する抗体遺伝子(K . Nishi, M. Ί aKai, . Monmune and H. uhkawa Molecular and Immunoche mical Characteristics of Monoclonal and Recombinant Antibodies Specific to Bisphenol A Bioscience, Biotechnology and Biochemistry, 67(6), 1358-1367 ( 2003))を使用した。 VH遺伝子の 3'末端側 17残基、ランダムリンカ一遺伝子(NNK) 2
0、および VL遺伝子の 5'末端側 17残基を有するオリゴヌクレオチド(5'— CAGTCAC 合成した。 VH, VL遺伝子およびこのオリゴヌクレオチドを用いて Overlapping PC Rを行い、ランダムポリペプチドリンカ一遺伝子を VH遺伝子と VL遺伝子の間に揷入 した。パンユング用ベクターとしては、図 1に示すものを用いた。
NcoI-cc-VH sense (Tm- - -68°C) (配列番号 20)
BIS A VH antisense (Tm- - -61°C) (配列番号 22)
5'-TGAGGAGACGGTGACTGAGGTTCCTTGACC-3'
BIS A VL sense (Tm- - -59°C) (配列番号 23)
5'-GACATTGTGCTGACACAGTCTCCTGCTTCC-3'
VL + Notl antisense (Tm- - -64°C) (配列番号 21) 上記のプライマーを合成した。フレキシブルリンカ一 (G4S)3を有する抗ビスフエノール A scFvの遺伝子を铸型として NcoI-cc-VH sense (配列番号 20) および BIS A V H antisense (配列番号 22)を用いて VH遺伝子断片を、また、 BIS A VL sense (酉己 列番号 23)および VL + Notl antisense (配列番号 21) を用いて VL断片を PCR法に より増幅した。 PCRの条件は、変性 94°C(15秒)→ァニーリング (30秒)→伸長 68°C(30秒 )を 25サイクル繰り返した。アニーリング温度は VH遺伝子断片増幅の場合は 56°C、 VL 遺伝子断片増幅の場合は 54°Cに設定した。増幅した遺伝子断片をァガロースゲル 電気泳動によって分離、精製し下記の要領で Overlapping PCRをおこなった。 PCR のポリメラーゼとしては KOD-plus- (TOYOBO社製)を用いた。
[表 1]
〈反応溶液〉
( i )
(PCR条件〉
( i ) 10サイクル
反応溶液 (i)を調製し、 PCR 条件 (i)で 10 サイクル反応させた後、反応溶液 (ii)を 加え、 PCR 条件(ii)で 25 サイクル反応させた。
パンユングの 4ラウンド後に回収したプラスミドを XLl-Blueへ感染させて得られた 7
x 106クローンの中から 20クローンを選択し、プラスミド中のポリペプチドリンカーをコ ードする遺伝子のヌクレオチド配列を DNAシーケンサ一により同定した。図 2に、 sc Fv発現用ベクターを示す。
[0100] 得られた 20クローン中、 12クローンは遺伝子欠損が認められた。表 3に、回収された scFvのポリペプチドリンカ一のアミノ酸配列とヌクレオチド配列を示す。アンバー終止 コドン(TAG)を含むポリペプチドリンカ一を有する scFvは大腸菌 BL21(DE3)pLysSで の発現が不可能なため、グルタミン(CAA)に置換した。
[0101] [表 3]
[0102] <ポリペプチドリンカ一のヌクレオチド配列の違いによる IPTG誘導後の菌体増殖の 変化 >
ノ^オパンユングによって選択された scFvの IPTG誘導後の菌体増殖を測定した。 結果を図 3に示す。なお、 No. 2は遺伝子の欠損により 13アミノ酸のポリペプチドリン カーを有する scFvである。図 3より、リンカ一 No. 10, 12, 14は OD600が 0.7から 1.0 の範囲で IPTGで発現誘導をした後も増殖を続け、最終菌体濃度は OD600が 5.5か ら 5.7の範囲となった。一方、リンカ一 No. 4, 6はフレキシブルリンカ一(G S)を有す
4 4 る scFvと同様に誘導後増殖がほぼ停止し、最終菌体濃度は OD600が 1から 2となった 。表 4に示すように、増殖を続けたサンプルのリンカ一をコードするヌクレオチド配列 には大腸菌におけるレアコドンが、 1から数個存在する傾向がみられた。
[0103] [表 4]
リンカ一 ヌクレオチド配列 (下 ¾S示はレアコドンを示す) cl列番号
No,
No. 4 GGTATGGGTTTGTC TGGGC GGGCAGC GCCTAGGTTTCCTCAGCGTGC 2
TAGTCAAGGG
No. 6 AAGGGTCGGCAACAGCTGCAG G GTGCGCC GA GG GTA GT 4
TGA GCTAAT
No. 10 TGGGTTTGGAGT CGCGGGGGCAGAGGTCTTTTCGGCCTTCGGGGCGGAC 6
GGTGCCGC
No. 12 AAGGT GTTCTT GGACTACGCGTGTTAGGGATAGGGGTCATACGTCGAC 8
GATGTGGAGT
No. 14 GCGGA GGGCAT GTCATCTGAAGAA T TCCT GAAGCCTCCGCCTTA 10
TTTTTCGGTT
[0104] すなわち、ポリペプチドリンカ一部分における 1から数個のレアコドンの局所的な存 在によって scFvの翻訳速度がポリペプチドリンカ一部分で一過的に遅くなつているこ と力 S推測された。以上のことから、融合タンパク質のリンカ一部分において翻訳速度 を一過的に遅延するような DNA配列を設計すれば目的とする融合タンパク質の高 生産が期待できた。よって、この一例としてそのヌクレオチド配列が 5'-£!ΔΏΙΔΑΑΑ 線表示はレアコドンを示す)のリンカ一(LLKK)を有する scFvの発現ベクターを構
4
築し、誘導後の菌体増殖を測定した。その結果、非常に高い増殖速度を示した(図 3 に併せて示す)。
[0105] <リンカ一ポリヌクレオチド配列の違いによる生産性の影響〉
IPTGによる誘導後も増殖を維持した形質転換体(リンカ一 No. 2, 10, 12, 14)が 可溶性画分および不溶性画分に生産する scFvの生産性を比較した。発現した scFv の精製は以下の方法で行い、各画分についてその含有量を測定することにより、不 溶性 scFv及び可溶性 scFvの生産量とした。
[0106] (1)得られた培養液を 10000gで 5分間遠心処理し、培養上清および菌体ペレットに分 離した。
(2)菌体ペレットに 5 mlの Lysisバッファー(1% Triton X- 100, 20 mM Tris- HCl (p H 8.0) , 2 g/ml DNase, 0.2 mg/ml リゾチウム)を加えて懸濁し、プローブ型超音 波照射機を用いて氷冷下、 15分間超音波照射を行った。
(3) 100000g、 30 min、 4°Cにて超遠心分離を行い、上清を菌体内可溶性画分として 回収した。
(4)ペレットは Lysisバッファ一にて懸濁し、 23000g、 10 minで 2回遠心分離すること で洗浄した。
(5)洗浄後のペレットを蒸留水で懸濁し、同条件にて遠心分離を 2回行うことにより Ly sisバッファーを除去した。
(6)得られたペレットを菌体内不溶性画分とし、蒸留水 1 mlに懸濁した後、真空乾燥 機をもちレ、てペレットを乾燥した。
(7)ペレットの重量を測定し、不溶性 scFvの重量とした。
(8)菌体内可溶性画分は、 Ni—固定化カラムに負荷し 10 mM酢酸バッファー(0.3M NaClを含む、 ρΗ6·0)続いて 0.2 mM リン酸バッファー(1M NaClを含む、 ρΗ7·2) で洗浄後、 0.5 Μイミダゾール(ρΗ8.0)で溶出した。
(9)イミダゾール溶出画分中の scFvの発現は SDS— PAGEによって解析した。 (10 ) scFvの会合状態は 5-Dio卜 300-11 (nacalai tesque)を用いたゲルクロマトグラフィ によって解析した。
(11)イミダゾール溶出画分をビスフエノール固定化カラムに負荷し、 10 mM酢酸バ ッファー(0.3M NaClを含む、 ρΗ6·0)を用いて洗浄後、 0.01N NaOH (pH 12)を用 いて溶出した。
(12)培養上清をビスフエノール固定化カラムに負荷し、 10 mM酢酸バッファー(0.3 M NaClを含む、 ρΗ6·0)を用いて洗浄後、 0.01N NaOH (pH 12)を用いて溶出した
〇
(13)イミダゾール溶出画分および培養上清から精製した溶出液は 10 mM酢酸バッ ファー(0.3M NaClを含む、 pH6.0)でー晚透析し、両溶出液中の scFv濃度を DC-プ 口ティンアツセィによって定量した。標準物質としてゥシ血清アルブミン (BSA)を用い た。
(14)両溶出液中の scFv濃度から、菌体内および培養上清中に発現した scFv量を逆 算し、その和を可溶性 scFv発現量とした。
[表 5]
発現力価 発現力価 可溶性 不溶性
細胞密度
リンカ一 (可溶性) ί不溶性) scFv/cell scFv/cell
(ODeoo)
imq/Ll [mg LOD] [mg/L-OD]
(G4S)4 1.04 11.4 140 11.0 135
No.2 5.61 65.4 233 11.7 41.5
No.10 6.91 54.4 116 7.9 16.8
No.12 7.42 60.3 212 8.1 28.6
No.14 5.56 39.3 220 7.1 39.6
(LL K)4 8.23 38.6 204 4.7 24.7
[0108] 表 5に示すように、従来のフレキシブルリンカ一を有する scFvの生産量と比較して 可溶性画分は約 3倍から 6倍高!/、生産量が得られた。単位菌体当りの可溶性 scFvの 発現量はリンカ一の種類に関係なくほぼ同じ値を示した力 バイオパンユングによつ て選択された scFvの菌体当りの不溶性画分 (封入体)の発現量は大きく抑制された 。したがって、封入体形成の抑制が誘導後の増殖特性に影響し、従来のフレキシブ ノレリンカ一 (G4S より 5倍から 8倍高い最終菌体濃度および発現量が得られたと考え られる。
[0109] <選択された scFvの会合状態の検討〉
選択された scFvの可溶性画分を Niキレートカラムで精製し、ゲルクロマトグラフィに よる分子量の測定を行った。 scFvのモノマーは分子量 28 kDa、ダイマーは分子量 5 6 kDaであり、各保持時間はそれぞれ 23分、 21分である。図 4に示すように、得られた scFvはほとんどダイマーを形成して!/、た。これらのダイマー形成が分子間相互作用 によるものかジスルフイド結合によるもの力、を検討するために、還元および非還元 SD S-PAGEを行った。図 5に示すように、 SDSによって scFvを変性させた場合、還元 状態でも非還元状態でもモノマーとして存在しているため、これらの scFvのダイマー 形成は分子間相互作用によるものであると!/、うことが確認できた。
[0110] <選択された scFvの抗原認識特性〉
Niキレートカラムで精製した scFvを抗原結合カラムに負荷し、洗浄後、吸着した sc Fvを 0.1N 塩酸で溶出した。 Niキレートカラム精製画分、ならびに抗原結合カラム素
通り画分、抗原結合カラム溶出画分を用いて SDSPAGEを行い、 scFvの活性確認 を行った。図 6に示すように、抗原結合カラム素通り画分にのみ scFvのバンドが見ら れないことから、抗原結合カラムに負荷した scFvはほぼ全てカラムに吸着し、溶出さ れたことが分かった。したがって、発現した scFvのほとんどが抗ビスフエノール A抗体 としての抗原結合活性を有していることが明らかとなった。
[0111] <ビォチン化 ELISAによる結合活性の測定〉
次に、これらの scFvをビォチン化し、アビジン HRPによってマイクロタイターゥエル にコーティングしたビスフエノーノレ Aへの結合を検出した。図 7に示すように、各 scFv において希釈率に応じて高いシグナルが得られた。したがって、 ELISAにおいても s cFvの結合活性が示された。
[0112] 〔実施例 2〕抗ビスフエノール A抗体断片(scFv)をコードするヌクレオチド配列におけ るレアコドンの置換による改変の影響
<レアコドンを含むポリヌクレオチド配列を含む scFvの作製〉
上記実施例 1におレ、て記載した方法によって調製した VHおよび VL遺伝子断片と、 (G4S)3をコ一ドしレアコドンを有する minor (G4S)3 (配列番号 24)リンカー DNAを用レヽ て、当該実施例中に示す方法によって Overlapping PCRを行い、 minor(G4S)3をリン 力一として有する scFv遺伝子を調製した。リンカ一 No.10と同じアミノ酸配列をコ一ド するがレアコドンを有さないポリペプチドリンカ一である major No.10(配列番号 25)を 有する scFv遺伝子も同様の方法で調製した。得られた scFv遺伝子は脱リン酸化処理 した pUC118/HindIに揷入後、 XLl-Blueを用いて青/白スクリーニングを行った。更 に DNAシーケンシングによって scFv遺伝子の配列確認を行った。配列確認した scFv を含む PUC118ベクターを Ncol および Notlによって処理し、 scFv遺伝子を切り出した 。ァガロース電気泳動によって目的とする scFv遺伝子を精製後、あらかじめ Ncolおよ び Notlで処理した pET22ベクター中に揷入した。大腸菌 XLlBlueを scFv遺伝子を揷 入した pETベクター (pET-scFv)で形質転換し、揷入遺伝子の確認を行った。 XLl-Blu eから回収した pET-scFvベクターを用いて大腸菌 BL21pLysSを形質転換した。
[0113] <ポリペプチドリンカ一のヌクレオチド配列の違いによる産生 scFvの可溶性分子の 生産性の変化〉
リンカ一配列 (G4S)3 、 minor (G4S)3、 Νο· 10、 major Νο· 10、(LLKK)4、 Νο·4又は No.14を有する scFvを含み、かつ pET22をベクターバックボーンとして作製したベクタ 一により形質転換された大腸菌 BL21(DE3)pLysS株を培養し、 OD600が 0.6から 1.0の 範囲に増殖した時点で 0.1 mM IPTGによる誘導を行った。 pET22により形質転換さ れた大腸菌 BL21(DE3)pLysS株を対照として用いた。誘導後の増殖を経時的に測定 すると共に、不溶性 scFv及び可溶性 scFvの産生量を測定した。不溶性 scFv量は、 下記の計算式に基づき算出した。
不溶性 scFv量 =総不溶性タンパク質 - (64x最高菌体濃度 I 8.68)
この場合において、 64は対照である pET22により形質転換された大腸菌を培養したと きの不溶性タンパク質量を表し、 8.68は pET22を形質転換した大腸菌の最高菌体濃 度を表したものである。結果を図 8に示す。
[0114] レアコドンを有するリンカ一である Minor (G4S)3とレアコドンを有さない (G4S)3との 比較において、 Minor (G4S)3を有する scFvはその可溶性 scFvの生産性が 88.0 mg /Lであるのに対し、 (G4S)3を有する scFvはその可溶性 scFvの生産性が 57.4 mg/ Lであった。同様に、レアコドンを有するリンカ一である No.10とレアコドンを有さない m ajor No.10との比較において、 No.10を有する scFvはその可溶性 scFvの生産性が 1 16.0 mg/Lであるのに対し、 major No· 10を有するscFvはその可溶性scFvの生産 性が 66.1 mg/Lであった。リンカ一部分にレアコドンを揷入することによりその可溶性 scFvの生産性が有意に上昇することが明らかとなった。
[0115] ポリペプチドリンカ一をコードするポリヌクレオチド配列内にレアコドンを 1個含む No.
4はその可溶性 scFvの生産性が 63.7 mg/Lであるのに対して、レアコドンを 2個含む No.14はその可溶性 scFvの生産性が 87.7 mg/Lであり、レアコドンを 8個含む (LLKK) 4はその可溶性 scFvの生産性が 94.8 mg/Lであった。レアコドンの揷入は可溶性 sc Fvの生産性に対して正の効果を付与することが明らかとなった。
[0116] 一方で、レアコドンを有するリンカ一である Minor (G4S)3とレアコドンを有さない (G4 S)3との比較において、 Minor (G4S)3を有する scFvはその不溶性 scFvの生産性が 1 63 mg/Lであるのに対し、(G4S)3を有する scFvはその不溶性 scFvの生産性が 185 mg/Lであった。同様に、レアコドンを有するリンカ一である No.10とレアコドンを有さな
い major No.10との比較において、 No· 10を有するscFvはその不溶性scFvの生産性 力 S43 mg/Lであるのに対し、 major No.10を有する scFvはその不溶性 scFvの生産 性が 71 mg/Lであった。即ち、不溶性 scFvの生産性は上記の可溶性 scFvの生産性 とは逆相関の関係にあることが示され、レアコドンを有するリンカ一を有する可溶性 sc Fvの高生産性は scFv分子の総生産量の増加によるものではなぐ可溶性 scFvの割 合が上昇したものであることが示された。
[0117] <ポリペプチドリンカ一のヌクレオチド配列の違いによる産生 scFvの可溶化率の変 化〉
上記の検証をより具体化するために、産生 scFvの可溶化率が下記の計算式に基 づき算出された。
可溶化率 = 100x可溶性 scFv生産量 I (可溶性 scFv生産量 + 不溶性 scFv生産量 )
結果を図 9に示す。
[0118] レアコドンを有するリンカ一である Minor (G4S)3とレアコドンを有さない (G4S)3との 比較において、 Minor (G4S)3を有する scFvはその可溶化率が 35.1 %であるのに対 し、 (G4S)3を有する scFvはその可溶化率が 23.7 %であった。同様に、レアコドンを 有するリンカ一である No.10とレアコドンを有さない major No.10との比較において、 N 0.10を有する scFvはその可溶化率が 62.2 %であるのに対し、 major No.10を有する s cFvはその可溶化率が 56.8 %であった。即ち、レアコドンを有するリンカ一を使用して 発現した可溶性 scFvの高生産性は scFv分子の総生産量の増加によるものではなく 、可溶性 scFvの割合が上昇したものであることが示された。
[0119] <ポリペプチドリンカ一のヌクレオチド配列の違いによる宿主細胞の増殖に対する影 響〉
0.1 mM IPTGによる誘導後の増殖を経時的に測定した結果を解析したものを図 10に示す。
[0120] レアコドンを有するリンカ一である Minor (G4S)3とレアコドンを有さない (G4S)3との 比較において、 Minor (G4S)3を有する scFvを発現させた形質転換細胞の菌体濃度 力 .07であるのに対し、(G4S)3を有する scFvを発現させた形質転換細胞の菌体濃度
が 2.58であった。同様に、レアコドンを有するリンカ一である No.10とレアコドンを有さ ない major No.10との比較において、 No.10を有する scFvを発現させた形質転換細 胞の菌体濃度が 8.33であるのに対し、 major No.10を有する scFvを発現させた形質 転換細胞の菌体濃度が 3.44であった。リンカ一部分にレアコドンを揷入することにより その形質転換体の増殖を有意に上昇させることが明らかとなった。
[0121] ポリペプチドリンカ一をコードするポリヌクレオチド配列内にレアコドンを 1個含む No.
4を有する scFvを発現させた形質転換細胞の菌体濃度が 3.84であるのに対して、レ アコドンを 2個含む No.14を有する scFvを発現させた形質転換細胞の菌体濃度は 8.6 6であり、レアコドンを 8個含む (LLKK を有する scFvを発現させた形質転換細胞の 菌体濃度は 8.38であった。レアコドンの揷入により形質転換細胞の増殖に対して正の 効果を付与することが明らかとなった。
[0122] 〔実施例 3〕抗 CD47抗体断片、 MABLscFvの構築
pCHOM2 (国際公開番号 WO2001066737の国際公開公報に記載されている) を铸型とした PCRにより、 VH-sense (配列番号 26)および VH-antisense (配列番号 27 )プライマーを用いて VH遺伝子断片が増幅された後に、ァガロースゲル電気泳動に より精製された。
[0123] また、同铸型と VL-sense (配列番号 28)および VL-antisense (配列番号 29)プライマ 一を用いて VL遺伝子断片が増幅された後に、ァガロースゲル電気泳動により精製さ れ 。
[0124] 次に、 VH遺伝子断片、および VL遺伝子断片と VH-(G4S)3_VL (配列番号 30)、 V H-sense (配列番号 26)および VL-antisense (配列番号 29)を用いて Overlapping PC Rが実施され、フレキシブルリンカ一遺伝子中にレアコドンを含まない MABL scFv(G 4S)3遺伝子が増幅された。
[0125] また、同様に VH遺伝子断片、および VL遺伝子断片と VH-minor(G4S)3-VL (配列 番号 31)、 VH-sense (配列番号 26)および VL-antisenseプライマー(配列番号 29)を用 いて Overlapping PCRが実施され、フレキシブルリンカ一遺伝子中にレアコドンを含 む MABL scFv-minor(G4S)3遺伝子が増幅された。
[0126] 前記のように増幅された後にァガロースゲル電気泳動によって精製された MABL s
cFv(G4S)3scFv遺伝子および MABL scFv-minor(G4S)3遺伝子を铸型として、 5 '端が リン酸化されている Nco VH-sense (配列番号 32)および同様にリン酸化された Not VL-antisense (配列番号 33)を用いて、両末端に制限酵素サイトを有する遺伝子が P CR法によって増幅された。
[0127] 次に、増幅された scFv(G4S)3scFv遺伝子および MABL scFv-minor(G4S)3遺伝子 がァガロースゲル電気泳動によって精製された後に、 Hindiにより消化された pUC118 /Hindi (宝酒造)とライゲートされ、大腸菌が形質転換された。青白スクリーニングに よって MABL scFv(G4S)3scFv遺伝子または MABL scFv_minor(G4S)3遺伝子が揷 入された pUCl 18ベクターが選択され、 DNAシーケンシングによって MABL scFv(G4 S)3遺伝子または MABL scFv_minor(G4S)3遺伝子が揷入されて!/、ること力 S確認され た。
[0128] 最後に、 pUC118ベクターを Ncolおよび Notlで消化し、 MABL scFv(G4S)3遺伝子ま たは MABL scFv_minor(G4S)3遺伝子がァガロースゲル電気泳動によって精製され た後に、 Ncolおよび Notlによって消化された pET22b(+)ベクターに揷入され、 pET-M ABL scFvおよび pET-minor MABL scFvベクターが構築された。
[0129] 〔実施例 4〕 MABL sc(Fv)2および minor MABL sc(Fv)2発現ベクターの構築
pET-MABL scFvベクターを铸型として、 Nco-VH sense (配列番号 32)ならびに VL antisense (配列番号 29)を用いて、 Ncolサイトを 5'末端に有する Nco-MABL scFv 遺伝子が PCR法によって増幅され、ァガロースゲル電気泳動によって精製された。同 様に pET_MABL scFvベクターを铸型として、 VH sense (配列番号 26)および VL- FL AG-Stop antisense (配列番号 34)を用いて、 MABL scFv-FLAG-Stop遺伝子力 SPC R法によって増幅され、ァガロースゲル電気泳動によって精製された。
[0130] 前記と同様な方法で、 pET-minor MABL scFvベクターを铸型として、 Nco-MABL minor scFv遺伝子ならびに MABL minor scFv-FLAG-Stop遺伝子力 SPCR法によ つて増幅され、ァガロースゲル電気泳動によって精製された。
[0131] Nco-MABL scFv遺伝子、 MABL scFv_FLAG_Stop遺伝子、 VL_(G4S)3_VH (酉己 列番号 35)、 Nco-VH sense (配列番号 32)および Flag-Stop-Not antisense (配列番 号 36)をもちいて Overlapping PCRを行い、 MABL sc(Fv)2 遺伝子が増幅された。
尚、 MABL sc(Fv)2 遺伝子の 5 '末端側には Ncolサイトが、また、 3 '末端側には FLA Gペプチド遺伝子、 Stopコドン、 Notlサイトが導入されている。
[0132] 前記と同様な方法で、 Nco-MABL minor scFv遺伝子、 MABL minor scFv-FLA G- Stop遺伝子、 VL-(minorG4S)3-VH (配列番号 37)、 Nco-VH sense (配列番号 32) および Flag-Stop-Not antisense (配列番号 36)をもち!/、て Overlapping PCRを行い、 MABL minor sc(Fv)2 遺伝子が増幅された。尚、 MABL minor sc(Fv)2遺伝子の 5 '末端側には Ncolサイトが、また、 3 '末端側には FLAGペプチド遺伝子、 Stopコドン、 N otlサイトが導入されている。
[0133] MABL sc(Fv)2 遺伝子および MABL minor sc(Fv)2遺伝子がァガロースゲル電 気泳動によって精製され、 Hindiで消化された pUC l 18にクローニングされた。青白ス クリーニングで MABL sc(Fv)2 遺伝子または MABL minor sc(Fv)2遺伝子が揷入さ れたクローンが選択され、 DNAシーケンシングによって MABL sc(Fv)2 遺伝子およ び MABL minor sc(Fv)2遺伝子が揷入されていることが確認された。
[0134] 次に、揷入が確認されたクローンを Ncolおよび Notlによって消化し、 MABL sc(Fv)2
遺伝子および MABL minor sc(Fv)2遺伝子がァガロースゲル電気泳動により精製 され、その後に Ncolおよび Notlで消化された pET22b(+)に揷入された。このようにして 構築された pET_MABL sc(Fv)2ベクターおよび pET_MABL minor sc(Fv)2ベクター によって大腸菌 BL21(DE3) pLysSが形質転換された。
[0135] 〔実施例 5〕 MABL sc(Fv)2および minor MABL sc(Fv)2形質転換大腸菌による MAB L sc(Fv)2および MABL minor sc(Fv)2の生産
<形質転換された大腸菌の培養〉
アンピシリンおよびクロラムフエ二コールを含む 2xYT培地 4 ml に前記形質転換さ れた大腸菌のシングルコロニーが植菌され、 37°C、 160 rpm にてー晚培養された。
500 ml容のバッフル付フラスコ中の 50 ml の 2xYT培地に前培養した开乡質転換体 が OD600=0.1 となるよう植菌され、 200 rpm、 37°Cにて OD600 が約 0·6〜1 ·0 にな るまで培養された。
[0136] IPTG が終濃度 1 mM となるよう添加された後、 160 rpm, 30°Cにて 7 時間培養 が継続された。誘導直前および誘導後 1、 3、 5、 7時間における培養液力 S lmlずつ採
取された。 OD600 から菌体数への換算は以下の式に従い算出された。 菌体数 [cells/L]= OD600 X 1.6 X 1011
[0137] 図 11に、 MABL sc(Fv)2および MABL minor sc(Fv)2発現株の誘導後の菌体増 殖曲線を示す。四角は対照を表し、丸は MABL sc(Fv)2および三角は MABL minor sc(Fv)2をそれぞれ発現する菌体の増殖曲線を示す。図 11に示すように、フレキシ ブルリンカ一の DNA配列中にレアコドンを有する MABL minor sc(Fv)2を発現してい る大腸菌は、 IPTG添加後も増殖が阻害されなかった。一方、レアコドンを含まないフ レキシブルリンカ一を有する MABL sc(Fv)2を発現している大腸菌は、誘導後約 3時 間目に菌体増殖が停止した。その結果、 MABL minor sc(Fv)2発現株の方が MABL sc(Fv)2発現株よりも 2.5倍高い菌体量が得られた。
[0138] <培養上清、菌体内可溶性画分,菌体内不溶性画分の分離〉
(1) 7時間目に採取した培養液が 10000 gで 10 分間、 4°Cにて遠心処理され、培養 上清と菌体ペレットに分離された。
(2)菌体ペレットに 5 mlの溶解液(1% Triton X_100、 20 mM Tris-HCl (ρΗ8·0)、 2 μ g/ml DNase, 0.2 mg/ml リゾチウム)が加えられ、 37°Cで 20分間振とうされた。
(3) Ultrasonic Disruptor UD-201 力 ^OUTPUT 4、 DUTY 60 にセットされ、 15分 間超音波破砕が行われた。
(4) 600000g、 30分、 4°Cにて超遠心分離され、上清が菌体内可溶性画分として回収 された。
(5)得られたペレットが溶解液 1 ml に再懸濁され、 23500g、 5分間、 4°Cにて遠心処 理された。
(6)上清が 500 1 除かれ、ペレットに溶解液 500 1が添加された。
(7) (5)および(6)が再度行われ、 23500g、 5分、 4°Cにて遠心処理された。
(8)上清が 500 1 除かれ、ペレットに蒸留水 500 1が添加された。
(9) 23500g、 5分、 4°Cにて遠心処理された。
(10) (8)および(9)が再度行われ、上清 500 1が除かれた後、ペレットに蒸留水 500 μ \ が添加された。
(11)重量を測定したファルコンチューブに(10)を移して一晩凍結乾燥させた後、再
度重量が測定された。
(12)凍結乾燥された標品が、 8M 尿素、 10 mM メルカプトエタノール 0.5 mlで可 溶化され、 SDS-PAGEおよびウェスタンブロット解析に用いられた。
[0139] pET22で形質転換された大腸菌 BL21(DE3)pLysS力、ら得られた単位菌体当たりの不 溶性発現量である基準値 1.3 X 10— 1Q mgに基づいて、不溶性 sc(Fv)2の発現量が以 下の式に従い算出された。
不溶性 sc(Fv)2 発現量 [mg]
= (測定したペレットのみの重量 [mg]) —(1.3 X 10— 1Q [mgん ell] X最終菌体数)
[0140] [表 6]
[0141] 表 6に示すように、不溶性 MABL minor sc(Fv)2の生産量は、 MABL sc(Fv)2のそ れの約半分であった。さらに、不溶性 MABL minor sc(Fv)2の菌体当たりの生産量 は、 MABL sc(Fv)2のそれの 4分の 1以下であった。したがって、レアコドンを有するフ レキシブルリンカ一を scFvおよび sc(Fv)2に導入することで、インクルージョンボディの 形成を抑制できることが示唆された。
[0142] <誘導前および誘導後 1、 3、 5時間における培養液の分画〉
誘導前および誘導後 1、 3、 5時間における培養液 lmlが 15000g、 10分、 4°Cにて遠 心分離された後、菌体ペレット力 BugBuster (Novagen)を 1.0 OD当たり 100 1をカロ えることにより処理された。処理された検体は、 16000g, 20分, 4°Cにて遠心分離さ れ、上清が菌体内可溶性画分として回収された。ペレットは、不溶性画分として同量 の 8M 尿素で可溶化された。
[0143] <ウェスタンブロット解析〉
(1)培養上清、菌体内可溶性画分、不溶性画分がサンプルバッファによって 2倍に希 釈された後に、 94°Cにて 5分加熱された。
(2)それぞれのサンプル 10 1ずつ力 プレキャストゲル SuperS印 10-20% (WA O) にアプライされ、 200Vにて 1.5 時間電気泳動に供された。
(3)電気泳動後、プレキャストゲル内に分離されたタンパク質力 S、タンク型トランスプロ ッター(Bio-rad)を用いて 100Vにて 1時間通電することによって、 PVDF膜上(ミリポア) に転写された。
(4) 5% Blocking One (ナカライテスタ)溶液中で室温にて 1時間インキュベートするこ とによって、転写された PVDF膜がブロックされた。
(5) TBSで洗浄後、 TBS-Tで 1000倍に希釈したビォチン化抗 FLAG抗体溶液に膜が 浸され、室温にて 1時間インキュベートされた。
(6) TBS_Tで 5分、 3回洗浄後、 TBS-Tで 2000倍に希釈したアルカリフォスファターゼ 標識ストレプトアビジン溶液に膜が浸され、室温にて 1時間インキュベートされた。
(7) TBS_Tで 5分、 3回洗浄後、 BCIP/NBT溶液が加えられて発色反応が観察された
〇
[0144] < SDS- PAGEによる発現した MABL sc(Fv)2および MABL minor sc(Fv)2の評価〉 培養終了時における MABL sc(Fv)2および MABL minor sc(Fv)2の発現状況を解 析するために、 SDS-PAGEおよびウェスタンブロットをおこなった。
図 12に、発現の誘導後 7時間の MABL sc(Fv)2および MABL minor sc(Fv)2 の S DS-PAGEによる解析結果を示す。分子量マーカーは順に、 97、 66、 45、 31、 21、 14k Daである。レーン 1から 3、 4力、ら 6、および 7から 9はそれぞれ、菌体内可溶性画分、 培養上清、および菌体内不溶性画分を表す。レーン 1、 4および 7は MABL sc(Fv)2 を表す。レーン 2、 5および 8は MABL minor sc(Fv)2を表す。レーン 3、 6および 9は 対照を表す。図 12に示すように、不溶性画分において、コントロールにはないタンパ ク質のバンドが検出された。したがって、 MABL minor sc(Fv)2および MABL sc(Fv) 2とも、発現後かなりの部分が不溶化していることが示された。 MABL minor sc(Fv)2 を発現させた場合には、予想される分子量位置にバンドが確認されたが、 MABL sc( Fv)2を発現させた場合には、予想される分子量の約半分 (約 27kDa)の分子量に相当 するバンドが確認された。
[0145] <ウェスタンブロット解析による発現した MABL sc(Fv)2および MABL minor sc(Fv)
2の評価〉
図 13に、発現の誘導後 7時間の MABL sc(Fv)2および MABL minor sc(Fv)2のゥ エスタンブロットによる解析結果を示す。分子量マーカーは順に 97、 66、 45、 31、 21、 14kDaである。レーン 1から 3、 4力、ら 6、およびレーン 8から 10はそれぞれ、菌体内可 溶性画分、培養上清、および菌体内不溶性画分を表す。レーン 7はブランクである。 レーン 1、 4および 8は MABL sc(Fv)2を表す。レーン 2、 5および 9は MABL minor s c(Fv)2を表す。レーン 3、 6および 10は対照を表す。図 13に示すように、ウェスタンブ ロット解析では、 MABL sc(Fv)2は、不溶性画分において 55 kDa、 27kDaの双方に バンドが見られたため、発現後に MABL sc(Fv)2はプロテアーゼの分解を受けている ことが示唆された。これに対して、 MABL minor sc(Fv)2は分子量相当の位置にバン ドが確認された。
[0146] IPTG添加前、さらに添加後 1、 3、 5、 7時間の各画分における sc(Fv)2の発現状況を ウェスタンブロット解析により追跡された。図 14に菌体内不溶性画分の経時変化を示 す。
分子量マーカーは順に、 97、 66、 45、 31、 21、 14kDaである。レーン 1から 3、 4から 6、 7から 9、 10から 12、および 13から 15はそれぞれ、誘導前、誘導後 1時間、誘導後 3 時間、誘導後 5時間、および誘導後 7時間である。レーン 1、 4、 7、 9、および 13は MA BL sc(Fv)2を表す。レーン 2、 5、 8、 10、および 14は MABL minor sc(Fv)2を表す。 レーン 3、 6、 9、 12、および 15(ま対 ffiを表す。図 14ίこ示すよう ίこ、 MABL sc(Fv)2お よびその分解物は、誘導後 1時間後には封入体として検出され、菌体増殖がストップ しているにもかかわらず、単位菌体あたりの不溶性 MABL sc(Fv)2生産量は、培養時 間が長くなるにしたがって増加した。 MABL minor sc(Fv)2は 3時間後に封入体が検 出され、単位菌体当たりの不溶性 MABL minor sc(Fv)2の生産量は誘導 3時間後以 降ほぼ一定であることが示唆された。
[0147] 図 15に、菌体内可溶性画分の経時変化を示す。分子量マーカーは順に、 97、 66、
45、 31、 21、 14kDaである。レーン 1力、ら 3、 4力、ら 6、 7力、ら 9、 10力、ら 12、および 13力、 ら 15はそれぞれ、誘導前、誘導後 1時間、誘導後 3時間、誘導後 5時間、および誘導 後 7時間である。レーン 1、 4、 7、 9、および 13は MABL sc(Fv)2を表す。レーン 2、 5、
8、 10、および 14ίま MABL minor sc(Fv)2を表す。レーン 3、 6、 9、 12、および 15ίま 対照を表す。図 15にお!/、て記載された可溶性画分のウェスタンプロット解析の結果 が示すように、 MABL sc(Fv)2は誘導後 3、 5、 7時間に分解物として 25kDa付近にバン ドが検出されているのに対して、 MABL minor sc(Fv)2は誘導後 1、 3時間に分子量 相当位置にバンドが確認された。
[0148] 図 16に、培養上清の経時変化を示す。分子量マーカーは順に、 97、 66、 45、 31、 2 1、 14kDaである。レーン 1力、ら 3、 4力、ら 6、 7力、ら 9、 10力、ら 12、および 13力、ら 15はそ れぞれ、誘導前、誘導後 1時間、誘導後 3時間、誘導後 5時間、および誘導後 7時間 である。レーン 1、 4、 7、 9、および 13は MABL sc(Fv)2を表す。レーン 2、 5、 8、 10、 および 14は MABL minor sc(Fv)2を表す。レーン 3、 6、 9、 12、および 15は対照を 表す。図 16に示すように、上清中には誘導後 3、 5、 7時間において MABL sc(Fv)2の 分解物が検出された。
[0149] <上清中に分泌された MABL minor sc(Fv)2および MABL sc(Fv)2の Biacore解析
>
可溶性ヒト CD47 (soluble human CD47, 以下 shCD47と指称される。)は、 CD47の 細胞膜外領域(1 - 124アミノ酸)の C末端側に FLAGタグを付加して CHO細胞で発 現させた。発現させた shCD47は、抗 FLAG M2 ァガロース(SIGMA)を使用してマ二 ュアルに準拠して精製された。
[0150] MABL minor sc(Fv)2および MABL sc(Fv)2の抗原への結合活性の測定には、 Bia core 3000 (Biacore)が使用され、 HBS-EP バッファ(Biacore)がランニングバッファと して用いられた。精製された shCD47の糖鎖部分にアルデヒド基が導入された後、ァ ルデヒド基を介したアルデヒドカップリング法により、センサーチップ CM5 (Biacore)に 固定化された。固定化操作は、 BIAapplications Handbookのマニュアルに準拠した。 非特異的な結合の影響を除くために、何の固定化操作もしていないセルをリファレン スとし、 shCD47を固定化したセルのセンサーグラムから、リファレンスセルのそれが差 し引かれた。測定時の流速は 5 H L/minで、サンプルが 5 μ L 注入され、結合後は 10 mM HC1を 5 し 注入することによりチップが再生された。以上の測定方法につ いては、 Kikuchi らの方法(J.Biosci.Bioeng (2005), 100, 311-317)が参照された。
[0151] 解離相の傾きから、 BIA evaluation ver. 3.1 (Biacore)により、解離速度定数(kd) が計算された。また、結合量からサンプル中の MABL sc(Fv)2が定量された。この際 、 CHO細胞で発現させた既知濃度の MABL scFv ダイマー(diabody)が標準として 用いられた。図 17に、発現の誘導後 7時間の MABL sc(Fv)2および MABL minor s c(Fv)2の培養上清の Biacore解析によるセンサーグラムを示し、図 18にその拡大図を 示す。実線のみは CHO由来の MABL sc(Fv)2を表す。三角および四角はそれぞれ、 MABL sc(Fv)2および MABL minor sc(Fv)2を表す。 Xは対照を表す。図 17に示す ように、培養上清を用いた Biacoreによる測定の結果、 MABL minor sc(Fv)2および M ABL sc(Fv)2とも、抗原である CD47に結合する分子として発現していることが確認さ れ 。
[0152] MABL minor sc(Fv)2および MABL sc(Fv)2の結合活性はそれぞれ、 kd = 3·9 X 10— 4 s— 1および、 kd = 2.2 X 10— 3 s—1であった。 MABL minor sc(Fv)2の方力 解離 相の解離速度が遅ぐおよそ 10倍の差が見られた。なお CHO由来 MABL sc(Fv)2は 、kd = 6.8 X 10— 5 s— 1であった。 Kikuchiらによれば、一価抗体である MABL scFvと 二価抗体である MABL scFv ダイマー(diabody)の CD47に対する解離速度定数は 、kd = 3.9 X 10— 3 s— 1と kd = 7.1 X 10— 5 s— 1と大きな違いがあり(Biochem. Biophys.
Res. Com. (2004) 315, 912-918)、ディアボディーでは二価の結合によるアビディ ティーの効果で、解離速度が非常に遅くなつているためであると考えられた。
[0153] ウェスタンブロット解析からも、 MABL minor sc(Fv)2を発現させた場合には完全長 のバンドが認められており、主に二価での結合能を有した分子が発現されていると考 えられた。このために解離速度が非常に遅くなつており、コントロールとして用いられ た MABL scFv ダイマー(diabody)と比較しても、見かけ上は解離相の傾きに大きな 違いは見られなかった。
[0154] 一方、 MABL sc(Fv)2は切断を受け、これらが scFv様の一価抗体として働いている ため、一価抗体の scFvとほぼ同じ解離速度定数を示していると考えられた。
[0155] また、結合量から定量した MABL minor sc(Fv)2の発現濃度は、培養上清には約 0 .15 mg/L、菌体内可溶性画分には、約 0.17 mg/Lであった。