JP4355571B2 - ヒト可変ドメインの改変 - Google Patents
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Description
(i)VH1aサブクラスに属するVHドメインであって、29位にF及び/又は89位にLのアミノ酸残基を含む、上記VHドメイン;
(ii)VH1bサブクラスに属するVHドメインであって、89位にLのアミノ酸残基を含む、上記VHドメイン;
(iii)VH2サブクラスに属するVHドメインであって、16位のG、44位のV、47位のA、76位のG、78位のF、90位のY、97位のR、99位のEからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含み、97位がRである場合には99位はEである、上記VHドメイン;
(iv)VH4サブクラスに属するVHドメインであって、16位のG、47位のA、78位のF、90位のY、97位のR、及び99位のEからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含み、97位がRである場合には99位はEである、上記VHドメイン;
(v)VH5サブクラスに属するVHドメインであって、89位のL、97位のR、及び99位のEからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含み、97位がRである場合には99位はEである、上記VHドメイン;並びに
(vi)VH6サブクラスに属するVHドメインであって、5位のV、16位のG、58位のI、78位のF、90位のY、97位のR、及び99位のEからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含み、97位がRである場合には99位はEである、上記VHドメイン。
(i)VL1κ2サブクラスに属するVLドメインであって、18位にRのアミノ酸残基を含み、18位がRである場合には、92位はTである、上記VLドメイン;
(ii)VLλ1サブクラスに属するVLドメインであって、47位にKのアミノ酸残基を含む、上記VLドメイン。
(i)VH1a、VH1b、VH2、VH4、VH5、及びVH6からなるVHコンセンサス配列群より選択される対応アミノ酸コンセンサス配列を同定するステップ、
(ii)上記コンセンサス配列のアミノ酸残基に対応する1以上のコドンを、前記ドメインの核酸配列の対応する位置に置換するステップ。
(i)ループ内の非グリシン残基を、正のφ角を有するグリシンで置換する突然変異、
(ii)β鎖において低βシート傾向を有する残基から、高βシート傾向を有する残基への突然変異、
(iii)溶媒露出疎水性残基から、親水性残基への突然変異、並びに、
(iv)不満足な水素結合を有する残基の置換。
(a)HuCAL VH3ドメインの対応アミノ酸残基と比較して、異なる上記VHドメインの特定アミノ酸残基を同定するステップ、
(b)上記異なるアミノ酸残基の少なくとも1つを、上記HuCAL VH3ドメインの対応アミノ酸残基で置換するステップ(ただし、置換アミノ酸残基が、前記サブクラスのコンセンサスアミノ酸残基ではない場合に限る)。
(i)上記VHドメインをコードする核酸分子を用意するステップ;
(ii)上記核酸分子を突然変異させることにより、前記改変VHドメインをコードする、改変された核酸分子を取得するステップ。
Tm=81.5℃+16.6(log M)+0.41(%GC)−0.61(%form)−500/L
DNA:RNAハイブリッドについては、以下の式を用いる:
Tm=79.8℃+18.5(log M)+0.58(%GC)−11.8(%GC)2−0.56(%form)−820/L
上記式中、Mは、一価陽イオンのモル濃度で、0.01〜0.4M NaCl、
%GCは、DNAにおけるG及びCヌクレオチドのパーセンテージで、30〜75%、
%formは、ハイブリダイゼーションにおけるホルムアミドのパーセンテージ、並びに、
Lは、ハイブリッドの塩基対の長さである。
(i)VHドメインをコードする核酸分子を用意するステップ;
(ii)上記核酸分子を突然変異させることにより、少なくとも1つのアミノ酸残基交換を含む改変VHドメインをコードする、改変された核酸分子を取得するステップ。核酸配列を突然変異させる方法は、当業者には公知であり、限定するものではないが、カセット突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、PCRによる突然変異誘発などが挙げられる(例えば、Sambrookら、1989;Ausubelら、1999)。
(i)VH1aサブクラスに属するVHドメインであって、29位にF及び/又は89位にLのアミノ酸残基を含むVHドメイン;並びに
(ii)VLκ2サブクラスに属するVLドメインであって、12位のS、45位のQ、又は18位のRのうち1以上の置換を含み、18位がRである場合には92位はTであるVLドメイン。
図1:単離されたVH及びVLドメインの見かけ分子量の決定。50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)及び500mM NaClにおいて、以下のゲル濾過実験を実施した:
(a)VH3(実線)、VH1a(点線)、並びに0.9MGdnHClの存在下でのVH1a(長い破線)を含む、Superdex−75カラムでの、単離されたヒトコンセンサスVHドメイン(5μM);
(b)Vκ1(実線)、Vκ2(長い破線)、Vκ3(点線)、及びVκ4(短い破線)を含む、Superose−12カラムでの、単離されたVκドメイン(50μM);並びに、
(c)Vλ1(実線)、Vλ2(長い破線)及びVλ3(点線)を含むTSKカラムでの、単離されたVλドメイン(5μM)。矢印は、分子量標準の溶出量:炭酸脱水酵素(29kDa)、及びシトクロムc(12.4kDa)を示す;
(d)280nmの検出波長を用いた、19,000rpmでのVκ3の平衡沈降。実線は、単一種に対するデータの当てはめ(fitting)から取得し、13,616Daの分子量を算出した。当てはめたものの残りはランダムに分散しており、これは、単量体状態の仮定が妥当であることを示している。
(a)VH1a(黒丸)、VH1b(白四角)、VH3(黒四角)及びVH5(白丸);
(b)VH2(黒丸)、VH4(白四角)及びVH6(黒四角)。すべての変性変化(a及びb)は、280nmの励起波長での変性剤の濃度の関数として発光最大値の変化を追跡することにより、測定した。
(a)Vκ1(黒丸)、Vκ2(黒四角)、Vκ3(白四角)及びVκ4(白丸)を含むVκドメイン;並びに、
(b)Vλ1(黒四角)、Vλ2(黒丸)、Vλ3(白四角)を有するVλドメイン。すべての変性変化(a及びb)は、280nmの励起波長での変性剤の濃度の関数として蛍光強度の変化を追跡することにより、測定した。
(a)左側にVκ3、右側にVH3を有する二次構造
(b)荷電残基にはマークを付けた(グレー:Arg、Lys及びHis;黒:Asp及びGlu)。各ドメインの底部には、荷電残基の集積、すなわち、VL及びVHドメインの電荷クラスターがある
(c)疎水性コア残基:保存されたTrp43(薄いグレー)の上方は、上部コア(濃いグレー)で、下方は下部コア(黒)である。詳細については明細書を参照
(d)フォールディング効率に影響を及ぼす可能性のある位置を薄いグレーで示す。詳細については明細書を参照。イメージはすべて、プログラムMOLMOL(Koradiら、1996)を用いて作製した。
(a)H3κ3(実線)、H4κ3(長い破線)、H1aκ3(短い破線)並びに、1M GdnHClの存在下でのH1aκ3(短い破線);
(b)H3κ3(実線)、H3κ1(長い破線)、H3λ1(短い破線)、並びに1M GdnHClの存在下でのH3λ1(短い破線)。矢印は、分子量標準の溶出量:ウシ血清アルブミン(66kDa)、炭酸脱水酵素(29kDa)、及びシトクロムc(14kDa)を示す。
発現ベクターの構築
すべての発現ベクターについての出発点は、発現ベクターpBS13(Knappikら、2000)におけるVH−(Gly4Ser)4−VLの配向のHuCALライブラリーのscFvマスター遺伝子であり、これらはすべて、抗体hu4D5−8のH−CDR3及びL−CDR3を有していた(Carterら、1992)。7つの単離されたヒトコンセンサスVHドメインを、マスター遺伝子からPCR増幅した後、BssHIIとStyI制限部位との間のCDR3領域を、代謝選択により見いだされるCDR−H3をコードするYNHEADMLIRNWLYSDVに交換した(J. Burmesterら、未公表の結果)。最終発現プラスミドは、ベクターpAK400(Krebberら、1997)の誘導体であり、そこには、7つの異なるVHドメインの発現カセットがXbaIとHindIII制限部位との間に導入され、また、skpカセット(Bothmann及びPluckthun、1988)がNotI制限部位に導入されている。上記発現カセットは、phoAシグナル配列、短いFLAGタグ(DYKD)、7つのVHドメインの1つ、及びヘキサヒスチジンタグから構成される。
dYT培地(30μg/mLクロラムフェニコール、1.0%グルコースを含む30ml)に単細菌コロニーを接種し、25℃で一晩インキュベートした。1リットルのdYT培地(30μg/mLクロラムフェニコール、50mM K2HPO4)に前培養物を接種し、25℃でインキュベートした(バッフル付き5Lフラスコ、105rpm)。IPTGを最終濃度が0.5mMとなるまで添加することにより、OD550が1.0のときに発現を誘導した。インキュベーションを18時間継続したところ、細胞密度は、OD550が8.0〜11.0に達した。細胞を遠心分離(8,000g、4℃で10分)により回収し、40mlの50mM Tris−HCl(pH7.5)及び500mM NaCl中に懸濁させた後、フレンチプレス溶解により破砕した。粗抽出物を遠心分離(48,000g、4℃で60分)にかけ、上清を0.2μmフィルターで濾過してから、IMACクロマトグラフィーに直接アプライした。
2つのカラムを直列に連結した方法(Pluckthunら、1996)を用いてタンパク質を精製した。この手法では、C末端His−タグを利用する固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)カラムの溶出液をイオン交換カラムに直接導入した。イオン交換カラムからの溶出は、0〜800mM NaCl勾配で行った。VH及びVκドメインは、10mM MES(pH6.0)中のHS陽イオン交換カラムで精製し、Vλドメイン及びscFvフラグメントは、10mM Tris−HCl(pH8.0)中のHQ陰イオン交換カラムで精製した。プールした画分は、50mMリン酸ナトリウム、pH7.0、100mM NaClに対して透析した。
LB培地(30μg/mLクロラムフェニコール、1%グルコースを含む30ml)に単一の細菌コロニーを接種し、37℃で一晩インキュベートした。1リットルのSB培地(10μg/mLクロラムフェニコール、0.1%グルコース、0.4Mスクロース)に10mlの前培養物を接種し、25℃でインキュベートした。IPTGを最終濃度が0.05mMとなるまで添加することにより、OD550=0.8で発現を誘導した。インキュベーションを25℃で15時間継続した。遠心分離の後、細胞を100mM Tris−HCl(pH8.0)、2mM MgCl2中に懸濁させた後、フレンチプレス溶解により破砕した。標準プロトコル(Buchner及びRudolph、1991)に従って、封入体を単離した。1Lの細菌培養物からの封入体ペレットを室温にて、10mlの可溶化バッファー(0.2M Tris−HCl、pH8.0、6M塩酸グアニジン(GdnHCl)、10mM EDTA、50mM DTT)中で可溶化させた。得られた溶液を遠心分離にかけ、上清を、DTTを含まない可溶化バッファーに対して10℃で透析した。このサンプルをニトリロトリ酢酸カラム(Qiagen)(Ni2+で荷電されている)に導入し、変性条件下でIMACを実施した。溶出液を再生バッファー(0.5M Tris−HCl、pH8.5、0.4Mアルギニン、5mM EDTA、20%グリセロール、0.5mMε−アミノ−カプロン酸、0.5mMベンズアミジニウム−HCl)中で最終濃度が1μMとなるよう16℃で10倍に希釈した。[GSH]:[GSSG]のモル濃度比が0.2:1mM(酸化条件)又は5:1mM(還元条件)で、再生バッファーにおける還元又は酸化グルタチオンのいずれかの存在により、ジスフィルド結合の形成を触媒した。再生混合物を16℃で20時間インキュベートし、50mMリン酸ナトリウム、pH7.0、100mM NaClに対して透析した。
scFvフラグメントのフレンチプレス溶解で得た20mLの上清を2mLの50%Ni−NTAスラリーと一緒に室温で30分インキュベートした。懸濁液を直径1.5cmの空のカラムに導入し、50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)及び1M NaClで十分に洗浄した。非特異的結合タンパク質を除去するため、カラムを30mMイミダゾールで洗浄した。250mMイミダゾールを添加することにより、scFvフラグメントを溶出した。サンプルの純度をSDS−PAGE分析により確認した後、280nmでの吸光度により濃度を決定した。対照として常にH3κ3と同時に、4つのscFvフラグメントを精製した。H3κ3の収率、並びにOD550が10の1Lの発現培養物に対し収率を正規化した。
1LのscFvフラグメント発現実験から得たフレンチプレス溶解抽出物のアリコートを4℃で30分かけて16,000gにて遠心分離した。上清(可溶性画分)及び沈降物(不溶性画分)(50mM Tris−HCl(pH7.5)及び500mM NaCl中に再懸濁させた)をSDS−PAGEにより分析した後、記載されている(Lindnerら、1997)ように、抗His抗体3D5を用いたウエスタンブロットを実施した。ChemiImagerTM4400(Alpha Innotech Corporation)を用いて化学発光を検出し、ソフトウエアChemiImagerTM5500(Alpha Innotech Corporation)を用いてバンドの密度を測定した。この方法は多くのステップを含んでおり、誤差が高い可能性があるため、誤差が10%と推定して、10位までの端数を切り捨てて不溶性物質のパーセンテージとして数値を示す。
精製されたタンパク質のサンプルを50mMリン酸ナトリウム、pH7.0、500mM NaClで平衡したゲル濾過カラムで分析した。SMARTシステム(Pharmacia)を用いて、50μLの量及び60μL/分の流速で、濃度が5μMの単離されたVHドメイン及びscFvフラグメントをSuperdex−75カラム(Pharmacia)に、また、濃度が50μM及び5μMの単離されたVκドメインをSuperose−12カラム(Pharmacia)に注入した。HPLCシステム(HP)を用いて、シリカを基材とするTSK−Gel(登録商標)G3000SWXLカラム(TosoH)に、50μL量、濃度5μM、及び流速0.5mL/分で、Vλドメインを注入した。リゾチーム(14kDa)、炭酸脱水酵素(29kDa)及びウシ血清アルブミン(66kDa)を分子標準として用いた。溶出の後、SMARTシステムの場合には280nmで、また、HPLCシステムの場合には220nmでの吸光度を検出した。
XL−A分析用超遠心分離装置(Beckmann)で、沈降平衡を決定した。サンプルを10mMリン酸ナトリウム(pH7.0)及び100mM NaClに対して一晩透析し、サンプルOD280が0.4で、標準6チャンネルの12mm光路長(pathlength)セルに充填した。各セルセクターに過フッ化炭化水素FC43を添加することにより、仮底をつくる。サンプルは、20℃にて19,000rpmで24時間にわたり遠心した。0.001cmの半径方向間隔、280nmでデータを収集し、各サンプルについて、最少10スキャンを平均した。以前に記載されている(Liuら、1998)ように、単一種又は単量体−二量体平衡のいずれかの存在を仮定したモデルを用いて、装置製造者により提供されたソフトウエアでデータを分析した。標準方法を用いて、溶媒密度及びサンプルの部分量を算出した。
主要フレームワークサブクラスを呈示する7つのHuCALコンセンサスVHドメインを同じCDR−H3で発現させることにより、それらの生物物理学的特性を比較することができる。まず、VHドメインを抗体hu4D5−8からのCDR3(WGGDGFYAMDY)(Carterら、1992)を用いて調べたが、VHドメインは、それ自体で発現した場合には不溶性であり、小さな封入体ペレットだけが得られた。これは驚くことではない。何故なら、VHドメインは、露出した広い疎水性境界面(通常はVLで覆われている)を含むため、全部ではないにしろ多くが、ペリプラズム発現時にそれ自体では不溶性となるためである(Jagerら、2001;Jager及びPluckthun、1999b;Wirtz及びSteipe、1999)。しかし、近年、HuCALからの3つの単離されたVHドメイン(フレームワーククラスVH1a、VH1b及びVH3を有するもの)が、代謝選択実験において選択された。これらは、大腸菌のペリプラズムで発現させ、細胞抽出物の可溶性画分から精製することができた。選択されたVHドメインの主な特徴は、CDR3の長さである。というのは、3つの選択された可溶性VHフラグメントはすべて、長いCDR3を含むからである。この長いCDR3は、VHの疎水性境界面を覆い、これにより、凝集を阻止している可能性がある。選択されたVH3ドメインの1つに由来するCDR3(YNHEADMLIRNWLYSDV)を導入することにより、大腸菌のペリプラズムにおいてVH1a、VH1b及びVH3を可溶性形態で発現させ、2mg/lの収率で細胞抽出物の可溶性画分から精製することができた。
精製されたVHドメインのサンプルを、SMARTシステム(Pharmacia)を用いて、50mMリン酸ナトリウム、pH7.0、100mM NaClで平衡したSuperdex−75カラムで分析した。VHドメインを2μMの濃度で、50μlの量を注入したが、その際、流速は50μl/分とした。リゾチーム(14kDa)、炭酸脱水酵素(29kDa)及びウシ血清アルブミン(66kDa)を分子標準として用いた。
蛍光スペクトルをPTIアルファスキャン分光蛍光計(Photon Technologies, Inc. オンタリオ、カナダ)を用いて25℃で記録した。励起及び発光には、それぞれ、2nm及び5nmのスリット幅を用いた。新しく精製したタンパク質及びGdnHCl原液(50mM NaPO4、pH7.0、100mM NaCl中、7.2M)から、0.5μMの最終タンパク質濃度と、0〜5Mの濃度範囲のGdnHClの変性剤を含むタンパク質/GdnHCl混合物(2ml)を調製した。GdnHClの各最終濃度は、その屈折率から決定した。10℃で一晩のインキュベーション後、280nmの励起波長で、320から370nmまでサンプルの蛍光発光スペクトルを記録した。変性濃度を上げていくと、記録した蛍光スペクトルの最大値は、約342から348nmまでシフトした。蛍光スペクトルをガウス関数に当てはめる(単離されたVHドメイン及びscFvフラグメント)ことにより、蛍光最大値を決定するか、あるいは、345nmでの蛍光強度(単離されたVLドメイン)をGdnHCl濃度に対してプロットした。記載されている(Jagerら、2001)ように、単離したヒトコンセンサスVH及びVLドメインのタンパク質安定性を算出した。1プロットでのVH、VL及びscFv変性曲線を比較するために、最高値を1に、最低値を0に設定することにより、相対蛍光最大値及び蛍光強度を概算した。
抗体hu4D5−8(配列:HYTTP(Carterら、1992))からのκ様L−CDR3を保有する4つのヒトコンセンサスVκドメイン(Vκ1、Vκ2、Vκ3及びVκ4)を大腸菌のペリプラズムにおいて可溶形態で発現させた。IMAC、続いて陽イオン交換カラムによる精製後、Vκドメインを多量に取得することができ、その量は、OD550=10に正規化した細菌培養物1L当たり、Vκ3の17.1mgから、Vκ1の4.5mgまでの範囲であった(表1)。κ様L−CDR3は、136位に保存されたcis−プロリンを有する(可変ドメイン残基の番号付け手法は、Honegger及びPluckthun、2001に従う)。Vλドメインのアミノ酸配列は、この位置にプロリンを示すことは決してない。従って、本発明者らは、これらのドメインに、ヒトコンセンサスλ様CDR3(配列:YDSSLSGV)を用いた。3つのヒトコンセンサスVλドメイン(Vλ1、Vλ2及びVλ3)も、大腸菌のペリプラズムにおいて可溶形態で発現させたが、IMAC及び陰イオン交換カラムによる精製後の収率は、Vλドメインの方がはるかに低く、OD550=10に正規化した細菌培養物1L当たり、Vλ2の1.9mgから、Vλ1の0.3mgまでの範囲であった(表1)。
単量体VHフラグメントが、13kDa前後の予想分子量で溶出する(図1a)のに対し、50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)及び500mM NaCl中のVLドメインは、様々なカラム材料と相互作用する。Vκドメインの場合には、Superose−12カラムで最良の結果を取得することができた(図1b)。50μMのタンパク質濃度では、Vκ3及びVκ2は、2kDaの分子量で、κ4は12kDaで溶出し、また、Vκ1は、カラム全量でも、広範なピークで溶出する。Vκ4の濃度を50〜5μMに変えると、ピークは2kDaの分子量にシフトするが、これは、2kDaで溶出するVκドメインは単量体、また12kDaで溶出するVκドメインは二量体であるという仮定のもとに、濃度依存的二量体−単量体平衡を示している(以下参照)。1M GdnHClの添加、又はNaCl濃度を2Mにするという示唆では、溶出プロフィールは変化しなかった。5μMの濃度でのVλドメインは、シリカを基材とするTSKカラムとの非特異的相互作用を示し(図1c)、Vλ1及びVλ2は7kDaの分子量で、またVλ3は、12kDaの見かけ分子量で溶出する。
ほとんどのVLドメインは、ただ一つのトリプトファン(高度に保存されたTrp43)を有し、これは、天然状態ではコア内に位置している。天然条件下でのGdnHCl変性では、蛍光がジスフィルド結合Cys23−Cys106により完全に消光することから、発光最大値を決定することはできなかった。変性の間にトリプトファンは溶媒に暴露され、蛍光強度の急速な上昇をもたらす。従って、GdnHCl濃度対蛍光強度のプロットに関して6−パラメーターフィット(Pace及びScholtz、1997)を用いて、熱力学的パラメーターを計算することにより、二状態挙動と一致する曲線が得られた。VLドメインはすべて、可逆的変性挙動を示す(データは示していない)。図3(a)及び3(b)は、Vκ及びVλドメインのGdnHCl濃度に対する相対蛍光強度のプロットを示す。Vκ3は、ΔGN−Uが34.5kJモル−1の最も安定したVLドメインであり、次に、29.0kJモル−1のVκ1、さらに、それぞれ24.8及び23.7kJモル−1のVκ2及びVλ1が続く(表1)。最も安定性の低いVLドメインは、16.0及び15.1kJモル−1のVλ2及びVλ3である。VLドメインはすべて、11.1〜16.2kJモル−1M−1のm値を示すが、これは、これらドメインが二状態変化に予想される協同性を有することを意味する(Myersら、1995)。ヒトコンセンサスVκ4は、保存されたTrp43以外に、58位に露出したトリプトファンを有し、これは天然状態では消光しない。変性曲線は完全に可逆性であるが、前変化の急勾配の後に、非協同的変化を示す。この不確実性のために、Vκ4のΔGN−U値はなく、変化の中間点だけが報告され、これは1.5M GdnHClの地点である。Vκ4ドメインLenについては、32kJ/モルの安定性が報告されている(Raffenら、1999)。
単離されたVHフラグメントのグループでは、大きな差異がみられる。VH3は可溶性タンパク質の最高収率と最高熱力学的安定性を示し、VH1a、VH1b及びVH5は、中間の収率と中間又は低い安定性を示すのに対し、VH2、VH4及びVH6は、変性剤誘導の変性の間により凝集しやすい挙動と低い協同性を示す。Vκ及びVλドメインの特性はこれより均質である。熱力学的安定性は、VκのグループとVλドメインのグループでは、約10kJ/モルしか違わない。一般に、安定性と可溶性収率は、Vλドメインより単離されたVκドメインの方が高い。可変抗体ドメインのこのような挙動の違いを説明しうる構造的理由を分析するために、一次配列と、7つのヒトコンセンサスVH及びVLドメインのモデル化構造を分析した。モデルについては、以前公表されている(Knappikら、2000)(PDB登録名:1DHA(H1a)、1DHO(H1b)、1DHQ(H2)、1DHU(H3)、1DHV(H4)、1DHW(H5)、及び1DHZ(H6))並びにVLドメイン(PDB登録名:1DGX(κ1)、1DH4(κ2)、1DH5(κ3)、1DH6(κ4)、1DH7(λ1)、1DH8(λ2)、1DH9(λ3))。モデルの品質は、各ドメインによって変動する。タンパク質データバンク(Protein Data Bank)における多数の抗体構造は、例えば、VH3フレームワークを使用し、モデルを構築するのに選択される鋳型構造は、CDR3領域(PBM登録名:1IGM)を除いて86%の配列同一性を有し、鋳型間の構造的差異を追跡することにより、配列差異を識別することができた。VH6の場合には、PDBでVH6生殖系列ファミリーのメンバーの結晶構造を入手できないため、最も類似した鋳型がヒトVH4及びマウスVH8ドメインであった。両方の生殖系列ファミリーは、VH6(III)とは異なるフレームワーク1構造サブタイプ(I)をコードする(Honegger及びPluckthun、2001)。VH6について選択した鋳型(PDB登録名:7FAB)は、CDR3領域を除いて、62%配列同一性を有し、ヒトVH4に属する。単離した状態のドメインに関して3つの疑問が生じてくる。すなわち、VH3は例外的に安定しているのかどうか、VH2、VH4及びVH6は、発現及び凝集に関して比較的挙動が劣っているのかどうか、Vκドメインは、Vλドメインより、高い収率をもたらし、安定性が高いのかどうか。
正の電荷をもつアミノ酸と負の電荷をもつアミノ酸との間の塩橋、並びに、同じ電荷をもつアミノ酸間の反発作用は、タンパク質安定性に重要な役割を果たす(Nakamura、1996)。図4aは、それぞれ特徴的な二次構造を有するVLκ3及びVH3ドメインからなるscFvフラグメントの概略図を示す。図4bには、pH7.0において正の電荷をもつ残基をグレーで、負の電荷をもつ残基を黒でそれぞれ示す。ドメインの底部(base)には荷電残基が集積している。VHドメインには、保存された残基Arg45、Glu53、Arg77及びAsp100が、Arg45−Glu53、Arg45−Asp100、及びArg77−Asp100を連結する内部の保存された塩橋を形成している(図5a)。77位において、VH5の共通残基(consensus)は、他のサブファミリーの共通残基のArgではなく、Glnである(表2)。この変化により、Arg77とAsp100を連結する保存されている塩橋が消失する。さらに、97位及び99位の荷電残基は、電荷クラスターの一部となる可能性がある。VH1a、VH1b、VH3及びVH6のみが99位にGluを有する。これらのドメインは、PDB登録名が1IGMの構造に認められるようにGlu99−Arg45間に別の塩橋を、又はPDB登録名が1BJ1、1INE、2FB4及び1VGEの構造に認められるようにGlu99−Arg77間に別の塩橋を形成しうる。
別の重要な安定化因子は、疎水性コアパッキングである(Pace、1990)。すべてのモデル構造をキャビティーについて検査した。キャビティーは、不適正なパッキングを意味し、これによって、ファンデルワールス相互作用が減少し、熱力学的安定性が低下する。ファンデルワールス接触表面は、プログラムMolmol(Koradiら、1996)を用いて、1.4Åの水半径(water radius)で作成した。キャビティーをみつけたら、その周辺の残基が該キャビティーに対する疎水性表面積に寄与することがないかどうかを調べた。疎水性残基で覆われたキャビティーは、このような位置では水分子がエネルギー的に不利になるため、さらに不都合である。これらのキャビティー、並びに様々な可変ドメインフレームワーク間の配列比較に基づいて、疎水性コア内の位置を確認することができ、これによって、準最適パッキングが達成されると考えられる。図4Cに、分析したコア残基の全体図を示す。コア残基を2つの領域、すなわち図4aに示す配向に従い上部及び下部コアの2つの領域に区分した。上部コアは、Trp43より上方の内部残基、Cys23とCys106間の保存されたジスルフィド結合、並びにCDRに向いたGln/Glu6から構成される。CDR残基の一部は、上部コアに含まれ、その結果、様々なCDRが上部コア(及び全体の安定性に対するその寄与)に強力な影響を及ぼし、その逆に、上部コアの残基もCDRのコンホメーション(及び抗原結合のアフィニティー又は特異性)に影響を及ぼす(Eigenbrotら、1993)。下部コアは、Trp43より下方にあり、そのコンホメーションは、6位、7位、10位及び78位のアミノ酸の種類に関連する(Saul及びPoljak、1993)。
残基2、4、25、29、31、41、80、82、89及び108は、上部コアを形成する。表2に示した配列アラインメントでは、これらの残基を可変ドメインについて比較している。VHドメインでは、2つの配列モチーフを識別することができる。すなわち29位及び31位に2つの大きな芳香族残基を含むVH3様モチーフ(VH1b、VH3、VH5)、25位及び29位の芳香族残基の代替位置(VH2)、並びに41位にTrp、及び25位に大きな脂肪族残基を含むVH4/VH6モチーフ。図6(a)は、VH3上へのVH4の重ね合わせを示し、前記モチーフ間の差異を強調している。VH3様モチーフでは、Phe29及びPhe31が、隣接する残基2、25、31及び108間の空隙を充填している。VH4/VH6モチーフでは、前記2つの残基が、より小さな残基に変化している。ここで、Trp41及びVal25のメチル基が空隙を充填している。VH1aは、VH3様モチーフに属するが、29位にはPheではなく、Glyを有する。この空隙を埋める残基は他にはなく、その結果、疎水性キャビティーが生じる(図6(b))。VH1a、VH1b及びVH5は、89位にLeu(VH3)ではなく、Alaを有する。このイソプロピル基の喪失に対する明確な埋め合わせはない。加えて、Ala25(VH3)をVH5のGlyに置換する(表2)のはメチル基の喪失と同等であり、VH5の上部コアのパッキングをさらに弱化させる(図6(c))。
VHドメインでは、安定性と、Honegger及びPluckthun(Honegger及びPluckthun、2001)に従うフレームワーク1分類の間に興味深い相関が見られる。これは、下部コアの疎水性コアパッキングに影響を与え(Saul及びPoljak、1993)、6位、7位及び10位のアミノ酸の種類によって決定される(表3)。最も安定したVH3ドメインは、サブグループIIに入るが、中間の特性を有するVH1a、VH1b及びVH5は、サブグループIIIに入る(表3)。高い封入体傾向を示し、かつ協同的変性を呈示しないVHドメインであるVH2及びVH4は、サブグループIに入る。VH6は、6位にGlnを含み、7位にProが存在しないことから、サブグループIIIのメンバーである。しかし、以前の実験(Jungら、2001)から、10位のProはこのドメインを不安定化することがわかっている。
不十分な発現挙動、並びに熱力学的理由よりも速度論のために凝集する傾向の高さ(Fink、1988)と相関する可能性がある残基をさらに調べた。この分析は、優れた生物物理学的特性のVH(VH1a、VH1b、VH3及びVH5)により分類したヒトコンセンサスVHドメインと、より凝集しやすいVHドメイン(VH2、VH4及びVH6)との配列アラインメントから開始した(表3)。
単離されたヒトコンセンサスVH及びVLドメインの生物物理学的特性決定の後、VH及びVLの体系的組み合わせも試験することにより、生物物理学的特性に対するそれらの相互の影響を理解し、可変ペプチドリンカーを介してVHドメインがVLドメインに結合されているscFvを選択した。49の可能なVH−VL組み合わせの数を制限するために、最も安定なVHドメインVH3を有するscFvフラグメントを7つのヒトコンセンサスVLドメインの各々と組み合わせて試験し、逆に、最も安定なVLドメインVκ3を7つのヒトコンセンサスVHドメインの各々と組み合わせた。scFvフラグメントにおける単離された可変ドメインの個々の生物物理学的特性の相互補償又は付加があるか否か、あるいは、相乗効果が起こりうるか否かを試験しなければならない。
H3κ3は、29kDaの見かけ分子量で、50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)及び500mM NaCl中5μMのタンパク質濃度で、分析用ゲル濾過カラムSuperdex−75から溶出するが、これは、H3κ3が溶解状態では単量体であることを示している。VLドメインとしてVLκ3を含む他のscFvフラグメントも上記条件下で単量体であるが、H1aκ3は例外で、これは、単量体ピーク以外に、これより小さい二量体及び多量体ピークも示す。H4κ3は、これに加えて、10%未満の少量の二量体を示す。図8(a)は、H1aκ3及びH4κ3と一緒に、単量体scFvフラグメントの一例としてH3κ3のクロマトグラムを示す。VH3及びVκドメインを含むscFvフラグメントはすべて単量体であるが、H3κ1は、加えて小さな二量体ピークを示す(図8(b)は、単量体scFvフラグメントの一例としてのH3κ3、並びにH3κ1を示す)。対照として、Vλドメインを含むscFvフラグメントはすべて、単量体−二量体平衡を示し、二量体の含量は、H3λ1の場合の20%から、H3λ2の場合の70%までである(図8(b)は、Vλドメインを含むscFvフラグメントの一例としてH3κ1を示す)。溶出バッファー中1M GdnHClを用いて、天然条件下で二量体画分を含んだすべてのscFvフラグメントは、29kDaの見かけ質量での単一ピークで溶出し、これは、これらフラグメントがその時点で完全に単量体であることを示している。1M GdnHClにおけるクロマトグラムを、Vλドメインを含むscFvフラグメントの一例としてH1aκ3については図8(a)に、H3λ1については図8(b)にそれぞれ示す。この濃度は、すべてのscFvフラグメントの主要変化より低いことに留意すべできである。唯一の例外はH3λ2であり、これは1m GdnHCl中に20%の含量の二量体をまだ含んでいる。2M GdnHClでは、H3λ2もただ一つの単量体ピークしか示さない(データは示していない)。
変性剤の濃度の関数としてscFvフラグメントの変性(脱折りたたみ)及び再生(再折りたたみ)を、280nmでの励起後の蛍光発光の最大値のシフトにより、モニターした。各scFvフラグメントは、可逆的変性挙動を示す(データは示していない)。scFvフラグメントは、2つのドメインから構成されており、これらのドメインは異なる固有の安定性を有し、境界面領域にわたって相互作用し、潜在的に互いを安定化させることができるため、scFvの変性は通常二状態過程ではない(Worn及びPluckthun、2001)。従って、ΔGN−U値はまったく報告されないが、変性の変化の中間点が与えられる。これは、scFvフラグメントの安定性の半定量的測定値である。VH又はVLドメインへの変化の指定(assignment)は、単一ドメインの変化の決定により行なわれる(表1)。表5では、scFvフラグメントにおけるVH及びVLドメインについて中間点の一覧を示す。1つの変化だけが見える場合には、中間点をVH及びVLドメインの両方に指定する。
略語
CDRは、相補的決定領域;GdnHClは、塩酸グアニン;HuCALは、ヒトコンビナトリアル抗体ライブラリー;IMACは、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー;IPTGは、イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド;scFvは、ペプチドリンカーによって連結された重鎖及び軽鎖の可変ドメインからなる一本鎖抗体フラグメント;VHは、抗体の重鎖の可変ドメイン;VLは、抗体の軽鎖の可変ドメインをそれぞれ示す。
ヒトコンセンサスドメインVH6及びVLκ3(H−CDR3:QRGHYGKGYKGFNSGFFDF及びL−CDR3:QYYNIPT)を含むscFvフラグメント2C2(A. Hahnら、MorphoSys AG、未公表の結果)は、トランスフェリンに連結した配列:CDAFRSEKSRQELNTIASKPPRDHVFのペプチドM18(Jerini GmbH、ベルリン)に対するパニングにより取得したのに対し、VH6及びVLλ3(H−CDR3:SYFISFFSFDY及びL−CDR3:SYDSGFSTV)を含むscFvフラグメント6B3(S. Mullerら、MorphoSys AG、未公表の結果)は、ウマ骨格筋由来のミオグロビン(Sigma)に対するパニングにより取得した。両方のscFvフラグメントを制限部位XbaI及びEcoRIを介して発現プラスミドpMX7にサブクローニングした(21)。Stratagene製のQuikChangeTM部位特異的突然変異誘発キットを用いて、製造者の指示に従い、様々な突然変異を導入した。抗体における固有のXbaI、XhoI、BsaBI及びEcoRI部位を用いて、制限フラグメントを交換することにより、多重突然変異を構築した。最終発現カセットは、phoAシグナル配列、短いFLAGタグ(DYKD)、配向:VH6ドメイン−(Gly4Ser)4リンカー−VLドメインのscFvフラグメント、続いて、長いFLAGタグ(DYKDDDD)及びヘキサヒスチジン−タグから構成される。
30mLのdYT培地(30μg/mLクロラムフェニコール、1.0%グルコースを含む)に単細菌コロニーを接種し、25℃で一晩振盪させた。1リットルのdYT培地(30μg/mLクロラムフェニコール、50mM K2HPO4を含む)にこの前培養物を接種してから、25℃でインキュベートした(バッフル付き5Lフラスコ、105rpm)。IPTGを最終濃度0.5mMまで添加することにより、OD550=1.0で発現を誘導した。インキュベーションを18時間継続すると、細胞密度は、OD550=8.0〜11.0に達した。細胞を遠心分離(8,000g、4℃で10分)により回収し、40mlの50mM Tris−HCl(pH7.5)及び500mM NaCl中に再懸濁させた後、フレンチプレス溶解により破砕した。粗抽出物を遠心分離(48,000g、4℃で60分)にかけ、上清を0.2μmフィルターに通過させた。直列連結式2カラム法(4)を用いて、タンパク質を精製した。この手法では、C末端Hisタグを用いた固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)カラムの溶出液をイオン交換カラムに直接載せた。イオン交換カラムからの溶出は、0〜800mM NaCl勾配で達成した。scFv 2C2由来の構築物を10mM MES(pH6.0)中のHS陽イオン交換カラムで精製し、6B3由来の構築物は、10mM Tris−HCl(pH8.0)中のHQ陰イオン交換カラムで精製した。プールした画分を50mMリン酸ナトリウム、pH7.0、100mM NaClに対して透析した。タンパク質濃度をOD280により決定した。可溶性収率を、OD550が10の1リットル細菌培養物に正規化した。
精製したscFvフラグメントのサンプルを、SMARTシステム(Pharmacia)を用いて、50mMリン酸ナトリウム、pH7.0、500mM NaClで平衡したSuperdex−75カラムにより分析した。サンプルは、50μl量中5μMの濃度で注入し、流速は60μl/分であった。リゾチーム(14kDa)、炭酸脱水酵素(29kDa)及びウシ血清アルブミン(66kDa)を分子量標準として用いた。
PTIアルファスキャン分光蛍光計(Photon Technologies, Inc.、オンタリオ、カナダ)で、蛍光スペクトルを25℃で記録した。励起及び発光の両方に2nmのスリット幅を用いた。新しく精製したタンパク質及びGdnHCl原液(50mMリン酸ナトリウム、pH7.0、100mM NaCl中8M)から、0.5μMの最終タンパク質濃度と、0〜5M GdnHClの変性剤濃度を含むタンパク質/GdnHCl混合物(1.6ml)を調製した。GdnHClの各最終濃度は、屈折率を測定することにより決定した。10℃で一晩インキュベーションした後、サンプルの蛍光発光スペクトルを、280nmの励起波長で、320nmから370nmまで記録した。変性剤濃度を高くすると、記録された発光スペクトルの最大値が約340nmから350nnmに推移した。蛍光発光最大値は、蛍光発光スペクトルをガウス関数に当てはめることにより決定し、GdnHCl濃度に対してプロットした。タンパク質安定性を記載のように計算した(22、23)。1プロットでのscFv変性曲線を比較するために、最高値を1に、最低値を0に設定して、発光最大値を概算することにより、正規化放射最大値を得た。
50mMリン酸ナトリウム、100mM NaCl、pH7.0中5μg/mlの濃度で、ウマ骨格筋由来のミオグロビン(Sigma)及びトランスフェリンに連結したペプチドM18(Jerini GmbH、ベルリン)をMaxisorb96ウェルプレート(Nunc)に4℃で一晩かけてコーティングした。プレートを室温で2.0%スクロース、0.1%ウシ血清アルブミン(Sigma)、0.9%NaCl中で2時間かけてブロッキングした。2μM〜0.125μMの濃度でサンプルをインキュベートした後、α−テトラ−his抗体(Qiagen)、次に、アルカリ性ホスファターゼとコンジュゲートした抗マウス抗体を用いて、結合したscFvフラグメントを検出した。
2,700共鳴単位(RU)のウマ骨格筋由来のミオグロビン(Sigma)でコーティングした1レーンと、2,500RUのトランスフェリンに連結したペプチドM18(Jerini GmbH、ベルリン)でコーティングした1レーンと、対照面として1ブランクレーンを有するCM5−チップ(Amercham Pharmacia)を用いて、BIAcore分析を実施した。再生のために、20mM HEPES(pH7.0)、150mM NaCl及び0.005%Tween20及び2M NaSCN中5μM〜0.08μMの範囲にある様々な抗体濃度を用いて、25μL/分の一定流速で、各結合−再生サイクルを25℃で実施した。同じチップ、バッファー及び再生条件での競合BIAcore(24、25)を用いて、溶解状態での抗体解離定数の決定を実施した。一定濃度のscFvフラグメントと、可変量の抗体を少なくとも1時間10℃で前インキュベートした後、100μLの量のサンプルに導入した。BIAevaluationソフトウエア(Pharmacia)及びSigmaPlot(SPSS Inc.)を用いることにより、データを評価した。線形センサグラムの解離期の傾きを全抗原濃度に対してプロットし、以前記載されている(26)ように解離定数を計算した。
構造に基づく設計により生物物理学的特性を改善するための本発明者らの手法を試験するためのモデル系としてVH6フレームワークを選択し、モデル系としてHuCALから選択される以下の2つのscFvフラグメントを用いた:トランスフェリンと連結したペプチドM18に結合し、Vκ3と対合するVH6からなる2C2と、ミオグロビンに結合し、Vλ3と対合するVH6からなる6B3。上記2つの抗体は、CDR3が異なる(「材料及び方法」を参照)が、それ以外ではVH6配列は同じである。野生型(wt)scFvフラグメント2C2及び6B3を大腸菌のペリプラズムに発現させた。scFvフラグメントは、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、続いてイオン交換カラムにより細胞抽出物の可溶性画分から精製した。scFvフラグメントの純度をSDS−PAGEにより決定したところ、98%を超えた(データは示していない)。OD550=10に正規化した1リットル細菌培養物の精製後の2C2−wt及び6B3−wtの可溶性収率は、それぞれ1.2±0.1mg及び0.4±0.1mgであった。ウエスタンブロットで決定したところ、発現させたタンパク質全量のそれぞれ約10%及び25%が不溶性の状態で認められた。オリゴマー状態を分析用ゲル濾過により決定した。両タンパク質ともに、29kDaの見かけ分子量で溶出するが、これは、両者が単量体であることを示している(図11)。各タンパク質の熱力学的安定性を平衡GdnHCl変性により測定した。scFvフラグメントの変性を、変性剤濃度の関数として蛍光発光最大値の推移によりモニターした。図12(a)は、2C2−wt及び6B3−wtの変性曲線を示す。両方の曲線とも、ただ1つの変化しか示さないが、これは、scFvフラグメント内のVH及びVLが同時に変性することを示している(10)。折りたたまれた(folded)及び変性した(unfolded)状態の蛍光強度は類似しており、最大値は17nmしか変わらないため、最大値の推移を用いて、変性した分子の集団を決定することができる(27)。scFvフラグメントの変性は二状態過程であると仮定して、変性ΔGN−Uの自由エネルギーを決定することができる(28、29)。2C2−wtはΔGN−U51.3kJ/モルを、6B3−wtはΔGN−U51.3kJ/モルをそれぞれ示し、m値はそれぞれ25.2kJモル−1M−1及び27.4kJモル−1M−1であった。これらのm値は、このサイズのタンパク質に予想された範囲内にあり、これは、両scFvフラグメントが二状態過程に予想される協同性を有することを示している(30)。
ヒトVH6フレームワークを含むscFvフラグメント2C2及び6B3の特性を改善するための突然変異体の第1セットを構造モデルの分析から選択した。尚、この分析は、有利な生物物理学的特性を有するVHドメイン(ファミリー1、3及び5)と、不利な特性を有するVHドメイン(ファミリー2、4及び6)別に分類したヒトコンセンサスVHドメインの配列アラインメントに基づいて行なった。(図13)。本発明者らの目的は、抗原結合に影響しそうにない、一般的に適用可能な突然変異を識別することであったため、フレームワークの残基に的を絞り、CDR領域は排除した。2C2及び6B3において本発明者らが研究した残基を、特定の変化についての推論とともに以下に示す:
Q5V:安定性に有利なscFv 4D5Fluの選択実験で、Val、Gln、Leu及びGluの中から、この位置にValを選択した(18)。5位は第1β鎖の一部であり、ValはGlnと同様に高いβシート傾向を有する(31)。しかし、露出した疎水性残基の突然変異は、in vivoフォールディング収率に多大な影響を及ぼすことが既に示されている(9)。図14は、VH6−VLκ3scFvフラグメントのモデル(21)(PDB登録名:1DHZ(VH6)及び1DH5(VLκ3))の5位のGlnが溶媒に暴露されていることを示している。従って、VH1a、VH1b、VH3及びVH5の疎水性Valとは対照的に、VH2、VH4及びVH6の親水性残基Gln又はLysがフォールディング効率を増強するのではないかと考えられる。要約すると、この突然変異は、βシート傾向を高める代償として、露出した疎水性残基を生成する。
前述した6種の突然変異(Q6V、S16G、T58I、V72D、S76G及びS90Y)を部位特異的突然変異誘発により2C2−wt及び6B3−wtに導入した。1種の突然変異を有するscFvフラグメントすべてを、野生型scFvフラグメントと同じ方法で発現させ、精製したところ、溶解状態で単量体であった(データは示していない)。単一突然変異体、及び後に構築した多重突然変異体のすべてにおいて、ペリプラズムにおける不溶性タンパク質に対する可溶性タンパク質の比率は一定であり、全発現レベルが増加した場合でもそうであった。生物物理学的データを表7にまとめる。2C2及び6B3において突然変異により生じた改善を比較するために、可溶性タンパク質の発現収率を、対応する野生型scFvフラグメントの収率に対して正規化した後、変性の自由エネルギー(ΔGN−U)を、対応するscFv−wtに対する差異(ΔΔGN−U)として示す。変性剤誘導変性曲線を図12(b)に示す。
改善が付加的であるかどうかを決定するために、本発明者らは、単一突然変異の組み合わせをクローニングした。多重突然変異を含むscFvフラグメントを前記のように発現及び精製した後、分析用ゲル濾過にかけたところ、これらも溶解状態で単量体であることが証明された(図11では例として2C2−及び6B3−allを示す)。試験した2C2の全多重突然変異体の変性曲線は、1つの急速な協同的変化を示す(図12(d))ことから、VH6での6種の突然変異により、Vκ3ドメインが安定化されることがわかるが、これは恐らく、突然変異したVH6ドメインが、疎水性VH−VL境界面相互作用を介してVκ3を安定化するためと考えられる。対照的に、二重突然変異体6B3−Q5V+S16G及び6B3−T58I+S76Gの平衡変性の変化からは、6B3−wtと比較して、協同性が低いことが明らかになり、m値はそれぞれ18.9及び19.3kJモル−1M−1であった。これは、変性がもはや二状態過程ではないことを示している。有利な特性を有するVHドメインのグループと比較して、上記配列に由来する6種の突然変異すべてを有するscFvフラグメント6B3(6B3−all)はむしろ低い協同性を示し、m値は14.3kJモル−1M−1であった(図12(a))。Vλ3ドメインは、単離されたVLドメインのうち最も低い熱安定性を有し(実施例1と、11参照)、恐らく、多重突然変異を有するscFv 6B3で最初に変性を開始するのに対し、突然変異し、安定化したVH6ドメインは、依然として折りたたまれた状態で、さらに高い変性剤濃度でしか変性しない。このように二状態挙動が欠如しているために、6B3の多重突然変異体についてはΔGN−U値を計算することができなかった。
VH構造は、6位、7位及び10位のアミノ酸の種類に応じて4つの異なるフレームワーク1コンホメーションに区分することができる(32)(番号付けは、Honegger及びPluckthunに従う(33))。19、74、78及び93位の残基は、上記ドメインの下部の疎水性コアの一部であるため、熱力学的安定性及びフォールディング効率に影響を与えるが、これらの残基は、この構造的サブタイプと相関する(32)。最も有利な特性を有するVHドメインは、サブタイプII(VH3)及びサブタイプIII(VH1a、VH1b及びVH5)に入るのに対し、不利な特性のVHドメインであるVH2及びVH4は、サブグループIに入る。改善しようとするVH6は、サブタイプIIIに割り当てることができる。サブタイプIIIは、6位のGlnの存在と、7位のProの非存在を特徴とする(32)。ヒトVHドメインのサブタイプIII決定及び相関残基の分析(32)から、VH6フラグメントは、10、74及び78位に、稀にしか用いられない残基を有することがわかる(表8)。10位のProは、配列の8%で用いられるのに対し、Alaは、配列の76%で用いられる。Proは、Alaより限定された数のコンホメーションしか許容しない。突然変異誘発実験(34)では、10位のProは、サブタイプIVのVHドメインを不安定化することがわかった(マウスだけに起こり、ヒト配列では起こらない)。74位のVal及び78位のIleは、VHサブタイプIII配列と比較して、それぞれ1%及び8%の頻度を有する。2C2及び6B2においてVal74を最も頻度の高いPheと交換した。何故なら、大きな芳香族アミノ酸は、恐らく疎水性コアのパッキング密度を高めるからである。Ile78は、サブタイプIIIコンセンサス残基Ala又はVal(Ileと同様に非芳香族脂肪族残基である)と交換しなかった。というのは、パッキング密度への影響が恐らく小さいと思われるからである。図15(a)では、フレームワーク1サブタイプ決定及び相関残基をVH6のモデル(21)(PDB登録名:1DHZ)に示し、図15(b)では、P10A(10位のProをAlaへ変異)及びV74Fを含む二重突然変異のモデルを示す。
この研究の目標は、結合活性は保持しながら、ファミリー特異的分析に従う構造に基づく手法によって、VH6を含むscFvフラグメントの収率及び安定性を改善できることを証明することであった。本発明者らは、2つの独立した方法(ELISA及びBIAcore)により、結合活性を分析した。ELISAについては、本発明者らは、対応する抗原をコーティングし、様々な濃度のscFvフラグメントを使用した。本発明者らは、scFv−P10Aを含むすべての単一突然変異、並びにscFv−all及びscFv−all+P10Aの多重突然変異を試験した。すべての突然変異体が、類似した濃度依存性を示し、これらが、同じ結合親和力を有することを示している(データは示していない)。
Claims (14)
- VH6サブクラスに属するVHドメインであって、Kabatの番号付けによる15位のG、51位のI、及び65位のGからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含むVHドメインを含む、単離されたポリペプチド。
- 前記VHドメインが、さらにKabatの番号付けによる5位のV、61位のD、及び79位のYからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
- 請求項1記載のVHドメインを含む抗体。
- 請求項3記載の抗体を1以上含む、抗体のライブラリー。
- VH6サブクラスに属するVHドメインであって、Kabatの番号付けによる15位のG、51位のI、及び65位のGからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含むVHドメインを含むポリペプチドをコードする単離された核酸。
- 前記VHドメインが、さらにKabatの番号付けによる5位のV、61位のD、及び79位のYからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む、請求項5に記載の単離された核酸。
- 請求項5記載の核酸に対応する核酸配列を含むベクター。
- 請求項5記載の核酸に対応する核酸配列を有する宿主細胞。
- 請求項5記載の単離された核酸を発現するステップを含む、VHドメイン又は抗体の製造方法。
- VH6サブクラスドメインをコードする核酸配列において、Kabatの番号付けによる15位のG、51位のI、及び65位のGからなる群より選択されるアミノ酸残基をコードする少なくとも1つのコドンに置換するステップを含む、請求項1のポリペプチドをコードする単離された核酸配列の取得方法。
- VH6サブクラスドメインをコードする核酸配列において、Kabatの番号付けによる5位のVのアミノ酸残基をコードするコドンに置換するステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
- VH6サブクラスドメインをコードする核酸配列において、Kabatの番号付けによる5位のV、15位のG、51位のI、及び65位のGからなる群から選択されるアミノ酸残基をコードする2以上のコドンに置換する、請求項10に記載の方法。
- さらに以下のステップ:
(i)前記ドメインについて、VH6のアミノ酸コンセンサス配列を同定するステップ;
(ii)前記コンセンサス配列のアミノ酸残基に対応する1以上のコドンを、前記ドメインの核酸配列の対応する位置に置換するステップ、
を含む、請求項10記載の方法。 - 請求項10記載の核酸配列を発現するステップを含む、ポリペプチドの取得方法。
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