メタクリル樹脂組成物及びその成形品
技術分野
[0001] 本発明は、耐衝撃性を向上したメタクリル樹脂組成物及びこの樹脂の成型品に関 するものである。
背景技術
[0002] メタクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル: PMMA)は熱可塑性榭脂の中では硬度が 最も高ぐまた酸やアルカリなどに対する耐薬品性にも優れるために、各種の成形品 に広く使用されている。しかし、 PMMAは耐衝撃性が比較的低ぐまた割れた際の 割れ面が鋭く尖ることがあるため、使用上の注意が必要である。
[0003] このため、特開平 09— 059472号公報で見られるよう〖こ、 PMMAにアクリルゴムな どのゴムを配合して、 PMMAの耐衝撃性を上げることが提案されて ヽる。
発明の開示
[0004] しかしながら、 PMMAにゴムを配合すると、 PMMA単独の場合に比較して、強度 や硬度が低下し、また温度による寸法変化が大きくなり、さらに耐薬品性が低下する という問題が生じるものであった。
[0005] 本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、強度や硬度、寸法安定性、耐薬 品性を低下させることなぐ耐衝撃性を向上することができるメタタリル榭脂組成物を 提供することを目的とするものである。
[0006] 本発明に係るメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂に、フッ素榭脂の微粉末フィ ラーを配合したものであり、上記のフッ素榭脂は、四フッ化工チレン榭脂(PTFE)、四 フッ化工チレン'パーフルォロアルコキシエチレン共重合榭脂(PFA)、四フッ化工チ レン'六フッ化ポリプロピレン共重合榭脂 (FEP)、四フッ化工チレン'エチレン共重合 榭脂 (ETFE)、ビ-リデンフルオライド榭脂(PVF)、クロ口トリフルォロエチレン榭脂( PCTFE)、エチレン 'クロ口トリフルォロエチレン榭脂(ECTFE)で構成される群から 選択された一つである。
[0007] このため、強度や硬度、寸法安定性、耐薬品性を低下させることなぐメタタリル榭
脂組成物で成形される成形品の耐衝撃性を向上することができるものである。
[0008] 好ましくは、微粉末フイラ一の平均粒径が 5〜25 μ mとされることで、成形性が向上 して、成形品の外観を損なうことなぐ成形品の耐衝撃性を向上することができるもの である。
[0009] また、微粉末フイラ一の配合量が 0. 5〜5質量%であることが、曲げ強度を低下さ せることなぐ成形品の耐衝撃性を向上するために有用である。
[0010] 更に、上記の微粉末フイラ一は焼成処理されることが好ましい。焼成処理されたフッ 素榭脂の微粉末フイラ一を配合することによって、強度や硬度、寸法安定性を低下さ せることなぐメタタリル榭脂組成物で成形された成形品の耐衝撃性を向上することが でき、この成形品にねじが使用される場合は、ネジの締め付けの際のきしみ音を低減 することができるものである。
[0011] この微粉末フイラ一は、 420°Cで 30分間加熱したときの質量減少率が 5質量%以 上のものであることが更に好ましぐこれにより、成形品の耐ケミカルクラック性を高め ることがでさる。
図面の簡単な説明
[0012] [図 1]本発明に係るメタクリル樹脂組成物の成形品についての耐ケミカルクラック性の 試験方法を示す図
発明を実施するための最良の形態
[0013] 以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
[0014] 本発明は、メタクリル榭脂(ポリメタクリル酸メチル: PMMA)に PMMAより耐熱性及 び耐薬品性が高ぐ且つ PMMAより硬度が低いフッ素榭脂の微粉末フイラ一を配合 するようにしたメタクリル樹脂組成物である。このフッ素榭脂としては、四フッ化工チレ ン榭脂(PTFE)、四フッ化工チレン'パーフルォロアルコキシエチレン共重合榭脂(P FA)、四フッ化工チレン'六フッ化ポリプロピレン共重合榭脂(FEP)、四フッ化工チレ ン.エチレン共重合榭脂 (ETFE)、ビ-リデンフルオライド榭脂(PVF)、クロ口トリフル ォロエチレン榭脂(PCTFE)、エチレン 'クロ口トリフルォロエチレン榭脂(ECTFE)な どを挙げることができる。
[0015] PMMAにこれより硬度が低く柔軟性を有するフッ素榭脂の微粉末フイラ一を配合
することによって、応力を緩和し、またクラックの発生を分散させることができ、メタタリ ル榭脂組成物によって成形される成形品の耐衝撃性が向上する。微粉末フイラ一と して PMMAより溶融温度が低ぐ熱分解温度が低い、すなわち PMMAよりも耐熱性 が低いものを使用すると、成形時に形状を維持できないことや、 PMMAと分離したり 、成形後に剥離したりするおそれがある。このため、微粉末フイラ一として、上述のフ ッ素榭脂のように、 PMMAより耐熱性が高 、ものが使用される。
[0016] また、上記のフッ素榭脂は、 PMMAより硬度が低く柔軟性に富むものであり、例え ば、 PMMAの曲げ弾性率は 3GPaであるのに対して、 PTFEの曲げ弾性率は 0. 55 GPa、 PFAの曲げ弾性率は 0. 66GPaである。更に、上記のフッ素榭脂は PMMAよ り耐薬品性が高ぐ耐熱性も高い。例えば PMMAの溶融温度は 200°C程度である 力 PTFEは耐熱温度が 250°C以上であり、溶融温度は 300°C以上である。
[0017] また、フッ素榭脂の微粉末フイラ一としては、平均粒径が 5〜25 μ mの範囲のもの が好ましい。平均粒径が 5 m未満であると、取り扱い性が悪くなり、また均一混合も 難しくなる。逆に平均粒径が 25 μ mを超えると、粒子が粗くなるためにこれが成形品 の表面に表れて外観を損なうおそれがある。
[0018] PMMAに上記のフッ素榭脂の微粉末フイラ一を配合し、これを混合'混練すること によって、本発明のメタクリル樹脂組成物を得ることができる。ここで微粉末フイラ一の 配合量は、 0. 5〜5質量%(PMMA100質量部に対して 0. 5〜5質量部)の範囲が 好ましい。微粉末フイラ一の配合量が 0. 5質量%未満では、微粉末フイラ一の配合 による耐衝撃性向上の効果を十分に得ることができな 、。耐衝撃性向上の効果は微 粉末フィラーの配合量が 1質量%程度のときに最も高ぐ微粉末フイラ一の配合量が 5質量%を超えると曲げ強度の低下が大きくなるので、微粉末フイラ一の配合量は 5 質量%以下であることが好まし 、。
[0019] 更に、上記の微粉末フイラ一としては、焼成処理されたものを用いることができる。
焼成されたフッ素榭脂の微粉末フイラ一は、潤滑用添加剤として市販されているもの を入手して使用することができる。フッ素榭脂の微粉末として焼成処理して熱履歴が 高まったものを使用すれば、この微粉末フイラ一の PMMA中への分散性能が向上し て、耐衝撃性能がより一層向上できる。
[0020] 焼成処理された微粉末フィラーとしては、 420°Cで 30分間加熱したときの質量減少 率が 5質量%以上となるものが好ましい。加熱減量が小さな粉体は分子量が大きく比 較的硬い傾向があり、フッ素榭脂の微粉末フイラ一を配合することによる PMMA成 形品の残留応力を低減する効果が低くなつて、成形品の耐ケミカルクラック性を向上 する効果も不十分になる。このため、 420°Cで 30分間加熱したときの質量減少率が 5 質量%以上であって、熱履歴が高過ぎな 、フッ素榭脂の微粉末フイラ一を PMMA に配合することによって、成形品の耐ケミカルクラック性を高めるようにしているもので ある。微粉末フイラ一を 420°Cで 30分間加熱したときの質量減少率の上限は、特に 設定されるものではないが、実用上、 10質量%以下であることが望ましい。
[0021] 上記のようにして得られた本発明のメタクリル樹脂組成物を、射出成形など任意の 成形法で成形することによって、成形品を得ることができる。ここで、上記のように PM MAに微粉末フィラーを混合'混練するときの温度、及び成形の際の温度は、 PMM Aの溶融温度より高ぐ且つ微粉末フイラ一の溶融温度より低い温度に設定されるも のである。
[0022] そしてこの成形品において、 PMMAには、 PMMAより耐熱性及び耐薬品性が高 ぐ硬度が低い微粉末フイラ一が含有されているので、硬度が低く柔軟性の高いフッ 素榭脂の微粉末フイラ一によつて、成形品の耐衝撃性を高めることができるものであ る。また微粉末フイラ一は硬度が低いが、成形品中にフィラーとして含有されているた めに、成形品の硬度や強度を大きく低下させるようなことはなぐし力も微粉末フイラ 一は耐熱性ゃ耐薬品性が高 ヽので、寸法安定性ゃ耐薬品性を低下させることもな 、 ものである。
実施例
[0023] 次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
[0024] (実施例 1〜7)
PMMAとして、三菱レイヨン (株)製の「アタリペット VH001」を用いた。また PTFEの 微粉末フイラ一として、平均粒径が 25 μ mの (株)サンプラテック製「サンプラ PTFE パウダー WEB93131」、平均粒径が 10 μ mの(株)サンプラテック製「サンプラ PTF Eパウダー WEB93132」、平均粒径が 6 μ mの(株)サンプラテック製「サンプラ PTF
Eパウダー WEB93133」を用いた。
[0025] (実施例 8)
PMMAとして、三菱レイヨン (株)製の「アタリペット VH001」を用いた。またフッ素系 榭脂粉体として、平均粒径が 19 mである焼成処理された (株)喜多村製の「KTL 450」を用いた。この焼成処理された PTFE粉体を、 10°CZ分の昇温温度で 420 °Cまで昇温した後、この温度を 30分間保持した際の、加熱減量を TGA装置 (熱重量 分析装置)で測定したところ、 3質量%であった。
[0026] (実施例 9)
PMMAとして、三菱レイヨン (株)製の「アタリペット VH001」を用いた。またフッ素系 榭脂粉体として、平均粒径が 20 μ mである焼成処理された (株)喜多村製の「KTL — 20N」を用いた。この焼成処理された PTFE粉体を、 10°C/分の昇温温度で 420 °Cまで昇温した後、この温度を 30分間保持した際の、加熱減量を TGA装置で測定 したところ、 3質量%であった。
[0027] 各実施例について、 PMMAに PTFEの微粉末フィラーを表 1及び表 2の配合量で 配合し、二軸-一ダーを用いてシリンダー温度 300°Cの温度条件で加熱混合し、冷 却後、粉砕することによって、メタタリル榭脂組成物の成形用ペレットを調製した。
[0028] このように調製した成形用ペレットを、射出成形機を用いて、シリンダー温度 245°C の温度条件で射出成形することによって、試験用の成形品を得た。
[0029] (比較例 1)
PMMAとして、三菱レイヨン (株)製の「アタリペット VH001Jを用い、上記と同様にし て射出成形することによって、試験用の成形品を得た。
[0030] (比較例 2)
PMMAとして、三菱レイヨン (株)製の「アタリペット IR D30 001」(ゴムを添カ卩した 耐衝撃グレード品)をそのまま用い、上記と同様にして射出成形することによって、試 験用の成形品を得た。
[0031] 上記の実施例 1〜9及び比較例 1〜2で得た試験用成形品について、鉛筆硬度 CFI S K 5400)、曲げ強度 (JIS K 7171)、シャルピー衝撃強度 (JIS K 7111)、 線膨張係数 (ASTM D696)を測定した。結果を表 1及び表 2に示す。
[0034] 表 1及び表 2に見られるように、平均粒径 6〜25 μ mの PTFEの微粉末フィラーを 0 . 5〜5質量%の範囲で配合した各実施例の成形品は、無配合の PMMAの比較例 1よりもシャルピー衝撃強度が向上し、ゴムを添カ卩した耐衝撃グレード品である PMM Aの比較例 2と同等のシャルピー衝撃強度が得られることが確認される。一方、各実 施例の鉛筆硬度、曲げ強度、線膨張係数は比較例 1と同等であり、硬度、強度、寸 法安定性が低下していないことが確認され、各実施例の成形品は、衝撃強度を向上 させながら、メタクリル樹脂が有する優れた硬度、曲げ強度、寸法安定性を維持でき る。
[0035] また、各実施例に見られるように、 PTFEの微粉末フィラーの平均粒径が 6 μ m、 10 m、 19 m、 20 m、 25 mのいずれでもほぼ同等の結果が得られた力 平均粒 径が 5 μ m未満では取り扱いが難しぐ平均粒径が 25 μ m超では粒子の粗さによる 成形品の外観の問題があるので、微粉末フイラ一の平均粒径は 5 μ m〜25 μ mの範 囲が好ましい。
[0036] 更に、実施例 1〜5に見られるように、 PTFEの微粉末フィラーの配合量が 1質量% のときにシャルピー衝撃強度の向上はピークであり、これより少ない場合も多い場合 も向上の効果は低くなる傾向にあり、 5質量%の配合のときは曲げ強度の低下が見ら れるので、微粉末フイラ一の配合量は 0. 5〜5質量%の範囲が好ましいことが確認さ れる。
[0037] 実施例 8、 9である PMMAに焼成処理した PTFE粉体を配合したメタクリル榭脂組 成物の成形品では、更に、ゴムを添カ卩した耐衝撃グレード品である PMMAの比較例 2と比べて、シャルピー衝撃強度が大きく向上することが確認され、鉛筆硬度、曲げ 強度、線膨張係数については、実施例 1〜7と同等の性能が維持される。
[0038] また、実施例 8、 9と比較例 1、 2につ 、ては、耐ケミカルクラック性、ネジ締め時きし み音の有無を測定し、その結果を表 2に示す。耐ケミカルクラック性の試験は次のよう にして行なった。図 1に示すように凸曲面 1を形成した治具 2を用い、厚み 3mm、幅 1 5mmの試験用成形品 Aを凸曲面 1に沿わせて曲げた状態で治具 2の上に配置し、 試験用成形品 Aの両側端を留め具 3で固定した。このように治具 2の凸曲面 1の上に 試験用成形品 Aを曲げた状態で固定することによって、試験用成形品 Aの表面に 0. 15%、 0. 3%、 0. 45%、 0. 6%の歪を力けた。ここで、、冶具 2として、試験用成形品 Aの上面が 0. 15-0. 6%の範囲で伸ばされるように凸曲面 1の曲率を設定した、 4 種類のものを用いることによって、この 4種類の歪をかけるようにした。
[0039] 次に、上下が開口する内径 5mmの筒体 4を試験用成形品 Aの中央部の上面にシ リコングリスで固定し、筒体 4内にエチルアルコールを充填して 24時間放置した。そし て、エチルアルコールを接触させた部分にぉ 、て試験用成形品 Aに割れもしくはクラ ックが発生したときの、歪値を臨界歪値として表 2に示す。
[0040] また、ネジ締め時きしみ音の試験は、厚み 3mmの試験用成形品に直径 3. 4mmの ドリルで孔をあけ、 T4タッピングビスをこの孔にドライバーで締め込む際に、きしみ音 が発生する力否かを確認することによって行なった。
[0041] 表 2に見られるように、実施例 8と実施例 9については、実施例 8や 9の成形品はネ ジ締め時のきしみ音が発生しないことも確認される。
[0042] また、実施例 9に示すように、焼成処理した PTFEの微粉末フィラーとして加熱減量 力 質量%以上のものを使用した実施例 9は、加熱減量が 3%である微粉末フイラ一 を使用した実施例 8よりも、臨界歪値が大きくなり、耐ケミカルクラック性が向上するこ とが確認される。