明 細 書
ァクチユエータの速度変動抑制方法
技術分野
[0001] 本発明は、波動歯車減速機を備えたァクチユエータにおける波動歯車減速機の角 度伝達誤差に起因するァクチユエータ出力軸の回転速度の変動を抑制するための ァクチユエータの速度変動抑制方法に関するものである。また、当該速度変動抑制 方法を採用したァクチユエータの駆動制御装置に関するものである。
背景技術
[0002] ァクチユエータとしては、モータの出力回転を波動歯車減速機で減速して負荷側の 部材を目標位置に位置決めする構成のものが知られている。波動歯車減速機は、環 状の剛性内歯歯車と環状の可撓性外歯歯車と波動発生器とを備えている。典型的 な波動歯車減速機では、波動発生器によって可撓性外歯歯車が楕円形に橈まされ て、その楕円形の長軸方向の両端に位置する外歯部分が剛性内歯歯車の対応する 内歯部分に嚙み合わされた状態が形成されている。波動発生器がモータによって回 転させられると、両歯車の嚙み合い位置が円周方向に移動し、両歯車の歯数差 2n 枚 (nは正の整数)に応じた相対回転が当該両歯車に発生する。
[0003] 一般に、両歯車の歯数差は 2枚であり、剛性内歯歯車が固定され、可撓性外歯歯 車が減速回転出力要素として回転し、当該可撓性外歯歯車に連結されている負荷 側の部材が低速で回転駆動される。この場合の減速比 iは次式で表される。
i= l/R= (Zc-Zf) /Zf
但し、 R:速比
Zf:可撓性外歯歯車の歯数
Zc :剛性内歯歯車の歯数
[0004] 例えば、 Zf = 100、 Zc= 102の場合、減速比 iは 1/50であり、モータ回転方向に 対して出力回転が逆向きになる。
[0005] この構成のァクチユエータの駆動制御装置は、一般的にはフィードバック制御によ りァクチユエータの位置決め制御を行っている。この場合、波動歯車減速機には角
度伝達誤差があり、この誤差によってァクチユエータ出力軸 (波動歯車減速機の出力 軸)による実際の位置決め位置と、 目標とする位置決め位置との間に誤差が発生す る。この誤差を補償できれば、波動歯車減速機を備えたァクチユエータの位置決め 精度を向上させることができる。
[0006] 特許文献 1、 2には、波動歯車減速機の角度伝達誤差に起因する位置決め誤差を 補正して精度良く位置決めを行うァクチユエータの位置決め誤差補正方法が提案さ れている。特許文献 1では位置フィードバックに補正量を加えることにより、また、特許 文献 2では位置指令に補正量を加えることにより、位置決め精度の向上を図っている
[0007] し力 ながら、波動歯車減速機を備えたァクチユエータでは、波動歯車減速機の誤 差成分の影響によりァクチユエータ出力軸の回転速度に変動が生ずる。従来の位置 決め誤差補正方法では、このような回転速度の変動を抑制することができない。 特許文献 1 :特開 2002— 175120号公報
特許文献 2:特開 2003— 223225号公報
発明の開示
[0008] 本発明の課題は、この点に鑑みて、波動歯車減速機の角度伝達誤差に起因する ァクチユエータ出力軸の回転変動を効果的に抑制することのできるァクチユエータの 速度変動抑制方法を提案することにある。また、当該方法を採用したァクチユエータ の駆動制御装置を提案することにある。
[0009] 上記の課題を解決するために、本発明では、波動歯車減速機を備えたァクチユエ ータにおいて波動歯車減速機の角度伝達誤差に起因するァクチユエータ出力軸の 位置決め誤差を予め測定しておき、その速度制御のフィードバックループにおいて は、検出されたァクチユエータ出力軸の位置情報を位置決め誤差により補正した後 のものを用いて、当該ァクチユエータ出力軸の速度を演算し、これを速度フィードバッ ク値として用いるようにしている。あるいは、検出された位置情報から演算した速度を 、位置決め誤差に基づき補正したものを、速度フィードバック値として用いるようにし ている。
[0010] すなわち、本発明のァクチユエータの速度変動抑制方法では、モータ回転軸の一
回転の絶対位置を基準にして、ァクチユエータ出力軸の各回転角度位置における位 置決め誤差を測定して、前記モータ回転軸の各回転位置に対する前記ァクチユエ一 タ出力軸の誤差補正データを作成しておく。また、駆動制御時には、前記モータ回 転軸の回転位置を検出し、前記誤差補正データから、検出された回転位置に対して 割り当てられている誤差補正値を求め、当該誤差補正値を用いて前記回転位置を 補正して得られた値から前記モータ回転軸の速度を演算し、または、前記回転位置 から演算した前記モータ回転軸の速度を前記誤差補正値に基づき補正し、求まった 速度を、前記ァクチユエータ出力軸のフィードバック制御用の速度フィードバック値と して使用している。
[0011] ここで、本発明では、前記ァクチユエータ出力軸の位置決め誤差を、前記モータ回 転軸の一回転の絶対位置を基準にして、前記ァクチユエータ出力軸の少なくとも一 回転分測定して前記誤差補正データを作成してレ、る。
[0012] この場合、測定した各回転位置における位置決め誤差を平均して、前記モータ回 転軸一回転分の各回転位置に対する誤差補正値を表す誤差補正データを作成す ること力 Sできる。
[0013] また、前記誤差補正データは、前記モータ回転軸一回転分の各回転位置における 誤差補正情報としての補正ノ^レスのデータ歹 lj、あるいは、前記モータ回転軸一回転 分の各回転位置における誤差を表す近似式の係数列とすることができる。
[0014] 次に、本発明は、上記の方法により速度変動を抑制するァクチユエータの駆動制御 装置において、前記誤差補正データが記憶されている誤差補正データ記憶部と、前 記モータ回転軸に取り付けた位置検出器と、前記位置検出器により検出される前記 モータ回転軸の検出位置、および、前記誤差補正データに基づき、前記モータ回転 軸の速度を演算し、当該速度を、速度フィードバック値として用いて、前記ァクチユエ ータ出力軸を位置指令情報によって示される目標位置となるようにフィードバック制 御するフィードバック制御部とを有していることを特徴としている。
[0015] ここで、前記フィードバック制御部は、前記ァクチユエータ出力軸を速度指令情報 によって示される目標速度となるようにフィードバック制御するものであってもよい。
[0016] 本発明では、ァクチユエータのフィードバック制御に用いる速度フィードバック値は
、モータ回転軸の検出位置から演算された速度に、波動歯車減速機の角度伝達誤 差による速度成分が加えられたものである。したがって、当該速度をフィードバックさ せて速度制御を行うことにより、波動歯車減速機の角度伝達誤差に起因するァクチュ エータ出力軸の回転速度の変動を効果的に抑制することができる。
図面の簡単な説明
園 1]本発明を適用したァクチユエータの駆動制御装置の一例を示す概略ブロック図 である。
園 2]図 1の駆動制御装置における補正データの作成方法を説明するための表であ る。
[図 3]作成された補正データの対応テーブルを示す表である。
園 4]本発明を適用したァクチユエータの駆動制御装置の別の例を示す概略ブロック 図である。
符号の説明
1、 1A 駆動制御装置
2 ァクチユエータ
3 モータ
4 モータ回転軸
5 波動歯車減速機
6 位置検出器
7 ァクチユエータ出力軸
8 回転位置情報
11 フィードバック制御部
12 補正データ記憶部
13 位置制御部
14 速度制御部
15 速度演算部
16 電流アンプ部
C 誤差補正データ
θ ί 位置フィードバック値
ω ί 速度フィードバック値
Θ Γ 位置指令
ω τ 速度指令
Ir 電流指令
発明を実施するための最良の形態
[0019] 以下に、図面を参照して、本発明の方法を適用したァクチユエータの駆動制御装 置の一例を説明する。
[0020] 図 1は本例のァクチユエータの駆動制御装置を示す概略構成図である。この駆動 制御装置 1によって駆動される本例のァクチユエータ 2は、モータ 3と、モータ回転軸 4に連結された波動歯車減速機 5と、モータ回転軸 4の回転位置を検出可能な位置 検出器 6を備えている。波動歯車減速機 5の出力軸すなわちァクチユエータ出力軸 7 が負荷(図示せず)に連結されている。位置検出器 6はロータリエンコーダ、ポテンシ ョメータ等の絶対位置を検出可能な位置検出器である。
[0021] ァクチユエータ 2の駆動を制御する駆動制御装置 1は、ァクチユエータ 2を、上位機 器の側からの位置指令 Θ rによって示される目標位置となるようにフィードバック制御 するフィードバック制御部 1 1と、波動歯車減速機 5の角度伝達誤差に起因する位置 決め誤差を表す補正データ Cが記憶されている誤差補正データ記憶部 12を有して いる。フィードバック制御部 1 1では、位置制御部 13において、位置指令 Θ rと位置検 出器 6からの位置フィードバック値 Θ fの差に基づき速度指令 c rを演算して速度制 御部 14に供給する。速度制御部 14では、速度指令 co rと、速度演算部 1 5から供給さ れる速度フィードバック値 c fとの差に基づき電流指令 Irを演算して、電流アンプ部 1 6に供給する。電流アンプ部 16を介してモータ駆動電流がモータ 3に供給される。
[0022] ここで、速度演算部 15では、補正データ Cに基づき、位置検出器 6から供給される 位置フィードバック値 Θ fを補正し、補正後の値から速度フィードバック値 co fを演算し ている。例えば、位置フィードバック値 Θ fに対して補正データ Cを減算あるいは加算 して補正値を求め、補正値から速度フィードバック値 co fを演算している。この場合の 速度演算式は次の通りである。なお、 A tはサンプリング周期である。
ω f = ( ( Θ f (t) + C (t) ) - ( Θ f (t - 1 ) + C(t - 1 ) ) ) / Δ t
[0023] (補正データ)
本例の補正データ Cは次のようにして作成されたものである。まず、ァクチユエータ 2におけるモータ回転軸 4の位置決め誤差は、これが連結されている波動歯車減速 機 5の減速によって、当該減速機 5の減速比分の一に圧縮される。例えば、波動歯車 減速機 5の速比が 50あるいは 100の場合には、モータ自体の位置決め誤差は 1/5 0、あるいは 1/100に圧縮される。従って、ァクチユエータ 2の位置決め誤差は、主と して波動歯車減速機 5の角度伝達誤差に起因するので、当該ァクチユエータ 2の一 方向位置決め精度は波動歯車減速機 5の角度伝達誤差によって決まることになる。
[0024] 一方向位置決め精度とは、一定方向の回転方向で次々に位置決めを行い、それ ぞれの位置で、基準位置から実際に回転した角度と回転すべき角度との差を求め、 これらの値の 1回転中における最大値を表わすものである。
[0025] 本例では、ァクチユエータ 2の一方向位置決め精度、すなわちァクチユエータ 2の 位置決め誤差を、モータ回転軸 4の絶対位置を基にして、ァクチユエータ出力軸 7の 一回転分測定する。例えば、波動歯車減速機 5の速比が 1/50の場合には、モータ 回転軸 4が 50回転すると出力軸 7がー回転することになる。
[0026] この位置決め誤差を、例えば図 2に示すように、位置検出器 6の出力に基づき、モ ータ回転軸 4が 3° 回転する毎に測定する。この場合には、測定ポイントはモータ回 転軸 4については 120ポイント(360° /3° )であり、ァクチユエータ出力軸 7では、 1 20ポイント X (速比)分になる。
[0027] なお、測定するデータは、一方向位置決め精度の代わりに、波動歯車減速機の角 度伝達精度を用いても実質的に同様である。また、測定は出力軸 7の一回転分だけ でなぐ一回転以上に亘つて測定してもよいことは勿論である。
[0028] 次に、図 2の表における最下行に示すように、各測定ポイントの誤差データ、例えば 120箇所の誤差データをそれぞれ平均化して、モータ回転軸 4の一回転分の補正デ ータ Cを作成する。
[0029] 作成した補正データ Cの形式は、モータ回転軸 4の一回転分における各回転角度 位置に対する誤差補正用の補正パルス数とすることができる。例えば、図 3に示すよ
うに、上記のように 3° 毎に測定された補正パルス数を、モータ回転軸 4の 3° 毎の回 転位置に割り当てた対応テーブルとすることができる。
[0030] この代わりに、モータ回転軸 4の一回転分の補正データをフーリエ級数展開して近 似曲線を求め、当該近似曲線を表わすフーリエ級数の各係数を補正データ Cとして 記憶保持するようにしてもよい。この場合には、駆動制御装置 1の駆動電源をオンし た後の初期化処理において、記憶保持している係数を近似式に当てはめて補正デ ータを算出して、図 3に示すような補正パルスのデータ列を作成すればよい。
[0031] 以上説明したように、本例のァクチユエータの駆動制御装置 1においては、予め、 波動歯車減速機 5の角度伝達誤差に起因する位置決め誤差を測定し、モータ回転 軸 4の各回転位置における位置決め誤差を表す補正データ Cを作成しておき、モー タ制御用のフィードバック制御ループにおいては、モータ回転軸 4の絶対位置に基 づき、補正データ Cから該当する回転位置の誤差補正値を求め、この誤差補正値を 加味して、速度フィードバック値 co fを演算し、当該速度フィードバック値 co fを用いて モータ駆動制御用の電流指令 Irを演算するようにしている。したがって、演算された 速度フィードバック値には、モータ回転軸 4の回転速度に波動歯車減速機 5の角度 伝達誤差に起因する速度成分が加えられており、当該速度をフィードバックとして速 度制御を行うことにより、波動歯車減速機 5の角度伝達誤差に起因するァクチユエ一 タ出力軸 7の回転速度の変動を効果的に抑制できる。
[0032] ここで、本例では、上位機器からの位置指令 Θ rに基づきフィードバック制御を行つ ているが、上位機器からの速度指令 co rに基づきフィードバック制御を行うようにして あよい。
[0033] 図 4は、この場合のァクチユエータの駆動制御装置の例を示す概略構成図である。
この図に示すように、この駆動制御装置 1Aは、位置制御部 13が省略されており、そ れ以外の構成は駆動制御装置 1と同一である。したがって、図においては対応する 部位に同一の符号を付してある。この構成によっても、上記の駆動制御装置 1と同様 な作用効果が得られる。