明 細 書
自動車用電線
技術分野
[0001] 本発明は、自動車用電線に関し、特に、引張強度の向上と細径化の要求に応える ことができる自動車用電線に関する。
背景技術
[0002] 自動車にお 、ては、電装品等への電気的接続のために多数の電線を束ねたワイ ャハーネスが使用されている。このワイヤハーネスに用いられる電線の中には、複数 本の素線を撚り合わせた撚線構造の導体を有するものがある。この種の電線で典型 的なものの導体 (素線集合体)を図 1に示す。図中 1が導体であり、単一の中心素線 2 の周りに 6本の周辺素線 3を一重にかつ互 、に密着配置して撚り合わせた撚線構造 となっている。従来、このような撚線構造の導体を構成する中心素線 2及び周辺素線 3には、いずれも銅又は銅合金が使用されているのが一般的であった。また、中心素 線 2及び周辺素線 3の径寸法は、いずれも同径のものが使用されていた。さらに、導 体の断面積としては、自動車室内において用いられる場合は公称断面積 0. 35mm2 程度、エンジンルーム内において用いられる場合は、公称断面積 0. 50mm2程度の 電線が一般的であった。
[0003] 一方、近年、自動車用電線には、引張強度の向上と細径化に対する要求がますま す高まっている。しかし、前記の図 1の電線の場合、引張強度を向上させるには、導 体径を太くする必要があり、細径ィ匕の要求と両立させることができな力つた。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0004] 本発明は、前記の実情の下に、同じ導体径の場合においては、高い引張強度が得 られ、導体径を小さくした場合でも、従来の自動車用電線の引張強度が維持でき、さ らに導体の細径化の程度によっては、従来以上の弓 I張強度が得られる自動車用電 線を提供することをその課題とする。
[0005] 本発明者は、鋭意検討の結果、中心素線にステンレス鋼を用いることにより、引張
強度の向上が実現できること、
中心素線と導体の断面積の関係を適切な関係にすることにより、限界に近づきつつ ある細径ィ匕の要求に対しても、屈曲破断を防止しながら、引張強度を確保することが できること、さらに、
中心素線の径寸法を周辺素線の径寸法より大きくするとともに、導体としては圧縮導 体を用い、圧縮導体の圧縮前の断面積力 圧縮後の断面積への圧縮率を適切な範 囲にすることにより、より細径ィ匕に応えることができるとともに、周辺素線が中心素線よ り先に破断することによる発熱の問題を解決でき、優れた衝撃破断荷重を維持できる ことを見出し、本発明を完成させるに至った。
課題を解決するための手段
[0006] 請求項 1に記載の発明は、
ステンレス鋼力 なる単一の中心素線の周囲に、前記中心素線を包囲するように銅 又は銅合金力 なる複数の周辺素線を一重にかつ互いに密着配置してなる圧縮さ れた導体を有する自動車用電線であって、
前記導体の断面積が、 0. 10〜0. 30mm2であり、
かつ、下記式で表わされる前記導体の断面積に対する前記中心素線の断面積の比 率 Cが、 19. 6〜33. 3%であることを特徴とする自動車用電線である。
導体の断面積に対する中心素線の断面積の比率 C= {A/ (A+B) } X 100[%] ( 但し、上記式中、 Aは中心素線の断面積、 Bは周辺素線の断面積の合計である。 ) [0007] 又、請求項 2に記載の発明は、
ステンレス鋼力 なる単一の中心素線の周囲に、前記中心素線を包囲するように銅 又は銅合金力 なる 7本以上の周辺素線を一重にかつ互いに密着配置してなる圧 縮された導体を有する自動車用電線であって、
前記中心素線の径寸法が、前記周辺素線の径寸法より大きぐ
前記導体の断面積が、 0. 10〜0. 30mm2であり、
かつ、前記導体の圧縮前の断面積から、圧縮後の断面積への圧縮率が、 5〜20% であることを特徴とする自動車用電線である。
発明の効果
[0008] 本発明の自動車用電線は、今日の自動車用電線に求められる細径化と引張強度 向上の要求を実用上の限界に近い範囲において満足させた自動車用電線である。 又、前記比率 Cを前記の範囲内とした自動車用電線 (請求項 1の発明)は、満足でき る屈曲性も有している。さらに、前記圧縮率を前記の範囲内とした自動車用電線 (請 求項 2の発明)は、周辺素線が中心素線より先に破断することによる中心素線の発熱 の問題を防ぐことができる。
図面の簡単な説明
[0009] [図 1]従来の撚線構造 (非圧縮導体)の自動車用電線導体の断面図である。
[図 2]本発明による自動車用電線導体の構成例における圧縮前、圧縮後および絶縁 被覆後の状態を示す断面図である。
[図 3]本発明による自動車用電線導体の圧縮前の状態を示す断面図である。
[図 4]屈曲試験の状況を示す概念図である。
[図 5]ステンレス鋼線についての圧縮率と引張強度の変化率との関係を示すグラフ図
[図 6]ステンレス鋼線についての圧縮率と破断伸びとの関係を示すグラフ図。
[図 7]ステンレス鋼線についての圧縮率の変化に伴う引張距離と破断荷重との関係を 示すグラフ図。
[図 8]導体の圧縮率の変化に伴う引張距離と破断荷重との関係を示すグラフ図。 符号の説明
[0010] 1、 21 導体
2、 22 中心素線
3、 23 周辺素線
4 分銅
5 マンドレル
発明を実施するための最良の形態
[0011] 次に、本発明を実施するための形態を示すが、これらの形態は、例示的なものであ つて、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の趣旨を損なわない範囲内で 、これらの形態を、種々変更し、又種々の置換等をカ卩えることができる。
[0012] 前記発明においては、中心素線として、ステンレス鋼が用いられているため、従来 の銅又は銅合金が用いられた電線より高い引張強度を得ることができる。
[0013] また、中心素線、周辺素線よりなる導体として圧縮された導体が用いられているた め、導体の細径ィ匕を効率的に実現することができる。
[0014] また、導体の断面積は、小さ過ぎると、中心素線にステンレス鋼を用いても、充分な 引張強度が得られず、大き過ぎると、細径ィ匕の要求に応えることができず、さらに、屈 曲性を低下させる原因となる。このような観点カゝら導体の断面積は、 0. 10-0. 30m m2が好ましい。
[0015] 本発明では、導体の断面積に対する中心素線の断面積の比率 C力 19. 6%以上 にされているため(請求項 1の発明)、または、中心素線の径が周辺素線の径より大き くされているため(請求項 2の発明)、導体の断面積 0. 10-0. 30mm2の電線に対し ても満足できる引張強度を得ることができる。又、比率 Cが、 19. 6%以上の請求項 1 の発明では、 自動車用電線において重要視されている端子固着部における引張強 度 (以下、端子固着力という。)を得ることができる。
[0016] 一方、導体の断面積に対する中心素線の断面積の比率 Cを大きくし過ぎると、屈曲 性が悪くなることが分力つた。しかし、比率 Cを 33. 3%以下にすることにより、屈曲破 断が生じにくぐ満足できる屈曲性を得ることができる。
[0017] 次に、導体の引張強度の向上と細径ィ匕を満足させられることができても、中心素線 にステンレス鋼を用いているため新たな問題点があることが分力つた。この問題は、 特に、中心素線の径が周辺素線の径より大きいとき(即ち、請求項 2の発明の場合) 顕著になる。
[0018] 即ち、電線に過大な応力が力かった場合において、導電率が高い銅又は銅合金 力もなる周辺素線力 導電率の低いステンレス鋼力もなる中心素線より先に破断した 場合、導電率の低い中心素線が発熱し、安全性の問題が生じる場合がある。このた め、過大な応力が力かった場合でも、中心素線が周辺素線より先に破断することが 望ましぐ特に請求項 2の発明の場合その必要性が高いことが分力つた。
[0019] そして、これに対応するためには、導体の圧縮前の断面積から圧縮後の断面積へ の圧縮率が重要であるとの知見を得、実験により、前記範囲、即ち、圧縮率を 5%以
上にする必要があることが分力つた。
[0020] これにより、前記導体断面積の範囲において、所定の引張強度を得ながら、導体に 大きな応力が力かった場合でも、導体破断前に中心素線が周辺素線より先に破断し 、発熱問題が生じることなく信頼性の高 、電線を得ることができる。
[0021] 一方、圧縮率を大きくし過ぎると、衝撃破断荷重が小さくなる。自動車用電線にお いては、前記の導体の断面積の範囲においては、圧縮率を 20%以下にすることによ り、必要とされる衝撃破断荷重の 5N以上を実現させることができることが分力つた。な お、導体の圧縮は、圧縮ダイスによる圧縮が好ましい。
[0022] また、前記発明においては、周辺素線を中心素線の周囲に一重のみ配置させてい るため、周辺素線を中心素線に対して安定して配置させることができる。
[0023] 限界ぎりぎりまで導体の細径ィ匕を行なうと、大きな衝撃荷重に耐えることができなぐ 一方、細径ィ匕を充分進めない場合には、今日の自動車における高度の電子化に対 応できる配線本数を満たすことが出来ない。これらを考慮すると、請求項 1の発明及 び請求項 2の発明いずれの場合でも、実用上好ましい導体断面積は、 0. 13〜0. 2 5mm2である。請求項 1の発明においては、導体断面積が 0. 13〜0. 25mm2であ り、導体の断面積に対する中心素線の断面積の比率 Cが 19. 6〜29. 1%の場合が より好まし 、。
[0024] 請求項 3に記載の発明は、このより好ましい態様に該当するものであり、
前記導体の断面積が、 0. 13〜0. 25mm2であり、
かつ、前記導体の断面積に対する前記中心素線の断面積の比率 C力 19. 6〜29 . 1%であることを特徴とする請求項 1に記載の自動車用電線である。
[0025] 又、請求項 4に記載の発明は、請求項 2の発明におけるこの好ましい態様に該当す るものであり、前記導体の断面積が、 0. 13〜0. 25mm2であることを特徴とする請求 項 2に記載の自動車用電線である。
[0026] 引張強度、衝撃荷重および屈曲性を考慮しながら、導体の細径化を最も推し進め た場合、自動車室内において用いられる場合の実用的に最適の導体の断面積は、 請求項 1の発明及び請求項 2の発明いずれの場合でも、公称断面積において 0. 13 mm2である。そして、請求項 1の発明においては、導体断面積が 0. 13mm2であり、
導体の断面積に対する中心素線の断面積の比率 Cが 24. 5〜29. 1%の場合がさら に好ましい。
[0027] 請求項 5に記載の発明は、このさらに好ましい態様に該当するものであり、
前記導体の断面積が、公称断面積において 0. 13mm2であり、
かつ、前記導体の断面積に対する前記中心素線の断面積の比率 C力 24. 5〜29
. 1%であり、さらに自動車室内において用いられることを特徴とする請求項 1に記載 の自動車用電線である。
[0028] 又、請求項 6に記載の発明は、請求項 2の発明におけるこのさらに好ましい態様に 該当するものであり、
前記導体の断面積が、公称断面積において 0. 13mm2であり、さらに自動車室内 において用いられることを特徴とする請求項 2に記載の自動車用電線である。
[0029] 前記と同様に、引張強度、衝撃荷重および屈曲性を考慮しながら、導体の細径ィ匕 を最も推し進めた場合、エンジンルーム内において用いられる場合の実用的に最適 の導体の断面積は、請求項 1の発明及び請求項 2の発明いずれの場合でも、公称断 面積において 0. 22mm2である。そして、請求項 1の発明においては、導体断面積が 0. 22mm2であり、導体の断面積に対する中心素線の断面積の比率 Cが 24. 5〜29 . 1%の場合がさらに好ましい。
[0030] 請求項 7に記載の発明は、このさらに好ましい態様に該当するものであり、
前記導体の断面積が、公称断面積において 0. 22mm2であり、
かつ、前記導体の断面積に対する前記中心素線の断面積の比率 C力 24. 5〜29 . 1%であり、さらにエンジンルーム内において用いられることを特徴とする請求項 1 に記載の自動車用電線である。
[0031] 又、請求項 8に記載の発明は、請求項 2の発明におけるこのさらに好ましい態様に 該当するものであり、
前記導体の断面積が、公称断面積において 0. 22mm2であり、さらにエンジンルー ム内において用いられることを特徴とする請求項 2に記載の自動車用電線である。
[0032] 図 2は、本発明による自動車用電線の一構成例における導体の圧縮前、圧縮後、 絶縁被覆後の状態を断面図で示すもので、周辺素線が 8本の例である。また、図 3は
、周辺素線が 7本の例で導体の圧縮前の状態を示す断面図である。
[0033] 図 3において、 21は圧縮前の導体 (素線の集合形態)で、ステンレス鋼力 なる単 一の中心素線 22の周囲に、銅又は銅合金力もなる 7本の周辺素線 23がー重に周方 向に密着配置され、撚り合わされ撚線構造となっており、中心素線 22の断面積は、 導体 21の断面積と所定の関係が成立するように設定されている。又は、中心素線 22 の径寸法は周辺素線 23の径寸法より大きく設定されて 、る。このような素線の集合 形態を例えば圧縮ダイス等を用いて中心方向に圧縮して圧縮導体とする。そして、こ の圧縮導体の周りに直接又はシールド層を介して絶縁被覆を設けて、自動車用電線 とする。
[0034] 図 1の通常の自動車用電線では、中心素線の周りに同じ断面積の周辺素線を 6本 一重に密着配置した構成をとるが、本発明の自動車用電線では、中心素線の断面 積を導体の断面積と所定の関係に設定する関係から、周辺素線の本数を 7本以上に 設定することが好ましい。中心素線の径寸法が周辺素線の径寸法より大きい場合は 、 7本以上に設定される。この場合、周辺素線の本数は 7本以上であれば適宜の数 に設定できる力 生産性の観点からは、 7〜: LO本がより好ましぐ 8本が特に好ましい
[0035] 本発明の自動車用電線の中心素線に使用されるステンレス鋼としては、各種のもの が使用可能であるが、特に引張強度が大きい SUS304、 SUS316 (いずれも日本ェ 業規格)等が好ましい。
[0036] また、周辺素線に使用される銅又は銅合金は、通常電線に使用される各種のタイ プのものが使用できる力 導電性、引張強度、伸び等の観点から純銅、 Cu-Ni-Si 合金、 Cu— Sn合金、 Cu— Cr— Zr合金等が好ましい。
[0037] 本発明の自動車用電線は、ワイヤハーネス用電線として用いることを考慮した場合 、導体に求められる引張破断荷重は、自動車室内用の場合は、 62. 5N以上、ェン ジンルーム用の場合は、 100N以上であることが好ましい。同じぐ端子固着力につ いては、自動車室内用の場合は、 50N以上、エンジンルーム用の場合は、 70N以上 が好ましい。
[0038] 次に、導体の断面積に対する中心素線の断面積の比率 Cの適正な範囲を求める
ため、種々の条件における導体の引張破断荷重、端子固着力、屈曲破断回数を求 めた。
[0039] 実験においては、中心素線として、引張破断強度 940MPaの SUS304を、周辺素 線として、引張破断強度 230MPaの純銅を用い、圧縮率 10〜 15%で圧縮した導体 を用いた。
[0040] 端子固着力については、導体が抜けない様に端子を力しめて導体を固着した後、 端子を固定し、導体他端を引張り、端子固着部で導体が破断した時の引張破断荷 重を測定した。
[0041] また、屈曲破断試験は、以下に従った。
[0042] 即ち、 23°Cの恒温槽中において、図 4に示す様に、導体の下端に重さ 500gの分 銅 4を吊るし、 R= 6mmの円筒状のマンドレル 5で導体を挟み、マンドレル 5の外周 部に沿って導体を左側に 90° 、右側に 90° 屈曲させ、一往復を屈曲回数 1回として 、導体が破断するまでの屈曲回数を測定した。
実験の結果を、表 1に示す。
[0043] [表 1]
表 1より、断面積 0. 14mm
2の導体の場合、自動車室内用の好ましい引張破断荷 重 62. 5N、端子固着力 50Nを実現するためには、比率 Cは 24. 5%以上必要であ
ることが分力ゝる。
[0045] また、断面積 0. 25mm2の導体の場合、エンジンルーム用の好ましい引張破断荷 重 100N、端子固着力 70Nを実現するためには、比率 Cは 19. 6%以上必要である ことが分力ゝる。
[0046] 導体の屈曲破断回数は、 150回以上、好ましくは 250回以上必要とされており、こ の値を越えさせるためには、比率 Cは、導体の断面積 0. 14mm2の場合には、 40. 6 %、導体の断面積 0. 25mm2の場合には、 24. 5%以下にする必要があることが分 かる。
[0047] 自動車用電線としての最終製品には、導体の周りに絶縁被覆が設けられるが、そ の絶縁被覆としては、従来使用されているポリ塩ィ匕ビュル (PVC)、ポリエチレン (発 泡系を含む)、ハロゲンフリー材、テトラフロロエチレン等の各種榭脂材料を用いるこ とができる。絶縁被覆の厚さは導体の仕上外径に応じて適宜設定される。
[0048] また、シールド層を設ける場合には、従来公知のシールド効果を有する各種材料が 使用できる。
[0049] 以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるもの ではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施例に対して種々 の変更をカ卩えることが可能である。
[0050] (実施例 1)
圧縮前の中心素線として断面積 0. 0314mm2,引張破断強度 957MPaの SUS3 04を用いると共に、圧縮前の周辺素線として断面積 0. 1321mm2,引張破断強度 2 40MPaの純銅を用い、中心素線に周辺素線を 7本一重に密着配置した後、ダイス により圧縮を行い、その後、ハロゲンフリー材 (ォレフイン系)を被覆材として用い、押 し出し成形で絶縁被覆して本発明による自動車用電線を得た。得られた電線の中心 素線の断面積は 0. 0274mm2であり、導体の断面積は 0. 14mm2であり、導体の断 面積に対する中心素線の断面積の比率 Cは、 19. 6%であった。また、引張破断荷 重は 59Nであり、端子固着力は 47Nであり、屈曲破断回数は 1186回であった。
[0051] (実施例 2)
圧縮前の中心素線として断面積 0. 0398mm2,引張破断強度 949MPaの SUS3
04を用いると共に、圧縮前の周辺素線として断面積 0. 1231mm2,引張破断強度 2 45MPaの純銅を用い、中心素線に周辺素線を 8本一重に密着配置した後、ダイス により圧縮を行い、その後、ハロゲンフリー材 (ォレフイン系)を被覆材として用い、押 し出し成形で絶縁被覆して本発明による自動車用電線を得た。得られた電線の中心 素線の断面積は 0. 0343mm2であり、導体の断面積は 0. 14mm2であり、導体の断 面積に対する中心素線の断面積の比率 Cは、 24. 5%であった。また、引張破断荷 重は 65Nであり、端子固着力は 52Nであり、屈曲破断回数は 906回であった。
[0052] 次に、所定の引張強度を確保しながら、導体に大きな応力が力かった場合でも、導 体破断前に中心素線が周辺素線より先に破断し、発熱問題が生じることなく信頼性 の高!、電線を得るために、導体の圧縮前の断面積から圧縮後の断面積への圧縮率 を 5%以上にすることについて説明する。
[0053] はじめに、中心素線に用いるステンレス鋼線について、圧縮率と引張強度の変化 率の関係を求めた。線径、材質を変えて行なったが、いずれも同じ傾向を示した。図 5に直径 0. 225mmの SUS 304を用いた場合の実験結果を示す。
[0054] 図 5より、圧縮率の増加に伴い、引張強度の変化率が、図 5の領域においては、比 例して増加して 、ることが分力つた。
[0055] 次に、ステンレス鋼線について、圧縮率と破断伸びの変化率の関係を求めた。線 径、材質を変えて行なった力 いずれも同じ傾向を示した。図 6に直径 0. 225mmの SUS304を用いた場合の実験結果を示す。図 6においては、試料 200mmについて の、破断するまでの引張距離を破断伸びとして表わした。
[0056] 図 6より、圧縮率の増加に伴い、破断伸びの変化率が低下すること、さらに圧縮率 が大きいほど圧縮率の変化による破断伸び変化率が小さいことが分力つた。
[0057] 以上の知見を背景に、圧縮率の変化に伴うステンレス鋼線の破断荷重と引張距離 の関係を求めた。結果を図 7に示す。図 7においては、圧縮率を加工硬化率として示 した。また、横軸の引張距離は試料 200mmについての引張距離を示す。
[0058] 図 7より、圧縮率 (加工硬化率)が 5%の場合、引張距離 40mmにおいて、周辺素 線として用いる銅は破断して 、な 、が、ステンレス鋼線が破断して 、ることが分かる。 このことにより、少なくとも圧縮率を 5%とすることにより、発熱問題、即ち、周辺素線が
先に破断し、中心素線のみが残留して、発熱が生じるという問題を防止することがで きることが分力ゝる。
[0059] 次に、衝撃破断荷重の面力も圧縮率を 20%以下にすることについて説明する。
[0060] まず、導体の破断荷重と引張距離の関係を求めた。
実験は、圧縮後の直径 0. 210mmの SUS304ステンレス鋼線を中心素線として、 圧縮後の直径 0. 133mmの純銅 8本を周辺素線として用い、本発明の構造の導体 を作製して試料とした。試料について、加工硬化率 (圧縮率) 5%、 10%、 15%、 20 %で加工硬化させ、加工硬化後の試料について、チャック距離 200mm、引張速度 1 OOmmZminの条件で、導体の破断荷重を測定した。なお、本実験においては、中 心素線の破断をもって、導体の破断として測定した。結果を図 8に示す。
次に、図 8の結果に基づいて、 SSチャートにより、破断エネルギーを求め、この結 果につ ヽて衝撃破断荷重を求めた。得られた結果を表 2に示す。
[0061] [表 2]
[0062] 自動車用電線において必要とされる衝撃破断荷重は 5Nとされている。このため、 表 2より圧縮率を少なくとも 20%以下にすることにより、衝撃破断荷重を満足させるこ とができることが分力ゝる。
[0063] (実施例 3)
圧縮前の中心素線として断面積 0. 0314mm2,引張破断強度 957MPaの SUS3 04を用いるとともに、圧縮前の周辺素線として断面積 0. 1321mm2,引張破断強度 240MPaの純銅を用い、周辺素線を 7本一重に密着配置した後、ダイスにより圧縮 率 10%で圧縮を行い、断面積 0. 14mm2の導体を得、その後、ハロゲンフリー材 (ォ レフイン系)を被覆材として用い、押し出し成形で絶縁被覆して本発明による自動車
用電線を得た。得られた電線の引張破断荷重は 68Nであり、導体の破断荷重は 59 N、衝撃破断荷重は 1 INであった。
(実施例 4)
圧縮前の中心素線として断面積 0. 0398mm2,引張破断強度 949MPaの SUS3 04を用いるとともに、圧縮前の周辺素線として断面積 0. 1231mm2,引張破断強度 245MPaの純銅を用い、周辺素線を 8本一重に密着配置した後、ダイスにより圧縮 率 10%で圧縮を行い、断面積 0. 14mm2の導体を得、その後、ハロゲンフリー材 (ォ レフイン系)を被覆材として用い、押し出し成形で絶縁被覆して本発明による自動車 用電線を得た。得られた電線の引張破断荷重は 74Nであり、導体の破断荷重は 65 N、衝撃破断荷重は 13Nであった。