明 細 書
マルチチャンネルシステム同定装置
技術分野
[0001] この出願に係る発明は、特性が未知である複数の伝搬路が組み合わされることによ つて構成されるマルチチャンネル系を同定する、マルチチャンネルシステム同定装置 に関する。
背景技術
[0002] 図 laはマルチチャンネル系(マルチチャンネルシステム)のモデル図である。図 la に示されるマルチチャンネル系は、マルチチャンネル系のなかでも、その構造が最も 簡単な、 2の入力チャンネルと 2の出力チャンネルとを有する系である。
[0003] 図 laにおいて、 X1はマルチチャンネル系の 1番目の入力チャンネルに入力される 入力信号、 X2は 2番目の入力チャンネルに入力される入力信号、 Y1はマルチチャン ネル系の 1番目の出力チャンネルに出力される出力信号、 Y2は 2番目の出力チャン ネルに出力される出力信号、 N1は 1番目の出力チャンネルに混入される外乱信号、 N2は 2番目の出力チャンネルに混入される外乱信号である。
[0004] また、 h11は 1番目の入力チャンネルから 1番目の出力チャンネルまでの伝播路のィ ンパルス応答、 h12は 1番目の入力チャンネルから 2番目の出力チャンネルまでの伝 播路のインパルス応答、 h22は 2番目の入力チャンネルから 2番目の出力チャンネルま での伝播路のインパルス応答、 h21は 2番目の入力チャンネルから 1番目の出力チヤ ンネルまでの伝播路のインパルス応答である。
[0005] 例えば、左右のスピーカと左右のマイクロホンを含む音響空間もマルチチャンネル 系の一種である。図 laがこのような音響空間を示しているとすれば、 X1は右チャンネ
J
ルのスピーカ出力信号、 X2は左チャンネルのスピーカ出力信号、 Y1は右チャンネル j j
のマイクロホン出力信号、 Y2は左チャンネルのマイクロホン出力信号、 N1は右チャン
j j ネルのマイクロホンに混入する外乱信号 (近端話者音声を含む)、 N2は左チャンネル j
のマイクロホンに混入する外乱信号であると考えることもできる。
[0006] 図 laに示されるように、マルチチャンネル系ではその出力側において各伝播路の
信号が混合される。
[0007] このようなマルチチャンネル系を同定するための同定装置力 従来より提案されて いる。このような同定装置は、例えば、マルチチャンネル能動騒音制御やステレオェ コーキャンセラに適用される。
[0008] マルチチャンネルシステム同定装置はマルチチャンネル系の個々の伝搬路を同定 する。マルチチャンネルシステム同定装置がマルチチャンネル系の個々の伝播路を 同定する際には、他の伝播路からの信号が外乱として作用する。この外舌しは、同定 の精度を低下させる。また、入力信号 X1と入力信号 X2の間に相関がある場合、この
J J
相関が、同定装置の同定性能を劣化させる。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0009] 本願発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、マルチチャンネル系に外乱 信号が混入する場合でも高い精度でマルチチャンネル系を同定することができるマ ルチチャンネルシステム同定装置を提供すること、および、各伝播路に入力される入 力信号間に相関がある場合にも同定性能が劣化しないようなマルチチャンネルシス テム同定装置を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0010] 上記課題を解決するために、この出願発明に係るマルチチャンネルシステム同定 装置は、複数の入力チャンネルと複数の出力チャンネルとを有するマルチチャンネ ル系を同定する、マルチチャンネルシステム同定装置であって、該マルチチャンネル 系の入力チャンネルと出力チャンネルとに接続することができる接続部と、該マルチ チャンネル系の各入力チャンネルから各出力チャンネルに至るインパルス応答をそ れぞれ模擬する係数更新可能な FIRフィルタと、該接続部から取得した信号に基づ レ、て同定誤差が最小となるように第 1適応アルゴリズムによって該 FIRフィルタの係数 を更新する係数更新部とを備え、該第 1適応アルゴリズムにおいて、 n番目の入力チ ヤンネルから m番目の出力チャンネル至る時刻 j + 1における FIRフィルタの係数べク トル!!腿 力 時刻 jにおける係数ベクトル H腿に更新ベクトルを加算することによって i+i i
作成され、該更新ベクトルは、分子ベクトルを正規化分母で除し、ステップサイズを乗
ずることによって作成され、該分子ベクトルは、第 2ベクトルに、 m番目の出力チャン ネルにおける同定誤差 Emを乗ずることによって、作成され、該正規化分母は、第 1ベ タトルと第 2ベクトルとの内積の、入力チャンネルについての累積加算値に基づいて 定められ、該第 1ベクトルは、各入力チャンネルの入力信号ベクトル Xnであり、該第 2 ベクトルは、各入力チャンネルの入力信号ベクトル Xnに基づいて定められるべクトノレ である。
[0011] 上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、該正規化分母が該累積加算 値であってもよい。
[0012] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、該第 1適応アルゴリズム 力 ブロック実行型の適応アルゴリズムに修正されたものであってもよい。
[0013] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、該正規化分母が所定値 に達するまでブロック長が延長され、該正規化分母が該所定値に達したときに該係 数ベクトル Hnmが更新されるようにしてもょレ、。
j
[0014] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、該第 2ベクトルが、各入 力チャンネルの入力信号ベクトル X"であってもよい。
[0015] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、該第 2ベクトルは、各入 力チャンネルの入力信号ベクトル X".を、他の入力チャンネルの入力信号ベクトルとの 相互相関成分が少なくなるように修正することによって得られるベクトル Χ'πであっても よい。
[0016] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、該第 2ベクトルが、各入 力チャンネルの入力信号ベクトル Χηを、相関低減係数 rを用いた次の式 (1)に従って 修正することによって得られるベクトル X'nであってもよい。
[0017] [数 1]
Χ/' = Χ - ∑ in 式 (1 )
[0018] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、相関低減係数 r力 ^(0)か
ら r(T)まで用意され、該第 2ベクトルが、各入力チャンネルの入力信号ベクトル X"を、 相関低減係数 r(t)を用いた次の式 (2)に従って修正することによって得られるベクトル X'nで'あってもよい。
[0019] [数 2]
Χ" ~ f ( Z
→ 式 (2 )
[0020] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、相関低減係数 rが第 2適 応アルゴリズムによって更新され、該第 2適応アルゴリズムにおいて、参照信号として 各入力チャンネルの入力信号ベクトル Xnが用いられ、 X'nが最小化されるように、相 関低減係数 rが更新されるようにしてもょレヽ。
[0021] また、本願発明のもうひとつのマルチチャンネルシステム同定装置は、複数の入力 チャンネルと複数の出力チャンネルとを有するマルチチャンネル系を同定する、マル チチャンネルシステム同定装置であって、該マルチチャンネル系の入力チャンネルと 出力チャンネルとに接続することができる接続部と、該マルチチャンネル系の各入力 チャンネルから各出力チャンネルに至るインパルス応答をそれぞれ模擬する係数更 新可能な FIRフィルタと、該接続部から取得した信号に基づレ、て同定誤差が最小と なるように第 1適応アルゴリズムによって該 FIRフィルタの係数を更新する係数更新部 とを備え、該第 1適応アルゴリズムにおいて、 n番目の入力チャンネル力 m番目の出 力チャンネル至る時亥 ijj + lにおける FIRフィルタの係数べクトノレ Hnm 、時亥 ijjにお ける係数べ外ル Hnmに更新べクトノレを加算することによって作成され、該更新べタト ノレは、分子ベクトルを正規化分母で除し、ステップサイズを乗ずることによって作成さ れ、該分子ベクトルは、第 2ベクトルに、 m番目の出力チャンネルにおける同定誤差 E mを乗ずることによって、作成され、該正規化分母は、第 1ベクトルと第 2ベクトルとの 内積であり、該第 1ベクトルは、各入力チャンネルの入力信号ベクトル Xnであり、該第 2ベクトルは、相関低減係数 rを用いた次の式 (3)に従レ、、各入力チャンネルの入力信 号ベクトル Xnを、他の入力チャンネルの入力信号ベクトルとの相互相関成分が少なく
なるように修正することによって得られるベクトル X' であり、該相関低減係数 rが第 2 適応アルゴリズムによって更新され、該第 2適応アルゴリズムにおいて、参照信号とし て各入力チャンネルの入力信号ベクトル Xnが用いられ、該式 (3)式の X'nが最小化さ れるように、該相関低減係数 rが更新される。
[数 3]
式 ( 3 )
[0023] 上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、 pをステップサイズとしたとき 、時刻】における相関低減係数 rが、次の式 (4)で示される第 2適応アルゴリズムに従つ て、時刻 j + 1における相関低減係数 r に更新されるようにしてもよい。
]+1
[0024] [数 4]
[0025] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、 pをステップサイズとし たとき、時刻 jにおける相関低減係数 rが、次の式 (5)で示される第 2適応アルゴリズム
J
に従って、時刻 j + 1における相関低減係数 r に更新されるようにしてもよい。
]+1
[0026] [数 5]
+ 式 (5 )
[0027] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、該第 2適応アルゴリズム がブロック実行型に修正されたものであってもよい。
[0028] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、該正規化分母が所定値 に達するまでブロック長が延長され、該正規化分母が該所定値に達したときに相関 低減係数 rが更新されるようにしてもょレヽ。
[0029] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、 pをステップサイズとし たとき、時刻 jにおける相関低減係数 rが、次の式 (6)で示される第 2適応アルゴリズム に従って、時刻 j + 1における相関低減係数 r に更新されるようにしてもよい。
[0030] [数 6]
式 ( 6 )
[0031] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、該第 2適応アルゴリズム がブロック実行型に修正されたものであってもよい。
[0032] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、該第 2ベクトルが、各入 力チャンネルの入力信号ベクトル X"を、自己相関成分が少なくなるように修正し、か つ、他の入力チャンネルの入力信号ベクトルとの相互相関成分が少なくなるようにさ らに修正することによって得られるベクトルであってもよい。
[0033] また上記のマルチチャンネルシステム同定装置において、該第 2ベクトルは、各入 力チャンネルの入力信号ベクトル Χηが自己相関成分が少なくなるように相関低減係 数 cを用いた次の式 (7)に従って第 1修正ベクトルに修正され、さらに、他の入力チヤ ンネルとの相互相関成分が少なくなるように相関低減係数 rを用いた次の式 (8)に従 つて修正されたベクトルであり、相関低減係数 cが第 3適応アルゴリズムによって更新 され、該第 3適応アルゴリズムにおいて、式(7)中の第 1修正ベクトル X'nが最小化さ れるように相関低減係数 cが更新され、相関低減係数 rが第 4適応アルゴリズムによつ て更新され、該第 4適応アルゴリズムにおいて、式(8)中のベクトル Dnが最小化され
るように相関低減係数 rが更新されるようにしてもょレ
[数 7]
式 (7)
Χ'η·, は第 1修正ベクトル
[0035] [数 8]
N
D 二 X" 一 ヌ r!n Χ'! 式 (8)
i=1(i≠n)
D"; は第 2ベクトル
[0036] また上 1 、同定装置にぉレ、て、時刻 jにおける相関低減 係数 c 1S 次の式 (9)に従って、時刻 j + 1における相関低減係 » J ·数 c に更新され、時 j j+l 刻 jにおける相関低減係数でが、次の式 (10)に従って、時刻 j + 1における相関低減係 ¾r に更新されるようにしてもよい。
[0037] [数 9]
Cj' = ]1一 k)2 式 (9)
はステップサイズ
[0038] [数 10]
。 はステップサイズ 発明の効果
[0039] 本願発明によれば、マルチチャンネル系に外乱信号が混入する場合でも高い精度 でマルチチャンネル系を同定することができる。また、各伝播路に入力される入力信 号間に相関がある場合にも同定性能が劣化しない。
図面の簡単な説明
[0040] [図 la]図 laは、チャネル数が 2であるマルチチャネルシステムの概略構成図である。
[図 lb]図 lbは、チャネル数が 2であるマルチチャネルシステムと、このマルチチャンネ ルシステムを同定するマルチチャンネル同定想定の概略構成図である。
[図 2]図 2は、収束条件の検証を示す図である。
[図 3]図 3は、従来法 (NLMS法)との性能比較を示す図である。
[図 4]図 4は、相関低減法におる r 21の収束変化を示す図である。
[図 5]図 5は、同定誤差の発散の様子を示す図である。
[図 6]図 6は、 rta更新アルゴリズム改善後の同定誤差の様子を示す図である。
[図 7]図 7は、 H11— H41の収束の様子を示す図である。
[図 8]図 8は、図 7の初期部分を拡大して示す図である。
[図 9]図 9は、相関低減係数の収束特性を示す図である。
[図 10]図 10は、 H11の収束の様子(有色雑音の場合)を示す図である。
[図 11]図 11は、シミュレーション結果を示す図である。
発明を実施するための最良の形態
[0041] 以下、図面を参照しつつ、本願発明の実施形態を説明する。
(第 1の実施形態)
本願発明のマルチチャンネルシステム同定装置が適用されるマルチチャンネル系 は、複数の入力チャンネルと複数の出力チャンネルとを有するような任意の系に対し て適用することができる。
[0042] 例えば、入力チャンネル数が 2のマルチチャンネル系にも適用可能であるし、入力 チャンネル数が 3以上のマルチチャンネル系にも適用可能である。また、出力チャン ネル数が 2のマルチチャンネル系にも適用可能であるし、出力チャンネル数が 3以上 のマルチチャンネル系にも適用可能である。さらに、入力チャンネル数が出力チャン ネル数と同じであるようなマルチチャンネル系にも適用可能であるし、入力チャンネ
ル数が出力チャンネル数と異なるようなマルチチャンネル系にも適用可能である。
[0043] 図 la、図 lbでは、理解の容易化のために、マルチチャンネル系のなかでも、その 構造が最も簡単な、 2の入力チャンネルと 2の出力チャンネルとを有するマルチチヤ ンネル系を示している。 図である。マルチチャンネル系は未知系である。
[0045] このマルチチャンネル系の入力チャンネル数 Nは 2である。また、その出力チャンネ ル数 Mは 2である。
[0046] ここでは、入力側のチャンネル番号を「n」で示し(η= 1 ,2, · · · ,Ν)、出力側のチャン ネル番号を「m」で示す(m= l ,2, · . · ,M)。例えば、マルチチャンネル系の η番目の 入力チャンネルに入力される入力信号 (入力信号ベクトル)を X"で示し、 m番目の出 力チャンネルに出力される出力信号(出力信号べ外ル)を Ymで示す。なお、「j」は時
[0047] マルチチャンネル系は、入力チャンネル n (n= l, 2)から出力チャンネル m (m= 1 , 2)に至る 4の伝搬路 Rnm (R", R12, R21, R22)と、加算器 11 , 12, 13, 14等によって モデル化されている。
[0048] 図 laにおいて、 X1はマルチチャンネル系の 1番目の入力チャンネルに入力される 入力信号、 X2は 2番目の入力チャンネルに入力される入力信号、 Y1はマルチチャン ネル系の 1番目の出力チャンネルに出力される出力信号、 Y2は 2番目の出力チャン ネルに出力される出力信号、 N1は 1番目の出力チャンネルに混入される外乱信号、 N2は 2番目の出力チャンネルに混入される外乱信号である。
[0049] h11は 1番目の入力チャンネルから 1番目の出力チャンネルまでの伝播路 R11のイン パルス応答、 h12は 1番目の入力チャンネルから 2番目の出力チャンネルまでの伝播 路 R12のインパルス応答、 h22は 2番目の入力チャンネルから 2番目の出力チャンネル までの伝播路 R22のインパルス応答、 h21は 2番目の入力チャンネルから 1番目の出力 チャンネルまでの伝播路 R21のインパルス応答である。
[0050] 入力チャンネル 1の入力信号 X1は、伝搬路 R11と伝搬路 R12とに入力される。入力チ ヤンネル 2の入力信号 X2は、伝搬路 R22と伝搬路 R21とに入力される。
[0051] 伝搬路 R11の出力信号と伝搬路 R21の出力信号は、加算器 11で混合される。伝搬路
R12の出力信号と伝搬路 R22の出力信号は、加算器 12で混合される。
[0052] 加算器 11の出力信号には、出力チャンネル 1におけるノイズ信号 N1力 加算器 13 において混入される。加算器 12の出力信号には、出力チャンネル 2におけるノイズ信 号 N2が、加算器 14において混入される。
[0053] そして、加算器 13の出力信号力 マルチチャンネル系の出力チャンネル 1の出力 信号 Y1として出力される。また、加算器 14の出力信号力 マルチチャンネル系の出
J
力チャンネル 2の出力信号 Y2として出力される。
j
[0054] 図 lbは、マルチチャンネル系 SOとマルチチャンネルシステム同定装置 Wとを示す ブロック図である。
[0055] マルチチャンネルシステム同定装置 Wは、未知系たるマルチチャンネル系 SOを同 定するために、マルチチャンネル系 SOに接続されている。
[0056] マルチチャンネルシステム同定装置 Wは、マルチチャンネル系 SOの入力チャンネ ルと出力チャンネルとに接続されている。
[0057] マルチチャンネルシステム同定装置 Wは、マルチチャンネル系 SOの入力チャンネ ルの入力信号を参照信号として入力している。また、マルチチャンネルシステム同定 装置 Wは、マルチチャンネル系 SOの出力チャンネルの出力信号も入力している。
[0058] 例えば、マルチチャンネル系 SOの入出力チャンネルの信号が電気信号である場合 は、マルチチャンネルシステム同定装置 Wは電気信号入力端子を接続部として用い ることによって、マルチチャンネル系 SOの入出力チャンネルの電気信号を入力するこ とができる。
[0059] また、例えば、マルチチャンネル系 SOの入出力チャンネルの信号が音響信号であ る場合は、マルチチャンネルシステム同定装置 Wはマイクロホンを接続部として用い ることによって、マルチチャンネル系 SOの入出力チャンネルの音響信号を入力するこ とができる。
[0060] マルチチャンネルシステム同定装置 Wは、入力したこれら信号を信号ベクトルとして 扱って演算する。 (以下では、信号ベクトルを単に信号と呼ぶことがある。 )
マルチチャンネルシステム同定装置 Wは、模擬系 S1と係数更新部 Cと減算部 15,1
6とを有する。
[0061] 模擬系 SIはマルチチャンネル系 SOを模擬する系である。よって、模擬系 S1の入 力チャンネル数は、マルチチャンネル系 SOと同じである。また、模擬系 S1の出力チ ヤンネル数も、マルチチャンネル系 SOと同じである。
[0062] 模擬系 S1は、入力チャンネル n (n= l , 2)から出力チャンネル m (m= 1, 2)に至る
4の FIR型のフィルタ F F11, F12, F21, F22)と、加算器 17, 18等によって構成される
。 「Hnm」は、フィルタ F皿の係数 (係数ベクトル)である。
[0063] 入力信号 X1は、フィルタ F11とフィルタ F12とに入力される。入力信号 X2は、フイノレタ F
22とフィルタ F21とに入力される。フィルタ F11の出力信号とフィルタ F21の出力信号は、 加算器 17で混合される。フィルタ F12の出力信号とフィルタ F22の出力信号は、加算器
18で混合される。
[0064] そして、減算器 15において、マルチチャンネル系の出力信号 Y1から加算器 17の 出力信号 Q1が差し引かれることによって、 1番目の出力チャンネルの同定誤差信号( 推定誤差信号) E1が生成される。
[0065] また、減算器 16において、マルチチャンネル系の出力信号 Y2力 加算器 18の出 力信号 Q2が差し引かれることによって、 2番目の出力チャンネルの同定誤差信号 (推 定誤差信号) E2が生成される。
[0066] 係数更新部 Cには、入力信号 X1 ,入力信号 X2 ,同定誤差信号 E1 ,同定誤差信号 E2 が入力される。係数更新部 Cは、これら信号を使って演算を行い、その演算結果に基 づレ、てフィルタ Fnmの係数 Hnmを更新する。
[0067] 係数更新部 Cは、適応アルゴリズムを用いて、同定誤差信号 Emが 0に近づくように
、フィルタ Fnmの係数 Hnmを更新する。このようにして、係数 Hnmがインパルス応答 に 同定されてゆく。
[0068] 以上、図 la,図 lbを参照しつつ、マルチチャンネル系 SOと、マルチチャンネルシス テム同定装置 Wとの概略的な構成を説明した。
[0069] 上述したようなマルチチャネル同定装置においては、個々の伝播路を同定する際 に、他の伝播路からの信号が外乱となることが問題となる。この外乱は当然ながらシ ステム同定の精度を低下させる。したがって、マルチチャネルシステムにおいては、
全伝播路に対する同定誤差が同時に減少することが収束の条件となる。
[0070] 説明を簡単にするため、外乱(図 la,図 lbに示す や を無視し、システムを構 成する入力チャネル数を Nとして、その出力チャネルの一つ、例えばチャネル mに集 まる N個の未知経路に並列接続される適応フィルタの係数 Hnm (n= l, 2, · · · , N)を 、次の式(1_1)で示される学習同定法によって更新するとする。
[0071] [数 11] +μ」- 1
式(1 一 1 )
[0072] ここで、 μはステップサイズ、 X"は時刻 jにおいて入力チャネル ηに印加される参照
J
信号ベクトル、 Emは出力チャネル mにおける同定誤差で
J
[0074] である。また、 hnmはチャネル nから mへ回り込む未知経路のインパルス応答である。
[0075] このように適応アルゴリズムとして学習同定法を用いる場合、その未知経路 nmに関 して生じる同定誤差は
[0076] [数 13]
Hw—h ~ HJ ~ h 式(1— 3 )
[0077] と表される。さらに、この同定誤差の収束は、通常、 2乗誤差について論じられる。 2 乗誤差を表すと、
[0078] [数 14]
(Em)2 (H m— h"m T n
= 一 fT)T(H — ΙΤ")+μ2 、 ί' +2μΕ1 1 一 τ 式(1— 4)
[0079] と書ける。この結果から、右辺第 2項と第 3項の和が負となるときにチャネル n力ら mに 至る未知経路の同定に関して誤差が発散しないと分かる。
[0080] この式 (1-4)は、チャネル n力 mに至る未知経路の同定に関する誤差の推移を表 してレ、る。し力し、そのチャネル mに回り込む未知経路は実際には N本ある。マルチ チャネルシステム同定においては、その誤差が全未知経路について増加しないこと が求められる。その条件は係数 Hlm, H2m, ···, HNmに生じる同定誤差の 2乗和が減 少傾向にあるときに満たされる。すなわち、マルチチャネルシステムにおいて誤差が 発散しない条件は
= {Hf -hm {Hf -hm) + μ Ε· γ ~ = ~ + 2μΕ し 3 式(1一 5)
[0082] において
[0083] [数 16]
[0084] となるときであると定式化される。しかし、この結果は設計条件としては使い難い。可 能ならば、その条件はステップサイズの範囲として与えることが望ましレ、。
[0085] 従来は、この条件をステップサイズの範囲として定式ィ匕するために、
(a)参照信号のパワーが全て等しレ、場合
(b)参照信号のパワーが異なる場合
とに分けて、そのそれぞれについて条件を定式ィ匕していた (例えば、「藤井健作,前 田大輝,棟安実治, "マルチチャネルシステム同定アルゴリズムにおける収束条件に 関する検討, "2002春季日本音響学会講演論文集, 3-4-18, pp.637-638(2002-03)j 参照。以下、この文献を「文献 1」という)。
[0086] その条件は、前者では全参照信号のパワーが等しぐ
X
[0087] [数 17]
ゾ ! χ) ' ) 式(1— 7)
[0088] と近似できるとして導かれている。この場合、式 (1-6)の左辺はまず
[0089] [数 18]
+2μΕ ' 式(1一 8)
Χ Χ)
[0090] と変形される。さらに、式 (1-2)から
^{HT -h"mf X". =-£; 式(1一 9)
[0092] が成り立つので、式 (1-8)は
[0093] [数 20]
(Νμ2 式(1— 1 0)
[0095] [数 21] 2/ O 式 — n)
[0096] であることから、これを式 (1-10)に適用することで
[0097] [数 22]
(Νμ2-2μ)<0 式 — 1 2)
[0098] が得られる。すなわち、参照信号のパワーが全て等しい場合において同定誤差が発 散しない条件は/ >0を適用することで最終的に
[0099] [数 23]
0<μ<2/Ν ¾(1 - 1 3)
[0100] と得られる。
[0101] 問題は、 実システムにおいて参照信号のパワーは全チャネルで異なることが十分 に想定されることである。したがって、上記 (a)の条件が適用できる範囲は狭レ、。
[0102] そこで、より一般的な場合にも適用できるように、 参照信号のパワーはチャネルごと に異なる場合として上記 (b)が導かれた。この場合、仮想的な参照信号 X°が導入され
J
、そのパワーを基準として各参照信号のパワーが P倍になるとして導かれる。すなわ n
ち、
[0103] [数 24]
χ1 χ/π "Ρ«χ) xf° 式(1一 14:)'
[0104] が成り立つものとすれば、同定誤差が発散しない条件は式 (1-6)に XQTX° >0を適 用して
[0105] [数 25]
^(H7 -h"m)7Xf"
( )2∑ 式(1— 15)
[0106] と得られる。
[0107] 一方、同定誤差の収束値は、適応アルゴリズムを学習同定法とした場合、外乱と参 照信号のパワー比とステップサイズの関数として定式ィ匕されている。このことは、参照 信号のパワーがチャネルごとに異なる場合においてステップサイズを同一とすれば同 定誤差の収束値は未知経路ごとに異なることを意味する。通常、同定誤差の収束値 は全未知経路に対して同一となるように設計されると考えるのが妥当である。上記 (b) は、その条件の下に誤差が発散しないステップサイズの範囲が導かれている。
[0108] それは、同定誤差に最大 3dBの差が生じることを許容して
[0109] [数 26] μ/(2-μ)^μ 式(1一 16)
[0110] となる近似をおいて行われる。この場合、参照信号 Χ°に適用するステップサイズ μ を
j 0 基準として各ステップサイズを
[0111] [数 27]
μ„ =ρ„μ0 式(1 _ 1 7 )
[0112] と与えることで同定誤差はほぼ同じ値に収束することとなる。さらに、この関係から同 定誤差が発散しない条件は式 (1-15)を構成するステップサイズ μを μ と置き換えて 累積和内に移すことによって
=( /")2! „μ。 _2( )2 。 式(1 — 1 8)
[0114] が負になるときとして定式ィ匕できる。すなわち、上式から
[0115] [数 29] -2 <0 式(1 — 1 9)
ノ
[0116] であり、 >0であることから
[0117] [数 30]
0<∑μ„ <2 式(1 — 2 0)
[0118] あるいは
[0119] [数 31]
0< 。 <2/ " 式 (1—2 1)
[0120] が誤差が発散しなレ、条件として得られる。ここで、全ての参照信号のパワーが等しレヽ 場合は Ρ =1, μ = β となることから、式 (1-21)は式 (1-13)に一致する。
[0121] この (b)の場合における条件として導かれた式 (1-21)から、システムを安定動作させ るためには参照信号のパワーによってステップサイズを制御する必要があること、さら に、この式 (1-21)の導出過程から、そのステップサイズもチャネルごとに個別に制御 する必要があり、左右のチャネルで激しく変動するステレオエコーキャンセラのような システムには適用が困難であることがわかる。
[0122] この課題を解決するため、上記 (a)と (b)の場合における条件導出の元となった式を 見直す。すなわち、
[0123] [数 32]
[0124] において条件の導出が (a)と (b)に分けられた理由は、参照信号のパワーに対応する「 XnTXn」がチャネルごとに異なる点にある。式 (1-22)の分母に与える「ΧηΤΧη」が全チ ャネルに共通となるようにすれば、このような場合分けは不要となる。本発明では、そ の共通化を適応アルゴリズムの修正によって行うことを考える。すなわち、学習同定 法を
[0125] [数 33]
Η^=Η" +μ J ゾ 式(1 -23)
[0126] と変形するのである。
[0127] 式(1—23)において、「EmXn」は分子ベクトルに相当し、「Xn」は第 1ベクトルと第 2 ベクトルに相当する。
[0128] この場合、未知経路 nmに関して生じる同定誤差は
[0129] [数 34]
gr, - nm = Ηγ—Ι +μ f f 式(1— 24)
[0130] と書き換えられる。さらに、この 2乗誤差は
[0131] [数 35]
(Hn - ヽ 2
= X] Χ",+2μ∑
式(1一 25)
[0132] と書ける。ここで、「∑ X X"jは全チャネルに共通してレ、るので、
n=
[0133] [数 36]
[0134] とおくことができる。すなわち、
[0135] [数 37]
(H m -h"m)TX}"
= (H/"m-h"m)i: (Ηγ -Α"Μ)+μ
P,
式(1一 27)
[0136] である。この式 (1-27)は、チャネル nから mに至る未知経路の同定に関する誤差の推 移を表している。しかし、そのチャネル mに回り込む未知経路は実際には N本ある。 マルチチャネルシステム同定においては、その誤差が全未知経路について増加しな レ、ことが求められる。その条件は係数 Hlm, H2m, ···, HNmに生じる同定誤差の 2乗
J
和が減少傾向にあるときに満たされる。すなわち、マルチチャネルシステムにおいて 誤差が発散しない条件は
[0137] [数 38]
式(1— 28)
[0138] に式 (1-26)と式 (1-2)を適用して、第 2項と第 3項が
[0139] [数 39]
μ2(Ε )2—+2μΕ;^-(-Ε;·) = μ{μ-2) 式(1— 29)
[0140] と整理され、(Em)≥0と P >0より
j j
[0141] [数 40]
式(1 3 0 )
[0142] と収束条件は単純化される。
[0143] 実際のシステムは各チャネル間の参照信号間には相関がある。この場合、その相 関が強いときにはシステム同定が困難となる場合がある。そこで、以下のアルゴリズム が提案されている。
[0144] [数 41] 式( 1— 3 1 )
[0145] ただし、 X'nは m≠nのチャネルに印加される参照信号 Xmに定数 rmnを乗じてチヤネ ノレ nに印加される参照信号 X1^に含まれる参照信号 の相関成分を低減した信号で 以下のように定義される、
[0146] [数 42]
∑ " 式(1— 3 2 )
[0147] である。この式(1—32)は、式(1)に対応する。このアルゴリズムによれば参照信号間 に相関が強くあっても適応フィルタの係数が高速に収束することが示されている(「前 田大輝,藤井健作,棟安実治, "マルチチャネル適応アルゴリズムの一提案とその解 析, "電子情報通信学会和文論文誌 (A), vol. J87-A, No. 2, pp. 180-189(2004-02)] 参照。以下、この文献を「文献 2」という。 )
このアルゴリズムにおいても本発明は同様に適用することができ、
[0148] [数 43]
[0149] に対して、 2乗誤差を
[0150] [数 44]
式(1一 34)
[0151] とおく。さらに、
[0152] [数 45]
p = x χ!'" 式(1一 35)
[0153] とおけば、
[0154] [数 46]
(Hr-hnmyxf'
)Ί Ηγ -ΗηΜ)+μ Xj" Χ"+2μΕ
Ρ:
, E7(H -h"M)TX'" τ (H -h"m)TX',
ρ 式(1 _ 36)
[0155] となる。次いで、チャネル mに回り込む未知経路は実際には N本あることを考慮して、 [0156] [数 47]
Y (H -hm)T(ff^, -h"m)
n=l
= Y (H "— A™ )T (H)"m— A"" )
[0157] に式 (1-2)と
[0158] [数 48]
[0159] を代入して
[0160] [数 49] ^;:,- Α"")τ ( ,-A"m)
[0161] が得られる。すなわち、推定誤差が増加しない条件は
[0163] と整理され、
[0164] [数 51]
0 < μ < 2 式(1—4 1 )
[0166] のように収束条件は単純化される。ここで、式 (1-42)の収束条件は文献 2で与えられ ている条件と同様の性格をもつ条件である。
[0167] 本実施形態によれば、係数更新ベクトルを正規化する分母を全チャネルについて の総和として与えることによって収束条件が単純なステップサイズの範囲として与えら れ、安定動作の確保が容易となる。また、実施例から明らかなように、その正規化分 母に制限がなレ、ことに注意が必要である。
(第 2の実施形態)
上記において、図 la,図 lbを参照しつつ、マルチチャンネル系(マルチチャンネル システム)とマルチチャンネルシステム同定装置の概略構成を説明した。
[0168] マルチチャンネルシステム同定装置が適用される装置として、ステレオエコーキャン セラがよく知られてレ、る。図 lbのマルチチャネル同定装置 Wがステレオエコーキャン セラであるとすれば、図 la,図 lbにおける X1は例えば右チャネルのスピーカから出力 される信号に対応する。ただし、 jは時刻である。同様に、 X2は左チャネルのスピーカ
出力、 Y1は右チャネルのマイクロホン出力、 Υ2は左チャネルのマイクロホン出力、 Ν1 は右チャネルのマイクロホンに混入する外舌し (近端話者音声を含む)、 Ν2は左チヤネ ルのマイクロホンに混入する外乱に対応する。
[0169] 図 laのシステムにおいて、右チャネルのスピーカから出力された信号はインパルス 応答が h11の伝播路を経て右チャネルのマイクロホンに達すると同時に、インパルス応 答力 12の伝播路を通って左チャネルのマイクロホンにも達する。同様に、左チャネル のスピーカから出力された信号はインパルス応答が h22の伝播路を経て左チャネルの マイクロホンに達すると同時に、インパルス応答力 ¾i21の伝播路を通って右チャネルの マイクロホンにも達する。このようにマルチチャネルシステムでは、その出力側におい て各伝播路の出力が混合して受信される。
[0170] このようなマルチチャネル同定装置においては、入力信号 X1と入力信号 X2の間の 相関が個々の伝播路の同定を困難とする。
[0171] 例えば、ステレオエコーキャンセラにぉレ、ては、左右のマイクロホンの中央に座った 話者が発話し、その結果として左右のマイクロホン出力が完全に同一となることもあり うる。この場合、 x =x2となって個々の伝播路の同定が不可能となることは明らかで ある。このように極端な例でなくてもステレオエコーキャンセラにおいては左右のマイ クロホン出力が強い相関をもつことは通常のことである。この場合、各伝播路の同定 が困難となることがよく知られている。
[0172] 従来の技術には、この問題を解決する手法をチャネル数が 2の場合について与え ているものがある(例えば、文献 2参照)。すなわち、相関低減係数!:12と!:21を導入して
[0173] [数 53]
Xl' ^ X) - ^X) 式 ( 2 — D
[0174] [数 54]
式(2 - 2 )
[0175] を合成し、入力チャネル n(n= l , 2)から出力チャネル m(m= 1, 2)に至る伝播路 hnm に並列に接続された適応フィルタの係数 Hnmを
[0176] [数 55]
[0177] と更新するアルゴリズムを導出した。ここで、 μはステップサイズであり、 Emは次式で 表される。
[0178] [数 56]
E = - Hf'f X) +N; 式(2 — 4 )
[0179] 式(2— 1)と式(2— 2)は、式(1)に対応する。また、式(2— 1)と式(2— 2)は、式(3)に も対応する。
[0180] 式(2—3)におレ、て、「EmX'n」は分子ベクトルに相当し、「Xn」は第 1ベクトルに相当 j j j
し、「X,n.」は第 2ベクトルに相当する。
[0181] 式(2_3)は、式(1_31)と同一である。
[0182] 上記文献 2によれば、上記アルゴリズムは両参照信号間にわずかでも独立成分が 含まれておれば同定が可能となること、また、相関低減係数 r12と r21を参照信号 X1と X
2の相互相関係数
J
[0184] [数 58] 式(2 - 6)
[0185] と与えるときに係数 H™の収束が最も高速化される。
J
[0186] 問題は、チャネル数 Nが 3以上である場合において、この相関低減係数が単純な 相互相関係数としては得られないことである。以下に、その理由を説明する。
[0187] 式 (2-4)から分かるように、残差 Emを構成する成分のうち、入力チャネル nから出力 チャネル mに至る伝播路 hnmの同定に有効な成分は推定誤差
[0189] である。これ以外の Akm(k≠n)は、適応フィルタの係数 Hnmの更新に無用である。式
J j
(2-3)のアルゴリズムは、この Δ を取り出すのに Emと X'nの相関を利用する。ここで、
J J j
外乱 Nmを全ての参照信号と無相関と仮定して無視すると、例えば、チャネル 1からチ
J
ャネル mに至る伝播路 hlmの同定は
[0190] [数 60]
E XK' fx +AfTXj:)(X) -r21X)) 式(2 - 8)
(
[0191] 力 Δ1"1を取り出して行われる。すなわち、
j
[0192] [数 61]
E X
1 -r
2LX )
-r
21X X ) 式(2— 9)
[0193] に対して「第 2項が零となれば、 hlmの同定に無用な が排除できる」というのが式
(2-3)に与えるアルゴリズムの原理である。実際、参照信号に自己相関がなければ [0194] [数 62]
21 x)x)
式(2 - 10) x)x)
[0195] と与えるときに、上記第 2項の期待値が零になることは明らかである。
[0196] 一方、チャネル数 Nが N≥ 3の場合、外乱を無視して残差を
[0197] [数 63]
N
式(2 - 1 1)
[0198] とおけば、伝播路 hnmの同定に際して計算される残差との相関は
[0199] [数 64]
N
E X ' A X]1 式(2 - 12)
[0200] となる。ここで、係数 の推定に有効となる を取り出すためには、第 2項の期待 値が零となる必要がある。それには、参照信号において自己相関が無視できるとして も
[0201] [数 65]
0 式(2 4 )
[0202] となる相関低減係数を与える必要がある。このことから、チャネル数 Nが N≥ 3の場合 におレ、て相関低減係数が各参照信号間の相互相関係数として与えられなレ、ことは 明らかである。
[0203] 式 (2-14)は従来法における問題点と同時に解決法を示唆している。すなわち、時刻 jにおいて与えた相関低減係数 rinに対して
[0204] [数 66]
Xj'" Y X) 式(2— 1 5 )
[0205] は信号 Xnに対する X' (i≠n)による線形予測の結果としての予測誤差とみなすことが できる。この場合、
[0206] [数 67] r +1 = r + p— ^ ~― 式 ( 2— 1 6 ) u=l(u≠E)
[0207] と相関低減係数を更新すれば、同相関低減係数 rinの収束後におレ、て X'nと (i≠ n) は無相関となる。すなわち、式 (2-15)を式 (2-14)の左辺に代入した
[0209] の期待値は Χ'πと X (k≠n)が相関をもたないことから零となり、この相関低減の原理を 全ての nについて同様に行えば、チャネル数が Nの場合について、チャネル数が 2の
場合と同様の効果が得られる。
[0210] なお、式(2— 16)は、式(4)に対応する。
[0211] 実際のマルチチャネルシステムでは、そのチャネル数は少ない場合がほとんどであ る。その場合、式 (2-16)第 2項の分母が零となる可能性が高くなる。この場合、ァルゴ リズムをブロック実行型として
[0212] [数 69]
[0213] とすれば、零による除算の可能性が下げられる。
[0214] なお、ブロック実行型アルゴリズムとは、分子ベクトルと正規化分母とを時間ブロック で累積加算する更新アルゴリズムのことである。
[0215] また、参照信号のパワーが激しく変動する場合、とくに、そのパワーが小さくなるとき に相関低減係数 rinの算定精度が低下する。この場合、式 (2-17)第 2項の分母が一定 値以上となるまで、ブロック長 Lを延長すれば、算定精度の安定化が図れる。
[0216] つまり、式(2—17)において、ブロック長 Lを固定値とはしないで、式(2— 17)第 2項 の分母が一定値に達したときに係数更新を行うようにするのである。
[0217] 反対に、参照信号のパワーが安定してレ、る場合は式 (2-16)あるいは式 (2-17)第 2項 の分母は一定とみなすことができ、その場合は同第 2項の分母をステップサイズ Pに 含めて
[0218] [数 70]
. in in _ y /« γί 式(2— 1 8 )
[0219] [数 71]
(
[0220] とすることができる。
[0221] 式(2-18)は、式(6)に対応する。
[0222] 式(2—19)で示されるアルゴリズムは、式(2—18)で示されるアルゴリズムをブロック 実行型に修正した式である。
[0223] さらに、参照信号に自己相関がある場合は、相関低減係数を自己相関が零となる 間隔まで rin(0)から rin (T)まで用意し、
j J
[0224] [数 72]
式(2 - 2 0 )
[0225] として相関を低減すれば同様の効果が得られる。
[0226] この式(2— 20)は、式(2)に対応する。
[0227] 一方、式 (2-3)として示している係数更新アルゴリズムは、
[0228] [数 73] 式(2 - 2 1 )
[0229] に対しても同様の効果が得られることに変わりはなレ、。
[0230] この式(2—21)は、実質的に式(1—33)と同一である。
[0231] 式(2— 21)において、「EmX'n」は分子ベクトルに相当し、「Xn」は第 1ベクトルに相 j j j
当し、「X,n.」は第 2ベクトルに相当する。
[0232] 本発明によれば、係数更新ベクトルを正規化する分母を全チャネルについての総
和として与えることによって収束条件が単純なステップサイズの範囲として与えられ、 安定動作の確保が容易となる。また、本実施形態から明らかなように、その正規化分 母に制限がなレ、ことに注意が必要である。
(第 3の実施形態)
上記において、図 la,図 lbを参照しつつ、マルチチャンネル系(マルチチャンネル システム)とマルチチャンネルシステム同定装置の概略構成を説明した。
[0233] マルチチャンネルシステム同定装置が適用される装置としては、マルチチャネル能 動騒音制御装置やステレオエコーキャンセラがよく知られている。
[0234] マルチチャネル能動騒音制御(「陳国躍,安倍正人, 曽根敏夫, "参照信号間に相 関がある場合の Filtered-x LMSアルゴリズムの収束速度の改善法"信学論 (A), vol. J80-A, no.2, pp.309- 316, 1997-02 (以下、この文献を「文献 3」という)」および「棟安 実治,浅井隆,藤井健作,雛元孝夫, "マルチチャネル能動騒音制御システムへの 連立方程式法の拡張"信学論 (A), vol. J83-A, no. l l, 2000-11 (以下、この文献を「 文献 4」とレヽう)」参照)やステレオエコーキャンセラ(「M.M.Sondhi, D.R.Morgan, and J.L.Hall, Stereophonic Acoustic Echo Cancellation―— An Overview of the fundamental Problem" IEEE SP Letter, pp.148-150, 1995-08」参照。以下、この文献 を「文献 5」という。)のように,参照信号を複数のマイクロフォンで採取するシステムで は,必然的に参照信号は相互に相関を持つ。この相関は,適応フィルタの係数推定 に対して収束速度の低下など,同定性能に劣化をもたらす。
[0235] この劣化を抑える改善法に関する提案が数多くなされている。それらは,参照信号 に含まれる独立成分の割合を大きくする前処理を参照信号に加えて未知系に送出 するという原理において共通している。従って,その違いは単に,その独立成分の割 合を大きくするために適用する前処理の方法にだけあると言える(「鈴木邦和,阪内 澄宇,島内末廣,羽田陽一, "ステレオエコーキャンセラにおける収束改善のための 前処理方式の検討"平 10秋音講論集, 3-5-10, 1998-03」参照。以下、この文献を「 文献 6」という。)。しかし,そのような原理において共通する前処理の揷入はステレオ エコーキャンセラではスピーカから出力される音声に細工をカ卩える操作に等しくなる。 従って,それらの方法には通話品質を劣化させるという問題が必然的につきまとう。
[0236] 例えば,その最も簡単な前処理法の例として白色雑音を参照信号に付加する方法 力 Sある(文献 5参照)。しかし,その付加はスピーカから異質の騒音が送出されるという 問題を引き起こす。従って,そこで加えられる白色雑音の大きさは,話者に検知され ない程度の低いレベルに抑える必要がある。具体的には,そのレベルは音声に対し て 13-15dB低くなければならないとされている (文献 5参照)。しかし,このように低いレ ベルの白色雑音の付与では残念ながら満足のできる特性は得られなレ、(文献 5参照
[0237] 前田ら(「前田大輝,藤井健作,棟安実治, "マルチチャネル適応アルゴリズムの収 束特性に関する検討"信学論 (A), pp.180-189, 2004-02」参照。以下、この文献を「文 献 7」という。)は,マルチチャネルシステムにおける各参照信号において, 白色雑音 を付加するという概念ではなぐ参照信号にもともと白色雑音が独立成分として存在 しているものとみなした上での同定アルゴリズムを提案している。それによると,その 独立成分の含有割合が一 40dBと非常に小さい場合においても未知系の同定が可能 である。
[0238] マルチチャネルシステム同定アルゴリズムは,図 laに示す未知系のインパルス応答 hnm(n,m=l,2)を,適応フィルタの係数 Hnmによって同定することを目的とする。ここに j は時刻である。その同定に際して問題は,各チャネルの参照信号 X".に含まれる独立 成分の割合が非常に低ぐ参照信号間の相互相関が強い場合において, Hnmが hnm に収束する速度 (同定速度)が極めて遅くなることである。前田らは,そのチャネル数 力 ¾のときに同定速度を向上させるアルゴリズムを提案し,その有効性を文献 7に示し ている。
[0239] その文献 7では各参照信号 Xn.を
[0240] [数 74]
式(3 - 1) ここに;^ は相互相関が 1 となる相関成分,.
jc]1 はその相関が 0となる独立成分,
α„ は相互相関成分の大きさ,
b„ は独 分の大きさである..
[0241] と仮定している。本検討でも,この仮定を踏襲する。さらに,同アルゴリズムでは相関 低減係数
[0242] [数 75]
(·)は期待値演算を表す.
[0243] を導入し,相互相関成分を低減した相関低減信号
[0244] [数 76]
-rinX} (ΐφ",ΐ = 1,2) 式(3— 3)
[0245] を定義する。前田ら(文献 7)は以上の条件の下に同定アルゴリズムを
[0246] [数 77]
式(3— 4)
[0247] としたときに同定速度が向上することを示している。ここで, Emは,
[0248] [数 78]
式(3 - 5 )
" =1
[0249] で示される誤差信号である。このアルゴリズムにおける問題は,チャネル数が 3以上 の場合に適用できないことである。
[0250] なお、同定アルゴリズムについては、「藤井健作,棟安実治, "マルチチャネルシス テム同定アルゴリズムの提案と推定誤差が増加しなレ、条件"信学技報, SIP2004-9, 2004-05 (以下、この文献を「文献 8」という。)」にも記載がある。
[0251] 従来アルゴリズムではチャネル数を 3以上とできない理由は相関低減係数を参照信 号間の相互相関係数で与えたことにある。しかし,その相関低減信号を式 (3-3)と与 える考え方は有用である。本実施形態では,相関低減係数 rnmを rnmと表し,相関低
J
減係数を逐次算定するように変更する。すなわち,相関低減信号 Dnを
j
[0252] [数 79]
N
^ X - ^ rf X 式(3 6 )
)
[0253] と与える。ここで, Νはチャネル数である。
[0254] この式(3— 6)は、式(1 )に対応する。
[0255] 本実施形態では,この D"を用い,適応フィルタの係数を
[0256] [数 80]
式(3— 7 )
xiTD
[0257] と更新する同定アルゴリズムを提案する。ここに, μはステップサイズである。
[0258] 式(3— 7)において、「EmjDnj」は分子ベクトルに相当し、「Χ は第 1ベクトルに相当し 、 「Dn」「Di」は第 2ベタトノレに相当する。
[0259] 式(3— 7)のアルゴリズムと,式(3-4)に与える前田ら(文献 7)のアルゴリズムとの違 いは第二項の分母にある。この変更によって,前田ら(文献 7)のアルゴリズムではチ ャネルごとに異なるステップサイズを与えて収束条件としてレ、たのに対して,本実施 形態では全チャネルに共通するステップサイズを収束条件とすることができる(文献 8
) o
[0260] 問題は,残差信号 Dnを生成する rinの算定法である。その算定法を見出すために
J J
式 (3-6)を見ると, Dnは xi (i=l, ' ' ' ,N, i≠n)による Xn に対する線形予測残差ともみ
J J J
なせること力 S分力、る。この場合, rinは NLMS法を用いることによって,
j
[0261] [数 81]
[0262] と算定できる。ここに, pはステップサイズである。この式(3-8)は、式 (4)に対応する 。このように相関低減係数を与えることによって,チャネル数が 3以上の場合において も,相互相関の低減が可能になる(文献 8)。さらに,この場合の収束条件は同定誤 差
[0263] [数 82]
N
E = {h rn - Hj nrn)Txj n 式(3 _ 9 )
[0264] の 2乗平均が増大しない条件として
[0265]
0 < μ < 2 式(3— 1 0 )
[0266] [数 84]
E E,
N > 0
Σ 式(3 _ 1 1 )
[0267] と導かれてレ、る(文献 8)。ここに, E'mは
[0268] [数 85] = 式( 3— 1 2 )
[0269] である。
[0270] 次に、シミュレーションによる収束条件の確認について記す。
[0271] 文献 8では収束条件のシミュレーションによる確認がなされていない。以下では,そ の確認を行う。ただし,参照信号として相互相関成分 (式 (3-1)参照),独立成分 X を ともに白色雑音,さらに両成分のパワーを 1とする。また,未知系インパルス応答 hnm の各要素には正規乱数を与え,そのパワーが 1となるように正規化を行う。
[0272] パワーと独立成分比が全チャンネルで等しい場合について記すと、次のとおりであ る。
[0273] まず,その確認をチャネル数 N = 4,タップ数 64,ステップサイズ p =0.001, a
1一 a
4
= 1.0, b一 b = 0.1として行う。図 2 (e)は,このように前チャネルの参照信号に含ま
1 4
れる相関成分と独立成分の割合が等しぐパワーもまた等しいとした場合の収束特性 である。さらに, 同定誤差(Estimation Error)は
[0274] [数 86]
Estimation Error = 式(3
[0275] として計算している。ただし,図中の数字はステップサイズ μ , m=n= l ,Mはタップ 数, iは配列要素の番号である。
[0276] 図 2(a)— (d)は式(3-11)に与えられる収束条件の有効性を確認するシミュレーショ ンの結果である。明らかに,式 (3-10)の条件を満たすときに同定誤差が減少している ことが分かる。一方,式(3-11)の条件では同定誤差が収束している μ = 0.3、 1.0に おいて,図 2(a)および図 2(b)より,式(3-11)の条件から外れる頻度が少なぐ収束へ の影響が少ないことが分かる。また, μ = 1.97では,図 2(c)より式(3-11)の条件を満 たしていない区間で同定誤差が減少していないこと, β =2.1では図 2(d)より式( 3-11)の条件から大きく外れていることも確認できる。以上のことから,収束条件式( 3-10)と(3-11)は概ね同時に成立つことが分かる。
[0277] 図 3は従来の NLMS法との比較である。このときの条件はステップサイズ μ =0.3を 除いて図 2と同じである。この図より,本実施形態の有効性が確認できる。
[0278] 図 4は ρ =0.001としたときの r21jの収束の様子である。 j = 5,000付近で r21jが収束 し,その収束と対応して同定誤差の収束速度が向上していることが図 2(e)より分かる 。以上より,同定誤差の初期における収束の遅れは相関低減係数の収束の遅れに 起因することが分かる。
[0279] 次に、パワー及び独立成分比が異なる場合について記す。
[0280] 図 5(c)は,チャネル数 4,タップ数 64,ステップサイズ μ =0.1, ρ = 0.001, a = 1.0,
1 a = 2.0, a = 5.0, a = 10.0, b =0.1としたときの収束特性である。この図 5(c)におい
2 3 4 n
て, j = 8,000付近から誤差が増大し,その原因が収束条件(3-11)が満たされないた めであることが図 5(b)の結果から分かる。また同図 (a)より,その原因の 1つは式(3-11 )の分母が 0を中心に振動することにあると推測される。すなわち式 (3-7)の,第二項 の分母の値が 0に近い値となることによる第二項の発散が原因であると予想される。
[0281] 次に、収束を不安定にする要因への対処について記す。
[0282] まず、相関低減係数の算出法の修正について記す。
[0283] その式 (3-11)の分母が 0を中心に振動する原因の 1つは,相関低減係数の算定が 不安定になることにあると考えられる。
[0284] 例えばチャネル nの参照信号のパワーが大きぐ他チャネルの参照信号のパワーが 小さい場合,式 (3-8)による rni.(i≠n)の更新に際して,その分母には大きな信号であ るチャネル nの参照信号の二乗値が含まれる。一方, rin (i≠n)ではその分母には大き
J
な信号であるチャネル nの参照信号の二乗値が加算されず,分子の予測残差 Dn に
J
はパワーの大きい参照信号が外乱として加わる。この場合,チャネル nを除く相関低 減係数の算定精度が低下することになる。これを防ぐにはステップサイズを小さくする 必要がある。このステップサイズの自動修正は相関低減係数の算定を
[0285] [数 87]
式(3— 1 4 )
[0286] と行うことによって等価的に行うことができる。
[0287] この式(3_14)は、式(5)に対応する。
[0288] 図 6(c)は式 (3-14)を用いたときの収束特性である。明らかに,発散の発生が大きく 遅れていることが分かる。しかし,まだ収束条件(3-11)が完全には満たされないこと が図 6(b)から分かる。そして,依然として式 (3-11)の分母が負になっていることが図 6 (a)から分かる。
[0289] 次に、ブロック長制御法の導入について記す。
[0290] この式 (3-7)の正規化分母が正となることを保証するブロック長制御法の適用を提 案する。すなわち,
[0291] [数 88]
∑
[0292] とし,正の定数 kを H定めて, J回分の和が k以上になったときに更新するのである。
[0293] 式(3— 15)で示されるア +ルゴリズムは、式(3— 7)で示されるアルゴリズムをブロック実 行型のアルゴリズムに修正し、さらに、ブロック を固定値とはしないで、正規化分母 が一定値 kに達したときに係数更新を行うように修正したアルゴリズムである。なお、 ブロック実行型アルゴリズムとは、前述したとおり、分子ベクトルと正規化分母とを時間 ブロックで累積カ卩算する更新アルゴリズムのことである。
[0294] 式(3—15)のアルゴリズムを用いるとき、収束条件としての式 (3-11)の分子も同様 に J回分の和をとることになる。これによつて,式 (3-15)の分母は常に正となることが保 証される。
[0295] 図 6のシミュレーションと同じ条件下で,閾値 k=7.0としたときの収束特性を図 7に 示す。誤差曲線が重なっているため読み取りづらいが,収束後において一 40dBや や上寄りで重なっているのが H11 および H21 ,その下方で同じく重なっているのが H
J j
31 ,および H"である。明らかに,この結果から同定誤差が発散を起こさずに収束し
J J
ていることが分かる。
[0296] 次に、収束初期における遅延の原因について記す。
[0297] 図 7の誤差曲線の初期段階において横ばい状態の部分が存在する。それを拡大し たのが図 8である。これは相関低減係数 rnmの収束の遅れに伴うものである。この原 因は,式 (3-7)から考えると分かりやすい。初期段階では は相関成分が適切に低 減されていないため, Dnは Χπ に非常に近いものとなる。そのため式(3-7)は NLMS 法と同じ働きをすることになる。
また同図において j = 25,000付近から同定誤差の収束速度が向上しているが,そ の安定性が未知系ごとに異なることが分かる。例えば, H41 の誤差曲線は, H11 の誤 差曲線と比較すると大きな振動を伴っていることが分かる。以上より,各参照信号の パワーの違いが外乱となる成分に影響を与え,収束速度に影響すると言える。
[0299] 次に、有色雑音を参照信号とした場合について記す。
[0300] 以上の議論は,相関成分 (式 (3-1)参照)が白色雑音とレ、う条件下で行われてレ、る。
以下では,実システムへの応用を考え,ジェットファンの騒音を模倣した有色雑音を 相関成分 (式 (3-1)参照)とした場合の収束特性を計算しておく。その結果を図 10に 示す。ただし,チャネル数 N = 4, a =a =a =a = 1.0, b =b =b =b =0.1, μ =
1 2 3 4 1 2 3 4
0.1, p =0.001である。性能比較のため, NLMS法を用いた場合の収束特性も同時 に示す。
[0301] 図 10より,相関成分 (式 (3-1)参照)が有色雑音であっても同定誤差が収束している ことが分かる。しかし,相関成分を白色雑音とした場合に比べて同定誤差の収束速 度は非常に遅レ、。このことは,問題の解決には自己相関成分についても同様の低減 が必要であることを示してレ、る。
[0302] 本実施形態では,チャネル数が 3以上においても有効に動作するマルチチャンネ ルシステム同定装置を提案した。さらに,そのアルゴリズムの有効性および問題点を シミュレーション実験を交えて示し,それらの結果を基に解決案を提示した。同時に シミュレーション実験により解決案の有効性も示した。
[0303] また,本実施形態では最後に有色性の雑音を参照信号とした場合のシミュレーショ ンを行った。この結果から,相互相関成分のみならず, 自己相関成分に対する低減 処理が必要であることが明らかにされた。従って,今後の課題として有色性の参照信 号に対する考察が挙げられる。
(第 4の実施形態)
上記において、図 la,図 lbを参照しつつ、マルチチャンネル系(マルチチャンネル システム)とマルチチャンネルシステム同定装置の概略構成を説明した。
[0304] マルチチャンネルシステムでは、参照信号間に相関が存在するとき、未知系の同定 速度が低下することが知られている。本実施形態では、同定速度向上のためのアル ゴリズムを提案する。この提案に際し、まずチャンネル n (l≤n≤N)の入力信号 (参 照信号 ) Xnを、次式のように仮定する。
J
[0305] [数 89]
X n ― - n ^ n 丄 レ n 、, n
j - a x j + b Xj 式(4 - l) j は時刻
x j は他のチャンネルの参照信号との相互相関が 1となる相関成分 Xj は他のチャンネルの参照信号との相互相関が 0となる独立成分 係数 an は相関成分の大きさを表す定数
係数 bn は独立成分の大きさを表す定数
[0306] まず、この xnに線形予測を適用することにより、自己相関を取り除いた信号 x'nを、 次式により算定する。
Cj" は予測フィルタにおけるタップ係数
Mはタップ数
[0308] この式 (4一 2)は、式(7)に対応する。
[0309] 上式の係数の更新は、次式により行うことができる c
[0310] [数 91]
( -_k)'
Vはステップサイズ
式(4一 3)
[0311] この式 (4一 3)は、式(9)に対応する。
[0312] 次いで、相関低減係数 "1を導入し、これによつて相互相関成分を低減した信号 D1 を、次式のように定義する。
[0313] [数 92]
Dj Xj' 式(4一 4)
[0314] この式 (4一 4)は、式(8)に対応する。
[0315] 本実施形態では、この を用レ、、未知数 hnmに並列接続される適用フィルタ係数 H nmを、次式により更新する。
[0316] [数 93]
μはステップサイズ 式(4- 5)
[0317] この式 (4-5)において、「EmDn |は分子ベクトルに相当し、「 」は第 1ベクトルに相 当し、「 」「Dリは第 2ベクトルに相当する。
[0318] また、 Emは、次式により計算される誤差信号である。
[0319] [数 94]
N
Ε^ = > (h nm -H Pm )TXP 式 (4— 6) η=1
[0320] 残る問題は!: nmの算定である。そこで を見ると、これは X に対する線形予測誤差 と捉えることもできる。従ってこの Dnを用いることにより rnmに NLMS法(Nor腿 lized-L MS:学習同定法)が適用でき、次式により算定することができる。
[0321] [数 95]
r = r " m + p X" I 》 x'j j
/0はステップサイズ 式(4— 7 )
[0322] この式(4_7)は、式(10)に対応する。
[0323] 次に、シミュレーションの結果を示す。
[0324] チャンネル数 N = 4、各参照信号パワーを定常とし、相関成分である
[0325] [数 96]
n
X
[0326] と、独立成分である
[0327] [数 97]
n
X
[0328] のパワー比を- 20dBとする。独立成分
[0329] [数 98] n
X
[0330] には白色雑音を与える。 μ =0. 1、 =0. 001としたときの Η11の同定誤差を図 11 に示す。示してあるのは相関成分
[0331] [数 99]
[0332] が白色雑音の場合と、ジェットファンの騒音を想定した有色雑音の場合である。有色 雑音の場合、線形予測による自己相関除去を適用した場合と適用していない場合の 2つを示してある。線形予測を行う際、タップ数 M = 5、 V =0. 1である。同図より、相 互相関成分が自己相関を持つ場合でも同定速度が向上していることが分かる。
[0333] 本実施形態では、 N≥ 2のマルチチャンネルシステムにおいて参照信号間の相互 相関成分が自己相関を持つような場合においても未知系の同定速度が向上するァ ルゴリズムおよびこのアルゴリズムを用いたマルチチャンネル FIR型適応フィルタを示 し、シミュレーションによりその有効性を確かめた。該アルゴリズムおよび該適応フィル タは、音声信号や実システムへの応用が可能である。
[0334] 上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らか である。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行 する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を 逸脱することなぐその構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
産業上の利用の可能性
[0335] 本発明のマルチチャンネルシステム同定装置によれば、高い精度でマルチチャン ネル系を同定することができるので、例えばエコーキャンセラのような電気音響の技 術分野にぉレ、て有益である。