無機有機複合処理亜鉛系めつき鋼板
技術分野
本発明は、 無機有機複合処理亜鉛系めつき鋼板に関する。 明
背景技術
自動車、 家電、 建材等の用途に用いられる亜鉛系めつき鋼板には 、 従来、 耐食性の向上や塗膜密着性の食向上などを目的として、 リ ン 酸塩処理やク ロメー ト処理が一般に行われている。 特に、 リ ン酸亜 鉛処理を施した後に、 クロメートによるシーリ ング処理を行う方法 は、 耐食性や塗料密着性の向上に効果が大きいために広く実施され てきた。 しかし、 近年、 環境問題の高ま りを背景に、 毒性の大きい クロメートを用いない表面処理技術の開発が望まれ、 次のような技 術が提案されている。
亜鉛系めつき鋼板の表面に、 第 1層と してニッケル、 マンガン及 びマグネシウムの中から選ばれる少なく とも 1種を含有する付着量 0.2 2.5g Zm2のリ ン酸亜鉛処理皮膜層を有し、 その上部に第 2 層と してエチレン系樹脂、 エポキシ系樹脂、 ウレタン系樹脂及びァ ク リル系樹脂の中から選ばれる少なく とも 1種の有機樹脂を主成分 とする有機系皮膜を有する リ ン酸亜鉛複合処理鋼板が開示されてい る (例えば、 特開 2001— 105528号公報参照。 ) 。
鋼板表面に、 亜鉛系めつき皮膜、 0.3g /m2以上のリ ン酸亜鉛処 理皮膜、 0.3 2 g Zm2の有機被膜が順次形成されており、 リ ン酸 亜鉛被膜が Mgを含有し、 リ ン酸亜鉛処理皮膜中の Mg/P (質量比) が 0.15以上でかつ Mg量が 20mg/m2以上である有機複合亜鉛系メ ッ
キ鋼板が開示されている (例えば、 特開 2001— 131763号公報参照。
) o
このよ うな処理を施した亜鉛系めつき鋼板は、 通常、 プレス成形 されアルカリ脱脂洗浄した後、 そのまま、 あるいは塗装して使用さ れる。 このため、 無塗装での耐食性および塗装後の耐食性の双方が 要求される。
しかしながら、 上述したような方法等によって得られる リ ン酸亜 鉛複合処理鋼板及び有機複合亜鉛系めつき鋼板は、 リ ン酸亜鉛皮膜 と有機皮膜間の腐食環境下での結合があま り強くなく、 塗装された 状態で湿潤率の極めて高い環境におかれると、 リ ン酸亜鉛皮膜と有 機皮膜間に剥離を生じ、 結果と して塗装後耐食性が十分でない場合 がある。 発明の開示
本発明は、 上記現状に鑑み、 処理された皮膜中に有害なクロメー トを含有せず、 優れた耐食性が得られる無機有機複合処理亜鉛系め つき鋼板を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、 亜鉛系めつき上にリ ン酸亜鉛皮膜と有機皮膜を有 する無機有機複合処理亜鉛系めつき鋼板において、 リ ン酸亜鉛皮膜 と有機皮膜間の腐食環境下での結合を高める方法を種々検討した結 果、 リ ン酸亜鉛皮膜の下地となる Znめっき層の状態が大きく影響す ることを見出し、 本発明に至った。
本発明の要旨とするところは、 鋼板上に (002) 面の結晶配向が 5 0 %以上の Znめっき層を有し、 その上層に Mgを含有する リ ン酸亜鉛 皮膜を有し、 更にその上層に有機皮膜層を有することを特徴とする 無機有機複合処理亜鉛系めつき鋼板である。 リ ン酸亜鉛皮膜中の Mg / P (質量比) が 0. 1以上であり、 Mg量が 20mgZ m 2以上であること
が望ましい。 また、 有機皮膜層がエポキシ樹脂およびまたは変性ェ ポキシ樹脂を含有し、 有機皮膜層の付着量が 0. 3〜 5 g / m 2である ことが望ましい。
上述した本発明の無機有機複合処理亜鉛系めつき鋼板は、 クロメ ートを使用せず、 良好な耐食性が得られ、 製造方法も簡易でコス ト 的にも優れるので自動車、 家電、 建材等の各種の用途に好適に使用 できる。 発明を実施するための最良の実施形態
以下、 本発明を詳細に説明する。
本発明の無機有機複合処理亜鉛系めつき鋼板の Znめっき層と して は、 電気めつき、 溶融めつき等の手段は問わないが、 (002) 面の 結晶配向が 50 %以上であることが必要である。 ここで、 (002) 面 の結晶配向とは、 X線回折装置によ り Znメ ツキ結晶の各ピーク強度 を測定し、 (002) 面に相当する面のピーク強度を各ピーク強度の 和で除して百分率と したもの、 と定義したものである。 Znめっき層 の付着量としては、 特に限定されないが、 よ り高度の耐食性が要求 される場合には 20 g / m 2以上であることが望ましい。
( 002) 面の結晶配向を 50 %以上に限定するのは、 50 %未満では 耐食性が悪化するからである。 50 %以上で良好な耐食性が得られる 理由は十分明確でないが、 一つにはこの様な状態のめっき層上に形 成される リ ン酸亜鉛皮膜の性状が変化し、 上層の有機皮膜層との密 着性が良好になるためと考えられる。 またも う一つには、 リ ン酸亜 鉛皮膜で被覆されず Znめっき層が露出している部分が存在する場合 でも所定のめっき層構造とすることでめっき層と上層の有機皮膜層 との密着性が良好になるためと考えられる。
( 002) 面の結晶配向を高く保つには、 Znの析出過電圧が低い条
件でめっきすればよい。.具体的には、 めっき浴濃度、 電流密度等で 制御でき、 めっき浴の Znイオン濃度を高くする、 あるいはめっき電 流密度を低くする、 ことによって (002) 面配向を高くすることが できる。
リ ン酸亜鉛処理皮膜は、 リ ン酸イオン及び亜鉛イオンを含有する 従来公知のリ ン酸亜鉛処理剤によって形成することができる。 上記 亜鉛イオンの供給源としては、 亜鉛を含有する化合物であれば特に 限定されず、 例えば、 亜鉛、 酸化亜鉛、 炭酸亜鉛、 硝酸亜鉛等を挙 げることができる。 上記リ ン酸ィオンの供給源と しては、 リ ン酸を 含有する化合物であれば特に限定されず、 例えば、 リ ン酸、 五酸化 リ ン、 リ ン酸二水素ナト リ ウム等を挙げることができる。 また、 リ ン酸亜鉛処理剤に使用される他の成分を適宜含有してもよい。 上記 リ ン酸亜鉛処理皮膜は、 Mgを含有することが必要である。 また更に Ni, Mn, Co, Cu, Fe等を単独または複合で含有するものであること が好ましい。 これにより、 亜鉛系めつき鋼板の耐食性をより向上さ せ、 かつ、 後処理皮膜との密着性を高めることができる。
上記リ ン酸亜鉛処理皮膜は、 皮膜中のマグネシウム/リ ン (皮膜 中のマグネシウムと リ ンとの質量比) が 0.1以上であることが好ま しい。 0.1未満であると、 添加による耐食性の向上がみられないお それがある。 上記リ ン酸亜鉛処理皮膜は、 皮膜中のマグネシウム量 が 20mg/m2以上であることが好ましい。 20mgZm2未満であると、 耐食性の向上がみられないおそれがある。
また、 上記リ ン酸亜鉛処理皮膜は、 下限 0.3g Zm2、 上限 5 g / m2の皮膜量で形成されたものであることが望ましい。 0.3g /m2 未満であると、 耐食性が不十分であるおそれがあり、 5 g /m2を 超えると、 厳しい加工を実施した場合に皮膜の剥離が発生するおそ れがある。
上記リ ン酸亜鉛処理皮膜を形成する処理液と しては、 リ ン酸ィォ ン、 亜鉛イオンを主成分として、 さ らに亜鉛以外の金属イオン、 硝 酸イオン、 フッ化物ィオン等も必要に応じて添加された市販の処理 液が使用できる。 リ ン酸亜鉛処理皮膜中にマグネシウムを含有させ る場合には、 硝酸マグネシウム等を上記のリ ン酸亜鉛処理液に添加 した浴が好適に用いられる。 皮膜中のマグネシウムの量及びマグネ シゥム /リ ンの比は、 硝酸マグネシウムの添加量によって制御でき る。
上記リ ン酸亜鉛処理剤による亜鉛系めつき銅板のリ ン酸亜鉛処理 方法と しては、 反応型処理、 塗布型処理のいずれの方法によっても リ ン酸亜鉛処理皮膜を形成させることが可能である。 反応型処理と しては、 たとえば、 亜鉛系めつき鋼板に脱脂、 水洗、 表面調整を行 つた後に、 上記リ ン酸亜鉛処理液と接触させ、 水洗、 乾燥を行う こ とによ り リ ン酸亜鉛処理皮膜を形成することができる。 リ ン酸亜鉛 処理皮膜の皮膜量は、 たとえば処理時間や処理剤濃度を変化させる ことによ り調整できる。
塗布型処理と しては、 たとえば、 亜鉛系めつき鋼板に、 必要な皮 膜量に応じた量の上記リ ン酸亜鉛処理液をロールコート法によ り塗 布するほか、 浸漬法ゃスプレー法によ り塗布した後にロール絞り法 によ り必要な塗布量に調整する方法もある。 リ ン酸亜鉛処理剤を亜 鉛系めつき鋼板に塗布した後、 乾燥炉等を用いて乾燥させることに よ り、 リ ン酸亜鉛処理皮膜を形成させる。
本発明の無機有機複合処理亜鉛系めつき鋼板は、 上記リ ン酸亜鉛 処理皮膜上に有機皮膜層を有するものであり、 これによつて耐食性 がいつそう改善される。 有機皮膜層は、 有機樹脂を含有し、 更に耐 食性向上の目的で各種の防鲭添加剤や架橋剤を配合することが可能 である。 また目的に応じて、 摺動性付与のためのワックス成分や、
意匠性付与のための顔料等を配合することも可能である。
有機樹脂と しては、 密着性の観点から、 エポキシ樹脂およびまた は変性エポキシ樹脂を含有することが望ましい。 有機皮膜層の付着 量と しては、 0. 3〜 5 g / m 2であることが望ましく、 下限未満では 耐食性が十分でなく、 上限を超えると溶接が困難になる場合がある 有機皮膜層は、 コーター、 スプレー、 ディ ップ等の方法で塗布し た後、 焼き付け乾燥を行う ことで形成できる。
本発明のリ ン酸亜鉛処理層については、 両方の面に処理すること が望ましいが、 有機皮膜層については、 少なく とも一方の面、 すな わち無塗装での耐食性がもつとも要求される面に処理すればよい。 実施例 1
以下に実施例によって本発明を詳細に説明する。
(亜鉛めつき鋼板)
電気亜鉛めつき鋼板製造ラインにて、 Zn付着量 (片面あたり) 40 gノ m 2で、 めっき浴濃度とめっき電流密度を調整することによ り 、 Zn結晶配向の異なる各種の亜鉛めつき鋼板を製造した。
(リ ン酸亜鉛処理)
前記電気亜鉛めつき鋼板をアル力 リ脱脂の後、 市販の Ti02コ口ィ ド系表面調整処理を行い、 リ ン酸亜鉛処理を行った。 リ ン酸亜鉛処 理液は Znイオン 2. 5 g / 1 、 Niイオン 2. 0 g / l 、 Mnイオン 2. 5 g / 1 、 Mgイオン 15 g Z l 、 P04イオン 14 g / 1含有するものを用い、 スプレー法によ り温度 45°Cで処理時間 1〜10秒間処理し、 水洗乾燥 した。
(有機皮膜処理)
前記リ ン酸亜鉛処理亜鉛めつき鋼板を用い、 有機皮膜処理を行つ た。 有機皮膜処理は、 ビュル変性エポキシエステル樹脂にブロ ック
イ ソシァネー ト硬化剤、 変性ポリ エチレンワックス、 縮合ァゾ系の 赤色顔料を配合 (それぞれの固形分重量比は、 100 : 10 : 5 : 3 ) した水性榭脂をベースに、 コロイダルシリ力を固形分重量比で 16% になるよ うに添加した塗料を用い、 ロールコータによ り塗布し、 そ の後到達板温度で 150°Cになるように焼き付け、 水冷した。
(性能評価方法)
(002) 面結晶配向 ; RIGAKU製 RINT2000を用い管球 Cu、 40kV/200 mAにて 2 θ 5〜90° のスキャン ( 4° /min) を行い、 Znの各結晶 面のピーク強度を測定し、 002面強度を各結晶面ピーク強度の和で 除して (002) 面配向比を求めた。
リ ン酸亜鉛皮膜中 Mg, P量 ; 皮膜を全て溶解し、 ICP分析によ り 定量した。 またリ ン酸亜鉛皮膜量は、 前記 P量から、 Hopeiteの構 造を仮定の上計算で算出した。
有機皮膜量 ; 蛍光 X線分析によ り Siを定量し、 組成比から皮膜量 に換算した。
無塗装耐食性 ; サンプルを市販の洗浄油で洗浄後、 Uビー ド曲げ 加工 (サンプル幅 70mm、 BHF= 1 ton、 加工高さ =70mm、 ビー ド部ポ ンチ R = 5mm、 ビー ド部ダイス R = 3 mm、 ポンチ; = 5mm、 ダイス R = 5mm、 加工速度 = 25spm) を行い、 その側面 (ダイス側) を切 り出して、 脱脂した後、 端面と裏面をセロテープシールし、 CCT試 験 *を行った。 15サイクル後の赤鲭発生状況を観察した。 「〇」 ; 1 %未満、 「△」 ; 1〜10%、 「X」 ; 10%超。
塗装密着性 ; サンプルを市販のアルカ リ脱脂液 (pH=10.5、 40°C 、 1分浸漬) 、 自動車用化成処理 (日本ペイント製サーフダイ ン 25 00MZL) を施した後、 自動車用カチオン電着塗装 (日本ペイント製 V 20、 20μ、 170° 20分焼き付け) を行った。 一昼夜放置後 50°C温水 に浸漬し、 10日後取り出して 1 間隔の碁盤目カッ ト疵を入れ、 セ
口テープでの剥離を行った。 「〇」 ; 剥離なし、 「△」 ; カッ ト疵 の周辺の剥離、 「 X」 ; 剥離。
塗装後耐食性 ; サンプルを市販のアルカ リ脱脂液 (pH=10.5、 40 °C、 1分浸漬) 、 自動車用化成処理 (日本ペイント製サーフダイン 2500MZL) を施した後、 自動車用カチオン電着塗装 (日本ペイント 製 V20、 20 β , 170° 20分焼き付け) を行った。 その後地鉄に達する ク ロスカッ ト疵をつけ、 CCT試験 *を行った。 20サイクル後のフク レ幅を計測した。 「〇」 ; 1 mm未満、 「△」 ; l〜 2mm、 「X」 ; 2 mm超
* CCT試験条件 ; 塩水嘖霧 ( 5 %NaCl、 35) 6時間→乾燥 (50°C4 5%RH) 3時間→湿潤 (50°C95%RH) 14時間→乾燥 (50°C45%RH) 1時間、 を 1サイ クルと した繰り返し。
以上の評価結果を表 1に示した。
表 1
*: 1 m / m2未満
本発明の実施例では、 良好な特性が得られるのに比較し、 本発明 の範囲から外れる比較例については、 特性が悪化した。 産業上の利用可能性 .
本発明の無機有機複合処理亜鉛系めつき鋼板は、 クロメートを使 用せず、 良好な耐食性が得られ、 製造方法も簡易でコス ト的にも優 れるので自動車、 家電、 建材等の各種の用途に好適に使用できる。