物質を捕捉する機能を有する機能性ポリマー、 当該ポリマーを含む物質捕捉用試 薬キット、 および当該ポリマーを利用した物質の回収方法
技術分野
本発明は、 物質を捕捉する機能を有する機能性ポリマー、 当該ポリマーを含む 物質捕捉用試薬キット、 および当該ポリマーを利用して物質を回収する方法に関 明
するものである。
糸 1 背景技術
細胞、 組織、 体 、 細菌あるいはウィルスなどの生物試料から目的とする生体 成分を得るためには、 生物試料から目的成分を抽出し、 分離精製することが必要 となる。 たとえば RNAを得る場合には、 一般に RNAは遊離した状態では存在せず、 タンパク質や脂質、 糖等から構成される複雑な成分とともに存在するため、 超音 波、 熱などの物理的な方法や、 タンパク質分解酵素や界面活性剤による処理、 も しくは有機溶媒処理などを用いて生物試料を破壌、 変性させることによって RNA を抽出する。 その際、 生物体を構成しているタンパク質を始めとする各種成分も RNA抽出液中に大量に混在する。 従って精製された RNAを得るには、 抽出操作後、 共存する成分を含む抽出液から RNAだけを分離精製する操作が必要となる。 分離 精製法としては、 有機溶媒による沈殿やイオン交換等の各種クロマトグラフ法あ るいは磁気ビーズを利用する方法などがある。
RNAの精製にしばしば使用される方法に、 有機溶媒で試料を変性させて RNAの みを抽出した後、 遠心分離、'エタノール沈殿、 イソプロパノール沈殿等を経て RNA ¾ "得 る AGPC 法 (.acid guanidinium thiocyanate phenol-chloroform extraction)がある。 (非特許文献 1 Γ Chomczynski and Sacchi (1987) ; Analytical Biochemistry , 162 : 156-159」 参照)
また、 従来の方法に比べ簡便な方法としてシリカを担体として使用する方法も 報告されている。 (非特許文献 2 「W. Hillen et. al. , Appl. Environ. Microb
iol, 64 (1998) 896 1175」 参照)
さらに、 RNA と特異的に吸着するポリアデニル酸 (Poly - A)を磁性シリカゲル粒 子に結合させた担体を用い、 RNA を分離精製する方法も開発されている。 (非特 許文献 3 「0bata K, Segawa 0, Yakabe M et. al., J. Biosci. Bioeng. 2001 ; 91 : 500-503」 参照)
また、 プロテオダリカンの側鎖成分であるダリコサミノグリカンを分画する方 法としては、 エタノール分画法、 イオン交換クロマトグラフィー法、 第 4級アン モニゥム塩を用いる分画法やアブイ二テイクロマトグラフィーなどが知られてい る。 (非特許文献 4 「グライコバイオロジー実験プロトコール (秀潤社) 1996 年、 80-88頁、 谷口直之、 鈴木明身、 古川清、 菅原一幸 著」 参照)
RNAの精製にしばしば使用される AGPC法は、 有機溶媒で試料を変性させて RNAの みを抽出した後、 遠心分離、 エタノール沈殿、 イソプロパノール沈殿等の操作に より RNAを得るため、 処理に時間と手間がかかり煩雑であるという問題点を有し ている。 また、 従来の方法に比べ簡便な方法とされている、 シリカを担体として 使用する方法では、 1段階で RNAを分離することができる。 しかしながら、 この 方法では、 DNAも担体に吸着するため、 シリカ担体から溶出後、 酵素処理、 遠心 分離、 クロマトグラフ法をさらに行って、 RNAのみを分離精製する必要がある。 また、 RNAと特異的に吸着するポリチミジル酸 (Poly-T) を磁性シリカゲル粒 子に結合させ、 それを担体として用いて RNAを分離精製する方法では、 DNAの混在 を防ぐことができる。 しかし、 この方法は、 溶液中の成分を不溶性固体上に捕捉 する方法であるので、 試料によってはその回収率にバラツキが生じるという問題 がある。
また、 グリコサミノダリカンの分画には、 エタノール分画法、 イオン交換クロ マトグラフィ一法、 第 4級アンモニゥム塩を用いる分画法やァフィ二テイクロマ トグラフィーなどが用いられる。 しかし、 いずれの方法も各グリコサミノダリ力 ンを沈殿または溶出するための臨界濃度が近いために、 個々のダリコサミノダリ カンを精製するには複数の方法を組み合わせる必要があり、 操作が煩雑で時間を 要し、 かつ溶媒類を大量に必要とする。
本発明は、 上記従来の問題に鑑みなされたものであり、 その目的は、 必要とす
る生体成分を得るための抽出、 分離、 精製等の操作に要する労力、 時間おょぴコ ストを低減することにある。 発明の開示
本願発明者等は先ず、 生体中の重要な酸性高分子物質が、 塩基性のポリアミノ 酸であるポリリジンに対して強い親和性を有する事実に着目した。
生体中の酸 I1生高分子物質としては、 DNAや RNAなどの核酸類、 ヒアルロン酸、 へ パリン、 コンドロイチン硫酸などのグリコサミノダリカン、 あるいはプロテオグ リカン類、 さらに糖タンパク質の末端に存在するシアル酸などが挙げられ、 これ らは、 生体中に広く分布する。 DNAや RNAは、 周知のごとく遺伝に関わる生命現象 の根源的な物質である。 また、 ヒアルロン酸やへパリン、 コンドロイチン硫酸な どのグリコサミノダリカンあるいはプロテオダリカン類は細胞間のマトリックス や関節、 眼球などに広く分布し、 生命の維持に必須の物質群である。 さらに、 糖 タンパク質や糖脂質を構成する糖鎖の末端に広く分布するシアル酸は、 ポリシァ ル酸型糖タンパク質として脳や神経組織などに分布し、 神経細胞の伸張に深く関 わっている。
これらの物質群のうち、 核酸の場合はリン酸を含み、 グリコサミノダリカンあ るいはプロテオグリ力ン類の場合は酸性糖としてゥロン酸ゃ硫酸化糖を含み、 そ してポリシアル酸の場合はシアル酸を含むため、 酸性の高分子ないし巨大分子で あり、 その分子量は共通して数千以上から数千万に及ぶ。 これらの酸性の高分子 は、 例えばメッセンジャー RNAの場合、 RNA末端のポリアデニル酸が塩基性のポリ アミノ酸であるリジンの重合体であるポリリジンに対して強い親和性を有するこ とが知られていた。 同様に、 シアル酸のポリマーであるコロミン酸もポリリジン と親和性を示すことが報告されている。
次に、 本願発明者らは機能性ポリマーに着目した。 近年、 有機高分子ゲルが産 業界のいろいろな分野で注目され、 基礎から応用にわたってさまざまな研究開発 が活発に行われている。 高分子ゲルとして、 ゲル周辺の環境 (温度、 電場、 光、 p H、 イオン濃度、 溶媒組成など) の変化によって可逆的な状態変化が起こるポ リマーが合成されている。 上述のようなゲル周辺の環境 (温度、 電場、 光、 p H
、 イオン濃度、 塩濃度、 溶媒組成など) の変化によって可逆的に状態を変化させ るポリマーのことを機能性ポリマーと称する。
本願発明者等は、 この機能性ポリマーの中でも特に、 温度応答性を有するもの に着目した。 ここで、 温度応答性ポリマーとは、 温度を変更することにより容易 にかつ秒単位の短時間で溶液—固体 (沈殿) の相転移が可逆的に進行するものを 意味する。
以上のように、 本願発明者らは、 生体成分と親和性を有するポリリジンなどの 物質に着目し、 これを物質捕捉用リガンドとして上述の温度応答性を有する機能 性ポリマーに導入することによって、 新規な機能性ポリマーを合成した。 その結 果、 この新規な機能性ポリマーは生体成分を高効率で捕捉することができ、 さら に、 この機能性ポリマーを利用すれば、 生体成分の簡易な分離 ·精製を実現する ことができることを見出し、 本発明を完成させるに至った。
すなわち、 本発明に係る機能性ポリマーは、 少なくともその構造中に、 物質捕 捉用リガンドと温度応答性成分とを有することを特徴とするものである。
ここで、 上記 「機能性ポリマー」 とは、 ゲル周辺の環境 (温度、 電場、 光、 p
H、 イオン濃度、 溶媒組成など) の変化によって可逆的な状態変化が起こるポリ マーのことを意味する。 そして、 本発明の機能性ポリマーは、 温度の変化によつ て可逆的な状態変化を起こさせる温度応答性成分を有することから、 温度応答性 ポリマーと呼ぶこともできる。 また、 上記 「物質捕捉用リガンド」 とは、 生体中に存在するタンパク質、 R N
A、 D N A、 グリコサミノグリカン類、 糖脂質などの各物質と結合し、 捕捉する 機能を有する物質を意味する。
上記の機能性ポリマーは、 当該ポリマーが溶液として存在する温度下で、 目的 とする物質が含まれる溶液中に添加されると目的物質と結合する。 その後、 当該 溶液の温度を変化させることで、 上記機能性ポリマーは固体化 (沈殿) する。 こ のように、 上記機能性ポリマーは、 温度変化によって種々の物質が混合された溶 液中から目的とする物質を効率的に捕捉することができるため、 物質の単離 ·精 製に利用することができる。
本発明の機能性ポリマーは、 上記物質捕捉用リガンドとして、 ポリリジンを用
いることが好ましい。 ポリリジンは、 上述のように R N Aゃグリコサミノグリカ ン類、 コロミン酸などといった生体内の酸性物質と強い親和性を示す。 それゆえ 、 上記の機能性ポリマーは、 バイオテクノロジー、 医療、 医薬品開発などといつ た種々の分野で利用される生体内の酸性物質を高効率に捕捉することができ、 当 該酸性物質の単離 ·精製に有効に利用することができる。
なお、 この物質捕捉用リガンドとして代表的なものは、 上述のポリリジンであ るが、 本発明における物質捕捉用リガンドは、 ポリリジンに限定されるものでは なく、 目的物質と親和性を有する物質であればよい。 上記物質捕捉用リガンドと しては、 例えば、 アミノ酸のポリマー (ポリリジン、 ポリグルタミン酸など) 、 ポリヌクレオチド、 多糖などを挙げることができる。
また、 本発明において、 「温度応答性成分」 とは、 温度を変化させることによ つて、 「液体 (溶液の状態) 一固体 (沈殿した状態) 」 の相転移が可逆的に起こ る成分のことを意味する。 この温度応答成分としては、 温度を変化させることに よって相転移が容易かつ短時間 (数秒単位) に起こるものが好ましく、 その一例 として、 イソプロピルアクリルアミ ドとメタクリル系化合物との共重合体を挙げ ることができる。
上記の共重合体は、 3 0 °C前後に曇点を有し、 曇点以下では澄明な水溶液とな り、 曇点以上では即座に沈殿するという性質を有するため、 目的とする物質をよ り効率的に捕捉することができるとともに、 扱いが容易であるという利点も有し ている。
さらに、 上記メタクリル系化合物は、 メタクリル酸であることが好ましい。 これによれば、 イソプロピルァクリルアミ ドとメタクリル酸との共重合体は、 遊離のカルボン酸 (力ルポキシル基) を多数含むため、 ポリリジンなどの物質捕 捉用リガンドをより多く結合させることができる。 それゆえ、 目的とする物質を 一層効率よく捕捉することができる。
なお、 本発明において、 上記メタクリル系化合物は、 上記のメタクリル酸に限 定されることなく、 それ以外に例えば、 メタクリル酸プチル、 メタクリル酸ァリ ルエステル、 エチレングリコールジメタクリレートなどを挙げることができる。 本発明に係る試薬キットは、 上述の何れかの機能性ポリマーを含んでなり、 物
質を捕捉するために使用されるものである。 上記の試薬キットを用いることによ つて、 目的物質の単離 ·精製を容易に実施することができる。
また、 本発明に係る物質の回収方法は、 上述の何れかの機能性ポリマー、 ある いは、 上記の試薬キットを利用して物質を捕捉することによって行うものである 0
上記の物質の回収方法の具体的な一例を、 以下に説明する。 血液、 体液、 組織 抽出液等と当該ポリマーとを混合し、 当該ポリマーが溶液状態となる温度で対象 とする生体成分を捕捉させる。 その後、 当該ポリマーが不溶化する温度に混合溶 液の温度を変化させ、 当該ポリマーを沈殿させる。 これにより、 生体成分をポリ マーと結合した状態で回収することができる。 なお、 温度応答性ポリマー以外の 機能性ポリマーを用いた場合も同様に、 溶液状態で目的物質を捕捉した後周囲の 環境を変化させることによってポリマーを不溶化し、 目的物質を回収することが できる可能性がある。
物質捕捉機能を付与した機能性ポリマーと結合した状態の生体成分をポリマー から脱離、 回収する方法は、 以下のとおりである。 たとえば、 ポリリジンを導入 した機能性ポリマーに生体成分を捕捉させた場合には、 高濃度の塩溶液を用いる ことにより、 簡易かつ高収率に目的の生体成分を回収することができる。
すなわち、 生体成分が結合した機能性ポリマーが溶液状態となる温度において 、 至適濃度の塩溶液を加えた後、 当該ポリマーが不溶化する温度に溶液の温度を 変化させ、 遠心分離等により上清を回収すればよい。
本発明の物質の回収方法は、 R N A、 コロミン酸、 グリコサミノダリカンの何 れかを回収するものであってもよい。
上記の R N A、 コロミン酸、 グリコサミノダリカンは、 何れも生体中に含まれ る成分であり、 バイオテクノロジーや医療、 医薬品開発など種々の分野に利用さ れている。 しかし、 これらの成分は、 生体中に微量にしか含まれず、 これらの単 離に従来使用されているァフィ二テイクロマトグラフィーなどの方法では、 多大 な時間と労力を要するとともに、 大量の試薬、 溶媒を使用するために、 非常にコ ストがかかる。
本発明の物質の回収方法によれば、 試薬や溶媒の使用量を従来よりも大幅に
減らすことができ、 かつ高い効率で上述のような生体中の有用成分を単離 ·精 製することができる。 さらに、 本発明の回収方法を用いれば、 2つ以上の物質 を含む溶液から目的とする物質を順次選択的に捕捉し、 単離することができる。 また、 本発明の物質の回収方法は、 ムチン型糖タンパク質を回収するもので あってもよい。
ムチンは、 コアタンパク質の Ser/Thr 残基に結合した O結合型糖鎖を多く 含む糖タンパク質の一種である。 典型的なシアル酸である N—ァセチルノイラ ミン酸は、 この O結合型糖鎖の非還元末端に付加しており、 ポリアユオンのク ラスター構造を形成する。 ムチン型糖タンパク質は、 消化器官に広く分布して おり、 消化酵素や外部から浸入した病原菌から組織を保護する機能を有する。 グリコサミノダリカンと同様、 ムチン型糖タンパク質も、 通常、 第 4級アンモ 二ゥム塩を使用して単離される。 それゆえ、 実施例にも示すように、 本発明の 物質の回収方法によって効率よく回収することが可能である。
ムチン型糖タンパク質は、 分子内にクラスタータイプの酸性基を有し、 ポリ カチオンペプチドと相互作用をするという報告例がほとんどないため、 本発明 の回収方法によるムチン型糖タンパク質の回収は、 重要な知見であると言える。 本発明の物質の回収方法によって、 ムチン型糖タンパク質を効率よく回収す ることができる。 これによつて、 これまでムチン型糖タンパク質を回収するこ とが困難であったために、 多大な労力を要していたムチン型糖タンパク質の関 与する免疫反応のメカニズムの解明に貢献できることが期待できる。 そして、 ムチン型糖タンパク質の関与する免疫反応に基づく炎症の機構解明や、 その炎 症の治療薬の開発、 あるいはガンの浸潤におけるムチン型糖タンパク質の役割 の解明、 および、 その結果に基づくガン転移制御などといった医療上きわめて 重要な技術の発展に貢献することが期待できる (参考文献 1 「川島博人 著、 生化学、 第 7 6卷、 207-218、 2004年」 参照) 。
本発明のさらに他の目的、 特徴、 および優れた点は、 以下に示す記載によつ て十分分かるであろう。 また、 本発明の利点は、 次の説明によって明白になる であろう。
図面の簡単な説明
図 1 (a) 〜 (b) は、 本実施の形態で例示した温度応答性ポリマーの構造を 表した図である。 図 1 (a) は、 P I PAAm、 図 1 (b) は、 MA— p o 1 y 、 図 1 (c) は、 メタクリル酸の構造式である。 なお、 図 1 (a) およぴ図 1 ( b) において、 nは 2以上の自然数である。
図 2は、 図 1 (b) の MA-polyに物質捕捉用リガンドとしてポリリジンを導 入するための反応を示した模式図である。 図 2において、 (a) は MA_polyの 構造を、 (b) はカルボ-ルイミダゾールの構造を、 (c) は MA-polyにイミ ダゾール基が結合して活性化されたものの構造を、 (d ) はポリリジンの構造 ( IIは 2以上の自然数) をそれぞれ示す。
図 3は、 実施例 1において合成したポリリジン結合型ポリマーが、 溶液一沈 殿の相転移を起こす温度を測定するための実験結果を示したグラフである。 図 中の実線はポリリジン結合型ポリマー (PL- MA-poly) の吸光度の変化を示した もので、 破線はポリ リジンを結合していない温度応答性ポリマー (MA- poly) の吸光度の変化を示したものである。
図 4は、 実施例 2において、 ポリ リジン結合型ポリマーがポリアデュル酸 (P o l y-A) を捕捉することを確認するための実験結果を示したグラフで ある。 図中の実線はポリ リジンを結合していない温度応答性ポリマー (MA- poly) の吸光度の変化を示したもので、 破線はポリ リジン結合型ポリマー (PL- MA- poly) の吸光度の変化を示したものである。
図 5は、 実施例 2において、 ポリリジン結合型ポリマー (PL- MA_Poly) に捕 捉されたポリアデニル酸を脱離回収するための至適塩濃度を選択するための実 験結果を示したグラフである。 なお、 塩溶液については、 NaCl 溶液を用いた。 図 6は、 実施例 3において、 RNA粗抽出液からポリリジン結合型ポリマー により RN Aを捕捉した後に、 元の RN A粗抽出液に残存する RNAを測定し た結果を示したグラフである。 グラフ中で、 Aは捕捉前の RNA粗抽出液の吸 光度、 Bはポリリジン結合型ポリマー (PL- MA- poly) 処理後の吸光度、 Cはポ リ リジンを結合していない温度応答性ポリマー (MA- poly) の吸光度を表して レヽる。
図 7は、 実施例 3において、 ポリリジン結合型ポリマー (PL- MA- poly) に捕 捉された R N Aを脱離回収するための至適塩濃度を選択するための実験結果を 示したグラフである。
図 8には、 実施例 3において、 脱離回収した R N Aと元の粗抽出液の R N Aと を比較するために行った、 ァガロースゲル電気泳動の結果を示す。 図中の Mは分 子量マーカー、 ①〜④は元の粗抽出液を順に希釈した R N A粗抽出液、 ⑤は粗抽 出液中の R N Aをポリリジン結合型ポリマーで捕捉した後の上清、 ⑥は R N Aを 捕捉したポリリジン結合型ポリマー (PL-MA- poly) から 1 . 2 Mの塩化ナトリウ ム水溶液で回収した R N Aをそれぞれ電気泳動した後の泳動像である。
図 9は、 実施例 4において、 ポリリジン結合型ポリマーがポリシアル酸 (コ 口ミン酸) を捕捉することを確認するための実験結果を示したグラフである。 図中の実線はポリリジンを結合していない温度応答性ポリマー (MA- poly) の 吸光度の変化を示したもので、 破線はポリ リジン結合型ポリマー (PL- MA- poly) の吸光度の変化を示したものである。
図 1 0は、 実施例 4において、 ポリリジン結合型ポリマーに捕捉されたポリ シアル酸 (コロミン酸) を脱離回収するための至適塩濃度を選択するための実 験結果を示したグラフである。
図 1 1 ( a ) 〜 (c ) は、 実施例 5において、 へパリン、 へパラン硫酸およ ぴヒアルロン酸の混合溶液にポリリジン結合型ポリマーを加えて捕捉し、 1 M 塩化ナトリゥム水溶液を用いて脱離回収したものをセルロースァセテ一ト膜電 気泳動により分析した結果を示した図である。 図 1 1 ( a ) は混合溶液に最初 にポリリジン結合型ポリマーを加えて捕捉した物質の分析をしたもの、 図 1 1 ( b ) は 1回目の捕捉後の混合溶液にポリリジン結合型ポリマーを加えて捕捉 した物質を分析したもの、 図 1 1 ( c ) は 2回目の捕捉後の混合溶液にポリ リ ジン結合型ポリマーを加えて捕捉した物質を分析したものである。
図 1 2は、 実施例 5において、 へパリン、 へパラン硫酸おょぴヒアルロン酸 を完全に捕捉したポリリジン結合型ポリマーから各物質を選択的に脱離するこ とを示した実験結果を表した図である。 図中の左端のレーン (H P H S H A standard) は捕捉前の混合溶液の分析結果である。 捕捉したポリリジン結
合型ポリマーを 1 0 OmM塩化ナトリゥム水溶液で捕捉物質を脱離させ、 その 後 20 OmMから 1 000 mMまで順次脱離操作を操り返して得た物質の分析 結果を表している。
図 1 3は、 実施例 6において、 コンドロイチン硫酸 Aおよび Cの選択的捕捉 についてキヤビラリ一電気泳動による分析結果を示した図である。 図中の a ) はコンドロイチン硫酸 A、 b) はコンドロイチン硫酸 C、 c) はコンドロイチ ン硫酸 Aおよび Cの等量混合物の分析結果を示している。 d) はコンドロイチ ン硫酸 Aおよび Cの等量混合物にポリリジン結合型ポリマーを加えて捕捉した 後の上清中に残存する物質の分析結果、 e) はコンドロイチン硫酸 Aおよび C の等量混合物にポリリジン結合型ポリマーを加えて捕捉した物質の分析結果を 示している。
図 14は、 実施例 7において、 ポリリジン結合型ポリマーによるヒアルロン 酸おょぴその酵素分解物の選択的捕捉についてキヤピラリー電気泳動による分 析結果を示した図である。 図中の (a) は高分子量ヒアルロン酸と当該ヒアル ロン酸を酵素処理により低分子化したヒアルロン酸の混合溶液、 (b) はポリ リジン結合型ポリマーを加えて捕捉した後の上清、 (c) はポリリジン結合型 ポリマーが捕捉した物質の分析結果を示している。
図 1 5 (a) 、 図 1 5 (b) は、 実施例 7において、 ポリリジン結合型ポリ マーによるブタ皮膚由来ヒアルロン酸おょぴストレプトコッカス ·ズーェビデ ミクス (Streptococcus zooepidemics) 由来ヒアノレロン酸の捕捉 ίこつレ、てキヤ ピラリー電気泳動による分析結果を示したグラフである。 図 1 5 (a) がプタ 皮膚由来ヒアルロン酸、 図 1 5 (b) がス トレプトコッカス ' ズーェピデミク ス (Streptococcus zooepidemics) 由来ヒアルロン酸の捕捉実験結果を示して いる。 発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明についてより具体的に説明するが、 本発明はこの記載に限定され るものではない。
本実施の形態では、 本発明に係る機能性ポリマーの一例として、 イソプロピル
アクリルアミ ド系のポリマーを温度応答性成分 (温度応答性ポリマー) とし、 こ れに物質捕捉用リガンドとしてポリ リジンを導入した機能性ポリマーについて説 明する。
温度応答性ポリマーの一つであるィソプロピルァクリルアミ ド系のポリマーは 、 末端に 1個のカルボン酸 (カルボキシル基) を持ち、 低温では水溶性であるが 3 2 °Cで相転移を起こし、 疎水性となって凝集するために水に対して不溶となり 沈殿する。 イソプロピルアクリルアミ ド系のポリマーは、 参考文献 2 (Hideko Ka nazawa, Yuki Kashiwase, Kazuo Yamamoto, Yoshikazu Matsushima, Akihiko Ki kuchi, Yasuhisa Sakurai, and Teruo Okano, "Temperature-Responsive Liqui d Chromatography. 2. Effects of Hydrophobic Groups in N-Isopropylacrylam ide Copolymer- Modified Silica" , Anal. Chem. 69卷, 1997年, 823- 830頁 )に記載の方法により合成することができる。
上記イソプロピルアクリルアミ ド系のポリマーとして具体的には、 N—イソプ 口ピルァクリルアミ ドの重合体、 イソプロピルァクリルアミ ドとメタクリル系化 合物 (メタクリル酸、 メタクリル酸プチル、 メタクリル酸ァリルエステル、 ェチ レンダリコールジメタクリ レートなど) との共重合体などを挙げることができる 先ず、 イソプロピルアクリルアミ ド系のポリマーのより具体的な例として、 ィ ソプロピルァクリルァミ ドとメタタリル酸ブチルとの共重合体 (PIPAAmと呼ぶ) を挙げて、 その製造方法について説明する。 上記 PIPAAm (図 1 ( a ) 参照、 図 1 ( a ) において、 nは 2以上の自然数) は、 イソプロピルアクリルアミ ド及び メタクリル酸プチルを原料とし、 ポリマー伸張試薬として 3—メルカプトプロピ オン酸、 反応開始剤として、 2, 2—ァゾビスイソブチル二トリル(AIBN)を用い て合成することができる。
上記 PIPAAmへのポリ リジンの導入は、 図 2に示すようにして実施することが できる。 すなわち、 ポリマー中の遊離のカルボン酸をカルボニルジイミダゾール (CDI) (図 2 ( b ) 参照) などを用いて活性化し、 ポリ リジンを結合させる。 こ れによって、 ポリ リジンはポリマー中の遊離のカルボン酸に結合する。
なお、 上述のメタクリル酸ブチルから合成されるイソプロピルアクリルアミ ド
系のポリマーは、 末端に 1個のみカルボン酸を有するものであるが、 ポリマー中 のカルボン酸数が増加すれば、 ポリリジンの結合量も増加する。
つまり、 ポリマー合成の原料として上記メタクリル酸ブチルの代わりにメタク リル酸を使用すると、 ポリマー中のカルボン酸を増加することができる。 このィ ソプロピルアクリルアミ ドとメタクリル酸との共重合体については、 MA- polyと 呼ぶ (図 1 ( b ) 参照、 図 1 ( b ) において、 ηは 2以上の自然数) 。 上記 ΜΑ - ρ olyは、 イソプロピルァクリルアミ ド、 メタクリル酸 (図 1 ( c ) 参照) を原料 とし、 ポリマー伸張試薬として 3 _メルカプトプロピオン酸、 反応開始剤として 2, 2—ァゾビスイソブチル-トリル(AIBN)を用いて合成することができる。 こ れによって、 温度応答性を保ち、 遊離のカルボン酸を増加させたポリマーである MA- polyを合成することができる。 なお、 メタクリル酸の比率を適宜変更するこ とにより、 カルボン酸をさらに多く含むポリマーを合成することができる。
上述の方法で合成された MA-polyへのポリリジンの導入は、 PIPAAmの場合と同 様にして、 ポリマー中の遊離のカルポン酸を、 カルボ二ルイミダゾール(CDI)を 用いて活性化することにより行うことができる。
以上のような方法で製造された機能性ポリマーは、 例えば、 温度 0〜2 0 °Cで 最小量の水に溶かし、 2 0〜5 0 °Cに温度を上昇させて沈殿を得る操作を繰り返 すことによって、 精製することができる。
物質捕捉用リガンドとしては、 ここで例示したポリリジン以外にも、 例えば、 ポリグルタミン酸、 ポリアデ-ル酸などのポリアミノ酸、 DNA断片などのポリヌ クレオチド、 ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸断片などの多糖を使用すること ができる。 これらの物質捕捉用リガンドは、 温度応答性ポリマー (温度応答性成 分) に直接結合させて導入するものである。 また、 ポリリジン結合型ポリマーは 分子内に多数のアミノ基を含有するため、 このアミノ基を介して、 医薬品候補、 タンパク質、 糖質、 核酸などをさらに導入することができる。 そして、 導入され たこれらの物質をリガンドとして、 受容体の探索を行うこともできる。
また、 機能性ポリマーに含まれる温度応答性成分としては、 ここで例示した PI PAAm、 MA_Poly以外に、 温度応答性ポリマーとしてよく使用されている N -イソプ 口ピルアクリルアミ ドの重合体であるポリイソプロピルアクリルアミ ドゃ、 ポリ
ビニルアルコール、 ポリ ヒ ドロキシアルキルセルロース、 ポリエチレンォキシド などが使用可能である。 ポリイソプロピルアクリルアミ ドは、 低温では水溶性で あるが、 3 2 °Cで相転移を起こし、 疎水性となって凝集するために水に対して不 溶となり沈殿する。
本実施の形態で説明した、 イソプロピルアクリルアミ ド系ポリマーにポリリジ ンを物質捕捉用リガンドとして導入した機能性ポリマー(以下ポリリジン結合型 ポリマーと略す)を用いると、 例えば、 DNAや RNAなどの核酸類、 ヒアルロン酸、 へパリン、 コンドロイチン硫酸などのダリコサミノダリカンあるいはプロテオグ リカン類、 ムチンなどの糖タンパク質等の糖鎖の末端に広く分布するシアル酸等 の、 生体中の酸性高分子を捕捉することができる。
次に、 本発明の機能性ポリマーを用いて物質を捕捉し、 回収する方法の一例と して上記ポリリジン結合型ポリマーを用いて、 細胞粗抽出成分から R N Aを捕捉 して回収する方法について説明する。 なお、 本発明はこれに限定されるものでは ない。
細胞、 組織等から R N Aを抽出した R N A粗抽出溶液に、 ポリリジン結合型ポ リマーを加えて混合する。 当該ポリマーが水溶性となる温度でポリマーに導入し たポリリジンは R N Aを捕捉する。 その後、 当該ポリマーが不溶性となる温度に 反応溶液の温度を変化させる。 R N Aを捕捉した状態のポリマーを遠心分離等に より沈殿させ、 上清を除いて沈渣を回収する。 回収したポリマーに、 ポリマーが 水溶性となる温度で高濃度の塩溶液、 たとえば 1 . 2 Mの塩化ナトリゥム水溶液 を加え、 R N Aをポリマーから脱離させる。 ポリマーが不溶性となる温度に溶液 の温度を変化させ、 遠心分離等によりポリマーを沈殿させて上清を採取する。 こ の上清に目的とする R N Aが含まれている。 この方法は R N Aを捕捉、 回収する 場合に限定されるものではなく、 他の目的物質を捕捉、 回収する場合にも適用す ることができる。 なお、 目的物質をポリマーから脱離させるときに用いる塩溶液 の濃度は、 目的物質に応じて適切な濃度を使用する。
上記の方法により、 細胞、 組織等から抽出した R N A粗抽出溶液中の R N Aを 、 ポリリジン結合型ポリマーを用いて捕捉した後に回収することによって、 粗抽 出した R N A溶液に共存する不純物を除去することができる。
さらに、 上記ポリリジン結合型ポリマーをはじめとする本発明の機能性ポリマ 一を用いることにより、 複数の生体成分を含む溶液から目的とする生体成分を順 次選択的に捕捉、 回収することもできる。 これは物質捕捉用リガンドとの親和性 が異なる複数の物質が、 溶液中に含まれている場合に利用できる方法である。 た とえば、 複数の生体成分を含む溶液に物質捕捉用リガンドを有する機能性ポリマ 一を加えると、 最初に物質捕捉用リガンドと最も親和性の強い物質を捕捉するこ とができる。 これを回収した残りの溶液に、 さらに当該ポリマーを加える操作を 繰り返すことにより、 順次捕捉用リガンドと親和性の弱い物質を捕捉、 回収する ことができる。
同様に、 物質捕捉用リガンドとの親和性の強弱を利用して、 複数の物質を回収 時に選択することができる。 たとえば、 ポリリジンを物質捕捉用リガンドとして 導入した機能性ポリマーを用いた場合、 複数の生体成分を含む溶液中のすべての 成分を完全に捕捉できる量のポリマーを加えて、 生体成分を捕捉した状態のポリ マーを回収する。 その後、 濃度の低い塩溶液を加えて目的物質を脱離、 回収する と、 最初に物質捕捉用リガンドと最も親和性が弱い物質を回収することができる 。 次に、 少し濃度の高い塩溶液でポリマーを処理すると、 2番目に親和性が弱い 物質を回収することができる。 このようにして、 順次塩溶液の濃度を上げて、 同 様の操作を繰り返すことによって、 複数の物質を分離して回収することができる 物質捕捉用リガンドを有する機能性ポリマーを利用した、 生体成分の分別回収 法は、 従来のクロマトグラフィー手段では不可能な短時間で、 簡便に生体成分の 分別回収ができ、 また有機溶媒による分別沈殿のように大量の有機溶媒を使用す る必要がないため、 環境にやさしい優れた方法である。
また、 ポリリジン結合型ポリマーにおいて、 物質捕捉用リガンドであるポリリ ジンに医薬品候補、 タンパク質、 糖質、 核酸などをさらにリガンドとして結合さ せた場合、 結合したこれらの物質と親和性のある生体成分を捕捉、 回収するのみ ならず、 導入されたこれらの物質に対応するする受容体のスクリーニングを行う こともできる。 すなわち、 たとえば 96穴、 384穴あるいは 1536穴プレート中でリ ガンドを結合したポリマーの溶液と標的受容体を含む細胞や生体組織に由来する
成分を含む溶液を混合する。 溶液内では分子間相互作用に基づく結合反応が容易 に起こるので、 結合反応により受容体を捕捉したポリマーを回収、 あるいは検出 することができる。
以上で説明した、 本発明の機能性ポリマーを利用した物質の回収方法は、 生体 中に存在する目的物質を選択的に捕捉して分別できるという優れた方法であり、 本発明により得られる産業上の有用性は極めて高い。 なお、 本発明の機能性ポリ マーは、 温度応答性を有するものであり、 温度を変化させて不溶化して反応系か ら取り出すという方法であるが、 本発明を応用することによって、 例えば、 光や p Hなどの変化によって状態変化を起こす機能性ポリマーに物質を捕捉する機能 を付与できる可能性もある。
また、 本発明の試薬キットは、 本発明の機能性ポリマーを含み、 さらに、 目的 物質の捕捉および回収に必要な試薬類等を含んでキット化されたものである。 こ のようにキット化しておけば、 目的物質を含む可能性のある試料溶液を得るだけ で、 目的物質を捕捉、 回収することができる。 これにより、 機能性ポリマーおよ び回収に必要な各試薬を調製する必要がなく、 目的物質を取得するために必要な 時間を大幅に短縮することができ、 操作も簡便になる。
〔実施例〕
以下、 本発明の実施例について、 図面に基づいて説明するが、 本発明はこの記 载に限定されるものではない。
〔実施例 1〕 ポリリジン結合型ポリマーの合成
本実施例 1では、 先ずイソプロピルアクリルアミ ド系ポリマーの一つである、 イソプロピルアクリルアミ ドとメタクリル酸との共重合体 (MA - poly) を合成し た。 MA- polyの合成は、 参考文献 2に記載の方法にしたがって実施した。
すなわち、 下記一般式 (1 ) で表されるイソプロピルアクリルアミ ド
II CH3
CH2 = CH -C - NH - CH ^ …い)
CH3
及ぴ、 下記一般式 (2) で表されるメタクリル酸ブチル
O
CH2 = C(CH3)C— O—(CH2)3CH3 (2)
を原料とし、 ポリマー伸張試薬として、 下記一般式 (3) で表される 3—メルカ プトプロピ才ン酸、
HS— CH2— CH2— COOH (3) 反応開始剤として、 下記一般式 (4) で表される 2, 2—ァゾビスイソブチロニ トリル (AIBN)
合成された MA - polyの構造は、 下記一般式 (5) (なお、 下記一般式 (5) に おいて nは 2以上の自然数) に示す通りである。
n
MA- polyへのポリリジンの導入は図 2の反応式に示すようにして行った。 すな わち、 MA- poly中の遊離のカルボン酸を、 カルボ-ルイミダゾール(CDI)を用いて 活性化し、 ポリリジンを結合させた。
なお、 上記参考文献 2において合成された共重合体は、 下記一般式 (6 ) (な お、 下記一般式 (6 ) において nは 2以上の自然数) で表される PIPAAm
HOOCCH CH2S
であり、 末端に 1個のみカルボン酸を有する。 それに対し、 本実施例 1では、 ポ リマー合成の原料として、 メタクリル酸ブチルの代わりにメタクリル酸を使用し ているため、 ポリマー中のカルボン酸を増加することによって、 ポリリジンの結 合量を増加させることができる。
ポリマー中のカルボン酸の数は、 合成における各原料の比を変更することによ つて、 増減可能であるため、 各原料の比を検討した。 その結果、 本実施例では、 イソプロピルアクリルアミ ド、 メタクリル酸、 3 -メルカプトプロピオン酸、 2, 2 -ァゾビスィソブチルニトリルを 250: 2. 5: 7: 1の比率で反応させることにより 、 温度応答性を保ち遊離のカルボン酸を増加させた MA- polyを合成することがで きた。 当該ポリマーの質量分析の結果では、 MALDI- TOF MSでは m/zl011から m/zl6 89に至るィソプロピルァクリルアミ ドに相当する分子量として 1 1 3ずつ異なる 分子イオンが観察された。
なお、 上記の構造式では、 MA- polyおよび PIPAAmはともに、 イソプロピルァク リルアミ ドとメタタリル系化合物とが規則的に交互に結合した共重合体を表して いるが、 本発明の機能性ポリマーにおける共重合体は、 これに限定されることな
く、 ィソプロピルァクリルアミ ドとメタクリル系化合物とランダムに結合してい てもよい。
上記原料比で合成したポリイソプロピルアクリルアミ ドに、 図 2に示す方法で ポリリジンを導入した。 得られたポリリジン結合型ポリマー (粗収率、 94. 4%) を 4°Cで最小量の水に溶かし、 37°Cに温度を変えることにより生じた沈殿を得る 操作を繰り返して、 過剰の試薬を除去した。 MALDI TOF- MSによって、 精製したポ リリジン結合型ポリマーの分子量は、 m/z l500〜! n/z4500にわたる多数のピークで 観察された。
当該ポリリジン結合型ポリマーが溶液一沈殿の相転移を起こす温度を測定する ために、 ポリマーの 2 %水溶液を、 温度を変えながら 5分間インキュベートした 直後の 580 nmの吸光度を測定した。 結果は図 3に示すように、 29°Cから濁り始め 、 31〜32°Cを境として相転移が進行し不溶性となり白濁し、 ポリリジンを結合さ せてもポリマーの物理化学的性質はほとんど変わらないことを確認した。
以下の実施例 2ないし実施例 8の実験に使用したポリリジン結合型ポリマーは 、 実施例 1で合成したポリマー、 すなわち、 メタクリル酸を原料として合成した イソプロピルアクリルアミ ド系ポリマー (MA- po ly) に物質捕捉用リガンドとし てポリリジンを導入した PL- MA- poly (図 2参照) である。
〔実施例 2〕 ポリリジン結合型ポリマーによるポリアデニル酸の捕捉および回 収
mRNAの末端にポリアデニル酸 (Po ly - A) が結合していることは古くから知ら れているが、 その機能は mRNAの安定化のために付加されると考えられている。 mRNA中のアデニル酸は、 時に 2 5 0ヌクレオチドほども付加し、 Poly- A尾部と 言われるひとつながりのポリアデニル酸を形成する。
4°Cで、 Poly- A水溶液 (0〜50 μ g/100 μ 1) にポリリジン結合型ポリマー(1 m g)を加えて 5分間インキュベート後、 37°Cの恒温槽に移し、 2分間インキュベート した。 生じたポリマーの沈殿を遠心分離して除き、 上清の 260mnの吸光度を測定 した結果を図 4に示す。 ポリリジンを導入していない原料のポリマーと Po ly- Αの 結果を、 対照実験として実線で示した。 破線はポリリジン結合型ポリマーを使用 した場合の結果である。 ポリリジンを結合していないポリマー (MA- po ly) を使
用した場合は、 濃度に比例して 260nmにおける吸光度が増加した。 一方、 ポリリ ジン結合型ポリマー (PL- MA-poly) を使用した場合、 Poly- Aが 10 までの吸光 度は、 ほぼ 0を示した。 その後、 20 gまでは徐々に吸光度が増加し、 20 以 上では Poly-A添加量に比例して吸光度が増加した。 この結果から、 この実験に使 用したポリ リジン結合型ポリマーは、 l mgあたり 10 i gの Poly- Aを吸着するこ とがわかった。
ポリリジン結合型ポリマーに捕捉された Poly- Aは、 図 5に示すように、 0. 7M ( 700mM) 以上の NaCl溶液によって効率よく回収することができた。
〔実施例 3〕 細胞粗抽出成分からの R N Aの捕捉およぴ回収
培養細胞から粗抽出した R N Aを、 ポリリジン結合型ポリマーを用いて、 高純 度かつ高効率で分離精製する方法を検討した。
使用した細胞は、 接着細胞の 1つであるマウス繊維芽細胞 (NIH3T3) である。 培養細胞からの RNA抽出は、 RNA抽出キット、 IS0GEN (NipponGene製)を用いて行 つた。 NIH3T3細胞を培養した 10 cm培養ディッシュ中、 IS0GEN溶液添加により培 養細胞を溶解後、 クロ口ホルム、 イソプロパノール、 エタノール沈殿を経て抽出 した RNA水溶液の 260 nmの吸光度測定から抽出量を算出し、 10 cm培養ディッシュ 1枚あたり(約 200 万セル/ディッシュ)、 約 2 /z gの RNAが抽出された。 RNA水溶 液は 4 g/mlの濃度に調整した。 RNAのポリリジン結合型ポリマーによる捕捉実 験は、 RNA (160 ng相当)及びポリ リジン結合型ポリマー(1 mg)を溶解した水溶液( 100 ; u l)を 4 °Cで混合後、 37°Cでインキュベートし、 遠心分離により不溶性とな つたポリマーを除去し、 上清に残存する RNAの 260 nmの吸光度を測定することに よって実施した。
図 6にその結果を示す。 図 6において、 Aは試料として用いた RNA水溶液(160 ng/100 μ ΐ)の吸光度、 Βはポリリジン結合型ポリマー (PL- MA- poly) 処理によ り残存する RNAの吸光度、 Cは対照実験としてポリリジンが結合していないポリ マー (MA- poly) による処理後の吸光度を示す。 ポリリジンが結合していないポ リマー処理 (C ) では吸光度の大きな減少は見られず、 R N Aの捕捉効果が全く 観察されなかった。 それに対し、 ポリリジン結合型ポリマー処理 (B ) では、 水 溶液中の RNAが極めて効率よく捕捉されたことにより、 吸光度が試料として用い
た RNA水溶液に比べ約 2. 3 。/。と、 およそ 1/50に減少し、 大部分の RNAがポリ リジン 結合型ポリマーにより捕捉されたことがわかった。
ポリ リジン結合型ポリマーにより捕捉された RNAについて、 高濃度の NaCl処理 による脱離回収を検討した。 結果を図 7に示す。 600 mM 以上の濃度で NaClの濃 度に対応して RNAが脱離され、 1200 mMで最大に達した。 脱離回収された RNAを未 処理の RNAと比較同定する目的で、 ァガロースゲル電気泳動による確認を行った 。 結果を図 8に示す。 図 8は、 抽出した RNAとポリリジン結合型ポリマー処理に おける上清(supernatant A)、 及ぴ RNAを捕捉したポリリジン結合型ポリマーから 1200 mM NaClにより RNAを回収した上清(supernatant B)についてァガロースゲル 電気泳動を行った結果である。
図中の Mは分子量マーカー、 ①ー④は抽出した総 RNA、 ⑤はポリリジン結合型ポ リマー処理によって RNA.を捕捉した後の上清 (supernatant A) を、 ⑥は RNAを捕 捉したポリ リジン結合型ポリマーに 1200 mMの NaCl溶液を処理して得られた上清 (supernatant B) 中の RNAを示す
本実験に用いた総 RNAのバンドは、 分子量マーカーの 2500-2700 bp 付近と 150
0-1800 bp付近の 2つのバンドであるが、 23000-1000 bpの広範囲にわたり多くの バンドが帯状に観察されている。 ⑤の結果から、 ポリリジン結合型ポリマー添加 によって、 RNAはポリリジン結合型ポリマーに捕捉され、 supernatant Aの RNAの バンドは完全に消失することが確認された。 ⑥では、 ⑤でポリリジン結合型ポリ マーにより捕捉された RNAのバンドが、 1200 mMの NaCl処理により脱離され、 総 RN
A (① -④) と同じ位置のバンドとして確認できた。 また、 抽出した総 RNA中に見 られた共存物質のバンドが消失していることからポリリジン結合型ポリマーによ り RNAのみが選択的に捕捉され、 不純物が除去されていると考えられた。
これらの結果より、 ポリリジン結合型ポリマーにより水溶液中の RNAを選択的 に捕捉し、 NaCl処理により高効率で脱離回収し、 精製することができた。
上述の実施例 2では、 ポリリジン結合型ポリマーを使用する核酸類の捕捉を試 みた。 核酸類、 なかでも mRNAはその末端にポリアデニル酸が存在する。 ポリアデ 二ル酸は古くからポリリジンに対して親和性を示すことが知られているが、 本願 発明者らは、 ポリアデニル酸とポリリジンの親和性に着目し、 ポリリジン結合型
ポリマーによるポリアデニル酸の捕捉について検討したところ、 本実施例の結果 にみられるように満足すべき結果を得ることができた。 さらに、 上述の実施例 3 に示すように、 ポリリジン結合型ポリマーによる RNAの選択的捕捉についても効 率のよい精製法を確立することができた。
従来使用されている核酸の精製法のうち、 溶液法を利用する方法は、 フ ノー ルなどの有機試薬や有害溶媒を使用することが多く、 多数の試料を扱うときには 環境上の配慮や実験者の健康被害などの問題を孕んでいた。 しかし、 本発明を利 用するとそのような問題は生じない。 また、 磁気ビーズ等の表面に核酸と親和性 を示す成分を塗布し、 ァフィ二ティーを利用して分離する方法は、 結合反応が液 一固反応の二相間の反応であるため、 反応効率や吸着したビーズ上からの核酸の 回収に問題があった。 本発明は均一溶液内における親和性を利用し、 温度を変化 させて沈殿とすることにより回収できることから、 その効率は極めて高いと言え る。
〔実施例 4〕 ポリシアル酸の捕捉および回収
コロミン酸は α 2, 8—結合を介して重合したシアル酸ポリマーであり、 生体内 では神経接着因子(NCAM)の構成成分として重要である。 幼若型 NCAMは長鎖のポリ シァル酸糖鎖を有するが、 成熟型 NCAMではポリシァル酸糖鎖の鎖長が短くなると 言われ、 神経細胞の生長や成熟に重要な役割を果たす。 また、 ある種の細菌の細 胞膜に存在するポリシアル酸は脳炎を引き起こす原因になるといわれ、 ポリシァ ル酸の選択的捕捉法の開発は、 脳神経に関わる疾患の臨床診断や脳炎原因菌の予 防の手段になると考えられる。 ポリシアル酸は古くからリジンと親和性を示して 結合することが知られている。
そこで、 ポリリジン結合型ポリマーを使用して、 ポリシアル酸の捕捉を検討し た。 ポリシアル酸としてコロミン酸を用い、 これを 0 - 50 μ g/100 の濃度範囲 で含む溶液に、 ポリリジン結合型ポリマーを 2 mg加え、 4°Cでィンキュベートし た。 その後、 37°Cでインキュベートして、 上清中に残存するコロミン酸を、 コロ ミン酸を構成する N-ァセチルノイラミン酸量を指標として、 レゾルシノール一塩 酸法により定量した。
結果を図 9に示す。 図中の実線は、 比較対照となるポリリジンを結合していな
いポリマー (MA- poly) であり、 破線はポリリジン結合型ポリマー (PL- MA- poly ) による捕捉結果である。 ポリリジンを結合していない MA- polyは、 コロミン酸 の添加量に応じて吸光度の上昇が見られ、 コロミン酸を全く捕捉しないが、 PL - M A - polyは 5 μ g/100 1以下の濃度でコロミン酸を完全に捕捉した。
ポリリジン結合型ポリマーに捕捉されたコロミン酸は、 捕捉したポリマーを高 濃度の食塩溶液に 4°Cで溶解し、 37°Cで沈殿させることによって、 図 1 0に示す ように効率よく回収することができた。 図に示すように、 食塩の濃度を変更して 回収率を検討したところ、 少なくとも 0. 3 M以上の食塩溶液処理により、 捕捉さ れたコ口ミン酸をほぼ完全に回収できることがわかった。
本実施例 4では、 ポリリジン結合型ポリマーによるポリシアル酸 (コロミン酸
) の選択的捕捉を検討し、 満足できる結果を得ることができた。 ポリシアル酸は 、 欧米においてある種の微生物により引き起こされる脳炎の原因物質であるとの 報告や、 神経細胞接着因子の末端に存在し神経の成長に重要な役割を果たすとの 報告があり、 その生理作用に興味が持たれているが、 生体内の存在量が極めて微 量なために研究が遅れている。 本発明で得られたポリリジン結合型ポリマーが示 すポリシアル酸に対する高い結合能は、 これらの研究を飛躍的に進展させ、 新し い医薬品開発に結びつく可能性がある。
以下の実施例 5ないし 7では、 ポリリジン結合型ポリマーを用いるダリコサミ ノグリカン類の選択的捕捉について 3種類の検討をした。 グリコサミノダリカン 類は分子内に酸性のゥロン酸類や硫酸基を持つ複合糖質である。 したがって、 ポ リリジン結合型ポリマーの塩基性を利用してこれらの複合糖質を効率よく捕捉で きることが期待されたので、 種々のグリコサミノグリカン類を用いて選択的捕捉 について検討した。
〔実施例 5〕 グリコサミノグリカン類の選択的捕捉および選択的離脱 プロテオダリカン類あるいはグリコサミノダリカン類は、 酸性の多糖からなる 複合糖質であり、 生体内で細胞間マトリッタスの主要な構成成分として重要な役 割を果たしている。 酸性多糠はその構造から、 コンドロイチン硫酸類、 デルマタ ン硫酸、 へパリン、 へパラン硫酸、 ケラタン硫酸、 ヒアルロン酸などに分類され 、 ヒアルロン酸以外は硫酸化されている糖鎖をもつのが特徴である。 これらの糖
鎖の基本構造は、 ァミノ糖とゥロン酸(ケラタン硫酸の場合はガラクトース)の 2 糖繰り返し単位から構成されている。
本願発明者らは、 ポリリジン結合型ポリマーがポリアデニル酸ゃポリシアル酸 を選択的に捕捉できることに着目し、 グリコサミノグリカン類に対しても捕捉能 を有するのではないかと考え、 鋭意検討を進めた。
へパリン、 へパラン硫酸およびヒアルロン酸をそれぞれ 40 μβ含む混合溶液(1 00 μΐ)に、 ポリリジン結合型ポリマー(2 mg)を加え、 4°Cで 5分間インキュベー トし、 相転移反応により 37°Cでポリマーを回収した。 回収したポリマーに対し、 1 M NaClを用いて処理することによって、 捕捉されたダリコサミノグリカンを脱 離した。 ポリマーに捕捉されたグリ コサミノダリカンをセルロースアセテート膜 電気泳動により分析した。 結果を図 1 1 (a) 〜 (c) に示す。
図 1 1 (a) は混合溶液に最初にポリリジン結合型ポリマーを加えて捕捉した 物質を分析したもの、 図 1 1 (b) は 1回目の捕捉後の混合溶液にポリリジン結 合型ポリマーを加えて捕捉した物質を分析したもの、 図 1 1 (c) は 2回目の捕 捉後の混合溶液にポリリジン結合型ポリマーを加えて捕捉した物質を分析したも のである。
図 1 1 (a) 、 図 1 1 (b) およぴ図 1 1 (c) とも、 左端のレーン (HP HS HA s t a n d a r d) は、 捕捉前のへパリン (HP) 、 へパラン硫酸 (HS) およぴヒアルロン酸 (HA) の混合溶液の分析結果である。 図 1 1 (a ) の S u p 1 (M i x) * 1は 1回目のポリリジン結合型ポリマーによる捕捉に より、 捕捉されなかった上清の分析結果であり、 図 1 1 (b) および図 1 1 (c ) の * 1はこれと同じ試料の分析結果である。 図 1 1 (a) の S u p 2 (M i x ) はポリリジン結合型ポリマーにより捕捉された物質の分析結果である。 図 1 1 (a) の S u p l (HP) および S u p 2 (HP) は対照実験の結果で、 へパリ ンのみを含む溶液にポリリジン結合型ポリマーを加えた場合における捕捉後の上 清の分析結果が S u p l (HP) 、 捕捉後の物質の分析結果が S u p 2 (HP) である。 図 1 1 (b) の S u p 1 * 2は 2回目のポリリジン結合型ポリマーによ る捕捉により、 捕捉されなかった上清の分析結果であり、 図 1 1 (c) の * 2は これと同じ試料の分析結果である。 図 1 1 (b) の S u p 2は 2回目のポリリジ
ン結合型ポリマー添加により捕捉された物質の分析結果である。 図 1 1 ( c ) の S u p 1は 3回目のポリリジン結合型ポリマーによる捕捉により、 捕捉されなか つた上清の分析結果である。 図 1 1 ( c ) の S u p 2は 3回目のポリリジン結合 型ポリマー添加により捕捉された物質の分析結果である。
図 1 1 ( a ) の結果から、 混合溶液からへパリンが選択的に捕捉されたことが わかる。 さらに、 図 1 1 ( b ) の結果から、 2回目では残余のへパリンとへパラ ン硫酸の一部が捕捉され、 ヒアルロン酸は依然として捕捉されないまま上清中に 残存している。 2回目で捕捉されずに上清に残ったヒアルロン酸およぴへパラン 硫酸をさらにもう一度ポリリジン結合型ポリマーで処理した結果を図 1 1 ( c ) に示す。 図 1 1 ( c ) における Suplにみられるように、 上清にはヒアルロン酸の みが観察された。 これらの結果から、 ポリリジン結合型ポリマーを用いて溶液中 から目的成分を選択的に捕捉回収することができることが確認された。
以上の条件を元に、 へパリン、 へパラン硫酸、 ヒアルロン酸混合物を捕捉した ポリリジン結合型ポリマーから、 各ダリコサミノダリカンの選択的脱離を以下の ようにして実施した。
先ず、 各グリコサミノダリカン(10 w g)を完全に捕捉したポリリジン結合型ポ リマー(5 mg)について、 100 mM NaCl溶液を用いて脱離操作を行った後、 相転移 反応により 37 °Cでポリマーを回収した。 続いて、 回収したポリマーについて、 2 00 mM NaCl溶液を用いて脱離操作を行った。 この操作を 1000 mMまで繰り返し、 回収した NaCl溶液をセルロースァセテ一ト膜電気泳動により分析した。
結果を図 1 2に示す。 図 1 2中の左端のレーンは、 へパリン、 へパラン硫酸お よびヒアルロン酸混合液を分析した結果である。 左から 2番目以降のレーンは、 それぞれの NaCl濃度で脱離した溶液を分析した結果である。 分析の結果、 100お よび 200 mM NaCl処理では、 ヒアルロン酸が選択的に脱離し、 400および 600 mM N aCl処理ではへパラン硫酸が、 800および 1000 mM NaCl処理ではへパリンが選択的 に脱離していることがわかる。
これらの結果から、 ポリ リジン結合型ポリマーを用いて溶液中から目的成分を 選択的に分別脱離することができることが確認された。 以上の結果から、 へパリ ン、 へパラン硫酸およびヒアルロン酸をモデルとして、 ポリリジン結合型ポリマ
一を利用してグリコサミノグリカン類の分別法を創案することができたと言える ポリリジン結合型ポリマーを使用することによりクロマトグラフィー手段では 不可能な短時間で簡便にグリコサミノグリカン類の調製が可能となった。 また有 機溶媒による分別沈殿のように大量の有機溶媒を使用する必要がなく環境に配慮 した優れた方法である。
〔実施例 6〕 グリコサミノダリカン類 (コンドロイチン硫酸) の選択的捕捉 コンドロイチン硫酸 Aおよび Cは組織中に共存するが、 これらの分離は容易で はない。 本実施例ではポリリジン結合型ポリマーを利用して、 コンドロイチン硫 酸 Aおよぴコンドロイチン硫酸 Cの選択的捕捉の例を示す。
コンドロイチン硫酸 Aおよび Cをそれぞれ 30 i g含む混合物の水溶液(100 μ 1 )にポリリジン結合型ポリマー(2 mg)を加え、 4°Cで 30分間インキュベート後、 相 転移反応によりポリマーを沈殿として回収した。 回収したポリマーに対し、 1 M NaClを用いて処理し、 脱離したコンドロイチン硫酸を回収した。 コンドロイチン 硫酸 Aおよびコンドロイチン硫酸 Cはセルロースァセテ一ト膜電気泳動により区 別することが難しいので、 それぞれをコンドロイチナーゼ A B Cにより消化して 不飽和 2糖としてキヤビラリ一電気泳動により同定した。
結果を図 1 3に示す。 a ) および b ) はそれぞれコンドロイチン硫酸 Aおよび コンドロイチン硫酸 Cを酵素により消化した結果であり、 c ) はコンドロイチン 硫酸 Aおよびコンドロイチン硫酸 Cの等量混合溶液を酵素消化した結果である。 d ) はポリリジン結合型ポリマーを用いて捕捉した後の、 上清中に残存するコン ドロイチン硫酸 Aおよぴコンドロイチン硫酸 Cの混合溶液を分析した結果であり 、 e ) はポリリジン結合型ポリマーにより捕捉されたコンドロイチン硫酸を分析 した結果である。
不飽和 2糖の生成比から上清 d ) には、 コンドロイチン硫酸 Aが多く存在する ことがわかる。 またポリリジン結合型ポリマーで捕捉された分画には、 コンドロ ィチン硫酸 Cが多く存在する。 ここには示さないが、 捕捉されたコンドロイチン 硫酸についてポリリジン結合型ポリマーを用いて再度捕捉実験を繰り返すことに より標準品とほぼ同等の不飽和 2糖の生成比をもつコンドロイチン硫酸 Cを捕捉
することができた。 一方、 上清についても同様に捕捉実験を繰り返すことにより 、 標準品とほぼ同等の不飽和 2糖の生成比をもつコンドロイチン硫酸 Aを得るこ とができた。
コンドロイチン硫酸は点眼薬などの医薬品として広く使用されているが、 添付 文書にはコンドロイチン硫酸として記載され、 コンドロイチン硫酸 Aまたはコン ドロイチン硫酸 Cのどちらが使用されているのかは明確にされていない。 本発明 によれば、 より明確な組成を有するコンドロイチン硫酸を医薬品原料として使用 することができるため、 患者の得られる保健衛生上の恩恵は大きいと考えられる 〔実施例 7〕 グリコサミノダリカン類 (ヒアルロン酸) の分子量の差異による 選択的捕捉
ヒアルロン酸は N-ァセチルダルコサミンおよぴグルクロン酸からなる 2糖の単 純な繰り返し単位からなり、 分子量が 1000万以上に及ぶ高分子グリコサミノダリ カンである。 他のグリコサミノグリカンと異なり、 コアタンパク質を含まず、 ま た硫酸基ももっていない。 ヒアルロン酸の生理作用は分子サイズと密接な関係が あり、 関節炎の治療には高分子製品が使用されるが、 高分子のヒアルロン酸は微 量の鉄イオンなどの金属イオンにより低分子化するといわれ、 ヒアルロン酸製品 の分子量制御に関するさまざまな技術開発が望まれている。
本実施例では、 ヒアル口ン酸製品の分子量がポリリジン結合型ポリマーのヒァ ルロン酸に対する捕捉能に及ぼす影響を調べ、 ポリリジン結合型ポリマーが異な る分子量分布を有するヒアルロン酸製品を調製するのに極めて有効なことを発見 した。 以下に、 本実施例 7における実験について、 具体的に説明する。
連鎖球菌ス トレプトコッカス · ズーェピデミクス (Streptococcus zooepidemi cs) 由来の高分子量ヒアルロン酸 (平均分子量、 約 1 5 0万、 10 ^ g) と、 あら かじめ同ヒアルロン酸をゥシ睾丸由来のヒアル口 -ダーゼで短時間消化して低分 子化したヒアルロン酸混合物(100 g)の混合溶液(100 μ ΐ)に、 ポリリジン結合 型ポリマー(2 mg)を加え、 捕捉実験を行った。
結果を図 1 4に示す。 (a ) は混合溶液をキヤピラリー電気泳動により分析し た結果である。 最初に低分子化したヒアルロン酸 (図中 Lで示す) が観察され、
ついで高分子ヒアルロン酸が観察される。 (b ) および (c ) はポリリジン結合 型ポリマーを用いて捕捉実験を行い、 上清およびポリマーに捕捉されたヒアルロ ン酸をそれぞれ分析した結果である。 図に示すとおり、 ポリリジン結合型ポリマ 一は選択的に高分子の.ヒアルロン酸 (図中 Hで示す) のみを捕捉し、 低分子化し たヒアルロン酸は全く捕捉されず、 効率よく高分子量のヒアルロン酸のみを捕捉 することができた。
さらに、 同様の実験をブタ皮膚由来ヒアルロン酸と、 ストレプトコッカス 'ズ ーェピデミタス (Streptococcus zooepidemics) 由来のヒアルロン酸とを用レ、て 、 別々にポリリジン結合型ポリマーによる捕捉実験を行った。 ブタ皮膚由来のヒ アルロン酸は、 平均分子量が 10万〜 15万程度といわれ、 ス トレプトコッカス .ズ ーェピデミタス (Streptococcus zooepidemics) 由来のヒアノレロン酸 (平均分子 量 1 5 0万) と比べて、 著しく分子量の低いヒアルロン酸である。
ポリリジン結合型ポリマーにより捕捉されたヒアルロン酸を分析した結果を、 図 1 5 ( a ) およぴ図 1 5 ( b ) に示す。 図 1 5 ( a ) は、 ブタ皮膚由来ヒアル ロン酸の捕捉実験の結果である。 図 1 5 ( b ) は、 ストレプトコッカス 'ズーェ ピデミタス (Streptococcus zooepidemics) 由来ヒアルロン酸の捕捉実験の結果 である。 図 1 5 ( a ) および図 1 5 ( b ) において、 Aは捕捉前のヒアルロン酸 の分析結果、 Bはポリリジン結合型ポリマーが捕捉した物質を HI収した後の上清 の分析結果を示している。
図 1 5 ( a ) の Bの分析結果が示すように、 ブタ皮膚由来ヒアルロン酸では一 部捕捉されないヒアルロン酸分子種が存在することがわかる。 一方、 図 1 5 ( b ) の Bの波形が示すように、 ストレプトコッカス 'ズーェピデミタス (Streptoc occus zooepidemics) 由来のヒアルロン酸は完全にポリマーに捕捉され、 上清に は全くヒアルロン酸は検出されなかった。
〔実施例 8〕 ゥシ顎下腺ムチンの捕捉
ムチンは、 コアタンパク質の Ser/Thr残基に結合した O結合型糖鎖を多く含む 糖タンパク質の一種である。 典型的なシアル酸である N—ァセチルノイラミン酸 は、 この O結合型糖鎖の非還元末端に付加しており、 ポリア二オンのクラスター 構造を形成する。 ムチン型糖タンパク質は、 消化器官に広く分布しており、 消化
酵素や外部から浸入した病原菌から組織を保護している。
グリコサミノダリカンと同様、 ムチン型糖タンパク質も、 通常、 第 4級アンモ 二ゥム塩を使用して単離されるため、 本願発明者等は、 ムチン型糖タンパク質の 一種であるゥシ顎下腺ムチンをポリリジン結合型ポリマーで捕捉することを試み た。
ゥシ顎下腺ムチン (B SM) 50 ^ gの水溶液 50 μ 1を、 5 OmM食塩水中 でポリリジン結合型ポリマー (PL-MA- poly) 2mgと混合した。 捕捉実験は上記 の各実施例と同様の方法で実施され、 B SMは、 1M N a C 1 ( 1 00 1 ) 中で当該ポリマーをィンキュベートすることによって回収された。
コントロール実験では、 捕捉ポリマーとして P I PAAmを使用して同様の実 験を行った。 レゾシノール/ HC 1法を用いて B SM中のシアル酸の分析を行う ために、 上記の 1M N a C 1が 25 μ 1使用された。 そして、 レゾシノール/ HC 1法を用いた分光測定でシアル酸の量を求め、 このシアル酸の量から回収さ れたムチンの量を算出した。
その結果、 捕捉実験に用いられた B SMの量が 50 t gのとき、 ポリリジン結 合型ポリマーによって 44± 1. 5 gの B SMを回収することに成功した。 こ の結果から、 本発明のポリリジン結合型ポリマーは、 ムチン型糖タンパク質を効 率的に捕捉することができることがわかった。
上記の実施例 5ないし 8の結果から考察されることを、 以下の (1) 〜 (3) に示す。
(1) へパリン、 へパラン硫酸おょぴヒアルロン酸のポリリジン結合型ポリマ 一に対する捕捉能を比較した結果から、 結合能はへパリン、 へパラン硫酸および ヒアルロン酸の順に弱くなることを発見し、 これらの三種類の混合物からそれぞ れを選択的に捕捉、 あるいは選択的に脱離回収することに成功した。 この結果か ら、 物質捕捉用リガンドと目的物質の親和性の強弱による選択的な取得が可能で あることが判明した。
(2) コンドロイチン硫酸類にはコンドロイチン硫酸 Aおよび Cなどいくつか の同族体が存在する。 ポリリジン結合型ポリマーを用いて、 両者に対する親和性 を比較した結果、 ポリリジン結合型ポリマーがコンドロイチン硫酸 Cとより強く
結合することを発見し、 両者を分離することに成功した。 コンドロイチン硫酸は 点眼薬などの医薬品として広く使用されているが、 添付文書にはコンドロイチン 硫酸として記載され、 コンドロイチン硫酸 Aまたはコンドロイチン硫酸 Cのどち らが使用されているのかは明確にされていない。 本発明により、 より明確な組成 を有するコンドロイチン硫酸を医薬品原料として使用することができ、 患者が得 られる保健衛生上の恩恵は大きいと考えられる。
( 3 ) ヒアルロン酸は極めて広い分子量分布を有するポリマー糖鎖であり、 分 子量によりその生理活性が異なる。 例えば、 ヒザ関節炎の治療には高分子量のヒ アルロン酸が利用されている。 また、 血管新生阻害作用にはヒアルロン酸オリゴ マーが有用であるとされている。 それゆえ、 ヒアルロン酸製品の分子量制御に関 するさまざまな技術開発が望まれている。 以上のような理由から、 分子サイズの 異なるヒアルロン酸を、 ポリリジン結合型ポリマーを用いて選択的に捕捉する方 法を検討し、 ス トレプトコッカス ' ズーェピデミタス (Streptococcus zooepide mics) 由来の高分子量ヒアル口ン酸をブタ皮膚由来の低分子量ヒアルロン酸ある いはヒアルロン酸オリゴマーから分離することが可能であること見出した。
( 4 ) ムチン型糖タンパク質は、 コアタンパク質の Ser/Thr残基に結合した O 結合型糖鎖を多く含む糖タンパク質である。 本発明のポリリジン結合型ポリマー によって捕捉されることが確認されたポリヌクレオチドゃダリコサミノダリカン は、 直鎖状のポリマーであり、 これらの酸性ポリマーがポリリジンとともに複合 体を形成することは既に報告されている。 しかしながら、 ムチン型糖タンパク質 は、 分子内にクラスタータイプの酸性基を有しており、 ポリカチオンペプチドと 相互作用をするということに関しては、 ほとんど報告例がない。 本実施例におい ては、 このようなムチン型糖タンパク質も、 本発明のポリリジン結合型ポリマー を用いて効率的に捕捉できることが確認された。
以上のように、 本実施例では、 ポリリジン結合型ポリマーを利用する核酸、 ポ リシアル酸、 グリコサミノダリカン類、 および、 ムチン型糖タンパク質の選択的 捕捉およぴ回収方法について説明したが、 本発明はこれらの実施例に限られるも のではなく、 化学的あるいは物理的な手法により修飾したポリリジンを使用する ことによりさらに多様な生体成分の選択的捕捉に使用できる。 捕捉された成分は
低温状態のポリマー溶液に食塩などの高濃度塩溶液あるいは阻害剤 (例えば、 ヒ アルロン酸におけるヒアルロン酸結合性タンパク質など) を加えたのち、 溶液の 温度を溶液一固体 (沈殿) の相転移が生じる臨界温度を超えて変化させることに より容易に回収することができる。 また捕捉、 回収を複数回繰り返すことにより、 目的物質を高純度で得ることも可能である。
尚、 発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様ま たは実施例は、 あくまでも、 本発明の技術内容を明らかにするものであって、 そ のような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、 本発明の精 神と次に記載する特許請求の範囲内で、 いろいろと変更して実施することができ るものである。 産業上の利用の可能性
以上のように、 本発明の機能性ポリマーは、 少なくともその構造中に、 目的物 質と親和性のある捕捉用リガンドと、 温度応答性成分 (温度応答性ポリマー) と を有することを特徴とするものである。
上記の機能性ポリマーは、 温度の変化により短時間で溶液一固体 (沈殿) の相 転移が可逆的に進行するため、 溶液状態で目的物質を捕捉し、 その後温度を変化 させることで、 沈殿物として目的物質を簡便に捕捉して回収することができる。 従来使用されている例えばァフィ二テイクロマトグラフィーなどの分離手段で は、 大量の試薬類や溶媒を必要とするが、 本発明では最小量の試薬および溶媒を 使用することにより、 高い効率で目的物質を精製することができ、 コスト的にも 環境に配慮する面からも高く評価できる発明である。
また、 本発明の物質の回収方法は、 生体中に存在する目的物質を選択的に捕捉 可能な優れた方法であり、 本発明により得られる産業上の有用性は極めて高い。 本発明で示された例は、 生体中の有用成分を捕捉する機能を付与した機能性ポリ マーにより溶液内反応で捕捉し、 温度を変化 (上昇) させて不溶化して反応系か ら取り出すという画期的な方法であり、 実施例で示した例に限られるものではな く多くの応用が期待できる。
さらに、 本発明の機能性ポリマーを含み、 目的物質の捕捉および回収に必要な
試薬類等をキット化しておけば、 目的物質を取得するために必要な時間を大幅 ( 短縮することができ、 操作も簡便になる。