JP5282207B2 - 新規レクチン及びその製造方法並びに糖鎖検出方法 - Google Patents
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Description
またN型糖鎖は、アスパラギンの酸アミド基に糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンがN−グルコシド結合した糖鎖群であり、高マンノース型、混成型、複合型の3種類に分類される。このような糖鎖には、例えば、ヒトα1−酸性糖タンパク質、ヒトトランスフェリン、ヒトラクトフェリン、ヒトα-フェトプロテイン、ヒト免疫イムノグロブリン等が含まれ、発生分化、癌化などの細胞状態で変化するだけでなく、種や組織などでも特異的に存在することが確認されている。
例えばGnT-IIIは、混成型や複合型のN型糖鎖上に、バイセクティングGlcNAc結合を合成する。GnT-IIIには、N型糖鎖の高分岐化の抑制があることから、肺転移等の癌転移を抑制する作用や、免疫グロブリンG(IgG)の活性を高める作用を有することが示唆されている。
また、GnT-IVやGnT-Vは、それぞれN型糖鎖の高分岐化に作用することが知られている。GnT-IVは、絨毛癌と胞状奇胎の識別に有用であり、一方、GnT-Vは、癌の転移に関与しており、その後に、ポリ−N−アセチルラクトサミンの伸張が起こることが知られている(例えば、非特許文献3及び4参照)。
また、N型糖鎖にも種々の種類があり、レクチンを用いてN型糖鎖を詳細に分析するには、選択性が高いレクチンが必要とされている。
従って本発明は、特定のN型糖鎖に対して高い親和性を示す新規レクチンを提供することを目的とする。
[1] 以下の特徴を有するカヤタケ属担子菌に由来するレクチン:
(1)SDS電気泳動法による分子量が、12,000〜14,000であり、
(2)ゲル濾過による分子量が10,000〜40,000であり、
(3)N−末端領域のアミノ酸配列は配列番号1であり、
(4)N型糖鎖であって、非還元末端に、N−アセチルグルコサミン転移酵素−II(GnT−II)により転移されたN−アセチルグルコサミンを少なくとも有し、N−アセチルグルコサミン転移酵素−III(GnT−III)により転移されたN−アセチルグルコサミン(バイセクティングGlcNAc)を有さない糖鎖に結合し、
(5)前記N型糖鎖に対して結合定数1.0×10 5 M −1 以上で示される親和性を有する。
[3] 前記カヤタケ属担子菌がハイイロシメジである前記[1]又は[2]記載のレクチン。
[4] 前記[1]〜[3]のいずれかに記載のレクチンの製造方法であって、カヤタケ属担子菌から水系媒体抽出物を得ること、前記水系媒体抽出物を、イオン交換クロマトグラフィー及び疎水クロマトグラフィーを用いて精製すること、を含むレクチンの製造方法。
[5] ガラクトース残基及びN−アセチルガラクトサミン残基の少なくとも一方を含有する担体を用いたアフィニティークロマトグラフィー及び疎水性クロマトグラフィーの少なくとも一方により精製することを更に含む前記[4]に記載のレクチンの製造方法。
[7] 前記[1]〜[3]のいずれかに記載のレクチンと、支持担体とを含むレクチン固定化担体。
[8] 前記[1]〜[3]のいずれかに記載のレクチン、前記[6]に記載の標識レクチン又は前記[7]に記載のレクチン固定化担体を用いて、N型糖鎖であって、非還元末端にN−アセチルグルコサミンを含む糖鎖含有物を検出することを特徴とする糖鎖検出方法。
[9] 前記糖鎖含有物を他の化合物と分別することを更に含む[8]に記載の糖鎖検出方法。
[10] 前記[1]〜[3]のいずれかに記載のレクチンを含む、N型糖鎖であって、非還元末端にN−アセチルグルコサミンを有する糖鎖含有物の有無を判定する判定薬。
SDS電気泳動法(SDS−PAGE)による分子量の測定による分子量の測定は常法に従って行うことができる。
また煮沸処理を行わないレクチンの分子量は、ゲル濾過による場合、一般的な測定条件下で、分子量推定用標準タンパクを用いて推定した結果、5,000〜40,000のものであることが好ましく、10,000〜40,000のものであることが更に好ましい。
一方、本発明のレクチンは、その他のN−アセチルグルコサミン含有糖鎖には特異性を示さない。従って、O型糖鎖であって、非還元末端にN−アセチルグルコサミンを有する糖鎖やキトオリゴ糖には結合しないという特異性を示す。このような特異性は、N−アセチルグルコサミン特異的であることが既知の他のレクチン、例えばコムギ胚芽レクチン(WGA)、チョウセンアサガオレクチン(DSA)、アメリカヤマゴボウ(PWM)、バンデリアマメレクチン(GSL−II)には認められていない新規なものである。
ここで用いられる結合定数は、例えば、フロンタルアフィニティークロマトグラフィー(FAC)法等により測定することができ、本発明の場合、以下のようにして測定したものを意味する。
以下の基準式において、Aは溶出に用いる物質、A0は物質Aの初濃度、Bは固定化リガンド、Vは溶出容量、V0は標準糖鎖の溶出前端容量、Btは有効リガンド量、Kdは解離定数(結合定数の逆数)を意味する。本発明においては、物質Aの初濃度は充分に小さいと考えられるため、下記の基準式(3)を採用する。
中でも、カヤタケ属担子菌から水系媒体抽出物を得ること(抽出工程)、前記水系媒体抽出物を、イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製すること(精製工程)、を含むレクチンの製造方法により得られるレクチンであることが好ましい。
緩衝液としては、特に制限されることなく公知の緩衝液を用いることができる。中でも、pH3〜pH10の範囲に緩衝能を有するものが好ましく、pH6〜pH8の範囲に緩衝能を有する緩衝液がより好ましい。
本発明に用いられる緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液等を挙げることができる。中でも抽出効率の観点から、リン酸緩衝液等が好ましい。
緩衝液の塩濃度については、特に制限はないが、抽出効率と緩衝能の点から、1mM〜100mMであることが好ましく、5mM〜20mMであることがより好ましい。
また、緩衝液は各種の塩類を更に含むことができ、例えば、リン酸緩衝液に食塩を更に加えたリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)等を本発明における水系媒体として好ましく用いることができる。
水系媒体とカヤタケ属担子菌とから、水系媒体抽出物を得る手法については、特に制限はない。抽出効率の観点から、水系媒体中でカヤタケ属担子菌を粉砕して懸濁液とする方法が好ましい。また粉砕する方法としては、ミキサーやホモジナイザー等通常の粉砕方法を挙げることができる。
従って、本発明における抽出工程は、得られるレクチンの純度の観点から、リン酸緩衝化生理食塩水中で、カヤタケ属担子菌を粉砕し、遠心分離によって不溶物を除去して水系媒体抽出物を得る工程であることが特に好ましい。
イオン交換クロマトグラフィーでは、陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂を使用すればよく、例えばイオン交換基としては、ジメチルアミノエチル(DE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)、カルボキシメチル(CM)、四級アンモニウム(QA)、四級アミノエチル(QAE)、スルホプロピル(SP)、スルホエチル(SE)、リン酸(P)等を使用することができ、樹脂としては、各種セルロース系、デキストラン系、アガロース系、シリカ系、合成樹脂などがあるが、精製効率と回収率の観点からジエチルアミノエチル(DEAE)陰イオン交換樹脂が好ましい。
上記水系媒体抽出物を例えば陰イオン交換クロマトグラフィーに供した場合には、本発明のレクチンは、非吸着画分に含まれる。
溶離液としては、タンパク質(レクチン)を分画することができれば特に制限はなく、硫酸アンモニウムや酢酸等を挙げることができる。溶出方法としては、例えば、硫酸アンモニウム1.5Mからの濃度勾配による溶出または段階的溶出のいずれかが挙げられる。
上記水系媒体抽出物を疎水性クロマトグラフィーに供した場合には、OD280の吸光度で特定される2つの独立したピークが認められ、本発明のレクチンは、硫酸アンモニウム濃度0.6M〜0.05Mの濃度勾配による溶出される画分に含まれる。
このような他のクロマトグラフィーとしては、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等を挙げることができる。
透析処理する工程及び凍結乾燥する工程は、通常用いられる公知の方法によって行うことができる。
標識化合物としては、この用途に通常用いられるものであれば特に制限なく適用することができ、例えば、直接又は間接標識化合物、酵素、蛍光化合物等を挙げることができる。具体的にはビオチン、ジゴキシゲニン、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ、フルオレセインイソチオシアネート、CyDye等を挙げることができる。これらの標識化合物は常法によりレクチンと結合することができる。
また支持担体の構造としては、特に制限はなく、例えば、多孔質構造、繊維状構造、ゲル状構造等を挙げることができる。
活性化スペーサーを導入したゲルにレクチンを固定化してもよい。さらには、ホルミル基を導入したゲルにレクチンを固定化してからNaCNBH3で還元してもよい。また、NHS−セファロース(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)のような市販の活性化ゲルを使用してもよい。
アフィニティカラムの洗浄後、溶出は、該糖鎖を有効に溶出できる中性の非変性緩衝液中で、塩化ナトリウム、ハプテン糖等の脱着剤を用いて行われる。この緩衝液は、上記と同様であってもよい。脱着剤の濃度は、好ましくは、1mM〜500mM、特に好ましくは10mM〜200mM濃度である。
標識レクチンの検出手段は、用いられた標識化合物に応じて適宜選択される。例えば、吸光度測定、発光強度測定、蛍光強度測定、目視等により行うことができ、フロンタルアフィニティークロマトグラフィー(FAC)法等を好ましく用いることができる。
なお、分別工程は必ずしも検出工程と別個独立した工程でなくてもよく、検出することと分別することとが同時に行われても、連続して行われてもよい。
また、被検体の血液等、液体試料や、基板上にスポットされて固定化された乾燥試料に対して本発明のレクチンを接触させること及び、この接触により前記レクチンに結合し得る物質を検出すること含む検出方法も、本発明に含まれる。
(1)レクチンCNA−IIIの精製
ハイイロシメジ(Clitocybe nebularis)子実体粉末(日本きのこ研究所製)0.5mgに、20mlの0.02%NaN3/PBSを加えて、振とう機(CS−450 HITACHI社製)で7℃、2時間振とうした。次いで、遠心機(CF−51 HITACHI社製)で15,000rpm、20分遠心し、上清を粗抽出液(水系媒体抽出物)とした
Cカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製;φ10×100mm)にラクトース−アガロース(J−オイルミルズ社製)を5ml充填し、PBSで平衡化した後に、上記で得られた粗抽出液を供した。非吸着分をPBS(約26ml)にて回収し、ラクトース非結合性レクチン画分を得た。吸着分は、その後、0.1Mのラクトース溶液を溶出液として用いて25℃、0.5ml/分の条件下で溶出して回収した(ラクトース結合性レクチン画分)。ラクトース非結合性レクチン画分ついては、回収後、微量透析装置(TOMY社製 MD−003−50、分画分子量3500)でイオン交換クロマトグラフィーの溶離液A(50mM Tris−HCl、pH7.3)に4℃3時間透析を行い、濃縮した。
レクチンを含有する各画分は、280nmにおける吸光度(OD280)及び後述する赤血球凝集活性を測定することによって同定した。
上記(1)で得られたラクトース非結合性レクチン画分を、陰イオン交換樹脂DEAE−Sepharose Fast Flow(GEヘルスケアバイオサイエンス社製;17−0709−01)を使用し、溶離液A(50mM Tris−HCl pH7.3)及び溶離液B(0.5M NaCl/A)、溶出0〜14min(B−conc,0−100%)、1.0ml/minの流速で、室温にてクロマトグラフィーを行い、分取した。レクチン含有画分の特定は、OD280nmの吸光度及び後述する赤血球凝集活性を測定することによって同定した。
ラクトース非結合性レクチン画分は、陰イオン交換樹脂非吸着画分と吸着成分画分が含まれていることがわかった。
ウサギ保存血液(日本バイオテスト社製)を遠心分離(3000×g、3min、常温)し、赤血球のみとした。これにPBSを赤血球の約3倍量加えてよく混合し、同様の条件で遠心分離し上清を取り除いた。これを3回繰り返すことで血漿及び白血球を完全に取り除き、これを洗浄赤血球とした。この洗浄赤血球をPBSで希釈し、2%ウサギ赤血球液とした。
96ウェルタイタープレートの一レーンにPBSを各25μl入れ、ウェルに、レクチン溶液又は各クロマトグラフィーにおける回収画分を20μl入れ、順次1/2希釈系列を作製した。上記で得られた2%ウサギ赤血球液をそれぞれ40μl添加し、室温で約60分放置後、赤血球凝集活性を肉眼にて観察した。赤血球凝集活性は、凝集が認められた最大希釈度の逆数を原液の凝集力価とした。また、赤血球が凝集するレクチンの最大希釈倍率を求め、最小凝集濃度を算出した。
上記(2)で得られた陰イオン交換樹脂非吸着画分は赤血球凝集力価(力価)256を示し、陰イオン交換樹脂吸着画分は力価16を示した。
上記(2)により得られたレクチン含有画分を、電気泳動装置にはPhastsystem(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を使用し、ゲルにはHomogeneous20(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を使用したSDS−ポリアクリルアミド電気泳動に供した。試料溶液、分子量マーカーは共に1μl使用し、製品プロトコール及び常法に従って泳動を行い、相対移動度から分子量を推定したところ、陰イオン交換樹脂非吸着画分には、分子量12,000〜28,000に複数のバンドが確認された。
次いで、レクチン含有画分を以下に記載のとおり更に精製した。
クロマトグラフィーの溶離液C:1.5M硫酸アンモニウム/20mM酢酸ナトリウム(pH7.6)とD:0M硫酸アンモニウム/20mM酢酸ナトリウム(pH7.6)を調製した。また、カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製φ16×200mm)にButyl−Toyopearl(TOSOH社製)を10ml充填した。
上記(2)で得られた陰イオン交換樹脂非吸着画分を含む7mlの溶離液Cを、流速1.0ml/min常温にてカラムに供し、通過液はフラクションコレクター(GEヘルスケアバイオサイエンス社製;FRAC−100)で試験管に5mlずつ回収した。次いで、C:1.5M硫酸アンモニウム/20mM酢酸ナトリウム(pH7.6)を100分流した後、C:1.5M硫酸アンモニウム/20mM酢酸ナトリウム(pH7.6)100%からD:0M硫酸アンモニウム/20mM酢酸ナトリウム(pH7.6) 濃度勾配(濃度 C:100−0%,101−600分)で流した。通過液はフラクションコレクターで試験管に5mlずつ回収した。
クロマトグラフィー回収液のOD280を上記と同様の条件で測定し、また、赤血球凝集活性の測定を上記と同様に行った。
同じく、上記と同様の方法で、クロマトグラフィー回収液をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動に供した。上記赤血球凝集活性を示したレクチン含有画分では、分子量約12,000に単一のバンドを確認したため、これをCNA−IIIと決定した。
(1)レクチンCNA−IIIの精製
ハイイロシメジ(Clitocybe nebularis)子実体(福島県で採取)400gを凍結乾燥(FD−5N、EYELA社製)で凍結乾燥して、ハイイロシメジ子実体凍結乾燥粉末を得た。この凍結乾燥粉末20gに、200mlの0.02%NaN3/PBSを加えて、振とう機(CS−450 HITACHI社製)で7℃、2時間振とうした。次いで、遠心機(CF−51 HITACHI社製)で15,000rpm、20分遠心し、上清を粗抽出液(水系媒体抽出物)とした
カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製;φ16×200mm)にラクトース−アガロース(J−オイルミルズ社製)を25ml充填し、PBSで平衡化した後に、上記で得られた粗抽出液を供した。非吸着分をPBS(約100ml)にて回収し、ラクトース非結合性レクチン画分を得た。
画分を回収した回収液を、Spectra/Por Membrane MWCO:6−8,000(平面幅14.6mm)に入れ、100倍量の蒸留水による7℃での透析を3回行った。
次いで、実施例1と同様にして、レクチン含有画分を以下に記載のとおり更に精製した。
上記(1)で得られた非吸着画分を、50mMのTris−HCl(pH7.3)(溶離液A)に溶解して試料とし、陰イオン交換クロマトグラフィー(DEAE−Sepharose Fast Flow)に供した。なお試料溶液Bは、0.5MのNaCl/Aとして調製した。
カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製;φ16×200mm)にDEAE−Sepharose Fast Flow (GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を50ml充填した。ラクトース非結合性レクチン画分(溶離液Aに溶解)50mlを、1.5ml/minの流速で4℃にてカラムに流した。通過液はフラクションコレクター(GEヘルスケアバイオサイエンス社製;FRAC−100)で試験管に15mlずつ回収し、200mlの溶離液Aをカラムに供し、通過液をフラクションコレクターで試験管に15mlずつ回収し、非吸着画分としてを得た。
次いで、200mlの溶離液Bをカラムに供し、通過液はフラクションコレクターで試験管に15mlずつ回収した。レクチン含有画分は、回収液のOD280での吸光度に基づいて特定した。得られた非吸着画分を回収し、回収液を透析膜Spectra/Por Membrane MWCO:6−8,000(平面幅14.6mm)に入れ、100倍量の蒸留水×3回、7℃で透析した。透析後、非吸着画分を回収し、凍結乾燥機(FD−5N、EYELA社製)で凍結乾燥して粉末を得た。
クロマトグラフィーの溶離液C:1.5M硫酸アンモニウム/20mM酢酸ナトリウム(pH7.6)とD:0M硫酸アンモニウム/20mM酢酸ナトリウム(pH7.6)を調製した。また、カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製φ16×200mm)にButyl−Toyopearl(TOSOH社製)を10ml充填した。
上記(2)で得られた非吸着画分を含む7mlの溶離液Cを、流速1.0ml/min常温にてカラムに供し、通過液はフラクションコレクター(GEヘルスケアバイオサイエンス社製;FRAC−100)で試験管に5mlずつ回収した。次いで、C:1.5M硫酸アンモニウム/20mM酢酸ナトリウム(pH7.6)を100分流した後、C:1.5M硫酸アンモニウム/20mM酢酸ナトリウム(pH7.6)100%からD:0M硫酸アンモニウム/20mM酢酸ナトリウム(pH7.6) 濃度勾配(濃度 C:100−0%,101−600分)で流した。通過液はフラクションコレクターで試験管に5mlずつ回収した。クロマトグラフィー回収液のOD280を上記と同様の条件で測定し、また、赤血球凝集活性の測定を上記と同様に行った。赤血球凝集活性に基づき、硫酸アンモニウム濃度0.6M〜0.1Mでの回収液をレクチン含有画分と特定した。この画分を回収し、回収液を透析膜Spectra/Por Membrane MWCO:6−8,000(平面幅14.6mm)に入れ、100倍量の蒸留水×3回、7℃で透析した。透析後回収し、凍結乾燥機(FD−5N、EYELA社製)で凍結乾燥して精製量を測定した。精製できたCNA−IIIは17.7mgであった。更にウサギ赤血球凝集活性を測定したところ、力価512(1mg/ml)、および、最小凝集濃度0.65(μg/ml)であった。
上記(3)で得られたでレクチンCNA−IIIに対して、煮沸処理を行ったもの(試料A)で、前述したものと同様にしてSDSポリアクリルアミド電気泳動を行った。結果を図1に示す。なお図1においてレーン1は試料A、Mはマーカーを示す。
その結果、試料Aの場合には12,000にバンドを確認することができた(図1参照)。
(5)ゲルろ過による分子量測定
上記のようにして得られたレクチンCNA−IIIについて、標準用試料Transferrin(分子量:80,000)、Bovine serum albumin(分子量:67,000)、Ovalbumin(分子量:47,000)、Carbonic anhydrase (分子量:29,000)、Ribonuclease B(分子量:13,700)を用いて、常法に従って分子量を推定したところ、約13,000であった。
実施例2で得られたレクチンCNA−IIIについて、以下のような評価を行った。
(1)MALDI−TOF質量分析
レクチンCNA−III 10μgを、TA(0.1%トリフルオロ酢酸とアセトニトリルの体積比2:1の混合物)に溶解した。TAに溶解した飽和マトリックスとCNA−IIIのTA溶液を体積比4:1で混合したもの1.0μlをターゲットプレートに滴下してサンプルを調製した。質量分析装置としてAutoflex(ブルカーダルトニクス社製)を用い、LPモードでCNA−IIIの分子量を測定した。その結果、CNA−IIIの分子量は11,434であった。
CNA−IIIのN−末端領域のアミノ酸配列を、プロテインシーケンサーとしてPPSQ−21(島津製作所社製)を用いて解析したところ、下記アミノ酸配列(配列番号1)であることが分かった。
500μgのCNA−IIIを生理食塩水1mlに溶解し、各試験温度で30分間インキュベートした。直ちに氷冷し10分後に上記と同様にして赤血球凝集活性を測定した。結果を図2に示した。
図2から、本発明のレクチンは4℃〜50℃まで比較的安定であり、60℃以上の温度では活性がさがることが分かった。
50μgのCNA−IIIを生理食塩水1mlに溶解し、これを試験管に分取した。等量の下記の各pH緩衝液をそれぞれ加え、4℃にて24時間インキュベートした後、上記と同様にして赤血球凝集活性を測定した。結果を図3に示した。図3から、本発明のレクチンCNA−IIIはpH2からpH11の間で安定であった。
−pH緩衝液−
pH2.0 : 20mM 塩化カリウム塩酸緩衝液
pH3.0 : 20mM 塩化カリウム−塩酸緩衝液
pH4.0 : 20mM 酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液
pH5.0 : 20mM 酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液
pH6.0 : 20mM リン酸緩衝液
pH7.0 : 20mM リン酸緩衝液
pH8.0 : 20mM トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)緩衝液
pH9.0 : 20mM グリシン−NaOH緩衝液
pH10.0 : 20mM グリシン−NaOH緩衝液
pH11.0 : 20mM グリシン−NaOH緩衝液
なお、各緩衝液は0.15M 塩化ナトリウムを含む。
ウサギ保存血液(日本バイオテスト社製)を遠心分離(3000×g、3min、常温)し、血漿及び白血球および不純物を除去し、赤血球のみとした。これにPBSを赤血球の約3倍量加えてよく混合し、同様の条件で遠心分離し上清を取り除いた。これを3回繰り返すことで血漿及び白血球を完全に取り除き、これを洗浄赤血球とした。この洗浄赤血球をPBSで希釈し、2%ウサギ赤血球液とした。
96ウェルタイタープレートの一段にPBSを各20μl入れ、ウェルに、レクチン溶液(0.6mg/ml)を20μl入れ、順次1/2希釈系列を作製した。上記で得られた2%ウサギ赤血球液をそれぞれ40μl添加し、室温で約60分放置後、赤血球凝集活性を肉眼にて観察した。凝集が認められた最大希釈度の逆数を原液の凝集力価とし、凝集力価の2を底とする対数を赤血球凝集活性として表1に示した。また、赤血球が凝集するレクチンの最大希釈倍率を求め、最小凝集濃度を算出した。
ウサギ赤血球凝集活性試験において、ウサギ保存血液の代わりにヒツジ保存血液(日本バイオテスト社製)、ブタ保存血液(日本バイオテスト社製)、ヒト保存血液(Biotest社製)を用いた以外は同様にして、ヒツジ、ブタ、ヒト赤血球凝集活性試験を行った。結果を表1に示した。
表2及び表3の32種の糖タンパク質および糖を適量秤量し、PBSを添加し、表2及び表3記載の濃度に調製した。上記(実施例2)で得られたCNA−IIIのウサギ赤血球凝集活性を測定し、赤血球が凝集する最低希釈倍率が2〜4倍になるようこれらをPBSで希釈した。次いで96穴プレート(Falcon社製)の各ウェルにPBSを25μlずつ入れ、これにレクチン溶液を50μl入れ、順次1/2希釈系列を作製した。このウェルにそれぞれ、上記で希釈した試料を25μlずつ添加し、室温で60分間放置後、4%ウサギ赤血球液を25μlずつ添加し、室温で1時間放置後、凝集阻害の有無を確認した。結果を下記表2及び表3に示した。
(7)特異性試験(糖鎖の検出)
(a)オリゴ糖の準備
実施例に使用したピリジルアミノ化(PA−)オリゴ糖を、図4及び図5に示す。
PA糖鎖は、タカラバイオ社、生化学バイオビジネス社ならびに増田化学工業社などから購入した。もしくは、未標識の糖鎖や糖鎖を酵素消化して得た糖鎖等をGlycoTAG(登録商標、タカラバイオ社製)でピリジルアミノ化した。
その他の標識化糖鎖は、図6に示す。パラニトロフェニル(pNP−)糖鎖およびフルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc−)糖鎖は生化学バイオビジネス社、東京化成社、シグマ社、トロント・リサーチ・ケミカル社、カルビオケム社、大塚化学工業社から購入したものを使用した。
0.5MのNaClを含む0.2MのNaHCO3緩衝液(pH8.3)中にレクチンを溶解し、NHS−活性化セファロース(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)へその製造者マニュアルに従って結合させた。0.8%NaClを含む10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.4、TBS緩衝液)中にレクチン−セファロースを懸濁させ、ミニチュアカラム(φ2mm×10mm,31.4μl)に充填した。
FAC自動分析装置(FAC-1、(株)島津製作所製)を用いてフロンタルアフィニティクロマトグラフィーを行った。詳細には、上記で調製したレクチンカラムを、ステンレスホルダーに差し込み、FAC−1装置に接続した。流速およびカラム温度を、それぞれ0.125ml/minおよび25℃に保った。前記TBS緩衝液でミニチュアカラムを平衡後、過剰容積(0.5ml〜4ml)のPA−糖鎖(3.75nM又は7.5nM)およびpNP−糖鎖およびFmoc−糖鎖(1μM)を、自動サンプリング装置を用いてカラム中へ連続注入した。
49種類で構成された糖鎖群で特異性を評価した結果、図7に示すとおり、CNA−IIIは、非還元末端にN−アセチルグルコサミンを有する糖鎖のみ、結合である溶出の遅れが確認できた。
また、pNP-糖鎖糖鎖はUV吸収強度(検出波長 280nm)、および、Fmoc−糖鎖はUV吸収強度(検出波長 274nm)でモニターし、相互作用強度〔標準オリゴ糖(pNP−αGalNAc、番号1009)に対する前端溶出液の差:V−V0〕を測定した。
図9は糖鎖を結合定数の大きい順に配列している。このマップは、各N型糖鎖が有するN−アセチルグルコサミン分岐鎖をヒトN−アセチルグルコサミン転移酵素(GnT-I〜VI)に適用される命名法に基づいて類別したものである。例えば、ある糖鎖のVのマス目がストライプのボックスで埋まっていれば、その糖鎖はGnT-V酵素により合成されるGlcNAcを有することを意味している。
図9の分岐鎖マップを見ると、CNA−IIIは、分岐II、すなわち、GnT-IIにより転移されたN−アセチルグルコサミンを有するN型糖鎖101、103、105、107、201、202、306、312、404を認識する。しかし、分岐III、すなわち、GnT-IIIにより転移されたN−アセチルグルコサミン(バイセクティングGlcNAc)を有すると結合できない。また、GnT-IIにより転移されたN−アセチルグルコサミンのみを有するN型糖鎖には結合できるが、GnT-Iにより転移されたN−アセチルグルコサミンのみでは結合できないことがわかった。
バンデリアマメレクチン-II(GSL−II)もCNA−IIIと同様に特異性を解析した。
PA糖鎖の溶出液の蛍光強度(励起波長310nmおよび蛍光波長380nm)をモニターし、相互作用強度〔標準オリゴ糖(PA−ラクトース)に対する前端溶出液の差:V−V0〕を測定した。100種類以上で構成された糖鎖群で特異性を評価し、相互作用強度を算出した。pNP-糖鎖はUV吸収強度(検出波長280nm)でモニターし、相互作用強度〔標準オリゴ糖(pNP−Fuc、番号1011)に対する前端溶出液の差:V−V0〕を測定した。
結果を図10に示す。また図10において上段はCNA−IIIの特異性を示し、下段はGSL−IIの特異性を示す。
図10に示されるように、GSL−IIは、番号103、104、105、107、108、906、907に結合した。
また、GlcNAcαおよびβ(番号1009、1010)とO型糖鎖(番号1004や1005、1006)、キトオリゴ糖(番号1207)にも結合することがわかった。
Claims (10)
- 以下の特徴を有するカヤタケ属担子菌に由来するレクチン:
(1)SDS電気泳動法による分子量が、12,000〜14,000であり、
(2)ゲル濾過による分子量が10,000〜40,000であり、
(3)N−末端領域のアミノ酸配列は配列番号1であり、
(4)N型糖鎖であって、非還元末端に、N−アセチルグルコサミン転移酵素−II(GnT−II)により転移されたN−アセチルグルコサミンを少なくとも有し、N−アセチルグルコサミン転移酵素−III(GnT−III)により転移されたN−アセチルグルコサミン(バイセクティングGlcNAc)を有さない糖鎖に結合し、
(5)前記N型糖鎖に対して結合定数1.0×10 5 M −1 以上で示される親和性を有する。 - カヤタケ属担子菌から得られた水系媒体抽出物を、イオン交換クロマトグラフィー及び疎水クロマトグラフィーによって精製することにより得られる請求項1記載のレクチン。
- 前記カヤタケ属担子菌がハイイロシメジである請求項1又は請求項2記載のレクチン。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレクチンの製造方法であって、カヤタケ属担子菌から水系媒体抽出物を得ること、前記水系媒体抽出物を、イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製すること、を含むレクチンの製造方法。
- ガラクトース残基及びN−アセチルガラクトサミン残基の少なくとも一方を含有する担体を用いたアフィニティークロマトグラフィー及び疎水性クロマトグラフィーの少なくとも一方により精製することを更に含む請求項4に記載のレクチンの製造方法。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレクチンと、標識化合物とを含む標識レクチン。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレクチンと、支持担体とを含むレクチン固定化担体。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレクチン、請求項6に記載の標識レクチン又は請求項7に記載のレクチン固定化担体を用いて、N型糖鎖であって、非還元末端に、N−アセチルグルコサミン転移酵素−II(GnT−II)により転移されたN−アセチルグルコサミンを少なくとも有し、N−アセチルグルコサミン転移酵素−III(GnT−III)により転移されたN−アセチルグルコサミン(バイセクティングGlcNAc)を有さない糖鎖含有物を検出することを特徴とする糖鎖検出方法。
- 前記糖鎖含有物を他の化合物と分別することを更に含む請求項8に記載の糖鎖検出方法。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレクチンを含む、N型糖鎖であって、非還元末端に、N−アセチルグルコサミン転移酵素−II(GnT−II)により転移されたN−アセチルグルコサミンを少なくとも有し、N−アセチルグルコサミン転移酵素−III(GnT−III)により転移されたN−アセチルグルコサミン(バイセクティングGlcNAc)を有さない糖鎖糖鎖含有物の有無を判定する判定薬。
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