明細書 高温超電導線材の製造方法 技術分野
本発明は、 送電ケーブル、 電磁石、 変圧器、 モータ、 限流器等に用いられる高 温超電導線材の製造方法に関する。 背景技術
液体窒素温度(77K)よりも高い超電導転移温度を有する銅酸化物高温超電導体を 用いた高温超電導線材の開発が盛んに行われている。 超電導線材は、 超電導転移 温度以下で電気抵抗がゼロとなるため、 電力を損失なく送電することができる。 そのため、 従来より液体ヘリウム等により冷却して使用する超電導線材が送電ケ —ブル、 電磁石、 変圧器、 モータ、 限流器等に用いられている。 それに対して高 温超電導線材は、 液体窒素を冷媒として使用できるようになるため、 取り扱いが 容易になり、 且つコストが低減される。
超電導線材においては電気抵抗がゼロであるため、 直流電流を流す場合には損 失はないが、 交流電流を流す場合には超電導体内部の磁場分布が変化することに よりエネルギーの損失が発生する。 これを交流損失と呼ぶ。 交流損失には、 ヒス テリシス損失や結合損失等がある。
ヒステリシス損失は、 超電導体内部の磁場分布が非可逆的に変化することによ り生じる。 この損失は超電導体フィラメントの径に比例して大きくなる。 従って 、 フィラメントの径を小さくすることでこの損失を抑制することができる。 しか し、 フィラメントの径を小さくすると、 超電導状態を破ることなく流すことがで きる最大の電流(臨界電流)が小さくなるため、 複数本のフィラメントを束ねた多 心構造とすることで臨界電流を高める。
このフィラメントの束は通常、 銀等を材料とするチューブに高温超電導体又は その前駆体の粉末を詰め、 このチューブを束ねることにより作製する。 この束を 押出し、 線引き、 圧延等による引き延ばしと加熱を数回繰り返すことにより高温
超電導線材を作製する。
しかし、 このような多心構造をとることにより、 結合損失が生じる。 結合損失 は、 フィラメント間にトンネル電流が流れることによるものである。 そのため、 このトンネル電流を減少させて結合損失を抑制することが必要となる。
結合損失を抑制するための構成として、 特開 2000- 106042号公報に、 超電導線材 の外周に電気抵抗が比較的高い金属や合金、 あるいは酸化物から成るバリア層を 形成して、 高温超電導線材間に流れる電流を遮蔽することにより結合損失を抑制 することが記載されている。 しかし、 これは高温超電導線材間に流れる電流を抑 制するものであり、 1本の高温超電導線材内でフィラメント間に流れる電流を抑 制するものではない。
1本の高温超電導線材内のフィラメント間に上記同様にバリア層を形成して、 フィラメント間の電流を抑制することも考えられる。 しかし、 フィラメント間の 電流は高温超電導線材間のそれよりも大きいため、 このバリア層の材料に金属や 合金を用いた場合にはこの電流を十分に抑制できない。
バリァ層の材料に酸化物を用いれば、 フィラメント間に流れる電流を抑制する ことができる。 しかし、 酸化物は一般に塑性を有しないため、 圧延等を行うとバ リア層が途切れてしまう。 そのため、 前記引き延ばし加工を行うことが難しい。 更に、 製造した線材を曲げて加工することによりコイル等を製造することも困難 である。
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、 その目的とす るところは、 交流損失を抑制することができ、 且つ所望の形状に加工することが できる高温超電導線材の製造方法を提供することにある。 発明の開示
上記課題を解決するために成された本発明に係る高温超電導線材の製造方法の 第 1の態様は、
a)酸素透過金属層及び被酸化金属層を有するクラッド構造のチューブに目的と する高温超電導体の前駆体の粉末を充填するフィラメント作製工程と、
b)前記フィラメントを複数本束ねて素線材を作製する素線材作製工程と、
C)前記素線材を引き延ばして所定の径にする引き延ばし工程と、 d)酸素ガス又は酸素を含む混合ガス雰囲気中で、 前記酸素透過金属層が酸素を 透過する最低温度以上で、 且つ前記前駆体が目的とする高温超電導体となる温度 未満の温度に前記素線材を加熱して前記被酸化金属層を酸化するバリア層作製ェ 程と、
e)前記前駆体が目的とする高温超電導体となる温度で前記素線材を加熱する高 温超電導体生成工程と、
を含むことを特徴とする。 また、 本発明に係る高温超電導線材の製造方法の第 2の態様は、
a)被酸化金属層を有するチューブに目的とする高温超電導体の前駆体の粉末を 充填するフィラメント作製工程と、
b)酸素透過金属層から成るパイプに前記フィラメントを複数本束ねて挿入し、 素線材を作製する素線材作製工程と、
c)前記素線材を引き延ばして所定の径にする引き延ばし工程と、
d)酸素ガス又は酸素を含む混合ガス雰囲気中で、 前記酸素透過金属層が酸素を 透過する最低温度以上で、 且つ前記前駆体が目的とする高温超電導体となる温度 未満の温度に前記素線材を加熱して前記被酸化金属層を酸化するバリア層作製ェ 程と、
e)前記前駆体が目的とする高温超電導体となる温度で前記素線材を加熱する高 温超電導体生成工程と、
を含むことを特徴とする ここで、 前記高温超電導体は M 2223系銅酸化物高温超電導体又は M 2212系銅酸 化物高温超電導体であることが望ましい。 Bi 2223系は Bi2Sr2Ca2Ci O B i 2212系は Bi2Sr2CaCt 08+yで表されるものである。 酸素ィォンの数は高温超電導体の作製条件に より異なるため、 ここでは 10+x及び 8+y (x及び yは正負いずれの値も取りうる)とし たが 本発明においてはこの酸素イオン数(10+x, 8+y)の値は問わない。 また、 B i 2223系及び M 2212系には、 Biの一部が Pbに置換されたものも含まれる。
第 1の態様の高温超電導線材製造方法においては、 従来用いられている銀等か ら成るチューブの代わりに、 酸素透過金属層及び被酸化金属層の 2層を有するク ラッド構造のチューブを用いる。
酸素透過金属層の材料には、 所定の温度以上に加熱すると酸素を透過する金属 を用いる。 そのような金属として、 例えば銀や金及びそれらの合金があり、 特に 銀を好適に用いることができる。 また、 銀の合金としては、 例えば、 マグネシゥ ム、 ニッケル、 マンガン、 亜鉛、 ジルコニウム、 アンチモン、 アルミニウム、 金 のいずれか 1種又は 2種以上を銀に添加したものを用いることができる。 これら のうち、 マグネシゥムを添加したものが酸素を最もよく透過するため望ましい。 また、 マグネシウム及びニッケルを共に添加したもの、 或いは金を添加したもの も酸素をよく透過するため好適に用いることができる。
被酸化金属層の材料には、 塑性変形し易く、 かつ安定な酸化物層を形成するこ とができる金属を用いる。 これらの条件を満たすものとして、 例えばマグネシゥ ム、 銅、 鉛、 タンタル、 ニオブ又はこれらのいずれかを含む合金がある。 特に、 マグネシウムは酸化し易く、 高温超電導体と反応し難いという点で望ましく、 二 ォブは加工が容易であるという点で望ましい。 また、 被酸化金属層は、 酸素透過 金属層と共に加工をするため、 酸素透過金属層の機械強度に近い強度を有するこ とが望ましい。 例えば、 酸素透過金属層に銀を用いる場合には、 機械強度が銀に 近いマグネシウム、 銅、 ニオブ又はタンタルを用いることが望ましい。
このチューブに目的とする高温超電導体、 即ち線材として用いられる高温超電 導体の前駆体の粉末を詰めて、 1本の高温超電導フィラメントを作製する。 ここ で、 前駆体とは高温超電導体の原料又は原料を混合して仮焼きしたもの (未だ目 的とする高温超電導体にはなっていないもの) を指す。 また、 前駆体には、 目的 とする高温超電導体とその他のもの (未反応の原料等) が混合したものや、 目的 とする高温超電導体以外の高温超電導体を含有したものも含まれる。 次に、 複数 本のフィラメントを束ねる。 これが高温超電導線材の素線材となる。 後述の酸化 工程において内部まで十分に酸化を行うためには、 束ねるフィラメントの本数は 数十本程度とすることが望ましい。 束ねたフィラメントは、 酸素を透過する金属
から成るパイプに詰めたり、 同様の材料から成るテープ状の部材を周囲に巻き付 ける等の方法により固定することが望ましい。
この素線材に対して押出し、 線引き、 圧延等を行い、 線材を所定の径に引き延 ばす(引き延ばし工程)。 本発明では、 チューブが金属のみから構成されるため、 チューブに酸化物を塗布する場合とは異なり、 酸素透過金属層、 被酸化金属層共 に切断されることなく引き延ばしを行うことができる。 .
この引き延ばし工程は、 高温超電導線材を所定の径及び長さにすると共に、 チ ユープ同士を結合する効果を有する。 また、 高温超電導体粉末が圧縮され、 高温 超電導体粉末間に隙間が生じることを防ぐ効果を有する。 なお、 同様に高温超電 導体粉末を圧縮するために、 前記において複数本のフィラメントを束ねる前に、 個々のフィラメントに圧延等を行ってもよい。
引き延ばしを行った素線材を、 以下のように、 異なる条件で 2段階に分けて加 熱する。
第 1段階では、 酸素ガス又は酸素を含む混合ガス雰囲気中で加熱する。 ここで 、 酸素と混合するガスには窒素、 ヘリウム、 アルゴン等を用いることができる。 また、 酸素を含む混合ガスには空気も含まれる。 その際の温度は、 酸素透過金属 層が酸素を透過する最低温度以上で、 且つ前駆体が目的とする高温超電導体とな る温度以下の温度とする。 これにより酸素ガスが素線材の表面から酸素透過金属 層を通って素線材の内部に導入されるため、 被酸化金属層が酸化され、 バリア層 が形成される (バリア層形成工程) 。 バリア層形成工程の温度の下限は、 例えば 、 酸素透過金属層に銀を用いる場合、 反応時間を 100時間とする時には加熱温度は 450°C、 反応時間を 10時間とする時には加熱温度は 650°Cとする。 また、 この温度 の上限は、 例えば目的とする高温超電導体が Bi 2223系である場合には 800°C以下と する。
第 2段階では、 前駆体が目的とする高温超電導体となる温度で前記素線材を加 熱する (高温超電導体生成工程) 。 例えば、 目的とする高温超電導体が Bi 2223系 である場合には加熱温度を謂。 C〜840°Cに、 B i 2212系である場合には加熱温度を 900°C.以下にする。 また、 目的とする高温超電導体が Bi M23系や Bi 2212系である場 合等には、 バリア層形成工程と同様に酸素ガス又は酸素を含む混合ガス雰囲気中
で加熱する。
このように、 目的とする高温超電導体を生成する前に、 その生成温度よりも低 温で被酸化金属層を酸化する理由は以下の通りである。 仮に、 高温超電導体の生 成温度程度の高い温度で被酸化金属層を酸化させると、 被酸化金属層中の金属元 素の拡散が活発に起こる。 この場合 酸素透過金属層の中まで被酸化金属層の元 素が拡散し、 それが酸化して形成されるバリア層が厚くなつてしまう。 また、 目 的とする高温超電導体にも酸素透過金属層の酸化物が混入してしまう。 そのため 、 本発明では、 低温で被酸化金属層を酸化することにより、 被酸化金属層中の金 属元素の拡散を抑制し、 それによりバリア層の肥厚及び高温超電導体への該金属 元素の酸化物の混入を抑制する。
こうして製造された高温超電導線材には、 高温超電導体のフィラメントの間に バリァ層が存在するため、 従来の高温超電導線材ょりもフィラメン卜間を流れる トンネル電流が減少する。 これにより、 従来の高温超電導線材よりも結合損失を 低減することができる。
バリア層作製工程を行う前に、 予め線材が使用される際の形状に加工すること が望ましい。 例えば、 線材をコイルとして使用する場合には、 予めコイルの形状 に加工する。 被酸化金属層を酸化させた後のバリア層には塑性がないため、 線材 を所定の形状に加工することは困難であるが、 それ以前ならば前記のように線材 に塑性があるため比較的容易に加工することができる。
チューブは酸素透過金属層と被酸化金属層の 2層に加えて他の層を含むもので もよい。 例えば、 線材の製造中に被酸化金属と高温超電導体とが反応することを 防ぐための層を被酸化金属層とフィラメントとの間に設けてもよい。 この層に銀 を用いれば、 上記目的を達することができるうえ、 高温超電導体に酸素を供給す ることができる。 また、 線材の強度が不十分である場合には、 更に補強のための 層を別途設けてもよい。 なお、 酸素透過金属層に、 酸素を透過し、 且つ所定の強 度を有する材料を用いれば 別途補強層を設けることなく線材の強度を確保する ことができる。 そのような合金には、 例えば銀とマグネシウムとの合金がある。 次に、 第 2の態様の高温超電導線材製造方法について説明する。
この製造方法においては、 被酸化金属層を有するチューブに前駆体の粉末を充 填することによりフィラメントを作製する。 このチューブには酸素透過金属層は 含まれない。 また、 このチューブにはこれら 2つの層以外のものが含まれていて もよい。 このフィラメントを複数本束ねて、 酸素を透過する金属から成るパイプ に充填する。 これ以降の工程 (引き延ばし工程、 バリア層作製工程、 高温超電導 体生成工程) は第 1の態様の高温超電導線材製造方法と同様である。 .
この方法により、 第 1の態様と同様に、 高温超電導体のフィラメントの間にバ リァ層を形成することができる。 そのため、 従来の高温超電導線材ょりもフイラ . メント間を流れる卜ンネル電流が減少し、 それにより結合損失を低減することが できる。 また、 この方法によると高温超電導体のフィラメントの間には酸素透過 金属層が存在しないため、 第 1の態様の場合よりも高温超電導体の体積分率を大 きくすることができる。
第 2の態様においては、 複数本のチューブを一体に形成したものを用いること が望ましい。 これにより、 一体に形成したチューブ内では、 1本のチューブを単 独で形成したものよりもフィラメント間の被酸化金属層をより薄くすることがで さる。 第 1及び第 2の態様のいずれにおいても、 高温超電導体には M 2223系又は Bi 22 12系を用いることが望ましい。 これらの高温超電導体は、 超電導転移温度が液体 窒素温度よりも高い(ΒΪ 2223系では約 113K、 Bi 2212系では約 85Κ)。 また、 毒性の弱 い材料のみから製造することができる。 なお、 YBa2Cu30x (Y123系)及びこれらの系の Yの代わりに希土類元素を用いたもの等も液体窒素温度よりも高い超電導転移温度 (約 90K)を示すが、 微結晶の c軸を配向させる必要がある。 それに対して、 ΒΪ 2223 系及び B i 2212系は c軸配向させる程度が少なくて済むため、 Y 123系等よりも望まし い。
バリァ層作製工程と高温超電導体生成工程の間に、 バリァ層に通気路を形成す ることが望ましい。 形成されるパリア層の材料や厚さによっては、 そのバリア層 が酸素を透過しないことがあるため、 高温超電導体を酸素雰囲気下で生成する場 合にはこのような通気路を形成する必要がある。 通気路は、 バリア層作製工程後
に例えば圧延等の機械加工を行ってバリァ層を部分的に破壌することにより形成 することができる。
また、 高温超電導体生成工程の際にパリア層が酸素を透過することができるよ うに、 被酸化金属層はできるだけ薄い方が望ましい。 例えば、 被酸化金属層が Mg から成る場合、 その厚さが数 mのオーダ一であれば、 そのままでは被酸化金属層 から形成されるバリア層が酸素をほとんど透過しないため、 上記のように通気路 を形成する必要がある。 それに対して Mgから成る被酸化金属層の厚さが 1 m以下 であれば、 バリア層は通気路を設けることなく酸素を透過することができる。 こ の場合は、 被酸化金属層の強度を合わせて考慮すると、 Mgから成る被酸化金属層 の厚さは 0. 1 H!〜 1 /2 mであることが望ましい。
本発明により、 ヒステリシス損失を抑制するための多心構造を有し、 結合損失 を抑制するためのバリァ層がフィラメントの間に形成された高温超電導線材を、 バリァ層の塑性の欠如に起因する製造時の障害を生じることなく製造することが できる。 こうして製造される高温超電導線材においては、 ヒステリシス損失と結 合損失が共に抑制されるため、 従来のものよりも交流損失を小さくすることがで きる。 図面の簡単な説明
第 1図 本発明の高温超電導線材製造方法の第 1実施例を説明する断面図。 第 2図 本発明の高温超電導線材製造方法の第 2実施例を説明する断面図。 第 3図 Ag-Mg- Ag線材を示す概略図。
第 4図 Ag- Mg_Ag線材の作製方法を示すフローチヤ一ト。
第 5図 Ag-Mg-Ag線材の温間加工後の SEM写真。
第 6図 Ag-Mg_Ag線材の温間加工後の EPMA分析の結果を示す図。
第 7図 熱処理用の試料の作製方法を示す図。
第 8図 第 7図の試料を熱処理した後の EPMA分析の結果を示す図。
第 9図 第 7図の試料を熱処理した後の EPMA分析の結果を示す図。
第 1 0図 第 7図の試料を熱処理した後の EPMA分析の結果を示す図。
第 1 1図 第 7図の試料の熱処理後の XRD測定結果を示す図。
第 1 2図 Ag- Mg 2元系状態図。
第 1 3図 Ag-Mg- Ag線材の TG- DTA測定結果 (大気雰囲気)を示すグラフ。
第 1 4図 Ag-Mg- Ag線材の TG-DTA測定結果(酸素 l atm)を示すグラフ。
第 1 5図 Ag-Mg 2元系状態図 (拡大図)。
第 1 6図 Mg-〇2元系状態図。
第 1 7図 Ag-O 2元系状態図。
第 1 8図 Agに固溶する Oの溶解度を示すグラフ。
第 1 9図 Ag中の酸素溶解度と拡散定数を示す表。
第 2 0図 Ag-Mg_Ag線材の TG測定結果 (酸素 l atnu 64310を示すグラフ。
第 2 1図 第 2 0図の TG測定の回帰分析の結果を示すグラフ。
第 2 2図 酸素雰囲気における Mgの酸化熱処理後の XRD測定結果。
第 2 3図 酸素雰囲気における Mgの酸化熱処理後の SEM写真。
第 2 4図 酸素雰囲気における Mgの酸化熱処理後の XRD測定結果。
第 2 5図 ΒΪ 2223仮焼粉 Ag- Mg- Ag線材 (Mg単芯線材)の概略図。
第 2 6図 Bi 2223仮焼粉 Ag-Mg-Ag多芯線材 (Mg多芯線材)の概略図。
第 2 7図 Merck社製 Bi 2223仮焼粉の組成を示す表。
第 2 8図 仮焼粉 Ag- Mg- Ag線材 (Mg単芯線材)の °作製方法を示すフローチャート 第 2 9図 Mgが割れた線材の写真。
第 3 0図 温間線引き加工の説明図。
第 3 1図 Mg単芯線材 (線引き加工後の断面)の SEM写真。
第 3 2図 Mg単芯テープ線材 (電流方向に垂直な断面)の SEM写真。
第 3 3図 Mg単芯テープ線材 (電流方向に平行な断面)の SEM写真。
第 3 4図 Ag-Mg- Agテ一プ線材 (Mgの酸化熱処理後)の SEM写真。
第 3 5図 Ag-Mg- Agテ一プ線材 (Mgの酸化熱処理後)の XRD測定結果。
第 3 6図 MgO高抵抗層を導入した多芯線材 (Mg多芯線材)の作製方法を示すフ口
―ナヤ一ト。
第- 3 7図 Mg層を導入していない多芯線材 (Mgなし多芯線材)の作製方法を示す フローチヤ一卜。
第 3 8図 実験 Fの熱処理の過程を示す図。
第 3 9図 直流通電時の臨界電流値測定の実験装置の説明図。
第 4 0図 Mg多芯線材(線引き加工後の断面)の SEM写真。
第 4 1図 Mg多芯テープ線材(熱処理前、 電流方向に垂直な断面)の SEM写真。 第 4 2図 Mg多芯テープ線材(熱処理前、 電流方向に平行な断面)の SEM写真。 第 4 3図 Mgなし単芯線材(線引き加工後の断面)の SEM写真。 .
第 4 4図 Mgなし単芯テープ線材(熱処理前、 電流方向に垂直な断面)の SEM写真 第 4 5図 Mgなし単芯テープ線材 (熱処理前、 電流方向に平行な断面)の SEM写真 第 4 6図 Mgなし多芯線材 (線引き加工後の断面)の SEM写真。
第 4 7図 Mgなし多芯テープ線材 (熱処理前、 電流方向に垂直な断面)の SEM写真 第 4 8図 Mgなし多芯テープ線材 (熱処理前、 電流方向に平行な断面)の SEM写真 第 4 9図 試料 A (Mg多芯テープ線材、 本焼き後、 電流方向に平行な断面)の SEM 第 5 0図 試料 B (Mg多芯テープ線材、 Mg酸化温度 753K、 本焼き後、 電流方向に 平行な断面)の SEM写真。
第 5 1図 試料 C (Mg多芯テープ線材、 Mg酸化温度 933K、 本焼き後、 電流方向に 平行な断面)の SEM写真。
第 5 2図 試料 Α、 Β及び Cの XRD測定結果。
第 5 3図 酸素の拡散に要する時間を示す表。
第 5 4図 酸素の拡散に要する時間を示すグラフ。
第 5 5図 試料 Αの I - V特性グラフ。
第 5 6図 試料 Bの I - V特性グラフ。
第 5 7図 試料 Cの I- V特性グラフ。
第 5 8図 試料 Aにおける Agとフィラメントの断面積の表。
第 5 9図 試料 Aにおける臨界電流の表。
第 6 0図 ロール圧延とプレス加工により作製した試料の試料名を示す表。 第 6 1図 ロール圧延とプレス加工により作製した試料の SEM写真。
第 6 2図 ロール圧延とプレス加工により作製した試料の SEM写真。
第 6 3図 C0V測定結果を示す表。
第 6 4図 Mg単芯の TG- DTA測定結果を示すグラフ (Mg酸化熱処理後) 。
第 6 5図 Mgなし単芯の TG-DTA測定結果を示すグラフ。
第 6 6図 TG-DTA測定のまとめの表。
第 6 7図 バリァ層形成工程後に 20%圧延し、 本焼きを行つた試料の XRD測定結 果。 発明を実施するための最良の形態
以下に、 第 1図を用いて、 本発明の第 1の実施例として、 Bi 2223系高温超電導 線材の製造方法を説明する。 本実施例のチューブ 1 0は外側から順に第 1酸素透 過金属層 1 1、 被酸化金属層 1 2、 第 2酸素透過金属層 1 3から成るクラッド構 造を有する。 第 1酸素透過金属層 1 1には、 銀とマグネシウムの合金を用いる。 このような合金を用いる理由は、 被酸化金属層 1 2に酸素を供給すると共に、 チ ユーブ 1 0に所定の強度を確保することにある。 被酸化金属層 1 2には、 酸化し 易く高温超電導体と反応し難いマグネシウムを用いる。 第 2酸素透過金属層 1 3 には銀を用いる。 この第 2酸素透過金属層 1 3は、 被酸化金属層 1 2と高温超電 導フィラメント 1 4とが反応することを防ぎつつ、 酸素を高温超電導フィラメン ト 1 4に透過させる役割を有する。
チューブ 1 0に、 Bi 2223系高温超電導体の前駆体として、 ΒΪ 2212高温超電導体 Ca2Pb04酸化物、 (Ca, Sr) Cu2403™酸化物(dの値はこの酸化物の作製条件により異な る)の混合粉末を充填することにより高温超電導フイラメント 1 4を作製する( (b ) )。 次に、 断面が正六角形状になるように高温超電導フィラメント 1 4を線引き 加工する((c) )。
次に、 チューブ 1 0を束ねて、 銀とマグネシウムの合金から成るパイプ 1 5に 詰め 素線材 1 6を作製する((d) )。 高温超電導フィラメント 1 4の断面形状を正 六角形状としたため、 隙間なく束ねることができる。
素線材 1 6を圧延して断面がテープ状になるように加工する((e) )。 この時点で は、 チューブ 1 0は全て金属製の材料から成るため、 このような圧延加工を行う ことができる。 この圧延により、 チューブ 1 0同士が結合する。 また、 素線材 1 6の断面をテープ状に成形するのは、 以下の理由による。 高温超電導体の粉末は 板状の微結晶から成り、 その面内の方向に超電導電流が流れる。 従って チュー ブ内にある高温超電導体の微結晶間に電流が流れ易くなるようにするために、 素 線材 1 6の断面をテープ状に成形して、 これらの微結晶の c軸をテープの平らな面 に垂直な方向に配向させる。
素線材 1 6を酸素雰囲気下で 450°C〜800°Cの温度範囲で加熱する。 この時、 素 線材 1 6の表面からパイプ 1 5及び第 1酸素透過金属層 1 1を通じて被酸化金属 層 1 2に酸素が供給される。 これにより、 被酸化金属層 1 2は酸化され、 酸化マ グネシゥムから成るバリア層 1 7となる((f) )。 次に、 酸素分圧を 5%〜30%とした 、 酸素と窒素又はアルゴンの混合ガス雰囲気下で 800° (:〜 840°Cの温度範囲で加熱 することにより、 高温超電導フィラメント 1 4では B12212高温超電導体を主相と する混合粉末が反応して、 Bi 2223を主相とする高温超電導体 1 4 1が生成される ( (g) ) 0 この際、 良質な M 2223高温超電導体が生成されるために、 828°C以上に昇 温してから 780°Cまで徐冷することが望ましい。 こうして、 Bi 2223系高温超電導線 材 1 8が完成する。
第 1図(ί)に示すように、 この高温超電導線材 1 8では、 高温超電導フィラメン ト 1 4間がバリア層 1 7により高抵抗化される。 そのため、 高温超電導フィラメ ント 1 4間に生じる電流が抑制され、 この電流が原因となって生じる結合損失が 抑制される。
前記実施例では、 クラッド構造のチューブ 1 0に高温超電導体を充填したが、 まず、 銀製のチューブ (第 2酸素透過金属層)に高温超電導体を充填してから、 そ のチューブの周囲に被酸化金属層及び第 1酸素透過金属層を設けるようにしても よい。 次に 第 2図を用いて、 本発明の Bi 2223系高温超電導線材製造方法の第 2実施 例を説明する。 本実施例では、 マグネシウムから成る被酸化金属層 2 2から形成
され、 外形が正六角形である 2本のチューブ 2 0 1及び 2 0 2を一体に形成した 二穴チューブ 2 0を用いる((a) )。 この二穴チューブ 2 0は、 押出により作製する ことができる。 次に、 銀から成る補強層 2 3内に Bi 2223系高温超電導体の前駆体 (Bi 2212高温超電導体 Ca2Pb04酸化物、 (Ca, Sr) HCU240 酸化物の混合粉末) 2 4を 充填し、 これをチューブ 2 0 1及び 2 0 2に内に嵌挿する((b)、 (c) )。 次に、 複 数の二穴チューブ 2 0を束ねて、 銀とマグネシウムの合金から成るパイプ 2 5に 挿入し、 素線材 2 6を作製する((d) )。 この素線材 2 6は、 基本的には第 1実施例 の素線材 1 6から第 1酸素透過金属層を除いたものとなる。
これ以降の工程は第 1実施例と同様である。 素線材 2 6を圧延して断面がテ一 プ状になるように加工((e) )した後、 まず、 酸素雰囲気下で 450T:〜 800°Cの温度範 囲で加熱することにより被酸化金属層 2 2を酸化して、 酸化マグネシウムから成 るバリア層 2 7を形成する( ))。 次に、 酸素と窒素又はアルゴンの混合ガス (酸 素分圧: 5% 30%) 雰囲気下で 800°C 840°Cの温度範囲で加熱することにより、 B i 2223を主相とする高温超電導体 2 4 1を生成する((g) )。 こうして、 Bi 2223系高 温超電導線材 2 8が完成する。
第 2実施例により得られる ΒΪ 2223系高温超電導線材 2 8は、 第 1実施例で得ら れるものと同様に、 高温超電導フィラメント 2 4間がバリア層 2 7により高抵抗 化され、 それにより高温超電導フィラメント 2 4間に生じる電流が抑制され、 こ の電流が原因となって生じる結合損失が抑制される。 また、 高温超電導フィラメ ント 2 4間に第 1酸素透過金属層 1 2に対応する層が存在しないため、 高温超電 導フィラメント 2 4の体積分率を大きくすることができる。 二穴チューブ 2 0内 の 2本のチューブ間にある被酸化金属層 2 2 1の厚さは、 2本のチューブを別個 形成して重ねた場合よりも薄くすることができるため、 更に高温超電導フィラメ ント 2 4の体積分率を大きくすることができる。 以下、 本実施例で作製した高温超電導線材の評価のための実験 (予備実験を含 む) の結果を示す。
1 . Ag-Mg- Ag線材における MgO層の導入
まず、 第 3図のような、 超電導体を含まない Ag- Mg- Ag線材を作製し、 均一な Mg 0層 (バリア層) の導入を試みた。 Mgは hep構造のため、 すべり系が少なく、 室温 では加工性が低いが、 非底面すべりが活発になる 523K以上では加工性は向上する ことが知られている。 そこで今回、 温間で線材を加工した。 さらにこの線材に対 して Mgの酸化熱処理をし、 組織観察おょぴ粉末 X線回折による評価を行い、 Mgを 酸化させる条件を調べた。 実験 A Ag-Mg- Ag線材の作製
A. 1 Ag - Mg - Ag線材の作製
線材作製のフローチャー卜を第 4図に示す。
外径 7mm、 内径 6mmの Mg- 3%A卜 1%Ζηパイプ (Mgパイプ)を 673Kの炉に 60s入れて加熱 した後、 12角形溝ロールで数回圧延加工することによって温間加工した。 この操 作を繰り返すことによって、 Mgパイプの内径が 4. 5iMになるまで縮径した。
この Mgパイプの中に直径 4. 5匪の Ag- 0. 2%Mg棒を揷入し、 さらに同じ条件で溝口 —ルを用いて温間加工し、 外径が 4mmになるまで縮径した。
この縮径して作製したものを外径 6腿、 内径 4mmの Ag-0. 2%Mgパイプに挿入し、 さ らに同じ条件で溝ロールによって外径 2mmまで縮径した。
次に熱風吹き出し口から 1 cmのところで 673Kのヒ一ティングガンを用いて加熱し ながら、 線引き加工を行った。 線引きされる直前の線材をヒーティングガンで加 熱しながら、 線引き加工をすることにより、 1mmまで縮径した。 途中、 加工が困難 になったため、 673Kで 600s焼きなましを加えた。 1mmまで縮径した線材を Ag-Mg_A g線材とする。
A. 2 SEMによる線材断面の組織観棄
作製した Ag-Mg-Ag線材を長さ方向に垂直な断面が見えるように樹脂埋めし、 湿 式研磨と無水懸濁液を用いたダイヤモンド研磨によって研磨した。 研磨の後、 プ ラチナ蒸着をしたものを SEM観察用の試料とした。 この試料を走査型電子顕微鏡 ( SEM- - Scanning Elec tron Mi croscope)で観察した。 観察は加速電圧 15kVで行った 本実施例では SEM観察に日本電子株式会社製の電界放射走査型電子顕微鏡 ISM-6
500Fを使用した。 また、 プラチナ蒸着は日本電子株式会社製のマグネトロン型ス パッ夕リング装置であるォートフアインコ一夕 JFC- 1600を用いた。
以降の SEM観察も同様の方法で行った。
A. 3 EPMAによる線材断面の組織観察
線材断面の構成元素の分布を調べるため、 電子線プローブマイクロアナライザ - (EPMA : Ee l ec t ron Probe Mi c roAnalyzer)による観察を行った。 作製した試料を 長さ方向に垂直な断面が見えるように樹脂埋めし、 湿式研磨と無水懸濁液を用い たダイャモンド研磨によつて研磨した。 研磨の後、 炭素蒸着したものを EPMA用の 試料とした。
本実施例では EPMA分析に日立製作所製の走査型電子顕微鏡 S- 3500Hと Kevex Ins t rument s社製の液体窒素冷却式検出器 Super Berymumを使用した。 また、 炭素蒸着 は真空蒸着法により行った。
以降の EPMA分析も同様の方法で行つた。
A. 4 SEM観察と EPMA分析の結果および考察
A. 1で作製した線材の断面を SEMで観察したものを第 5図に示す。
第 5図の明るいコントラストの部分は Agで、 暗いコントラストの部分は Mgであ り、 温間加工によって Mgが途切れずに縮径加工できていることがわかる。
この Mgの厚さは 35〜80 mである。 加工前の Mgの厚さを to、 加工後の Mgの厚さを tと し、 加工率を t/t。と定義すると、 t/t。ば 7%〜16%になっていた。
また、 EPMAを用いて Mg層付近の構成元素の分布を測定した結果を第 6図に示す 。 構成元素の測定は第 6図のライン上で行った。 第 6図の右側が線材の内側、 左 側が線材の外側である。
第 6図(b)は構成元素の分布を表している。 第 6図(a)を見ると、 中央から線材 の内側方向に暗いコントラストの部分 (A)、 少し暗いコントラストの部分 (B)、 明 るいコントラストの部分(C)が見られた。 暗いコントラストの部分 (A)を見ると Ag は検出されておらず、 Mgが検出されているので、 この部分は Mgであることがわか つた。 少し暗いコントラストの部分(B)は、 第 6図(b)の EPMA結果を見ると、 Agは 明るいコントラストの部分 (0よりも検出強度は減つており、 また Mgも暗いコント ラス卜の部分 (A)より検出強度が小さくなつていて、 Ag : Mg=l : lで存在しているこ
とがわかった。 明るいコントラストの部分(C)を見ると Agは検出されているが Mgは 検出されていないので Agであることがわかった。 このように、 少し暗いコントラ ストの部分(B)が見られたのは、 Mgが拡散していることが原因と考えられる。 線材の内側にだけ Mgが拡散したのが見られる原因として, 673Kでの温間加工時 に Mgの内側の方が外側よりも長時間接していたため、 内側にだけ拡散が起こった と考えられる。 また、 Mg層の強度が低いのは、 研磨により Mgがえぐられてしまい 、 EPMAの検出器から見て、 影になっているためだと考えられる。 実験 B 大気雰囲気における Mgの酸化
B. 1 熱処理用の試料の作製
工業的には線材のままで熱処理することが予想されるため、 Ag中を拡散してき た酸素によって Mgを酸化させる必要がある。 そこで、 第 5図で示した Ag-Mg- Ag線 材を 2cmに切ったものの両端に Agのキャップをした。 Agのキャップには直径 4. 5mm の Ag棒を 2. 5匪まで溝口一ル加工したものを約 5mmに切り、 それにドリルで 1· 2腿の 穴を開けたものを用いた。 試料両端にこのキャップをつけ、 万力でキャップと試 料を圧着した。 試料の作製方法を第 7図に示す。
B. 大気雰囲気における Mgの酸化熱処理
この熱処理用の試料を大気雰囲気下において 573K, 673K, 773K, 873Kでそれぞれ 3 6ks, 72ks熱処理した。 さらに 573Kから 673Kまでの Mgの拡散を調べるため、 大気雰 囲気下において 613K, 643Kで 72ks熱処理をした。
B. 3 EPMAによる線材断面の分析
これら熱処理後の試料を長さ方向に垂直な断面が見えるように樹脂埋めし、 研 磨した。 研磨の後、 炭素蒸着したものを EPMA用の試料として、 EPMA分析を行った
B. 4 X線による相の同定
構成相の同定を行うため、 X線回折装置(XRD: X- Ray Di f frac tometer)による X 線パターンの測定を行つた。
熱処理後の試料を無反射 Sけ反またはガラス板に両面テープで張り付けた。 次に 試料の Agを H202 (30%): H3 (28¾) =1 : 2の溶液を用いて溶解 ·除去した。 これを X線測
定用の試料とした。
測定には管球ターゲットには Cuを用い、 Cu- K «線によ Ό θ -ϊ Θ測定を行つた。 加速電圧は 35kV、 管電流は 35mAで回折角 2 0が 20 ° から 68° の範囲で 0. 02 ° おきに ステップスキャンし、 1ステップ当たりの測定時間は 2sで行つた。
測定にはリガク製 X線回折装置 RAD-Bを用いた。
以降の XRD測定も同様の方法で行った。 .
B. 5 EPMA分析と XRD測定の結果および考察
EPMAにより、 Mg層付近の構成元素の分布を測定した結果を第 8図〜第 1 0図に 示す。 写真の右側が線材の内側で、 左側が線材の外側である。
また XRD測定より得られた回折パ夕一ンと J CPDSを比較することによって相の同 定を行った。 これを第 1 1図に示す。
573Kで 36ks熱処理を行った第 8図(1) (a)より、 中央の喑ぃコントラストの部分 (A)から線材の内側の明るいコントラストの部分 (D)に向かって、 少し暗いコント ラストの部分 (B)および少し明るいコントラス卜の部分 (C)が観察された。 第 8図 (1) (b)の EPMA結果を見ると、 暗いコントラストの部分 (A)は Agが検出されておらず 、 Mgのみが検出されているため、 Mgであることがわかる。 少し暗いコントラスト の部分 (B)は、 第 8図 a) (b)の強度を見ると、 Ag:Mg=l : 3で存在していた。 第 1 2 図に示した Ag-Mg状態図から考えると、 少し暗いコントラストの部分 (B)は AgMg3で あると考えられる。 少し明るいコントラストの部分 (C)は、 第 8図(1) (b)の強度を 見ると、 Ag :Mg=l : lで存在していので第 1 2図の状態図より AgMgであると考えられ る。 明るいコントラストの部分 (D)は Agが検出され、 Mgが検出されていないことか ら Agであることがわかる。 実験 Aの第 6図に示す熱処理前の試料と組織と同じよう に、 Mg層より外側の部分には Mgの拡散が見られず、 内側の Mgの拡散距離があまり 変わらないことから、 573K、 36ksの熱処理では拡散はあまり起こらないと言える 同じ 573Kで 72ks熱処理を行った第 8図(2)にも、 第 8図(1) (a)と同じように中央 の暗いコントラストの部分 (A)から線材の内側方向に少し暗いコントラストの部分 は)、 .少し明るいコントラス卜の部分(0、 明るいコントラストの部分(D)となって いるのが観察された。 第 8図(1) (a)と同様に、 中央から順に Mg、 AgMg3、 AgMg, A
gとなっていると考えられる。 第 8図(2) (a)でも Mg層より外側の部分には Mgの拡散 があまり見られず、 熱処理前の第 6図(a)と違いが少なくないことから、 573Kでは Mgはあまり拡散していないと思われる。 また第 1 1図の XRD測定からも Mgと Agが検 出されたが.. この測定感度では MgOが検出されなかったため.。 もし MgOが酸化して いたとしても、 その量は少しと考えられ、 したがって大部分の Mg層は酸化せずに 残っていることがわかった。 .
613Kで 72ks熱処理を行つた試料を第 9図 (1)に示す。 第 9図(1) (a)にも第 8図( 1) (a)や第 8図(2) (a)と同じように中央の喑ぃコントラストの部分(A)から線材の 内側方向に少し暗いコントラストの部分 (B)、 少し明るいコントラストの部分(C) 、 明るいコントラストの部分(D)となっているのが観察された。 第 9図(1) )の E PMA結果より、 中央から順に Mg、 AgMg3、 AgMg、 Agとなっていると考えられる。 57 3Kと 613Kを比較しても Agと Mgの分布にあまり差がないことから、 Mgはあまり拡散 していないと考えられる。
643Kで 72ks熱処理を行つた試料を第 9図(2)に示す。 第 9図(2) (a)にも中央の喑 いコントラストの部分 (A)から線材の内側方向に少し喑ぃコントラストの部分(B) 、 少し明るいコントラストの部分(0、 明るいコントラストの部分 (D)となってい るのが観察されたが、 熱処理前や 573K、 613Kと比べて、 少し喑ぃコントラストの 部分(Β)、 少し明るいコントラストの部分(C)が広がっていた。 これは Mgの拡散が 進み、 AgMg3や AgMgが形成されていると考えられる。
673Kで 36ks熱処理を行った第 9図(3) (a)を見ると、 中央の喑ぃコントラストの 部分 (A)から線材の内側方向に少し暗いコントラストの部分(B)、 少し明るいコン トラストの部分(0、 明るいコントラストの部分 (D)となっているのが観察された 。 第 9図(3) (b)の EPMA結果より、 喑ぃコントラストの部分 (A)では Agが少し検出さ れ、 Mgが多く検出されているので、 Mgに Agが固溶していると思われる。 また、 57 3K、 61 3Κ、 643Κと比較して、 Mgの検出強度が低くなつており、 さらに Mg層の厚さ が薄くなつていることから、 Mg層の Mgが拡散により減少していると考えられる。 少し暗いコントラストの部分 (B)と少し明るいコントラストの部分 (C)は、 熱処理 前と比較して広がつており、 拡散が進んでいると考えられる。
同じ 673Kで 72ks熱処理を行つた第 9図 (4) (a)を見ると、 中央に暗いコントラス
トの部分 (A)、 その両側に少し喑ぃコントラストの部分 (B)、 明るいコントラスト の部分(C)が観察された。 第 9図(4) (b)の EPMA結果より、 暗いコントラストの部分 (A)は Agが少し検出され、 Mgが多く検出されているので、 Mgに Agが固溶していると 思われる。 673Kで 36l£S熱処理した第 9図(3) (b)の EPMA結果に比べ、 72ks熱処理し ' た第 9図(4) (b)の EPMA結果では Mgの検出強度が低くなつており、 Mg層の厚さも 36 ks熱処理をした第 9図(3) (a)よりも薄くなつていることから、 Mgの拡散がさらに 進んでいると考えられる。 第 i 1図の XRD測定より、 Agと AgMgが存在し、 わずか に Mgも存在することがわかった。 第 1 1図でははつきりしないが、 検出感度を上 げるとわずかに MgOが検出されたことから、 わずかに Mgが酸化していたと考えられ る。 しかし、 大部分の Mgは酸化していないと考えられる。
773Kで 36ks熱処理を行った第 1 0図(1) (a)を見ると、 少し暗いコントラストの 部分 (B)の中に暗いコントラストの部分 (A)が 2層見られ、 Bの両側に明るいコント ラストの部分(C)が見られた。 第 1 0図(1) (b)の EPMA結果から、 暗いコントラスト の部分 (A)には他の部分より多くの Mgが存在していることがわかる。 明るいコント ラストの部分(C)は Mgが検出されず、 Agのみが検出されていることから、 Agである ことがわかる。 少し暗いコントラストの部分(B)は Ag : Mg=3 : lで存在することから Ag3Mgであると考えられる。 また後で示す実験 Cや実験 Dよりこの Aの領域は Agの両側 にあった AgMg3との境界で共晶反応により融液が形成されたため、 酸化が促進され たと推定される。
同じ 773Kで 72ks熱処理を行った第 1 0図(2) (a)を見ると、 暗いコントラストの 部分が層状に存在する領域 (A)と粒状に存在する領域 (B)が見られ、 少し暗いコン トラストの部分(0、 明るいコントラストの部分 (D)も見られた。 粒状の暗いコン トラストの(B)は 773Kで 36ksの熱処理をした第 1 0図(1) (a)に観察された 2層の Mg 0が粒状に成長したものと思われる。 また、 773Kで 36ks熱処理を行った第 1 0図( 1) (a)には見られなかった、 層状の喑ぃコントラストの部分 (A)と少し暗いコント ラス卜の部分がラメラ状になっている領域 (E)が 773Kで 72ks熱処理を行った第 1 0 図(2) (a)に見られた。 第 1 1図の XRD測定より、 この 773Kで 36ksの熱処理をした 試料では Agと MgOが観察されており、 第 1 0図(2) (b)の EPMA結果で Mgが検出された 暗いコントラストの領域 (A) (B)は MgOであると考えられる。 また、 少し暗いコント
ラストの部分(C)は Agと AgMg3の混相、 明るいコントラス卜の部分 (D)は Agであると 思われる。
873Kで 36ks熱処理を行った第 1 0図(3)を見ると、 773Kで 36ks熱処理を行った第 1 0図(1) (a)と同じように暗いコントラストの部分 (A)が 2層観察され、 これは Mg 0と考えられる。 また、 少し喑ぃコントラストの部分(B)、 明るいコントラストの 部分(C)が観察された。 丸い斑点のような部分は、 第 1 0図(3) (b)の EPMA結果を見 ても変化が見られないことから、 研磨後の洗浄時にできた乾燥むらであると思わ れる。 暗いコントラストの部分 (A)以外の Mgの検出強度は低く、 第 1 0図(3) (a)の SEM観察の視野よりも広く Mgが拡散していると考えられる。 少し喑ぃコントラスト の部分(B)は第 1 0図(3) (b)の EPMA結果より、 Agと Ag3Mgの混相になっていると考え られる。
同じ 873Kで 72ks熱処理を行った第 1 0図(4) (a)を見ると、 773Kで 72ks熱処理を 行った第 1 0図(2) (a)と同じように喑ぃコントラストの部分と少しくらいコント ラス卜の部分がラメラ状に存在する領域 (C)が観察された。 暗いコントラストの部 分 (A)には MgOが形成されており、 これは第 1 1図の XRD測定と矛盾しない。 また 、 第 1 0図(4) (b)の EPMA結果より、 暗いコントラストの部分 (B)は Agと Ag3Mgの混相 ができていると思われる。
以上の結果をまとめると以下のようになる。 573K、 613Kあたりではほとんど Mg の拡散は目立たないが、 643K付近から Mgの拡散が見られた。 Ag中に拡散した Mgは Mg層から近いほうから順に Ag3Mgと AgMgという化合物を形成していた。 熱処理の温 度が上がるにつれ、 拡散の進行は速くなつていた。 また、 XRD測定から、 MgOのピ ークは、 673Kでは測定感度を上げて初めてわかる程度であつたが、 773K、 873Κで ははつきりと見られた。
後で示す第 3 2図よりもわかるように、 多芯線材では Mgの厚さが l O ^ mほどしか ない。 Mgを拡散させずに酸化させると各フィラメントを絶縁体で包むことができ る。 Mgを拡散させずに酸化させるには、 できるだけ低温で Mgを酸化させる必要が ある。 そこで、 Mgの酸化開始温度と酸化のメカニズムを調べるため、 TG'DTA測定 を frつた。
実験 C Mgの酸化開始温度の測定
C. 1 Ag- Mg - Ag線材の TG - DTA測定
Mgの酸化開始温度と酸化のメカニズムを調べるため、 示差熱分析 (DTA:Di f f ere nt i al Thermal Ana lys i s)を打った。
この測定では第 7図のようなキヤップをした試料を用いることができず、 Ag-M g- Ag線材を 5腿ほどに切ったものを 12本アルミナ製パンに入れて行つた 測定前の 試料の重さは約 0. 35gであった。 標準試料にはアルミナ粉末を用いた。 測定は大気 雰囲気と l atmの酸素雰囲気で、 試料を 1 OK/m i nで昇温しながら行った。
測定にはリガク製の示差熱天秤 TG-DTAを用いた。
C. 2 6 3 , 酸素雰囲気における Ag-Mg- Ag線材の TG-DTA測定
後で示す C. 3の考察より l atmの酸素雰囲気では Mgの酸化が 643K付近から始まって いると考えられるので、 l atmの酸素雰囲気において Ag_Mg-Ag線材を 643Kで 86. 4ks 保持して、 TG- DTA測定を行つた。 この測定でも第 7図のようなキヤップをした試 料を用いることができず、 Ag Mg-Ag線材を 5讓ほどに切ったものを 12本アルミナ製 パンに入れて行った。 測定前の試料の重さは約 0. 35gであった。
C. 3 TG-DTA測定の結果および考察
Ag-Mg_Ag線材の TG-DTA測定結果を第 1 3図、 第 1 4図に示す。 第 1 3図は大気 雰囲気で測定したもの、 第 1 4図は l atmの酸素雰囲気で測定したものである。
DTAは温度変化に対する比熱の変化を表しており、 勾配が正の時は発熱反応、 負 の時は吸熱反応が起こっている。 DTA測定の結果を見ると、 大気雰囲気でも l atmの 酸素雰囲気でも 736Kと 755Kで吸熱反応が見られた。 Ag-Mg2元系状態図の Mg側を拡 大したものを第 1 5図に示す。
Ag - Mg状態図より 745Kで共晶反応が起こることから、 Ag- Mg- Ag線材中の AgM と Mgの界面で融解が起こると考えられる。 また Ag- Mg状態図より 765 Kで包晶反応が起 こることから、 AgMg3が融解し AgMgと液相に分かれるものと思われる。
また大気雰囲気でも、 l atmの酸素雰囲気でも、 740K付近から急激な発熱反応が あり、 また、 質量変化も 740K付近から急激に増加することから、 これは Mgが急激 に酸化していると考えられる。 ここで、 Mgには第 1 6図の Mg0 2元系状態図に示す ようにほとんど酸素が固溶しない。 また溶融した Mg単体は大気中で急激に酸化す
るということが知られていることを考えて、 この Mgの酸化には 2通りの過程が考え られる。 ひとつは Mgが共晶温度以下の固体の時と同じように、 Ag中を拡散してき た酸素と反応し酸化する過程、 もうひとつは Mgが共晶反応、 包晶反応によって融 解し、 融解後 Mgが急激に酸化する過程である。
まず、 Mgが共晶温度以下の固体の時と同じように酸素と反応し酸化する過程を 考察する。 この過程では、 このような急激な発熱反応が見られる原因として、 Mg に供給される酸素の量のみが考えられる。 つまり、 740Kより高温になると Ag中の 酸素濃度が 740Kより低温側に比べて急激に増えたため、 酸化が急激に始まったと 考えられる。 Ag中の酸素濃度を決める要素として、 Agに固溶する酸素の固溶度と Ag中の酸素の拡散速度がある。 Ag中の酸素の固溶度は以下のようにして求めた。 ある温度 T,で酸素は XteO (sat)まで溶け込めるとすると、 Lにおける平衡状態では O に Agが溶け込まないことから、 Xteo(sal)〈Xoく 1の範囲のいかなる組成 X。においても 、 純粋の Oは ΧΛβΟ (sa.)なる組成の Ag中の 0と平衡状態にあるので次の反応式が成り 立つ。
A = 0 (c.D したがって、 純粋〇の化学ポテンシャルを 。°とすると、
また、 活量は、 0 = tt O(sat) (C.3) となる。 純粋の〇を標準状態としているから、 純粋 Oの活量は 1である。 aO = U0 at) = 1 (C.4) となる。 固溶している Oは希薄なので、 Henryの法則に従うと考えられ、 Oの活量 は X。に比例する。 活量係数をァ。 °として、
n^8 _ 1 = v ° YAs (C.5) ー丄ー り )
これより、 Agに固溶する〇の溶解度曲線を温度の関数と求めることができる。 し かし、 式(C. 1)の溶体反応は AG=0なので、 あまり有用ではない。 そこで、 Oが純
粋状態から、 Χ
ΛΗο ではなく Agに固溶する任意の組成 X。に移ったとすると、 0(g) = 0(X¾
at)) G, (c.7)
前と同様に純粋〇の活量は 1なので、 式(C. 5)、 式( 6)より、
°Ό = yAs (C.9) したがって、 式(C. 8)より、
μ0 - = RT ΙϊϊΧρ — RT In ^^^ (CIO) 一方、 次の関係
、 ■ H: (C.ll)
a(i/r) があるので、
すなわち、
△H。
(C.14)
RT 式( 1)の反応から、 は純粋の Oが希薄溶体に移るときに消費されるェンタル ピーであり、 相対モル比ェン夕ルピ一である。 溶質が Henryの法則に従うような希 薄溶体に対しては、 △! ^は組成に無関係である。 また、 △! ^は温度とはほとんど 無関係なので、 式(C. 14)の両辺の対数をとると、
AH,, 1
In X。 。,) + \n A (C.15)
R T となり、 溶解度曲線上の (T, X )が 2点分かれば、 と Aを求めることができ
、 式(0 14)より Xte o to)を求めることができる。 今回、 第 1 7図に示す Ag - 02元系 状態図を用いて求めた。 高温側では第 1 7図(a)の 931°Cで 0. 006wt%固溶するとい
う値を、 低温側では第 1 7図(b)の 190°Cで 0. 002wt%固溶するという値を用いた。 求めた Agに固溶する Oの溶解度を式 (C. 16)、 計算結果を第 1 8図に示す。 o s.) = 0.01292expf- ^j {wt%0) (c.16) 以下の計算には式 (C. 1 6)から求められた値を用いた。
次に酸素は Ag中を拡散するが、 Ag中の酸素の拡散係数は 685Kく Tく 1 135Kの温度範 囲では( 17)のように与えられる。
111
D = 0.027 exp [cm (C.17)
RT 拡散してくる酸素原子の単位面積あたり、 単位時間当たりの流量を】 (mo l/cm2s)、 テープ表面の酸素濃度を Cs (mo l/l)、 Mgの位置での酸素濃度を CMs (mo l/l)、 表面から Mgまでの距離を X (cm)とすると、 Fi ckの第一法則より、 (C. 18)のように与えられる
J _ p( Cs - ' ) (C.18)
\ x J
拡散してきた酸素原子は中の Mgに到達すると同時に反応するとし、 Mgの位置の酸 素濃度 C^Oとした。 テープ表面の酸素濃度は Agに固溶する酸素量を状態図から読み 取った。 Ag中の酸素の溶解度を X o (wt%)とすると、 線材表面の Ag l cm3に含まれる 酸素原子の物質量 Cs (mol/cm3)は(C. 19)のようになる。
C Ji^ ^ (C.19)
M0pAs 100 以上の計算結果より、 大気雰囲気について、 Mgが共晶温度以下の固体の時と同 じょうに酸素と反応し酸化する過程を考える。 第 1 3図の DTAより、 740K付近から Mgの酸化が急激に始まっているので、 もしこの過程が正しければ、 740K付近で Ag 中を拡散してくる酸素の量は急激に増えるはずである。 今、 730K、 740Κ、 750Κの 酸素拡散量を考える。 式(C. 16)、 式(C. 17)より、 7 7傷、 750Κにおける Ag中 の酸素溶解度と拡散係数を求めると第 1 9図のようになる。
これより、 730K, 7權、 750Kでは酸素の溶解度はほとんど変わらないため、 酸 素の拡散速度は拡散係数によって決まると考えるが、 740K付近で急激に変化する
ようには見られない。 これより Mgの酸化はもうひとつのモデルである、 Mgが共晶 反応、 包晶反応によって融解し、 融解後 Mgが急激に酸化するというモデルで Mgが 酸化していると考えられる。 酸素雰囲気についても大気雰囲気と同様に融解後、 Mgが急激に酸化していると考えられる。 しかし- この過程で必要な酸素の補給に ついて更に考察が必要である。
7權ょり低い温度では徐々に酸化が起こっており、 なだらかに発熱が起こって いると考えられる。 大気雰囲気では 656K付近から、 酸素雰囲気では 640K付近から 質量増加が始まっている原因としては、 Mgが徐々に酸化していくことと Ag中に酸 素が固溶していくことが可能性として考えられる。 しかし、 第 1 9図から分かる ように、 750Kでも酸素は 0. 004wt%しか固溶しない。 熱処理に使用した試料は約 0. 35gで、 もし試料全体が Agだとしても、 1. 4 X 10— はどしか溶け込まないことが分力、 る。 これより酸素雰囲気の方が低い温度で酸化が始まると考えられる。
Ag-Mg-Ag線材を l atmの酸素雰囲気において 643Kで 86. 4ks保持して TG測定した結 果を第 2 0図に示す。
この TG測定の結果を指数関数で近似し、 回帰曲線を次のように定めた。 F (t)は 質量増加 (g)、 tは時間 (hour)である。
f (t) = 0.0082067 (1一 exp [- 0.0624708 t]) (C.20) この回帰曲線を TG測定の結果と合わせて第 2 1図に示す。
質量増加を表す回帰曲線の傾きがはば 0になるところを酸化終了とし、 Mgの酸化 終了時間を 360ksと見積もつた。 この分析結果をもとに第 7図のように試料の両端 にキヤップをした線材で熱処理を行つた。 実験 D 酸素雰囲気における Mgの酸化熱処理
D. 1 高圧酸素雰囲気における Mgの酸化
実験 Cの考察より酸素分圧を上げると、 Mgの酸化開始温度が下がると考えられる 。 実験 Cでは第 3図のように Ag- Mg-Ag線材の両端にキヤップをすることができず、 純粋に Ag中のみを酸素が拡散する時の Mgの酸化挙動を観察することはできなかつ た。 そのため、 キャップをすることで、 両端からの酸素の進入を防いだ試料での Mgの酸化挙動を調べるために、 l atmの酸素雰囲気において、 キャップをした試料
を 7UK, 360ksで熱処理した。 また同様に 5atmの酸素雰囲気において 7UK, 180ksで 熱処理した。
D-2 AgMg3-Mg共晶温度以上での Mgの酸化
第 1 2図に示した Ag- Mg状態図より、 745Kで AgMg3と Mgが共晶反応し、 液相ができ る。 そこで両端にキャップをした Ag-Mg-Ag線材を 753K、 latmの酸素雰囲気下で 3. 6ks, 18ks, 36ks, 72ks熱処理した。
また、 第 1 2図に示した Ag-Mg状態図より、 923Kで Mgが融解するので、 両端にキ ャップをした Ag_Mg- Ag線材を 933ί (で 3.6ks, 18ks熱処理を行つた。
D.3 SEMによる組織観察
熱処理後の試料を樹脂埋めし、 研磨した。 研磨の後、 プラチナ蒸着し、 SEMで観 察した。
D. 粉末 X線による相の同定
熱処理後の試料を 150kg/cm2でプレスしガラス板に両面テープで張り付けた。 次 に Agを ¾02 (30%): NH3(28%)=1:2の溶液を用いて溶解 ·除去した。 この試料について 、 XRDを用いて 0-20測定を行った。
D.5 SEM観察と XRD測定の結果および考察
両端にキャップをした Ag- Mg- Ag線材を 1 a t mの酸素雰囲気において 714K, 36 Oksで 熱処理したものと、 5atmの酸素雰囲気において 714K, 180ksで熱処理したものを XR D測定した。 その結果を第 2 2図に示す。
7UK、 latmの酸素雰囲気で 360ks熱処理した試料は、 第 2 2図の XRD測定の結果 より、 Mgが観察され、 ほとんど MgOが形成されていなかった。 この試料は両端に A gキャップをつけていたため、 Ag中を拡散してきた酸素で試料内部の Mgを酸化する ことになる。 しかし、 MgOが形成されていないことから、 Ag中を拡散してくる酸素 は非常に少ないと考えられる。 同じ 714Kで 5atmの酸素雰囲気で熱処理した試料は 、 XRD測定より MgOができているのが観察された。 これより酸素分圧を上げると Mg の酸化開始温度が下がると言える。
Ag- Mg-Ag線材を latmの酸素雰囲気において、 AgMg3- Mg共晶温度より高い 753Kで 3.6ks- 18ks, 36ks, 72ks熱処理したもの、 Mgの融点より高い 933Kで 3.6ks, 181"熱処 理したものを SEMで観察した。 Mg層付近の SEM写真を第 2 3図に示す。 各写真の右
側が線材の内側、 左側が線材の外側である。
またこれらの試料を XRD測定した結果を第 2 4図に示す。
753K、 l a tinの酸素雰囲気で 3. 6ks熱処理を行った第 2 3図(a)を見ると、 喑ぃコ ントラストの部分(A)、 少し喑ぃコントラストの部分(B)、 明るいコントラストの 部分(C)が観察された。 第 2 4図の] [RD測定より MgOが観察されず、 また、 実験 Aの 熱処理前の試料である第 6図に見られる組織とほぼ同じであることから、 Mgは著 しくは酸化していないと考えられる。 実験 Bの結果を考えると、 暗いコントラスト の部分 (A)は Mgで、 少し暗いコントラストの部分 (B)は AgMg、 明るいコントラスト の部分 (0は Agであると考えられる。
同じ温度、 酸素雰囲気で 18ks、 36ks熱処理というように熱処理時間が長くなる と、 第 2 3図(b)、 (c)のように変化していく。 少し暗いコントラストの部分 (B)が 広がり、 暗いコントラストの部分 (A)が細く 2層観察された。 第 2 4図の XRD測定の 結果を見ると、 MgOができていないように見えるが強度を対数でプロットしたとこ ろ、 36ksの熱処理をした試料で MgOのピークがわずかに見られた。 また実験 Bの 77 3K大気雰囲気で 36ks熱処理した第 1 0図(1)や 873K大気雰囲気で 36ks熱処理した第 1 0図(3)と似ていることから、 暗いコントラストの部分 (A)は MgOで、 少し喑ぃコ ントラストの部分(B)は AgMg、 明るいコントラストの部分(C)は Agであると考えら れる。 この MgOは Mgと AgMg3の共晶温度以上で熱処理したため、 Mg層の両側にあった AgMg3との界面にできたものと考えられる。 また、 長時間熱処理することによって Mgが拡散し、 AgMg領域が広くなつているのが観察される。
同じ温度、 酸素雰囲気で 72ks熱処理を行った第 2 3図(d)を見ると、 少し喑ぃコ トの部分 (B)の中に、 暗いコントラストの部分 (A)があり、 Bの両側に明る トの部分(C)が観察された。 第 2 4図の XRD測定より、 MgOと AgMgと Agが観察されたので、 暗いコントラストの部分 (A)は MgOであり、 少し暗いコント ラス卜の部分(B)は AgMg、 明るいコントラストの部分(C)は Agであると推定される 。 また、 Bの領域内に見られる暗いコントラストの Aの領域は 36ksのとき形成され た MgOが成長したものと考えられるが、 36ks熱処理をした第 2 3図(c)にはほとん ど見られなかった、 線材外側の Cの領域と Bの領域の間に MgOが観察された。 これは 熱処理により、 酸素が線材外側から Ag中を拡散していき、 AgMgの領域 (B)の外側部
分を酸化したものと考えられる。
933K、 l atmの酸素雰囲気で 3. 6ks熱処理を行った第 2 3図(e)、 18ks熱処理を行 つた第 2 3図(f)を見ると、 どちらにも少し暗いコントラストの部分 (B)の中に暗 いコントラストの部分 (A)が 3層観察された。 第 2 4図の XRD測定より、 MgOと Ag3 Mgと Agが観察された。 暗いコントラストの部分 (A)は MgOで、 少し暗いコントラス トの部分(B)は Agと Ag3Mgの混相であると考えられる。 このように MgOの層が 3層見ら れたことから、 第 2 3図(d)に見られる 3層の MgOと同じように考えると、 線材内側 の 2層は 753Kで 18ks、 36ks熱処理した第 2 3図(b;)、 (c)に見られる MgOと同じであ り、 Mg層の両側にあった AgMg3との界面が融解して酸化して形成された MgOであると 考えられる。 また、 線材外側の 1層は第 2 3図(d)に見られる AgMgの領域の外側部 分が線材外側からの酸素の拡散により酸化したものと考えられる。
以上の結果をまとめると以下のようになる。 試料を 714K、 l atmの酸素雰囲気で 熱処理したものと 5atmの酸素雰囲気で熱処理したものを比較して、 5atmの酸素雰 囲気の方により多く MgOができていたので、 酸素分圧を上げると、 Mgの酸化開始温 度を下がることがわかった。 また、 753K、 l atmの酸素雰囲気では 18ks、 36ks、 72 ks熱処理したものに、 933K、 l atmの酸素雰囲気では 3. 6ks、 18ks熱処理したものに 明瞭に MgOが観察された。 また、 Mgの酸化の際、 Mgの両側の AgMg3との界面が融解し て酸化が起こり、 さらに長時間熱処理することによつて AgMgの領域の外側部分が 線材外側から拡散してきた酸素によって酸化すると考えられる。 また、 753Kと 93 3Kを比較すると、 753Kの方が Mgの拡散は少ない。 ここでは AgMgや Ag3Mgというよう な化合物や Mgが観察されたことから Mgが完全に酸化されていない。 しかし後の実 験 Fで示すように多芯線材をテープ状に加工したとき、 Mg層の厚さは 1〜 5 mにな るので、 多芯テ一プ線材については Mgを完全に酸化させることが可能であると考 えた。
2 . B i 2223超電導線材における MgO高抵抗層の導入
第 2 5図のような B i 2223の仮焼粉を充填した Ag- Mg-Ag線材を温間で縮径加工し た。 ·この線材を熱処理し Mgを酸化させ、 Bi 2223の仮焼粉がある場合の影響を Ag - M g_Ag線材と比較することによつて調べた。
また Mgの酸化熱処理を行う前の単芯線材を用いて第 2 6図のような多芯線材を 作製した。 この線材をテープ線材に加工した後、 Mg酸化熱処理、 さらに Bi 2223相 形成の熱処理をし、 MgO高抵抗層を導入した M 2223多芯テープ線材を作製した。 さ らにこのテープ線材に対して、 臨界電流測定を行った。 実験 E 仮焼粉 'Ag-Mg-Ag線材の作製および Mgの酸化
実験方法
E. 1 Bi 2223仮焼粉の再仮焼き
本実験では Me r ck社製 B i 2223仮焼粉を用いた。 その組成を第 2 7図に示す。 この仮焼粉中に含まれる炭素と水を除去するため、 Ar- 20 O2雰囲気中、 1053K、 7. 2ksの条件で熱処理を行った。
E. 仮焼粉- Ag- Mg-Ag線材 (Mg単芯線材)の作製
線材は P IT法によって作製した。 線材作製のフローチャートを第 2 8図に示す。
Ar雰囲気中で、 外径 6匪、 内径 4. 5皿の純 Agパイプに仮焼粉を充填した。 仮焼粉 は 43 Okg/cm2でプレスすることによって、 充填した。
この仮焼粉を充填した Agパイプを外径 7mm、 内径 6匪の Mg- 3%A卜 0. 1%Ζηパイプ (M gパイプ)に挿入した。 この試料を 673Kの炉に 60s入れて加熱した後、 12角形溝口一 ルで数回圧延加工することによつて温間加工した。 この操作を繰り返すことによ つて、 線材の外径が 4. 5匪になるまで縮径した。
外径 6匪、 内径 4. 5腿の純 Agパイプにこの線材を揷入し、 さらに同じ条件で溝口 —ルを用いて温間加工し、 外径が 3. 6mmになるまで縮径した。 この線材を 553Kのォ ィルバスに 15s入れて加熱した後、 溝ロールを用いて数回圧延加工することによつ て温問加工した。 この操作を繰り返すことによって、 線材の外径が 2匪になるまで 縮径した。 加工の途中 3回、 それぞれ 673Kで 600s焼きなましを加えつつ加工した。 ここで焼きなましを行ったのは、 焼きなましを加えずに加工した場合、 Mgが加工 できなかったためである。 線形 7腿の仮焼粉一 Ag-Mg線材を 553Kのオイルバスに 15 s入れて加熱した後、 溝ロールを用いて数回圧延加工することを繰り返したところ 、 Mgが加工できずに割れが生じた。 その写真を第 2 9図に示す。
温間線引き加工に用いた装置を第 3 0図に示す。 第 3 0図のようなオイルバス
と溝口一ルを用いて 2腿まで縮径した線材を 523Kで温間線引きし、 1mmまで縮径し た。 線引き加工の途中に 1度 673Kで 600s焼きなましを加えた。 この線材を Mg単芯線 材とする。
さらにテ一プ線材にするために 1 50kg/cm2で 30sプレスし、 もう一度方向を変えて 150kg/cm2でプレスした。 これを Mg単芯テ一プ線材とする。
E. 3 Mgの酸化熱処理 .
A. 1で作製した Ag- Mg-Ag線材を E. 2と同様に 15 Okg/cm2でプレスした。 これを Ag - Mg_Agテープ線材とする。 実験 Dの結果より、 Ag- Mg-Ag線材を l atmの酸素雰囲気に おいて 753K, 72ks熱処理したものと、 933K, 3. 6ks熱処理したものに MgOが観察され たので、 Ag- Mg- Agテープ線材と Mgテープ線材をそれぞれ 1 a tmの酸素雰囲気におい て 753K, 72ks、 933K, 3. 6ksという 2種類の条件で熱処理した。 ただし、 酸素を 30ml /minで流すことにより l atmの酸素雰囲気とした。
E. 4 SEMによる組織観秦
作製した試料を樹脂埋めし、 研磨した。 研磨の後、 プラチナ蒸着し、 SEMで観察 した。
E. 5 粉末 X線による相の同定
Mg酸化熱処理後の試料をガラス板に両面テープで張り付けた。 次に Agを 02 (30 %) : N (28%) =1 : 2の溶液を用いて溶解'除去した。 この試料について、 XRDを用いて 0 - 2 0測定を行った。
E. 5 SEM観察と X乱針測定の結果および考秦
Mg単芯線材の線引き加工後の線材の断面を SEMで観察したものを第 3 1図に示す 。 第 3 1図の中央の少し暗いコントラストの部分 (A)は B i 2223仮焼粉で、 暗いコン トラストの部分 (B)は Mgで、 明るいコントラストの部分(C)は Agであり、 温間加工 によって Mgが切れずに加工できていることがわかった。 この Mgの厚さは約 10〜50 mだった。 加工前の Mgの厚さを t。、 加工後の Mgの厚さを tとし、 加工率を t/t。と定 義すると、 t/tnは 2〜10%になっていた。 仮焼粉がない場合と比較して、 Mg層のうね りが大きかった。
次に Mg単芯テープ線材の断面を SEMで観察したものを第 3 2図及び第 3 3図に示 す。 第 3 2図は電流方向に垂直な断面、 第 3 3図は電流方向に平行な断面である
第 3 2図、 第 3 3図の明るいコントラストの部分は Ag、 暗いコントラストの部 分は Mg、 少し喑ぃコントラストの部分は B i 2223仮焼粉である。 第 3 2図を見ると
、 仮焼粉や Mgがうねっている。 この現象をソーセージングという。 ソ一セ一ジン グが起こることによつて臨界電流が低下するので、 ソーセージングが起こらない ように加工する必要がある。 第 3 3図より Mgの厚さは 5〜1 1 ζ ιηで、 加工率 t/t。は 1〜2. 2%である。
l a tmの酸素雰囲気において 753K, 72ks、 933K, 3. 6ksで熱処理した Ag-Mg-Agテープ 線材と Mg単芯テープ線材の断面を SEMで観察した。 Mg層付近の SEM写真を第 3 4図 に示す。
また、 XRD測定の結果を第 3 5図に示す。
第 3 5図の XRD測定の結果より、 熱処理後の 4つのテープ線材すべてに MgOができ ていることが観察された。
Ag-Mg- Agテープ線材を 753K、 l atmの酸素雰囲気で 72ks熱処理した第 3 4図(a)の 明るいコントラストの部分 (A)は Agで、 暗いコントラストの部分 (B)の大部分は Ag Mgであると考えられる。 AgMgの領域のテ一プ表面に近い側は実験 Dの考察より、 M gOになっていると思われる。 Mg単芯テープ線材を同じ条件で熱処理したものが第 3 4図(b)であり、 中央の暗いコントラストの部分(C)は B i 2223仮焼粉で、 少し喑 いコントラストの部分 (B)は AgMgで、 明るいコントラストの部分 (A)は Agであると 考えられる。 AgMgの層(B)の内部と外側に暗いコントラストの部分が見られるが、 これが MgOであると考えられる。 AgMg層(B)の内部には粒状に MgOが形成され、 AgM g層(B)の外側には層状に MgOが形成されているのが観察される。 また、 AgMgの層( B)の厚さは 10〜25 z mで、 熱処理前の Mgの厚さである 5〜1 1 mより厚くなつていて 、 Mgが拡散していることがわかった。
Ag - Mg-Agテ一プ線材を 933K、 l atmの酸素雰囲気で 3. 6ks熱処理した第 3 4図(c) は明るいコントラストの部分 (A)に少し喑ぃコントラストの層(B)が見られた。 実 験 Dにおいて同じ条件で熱処理をした第 2 3図(e)と組織が似ていることから、 少 し喑ぃコントラス卜の部分 (B)の暗く層状に見える部分は MgO、 明るいコントラス トの部分 (A)は Agと AgMg3の混相であると思わ ήる。 Mg単芯テープ線材を同じ条件で
熱処理したものが第 3 4図(d)であり、 中央の少し暗いコントラストの部分(C)は Bi 2223仮焼粉で、 暗いコントラストの部分は洗浄時に落とせなかった油分だと思 われる。 明るいコントラストの部分 (A)の中に少し喑ぃコントラストの層(B)が見 られる。 Aの領域と Bの層は仮焼粉のない第 3 4図(c)と同じように見えることから 、 少し暗いコントラストの部分 (B)の暗く層状に見える部分は MgO、 明るいコント ラストの部分(A)は Agと AgMg3の混相であると思われる。
Β Ϊ 2223の仮焼粉が存在する場合も仮焼粉がない場合と同様に、 1 atinの酸素雰囲 気において 753K, 72ksまたは 933K, 3. 6ks熱処理することによって Mgが酸化すること がわかった。 しかし、 993Kで熱処理したものは拡散により Mgが母材の Ag全体に拡 散しているのが観察された。 実験 F MgO層を含む多芯線材の作製および臨界電流測定
F. 1 仮焼粉 IAg- Mg- Ag多芯線材 (Mg多芯線材)の作製
MgO高抵抗層を導入した多芯テ一プ線材の作製のフロ一チヤ一トを第 3 6図に示 す。
実験 Eで作製した Mg単芯線材を外径 6匪、 内径 4. 5匪の純 Agパイプの中に 本入れ た。 この試料を 673Kの炉に 60s入れ加熱した後、 12角形溝ロールで数回圧延加工す ることによって温間加工した。 この操作を繰り返すことによって、 線材の外径が 2IMになるまで縮径した。
次に第 3 0図のオイルバスと溝ロールを用いて 2匪まで縮径した線材を 523Kで温 間線引きし、 1謹まで縮径した。 なお、 線引き加工の途中に 1度 673Kで 600sの焼き なましを加えた。 この線材を Mg多芯線材とする。
さらにテープ線材にするために、 Mg多芯線材を 150kg/cm2で 30sプレスし、 もう一 度方向を変えて 15 Okg/cm2でプレスした。 これを Mg多芯テープ線材とする。
F. 2 Mgの酸化熱処理
実験 Eの結果より、 Mgを酸化させるために Mg多芯テープ線材を l atmの酸素雰囲気 で 753K, 72ksで熱処理した。 また l atmの酸素雰囲気で 933K, 3. 6ksの条件でも Mgの酸 化熱処理を行った。 ただし、 30ml/inmで熱処理することによって l atmの酸素雰囲 気とした。
F. 3 仮焼粉 _Ag多芯線材 (Mgなし多芯線材)の作製
MgOの高抵抗層を導入した線材と導入していない線材の比較するために、 MgO高 抵抗層を導入していない線材を作製した。 作製方法のフローチャートを第 3 7図 9
線材は PIT法によって作製した。 Ar雰囲気中で、 外径 6腿、 内径 4. 5腿の純 Agパイ プに仮焼粉を充填した。 仮焼粉は 430kg/cni2でプレスすることによって、 充填した 仮焼粉を充填した Agパイプを室温で 12角形溝ロールを用いて 2mniまで縮径した後 、 1腿まで線引き加工を行った。 この線材を Mgなし単芯線材とする。
仮焼粉 · Ag線材を外径 6IM、 内径 4. 5腿の純 Agパイプの中に 14本入れた。 この試料 を室温で 12角形溝ロールを用いて 2匪まで縮径した後、 1匪まで線引き加工を行つ た。 この線材を Mgなし多芯線材とする。
さらに、 テープ線材へ加工するために Mgなし多芯線材をプレス加工した。 この 線材を Mgなし多芯テープ線材とする。
F. 4 Bi 2223相形成の熱処理
F. 2で作製した 753Kで Mgを酸化させた Mg多芯テープ線材と 933Kで Mgを酸化させた Mg多芯テープ線材と F. 3で作製した Mgなし多芯テープ線材をそれぞれ Ar- 7. 8%〇2雰 囲気において 1095K, 180ksで熱処理した。 この熱処理の後、 中間プレスをすること によって Bi 2223の配向性を高めることができる報告がある。 そこで、 熱処理後の テープ線材を 150kg/cm2で 30sプレスし、 もう一度方向を変えて 15 Okg/cm2でプレスし た。 このプレスを中間プレスとする。
中間プレス後、 これらの試料に対して、 Ar- 7. 8%— 02雰囲気において 1 103K, 144 ks、 1084K, 144ks、 1060K, 108ksの 3ステップからなる熱処理を行った。 熱処理の過 ,程を第 3 8図に示す。 1段階目の熱処理 1103K, 144ksでは中間プレスによって形成 されたクラックを修復し、 さらに液相を作り出すことによって B i 2223を形成しや すくしていると考えられている。 2段階目の熱処理 1084K, U4.ksでは液相を減らし Bi 2223をさらに形成している。 3段階目の 1060K, 108ksの熱処理は Pos t Annealと呼 ばれ、 - この処理を行うことにより臨界温度が上昇すると考えられている。
第 3 8図で示した F. 4の熱処理を本焼きとする。 Mgなし多芯テープ線材を本焼き
したものを試料 A、 753Kで Mgを酸化させた Mg多芯テープ線材を本焼きしたものを試 料 B、 933Kで Mgを酸化させた Mg多芯テープ線材を本焼きしたものを試料 Cとする。 F.5 SEMによる組織観察
作製した試料を樹脂埋めし、 研磨した。 研磨の後、 プラチナ蒸着し- SEMで観察 した。
F.6 光学顕微鏡による断面積測定 .
B i 2223相形成の熱処理をしたテープ線材を電流方向に垂直な断面が見えるよう に樹脂埋めし、 研磨した。 この試料を光学顕微鏡で観察し、 映像をパ一ソソナル コンピューターに取り込み、 画像解析ソフトを用いて、 Bi2223と Agの断面積を求 めた。 本実施例では画像解析ソフトに三谷商事社製の Mac scope ver2.2.1を用い た。
F.7 粉末 X線による相の同定
Bi2223相形成の熱処理をしたテープ線材をガラス板に両面テープで張り付けた 。 次に Agを ¾02(30%) :NH3(28%)=1:2の溶液を用いて溶解 ·除去した。 この試料につ いて、 XRDを用いて 0-20測定を行った。
F.8 直流通電時の臨界電流値の測定
本焼き後の試料 A、 B、 Cの直流通電時における臨界電流値を測定した。 測定はそ れぞれ数本の試料について行った。 直流通電時における試料の測定原理を第 39 図に示す。
測定は液体窒素中(77K)で行った。 臨界電流値の測定は試料に電圧、 電流端子を 半田付けし、 直流 4端子法で行った。 電圧端子の間隔は lOmiとした。 電流値をコン ピューターによる自動制御で上昇させ、 このときの電圧端子間の発生電圧をアン 7° (Keith ley Modell801 Nanovolt Preamp)により増幅し、 電圧を電圧計(Kei thle y Model2001 Mul timeter)で読み取った。 印加電流の値は標準抵抗に発生した電圧 を電圧計(Keithley Model2000 Multimeter)で読み取り決定した。 臨界電流値は 1 V/cmの電圧基準により決定した。
F.9 SEM観察と XRD測定の結果および考察
F.1·で作製した Mg多芯線材ぉよびテープ線材の断面を SEMで観察したものを第 40図〜第 42図に示す。 第 41図は電流方向に垂直な断面、 第 42図は電流方
向に平行な断面である。
第 4 0図の暗いコントラストの部分 (A)は ΒΪ 2223仮焼粉で、 そのまわりの少し暗 いコントラストの部分 (B)は Mgで、 明るいコントラストの部分(C)は Agである。 温 間加工によって Mgが途切れずに縮径加工できていることがわかった。 この Mgの厚 さは約 である。 加工前の Mgの厚さを 加工後の Mgの厚さを tとし、 加工率を t/toと定義すると、 t/toは約 2%である。 第 4 1図は Mg多芯テープ線材の電流方向に 垂直な断面を拡大したもの、 第 4 2図は Mg多芯テープ線材の電流方向に平行な断 面を拡大したものである。 どちらも少し暗いコントラストの部分 (A)は B i 2223仮焼 粉で、 そのまわりの暗いコントラス卜の部分(B)は Mgで、 明るいコントラストの部 分(C)は Agである。 この Mgの厚さは 1〜5 ΙΠで、 加工率 t/t。は 0. 2〜1%である。 第 4 1図にも第 4 2図にも、 Mgがところどころ切れている部分や、 仮焼粉と Mgが接 している部分があることも観察された。 これらはプレス加工前に Mgが切れておら ず、 仮焼粉と Mgが接していなかったことから、 プレス加工によって生じたもので あると考えられる。
次に F. 3で作製した Mgなし単芯線材と Mgなし多芯線材ぉよびそれらのテ一プ線材 の断面を SEMで観察したものを第 4 3図〜第 4 8図に示す。 第 4 4図と第 4 7図は 電流方向に垂直な断面、 第 4 5図と第 4 8図は電流方向に平行な断面である。 第 4 3図〜第 4 8図の喑ぃコントラストの部分は Bi 2223仮焼粉で、 明るいコン トラストの部分は Agである。 単芯線材を見ると、 プレス加工前の第 4 3図はきれ いに加工できていて、 これをプレス加工した第 4 4図、 第 4 5図を見てもソーセ 一ジングがあまり起こっていない。 一方、 多芯線材を見るとプレス加工前の第 4 6図の仮焼粉の太さが不均一なことがわかる。 これをプレス加工した第 4 7図 を見るとソーセ一ジングが起こっていたが、 第 4 8図を見ると、 あまりソ一セ一 ジングが起こっていなかった。 単芯線材では加工の不均一さが目立たなかったが 、 多芯線材は単芯線材を用いてさらに加工して作製しているので、 不均一さが顕 著になったと思われる。 また、 Mg層を導入した多芯線材と比較すると、 Mg層を導 入した方がきれいに加工されていることがわかった。
次に ΒΪ 2223相形成の熱処理を行った線材の電流方向に平行な断面を第 4 9図〜 第 5 1図に示す。 また、 XRD測定結果を第 5 2図に示す。
第 5 2図の XRDより、 第 4 9図の暗いコントラストの部分 (A)は M 2223を主成分 とする相で、 明るいコントラストの部分 (B)は Agであると対応づけられる。
また第 5 0図(b)の少し暗いコントラストの部分 (A)は B i 221 2を主成分とする相 、 明るいコントラストの部分 (B)は Ag、 暗いコントラストの部分 (0は MgOで粒状に できている部分と第 5 0図(a)には層状にできている部分も見られた。 粒状に MgO ができている部分は密な層の両側に疎な層が見られた。 この密な層の厚さは 1〜5 mm, 疎な層の厚さは 14〜23 ^ mであった。 密な部分は Mgの層がほとんど拡散せず に Mgの酸化熱処理時に酸化されたものだと考えられる。 この疎な部分は AgMg中の Mgが酸化して形成された MgOであると考えられる。
第 5 1図では全体に近いコントラス卜で、 暗いコントラストの部分(C)は MgOで 数 i mの粒状であり、 明るいコントラストの部分 (B)は Ag中に拡散してきた Mgが酸 化し、 Ag中に分散していると考えられる。 少し暗いコントラストの部分(A)は明る いコントラストの部分 (B)と区別しにくかった。 本焼きが最高で 1 103Kなので第 1 2図に示す Ag-Mg2元系状態図より、 Ag-Mg合金、 化合物のほとんどが融解する。
Mgの酸化熱処理時に Ag中に拡散した Mgの一部は酸化しておらず、 Ag-Mg合金を形成 していたと考えられる。 このため、 Ag- Mg合金が融解し、 超電導フィラメントも 1 103Kでは一部融解することから、 部分 (A)は融解した Ag、 Mg、 超電導フィラメント の一部が混ざり合い、 フィラメントと Agの境界がはっきりしなくなつたと考えら れる。 このため、 Mgの酸化熱処理はできるだけ Mgの拡散が起こらないようにする 必要がある。
また、 MgO層を導入した試料では、 Β Ϊ 2223ができていなかったことから、 B i 222 3相形成の熱処理条件が変化したものと考えられる。 この原因を調べるため、 実験 Gに示すように Mgの酸化熱処理後の試料を用いて、 TG-DTA測定を行った。
F. 10 Mg酸化終了時間の見積もり
第 4 1図に示すテープ内の Mgの酸化終了時問を見積もるため、 モデルを立てて 酸化終了時間を推測した。 酸素は Ag中を拡散してくるが、 Ag中の酸素の拡散係数 は実験 Cで求めたものを用いた。 式(C. 17)は、 6851 (く K1 135Kの温度範囲では有効な ものだが、 これ以外の温度についても適用した。
Mg多芯テープ線材では厚さが約 200 m、 Mgの厚さが約 5 mである。 まず、 Mgの
酸化が酸素の拡散に律速されるモデルを考えた。 そこで、 厚さ 200 mのテープ線 材が 1 a tmの酸素雰囲気下にあり、 テ一プ線材表面から 100^ mのところにある厚さ
5 n mの Mgを酸化するのに必要な量の酸素が拡散するのにかかる時間を計算した。 拡散してくる酸素原子の単位面積あたり、 単位時間当たりの量を; inol/cm2s テ ープ表面の酸素濃度を Cs(mol/l)、 Mgの位置の酸素濃度を CMg(mol/l)、 表面から Mgま での距離を X (cm)とすると、 Fickの第一法則より、 (F.1)のように与えられる。
(C,一
X (F.l) 拡散してきた酸素原子は中の Mgに到達すると同時に反応するとし、 Mgの位置の酸 素濃度を 0とした。 テープ表面の酸素濃度は Agに固溶する酸素量を状態図から読み 取った。 Ag中の酸素の溶解度を X(w )とすると、 Ag 1cm
3に含まれる酸素原子の物 質量 Cs(mol/cm
3)は (F.2)のようになる。
なお、 Agおよび〇の原子量を MAs、 M。とし、 Agの密度を Pteとした。 また、 厚さ 5 mの Mgの単位面積あたりの物質量 Y(mol/cm2)は(F.3)のようになる。
y =^-x5xi0" (F.3)
MMS
Mteは Mgの原子量、 )Oteは Mgの密度である。 Mgと酸素原子は 1:1で反応するので、 以上 より Mgの酸化に必要な酸素が拡散してくるのにかかる時間を求めた。 計算結果を 第 53図、 温度と Mgの酸化に必要な酸素が拡散するのにかかる時間および酸素流 量の関係を第 54図に示す。 ただし、 計算には、 Mte=107.87, Mo=16、 Mte=24.305、 ρΛΒ=10.27, pMs=l.74を用いた。
これより、 Mgの酸化に必要な量の酸素が拡散するのには時間がほとんどかから ないことがわかる。 また、 Mgに拡散してくる酸素の量は温度が高くなると指数関 数的に多くなることがわかる。 しかし、 Mgの酸化はこれよりも長い時間を要して いたので、 酸素の拡散だけによつて、 律速されていないことがわかる。
Mg多芯テープ線材における Mgの酸化は、 Ag中への Mgの拡散や、 Ag-Mg間での化合 物、 合金の生成、 共晶反応ゃ包晶反応による融解というように、 多くの現象が同
時に進行しているので、 Mgの酸化反応はどの因子によって律速されているかを見 極めることが今度の課題となる。
F. 1 1直流通電時の臨界電流値の測定結果と考察
試料 A、 B, Cの直流通電時における I-V特性を第 5 5図〜第 5 7図に示す。
試料 Aの電流方向に垂直な断面の断面積、 Bi 2223の面積、 Agの面積をまとめると 第 5 8図のようになる。 .
試料 Aについて、 l ^ V/cniの電圧基準によって臨界電流値 Ic (A)を求めた。 また、 臨界電流値を Bi 2223の断面積で割ったものを臨界電流密度 Jc (A/cm2)とした。 と Jcをまとめると第 5 9図のようになる。
このように I cにばらつきがあるのは Bi 2223の超電導フィラメントがー部断線し ていることが原因だと考えられる。
試料 B、 試料 Cに関しては、 臨界電流 Icはゼロであった。 第 5 6図、 第 5 7図よ り、 電流の増加とともに電圧が増加しているが、 Iと Vが比例せずに非線形性が 現れ、 オームの法則が成り立っていない。 これは、 フィラメント内のほとんどの 領域はは超電導になっていないものの、 部分的に Bi 2223相が形成されて超電導に なっている領域があるためであると考えられる。 実験 G MgO高抵抗層を含む多芯線材作製方法の最適化
G. 1 ロール圧延テ一プ線材の作製
これまで、 試料のテープ線材への加工をプレス加工によって行ってきたが、 カロ ェの際、 口一ル圧延を加えることで超電導フィラメントのプリッジングゃソ一セ —ジングを改善できる報告がある。 そこで F. 1で作製した線径 lmmの仮焼粉一 Ag-M g-Ag多芯線材をテープ線材に加工する際、 ロール圧延を加えた後、 プレス加工を 行った。 今回、 Mg多芯線材を室温においてロール圧延を 0. 8腿、 0. 6匪、 0. 4腿行つ た後、 プレス加工を行った試料、 室温で 0. 2腿までロール圧延のみ行った試料、 6 73Kの炉に 60 s入れ加熱した後、 ロール圧延という作業を繰り返すことによって 0. 2mmまで温間圧延した試料をそれぞれ作製した。 圧延加工は 0. lmmずつ圧延幅を減 らして行い、 プレス加工は試料を 150kg/cm2で 30sプレスし、 もう一度方向を変えて 150kg/cm2でプレスした。 各試料を第 6 0図のように呼ぶことにする。 プレス加工
のみの試料 Pは実験 Fで作製したものである。
G. 2 C0V (相対標準偏差)の測定
加工によって生じる仮焼粉の電流方向の断面の不均一性を評価するために、 CO
Vの測定を行った。 作製した試料を電流方向に平行な断面が見えるように樹脂埋め し、 研磨した後、 この試料を光学顕微鏡で観察し、 映像をパーソナルコンピュー ターに取り込み、 画像解析ソフトを用いて、 仮焼粉の厚さを等間隔に N箇所 (N 1 00)測定した。 本実施例では画像解析ソフトに三谷商事社製の Mac scope ver2. 2. 1を用いた。 測定したデータを(G. 1)に代入することにより、 C0Vを求めた。
(Ki<N) (G.1)
ここで、 は仮焼粉の厚さを、 く t。〉は仮焼粉の厚さの平均値を表している。 なお、 多芯線材の C0Vは同一フィラメントの厚さを測定することによって求めた。
G. 3 SEMによる組織観察
作製した試料を樹脂埋めし、 研磨した。 研磨の後、 プラチナ蒸着し、 SEMで観察 した。
G. 4 Mg酸化熱処理後の Mg多芯テープ線材の TG- DTA測定
実験 Fで Mg酸化熱処理後の Mg多芯テープ線材を本焼きしたところ、 ほとんど B i 2 223が形成されておらず、 Bi 2212が形成されていた。 MgOが存在するために、 Bi 22 23相形成時に Ag中を拡散して Bi 2223仮焼粉まで到達する 02の量が少なくなつている と考えた。 そこで、 Bi 2223相形成の熱処理条件を調べるために、 Mg酸化熱処理後 の Mg単芯テープ線材について TG-DTA測定を行った。 測定に用いた試料は、 実験 Eで 作製した Mg単芯テープ線材を 653K、 l atmの酸素雰囲気において 72ks熱処理を行つ たものである。 この試料をアルミナ製パンに入るように細かく切り分け、 積層す るようにアルミナ製パンに入れた。 測定は Ar- 7. 8%02、 Ar- 20%02、 02の 3種類の雰囲 気下で試料を 5K/mi nで昇温しながら行った。
G. 5 SEM観察と C0V測定の結果および考察
G. 1で口一ル圧延とプレス加工によつて作製した試料を SEMで観察したものを第 6 1図及び第 6 2図に示す。 また、 テープ線材の厚さと幅、 Mgの厚さおよび C0V測
定の結果を第 6 3図に示す。 第 6 3図には比較のため、 Mg単芯テープ線材、 Mgな し単芯テープ線材、 Mgなし多芯テープ線材のデータも合わせて示した。
第 6 1図(a)〜(f)及び第 6 2図(a)〜(f)の各図において、 喑ぃコントラストの 部分は Mg.. 少し暗いコントラス卜の部分は B i 2223仮焼粉-, 明るいコントラス卜の 部分は Agである。 また第 6 3図の C0Vは電流に平行な方向の超電導フィラメントの 不均一さを表しており、 C0Vの数値が大きいほど、 フィラメントの不均一さが大き いことを表している。
単芯テープと多芯テープの C0Vを比較すると、 Mg層がある場合もない場合も多芯 テープの C0Vの方が大きくなつている。 これは単芯線材をさらに加工して多芯線材 を作製したので、 不均一さが増加したものと考えられる。
Mg層のあるテ一プとないテ一プの C0Vを比較すると、 単芯でも多芯でも Mg層のあ る方が C0Vは小さい。 これは Mg層を導入することによって、 フィラメント間の母材 が強化されるため、 B i 2223仮焼粉が Agの方向に変形しにくくなつたことが原因だ と思われる。
次に異なる圧延率でプレス加工と口一ル加工によって作製したテープ線材の CO Vを比較すると、 ロール圧延のみで厚さ 0. 2mmまで加工したものがもっとも均一に 加工できていることがわかる。 電流方向に垂直な断面を見ても、 口一ル圧延のみ を行ったものが、 フィラメントと Mgがきれいに加工できていることがわかる。 口 —ル加工を冷間と温間で行ったが、 C0Vを見ると、 冷間の方が均一に加工できてい たことがわかる。 温問加工の C0Vの方が大きかった原因のひとつとして、 母材の強 度の温度依存性が考えられる。 温間で加工することにより、 Agや Mgの強度が低く なり、 フィラメントの流動が均一に起こらなかった可能性がある。 冷問でもあま り変わらないと思われる。 第 6 3図の C0Vと厚さ、 幅の関係を見ると、 厚さが厚く 、 幅が狭いほど C0Vが小さく均一に加工できることがわかる。
G. 6 TG-DTA測定の結果および考察
Mg酸化熱処理後の Mg単芯テ一プ線材について TG-DTA測定を行つた結果を第 6 4 図に示す。 また、 MgOを導入していない単芯テープ線材について TG-DTA測定を行つ た結果もあわせて第 6 5図に示す。
以上のグラフより、 吸熱反応が始まる温度と吸熱ピークの温度の間隔を第 6 6
図にまとめる。 吸熱反応が始まる温度と発熱反応の前の吸熱ピークの温度の間隔 を ΔΤとする。
MgOがある場合もない場合も酸素分圧が上がるにつれ、 吸熱反応開始温度があが り、 ΔΤが小さくなる傾向が見られた。 MgOがないテープ線材では Ar-7. 8%02雰囲気 で本焼きすることによって Bi 2223相が形成されることがわかっており、 実験 Fの第 5 2図より Bi 2223相が形成されることも確認できる。 この吸熱開始温度と ΔΤの傾 向を見ると、 テープ線材に MgOが導入されることによって仮焼粉に供給される酸素 が MgOのない場合に比べて少なくなつているので、 MgOは酸素を通しにくい物質で あると考えられる。 また、 この第 6 6図の傾向から考えると、 MgOを導入した場合 にも、 ΒΪ 2223相を 成するためには、 7. 8%と 20%の間の適切な酸素分圧で熱処理す ればよいと思われる。 実験 H MgO層(パリア層)に通気路を設けたものに関する実験
本焼き時に超電導化した Bi 2223相をフィラメント内に生成するためには、 酸素 が MgO層(バリア層)を透過してフィラメント内に供給されることが必要である。 こ こでは、 バリア層形成工程後にロール圧延を行って MgO層を一部破壊することによ り、 MgO層に通気路を設け、 その効果をみる実験を行った。
試料は以下のように作製した。 F. 2と同様に、 厚さが l〜5 ^ m程度の Mg層を 1気圧 酸素中で 480°C、 20時間処理し、 MgO層に変換した。 次に、 テープ材をロール圧延 した。 ここでは、 4個のテープ材のうち 1個はロール圧延をせず(これを 「0 ロー ル圧延」 と呼ぶ。 )、 3個はそれぞれ 10%、 20°ん 50%ロール圧延した。 これらのテ 一プ材を空気中で 840°C、 30時間処理した。 なお、 この実験における処理条件は、 100%超電導化することよりも反応を加速することを目的として、 通常の超電導化 処理 (820° (、 150時間) よりも高温,短時間で行っている。
この熱処理後、 XRDによりフィラメント内の Bi 2212相から ΒΪ 2223相への変換割合 を見積もった。 第 6 7図に示すように、 20%圧延の場合には ΒΪ 2212相と Bi 2223相の 2種類の相によるブラッグピークが見られる。
ブラッグピークの比より、 B i 2223相の B i 2212相に対する割合は、 0%、 10%、 20% 、 50%ロール圧延についてそれぞれ 0%、 10%、 33%、 24%であった。
この結果より、 厚さが数; m程度の Mg層を被酸化金属層に用いる場合には、 ロー ル圧延かそれに類似の機械加工を行って MgO層を部分的に破壊すること等により、 通気路を設けることが必要であることが明らかになった。 ロール圧延の場合、 数
%以上の圧延が必要である。 上述のように MgO層が緻密で厚いと酸素の拡散'透過が容易でないためフィラメ ントの超電導化の妨げとなる。 そこで Mg層を温間加工等により 1〜0. 1ミクロンメ 一トル程度に薄くして、 その後酸化処理により MgO層を形成するとよい。 この MgO 層は非常に薄く、 機械加工により破壊をしなくとも、 酸素の拡散'透過が可能とな り酸化物層の超電導化が容易に行うことができる。
3 . 本実施例の総括
交流損失の低減をめざし、 MgOを高抵抗層として導入した Bi 2223多芯線材の作製 法の確立を目的とした。 本実施例では Mgを金属のままで超電導フィラメント間に 導入し、 これを熱処理することによって Mgを酸化させることにより、 MgOの高抵抗 層を導入しようと試みた。 ここで Mgが酸化しやすく、 フィラメント間のブリッジ ング現象が起こっても、 MgOが Bi 2223と反応しにくいという性質に着目した。 実験 A、 E、 Fより、 室温では加工しにくい Mgを 673Kにおける温間溝ロール加工と 523Kにおける温間線引き加工によって加工することができることがわかった。 実験 B、 D、 Eより酸素分圧を上げると、 Mgの酸化開始温度が下がるというこ とがわかった。 613K以下では Mgの拡散は起こりにくいが、 これよりも高温になる はど、 Mgの拡散が起こることがわかった。 一方、 623K以下では Mgの酸化がほとん ど起こらないが、 AgMg3と Mgの共晶温度 745K以上で熱処理すると、 Mgの酸化が促進 されることがわかった。 これは共晶温度以上で熱処理することによって融解が起 こり、 Mgの酸化が急激に始まると考えられる。 latmの酸素雰囲気において、 753K 、 72ksまたは 933K、 3. 6ks熱処理することによって Mgを酸化させることができたが 、 753Kの方が Mgの拡散が小さかった。
実験 Fより、 MgO高抵抗層を導入することによって B12223相形成時に影響を及ぼ すことがわかった。 また、 Mg多芯テ一プ線材の Mg酸化熱処理は 753K、 72ksおよび
933K、 3. 6ksの条件では Mgがほとんど酸化していないことがわかった。 また、 933 Kで Mgを酸化させた試料は、 本焼き時に超電導フィラメントと母材が一部融解し混 ざり合い、 フィラメントと母材の境界が不明瞭になっていた。 原因として、 Mgが Ag中に拡散し., 母材の融点が下がつたため、 フィラメントと混ざり合う現象が起 こったと予想される。 よって、 Mgの酸化熱処理は Mgをできるだけ拡散させずに行 う必要がある。 .
実験 Gより、 Mg多芯線材をテープ線材に加工する際、 ロール圧延によって加工す ることによって、 より均一に加工できることができた。 また、 MgOを導入したテー プ線材の本焼きは、 例えば、 本焼き時の酸素分圧を上げることによって超電導フ ィラメントへの酸素拡散量を増やすことができれば、 B i 2223の形成を促進するこ とができると予想される。