明 細 書 微生物由来のポリアミノ酸またはその誘導体 技術分野
本発明は、 微生物を用いる機能的なポリアミノ酸またはその誘導体の製造に関 し、 さらに詳しくは、 微生物起源の機能的なポリアミノ酸またはその誘導体、 そ れらを含有する組成物、 該ポリアミノ酸またはその誘導体の製造方法、 および該 ポリアミノ酸を製造する微生物に関する。 本発明はまた、 微生物を用いる D—ァ ミノ酸の製造方法に関する。 背景技術
ポリアミノ酸は複数のァミ.ノ酸がぺプチド結合により連鎖した構造を有し、 基 本的に生分解性であり、 生体や環境中で目的とする機能を発揮した後は、 速やか に易分解され残留することのない生分角科生の機能性物質として様々な分野で注目 されている。
従来、 塩基性ポリアミノ酸であるポリリジンや白子タンパク (プロタミン) (Bioindustry, Vol.19, No. 3(2002), 64- 73頁) 、 バクテリオシンの 1種であ るナイ-シン (特開平 5— 146282、 化学と生物 Vol 38, No. 7, (2000) 439-446)等は抗菌活性を有しており、 食品等の腐敗防止に有用であることが示唆 されている。 また、 ストレブトマイセス属の菌株が生産する低分子 ε—ポリ一 L —リジンを食品添加物として利用し得ることが開示されている (特許公開 200 0— 17159、 2000-69988) 。 しかしながら、 これらのポリアミノ 酸類の抗菌作用は必ずしも十分とは言えない。
また、 金属との親和性が高いポリアミノ酸 (含硫ペプチド) であるファイトケ ラチンを用いて、 環境中の重金属を回収したり、 重金属の濃度を測定する方法
(特開平 1 1一 174054) や、 ポリぺプチドの金属錯体を医療用造影剤組成 物として利用する方法 (特開平 7— 224050) が開示されている。 し力 しな がら、 例えば、 ファイトケラチンは自動酸化され易いシスティンを含むため変質
しゃすいという問題がある。
さらに、 塩基性ポリアミノ酸であるポリリジンやポリアルギニンを、 酸性物質 であるポリヌクレオチド (DNA RNA) と複合体を形成させ、 これらを動物 培養細胞への遺伝子の輸送や、 遺伝子治療における遺伝子の運搬体として用いる 方法が開示されている (例えば、 特開平 9一 3 0 8 4 8 4) 。 また、 アルギユン リッチなペプチドが細胞内へ輸送されることが報告されている ひ. Biol.
Chemistry (2001) 276巻、 5836-5840) 。 この目的をよりよく達成するためには、 より多様な種類のポリアミノ酸を提供し、 それぞれの特性に応じて機能を有効利 用することが望ましい。 し力 し、 従来の単一アミノ酸から成るホモポリマーの場 合はアミノ酸組成と機能との関係が十分に解明されていないこともあり、 複数種 類のアミノ酸で構成されるポリアミノ酸を開発する必要がある。
また、 生物体を構成するタンパク質はほぼ例外なく、 分子の絶対配置が L系列 に属するひ -アミノ酸 (以下、 L一アミノ酸という) からできている。 一方、 ァ ミノ酸の重合体という、 より広い範疇で考えると、 細菌細胞壁に存在するぺプチ ドグリカン層ゃ納豆菌の粘糸などに、 L—ァミノ酸の鏡像異性体である D—アミ ノ酸が存在する。 また、 ポリミキシンに代表されるペプチド性抗生物質において は、 D—アミノ酸はその構成要素として重要な機能を果たすと考えられている。 例えば、 一般に受け入れられている説として、 D—アミノ酸を含有することによ り、 生物界に普遍的に分布するぺプチダーゼ (ペプチド分解酵素) に対する抵抗 性が生じる。 すなわち、 D—アミノ酸を含有するペプチドは、 分解されて機能を 喪失するまでの時間が Lーァミノ酸を含有するぺプチドよりも長く、 生物学的に 有利であると考えられる。
D—アミノ酸は化学合成により製造できるが、 反応に用いる試薬や溶媒、 廃棄 物等による環境汚染のリスクが高いという問題点がある。 また、 一般に複雑な技 術を要し、 製造コストが高い。 しカゝも、 化成品の光学純度は、 化学量論的支配を 受け、 D—体と L一体の存在比は通常 1対 1であるために、 分割処理が必要であ る。 D体と L体を分離する光学分割は、 特定物質に対する両者の親和性の差を利 用したクロマトグラフィ一などにより行えるが、 操作が煩雑であることや生成物 の収率が低い等の問題があり、 工業規模の大量生産には不適当である。
そこで、 微生物を用いるアミノ酸の光学分割が提案されている。 例えば、 培養 液に D—体と L一体のァミノ酸混合物を添加し、 微生物が L一体のみを特異的に 消費する性質を利用して、 残留する D—体を回収する方法がある (特開平 10 - 080297、 特開平 10- 2S6098) 。 この場合、 原料として、 化学合成した D体、 L体 の混合物が必要である。
また、 微生物を用いて、 生合成の段階から専ら D体を製造する方法もある。 例 えば、 化学的に合成された前駆体となる物質、 N—置換カルボ二ルー D, Lーァ ミノ酸 (特開平 06- 22789) や N -ァシル化アミノ酸 (特開平 11- 113592) など、 を培養系に導入し、 D—体に特異的な酵素作用により、 反応生成物である D—体 を回収する方法がある。 この場合も原料として、 化学合成した前駆体が必要であ る。
各種ァミノ酸のうち、 ヒスチジンは、 角?離性の官能基であるィミダゾール環を 有する。 その pKa値は 6 . 0であり、 生理的 pH値に近いことから、 解離 '非解離 の状態変化が酵素反応をはじめ、 生体内のさまざまな化学反応に関与している。 同様な原理で、 ヒスチジンまたはこれを含むペプチド、 誘導体は、 生理活性を有 する場合が多々あり、 ヒスチジンの医薬品、 化粧品等における応用価値は非常に 大きい。 特に、 D—ヒスチジンは上記の D—アミノ酸に関して一般的に述べたよ うに、 医薬品、 農薬品、 化粧品、 食品添加物等原料等に導入すると、 酵素作用に よる変性、 分解の抑制、 光学活性に起因する新たな機能性の付与などの効果が期 待できる。 従って、 D—ヒスチジンを効率良く製造する方法の開発が強く望まれ る。
D—ヒスチジンに対する広範な需要に応えるためには、 安全で効率が良く、 ェ 業生産にも適用できる生産方法の開発が必要であるが、 上記のごとく、 化学合成 による方法は、 製造コストや環境への影響等の面か必ずしも適切でない。 従って 微生物発酵による製造法が望ましい。 しかしながら、 微生物発酵による D—ヒス チジンの製造法は未だ知られていない。
このように、 ポリアミノ酸は様々な機能を発揮しうると同時に、 環境上極めて 好ましい物質であることから、 優れた機能を有する新規なポリアミノ酸誘導体の 開発が強く求められている。 上記のごとく、 現在利用されているポリアミノ酸の
多くが、 1種類のアミノ酸で構成されるホモポリマーであるが、 二種またはそれ 以上のァミノ酸を組み合わせることにより、 さらに優れた特性 (抗菌活性等) を 有するポリマーを得ることができると考えられる。 しかしながら、 無数のァミノ 酸の組合せの中から所望の活性を有し、 しかも安全に効率よく製造しうるポリア ミノ酸を選択し、 提供することは極めて困難である。
また、 製造方法に関しても、 ポリアミノ酸の化学合成は、 高価な合成試薬を必 要とし高コストであるばかりカヽ 使用する試薬中には有害な薬品も含まれること 力 ら廃棄処理に困難を伴うことが多いという問題点を有する。 さらに、 遺伝子組 換え法による生産も可能であるが、 生産物の抗菌性が宿主に悪影響を与える、 抽 出法が煩雑である、 等の問題があり必ずしも効率の良い方法ではない。
さらに、 D—ヒスチジンを初めとする D—アミノ酸に関しても、 安全で効率が 良く、 工業生産にも適用できる生産方法が求めれているが、 そのような方法は未 だ知られていない。
従って、 機能性ポリマーとして有用なポリアミノ酸や D—アミノ酸を広範に利 用するためにも、 効率よく安全な製造方法の開発が必須である。 発明の開示
本発明は、 上記の課題を解決し、 優れた機能、 活性を有する新規なポリアミノ 酸、 およびその誘導体を提供することを目的としている。
本発明はまた、 そのようなポリアミノ酸、 およびその誘導体の安全かつ容易な 製造方法を提供することを目的としている。
本発明はまた、 安全性および製造効率に優れ、 製造コストが低く、 大量生産に も適用可能な D—ァミノ酸、 特に D—ヒスチジンの新規な製造方法を提供するこ とをも目的としている。
本発明はまた、 ポリアミノ酸誘導体、 D—アミノ酸等の利用をも目的としてい る。
本発明者らは、 上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、 子嚢菌門 核菌類バッカクキン科 (Clavicipitaceae) の微生物が産生する、 2種のアミノ 酸 (その少なくとも一方は塩基性アミノ酸である) からなるポリアミノ酸に高い
抗菌活性があること、 さらに、 該ポリアミノ酸の中には、 アミノ酸として D-ヒ スチジンを含むものがあることをも見出し、 本願発明を完成するに至った。
すなわち、 本発明は、
(1) 少なくとも一種類の塩基性ァミノ酸を含む 2〜 10種類のァミノ酸力 らな るポリアミノ酸またはその誘導体、
(2) 一般式 (I) :
M 0
I II 、
R厂 N— (一 X— Y—)n— C一 R2 ( 1 )
N末端 C末端
[式中、 Xは、 下記の 1) および 2) :
1 ) アルギニン、リジン、オル二チン、シトルリン、ホモシトルリン、ホモアノレギニン、カナ バニンおよび 2—ァミノ一 3—グァニジノプロピオン酸
2)ヒスチジン、システィン、ホモシスティン、トリプトファンおよびチロシン
のいずれか一方の群から選択されるァミノ酸残基を表し、 Yは他方の群から選択 されるアミノ酸残基を表し、 は水素原子、 糖残基、 ァシル基、 ピオチュル基、 チオール基、 フエノール基、 インドール基、 または前記 Yと同一のアミノ酸残基 を表し、 R2は水酸基、 糖残基、 アシノレ基、 ピオチュル基、 、 チオール基、 フエ ノール基、 インドール基または前記 Xと同一のアミノ酸残基を表し、 nは 2以上 の整数を表す]
で示される、 (1) に記載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(3) Xがァノレギニンまたはリジン残基であって Yがヒスチジンまたはシステ イン残基である、 (2) に記載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(4) Xがアルギニン残基であって Yがヒスチジン残基である、 (3) に記載 のポリアミノ酸またはその誘導体、
(5) nが 2〜50の整数である、 (2) 〜 (4) のいずれかに記載のポリア ミノ酸またはその誘導体、
(6) が水素原子であり R2が水酸基である、 (2) 〜 (5) のいずれかに 記載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(7) 銅、 亜鉛、 銀、 ガドリュウム、 マグネシウム、 マンガン、 コバルトおよ
びニッケルから選択される金属との錯体である、 (1) 〜 (6〉 のいずれかに記 載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(8) D-アミノ酸残基を含む、 (1) 〜 (7) のいずれかに記載のポリアミ ノ酸またはその誘導体、
(9) D—アミノ酸残基が D-ヒスチジン残基である、 (8) に記載のポリア ミノ酸またはその誘導体、
(10) (1) 〜 (9) のいずれかに記載のポリアミノ酸またはその誘導体を 有効成分として含有する組成物、
(1 1) 抗菌性の組成物である、 (10) に記載の組成物、
(12) 金属結合性の組成物である、 (10) に記載の組成物、
(13) 酸性物質を吸着し、 塩基性物質を排斥するための組成物である、 (1 0) に記載の組成物、
(14) 物質を有効成分と化学結合した状態で、または混合した形で、細胞内へ輸 送するための組成物である、 (10) に記載の組成物、
(15> (1) 〜 (9) のいずれかに記載のポリアミノ酸を生産するェピクロ ェ (Epichloe) 属の菌株、
(16) ェピクロエ キビェンシス (Epichloe kibiensis) E 18株 (FERM P- 18923) またはそのポリアミノ酸生産能を有する変異体である、 (15) に記載 の微生物、
(17) (15) または (16) に記載の微生物を培養し、 培地からポリアミ ノ酸を回収し、 所望によりその遊離官能基を化学修飾し、 および/または金属錯 体を形成させる力 塩化することを特徴とする、 (1) 〜 (9) のいずれかに記 載のポリアミノ酸またはその誘導体の製造方法、
(18) (8) または (9> に記載のポリアミノ酸の産生能を有する微生物を 適当な培地で培養し、 培地から分離した培養液、 菌体または菌体破砕物から D— ァミノ酸を回収する力 \ 必要に応じてぺプチド誘導体を力 B水分解した後、 D—ァ ミノ酸を回収することからなる、 D—アミノ酸の製造方法、
(19) 微生物がェピクロエ キビェンシス (Epichloe kibiensis) E— 18 株 (FERM P— 18923) またはその D—アミノ酸生合成能を有する変異
株である (18) に記載の方法、 および
(20) (18) または (19) に記載の方法で製造された D—アミノ酸、 などに関する。 図面の簡単な説明
図 1は、 実施例 2 (1) 、 (2) で精製した E—18株が生産するポリアミノ 酸を自動エドマン分解装置 (アプライドバイオシステムズ社製、 モデル 492) に より解析した結果を示すチヤートである。
図 2は、 実施例 2 (1) 、 (2) で精製した E—18株が生産するポリアミノ 酸の、 飛行時間型質量分析計 (パーセプティブ社製、 モデル Voyager DE) を用い る、 MALD I— TOF Ma s s法による分子量測定の結果を示す図である。 図 3は、 アミノ酸残基数 10の合成ポリアルギエルヒスチジンと、 亜鉛イオン との混合物を、 飛行時間型質量分析計 (パーセプティブ社製、 モデル Voyager DE) を用いる、 MALD I— TOF Ma s s法により分子量測定に供した結果 を示す図である。
図 4は、 ポリアルギニルヒスチジンの存在下、 Davisの改変合成液体培地中での Escherichia coliIFO3301株の増殖に対する、種々の濃度の亜鉛イオンの影響を示す グラフである。
図 5は、 アミノ酸残基数 10の合成ポリアルギニルヒスチジンを、 酸性色素 P o 1 y R-478 (A) または塩基性色素メチレンブルー (B) を含む寒天平板 に浸潤させ、 その ½散に伴う色素の変化を観察した写真の模写図である。
図 6は、 アミノ酸残基数 10のポリアルギニルヒスチジンの N末端に結合した蛍光色 素 FAM(A, C)、または FAM単独 (B, D)の、 Candida boidinii MIP104株への取 り込みを、蛍光顕微鏡下 (A, B)および通常光下 (C, D)で顕微鏡的に観察した結果の 模写図である。
図 7は、 実施例 2 (2) で調製した E—18株が生産するポリアルギニルヒス チジン (LR-DH)nを光学分割カラムを備えた高性能液体ク口マトグラフィ一によ り解析した結果を示すチヤ一トである。
図 8は、 実施例 15 (2) に記載のトリプシン処理した各種のポリァノレギニノレ
ヒスチジンを MA L D I ZT O F— M Sにより解析した結果を示すチャートであ る。 矢印は推定のトリプシンの切断点を示す。 発明を実施するための最良の形態
本発明のポリアミノ酸は複数のアミノ酸がぺプチド結合を介して連結されたな る基本構造を有し、 ペプチド、 ポリペプチド、 タンパク質を包含する。
本発明の 「ポリアミノ酸またはその誘導体」 とは、 アミノ酸がペプチド結合で 連結されてなるポリアミノ酸と、 その遊離官能基における化学修飾誘導体、 また はそれらの金属錯体または塩を意味する。 本明細書中、 「ポリアミノ酸またはそ の誘導体」 を、 単に 「ポリアミノ酸誘導体」 と呼称する。 本発明のポリアミノ酸 誘導体は、 少なくとも 1つの塩基性ァミノ酸をぺプチドの構成単位として含有し ている。 また、 本発明のポリアミノ酸誘導体には、 少なくとも一種のアミノ酸が D—体であるポリアミノ酸誘導体を包含する。
本発明に用いる「塩基性アミノ酸」は、本発明の目的を達成する上で十分な塩基性 力 Sあることを条件として、特に限定されない。例えば、アルギニン、リジン、オル二チン、 シトルリン、ホモシトルリン、ホモアルギニン、カナバニンおよび 2—ァミノ一 3—グァニジ ノプロピオン酸を使用することができる。本発明のポリアミノ酸を抗菌性物質として用 ヽ る場合は、塩基性の強いアミノ酸力はり好ましぐ特にアルギニン、リジンが好ましい。 本発明のポリアミノ酸誘導体は、 塩基性ァミノ酸と、 適当な他の 1〜 9種類の アミノ酸とがべプチド結合で連結された基本構造を有する。
塩基性ァミノ酸と一緒に本宪明のポリアミノ酸誘導体に含有させるァミノ酸は、 既知のアミノ酸の中から適宜選択できるが、 本発明の目的にはキレート形成能の 高いァミノ酸が好ましく、 ヒスチジン、システィン、ホモシスティン、トリプトファンおよ びチロシン等を用いることができる。中でも、ヒスチジンおよびシスティン力 S好ましい。ァ ミノ酸は L一体または D—体のいずれでもよい。
本発明のポリアミノ酸誘導体における、 アミノ酸 2種類からなるポリアミノ酸 の例として、 式 (I ) :
ΙϊΙ
R厂 N— (一 X— Y— )n— C - R2 ( I )
N末端 C末端
[式中、 Xは、 下記の 1 ) および 2 ) :
1 ) アルギニン、リジン、オル二チン、シトルリン、ホモシトルリン、ホモアルギニン、カナ バニンおよび 2—ァミノ一 3—グァニジノプロピオン酸
2)ヒスチジン、システィン、ホモシスティン、トリプトファンおよびチロシン
のいずれ力一方の群から選択されるァミノ酸残基を表し、 Yは他方の群から選択 されるアミノ酸残基を表し、 1^は水素原子、 糖残基、 ァシル基、 ビォチ二ノレ基、 チオール基、 フエノール基、 インドール基、 または前記 Yと同一のアミノ酸残基 を表し、 R2は水酸基、 糖残基、 ァシル基、 ビォチュル基、 、 チオール基、 フエ ノール基、 インドール基または前記 Xと同一のアミノ酸残基を表し、 nは 2以上 の整数を表す]
で示されるポリアミノ酸およびその誘導体を挙げることができる。
上記式 ( I ) において、 Xがアルギニンまたはリジンであり、 Yがヒスチジン またはシスティンであるか、 Xがヒスチジンまたはシスティンであり、 Yがァノレ ギニンまたはリジンであるポリアミノ酸がより好ましく、 Xおよび Yのいずれか 一方がアルギニンであり、 他方がヒスチジンであるポリアミノ酸が特に好ましい。 さらに、 nが 2〜5 0の整数であることが好ましく、 が水素原子であり が 水酸基であることがとりわけ好ましい。
また、 いずれかのアミノ酸が D—アミノ酸であることが好ましく、 特にヒスチ ジンが D—ヒスチジンであることが好ましい。
本発明のポリアミノ酸誘導体のぺプチド鎖の長さは任意であり、 目的に応じて 選択されるが、 通常、 アミノ酸数は 3以上である。 好ましくは 5〜1 0 0の範囲、 より好ましくは 5〜 5 0、 さらに好ましくは 6〜2 0、 最も好ましくは 6〜1 2
+である。
くポリアミノ酸誘導体の製造 >
本発明のポリアミノ酸誘導体は、 当該技術分野で既知の化学合成法、 生化学的 な方法、 微生物発酵等により製造することができる。 生化学的な方法は、 ポリア
ミノ酸をコードする D NAまたは RNAの遺伝情報を铸型として、 生物に備わる 転写、 翻訳系の機能により、 細胞内あるいは人工的反応液内で遺伝子工学的に製 造することにより行うことができる。 特に好ましい方法は通常の微生物発酵法で ある。 本発明のポリアミノ酸誘導体は、 遊離の形でも活性を有するが、 抗菌活性 が増強されたり、 また安定性や水溶性の改善のために、 適当な酸や塩基の塩や金 属錯体にすることもできる。 そのような塩や錯体は当該技術分野で既知の方法に 従って製造することができる。
微生物発酵によるポリアミノ酸、 D—アミノ酸の製造
微生物発酵によって本発明のポリアミノ酸または D—ァミノ酸を製造するため には、 まず、 目的のポリアミノ酸を産生する微生物を特定する必要がある。 その ような微生物のスクリ一ユング法は当該技術分野で既知である [西川等
(Nishika a, M. et al. ) , Applied And Environmental Microbiology, (米 国) , vol 68, No. 7, p3375 - 3581]。 例えば菌体外に塩基性ポリアミノ酸を分泌 する、 塩基性ポリアミノ酸生産性の微生物を選抜するには、 微生物を含むサンプ ル (例えば土壌試料) を適当な組成の寒天平板培地上にて、 個々の微生物集落に 展開する。 この寒天平板にあらかじめ酸性色素または塩基性色素を添加しておき、 塩基性ポリアミノ酸の分泌を、 酸性色素との結合、 または塩基性色素に対する反 発作用に基づいて検出する。
さらに、 キレート形成能を有する優れた多座配位子であるポリアミノ酸誘導体 を生産する微生物は、 例えば、 以下の方法でスクリ一二ングすることができる。 菌体外にキレート形成性 (金属配位性) のポリアミノ酸を分泌する微生物の選抜 には、 微生物を含む土壌試料を適当な組成の寒天平板培地上にて、 個々の微生物 集落に展開する。 寒天平板にはあらかじめ微生物にとって有害な毒性金属、 例え ば銀、 銅、 亜鉛、 ニッケル、 コノルト、 カドミウム、 水銀、 などを適当な濃度に て、 添加しておく。 キレート形成性ポリアミノ酸の分泌は、 その金属への配位性 に基づいて、 該ポリアミノ酸が有害金属を捕捉、 抱合する事により毒性が中和ま たは緩和され、 他のポリアミノ酸非生産微生物との間で増殖に差が認められるこ とにより検出される。
塩基性ならびにキレート形成性を示すポリアミノ酸を生産する微生物は、 上述
の方法により、 塩基性およびキレート形成性の二つの特性を、 単独でまたは同時 に試験することで選抜することができる。
本発明の好ましい態様では、 本発明のポリァミノ酸誘導体を、 ェピク口ェ属の 菌株を用いて微生物学的に製造する。 好ましい微生物はェピクロエ キビェンシ ス (Epichloe kibiensis) E 1 8株 (FERM P- 18923) またはその変異体である。 ェピクロエ キビェンシス E 1 8株 (以下、 「E 1 8株」 と略称する〉 は、 実 施例に記載の方法により本発明者らが林地土壌中から、 新たに分離した菌株であ り、 その菌学的性状は次のとおりである。
A. 培地上の生育状況
E 1 8株を、 ポテトデキストロース培地 (P DA) 、 オートミール培地 (O
A) 、 および 2 %麦芽培地 (MEA) の各寒天平板上において、 2 5 °Cにて培養 すると、 菌糸は綿毛状で白色を呈する。 生育はやや遅い。 分生子の形成は少なく、 分生子によるコロニー色調の変化は観察されない。 可溶性色素の産生は認められ ない。
B . 胞子の形成
光学顕微鏡下ではフィァ口型の分生子構造が確認される。 分生子柄は多少直立 し、 気中菌糸より単生ないしは 2から 4個のフィアライドを輪生する。 分生子は 1細胞性で表面は平滑である。 形は卵円形、 涙形、 楕円形、 長円形など多様であ る。 分生子は粘性を示し、 塊状に集まる。 培養 8週間経過後においても三日月型 の大型分生子や厚膜胞子の形成は観察されない。
C . 生理学的性質
ポリアルギニルヒスチジンを生産する。
D. 資化可能な炭素源
グリセローゾレ、 D—グノレコース、 D—ガラクトース、 D—キシロースを利用し うる。
上記の菌学的性質を有する本菌株の分類学上の位置を、 2 8 sリボソーム RN A分子の塩基配列の種間比較に基づく分子生物学的手法と併せて検討した結果、 ェピクロエに属する新菌株である事が判明し、 これを Epichloe kibiensis E l 8株と命名した。 本菌株は、 茨城県つくば巿東 1丁目 1番地 1 中央第 6、 独立
行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている (微生物 の表示: Epichloe kibiensis E 1 8、 受領日 :平成 1 4年 7月 5日 ;受託番号 F E RM P - 1 8 9 2 3 ) (国際寄託への変更日 :平成 1 5年 4月 1 1日 ;受 託番号: F E RM B P - 8 3 5 8 ) 。
E 1 8株を親株として、 変異体誘導や組換え遺伝子技術などに り、 ポリアル ギニルヒスチジンの生産性を高めたり、 アミノ酸の糸且成が変更されたポリアミノ 酸を産生する、 派生菌株を得ることができる。 そのような変異株も本宪明の範囲 内である。 派生菌株は、 人為的に突然変異を誘発されたものや、 スクリーニング で得られたもの等を包含する。
E 1 8株は塩基性ポリアミノ酸の示す抗菌作用に耐性であるので、 任意の配列 を持つ塩基性ポリアミノ酸、 ペプチド、 タンパク質の加工、 製造に利用できる。 例えば、 ①後述の実施例に記載のポリアルギニルヒスチジンの遺伝子を改変、 加 ェして E 1 8株を形質転換する、 あるいは②適当なポリアミノ酸をコードする D NAを発現プロモーター下に、 適当なベクター内で連結し、 得られた発現べクタ 一で E 1 8株を形質転換する、 等の方法が可能である。
本発明のポリアミノ酸を生産する微生物、 例えば、 ェピクロエ キビェンシス E 1 8株などの培養は、 微生物の性質に応じて適宜選択され、 市販品から入手可 能であるか、 当業者既知の方法で調製することができる。 液体状または固体状の 適当な組成で構成される完全培地、 合成培地、 半合成培地を用いることができる 1 操作の容易性等から液体培地が適する。 培地は、 一般的な成分として、 炭素 源、 窒素源、 無機塩及ぴその他の栄養物が含まれていれば、 いかなるものでもよ い。 炭素源としてはグルコース、 ガラクトース、 フラクトース、 グリセロール、 スターチ等が挙げられ、 その含有量は 0 . 1〜1 0 % (w/ v ) が好ましい。 窒 素源としては、 酵母エキス、 ペプトン、 カゼイン加水分解物、 アミノ酸等の有機 化合物や、 硫酸アンモユウム、 塩化アンモニゥム、 硝酸ナトリウムなどの無機ァ ンモニゥム塩等が挙げられ、 その含有量は 0 . 1〜5 % (w/ v ) が好ましい。 所望により、 培地に他の栄養源 (例えば無機塩類、 例えば、 リン酸イオン、 カリ ゥムイオン、 ナトリウムイオン、 マグネシウムイオン、 亜口、イオン、 鉄イオン、 マンガンイオン、 ニッケルイオン、 硫酸イオン等を与えるもの) 、 ビタミン類
(例えばビタミン B j 、 抗生物質 (例えばアンピシリン、 テトラサイクリン、 カナマイシン等)) を加えてもよい。
培養は、 好気的条件下で振盪培養、 攪拌培養等により行うことができる。 培養 温度は約 2 5〜4 0 °Cであり、 培地の p Hは 2. 0〜8. 0、 好ましくは pH 3. 0 〜8. 0、 より好ましくは pH約 5. 0である。 培養期間は、 通常、 1日〜 1 4日 間であるが、 それ以上の期間、 培養を続けることができる。
E 1 8株を親株として誘導される上記の派生菌株 (変異株) も同様に培養する ことができる。
生産されたポリアミノ酸が培養液中に分泌されている場合、 培養物をろ過又は 遠心分離して粗生成物を単離する。 生成されたポリアミノ酸の精製は、 回収した 培養液上清から、 天然又は合成のアミノ酸やタンパク質の精製、 単離に用いられ る当該技術分野で既知の方法 (例えば、 イオン交換樹脂処理法、 活性炭吸着処理 法、 有機溶媒沈澱法、 減圧濃縮法、 凍結乾燥法、 結晶化法等) を適宜組み合わせ て実施することができる。 生産されたポリアミノ酸が培養微生物のぺリブラズム 及び細胞質中に存在するときは、 ろ過や遠心分離によって細胞を集め、 それらの 細胞壁及び Z又は細胞膜を、 たとえば超音波及び/又はリゾチーム処理によって 破壌して、 デブリス (細胞破砕物) を得る。 このデブリスを適当な水溶液 (例え ば緩衝液) に溶解させ、 上記の方法に準じて生成物を単離、 精製することができ る。
D—アミノ酸の製造
微生物により産生されるポリアミノ酸が D—アミノ酸を含んでいる場合、 必要 に応じて、 化学的、 酵素的な方法で加水分解し、 D—アミノ酸を単離する。 加水 分解は、 当該技術分野で既知の方法により行うことができ、 例えば、 塩酸、 硫酸 などの酸、 水酸化ナトリウム、 水酸化カリウムなどの塩基、 アミノぺプチダーゼ、 カ^^ボキシぺプチダーゼ、 エンドぺプチダーゼなどのプロテアーゼを用いて実施 することができる。
酸加水分解は、 例えば 6 N塩酸により、 約 1 0 0°Cで約 2 0時間加熱すればよ い。
加水分解産物からの D—アミノ酸モノマーの単離精製は上記した培養物からの
単離、 精製法に準じて行うことができ、 例えば、 クロマトグラフィー、 分別晶析、 酵素処理等が例示される。
E— 1 8株により産生されるポリアミノ酸の特性
上記の方法で E 1 8株等を培養すると、 ポリアミノ酸として、 ポリァノレギニル ヒスチジンが生成される。 このポリアルギニルヒスチジンの物理化学的性質は以 下のとおりである。
(a) 6 N塩酸溶液による加水分解処理により、 アルギニンおょぴヒスチジンの みが生成する。
(b) ポリアルギニルヒスチジンおよびその加水分解物は坂口反応およびパゥリ 反応に陽性である。
(c) モノマー間の結合様式は α位力ルポキシル基と α位ァミノ基間のぺプチド 結合である。
(d) 自動エドマン分解法により決定されるアミノ酸配列は、 N末端をァノレギェ ンとするアルギニンとヒスチジンの交互の繰り返しである。
(e) MA L D I— T O F M a s s (マトリックス支援脱離イオン化一飛行時間 測定) 法による分子量測定では、 分子量が約 1 , 4 8 6である分子が主成分であ る。 この他にも、 約 2 9 3の規則的な分子量の差をもった、 異なる分子の混成物 である。
(f) 生成したヒスチジンは薄層クロマトグラフィーにおいて、 ヒスチジン標準 品と同一の Rf値 ( 0. 1 9 ) を示し、 ニンヒドリン反応、 パウリ反応に陽性であ る。
(g) 生成したヒスチジンの光学純度は、 光学分割力ラムによるクロマトグラフ ィー分析により、 約 8 5 %が D—体である。
従って、 本発明は、 本発明のポリアミノ酸誘導体を生産するェピクロエ
(Epichloe) 属の菌株を提供するものである。
好ましくは、 ェピクロエ キビェンシス (Epichloe kibiensis) E 1 8株 (FERM P- 18923) またはそのポリアミノ酸誘導体生産能を有する変異体である。 さらに、 本発明は、 本宪明の菌株を培地中で培養し、 培養液からポリアミノ酸 誘導体を回収することを特徴とする、 ポリアミノ酸誘導体の製造法 (以下、 本発
明製造法ともいう) を提供する。 本発明菌株は、 好ましくはェピクロエ キビエ ンシス (Epichloe kibiensis) E 1 8株 (FERM P- 18923) であり、 ポリアミノ酸 誘導体はポリアルギニルヒスチジンである。
本発明はまた D -ァミノ酸の微生物発酵による製造方法であって、 D -アミノ酸 を含むポリアミノ酸誘導体の産生能を有する微生物を適当な培地で培養し、 培地 から分離した培養液、 菌体または菌体破砕物から D—アミノ酸を回収するカゝ、 必 要に応じてぺプチド誘導体を力 ΒτΚ分解した後、 D—ァミノ酸を回収することから なる、 D—アミノ酸の製造方法、 およびそのようにして製造された D—アミノ酸 を提供するものである。
Ε - 1 8株の変異株は、 Ε - 1 8株の細胞を変異誘宪処理することによって得 られる変異株や Ε - 1 8株の自然突然変異株を、 ポリアルギニルヒスチジンを生 産する性質などを指標としてスクリーニングすることによって得られる。 変異誘 発処理としては、 紫外線照射や Ν—メチル一 Ν— -トロー Ν,一二トロソグァ二 ジンなどの変異誘発物質による処理が挙げられる。 ポリアルギニルヒスチジンを 生産する性質などを指標とするスクリーニングは、 例えば、 後記実施例 1に記載 された方法によって行うことができる。
化学合成による製造および誘導体ィ匕
本発明のポリアミノ酸 (例えばポリァノレギニノレヒスチジン) はぺプチド合成法 により化学合成によっても製造できる。 化学合成に際しては、 例えばポリアルギ ニルヒスチジンのアルギニン残基をホモアルギニン、 リジン、 オル二チン、 シト ルリンなど他の塩基性アミノ酸と置換し、 および Ζまたは、 ヒスチジンをシステ イン、 トリプトファン、 チロシンなどと置換できる。
誘導体化に際しては、 塩基性ポリアミノ酸中の塩基性官能基を有機または無機 の酸との塩とすることができる。 例えば、 塩酸、 硫酸、 リン酸などの無機酸もし くは酢酸、 プロピオン酸、 フマル酸、 リンゴ酸などの有機酸の塩の形で用いるこ とができる。
また、 当該技術分野で既知の方法で、 適当な金属元素との錯体とすることがで きる。 そのような金属原子の例として、 マグネシウム、 マンガン、 コバルト、 二 ッケル、 銅、 亜鉛を挙げることができる。
さらに、 ポリアミノ酸残基中の遊離した官能基には各種の化学修飾、 例えばァ シル化等を行うことが可能である。 これらの製造方法および誘導体化の方法は当 該技術分野で既知である。
ポリアルギニルヒスチジン中のアルギニン残基に側鎖として遊離するグァュジ ノ基をアルカリ加水分解することで、 オルェチンに変更できる。 アルギニンとォ ルニチンは、 それぞれのグァニジノ基おょぴァミノ基の角旱離定数が異なるため、 アルギェンとオル二チンの構成比を適宜調節して、 用途目的に最適な電解性官能 基の解離定数 ( p K a ) を持ったポリアミノ酸を製造することができる。
ポリアミノ酸誘導体の用途
本発明のポリアミノ酸誘導体は、 後述の実施例に示すように、 高い抗菌活性を 有しており (実施例 3, 4 ) 、 しかも既存のホモポリマーに比較して顕著に高い 抗菌活性を有することが明らかになった (実施例 8 ) 。 また、 金属との結合性 (実施例 1 0 ) 、 酸性物質の吸着活性 (実施例 1 2 ) 、 生細胞への透過性 (実施 例 13)など、種々の機能を有する機能性分子であることが判明した。さらに、本発明の ポリアミノ酸の抗菌活性は錯体形成により増強されることを ! ^することが確認さ れた (実施例 1 1 ) 。 従って、 本亮明のポリアミノ酸誘導体は生分解性の機能性 ポリマーであり、 広範な用途を有する。 以下に示す用途には、 ポリアミノ酸誘導 体を単独で、 または組成物としておよび/または他の成分と併用して使用するこ とができる。 ポリアミノ酸誘導体を含有する組成物は、 当該技術分野で既知の方 法で、 適当な担体、 賦形剤、 希釈剤等と共に溶液、 懸濁液、 固形等の様々な形に 調製することができる。 本発明のポリアミノ酸は他の有効成分と併用することが でき、 そのような目的には予め一組成物中に共存させても良く、 使用時に混合、 併用してもよい。
本発明のポリアミノ酸誘導体の主な用途は、 その抗菌活性、 金属結合活性、 酸 性物質との結合または吸着活性等の各機能に関連する。 例えば、 抗菌素材、 金属 結合素材、 酸性物質吸着作用に基づく塩基性物質の排斥用素材、 または物質と化 学結合した状態で、または混合した形で、該物質を細胞内へ輸送するための素材とし て使用しうる。ここで「素材」とは、それ自体が例えば抗菌性組成物として有用であるの みならず、各種製品の製造原料として機能することを意味する。以下にこれらを詳細に
説明する。
1) 抗菌性物質としての利用
本発明のポリアミノ酸誘導体は、 グラム陰性細菌、グラム陽性細菌抗菌性、酵母 菌、糸状真菌に対して増殖抑制効果を有する。この効果は金属錯体の形で特に優れ ている。
従って、 本発明のポリアミノ酸誘導体は、 抗菌性物質として食品や飼料の保存 (食品添加物〉 、 食品や飼料の日持ち性向上 (食品添加物) 、 食品保存性を改善 する食品容器の成分、 冷蔵氷の食品保存性増強、 発酵産業における微生物の制御、 生簀ゃ水槽の水質劣化防止、 人、 畜、 魚類に投与する抗生物質 (医薬品類) 、 無 菌であることが求められる医療器具の保存剤、 コンタクトレンズの保存剤、 歯科 捕綴具の保存、 抗菌効果を付した医療用繊維、 化粧品や医薬部外品の品質保持、 搾乳房の汚染管理、 花卉の日持ち性向上、 植物の根腐れ防止、 植物種子の発芽管 理、 無菌栽培における微生物制御、 有用微生物と不要微生物を分離するための選 抜法、 などに利用できる。
上記の抗菌活性に係る本発明のポリアミノ酸誘導体の使用形態は、 特に限定さ れないが、 本発明のポリアミノ酸誘導体の抗菌活性を最終目的物中に混合または 練りこむ、 表面に散布する、 あるいは目的物の収容容器、 包装材料等に含有させ るか塗布する等の方法をとることができる。 実施に際しては、 当該技術分野で同 様の目的で使用される方法に準じて行えばよい。 そのような使用例は、 例えば、 特許 1537297、 特開平 5—146282、 特開平 8—175901、 特開 平 9一 124422、 特開平 9— 10288、 特開平 10— 109906、 特開 平 10— 279794、 特開 2000— 189129等に記載されており、 当業 者に既知である。
2) 金属結合能を有する物質、 または金属錯体としての利用
本発明のポリアミノ酸誘導体は金属錯体形成能を有すること力ゝら、 上記の抗菌 性物質としての利用に加えて、 有用金属の吸着、 濃縮、 金属定量用試薬として利 用できる。 さらには、 重金属錯体として医療用造影剤にも利用可能である。 さら には、 放射性金属の吸着、 濃縮、 放射性金属の生体からの排出促進、 生物に重金 属耐性を付与するための細胞内含有物または細胞外分泌物 (細胞内で生産後、 細
胞内部に蓄積されるカゝ細胞外に分泌されることによる) 、 インク (顔料) の成分、 金属含有医薬品の成分、 ならびに家畜や魚類への金属投与用組成物または飼料の 成分、 生体必須金属の摂取源 (健康食品) 等に利用できる。
上記の金属結合活性に係る本発明のポリアミノ酸誘導体の使用形態は、 特に限 定されず、 当該技術分野で同様の目的で使用される方法に準じて選択することが できる。 そのような使用例は、 例えば、 特開平 7— 2 2 4 0 5 0、 特許出願平 1 1 - 1 7 4 0 5 4等に記載されており、 当業者に既知である。
本発明のポリアミノ酸誘導体が錯体を形成している場合、 金属イオンとしては、 目的に応じて適宜選択される、 特に限定されないが、 例えば、 食品、 医薬、 化粧 品等の抗菌剤として用いる場合は、 銅、 亜鉛、 銀、 造影剤として用いる場合は常 磁性のガドリユウム、 マンガン等を挙げることができる。
3 ) 静電的 (イオン) 反応性物質としての利用
本発明のポリアミノ酸誘導体は塩基性ポリマーであることカ ら、 静電的に酸性 物質と結合し、 塩基性物質とは反発する性質を有する。 また、 塩基性ポリアミノ酸 は細胞内へ進入する性質を有することから、ポリアミノ酸に化学的に結合した物質ゃポ リアミノ酸と親和した物質を細胞内へ輸送することができる。ここで、ポリアミノ酸と「親和 した物質」とは、ポリアミノ酸水溶液中に溶解または懸濁された状態で、ポリアミノ酸が細 胞膜の透過性の変化させた際に、細胞内へ進入しうる物質を指す。
例えば、ポリアルギニルヒスチジンと化学的に結合する物質 (例えば、ペプチド、タン パク質、 DNA、 R A、糖)は細胞内へ輸送され、細胞内でそのままか、あるいは分解、 プロセッシングされて遊離され、所望の機能を発揮しうる。このように、 酸性物質の吸 着剤、 酸性有害物質の除去剤、 ドラッグ■ディリパリ一法における担体、 遺伝子 治療に使用される核酸の運搬体、 核酸の細胞への導入を促す担体、 繊維の染色補 助剤、 などに利用できる。
好ましくは、 本発明のポリアミノ酸誘導体は R NAや D N Aなどの遺伝情報を コードするポリヌクレオチドのビークル (運搬媒体) として、 利用される。 その ようなビークルは、 遺伝的、 非遺伝的疾患の治療疾患の遺伝子治療や、 発酵、 農 業、 畜産、 水産業等における有用な性質を持つ新たな細菌、 動植物などを得るた めに、 ィンビトロまたはィンビポでの遺伝子導入に有用である。
上記の酸性物質との結合活性に係る本発明のポリアミノ酸誘導体の使用形態は、 特に限定されず、 当該技術分野で同様の目的で使用される方法に準じて選択する ことができる。 そのような使用例は、 例えば、 特開平 9一 3 0 8 4 8 4等に記載 されており、 当業者に既知である。
D—アミノ酸の用途
本発明方法により得られる D—アミノ酸は医薬、 化粧品等の分野で、 そのまま、 あるいは中間体として極めて有用である。 利用に際しては、 D—アミノ酸単独で 用いることも可能であるが、 通常は、 ペプチド結合により、 ジペプチド、 トリぺ プチド、 ポリペプチド (残基数が 4またはそれ以上) 、 タンパク質やアミノ酸構 成が単純であるポリアミノ酸に導入する。 さらに、 D—アミノ酸が D—ヒスチジ ンである場合、 化合物にイミダゾール環を導入する際の該環の供給源としても利 用しうる。
D—アミノ酸が導入されたペプチド等は、 例えば、 D—アミノ酸が存在するこ とに関連する特徴的な性質を具備し得る。
例えば D—アミノ酸が D—ヒスチジンである場合、 本願発明に係るポリアルギ ニルヒスチジン以外に D—ヒスチジンの生物界での存在を示す報告例がないこと は、 D—ァミノ酸またはそれを含有するぺプチド誘導体が極めて稀な物質である ことを示しており、 これから、 ペプチド分解酵素、 アミノ酸酸化酵素、 アミノ酸 脱炭酸酵素、 アミノ酸脱ァミノ酵素など、 D—ヒスチジンに作用する酵素の分布 は少ないと予想される。 従って、 D—ヒスチジンを含有する化合物を生体、 食品、 環境などに導入した場合、 L一ヒスチジンを含有する化合物と比較して、 生物に よる酵素作用に対して感受性が低く (耐性が高く) 、 変性を受けにくいため、 化 合物としての寿命を長期化できると考えられる。 この特性を活かして、 医薬品、 農薬品、 化学品、 化粧品、 食品添加物等原料やその合成中間体などに利用できる。 また、 生理活性物質には D—アミノ酸を持つものがあり、 D—アミノ酸の示す 特異性が直接生理活性に関わる場合もある。 従って、 機能発現に D—系列のヒス チジンまたは誘導体が必要である化合物の製造において、 本発明方法で得られる D—ヒスチジンは有用である。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、 これら実施例は例示
のみを目的としており、 いかなる意味においても本発明を限定することを意図す るものではない。
実施例 1 ポリアミノ酸生産菌株の同定
ポリアルギニルヒスチジン生産菌の取得は、 西川等 (前掲) 記載の方法に従い、 下記のようにして行った。
(1) 菌株の分離
固形培地 (グリセロール; 10 g、 硫酸アンモユウム; 0. 66 g、 りん酸二 水素カリウム; 0. 68 g、 硫酸マグネシウム七水和物; 0. 25 g、 イースト ェクストラタト ; 0. l g、 微量ミネラル要素、 微量、 の各成分を 1 Lの脱ィォ ン水に溶解し、 水酸化ナトリウム水溶液にて p Hを 7. 0に調整し、 粉末寒天 1 5 gを加える) を滅菌 (121°C、 15分間) した後、 別に滅菌した色素、 酸性 色素 Po l yR_478 (シグマ社製、 終濃度 0. 02%) を添加して、 シヤー レ中に固化する。 1白金耳量の土壌試料を適当量の滅菌水にて分散し、 一部を上 記寒天平板培地上に塗布により植菌する。 28 °Cにて 3〜 14日間培養し、 コロ ニー (細胞集落) の周縁に形成される色素の吸着域の存在を特徴とする菌株を、 塩基性ポリアミノ酸生産菌の候補として選抜する。
(2) 菌学的性質
ポリアミノ酸生産菌の分離、 特性化
上記 (1) で選抜した菌株をポテトデキストロース培地 (PDA) 、 オートミ ール培地 (OA) 、 および 2%麦芽培地 (MEA) の各寒天平板に接種し、 2
8°Cで培養し、 菌学的性質を調べた。 ポテトデキストロース培地 (PDA) 、 ォ ートミール培地 (OA) 、 および 2%麦芽培地 (MEA) はいずれもディフコ / べクトン-ディキンソン (Difco/Becton Dickinson) 社製である。
A. 培地上の生育状況
すべての寒天平板上において菌糸は綿毛状で白色を呈する。 生育はやや遅く、
PDAおよび ME Aの平板では培養開始後 1週間で直径 20mmに達し、 OAの 平板では直径 15 mmに達する。 分生子の形成は少なく、 分生子によるコロニー 色調の変化は観察されない。 浸出液および可溶性色素の産生は認,められない。
B. 胞子の形成
光学顕微鏡下ではフィァ口型の無性生殖器官の形成が確認される。 分生子柄は 多少直立し、 気中菌糸より単生ないしは 2から 4個のフィアラィドを輪生する。 また、 二次的な分枝を示す分生子柄も若干観察される。 フィアライドは細長い錐 形で直線的、 大きさは変化に富む。 菌糸およびフィアライドの表面は平滑である。 分生子は 1細胞性で表面は平滑である。 形は卵円形、 淚形、 楕円形、 長円形など 多様である。 分生子は粘性を示し、 分生子柄先端より塊状となる。 培養 8週間経 過後の観察でも三日月型の大型分生子や厚膜胞子およびテレオモルフの形成は認 められない。
C . 生理学的性質
2 1 °Cまたは 2 8 °Cにて良好に生育するが、 3 3 °Cでは生育しない。 p Hは 2 .
5から 8 . 8の間で生育する。 後述のとおり、 ポリアルギニルヒスチジンを生産 する。
D . 資化可能な炭素、源
D—グ /レコース、 D—ガラクトース、 D—キシロース、 D—ソノレビトーノレ、 D 一マンニトール、 グリセロール、 クェン酸、 L一グルタミン酸を利用し得る。 ( 3 ) 種の同定
上記 ( 1 ) で選抜した菌株について、 2 8 sリボソーム R N A分子の塩基配列 を決定した。 この塩基配列は D N A Data Bank of Japanに、 登録番号 A B 0 8 7 3 7 3の下で登録されている。 2 8 sリポソーム RNA分子の種間比較に基づく 分子生物学的手法により検討した結果、 当該菌株はェピクロエに属する新菌株で ある事が判明した。 これは Epichloe kibiensis E l 8株と命名され、 独立行政 ? ¾人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号 FERM BP- 8358 の下 で寄託されている (受託日 :平成 1 4年 7月 5日) 。
実施例 2 E 1 8株によるポリアミノ酸の生産と同定
( 1 ) 固体培養による生産
実施例 1に記載の方法に従い、 該実施例 1に記載の固形培地 (伹し色素は含ま ない) で E 1 8株を培養した。 1 0日間培養した後、 コロニー (細胞集落) 周縁 に分泌されるポリアミノ酸を寒天小片として回収した。 寒天小片中に残留するポ リアミノ酸以外の培地成分を、 寒天小片を水に浸積することで除去した。 次に寒
天小片を 1 N塩酸溶液中で 90 °C、 1時間加熱することにより寒天成分を加水分 角 した。 この溶液中に含まれるポリアミノ酸を陽イオン交換樹脂 (アンバーライ ト I RC— 50、 オルガノネ土製) に吸着させ、 0. 2N酢酸を用いて洗浄し、 0. 1N塩酸にて溶出し、 減圧乾燥することにより精製した。
(2) 液体培養による生産
液体培地 (D-ガラクトース、 1 Og;硫酸アンモニゥム、 0. 66 g ; りん酸 二水素力リゥム、 0. 68 g ;硫酸マグネシウム七水和物、 0. 25 g ;酵母ェ キス、 0. 2 g ;微量ミネラル要素、 微量、 を 1 Lの脱イオン水に溶解し、 ; pH 値を N a OH水溶液にて 7. 0に調整する) の 10 OmL量を 50 OmL容バッ フル付三角フラスコ入れ、 滅菌 (121°C、 15分間) する。 植菌後、 28での 恒温槽内で 100 r p mの旋回振とうにより好気的に培養する。 7日後、 培養液 の上清を、 孔径 0. 45 mmの合成高分子膜でろ過することにより回収し、 この 溶液中に含まれるポリアミノ酸を陽イオン交換樹脂 (アンバーライト I RC— 5 0、 オルガノネ土製) に吸着させ、 0. 2N酢酸を用いて洗浄し、 0. 1N塩酸に て溶出し、 減圧乾燥することにより精製した。
(3) モノマーの同定
1) 上記 (1) または (2) で E 18株の培養液から精製したポリアルギニル ヒスチジンを、 6 N塩酸溶液中で 100 °C、 20時間加熱することにより加水分解 し、 モノマーを調製した。 モノマーを薄層クロマトグラフィー法 [展開薄層板、 シリカゲルまたはセルロースを塗布したもの;展開温度, 20 °C; 展開溶媒, n—ブタノーノレ : 酢酸 : ピリジン : 水 =4 : 1 : 1 : 2の混液] に て展開し、 ニンヒドリン試薬にて現像した。 モノマー化されたアミノ酸は 2種あ り、 それぞれ標準物質のアルギニンおよびヒスチジンと同一の Rf値 (それぞれ、 0.22および 0.19) を示した。 Rf値が 0.22であるモノマーは、 グァニジノ基の検出 法である坂口反応に陽性であった。 また、 Rf値が 0.19であるスポットはィミダゾ ール環の検出法であるパウリ反応に陽性であった。 また力 D水分解処理していない ポリアミノ酸は坂口反応おょぴパウリ反応に陽性であった。
以上の結果から、 モノマーはアルギニンとヒスチジンであることが判明した。 各側鎖上に存在するグァ-ジノ基とィミダゾール環はポリアミノ酸中に遊離した
形で存在しており、 アルギニンとヒスチジンは主鎖上の α位アミノ基と a位カル ポキシル基間のぺプチド結合により相互に連結されていることが判明した。
(4) ポリアミノ酸の配列決定
ポリアミノ酸の構成成分であるアルギニンとヒスチジンの配列を明らにするた め、 精製したポリアミノ酸を自動エドマン分解分析装置 (アプライドバイオシス テムズ社製、 モデル 492) により解析した。 結果を図 1に示す。
Ν末端のァミノ酸残基はアルギ-ンであり、 第 2残基はヒスチジンであつた。 これ以降は、 奇数番目の残基がアルギニンであり、 偶数番目の残基がヒスチジン であった。 図 1に示すように、 第 2残基はヒスチジンであり、 第 3残基はルギ- ンである。
以上から、 ポリアミノ酸はアルギニンを Ν末端とし、 アルギニンとヒスチジン が交互に連鎖した構造を持つことが判明した。
(5) 分子量の測定
ポリアミノ酸の分子量を明かにするために、 精製したポリアミノ酸を MA L D I 飛行時間型質量分析計 (パーセプティブ社製、 モデル Voyager DE) で測定し た。 図 2に質量分析の結果を示す。 検出された分子量はRHRHRHRHRH (Rはアルギェン残基、 Hはヒスチジン残基を表す、 配列番号 1) に由来する約 1, 486を中心とし、 この他に約 293の差をもった、 より小さいか (RHR HRHRHに由来する約 1, 193、 配列番号 2) 、 またはより大きい (RHR HRHRHRHRHに由来する約 1, 779、 配列番号 3 ) シグナルが認められ た。 また、 精製票品には、 これら以外の不純物はほぼ含まれなかった。
以上から、 E 18株が生産するポリアミノ酸は唯一の分子量をもつ単一分子で はなく、 一定の範囲内に分子量分布をもつ分子の混成物であった。
実施例 3 E 18株が生産するポリアルギニルヒスチジンの抗菌活性
抗菌性試験は以下の方法で行った。
実施例 2の(2)で精製し、実施例 2 (3)〜(5)で同定した E18株が生産するポリアル ギニルヒスチジンを滅菌水にて溶解し、さらに一定の終濃度となるように適当な液体培 地に添加した。液体培地は表 1に示すとおり、感受性を評価される微生物 (被検微生 物〉の増殖に適したものを選択した。各液体培地の 1 L中の組成は、: I) N培地 (ヌート
リエント ブロス): 肉エキス, 3 g; ペプトン, 5 g, H 6. 8、 2) 702培地: ポリ ペプトン, 10 g; 酵母エキス, 2 g; 硫酸マグネシウム七水和物, 1 g, pH 7. 0、 3) YPD培地: 酵母エキス, 10 g; ペプトン' 20 g; D—グルコース, 20 g, pH 6. 5、 4) PD培地: ジャガイモ浸出物, 原料ジャガイモ 200 gに相当する量; D— グルコース, 20 g, pH 5. 1、とした。ポリアルギニルヒスチジン ¾r ^む液体培地に 被検微生物を接種し、それぞれの最適培養温度にて 20時間培養した。増殖の検定に は、細胞の分散性が良好な微生物に対しては 600 nmの吸光度を測定し、不均一な 細胞塊を形成する微生物に対しては目視にて行った。抗菌性試験の結果を表 1に示す。 表 1に示すように、 E18株が生産したポリアルギニルヒスチジンはグラム陰性細菌、ダラ ム陽性細菌、酵母菌、糸状真菌に対して、増殖を強く抑制した。 表 1 Epichloe kibiensis E18株の培養液が示す抗菌活性
最小増殖阻止濃度 被検微生物 菌株名 液体培地
(相対濃度)
[グラム陰性細菌]
Agrobacterium tumefaciens LBA4404 N x 1/5
Escherichia coli IF03301 N x 1/10
Pseudomonas aeruginosa IF03445 N x 1/5
Salmonella typhimurium IF012529 N x 1/2
[グラム陽性細菌]
Bacillus cereus IF03514 N x 1. 5
Bacillus subtil is IF03336 N 1/10
Enterococcus faecal is JCM8726 N x 1/10
Geobacillus
stearothe層 philus IF012550 702 x 1/10
Lactobacillus brevis IF03960 702 x 1/10
Staphylococcus aureus
subsp. aureus IAM12544T N x 1/2
腿 3276 N x 1/2
S. aureus subsp. aureus (MRSA) ATCC33591 N x 1/2
Saccharomyces cerevisiae KK4 YPD x 1/2
Candida albicans IF01385 PD 1
Candida hoidinii MIP104 PD 1/2
Aspergillus niger IF04416 PD [x 5]*
差替え用紙(規則 26)
培地: N, ヌートリエント ブロス; YPD, yeast extract/peptone/dextrose; PD, ポテト デキストロース培地; 702, IF0702培地.
*増殖速度の低下が観察された。
相対濃度は、 E18の培養液から精製した抗菌物質を試験培地へ添加する際、 その 濃度が培養液中へ生産されたときの濃度を 1とした場合の相対ィ直 (希釈倍率また は濃縮倍率) を表す。 X 1の濃度はおよそ 4 0 / g /raLと推定される。 従って、 相対濃度、 xl/10, X l/2、 xl、 x5はそれぞれ、 およそ 4、 2 0 , 4 0, 2 0 0 t g/mlに相当する。
実施例 4 ィ匕学合成したポリアルギニルヒスチジンの抗菌活性
ァミノ酸残基数 1 0のポリアルギニノレヒスチジンを化学合成法により作成し、 試験に供した。 化学合成は文献 (Atherton, E and Sheppard, R. C., Solid phase peptide synthesis. A practical approach, IRL Press, Oxford
(1989) ) に記載の方法に従って行った。 生成物ポリアミノ酸のァミノ酸配列は、 (N末端) (L一アルギニン) -(L一ヒスチジン) -(L—アルギニン) -(L一ヒスチ ジン)-(L—アルギニン) - ( L—ヒスチジン) -(L一アルギェン)-(L—ヒスチジ ン)-(L—アルギニン)-(L—ヒスチジン) (C末端) である。 このポリアルギニ ルヒスチジンを滅菌水に溶解、 希釈し、 一定の終濃度 (1、 1 0、 2 0、 5 0、 1 0 0、 1 5 0、 2 0 0、 3 0 0、 4 0 0、 5 0 0 /z g/m L) となるように実施 例 3に記載のものと同じ組成の液体培地に添加し、 培養して抗菌活性を評価した。 抗菌活性 (増殖) の評価は上記の実施例 3記載の方法に準じて行った。 抗菌性試 験の結果を表 2に示す。 表 2 化学合成ポリアルギニルヒスチジンの抗菌活性
最小増殖阻止濃度 被検微生物 液体培地
( t g/raL)
[グラム陰性細菌]
Agrobac terium tumefaciens LBA4404 N 10
Escherichia coli IF03301 N 10
Pseudomonas aeruginosa IF03445 N 10
Salmonella typhimurium IF012529 N 150
[グラム陽性細菌] 差替え用紙(規則 2β)
Bacillus cereus IF03514 N ― (>400>
Bacillus subtil is IF03336 N 10
Enterococcus faecal is JCM8726 N [ 10 ]*
Geobacillus
s tearo thermophilus IF012550 702 10
Lactobacillus brevis IF03345 702 10
Staphylococcus aureus
subsp, aureus IF013276 N 50
S. aureus subsp. aureus 飄 SA) ATCC33591 N 50
Saccharomyces cerevisiae KK4 YPD 100
Candida albicans IF01385 PD 100
Candida boidinii MIP104 PD 10
Aspergillus niger IF04416 PD [50]* 培地: N, ヌートリエン卜 プロス ; YPD, yeast extract/peptone/dextrose; PD, ポテト デキストロース培地; 702, IF0702培地.
化学合成ポリァ/レギニノレヒスチジンはァミノ酸残基数 1 0のものを使用した。 *増殖速度の低下;^観察された。 一は増殖を阻止せず。
表 2に示すように、 ァミノ酸残基数 1 0のポリァ/レギニノレヒスチジンはダラム 陰性細菌およびグラム陽性細菌に対して抗菌性であり、 酵母菌、 糸状真菌に対し て、 増殖を強く抑制した。 例外的に、 Bacillus cereus I F O 3 5 1 4株には無 効であった。 上記の表 2に記載の結果は、 合成ポリアミノ酸が、 表 1に記載の E 1 8株が産生するポリアミノ酸と同様の抗菌活性を有することを示している。 こ れらの結果は、 本発明の E18株が所望のへテ口ポリアミノ酸を産生することを証 明するものでもある。 なお、 最小増殖阻止濃度の数値に若干の差があるが、 これ は天然のポリアミノ酸と化学合成ポリ了ミノ酸との純度等におけるに基づくと考 えられる。
実施例 5 アミノ酸残基の種類おょぴ数と抗菌性との関係
( 1 ) ポリアルギニルヒスチジンのァミノ酸残基数と抗菌活性と関連を調べるた めに、 アミノ酸残基数の異なるポリアルギニルヒスチジンを化学合成し、 実施例 3または 4と同様の方法にて抗菌性試験を実施した。 被検微生物には大腸菌
(Escherichia coli) I F O 3 3 0 1株おょぴ枯草菌 (Bacillus subtilis) I F 0 3 3 3 6株を使用した。 抗菌性試験の結果を表 3に示す。 なお、 表 3に記載
のポリアミノ酸のァミノ酸配列は配列番号 4 ~ 1 3に記載されている t 表 3 化学合成ポリアミノ酸の構造と抗菌活性の関連
最小増殖阻止濃度( g/raL) ポリアミノ酸名 構 造
B. subtil is E. coli
RH, H2- RH -C00H 一 (>400) ― (〉400)
RH2 NH2- RHRH -C00H 一 (〉400) 一 (>400>
RH3 NH2- RHRHRH - C00H 100 100
RH4 NH2- RHRHRHRH - C00H 10 10
RH5 NH2- RHRHRHRHRH - C00H 10 10
RH6 NH2- RHRHRHRHRHRH - C00H 10 10
HR5 H2 - 匪 R腿 RHR -C00H 10 10
KH5 H2- KHKHKHKHKH - C00H 10 10
RG5 NH2- RGRGRGRGRG - COOH 100 100
GH5 NH2- GHGHGHGHGH -COOH 一(〉500) 一 (>500)
RCS H2- RCRCRCRCRC -COOH 10 20 被検微生物: Bacillus subtilis IF03336および Escherichia coli IF03301. 構造模式中の R、 H、 K、 G、 Cはそれぞれアルギニン、 ヒスチジン、 リジン、 グリ シン、 システィン残基を表す。
培地, ヌートリエント ブロス。
一は増殖を阻止せず。
表 3に示すように、 アミノ酸残基数カ¾以上のポリアルギニルヒスチジン (配列番号
5〜8)では抗菌性力 S認められた。最小増殖阻止濃度は残基数が 8以上で飽和し、その 値は 10 // g/mLであった。 N末端はヒスチジンで、 C末端はアルギニンである、ポリヒ スチジルアルギニン (残基数 10、配列番号 9)の最小増殖阻止濃度は 10 IX gZmLで あり、抗菌性について同残基数の N末端はアルギニンで、。末端はヒスチジンである、 ポリアルギニルヒスチジンと変わりなかった。
差替え用 2
荬旒例 6 ァミノ酸置換誘導体の抗菌件
ポリアルギニルヒスチジンのアミノ酸配列と抗菌活性と関連を調べるために、アミノ酸 配列の異なるポリアミノ酸を化学合成し、実施例 3または 4と同様の方法にて抗菌性試 験を実施した。被検微生物には大腸菌 (Escherichia coli) IFO3301株およぴ枯草 菌(Bacillus subtilis) IF03336株を使用した。抗菌性試験の結果は前記表 3に示 されている。
表 3に示すように、 ポリアルギニルヒスチジンのアルギニンをリジンに置換した、残 基数 10のポリアミノ酸 (配列番号 10)は、最小増殖阻止濃度が 10 μ g/mLであり、抗 菌性につレ、て同残基数のポリアルギニルヒスチジンと変わりな力 た。ポリアルギニルヒ スチジンのヒスチジンをシスティンに置換した、残基数 10のポリアミノ酸 (配列番号 13) は、最小増殖阻止濃度が 10から 20 μ g/mLであり、抗菌性について同残基数のポリ アルギニルヒスチジンとほぼ変わりなかった。ポリアルギニルヒスチジンのヒスチジンをグ リシンに置換した、残基数 10のポリアミノ酸 (配列番号 11)は、最小増殖阻止濃度が 10 0 μ g/mLであり、抗菌性にっレヽて同残基数のポリアルギニルヒスチジンの 10分の 1 の効果しか示さなカゝつた。ポリアルギニルヒスチジンのアルギニンをグリシンに置換した、 残基数 10のポリアミノ酸 (配列番号 12)は抗菌性を示さな力 た。上記の結果から、相 互に交換可能なアミノ酸の特性について以下の点が明らかである。即ち、アルギニンと リジンは、共に強い塩基性を有するアミノ酸であること、ヒスチジンとシスティンはキレー ト形成能が高ぐしかも、ペプチド結合によりポリアミノ酸を形成した状態でも優れたキレ ート形成能を維持してレヽることが挙げられる。一方、ヒスチジンとグリシンの場合は、キレ ート形成能に関しては共通するが、ポリアミノ酸を形成した場合に、グリシンはキレート 形成能の低下または喪失をきたす点で異なる。さらに、アルギニンとグリシンの場合は、 塩基性において異なる。このように、抗菌性ポリアミノ酸を得るためには、塩基性ァミノ 酸力含まれること必要であり、さらにキレート形成能の優れたアミノ酸が存在することに より抗菌性が増強される事が分かった。
実施例 7 ァシル化誘導体の抗菌活性
極めて親水性であるポリアルギニルヒスチジンの極性変化が抗菌性に与える影 響について調べるために、 上記実施例に記載の残基数 1 0のポリアルギニルヒス チジン (R H5 ) の N末端アルギニン残基の N o;アミノ基をミリスチル化し、 残
基数 1 0のミリスチル化ポリアルギニルヒスチジン (myristoyl- R H5 )を化学合 成した。 これを用いて、 実施例 3または 4と同様の方法で抗菌性試験を実施した。 抗菌性試験の結果を表 4に示す。
表 4 化学合成ポリアルギニルヒスチジンのァシル化誘導体の抗菌活性
とポリリジンとの比較 一 „ 被検微生物 最小増殖阻止濃度(" g / mL)_
mynstoyl-RH. ε PL
[グラム陰性細菌]
A. tumefaciens LBA4404 10 10 10 t. coli HB101 10 10 10
P. aeruginosa IF03445 10 to 10
S. typhimurium IF012529 150 10 10
[グラム陽性細菌]
B. cereus IF03514 一 (>500) 10 50
B. subtilis IF03336 10 10 10
E faecalis JCM8726 [ 10 ]* 10 10
S. aureus IF013276 50 10 10
S. aureus (MRSA) ATCC33591 50 10 10 培地, ヌートリエント ブロス.
ポリアルギニルヒスチジン (アミノ酸残基数は 10) ; myristoyl- RH5, ポ リァノレギニレヒスチジン (ァミノ酸残基数は 10, N末端ァミノ基にミリスチノレ基 を結合したもの) ; £ PL, ィプシロン-ポリ- L -リジン (アミノ酸残基数は 25から 36) 。
*増殖速度の低下が観察された。 —は増殖を阻止せず。
表 4に示すように、 rayristoyl-R H5は、 ァシル化されていない対応のポリア ルギニルヒスチジン (R H5 ) と比較して、 より高い活性を有することが明らか になった。 即ち、 myristoy卜 R H5は R H5が全く抗菌作用を示さない Bacillus cereus I F 0 3 5 1 4株に対して、 最少増殖阻止濃度 1 0 μ g Zm Lで増殖阻 害作用を示した。 また、 非ミリスチル化ポリアミノ酸である R H5が比較的弱い (最少増殖阻止濃度が 5 0 μ g /m L以上) 増殖阻害作用を示すグラム陰性菌 (Salmonella typhimurium IF012529)およぴグラム陽性菌 (Staphylococcus aureus IF013276, Staphylococcus aureus MRSA ATCC33591)に対して高い増殖阻
害作用 (最少増殖阻止濃度 1 g /m L) を示した。 このように、 ァシル化は 抗菌活性の向上 (抗菌スペク トルの拡大〉 に有効であることが証明された。 実施例 8 ホモポリマーであるポリリジンとの抗菌活 1~生における比較
既存のホモポリアミノ酸であるポリリジンは強い抗菌性を示す事;^知られている。そこ で、本発明のポリアルギニルヒスチジン (合成 RH5 )の抗菌性との比較を行った。ポリリ ジンは和光純薬より入手した Eポリ一 L—リジンを使用した。抗菌活性の評価は実施例 3, 4に記載の方法と同様である。結果は上記の表 4に示されている。この結果カゝら明ら かに、ポリリジンは試験したほぼすベての菌に対して強い抗菌性を示した力 B. cereu s IF03514には他の菌株に比べ 1Z5倍の効果しか示さなかった (5倍の抵抗性を示 した)。一方、本発明の化学合成ポリアルギニルヒスチジン (残基数 10)は一部の菌株 につレ、て十分な抗菌性を示さな力 た力 ミリスチル化したポリアルギニルヒスチジンは すべての菌株の増殖を強く抑制し、ポリリジンに 5倍の抵抗性を示した B. cereus IFO 3514株に対しても同レベルで増殖を強く抑制した。
実施例 9 強アルカリ条件下での抗菌活性
既存品であるポリリジンの遊離ァミノ基の pKa値は 8. 9であり、ポリアルギニルヒスチ ジンの遊離グァニジノ基の pKa値力 2. 5であることから考えて、強アルカリ条件下で は抗菌性はポリアルギニノヒスチジンの方がポリリジンより強レヽことがが予想される。そこ で、好アルカリ細菌に対する抗菌性を調べた。培地には 20mMの CAPS/NaOH緩 衝液にて pHを 11. 2に調製したヌートリエントブロスを使用し、その他の試験方法は実 施例 3に準じて行った。結果を表 5に示す。 表 5 強アルカリ性条件下(pH 11.2)における化学合成ポリアルギニルヒス
チジンの抗菌活性とポリリジンとの比較
被検微生物 最小増殖阻止濃度(// g / mL)
RH5 ε PL
Bacillus alcalophilus IF015653 10 一 (>500)
Bacillus cohnii IF015565 50 一 (>500)
Exiguobactenum aurantiacum IF014763 50 一 (>100)
Staphylococcus aureus IF013276 50 ― (>100) 培地, ヌートリエント プロス (20raM CAPS/NaOH緩衝液) .
RH5, ポリアルギニルヒスチジン (アミノ酸残基数は 10) ; £PL, ィプシロン
-ポリ - L-リジン (アミノ酸残基数は 25から 36) .
一は増殖を阻止せず。
表 5に示すとおり、 pH 11.2において、ポリアルギニルヒスチジンは抗菌性を示した のに対して、ポリリジンは抗菌性を示さな力つた。よって、ポリアルギニルヒスチジンの抗 菌性は、強アルカリ条件でも有効であることが示された。
実施例 10 金属結合性試験
アミノ酸残基数 10のポリアルギニルヒスチジン (RH5) を化学合成法によ り作成し、 試験に供した。 そのアミノ酸配列は、 実施例 2 (5) におけるものと 同質である。 金属結合性は分子量の増加をもって評価した。 ポリアルギニルヒス チジンを終濃度 S Opmo lZwLとなるように 30mMトリス '塩酸緩衝液 (pH7. 5) で調製し、 金属の塩化物塩または硫酸塩の水溶液と混和した。 金 属元素として、 マグネシウム、 マンガン、 コバルト、 ニッケル、 銅、 亜鉛を使用 した。 混和の比率は、 モル比率で、 ポリアルギニルヒスチジン:金属 = 1 : 10 とした。 分子量の測定は、 ポリアルギニルヒスチジンと金属の混和物を測定器製 造元が推奨する方法に従い、 2、 5—ジヒドロキシ安息香酸と混和し、 乾燥後、 飛行時間型質量分析計 (パーセプティブ社製、 モデル Voyager DE) を用い、 MA
LD I—TOF Ma s s法で測定した。 金属結合性試験の結果の一例を図 3に 示す。 図 3は MALDI/TOF-MS法によるポリアミノ酸一亜鉛複合体の検出結果を 示し、 Aはポリアルギニルヒスチジン (残基数 10) のみ、 Bはポリアルギニル ヒスチジン (残基数 10) を硫酸銅 (ポリアミノ酸の 10倍のモル数) と共存させ た場合の結果を示す。
図 3に示すように、ポリアルギニルヒスチジンと硫酸亜鉛を共存させた場合、硫酸亜 鉛を共存させない場合にポリアルギニルヒスチジンが示す m/z値 1, 486に加えて、亜 鉛イオンの付加された分子力 S示す mZz値 1, 550が観測された。他の金属についても、 ポリアルギニルヒスチジンが単独で示す m/z値に、おのおのの金属に固有な値の分 だけ増し fcmZz値力確認されたので、ポリアルギニルヒスチジンは混和したすべての 種類の金属と金属の間で複合体を形成することが明らかとなった。
実施 J1 抗菌性〖^aする金属の影饗
実施例 6に示したとおり、塩基性ポリアミノ酸の抗菌性の増強には、ヒスチジンやシス ティンなどのキレート形成性のアミノ酸残基が寄与して ヽる。実施例 10で示したとおり、 ポリアルギニルヒスチジンは金属と錯体を形成する。そこで抗菌性に対する金属の依存 性を調べるために、化学合成ポリアルギニルヒスチジン (アミノ酸残基数 10)を用いて抗 菌性試験を行った。試験方法は、終濃度 10 μ g/mL (6. 6 μ M)のポリアルギニルヒ スチジンを含む Davisの改変合成液体培地中へ各種濃度の硫酸亜鉛水溶液を添加し、 ここへ被検微生物として Escherichia coliIFO3301株を接種、培養した。増殖の評価は 20時間倍養後の 600nmの吸光度を測定して行った。 Davisの改変合成液体培地 1L 中の組成は以下のとおりである: D—グ/レコース, 1 g ; リン酸水素二カリウム, 7 g ; リン酸二水素カリウム, 2 g ; クェン酸三ナトリウム二水和物, 0. 5 g ; 硫酸マグ ネシゥム七水和物, 10 mg ; 硫酸アンモニゥム, 1 g ; カザミノ酸, 100 mg ; 塩 酸チアミン, 2 mg, H 7. 0。結果を図 4に示す。ポリアルギニルヒスチジン 6. 6 μ Μを含有する場合は斜線、ポリアルギニルヒスチジンを含有しなレ、場合を白抜で示され ている。
本試験で用いた条件 (人工的な培地)におレ、ては、亜鉛イオンを全く含まな!/ヽか、終 濃度 1. 65から 3. 3 μ Μの低濃度の範囲では、亜鉛イオンの有無に関わらず抗菌性 は認められない。しかしながら、 6. 6 X Μ以上の亜鉛力存在すると増殖は強く抑制さ れた。対照実験として行ったポリアミノ酸を含まない場合の、同濃度の亜鉛の存在にお ける増殖は全く抑制されないので、亜鉛の毒性の影響はなレヽ。同様の効果は、銅ィォ ンでも観察された。
一方、 前記の実施例 3および 4において、天然物に由来する培地を用いた場合には、 特に亜鉛を添加しなくても抗菌作用が認められた。
これらの結果は、本実施例における実験条件には、何らかの理由でポリアルギニル ヒスチジンの抗菌活性を抑制する阻害物質 (因子)力 S含有されて 、る可能性を示唆して V、る。上記の結果はまた、亜鉛イオンが共存すると、そのような阻害物質の作用にもか かわらず、本発明のポリアミノ酸誘導体が抗菌活性を発揮しうることをも示唆している。 そして、そのような阻害物質の存在下で十分な抗菌活性を得るためには、ポリアルギニ ルヒスチジンと等モル以上の亜鉛イオンを存在させることが有効であることを示している。 さらに、本発明のポリアルギニルヒスチジンを錯体とすると、戦虫では阻害物質の影響
により抗菌活性の低下または喪失力 S懸念される場合でも、錯体の形なら、十分に抗菌 活性を発揮することができることをも示してレヽる。
実施例 1 2 酸性物質およぴ塩基性物質との反応十生
試験方法
アミノ酸残基数 10のポリアルギニルヒスチジン (RH5) を化学合成法によ り作成し、 試験に供した。 そのアミノ酸配列は、 実施例 2 (5) におけるものと 同質である。 酸性物質および塩基性物質との作用性の評価は、 それぞれ酸性色素 である P o l yR— 478および塩基性色素であるメチレンブルーを使用した。 電荷をもった色素を含む寒天平板上に静置した直径 6 mmのろ紙片に、 化学合成 したポリアルギニルヒスチジン 1 m gを含む水溶液 10 μ L·を浸潤させ、 拡散に 伴う色素の変化を観察した。 寒天、 P o l yR— 478、 塩基性色素メチレンブ ルーの濃度はそれぞれ 1. 5%、 0. 02%、 0. 002%であった。 酸性物質 および塩基性物質との作用性の評価試験の結果を図 5に示す。
図 5に示すように、 ポリアルギニノレヒスチジンは、 ろ紙片から寒天平板中に拡 散するのに伴って、 酸性色素 (P o 1 yR-478) を吸着し濃縮する (A) こ とが観察された (矢印、 色素が濃縮され、 周辺より暗く見える) 。 一方、 塩基性 色素に関しては、 これを排斥し、 拡散の前線付近に濃縮する (B) ことが観察さ れた (矢頭、 色素が排斥され、 周辺より明るく見える) 。 これらの結果から、 ポ リアルギニルヒスチジンは酸性物質を吸着し、 逆に塩基性物質と反発する性質を 有することが分かった。
実施例 1 3 ポリアルギニルヒスチジンの生細胞への透過性
ポリアルギニルヒスチジンが細胞に及ぼす影響を調べるために蛍光標識したポリアミ ノ酸の挙動を観察した。実施例 4に準じて、アミノ酸残基数 10のポリアルギニルヒスチジ ンを化学合成法により作成し、さらに N末端の遊離アミノ基を蛍光色素である FAM (ca rboxyfluorescein)によって化学標識した。 Candida boidinii MIP104株のけん濁 液に終濃度 1 μ g/μ Lで添加し、 5分間静置した後、けん濁液中の余剰の標識ポリア ミノ酸を洗浄により除去したうえで、プレパラートを作成した。これを、同軸落射式蛍光 顕微鏡にて通常光および蛍光励起光源下で観察、写真撮影した。対照実験として、蛍 光色素 FAMのみを聘虫で添加した試料も観察した。結果を図 6に示す。図 6における
Aは N末端標識ポリアミノ酸 (FAM— RH5)を酵母 Candida boidinii MIP104株の 細胞けん濁液に添加し、蛍光顕微鏡で観察した結果、 Cは同じ視野を通常光で観察し た結果、 Bは対照実験 FAMのみを同細胞けん濁液に添加し蛍光顕微鏡で観察した結 果、 Dは同じ視野を通常光で観察した結果を示す。
図 6Aに示すとおり、蛍光ラベルしたポリアルギニルヒスチジンは酵母生細胞内へ取り こまれた。一方、図 6Bに示すとおり、蛍光色素だけでは細胞に取り込まれることはなぐ ポリアミノ酸と結合した形においてのみ取り込みが観察された。従って、ポリアルギニル ヒスチジンは、何ら特別の操作を経なくとも、酵母細胞の細胞壁および細胞膜を透過す る能力を有することが確認された。
実施例 1 4 ヒスチジンの光学純度の検定
実施例 2 - ( 3 ) のポリアルギニルヒスチジンの力 D水分解物を、 光学分割カラ ム (ダイセル工業製 CROWNPA CR(+;)、 移動相は pHl. 5の過塩素酸水溶液、 カラム 温度は 4 d°C) を装着した高性能液体クロマトグラフィー装置 (HPLC) にて分析 した。 検出は 200 nmの吸収を測定した。 対照実験としては、 D—ヒスチジン、 L —ヒスチジン、 D—アルギニン、 L—アルギニンの 4種のアミノ酸標準品、 化学 合成した 2種のポリアミノ酸 (N末端 L—Arg- D— His- L— Arg_D—His- L— Arg-D -His- L -Arg-D -His- L -Arg-D -His C末端および N末端 L—Arg- L —His- L— Arg- L—His- L一 Arg- L—His- L— Arg- L—His- L— Arg- L—His C 末端) を 6 N塩酸溶液中で 100 °C、 20時間加熱することにより加水分解した標 準品を、 同じ条件で HPLC分析した。
分析結果を図 7に示す。 図中、 化学合成品、 (LR- LH) 5、 および (LR-DH) 5の構 造はそれぞれ、 [N末端 L—Arg- L— His- L—Arg- L— His- L— Arg- L— His- L -Arg- L -His- L -Arg- L -His C末端]および [N末端 L—Arg- D— His- L— Arg-D -His- L -Arg-D -His- L -Arg-D -His- L -Arg-D—His。末端]である。 図 7に示すように、 E— 1 8株が生産したポリアルギニルヒスチジンを構成す るヒスチジンは、 約 85%が D—体であった。 また、 ァ ギニンは 100 %が L—体 であった。 化学合成品に含まれるヒスチジンは、 加水分解操作に伴うラセミ化に より、 L一体から D—体への変換が約 3. 3 %であり、 D—体から L一体への変換 が約 0. 9 %であった。 従って、 加水分解操作に伴う人為的なラセミ化が、 Ε— 1
8株のポリアルギニルヒスチジンに含有されるヒスチジンの D体と L体の存在比 の数値に与える影響は小さいものであり、 結論として、 約 85 %という光学純度 の高い D—ヒスチジンを製造することができた。
実施例 1 5 D—ヒスチジンを含有するぺプチドの機能性
( 1 ) 抗菌性試験
ポリアルギニルヒスチジンに含有されるヒスチジンの立体異性 (D—体または L—体) と抗菌活性との相関を見るために、 化学合成法により、 すべてのヒスチ ジン残基が D—体であるポリアルギニルヒスチジン (N末端 L— Arg- D— His- L — Arg-D—His- L— Arg-D—His- L— Arg-D—His- L— Arg-D—His C末端) と、 すべてのヒスチジン残基が L一体であるポリアルギニルヒスチジン (N末端 L - Arg- L— His- L— Arg-L— His-L— Arg-L— His- L— Arg- L— His- L— Arg- L— His C末端) を調製し、 上記実施例に記載のヌートリエントブロス (N B ) また はポテトデキストロース培地の液体培地に培養開始時に添加した。 植菌後、 28°C で振とう培養し、 被検微生物の増殖を観察した。 被検微生物には、 緑膿菌 (Pseudoraonas aeruginosa, IF03445N 財団法人発酵研究所より分譲) 、 サルモ ネラ菌 (Salmonella typhiraurium, IF012529、 同) 、 カンジダ酵母 (Candida albicans, IF01385、 同) 、 ノ ン酵母 (Saccharomyces cerevisiae, KK4、 所属 研究機関において保存) を使用した。
結果を表 6に示す。 Ε - 1 8株の生産したポリアルギュルヒスチジンの粗精製 物は、 8〜4 0 /z g/mLの最小増殖阻止濃度で、 被検微生物の増殖を抑制した。 ほ ぼ不純物の混入がないと考えられる化学合成品については、 ヒスチジン残基がす ベて D—体であるポリアルギニルヒスチジンの最小増殖阻止濃度は 5〜10 /x g/mL であり、 全ァミノ酸が L—体であるポリアルギニルヒスチジンに比較して低い最 小増殖阻止濃度を示した。 これらの結果は、 ポリアルギニルヒスチジン中のヒス チジン残基を D—体にすることにより、 抗菌性が強められることを示している。 表 6 ポリアルギニルヒスチジン中に含まれるヒスチジン残基の
立体異性と抗菌活性の関係
一 ポリアルギニルヒスチジン
被検微生物 J の最小増殖阻止濃度 g/mL)
E18株の生産品 化学合成品 化学合成品
(粗精製物) (,.R— ,.H) S
[細菌]
Pseuaomonas
IF03445 N 8 10 く 5 aeruginosa
Salmonella
IF012529 N 20 150 く 5 typhimurium
Saccharomyce
KK4 PD 20 100 く 5 s cerevisiae
Candida
IF01385 PD 40 100 10 albicans
表 6における化学合成品 R- LH) 5およぴ (JR- DH) 5の構造は、 それぞれ N末端 [ L — Arg- L—His- L— Arg- L—His- L— Arg- L—His- L— Arg- L— His- L一 Arg - L -His] C末端、 N末端 [ L—Arg-D—His-L—Arg-D—His- L—Arg-D—His- L — Arg- D—His- L—Arg- D— His] C末端である。 ここで、 Rおよび Hは、 それぞ れアルギニンおよびヒスチジン残基を表す。
( 2 ) ペプチド分解酵素に対する感受性試験
ポリアルギニルヒスチジンに含有されるヒスチジンの立体異性 (D—体または L一体) とペプチド分解酵素に対する感受性との相関を調べた。 D—又は Lーヒ スチジンを含有するポリアルギニルヒスチジンをぺプチド分解酵素の一種であり、 哺乳類消化管にも存在するトリプシンと反応させた後、 分子量の変化を観察した。 具体的な試験方法は以下のとおりである。 E— 1 8株が生産した力 \ 又は化学 合成した 4種のポリアルギニルヒスチジン (① N末端 L -Arg-D -His- L - Arg- D— His- L— Arg- D— His- L— Arg- D— His- L— Arg- D— His C末端;② N 末端 L -Arg- L -His- L -Arg- L -His- L -Arg- L -His- L -Arg- L -His- L — Arg- L— His C末端;③ N末端 L—Arg- D—His- L— Arg- D— His- L— Arg- D -His- L -Arg- L -His- L -Arg-D -His C末端;④ N末端 L— Arg- D— His- L -Arg-D -His- L -Arg- L -His- L -Arg- L -His- L -Arg-D—His C末端) のそれぞれを、 約 100 z gづっ、 200 Lの 100 mM炭酸水素アンモニゥム水溶液 - (pH 7. 8) に懸濁した担体固定型トリプシン (ピアース社製 TPCK-Trypsin, immobilized) と混合し、 強く攪拌しながら 30 °Cで 6時間保温した。 上清 l ^x Lを 9 μ Lの 2, 5-ジヒドロキシ安息香酸水溶液 (10 mg/mL) と混合し、 MALDI/T0F - MS
(マトリクス支援レーザー脱イオン化 Z飛行時間測定質量分析計、 パーセプティ
プ社製、 Voyager DE) にて分子量を測定した。
測定結果を図 8に示す。 図中、 矢印は推定のトリプシンの切断点である。 各チ ヤートの被検物質は以下の通りである。 (A) L -Arg-D -His- L -Arg-D - His- L— Arg- D— His- L— Arg- D— His- L— Arg- D— His、 (B ) L -Arg- L —His- L—Arg- L—His- L—Arg- L—His- L—Arg- L—His- L—Arg- L—His、
(C) L—Arg-D -His- L -Arg-D— His- L -Arg-D -His- L -Arg- L— His- L -Arg-D -His、 (D) L -Arg-D—His- L -Arg-D -His- L -Arg- L - His- L - Arg- L -His- L - Arg-D -His、 (E) 実施例 2で調製した、 E- 18株が 生産するポリアルギニルヒスチジン。
トリプシンはぺプチド鎖の内部に存在するアルギニンまたはリジン残基のカル ボキシ末端側のペプチド結合を特異的に切断する活性を有する。 一般に、 この種 の酵素は基質に対して立体選択性があり、 切断点をはさむ 2つのアミノ酸がとも に L—体であることが必要とされている。 そこで、 化学合成した 4種のポリアル ギニノレヒスチジンの、 トリプシンによる分解物の分子量を分析することにより、 立体選択性の確認を試みた。
その結果、 (A) に示すとおり、 すべてのヒスチジン残基が D—体であるポリ アルギエルヒスチジンはトリプシンによる分解を受けなかった。 一方、 (B ) に 示すとおり、 すべてのヒスチジン残基が L—体であるポリアルギニルヒスチジン はトリプシンによる分解を受けて、 ジペプチド (L— His- L— Arg、 分子量約 314) およびトリペプチド (L— Arg- L— His- L— Argまたは L— His- L— Arg- L
-His, 分子量約 451) を生じた。 また、 (C) に示すとおり、 第 8残基のヒスチ ジンのみが L一体であるポリアルギニルヒスチジンはトリプシンによる分解を受 けて、 トリペプチド (L— His- L— Arg-D— His、 分子量約 451) およびへプタぺ プチド ( L -Arg-D -His- L -Arg-D -His- L -Arg-D -His- L一 Arg、 分子量 約 1, 056) を生じた。 さらに、 (D) に示すとおり、 第 6およぴ第 8残基のヒスチ ジンのみが L—体であるポリアルギニルヒスチジンはトリプシンによる分解を受 けて、 ジペプチド (L— His- L—Arg、 分子量約 314) 、 トリペプチド (L一 His- L -Arg-D -His, 分子量約 451) 、 ペンタペプチド (L—Arg-D— His- L— Arg - D -His-L -Arg, 分子量約 763) を生じた。 以上を総合すると、 トリプシンが基
質として攻撃するのは、 切断点をはさむ 2つのアミノ酸、 ここではアルギニンと ヒスチジンが、 ともに L一体である場合に限られることが明らかである。 すなわ ち、 D—ヒスチジンを含有するポリアルギニルヒスチジンは、 L—体ヒスチジン を含有するポリアルギニルヒスチジンと比較して、 トリプシンによる分解を受け にくいことが証明された。
( E) に示すとおり、 E— 1 8株が生産したポリアルギニルヒスチジンは、 上 記 (A) の場合と同様、 トリプシンによる分解を受けず、 分子量はトリプシン処 理する前の分子量と変化はなく、 約 1, 487のままであった。 この結果は、 E— 1 8株が生産したポリアルギ-ルヒスチジンの、 少なくとも第 4、 第 6、 第 8残基 が D—体であることを示している。 従って、 E— 1 8株により産生されるポリア ルギニノレヒスチジンは、 D—ヒスチジンを含んでおり、 L一体ヒスチジンを含む ポリァノレギニルヒスチジンと比較して、 トリプシンによる分解を受けにくいこと が分かった。 産業上の利用の可能性
本発明のポリアミノ酸誘導体は生分解性の機能性ポリマーであり、 優れた抗菌 活性、 金属との結合活性、 酸性物質との結合活性や塩基'性物質に対する反発作用 を示すことから、 抗菌剤、 金属吸着剤、 酸性物質の運搬媒体等として広範な用途 を有する。 し力も、 本発明のポリアミノ酸誘導体は微生物発酵により容易に製造 することができ、 安全に効率よく製造しうることから、 環境に悪影響を与えるこ となく、 製造、 使用することができる。
また、 本発明のポリアミノ酸誘導体が D-アミノ酸を含有する場合、 培地組成 物から D—ァミノ酸を極めて効率よく、 高い光学純度で製造することができる。 特に、 ェピクロエ キビェンシス (Epichloe kibiensis) E— 1 8株 (F E RM P— 1 8 9 2 3は、 D—ヒスチジンを含むポリアミノ酸を産生するので、 低い製 造コストで容易に、 しかも環境に影響を及ぼし得る薬品や廃棄物の量を可能な限 り少なくして医薬や化粧品の分野で有用な D―ヒスチジンを大量に供給すること が可能となる。