JP4504810B2 - 微生物由来のポリアミノ酸またはその誘導体 - Google Patents
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Description
従来、塩基性ポリアミノ酸であるポリリジンや白子タンパク(プロタミン)(Bioindustry,Vol.19,No.3(2002),64−73頁)、バクテリオシンの1種であるナイシン(特開平5−146282、化学と生物Vol 38,No.7,(2000)439−446)等は抗菌活性を有しており、食品等の腐敗防止に有用であることが示唆されている。また、ストレプトマイセス属の菌株が生産する低分子ε−ポリ−L−リジンを食品添加物として利用し得ることが開示されている(特許公開2000−17159、2000−69988)。しかしながら、これらのポリアミノ酸類の抗菌作用は必ずしも十分とは言えない。
また、金属との親和性が高いポリアミノ酸(含硫ペプチド)であるファイトケラチンを用いて、環境中の重金属を回収したり、重金属の濃度を測定する方法(特開平11−174054)や、ポリペプチドの金属錯体を医療用造影剤組成物として利用する方法(特開平7−224050)が開示されている。しかしながら、例えば、ファイトケラチンは自動酸化され易いシステインを含むため変質しやすいという問題がある。
さらに、塩基性ポリアミノ酸であるポリリジンやポリアルギニンを、酸性物質であるポリヌクレオチド(DNAやRNA)と複合体を形成させ、これらを動物培養細胞への遺伝子の輸送や、遺伝子治療における遺伝子の運搬体として用いる方法が開示されている(例えば、特開平9−308484)。また、アルギニンリッチなペプチドが細胞内へ輸送されることが報告されている(J.Biol.Chemistry(2001)276巻、5836−5840)。この目的をよりよく達成するためには、より多様な種類のポリアミノ酸を提供し、それぞれの特性に応じて機能を有効利用することが望ましい。しかし、従来の単一アミノ酸から成るホモポリマーの場合はアミノ酸組成と機能との関係が十分に解明されていないこともあり、複数種類のアミノ酸で構成されるポリアミノ酸を開発する必要がある。
また、生物体を構成するタンパク質はほぼ例外なく、分子の絶対配置がL系列に属するα−アミノ酸(以下、L−アミノ酸という)からできている。一方、アミノ酸の重合体という、より広い範疇で考えると、細菌細胞壁に存在するペプチドグリカン層や納豆菌の粘糸などに、L−アミノ酸の鏡像異性体であるD−アミノ酸が存在する。また、ポリミキシンに代表されるペプチド性抗生物質においては、D−アミノ酸はその構成要素として重要な機能を果たすと考えられている。例えば、一般に受け入れられている説として、D−アミノ酸を含有することにより、生物界に普遍的に分布するペプチダーゼ(ペプチド分解酵素)に対する抵抗性が生じる。すなわち、D−アミノ酸を含有するペプチドは、分解されて機能を喪失するまでの時間がL−アミノ酸を含有するペプチドよりも長く、生物学的に有利であると考えられる。
D−アミノ酸は化学合成により製造できるが、反応に用いる試薬や溶媒、廃棄物等による環境汚染のリスクが高いという問題点がある。また、一般に複雑な技術を要し、製造コストが高い。しかも、化成品の光学純度は、化学量論的支配を受け、D−体とL−体の存在比は通常1対1であるために、分割処理が必要である。D体とL体を分離する光学分割は、特定物質に対する両者の親和性の差を利用したクロマトグラフィーなどにより行えるが、操作が煩雑であることや生成物の収率が低い等の問題があり、工業規模の大量生産には不適当である。
そこで、微生物を用いるアミノ酸の光学分割が提案されている。例えば、培養液にD−体とL−体のアミノ酸混合物を添加し、微生物がL−体のみを特異的に消費する性質を利用して、残留するD−体を回収する方法がある(特開平10−080297、特開平10−286098)。この場合、原料として、化学合成したD体、L体の混合物が必要である。
また、微生物を用いて、生合成の段階から専らD体を製造する方法もある。例えば、化学的に合成された前駆体となる物質、N−置換カルボニル−D,L−アミノ酸(特開平06−22789)やN−アシル化アミノ酸(特開平11−113592)など、を培養系に導入し、D−体に特異的な酵素作用により、反応生成物であるD−体を回収する方法がある。この場合も原料として、化学合成した前駆体が必要である。
各種アミノ酸のうち、ヒスチジンは、解離性の官能基であるイミダゾール環を有する。そのpKa値は6.0であり、生理的pH値に近いことから、解離・非解離の状態変化が酵素反応をはじめ、生体内のさまざまな化学反応に関与している。同様な原理で、ヒスチジンまたはこれを含むペプチド、誘導体は、生理活性を有する場合が多々あり、ヒスチジンの医薬品、化粧品等における応用価値は非常に大きい。特に、D−ヒスチジンは上記のD−アミノ酸に関して一般的に述べたように、医薬品、農薬品、化粧品、食品添加物等原料等に導入すると、酵素作用による変性、分解の抑制、光学活性に起因する新たな機能性の付与などの効果が期待できる。従って、D−ヒスチジンを効率良く製造する方法の開発が強く望まれる。
D−ヒスチジンに対する広範な需要に応えるためには、安全で効率が良く、工業生産にも適用できる生産方法の開発が必要であるが、上記のごとく、化学合成による方法は、製造コストや環境への影響等の面か必ずしも適切でない。従って微生物発酵による製造法が望ましい。しかしながら、微生物発酵によるD−ヒスチジンの製造法は未だ知られていない。
このように、ポリアミノ酸は様々な機能を発揮しうると同時に、環境上極めて好ましい物質であることから、優れた機能を有する新規なポリアミノ酸誘導体の開発が強く求められている。上記のごとく、現在利用されているポリアミノ酸の多くが、1種類のアミノ酸で構成されるホモポリマーであるが、二種またはそれ以上のアミノ酸を組み合わせることにより、さらに優れた特性(抗菌活性等)を有するポリマーを得ることができると考えられる。しかしながら、無数のアミノ酸の組合せの中から所望の活性を有し、しかも安全に効率よく製造しうるポリアミノ酸を選択し、提供することは極めて困難である。
また、製造方法に関しても、ポリアミノ酸の化学合成は、高価な合成試薬を必要とし高コストであるばかりか、使用する試薬中には有害な薬品も含まれることから廃棄処理に困難を伴うことが多いという問題点を有する。さらに、遺伝子組換え法による生産も可能であるが、生産物の抗菌性が宿主に悪影響を与える、抽出法が煩雑である、等の問題があり必ずしも効率の良い方法ではない。
さらに、D−ヒスチジンを初めとするD−アミノ酸に関しても、安全で効率が良く、工業生産にも適用できる生産方法が求めれているが、そのような方法は未だ知られていない。
従って、機能性ポリマーとして有用なポリアミノ酸やD−アミノ酸を広範に利用するためにも、効率よく安全な製造方法の開発が必須である。
本発明はまた、そのようなポリアミノ酸、およびその誘導体の安全かつ容易な製造方法を提供することを目的としている。
本発明はまた、安全性および製造効率に優れ、製造コストが低く、大量生産にも適用可能なD−アミノ酸、特にD−ヒスチジンの新規な製造方法を提供することをも目的としている。
本発明はまた、ポリアミノ酸誘導体、D−アミノ酸等の利用をも目的としている。
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、子嚢菌門核菌類バッカクキン科(Clavicipitaceae)の微生物が産生する、2種のアミノ酸(その少なくとも一方は塩基性アミノ酸である)からなるポリアミノ酸に高い抗菌活性があること、さらに、該ポリアミノ酸の中には、アミノ酸としてD−ヒスチジンを含むものがあることをも見出し、本願発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1) 少なくとも一種類の塩基性アミノ酸を含む2〜10種類のアミノ酸からなるポリアミノ酸またはその誘導体、
(2) 一般式(I):
[式中、Xは、下記の1)および2):
1)アルギニン、リジン、オルニチン、シトルリン、ホモシトルリン、ホモアルギニン、カナバニンおよび2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸
2)ヒスチジン、システイン、ホモシステイン、トリプトファンおよびチロシンのいずれか一方の群から選択されるアミノ酸残基を表し、Yは他方の群から選択されるアミノ酸残基を表し、R1は水素原子、糖残基、アシル基、ビオチニル基、チオール基、フェノール基、インドール基、または前記Yと同一のアミノ酸残基を表し、R2は水酸基、糖残基、アシル基、ビオチニル基、チオール基、フェノール基、インドール基または前記Xと同一のアミノ酸残基を表し、nは2以上の整数を表す]
で示される、(1)に記載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(3) Xがアルギニンまたはリジン残基であってYがヒスチジンまたはシステイン残基である、(2)に記載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(4) Xがアルギニン残基であってYがヒスチジン残基である、(3)に記載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(5) nが2〜50の整数である、(2)〜(4)のいずれかに記載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(6) R1が水素原子でありR2が水酸基である、(2)〜(5)のいずれかに記載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(7) 銅、亜鉛、銀、ガドリニウム、マグネシウム、マンガン、コバルトおよびニッケルから選択される金属との錯体である、(1)〜(6)のいずれかに記載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(8) D−アミノ酸残基を含む、(1)〜(7)のいずれかに記載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(9) D−アミノ酸残基がD−ヒスチジン残基である、(8)に記載のポリアミノ酸またはその誘導体、
(10) (1)〜(9)のいずれかに記載のポリアミノ酸またはその誘導体を有効成分として含有する組成物、
(11) 抗菌性の組成物である、(10)に記載の組成物、
(12) 金属結合性の組成物である、(10)に記載の組成物、
(13) 酸性物質を吸着し、塩基性物質を排斥するための組成物である、(10)に記載の組成物、
(14) 物質を有効成分と化学結合した状態で、または混合した形で、細胞内へ輸送するための組成物である、(10)に記載の組成物、
(15) (1)〜(9)のいずれかに記載のポリアミノ酸を生産するエピクロエ(Epichloe)属の菌株、
(16) エピクロエ キビエンシス(Epichloe kibiensis)E18株(FERM P−18923)またはそのポリアミノ酸生産能を有する変異体である、(15)に記載の微生物、
(17) (15)または(16)に記載の微生物を培養し、培地からポリアミノ酸を回収し、所望によりその遊離官能基を化学修飾し、および/または金属錯体を形成させるか、塩化することを特徴とする、(1)〜(9)のいずれかに記載のポリアミノ酸またはその誘導体の製造方法、
(18) (8)または(9)に記載のポリアミノ酸の産生能を有する微生物を適当な培地で培養し、培地から分離した培養液、菌体または菌体破砕物からD−アミノ酸を回収するか、必要に応じてペプチド誘導体を加水分解した後、D−アミノ酸を回収することからなる、D−アミノ酸の製造方法、
(19) 微生物がエピクロエ キビエンシス(Epichloe kibiensis)E−18株(FERM P−18923)またはそのD−アミノ酸生合成能を有する変異株である(18)に記載の方法、および
(20) (18)または(19)に記載の方法で製造されたD−アミノ酸、などに関する。
図2は、実施例2(1)、(2)で精製したE−18株が生産するポリアミノ酸の、飛行時間型質量分析計(パーセプティブ社製、モデルVoyager DE)を用いる、MALDI−TOF Mass法による分子量測定の結果を示す図である。
図3は、アミノ酸残基数10の合成ポリアルギニルヒスチジンと、亜鉛イオンとの混合物を、飛行時間型質量分析計(パーセプティブ社製、モデルVoyager DE)を用いる、MALDI−TOF Mass法により分子量測定に供した結果を示す図である。
図4は、ポリアルギニルヒスチジンの存在下、Davisの改変合成液体培地中でのEscherichia coliIFO3301株の増殖に対する、種々の濃度の亜鉛イオンの影響を示すグラフである。
図5は、アミノ酸残基数10の合成ポリアルギニルヒスチジンを、酸性色素PolyR−478(A)または塩基性色素メチレンブルー(B)を含む寒天平板に浸潤させ、その拡散に伴う色素の変化を観察した写真の模写図である。
図6は、アミノ酸残基数10のポリアルギニルヒスチジンのN末端に結合した蛍光色素FAM(A,C)、またはFAM単独(B,D)の、Candida boidinii MIP104株への取り込みを、蛍光顕微鏡下(A,B)および通常光下(C,D)で顕微鏡的に観察した結果の模写図である。
図7は、実施例2(2)で調製したE−18株が生産するポリアルギニルヒスチジン(LR−DH)nを光学分割カラムを備えた高性能液体クロマトグラフィーにより解析した結果を示すチャートである。
図8は、実施例15(2)に記載のトリプシン処理した各種のポリアルギニルヒスチジンをMALDI/TOF−MSにより解析した結果を示すチャートである。矢印は推定のトリプシンの切断点を示す。
本発明の「ポリアミノ酸またはその誘導体」とは、アミノ酸がペプチド結合で連結されてなるポリアミノ酸と、その遊離官能基における化学修飾誘導体、またはそれらの金属錯体または塩を意味する。本明細書中、「ポリアミノ酸またはその誘導体」を、単に「ポリアミノ酸誘導体」と呼称する。本発明のポリアミノ酸誘導体は、少なくとも1つの塩基性アミノ酸をペプチドの構成単位として含有している。また、本発明のポリアミノ酸誘導体には、少なくとも一種のアミノ酸がD−体であるポリアミノ酸誘導体を包含する。
本発明に用いる「塩基性アミノ酸」は、本発明の目的を達成する上で十分な塩基性があることを条件として、特に限定されない。例えば、アルギニン、リジン、オルニチン、シトルリン、ホモシトルリン、ホモアルギニン、カナバニンおよび2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸を使用することができる。本発明のポリアミノ酸を抗菌性物質として用いる場合は、塩基性の強いアミノ酸がより好ましく、特にアルギニン、リジンが好ましい。
本発明のポリアミノ酸誘導体は、塩基性アミノ酸と、適当な他の1〜9種類のアミノ酸とがペプチド結合で連結された基本構造を有する。
塩基性アミノ酸と一緒に本発明のポリアミノ酸誘導体に含有させるアミノ酸は、既知のアミノ酸の中から適宜選択できるが、本発明の目的にはキレート形成能の高いアミノ酸が好ましく、ヒスチジン、システイン、ホモシステイン、トリプトファンおよびチロシン等を用いることができる。中でも、ヒスチジンおよびシステインが好ましい。アミノ酸はL−体またはD−体のいずれでもよい。
本発明のポリアミノ酸誘導体における、アミノ酸2種類からなるポリアミノ酸の例として、式(I):
[式中、Xは、下記の1)および2):
1)アルギニン、リジン、オルニチン、シトルリン、ホモシトルリン、ホモアルギニン、カナバニンおよび2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸
2)ヒスチジン、システイン、ホモシステイン、トリプトファンおよびチロシンのいずれか一方の群から選択されるアミノ酸残基を表し、Yは他方の群から選択されるアミノ酸残基を表し、R1は水素原子、糖残基、アシル基、ビオチニル基、チオール基、フェノール基、インドール基、または前記Yと同一のアミノ酸残基を表し、R2は水酸基、糖残基、アシル基、ビオチニル基、、チオール基、フェノール基、インドール基または前記Xと同一のアミノ酸残基を表し、nは2以上の整数を表す]
で示されるポリアミノ酸およびその誘導体を挙げることができる。
上記式(I)において、Xがアルギニンまたはリジンであり、Yがヒスチジンまたはシステインであるか、Xがヒスチジンまたはシステインであり、Yがアルギニンまたはリジンであるポリアミノ酸がより好ましく、XおよびYのいずれか一方がアルギニンであり、他方がヒスチジンであるポリアミノ酸が特に好ましい。さらに、nが2〜50の整数であることが好ましく、R1が水素原子でありR2が水酸基であることがとりわけ好ましい。
また、いずれかのアミノ酸がD−アミノ酸であることが好ましく、特にヒスチジンがD−ヒスチジンであることが好ましい。
本発明のポリアミノ酸誘導体のペプチド鎖の長さは任意であり、目的に応じて選択されるが、通常、アミノ酸数は3以上である。好ましくは5〜100の範囲、より好ましくは5〜50、さらに好ましくは6〜20、最も好ましくは6〜12である。
<ポリアミノ酸誘導体の製造>
本発明のポリアミノ酸誘導体は、当該技術分野で既知の化学合成法、生化学的な方法、微生物発酵等により製造することができる。生化学的な方法は、ポリアミノ酸をコードするDNAまたはRNAの遺伝情報を鋳型として、生物に備わる転写、翻訳系の機能により、細胞内あるいは人工的反応液内で遺伝子工学的に製造することにより行うことができる。特に好ましい方法は通常の微生物発酵法である。本発明のポリアミノ酸誘導体は、遊離の形でも活性を有するが、抗菌活性が増強されたり、また安定性や水溶性の改善のために、適当な酸や塩基の塩や金属錯体にすることもできる。そのような塩や錯体は当該技術分野で既知の方法に従って製造することができる。
微生物発酵によるポリアミノ酸、D−アミノ酸の製造
微生物発酵によって本発明のポリアミノ酸またはD−アミノ酸を製造するためには、まず、目的のポリアミノ酸を産生する微生物を特定する必要がある。そのような微生物のスクリーニング法は当該技術分野で既知である[西川等(Nishikawa,M.et al.),Applied And Environmental Microbiology,(米国),vol68,No.7,p3375−3581]。例えば菌体外に塩基性ポリアミノ酸を分泌する、塩基性ポリアミノ酸生産性の微生物を選抜するには、微生物を含むサンプル(例えば土壌試料)を適当な組成の寒天平板培地上にて、個々の微生物集落に展開する。この寒天平板にあらかじめ酸性色素または塩基性色素を添加しておき、塩基性ポリアミノ酸の分泌を、酸性色素との結合、または塩基性色素に対する反発作用に基づいて検出する。
さらに、キレート形成能を有する優れた多座配位子であるポリアミノ酸誘導体を生産する微生物は、例えば、以下の方法でスクリーニングすることができる。菌体外にキレート形成性(金属配位性)のポリアミノ酸を分泌する微生物の選抜には、微生物を含む土壌試料を適当な組成の寒天平板培地上にて、個々の微生物集落に展開する。寒天平板にはあらかじめ微生物にとって有害な毒性金属、例えば銀、銅、亜鉛、ニッケル、コバルト、カドミウム、水銀、などを適当な濃度にて、添加しておく。キレート形成性ポリアミノ酸の分泌は、その金属への配位性に基づいて、該ポリアミノ酸が有害金属を捕捉、抱合する事により毒性が中和または緩和され、他のポリアミノ酸非生産微生物との間で増殖に差が認められることにより検出される。
塩基性ならびにキレート形成性を示すポリアミノ酸を生産する微生物は、上述の方法により、塩基性およびキレート形成性の二つの特性を、単独でまたは同時に試験することで選抜することができる。
本発明の好ましい態様では、本発明のポリアミノ酸誘導体を、エピクロエ属の菌株を用いて微生物学的に製造する。好ましい微生物はエピクロエ キビエンシス(Epichloe kibiensis)E18株(FERM P−18923)またはその変異体である。
エピクロエ キビエンシスE18株(以下、「E18株」と略称する)は、実施例に記載の方法により本発明者らが林地土壌中から、新たに分離した菌株であり、その菌学的性状は次のとおりである。
A.培地上の生育状況
E18株を、ポテトデキストロース培地(PDA)、オートミール培地(OA)、および2%麦芽培地(MEA)の各寒天平板上において、25℃にて培養すると、菌糸は綿毛状で白色を呈する。生育はやや遅い。分生子の形成は少なく、分生子によるコロニー色調の変化は観察されない。可溶性色素の産生は認められない。
B.胞子の形成
光学顕微鏡下ではフィアロ型の分生子構造が確認される。分生子柄は多少直立し、気中菌糸より単生ないしは2から4個のフィアライドを輪生する。分生子は1細胞性で表面は平滑である。形は卵円形、涙形、楕円形、長円形など多様である。分生子は粘性を示し、塊状に集まる。培養8週間経過後においても三日月型の大型分生子や厚膜胞子の形成は観察されない。
C.生理学的性質
ポリアルギニルヒスチジンを生産する。
D.資化可能な炭素源
グリセロール、D−グルコース、D−ガラクトース、D−キシロースを利用しうる。
上記の菌学的性質を有する本菌株の分類学上の位置を、28sリボソームRNA分子の塩基配列の種間比較に基づく分子生物学的手法と併せて検討した結果、エピクロエに属する新菌株である事が判明し、これをEpichloe kibiensis E18株と命名した。本菌株は、茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている(微生物の表示:Epichloe kibiensis E18、受領日:平成14年7月5日;受託番号FERM P−18923)(国際寄託への変更日:平成15年4月11日;受託番号:FERM BP−8358)。
E18株を親株として、変異体誘導や組換え遺伝子技術などにより、ポリアルギニルヒスチジンの生産性を高めたり、アミノ酸の組成が変更されたポリアミノ酸を産生する、派生菌株を得ることができる。そのような変異株も本発明の範囲内である。派生菌株は、人為的に突然変異を誘発されたものや、スクリーニングで得られたもの等を包含する。
E18株は塩基性ポリアミノ酸の示す抗菌作用に耐性であるので、任意の配列を持つ塩基性ポリアミノ酸、ペプチド、タンパク質の加工、製造に利用できる。例えば、▲1▼後述の実施例に記載のポリアルギニルヒスチジンの遺伝子を改変、加工してE18株を形質転換する、あるいは▲2▼適当なポリアミノ酸をコードするDNAを発現プロモーター下に、適当なベクター内で連結し、得られた発現ベクターでE18株を形質転換する、等の方法が可能である。
本発明のポリアミノ酸を生産する微生物、例えば、エピクロエ キビエンシス E18株などの培養は、微生物の性質に応じて適宜選択され、市販品から入手可能であるか、当業者既知の方法で調製することができる。液体状または固体状の適当な組成で構成される完全培地、合成培地、半合成培地を用いることができるが、操作の容易性等から液体培地が適する。培地は、一般的な成分として、炭素源、窒素源、無機塩及びその他の栄養物が含まれていれば、いかなるものでもよい。炭素源としてはグルコース、ガラクトース、フラクトース、グリセロール、スターチ等が挙げられ、その含有量は0.1〜10%(w/v)が好ましい。窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、カゼイン加水分解物、アミノ酸等の有機化合物や、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウムなどの無機アンモニウム塩等が挙げられ、その含有量は0.1〜5%(w/v)が好ましい。所望により、培地に他の栄養源(例えば無機塩類、例えば、リン酸イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、硫酸イオン等を与えるもの)、ビタミン類(例えばビタミンB1)、抗生物質(例えばアンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン等))を加えてもよい。
培養は、好気的条件下で振盪培養、攪拌培養等により行うことができる。培養温度は約25〜40℃であり、培地のpHは2.0〜8.0、好ましくはpH3.0〜8.0、より好ましくはpH約5.0である。培養期間は、通常、1日〜14日間であるが、それ以上の期間、培養を続けることができる。
E18株を親株として誘導される上記の派生菌株(変異株)も同様に培養することができる。
生産されたポリアミノ酸が培養液中に分泌されている場合、培養物をろ過又は遠心分離して粗生成物を単離する。生成されたポリアミノ酸の精製は、回収した培養液上清から、天然又は合成のアミノ酸やタンパク質の精製、単離に用いられる当該技術分野で既知の方法(例えば、イオン交換樹脂処理法、活性炭吸着処理法、有機溶媒沈澱法、減圧濃縮法、凍結乾燥法、結晶化法等)を適宜組み合わせて実施することができる。生産されたポリアミノ酸が培養微生物のペリプラズム及び細胞質中に存在するときは、ろ過や遠心分離によって細胞を集め、それらの細胞壁及び/又は細胞膜を、たとえば超音波及び/又はリゾチーム処理によって破壊して、デブリス(細胞破砕物)を得る。このデブリスを適当な水溶液(例えば緩衝液)に溶解させ、上記の方法に準じて生成物を単離、精製することができる。
D−アミノ酸の製造
微生物により産生されるポリアミノ酸がD−アミノ酸を含んでいる場合、必要に応じて、化学的、酵素的な方法で加水分解し、D−アミノ酸を単離する。加水分解は、当該技術分野で既知の方法により行うことができ、例えば、塩酸、硫酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、エンドペプチダーゼなどのプロテアーゼを用いて実施することができる。
酸加水分解は、例えば6N塩酸により、約100℃で約20時間加熱すればよい。
加水分解産物からのD−アミノ酸モノマーの単離精製は上記した培養物からの単離、精製法に準じて行うことができ、例えば、クロマトグラフィー、分別晶析、酵素処理等が例示される。
E−18株により産生されるポリアミノ酸の特性
上記の方法でE18株等を培養すると、ポリアミノ酸として、ポリアルギニルヒスチジンが生成される。このポリアルギニルヒスチジンの物理化学的性質は以下のとおりである。
(a)6N塩酸溶液による加水分解処理により、アルギニンおよびヒスチジンのみが生成する。
(b)ポリアルギニルヒスチジンおよびその加水分解物は坂口反応およびパウリ反応に陽性である。
(c)モノマー間の結合様式はα位カルボキシル基とα位アミノ基間のペプチド結合である。
(d)自動エドマン分解法により決定されるアミノ酸配列は、N末端をアルギニンとするアルギニンとヒスチジンの交互の繰り返しである。
(e)MALDI−TOF Mass(マトリックス支援脱離イオン化−飛行時間測定)法による分子量測定では、分子量が約1,486である分子が主成分である。この他にも、約293の規則的な分子量の差をもった、異なる分子の混成物である。
(f)生成したヒスチジンは薄層クロマトグラフィーにおいて、ヒスチジン標準品と同一のRf値(0.19)を示し、ニンヒドリン反応、パウリ反応に陽性である。
(g)生成したヒスチジンの光学純度は、光学分割カラムによるクロマトグラフィー分析により、約85%がD−体である。
従って、本発明は、本発明のポリアミノ酸誘導体を生産するエピクロエ(Epichloe)属の菌株を提供するものである。
好ましくは、エピクロエ キビエンシス(Epichloe kibiensis)E18株(FERM P−18923)またはそのポリアミノ酸誘導体生産能を有する変異体である。
さらに、本発明は、本発明の菌株を培地中で培養し、培養液からポリアミノ酸誘導体を回収することを特徴とする、ポリアミノ酸誘導体の製造法(以下、本発明製造法ともいう)を提供する。本発明菌株は、好ましくはエピクロエ キビエンシス(Epichloe kibiensis)E18株(FERM P−18923)であり、ポリアミノ酸誘導体はポリアルギニルヒスチジンである。
本発明はまたD−アミノ酸の微生物発酵による製造方法であって、D−アミノ酸を含むポリアミノ酸誘導体の産生能を有する微生物を適当な培地で培養し、培地から分離した培養液、菌体または菌体破砕物からD−アミノ酸を回収するか、必要に応じてペプチド誘導体を加水分解した後、D−アミノ酸を回収することからなる、D−アミノ酸の製造方法、およびそのようにして製造されたD−アミノ酸を提供するものである。
E−18株の変異株は、E−18株の細胞を変異誘発処理することによって得られる変異株やE−18株の自然突然変異株を、ポリアルギニルヒスチジンを生産する性質などを指標としてスクリーニングすることによって得られる。変異誘発処理としては、紫外線照射やN−メチル−N−ニトロ−N’−ニトロソグアニジンなどの変異誘発物質による処理が挙げられる。ポリアルギニルヒスチジンを生産する性質などを指標とするスクリーニングは、例えば、後記実施例1に記載された方法によって行うことができる。
化学合成による製造および誘導体化
本発明のポリアミノ酸(例えばポリアルギニルヒスチジン)はペプチド合成法により化学合成によっても製造できる。化学合成に際しては、例えばポリアルギニルヒスチジンのアルギニン残基をホモアルギニン、リジン、オルニチン、シトルリンなど他の塩基性アミノ酸と置換し、および/または、ヒスチジンをシステイン、トリプトファン、チロシンなどと置換できる。
誘導体化に際しては、塩基性ポリアミノ酸中の塩基性官能基を有機または無機の酸との塩とすることができる。例えば、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸もしくは酢酸、プロピオン酸、フマル酸、リンゴ酸などの有機酸の塩の形で用いることができる。
また、当該技術分野で既知の方法で、適当な金属元素との錯体とすることができる。そのような金属原子の例として、マグネシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛を挙げることができる。
さらに、ポリアミノ酸残基中の遊離した官能基には各種の化学修飾、例えばアシル化等を行うことが可能である。これらの製造方法および誘導体化の方法は当該技術分野で既知である。
ポリアルギニルヒスチジン中のアルギニン残基に側鎖として遊離するグアニジノ基をアルカリ加水分解することで、オルニチンに変更できる。アルギニンとオルニチンは、それぞれのグアニジノ基およびアミノ基の解離定数が異なるため、アルギニンとオルニチンの構成比を適宜調節して、用途目的に最適な電解性官能基の解離定数(pKa)を持ったポリアミノ酸を製造することができる。
ポリアミノ酸誘導体の用途
本発明のポリアミノ酸誘導体は、後述の実施例に示すように、高い抗菌活性を有しており(実施例3,4)、しかも既存のホモポリマーに比較して顕著に高い抗菌活性を有することが明らかになった(実施例8)。また、金属との結合性(実施例10)、酸性物質の吸着活性(実施例12)、生細胞への透過性(実施例13)など、種々の機能を有する機能性分子であることが判明した。さらに、本発明のポリアミノ酸の抗菌活性は錯体形成により増強されることを示唆することが確認された(実施例11)。従って、本発明のポリアミノ酸誘導体は生分解性の機能性ポリマーであり、広範な用途を有する。以下に示す用途には、ポリアミノ酸誘導体を単独で、または組成物としておよび/または他の成分と併用して使用することができる。ポリアミノ酸誘導体を含有する組成物は、当該技術分野で既知の方法で、適当な担体、賦形剤、希釈剤等と共に溶液、懸濁液、固形等の様々な形に調製することができる。本発明のポリアミノ酸は他の有効成分と併用することができ、そのような目的には予め一組成物中に共存させても良く、使用時に混合、併用してもよい。
本発明のポリアミノ酸誘導体の主な用途は、その抗菌活性、金属結合活性、酸性物質との結合または吸着活性等の各機能に関連する。例えば、抗菌素材、金属結合素材、酸性物質吸着作用に基づく塩基性物質の排斥用素材、または物質と化学結合した状態で、または混合した形で、該物質を細胞内へ輸送するための素材として使用しうる。ここで「素材」とは、それ自体が例えば抗菌性組成物として有用であるのみならず、各種製品の製造原料として機能することを意味する。以下にこれらを詳細に説明する。
1)抗菌性物質としての利用
本発明のポリアミノ酸誘導体は、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌抗菌性、酵母菌、糸状真菌に対して増殖抑制効果を有する。この効果は金属錯体の形で特に優れている。
従って、本発明のポリアミノ酸誘導体は、抗菌性物質として食品や飼料の保存(食品添加物)、食品や飼料の日持ち性向上(食品添加物)、食品保存性を改善する食品容器の成分、冷蔵氷の食品保存性増強、発酵産業における微生物の制御、生簀や水槽の水質劣化防止、人、畜、魚類に投与する抗生物質(医薬品類)、無菌であることが求められる医療器具の保存剤、コンタクトレンズの保存剤、歯科補綴具の保存、抗菌効果を付した医療用繊維、化粧品や医薬部外品の品質保持、搾乳房の汚染管理、花卉の日持ち性向上、植物の根腐れ防止、植物種子の発芽管理、無菌栽培における微生物制御、有用微生物と不要微生物を分離するための選抜法、などに利用できる。
上記の抗菌活性に係る本発明のポリアミノ酸誘導体の使用形態は、特に限定されないが、本発明のポリアミノ酸誘導体の抗菌活性を最終目的物中に混合または練りこむ、表面に散布する、あるいは目的物の収容容器、包装材料等に含有させるか塗布する等の方法をとることができる。実施に際しては、当該技術分野で同様の目的で使用される方法に準じて行えばよい。そのような使用例は、例えば、特許1537297、特開平5−146282、特開平8−175901、特開平9−124422、特開平9−10288、特開平10−109906、特開平10−279794、特開2000−189129等に記載されており、当業者に既知である。
2)金属結合能を有する物質、または金属錯体としての利用
本発明のポリアミノ酸誘導体は金属錯体形成能を有することから、上記の抗菌性物質としての利用に加えて、有用金属の吸着、濃縮、金属定量用試薬として利用できる。さらには、重金属錯体として医療用造影剤にも利用可能である。さらには、放射性金属の吸着、濃縮、放射性金属の生体からの排出促進、生物に重金属耐性を付与するための細胞内含有物または細胞外分泌物(細胞内で生産後、細胞内部に蓄積されるか細胞外に分泌されることによる)、インク(顔料)の成分、金属含有医薬品の成分、ならびに家畜や魚類への金属投与用組成物または飼料の成分、生体必須金属の摂取源(健康食品)等に利用できる。
上記の金属結合活性に係る本発明のポリアミノ酸誘導体の使用形態は、特に限定されず、当該技術分野で同様の目的で使用される方法に準じて選択することができる。そのような使用例は、例えば、特開平7−224050、特許出願平11−174054等に記載されており、当業者に既知である。
本発明のポリアミノ酸誘導体が錯体を形成している場合、金属イオンとしては、目的に応じて適宜選択される、特に限定されないが、例えば、食品、医薬、化粧品等の抗菌剤として用いる場合は、銅、亜鉛、銀、造影剤として用いる場合は常磁性のガドリニウム、マンガン等を挙げることができる。
3)静電的(イオン)反応性物質としての利用
本発明のポリアミノ酸誘導体は塩基性ポリマーであることから、静電的に酸性物質と結合し、塩基性物質とは反発する性質を有する。また、塩基性ポリアミノ酸は細胞内へ進入する性質を有することから、ポリアミノ酸に化学的に結合した物質やポリアミノ酸と親和した物質を細胞内へ輸送することができる。ここで、ポリアミノ酸と「親和した物質」とは、ポリアミノ酸水溶液中に溶解または懸濁された状態で、ポリアミノ酸が細胞膜の透過性の変化させた際に、細胞内へ進入しうる物質を指す。
例えば、ポリアルギニルヒスチジンと化学的に結合する物質(例えば、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA、糖)は細胞内へ輸送され、細胞内でそのままか、あるいは分解、プロセッシングされて遊離され、所望の機能を発揮しうる。このように、酸性物質の吸着剤、酸性有害物質の除去剤、ドラッグ・ディリバリー法における担体、遺伝子治療に使用される核酸の運搬体、核酸の細胞への導入を促す担体、繊維の染色補助剤、などに利用できる。
好ましくは、本発明のポリアミノ酸誘導体はRNAやDNAなどの遺伝情報をコードするポリヌクレオチドのビークル(運搬媒体)として、利用される。そのようなビークルは、遺伝的、非遺伝的疾患の治療疾患の遺伝子治療や、発酵、農業、畜産、水産業等における有用な性質を持つ新たな細菌、動植物などを得るために、インビトロまたはインビボでの遺伝子導入に有用である。
上記の酸性物質との結合活性に係る本発明のポリアミノ酸誘導体の使用形態は、特に限定されず、当該技術分野で同様の目的で使用される方法に準じて選択することができる。そのような使用例は、例えば、特開平9−308484等に記載されており、当業者に既知である。
D−アミノ酸の用途
本発明方法により得られるD−アミノ酸は医薬、化粧品等の分野で、そのまま、あるいは中間体として極めて有用である。利用に際しては、D−アミノ酸単独で用いることも可能であるが、通常は、ペプチド結合により、ジペプチド、トリペプチド、ポリペプチド(残基数が4またはそれ以上)、タンパク質やアミノ酸構成が単純であるポリアミノ酸に導入する。さらに、D−アミノ酸がD−ヒスチジンである場合、化合物にイミダゾール環を導入する際の該環の供給源としても利用しうる。
D−アミノ酸が導入されたペプチド等は、例えば、D−アミノ酸が存在することに関連する特徴的な性質を具備し得る。
例えばD−アミノ酸がD−ヒスチジンである場合、本願発明に係るポリアルギニルヒスチジン以外にD−ヒスチジンの生物界での存在を示す報告例がないことは、D−アミノ酸またはそれを含有するペプチド誘導体が極めて稀な物質であることを示しており、これから、ペプチド分解酵素、アミノ酸酸化酵素、アミノ酸脱炭酸酵素、アミノ酸脱アミノ酵素など、D−ヒスチジンに作用する酵素の分布は少ないと予想される。従って、D−ヒスチジンを含有する化合物を生体、食品、環境などに導入した場合、L−ヒスチジンを含有する化合物と比較して、生物による酵素作用に対して感受性が低く(耐性が高く)、変性を受けにくいため、化合物としての寿命を長期化できると考えられる。この特性を活かして、医薬品、農薬品、化学品、化粧品、食品添加物等原料やその合成中間体などに利用できる。
また、生理活性物質にはD−アミノ酸を持つものがあり、D−アミノ酸の示す特異性が直接生理活性に関わる場合もある。従って、機能発現にD−系列のヒスチジンまたは誘導体が必要である化合物の製造において、本発明方法で得られるD−ヒスチジンは有用である。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は例示のみを目的としており、いかなる意味においても本発明を限定することを意図するものではない。
実施例1 ポリアミノ酸生産菌株の同定
ポリアルギニルヒスチジン生産菌の取得は、西川等(前掲)記載の方法に従い、下記のようにして行った。
(1)菌株の分離
固形培地(グリセロール;10g、硫酸アンモニウム;0.66g、りん酸二水素カリウム;0.68g、硫酸マグネシウム七水和物;0.25g、イーストエクストラクト;0.1g、微量ミネラル要素、微量、の各成分を1Lの脱イオン水に溶解し、水酸化ナトリウム水溶液にてpHを7.0に調整し、粉末寒天15gを加える)を滅菌(121℃、15分間)した後、別に滅菌した色素、酸性色素PolyR−478(シグマ社製、終濃度0.02%)を添加して、シャーレ中に固化する。1白金耳量の土壌試料を適当量の滅菌水にて分散し、一部を上記寒天平板培地上に塗布により植菌する。28℃にて3〜14日間培養し、コロニー(細胞集落)の周縁に形成される色素の吸着域の存在を特徴とする菌株を、塩基性ポリアミノ酸生産菌の候補として選抜する。
(2)菌学的性質
ポリアミノ酸生産菌の分離、特性化
上記(1)で選抜した菌株をポテトデキストロース培地(PDA)、オートミール培地(OA)、および2%麦芽培地(MEA)の各寒天平板に接種し、28℃で培養し、菌学的性質を調べた。ポテトデキストロース培地(PDA)、オートミール培地(OA)、および2%麦芽培地(MEA)はいずれもディフコ/ベクトン−ディキンソン(Difco/Becton Dickinson)社製である。
A.培地上の生育状況
すべての寒天平板上において菌糸は綿毛状で白色を呈する。生育はやや遅く、PDAおよびMEAの平板では培養開始後1週間で直径20mmに達し、OAの平板では直径15mmに達する。分生子の形成は少なく、分生子によるコロニー色調の変化は観察されない。浸出液および可溶性色素の産生は認められない。
B.胞子の形成
光学顕微鏡下ではフィアロ型の無性生殖器官の形成が確認される。分生子柄は多少直立し、気中菌糸より単生ないしは2から4個のフィアライドを輪生する。また、二次的な分枝を示す分生子柄も若干観察される。フィアライドは細長い錐形で直線的、大きさは変化に富む。菌糸およびフィアライドの表面は平滑である。分生子は1細胞性で表面は平滑である。形は卵円形、涙形、楕円形、長円形など多様である。分生子は粘性を示し、分生子柄先端より塊状となる。培養8週間経過後の観察でも三日月型の大型分生子や厚膜胞子およびテレオモルフの形成は認められない。
C.生理学的性質
21℃または28℃にて良好に生育するが、33℃では生育しない。pHは2.5から8.8の間で生育する。後述のとおり、ポリアルギニルヒスチジンを生産する。
D.資化可能な炭素源
D−グルコース、D−ガラクトース、D−キシロース、D−ソルビトール、D−マンニトール、グリセロール、クエン酸、L−グルタミン酸を利用し得る。
(3)種の同定
上記(1)で選抜した菌株について、28sリボソームRNA分子の塩基配列を決定した。この塩基配列はDNA Data Bank of Japanに、登録番号AB087373の下で登録されている。28sリボソームRNA分子の種間比較に基づく分子生物学的手法により検討した結果、当該菌株はエピクロエに属する新菌株である事が判明した。これはEpichloe kibiensis E18株と命名され、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−8358の下で寄託されている(受託日:平成14年7月5日)。
実施例2 E18株によるポリアミノ酸の生産と同定
(1)固体培養による生産
実施例1に記載の方法に従い、該実施例1に記載の固形培地(但し色素は含まない)でE18株を培養した。10日間培養した後、コロニー(細胞集落)周縁に分泌されるポリアミノ酸を寒天小片として回収した。寒天小片中に残留するポリアミノ酸以外の培地成分を、寒天小片を水に浸積することで除去した。次に寒天小片を1N塩酸溶液中で90℃、1時間加熱することにより寒天成分を加水分解した。この溶液中に含まれるポリアミノ酸を陽イオン交換樹脂(アンバーライトIRC−50、オルガノ社製)に吸着させ、0.2N酢酸を用いて洗浄し、0.1N塩酸にて溶出し、減圧乾燥することにより精製した。
(2)液体培養による生産
液体培地(D−ガラクトース、10g;硫酸アンモニウム、0.66g;りん酸二水素カリウム、0.68g;硫酸マグネシウム七水和物、0.25g;酵母エキス、0.2g;微量ミネラル要素、微量、を1Lの脱イオン水に溶解し、pH値をNaOH水溶液にて7.0に調整する)の100mL量を500mL容バッフル付三角フラスコ入れ、滅菌(121℃、15分間)する。植菌後、28℃の恒温槽内で100rpmの旋回振とうにより好気的に培養する。7日後、培養液の上清を、孔径0.45mmの合成高分子膜でろ過することにより回収し、この溶液中に含まれるポリアミノ酸を陽イオン交換樹脂(アンバーライトIRC−50、オルガノ社製)に吸着させ、0.2N酢酸を用いて洗浄し、0.1N塩酸にて溶出し、減圧乾燥することにより精製した。
(3)モノマーの同定
1)上記(1)または(2)でE18株の培養液から精製したポリアルギニルヒスチジンを、6N塩酸溶液中で100℃、20時間加熱することにより加水分解し、モノマーを調製した。モノマーを薄層クロマトグラフィー法[展開薄層板、シリカゲルまたはセルロースを塗布したもの;展開温度,20℃;展開溶媒,n−ブタノール:酢酸:ピリジン:水=4:1:1:2の混液]にて展開し、ニンヒドリン試薬にて現像した。モノマー化されたアミノ酸は2種あり、それぞれ標準物質のアルギニンおよびヒスチジンと同一のRf値(それぞれ、0.22および0.19)を示した。Rf値が0.22であるモノマーは、グアニジノ基の検出法である坂口反応に陽性であった。また、Rf値が0.19であるスポットはイミダゾール環の検出法であるパウリ反応に陽性であった。また加水分解処理していないポリアミノ酸は坂口反応およびパウリ反応に陽性であった。
以上の結果から、モノマーはアルギニンとヒスチジンであることが判明した。各側鎖上に存在するグアニジノ基とイミダゾール環はポリアミノ酸中に遊離した形で存在しており、アルギニンとヒスチジンは主鎖上のα位アミノ基とα位カルボキシル基間のペプチド結合により相互に連結されていることが判明した。
(4)ポリアミノ酸の配列決定
ポリアミノ酸の構成成分であるアルギニンとヒスチジンの配列を明らにするため、精製したポリアミノ酸を自動エドマン分解分析装置(アプライドバイオシステムズ社製、モデル492)により解析した。結果を図1に示す。
N末端のアミノ酸残基はアルギニンであり、第2残基はヒスチジンであった。これ以降は、奇数番目の残基がアルギニンであり、偶数番目の残基がヒスチジンであった。図1に示すように、第2残基はヒスチジンであり、第3残基はルギニンである。
以上から、ポリアミノ酸はアルギニンをN末端とし、アルギニンとヒスチジンが交互に連鎖した構造を持つことが判明した。
(5)分子量の測定
ポリアミノ酸の分子量を明かにするために、精製したポリアミノ酸をMALDI/飛行時間型質量分析計(パーセプティブ社製、モデルVoyager DE)で測定した。図2に質量分析の結果を示す。検出された分子量はRHRHRHRHRH(Rはアルギニン残基、Hはヒスチジン残基を表す、配列番号1)に由来する約1,486を中心とし、この他に約293の差をもった、より小さいか(RHRHRHRHに由来する約1,193、配列番号2)、またはより大きい(RHRHRHRHRHRHに由来する約1,779、配列番号3)シグナルが認められた。また、精製票品には、これら以外の不純物はほぼ含まれなかった。
以上から、E18株が生産するポリアミノ酸は唯一の分子量をもつ単一分子ではなく、一定の範囲内に分子量分布をもつ分子の混成物であった。
実施例3 E18株が生産するポリアルギニルヒスチジンの抗菌活性
抗菌性試験は以下の方法で行った。
実施例2の(2)で精製し、実施例2(3)〜(5)で同定したE18株が生産するポリアルギニルヒスチジンを滅菌水にて溶解し、さらに一定の終濃度となるように適当な液体培地に添加した。液体培地は表1に示すとおり、感受性を評価される微生物(被検微生物)の増殖に適したものを選択した。各液体培地の1L中の組成は、1)N培地(ヌートリエント ブロス):肉エキス,3g;ペプトン,5g,pH6.8、2)702培地:ポリペプトン,10g;酵母エキス,2g;硫酸マグネシウム七水和物,1g,pH7.0、3)YPD培地:酵母エキス,10g;ペプトン,20g;D−グルコース,20g,pH6.5、4)PD培地:ジャガイモ浸出物,原料ジャガイモ200gに相当する量;D−グルコース,20g,pH5.1、とした。ポリアルギニルヒスチジンを含む液体培地に被検微生物を接種し、それぞれの最適培養温度にて20時間培養した。増殖の検定には、細胞の分散性が良好な微生物に対しては600nmの吸光度を測定し、不均一な細胞塊を形成する微生物に対しては目視にて行った。抗菌性試験の結果を表1に示す。表1に示すように、E18株が生産したポリアルギニルヒスチジンはグラム陰性細菌、グラム陽性細菌、酵母菌、糸状真菌に対して、増殖を強く抑制した。
培地:N,ヌートリエント ブロス;YPD,yeast extract/peptone/dextrose;PD,ポテト デキストロース培地;702,IFO702培地.
*増殖速度の低下が観察された。
相対濃度は、E18の培養液から精製した抗菌物質を試験培地へ添加する際、その濃度が培養液中へ生産されたときの濃度を1とした場合の相対値(希釈倍率または濃縮倍率)を表す。x1の濃度はおよそ40μg/mLと推定される。従って、相対濃度、x1/10、×1/2、x1、x5はそれぞれ、およそ4、20,40,200μg/mlに相当する。
実施例4 化学合成したポリアルギニルヒスチジンの抗菌活性
アミノ酸残基数10のポリアルギニルヒスチジンを化学合成法により作成し、試験に供した。化学合成は文献(Atherton,E and Sheppard,R.C.,Solid phase peptide synthesis.A practical approach,IRL Press,Oxford(1989))に記載の方法に従って行った。生成物ポリアミノ酸のアミノ酸配列は、(N末端)(L−アルギニン)−(L−ヒスチジン)−(L−アルギニン)−(L−ヒスチジン)−(L−アルギニン)−(L−ヒスチジン)−(L−アルギニン)−(L−ヒスチジン)−(L−アルギニン)−(L−ヒスチジン)(C末端)である。このポリアルギニルヒスチジンを滅菌水に溶解、希釈し、一定の終濃度(1、10、20、50、100、150、200、300、400、500μg/mL)となるように実施例3に記載のものと同じ組成の液体培地に添加し、培養して抗菌活性を評価した。抗菌活性(増殖)の評価は上記の実施例3記載の方法に準じて行った。抗菌性試験の結果を表2に示す。
培地:N,ヌートリエント ブロス;YPD,yeast extract/peptone/dextrose;PD,ポテト デキストロース培地;702,IFO702培地.
化学合成ポリアルギニルヒスチジンはアミノ酸残基数10のものを使用した。
*増殖速度の低下が観察された。−は増殖を阻止せず。
表2に示すように、アミノ酸残基数10のポリアルギニルヒスチジンはグラム陰性細菌およびグラム陽性細菌に対して抗菌性であり、酵母菌、糸状真菌に対して、増殖を強く抑制した。例外的に、Bacillus cereus IFO3514株には無効であった。上記の表2に記載の結果は、合成ポリアミノ酸が、表1に記載のE18株が産生するポリアミノ酸と同様の抗菌活性を有することを示している。これらの結果は、本発明のE18株が所望のヘテロポリアミノ酸を産生することを証明するものでもある。なお、最小増殖阻止濃度の数値に若干の差があるが、これは天然のポリアミノ酸と化学合成ポリアミノ酸との純度等におけるに基づくと考えられる。
実施例5 アミノ酸残基の種類および数と抗菌性との関係
(1)ポリアルギニルヒスチジンのアミノ酸残基数と抗菌活性と関連を調べるために、アミノ酸残基数の異なるポリアルギニルヒスチジンを化学合成し、実施例3または4と同様の方法にて抗菌性試験を実施した。被検微生物には大腸菌(Escherichia coli)IFO3301株および枯草菌(Bacillus subtilis)IFO3336株を使用した。抗菌性試験の結果を表3に示す。なお、表3に記載のポリアミノ酸のアミノ酸配列は配列番号4〜13に記栽されている。
被検微生物:Bacillus subtilis IFO3336およびEscherichia coli IFO3301.
構造模式中のR、H、K、G、Cはそれぞれアルギニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、システイン残基を表す。
培地,ヌートリエント ブロス。
−は増殖を阻止せず。
表3に示すように、アミノ酸残基数が6以上のポリアルギニルヒスチジン(配列番号5〜8)では抗菌性が認められた。最小増殖阻止濃度は残基数が8以上で飽和し、その値は10μg/mLであった。N末端はヒスチジンで、C末端はアルギニンである、ポリヒスチジルアルギニン(残基数10、配列番号9)の最小増殖阻止濃度は10μg/mLであり、抗菌性について同残基数のN末端はアルギニンで、C末端はヒスチジンである、ポリアルギニルヒスチジンと変わりなかった。
実施例6 アミノ酸置換誘導体の抗菌性
ポリアルギニルヒスチジンのアミノ酸配列と抗菌活性と関連を調べるために、アミノ酸配列の異なるポリアミノ酸を化学合成し、実施例3または4と同様の方法にて抗菌性試験を実施した。被検微生物には大腸菌(Escherichia coli)IFO3301株および枯草菌(Bacillus subtilis)IFO3336株を使用した。抗菌性試験の結果は前記表3に示されている。
表3に示すように、ポリアルギニルヒスチジンのアルギニンをリジンに置換した、残基数10のポリアミノ酸(配列番号10)は、最小増殖阻止濃度が10μg/mLであり、抗菌性について同残基数のポリアルギニルヒスチジンと変わりなかった。ポリアルギニルヒスチジンのヒスチジンをシステインに置換した、残基数10のポリアミノ酸(配列番号13)は、最小増殖阻止濃度が10から20μg/mLであり、抗菌性について同残基数のポリアルギニルヒスチジンとほぼ変わりなかった。ポリアルギニルヒスチジンのヒスチジンをグリシンに置換した、残基数10のポリアミノ酸(配列番号11)は、最小増殖阻止濃度が100μg/mLであり、抗菌性について同残基数のポリアルギニルヒスチジンの10分の1の効果しか示さなかった。ポリアルギニルヒスチジンのアルギニンをグリシンに置換した、残基数10のポリアミノ酸(配列番号12)は抗菌性を示さなかった。上記の結果から、相互に交換可能なアミノ酸の特性について以下の点が明らかである。即ち、アルギニンとリジンは、共に強い塩基性を有するアミノ酸であること、ヒスチジンとシステインはキレート形成能が高く、しかも、ペプチド結合によりポリアミノ酸を形成した状態でも優れたキレート形成能を維持していることが挙げられる。一方、ヒスチジンとグリシンの場合は、キレート形成能に関しては共通するが、ポリアミノ酸を形成した場合に、グリシンはキレート形成能の低下または喪失をきたす点で異なる。さらに、アルギニンとグリシンの場合は、塩基性において異なる。このように、抗菌性ポリアミノ酸を得るためには、塩基性アミノ酸が含まれること必要であり、さらにキレート形成能の優れたアミノ酸が存在することにより抗菌性が増強される事が分かった。
実施例7 アシル化誘導体の抗菌活性
極めて親水性であるポリアルギニルヒスチジンの極性変化が抗菌性に与える影響について調べるために、上記実施例に記載の残基数10のポリアルギニルヒスチジン(RH5)のN末端アルギニン残基のNαアミノ基をミリスチル化し、残基数10のミリスチル化ポリアルギニルヒスチジン(myristoyl−RH5)を化学合成した。これを用いて、実施例3または4と同様の方法で抗菌性試験を実施した。抗菌性試験の結果を表4に示す。
培地,ヌートリエント ブロス.
RH5,ポリアルギニルヒスチジン(アミノ酸残基数は10);myristoyl−RH5,ポリアルギニルヒスチジン(アミノ酸残基数は10,N末端アミノ基にミリスチル基を結合したもの);εPL,イプシロン−ポリ−L−リジン(アミノ酸残基数は25から36)。
*増殖速度の低下が観察された。−は増殖を阻止せず。
表4に示すように、myristoyl−RH5は、アシル化されていない対応のポリアルギニルヒスチジン(RH5)と比較して、より高い活性を有することが明らかになった。即ち、myristoyl−RH5はRH5が全く抗菌作用を示さないBacillus cereus IFO3514株に対して、最少増殖阻止濃度10μg/mLで増殖阻害作用を示した。また、非ミリスチル化ポリアミノ酸であるRH5が比較的弱い(最少増殖阻止濃度が50μg/mL以上)増殖阻害作用を示すグラム陰性菌(Salmonella typhimurium IFO12529)およびグラム陽性菌(Staphylococcus aureus IFO13276,Staphylococcus aureus MRSA ATCC33591)に対して高い増殖阻害作用(最少増殖阻止濃度10μg/mL)を示した。このように、アシル化は抗菌活性の向上(抗菌スペクトルの拡大)に有効であることが証明された。
実施例8 ホモポリマーであるポリリジンとの抗菌活性における比較
既存のホモポリアミノ酸であるポリリジンは強い抗菌性を示す事が知られている。そこで、本発明のポリアルギニルヒスチジン(合成RH5)の抗菌性との比較を行った。ポリリジンは和光純薬より入手したεポリ−L−リジンを使用した。抗菌活性の評価は実施例3,4に記載の方法と同様である。結果は上記の表4に示されている。この結果から明らかに、ポリリジンは試験したほぼすべての菌に対して強い抗菌性を示したが、B.cereus IFO3514には他の菌株に比べ1/5倍の効果しか示さなかった(5倍の抵抗性を示した)。一方、本発明の化学合成ポリアルギニルヒスチジン(残基数10)は一部の菌株について十分な抗菌性を示さなかったが、ミリスチル化したポリアルギニルヒスチジンはすべての菌株の増殖を強く抑制し、ポリリジンに5倍の抵抗性を示したB.cereus IFO3514株に対しても同レベルで増殖を強く抑制した。
実施例9 強アルカリ条件下での抗菌活性
既存品であるポリリジンの遊離アミノ基のpKa値は8.9であり、ポリアルギニルヒスチジンの遊離グアニジノ基のpKa値が12.5であることから考えて、強アルカリ条件下では抗菌性はポリアルギニノヒスチジンの方がポリリジンより強いことがが予想される。そこで、好アルカリ細菌に対する抗菌性を調べた。培地には20mMのCAPS/NaOH緩衝液にてpHを11.2に調製したヌートリエント ブロスを使用し、その他の試験方法は実施例3に準じて行った。結果を表5に示す。
培地,ヌートリエント ブロス(20mM CAPS/NaOH緩衝液).
RH5,ポリアルギニルヒスチジン(アミノ酸残基数は10);εPL,イプシロン−ポリ−L−リジン(アミノ酸残基数は25から36).
−は増殖を阻止せず。
表5に示すとおり、pH11.2において、ポリアルギニルヒスチジンは抗菌性を示したのに対して、ポリリジンは抗菌性を示さなかった。よって、ポリアルギニルヒスチジンの抗菌性は、強アルカリ条件でも有効であることが示された。
実施例10 金属結合性試験
アミノ酸残基数10のポリアルギニルヒスチジン(RH5)を化学合成法により作成し、試験に供した。そのアミノ酸配列は、実施例2(5)におけるものと同質である。金属結合性は分子量の増加をもって評価した。ポリアルギニルヒスチジンを終濃度30pmol/μLとなるように30mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)で調製し、金属の塩化物塩または硫酸塩の水溶液と混和した。金属元素として、マグネシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛を使用した。混和の比率は、モル比率で、ポリアルギニルヒスチジン:金属=1:10とした。分子量の測定は、ポリアルギニルヒスチジンと金属の混和物を測定器製造元が推奨する方法に従い、2、5−ジヒドロキシ安息香酸と混和し、乾燥後、飛行時間型質量分析計(パーセプティブ社製、モデルVoyager DE)を用い、MALDI−TOF Mass法で測定した。金属結合性試験の結果の一例を図3に示す。図3はMALDI/TOF−MS法によるポリアミノ酸−亜鉛複合体の検出結果を示し、Aはポリアルギニルヒスチジン(残基数10)のみ、Bはポリアルギニルヒスチジン(残基数10)を硫酸銅(ポリアミノ酸の10倍のモル数)と共存させた場合の結果を示す。
図3に示すように、ポリアルギニルヒスチジンと硫酸亜鉛を共存させた場合、硫酸亜鉛を共存させない場合にポリアルギニルヒスチジンが示すm/z値1,486に加えて、亜鉛イオンの付加された分子が示すm/z値1,550が観測された。他の金属についても、ポリアルギニルヒスチジンが単独で示すm/z値に、おのおのの金属に固有な値の分だけ増したm/z値が確認されたので、ポリアルギニルヒスチジンは混和したすべての種類の金属と金属の間で複合体を形成することが明らかとなった。
実施例11 抗菌性に対する金属の影響
実施例6に示したとおり、塩基性ポリアミノ酸の抗菌性の増強には、ヒスチジンやシステインなどのキレート形成性のアミノ酸残基が寄与している。実施例10で示したとおり、ポリアルギニルヒスチジンは金属と錯体を形成する。そこで抗菌性に対する金属の依存性を調べるために、化学合成ポリアルギニルヒスチジン(アミノ酸残基数10)を用いて抗菌性試験を行った。試験方法は、終濃度10μg/mL(6.6μM)のポリアルギニルヒスチジンを含むDavisの改変合成液体培地中へ各種濃度の硫酸亜鉛水溶液を添加し、ここへ被検微生物としてEscherichia coliIFO3301株を接種、培養した。増殖の評価は20時間倍養後の600nmの吸光度を測定して行った。Davisの改変合成液体培地1L中の組成は以下のとおりである:D−グルコース,1g;リン酸水素二カリウム,7g;リン酸二水素カリウム,2g;クエン酸三ナトリウム二水和物,0.5g;硫酸マグネシウム七水和物,10mg;硫酸アンモニウム,1g;カザミノ酸,100mg;塩酸チアミン,2mg,pH7.0。結果を図4に示す。ポリアルギニルヒスチジン6.6μMを含有する場合は斜線、ポリアルギニルヒスチジンを含有しない場合を白抜で示されている。
本試験で用いた条件(人工的な培地)においては、亜鉛イオンを全く含まないか、終濃度1.65から3.3μMの低濃度の範囲では、亜鉛イオンの有無に関わらず抗菌性は認められない。しかしながら、6.6μM以上の亜鉛が存在すると増殖は強く抑制された。対照実験として行ったポリアミノ酸を含まない場合の、同濃度の亜鉛の存在における増殖は全く抑制されないので、亜鉛の毒性の影響はない。同様の効果は、銅イオンでも観察された。
一方、前記の実施例3および4において、天然物に由来する培地を用いた場合には、特に亜鉛を添加しなくても抗菌作用が認められた。
これらの結果は、本実施例における実験条件には、何らかの理由でポリアルギニルヒスチジンの抗菌活性を抑制する阻害物質(因子)が含有されている可能性を示唆している。上記の結果はまた、亜鉛イオンが共存すると、そのような阻害物質の作用にもかかわらず、本発明のポリアミノ酸誘導体が抗菌活性を発揮しうることをも示唆している。そして、そのような阻害物質の存在下で十分な抗菌活性を得るためには、ポリアルギニルヒスチジンと等モル以上の亜鉛イオンを存在させることが有効であることを示している。
さらに、本発明のポリアルギニルヒスチジンを錯体とすると、単独では阻害物質の影響により抗菌活性の低下または喪失が懸念される場合でも、錯体の形なら、十分に抗菌活性を発揮することができることをも示している。
実施例12 酸性物質および塩基性物質との反応性
試験方法
アミノ酸残基数10のポリアルギニルヒスチジン(RH5)を化学合成法により作成し、試験に供した。そのアミノ酸配列は、実施例2(5)におけるものと同質である。酸性物質および塩基性物質との作用性の評価は、それぞれ酸性色素であるPolyR−478および塩基性色素であるメチレンブルーを使用した。電荷をもった色素を含む寒天平板上に静置した直径6mmのろ紙片に、化学合成したポリアルギニルヒスチジン1mgを含む水溶液10μLを浸潤させ、拡散に伴う色素の変化を観察した。寒天、PolyR−478、塩基性色素メチレンブルーの濃度はそれぞれ1.5%、0.02%、0.002%であった。酸性物質および塩基性物質との作用性の評価試験の結果を図5に示す。
図5に示すように、ポリアルギニルヒスチジンは、ろ紙片から寒天平板中に拡散するのに伴って、酸性色素(PolyR−478)を吸着し濃縮する(A)ことが観察された(矢印、色素が濃縮され、周辺より暗く見える)。一方、塩基性色素に関しては、これを排斥し、拡散の前線付近に濃縮する(B)ことが観察された(矢頭、色素が排斥され、周辺より明るく見える)。これらの結果から、ポリアルギニルヒスチジンは酸性物質を吸着し、逆に塩基性物質と反発する性質を有することが分かった。
実施例13 ポリアルギニルヒスチジンの生細胞への透過性
ポリアルギニルヒスチジンが細胞に及ぼす影響を調べるために蛍光標識したポリアミノ酸の挙動を観察した。実施例4に準じて、アミノ酸残基数10のポリアルギニルヒスチジンを化学合成法により作成し、さらにN末端の遊離アミノ基を蛍光色素であるFAM(carboxyfluorescein)によって化学標識した。Candida boidinii MIP104株のけん濁液に終濃度1μg/μLで添加し、5分間静置した後、けん濁液中の余剰の標識ポリアミノ酸を洗浄により除去したうえで、プレパラートを作成した。これを、同軸落射式蛍光顕微鏡にて通常光および蛍光励起光源下で観察、写真撮影した。対照実験として、蛍光色素FAMのみを単独で添加した試料も観察した。結果を図6に示す。図6におけるAはN末端標識ポリアミノ酸(FAM−RH5)を酵母Candida boidinii MIP104株の細胞けん濁液に添加し、蛍光顕微鏡で観察した結果、Cは同じ視野を通常光で観察した結果、Bは対照実験FAMのみを同細胞けん濁液に添加し蛍光顕微鏡で観察した結果、Dは同じ視野を通常光で観察した結果を示す。
図6Aに示すとおり、蛍光ラベルしたポリアルギニルヒスチジンは酵母生細胞内へ取りこまれた。一方、図6Bに示すとおり、蛍光色素だけでは細胞に取り込まれることはなく、ポリアミノ酸と結合した形においてのみ取り込みが観察された。従って、ポリアルギニルヒスチジンは、何ら特別の操作を経なくとも、酵母細胞の細胞壁および細胞膜を透過する能力を有することが確認された。
実施例14 ヒスチジンの光学純度の検定
実施例2−(3)のポリアルギニルヒスチジンの加水分解物を、光学分割カラム(ダイセル工業製CROWNPAK CR(+)、移動相はpH1.5の過塩素酸水溶液、カラム温度は4d℃)を装着した高性能液体クロマトグラフィー装置(HPLC)にて分析した。検出は200nmの吸収を測定した。対照実験としては、D−ヒスチジン、L−ヒスチジン、D−アルギニン、L−アルギニンの4種のアミノ酸標準品、化学合成した2種のポリアミノ酸(N末端 L−Arg−D−His−L−Arg−D −His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His C末端およびN末端L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His C末端)を6N塩酸溶液中で100℃、20時間加熱することにより加水分解した標準品を、同じ条件でHPLC分析した。
分析結果を図7に示す。図中、化学合成品、(LR−LH)5、および(LR−DH)5の構造はそれぞれ、[N末端 L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His C末端]および[N末端 L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His C末端]である。
図7に示すように、E−18株が生産したポリアルギニルヒスチジンを構成するヒスチジンは、約85%がD−体であった。また、アルギニンは100%がL−体であった。化学合成品に含まれるヒスチジンは、加水分解操作に伴うラセミ化により、L−体からD−体への変換が約3.3%であり、D−体からL−体への変換が約0.9%であった。従って、加水分解操作に伴う人為的なラセミ化が、E−18株のポリアルギニルヒスチジンに含有されるヒスチジンのD体とL体の存在比の数値に与える影響は小さいものであり、結論として、約85%という光学純度の高いD−ヒスチジンを製造することができた。
実施例15 D−ヒスチジンを含有するペプチドの機能性
(1)抗菌性試験
ポリアルギニルヒスチジンに含有されるヒスチジンの立体異性(D−体またはL−体)と抗菌活性との相関を見るために、化学合成法により、すべてのヒスチジン残基がD−体であるポリアルギニルヒスチジン(N末端 L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His C末端)と、すべてのヒスチジン残基がL−体であるポリアルギニルヒスチジン(N末端 L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His C末端)を調製し、上記実施例に記載のヌートリエントブロス(NB)またはポテトデキストロース培地の液体培地に培養開始時に添加した。植菌後、28℃で振とう培養し、被検微生物の増殖を観察した。被検微生物には、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa、IFO3445、財団法人発酵研究所より分譲)、サルモネラ菌(Salmonella typhimurium、IFO12529、同)、カンジダ酵母(Candida albicans、IFO1385、同)、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae、KK4、所属研究機関において保存)を使用した。
結果を表6に示す。E−18株の生産したポリアルギニルヒスチジンの粗精製物は、8〜40μg/mLの最小増殖阻止濃度で、被検微生物の増殖を抑制した。ほぼ不純物の混入がないと考えられる化学合成品については、ヒスチジン残基がすべてD−体であるポリアルギニルヒスチジンの最小増殖阻止濃度は5〜10μg/mLであり、全アミノ酸がL−体であるポリアルギニルヒスチジンに比較して低い最小増殖阻止濃度を示した。これらの結果は、ポリアルギニルヒスチジン中のヒスチジン残基をD−体にすることにより、抗菌性が強められることを示している。
表6における化学合成品(LR−LH)5および(LR−DH)5の構造は、それぞれN末端[L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His]C末端、N末端[L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His]C末端である。ここで、RおよびHは、それぞれアルギニンおよびヒスチジン残基を表す。
(2)ペプチド分解酵素に対する感受性試験
ポリアルギニルヒスチジンに含有されるヒスチジンの立体異性(D−体またはL−体)とペプチド分解酵素に対する感受性との相関を調べた。D−又はL−ヒスチジンを含有するポリアルギニルヒスチジンをペプチド分解酵素の一種であり、哺乳類消化管にも存在するトリプシンと反応させた後、分子量の変化を観察した。
具体的な試験方法は以下のとおりである。E−18株が生産したか、又は化学合成した4種のポリアルギニルヒスチジン(▲1▼ N末端 L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His C末端;▲2▼ N末端 L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His C末端;▲3▼ N末端 L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−L−His−L−Arg−D−His C末端;▲4▼ N末端 L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−D−His C末端)のそれぞれを、約100μgづつ、200μLの100mM炭酸水素アンモニウム水溶液(pH 7.8)に懸濁した担体固定型トリプシン(ピアース社製TPCK−Trypsin,immobilized)と混合し、強く攪拌しながら30℃で6時間保温した。上清1μLを9μLの2,5−ジヒドロキシ安息香酸水溶液(10mg/mL)と混合し、MALDI/TOF−MS(マトリクス支援レーザー脱イオン化/飛行時間測定質量分析計、パーセプティブ社製、Voyager DE)にて分子量を測定した。
測定結果を図8に示す。図中、矢印は推定のトリプシンの切断点である。各チャートの被検物質は以下の通りである。(A)L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His、(B)L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His、、(C)L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−L−His−L−Arg−D−His、(D)L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−L−His−L−Arg−L−His−L−Arg−D−His、(E)実施例2で調製した、E−18株が生産するポリアルギニルヒスチジン。
トリプシンはペプチド鎖の内部に存在するアルギニンまたはリジン残基のカルボキシ末端側のペプチド結合を特異的に切断する活性を有する。一般に、この種の酵素は基質に対して立体選択性があり、切断点をはさむ2つのアミノ酸がともにL−体であることが必要とされている。そこで、化学合成した4種のポリアルギニルヒスチジンの、トリプシンによる分解物の分子量を分析することにより、立体選択性の確認を試みた。
その結果、(A)に示すとおり、すべてのヒスチジン残基がD−体であるポリアルギニルヒスチジンはトリプシンによる分解を受けなかった。一方、(B)に示すとおり、すべてのヒスチジン残基がL−体であるポリアルギニルヒスチジンはトリプシンによる分解を受けて、ジペプチド(L−His−L−Arg、分子量約314)およびトリペプチド(L−Arg−L−His−L−ArgまたはL−His−L−Arg−L−His、分子量約451)を生じた。また、(C)に示すとおり、第8残基のヒスチジンのみがL−体であるポリアルギニルヒスチジンはトリプシンによる分解を受けて、トリペプチド(L−His−L−Arg−D−His、分子量約451)およびヘプタペプチド(L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg、分子量約1,056)を生じた。さらに、(D)に示すとおり、第6および第8残基のヒスチジンのみがL−体であるポリアルギニルヒスチジンはトリプシンによる分解を受けて、ジペプチド(L−His−L−Arg、分子量約314)、トリペプチド(L−His−L−Arg−D−His、分子量約451)、ペンタペプチド(L−Arg−D−His−L−Arg−D−His−L−Arg、分子量約763)を生じた。以上を総合すると、トリプシンが基質として攻撃するのは、切断点をはさむ2つのアミノ酸、ここではアルギニンとヒスチジンが、ともにL−体である場合に限られることが明らかである。すなわち、D−ヒスチジンを含有するポリアルギニルヒスチジンは、L−体ヒスチジンを含有するポリアルギニルヒスチジンと比較して、トリプシンによる分解を受けにくいことが証明された。
(E)に示すとおり、E−18株が生産したポリアルギニルヒスチジンは、上記(A)の場合と同様、トリプシンによる分解を受けず、分子量はトリプシン処理する前の分子量と変化はなく、約1,487のままであった。この結果は、E−18株が生産したポリアルギニルヒスチジンの、少なくとも第4、第6、第8残基がD−体であることを示している。従って、E−18株により産生されるポリアルギニルヒスチジンは、D−ヒスチジンを含んでおり、L−体ヒスチジンを含むポリアルギニルヒスチジンと比較して、トリプシンによる分解を受けにくいことが分かった。
また、本発明のポリアミノ酸誘導体がD−アミノ酸を含有する場合、培地組成物からD−アミノ酸を極めて効率よく、高い光学純度で製造することができる。特に、エピクロエ キビエンシス(Epichloe kibiensis)E−18株(FERM P−18923は、D−ヒスチジンを含むポリアミノ酸を産生するので、低い製造コストで容易に、しかも環境に影響を及ぼし得る薬品や廃棄物の量を可能な限り少なくして医薬や化粧品の分野で有用なD−ヒスチジンを大量に供給することが可能となる。
Claims (7)
- 以下の(i)〜(vii)から選択される、少なくとも1つのD-ヒスチジン残基を含むポリアミノ酸またはその誘導体:
(i)RHRHRH、
(ii)RHRHRHRH、
(iii)RHRHRHRHRH、
(iv)RHRHRHRHRHRH、
(v)HRHRHRHRHR、
(vi)KHKHKHKHKH、および
(vii)ミリスチル化したRHRHRHRHRH。 - (iii)RHRHRHRHRHである請求項1記載のポリアミノ酸またはその誘導体。
- 請求項2に記載のポリアミノ酸またはその誘導体と、銅、亜鉛、銀、ガドリニウム、マグネシウム、マンガン、コバルトおよびニッケルから選択される金属との錯体。
- 請求項1または2のいずれかに記載のポリアミノ酸またはその誘導体あるいは請求項3に記載の錯体を有効成分として含有する抗菌性組成物。
- 請求項1または2に記載のポリアミノ酸を生産するエピクロエ キビエンシス(Epichloe kibiensis)E18株(FERM P-18923)または請求項1または2に記載のポリアミノ酸生産能を有するその変異体。
- 請求項5に記載の微生物を培養し、培地からポリアミノ酸を回収し、所望によりその遊離官能基をミリスチル化し、および/または、塩化することを特徴とする、請求項1または2に記載のポリアミノ酸またはその誘導体の製造方法。
- 請求項5に記載の微生物を適当な培地で培養し、培地から分離した培養液、菌体または菌体破砕物からD−ヒスチジンを回収するか、必要に応じてペプチド誘導体を加水分解した後、D−ヒスチジンを回収することからなる、D−ヒスチジンの製造方法。
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