JP7368804B2 - L-β-リジンホモポリマー及びその製造法並びに該ポリマーを含む抗菌剤 - Google Patents
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Description
また、EPLは、細菌が産生する物質であるため、生分解性があるアミノ酸ホモポリマーとしても広く知られていた。さらに、EPLは、これまでに抗菌剤として利用できることが明らかになっていた(特許文献2)。
また、Pls様ペプチド合成酵素が、多様な未知のアミノ酸ホモポリマー合成酵素として他の微生物にも分布していることをゲノムマイニングにより見出し、放線菌の一種であるStreptoalloteichus hindustanusが新規のアミノ酸ホモポリマーであるε-ポリ-L-β-リジンを合成する事を見出した。
[1]式(I)の構造を有する、ε-ポリ-L-β-リジン及び/又はその塩。
[2]式(I)中、n=6~25である、[1]に記載のε-ポリ-L-β-リジン及び/又はその塩。
[3]Streptoalloteichus属に属する細菌を培養する工程、及び培養液からε-ポリ-L-β-リジン及び/又はその塩を分離する工程を含む、[1]又は[2]に記載のε-ポリ-L-β-リジン及び/又はその塩を製造する方法。
[4]前記Streptoalloteichus属に属する細菌が、Streptoalloteichus hindustanusである、[3]に記載の方法。
[5][1]又は[2]に記載のε-ポリ-L-β-リジン及び/又はその塩を含む、抗菌剤。
[6]Cladosporium属、Aspergillus属、Penicillium属及びAlternaria属からなる群から選択される何れかの属に属する菌を抗菌対象とする、[5]に記載の抗菌剤。
ε-ポリ-L-β-リジンの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えばGPC-LALLS法により測定した場合、1000~4000の範囲であることが好ましい。
ε-ポリ-L-β-リジンは、EPLと同じくL-β-リジンのε位アミノ基とα位カルボキシル基がペプチド結合により結合した構造である。
本発明において、「単離」又は「精製」するとは、天然環境において通常混入される少なくとも1つの混入物から、本発明の目的のポリアミノ酸であるε-ポリ-L-β-リジン及び/又はその塩を分離すること、または本発明の目的のポリアミノ酸であるε-ポリ-L-β-リジン及び/又はその塩の純度を上昇させることである。当業者に既知の任意の方法によって、「単離」又は「精製」することができる。
生分解性とは、微生物又は環境中での酸化や加水分解によって完全に分解され、自然的副産物(炭酸ガス、水、アミノ酸、メタン、バイオマスなど)のみを生じる性質のことである。生分解性の具体的な測定方法としては、例えば溶存有機体炭素量(DOC)法や生物化学的酸素消費量(BOD)法が挙げられる。生分解性を有するとは、上記方法により、ε-ポリ-L-β-リジンの50%以上が分解することである。
からε-ポリ-L-β-リジン及び/又はその塩を分離する工程を含む、ε-ポリ-L-β-リジン及び/又はその塩を製造する方法を提供する。
Streptoalloteichus属に属する細菌を培養するための培地組成は、例えば水1Lあたり、50g グルコース、5g 酵母抽出物、1g ポリペプトン、1.6g Na2HPO4、1.4g KH2PO4、0.5g MgSO4・7H2O、0.04g ZnSO4・7H2O、及び0.03g FeSO4・7H2Oであり、pH6.8である。培地組成成分は特に限定されず、任意で追加及び/又は変更することができ、各成分の配合量や培地のpHは特に限定されず、任意に増減することができる。
また、培養条件は、例えば次の条件で培養することができる。培地をオートクレーブ滅菌した後、室温まで放冷し、斜面培地で培養したStreptoalloteichus属に属する細菌を1白金耳、坂口フラスコ中の培地100mLに植菌し、30℃にて24時間振盪培養(振盪数200rpm)する。その後、坂口フラスコでの培養液全量を、ミニジャーファメンターの培地1L中に投入し、通気量3L/分、撹拌速度400rpm、30℃にて24時間培養し、さらに5% (NH4)2SO4を含む500mM MOPS-NaOH緩衝液(pH6.5)を培養液の1/4量添加し、24時間培養を継続するものである。培養条件(体積、温度、時間、振盪方法、通気量、撹拌速度)、培養に用いる器具や試薬は任意に変更することができる。
さらに、任意の培養条件、及び任意の培養器具や試薬によって、大規模スケールでの培養を行うこともできる。
培養後、培養液中に存在する細胞破砕物等の夾雑物は、当業者に既知の任意の方法によって取り除くことができる。
例えば、以下の方法によって行うことができる。培養液上清にクエン酸を終濃度50mMになるように添加し、培養液上清の二倍量のアセトンとメタノールの混合液(アセトン:メタノール=3:1)を添加して晶析させる。生じた沈殿物を遠心分離で回収し、50mM 重炭酸アンモニウム緩衝液(pH8.0)に溶解する。上記緩衝液で予め平衡化しておいたBioRex70(弱陽イオン交換体、Bio-Rad社製)に注入する。上記緩衝液で非吸着画分を洗い流し、さらに50mM 重炭酸アンモニウム緩衝液(pH9.2)を通液し、併産したPoly-D-Dabを溶出させる。その後、0.5M HClを通液し、ε-ポリ-L-β-リジンを溶出させ、メチルオレンジ法でε-ポリ-L-β-リジン含有フラクションを特定し、回収する。減圧下で乾燥させることでε-ポリ-L-β-リジン塩酸塩を得る。
具体的には、当業者に既知の方法により行うことができるが、例えばε-ポリ-L-β-リジン合成酵素をコードする配列を、任意の細胞に任意の方法で導入することでその細胞にε-ポリ-L-β-リジンを発現させ、任意の方法でε-ポリ-L-β-リジンを回収及び分離することができる。ε-ポリ-L-β-リジン合成酵素をコードする配列は、特に限定されないが、例えば配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸配列が挙げられる(Protein ID: WP_073484487.1)。またε-ポリ-L-β-リジン合成酵素をコードする配列は、その
機能を損なわない限り、配列番号1で表されるアミノ酸配列との同一性が、例えば80%以上、90%以上、95%以上、又は98%以上であるアミノ酸配列であってもよい。
例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を利用してε-ポリ-L-β-リジンの加水分解物の構造を同定することによって行うことができ、及び/又は核磁気共鳴分析(NMR)法を利用してε-ポリ-L-β-リジン誘導体の加水分解物の構造の同定を行うことによっても行うことができる。
なお、抗菌対象の細菌としては、ε-ポリ-L-β-リジンを合成する菌であるStreptoalloteichus属に属する細菌は含まず、特にStreptoalloteichus hindustanusは含まない。
例えば、本発明の抗菌剤の最小阻止濃度(MIC)を測定することや、抗菌剤投与後の細菌の生存率の測定することによって、抗菌作用を評価できる。
抗菌剤投与後の細菌の生存率を測定することによって抗菌作用を評価する方法は、例えば、ε-ポリ-L-β-リジンを用いた抗菌剤とその対照となるサンプル(EPL)等とを比較して、対照サンプルを使用した場合と比較して、菌の生存率が低下することによって抗菌作用が高いと評価することができる。
(ε-ポリ-L-β-リジン生産菌の培養)
ε-ポリ-L-β-リジン生産菌の培養培地を以下の組成により作成した。水1Lに対し、50g
グルコース、5g 酵母抽出物、1g ポリペプトン、1.6g Na2HPO4、1.4g KH2PO4、0.5g MgSO4・7H2O、0.04g ZnSO4・7H2O、及び0.03g FeSO4・7H2Oを添加し、培養培地をpH6.8とした。この培養培地をオートクレーブ滅菌した後、室温まで放冷し、斜面培地で培養したStreptoalloteichus hindustanus NBRC15115を1白金耳、坂口フラスコ中の培養培地100mLに植菌し、30℃にて24時間振盪培養(振盪数200rpm)した。その後、坂口フラスコで培養した培養液全量を、ミニジャーファメンターの培養培地1L中に投入し、通気量3L/分、撹拌速度400rpm、30℃にて24時間培養した。さらに5% (NH4)2SO4を含む500mM 3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)-NaOH緩衝液(pH6.5)を培養液の1/4量添加し、24時間培養を継続して行った。
上記で得た培養液上清にクエン酸を終濃度50mMになるように添加し、培養液上清の二倍量のアセトンとメタノールの混合液(アセトン:メタノール=3:1)を添加して晶析させた。生じた沈殿物を遠心分離で回収し、50mM 重炭酸アンモニウム緩衝液(pH8.0)に溶解させた。上記緩衝液で予め平衡化しておいたBioRex(登録商標)70(弱陽イオン交換体、Bio-Rad社製)に注入した。上記緩衝液で非吸着画分を洗い流し、さらに50mM 重炭酸アンモニウム緩衝液(pH9.2)を通液し、併産したPoly-D-Dabを溶出させた。その後、0.5M HClを通液し、ε-ポリ-L-β-リジンを溶出させ、メチルオレンジ法でε-ポリ-L-β-リジン含有フラクションを特定し、ε-ポリ-L-β-リジンを回収した。減圧下で乾燥させることでε-ポリ-L-β-リジン塩酸塩約90mgを得た。
(構成アミノ酸残基の構造決定)
上記製造方法によって分離精製したポリアミノ酸の構成残基を、当業者に既知の方法であるMarfey法を用いて決定した。まず、非特許文献3に記載の方法に従い10mg/mlのポリアミノ酸精製物を6M HCl中に添加し、100℃で16時間加熱することで完全に加水分解することによりモノマーを得た。次に、このモノマーを、炭酸水素ナトリウム緩衝液中でL-FDLA(Nα-(5-Fluoro-2,4-dinitrophenyl)-L-leucinamide)と37℃、1時間反応させることで誘導体化した(図1上図)。その後、以下の条件でHPLC分析を行った。
・HPLC分析条件
HPLC装置:Shimadzu Prominence HPLC System
カラム:SunShell C18 (株式会社クロマニック・テクノロジーズ、2.6μl、φ4.6×100)
カラム温度:40℃
Solvent A:MilliQ 中、0.1% TFA
Solvent B:アセトニトリル
流速:0.2 ml/min
グラジエント:25%-65%B
検出波長:A340
その結果、L-FDLAで誘導体化した加水分解物は、L-β-リジン標品のL-FDLA誘導体化物とよく一致する保持時間を示したことから、当該ポリアミノ酸がL体のβ-リジンを構成残基とするアミノ酸ホモポリマーであることを確認した(図1下図)。
当該ポリアミノ酸におけるL-β-リジンの結合様式を以下の方法で決定した。70mgのL-β-リジンポリマーの精製品を、60%(v/v)エタノール及び1.6%(w/v)炭酸水素ナトリウム存在下で0.5mlの1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(FDNB)と30℃で一晩反応させた。生じた黄色沈殿を、水、エタノール、及びアセトンで順次良く洗浄した後、6M HCl中、100℃で16時間加熱することで完全に加水分解した。この加水分解溶液7.5mlに、等量の酢酸エチルを加えてよく混合した後、回収した水層を真空下で蒸発乾固したものを少量のDimethyl Sulfoxide-d6に溶解して2次元NMR(H-C直接相関のHMQCスペクトル)解析に供した。
その結果、加水分解後の主生成物のアミノ基の化学シフト値(4.31ppm)に基づいて、導入したジニトロフェニル基がL-β-リジンの3位アミノ基に結合している、すなわち当該ポリアミノ酸は、L-β-リジンがEPLと同様にイソペプチド結合でつながったε-ポリ-L-β-リジンであることを確認した。
抗菌作用を評価するために、最小阻止濃度(MIC)を測定した(表1)。
にグラム陽性菌(Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa又はSalmonella enterica)又はグラム陰性菌(Bacillus cereus、Staphylococcus aureus又はListeria monocytogenes)をそれぞれ播種し、30℃で48時間培養した。またε-ポリ-L-β-リジン(重合度8~27)を含むYPD培地に酵母(Candida albicans又はPichia anomala)又はカビ(Cladosporium cladosporioides、Aspergillus brasiliensis、Penicilium verrucosum又はAlternaria alternata)を播種し、30℃で72間培養した。対照としてEPL(表中、Poly-L-Lysと表記)(重合度25~35)を用いた。ε-ポリ-L-β-リジン濃度を段階希釈していき、菌の培養が阻止された時におけるε-ポリ-L-β-リジンの最小濃度をMICとした。
その結果、グラム陽性菌、グラム陰性菌及び酵母は何れの菌においても、ε-ポリ-L-β-リジンは対照として用いたEPLと同程度のMICであり、グラム陽性菌、グラム陰性菌及び酵母に対してEPLと同程度の抗菌作用を示した。
さらに、カビは何れの菌においても、ε-ポリ-L-β-リジンは対照として用いたEPLよりもMICが低い値であった。すなわちε-ポリ-L-β-リジンは、特にカビに対してEPLよりも優れた抗菌作用を示した。
抗菌作用を評価するために、抗菌剤投与後の細菌の生存率を測定した(図2)。
10mM HEPES-NaOH (pH7.0)において、細胞数1×107個のEscherichia coli NBRC3301を、本発明のアミノ酸ホモポリマーであるε-ポリ-L-β-リジン(図中、Poly-L-β-Lysと表記)(重合度8~27)10 μg/mlと混合した。対照のアミノ酸ホモポリマーとしては、EPL(図中、Poly-L-Lysと表記)(重合度25~35)を用いた。
10分後、20分後及び30分後にそれぞれのアミノ酸ホモポリマーに曝露したEscherichia coliの生菌数を数えた。その結果、20分後には対照として用いたEPLよりも、ε-ポリ-L-β-リジンを用いた場合の方が、Escherichia coliの生菌数が少ないことが示された。すなわち、ε-ポリ-L-β-リジンは、EPLよりも優れた抗菌作用を示した。
Claims (7)
- 式(I)中、n=6~25である、請求項1に記載のε-ポリ-L-β-リジン及び/又はその塩。
- 前記細菌が、Streptoalloteichus hindustanusである、請求項3に記載の方法。
- 請求項1又は2に記載のε-ポリ-L-β-リジン及び/又はその塩を含む、抗菌剤。
- カビを抗菌対象とする、請求項5に記載の抗菌剤。
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Title |
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Antitumor effect of lysine-isopeptides,Cancer Cell International,2002年05月17日,2:4 |
Isolation, structure elucidation and physicochemical properties of novel antibiotic polypeptide, ε-(L-β-lysine) polypeptide from Streptomyces sp. DWGS2,Journal of the Korean Magnetic Resonance Society,2002年,6,69-77 |
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