ビダラビン浸透性促進外用剤 技術分野
本発明は、 抗ウィルス剤であるビダラビンを主薬とする油性外用剤に関する。 背景技術
ビダラビン (アデニンァラビノシド, ara- A) は、 単純へルぺスウィルス、 水 痘 ·帯状疱疹ウィルス、 サイトメガロウィルス、 ワクチニァウィルス、 アデノウ ィルス、 パピローマウィルス等の D N Aウィルスに対して強い増殖抑制作用を有 する。 このため上記 D N Aウィルスによる疾患、 たとえば水痘症、 帯状疱疹 (帯 状ヘルぺス) 、 口唇ヘルぺスの単純へルぺス感染症、 伝染性軟属腫 (水いぼ) お よび尋常性疣贅等の治療に有効な抗ウィルス薬として知られている。
ビダラビンは、 通常、 点滴静注用製剤として全身投与されるか、 軟膏剤もしく はクリーム剤として局所適用されている。 ビダラビンを主薬とする抗ウィルス外 用剤もいくつか市販されており、 たとえば白色ヮセリンおよび流動パラフィンを 基剤とする油性軟膏、 あるいは油性軟膏とは使用感の異なる水系乳剤性基剤を用 いたクリーム剤の形態の市販品がある。
ビダラビンを外用剤化する技術を提案するものとして、 たとえば特開昭 5 3— 5 2 6 1 2号公報には、 9位に 3—。 一ァラビノフラノシル基を有するプリンヌ ド誘導体をウィルス増殖阻害剤として使用する際の適用可能な種々形態
の一例として、 軟膏組成の実質的な記載はないが軟膏が例示されている。
また特開昭 6 2 - 5 1 6 1 7には、 帯状疱疹、 口唇へルぺス等の治療のための 外用剤として、 炭素数 3以下の低級アルコール 5〜 5 0重量%ぉよび適量の水を 含むビダラビンの外用水性ゲル軟膏が開示されている。 ここでは、 難溶性ビダラ ビンはその遊離体を各種酸類に溶解して用いる力 あるいは医薬的に許容しうる その水溶性の塩の形でゲル中に完全に溶解させたことにより、 従来の軟膏基剤に 結晶形のまま分散混合した処方に比べ、 皮膚への吸収が促進されることと、 アル コール類による薬物の皮膚透過促進 ·溶媒蒸発による主薬の局部における濃縮等 により、 油性軟膏と比べ明らかに経皮吸収率が優れる旨記載されている。 しか し、 低級アルコールによる皮膚刺激性が予想され、 実用化されていない。
水系乳剤性基剤は一般にほかの基剤より主薬をよく皮膚に吸収させ浸透性に優 れる (たとえば高野正彦著 "今日の皮膚外用剤" 1 9 1頁、 南山堂: 1981年 5月 発行) とされていることからすると、 上記公知の外用剤のうちでは、 油性軟膏の 形態よりもクリーム剤形態の方がビダラビンの経皮吸収性は高いと期待される。 ところでビダラビンは水に極めて溶けにくく、 かつ油等の疎水性溶媒にもほと んど溶解しない取り扱いの難しい薬物である。 一般にこの様な薬物の皮膚透過性 を高めることは容易ではない。 従来のビダラビン外用剤は皮膚透過性の点で充分 とは言えなかった。 特に、 皮内あるいは皮下でのウィルスが限定された箇所で増 殖したことによる疾患である場合には、 皮膚透過性が良く、 有効成分であるビダ ラビンを患部に高濃度に到達させることができるような外用剤の開発が望まれて いた。
一方、 難溶性薬物を可溶化することにより経皮吸収性を向上させることも従来
一般的に検討されている。 たとえばジメチルスルホキシド (DMSO) 、 N—メ チルピロリドン (NMP) 、 1ードデシルァザシクロヘプタン一 2—オン (商品 名 Az on e) 、 ォレイン酸、 エタノールなどの薬物に応じた種々の可溶化剤が 提案されている。 なお NMPの安全性について、 ヒトにおいては反復接触または 長期接触によって強い接触皮膚炎を起すことが報告されている (Kakon L. Leira ら、 Irritant cutaneous rections to N-methyl-2-pyrrolidone(NMP)' , Contac t Dermatitis 27, 1992, 148-150) ) 。
N M Pまたはその置換体による経皮吸収効果がいくつか報告されており、 たと えば特開 2001— 64206号公報には、 水および油に対し難溶性であるため 皮膚吸収性または透過性が低く、 その改善が求められている薬物の経皮吸収型製 剤として、 N—置換一 2ピロリドンと乳剤とを必須成分とする経皮吸収促進組成 物と薬物とを含有する製剤が開示されている。 なお該公報での乳剤は、 油を水に 乳化分散させたものを意味する。 該公報には、 難溶性薬物として抗ウィルス剤は 例示されてない。
特開平 1 1 - 222443号公報には、 非ステロイド性消炎鎮痛薬のィンドメ 夕シンまたはェテンザミドの経皮吸収製剤に好適な、 ピロリドンまたはその誘導 体とともに 一メント一ルを含む経皮吸収促進組成物が提案されている。 該公報 には、 一メントールによる皮膚角質層パリア一能を低下させる作用と、 ピロリ ドン化合物による薬物溶解作用との相乗効果によつて経皮吸収性が著しく促進さ れるものと推定されるとし、 ピロリドン化合物の単独使用時よりも経皮吸収性が 向上する旨記載されている。 該公報には、 このような作用を受ける薬物としてビ ダラビン等の抗ウィルス薬も例示されているが、 具体的な外用剤としては薬物が
インドメタシンまたはェテンザミド (ETZ) である調製例についてのみであ る。 また親水性ゲル軟膏の調製例は記載されているが、 抗ウィルス薬の油性外用 剤は具体的に記載されてない。
NMPを可溶化剤とするときの薬物が抗ウィルス (H I V) 薬であるザルシタ ビン (DDC) (下記①、 ②) 、 ジァノシン (DD I) (下記②) またはジドブ シン (AZT) (下記②、 ③) の報告もある (① Dae-Duk Kim and Yie W. Chie n : "Transdermal delivery of zalcitabine: in vitro skin penetration stud y", AIDS 9(12), 133卜(1995) 、 ②同著者: " Transdermal delivery of Dideoxy nucleoside - Type Anti-HIV Drugs. 2. The effect of vehicle and enhancer on permeation", J. Pharm. Sci. 85(2), 214 -(1996) 、 ③ Toshinobu Seki ら: "Enhanced Transdermal Delivery of Zidovudine in Rats and Human Skin" , Ch em. Pharm. Bull. , 38(11), 3086- (1990) ) 。
上記報告①および②では、 基剤としてエタノール (E t OH) と、 水またはト リカプリリン (TCP) との共溶媒を用いる系について検討しており、 エタノー ル濃度が 50〜60 %の時に抗 H I V薬の皮膚透過性が最も高いこと、 このよう な共溶媒に、 透過促進剤であるォレイン酸 (OA) を 1%添加した時、 E tOH /水系では薬物の透過速度を著しく向上させ、 一方遅滞時間を短縮することがで きるが、 NMPではほとんど効果がなく、 また、 E t OHZTCP系では透過促 進剤を添加してもさほど透過速度は速くならない旨記載されている。
また上記報告③は、 A ZTの透過性を高め治療効果を得るには、 水溶液中にォ レイン酸を 10%含む必要があるとし、 10%OA、 10%NMP、 20%プロ ピレンダリコールおよび 5%中鎖脂肪酸モノグリセリド (Sefso卜 318TM) および
水からなる混合溶媒が記載されている。
上記した先行技術は、 いずれも基剤中に水またはエタノールを含む系での皮膚 透過性を開示するものである。
NMPを可溶化剤とするときの水を含まない系での薬物の皮膚透過性について は、 ェテンザミド (ETZ) について安野らの報告 ("Ethenzamideの経皮吸収に 及ぼす N- Methyl- 2- pyrrol idone の効果" 薬剤学, 61 (4), 154-162 (2001) ) があ る。 ここでは、 主薬として ETZ、 溶解剤として NMPならびに基剤としてパラ フィンワックス 23%、 ミクロクリスタリンワックス 29%、 およびミリスチン 酸ィソプロピル 48 %からなる軟膏基剤を用いた軟膏が記載され、 E T Zの溶解 性と経皮吸収性は良好な直線関係にあるとしており、 基剤中の ETZの溶解濃度 を向上させることが、 即ち経皮吸収性向上に繋がると報告している。
上記したように従来、 難溶性薬物を主薬とする外用剤は一般的に水系乳剤ある いはエタノール系溶媒を基剤とする系であり、 吸収促進剤を使用することにより 経皮吸収性の向上が図られている。 また主薬が非ステロイド性鎮痛剤 ETZの場 合には、 油性基剤の軟膏も知られ、 主薬を溶解剤で溶解させることにより薬物の 経皮吸収性向上を図っている。
しかしながら主薬がビダラビンであり、 水および Zまたは低級アルコールなど を含まない系であって、 NM Pおよび油性溶媒からなる油性外用剤は知られてい ない。 発明の開示
本発明は、 皮膚浸透性または皮膚透過性の改善されたビダラビン油性外用剤を
提供することを目的としている。
薬剤の皮膚透過性については、 薬剤の基剤中への溶解度に比例する溶解度ファ クタ一項を含むフィックの式 (法則) が知られている。 このため従来の通常の概 念では、 難溶性薬剤については基剤への溶解性を向上させ、 皮膚透過 (吸収) 性 の向上に溶角军度項の寄与を大きくすることにより、 薬剤の皮膚透過性向上が図ら れている。
本発明者は、 皮膚浸透性または皮膚透過性の改善されたビダラピンの油性外用 剤を得るべく、 主薬の基剤への溶解性おょぴ皮膚透過性 (Flux) を検討するうち に、 意外にもビダラピンの油性外用剤の場合は、 N—メチルー 2—ピロリドン (NM P ) を含むことにより、 必ずしも油性溶媒への溶解性を高めなくても皮膚 透過性を向上させることができることを見出した。 さらに、 NM Pを含有する本 油性外用剤にリンゴ酸等の室温で固体の有機酸および/または皮膚に吸収された 後に加水分解され有機酸を形成するサリチル酸グリコール等の室温で固体または 液体の有機酸エステルを配合することで皮膚透過性をさらに向上させることがで きることを見出した。
まず本発明者は、 ビダラビンは水系溶媒と油性溶媒のいずれにも難溶性である が、 油性溶媒と水系溶媒との比較では、 特に油性溶媒への溶解性が圧倒的に低い ことを確認した。 しかしながら、 NM Pを同量含む水系溶媒と油性溶媒との比較 では、 ビダラビンの溶解度は水系溶媒の方が高いにも拘わらず、 油性溶媒の方が 皮膚透過性に優れることがわかった。 また、 ビダラビンの溶解剤となりうる NM Pのみを溶媒とした処方に比して、 油性溶媒共存系の方がビダラビンの溶解度は 低いにも拘わらず皮膚透過性が高い場合もあること、 さらに油性溶媒共存系では
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より極性の低い油性溶媒成分を用いた処方の方がビダラビンの溶解度は低いにも 拘わらず皮膚透過性が高い場合もあること、 すなわち、 ビダラビンの溶解度と皮 膚透過性が必ずしも相関しないことも見出した。 これら種々の知見は、 実施例と して後述するが、 油性溶媒を基剤とし、 NM Pを含むビダラビンの油性外用剤は 知られておらず、 またその効果も上記したように既存の概念からは予想外であつ て、 皮膚透過性に優れた外用剤としての有用性を確認できた。
これに加えて、 従来の概念では、 吸収促進効果を有するような添加剤を高濃度 に添加した外用剤では、 皮膚刺激性が高くなる傾向にあつたが、 本発明者らは、 NM Pを高濃度に含有する処方系であっても油性溶媒を適切に組み合わせること によって、 実用化において皮膚刺激性が実質的に問題とならないような低刺激性 の外用剤とすることが可能であることを見出して本発明を完成するに至つた。 すなわち本発明は、 以下に示す油性外用剤を提供するものである。
( 1 ) ビダラビン、 N—アルキル一 2―ピロリドンおよび医薬上使用可能な油性 溶媒を含む油性外用剤。
( 2 ) 水および/または低級アルコールを実質的に含まない (1 ) に記載の油性 外用剤。 換言すれば、 本発明に係る油性外用剤には、 水および Zまたは低級アル コールが添加されていない。
( 3 ) 前記 N—アルキル一 2—ピロリドンおよび医薬上使用可能な油性溶媒を、 互いに均一に混和しうる量比で含有し、 かつ油性外用剤中の該 N—アルキル一 2 —ピロリドン含有量が 0 . 5〜5 0 %である (1 ) または (2 ) に記載の油性外 用剤。
( 4 ) 前記油性溶媒が、 有機概念図で規定される有機性指標値 2 0 0以上の油性
溶媒から選ばれる 1種または複数の組み合わせの油性溶媒である (1) ないし (3) のいずれかに記載の油性外用剤。
(5) 前記油性溶媒が、 (a— 1) N—アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和した場合に完全には混和しない油性溶媒を少なくとも 1種含む ( 1 ) な いし (3) のいずれかに記載の油性外用剤。
(6) 前記油性溶媒が、 以下の (a— 1) および (a— 2) の組み合わせからな る、 (1) ないし (3) のいずれかに記載の油性外用剤;
(a— 1) N—アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和した場合に完全 には混和しない油性溶媒;
(a— 2) N—アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和した場合に完全 混和可能な油性溶媒。
(7) 前記油性溶媒が、 以下の (b— 1) および (c) からなる群より選ばれる 少なくとも一種の油性溶媒を含有する (1) ないし (3) のいずれかに記載の油 性外用剤;
(b-1) 有機概念図で規定される有機性指標値 200以上であり、 かつ無機性 指標値 Z有機性指標値が 0. 05以上 0. 13未満である油性溶媒;
(c) 外用剤の基剤として使用可能な炭化水素類またはシリコン油。
(8) 前記油性溶媒が、 以下の (b— 1) および (c) からなる群より選ばれる 少なくとも一種の油性溶媒と、 以下の (b— 2) の油性溶媒との組み合わせから なる、 (1) ないし (3) のいずれかに記載の油性外用剤;
(b-1) 有機概念図で規定される有機性指標値 200以上であり、 かつ無機性 指標値/有機性指標値が 0. 05以上 0. 13未満である油性溶媒;
(C) 外用剤の基剤として使用可能な炭化水素類またはシリコン油;
(b— 2) 有機概念図で規定される有機性指標値 200以上であり、 かつ無機性 指標値/有機性指標値が 0. 13以上である油性溶媒。
(9) 以下の (i) 〜 (iii) を含有してなる油性外用剤であって、 (ii) および (iii) を互いに均一に混和しうる量比で含有し、 水およびノまたは低級アルコー ルを実質的に含まない油性外用剤;
( i ) ビダラビン 0. :!〜 1 0%;
(ii) N—アルキル— 2—ピロリドン 0. 5〜50%;
(iii) 以下の (b_ l) および (c) からなる群より選ばれる少なくとも一種 の油性溶媒と、 以下の (b— 2) の油性溶媒との組み合わせからなる油性溶媒;
(b— 1) 有機概念図で規定される有機性指標値 200以上であり、 かつ無機性 指標値 Z有機性指標値が 0. 05以上 0. 13未満である油^ ^溶媒;
(c) 外用剤の基剤として使用可能な炭化水素類またはシリコン油;
(b-2) 有機概念図で規定される有機性指標値 200以上であり、 かつ無機性 指標値/有機性指標値が 0. 13以上である油性溶媒。
(10) 以下の (i) 〜 (iii) を含有してなる油性外用剤であって、 (ii) およ び (iii) を互いに均一に混和しうる量比で含有してなり、 水および/または低級 アルコールを実質的に含まない油性外用剤;
( i ) 核酸類似構造を有する抗ウィルス剤 0. 1〜 10 %;
(ii) N—アルキル一 2—ピロリドン 0. 5〜50%;
(iii) 以下の (b— 1) および (c) からなる群より選ばれる少なくとも一種 の油性溶媒と、 以下の (b— 2) の油性溶媒との組み合わせからなる油性溶媒;
(b— 1) 有機概念図で規定される有機性指標値 200以上であり、 かつ無機性 指標値/有機性指標値が 0. 05以上 0. 13未満である油性溶媒;
(c) 外用剤の基剤として使用可能な炭化水素類またはシリコン油;
(b-2) 有機概念図で規定される有機性指標値 200以上であり、 かつ無機性 指標値/有機性指標値が 0. 13以上である油性溶媒。
(11) 有機酸および Zまたは有機酸エステルをさらに含有する (1) ないし (10) のいずれかに記載の油性外用剤。
(12) 前記 N—アルキル一 2—ピロリドンが N—メチル一2—ピロリドンであ る (1) ないし (11) のいずれかに記載の油性外用剤。
(13) 油性外用剤の皮膚刺激性が、 実用上実質的に問題とならないレベルの低 刺激性である (1) ないし (12) のいずれかに記載の油性外用剤。
(14) 上記 (1) ないし (13) のいずれかに記載の油性外用剤からなるウイ ルス性皮膚疾患用外用剤。 図面の簡単な説明
図 1は、 本発明の実施例で求めた N M P ZM C T /水 3成分系相図である。 図 2 (a) 〜 (d) は、 NMP分配を説明するための概念図/ MCTZ水 3成 分系相図である。
図 3 (a) は I PM/NMPZ流動パラフィンの 3成分相図、 (b) は MCT ZNMP/流動パラフィンの 3成分相図である。 これら図中、 Iは完全混合する 組成領域を、 IIは 2相に分離する組成領域を表す。
図 4 (a) および (b) は、 実施例または比較例の各製剤からのビダラビンの
ト皮膚累積透過量の時間推移をグラフで示す図である 発明を実施するための最良の形態
本発明に係る油性外用剤は、 主薬ビダラビンの皮膚浸透性が促進された油性外 用剤である。 本発明の油性外用剤は、 基剤として、 後述するような N—アルキ ルー 2—ピロリドンを含む油性基剤 (溶媒) を用いて調製され、 水および Zまた は低級アルコールを添加することなく調製されるものであって、 不純物として不 可避的に混入する以外は、 実質的に水および Zまたは低級アルコールを含まない ものである。 なお本明細書で使用する組成%は、 特にことわらない限り重量 (質 量) 単位である。
本発明の油性外用剤に主薬として含まれるビダラビン (ara- A) は、 下記構造 式で示されるアデニンァラビノシドである。
ビダラビンは、 アデニンリポシドの構造類似体としてウィルスの D NA依存 D NAポリメラーゼ反応を阻害し、 D NAウィルスの増殖を阻害する核酸系抗ウイ ルス剤としての作用機序が知られている。 ビダラビンは細胞内においてリン酸化 を受け、 ara- AM P、 ara- AD Pを経て、 ara- AT Pとなり、 ウィルス遺伝子の
複製酵素である D N A依存 D N Aポリメラーゼを強力に阻害することにより抗ゥ ィルス作用を発現するものと推察されている。
前記したように、 ビダラビンは単純へルぺスウィルス、 水痘 '帯状疱疹ウィル ス、 サイトメガロウィルス、 ワクチニァウィルス、 アデノウイルス及びパピロー マウィルス等の DN Aウィルスに対して強い増殖抑制作用を有する抗ウィルス剤 であり、 本発明の外用剤は上記 DNAウィルスによる各種疾患、 例えば水痘症、 帯状疱疹 (帯状ヘルぺス) 、 口唇ヘルぺス、 性器ヘルぺス、 角膜へルぺス等の治 療に有効である。 また、 伝染性軟属腫 (水いぼ) 、 尋常性疣贅、 尖圭コンジロー マに対しても有効であることが期待される。
本発明の油性外用剤は、 主薬として含有するビダラビンの含量は特に限定され ないが、 望ましくは 0. 1〜10%、 さらに望ましくは 0. 5%〜5%である。 ここで本発明者が、 N—メチルー 2—ピロリドン (NMP) 非存在下または共 存下におけるビダラビンの水または油性溶媒への溶解度 (37°C) を具体的に検 討した結果を以下に示す。 以下の表中、 油性溶媒は、 中鎖脂肪酸トリグリセリ ド (MCT) である。
表 1. 各種濃度の NMP溶液へのビダラビン溶解量 (mg mL)
(25 °Cでのビダラビンの水への溶解量は 0. 45mg/mLである。 ) 上表に示されるように、 ビダラビンは水および油性溶媒のいずれにも難溶性 であるが、 両者への溶解度 (37°C) を比較したところでは、 水への溶解性
(Sw ) は油性溶媒への溶解性 (S。) に比して各段に高いことが分かる。. 本発明では、 このような水または油性溶媒に対し、 ビダラビンと同様の溶解度 を有する薬物を主薬とすることもできる。 すなわち、 水に対して溶けにくく、 油 性溶媒に対してはより一層溶け難い薬物である。 日本薬局方では 「溶解性は、 別 に規定するもののほか、 医薬品を固形の場合は粉末とした後、 溶媒中に入れ、 2 0± 5°Cで 5分ごとに強く 30秒間振り混ぜるとき、 30分以内に溶ける度合い をいう」 と定義され、 下表 2のように既定されている。
表 2 用 語 溶質 1 g又は 1 mLを溶かすに要する溶媒量 め C浴けやすレ 1 未満 溶けやすい lmL以上 1 OmL未満 やや溶けやすい 1 OmL以上 3 OmL未満 やや溶けにくい 3 OmL以上 10 OmL未満 溶けにくい 10 OmL以上 100 OmL未満 極めて溶けにくい 100 OmL以上 1000 OmL未満 ほとんど溶けない 1000 OmL以上
本発明の外用剤の対象となり得る主薬は、 水に対する溶解性が局方の定義で 「溶けにくい」 またはそれ以下、 好ましくは 「極めて溶けにくい」 またはそれ以 下のものである。 すなわち水に対して難溶性の薬物である。 より好ましくは、
37 DCにおける油性溶媒、 たとえば MCTへの溶解度 (S。 ) が水への溶解度 (Sw ) に対し、 So /Sw ≤3 X 10一2、 好ましくは 1 X 10—3を満たすよう な、 水に対してよりも油性溶媒に対してより難溶性の薬物を用いることができ る。 また本発明では、 上記のような核酸類似構造を有する抗ウィルス剤、 たとえば ァシクロビル、 イドクスゥリジン、 トリフルォロチミジン、 ソリブジン、 ペンシ クロビル、 ファンシクロビル、 バラシクロビル、 ガンシクロビルなどを主薬とす ることもできる。 難溶性の薬物または抗ウィルス剤を主薬とするとき、 その含量 は特に限定されないが、 望ましくは 0. 1〜10%、 さらに望ましくは 0. 5% 〜5%である。 本発明の油性外用剤中に含まれる N—アルキル一2—ピロリドンとしては、 具 体的に N—メチルー 2—ピロリドン、 N—才クチルー 2—ピロリドン、 N—ドデ
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シル— 2—ピロリドン及び N—シク口へキシルー 2—ピロリドンなどを挙げるこ とができる。
本発明の油性外用剤中の上記 N—アルキル一 2 _ピロリドンは、 油性溶媒と互 いに均一に混和しうる量比であればよく、 特に規定されないが、 0. 5%〜50 %の範囲であることが望ましく、 より望ましくは 1%〜25%、'さらに望ましく は 2%〜15%の範囲内である。
この N—アルキル— 2—ピロリドンは、 前述したように、 従来、 難溶性薬剤の 溶解剤として知られるものではある。 なお本発明者が、 25°Cにおけるビダラビ ンの溶解剤についてスクリ一ニングしたところでは、 各溶解剤あたりのビダラビ ン溶解量 (mg/mL) は、 対ォレイン酸: 0. 021、 対力プリル酸: 0. 1 43、 対イソステアリン酸: 0. 015、 対アセトン: 0. 044、 対ジメチル スルホキシド (DM SO) : 215、 対ジメチルァセトアミド: > 49、 対ジメ チルホルムアミド: >30、 対 NMP: ca.100であり、 溶解性でみれば NM Pよりも DMSOの方が数倍優れている。
本発明で使用される油性溶媒は、 皮膚に適用する外用剤として一般的に適用可 能な医薬上使用可能なものであって、 通常では、 水との 2成分系では相溶しない 溶媒成分からなる。
(a) 油性溶^!某と N—アルキル一 2—ピロリドンとの混和性
本発明では、 添加する N—アルキル一 2—ピロリドンと均一に混和可能な油性 溶媒であることが望ましい。 ここで、 油性溶媒は、 最終的な製剤中で添加する N 一アルキル— 2—ピロリドンと均一に混和可能であればよく、 後述するように、 油性溶媒全体の中には、 N—アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和し
PC画纏 39 た場合に完全に混和しないような油性溶媒が 1種以上含まれていても差支えな く、 このような態様はむしろ好ましい。
N—アルキル一 2—ピロリドンおよび油性溶媒を、 互いに均一に混和しうる量 比は、 ①用いる N—アルキル— 2—ピロリドンの量および②用いる油性溶媒の種 類により異なるが、 実験例 3に記載の方法により定めることができる。 たとえ ば、 ① NMP 20 %② MCTと流動パラフィンからなる油性溶媒の場合、 図 3 (b) より、 NMP 20%の場合の完全混合する組成領域 Iは、 MCT30%以 上かつ流動パラフィン 50%以下となる。 すなわち、 NMP : (MCT +流動パ ラフィン) =2 : (3以上 +5以下、 かつ合わせて 8) になるような量比とすれ ばよい。
本発明の油性外用剤において、 N—アルキル一 2—ピロリドンと互いに均一に 混和しうる量比である限り油性溶媒の含有量に特に制限は無いが、 好ましくは N —アルキル一 2—ピロリドンと油性溶媒を合わせて 50%〜99. 9%、 より好 ましくは 60%〜99. 5%の範囲である。
(b) 油性溶媒の有機性指標値
またビダラビンの皮膚透過性を向上させるためには、 有機概念図 (藤田他著、 系統的有機定性分析 (混合物編) 、 株式会社風間書房、 1974年発行) で規定され る油性溶媒の有機性指標値 (O) が 200以上、 好ましくは 400以上であるこ とが望ましい。 さらに望ましくは該油性溶媒の有機概念図で規定される無機性指 標値 (I) は、 上記有機性指標値を 1とするとき、 0. 5以下、 好ましくは 0. 3以下を満たすことである。
また、 上記の有機性指標値の条件に加えて、 無機性指標値で使用する油性溶媒
成分を規定する場合、 その値は通常 180以下、 好ましぐは 80以下である。 た だし、 該油性溶媒における NMPの溶解性の観点から、 油性溶媒成分の少なくと も 1種類の無機性指標値 I /有機性指標値 0の比率は 0. 05以上、 好ましくは 0. 08以上である。
有機概念図の定義は上記刊行物中などに詳細に記載されており、 その記載を本 明細書中にも記載されているものとするが、 簡略説明すれば、 有機性指標値 0は 炭素数 X 20、 分岐数 X (一 10) 等のスコアを加算して求める。 無機性指標値 Iはエステル結合数 X 60、 二重結合数 X 2、 水酸基数 X 100、 ケトン数 X 6 5等のスコアを加算して求める。 該定義に従う有機性および無機性の指標値を下 表に例示する。 なお NMPの有機性指標値は 100 (炭素数 5 X 20) であり、 無機性指標値は 145 (アミン性窒素数 1 X 70、 ケトン数 1 X 65、.環状数 1 X 10) であり、 I/Oは 1. 45である。
植物油や炭化水素類のような複数の成分の混合物からなる油性溶媒の場合、 最 も含有量の多い成分の値、 または含有成分の値の平均値 (含有量に応じた加重平 均) を、 有機性指標値、 無機性指標値として用いることができる。
表 3 有機性および無機性値
有機性 無機性
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有機' ノ ノレ Δ π U 4U π U π U 丄 丄 U(J ん リリ ィ 1 、ノマ0口 /パ \ ノ1 ~ノ Πレ ο
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また本発明で使用される油性溶媒は、 実用化にあたって、 皮膚刺激性が実質的 に問題とならないレベルの低刺激性であることが、望ましい。
本発明において、 油性溶媒または油性外用剤の皮膚刺激性は、 実施例で詳述す る、 Gad, S.C. and Chengelis, CP. の分類法に基づく一次刺激性インデックス (P.D.1.1: Primary dermal irritation index) が、 通常 2. 0以下、 好ましく は 0. 5以下、 さらに好ましくは 0. 3以下である。
本発明で使用される油性溶媒は、 上記のような特性を備えていれば必ずしも限 定されない。 例えば、 中鎖 (炭素数 4〜10) 脂肪酸トリグリセリド (MCT) (例えば、 トリイソオクタン酸グリセリン、 カプリル酸トリグリセリド、 カプリ ル酸カプリン酸トリグリセリド、 トリカプリリン) 、 長鎖 (通常炭素数 1 1以 上、 好ましくは炭素数 14以上) 脂肪酸トリグリセリド (例えば、 ツバキ油、 ダ ィズ油、 オリ一ブ油、 アルモンド油、 ゴマ油、 サフラワー油、 パーシック油など の植物油または化学合成された長鎖脂肪酸トリグリセリド) 、 中鎖脂肪酸一低級 アルコールエステル (例えば、 アジピン酸ジィソプロピル、 セバシン酸ジイソプ 口ピル、 セバシン酸ジェチル) 、 長鎖脂肪酸一低級 (炭素数 3以下) アルコール エステル (例えば、 ミリスチン酸イソプロピル、 パルミチン酸イソプロピル、 ィ ソステアリン酸イソプロピル、 ォレイン酸ェチル) 、 長鎖脂肪酸一高級 (通常炭 素数 12以上) アルコールエステル (例えば、 ミリスチン酸ォクチルドデシル ( MOD) 、 ォレイン酸ォクチルドデシル、 ォレイン酸ォレイル) 、 外用剤の基剤 として使用可能な炭化水素類 (例えば、 流動パラフィン、 軽質流動パラフィン、 スクヮラン、 スクワレン、 流動イソパラフィン、 ワセリン、 マイクロクリスタン ワックス、 ノ、°ラフィン) 、 シリコン油など力例示され、 上記特性に従って、 適宜
選択して用いることができる。
上記油性溶媒は 1種単独使用でも、 複数組合わせて併用してもよい。
なお実施例で後述するように、 上記 NM Pの共存下では、 基剤中における主薬 ビダラビンの溶解量向上の点からは、 油性溶媒を中鎖脂肪酸トリグリセリドとす る時の方が、 極性の低い長鎖脂肪酸エステルあるいは炭化水素類とするよりも圧 倒的に優れる。 しかしながら本発明では、 主薬の皮膚透過速度は必ずしもこのよ うな基剤中の主薬の溶解量に相関しないことから、 先行刊行物に開示されている 技術とは異なる技術である。 '
このような本発明に係る油性外用剤の好ましい態様例として、 N—アルキル一 2—ピロリドンとの混和性の低い油性溶媒成分を油性溶媒中に含む油性外用剤を 挙げることができる。 すなわち本発明は、 ビダラビン、 N—アルキル一 2—ピロ リドンおよび油性溶媒を含んでなり、 かつ前記油性溶媒が、 (a— 1 ) N—アル キル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和した場合に完全には混和しない油性 溶媒を少なくとも 1種含む態様の油性外用剤を提供する。
N—アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和した場合に完全には混和 しない油性溶媒 (a— 1 ) を用いることで、 皮膚刺激性が問題になる量の N—ァ ルキルー 2—ピロリドンを含む製剤の場合には皮膚刺激性を緩和し、 皮膚刺激性 は問題にならないが十分な皮膚透過性を発揮できない量の N—アルキル一 2—ピ 口リドンを含む製剤の場合は皮膚透過性を高めることが可能となる。
上記のような N—アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和した場合に 完全には混和しない油性溶媒 (a— 1 ) の例としては、 (b _ l ) 有機概念図で 規定される有機性指標値 2 0 0以上であり、 かつ無機性指標値 Z有機性指標値が
0. 05以上 0. 13未満である油性溶媒、 および (c) 外用剤の基剤として使 用可能な炭化水素類またはシリコン油が挙げられる。 有機概念図で規定される有 機性指標値 200以上であり、 かつ無機性指標値/有機性指標値が 0. 05以上 0. 13未満である油性溶媒 (b—l) の例としては、 長鎖脂肪酸一高級アル コールエステルが挙げられる。
外用剤の基剤として使用可能な炭化水素類は、 有機性指標値 200以上であ り、 かつ無機性指標値/有機性指標値が 0. 05未満であるものが例として挙げ られ、 具体的にはスクヮラン、 流動パラフィン等である。
本発明の油性外用剤は、 N—アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和 した場合に完全には混和しない油性溶媒 (a— 1) を少なくとも 1種含んでなる ことが好ましく、 かつ N—アルキル一 2—ピロリドンおよび医薬上使用可能な油 性溶媒を、 互いに均一に混和しうる量比で含有することが好ましい。 N—アルキ ルー 2—ピロリドンと、 当該油性溶媒を均一に混和するためには、 製剤中の N— アルキル一 2—ピロリドンの含有量を当該溶媒に混和可能な量に設定する力、、 N 一アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和した場合に完全には混和しな い油性溶媒 (a- 1) に、 N—アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和 した場合に完全に混和可能な油性溶媒 (a— 2) を組み合わせればよい。 (a— 1) のうち特に (c) は N—アルキル— 2—ピロリドンとの混和性が低いため、 (a— 2) と組み合わせて用いることが好ましい。 (b— l) は単独で用いるこ とも (a— 2) と組み合わせて用いることも可能である。
N—アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和した場合に完全混和可能 な油性溶媒 (a— 2) の例としては、 前述の有機概念図で規定される有機性指標
値 200以上であり、 かつ無機性指標値 Z有機性指標値が 0. 13以上である油 性溶媒 (b— 2) が挙げられる。 有機概念図で規定される有機性指標値 200以 上であり、 かつ無機性指標値/有機性指標値が 0. 13以上である油性溶媒 (b 一 2) の例としては、 中鎖脂肪酸トリグリセリド、 長鎖脂肪酸トリグリセリド、 中鎖脂肪酸一低級アルコールエステル、 長鎖脂肪酸一低級アルコールエステルが 挙げられる。
ある油性溶媒が N—アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和した場合 に完全に混和可能か否かは、 実験例 3に記載の方法により確認することができ る。
N—アルキル一 2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混和した場合に完全に混和可 能な油性溶媒 (a-2) と、 N—アルキル一2—ピロリドンと容量比 1 : 1で混 和した場合に完全には混和しない油性溶媒 (a_l) の好適な組み合わせの例と しては、 実施例に記載のような、 (a— 2) として中鎖脂肪酸トリグリセリドぉ よびミリスチン酸イソプロピルから少なくとも一種、 (a— 1) としてミリスチ ン酸ォクチルドデシル、 スクヮラン、 流動パラフィンおよびシリコン油から少な くとも一種、 という組み合わせが挙げられる。 (a— 2) と (a_l) の含有量 の比率は、 N—アルキル一 2—ピロリドンの量と (a— 2) と (a— 1) の種類 によって実験例 3に記載の方法により適宜定め得る。 混和性および主薬の溶解度 の観点からは (a— 2) の割合が多い方がよいが、 皮膚透過性および皮膚刺激性 の観点からは (a— 2) 1重量部に対して (a— 1) 1重量部以上となることが 好ましい。
本発明の油性外用剤は、 主薬、 NMPおよび上記油性溶媒のみからなる製剤で
あり得るが、 これらに加え、 外用剤に適度な硬さをもたせるため高級アルコール 類、 パルミチン酸デキストリンなどの油性ゲル化剤またはペースト化のための酸 化マグネシウムなどの固体粉末を、 賦形剤として基剤中に含ませることもでき る。 本発明の製剤にこのような賦形剤を用いる場合は、 本発明の効果を損なわな いように、 非親水性の成分を用いることが好ましい。
本発明の油性外用剤は、 主薬、 NM Pおよび上記油性溶媒のみからなる製剤で あり得るが、 これらに加えて、 皮膚透過性をさらに向上させるために有機酸およ び Zまたは有機酸エステルを含有することができる。 有機酸エステルは皮膚に吸 収された後に加水分解され有機酸を形成する。
本発明の油性外用剤中に含まれる有機酸としては具体的にアジピン酸、 ァスコ ルビン酸、 安息香酸、 クェン酸、 コハク酸、 サリチル酸、 酒石酸、 ソルビン酸、 フマル酸、 マレイン酸、 マロン酸、 リンゴ酸などを挙げることができる。 製剤製 造時の混和性の観点から、 室温で固体である有機酸を用いることが好ましい。 本発明の油性外用剤中の上記有機酸の含有量は、 特に規定されないが、 0 . 1 ~ 2 0 %の範囲であることが望ましい。 さらに有機酸の配合量が多すぎると塗布 時の展延性が悪化し、 少なすぎるとビダラビンの透過促進効果が得られないため 1 〜7 %の範囲内であることがより望ましい。
本発明の油性外用剤中に含まれる有機酸エステルとしては具体的にサリチル酸 グリコ一ル、 ァスコルビン酸ステアリン酸エステル、 ァスコルビン酸パルミチン 酸エステル、 サリチル酸メチルなどを挙げることができる。 室温で液体の有機酸 エステルの配合量は製剤に混和する量とする必要がある。
本発明の油性外用剤中の上記有機酸エステルの製剤中の含量は、 特に規定され
ないが、 5〜20%の範囲であることが望ましい。 さらに有機酸エステルの量が 多すぎると油性基剤との混和性が悪くなり、 少なすぎるとビダラビンの透過促進 効果が得られないため 10〜15%の範囲内であることがより望ましい。
さらに本発明の油性外用剤は、 水および炭素数 3以下の低級アルコール以外で あって、 本発明の効果を損なわない範囲であれば、 グリセリン、 乳化剤、 メチル パラベン、 フエニルパラベンなどの防腐剤、 顔料、 香料など、 外用剤といえば一 般的に添加される各種成分を適宜必要に応じて含有することができる。 本発明の 外用剤において、 主薬、 N—アルキル一 2—ピロリドン、 油性溶媒、 有機酸、 有 機酸エステル、 非親水性の賦形剤以外の添加物で、 親水性または両親媒性の成分 は、 製剤中合わせて 10%以下、 好ましくは 5%以下、 より好ましくは 2%以下 であることが望ましい。 実施例
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、 本発明はこれら実施例に限定 されるものではない。 以下に略称で記載する成分を示す。
MCT:中鎖脂肪酸トリダリセリド
MOD: ミリスチン酸ォクチルドデシル、
I PM: ミリスチン酸イソプロピル、
NMP : N—メチルー 2—ピロリドン、
DMSO:ジメチルスルホキシド
なお、 MCTとしてパナセート 810 (日本油脂) を用いた。
(実験例 1)
各種基剤中への主薬 (ビダラビン) の溶解度を求めた。
<実験方法 >
後述する実施例製剤を示す表 5中、 参考例 1、 実施例 3、 4、 6、 7、 9、 1 0、 11、 12、 比較例 2および 5に示す所定の組成になるように、 各製剤原料 を試験管に秤り取り、 37. 0±0. 1 の恒温室にて、 振盪撹拌し 1時間以上 静置した。 これを 3回繰り返し、 ー晚静置した後、 同恒温室中にて上清を取り、 0. 1 mフィルタ一を通し、 このろ液の lmLを正確に試験管に取った。
実施例および参考例のものについては、 これに酢酸ェチル 2 m Lを加えた後、 4mLの 0. 1N塩酸にて 3回抽出し、 これを正確に 20 mLとしたもののビダ ラビン濃度を高速液体クロマトグラフィー法にて定量分析した。
比較例のものについては、 ろ液を 10倍希釈して高速クロマトグラフィー法に て定量分析した。
<結果と考察 >
37での基剤中におけるビダラビン溶解量は、 表 5に示す通りである。 油性基. 剤系中では、 NMP濃度が増加するにつれ、 著しくビダラビンの溶解量は上昇し ていた。 一方、 NMPZMCTの混液に炭化水素のスクヮランや長鎖脂肪酸エス テルの MODを添加すると、 溶解量が著しく低下する。 すなわち、 基剤中におけ る主薬の溶解量向上の点からは、 炭化水素類の添加、 長鎖脂肪酸エステルのよう な極性の低い添加剤の使用は好ましくない。 しかしながら本発明の技術は、 後の 実験例に示す様にこのような基剤中の主薬の溶解量と主薬の皮膚透過速度は相関 しない。
(実験例 2)
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<NMPの移行性確認 >
本発明の手段は、 主薬を皮膚の最大のバリアーである角質層中に効果的に溶解 させるのに、 NMPを効率的に製剤より皮膚表面に分配させることのできる処方 系の確立である。 ここで、 NMPの製剤から皮膚への分配について、 製剤の基剤 は水系もしくは油系のいずれかが適するかを考察するため、 NMP、 水および油 (基剤例として MCT) の 3成分系の 37. 0°Cにおける相平衡図 (図 1) を作 成した。 そして、 完全に混和することのない組成領域におけるタイラインを求 め、 水と油両存在下への NMPの分配の傾向を解析した。
<実験方法 >
NMP、 水、 油をそれぞれ適当量試験管に秤り取り、 37. 0±0. 1°Cの恒 温室にて充分に振盪撹拌した。 これを 30分以上静置した後、 分離の有無を確認 した。 これを繰り返し、 全ての液力完全に相互溶解する組成と分離する組成を求 め、 このような組成点を幾つか求め、 本 3成分系の溶解曲線を作成した。 また、 本系の 2相領域のタイラインは、 試験管内で 2相に分離し、 12時間以上静置し たものの上相 (油相) と下相 (水相) の各相を採取し、 この液中に含まれる NM P濃度をガスクロマトグラフィー法で求め、 溶解曲線上のタイラインを形成する 組成点を求めた。
<結果と考察 >
図 1に NMP、 水および油 (MCT) の 3成分系の相平衡図および 2相領域に おける夕イラインを示す。 ここで、 本相図中の実線は完全に 3成分が混じり合い 1液相になる領域と油相と水相の 2液相をなす 2相領域との境界を表す。 また、 2相領域中の破線はこの 2相領域のいくつかのタイラインの例を表す。
この結果より、 NMP、 水および MCTは、 NMPと水および NMPと MCT は完全に混和するが、 3成分の混合では、 完全に混和する組成領域は極めて狭 レ^ すなわち、 NMPは MCTまたは水の両者と相互溶解するが、 コソルベント (共溶媒) にはなりえない。 そして、 NMPは、 夕イラインにより水の少ない組 成領域において極端に水相に分配することがわかる。 したがって、 NMPを含む MCT溶液が水分と接したとき、 その NMPは油水界面で極めて高濃度水溶液を なす。 これは、 NMPZMCT溶液が皮膚に塗布された場合、 皮膚表面で水和し た部分の NMP濃度を高める事ができることを示唆している。 そしてこのような 部分においては、 主薬のビダラビンは NMP濃度の高い水溶液に極めて溶解しや すい事実から、 皮膚上に存在したビダラビンの皮膚への浸透が進むと考えられ た。
一方、 NMP水溶液が皮膚に塗布されたときには、 皮膚上における NMP濃度 は水溶液以上の NMP濃度になりえない。 むしろ、 その濃度については、 角質層 は脂溶性にも富むため、 製剤の NMP濃度よりも、 ずっと低く抑えられる。 ここ には、 油系で達した溶解量のビダラビンよりも少ない量しか溶解できない。 これ らの観点から理論的に基剤系には油系を用いることが適していると考えられる。 また、 油と水に対しコソルペンシーを示す添加剤の製剤への多量の添加は、 水相 への NMPの分配量を下げる傾向を示すので、 NMPの皮膚上における濃度上昇 を確保するには、 好ましくない。 また、 NMP分子を皮膚により効果的に拡散さ せるためには、 NMPの活量 (自由エネルギ一) をより高めておく必要がある。
NMPは水に溶解した時、 油に溶解した時よりも、 明らかに高い混合熱を発生 することが観察される。 すなわち、 油性基剤で製剤として調製した時の NMPの
活量は明らかに水性基剤で調製した時の活量より大きいことが判り、 ここからも NMPの皮膚への効率よい分配が可能であることが理解できる。
上記の考察を説明するための概念図を図 2に示す。 (a) は油性基剤からの皮 膚水和部分への N M P分配概念図、 ( b ) は油性基剤からの皮膚脂溶性部分への 分配概念図、 (c) は水性基剤からの皮膚水和部分への分配概念図、 (d) は水 性基剤からの皮膚脂溶性部分への分配概念図である。
(実験例 3)
< NMPと油性基剤の相互溶解性の確認 >
製品としての医薬品は、 含量や効力が一投与量において、 いかなる時も一定で ある事が強く求められる。 この観点から、 本発明の NMPの配合についても S剤 中における含量均一性を保つ必要がある。 すなわち、 保存中の分離、 偏析を生じ させないためにも、 NMPと油性基剤が完全に混和することが製剤設計上の一要 件である。 そこで、 NMPと油性基剤が完全に混じり合う組成を確認した。 ま た、 油性基剤を炭化水素類と脂肪酸エステル系、 および炭化水素とトリグリセリ ド系としたときの例として MCT/NMP/流動パラフィン、 I PM/NMP/ 流動パラフィンの各 3成分系の相図を作成し、 NMPが油性基剤に完全に混合す る組成領域を明らかにした。
<試料〉
NMPおよび油性基剤 (MCT、 トリイソオクタン酸グリセリン、 オリ一ブ 油、 ダイズ油、 I PM、 MOD, スクヮラン、 流動パラフィン、 流動パラフィン (軽質) 、 シリコン油) を用いた。
ぐ実験方法 >
室温で NMPと試験する油を各々所定の組成になるようにマイヤーに秤り取 り、 その組成による溶解の有無を確認した。 また、 相図 (図 3) の作成について は、 MCTまたは I PMと流動パラフィンを適当な比率で、 合わせて約 20 gと なるようにとり、 これに NMP O. 5 gを加え、 37。C±0. 1°Cの恒温室にて 充分に振盪撹拌した。 これを 30分以上静置した後、 分離の有無を確認した。 分 離が認められないときは、 さらに NMP O. 5 gを加え、 分離の有無を確認し た。 これを分離が認められるまで繰り返し、 油が NMPに完全に溶け合わなくな る NMP添加量を求めた。 そして、 この組成とこの NMP添加一回前の組成の中 間を完全混合する組成領域と 2相に分離する組成領域の境界とした。
<結果と考察 >
NMPと各油性基剤の混和性を表 4に示す。 また、 NMPと各油性基剤混合系 の相図を図 3 (a) 〜 (b) に示す。
NMPは、 様々な物質を溶解する溶媒として知られているが、 スクヮランや流 動パラフィンといった非極性の基剤とはあまり混和しない。 一方、 MCTや I P Mのようなエステル基を有した基剤とは容易に混和する。 そこで、 スクヮランや 流動パラフィンのような皮膚上の保湿作用をもたらす基剤の油性基剤としての配 合に関して、 基剤中で NMPを分離させないために、 MCTなどのトリダリセラ ィドゃ、 I PMなどの脂肪酸エステル類などの極性を有した油性基剤を配合する 事が有効であった。
表 4 油性溶媒と N M Pの溶解性
〇:完全に混和
X :相分離
一:未確認
(実験例 4 )
ぐ実施例製剤の調製 >
ここに本発明製剤の調製方法を示す。 本調製方法および成分比は例として示す ものであって、 本発明はこれに制約されるものでない。 なお、 処方中の数値は、 各成分の比率を重量で表しており、 また、 本例示文中の部数も同様に各成分の比 率を重量で表している。
( a ) ビダラビン吸収促進懸濁液製剤の調製
表 5中、 実施例 1 1 4および参考例 1の製剤を調製した。
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ぐ調製方法 >
実施例 1〜 1 4および参考例 1の各処方成分を正確な組成比率にてガラス製サ ンプル瓶に抨量し、 これを充分に振盪撹拌することによりビダラビン油性懸濁液 を得た。 なお、 分散剤の例として脂肪酸デキストリン (パルミチン酸デキストリ ン (レオパール一 K L、 千葉製粉) を配合するときには、 脂肪酸デキストリンを 油性溶媒中に分散した後、 7 0〜8 0 まで加温し、 十分に撹拌し脂肪酸デキス トリンを油性溶媒中に溶解した後にこれを冷却することにより脂肪酸デキストリ ンを配合したビダラビン油性懸濁液を得た。
( b ) ビダラビン吸収促進ペースト
表 5 (つづき 1 ) 中、 実施例 1 5〜2 2の製剤を調製した。
<調製方法 >
実施例 1 5〜2 2の各成分を各組成比でガラスビーカ一に秤量し、 ゆっくりと 撹拌する。 まず、 粉体中にダマを生じるがさらに撹拌していくと、 ペースト状に 変化する。 これをさらに全体が均一になるまで練合することによりビダラビン ペーストを得た。
( c ) ビダラビン吸収促進油性ゲル剤
表 5 (つづき 2 ) 中、 実施例 2 3〜 3 0の製剤を調製した。
<調製方法 >
NM Pを含んだ油性基剤をビーカ一に秤り取り、 脂肪酸デキストリン( ゾ \°ルミチ ン酸デキストリン) を加えて油性基剤に充分に分散させた。 これを 7 0〜 8 0 °C 程度に加温し、 これを攪拌し分散された脂肪酸デキス卜リンを油性基剤に溶解し た。 この後この中にビダラビンを加え均一になるまで攪拌した。 最後にこれを室
温まで冷却、 静置することにより油性のビダラビンゲルを得た。 なお実施例 2 5 〜2 9については、 粉碎した有機酸を加え、 実施例 3 0については有機酸エステ ルを加え、 均一に分散させた。
<比較例製剤の調製 >
表 5 (つづき 3 ) 中、 比較例 1〜6の製剤を調製した。
(比較調製例 1 )
ジメチルスルホキシド 8 0部、 水 2 0部およびビダラビン 3部をガラス製サン プル瓶に秤量し、 これを充分に振盪撹拌し、 ビダラビンジメチルスルホキシド懸 濁液を得た。
(比較調製例 2 )
NM P 8部、 水 8 9部およびビダラビン 3部をガラス製サンプル瓶に秤量し、 これを充分に振盪撹拌し、 ビダラビン懸濁液を得た。
(比較調製例 3 )
白色ワセリン 9 0部、 流動パラフィン 7部をビーカ一に秤り取り、 7 0 °Cに加 熱して溶解し、 これにビダラビン 3部を加え、 ホモミキサーで均一に分散し、 こ れをスパーテルで撹拌しながら室温まで冷却し、 ビダラビン軟膏を得た。
(比較調製例 4〜 5 )
中鎖脂肪酸トリグリセリドまたは水 9 7部をガラス製サンプル瓶に秤量し、 こ れにビダラビン 3部を加え、 このビダラビンが均一に分散するまで振盪撹拌し、 ビダラビン懸濁液を得た。
(比較調製例 6 )
セ夕ノール 1 0部、 ミリスチン酸イソプロピル 5部、 自己乳化型モノステアリ
ン酸グリセリン 2部、 スクヮラン 4部、 メチルパラベン 0. 1部およびプロピル パラベン 0. 1部をビーカーに秤量し、 80°Cまで加温し、 スパ一テルで撹拌し これらを完全に溶解した。 これに、 グリセリン 7部および水 68. 8部を別の ビ一力一に秤り取り Ί 0°Cまで加温したものを加え、 ホモミキサ一で乳化した。 これを、 スパーテルで撹拌しながら冷却することによりビダラビンクリームを得 た。
表 5
表 5 (つづき 1)
ビダラビンペーストの処方
成分 実施例 15実施例 16実施例 17実施例 18実施例 19実施例 20実施例 21実施例 22 ビダラビン 3 3 3 2 3 3 3 3
N-メチル -2-ピロリドン 15 15 18.75 18.9 15 15 15 12.5 中鎖脂肪酸トリグリセリド 45 20 56.25 28.3 30 37.5 ミリスチン酸イソプロピル 42 42
ミリスチン酸ォクチルドデシル 20
スクヮラン 12.25 18
流動パラフィン 12.25
シリコン油 30
ステアリン酸マグネシウム 40 40 10
酸化マグネシウム 25 26.3
合成ゲイ酸アルミニウム 25 25 15
炭酸カルシウム 50 パルミチン酸デキストリン
Flux (ara'A eq./pg/cm2 . hiv 0.42
Primary Dermal Irritation Index* 0.2 0.1 0.2
表 5 (つづき 2)
油性ゲルの処方
成分 実施例 23 実施例 24 実施例 25 実施例 26 実施例 27 実施例 28 実施例 29 実施例 30 ビダラビン 3 3 3 3 3 3 3 3
N-メチレ -2-ピロリ ドン 10 7 8 8 8 8 8 8 中鎖脂肪酸トリクリセリド 37.5 75 37 36.5 34.5 32 34.5 59 ミリスチン酸ィソプ口ピノレ
リンゴ酸 1 5 10
マレイン酸 5
サリナル酸クリコール 15 ミリスチン酸ォクチルドデシル
スクヮフン
流動パラフィン 37.5 37 36.5 34.5 32 34.5
シリコン油
ステアリン酸マグネシウム
酸化マグネシウム
合成ケィ酸アルミニウム
炭酸カルシウム
パルミチン酸デキストリン 15 15 15 15 15 15 15 15
Flux (ara-A eq. 1 mcg/cm2 · hr) 0.19 0.23 0.36 0.82 0.37 0.88 1.24
Primary Dermal Irritation Index* 0.0
表 5 (つづき 3)
処方
分 J-U¾X. |7'J ヒ卜齢例 9ヒ卜龄例 ^ヒ卜龄例 4 1:卜齢例 5 t:卜齡 ί fi ビダラド 1 ン o Q o q Q
ジメチ Jレス Jレ; キシ « ijny
Ν メチル—2—ピロリドン 8
中鎖脂肪酸トリグリセリド 97
ミリスチン酸イソプロピル 5 スクヮラン 4 白色ヮセリン 90
セ夕ノール 10 流動パラフィン 7
自己乳化型モノステアリン酸グリセリン 2 メチルパラベン 0.1 プロピルパラベン 0.1 グリセリン 7 水 20 89 97 68.8 基剤へのビダラビン溶解度 (pg/mL) 1850 930
Flux (ara-A eq. p.g/cm2 ' hr) 2.84 0.04 N.D. N.D. N.D. N.D.
Primary Dermal Irritation Index* 0.8
„〜ra
PCT/JP03/05539
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(実験例 5)
くビダラビンの皮膚透過性評価 >
く試料 >参考例 1および実施例 2〜 4、 6〜 12の油性懸濁液、 実施例 18およ び 24〜 30のペーストならびに油性ゲル、 比較例 1 ~ 6の懸濁液およびクリ一 ム。
ぐ実験方法 >
まず、 ヘアレスラット雄 (HWY/S 1 c, 9週齢 250〜300 g) の腹 部より皮膚を摘出し、 これより皮下組織を丁寧に除去した。 ここで試料形態がぺ 一スト、 油性ゲル、 軟膏のものについてはこの皮膚に正確に 0. l g (実施例 3 0は 0. 2g) を塗布し、 これを直ちに 37. 0°Cに保温したフランツセル (有 効面積: 2. 54 cm2 、 レセプ夕一容積) に装着した、 このレセプ夕一側に高 圧蒸気滅菌したリン酸緩衝液 (PBS (-): pH7. 4) を注入し、 ス夕一ラーで 撹拌した。 また、 試料形態が懸濁液のものについては、 同様に処理した皮膚をフ ランツセルに装着し、 レセプ夕一側に PBSを注入したのち、 ドナー側に正確に l g添加した。 次に、 それぞれ所定の時間毎 (1、 2、 4、 6、 8時間) に 20 ◦ Lのレセプ夕一液をサンプリングした。 そして、 このサンプリング液中のヒ ポキサンチン 9 - i3- D - ァラビノフラノシド (ビダラビンの代謝物) 濃度を高速 液体クロマトグラフィ一法にて測定し、 製剤から吸収されたビダラビン量に換算 した。 また、 吸収促進の度合いを比較するためには、 ビダラビンの皮膚透過量 (Flux:単位 gZcm2 · hr) を用いた。 この Fluxは、 時間に対するビダラビ ンの皮膚単位面積あたりのリザ一バー液移行量が直線となり吸収が定常状態とし て観測されるポイントについて直線近似してこの傾きより求めた。
<結果〉
図 4 (a) に実施例 4および比較例 2、 図 4 (b) に実施例 18、 実施例 24 および比較例 6の各製剤からのビダラビンのヘアレスラット皮膚累積透過量の時 間推移を示す。
また、 各実施例の皮膚透過速度 (Flux) を表 5中に示す。
• NMPの配合効果
NMPを配合しないビダラビンの水および油性懸濁物、 油性軟膏またはクリ一 ムからは、 全く皮膚透過性が認められない。 これに対し、 NMPを配合する事に よって、 ビダラビンの皮膚透過を認めた。 また、 NMP配合量 8 %において油性 基剤の実施例 8と懸濁水溶液の比較例 2では、 27倍以上のビダラビン吸収速度 の差が確認された。
•炭化水素類または脂肪酸エステルの添加効果
NMPを 8%配合した MCT基剤の処方 (実施例 4) に対して、 NMPの配合 量は 8%のままで炭化水素であるスクヮランをさらに配合した実施例 10〜12 において、 ビダラビンの皮膚透過量は増加した。 特に、 スクヮランを 71. 2 % 配合した処方 (実施例 12) では、 実験例 1で確認した基剤中へのビダラビンの 溶解度は、 実施例 4の処方に対して 1Z10以下になるにも拘らず、 ビダラビン の皮膚透過速度は 1. 8倍以上に上昇した。 また、 MCTより極性の低い脂肪酸 エステルであるミリスチン酸ォクチルドデシル (MOD) を配合した処方 (実施 例 6〜8) も同様で、 MCTだけを油性溶媒とした処方実施例 4 よりもビダラビ ンの皮膚透過量は上昇した。
この知見は、 本発明処方系の吸収が、 NMPの配合により基剤への主薬の溶解
度を上げることにより経皮吸収性を向上させる製剤技術 [例として、 Etenzamide の経皮吸収に及ぼす N-Methy卜 2- pyrrolidone の効果:安野ら, 薬剤学 61 (2) , 154-162 (2001) ] のものとは異なり、 基剤への溶解度に必ずしも依存しない技 術であることを示している。
·有機酸および有機酸エステルの配合効果
実施例 27の NMP 8 %およびリンゴ酸 5 %を配合した油性ゲルのビダラビン 透過量は、 実施例 25の NMPを 8%配合した油性ゲルの 3倍以上となった。 同 様に実施例 29の NMP 8%およびマレイン酸 5%を配合した油性ゲルのビダラ ビン透過量も、 実施例 25の NMPを 8%配合した油性ゲルの 3倍以上となつ た。 また実施例 30の NMP 8%およびサリチル酸グリコール 1 5%を配合した 油性ゲルのビダラビン透過量は、 実施例 25の NMPを 8 %配合した油性ゲルの 5倍以上となった。
(実験例 6)
基剤による皮膚障害性についての検討
評価試料:実施例 9および比較例 1
<方法 >
実験例 2の実施例 9および比較例 1において薬液滴下 8時間後、 フランッセル より試験皮膚をとり、 これをホルマリンにて固定後、 定法に従いパラフィン切片 を作成し、 これにへマトキシリン ·ェォジン染色処理し、 顕微鏡観察に供した。 また、 コントロールとしてへアレスラットより摘出直後の皮膚も同様に処理、 観 察した。
ぐ結果と考察 >
比較例 1については、 実験後において表皮基底細胞層および有棘層の細胞に高 頻度の核濃縮が認められ、 製剤により表皮が障害を受けていることが確認され た。 一方、 実施例 9については、 表皮の基底細胞層から角質層までの細胞にコン トロールと比較してなんら変化は認められなかった。 すなわち、 ジメチルスルホ キシド製剤は、 表皮に障害を与えるが、 本技術によりこれと同程度のビダラビン の皮膚透過性が得られる製剤は、 表皮へ障害を与えない。
(実験例 7 )
皮膚刺激性試験
皮膚刺激性の評価として実施した単回による投与の一次刺激性試験の結果を示 す。
試料:参考例 1、 実施例 1〜5、 1 3、 1 5、 1 7、 2 2および 2 3、 ならび に比較例 1
<方法 >
製剤の皮膚への刺激は、 ゥサギ (ニュージーランドホワイト種: K b 1: N Z W, 体重約 3 . 4 k g) 背部に評価検体を貼付する事によって評価した。
投与開始 1 0日程度前に躯幹背部を電気バリカンで刈毛し、 除毛クリームを用 いて除毛し、 この部分を洗、净した。 投与は、 被験物質 0 . 5 gもしくは 0 . 5 m Lをフランネルパッチに塗布し、 これをゥサギ背部に貼付した。 貼付した後、 医 療テープで固定し、 2 4時間暴露させた。 皮膚一次刺激性インデックス (P. D. I. I. ) は、 被験物質投与部位のパッチ除去後、 1、 2 4および 4 8時間における紅 斑と痂皮形成および浮腫形成の各点数を合計し、 これを 9で除して算出した。 皮 膚反応の評価基準は、 「高瀬及び小川:新しい皮膚の生理と安全性、 1 7 6頁、
静至書院 (1993) 」 に従った。 皮膚刺激性の分類法に関しては、 ギヤッド及び チェンジェルス (Gad,S.C.SChengelis,C.P. (1988) ) [Gad, S.C. and Chengeli s, CP. (1988) Tests for Dermal Irritation and Corrosion. In Acute Toxic ology Testing Perspectives and Horizons", pp.29-50, The Telford Press, C aldwell, New Jersey.] の分類法に基づいて、 P. D.1.1. = 0を無刺激物、 0. 0 より大きく 0. 5以下が無視できる程度の刺激物、 0. 5より大きく 2· 0以下 が軽度の刺激物、 2. 0より大きく 5. 0以下が中程度の刺激物、 5. 0より大 きく 8までがひどい刺激物と判定した。
<結果 >
油性懸濁剤については、 基剤が MCTのみで NMPを 2 5%配合した実施例 3 では、 軽度であるが刺激が発生している。
これに対して、 同様に NMPを 25%配合した油性懸濁剤でも基剤に流動パラ フィン (実施例 1 3 ) もしくはミリスチン酸ォクチルドデシル (実施例 5 ) を配 合することによりこの刺激が抑制された。 また、 油性ゲル製剤およびペースト製 剤については刺激を生じない。 これに対し、 DMSO製剤の比較例 1では、 刺激 が生じている。 これら結果を表 5中に示す。
(実験例 8) 製剤のにおいについて、 その使用性を DMSO製剤と比較
試料:実施例 12、 1 5、 18、 23および比較例 1
<方法 >
各実施例の製剤をガラス容器に取り、 成人男性 3名および女性 3名の 6名のパ
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ネラーに対し、 製剤の臭いを嗅がせた。 そして、 このときの外用剤としての印象 を、 抵抗がない: 3点 少し臭いが気になるが抵抗はない: 2点、 できれば投与 を避けたい: 1点、 投与しない: 0点とスコア化した。 そして、 各実施例につき その平均点を求めた。
<結果 >
比較例の DM S O製剤については、 臭いにより使用性が悪く、 医薬品としてコ ンプライアンスの低下を示唆する結果であつたが、 これに対し本発明の実施例 1 2、 1 5、 1 8及び 2 3については、 医薬品の製剤
持できるであろう結果を得た。
表 6
本発明によれば、 皮膚浸透性または皮膚透過性に優れたビダラビン油性外用剤 が提供される。 また、 好ましい態様においては、 低皮膚刺激性および/または優 れた使用性をも併せもつ上記外用剤が提供可能となる。