以下、図面を参照して、この発明の一実施の形態について説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付して、その説明を適宜省略又は簡略化する。また、各図に記載の構成について、その形状、大きさおよび配置等は、この発明の範囲内で適宜変更することができる。
実施の形態1.
以下、実施の形態1について説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の外観図である。図2は、図1のスクロール圧縮機を側面から見たときの外観図である。図3は、図2のスクロール圧縮機のX−X’断面を矢印方向から見たときの断面図である。図4は、この発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の一部構成の分解斜視図である。なお、図3においては、シェルおよび圧縮機構等、構成の一部は断面で示しているが、その他の構成は外観図として図示している。
スクロール圧縮機は、シェル1と、メインフレーム2と、スラストプレート3と、圧縮機構部4と、駆動機構部5と、サブフレーム6と、クランクシャフト7と、ブッシュ8と、を備えている。この実施の形態1の圧縮機は、クランクシャフト7の中心軸が地面に対して略垂直の状態で使用される、いわゆる縦置型のスクロール圧縮機である。以下では、図中の上方向の矢印側を上側としての一端側U、下方向の矢印側を下側としての他端側Lと称して説明する。
シェル1は、金属などの導電性部材からなる両端が閉塞された筒状の筐体であり、メインシェル11と、アッパーシェル12と、ロアシェル13と、吸入管14と、吐出管15と、給電部16と、固定台17と、を備えている。メインシェル11は、円筒状の中空な管である。アッパーシェル12は、略半球状の蓋体であり、その一部がメインシェル11の一端側Uにおいてろう付け等により接続され、メインシェル11の一方の開口を密封している。ロアシェル13は、略半球状の底体であり、その一部がメインシェル11の他端側Lにおいて、溶接等により接続され、メインシェル11の他方の開口を密封している。吸入管14は、冷媒をシェル1の内部に導入するための管であり、シェル1の内部空間と連通するように、メインシェル11の側壁に設けられた孔に、一部が挿入された状態でろう付け等により接続されている。吐出管15は、冷媒をシェル1の外部に吐出するための管であり、シェル1の内部空間と連通するように、アッパーシェル12の上部に設けられた孔に、一部が挿入された状態でろう付け等により接続されている。
給電部16は、スクロール圧縮機に給電する給電部材であり、メインシェル11の外側壁に設けられている。給電部16は、カバー161と、給電端子162と、配線163と、を備えている。カバー161は、有底開口のカバー部材である。給電端子162は、金属部材からなり、一方がカバー161に囲まれるように設けられ、他方がメインシェル11の内部に設けられている。配線163は、一方が給電端子162と接続され、他方が後述する駆動機構部5のステータ51と接続されている。固定台17は、シェル1を支える支持台である。固定台17はそれぞれにネジ孔が形成された複数の脚部を有しており、それらのネジ穴にネジをねじ込むことによって、スクロール圧縮機を空調室外機の筐体等の他の部材に固定可能になっている。
メインフレーム2は、中空な金属製のフレームであり、シェル1の内部に設けられ、後述する圧縮機構部4の揺動スクロール42を摺動自在に保持している。メインフレーム2は、本体部21と、平坦面22と、収容部23と、軸孔24と、吸入ポート25と、返油孔26と、返油管27と、を備えている。
本体部21は、メインフレーム2を構成する主要な部分である。平坦面22は、本体部21における一端側Uに形成され、収容部23を中心に配置する環状を呈している。収容部23は、シェル1の長手方向、すなわちクランクシャフト7の軸方向に沿って、メインフレーム2の径方向の中央に形成されている。収容部23は、図4に示すとおり、オルダム収容部231と、ブッシュ収容部232と、第1オルダム溝233と、で構成されている。オルダム収容部231は、収容部23の一端側Uに設けられている。ブッシュ収容部232は、収容部23の他端側Lに設けられ、オルダム収容部231と連通している。第1オルダム溝233は、本体部21および平坦面22の一部をえぐるように形成されたキー溝であり、一対設けられ、オルダム収容部231と連通している。軸孔24は、収容部23の他端側Lに設けられ、ブッシュ収容部232と連通している。すなわち、収容部23および軸孔24により、メインフレーム2の上下方向に貫通し、かつ一端側Uに向かって段状に空間が広くなる空間が形成されいる。なお、この軸孔24が形成されているメインフレーム2の部分は、クランクシャフト7を支持する主軸受部として機能する。
吸入ポート25は、圧縮機構部4に冷媒を供給するための孔であり、メインフレーム2の平坦面22の外端側に、上下方向に貫通して形成されている。返油孔26は、メインフレーム2における他端側Lに形成され、ブッシュ収容部232と連通している。この返油孔26には、収容部23に溜まった潤滑油をロアシェル13の内側の油溜めに戻すための返油管27が挿入されている。なお、吸入ポート25、返油孔26および返油管27は、一つに限らず、複数設けられても良い。
スラストプレート3は、スラスト軸受として機能する鋼板系の薄い金属板であり、メインフレーム2の平坦面22に配置され、圧縮機構部4のスラスト荷重を支持する。スラストプレート3は、切欠き31、を備える。切欠き31は、リング状のスラストプレート3の外周の一部を切欠く部分であり、メインフレーム2の吸入ポート25に対応して配置される。この際、切欠き31は、吸入ポート25を覆わないよう、吸入ポート25と同じ形状か、それよりも大きく形成されている。
圧縮機構部4は、冷媒を圧縮する圧縮機構である。圧縮機構部4は、固定スクロール41と、揺動スクロール42と、オルダムリング43と、吐出弁44、第1バイパス弁45、46と、を備えており、これらスクロールにより圧縮室47が形成される。
固定スクロール41は、鋳鉄等の金属からなり、第1台板411と、第1渦巻体412と、チップシール413と、吐出ポート414と、第1バイパスポート415、416を備えている。第1台板411は、円盤状の基板である。第1渦巻体412は、第1台板411における他端側Lの面から突出して形成された渦巻状の歯である。チップシール413は、例えば硬質プラスチックからなり、第1渦巻体412の先端に形成された溝に設けられている。吐出ポート414は、第1台板411の略中央に、その厚み方向である上下方向に貫通して形成された孔である。第1バイパスポート415、416は、第1台板411に、その厚み方向である上下方向に貫通して形成された孔である。詳細は、後述する。
揺動スクロール42は、アルミニウム等の金属からなり、第2台板421と、第2渦巻体422と、チップシール423と、筒状部424と、第2オルダム溝425と、を備えている。第2台板421は、円盤状の基板である。第2渦巻体422は、第2台板421における一端側Uの面から突出して形成された渦巻状の歯である。チップシール423は、例えば硬質プラスチックからなり、第2渦巻体422の先端に形成された溝に設けられている。筒状部424は、第2台板421の他端側Lの面の略中央から突出して形成された円筒状のボスである。筒状部424の内周面には、後述するスライダ81を回転自在に支持する揺動軸受、いわゆるジャーナル軸受が、その中心軸がクランクシャフト7の中心軸と平行になるように設けられている。第2オルダム溝425は、第2台板421の他端側Lの面に形成された長丸形状のキー溝である。第2オルダム溝425は、筒状部424を挟んで一対対向するように設けられている。一対の第2オルダム溝425は、それらを結ぶ線が、一対の第1オルダム溝233を結ぶ線に対して、直交する関係になるように配置される。
オルダムリング43は、揺動スクロール42が自転することを防止するための部材であり、リング部431と、第1キー部432と、第2キー部433と、を備えている。リング部431は、環状であり、メインフレーム2のオルダム収容部231に設けられている。第1キー部432は、リング部431の他端側Lの面に設けられている。第1キー部432は、一対で構成され、メインフレーム2の一対の第1オルダム溝233に各々収容される。第2キー部433は、リング部431の一端側Uの面に設けられている。第2キー部433は、一対で構成され、揺動スクロール42の一対の第2オルダム溝425に各々収容される。揺動スクロール42の第2オルダム溝425をオルダムリング43の第2キー部433に合わせることで、揺動スクロール42の第2渦巻体422の回転方向の位置が決まる。つまり、オルダムリング43により、メインフレーム2に対して揺動スクロール42が位置決めされ、メインフレーム2に対する第2渦巻体422の位相が決定する。
吐出弁44は、第1台板411に設けられ、通常時は閉状態であるが、吐出ポート414と連通する圧縮室47の冷媒が所定の圧力に達したときに、吐出ポート414を開状態にする弁体である。第1バイパス弁45、46は、第1台板411に設けられ、通常時は閉状態であるが、第1バイパスポート415、416と連通する圧縮室47の冷媒が所定の圧力に達したときに、第1バイパスポート415、416を開状態にする弁体である。なお、吐出弁44および第1バイパス弁45、46の一端側Uには、図示しない弁押さえが設けられており、この弁押さえにより、弁のリフト量が制限される。
圧縮室47は、固定スクロール41の第1渦巻体412と、揺動スクロール42の第2渦巻体422と、を互いに噛み合わせるとともに、第1渦巻体412の先端、チップシール413および第2台板421と、第2渦巻体422の先端、チップシール423および第1台板411と、でシールすることにより、形成される。圧縮室47は、スクロールの半径方向において、外側から内側へ向かうに従って容積が縮小する複数の圧縮室で構成される。
冷媒は、例えば、組成中に、炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素、炭素の二重結合を有しないハロゲン化炭化水素、自然冷媒、又は、それらを含む混合物を使用することができる。炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素は、R1234yf(CF3CF=CH2)、R1234ze(CF3CH=CHF)、R1233zd(CF3CH=CHCl)等のHFO冷媒が挙げられる。炭素の二重結合を有しないハロゲン化炭化水素は、R32(CH2F2)、R41(CH3F)、R125(C2HF3)、R134a(CH2FCF2)、R143a(CF3CH3)、R410A(R32/R125)、R407C(R32/R125/R134a)等のHFC冷媒が挙げられる。CH2F2で表されるR32(ジフルオロメタン)、R41等が混合された冷媒が例示される。自然冷媒は、アンモニア(NH3)、二酸化炭素(CO2)、プロパン(C3H8)、プロピレン(C3H6)、ブタン(C4H10)、イソブタン(CH(CH3)3)等が挙げられる。冷媒は、オゾン層破壊係数がゼロで、低GWPの冷媒が望ましい。
駆動機構部5は、メインフレーム2より他端側Lに設けられている。駆動機構部5はステータ51と、ロータ52と、を備えている。ステータ51は、例えば電磁鋼板を複数積層してなる鉄心に、絶縁層を介して巻線を巻回してなる固定子で、リング状に形成されている。ステータ51は、焼き嵌め等によりメインシェル11の内壁に固定されている。ロータ52は、電磁鋼板を複数積層してなる鉄心の内部に永久磁石を内蔵するとともに、中央に上下方向に貫通する貫通穴を有する円筒状の回転子であり、ステータ51の内部空間に配置されている。
サブフレーム6は、金属製のフレームであり、駆動機構部5の他端側Lに設けられ、焼き嵌めや、溶接等によってメインシェル11の内周面に固定されている。サブフレーム6は、副軸受部61と、オイルポンプ62と、を備えている。副軸受部61は、サブフレーム6の中央上側に設けられたボールベアリングである。オイルポンプ62は、シェル1の油溜めに貯留された潤滑油を吸い上げるためのポンプであり、サブフレーム6の中央下側に設けられている。
潤滑油は、シェル1の下部、すなわちロアシェル13に貯留されており、オイルポンプ62で吸い上げられて、後述するクランクシャフト7内の通油路73を通り、圧縮機構部4等の機械的に接触するパーツ同士の摩耗低減、摺動部の温度調節、シール性を改善する。潤滑油としては、潤滑特性、電気絶縁性、安定性、冷媒溶解性、低温流動性などに優れるとともに、適度な粘度の油が好適である。例えば、ナフテン系、ポリオールエステル(POE)、ポリビニールエーテル(PVE)、ポリアルキレングリコール(PAG)の油を使用することができる。
クランクシャフト7は、金属製の棒状部材であり、シェル1の内部に設けられている。クランクシャフト7は、主軸部71と、偏心軸部72と、通油路73と、を備えている。主軸部71は、クランクシャフト7の主要部を構成する軸であり、その中心軸がメインシェル11の中心軸と一致するように配置されている。主軸部71は、ロータ52の中心の貫通孔に焼嵌め等により固定されている。偏心軸部72は、その中心軸が主軸部71の中心軸に対して偏心するように、主軸部71の一端側Uに設けられている。通油路73は、主軸部71および偏心軸部72の内部に、軸方向に沿って上下に貫通して設けられている。このクランクシャフト7は、メインフレーム2の軸孔24に挿入されるとともに、他端側Lがサブフレーム6の副軸受部61の貫通孔に挿入固定される。これにより、偏心軸部72は筒状部424の筒内に配置され、ロータ52は、ステータ51に対応して配置されるとともに、その外周面がステータ51の内周面と所定の隙間を保って配置される。
ブッシュ8は、鉄等の金属からなり、揺動スクロール42とクランクシャフト7を接続する接続部材である。ブッシュ8は、スライダ81と、バランスウエイト82と、を備える。スライダ81は、鍔が形成された筒状の部材であり、偏心軸部72に挿入された状態で、筒状部424に嵌入されている。バランスウエイト82は、一端側Uから見た形状が略C状を呈するウエイト部721を備えたドーナツ状の部材であり、揺動スクロール42の遠心力を相殺するために、回転中心に対して偏芯して設けられている。バランスウエイト82は、例えばスライダ81の鍔に焼嵌め等の方法により、嵌合されている。
ここで、シェル1と圧縮機構部4等の関係について、図5を参照してさらに詳しく説明する。図5は、図3の一点鎖線の領域Yの拡大図である。
図5に示すとおり、固定スクロール41は、シェル1の内壁であるメインシェル11の第1内壁面111に固定されている。より具体的には、メインシェル11は、第1内壁面111と、第1内壁面111から突出し、固定スクロール41を位置決めする第1突出部112と、第1突出部112において一端側Uに向けて形成されている第1位置決め面113と、を有しており、固定スクロール41は、第1位置決め面113で位置決めされた状態で、焼嵌めや溶接等により、第1内壁面111に固定されている。つまり、メインシェル11は、他端側Lに向かって内径が小さくなる段状の部分を備えており、その段差を利用して固定スクロール41の位置決めと固定を行っている。なお、メインフレーム2も、メインシェル11の第1突出部112の内壁面に形成されている第2内壁面114から突出する第2突出部115の第2位置決め面116で位置決めされた状態で、第2内壁面114に焼嵌め等により固定されている。
この構造により、従来のように固定スクロール41をボルト等で固定するための外壁がメインフレーム2において不要になり、いわゆるフレーム外壁レス構造を実現できる。フレーム外壁レス構造では、揺動スクロール42の第2台板421の側面とメインシェル11の内壁面との間にメインフレーム2の壁が介在しない。望ましくは、メインフレーム2は、スラストプレート3の固定スクロール41側の面よりも高い壁を備えない。そのため、固定スクロール41とスラストプレート3との間に大きな空間が形成される。この空間の拡大によって、揺動スクロール42の径方向のサイズの設計自由度が広がり、第2台板421の外径や第2渦巻体422の巻径を大きくすることができる。すなわち、シェル1は従来設計のままで、第1渦巻体412および第2渦巻体422の直径を大きくすることで圧縮機の最大馬力を大きくしたり、第2台板421を大きくすることでスラスト荷重を低減することが可能となる。若しくは、揺動スクロール42のサイズはそのままで、メインシェル11の直径を小さくすることで、最大馬力を下げずに圧縮機を小型化することも可能になる。
圧縮室47や第1バイパスポート415、416について、図6を参照してさらに詳しく説明する。図6は、固定スクロールを上側から見た図である。図6は、固定スクロール41の第1渦巻体412の最外端である渦巻端部4121が揺動スクロール42の第2渦巻体422と、揺動スクロール42の第2渦巻体422の最外端である渦巻端部4221が固定スクロール41の第1渦巻体412と接触して冷媒を閉じ込めた状態である。ただし、この図においては、吐出弁44および第1バイパス弁45、46は省略している。
図6に示すとおり、圧縮室47は体積の異なる3種類の空間で構成されている。具体的には、圧縮室47は、第1圧縮室471、第2圧縮室472、473および第3圧縮室474、475を備える。第1圧縮室471は、圧縮室47の中で体積が最も小さい圧縮室であり、吐出ポート414と連通している。第2圧縮室472、473は、圧縮室47の中で体積が最も大きい圧縮室である。第2圧縮室472と第2圧縮室473は、形状および体積が同じであり、吐出ポート414の中心Cに対して対称に形成されている。第3圧縮室474、475は、第1圧縮室471よりも体積が大きく、第2圧縮室472、473よりも体積が小さい圧縮室である。第3圧縮室474と第3圧縮室475は、形状および体積が同じであり、吐出ポート414の中心Cに対して対称に形成されている。冷媒は、第1圧縮室471、第3圧縮室474、475、第3圧縮室474、475の順に、圧力が高くなる。
第1バイパスポート415、416は、固定スクロール41の第1台板411の吐出ポート414の中心Cに対して対称に2つ形成されており、吐出ポート414および第1バイパスポート415、416は、一直線上に並んでいる。第1バイパスポート415は第2圧縮室472と、第1バイパスポート416は第2圧縮室473とわずかではあるが各々連通している。第1バイパスポート415、416は、第2圧縮室472、473の冷媒の圧力が異常に高まった際に、その冷媒を固定スクロール41のアッパーシェル12側に逃がすものである。そのため、第1バイパス弁45、46が開状態となる冷媒の圧力値は、吐出弁44が開状態となる冷媒の圧力値よりも高くなるよう設定されている。具体的には、第1バイパス弁45、46は、冷媒の圧力が正常な場合には開かず、第2圧縮室472、473の冷媒の圧力が異常に高まった場合のみに開くよう、吐出弁44よりも剛性が高い。剛性は、例えば弁の厚みや幅寸法、材質などにより調整可能である。
第1バイパスポート415、416は、固定スクロール41の第1台板411において、所定の位置に形成されている。具体的には、線AC(吐出ポート414の中心Cと第1台板411の渦巻端部4121の点Aとを結ぶ線)と線BC(吐出ポート414の中心Cと第1バイパスポート415の点Bとを結ぶ線)とがなす、第1渦巻体412の渦巻中心に向かう回転まわりの角度ACBは、260°〜360°を満たしている。一方、第1バイパスポート416は、吐出ポート414に対して第1バイパスポート415とは反対側に設けられている。すなわち、第1バイパスポート415、416は、吐出ポート414の中心Cに対して対称に設けられており、第1バイパスポート416は、線ACと線B’C(吐出ポート414の中心Cと第1バイパスポート416の点B’とを結ぶ線)とがなす、第1渦巻体412の渦巻中心に向かう回転まわりの角度ACB’は、80°〜180°を満たす。角度ACBは300°〜335°、角度ACB’は120°〜155°を満たすとさらに望ましい。
次に、スクロール圧縮機の製造方法の一例を、図7を参照してさらに詳しく説明する。図7は、メインシェルの一製造方法について説明するための図である。なお、図7は、メインシェル11の一つの壁の断面をわかりやすく図示したものであり、実際の寸法や厚みとは異なる。
まず、(a)のような未加工のメインシェル11の一端側Uから切削用のブラシ等(図示なし)を挿入して、内壁面を厚み方向に切削加工し、(b)のように第2内壁面114および第2突出部115による段差を形成する。次に、第2突出部115から一端側Uの方向に所定距離離れた第2内壁面114において、切削用のブラシ等で内壁面を厚み方向に所定の深さだけ切削加工することで、(c)のように第1内壁面111および第1突出部112による段差を形成する。このため、第1内壁面111の内径r1は、第2内壁面114の内径r2よりも大きくなる。また、第1突出部112は、第2突出部115よりも一端側Uの方向に形成され、その内壁面は第2内壁面114を兼ねた構成となる。第1突出部112を形成した後で、第2突出部115を形成するようにしても良い。メインシェル11の厚みは、例えば4〜6mmであるのに対して、突出部の高さ、すなわち点線で示した切削加工による削り深さは、例えば0.3mm前後である。
次に、上記のように形成されたメインシェル11の一端側Uから、メインフレーム2を挿入する。メインフレーム2は、第2突出部115の第2位置決め面116に面で接触し、高さ方向の位置決めがされる。その状態で、メインフレーム2を第2内壁面114に焼嵌めやアークスポット溶接等により固定する。そして、メインフレーム2の軸孔24にクランクシャフト7を挿入したのち、偏心軸部72にブッシュ8を取り付け、さらにオルダムリング43、スラストプレート3および揺動スクロール42等を配置する。次いで、メインシェル11の一端側Uから固定スクロール41を挿入し、その後、固定スクロール41を第1内壁面111に焼嵌めにより固着する。固定スクロール41は、第1突出部112の第1位置決め面113に面で接触することで、高さ方向の位置決めがされる。なお、第1突出部112は、少なくとも固定スクロール41の製造上の位置決めさえできれば良いので、固定スクロール41を第1内壁面111への固定後に、固定スクロール41が第1位置決め面113と接触していることは必須ではない。メインフレーム2と第2突出部115との関係についても同様である。
最後に、メインシェル11の一端側Uから、アッパーシェル12を挿入したのち、メインシェル11とアッパーシェル12を溶接やアークスポット溶接等により固定する。その際、アッパーシェル12で固定スクロール41を第1位置決め面113に押付けるように挿入し、かつその状態を維持して固定スクロール41をメインシェル11に固定することで、スクロール圧縮機ごとの冷媒取込空間の高さのばらつきを抑制し、位置精度を高めるとともに、スクロール圧縮機の駆動時に固定スクロール41が上下方向にずれることを抑制してもよい。
以上で説明したとおり、実施の形態1のスクロール圧縮機は、従来のようにメインフレーム2に固定スクロール41の接続するための外壁を形成することなく、固定スクロール41をメインシェル11に固着しているため、スクロールの台板や渦巻状歯を大型化することができる。すなわち、従来はメインフレームの外壁の内部でスクロール機構を設計しなければならないという渦巻容積限界があったが、フレーム外壁レス構造では、揺動スクロール42の収納空間がメインシェル11の内部空間になったことによって、スクロールの設計自由度が広がり、揺動スクロール42をメインシェル11の内壁まで寸法拡大することができる。
スクロール圧縮機の動作について説明する。給電部16の給電端子162に給電すると、ステータ51とロータ52とにトルクが発生し、これに伴ってクランクシャフト7が回転する。クランクシャフト7の回転は、偏心軸部72およびブッシュ8を介して揺動スクロール42に伝えられる。回転駆動力が伝達された揺動スクロール42は、オルダムリング43により自転を規制され、固定スクロール41に対して偏心公転運動する。その際、揺動スクロール42の他方の面が、スラストプレート3と摺動する。
揺動スクロール42の揺動運動に伴い、吸入管14からシェル1の内部に吸入された冷媒は、メインフレーム2の吸入ポート25を通って冷媒取込空間に到達し、固定スクロール41と揺動スクロール42とで形成される圧縮室47に取り込まれる。そして、冷媒は、図8(a)〜(d)の斜線に示すように、冷媒を閉じ込めてから、揺動スクロール42の偏心公転運動に伴って、外周部から中心方向に移動しながら体積を減じられて圧縮される。揺動スクロール42の偏心公転運転時、揺動スクロール42は自身の遠心力により、ブッシュ8と共に径方向に移動し、第2渦巻体422と第1渦巻体412の側壁面同士が密接する。圧縮された冷媒は、固定スクロール41の吐出ポート414を介して、吐出管15から吐出される。
ここで、実施の形態1のような、駆動機構部5が配置されたメインシェル11内の空間の圧力がアッパーシェル12内の吐出空間の圧力よりも低くなる低圧シェル方式のスクロール圧縮機では、定常的な運転状態、固定スクロール41の上側は吐出圧力が作用しており、圧縮室47の内部は吐出圧力と吸入圧力の中間的な圧力が作用している。この圧力差により、固定スクロール41には下向きの荷重が作用することで、第1位置決め面113に押付けられ、固定スクロール41は安定した状態を保っている。しかし、吸入圧力と固定スクロール41の上側の圧力が釣り合った状態からの起動時などでは、一時的に、圧縮室47の圧力が固定スクロール41の上側の圧力よりも異常に大きくなることがある。また、圧縮機内で液冷媒が寝込んで、圧縮室47に侵入し、液冷媒の圧縮が行われた場合にも、同様に圧縮室47の圧力が固定スクロール41の上側の圧力よりも異常に大きくなる。このように圧縮室47の圧力が異常に上昇したとき、固定スクロール41には上向きの荷重が作用するため、固定スクロール41をボルト等ではなく焼嵌め等によりメインシェル11に締結している場合には、その締結力よりも上向きの荷重が大きくなって、固定スクロール41の浮き上がりが発生する可能性がある。固定スクロール41の浮き上がりが発生すると、圧縮室47を正常に保てなくなるため、圧縮機として機能しなくなる。
本実施の形態では、このような圧縮室47の圧力異常の際に、第1バイパス弁45、46が開状態となり、第1バイパスポート415、416を通じて圧縮室47の冷媒を排出する。これによって、液圧縮等により、圧縮室47の圧力が異常に上昇しても、固定スクロール41に上向きの荷重が作用して固定スクロール41が浮き上がることを防止できる。なお、第1バイパス弁45、46は、吐出弁44が開状態となる冷媒の圧力値よりも高い圧力値で開状態となるよう設定されているため、正常な圧縮が行われている場合には開状態とはならない。また、第1バイパスポート415、416を、圧縮室47の中で体積が最も大きい第2圧縮室472、473に設けることで、圧縮早期に圧力異常が発生しても圧縮室47の圧力を排出することができ、固定スクロール41の浮き上がりを防止できる。
特に、第1バイパスポート415を、線ACと、線BCと、がなす、第1渦巻体412の渦巻中心に向かう回転まわりの角度ACBが260°〜360°を満たすように構成することで、冷媒閉じ込め直後の圧力異常に対応することができる。すなわち、図8(a)にて第2圧縮室472、473に閉じ込められた冷媒は、揺動スクロール42の公転により、(b)、(c)、(d)と圧縮空間の体積が小さくなるに伴って圧縮が進み、再び(a)の状態になる際には、より体積が小さい第3圧縮室474、475に移行する。圧縮機内で液冷媒が寝込んで、圧縮室47内に侵入し、液冷媒の圧縮が行われた場合には、冷媒を閉じ込めた直後から冷媒の圧力が異常になりやすい。よって、角度ACBが260°〜360°であると、(a)〜(d)の間、第1バイパスポート415が圧縮空間と連通するため、冷媒閉じ込め直後から、揺動スクロール42がほぼ一回公転するまでの間の圧力異常に対応することができる。角度ACBは、300°〜335°を満たすとさらに効果的である。また、第1バイパスポート415とは別に、第1バイパスポート416を、対称の圧縮室に設けている。これにより、圧力異常の際に第2圧縮室472、473の圧力を万遍なく下げることができる。
この実施の形態では、メインシェル11は、第1内壁面111と、第1内壁面111から突出し、固定スクロール41を位置決めする第1突出部112と、備え、固定スクロール41は、第1内壁面111に固着された第1台板411と、第1圧縮室471と連通して、第1台板411に形成され、圧縮された冷媒を吐出する吐出ポート414と、吐出ポート414を開閉自在に、第1台板411に設けられた吐出弁と、第1圧縮室471よりも低圧側の第2圧縮室472と連通して、第1台板411に形成された第1バイパスポート415と、第1バイパスポート415を開閉自在に、第1台板411に設けられ、吐出弁44が開状態となる冷媒の圧力値よりも高い圧力値で開状態となる第1バイパス弁45と、を備える。したがって、固定スクロール41を焼嵌め等の方法によってメインシェル11の内壁面に固定するという、メインフレーム2と固定スクロール41とをボルト等で接続しない構造でも、固定スクロール41の浮き上がりを防止することができる。
固定スクロール41は、第1台板411に形成された第1渦巻体412を備え、第1渦巻体412の最外端である渦巻端部4121が揺動スクロール42と接触して冷媒を閉じ込めた状態において、体積の異なる3種類の圧縮室が形成され、第1圧縮室471は、体積が最も小さい圧縮室であり、第2圧縮室472、473は、体積が最も大きい圧縮室である。これにより、圧縮早期に圧力異常が発生しても固定スクロール41の浮き上がりを防止できる。
吐出ポート414の中心Cと渦巻端部4121とを結ぶ線ACと、吐出ポート414の中心Cと第1バイパスポート415とを結ぶ線BCと、がなす、第1渦巻体412の渦巻中心に向かう回転まわりの角度ACBは、260°〜360°、望ましくは300°〜335°を満たす。これにより、冷媒閉じ込め直後から、揺動スクロール42がほぼ一回公転するまでの間の圧力異常に対応することができる。
第2圧縮室472、473は、吐出ポート414の中心Cに対して対称に一対形成されており、第1バイパスポート415、416は、吐出ポート414の中心に対して対称に、各々の第2圧縮室472、473と連通して一対形成されている。これにより、圧力異常の際に第2圧縮室472、473の圧力を万遍なく下げることができる。
実施の形態2.
図9は、この発明の実施の形態2に係るスクロール圧縮機の図6に対応する図、図10は、第3圧縮室での圧縮経過について説明するための図である。以下の実施の形態等では、図1〜図8のスクロール圧縮機と同一の構成を有する部位には同一の符号を付してその説明を省略する。
実施の形態2では、固定スクロール41Aの第1台板411Aに、さらに第2バイパスポート417A、418Aを設けている。具体的には、第2バイパスポート417A、418Aは、第1圧縮室471よりも体積が小さく、第2圧縮室472、473よりも体積が大きい第3圧縮室474、475と連通するように、第1台板411Aに形成されている。また、第1台板411Aには、第2バイパスポート417A、418Aを開閉自在にに設けられ、開状態では第3圧縮室474、475の冷媒を第2バイパスポート417A、418Aを介して流す第2バイパス弁48A、49Aが設けられている。なお、第2バイパス弁48A、49Aの一端側Uには、図示しない弁押さえが設けられており、この弁押さえにより、弁のリフト量が制限される。
第2バイパスポート417A、418Aは、第3圧縮室474、475での過圧縮を抑制することで、圧縮機の効率改善を図るものである。すなわち、目標圧力に到達した冷媒を固定スクロール41Aのアッパーシェル12側に流すことで、無駄に圧縮することを抑制する。この詳細について、図11を参照して説明する。図11は、回転角と冷媒の圧力の関係について説明するための図である。横軸は、クランクシャフト7の回転角であり、回転角が0°のときに第2圧縮室472、473に取り込まれた冷媒は、回転角が360°のときに第3圧縮室474、475に移動し、回転角が720°のときに第1圧縮室471に移動して、吐出ポート414から吐出されることを意味する。
冷媒の圧力は、図11に示すように、クランクシャフト7の回転角に比例して大きくなる。第3圧縮室474、475での冷媒の圧縮である第3圧縮室474、475でも、回転角が360°の図10(a)から(b)、(c)、(d)と圧縮が進むにつれて、通常、冷媒の圧力が増加する。しかし、この第3圧縮室474、475での冷媒の圧縮においては、冷媒の圧力が圧縮の途中段階で予め設定された目標圧力に到達し、冷媒が吐出ポート414に達する頃には目標圧力に対して圧力が大きくなりすぎる、いわゆる過圧縮となる場合がある。過圧縮は、図11に点線で示したように、必要以上に冷媒を圧力することになるため、無駄な圧縮が発生していることになる。そこで、目標圧力以上になった場合に第2バイパス弁48A、49Aを開状態にし、第2バイパスポート417A、418Aを介して冷媒をバイパスさせることで、目標圧力に到達以降の冷媒の圧力を一定にし、非効率な圧縮を抑制している。
なお、第2バイパスポート417A、418Aは、冷媒が第2圧縮室472、473から移動してから、第1圧縮室471に移動するまでの間、第3圧縮室474、475と連通できる位置に形成されることが望ましい。また、第2バイパスポート417A、418Aは、第1バイパスポート415、416と同様に、一対設けることが望ましい。例えば、第2バイパスポート417A、418Aは、第1バイパスポート415、416と渦巻中心Cを結んだ直線上であって、第3圧縮室475における固定スクロール41の第1渦巻体412の外向面側と、第3圧縮室475における第1渦巻体412の内向面側に各々設けるとよい。
このように、実施の形態2では、固定スクロール41Aの第1台板411Aに、第1バイパスポート415、416に加え、第2バイパスポート417A、418Aを設けている。第1バイパスポート415、416は、冷媒取り込み初期に発生しやすい第2圧縮室472、473での液圧縮等による圧力異常に応じて冷媒をバイパスさせるものであるのに対して、第2バイパスポート417A、418Aは、圧縮が進んだ第3圧縮室474、475での過圧縮に応じて冷媒をバイパスさせるものである。このように機能の異なるバイパスポートを形成したことで、圧力異常と過圧縮の両方に対して抑制効果を得ることができる。なお、圧力異常と過圧縮とでは、過圧縮の方が圧力としては低いことから、第2バイパス弁48A、49Aは、第1バイパス弁45、46が開状態となる冷媒の圧力値よりも低い圧力値で開状態となるように設定されている。具体的には、第2バイパス弁48A、49Aは、第1バイパス弁45、46よりも、剛性が低く設定されている。なお、第2バイパス弁48A、49Aは、目標圧力で開状態となることから、吐出弁44とほぼ同じ冷媒の圧力値で開状態となるように設定されている。
この実施の形態では、第3圧縮室474、475と連通して、第1台板411に形成された第2バイパスポート417A、418Aと、第2バイパスポート417A、418Aを開閉自在に、第1台板411に設けられ、開状態では第3圧縮室474、475の冷媒を第2バイパスポート417A、418Aを介して流す第2バイパス弁48A、49Aと、を備えている。そのため、第3圧縮室474、475で冷媒の過圧縮が発生した場合に、冷媒を第2バイパスポート417A、418Aからバイパスでき、圧縮の無駄を抑制することができる。
また、第2バイパス弁48A、49Aは、第1バイパス弁45、46が開状態となる前記冷媒の圧力値よりも低い圧力値で開状態となるように、第1バイパス弁45、46よりも剛性が低く設定されている。これにより、第1バイパスポート415、416との組み合わせで、圧力異常と過圧縮の両方に対して抑制効果を得ることができる。
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、縦型スクロール圧縮機について説明したが、横型のスクロール圧縮機にも適用できる。その際、横型のスクロール圧縮機においては、メインフレームを基準として、一端側Uは圧縮機構部が設けられている側、他端側Lは駆動機構部が設けられている側に置き換えてみることができる。また、低圧シェル方式のスクロール圧縮機に限らず、駆動機構部が配置されたメインシェル内の空間の圧力が冷媒取込空間の圧力よりも高くなる高圧シェル方式のスクロール圧縮機にも適用できる。高圧シェル方式では、吸入管14から圧縮室47に短い距離で冷媒が吸入され、液冷媒が入りやすいことから、高圧シェル方式で採用する方がより高い効果が得られる。
吐出弁44は、吐出ポート414を直接開閉するように第1台板411に設けなくてもよい。例えば、第1台板411にマフラー室を備えたチャンバーを設け、そのチャンバーの孔を塞ぐように弁を設けることで、吐出ポート414をを間接的に開閉するようにように構成してもよい。第1バイパス弁45、46、および第2バイパス弁48A、49Aについても同様である。
この発明に係るスクロール圧縮機は、揺動スクロールを収容するシェルと、前記シェルに収容され、前記揺動スクロールとで少なくとも第1圧縮室と、前記第1圧縮室よりも低圧の第2圧縮室と、を形成する固定スクロールと、を備え、前記シェルは、第1内壁面と、前記第1内壁面から突出し、前記固定スクロールを位置決めする第1突出部と、備え、前記固定スクロールは、前記第1内壁面に固定された台板と、前記第1圧縮室と連通して、前記台板に形成され、圧縮された冷媒を吐出する吐出ポートと、前記吐出ポートを開閉自在に設けられた吐出弁と、前記第2圧縮室と連通して、前記台板に形成された第1バイパスポートと、前記第1バイパスポートを開閉自在に設けられた第1バイパス弁と、を備える。