以下、図面を参照して、この発明の一実施の形態について説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付して、その説明を適宜省略又は簡略化する。また、各図に記載の構成について、その形状、大きさおよび配置等は、この発明の範囲内で適宜変更することができる。
実施の形態1.
以下、実施の形態1について説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の外観図である。図2は、図1のスクロール圧縮機を側面から見たときの外観図である。図3は、図2のスクロール圧縮機のX-X’断面を矢印方向から見たときの断面図である。図4は、この発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の一部構成の分解斜視図である。図5は、流路変更部材について説明するための図である。
スクロール圧縮機は、シェル1と、メインフレーム2と、スラストプレート3と、圧縮機構部4と、駆動部5と、サブフレーム6と、クランクシャフト7と、ブッシュ8と、流路変更部材9と、を備えている。この実施の形態1の圧縮機は、クランクシャフト7の中心軸が地面に対して略垂直の状態で使用される、いわゆる縦置型のスクロール圧縮機である。また、駆動部5が設けられているシェル1の内部の空間が圧縮される前の流体で満たされる低圧シェルの構造である。以下では、図中の上方向の矢印側を上側としての一端側U、下方向の矢印側を下側としての他端側Lと称して説明する。
シェル1は、金属などの導電性部材からなる両端が閉塞された筒状の筐体であり、メインシェル11と、アッパーシェル12と、ロアシェル13と、吸入管14と、吐出管15と、給電部16と、固定台17と、を備えている。メインシェル11は、円筒状の管である。アッパーシェル12は、略半球状の蓋体であり、メインシェル11の一端側Uにおいてろう付け等により接続され、メインシェル11の一方の開口を閉じている。ロアシェル13は、略半球状の底体であり、メインシェル11の他端側Lにおいてろう付け等により接続され、メインシェル11の他方の開口を閉じている。吸入管14は、流体をシェル1の内部に導入するための管であり、メインフレーム2と駆動部5の間のメインシェル11に設けられ、メインシェル11の側壁に設けられた孔に、一部が挿入された状態でろう付け等により接続されている。吐出管15は、流体をシェル1の外部に吐出するための管であり、シェル1の内部空間と連通するように、アッパーシェル12の上部に設けられた孔に、一部が挿入された状態でろう付け等により接続されている。
給電部16は、スクロール圧縮機に給電する部材であり、メインシェル11の外側壁に設けられている。給電部16は、給電端子と、給電端子を囲むカバーと、給電端子と駆動部5とを接続する配線と、を備えている。固定台17は、シェル1を支える支持台である。固定台17はそれぞれにネジ孔が形成された複数の脚部を有しており、ネジ固定することによってスクロール圧縮機を空調室外機の筐体等の他の部材に固定可能になっている。
メインフレーム2は、円筒状の金属フレームであり、シェル1の内部に設けられている。メインフレーム2は、本体部21と、周壁部22と、ボス部23と、収容部24と、吸入ポート25と、返油管26と、バランサカバー27と、を備えている。
本体部21は、メインフレーム2を構成する主要な部分である。周壁部22は、本体部21の外縁に、一端側Uに向かって環状に延びるように形成されている。ボス部23は、本体部21の中心付近に、他端側Lに向かって筒状に延びるように形成されている。収容部24は、メインフレーム2の径方向の中央付近に、シェル1の長手方向、すなわちクランクシャフト7の軸方向に沿って貫通して形成されている。収容部24は、一端側Uから順に、揺動スクロール42を収容する収容空間と、オルダムリング43を収容する収容空間と、クランクシャフト7の一部を収容する収容空間と、で構成されている。クランクシャフト7の一部を収容する収容空間は、ボス部23に設けられ、クランクシャフト7を支持する主軸受部としても機能する。
吸入ポート25は、圧縮機構部4に流体を供給するための孔であり、メインフレーム2の外縁付近に、メインフレーム2を貫通して形成されている。具体的には、本体部21と周壁部22とが接続された部分において、本体部21と周壁部22の一部を貫通するように形成されている。返油管26は、収容部24に溜まった潤滑油をロアシェル13の下部に形成される油溜めに戻すための管であり、本体部21から他端側Lに延びるように、収容部24と連通してメインフレーム2に設けられている。バランサカバー27は、メインフレーム2から他端側Lに延びるように、ボス部23に設けられている。なお、吸入ポート25および返油管26は、複数設けられても良い。
スラストプレート3は、スラスト軸受として機能する鋼板系の薄い金属板であり、メインフレーム2の本体部21の一端側Uの平坦面に配置され、圧縮機構部4のスラスト荷重を支持する。
圧縮機構部4は、流体を圧縮する圧縮機構である。圧縮機構部4は、固定スクロール41と、揺動スクロール42と、オルダムリング43と、チャンバー44と、吐出弁45と、マフラ46と、を備えており、固定スクロール41と揺動スクロール42とにより圧縮室47が形成される。
固定スクロール41は、鋳鉄等の金属からなり、ボルト等の固定部材によってメインフレーム2の周壁部22の上端面に固定されている。固定スクロール41は、台板411と、渦巻体412と、チップシール413と、吐出ポート414と、を備えている。台板411は、円盤状の基板である。渦巻体412は、台板411に突出形成された渦巻状の歯である。チップシール413は、例えば硬質プラスチックからなり、渦巻体412の先端に形成された溝に設けられている。吐出ポート414は、台板411の略中央に、その厚み方向である上下方向に貫通して形成された孔である。
揺動スクロール42は、アルミニウム等の金属からなり、メインフレーム2に揺動自在に保持されている。揺動スクロール42は、台板421と、渦巻体422と、チップシール423と、筒状部424と、を備えている。台板421は、円盤状の基板であり、その一部はメインフレーム2に配置されたスラストプレート3を介してスラスト支持されるため、スラスト軸受け面として作用する。渦巻体422は、台板421に突出形成された渦巻状の歯である。チップシール423は、例えば硬質プラスチックからなり、渦巻体422の先端に形成された溝に設けられている。筒状部424は、台板421の略中央から突出して形成されている。
オルダムリング43は、揺動スクロール42が自転運動することを防止するための部材であり、リング状の本体部の一端側Uと他端側Lのそれぞれに、一対のキーを備えている。オルダムリング43の一端側Uに形成された一対のキーは、揺動スクロール42の台板421の他端側Lに形成された一対のキー溝に収容され、他端側Lに形成された一対のキーは、メインフレーム2の本体部21の一端側Uに形成された一対のキー溝に収容されている。
チャンバー44は、固定スクロール41の台板411の一端側Uの面に設けられ、吐出ポート414と空間的に連通する吐出孔441を備えている。吐出弁45は、流体の圧力に応じて吐出孔441を開閉する弁であり、チャンバー44にねじ止めにされている。吐出弁45は、吐出ポート414と連通する圧縮室47の流体が所定の圧力に達したときに、吐出孔441を開状態にする。マフラ46は、チャンバー44の一端側Uの面に設けられ、吐出ポート414から吐出された流体を吐出管15に導くための吐出孔461を備えている。
圧縮室47は、固定スクロール41の渦巻体412と、揺動スクロール42の渦巻体422と、を互いに噛み合わせるとともに、渦巻体412の先端、チップシール413および台板421と、渦巻体422の先端、チップシール423および台板411と、でシールすることによって形成される。圧縮室47は、複数の圧縮室で構成され、それら複数の圧縮室はスクロールの半径方向において、外側から内側へ向かうに従って容積が小さくなる。
流体には、冷凍サイクルに適用する冷媒や、空気などを使用することができる。冷媒としては、例えば、組成中に、炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素、炭素の二重結合を有しないハロゲン化炭化水素、自然冷媒、又は、それらを含む混合物である。炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素は、R1234yf(CF3CF=CH2)、R1234ze(CF3CH=CHF)、R1233zd(CF3CH=CHCl)等のHFO冷媒が挙げられる。炭素の二重結合を有しないハロゲン化炭化水素は、R32(CH2F2)、R41(CH3F)、R125(C2HF3)、R134a(CH2FCF2)、R143a(CF3CH3)、R410A(R32/R125)、R407C(R32/R125/R134a)等のHFC冷媒が挙げられる。CH2F2で表されるR32(ジフルオロメタン)、R41等が混合された冷媒が例示される。自然冷媒は、アンモニア(NH3)、二酸化炭素(CO2)、プロパン(C3H8)、プロピレン(C3H6)、ブタン(C4H10)、イソブタン(CH(CH3)3)等が挙げられる。冷媒は、オゾン層破壊係数がゼロで、GWP(Global Warming Potential)が低い冷媒が望ましい。
駆動部5は、圧縮機構部4と油溜めの間に設けられている。駆動部5は、ステータ51と、ロータ52とを備えている。ステータ51は、例えば電磁鋼板を複数積層してなる鉄心に、絶縁層を介して巻線を巻回してなる固定子で、リング状に形成されている。ステータ51は、焼き嵌め等によりメインシェル11の内壁に固定されている。ロータ52は、電磁鋼板を複数積層してなる鉄心の内部に永久磁石を内蔵するとともに、中央に上下方向に貫通する貫通穴を有する円筒状の回転子であり、ステータ51の内部空間に配置されている。
サブフレーム6は、駆動部5の他端側Lに設けられている。サブフレーム6は、フレーム部61と、副軸受部62と、オイルポンプ63と、を備えている。フレーム部61は、金属製のフレームであり、焼き嵌めや、溶接等によってメインシェル11の内周面に固定されている。フレーム部61は、サブフレーム6の中央上側に設けられたボールベアリングである。オイルポンプ63は、シェル1の下部の主にロアシェル13で構成される油溜めに貯留された潤滑油を吸い上げるためのポンプであり、フレーム部61の中央下側に設けられている。
潤滑油は、圧縮機構部4等の機械的に接触するパーツ同士の摩耗低減、摺動部の温度調節、シール性の改善、駆動部5の冷却のための冷凍機油である。潤滑油は、潤滑特性、電気絶縁性、安定性、流体溶解性、低温流動性などに優れるとともに、適度な粘度の油であることが望ましい。例えば、ナフテン系、ポリオールエステル(POE)、ポリビニールエーテル(PVE)、ポリアルキレングリコール(PAG)の油を使用することができる。
クランクシャフト7は、金属製の棒状部材であり、一端側Uがボス部23の主軸受部に挿入保持され、他端側Lがサブフレーム6のフレーム部61に挿入保持されることによって、シェル1の内部に設けられている。クランクシャフト7は、主軸部71と、偏心軸部72と、通油路73と、第一バランスウエイト部74と、第二バランスウエイト部75と、を備えている。主軸部71は、クランクシャフト7の主要部を構成する軸であり、ロータ52の中心の貫通孔に焼嵌め等により固定されている。偏心軸部72は、その中心軸が主軸部71の中心軸に対して偏心した状態で、主軸部71の一端側Uに設けられている。通油路73は、主軸部71および偏心軸部72の内部に、軸方向に沿って上下に貫通して設けられている。第一バランスウエイト部74は、メインフレーム2と駆動部5との間の主軸部71に設けられており、その大部分はバランサカバー27によって覆われている。第二バランスウエイト部75は、駆動部5とサブフレーム6との間の主軸部71に設けられている。
ブッシュ8は、鉄等の金属からなり、揺動スクロール42とクランクシャフト7を接続する接続部材である。ブッシュ8は、スライダ81と、バランスウエイト82と、を備える。スライダ81は、鍔が形成された筒状の部材であり、偏心軸部72に挿入された状態で、筒状部424に嵌入されている。バランスウエイト82は、一端側Uから見た形状が略C状を呈するウエイト部821を備えた部材であり、スライダ81の鍔に焼嵌め等の方法により、嵌合されている。
流路変更部材9は、吸入管14から流入した流体が衝突する位置に設けられている。吸入管14から流入した流体が衝突する位置とは、例えばシェル1の内部における吸入管14の孔と、メインフレーム2のボス部23の間である。流路変更部材9は、図5に示すように、支持部材91と、可動部材92と、を備えている。支持部材91は、金属板を加工して形成したものであり、メインフレーム2の他端側Lに取り付けられている。支持部材91は、基部911と、開口部912と、側部913と、固定部914と、を備えている。基部911は、吸入管14の流体出口側の孔と対向するように配置された、流路変更部材9のベースとなる部分である。開口部912は、基部911に形成され、吸入管14からの流体が通過可能な開口である。側部913は、基部911の一方の側端部と接続され、吸入管14の方向に折り曲げられてなる部分である。固定部914は、側部913の上端部と接続され、基部911の上部に位置するように折り曲げられてなる部分である。固定部914は、固定孔915を有しており、この固定孔915にネジ等をねじ込むことで、支持部材91をメインフレーム2に固定する。
可動部材92は、流体の衝突圧に応じて開口部912を開閉する部材であり、板状部材921と、制御部材922と、を備えている。板状部材921は、吸入管14から流入した流体が衝突する板であり、その寸法は支持部材91の開口部912よりも大きく、開口部912を塞ぐように設けられている。本実施形態では板状部材921は、吸入管14の流体出口側の孔と対向する支持部材91の正面に対して、反対側の面である裏面に設けられている。制御部材922は、支持部材91と板状部材921とを接続している。制御部材922は、例えばスプリング等の弾性部材であり、そのバネ弾性を利用して、圧縮機が稼動していないとき等の通常時には板状部材921を支持部材91に押し付ける力を作用させた状態とし、圧縮機の稼動に伴い吸入管14から流入した流体によって開口部912側から板状部材921に力が作用した場合には、その力の大きさに応じて制御部材922を支点として板状部材921を開口部912から離すように可動させる。すなわち、制御部材922は、吸入管14から流入した流体の衝突圧に応じて、開口部912を開閉自在に板状部材921を制御する。
ここで、流路変更部材9と吸入管14の関係について、図6を参照してさらに詳しく説明する。図6は、吸入ポート側から流路変更部材を見たときの図である。
図からわかるように、吸入ポート25側から流路変更部材9を見たとき、シェル1の内部における吸入管14の孔は、支持部材91の開口部912と板状部材921とに投影される位置関係にある。また、支持部材91の開口部912の中心C’は、吸入管14の流体出口側の孔の中心Cと略一致している。つまり、吸入管14からシェル1の内部に流入した流体は、ほとんどが板状部材921に衝突し、一部は基部911に衝突する。
スクロール圧縮機の動作について説明する。電源装置から給電部16の給電端子を介して圧縮機に給電すると、ロータ52にトルクが発生し、これに伴ってクランクシャフト7が回転する。クランクシャフト7の回転は、偏心軸部72およびブッシュ8を介して揺動スクロール42に伝わる。回転駆動力が伝達された揺動スクロール42は、オルダムリング43により自転を規制されるため、固定スクロール41に対して揺動運動(偏心公転運動)する。なお、揺動スクロール42の揺動運動により遠心力が発生するが、その遠心力はブッシュ8のウエイト部821、第一バランスウエイト部74、および第二バランスウエイト部75によって相殺される。
一方、圧縮機構部4において圧縮するための流体は、吸入管14からシェル1の内部に吸入され、バランサカバー27の周辺の空間を旋回し、メインフレーム2の吸入ポート25を通って流体取込空間に到達する。そして、流体は、固定スクロール41と揺動スクロール42とで形成される圧縮室47に取り込まれ、揺動スクロール42の偏心公転運動に伴って、外周部から中心方向に移動しながら体積を減じられて圧縮される。圧縮された流体は、固定スクロール41の吐出ポート414およびチャンバー44の吐出孔441から吐出弁45に逆らって吐出され、マフラ46の吐出孔461および吐出管15を介してシェル1の外部に排出される。
なお、クランクシャフト7の回転によって揺動スクロール42が揺動する際、シェル1の底部の油溜めに貯留された潤滑油がオイルポンプ63により吸い上げられる。潤滑油は、クランクシャフト7の通油路73を通り、スラストプレート3と揺動スクロール42の間や、メインフレーム2のボス部23とクランクシャフト7の間などの機械的に摺動する部分に供給される。なお、潤滑油は、クランクシャフト7の回転等に伴ってシェル1の内部に霧状で存在するため、吸入管14で吸入された流体が吸入ポート25に向かう過程、特にバランサカバー27の周辺の空間を旋回する過程で流体によって巻き上げられることによってもスラストプレート3と揺動スクロール42の間等の摺動部に持ち込まれる。
ここで、本実施の形態では、給電部16の給電端子を介して圧縮機に電力を供給する電源装置として、周波数可変電源装置を用いている。周波数可変電源装置は、外部からの制御指令により運転周波数を制御する電源装置であり、入力信号に応じてクランクシャフト7の回転数を変化させるものである。すなわち、運転周波数を変化させることで、ロータ52およびクランクシャフト7の回転速度が変化することに伴い、揺動スクロール42の揺動速度も変化するため、スクロール圧縮機としての圧縮能力を変化させることができる。
スクロール圧縮機の運転周波数を変化させると、吸入管14からシェル1の内部に流入する流体の流量や流速が変化する。例えば、5000rpm程度の高運転周波数では、揺動スクロール42の揺動速度の高速化に伴って、圧縮室47での流体の圧縮量が多くなる。すると、圧縮室47に流体を大量に供給すべく、吸入管14から流入する流体の流速が早くなり、流量は多くなる。反対に、1700rpm程度の低運転周波数では、吸入管14から流入する流体の流速は遅くなり、流量は少なくなる。
このように流体の流速や流量が変化すると、駆動部5のモーターコイルの冷却効果や、圧縮機内の潤滑油の量に影響が生じる。例えば、吸入管14から流入する流体が少ないと、駆動部5のモーターコイルが冷却されにくくなる。反対に、吸入管14から流入する流体が多いと、駆動部5のモーターコイルは冷却されるが、潤滑油が流体によって巻き上げられやすくなり、潤滑油が圧縮機の外部に運ばれて枯渇する可能性がある。
そこで、本実施の形態では流路変更部材9を設けている。流路変更部材9の動作について、図7を参照して詳しく説明する。図7は、流体の衝突圧に応じた流路変更部材の状態変化について説明するための図であり、(a)は低周波数運転時、(b)は高周波数運転時、(c)は(b)よりも高周波数運転時、である。
吸入管14から流入した流体は、流路変更部材9の基部911や板状部材921に衝突する。基部911および板状部材921は、シェル1の内部における吸入管14の孔に対して略並行に配置されており、吸入管14からの流入した流体は、その基部911および板状部材921に対して略垂直に衝突する。そのときの流体の衝突圧は、運転周波数、すなわち流体の流速や流量に比例する。低運転周波数である流体の衝突圧が第一の衝突圧では、可動部材92が開口部912を塞ぐ力よりも小さいため、図7(a)に示すように、可動部材92により開口部912は閉状態のままである。そのため、流路変更部材9は、流体を下方に導く下方通路を形成し、流体のほとんどを駆動部5および油溜めの方向に流す。
一方、周波数運転が高くなると、吸入管14から流入する流体の流量は多く、流速は早いため、流体の衝突圧は大きくなる。そして、流体の衝突圧が第二の衝突圧では、可動部材92が開口部912を塞ぐ力よりも大きいため、図7(b)に示すように、可動部材92により開口部912の一部が開状態になる。そのため、第二の衝突圧では、流路変更部材9は、流体を開口部912から通過する方向と、油溜めの方向に流れる方向と、に分けて流すことになる。一部の流体が開口部912を通過することになり、吸入管14から流入した冷媒における油溜めの方向に向かう流体の割合が減少する。さらに運転周波数が高くなり、流体の衝突圧が大きくなると、図7(c)に示すように、可動部材92が流体で完全に押しのけられて開口部912を通過する際の抵抗が少なくなり、開口部912を通過する流体が増加し、油溜めの方向に向かう流体の割合がさらに減少する。
流路変更部材9の開口部912を通過する流体の流れを図8を用いて説明する。図8は、流路変更部材を取り付けたメインフレームを油溜め側から見たときの図である。まず、図8に示すように、流路変更部材9は、吸入管14と吸入ポート25の間に設けられている。また、流路変更部材9と吸入管14の間には、メインフレーム2のボス部23が介在している。そのため、開口部912を通過した流体は、ボス部23の外周形状に沿うように流れたのち、吸入ポート25に吸入される。また、吸入管14から流入した流体の一部は、開口部912を通過せずに、支持部材91の基部911等に衝突する。この衝突した流体は、流路変更部材9を迂回するように流れ、メインシェル11の内壁面に沿って流れたのち、吸入ポート25に吸入される。その際、支持部材91のうち側部913がある側は、側部913に妨げられ流路変更部材9を迂回して流れる流体はほとんど発生しない。側部913の先、具体的には側部913からメインシェル11の内周面周りに吸入ポート25に向かう途中には流体を圧縮機構部4に送り込むためのサブ吸入ポート28があり、側部913は、基部911等に衝突した流体が直接的にサブ吸入ポート28に吸入されることを防止している。
以上のように、流路変更部材9により、流体の衝突圧が小さい第一の衝突圧のときには流体を油溜めの方向に流し、流体の衝突圧が第一の衝突圧よりも大きい第二の衝突圧のときは流体を開口部912から通過する方向と、油溜めの方向に流れる方向とに分流することで、流体の衝突圧が小さいときは駆動部5のモーターコイルの冷却効果を高めることができ、流体の衝突圧が大きいときは油溜めの方向に流れる流体の流量が少なくして潤滑油の巻き上げを抑制することができる。なお、第二の衝突圧のときに開口部912から通過する方向と、油溜めの方向に流れる方向とに分流する割合は、潤滑油の巻き上げを抑制することを重視して設定すればよい。例えば、吸入管14から流入する流体のうちのほとんどが開口部912を通過し、油溜めの方向に向かう流体がごく一部となるような極端な場合であってもよい。開口部912を通過した冷媒の一部はメインフレーム2のボス部23やバランサカバー27がガイドとなって駆動部5の方向に向かい、モーターコイルを冷却するためである。
なお、本実施の形態では、板状部材921および制御部材923は、支持部材91における吸入管14の流体出口側の孔と対向する正面に対して、反対側の支持部材91に位置する裏面に設けられている。そのため、制御部材922が板状部材921を支持部材91の裏面側から閉塞する構成となり、流体の衝突圧が閉塞力よりも小さい第一の衝突圧では開口部912は閉状態、流体の衝突圧が閉塞力よりも大きい第二の衝突圧では開状態とすることができる。また、制御部材923は、弾性部材であり、板状部材921を支持部材91に押し付ける力を作用させる構成としているため、流体の衝突圧と弾性力の大小関係により開状態・閉状態を制御することができる。すなわち、弾性部材の付勢力を変更することで、どの程度の運転周波数で開状態・閉状態とするかを調整することができる。
また、制御部材922は、支持部材91における開口部912の油溜め側に設けられているため、板状部材921が制御部材922を支点として開閉したときに、図7(b)、(c)のように、開口部912を通過した流体は直進方向や上方向(メインフレーム2の方向)にガイドすることができる。高周波数運転時の潤滑油の巻き上げは、油溜めの潤滑油の油面が荒れて舞い上がった油を流体が圧縮機構部に運ぶことが主な原因であるが、クランクシャフト7とともに高速回転する第一バランスウエイト部74によって霧状に撒き散らされるバランサカバー27付近の潤滑油を流体が運ぶことによっても少なからず発生する。この構成によって、開口部912を通過した流体のうち油溜め方向に流れる流体量が減少し、潤滑油が巻き上げられる影響が低減するため、高周波数運転時の潤滑油の巻き上げ量を制御しやすくすることができる。
この実施の形態では、吸入管14から流入した流体が衝突する位置に設けられ、流体の衝突圧に応じて開口部912を開閉する可動部材92を有しており、流体の衝突圧が第一の衝突圧のときは可動部材92が開口部912を閉状態にして流体を油溜めの方向に流し、流体の衝突圧が第一の衝突圧よりも大きい第二の衝突圧のときは可動部材92が開口部912を開状態にして流体を開口部912から通過する方向と、油溜めの方向に流れる方向と、に分流する流路変更部材9を備える。したがって、吸入管から流入する流体の衝突圧が小さいときの駆動部の温度上昇を抑制しつつ、衝突圧が大きいときの潤滑油の巻き上げを抑制することができる。その流路変更部材9の可動部材92は、開口部912に設けられ、吸入管14から流入した流体が衝突する板状部材921と、吸入管14から流入した流体の衝突圧に応じて、板状部材921を開口部912に対して開閉自在に制御する制御部材922と、を備えることで、上記効果を容易に得られる構成とすることができる。
流路変更部材9は、開口部912が形成された支持部材91を有しており、板状部材921および制御部材922は、吸入管14の流体出口側の孔と対向する支持部材91の正面に対して、反対側に位置する支持部材91の裏面に設けられているため、流体の衝突圧が大きくなるほど板状部材921を開くことになり、開口部912を通過する流体の流量、つまり油溜め方向に向かう流体の割合を調整することができる。
また、制御部材922は、弾性部材であり、板状部材921を支持部材91に押し付ける力を作用させた状態で支持部材91を支持しているため、弾性力により流体の衝突圧が一定以上になるまで開口部912を閉状態にすることができるとともに、弾性力を変更することで衝突圧に応じた開閉度合いの調整を行うことができる。また、制御部材922は、支持部材91において開口部912の油溜め側に設けられているため、開口部912を通過した流体が油溜めの方向に流れないようにガイドすることができ、バランサカバー27付近の霧状の潤滑油の巻上げを抑制することができる。
実施の形態2.
図9は、この発明の実施の形態2に係るスクロール圧縮機の流路変更部材について説明するための図である。以下の実施の形態等では、図1~図8のスクロール圧縮機と同一の構成を有する部位には同一の符号を付してその説明を省略する。
実施の形態2では、吸入管14の流体出口側の孔の中心Cに対して、開口部912Aの中心C’の位置がずれるように流路変更部材9Aを配置している。より具体的には開口部912の形成位置を実施の形態1よりも下方にずらした支持部材91のメインフレーム2への取り付け位置を変えることで、吸入管14の流体出口側の孔の中心Cを開口部912Aの中心C’よりもメインフレーム2の方向(上方向)にずらしている。これにより、吸入管14から流入した流体は、開口部912Aの中心C’よりも高い位置、すなわち制御部材922からより離れた板状部材921Aの面で衝突するため、可動部材92を少ない力で可動させることができ、可動部材92を開閉させる衝突圧の調整を行うことができる。また、基部911に衝突する流体の量が増えるため、図8のように流路変更部材9Aを迂回して流れる流体の量を増やすことができる。
また、吸入管14の流体出口側の孔の中心Cを開口部912Aの中心C’よりも、側部913が形成されていない基部911の端部の方向(右方向)にずらすことで、吸入管14の流体出口側の孔の一部が基部911と重ならないようにしている。これにより、吸入管14から流入した流体の一部を基部911と衝突させずに通過させることができ、可動部材92が閉状態においても流路変更部材9Aを通過するような流体の流れを発生させることができ、吸入管14から流入した流体の油溜め方向の流量を調整することができる。
実施の形態3.
図10は、この発明の実施の形態3に係るスクロール圧縮機の流路変更部材について説明するための図である。
実施の形態3では、流路変更部材9Bにおいて、開口部912のメインフレーム2側の支持部材91Bに突起916Bを形成している。この突起916Bによって、圧縮機が稼動していないとき等の通常時および流体の衝突圧が第一の衝突圧のときに、基部911と板状部材921の間に隙間が形成されるため、吸入管14から流入した流体の一部をその隙間から通過させることができ、可動部材92が閉状態における吸入管14から流入した流体の油溜め方向の流量を調整することができる。また、突起916Bによって、板状部材921を少ない力で稼動させることができる。
実施の形態4.
図11は、この発明の実施の形態4に係るスクロール圧縮機の流路変更部材について説明するための図である。
実施の形態4では、流路変更部材9Cの形状および配置を変更している。具体的には、板状部材921Cの流体が衝突する側の面の油溜め方向の端部に、吸入管14の方向に突出する流体受け部923Cを形成した流路変更部材9Cを、支持部材91の流体が衝突する側の面である正面に配置している。この板状部材921Cにおいては、制御部材922Cとして、例えば伸縮可能な部材を使用している。板状部材921Cは、一端を支持部材91をメインフレーム2に固定するためのネジに共締めし、他端を可動部材92Cの流体受け部923Cの油溜め側に引っ掛けるように固定することで、圧縮機が稼動していないとき等の通常時に可動部材92Cをメインフレーム2の方向に引っ張る力を作用させた状態としている。
これにより、吸入管14に流入した流体の衝突圧が小さい第一の衝突圧のときには、流体受け部923Cに作用する流体の力が小さいため、図11(a)のように可動部材92Cは可動せず、開口部912は閉状態のままであり、流体は油溜めの方向に流れる。流体の衝突圧が大きい第二の衝突圧のときには、流体受け部923Cに作用する流体の力が制御部材922Cの可動部材92Cをメインフレーム2の方向に引っ張る力よりも大きくなるため、図11(b)のように可動部材92Cが油溜めの方向に移動して開口部912が開状態となり、流体の少なくとも一部が開口部912を通過し、油溜めの方向に流れる流体の割合が減少する。したがって、実施の形態4の流路変更部材9Cでも、流体受け部923Cに吸入管14に流入した流体による油溜め方向の力が作用した場合には、その力の大きさに応じて可動部材92を油溜め方向に可動させることができるため、低周波数運転時の駆動部の温度上昇を抑制しつつ、高周波数運転時の潤滑油の巻き上げを抑制することができる。
実施の形態5.
図12は、この発明の実施の形態5に係るスクロール圧縮機の流路変更部材について説明するための図である。
実施の形態5では、流路変更部材9Dの形状を変更している。具体的には、可動部材92Dの板状部材921Dは、平板であり、開口部912を左右に横断するように設けられた支持棒924Dによって開口部912に配置され、上端部および下端部は自由端となっている。制御部材922Dは、例えば錘であり、板状部材921Dの油溜め方向の端部に設けられている。この構造により、可動部材92Dは、圧縮機が稼動していないとき等の通常時、制御部材922Dの自重によって板状部材921Dを支持部材91の基部911に対して略並行となるように状態が維持される。そして、吸入管14に流入した流体によって板状部材921Dの自由端付近に衝突圧が作用した場合には、その力の大きさに応じて支持棒924Dを中心に板状部材921Dを回転させる。
すなわち、吸入管14に流入した流体の衝突圧が小さい第一の衝突圧のときには、可動部材92Dの自由端付近に作用する流体の力が小さいため、図10(a)のように可動部材92Dは稼動せず、開口部912は閉状態のままであり、流体は油溜めの方向に流れる。流体の衝突圧が大きい第二の衝突圧のときには、可動部材92Dの自由端付近に作用する流体の力が制御部材922Dの自重により可動部材92Dを支持部材91の基部911に対して略並行となるように状態を維持する力よりも大きくなるため、図10(b)のように可動部材92Dが支持棒924Dを中心にし、開口部912が開状態となり、流体の少なくとも一部が開口部912を通過し、油溜めの方向に流れる流体の割合が減少する。したがって、実施の形態5の流路変更部材9Dでも低周波数運転時の駆動部の温度上昇を抑制しつつ、高周波数運転時の潤滑油の巻き上げを抑制することができる。また、制御部材922Dは錘であるため、可動部材92Dが繰り返し可動しても、流体の衝突により開状態となる衝突圧の大きさが経年変化することを抑制できる。
以上、実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。
例えば、流路変更部材9は、実施の形態1~5に限らず、吸入管14から流入した流体の衝突圧が小さいときには流体を油溜め方向に流し、衝突圧が大きいときには流体を開口部912を通過して、油溜め方向に流れる流体の割合を減少させることが可能なものであれば形状や配置は変更可能である。
支持部材91は、メインフレーム2に取り付ける場合に限らず、流路変更部材9に吸入管14から流入した流体が衝突する位置にあれば、取り付け位置はどこでもよい。例えば、図13のように、流路変更部材9Eの支持部材91Eを、メインシェル11に取り付けてもよい。固定部914Eの吸入管14の側の端部に、メインフレーム2の方向に延びる取付部917Eを設けることで、支持部材91Eをメインシェル11に取り付けることができる。その他、支持部材91は、吸入管14に取り付けるようにしてもよい。また、支持部材91は、流体が衝突する面が吸入管14の流体出口側の孔に対して並行である必要はなく、吸入管14からの流体の衝突圧を受けることが可能な傾斜、例えば吸入管14の流体出口側の孔により形成される面に対して±15°程度であれば傾斜していてもよい。
開口部912は、基部911の一辺から切り欠かれてなる切欠き状であってもよい。また、開口部912の大きさは、吸入管14の流体出口側の孔の大きさに対して、同程度であることが望ましいが、例えば開口部912に吸入管14の流体出口側の孔の全体が含まれる大きさであってもよい。また、開口部912は円形状や多角形状であってもよい。
板状部材921は、開口部912の形状と同様の形状でなくてもよい。また、板状部材921は、開口部912の全体を塞ぐものである必要はなく、閉状態において隙間が形成され、その隙間から吸入管14からの流体の一部が通過するようにしてもよい。さらに、板状部材921は、吸入管14からの流体が衝突した際に、その流体から潤滑油を分離できる機能を有するものであってもよい。例えば、図14に示すように、流路変更部材9Fの板状部材921Fをメッシュ状の鋼材で形成することで、流体中の潤滑油をメッシュに付着させるようにしてもよい。また、図15に示すように、流路変更部材9Gの板状部材921Gに細孔を形成することで、流体中の潤滑油を細孔に付着させるようにしてもよい。なお、細孔は、基部911Gに形成すると、流体から潤滑油を分離する効果をさらに高めることができる。
制御部材922は、弾性や伸縮性のある部材に限らず、開口部912を開閉自在に調整できるものであればよい。