以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[1.本発明の背景及び概要]
まず、本発明に至る背景と、本発明の実施形態に係る炭素含有粉とその製造方法の概要について説明する。
前述したように、フライアッシュは、石炭の燃焼により生成される石炭灰の一種であり、例えば、発電所のボイラー等において燃料炭を燃焼させることにより、フライアッシュが生成される。発電所での燃料炭としては、主に瀝青炭又は亜瀝青炭が使用される。
フライアッシュは、Al2O3成分、SiO2成分等を含む化合物からなる金属酸化物(灰分)とともに、燃え残った炭素成分である未燃カーボン(炭素成分)を含んでいる。フライアッシュ中の炭素含有率(炭素成分の含有率)は1.5〜15質量%であり、SiO2成分、Al2O3成分等の金属酸化物の含有率は75〜98質量%である。
発電所等における石炭の燃焼過程において、燃料炭中のSiO2成分、Al2O3成分等の酸化物は一時的に溶融するため、燃焼後のフライアッシュ中では、当該酸化物は、表面に凹凸が少ない略球状の粒子として存在している。ここでいう略球状とは、真球状に限定されず、表面に凹凸が少なく概ね球に近い形状であればよく、楕円体状、多角球状などの形状も含まれる。酸化物粒子の粒子径は、概ね直径200μm以下であり、直径1μm未満の酸化物粒子も5〜10質量%含まれることが多い。かかる酸化物粒子は、後述する未燃カーボン粒子のような多孔質粒子とは異なり、ほとんどが略球状の中実粒子であり、酸化物粒子の表層に細孔は形成されていない。このようにフライアッシュは略球状で中実の酸化物粒子を多く含むため、フライアッシュの比表面積は、0.5〜10m2/gと小さくなっている。なお、フライアッシュの粒子径は約1〜200μmである。
一方、瀝青炭、亜瀝青炭からコークスを製造する場合、コークス炉等で瀝青炭、亜瀝青炭が乾留処理される。この乾留処理では、加熱によって揮発分が消失する際に生じる空隙のため、乾留物の比表面積が大きくなることが分かっている(非特許文献1)。
非特許文献1:行本 剛、外3名、“石炭とコークスの鑑別”、財務省関税中央分析所報、Vol.49 pp.69−76、2011年3月19日
しかしながら、発電所のボイラー内で石炭は燃焼状態となり、上記コークス炉内のような乾留状態とは異なるので、従来では、フライアッシュ中の未燃カーボン粒子の表面に賦活が進んでいるかどうかは不明であった。さらに、乾燥状態において、微細な酸化物粒子は、その粒子径が小さいほど、ファンデルワールス力や静電気力などの引力で、他の粒子と凝集しやすく、かつ、フライアッシュ中における未燃カーボン粒子の含有率は少ない。このため、未燃カーボン粒子の表面に多数の酸化物粒子が付着してしまう。このため、ボイラー内で燃え残った未燃カーボン粒子の単独の特徴は解明できていなかった。
さらに、仮に未燃カーボン粒子の表層に賦活により細孔が存在していたとしても、微細な酸化物粒子が当該細孔に入り込み、ファンデルスワールス力や静電気力などの引力で付着する。このため、未燃カーボン粒子の細孔から酸化物粒子を除去することが困難であるので、未燃カーボン粒子の単独の特徴を解明することがさらに困難になっていた。
上記のような状況において、本発明者は、特殊な湿式分離方法を使用して、フライアッシュ中の未燃カーボン粒子を酸化物粒子から好適に分離し、未燃カーボン粒子が濃縮された炭素含有粉を製造する方法を見出し、当該方法により製造された炭素含有粉の特性について調査及び分析し、新たな種々の特徴を見出した。
具体的には、まず、発電所のボイラー等での燃焼後のフライアッシュ(石炭灰)の窒素含有率は低く、当該フライアッシュのN/C比は0.02以下であることが分かった。そして、フライアッシュは、未燃カーボン粒子(炭素成分)と、SiO2成分、Al2O3成分等を含む化合物からなる酸化物粒子(灰分)を含有しているが、図1A及び図1B(以下、図1と総称する。)に示すように、未燃カーボン粒子P2は、多孔質粒子であり、未燃カーボン粒子P2の表層には多数の細孔P20が形成されていることが分かった。さらに、酸化物粒子P1は、略球状の中実粒子であり、未燃カーボン粒子P2の表面に付着している場合もあれば、未燃カーボン粒子P2の表層に形成された複数の細孔P20の内部に入り込んで存在している場合もあることが分かった。
そこで、図1に示すように、未燃カーボン粒子P2と酸化物粒子P1が混在しているフライアッシュから、未燃カーボン粒子P2を分離して濃縮するために、本実施形態に係る炭素含有粉の製造方法では、以下のような特殊な湿式分離方法を利用する。
まず、水と、疎水性液体(例えば疎水性を有する有機溶剤)と、フライアッシュとを混合・撹拌した混合液を静置することにより、未燃カーボン粒子P2を含む疎水性液体相と、酸化物粒子P1を含む水相とに分離する(比重分離工程)。次いで、疎水性液体相から疎水性液体を分離することにより、未燃カーボン粒子P2を含むケーキを回収する(固液分離工程)。その後、当該ケーキを加熱して疎水性液体を揮発させることにより、未燃カーボン粒子P2が濃縮された炭素含有粉を回収する(回収工程)。
かかる製造方法により、フライアッシュから未燃カーボン粒子P2を分離及び濃縮し、炭素含有率の高い炭素含有粉(炭素含有率:50質量%以上)を得ることができる。この分離方法では、図2A及び図2B(以下、図2と総称する。)に示すように、未燃カーボン粒子P2の細孔P20に入り込んでいる微細な酸化物粒子P1は、あまり除去されないものの、未燃カーボン粒子P2の表面に付着している酸化物粒子P1のほとんどを、分離及び除去することができる。
さらに、上記比重分離工程の前工程又は後工程で、上記水又は疎水性液体のうちいずれか一方若しくは双方とフライアッシュとの混合液に対して粉砕処理を施すことが好ましい(粉砕工程)。なお、粉砕方法としては、例えば、超音波による粉砕処理、高速せん断ミキサーによる粉砕処理、ボールミル又はビーズミルによる粉砕処理などが挙げられる。なお、上記粉砕工程で用いる疎水性液体は、上記比重分離工程で用いる疎水性液体L2と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
かかる粉砕処理により、図3A及び図3B(以下、図3と総称する。)に示すように、フライアッシュ中の未燃カーボン粒子P2が粉砕され、破断面P21で複数片に分割され、微細化される。これにより、破断面P21付近の細孔P20中に入り込んでいた略球状の酸化物粒子P1が、当該細孔P20から放出される。従って、未燃カーボン粒子P2の表面に付着していた酸化物粒子P1のみならず、細孔P20中に入り込んでいた酸化物粒子P1も、未燃カーボン粒子P2から分離及び除去されるので、未燃カーボン粒子P2と酸化物粒子P1をさらに好適に分離できる。これにより、フライアッシュに粉砕処理を施すことで、炭素含有率がより一層高い炭素含有粉(炭素含有率:70質量%以上)を得ることが可能となる。
[2.炭素含有粉の構成]
次に、本実施形態に係るフライアッシュから分離・回収された未燃カーボン粒子を主体とする炭素含有粉の構成について詳細に説明する。
[2.1.炭素含有粉の特性]
上記の製造方法によりフライアッシュから回収された炭素含有粉(炭素含有率:50質量%以上)の成分、物性値等を調査・分析した結果、当該炭素含有粉は以下の特性を有することが判明した。以下では、表1を参照して、本実施形態に係る炭素含有粉の特性を、従来の炭素含有物質と比較しながら説明する。
(1)N/C比
N/C比は、ある材料中に占める窒素成分の量(窒素含有率)と、炭素成分の量(炭素含有率)との質量比率であり、窒素含有率を炭素含有率で除算して求められる。本実施形態に係る炭素含有粉は、窒素含有率が低く、かつ、炭素含有率が高いので、当該炭素含有粉のN/C比は、0超、0.02以下であり、例えば、0.0065〜0.0196の範囲内である。表1には記載していないが、無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭のN/C比は、例えば0.008〜0.03であるが、0.02超であるものが多い。本実施形態に係る炭素含有粉のN/C比は、無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭のN/C比の中でも、低い領域に相当する。本実施形態に係る湿式分離工程前の元々のフライアッシュに含まれる未燃カーボンのN/C比は、0.02以下であり、窒素含有率が低い。このため、分離回収された未燃カーボンを主体とする炭素含有粉のN/C比も、0.02以下となる。後述するが、発電所のボイラー内の燃焼温度が上昇するに従い、N/C比は低下すると考えられる。
(2)炭素含有率
本実施形態に係る製造方法によりフライアッシュから湿式分離により回収される炭素含有粉の炭素含有率CAは、50質量%以上、95質量%以下である。特に、上記粉砕工程を含む製造方法により回収される炭素含有粉の炭素含有率CAは、70質量%以上、95質量%以下である。
従って、本実施形態に係る製造方法により製造される炭素含有粉においては、炭素含有率CAは、50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、N/C比も0.02以下と小さい。従って、本実施形態に係る炭素含有粉は、窒素含有率が低い石炭(低窒素炭)として利用でき、焼結機、発電所、転炉等の石炭処理設備で使用される従来の低窒素炭の代替物として有効利用できる。特に、焼結機で使用する低窒素炭の代替物として有効利用するには、N/C比が0.015以下であることがより好ましい。このため、本実施形態に係る製造方法により、低窒素炭と同程度の高い炭素含有率と、低いN/C比を有する炭素含有粉を、フライアッシュから回収してリサイクルできることは、産業上非常に重要かつ有益である。
(3)比表面積
図2及び図3に示すように、本実施形態に係る炭素含有粉に含まれる未燃カーボン粒子P2は、その表層に多数の細孔P20が形成された多孔質粒子である。このため、本実施形態に係る炭素含有粉の比表面積は、活性コークス粉と同等の50〜300m2/gであり、分離処理前のフライアッシュの比表面積(0.5〜10m2/g)よりも、数十倍〜百倍程度も大きくなっている。
(4)SO2吸着能、脱硝能
上記のように、本実施形態に係る炭素含有粉の比表面積は、50〜300m2/gと非常に大きい。このため、本実施形態に係る炭素含有粉は、SO2吸着能及び脱硝能を有しており、SO2吸着材及び脱硝材として有効利用することができる。
(5)酸化物粒子の成分
酸化物粒子P1は、少なくともSiO2成分又はAl2O3成分のうちいずれか一方若しくは双方を含む化合物からなる粒子である。フライアッシュ中において、SiとAlは、主に、mullite(Al6Si2O13)、quartz(SiO2)、amorphous(nAl2O3・mSiO2)等の化合物として含まれる。ただし、n、mは正数である。これら化合物は、SiO2成分又はAl2O3成分に相当する。フライアッシュ中には、かかる化合物からなる酸化物粒子P1が含まれている。このため、当該フライアッシュから分離された炭素含有粉にも、一部残存した、当該化合物からなる酸化物粒子P1が含まれることになる。
本実施形態に係る炭素含有粉は、未燃カーボン(炭素成分)を主体とする粉体であるが、後述する比重分離処理により分離しきれなかった酸化物粒子P1も含有している。炭素含有粉中の酸化物粒子P1の含有率は、50質量%未満、好ましくは30質量%未満である。酸化物粒子P1中のSiO2成分とAl2O3成分の合計の含有率は、75質量%以上、98質量%以下である。このように、酸化物粒子P1は、SiO2成分とAl2O3成分を主体とする化合物からなるが、それ以外にも他の元素の酸化物が含まれていてもよい。上記酸化物粒子P1中のSiO2成分の含有率は、50質量%以上、80質量%以下であり、当該酸化物粒子P1中のAl2O3成分の含有率は、10質量%以上、30質量%以下である。なお、これらの含有率としては、「平均含有率」を用いることが好ましい。平均含有率は、複数個の酸化物粒子P1のサンプルを用いてSiO2成分とAl2O3成分の含有率を測定し、当該複数の測定値の平均を算出することにより得られる。
(6)酸化物粒子の粒子径、円形度と存在形態
本実施形態に係る炭素含有粉には、未燃カーボン粒子P2のみならず、酸化物粒子P1も混在している。これら酸化物粒子P1は、上記のように石炭をボイラー等で燃焼させるときに、石炭の灰分が燃焼熱で溶融した後に、冷えて粒状となった粒子であり、ほとんどが略球状の中実粒子である。酸化物粒子P1の粒子径は、体積基準の50%粒子径(メジアン径 D50)で、1〜20μmである。酸化物粒子P1の円形度の平均値は、0.9超、1以下である。ここで粒子の円形度とは、粒子の投影像の周囲長に対する、粒子の投影像と面積が等しい円の周囲長の、比である。
かかる酸化物粒子P1の少なくとも一部は、上記未燃カーボン粒子P2の表層に形成された多数の細孔P20中に入り込んで存在している。後述する比重分離処理により表面から酸化物粒子P1が分離された炭素含有粉の内部における、細孔P20中に残った酸化物粒子P1及び細孔P20外に含まれる酸化物粒子P1の含有率は、5質量%超、50質量%未満でありうる。このように、本実施形態に係る炭素含有粉は、多孔質な未燃カーボン粒子P2の細孔P20中に、50%粒子径が1〜20μmであり、円形度の平均値が0.9超、1以下であるような粒状酸化物(略球状の酸化物粒子P1)が混在するという特徴的な構成を有している。このような特徴的構成を有する炭素含有粉は、従来知られておらず、新規かつ有用な低窒素炭粉であるといえる。
[2.2.測定方法]
次に、本実施形態に係る炭素含有粉の上記特性の測定方法について説明する。
(1)比表面積の測定方法
流動式比表面積測定装置(例えば、島津製作所社製:FlowSorb II 2300)を用いて、ガス吸着法により、多孔質な未燃カーボン粒子を主体とする炭素含有粉の比表面積(単位:m2/g)を測定することができる。ガス吸着法では、ヘリウムと窒素の混合ガス(体積比7:3)を用い、BETの式を用いてガスの単分子吸着量と比表面積を算出することができる。
(2)SO2吸着能の測定方法
反応槽内に炭素含有粉(試料)を5〜50ml入れ、反応槽温度を100℃にし、試料ガスを3時間通気する。試料ガスの組成は、SO2:2体積%、H2O:10体積%、O2:6体積%、残りを窒素とすることができる。試料ガスの通気後、窒素気流下で400℃に炭素含有粉を加熱し、発生するSO2を捕集して定量することで、炭素含有粉によるSO2の吸着能(単位:mg−SO2/g−炭素含有粉)を測定できる。
(3)脱硝能の測定方法
分析用の反応槽内に炭素含有粉(試料)を5〜50ml入れ、反応槽温度150℃、SV500h-1で反応槽内に、試料ガスを10時間通気する。試料ガスの組成は、NO:200ppm、NH3:200ppm、O2:6体積%、H2O:10体積%、残りを窒素とすることができる。試料ガスの通気後、反応槽から排出したガス中のNO濃度とO2濃度を測定し、定常状態におけるNO濃度の低下率を計算することにより、炭素含有粉による脱硝率(体積%)を求めることができる。
(4)炭素含有率及び窒素含有率の測定方法
JIS M8819に準拠し、本実施形態に係る炭素含有粉の炭素含有率及び窒素含有率を測定した。
(5)硫黄含有率の測定方法
JIS M8813に準拠し、本実施形態に係る炭素含有粉の硫黄含有率を測定した。
(6)炭素含有粉中の酸化物粒子の粒子径の測定方法
本実施形態に係る炭素含有粉をるつぼに入れ、空気の存在下で、600℃で2時間加熱して、炭素成分を燃焼させる。これにより、残留物として、炭素含有粉中に含まれる介在粒子である粒状酸化物(略球状の酸化物粒子P1)を得ることができる。通常、600℃では、炭素を主体とする成分は燃えてしまうが、粒状酸化物は、溶融しないため、その形を変化させずに、粒状酸化物を回収することができる。次いで、レーザー回折式粒度分布測定装置を用い、粒状酸化物の粒度分布を測定することで、体積基準の50%粒子径(メジアン径 D50)を求めることができる。
(7)炭素含有粉中の酸化物粒子の円形度の測定方法
上記(6)で回収した酸化物粒子P1の円形度は、粒子画像分析装置を用いて、撮像した酸化物粒子の形状を解析することで求めることができる。例えば、酸化物粒子の試料に分散剤水溶液を加えて超音波で分散処理した懸濁液を用意する。フロー式粒子像分析装置を用いて、シースフロー方式により、上記懸濁液中の酸化物粒子を静止画像として撮像できる。円形度の平均値は、試料中で測定された所定数以上の酸化物粒子の円形度の平均であってよい。上記平均値の算出に用いる酸化物粒子の数は、例えば10000個以上であってよい。
(8)酸化物粒子中のSiO2成分及びAl2O3成分の含有率の測定方法
上記(6)で回収した略球状の酸化物粒子P1中のSiO2成分の含有率[質量%]、及び略球状の酸化物粒子中のAl2O3成分の含有率[質量%]は、蛍光X線分析法により測定可能である。
SiO2の含有率は、ガラスビード法による蛍光X線分析装置(XRF)により定量分析が可能である。具体的には、SiO2の含有率が既知である測定サンプルを、含有率を変えて複数準備して、蛍光X線分析装置により、準備した測定サンプルのSi由来の蛍光X線強度を測定する。得られたSi由来の蛍光X線強度と、SiO2の含有率とを用いて、SiO2の含有率と蛍光X線強度との間の関係を示す検量線を予め作成しておく。その後、着目するSiO2の含有率が未知の試料について、蛍光X線分析装置によりSi由来の蛍光X線強度を測定し、得られた蛍光X線強度と、検量線とを用いて、SiO2の含有率を特定することができる。これにより、上記の酸化物粒子P1中のSiO2成分の含有率を求めることができる。
また、Al2O3の含有率は、ガラスビード法による蛍光X線分析装置(XRF)により定量分析が可能である。具体的には、Al2O3の含有率が既知である測定サンプルを、含有率を変えて複数準備して、蛍光X線分析装置により、準備した測定サンプルのAl由来の蛍光X線強度を測定する。得られたAl由来の蛍光X線強度と、Al2O3の含有率とを用いて、Al2O3の含有率と蛍光X線強度との間の関係を示す検量線を予め作成しておく。その後、着目するAl2O3の含有率が未知の試料について、蛍光X線分析装置によりAl2O3の蛍光X線強度を測定し、得られた蛍光X線強度と、検量線とを用いて、Al2O3の含有率を特定することができる。これにより、上記の酸化物粒子P1中のAl2O3成分の含有率cAlを求めることができる。
上記のように得られた酸化物粒子P1中のSiO2成分の含有率cSi[質量%]、及び酸化物粒子P1中のAl2O3成分の含有率cAl[質量%]より、以下の式(1)を用いて、炭素含有粉中の酸化物粒子P1中のSiO2成分及びAl2O3成分の合計の含有率cT[質量%]を測定できる。
cT=cSi+cAl ・・・(1)
なお、上記(4)(5)(8)の含有率を測定する場合、複数の試料を用いて測定した複数の含有率の平均値を算出してもよいし、或いは、1つの試料のみを用いて含有率を測定してもよい。測定精度の観点からは、複数の試料を用いて含有率を求めることが好ましい。上記(6)の粒子径及び(7)の円形度についても同様である。
[2.3.炭素含有粉のN/C比の低下原理]
次に、図4を参照して、本実施形態に係る炭素含有粉の窒素含有率とN/C比が低い理由について説明する。図4は、本実施形態に係る炭素含有粉P0の製造方法の概要を示す工程図である。
図4に示すように、本実施形態に係る製造方法では、例えば、火力発電所のボイラー4等で、瀝青炭又は亜瀝青炭等の燃料炭FCが燃焼され、この燃焼の結果、石炭灰であるフライアッシュFAが生成される(燃焼工程)。このフライアッシュFAは、分離回収装置5(詳細は後述する。)に導入されて、本実施形態に係る特殊な湿式分離方法により、SiO2成分、Al2O3成分等からなる酸化物粒子P1(灰分)と、未燃カーボン粒子P2(炭素成分)とに分離されて、回収される(分離回収工程)。従って、本実施形態に係る炭素含有粉P0は、ボイラー4における燃焼工程と、分離回収装置5における分離回収工程を経て製造される。ここで、本実施形態に係る炭素含有粉P0の窒素含有率が低い理由は、以下に説明する通り、ボイラー4における石炭の燃焼工程に起因していると考えられる。
一般にコークス炉での石炭の乾留工程では、各種の乾留ガスが発生する。非特許文献2によれば、石炭種にもよるが、乾留ガス中の窒素系ガス(HCN、NH3、N2)のうち、HCN、NH3の発生は、約300℃から開始し、800℃程度で終息する。これに対し、N2は、約600℃から発生を開始し、他の窒素系ガスの発生がほぼ終息する800℃以上の高温においても発生し続けることがわかっている。また、一般的に、乾留ガス中の炭素系ガス(CO、CH4、HCN)の発生は少ない。これらのことから、石炭の乾留時には、石炭のN/C比はコークス炉内での乾留温度の上昇とともに低下すること、が予測できる。
非特許文献2:藤部 康弘、外2名、“ガスリアルタイム測定とXPS測定による石炭乾留過程における窒素の分配挙動”、材料とプロセス、Vol.25 No.2、Page.ROMBUNNO.36、2012年9月1日
一方、本実施形態に係る製造方法の燃焼工程において、発電所のボイラー4内の燃焼温度は、約1300〜1500℃であり、かつ、ボイラー4内における石炭粉の滞留時間は、数秒程度であり、上記コークス炉における石炭粉の滞留時間と比べて非常に短く、かつ、ボイラー4内の石炭粉は、乾留状態ではなく燃焼状態になる。ボイラー4内には酸素濃度分布があり、石炭粉の表面近くでは、酸素濃度は特に低く、部分的に乾留状態に近い状態になると考えられる。このため、上記石炭の乾留工程と同様に、ボイラー4内の燃焼工程でも、燃焼温度が800℃以上の高温条件下では、粒子径が数mm程度の石炭粉の表層部分だけが乾留され、当該表層部分に含まれる窒素化合物が分解されてガス化するため、石炭粉の窒素成分が減少していると考えられる。従って、燃焼工程後のフライアッシュFA中の未燃カーボン粒子P2の窒素含有率が低下するため、当該未燃カーボン粒子を濃縮して回収された炭素含有粉P0のN/C比も低下すると考えられる。また、ボイラー4内の燃焼温度が上昇するに従い、炭素含有粉P0のN/C比は低下すると考えられる。
[2.4.炭素含有粉中の介在粒子の特徴]
次に、図1〜図3を参照して、本実施形態に係る炭素含有粉に介在粒子として含まれる略球状の酸化物粒子P1に関する特徴について、より詳細に説明する。
図1に示すように、湿式分離処理前のフライアッシュFAは、未燃カーボン粒子P2よりも、略球状の酸化物粒子P1を多く含有しており、未燃カーボン粒子P2の細孔P20中に酸化物粒子P1が入り込み、かつ、未燃カーボン粒子P2の表面を酸化物粒子P1が覆っている。このため、従来では、未燃カーボン粒子P2単独の特性は不明であった。
そこで、後述する本発明の第1の実施形態に係る製造方法では、粉砕処理を伴わない、水と疎水性液体を用いた湿式分離処理(後述の図5を参照。)により、未燃カーボン粒子P2と酸化物粒子P1とを分離する。これにより、図2に示すように、未燃カーボン粒子P2の表面に付着している酸化物粒子P1は除去されるが、未燃カーボン粒子P2の細孔P20中に進入している酸化物粒子P1を除去することは困難である。この理由は、上記の湿式分離処理では、水又は疎水性液体のうちいずれか一方若しくは双方が未燃カーボン粒子P2の細孔P20の内部まで入り込むことができないため、当該細孔P20から酸化物粒子P1を排出することが困難であるからと考えられる。
ここで、かかる未燃カーボン粒子P2を含む炭素含有粉を、SO2吸着材として利用する場合を考える。酸化物粒子P1により閉塞された未燃カーボン粒子P2の細孔P20は、炭素含有粉の比表面積にはカウントされる。しかし、未燃カーボン粒子P2の細孔P20中に酸化物粒子P1が保持されているため、SO2等を含有する排ガス(常圧)のほとんどは、細孔P20の深部まで進入することができない。このため、SO2の吸着面として未燃カーボン粒子P2の細孔P20を有効に活用できておらず、SO2吸着材としての性能に改善の余地がある。
そこで、後述する本発明の第2の実施形態に係る製造方法では、未燃カーボン粒子P2の粉砕処理を伴う、湿式分離処理(後述の図7〜図10を参照。)を行う。かかる粉砕処理により、図3に示すように、もろい多孔質の未燃カーボン粒子P2は容易に粉砕され、複数の細孔P20どうしが破断面P21でつながるため、未燃カーボン粒子P2が微細化されやすい。未燃カーボン粒子P2が粉砕されれば、細孔P20内の略球状の酸化物粒子P1は、水又は疎水性液体のうちいずれか一方若しくは双方と容易に接触することができ、多くの酸化物粒子P1を細孔P20から排出させ、未燃カーボン粒子P2から分離することができる。これにより、酸化物粒子P1が分離された、未燃カーボン粒子P2を主体とする炭素含有粉が得られる。この炭素含有粉においては、炭素含有率が増加するとともに、SO2の吸着面となる炭素成分の表面積も増加する。従って、当該炭素含有粉によるSO2含有ガスの処理能力が上昇し、SO2吸着材としての性能が向上する。
[3.炭素含有粉の製造方法]
次に、本実施形態に係る炭素含有粉の製造方法について詳細に説明する。
[3.1.炭素含有粉の製造方法の概要]
まず、図4を参照して、本実施形態に係る炭素含有粉の製造方法の概要を説明する。
図4に示すように、本実施形態に係る炭素含有粉の製造方法は、燃焼工程(S0)と、分離回収工程(S1)とを含む。燃焼工程(S0)では、火力発電所等のボイラー4により、燃料炭FCを燃焼させて、石炭灰であるフライアッシュFAを生成する。次いで、分離回収工程(S1)では、分離回収装置5により、フライアッシュFAから酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2を分離して、それぞれ回収する。
[3.2.比重分離方法]
続いて、本実施形態に係る分離回収工程(S1)において、フライアッシュFAを酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2とに分離する方法についてより詳細に説明する。
本実施形態に係る分離回収工程では、フライアッシュFAに由来し、酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2とが混在する混合物を、未燃カーボン粒子P2を主体とする炭素含有粉P0と、酸化物粒子P1とに湿式分離する。
この分離方法では、親水性粒子である酸化物粒子P1の抽出剤として水を使用するとともに、疎水性粒子である未燃カーボン粒子P2の抽出剤として、例えば、水より比重が大きい疎水性液体を使用する。そして、当該水と疎水性液体を、処理対象の混合物であるフライアッシュ(固形分)FAに混合して撹拌し、混合物が分散した混合液(第1スラリー)を生成する(混合工程)。次いで、分離装置(例えば、沈殿槽、静置槽等のセトラー)内で当該混合液を静置することで、水と疎水性液体の比重差を利用して、上記混合液を上側の水相と、下側の疎水性液体相との2相に分離しつつ、酸化物粒子P1(親水性粒子)を水相に移動させ、未燃カーボン粒子P2(疎水性粒子)を疎水性液体相に移動させる(比重分離工程)。さらに、分離された水相(第2スラリー)から、酸化物粒子P1を分離して回収するとともに(第1回収工程)、上記分離工程で分離された疎水性液体相(第3スラリー)から、未燃カーボン粒子P2を分離して回収する(第2回収工程)。これによって、酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2を迅速かつ効率的に分離でき、含有率の高い酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2をそれぞれ回収して再利用することができる。
ここで、疎水性液体は、疎水性を有する液体、即ち、水に対する親和性が低い(言い換えると水に溶解し難い、若しくは水と混ざり難い)性質を有する液体である。疎水性液体は、20℃の水に対する溶解度が0g/L以上、5.0g/L以下の液体であってよい。なお、本明細書における疎水性とは、親油性を含む性質である。疎水性液体は、疎水性を有する有機溶剤(以下、「疎水性溶剤」という。)、又は、シリコーンオイル等の各種の油であってよい。疎水性溶剤としては、例えば、フッ素系、臭素系若しくは塩素系の有機溶剤等を使用できる。かかる疎水性液体は、水に対する親和性が低いので、疎水性液体と水を混合及び撹拌した混合液を静置すると、水を主体とする水相と、疎水性液体(例えば疎水性溶剤)を主体とする疎水性液体相(例えば疎水性溶剤相)の2相に分離される。
表2は、本実施形態に係る分離方法で使用される疎水性液体の例を示す。表2に例示する疎水性液体はいずれも、その比重が1超であり、水に対する溶解度が5.0g/L以下であり、疎水性を有する。
また、疎水性液体の比重は、1.05超であることが好ましい。これにより、水と疎水性液体の比重差により、混合液の静置後、例えば1〜30秒程度の短時間で迅速に、水相と疎水性液体相に分離することができる。
親水性粒子は、水に対する親和性を有する粒子であり、上記疎水性液体よりも水に混ざり易い性質を有する。フライアッシュFAに含まれる酸化物粒子P1は、親水性粒子である。一方、疎水性粒子は、上記疎水性液体に対する親和性を有する粒子であり、水よりも疎水性液体に混ざり易い性質を有する。フライアッシュFAに含まれる未燃カーボン粒子P2は、疎水性粒子である。従って、水と疎水性液体の混合液中では、親水性粒子(酸化物粒子P1)は疎水性液体相から水相に移動して、主に水相中に分散して存在するようになる。一方、疎水性粒子(未燃カーボン粒子P2)は水相から疎水性液体相に移動して、主に疎水性液体相中に分散して存在するようになる。
また、親水性粒子である酸化物粒子P1の比重は、例えば、2.4〜2.6である。疎水性粒子である未燃カーボン粒子P2の比重は、例えば1.3〜1.5である。このように親水性粒子の比重よりも疎水性粒子の比重の方が小さい場合であっても、本実施形態に係る分離方法によれば、親水性粒子を上相の水相に浮上させ、疎水性粒子を下相の疎水性液体相に沈降させて、両粒子を迅速かつ効率的に湿式分離することができる。なお、酸化物粒子P1の比重が未燃カーボン粒子P2の比重より小さくても、上記のように水及び疎水性液体を用いた湿式分離により、酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2を分離することは可能である。なお、本明細書において、粒子の比重とは、粒子自体の比重(真比重)であって、粒子の嵩比重ではない。
[3.3.炭素含有粉の分離回収方法]
次に、図5を参照して、本実施形態に係る炭素含有粉の製造方法における分離回収方法について詳細に説明する。なお、以下の説明では、疎水性液体として疎水性溶剤を用いる例について説明する。
図5に示すように、分離回収工程(S1)は、比重分離工程(S2)と、回収工程(S4)とを含む。比重分離工程(S2)は、粗分離工程(S21)及び水洗浄工程(S22)を含み、回収工程(S4)は、固液分離工程(S41)及び乾燥工程(S42)を含む。
比重分離工程(S2)の粗分離工程(S21)では、フライアッシュFAと水L1と疎水性溶剤L2とを混合する。当該混合液を静置することにより、固形分として未燃カーボン粒子P2(言い換えると炭素粒子)を主に含む疎水性溶剤相ph2と、酸化物粒子P1を主に含む水相ph1とに比重分離する。この粗分離工程(S21)により、フライアッシュFA中の未燃カーボン粒子P2と酸化物粒子P1を粗く分離することができる。これにより、疎水性溶剤相ph2中の固形分中の未燃カーボン粒子P2の含有率(言い換えると炭素含有率)を増加させることができる。
次いで、水洗浄工程(S22)では、上記粗分離工程(S21)で分離された疎水性溶剤相ph2に対して水L1を加えて混合する。当該混合液を静置することにより、固形分として未燃カーボン粒子P2が濃縮された疎水性溶剤相ph2と、残存した酸化物粒子P1を主に含む水相ph1とに比重分離する。この水洗浄工程(S22)により、未燃カーボン粒子P2を含む疎水性溶剤相ph2を水L1で洗浄し、粗分離工程(S21)で残存した酸化物粒子P1を未燃カーボン粒子P2から分離・除去できる。従って、疎水性溶剤相ph2に含まれる未燃カーボン粒子P2を濃縮させ、疎水性溶剤相ph2中の固形分中の未燃カーボン粒子P2の含有率(炭素含有率)をさらに増加させることができる。
かかる水洗浄工程(S22)は、1回だけ行われてもよいが、複数回(例えば2〜4回)行うことにより、疎水性溶剤相ph2中の固形物中の未燃カーボン粒子P2の含有率(言い換えると炭素含有率)をより一層増加させることができる。なお、比重分離工程(S2)において、水洗浄工程(S22)は必須ではなく、上記粗分離工程(S21)だけを行ってもよい。この場合でも、未燃カーボン粒子P2と酸化物粒子P1をある程度分離でき、未燃カーボン粒子P2の含有率の高い疎水性溶剤相ph2を得ることは可能である。
次いで、回収工程(S4)の固液分離工程(S41)では、ろ過又は遠心分離などの固液分離処理により、上記比重分離工程(S2)で分離された疎水性溶剤相ph2を、液体分の疎水性溶剤L2と、固形分の粒子(主に未燃カーボン粒子P2と残存した酸化物粒子P1)とに分離し、固形分の粒子から疎水性溶剤L2を除去する。これにより、未燃カーボン粒子P2等の固形分の粒子を主体とするケーキC2が回収される。
その後、乾燥工程(S42)では、当該ケーキC2を加熱することにより、ケーキC2中に残存している疎水性溶剤L2を揮発させる。これにより、未燃カーボン粒子P2を主体とする炭素含有粉P0(炭素含有率:50質量%以上)が回収される。
ここで、疎水性溶剤L2の沸点は、大気圧下で200℃未満であることが好ましく、100℃未満であることがさらに好ましい。これにより、上記乾燥工程(S42)で、未燃カーボン粒子P2を主体とするケーキC2を乾燥させて、疎水性溶剤L2を揮発、除去するときに、加熱源として安価な熱源(例えば、蒸気)を使用することができる。
以上のように、本実施形態に係る炭素含有粉の製造方法の分離回収工程によれば、フライアッシュFAから、未燃カーボン粒子P2を主体とする炭素含有粉P0を分離、回収して、炭素含有率が50質量%以上の炭素含有粉P0を得ることができる。
[4.分離回収装置の構成]
次に、図6を参照して、本実施形態に係る分離回収工程を実行する分離回収装置5の構成と動作について詳細に説明する。図6は、本実施形態に係る分離回収装置5を示す模式図である。なお、使用する疎水性溶剤L2の比重は、1.05超とする。
図6に示すように、本実施形態に係る分離回収装置5は、上記比重分離工程(S2)を実行する2組の混合装置(ミキサー51A、51B)及び分離装置(セトラー52A、52B)と、第1回収装置61と、上記回収工程(S4)を実行する第2回収装置62とを備える。
(1)混合装置と分離装置による粗分離工程(S21)
上記比重分離工程(S2)の粗分離工程(S21)では、水L1と疎水性溶剤L2とを混合した混合液にフライアッシュFAを混合して静置する。これにより、混合液を水相ph1と疎水性溶剤相ph2とに相分離させて、親水性の酸化物粒子P1を水相ph1へ移動させ、疎水性の未燃カーボン粒子P2を疎水性溶剤相ph2へ移動させることで、酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2を粗分離する。この粗分離工程(S21)は、混合装置(ミキサー51A)による混合工程と、分離装置(セトラー52A)による比重分離工程を含む。
混合工程では、酸化物粒子P1及び未燃カーボン粒子P2が混在したフライアッシュFAを、水L1及び疎水性溶剤L2に混合して、混合液を撹拌してスラリー化し、第1スラリーを生成する。この混合工程を実行する混合装置としては、例えば、混合液を撹拌する撹拌翼を備えた容器、ラインミキサー、又は内部で混合液を撹拌可能なポンプなどを使用することができる。
図6の例のミキサー51Aは、モータ511Aと撹拌翼512Aを有する攪拌機である。このミキサー51Aは、後段のセトラー52Aに対して配管80Aを介して接続されている。ミキサー51Aの容器内部には、分離対象の混合物であるフライアッシュFAと、水L1と、水L1より比重が大きい疎水性溶剤L2とが投入される。ミキサー51Aは、モータ511Aにより撹拌翼512Aを回転させることにより、フライアッシュFAと水L1と疎水性溶剤L2とを混合して、第1スラリー(酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2と水L1と疎水性溶剤L2の混合液)を生成する(混合工程)。
セトラー52Aは、比重分離工程を実行する分離装置の一例である。セトラー52Aは、上記混合工程で生成された第1スラリーを静置することにより、水L1と疎水性溶剤L2の比重差を利用して、酸化物粒子P1を主として含む水相ph1と、未燃カーボン粒子P2を主として含む疎水性溶剤相ph2とに分離する。
セトラー52Aは、複数種類の液体の混合液を静置して、比重差を用いて該液体を分離する比重分離装置の一例であり、上記ミキサー51Aに対して配管80Aを介して接続されている。また、セトラー52Aは、後段の第1回収装置61に対して配管81Aを介して接続されている。当該配管81Aには、酸化物粒子P1を含む水相ph1(第2スラリー)を送出するためのポンプ71Aが設けられている。さらに、セトラー52Aは、後段のミキサー51Bに対して配管82Aを介して接続され、当該配管82Aには、未燃カーボン粒子P2を含む溶剤相ph2(第3スラリー)を送出するためのポンプ72Aが設けられている。
セトラー52Aは、ミキサー51Aから配管80Aを通じて導入された第1スラリーを、比重差を利用して、上相の水相ph1と、下相の疎水性溶剤相ph2(以下、「溶剤相ph2」と称する場合もある。)とに分離しながら、酸化物粒子P1を水相ph1に移動させ、未燃カーボン粒子P2を溶剤相ph2に移動させる。これにより、酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2を分離する。その後、酸化物粒子P1を含む水相ph1(第2スラリー)は、セトラー52Aの上部から配管81Aを通じて第1回収装置61に排出される。一方、未燃カーボン粒子P2を含む溶剤相ph2(第3スラリー)は、セトラー52Aの下部から配管82Aを通じてミキサー51Bに排出される。この第3スラリーは、固形分として、未燃カーボン粒子P2を主に含むが、分離しきれなかった酸化物粒子P1も含んでいる。
(2)混合装置と分離装置による水洗浄工程(S22)
上記比重分離工程(S2)の水洗浄工程(S22)では、上記粗分離工程(S21)で回収された溶剤相ph2(第3スラリー)に水L1を加えて混合した後、静置する。これにより、混合液を水相ph1と疎水性溶剤相ph2とに相分離させて、上記第3スラリー中に残存していた酸化物粒子P1を水相ph1に移動させ、未燃カーボン粒子P2を溶剤相ph2に濃縮させる。この結果、溶剤相ph2に含まれる固形物中の未燃カーボン粒子P2の含有率を増加させることができる。
この水洗浄工程(S22)は、混合装置(ミキサー51B)による混合工程と、分離装置(セトラー52B)による比重分離工程を含む。ミキサー51Bとしては、上述したミキサー51Aと同様な構成の装置を用いることができる。セトラー52Bとしては、上述したセトラー52Aと同様な構成の装置を用いることができる。
ミキサー51Bの容器内部には、上記セトラー52Aから供給された溶剤相ph2(第3スラリー)が投入される。ミキサー51Bは、モータ511Bにより撹拌翼512Bを回転させることにより、第3スラリーと水L1とを混合して、第4スラリー(未燃カーボン粒子P2と、残存した酸化物粒子P1と、水L1と、疎水性溶剤L2の混合液)を生成する(混合工程)。
セトラー52Bは、上記ミキサー51Bに対して配管80Bを介して接続されている。また、セトラー52Bは、後段の第1回収装置61に対して配管81Bを介して接続されている。当該配管81Bには、酸化物粒子P1を含む水相ph1(第5スラリー)を送出するためのポンプ71Bが設けられている。さらに、セトラー52Bは、後段の第2回収装置62に対して配管82Bを介して接続されている。当該配管82Bには、未燃カーボン粒子P2を含む溶剤相ph2(第6スラリー)を送出するためのポンプ72Bが設けられている。
セトラー52Bは、上記ミキサー51Bで生成された第4スラリーを静置することにより、水L1と疎水性溶剤L2の比重差を利用して、酸化物粒子P1を主として含む水相ph1と、濃縮された未燃カーボン粒子P2を含む溶剤相ph2とに分離する。その後、酸化物粒子P1を含む水相ph1(第5スラリー)は、セトラー52Bの上部から配管81Bを通じて第1回収装置61に排出される。一方、未燃カーボン粒子P2を含む溶剤相ph2(第6スラリー)は、セトラー52Bの下部から配管82Bを通じて第2回収装置62に排出される。
(3)第1回収装置による第1回収工程(S3)
第1回収装置61は、上記粗分離工程(S21)及び水洗浄工程(S22)により分離された酸化物粒子P1を含む水相ph1から、水L1を分離して、酸化物粒子P1を回収する。第1回収装置61は、遠心分離機611と、乾燥装置612と、コンデンサー613とを備える。
遠心分離機611は、固液分離装置の一例であり、遠心力を利用して、液体中に懸濁する固体と液体とを分離する。遠心分離機611は、後段の乾燥装置612に対して配管832を介して接続され、前段のミキサー51A、51Bに対して配管831を介して接続されている。遠心分離機611には上記セトラー52A、52Bから酸化物粒子P1を含む水相ph1(第2スラリー、第5スラリー)が導入される。遠心分離機611は、遠心力を利用して、当該スラリーを、酸化物粒子P1を含むケーキC1と、水L1とに分離する(固液分離工程)。遠心分離機611で脱水された酸化物粒子P1は、配管832を通じて乾燥装置612に排出される。一方、遠心分離機611で分離された水L1は、配管831を通じてミキサー51A、51Bに戻されて、上記粗分離工程(S21)と水洗浄工程(S22)にて再利用される。
なお、本実施形態では、スラリーを水L1と酸化物粒子P1に固液分離するために、遠心分離機611による遠心分離処理を用いるが、これに替えて、フィルタープレス又は蒸留又はろ過等の固液分離方法を用いてもよい。ただし、疎水性溶剤L2が揮発性を有する場合、揮発した溶剤ガスの漏えいを少なくするには、固液分離装置として、例えば、蒸留装置、遠心分離装置、ろ過装置を使用することが好ましい。
乾燥装置612は、上記遠心分離機611から導入された、酸化物粒子P1を含むケーキC1を加熱して、残存する水分を蒸発させる。これにより、酸化物粒子P1を乾燥させる(乾燥工程)。乾燥した酸化物粒子P1は、配管833から排出されて回収される。コンデンサー613は、乾燥装置612から配管834を通じて送出された水蒸気を凝縮して、液体の水L1に戻す(凝縮工程)。コンデンサー613で生成された液体の水L1は、配管835を通じてミキサー51に戻されて、上記粗分離工程(S21)と水洗浄工程(S22)にて再利用される。
このように、本実施形態に係る分離回収方法では、第1回収工程(S3)にて、上記比重分離工程(S2)により分離された酸化物粒子P1を含む水相ph1(第2、第5スラリー)を、遠心分離機611により、酸化物粒子P1と水L1に分離する。その後に、乾燥装置612で酸化物粒子P1を乾燥させて、乾粉の酸化物粒子P1を回収する。しかし、第1回収工程(S3)は、かかる例に限定されず、上記比重分離工程(S2)により分離された酸化物粒子P1を含む水相ph1(第2、第5スラリー)に対して、上記固液分離工程や乾燥工程を行わずに、そのまま、水スラリー状態の酸化物粒子P1を回収してもよい。酸化物粒子P1を乾粉状態又はケーキ状又は水スラリー状態のいずれで回収するかは、酸化物粒子P1のリサイクル用途等に応じて適宜選択可能である。
また、第1回収工程(S3)では、上記比重分離工程(S2)により分離された酸化物粒子P1を含む水相ph1(第2、第5スラリー)に対して、疎水性溶剤L2の沸点以上の温度まで加温する、又は、疎水性溶剤L2が蒸発する気圧まで減圧することにより、当該水相ph1中に残存する疎水性溶剤L2を蒸発させて除去することが好ましい。これにより、回収される酸化物粒子P1に疎水性溶剤L2が含まれることを防止でき、酸化物粒子P1の品質を向上できる。本実施形態に係る分離回収装置5では、図6に示す乾燥装置612による乾燥工程で、水L1とともに疎水性溶剤L2を加熱して蒸発させることで、第2、第5スラリー中に残存している疎水性溶剤L2を除去できる。なお、疎水性溶剤L2が揮発性を有する場合には、常温で蒸発しうるが、疎水性溶剤L2の比重が水L1の比重より大きいことから、疎水性溶剤L2が気相と直接接しないことが多い。このため、撹拌又はエアレーションを行うことが好ましく、このとき、揮発した溶剤L2が飛散しないように対処することが望ましい。
疎水性溶剤L2を加熱して蒸発させる場合、回収される酸化物粒子P1がケーキ状であるときは、疎水性溶剤L2の沸点は、大気圧下において150℃以下であることが好ましい。これにより、低コストで疎水性溶剤L2を蒸発させて除去することができる。回収される酸化物粒子P1がスラリー状であるときは、疎水性溶剤L2の沸点は、大気圧下において95℃以下であることが好ましい。これにより、水L1の蒸発を抑制することができるので、少ない熱量で容易に疎水性溶剤L2を蒸発させて除去することができる。また、疎水性溶剤L2の沸点は、大気圧下において40℃以上であることが好ましい。これにより、常温大気圧下における疎水性溶剤L2の揮発量を抑制できるので、回収及び取り扱いを容易にできる。
(4)第2回収装置による第2回収工程(S4)
第2回収装置62は、上記比重分離工程(S2)により分離された未燃カーボン粒子P2を含む疎水性溶剤相ph2(第6スラリー)から、疎水性溶剤L2を分離、除去して、未燃カーボン粒子P2を主体とする炭素含有粉P0を回収する(S4)。第2回収装置62は、遠心分離機621と、乾燥装置622と、コンデンサー623とを備える。
遠心分離機621は、後段の乾燥装置622に対して配管842を介して接続され、前段のミキサー51Aに対して配管841を介して接続されている。遠心分離機621には上記セトラー52Bから上記未燃カーボン粒子P2を含む疎水性溶剤相ph2(第6スラリー)が導入される。遠心分離機621は、遠心力を利用して、当該第6スラリーを、未燃カーボン粒子P2を主体とするケーキC2と、疎水性溶剤L2とに分離する(固液分離工程(S41))。遠心分離機621で疎水性溶剤L2が分離された未燃カーボン粒子P2は、配管842を通じて乾燥装置622に排出される。一方、遠心分離機621で分離された疎水性溶剤L2は、配管841を通じてミキサー51Aに戻されて、上記粗分離工程(S21)にて再利用される。なお、本実施形態では、第6スラリーを疎水性溶剤L2と未燃カーボン粒子P2に固液分離するために、遠心分離機621による遠心分離処理を用いるが、これに替えて、フィルタープレス又は蒸留又はろ過等の固液分離方法を用いてもよい。
乾燥装置622は、上記遠心分離機621から導入された、未燃カーボン粒子P2を含むケーキC2を加熱して、残存する疎水性溶剤成分を揮発させる。これにより、未燃カーボン粒子P2を主体とする固形分を乾燥させて、炭素含有粉P0を得る(乾燥工程(S42))。乾燥した未燃カーボン粒子P2を主体とする炭素含有粉P0は、配管843から排出されて回収される。コンデンサー623は、乾燥装置622から配管844を通じて送出された疎水性溶剤L2の蒸気を凝縮して、液体の疎水性溶剤L2に戻す(凝縮工程)。コンデンサー623で生成された液体の疎水性溶剤L2は、配管845を通じてミキサー51Aに戻されて、上記粗分離工程(S21)にて再利用される(第2リサイクル工程)。
このように、本実施形態に係る分離回収方法では、第2回収工程(S4)にて、上記比重分離工程(S2)により分離された未燃カーボン粒子P2を含む溶剤相ph2(第6スラリー)を、遠心分離機621により、未燃カーボン粒子P2を含むケーキC2と、疎水性溶剤L2とに分離する。その後に、乾燥装置622でケーキC2を乾燥させて、乾粉の未燃カーボン粒子P2を主体とする炭素含有粉P0を回収する。
以上、本実施形態に係る分離回収装置5の構成と、これを用いた炭素含有粉P0の分離回収方法について説明した。本実施形態では、当該方法を単段連続プロセスで行うため、上記の比重分離工程(S2)、第1回収工程(S3)及び第2回収工程(S4)を同時並行で行う。これにより、酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2の分離効率及び生産性を向上できる。
さらに、第1回収工程(S3)にて酸化物粒子P1から分離された水L1を回収して、比重分離工程(S2)で投入される水L1として再利用するとともに、第2回収工程(S4)にて未燃カーボン粒子P2から分離された疎水性溶剤L2を回収して、比重分離工程(S2)で投入される疎水性溶剤L2として再利用する。これにより、水L1及び疎水性溶剤L2を使い捨てにしなくても済むので、疎水性溶剤L2の原料コストや廃棄コストを低減できる。さらに、比重分離工程(S2)で大量の疎水性溶剤L2を繰り返し使用でき、未燃カーボン粒子P2が疎水性溶剤L2に接触する機会を増加できる。また、比重分離工程(S2)の粗分離工程(S21)及び水洗浄工程(S22)では、フライアッシュFAのうち未燃カーボン粒子P2を疎水性溶剤相ph2に取り込み、酸化物粒子P1を水相ph1に取り込むことにより、酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2を高効率で分離できる。
従って、本実施形態に係る炭素含有粉の製造方法における分離回収方法は、上記特許文献1に記載の従来の浮選方法と比べて、酸化物粒子と未燃カーボン粒子の分離速度及び分離効率を大幅に向上できる。例えば、本実施形態に係る粗分離工程(S21)により、例えば1秒〜30秒程度の短時間で酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2を迅速に分離できる。また、分離及び回収された酸化物粒子P1に混在する未燃カーボン粒子P2の含有率を、3質量%以下に低減でき、純度の高い酸化物粒子P1を回収できる。同様に、分離及び回収された炭素含有粉P0に混在する酸化物粒子P1の含有率を、50質量%未満、好ましくは30質量%以下に低減できる。従って、当該炭素含有粉P0に含まれる未燃カーボン粒子P2の含有率を50質量%以上に増加できるので、炭素含有率が高く、かつN/C比の低い炭素含有粉P0を回収できる。
[4.1.比重分離の好ましい条件]
次に、本実施形態に係る分離方法における比重分離の好ましい条件について詳細に説明する。まず、本実施形態に係る分離方法で用いられる疎水性溶剤の比重(液比重)の好ましい範囲について説明する。
上記の粗分離工程(S21)又は水洗浄工程(S22)における静置時には、水相と疎水性溶剤相との界面付近に、酸化物粒子と未燃カーボン粒子の濃縮が生じる場合がある。例えば、疎水性溶剤としてのトリクロロエチレン(比重:1.46)と水(比重:1)を混合した混合液に、親水性粒子としての酸化物粒子(比重:2.4〜2.6)を主体とする混合物(例えばフライアッシュ)を投入し、約30秒以上静置する。酸化物粒子は、水相中を沈降する一方、未燃カーボン粒子(比重:1.3〜1.5)は、トリクロロエチレン相中を浮上する。この結果、水相とトリクロロエチレン相の界面付近では、酸化物粒子と未燃カーボン粒子が濃縮して、徐々に比重が近くなる。当該界面付近では、酸化物粒子と未燃カーボン粒子が混在した状態となるので、両者の分離性が悪化する場合がある。よって、酸化物粒子と未燃カーボン粒子との分離性が悪化するのを防ぐため、静置後短時間で水相と疎水性溶剤相を分離することが好ましく、さらに、両相の界面付近を採取しないことが好ましい場合がある。
酸化物粒子の比重が大きいほど、比重が大きい疎水性溶剤を選択することが好ましい。これにより、酸化物粒子が水相から溶剤相に沈降することを防止できる。なお、酸化物粒子の比重が小さい場合には、比重が小さい疎水性溶剤を敢えて選択する必要はなく、適用できる疎水性溶剤の比重の範囲を拡張できる。
水相(すなわち水と酸化物粒子のスラリー)に含まれる酸化物粒子の質量割合を、水相のスラリー濃度CS[質量%]とする。スラリー濃度CSは、以下の式(2)で表される。水相の見掛け密度ρS[g/cm3]を、同温度及び同圧力における水の密度ρw[g/cm3]で除算した値を、水相のスラリー比重dSとする。スラリー比重dSは、以下の式(3)で表される。
CS=mP/(mP+mW) ・・・(2)
dS=ρS/ρw=(mP+mW)/(VP+VW)/ρw ・・・(3)
mP[g] :水相に含まれる酸化物粒子の質量
mW[g] :水相に含まれる水の質量
VP[cm3] :水相に含まれる酸化物粒子の体積
VW[cm3] :水相に含まれる水の体積
ρS[g/cm3]:水相における水と酸化物粒子のスラリーの見掛け密度
ρw[g/cm3]:同温度及び同圧力における水の密度
水相のスラリー比重が疎水性溶剤の比重未満であれば、水相は溶剤相中に沈降しにくく、水相と溶剤相の相分離を好適に行うために有利であるといえる。よって、上記沈降が抑制されるよう、混合工程における混合物(フライアッシュ)と水の混合比を調整したり、適切な比重の疎水性溶剤を選択したりすることが好ましい。
また、疎水性溶剤の比重は、1.05超であることがより好ましい。疎水性溶剤の比重が1.05以下である場合、上記のように水相のスラリー比重dSを疎水性溶剤の比重未満とするためには、水相のスラリー濃度CSを所定値以下に低くする必要がある。この場合、分離装置が大型化してしまうおそれがある。これに対し、疎水性溶剤の比重を1.05超とすることにより、水相のスラリー濃度CSを上記所定値を超えて高くできるので、単位時間当たりの分離処理量を高めて、大型の分離装置を使用しなくてすむ。
また、溶剤相中において、水滴に付着できなかった酸化物粒子の表面に、薄い(例えば約5〜20μmの)水被膜が付着する場合もある。当該水被膜で被覆された酸化物粒子(以下、「水被膜粒子」ともいう。)の見掛け比重は、酸化物粒子自体の比重より小さくなる。よって、水被膜粒子の見掛け比重より大きい比重の疎水性溶剤を選択することが好ましい。これにより、上記分離工程において、水被膜粒子を溶剤相から水相に浮上させて、水相内に滞留させることができる。よって、酸化物粒子を、疎水性溶剤及び未燃カーボン粒子から迅速かつ効率的に分離できる。水被膜粒子の見掛け比重を直接測定することが困難である場合、例えば、栓付メスシリンダーに水80mlと疎水性溶剤20mlからなる混合液に酸化物粒子を0.5〜1g入れ、そのとき酸化物粒子のほとんどが溶剤相に沈降しないような疎水性溶剤を選択することが好ましい。
さらに、疎水性溶剤の比重は、未燃カーボン粒子の比重よりも小さいことが好ましい。これにより、上記第2回収工程(S4)において、遠心分離機621を用いて溶剤相ph2(第3スラリー)から未燃カーボン粒子P2を分離する際、脱液性が向上し、未燃カーボン粒子P2を効率的に分離できる。なお、「未燃カーボン粒子P2の比重<疎水性溶剤L2の比重」となる場合でも、脱液性は劣るが遠心分離機を使用でき、或いは、ろ過方式又は蒸留方式の固液分離装置を採用することもできる。
次に、本実施形態に係る分離方法で用いられる粒子の粒子径又は比重の好ましい範囲について説明する。酸化物粒子が水相中を沈降し、水相と疎水性溶剤相との界面に到達した状態で、当該酸化物粒子には、浮力と界面張力と重力とが作用する。界面張力は、上記界面において、粒子が一方の相から他方の相へ移動することを阻害するエネルギー障壁として作用する。これらの力のバランスによって、酸化物粒子がどちらの相に移動するのかが決まるとも言える。酸化物粒子に作用する浮力と界面張力との合計を重力が上回る程度に、酸化物粒子の粒子径が大きいか、又は水の比重に対して酸化物粒子の比重が大きいと、当該粒子が水相から界面を通過して溶剤相へ移動してしまうと考えられる。この場合、酸化物粒子と未燃カーボン粒子との分離効率が低下する。この観点からは、界面を通過して溶剤相へ移動してしまう程度に粒子径が大きいか又は比重が大きい酸化物粒子を、分離処理の前に除いておくことが好ましい。例えば、分離処理前のフライアッシュに含まれる酸化物粒子の粒子径は、500μm以下であってよく、200μm以下であることが好ましい。
疎水性溶剤相中を浮上し、界面に到達した未燃カーボン粒子についても上記と同様である。未燃カーボン粒子に作用する重力と界面張力との合計を浮力が上回る程度に、未燃カーボン粒子の粒子径が大きいか、又は疎水性溶剤の比重に対して未燃カーボン粒子の比重が小さいと、当該粒子が溶剤相から界面を通過して水相へ移動してしまうと考えられる。この観点からは、界面を通過して水相へ移動してしまう程度に粒子径が大きいか又は比重が小さい未燃カーボン粒子を、分離処理の前に除いておくことが好ましい。例えば、分離処理前のフライアッシュに含まれる未燃カーボン粒子の粒子径は、500μm以下であってよく、200μm以下であることが好ましい。なお、これら最大粒子径は、篩による篩分けや、サイクロンによる分級をすることでコントロールすることができる。
[5.粉砕工程を伴う分離回収方法]
次に、本発明の第2の実施形態に係る炭素含有粉の製造方法について説明する。第2の実施形態に係る製造方法は、回収される炭素含有粉中の炭素含有率を高めるために、フライアッシュ中の未燃カーボン粒子を粉砕する粉砕工程をさらに含むことを特徴とする。
[5.1.粉砕工程を伴う分離回収方法のフロー]
図7〜図10は、第2の実施形態に係る製造方法における分離回収方法を示す工程図である。図7〜図10に示すように、第2の実施形態に係る分離回収方法では、上述した第1の実施形態に係る分離回収方法(図5参照。)と比べて、粉砕工程(S5)が追加されている。このうち、図7〜図9に示す工程例では、上記比重分離工程(S2)の粗分離工程(S21)の前に、粉砕工程(S5)が追加されている。一方、図10に示す工程例では、上記比重分離工程(S2)の途中に、具体的には粗分離工程(S21)と水洗浄工程(S22)の間に、粉砕工程(S5)が追加されている。
まず、図7に示す工程例について説明する。図7に示すように、まず、フライアッシュFAと水L1と疎水性溶剤L2との混合液に対して、粉砕処理を行う(S5)。これにより、図2に示すように未燃カーボン粒子P2の表面に酸化物粒子P1が付着し、又は未燃カーボン粒子P2の細孔P20内に酸化物粒子P1が入り込んでいても、粉砕処理により、図3に示すように未燃カーボン粒子P2が粉砕されて微細化する。この結果、一部の細孔P20内の酸化物粒子P1が放出されるので、微細化した未燃カーボン粒子P2と、酸化物粒子P1とが分離されるか、少なくとも分離され易くなる。
かかる粉砕工程(S5)後に、第1の実施形態と同様に、比重分離工程(S2)の粗分離工程(S21)と水洗浄工程(S22)を行う。これにより、粉砕された未燃カーボン粒子P2は、酸化物粒子P1から分離して溶剤相ph2に移動し易くなり、酸化物粒子P1も未燃カーボン粒子P2から分離して水相ph1に移動し易くなる。従って、比重分離工程(S2)において、酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2をさらに好適に分離できるので、回収工程(S4)で回収される炭素含有粉P0の炭素含有率を70質量%以上に高めることができる。
また、粗分離工程(S21)で分離した酸化物粒子P1を含む水相ph1を、固液分離し乾燥させることで、酸化物の粉体を得ることができる。粉砕工程(S5)で粉砕処理しているため、処理前のフライアッシュFAと比べて、酸化物粒子P1に付随する未燃カーボン粒子P2は少なくなり、水相ph1から得られる固形物中の炭素含有率は大きく低下する。当該炭素含有率は、粉砕工程を有さない図5の粗分離工程(S21)で分離した酸化物粒子P1を含む水相ph1から回収した固形物中の炭素含有率と比較しても、大きく低下する。
次に、図8、図9の工程例について説明する。図8に示すように、まず、フライアッシュFAと水L1との混合液に対して、粉砕処理を行う(S5)。これにより、上記図7の例と同様に、未燃カーボン粒子P2が粉砕されて微細化し、未燃カーボン粒子P2と酸化物粒子P1が分離され易くなる。次いで、比重分離工程(S2)の粗分離工程(S21)で、粉砕された混合液に疎水性溶剤L2を加えて混合し、この混合液を比重分離した後に、水洗浄工程(S22)を行う。
また、図9の工程例では、まず、フライアッシュFAと疎水性溶剤L2との混合液に対して、粉砕処理を行う(S5)。これにより、上記図7の例と同様に、未燃カーボン粒子P2が粉砕されて微細化し、未燃カーボン粒子P2と酸化物粒子P1が分離され易くなる。次いで、比重分離工程(S2)の粗分離工程(S21)で、粉砕された混合液に水L1を加えて混合し、この混合液を比重分離した後に、水洗浄工程(S22)を行う。
このように、図8及び図9の例では、最初に粉砕工程(S5)で、フライアッシュFAに水L1又は疎水性溶剤L2のいずれか一方を加えた混合液に対して粉砕処理を施した後に、比重分離工程(S2)で、粉砕後の混合液に水L1又は疎水性溶剤L2の他方を加えて混合した後に、比重分離する。かかる工程順でも、比重分離工程(S2)において、酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2をさらに好適に分離できるので、回収工程(S4)で回収される炭素含有粉P0中の炭素含有率を70質量%以上に高めることができる。
また、粗分離工程(S21)で分離した酸化物粒子P1を含む水相ph1を、固液分離し乾燥させることで、酸化物の粉体を得ることができる。粉砕工程(S5)で粉砕処理しているため、処理前のフライアッシュFAと比べて、酸化物粒子P1に付随する未燃カーボン粒子P2は少なくなり、水相ph1から得られる固形物中の炭素含有率は大きく低下する。当該炭素含有率は、粉砕工程を有さない図5の粗分離工程(S21)で分離した酸化物粒子P1を含む水相ph1から回収した固形物中の炭素含有率と比較しても、大きく低下する。
次に、図10の工程例について説明する。図10に示すように、まず、粗分離工程(S21)にて、フライアッシュFAと水L1と疎水性溶剤L2の混合液に対して粗分離処理を行う。これにより、第1の実施形態(図5参照。)と同様に、混合液が、酸化物粒子P1を主に含む水相ph1と、未燃カーボン粒子P2を主に含む疎水性溶剤相ph2とに分離される。その後、当該分離された疎水性溶剤相ph2を回収し、粉砕工程(S5)で、疎水性溶剤相ph2に対してのみ粉砕処理を行い、水相ph1に対しては粉砕処理を行わない。かかる粉砕処理により、疎水性溶剤相ph2に含まれる未燃カーボン粒子P2が粉砕されて微細化し、残存する酸化物粒子P1から好適に分離され易くなる。従って、その後の水洗浄工程(S22)において、酸化物粒子P1と未燃カーボン粒子P2をさらに好適に分離できるので、回収工程(S4)で回収される炭素含有粉P0中の炭素含有率を70質量%以上に高めることができる。
このように図10に示す工程例では、粗分離工程(S21)で分離、回収された溶剤相ph2中の未燃カーボン粒子P2は、その後の粉砕工程(S5)で粉砕されるが、粗分離工程(S21)で分離、回収された水相ph1中の酸化物粒子P1は粉砕されない。このため、未燃カーボン粒子P2に特化して粉砕処理を実行できるので、未燃カーボン粒子P2の粉砕効率を向上させることができる。一方、上記図7〜図9の工程例では、未燃カーボン粒子P2及び酸化物粒子P1の双方が粉砕される。このため、未燃カーボン粒子P2のみならず、酸化物粒子P1も粉砕し、微粉化された酸化物粒子P1を回収したい場合には、未燃カーボン粒子P2と酸化物粒子P1の粉砕工程を一元化できるので、有益な方法である。
[5.2.粉砕工程で用いる粉砕方法]
次に、上記粉砕工程(S5)における粉砕方法の具体例について説明する。上述したように、粉砕工程(S5)における粉砕方法としては、例えば、超音波による粉砕処理、高速せん断ミキサーによる粉砕処理、ボールミル又はビーズミルによる粉砕処理などを利用できる。このうち、ビーズミルによる粉砕処理では、例えば、円筒容器内に球形のビーズを充填し、粉砕対象物としての混合物(例えばフライアッシュ)を供給しながら撹拌部材を回転させる。これにより、撹拌される粉砕対象物とビーズとの間に衝突力又はせん断力を作用させて、粉砕対象物を粉砕する。かかるビーズを用いた粉砕処理により、例えばフライアッシュ中に含まれる硬い酸化物粒子P1を破壊せずに、多孔質であり脆い未燃カーボン粒子P2を、短時間で効率的に粉砕できる。このため、未燃カーボン粒子の分離性を向上させて、回収される炭素含有粉中の炭素含有率を増加させ、かつ、回収される酸化物中の炭素含有率を低減することができる。
また、上記ビーズミルによる粉砕処理で使用するビーズの直径(以下、ビーズ径という。)は、1mm以下であることが好ましい。略球状の酸化物粒子は中実であり、硬く砕きにくいが、未燃カーボン粒子は多孔質であるため、脆く容易に砕ける。一方、略球状の酸化物粒子の直径はほとんどが100μm以下であり、当該酸化物粒子の50%粒子径は、1〜20μmである。ビーズ径が大きいほど、略球状の酸化物粒子の間にある粒子径が小さい未燃カーボン粒子を粉砕するためには、硬い上記酸化物粒子を粉砕せねばならず、ビーズと粒子径の小さい未燃カーボン粒子が衝突する可能性は低くなる。ビーズ径が小さく、ビーズの曲率が大きくなるほど、粉砕工程(S5)において、ビーズは、硬い略球状の酸化物粒子と衝突せずに、粒子径の小さい未燃カーボン粒子と接触することができる。そのため、ビーズ径は1mm以下が好ましいといえる。
さらに、ビーズの密度は、3.5g/cm3以上であることが好ましい。ビーズの密度が3.5g/cm3以上である場合、ビーズが未燃カーボン粒子と衝突した際の破壊力が大きくなるため、未燃カーボン粒子を粉砕するためにかかる時間を短縮でき、粉砕処理を効率化できる。ビーズの密度を3.5g/cm3以上とするには、ビーズの材質を、セラミック、金属などにすることが好ましい。
[6.向流型多段連続プロセス]
次に、本発明の第3の実施形態に係る製造方法における分離回収方法について説明する。第3の実施形態に係る分離回収方法は、混合装置(ミキサー)による混合工程と分離装置(セトラー)による比重分離工程との組合せを複数段階繰り返す向流型多段連続プロセスを採用している。例えば粗分離工程(S21)に多段連続プロセスを採用する場合、酸化物粒子を含む水相と、未燃カーボン粒子を含む溶剤相とが、多段階の粗分離工程(S21)で分離される。このため、第1の実施形態に係る単段連続プロセスと比べて、酸化物粒子と未燃カーボン粒子の分離効率をさらに向上し、回収される固形物中に含まれる酸化物粒子と未燃カーボン粒子の含有率をそれぞれ増加できる。水洗浄工程(S22)に多段連続プロセスを採用する場合も同様である。
図11に示す例では、粗分離工程(S21)と水洗浄工程(S22)をともに複数段階繰り返す。粗分離工程(S21)をN段階(Nは2以上の整数)繰り返すとともに、水洗浄工程(S22)をM段階(Mは2以上の整数)繰り返す。
例えば粗分離工程(S21)についてみると、Nが3以上の整数である場合、n段目(nは1以上、N−2以下の整数)の比重分離工程で分離された酸化物粒子P1及び残存した未燃カーボン粒子P2を含む水相ph1と、n+2段目の比重分離工程で分離された未燃カーボン粒子P2及び残存した酸化物粒子P1を含む溶剤相ph2とが、n+1段目の混合工程で混合され、スラリー化される。次いで、当該n+1段目の比重分離工程にて、酸化物粒子P1を主に含む水相ph1と、未燃カーボン粒子P2を主に含む溶剤相ph2とに分離される。かかる混合工程及び比重分離工程の組合せを、各段で繰り返すことで、1段目からN段目に向かうほど、酸化物粒子P1の含有率の高い水相ph1が得られる一方、N段目から1段目に向かうほど、未燃カーボン粒子P2の含有率の高い溶剤相ph2が得られる。水洗浄工程(S22)についても、粗分離工程(S21)と同様である。1段目からM段目に向かうほど、未燃カーボン粒子P2の含有率の高い溶剤相ph2が得られる一方、M段目から1段目に向かうほど、酸化物粒子P1の含有率の高い水相ph1が得られる。
N段目の混合工程で疎水性溶剤L2が投入される。その後、N段目の後段の第1回収工程(S3)では、酸化物粒子P1の含有率の高い水相ph1から、酸化物粒子P1と水L1がそれぞれ分離及び回収される。回収された水L1は、M段目の混合工程に戻されて再利用される。一方、M段目の混合工程で水L1が投入される。その後、M段目の後段の第2回収工程(S4)では、未燃カーボン粒子P2の含有率の高い溶剤相ph2から、未燃カーボン粒子P2と疎水性溶剤L2がそれぞれ分離及び回収される。回収された疎水性溶剤L2は、N段目の混合工程に戻されて再利用される。
なお、図11の例では、フライアッシュFAを1段目の混合工程で投入しているが、他の段目の混合工程でフライアッシュFAを投入してもよい。また、粗分離工程(S21)と水洗浄工程(S22)のいずれか一方が単段階、言い換えるとM又はNが1であってもよい。また、図7〜10に示す工程例に倣い、いずれかの段階の粗分離工程(S21)又は水洗浄工程(S22)の前又は後に粉砕工程(S5)を追加してもよい。
[7.炭素含有粉の利用方法]
次に、上記製造方法により製造された本実施形態に係る炭素含有粉の利用方法について説明する。
上述したように、本実施形態に係る炭素含有粉の炭素含有率は、少なくとも50質量%以上、好ましくは70質量%以上と、非常に高い。従って、該炭素含有粉の燃焼時に、燃焼効率を高めることができる。さらに、炭素含有粉のN/C比は、0.02以下であり、非常に低く、窒素含有率が低い。従って、当該炭素含有粉の燃焼時に、窒素酸化物(NOx)の発生を抑制することができる。
よって、本実施形態に係る炭素含有粉は、焼結機、発電所等の燃焼炉、転炉等で使用される窒素含有率の低い石炭(すなわち低窒素炭)の代替として、有効利用することができ、産業上非常に有益である。
さらに、本実施形態に係る炭素含有粉は、多孔質粒子である未燃カーボン粒子を多く含有し、その比表面積は、活性コークス粉と同等の50〜300m2/gであり、フライアッシュの比表面積(0.5〜10m2/g)よりも、数十倍〜百倍程度も大きい。従って、本実施形態に係る炭素含有粉は、SO2吸着能及び脱硝能を有しており、SO2吸着材や脱硝材として有効利用することができる。特に、上記第2の実施形態のように粉砕処理を施した場合には、炭素含有粉の比表面積がより大きくなるので、高品質のSO2吸着材や脱硝材として有効利用できる。
また、本実施形態に係る炭素含有粉のハンドリング性を高める観点から、当該炭素含有粉と他の粉体(例えば、スケール、コークス粉等)とを混練し、炭素含有粉の嵩比重を大きくした後に、上記各種の用途に利用することが好ましい。炭素含有粉は、多孔質材料であり、その嵩比重が小さく、かつ、粒子径が小さいので、単独では、非常に扱いにくい微粒子である。そこで、炭素含有粉を他の嵩比重の大きい粉体材料と混合して、嵩比重を大きくする(例えば、1g/cm3以上)ことが好ましい。これにより、粉塵の発生を抑制でき、ハンドリングし易くなるという利点がある。
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
まず、表3を参照して実施例1の試験について説明する。表3は、本実施例1の試験条件と結果を示す。
栓付の100mlメスシリンダー内に、水(L1)80mlと各種の疎水性液体(L2)20mlを入れた後、水相中のスラリー濃度CS[質量%]が表3に記載の濃度になるように、混合物(P1+P2)を投入した。混合物(P1+P2)としてフライアッシュを使用した。次いで、メスシリンダー内の混合液を手で激しく10秒間混合した後、10秒間静置した。その後、すぐに水相の部分からサンプルを採取し、水相中の固形物を回収し、回収した固形物の含有率を測定した。また、当該回収した固形物中の未燃カーボン粒子の含有率CBを測定した。また、以下の式(4)で表される未燃カーボン粒子分離率KAを算出した。一方、酸化物粒子回収率KBを、以下の式(5)で算出した。
KA[質量%]={(mA−mB)/mA}×100 ・・・(4)
KB[質量%]=(mP/mQ)×100 ・・・(5)
mA[g] :投入した未燃カーボン粒子の質量
mB[g] :水相に含まれる未燃カーボン粒子の質量
mQ[g] :投入した酸化物粒子の質量
mP[g] :水相に含まれる酸化物粒子の質量
また、表3に示すように、比較例1及び実施例1−1〜1−9において分離対象である混合物(P1+P2)として使用したフライアッシュ中の未燃カーボン粒子の含有率CCは1.9質量%であり、当該フライアッシュの体積基準の50%粒子径は19μmであった。実施例1−10〜1−13のフライアッシュ中における未燃カーボン粒子の含有率CCは5.3質量%であり、当該フライアッシュの体積基準の50%粒子径は21μmであった。
以上の試験の結果、表3に示すように、酸化物粒子回収率KBは、実施例1−1〜1−13のいずれも73質量%以上であり、特に実施例1−1と1−6以外の実施例では、92質量%以上であった。従って、本実施形態に係る分離方法により、混合物(P1+P2)から酸化物粒子P1を高い回収率で回収できることが分かる。未燃カーボン粒子分離率KAは、実施例1−1〜1−13において、42〜56質量%であった。従って、本実施形態に係る分離方法により、回収された酸化物粒子P1中に含まれる未燃カーボン粒子P2の含有率を大幅に低減でき、含有率の高い高品質の酸化物粒子P1を回収できることが確認された。
水相から回収した固形物中の未燃カーボン粒子の含有率CBは、疎水性液体L2としてのシリコーンオイルの比重が1.07である実施例1−1では、1.2質量%であった。一方、シリコーンオイルの比重が1.03である比較例1では、含有率CBは、1.9質量%であった。従って、疎水性液体L2の比重を1.05超とすることにより、比重分離速度を向上できることが分かる。すなわち、比較例1では、シリコーンオイルの比重が1.05以下であるため、水相の比重と疎水性液体相の比重が近く、相の分離速度が非常に遅い。比較例1において、上記混合後、1分間静置したが、相の分離はほとんど進行しなかった。そこで、メスシリンダー上部の約20mlを採取し、固形物を回収し、回収物中の未燃カーボン粒子の含有率CBを測定したところ、1.9%質量%であった。すなわち、投入したフライアッシュ中の未燃カーボン粒子の含有率CCからほとんど変化がなかった。
なお、水相中のスラリー濃度CSを変化させた実施例1−2〜1−6を比較すると、スラリー濃度CSが38質量%以上になると、水相から回収した固形物中の未燃カーボン粒子の含有率CBは大きくなった。特にスラリー濃度CSが47質量%の場合(実施例1−6)、含有率CBは1.7質量%となった。元のフライアッシュ中の未燃カーボン粒子の含有率(1.9質量%)と比較して、わずかに低下したにすぎない。これは、水相中のスラリー濃度CSを高くしすぎたことにより、水相と溶剤相との界面が不明確となり、よって、水相から回収した固形物中の未燃カーボン粒子の含有率CBが、あまり低下しなかったことを表していると推測される。
[実施例2]
実施例2では、疎水性溶剤としてトリクロロエチレンを使用し、図5に示す分離回収方法に基づいて、フライアッシュ(以下、単にFAと称する。)から炭素含有粉を回収した。
具体的には、密閉容器(分液ロート)に、水とトリクロロエチレン(比重:1.46)を250mlずつ投入し、FA(炭素含有率:9.3質量%)を35g投入した。密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、FAと水とトリクロロエチレンをよく混合した。混合後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収し、別の密閉容器(分液ロート)に投入した(粗分離工程S21)。また、トリクロロエチレン相と水相の界面付近のサンプルは廃棄した後、酸化物が濃縮している水相を回収し、ろ過後、固形物を乾燥し回収した。回収したトリクロロエチレン相に水を250ml加え、密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、トリクロロエチレン相と水を混合した。その後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、再度、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収した(水洗浄工程S22)。この際、トリクロロエチレン相と水相の界面付近のサンプルは回収せず廃棄した。この水洗浄工程S22を3回繰り返し、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収した。回収したトリクロロエチレン相をろ過後(固液分離工程S41)、乾燥により水分とトリクロロエチレンを揮発させ(乾燥工程S42)、炭素含有粉を得た。
この結果、実施例2の炭素含有粉の炭素含有率は、57質量%であり、炭素含有粉中の窒素含有率と炭素含有率との比であるN/C比(質量比)は、0.0072であった。また、炭素含有粉中の酸化物粒子中のSiO2成分とAl2O3成分の合計は75質量%以上であった。また、水相から回収した固形物中の炭素含有率は2.8質量%であり、処理前のFA中の炭素含有率と比較して、低下していることを確認した。
[比較例2]
比較例2では、上記特許文献1の実施例1に記載の浮選方法に基づいて、FAから炭素含有粉を回収した。
具体的には、水1000mlと、FA(未燃カーボン分、9.3質量%)200gとを攪拌しながら混合し、スラリーとした。このスラリーを、高速剪断ミキサーで高速攪拌(高速剪断ミキサー動力:80Kw/m3)することにより、スラリーに剪断力を付与した。その後、スラリーを低速で攪拌しながら、捕集剤として灯油を1.3ml添加し、起泡剤としてMIBC(メチルイソブチルカルビノール)を200mg添加した。次に、浮選処理により気泡を発生させ、発生した気泡に未燃カーボンを付着させて浮上させ、浮上した気泡をフロスとして取り出した。この浮選工程を5分継続して行った。
次に、容器内に残ったFA(テール)を乾燥して計量したところ、152gあり、その中の炭素含有率は3.3質量%であった。また、浮上した炭素濃縮物を乾燥させた後、付着している灯油、起泡剤を除去するため、n−ヘキサンで洗浄し、乾燥させた後、成分分析を行った。
この結果、比較例2の炭素濃縮物の炭素含有率は、34質量%であり、N/C比は、0.0095であった。
[実施例3]
実施例3では、比較例2で得られた炭素濃縮物(炭素含有率:34質量%)を、実施例2と同様な方法で処理し、炭素含有粉を得た。この結果、実施例3の炭素含有粉の炭素含有率は、56質量%であり、N/C比は、0.0074であった。また、炭素含有粉中の酸化物粒子中のSiO2成分とAl2O3成分の合計は75質量%以上であった。
[実施例4]
実施例4では、疎水性溶剤として1−ブロモプロパンを使用し、図7に示す分離回収方法に基づいて、FAから炭素含有粉を回収した。
具体的には、容器に、水と1−ブロモプロパン(比重:1.35)を250mlずつ投入し、FA(炭素含有率:9.3質量%)を35g投入した。その後、容器内をスターラーで低速で撹拌しながら、超音波発振機により混合液に対して超音波処理を施すことにより、混合液中の粒子を粉砕する処理を行った(粉砕工程S5)。このとき、5,250kJ/m3のエネルギー量の超音波を3分間付与した。粉砕処理の後、混合液を密閉容器(分液ロート)に移し、密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、FAと水と1−ブロモプロパンをよく混合した。混合後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、未燃カーボンが濃縮している1−ブロモプロパン相を回収し、水相を廃棄した(粗分離工程S21)。また、1−ブロモプロパン相と水相の界面付近のサンプルは廃棄した後、酸化物が濃縮している水相を回収し、ろ過後、固形物を乾燥し回収した。回収した1−ブロモプロパン相を密閉容器(分液ロート)に入れ、水を250ml加え、密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、1−ブロモプロパン相と水を混合した。その後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、再度、未燃カーボンが濃縮している1−ブロモプロパン相を回収した(水洗浄工程S22)。この際、1−ブロモプロパン相と水相の界面付近のサンプルは回収せず廃棄した。この水洗浄工程S22を3回繰り返し、未燃カーボンが濃縮している1−ブロモプロパン相を回収した。回収した1−ブロモプロパン相をろ過後(固液分離工程S41)、乾燥により水分と1−ブロモプロパンを揮発させ(乾燥工程S42)、炭素含有粉を得た。
この結果、実施例4の炭素含有粉の炭素含有率は、82質量%であり、N/C比は、0.0061であった。また、炭素含有粉中の酸化物粒子中のSiO2成分とAl2O3成分の合計は75質量%以上であった。また、水相から回収した固形物中の炭素含有率は1.2質量%であり、処理前のFA中の炭素含有率と比較して低下し、かつ、実施例2で得た水相から回収した固形物中の炭素含有率と比較しても低下していることを確認した。
[実施例5]
実施例5では、疎水性溶剤としてトリクロロエチレンを使用し、図8に示す分離回収方法に基づいて、FAから炭素含有粉を回収した。
具体的には、容器に、水250mlを投入し、FA(炭素含有率:10.8質量%)を35g投入した。その後、容器内の混合液に対して高速せん断ミキサー(ホモジナイザー)による粉砕処理を3分間行った(粉砕工程S5)。粉砕処理の後、混合液を密閉容器(分液ロート)に移し、トリクロロエチレン(比重:1.46)250mlを加え、密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、FAと水とトリクロロエチレンをよく混合した。混合後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収し、別の密閉容器(分液ロート)に投入した(粗分離工程S21)。また、トリクロロエチレン相と水相の界面付近のサンプルは廃棄した後、酸化物が濃縮している水相を回収し、ろ過後、固形物を乾燥し回収した。回収したトリクロロエチレン相に水を250ml加え、密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、トリクロロエチレン相と水を混合し、その後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、再度、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収した(水洗浄工程S22)。この際、トリクロロエチレン相と水相の界面付近のサンプルは回収せず廃棄した。この水洗浄工程S22を3回繰り返し、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収した。トリクロロエチレン相をろ過後(固液分離工程S41)、乾燥により水分とトリクロロエチレンを揮発させ(乾燥工程S42)、炭素含有粉を得た。
この結果、実施例5の炭素含有粉の炭素含有率は、87質量%であり、N/C比は、0.011であった。また、炭素含有粉中の酸化物粒子中のSiO2成分とAl2O3成分の合計は75質量%以上であった。また、水相から回収した固形物中の炭素含有率は1.4質量%であり、処理前のFA中の炭素含有率と比較して低下し、かつ、実施例2で得た水相から回収した固形物中の炭素含有率と比較しても低下していることを確認した。
[実施例5−1]
実施例5−1では、疎水性溶剤としてトリクロロエチレンを使用し、図8に示す分離回収方法に基づいて、FAから炭素含有粉を回収した。
具体的には、容器に、水250mlを投入し、FA(炭素含有率:9.3質量%)を35g投入した。その後、ジルコニアビーズ(密度:6.0g/cm3)を100g入れ、手で激しく30秒間振とうし、FAを粉砕した(粉砕工程S5)。使用したビーズの直径(以下、ビーズ径DB)を変化させ、100、200、300、500、800、1000、1500、2000、3000μmとした。粉砕処理後、容器を5秒間静置し、ジルコニアビーズを沈殿させた。容器内の上部の粉砕されたFAを含んだ水相を回収し、別の密閉容器(分液ロート)に移し、トリクロロエチレン(比重:1.46)250mlを加え、密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、FAと水とトリクロロエチレンをよく混合した。混合後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収し、別の密閉容器(分液ロート)に投入した(粗分離工程S21)。この際、トリクロロエチレン相と水相の界面付近のサンプルは廃棄した。回収したトリクロロエチレン相に水を250ml加え、密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、トリクロロエチレン相と水を混合し、その後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、再度、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収した(水洗浄工程S22)。この際、トリクロロエチレン相と水相の界面付近のサンプルは回収せず廃棄した。この水洗浄工程S22を3回繰り返し、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収した。トリクロロエチレン相をろ過後(固液分離工程S41)、乾燥により水分とトリクロロエチレンを揮発させ(乾燥工程S42)、炭素含有粉を得た。
この結果、図12に示すビーズ径DBと炭素含有粉の炭素含有率CAの関係が得られた。図12に示すように、ビーズ径DBが1000μm以下であれば、炭素含有粉中の炭素含有率CAが70%超となることが確認された。
[実施例6]
実施例6では、疎水性溶剤としてトリクロロエチレンを使用し、図9に示す分離回収方法に基づいて、FAから炭素含有粉を回収した。
具体的には、密閉容器に、トリクロロエチレン(比重:1.46)250mlを投入し、FA(炭素含有率:9.3質量%)を35g投入した。その後、ジルコニアビーズ(100μmφ、密度6.0g/cm3)を100g入れ、手で激しく30秒間振とうし、FAを粉砕した(粉砕工程S5)。粉砕処理後、密閉容器を5秒間静置し、ジルコニアビーズを沈殿させた。密閉容器内の上部の粉砕されたFAを含んだトリクロロエチレン相を回収し、別の密閉容器(分液ロート)に移し、水250mlを加え、密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、FAと水とトリクロロエチレンをよく混合した。混合後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収し、別の密閉容器(分液ロート)に投入した(粗分離工程S21)。また、トリクロロエチレン相と水相の界面付近のサンプルは廃棄した後、酸化物が濃縮している水相を回収し、ろ過後、固形物を乾燥し回収した。回収したトリクロロエチレン相に水を100ml加え、密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、トリクロロエチレン相と水を混合した。その後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、再度、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収した(水洗浄工程S22)。この際、トリクロロエチレン相と水相の界面付近のサンプルは回収せず廃棄した。この水洗浄工程S22を3回繰り返し、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収した。回収したトリクロロエチレン相をろ過後(固液分離工程S41)、乾燥により水分とトリクロロエチレンを揮発させ(乾燥工程S42)、炭素含有粉を得た。
この結果、実施例6の炭素含有粉の炭素含有率は、85質量%であり、N/C比は、0.0068であった。また、炭素含有粉中の酸化物粒子中のSiO2成分とAl2O3成分の合計は75質量%以上であった。また、水相から回収した固形物中の炭素含有率は1.0質量%であり、処理前のFA中の炭素含有率と比較して低下し、かつ、実施例2で得た水相から回収した固形物中の炭素含有率と比較しても低下していることを確認した。
[実施例7]
実施例7では、疎水性溶剤としてトリクロロエチレンを使用し、図10に示す分離回収方法に基づいて、FAから炭素含有粉を回収した。
具体的には、密閉容器(分液ロート)に、水とトリクロロエチレン(比重:1.46)を250mlずつ投入し、FA(炭素含有率:9.3質量%)を35g投入した。密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、FAと水とトリクロロエチレンをよく混合した。混合後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収し、別の容器に投入した(粗分離工程S21)。この際、トリクロロエチレン相と水相の界面付近のサンプルは廃棄した。その後、容器内をスターラーで低速で撹拌しながら、超音波発振機により混合液に対して超音波処理を施すことにより、混合液中の粒子を粉砕する処理を行った(粉砕工程S5)。このとき、5,250kJ/m3のエネルギー量の超音波を3分間付与した。粉砕処理後、密閉容器(分液ロート)に移し、密閉容器(分液ロート)内の混合液に水を250ml加え、密閉容器(分液ロート)を手で激しく30秒間振って、トリクロロエチレン相と水を混合した。その後、密閉容器(分液ロート)を10秒間静置し、再度、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収した(水洗浄工程S22)。この際、トリクロロエチレン相と水相の界面付近のサンプルは回収せず廃棄した。この水洗浄工程S22を3回繰り返し、未燃カーボンが濃縮しているトリクロロエチレン相を回収した。回収したトリクロロエチレン相をろ過後(固液分離工程S41)、乾燥により水分とトリクロロエチレンを揮発させ(乾燥工程S42)、炭素含有粉を得た。
この結果、実施例7の炭素含有粉の炭素含有率は、86質量%であり、N/C比は、0.0081であった。また、炭素含有粉中の酸化物粒子中のSiO2成分とAl2O3成分の合計は75質量%以上であった。
以上の実施例2〜5、6、7及び比較例2の結果を表4に示す。
表4に示すように、本発明の実施例2〜7の炭素含有粉の炭素含有率は、56〜87質量%であり、基準である50質量%以上を満たしている。特に、粉砕工程S5を伴う分離回収方法により製造された実施例4〜7では、炭素含有率は、82質量%以上であり、より高い基準である70質量%以上を満たしている。これに対し、比較例2の炭素含有粉の炭素含有率は、34質量%と低く、基準である50質量%未満である。かかる結果によれば、本実施形態に係る製造方法における分離回収方法により、FAから未燃カーボン粒子を好適に分離して、炭素含有率が少なくとも50質量%以上の炭素含有粉を好適に得ることができるといえる。
[実施例8]
実施例8では、実施例2と同様の方法でFA(炭素含有率:11.8質量%)から得られた炭素含有粉(表5)を、焼結機の焼結工程で使用するコークスに混練し、焼結原料として使用した。そして、鍋試験により焼結工程での炭素含有粉の評価を行った。また、比較のため、通常操業であるコークスのみを用いた試験を以下、同様に実施した。
鍋試験では、耐火物を敷き詰めた鍋状炉に50kg程度の焼結原料を投入し、表面部に着火し、下方から空気吸引を行った。鍋試験の試料としては、スケール84質量%、石灰粉16質量%に対して、実施例2と同様にして得られた炭素含有粉(嵩比重:0.32g/cm3)が外数で8質量%となるように配合し、混合材料(乾粉)を作成した。さらに混合材料に水を外数で6質量%添加して混練した後、常温で乾燥し、直径2〜5mmの疑似粒子からなる焼結試料50kgを作成した。
この焼結試料を、鍋試験装置に高さ600mmまで投入し、ブロアーにより1500mmAqで大気を吸引しつつ、点火炉にて表層に90秒点火し、焼成を行った。本焼結鉱作製試験結果は以下の表6の通りであった。表6に示す通り、炭素含有粉を混練した場合、通常操業であるコークス(N/C=0.021)のみと同等の歩留りで、塊状(≧5mm−篩目)の焼結鉱を得られた。したがって、上記炭素含有粉を焼結原料として使用することに問題がないことがわかった。一方で、焼結鉱製造時に発生する排ガス中のNOx平均濃度は低減した。これは炭素含有粉がコークスに比してN/C比で低窒素であるため、発生NOx量を低減できたと考えられる。
[実施例9]
実施例9では、実施例2と同様の方法で得られた炭素含有粉(表6)と、他の粉体(スケール)を事前に混合して、嵩密度を増加させた。その上で、当該混合材料を焼結機の焼結工程で使用するコークスに混練し、焼結原料として使用した。そして、鍋試験により焼結工程での炭素含有粉の評価を行った。また、比較のため、通常操業であるコークスのみを用いた試験を以下、同様に実施した。
鍋試験では、耐火物を敷き詰めた鍋状炉に50kg程度の焼結原料を投入し、表面部に着火し、下方から空気吸引を行った。鍋試験の資料として、スケール84質量%、石灰粉16質量%、および、実施例2と同様にして得られた炭素含有物(嵩比重:0.32g/cm3)を外数で8質量%となるよう配合し、混合材料(乾粉)を作成した。混合する際に、炭素含有物とスケールの一部とを密閉容器内で事前に混合(配合率は重量比で4:6。混合後の嵩比重:1.2g/cm3)しておき、上記混合材料(乾粉)を作成した。さらに混合材料に水を外数で6質量%添加して混練した後、常温で乾燥し、直径2〜5mmの疑似粒子からなる焼結試料50kgを作成した。
この焼結試料を、鍋試験装置に高さ600mmまで投入し、ブロアーにより1500mmAqで大気を吸引しつつ、点火炉にて表層に90秒点火し、焼成を行った。本焼結鉱作成試験結果は以下の表7の通りであった。表7に示す通り、スケールと炭素含有粉を事前に混練した場合でも、通常操業であるコークスのみと同等の歩留りで、塊状(≧5mm−篩目)の焼結鉱を得られた。したがって、上記炭素含有粉を焼結原料として使用することに問題がないことがわかった。一方で、実施例8と同様に、焼結鉱製造時に発生する排ガス中のNOx平均濃度は低減した。これは炭素含有粉がコークスに比してN/C比で低窒素であるため、発生NOx量を低減できたと考えられる。さらに、混合材料(乾粉)を作成する際に、微細な炭素含有物に起因する粉塵はあまり発生せず、作業環境は改善された。
[実施例10]
実施例10では、実施例2および実施例5で得られた炭素含有粉のサンプルについて、比表面積、SO2吸着能、脱硝能を測定した。その結果を表8に示す。
両サンプルとも、SO2吸着能、脱硝能を確認することができた。実施例2で得られた炭素含有粉をSEMで観察すると、多数の微細孔(直径2μm未満)が観測された。この多数の微細孔により、炭素含有粉の比表面積が増加し、SO2吸着能、脱硝能が備わったと考えられる。また、この微細孔には、略球状の酸化物粒子が入り込み、微細孔の深部を塞いでいることが多いことが観察された。これにより、SO2吸着能もしくは脱硝能として作用できない微細孔部分があると考える。これに対し、実施例5の炭素含有粉は、比表面積は粉砕により約2倍に増加しているが、SO2吸着能、脱硝能はそれ以上に増加している。これは、粉砕により、微細孔内に入り込んだ略球状の酸化物が取り除かれ、微細孔のほとんどがSO2吸着能、脱硝能として作用したためと考えられる。
[実施例11]
実施例11では、図11に示す向流型多段連続プロセスにより、FAから炭素含有粉を回収した。実施例11の試験では、図6に示す分離回収装置5を用いて、1段目の水洗浄工程(S22_1)を行う向流型4段連続プロセス(図11でM=1,N=4のとき)を実施した。ミキサー51A、51Bの容量はそれぞれ0.3Lであった。セトラー52A、52Bとして上昇流式分離装置(直径:40mm、高さ:300mm)を用いた。水洗浄工程(S22_1)のミキサー51Bに、水を1L/分投入し、4段目の粗分離工程(S21_4)のミキサー51Aに、臭素系有機溶剤(1−ブロモプロパン)を1L/分投入し、1段目の粗分離工程(S21_1)のミキサー51Aに、FAを75g/分投入した。
セトラー52A及びセトラー52Bの下部には、臭素系有機溶剤相が形成され、上部には水相が形成され、水相と空気の間には臭素系有機溶剤相の薄膜が形成された。水相の表層部から下に約3cmの箇所から水相を連続して1L/分で引き抜き、水相の分析用サンプルを得た。一方、臭素系有機溶剤相の最下部から上に約3cmの箇所から臭素系有機溶剤相を連続して1L/分で引き抜き、溶剤相の分析用サンプルを得た。各サンプルを遠心分離(1,700G×30秒間)にて脱液した後、乾燥炉にて乾燥し、固形物を回収した。上記式(4)と式(5)に基づいて、未燃カーボン粒子分離率KA、親水性粒子回収率KBを計算した。なお、使用したFA中には、カーボンが13質量%含まれ、その粒子径は200μm以下であった。
この実施例11の試験の結果、未燃カーボン粒子分離率KAは82質量%であり、親水性粒子回収率KBは91質量%であった。また、図13に示すように、4段目の粗分離工程(S21_4)の後、第1回収工程(S3)で水相から回収した固形物中の未燃カーボン粒子の含有率CBは、2.8質量%であった。水洗浄工程(S22_1)の後、第2回収工程(S4)で臭素系有機溶剤相から回収した固形物中の未燃カーボン粒子の含有率CAは、58質量%であった。かかる試験結果によれば、実施例11の向流型4段連続プロセスでは、水相から回収した固形物中の未燃カーボン粒子の含有率CBを低位にしながら、臭素系有機溶剤相から回収した固形物中の未燃カーボン粒子の含有率CAを改善できることが確認された。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。