JPWO2018221580A1 - 積層フィルム、積層成形体、およびこれらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
被着成形体が立体形状である場合の従来の積層成形体の製造方法は、被着成形体を製造する工程と、保護フィルムを製造する工程と、被着成形体の立体形状に合わせて保護フィルムをプリフォームする工程と、必要に応じてプリフォームされた保護フィルムをトリミングする工程と、プリフォームされた保護フィルムを被着成形体上に貼合する工程とを含む。
フィルムインサート成形用保護フィルムとして、特許文献1には、メタクリル系樹脂にアクリル系多層構造ゴム粒子を分散させた樹脂組成物からなるアクリルフィルムが開示されている(請求項1)。特許文献2には、ポリカーボネート系樹脂層の両面にそれぞれアクリル系樹脂層を積層したインサートフィルムが開示されている(請求項1)。
なお、本発明の積層フィルムはフィルムインサート成形に用いて好適なものであるが、任意の用途に使用可能である。
[1] メタクリル系樹脂(A)を含む表面層と熱可塑性樹脂(B)を含むバインダー層とを有する積層フィルムであって、
前記表面層の構成材料の荷重たわみ温度をHDa、前記バインダー層の構成材料の荷重たわみ温度をHDbとし、前記積層フィルムの総厚みをT(mm)、前記表面層の厚みをTa(但しTaは0.05〜0.35mmとする)、前記バインダー層の厚みをTb(mm)とし、前記表面層の構成材料に含まれる炭素数6〜12のアクリル酸アルキルエステル単位の濃度をC(質量%)としたとき、下記(式1)〜(式3)を充足する積層フィルム。
HDa<HDb・・・(式1)、
Tb/T<0.5・・・(式2)、
25≦C/Ta≦100(mm−1)・・・(式3)。
メタクリル系樹脂(X)および/またはアクリル系ゴム(R)が炭素数6〜12のアクリル酸アルキルエステル単位を含む[1]の積層フィルム。
[3] アクリル系ゴム(R)は、多層構造ゴム粒子(Y)またはブロック共重合体(Z)である[2]の積層フィルム。
[5] さらに前記表面層上にハードコート層を備える[1]〜[4]のいずれかの積層フィルム。
[6] 被着成形体の表面に[1]〜[5]のいずれかの積層フィルムからなる層を有する積層成形体。
[8] 前記積層フィルムを130℃以下でプリフォームした後、プリフォームされた当該積層フィルムの存在下で前記被着成形体を成形するフィルムインサート成形を実施する[6]の積層成形体の製造方法。
本発明は、フィルムインサート成形に用いて好適な積層フィルムに関する。本発明の積層フィルムは、主成分として1種以上のメタクリル系樹脂(A)を含む表面層と主成分として1種以上の熱可塑性樹脂(B)を含むバインダー層とを有する。本発明の積層フィルムはさらに必要に応じて、他の1層以上の任意の層を有することができる。
図1に、本発明に係る一実施形態の積層フィルムの模式断面図を示す。図中、符号10は積層フィルム、符号11は表面層、符号12はバインダー層である。
HDa<HDb・・・(式1)、
Tb/T<0.5・・・(式2)、
25≦C/Ta≦100(mm−1)・・・(式3)。
一般的に、厚みが5〜250μmの面状成形体は主に「フィルム」に分類され、250μmより厚い面状成形体は主に「シート」に分類されるが、本明細書では特に明記しない限り、これらを総称して「フィルム」と称す。
本明細書に記載の各種パラメータは、特に明記しない限り、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定されるものとする。
表面層は1種以上のメタクリル系樹脂(A)を含む。メタクリル系樹脂(A)は、1種以上のメタクリル酸エステル単量体単位を含む単独重合体または共重合体である。耐候性、透明性、および表面硬度の観点から、メタクリル酸メチル(MMA)の単独重合体またはMMAと他の単量体との共重合体が好ましい。MMA以外の他の単量体としては、アクリル酸メチルおよびアクリル酸エチル等のアクリル酸エステル;MMA以外のメタクリル酸エステル;不飽和カルボン酸;オレフィン;共役ジエン;芳香族ビニル化合物;等が挙げられる。
メタクリル系樹脂(A)は、MMAの単独重合体またはMMAと他の(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であるメタクリル系樹脂(X)を含むことができる。表面硬度の観点から、メタクリル系樹脂(X)としては、MMA単位90〜100質量%、および必要に応じて炭素数4〜5のアクリル酸アルキルエステル単位0〜10質量%を含むMMA(共)重合体(Xa)が好ましい。MMA(共)重合体(Xa)は、MMA以外のメタクリル酸エステル単位、および、炭素数6〜12のアクリル酸アルキルエステル単位等の他の(メタ)アクリル酸エステル単位を含んでいてもよい。
なお、メタクリル系樹脂(X)の立体規則性は一般的にアタクチックであるが、シンジオタクティシティの高いメタクリル系樹脂を用いてもよい。
メタクリル系樹脂(A)は、積層フィルムを加工する際の耐クラック性の観点から、メタクリル系樹脂(X)に合わせて、アクリル系ゴム(R)を含むことが好ましい。かかる態様では、メタクリル系樹脂(X)および/またはアクリル系ゴム(R)が炭素数6〜12のアクリル酸アルキルエステル単位を含むことができる。
表面層の構成材料の全質量に対する、アクリル系ゴム(Ra)中の炭素数6〜12のアクリル酸アルキルエステル単位の濃度は、(式3)を充足すればよく、好ましくは2.5〜25質量%である。
アクリル系ゴム(Ra)中の炭素数6〜12のアクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、好ましくは5質量%超、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは20質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
アクリル系ゴム(Ra)は、MMA単位および炭素数6〜12のアクリル酸アルキルエステル単位以外の(メタ)アクリル酸エステル単位、および他の単位を含んでいてもよい。アクリル系ゴム(Ra)中のMMA単位の含有量は、好ましくは90質量%未満である。
多層構造ゴム粒子(Y)の層数は特に制限されず、2層でも3層以上でもよい。好ましくは、多層構造ゴム粒子(Y)は、最内層(y−1)と1層以上の中間層(y−2)と最外層(y−3)とを含む3層以上のコアシェル構造粒子(Y−CS)である。
アクリル酸アルキルエステル重合体ブロック(z2)中のアクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
220℃、せん断速度122/secにおけるブロック共重合体(Z)の溶融粘度は、好ましくは75〜1500Pa・sである。
ブロック共重合体(Z)は公知方法により製造することができ、各重合体ブロックを構成する単量体をリビング重合する方法等が挙げられる。
メタクリル系樹脂(A)は、メタクリル系樹脂(X)およびアクリル系ゴム(R)以外の他のメタクリル系樹脂を含むことができる。他のメタクリル系樹脂としては例えば、芳香族ビニル化合物単位、酸無水物単位、メタクリル酸エステル単位、および必要に応じて他の単位を含むメタクリル系共重合体(S)が挙げられる。
芳香族ビニル化合物としては、スチレン;2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、および4−tert−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレンおよび4−メチル−α−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン;が挙げられる。入手性の観点から、スチレンが好ましい。
酸無水物としては、無水マレイン酸(MAH)、無水シトラコン酸、およびジメチル無水マレイン酸等が挙げられる。入手性の観点から無水マレイン酸(MAH)が好ましい。
メタクリル系共重合体(S)としては、スチレン(St)−無水マレイン酸(MAH)−MMA共重合体(SMM樹脂)等が挙げられる。SMM樹脂は例えば、St単位を50〜85質量%、MAH単位を15〜40質量%、MMA単位を10〜40質量%含むことができる。市販のSMM樹脂としては、デンカ株式会社製の「レジスファイ」等が挙げられる。
バインダー層は、1種以上の熱可塑性樹脂(B)を含む。本発明の積層フィルムにおいては、表面層の構成材料の荷重たわみ温度HDaよりもバインダー層の構成材料の荷重たわみ温度HDbが高い。熱可塑性樹脂(B)はかかる条件を充足し、被着成形体と表面層とを良好に接着できる材料であればよく、荷重たわみ温度、透明性、および耐衝撃性の観点から、ポリカーボネート系樹脂(PC)等が好ましい。ポリカーボネート系樹脂(PC)の荷重たわみ温度HDbは135℃程度である。
押出成形による製造容易性の観点から、ポリカーボネート系樹脂(PC)の粘度平均分子量は、好ましくは13000〜30000である。同観点から250℃、100sec−1におけるポリカーボネート系樹脂(PC)の溶融粘度は、好ましくは13000〜60000ポイズである。分子量の調節は、末端停止剤および/または分岐剤の量を調整することによって行うことができる。
<着色剤>
表面層および/またはバインダー層は必要に応じて、染料および顔料等の着色剤を含むことができる。
染料としては、アンスラキノン類、アゾ系、アントラピリドン類、ペリレン類、アントラセン類、ペリノン類、インダンスロン類、キナクリドン類、キサンテン類、チオキサンテン類、オキサジン類、オキサゾリン類、インジゴイド類、チオインジゴイド類、キノフタロン類、ナフタルイミド類、シアニン類、メチン類、ピラゾロン類、ラクトン類、クマリン類、ビス−ベンズオキサゾリルチオフェン類、ナフタレンテトラカルボン酸類、フタロシアニン類、トリアリールメタン類、アミノケトン類、ビス(スチリル)ビフェニル類、アジン類、ローダミン類、これらの誘導体、およびこれらの組合せ等が挙げられる。耐熱性および耐候性の観点から、ペリノン類、ペリレン類、アゾ類、メチン類、およびキノリン類等が好ましく、アンスラキノン類等がより好ましい。
有機顔料としては、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、およびジアセトアセトアリライド系等が挙げられる。無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、リトポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、およびマイカ等が挙げられる。
表面層および/またはバインダー層は必要に応じて、1種以上の添加剤を含むことができる。添加剤としては、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、耐衝撃助剤、発泡剤、および充填剤、艶消し剤等が挙げられる。
各層の厚みおよび積層フィルムの総厚みは、積層成形体の用途および積層フィルムに対する要求性能に応じて適宜設計される。
積層フィルムの表面硬度、プリフォーム時の賦形性、トリミング時の耐割れ性、およびハンドリング性の向上の観点から、表面層の厚みTaは0.05〜0.35mmであり、好ましくは0.05〜0.3mm、より好ましくは0.06〜0.25mm、特に好ましくは0.07〜0.2mmである。
プリフォーム時の賦形性、トリミング時の耐割れ性、ハンドリング性、およびフィルムインサート成形時の射出樹脂との密着性の向上の観点から、バインダー層の厚みTbは、好ましくは0.01〜0.2mm、より好ましくは0.02〜0.15mm、特に好ましくは0.03〜0.1mmである。
プリフォーム時の賦形性、トリミング時の耐割れ性、ハンドリング性、および積層成形体の表面硬度の向上の観点から、積層フィルムの総厚みTは、好ましくは0.15〜0.5mm、より好ましくは0.07〜0.4mm、特に好ましくは0.09〜0.35mmである。
本発明の積層フィルムにおいては、表面層の構成材料の荷重たわみ温度HDaよりもバインダー層の構成材料の荷重たわみ温度HDbが高くなるように、各層の材料を選択する。
Tb/Tは、積層フィルムの総厚みTに対するバインダー層の厚みTbの割合である。本発明において、Tb/Tは0.5未満、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。
本発明の積層フィルムでは、表面層の構成材料の荷重たわみ温度HDaよりもバインダー層の構成材料の荷重たわみ温度HDbが高く、バインダー層の構成樹脂としてはポリカーボネート系樹脂(PC)等が好ましい。ポリカーボネート系樹脂(PC)は耐熱性の高い樹脂である。この場合、従来技術では、プリフォーム時の温度がポリカーボネート系樹脂(PC)にとって低すぎると、ポリカーボネート系樹脂が充分に軟化せず、賦形性またはフィルムの層間密着性が悪化する恐れがある。プリフォーム時の温度をポリカーボネート系樹脂(PC)に合わせて高くすると、熱によりメタクリル樹脂(A)を含む表面層の面粗度が増す恐れがある。
耐熱性の高いバインダー層の割合が比較的小さく、Tb/T<0.5であれば、バインダー層の構成樹脂によらず、表面層の面粗度を悪化させない温度でプリフォームを実施しても、良好にプリフォームを実施することができる。また、総厚に対して表面層の占める割合が比較的高くなるため、表面層に対して必要に応じて添加される紫外線吸収剤の添加濃度を下げることができ、実使用時に紫外線吸収剤が表面層側の表面にブリードアウトすることを抑制できる。
Tb/T≧0.5では耐熱性の高いバインダー層の占める割合が大きく、プリフォーム時に、メタクリル系樹脂(A)を含む表面層に好適な成形温度(表面層の面粗度を悪化させない成形温度)では所望の形状に良好に賦形することが難しい。Tb/T≧0.5であっても、プリフォーム時の温度を熱可塑性樹脂(B)を含むバインダー層に好適な成形温度に合わせれば所望の形状に賦形することはできるものの、表面層の面粗度が悪化する恐れがある。
C/Taは、表面層の厚みTaに対する表面層の構成材料に含まれる炭素数6〜12のアクリル酸アルキルエステル単位の濃度Cの割合である。本発明において、C/Taは25〜100mm−1であり、好ましくは30〜90mm−1である。
C/Ta<25mm−1では、プリフォーム時またはトリミング時に積層フィルムにクラックが生じる恐れがあり、C/Ta>100mm−1では、積層フィルムの表面硬度が低下する恐れがある。25≦C/Ta(mm−1)≦100であれば、積層フィルムの伸びが向上し、表面硬度を低下させることなく、プリフォーム時およびトリミング時の積層フィルムのクラックを抑制することができる。
本発明の積層フィルムは必要に応じて、表面層およびバインダー層以外の任意の層を有することができる。任意の層としては、ハードコート層、防汚層、および反射防止層等が挙げられる。
本発明の積層フィルムは、表面層がメタクリル系樹脂(A)を含むため良好な表面硬度を有し、良好な耐擦傷性を有することができる。さらに、表面硬度を高め、耐擦傷性を向上させるために、本発明の積層フィルムは、表面層上にハードコート層(耐擦傷性層)を有することができる。ハードコート層としては硬化被膜が挙げられ、公知方法にて形成することができる(例えば、特開2004−299199号公報および特開2006−103169号公報等を参照されたい。)。耐擦傷性の向上効果、およびプリフォーム時/トリミング時の耐割れ性の観点から、ハードコート層の厚みは、好ましくは2〜30μm、より好ましくは5〜20μmである。
本発明の積層フィルムは、Tb/T<0.5であるので、バインダー層の構成樹脂によらず、表面層の面粗度を悪化させない温度でプリフォームを実施しても、良好にプリフォームを実施することができる。
本発明の積層フィルムは、表面層の厚みTaに対する表面層の構成材料に含まれる炭素数6〜12のアクリル酸アルキルエステル単位の濃度Cの割合が25〜100(25≦C/Ta≦100)であるので、積層フィルムの表面硬度を低下させることなく、プリフォーム時およびトリミング時の積層フィルムのクラックを抑制することができる。
以上説明したように、本発明によれば、フィルムインサート成形に用いて好適なものであり、表面硬度が良好で、プリフォーム時の賦形性、表面状態、および耐割れ性が良好で、トリミング時の耐割れ性が良好な積層フィルムを提供することができる。
本発明の積層フィルムは公知のフィルム成形法により製造することができる。生産効率および各層の層間密着性の観点から、押出成形法が好ましい。押出成形法の場合、異なる押出機を用いて溶融混練された表面層用樹脂とバインダー層用樹脂とを異なる押出ダイ(Tダイ等のフィルム成形ダイ)からそれぞれフィルム状に押出した後にこれらを接着して積層してもよいし、異なる押出機を用いて溶融混練された表面層用樹脂とバインダー層用樹脂とを共通の押出ダイから共押出してもよい。
共押出ダイの方式としては、マルチマニホールドダイ方式およびフィールドブロック方式等が挙げられる。フィードブロック方式では、溶融状態の表面層用樹脂と溶融状態のバインダー層用樹脂とがフィードブロック内で積層された後、Tダイ等のフィルム成形ダイに導かれてフィルム状に成形され押出される。マルチマニホールド方式では、溶融状態の表面層用樹脂と溶融状態のバインダー層用樹脂とがマルチマニホールドダイ内で積層され、フィルム状に成形され押出される。いずれの方式でも、フィルム成形ダイから押出された溶融状態の積層フィルムは、互いに隣接する複数の冷却ロールの間隙を通って加圧および冷却され、充分に冷却されて固化した積層フィルムは巻取ロールに引き取られる。各層の厚さの均一性の観点から、マルチマニホールドダイが好ましい。
本発明の積層成形体は、被着成形体の少なくとも一部の表面に上記の本発明の積層フィルムからなる層を有するものである。
図2に、本発明に係る一実施形態の積層成形体の模式断面図を示す。図1と同じ構成要素には同じ参照符号を付してある。図中、符号20は積層成形体、符号21は被着成形体である。本実施形態の積層成形体20は、表面層11/バインダー層12/被着成形体21の積層構造を有する。積層フィルム10のバインダー層12は被着成形体21と表面層11とを良好に接着する機能を有する。被着成形体21は、必要に応じて立体形状にプリフォームされた積層フィルム10の存在下で被着成形体21を成形するフィルムインサート成形を実施して、製造されたものである。
被着成形体の形態としては特に制限されず、板材(平板および曲面板等)、立体形状物、およびシート(あるいはフィルム)等が挙げられる。本発明は、被着成形体が立体形状である場合に好ましく適用することができる。
被着成形体の材料は、フィルムインサート成形法により本発明の積層フィルムが積層可能なものであればよい。例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、およびゴム等が挙げられる。透明性、耐衝撃性、および耐熱性の観点からポリカーボネート系樹脂が好ましい。
前述の方法にて製造された表面層/バインダー層の積層構造を有する積層フィルムを真空成形法および熱プレス成形法等により所望の立体形状にプリフォームする。
上記したように、本発明では、バインダー層の構成樹脂によらず、表面層の面粗度を悪化させない温度でプリフォームを実施しても、良好にプリフォームを実施することができる。プリフォーム温度の上限は、表面層の面粗度が悪化しない温度に設定され、好ましくは130℃以下である。プリフォーム温度の下限は、プリフォームを良好に実施できればよく、好ましくは100℃以上である。
プリフォーム後、必要に応じて打抜加工等により不要部分をトリミングする。
次いで、プリフォームされた積層フィルムを射出成形金型内にセットし、この金型内にバインダー層側から樹脂を射出して被着成形体の射出成形を行う。射出樹脂の温度は、用いる樹脂の溶融粘度によるが、通常150〜300℃、好ましくは180〜280℃、特に好ましくは200〜260℃である。
本発明の積層フィルムは各種成形体の表面保護または加飾に好適であり、耐擦傷性または意匠性の要求される用途に好適である。本発明の積層フィルムおよび積層成形体は、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、および屋上看板等の看板部品;ショーケース、仕切板、および店舗ディスプレイ等のディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、およびシャンデリア等の照明部品;家具、ペンダント、およびミラー等のインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、およびレジャー用建築物の屋根等の建築部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバー、自動車内装部材、および自動車外装部材(バンパーやモールド等)等の輸送機関係部品;音響映像用銘板、およびステレオカバー等の音響部品;テレビ保護マスク、自動販売機、携帯電話、およびパソコン等の電子機器部品;保育器等のベビー用品;レントゲン部品等の医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、および観察窓等の機器関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、および防音壁等の交通関係部品;温室;大型水槽、箱水槽、バスタブ等の浴室部材、およびサニタリー用品;時計パネル;デスクマット等の事務用品;遊技部品および玩具;熔接時の顔面保護用マスク等の各種部材の加飾フィルム兼表面保護フィルム;壁紙およびマーキングフィルム等に好適に用いられる。
[評価項目および評価方法]
評価項目および評価方法は、以下の通りである。
(荷重たわみ温度)
JIS−K 7191に準拠して、樹脂の荷重たわみ温度を測定した。
(鉛筆硬度)
共押出成形で得られた積層フィルムから30mm×30mmの試験片を切り出した。鉛筆硬度試験機(東洋精機製作所社製、鉛筆引っかき塗膜硬さ試験機)に試験片をセットし、JIS−K5600−5−4に準拠して、表面層側の鉛筆硬度を測定した。
真空圧空成形機(布施真空社製、NGF型)を用いて、共押出成形で得られた積層フィルム(300mm×210mm)を真空成形した。38mm×38mm×高さ7mmの直方体の金型に対してバインダー層側が対向するように積層フィルムをセットし、積層フィルムの表面温度が125℃になったところで真空成形を実施した。5枚の積層フィルムについてこの真空成形を実施し、以下の評価を実施した。
真空成形後の5枚の積層フィルムの直方体の角部を目視観察し、下記基準にて賦形性を評価した。
A(良):すべての積層フィルムにおいて、角部の賦形が良好であった。
B(可):賦形が完全ではなく、角部が丸みを帯びている積層フィルムが1枚あった。
C(不良):賦形が完全ではなく、角部が丸みを帯びている積層フィルムが2枚以上あった。
真空成形後の5枚の積層フィルムを表面層側から目視観察し、下記基準にて表面状態を評価した。
A(良):真空成形前の積層フィルムと比較し、すべての積層フィルムにおいて面状に変化が見られない。
B(可):真空成形前の積層フィルムと比較し、面粗度が大きくなった/または気泡等の欠点が見られた積層フィルムが1枚あった。
C(不良):真空成形前の積層フィルムと比較し、面粗度が大きくなった/または気泡等の欠点が見られた積層フィルムが2枚以上あった。
真空成形後の5枚の積層フィルムを目視観察し、下記基準にて耐割れ性を評価した。
A(良):すべての積層フィルムでクラックが発生しなかった。
B(可):クラックが発生した積層フィルムが1枚あった。
C(不良):クラックが発生した積層フィルムが2枚以上あった。
真空成形後の5枚の積層フィルムに対してそれぞれ、打ち抜き装置(株式会社ダンベル製、SDL−200)を用い、温度23℃でトリミングを実施した。打ち抜き刃としてトムソン刃(株式会社ダンベル製、38mm×38mm)を用い、プリフォームされた箇所の表面層側に打ち抜き刃を当接させた。トリミング時の下敷きとして、カッティングマットを使用した。トリミング箇所を目視観察し、下記基準にて耐割れ性を評価した。
A(良):すべての試験片でクラックが発生しなかった。
B(可):クラックが発生した試験片が1枚あった。
C(不良):クラックが発生した試験片が2枚以上あった。
用いた材料は、以下の通りである。
(熱可塑性樹脂(A))
<メタクリル系樹脂(X)>
(X−1)メタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸メチル(MA)との共重合体(アクリル酸メチル単位の含有量:2.5質量%、粘度平均重合度:1170、荷重たわみ温度:101℃)。
(Y−1)最内層(y−1)、中間層(y−2)、および最外層(y−3)からなる3層構造の多層構造ゴム粒子(粒子径:0.23μm)。最内層(y−1)の組成:MMA単位32.91質量部、アクリル酸メチル(MA)単位2.09質量部、および架橋性単量体単位であるメタクリル酸アリル単位0.07質量部。中間層(y−2)の組成:アクリル酸n−ブチル単位37.00質量部、スチレン単位8.00質量部、および架橋性単量体単位であるメタクリル酸アリル単位0.90質量部。最外層(y−3)の組成:メタクリル酸メチル(MMA)単位18.80質量部、およびアクリル酸メチル(MA)単位1.20質量部。
(D−1)メタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸メチル(MA)との共重合体粒子(アクリル酸メチル単位の含有量:10.0質量%、粒子径:0.11μm)。
(YP−1)
上記の多層構造ゴム粒子(Y−1)を含むラテックスと上記の分散用粒子(D−1)を含むラテックスとを固形分質量比67対33の割合で混合した。得られた混合ラテックスを−30℃で4時間かけて凍結させた。この凍結ラテックスを、凍結ラテックスの2倍量の90℃温水に投入し溶解してスラリーとした後、90℃で20分間保持して脱水し、80℃で乾燥して多層構造ゴム粒子(Y−1)を含有する粉体(YP−1)を得た。
(Z−1)メタクリル酸メチル(MMA)の単独重合体ブロック[z1−1]、アクリル酸n−ブチルの単独重合体ブロック[z2−1]、およびメタクリル酸メチル(MMA)の単独重合体ブロック[z1−2]からなるトリブロック共重合体、[z1−1]:[z2−1]:[z1−2](質量比)=1:3:2、重量平均分子量(Mw)=60,000。
(S−1)デンカ株式会社製「レジスファイ R−200」。
<ポリカーボネート系樹脂(PC)>
(PC−1)住化スタイロンポリカーボネート社製「300シリーズ」、荷重たわみ温度:135℃。
単軸押出機を用いて、メタクリル系樹脂(X−1)70質量部と多層構造ゴム粒子含有粉体(YP−1)30質量部とを溶融混練して、表面層用メタクリル系樹脂(A−1)(荷重たわみ温度HDa=86℃)を得た。組成およびHDaを表1に示す。
表1に示す組成に変更した以外は製造例1と同様にして、表面層用メタクリル系樹脂(A−2)〜(A−6)を得た。組成およびHDaを表1に示す。
バインダー層となるポリカーボネート系樹脂(PC−1)を30mmφベント式の単軸押出機を用いて吐出量5kg/hrにて溶融押出した。これと同時に表面層となるメタクリル系樹脂(A−1)を50mmφベント式の単軸押出機を用いて20kg/hrにて溶融押出した。幅400mmのマルチマニホールドダイを用いて、上記2種類の溶融樹脂を積層させ、温度255℃にてフィルム状に押出した。ダイから押出された溶融状態の積層フィルムを複数の金属鏡面ロール(表面温度:95℃)を用いてニップし、4.0m/minの速度にて引取った。このようにして、表面層の厚みTa=0.2mm、バインダー層の厚みTb=0.05mm、総厚みT=0.25mmの積層フィルムを得た。
得られた積層フィルムに対して、「プリフォーム時の賦形性、表面状態、耐割れ性」の評価に記載の方法にて、シート温度125℃の条件で真空成形(プリフォーム)を実施した。積層フィルムの鉛筆硬度、プリフォーム時の賦形性、表面状態、耐割れ性、およびトリミング時の耐割れ性の評価を実施した。主な製造条件と評価結果を表2、表3に示す。
各層の組成と厚みを表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムの製膜およびプリフォームを実施し、評価した。主な製造条件と評価結果を表2、表3に示す。
メタクリル系樹脂(A)からなる表面層と熱可塑性樹脂(B)からなるバインダー層とを有し、(式1)〜(式3)を充足する積層フィルムを製造した実施例1〜7ではいずれも、積層フィルムの鉛筆硬度、プリフォーム時の賦形性、表面状態、耐割れ性、およびトリミング時の耐割れ性の評価結果が良好であった。
Tb/T<0.5であり(式2)を充足するが、C/Ta<25mm−1であり(式3)を充足せず、積層フィルムの総厚みTを0.5mmに大きくした比較例9では、プリフォーム時の賦形性の評価結果が不良であった。
Tb/T<0.5であり(式2)を充足するが、C/Ta<25mm−1であり(式3)を充足せず、積層フィルムの総厚みTを1.0mmに大きくした比較例10では、比較例9と同様にプリフォーム時の賦形性の評価結果が不良であり、さらに、トリミング時の耐割れ性の評価結果が不良であった。
Tb/T<0.5であり(式2)を充足するが、C/Ta>100mm−1であり(式3)を充足しない積層フィルムを製造した比較例11〜13では、積層フィルムの表面硬度の評価結果が不良であった。
プリフォーム時のシート温度を145℃に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムの製膜、プリフォーム、および評価を実施した。賦形性および耐割れ性の評価結果はいずれもA評価であった。しかしながら、シート温度がメタクリル系樹脂にとっては高過ぎたため、表面層側に気泡状の欠点が発生し、表面状態の評価結果がC評価となった。プリフォーム温度は130℃以下が好ましい。
プリフォーム時のシート温度を145℃に変更した以外は比較例1と同様にして、積層フィルムの製膜、プリフォーム、および評価を実施した。シート温度が熱可塑性樹脂(B)の適正成形温度に近づいたので、賦形性および耐割れ性の評価結果はいずれもA評価に改善された。しかしながら、シート温度がメタクリル系樹脂にとっては高過ぎたため、表面層側に気泡状の欠点が発生し、表面状態の評価結果がC評価となった。プリフォーム温度は130℃以下が好ましい。
11 表面層
12 バインダー層
20 積層成形体
21 被着成形体
Claims (8)
- メタクリル系樹脂(A)を含む表面層と熱可塑性樹脂(B)を含むバインダー層とを含む積層フィルムであって、
前記表面層の構成材料の荷重たわみ温度をHDa、前記バインダー層の構成材料の荷重たわみ温度をHDbとし、前記積層フィルムの総厚みをT(mm)、前記表面層の厚みをTa(但しTaは0.05〜0.35mmとする)、前記バインダー層の厚みをTb(mm)とし、前記表面層の構成材料に含まれる炭素数6〜12のアクリル酸アルキルエステル単位の濃度をC(質量%)としたとき、下記(式1)〜(式3)を充足する積層フィルム。
HDa<HDb・・・(式1)、
Tb/T<0.5・・・(式2)、
25≦C/Ta≦100(mm−1)・・・(式3)。 - メタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸メチルの単独重合体またはメタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であるメタクリル系樹脂(X)と、アクリル系ゴム(R)とを含み、
メタクリル系樹脂(X)および/またはアクリル系ゴム(R)が炭素数6〜12のアクリル酸アルキルエステル単位を含む請求項1に記載の積層フィルム。 - アクリル系ゴム(R)は、多層構造ゴム粒子(Y)またはブロック共重合体(Z)である請求項2に記載の積層フィルム。
- 熱可塑性樹脂(B)はポリカーボネート系樹脂を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層フィルム。
- さらに前記表面層上にハードコート層を備える請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層フィルム。
- 被着成形体の表面に請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層フィルムからなる層を有する積層成形体。
- 前記表面層の構成材料および前記バインダー層の構成材料を共押出成形する工程を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法。
- 前記積層フィルムを130℃以下でプリフォームした後、プリフォームされた当該積層フィルムの存在下で前記被着成形体を成形するフィルムインサート成形を実施する請求項6に記載の積層成形体の製造方法。
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