JPWO2018043546A1 - 変異型酵素の製造方法及び変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ - Google Patents

変異型酵素の製造方法及び変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ Download PDF

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Abstract

目的タンパク質を活性な可溶性組換タンパク質として形質転換体中で発現させるための効率的な方法として、以下の工程を含む、基準体に比して、組換体あたりの活性が向上した酵素を製造する方法を提供する。(1)基準体のアミノ酸配列において1以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現する組換体を作成する工程、(2)基準体の活性100%に比して50%以上の組換体あたりの活性を示す複数の変異体を選択する工程、(3)工程(2)において選択されたそれぞれの変異体が有するアミノ酸残基が置換された部位のうち、2以上の部位において、それぞれ対応するアミノ酸残基が置換された変異体を発現させる工程。

Description

本発明は、変異型酵素の製造方法及び変異型アルコールアシルトランスフェラーゼに関する。より詳しくは、アルコールアシルトランスフェラーゼなどの酵素を、高活性な可溶性組換タンパク質として得るための方法等に関する。
タンパク質は、細胞内で翻訳された後、固有の立体構造に折りたたまれて、機能を有するようになる。形質転換体(組換体)を用いて異種タンパク質を発現させる場合には、タンパク質の正常なフォールディングが宿主細胞内で行われず、封入体が形成されてしまうことがある。封入体中のタンパク質は、本来の活性が失われた不活性型タンパク質となり、場合によって不溶化することが知られている。タンパク質の由来種の細胞内環境(温度、転写速度、翻訳速度等)とは異なる宿主の細胞内環境下では当該タンパク質の正常なフォールディングがなされないことが、封入体の形成の要因と考えられている。
この問題を解決するため、タンパク質に変異を導入することによって、組換体中で野生型タンパク質と同様の正常なフォールディングを実現し、活性型として発現する変異タンパク質を取得する試みがなされている。例えば、植物由来のヒドロキシニトリルリアーゼについて、変異の導入によって可溶性が大きく向上した酵素を取得できたことが報告されている(非特許文献1)。
本発明に関連して、アルコールアシルトランスフェラーゼ(AAT)について説明する。特許文献1〜3には、バイオマスから生成されるイソブチリル−CoAやメタクリリル−CoAからアルコールアシルトランスフェラーゼ(AAT)を用いてイソ酪酸エステルやメタクリル酸エステルを製造する方法が提案されている。
カルボン酸エステル類は、各種の工業用化学品、香料、医薬品などの原料として用いられている。例えばイソ酪酸エステルは、主に香料用エステル類、医薬品、過酸化物などの原料として重要なエステル化合物である。メタクリル酸エステルは、主にアクリル樹脂の原料として使われており、塗料、接着剤、樹脂改質剤などの分野のコモノマーとしても多くの需要がある。
近年、地球温暖化防止及び環境保護の観点から、炭素源として従来の化石原料に替えてバイオマスを用い、種々の化学製品を製造する技術が注目されている。イソ酪酸エステルやメタクリル酸エステルについても、バイオマスからの製造が期待されている。
AATを用いてバイオマスからイソ酪酸エステルやメタクリル酸エステルなどのエステルを合成するための方法として、バイオマスからイソブチリル−CoAやメタクリリル−CoAなどのCoA化合物を合成する遺伝子群と、CoA化合物からエステルへの反応を触媒するAAT遺伝子とを導入した微生物組換体を用いた発酵生産が考えられる。
しかしながら、組換体中でAATを発現させる場合にも、上述の封入体形成が問題となっている。特に植物由来AATは、大腸菌を宿主として発現させた場合、大部分が不活性な不溶性タンパク質として発現することが知られている(非特許文献2)。
非特許文献3,4では、リンゴ由来のAATを大腸菌組換体で発現させた場合、特定の系統(C43(DE3))を用いた場合においてのみ可溶性タンパク質として得られ、一般的な系統(BL21(DE3)誘導株)では可溶性タンパク質としては得られなかったことが報告されている。
特開2015−116141号公報 国際公開2014/038214号 国際公開2014/038216号
Protein Eng. Des. Sel. (2011) 24:607-616. Metabolic Engineering (2015) 27:20-28. FEBS J. (2005) 272: 3132-3144. Phytochemistry (2006) 67:658-667.
上述の通り、封入体形成を抑制するため、タンパク質に変異を導入することによって、形質転換体(組換体)中で野生型タンパク質と同様の正常なフォールディングを実現する方法が提案されている。しかし、この方法においては、正常なフォールディングの実現を可能とする変異をどのようにして効率的に探索するかが課題となる。
そこで、本発明は、目的タンパク質を活性な可溶性組換タンパク質として組換体中で発現させるための効率的な方法を提供することを主な目的とする。
上記課題解決のため、本発明は、以下の〔1〕〜〔25〕を提供する。
〔1〕 基準体のアミノ酸配列において2以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現させる工程、
を含む、基準体に比して、組換体あたりの活性が向上した酵素の製造方法。
〔2〕 以下の工程を含む、〔1〕の酵素の製造方法;
(1)基準体のアミノ酸配列において1以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現する組換体を作成する工程、
(2)基準体の活性100%に比して50%以上の組換体あたりの活性を示す複数の変異体を選択する工程、
(3)工程(2)において選択されたそれぞれの変異体が有するアミノ酸残基が置換された部位のうち、2以上の部位において、それぞれ対応するアミノ酸残基が置換された変異体を発現させる工程。
〔3〕 前記酵素がアルコールアシルトランスフェラーゼである〔1〕又は〔2〕の酵素の製造方法。
〔4〕 前記基準体のアミノ酸配列が、配列番号1、2、3、64、65及び66のいずれかに示されるアミノ酸配列である、〔3〕の酵素の製造方法。
〔5〕 前記他のアミノ酸残基が、アラニン又はアルギニンである〔1〕〜〔4〕のいずれかの酵素の製造方法。
〔6〕 基準体に比して活性が向上した、変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
基準体のアミノ酸配列において1以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する、変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
〔7〕 配列番号1又は2に示すアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる〔6〕の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
(1)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて48番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(2)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて150番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(3)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて167番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(4)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて270番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(5)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて274番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(6)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて447番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
〔8〕 配列番号64又は66に示すアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる〔6〕の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
(1)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて206番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(2)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて209番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(3)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて256番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(4)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて269番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(5)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて322番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
〔9〕 配列番号65に示すアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる〔6〕の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
(1)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて115番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(2)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて167番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(3)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて179番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(4)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて325番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(5)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて356番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
〔10〕 前記他のアミノ酸残基が、アラニン又はアルギニンである〔6〕〜〔9〕のいずれかの変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
〔11〕 植物由来である〔7〕〜〔10〕のいずれかの変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
〔12〕 配列番号1又は2に示すアミノ酸配列において以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する〔6〕の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
(1)48番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(2)150番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(3)167番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(4)270番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(5)274番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(6)447番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
〔13〕 配列番号64又は66に示すアミノ酸配列において以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する〔6〕の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
(1)206番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(2)209番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(3)256番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(4)269番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(5)322番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
〔14〕 配列番号65に示すアミノ酸配列において以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する〔6〕の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
(1)115番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(2)167番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(3)179番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(4)325番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(5)356番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
〔15〕 前記他のアミノ酸残基が、アラニン又はアルギニンである〔12〕〜〔14〕のいずれか一項に記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
〔16〕 配列番号4又は7に記載のアミノ酸配列からなる〔12〕の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
〔17〕 さらに以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する〔7〕又は〔12〕記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
(1)64番目のアラニンのバリン、イソロイシン又はスレオニンへの置換、
(2)117番目のリジンのグルタミンへの置換、
(3)248番目のバリンのアラニンへの置換、
(4)363番目のグルタミンのリジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンへの置換。
〔18〕 配列番号5,6,8〜11,13のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる〔17〕の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
〔19〕 配列番号1又は2に示すアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
(1)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて64番目のアラニンに相当するアミノ酸残基のバリン、イソロイシン又はスレオニンへの置換、
(2)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて117番目のリジンに相当するアミノ酸のグルタミンへの置換、
(3)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて248番目のバリンに相当するアミノ酸のアラニンへの置換、
(4)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて363番目のグルタミンに相当するアミノ酸のリジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンへの置換。
〔20〕 植物由来である〔19〕のいずれかの変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
〔21〕 配列番号1又は2に示すアミノ酸配列において以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
(1)64番目のアラニンのバリン、イソロイシン又はスレオニンへの置換、
(2)117番目のリジンのグルタミンへの置換、
(3)248番目のバリンのアラニンへの置換、
(4)363番目のグルタミンのリジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンへの置換。
〔22〕 配列番号3,5,6,8〜11,13のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる〔21〕の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
〔23〕 〔6〕〜〔20〕のいずれかのアルコールアシルトランスフェラーゼを発現するベクター。
〔24〕 〔23〕のベクターが導入された形質転換体。
また、本発明は、他の一側面において、以下の[1]〜[24]をも提供する。
[1] 以下の工程を含む、基準体に比して、組換体あたりの活性が向上した酵素を製造する方法。
(1)基準体のアミノ酸配列において1以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現する組換体を作成する工程。
(2)基準体に比して50%以上の組換体あたりの活性を示す変異体を選択する工程。
(3)工程(2)において選択されたそれぞれの変異体が有するアミノ酸置換が導入された部位のうち2以上の部位においてそれぞれ対応するアミノ酸置換が導入された変異体を発現させる工程。
[2] 前記酵素がアルコールアシルトランスフェラーゼである[1]の製造方法。
[3] 前記基準体のアミノ酸配列が、配列番号1、配列番号2又は配列番号3に示されるアミノ酸配列である、[2]の製造方法。
[4] 前記他のアミノ酸残基が、アラニン又はアルギニンである[1]〜[3]のいずれかの製造方法。
[5] 基準体のアミノ酸配列において1以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現させる工程、
を含む、基準体に比して組換体あたりの活性が向上した酵素の製造方法。
[6] 前記酵素がアルコールアシルトランスフェラーゼである[5]の製造方法。
[7] 前記基準体のアミノ酸配列が、配列番号1、配列番号2又は配列番号3に示されるアミノ酸配列である、[6]の製造方法。
[8] 前記他のアミノ酸残基が、アラニン又はアルギニンである[5]〜[7]のいずれかの製造方法。
[9] 配列番号1記載のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて48番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて150番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(3)配列番号1に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて167番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて270番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(5)配列番号1に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて274番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(6)配列番号1に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて447番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
[10] 前記他のアミノ酸残基が、アラニン又はアルギニンである[9]の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
[11] 配列番号1に示すアミノ酸配列において以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
(1)48番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(2)150番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(3)167番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(4)270番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(5)274番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(6)447番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
[12] 前記他のアミノ酸残基が、アラニン又はアルギニンである[11]の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
[13] 配列番号4又は7に記載のアミノ酸配列からなる[11]の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
[14] さらに以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する[11]の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
(1)64番目のアラニンのバリン、イソロイシン又はスレオニンへの置換。
(2)117番目のリジンのグルタミンへの置換。
(3)248番目のバリンのアラニンへの置換。
(4)363番目のグルタミンのリジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンへの置換。
[15] 配列番号5,6,8〜11,13のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる[14]の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
[16] 配列番号1記載のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて64番目のアラニンに相当するアミノ酸残基のバリン、イソロイシン又はスレオニンへの置換。
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて248番目のバリンに相当するアミノ酸のアラニンへの置換。
(3)配列番号1に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて363番目のグルタミンに相当するアミノ酸のリジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンへの置換。
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて117番目のリジンに相当するアミノ酸のグルタミンへの置換。
[17] 配列番号1に示すアミノ酸配列において以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
(1)64番目のアラニンのバリン、イソロイシン又はスレオニンへの置換。
(2)117番目のリジンのグルタミンへの置換。
(3)248番目のバリンのアラニンへの置換。
(4)363番目のグルタミンのリジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンへの置換。
[18] 配列番号3,5,6,8〜11,13のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる[17]の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
[19] [9]〜[18]のアルコールアシルトランスフェラーゼを発現するベクター。
[20] [19]のベクターが導入された形質転換体。
[21] 基準体に比して、組換体あたりの活性が向上した植物由来酵素を製造する方法であって、
(1)基準体のアミノ酸配列において1又は2以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現する非植物細胞組換体を作成する工程と、
(2)前記変異体の組換体あたりの酵素活性を測定する工程と、
(3)基準体に比して50%以上の組換体あたりの活性を示す変異体を選択する工程と、
(4)工程(3)において選択されたそれぞれの変異体が有するアミノ酸置換が導入された部位のうち2以上の部位においてそれぞれ対応するアミノ酸置換が導入された変異体を前記非植物細胞中で発現させる工程と、を含む製造方法。
[22] 前記酵素がリンゴ由来のアルコールアシルトランスフェラーゼである[21]の製造方法。
[23] 前記非植物細胞が大腸菌細胞である[21]又は[22]の製造方法。
[24] 前記他のアミノ酸残基が、アラニン又はアルギニンである[21]〜[23]のいずれかの製造方法。
本発明に係る変異型酵素の製造方法において、「基準体」とは、1以上のシステインの他のアミノ酸残基への置換を導入する対象となる酵素を意味する。本発明に係る製造方法により得られる変異型酵素のアミノ酸配列は、1以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されている点でのみ、基準体のアミノ酸配列と相違する。基準体は、天然型(野生型)の酵素に限られず、野生型の酵素のアミノ酸配列にアミノ酸置換が一以上導入された変異型の酵素であってもよい。また、基準体は、野生型の酵素のアミノ酸配列に一以上のアミノ酸を挿入又は付加したアミノ酸配列、あるいは野生型の酵素のアミノ酸配列から一以上のアミノ酸を欠失させたアミノ酸配列を有する変異型の酵素であってもよい。これらの変異型の酵素を基準体として、さらに1又は2以上のシステインの他のアミノ酸残基への置換を導入することによって、活性の向上した変異型酵素を得ることができる。
本発明により、目的タンパク質を活性な可溶性組換タンパク質として組換体中で発現させるための効率的な方法が提供される。
配列番号1(リンゴ)、配列番号12(リンゴ)、配列番号61(ナシ)、配列番号62(ビワ)及び配列番号63(カキ)由来のAATのアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。 配列番号66(トマト(野生種))、配列番号67(トマト(栽培種))、配列番号68(バレイショ)、配列番号69(トウガラシ)及び配列番号70(タバコ)由来のAATのアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。 配列番号65(イチゴ)、配列番号71(チリイチゴ)、配列番号72(エゾヘビイチゴ)及び配列番号73(ハマナス)由来のAATのアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。 リンゴAATの15個のシステインを1つずつアラニンに置換して作成した15種類の変異体を発現する組換体について、AAT活性を測定した結果を示すグラフである。縦軸は、菌体重量あたりのAAT活性を、システイン置換を有さない基準体(pAAT116)を発現する組換体の活性を1とした相対値で示す。 図上段は、リンゴ野生型AATに4重変異を導入した変異体(pAAT021)、システイン6置換を導入した変異体(pAAT024)、4重変異とシステイン6置換を導入した変異体(pAAT025)、4重変異とCys150Argを導入した変異体(pAAT155)、4重変異とシステイン6置換(うち150位はCys150Arg)を導入した変異体(pAAT154)を発現する組換体について、菌体重量あたりのAAT活性を測定した結果を示すグラフである。縦軸は、AAT活性を、4重変異及びシステイン置換を有さない基準体(pAAT116)を発現する組換体の活性を1とした相対値で示す。図下段は、変異体を含む細胞抽出液の可溶性画分と不溶性画分のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動像である。 図上段は、リンゴ野生型AATに4重変異を導入した変異体(pAAT021)、4重変異とシステイン6置換を導入した変異体(pAAT025)、4重変異とシステイン5置換を導入した変異体(pAAT151)、4重変異とシステイン4置換を導入した変異体(pATM017、pATM018、pATM019、pATM021)を発現する組換体について、菌体重量あたりのAAT活性を測定した結果を示すグラフである。縦軸は、AAT活性を、4重変異及びシステイン置換を有さない基準体(pAAT116)を発現する組換体の活性を1とした相対値で示す。図下段は、変異体を含む細胞抽出液の可溶性画分と不溶性画分のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動像である。 図上段は、トマトAATの8個のシステインを1つずつアラニンに置換して作成した8種類の変異体を発現する組換体と、トマト野生型AATにシステイン5置換を導入した変異体(pAAT164)を発現する組換体について、菌体重量あたりのAAT活性を測定した結果を示すグラフである。縦軸は、AAT活性を、基準体(pAAT032)を発現する組換体の活性を1とした相対値で示す。図下段は、変異体を含む細胞抽出液の可溶性画分と不溶性画分のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動像である。 図上段は、イチゴAATの9個のシステインを1つずつアラニンに置換して作成した9種類の変異体を発現する組換体と、イチゴ野生型AATにシステイン5置換を導入した変異体(pAAT037)を発現する組換体について、菌体重量あたりのAAT活性を測定した結果を示すグラフである。縦軸は、AAT活性を、基準体(pAAT033)を発現する組換体の活性を1とした相対値で示す。図下段は、変異体を含む細胞抽出液の可溶性画分と不溶性画分のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動像である。
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
1.変異型酵素の製造方法
本発明は、基準体のアミノ酸配列において2以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現させる工程、を含む、基準体に比して組換体あたりの活性が向上した酵素の製造方法に関する。
具体的には、本発明に係る変異型酵素の製造方法は、以下の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする。
(1)基準体のアミノ酸配列において1以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現する組換体を作成する工程。
(2)基準体の活性100%に比して50%以上の組換体あたりの活性を示す複数の変異体を選択する工程。
(3)工程(2)において選択されたそれぞれの変異体が有するアミノ酸残基が置換された部位のうち2以上の部位においてそれぞれ対応するアミノ酸残基が置換された変異体を発現させる工程。
[酵素]
本発明に係る変異型酵素の製造方法が対象とする酵素は、当該酵素の由来種とは異なる宿主で基準体を発現させた場合に、形質転換体(組換体)中で封入体を形成する酵素であることが好ましい。本発明に係る変異型酵素の製造方法が対象とする酵素は、例えば、植物由来の酵素であって、大腸菌等の非植物細胞で基準体を発現させた場合に、組換体細胞中で封入体を形成する酵素であってよい。
酵素の例としては、特に限定されないが、アルコールアシルトランスフェラーゼ(AAT)などのトランスフェラーゼ類;デヒドロゲナーゼやオキシダーゼ、オキシゲナーゼなどのオキシドレダクターゼ類;エステラーゼやニトリラーゼ、アミダーゼなどのヒドロラーゼ類;ラセマーゼやエピメラーゼ、ムターゼなどのイソメラーゼ類;アシルCoAシンテターゼやDNAリガーゼなどのリガーゼ類;ニトリルヒドラターゼやヒドロキシニトリルリアーゼ、アンモニアリアーゼなどのリアーゼ類などが挙げられる。
酵素の由来としては、動物、植物、糸状菌、酵母、古細菌や真正細菌が挙げられ、上記の特徴を有するものであれば特に限定されない。
本発明のAATの由来としては、例えば、ショウガ目(Zingiberales)、バラ目(Rosales)、ツツジ目(Ericales)、ウリ目(Cucurbitales)、アブラナ目(Brassicales)、クスノキ目(Laurales)、イネ目(Poales)、ヤシ目(Arecales)、クサスギカズラ目(Asparagales)、ユキノシタ目(Saxifragales)、ナデシコ目(Caryophyllales)、ブドウ目(Vitales)、キントラノオ目(Malpighiales)、カタバミ目(Oxalidales)、マメ目(Fabales)、ムクロジ目(Sapindales)、アオイ目(Malvales)、フトモモ目(Myrtales)、キンポウゲ目(Ranunculales)、ナス目(Solanales)、シソ目(Lamiales)、リンドウ目(Gentianales)およびキク目(Asterales)からなる群から選択されるいずれかの目に属するものである。これらの中で、好ましくは、ショウガ目(Zingiberales)、バラ目(Rosales)、ツツジ目(Ericales)、ウリ目(Cucurbitales)、アブラナ目(Brassicales)およびクスノキ目(Laurales)からなる群から選択されるいずれかの目に属するものが挙げられる。
ショウガ目に属するものとしてはバショウ科(Musaceae)およびショウガ科(Zingiberaceae)、バラ目に属するものとしてはバラ科(Rosaceae)およびクワ科(Moraceae)、ツツジ目に属するものとしてはツツジ科(Ericaceae)、マタタビ科(Actinidiaceae)、カキノキ科(Ebenaceae)およびツバキ科(Theaceae)、ウリ目に属するものとしてはウリ科(Cucurbitaceae)、アブラナ目に属するものとしてはパパイア科(Caricaceae)およびアブラナ科(Brassicaceae)、クスノキ目に属するものとしてはクスノキ科(Lauraceae)、イネ目に属するものとしてはパイナップル科(Bromeliaceae)およびイネ科(Poaceae)、ヤシ目に属するものとしてはヤシ科(Arecaceae)、クサスギカズラ目に属するものとしてはラン科(Orchidaceae)およびアヤメ科(Iridaceae)、ユキノシタ目に属するものとしてはスグリ科(Grossulariaceae)、ナデシコ目に属するものとしてはナデシコ科(Caryophyllaceae)、ブドウ目に属するものとしてはブドウ科(Vitaceae)、キントラノオ目に属するものとしてはキントラノオ科(Malpighiaceae)、トケイソウ科(Passifloraceae)、トウダイグサ科(Euphorbiaceae)およびヤナギ科(Salicaceae)、カタバミ目に属するものとしてはカタバミ科(Oxalidaceae)、マメ目に属するものとしてはマメ科(Fabaceae)、ムクロジ目に属するものとしてはミカン科(Rutaceae)、ムクロジ科(Sapindaceae)およびウルシ科(Anacardiaceae)、アオイ目に属するものとしてはアオイ科(Malvaceae)、フトモモ目に属するものとしてはミソハギ科(Lythraceae)、アカバナ科(Onagraceae)およびフトモモ科(Myrtaceae)、キンポウゲ目に属するものとしてはキンポウゲ科(Ranunculaceae)およびケシ科(Papaveraceae)、ナス目に属するものとしてはナス科(Solanaceae)、シソ目に属するものとしてはモクセイ科(Oleaceae)、クマツヅラ科(Verbenaceae)およびシソ科(Lamiaceae)、リンドウ目に属するものとしてはキョウチクトウ科(Apocynaceae)、キク目(Asterales)に属するものとしてはキク科(Asteraceae)の植物が好ましい。上記植物の近縁種も利用することができる。これらの中でさらに好ましくは、バショウ科(Musaceae)、バラ科(Rosaceae)、ツツジ科(Ericaceae)、マタタビ科(Actinidiaceae)、ウリ科(Cucurbitaceae)、パパイア科(Caricaceae)およびクスノキ科(Lauraceae)に属する植物である。
具体的にはバショウ科に属するものとしてはバショウ(Musa)属、ショウガ科(Zingiberaceae)に属するものとしてはショウガ属(Zingiber)、バラ科に属するものとしてはオランダイチゴ(Fragaria)属、リンゴ(Malus)属、サクラ(Prunus)属、ナシ(Pyrus)属、ビワ(Eriobotrya)属、ボケ(Chaenomeles)属、キイチゴ(Rubus)属およびバラ(Rosa)属、クワ科(Moraceae)に属するものとしてはイチジク(Ficus)属、ツツジ科に属するものとしてはスノキ(Vaccinium)属、マタタビ科に属するものとしてはマタタビ(Actinidia)属、カキノキ科に属するものとしてはカキノキ(Diospyros)属、ツバキ科に属するものとしてはツバキ(Camellia)属、ウリ科に属するものとしてはキュウリ(Cucumis)属およびスイカ(Citrullus)属、パパイア科に属するものとしてはパパイア(Carica)属およびヴァスコンセレア(Vasconcellea)属、アブラナ科に属するものとしてはシロイヌナズナ(Arabidopsis)属、クスノキ科に属するものとしてはワニナシ(Persea)属、パイナップル科に属するものとしてはアナナス属(Ananas)、イネ科に属するものとしてはイネ(Oryza)属、コムギ(Triticum)属、オオムギ(Hordeum)属、トウモロコシ(Zea)属、モロコシ(Sorghum)属およびヤマカモジグサ(Brachypodium)属、ヤシ科に属するものとしてはココヤシ(Cocos)属、ラン科に属するものとしてはバンダ(Vanda)属、アヤメ科に属するものとしてはアヤメ(Iris)属、スグリ科に属するものとしてはスグリ(Ribes)属、ナデシコ科に属するものとしてはカスミソウ属(Gypsophila)、ブドウ科に属するものとしてはブドウ(Vitis)属、キントラノオ科に属するものとしてはヒイラギトラノオ(Malpighia)属、トケイソウ科に属するものとしてはトケイソウ(Passiflora)属、トウダイグサ科に属するものとしてはトウゴマ(Ricinus)属、ヤナギ科に属するものとしてはヤマナラシ(Populus)属、カタバミ科に属するものとしてはゴレンシ(Averrhoa)属、マメ科に属するものとしてはウマゴヤシ(Medicago)属、ハウチワマメ(Lupinus)属、ダイズ(Glycine)属およびチョウマメ(Clitoria)属、ミカン科に属するものとしてはミカン(Citrus)属およびアエグレ(Aegle)属、ムクロジ科に属するものとしてはレイシ(Litchi)属、ウルシ科に属するものとしてはマンゴー(Mangifera)属、アオイ科に属するものとしてはドリアン(Durio)属およびカカオ(Theobroma)属、ミソハギ科に属するものとしてはザクロ(Punica)属、アカバナ科に属するものとしてはサンジソウ(Clarkia)属、フトモモ科に属するものとしてはバンジロウ(Psidium)属、キンポウゲ科に属するものとしてはルイヨウショウマ(Actaea)属、ケシ科に属するものとしてはケシ(Papaver)属、ナス科に属するものとしてはナス(Solanum)属、トウガラシ(Capsicum)属、タバコ(Nicotiana)属およびツクバネアサガオ(Petunia)属、モクセイ科に属するものとしてはオリーブ(Olea)属、クマツヅラ科に属するものとしてはグランデュラリア(Glandularia)属、シソ科に属するものとしてはアキギリ(Salvia)属、キョウチクトウ科に属するものとしてはラウオルフィア(Rauvolfia)属およびニチニチソウ(Catharanthus)属、キク科に属するものとしてはカミツレ(Chamaemelum)属の植物が好ましい。その中でも、バショウ属、オランダイチゴ属、リンゴ属、サクラ属、ナシ属、スノキ属、マタタビ属、キュウリ属、パパイア属又はワニナシ属に属する植物がより好ましい。
さらにその中でも、バショウ属、リンゴ属、ナシ属、ビワ属、カキノキ属、マタタビ属、キュウリ属、パパイア属又はワニナシ属に属する植物が特に好ましい。
さらに、具体的にはバショウ属に属するものとしてはバナナ(Musa x paradisiaca)、バショウ(Musa basjoo)、ヒメバショウ(Musa coccinea)およびマレーヤマバショウ(Musa acuminata)、ショウガ属に属するものとしてはショウガ(Zingiber officinale)、オランダイチゴ属に属するものとしてはオランダイチゴ(Fragaria x ananassa)(以下、単に「イチゴ」と記載することもある。)、バージニアイチゴ(Fragaria virginiana)、チリイチゴ(Fragaria chiloensis)およびエゾノヘビイチゴ(Fragaria vesca)、リンゴ属に属するものとしてはリンゴ(Malus pumila、Malus domestica、Malus baccata)、ハナカイドウ(Malus halliana)、カイドウズミ(Malus floribunda)およびイヌリンゴ(Malus prunifolia)、サクラ属に属するものとしてはウメ(Prunus mume)、セイヨウミザクラ(Prunus avium)、モモ(Prunus persica)、アンズ(Prunus armeniaca)、アーモンド(Prunus dulcis)、スモモ(Prunus salicina)およびセイヨウスモモ(Prunus domestica)、ナシ属に属するものとしてはセイヨウナシ(Pyrus communis)、ナシ(Pyrus pyrifolia)、マメナシ(Pyrus calleryana)、ヤセイセイヨウナシ(Pyrus pyraster)およびチュウゴクナシ(Pyrus x bretschneideri)、ビワ属に属するものとしてはビワ(Eriobotrya japonica)、ボケ属に属するものとしてはカリン(Chaenomeles sinensis)、キイチゴ属に属するものとしてはラズベリー(Rubus idaeus)およびブラックラズベリー(Rubus fruticosus)、バラ属に属するものとしてはハマナス(Rosa rugosa)、イチジク属に属するものとしてはイチジク(Ficus carica)、スノキ属に属するものとしてはブリーベリー(Vaccinium corymbosum、Vaccinium angustifolium)、ビルベリー(Vaccinium myrtillus)、コケモモ(Vaccinium vitis-idaea)およびツルコケモモ(Vaccinium oxycoccos)、マタタビ属に属するものとしてはキウイ(Actinidia chinensis、Actinidia deliciosa)、サルナシ(Actinidia arguta)、シマサルナシ(Actinidia rufa)およびマタタビ(Actinidia polygama)、カキノキ属に属するものとしてはカキ(Diospyros kaki)、ツバキ属に属するものとしてはチャノキ(Camellia sinensis)、キュウリ属に属するものとしてはキュウリ(Cucumis sativus)、メロン(Cucumis melo)、ニシインドコキュウリ(Cucumis anguria)およびツノニガウリ(Cucumis metulifer)、スイカ属に属するものとしてはスイカ(Citrullus lanatus)、パパイア属に属するものとしてはパパイア(Carica papaya)、ヴァスコンセレア属に属するものとしてはマウンテンパパイア(Vasconcellea cundinamarcensis)、シロイヌナズナ属に属するものとしてはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)およびミヤマハタザオ(Arabidopsis lyrata)、ワニナシ属に属するものとしてはアボカド(Persea americana)、アナナス属に属するものとしてはパイナップル(Ananas comosus)、イネ属に属するものとしてはイネ(Oryza sativa)、コムギ属に属するものとしてはコムギ(Triticum aestivum)、オオムギ属に属するものとしてはオオムギ(Hordeum vulgare)、トウモロコシ属に属するものとしてはトウモロコシ(Zea mays)、モロコシ属に属するものとしてはモロコシ(Sorghum bicolor)、ヤマカモジグサ属に属するものとしてはセイヨウヤマカモジ(Brachypodium distachyon)、ココヤシ属に属するものとしてはココナッツ(Cocos nucifera)、バンダ属に属するものとしてはバンダ(Vanda hybrid cultivar)、アヤメ属に属するものとしてはオランダアヤメ(Iris x hollandica)、スグリ属に属するものとしてはクロスグリ(カシス)(Ribesnigrum)、カスミソウ属に属するものとしてはカスミソウ(Gypsophila paniculata、Gypsophila elegans)、ブドウ属に属するものとしてはブドウ(Vitis vinifera、Vitis labrusca)、ヒイラギトラノオ属に属するものとしてはアセロラ(Malpighia glabra)、トケイソウ属に属するものとしてはパッションフルーツ(Passiflora edulis)、トウゴマ属に属するものとしてはトウゴマ(Ricinus communis)、ヤマナラシ属に属するものとしてはコットンウッド(Populus trichocarpa)、ゴレンシ属に属するものとしてはスターフルーツ(Averrhoa carambola)、ウマゴヤシ属に属するものとしてはタルウマゴヤシ(Medicago truncatula)、ハウチワマメ属に属するものとしてはルピナス(シロバナハウチワマメ)(Lupinus albus)、ダイズ属に属するものとしてはダイズ(Glycine max)、チョウマメ属に属するものとしてはチョウマメ(Clitoria ternatea)、ミカン属に属するものとしてはレモン(Citrus limon)、スダチ(Citrus sudachi)、カボス(Citrussphaerocarpa)、グレープフルーツ(Citrus x paradisi)、ユズ(Citrus junos)ライム(Citrus aurantifolia)、ウンシュウミカン(Citrus unshiu)およびオレンジ(Citrus sinensis)、アエグレ属に属するものとしてはアエグレ・マルメロス(Aeglemarmelos)、レイシ属に属するものとしてはライチ(Litchi chinensis)、マンゴー属に属するものとしてはマンゴー(Mangifera indica)、ドリアン属に属するものとしてはドリアン(Durio zibethinus)、カカオ属に属するものとしてはカカオ(Theobroma cacao)、ザクロ属に属するものとしてはザクロ(Punica granatum)、サンジソウ属に属するものとしてはフェアリーファンズ(fairy fans)(Clarkia breweri)およびレッドリボンズ(Red ribbons)(Clarkia concinna)、バンジロウ属に属するものとしてはグァバ(Psidium guajava)、ルイヨウショウマ属に属するものとしてはアメリカショウマ(Actaea racemosa)、ケシ属に属するものとしてはケシ(Papaver somniferum)、オニゲシ(Papaver orientale)およびハカマオニゲシ(Papaver bracteatum)、ナス属に属するものとしてはトマト(Solanum Pennellii,Solanum lycopersicum)およびバレイショ(Solanum tuberosum)、トウガラシ属に属するものとしてはトウラガシ(Capsicum annuum)およびハバネロ(Capsicum chinense)、タバコ属に属するものとしてはタバコ(Nicotiana tabacum、Nicotiana attenuata)、ツクバネアサガオ属に属するものとしてはペチュニア(Petunia x hybrida)、オリーブ属に属するものとしてはオリーブ(Olea europaea)、グランデュラリア属に属するものとしてはビジョザクラ(Glandularia x hybrida)、アキギリ属に属するものとしてはサルビア(Salvia splendens)、ラウオルフィア属に属するものとしてはインドジャボク(Rauvolfia serpentina)、ニチニチソウ属に属するものとしてはニチニチソウ(Catharanthus roseus)、カミツレ属に属するものとしてはローマカミツレ(Chamaemelum nobile)が特に好ましい。
本発明に係る変異型酵素の製造方法が対象とする酵素としては、特に、リンゴ、トマト、イチゴ、ナシ、ビワ、カキ、メロン、バナナ、パパイア、サンジソウ、ブドウ、キウイ及びローマンカモミール等の植物由来のAATが挙げられ、このうちリンゴ、トマト、イチゴ、ナシ、ビワ及びカキ由来のAATが好ましい。
リンゴAATに関し、本発明に係る変異型酵素の製造方法において「基準体」となり得る酵素のアミノ酸配列の例を、配列番号1〜3に示す。配列番号1は、野生型AATのアミノ酸配列を示す。野生型リンゴAATは、アミノ酸配列中に15個のシステインを有する。配列番号2は、野生型AATのアミノ酸配列において2番目のメチオニンがリジンに置換された変異型AAT(M2K型AAT)のアミノ酸配列である。配列番号3は、野生型AATのアミノ酸配列において、64番目のアラニンがバリンに、248番目のバリンがアラニンに、363番目のグルタミンがリジンに、117番目のリジンがグルタミンに置換された変異型AATのアミノ酸配列である(この変異型AATは、野生型AATに比して高活性である)。
トマトAATに関し、本発明に係る変異型酵素の製造方法において「基準体」となり得る酵素のアミノ酸配列の例を、配列番号64,66に示す。配列番号66は、トマト(野生種)野生型AATのアミノ酸配列を示す。配列番号64は、野生型AATのアミノ酸配列において2番目のアラニンがリジンに置換された変異型AAT(A2K型AAT)のアミノ酸配列である。
イチゴAATに関し、本発明に係る変異型酵素の製造方法において「基準体」となり得る酵素のアミノ酸配列の例を、配列番号65に示す。配列番号65は、野生型AATのアミノ酸配列である。
[工程(1)]
本工程は、基準体のアミノ酸配列において1以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現する組換体を作成する工程である。
本工程では、基準体のアミノ酸配列において1又は2以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現する組換体を複数作成する。例えば、基準体のアミノ酸配列中にシステインがN個存在する場合、各システインをシステイン以外のアミノ酸に置換した変異体はN種類作成できる。また、例えば、基準体のアミノ酸配列中にシステインがN個存在する場合、いずれか2つのシステインをシステイン以外のアミノ酸に置換した変異体はN(N−1)/2種類作成できる。
1つの変異体において置換されるシステインの個数は、1又は2以上であってよく、最大で、基準体のアミノ酸配列中に存在するシステインの全数未満とされる。1つの変異体において置換されるシステインの個数は、好ましくは1である。作成される複数の変異体間において、置換されるシステインの個数は、異なっていてもよく同じであってもよい。システインから置換されるアミノ酸は、システイン以外のアミノ酸であればよく、特に限定されないが、例えばアラニン又はアルギニンとすることができる。
変異体のアミノ酸配列をコードするDNAは、従来公知の遺伝子工学的手法により、基準体のアミノ酸配列をコードするDNAに変異を導入することにより作成できる。作成された変異体のアミノ酸配列をコードするDNAは、従来汎用の発現ベクターに組み込まれる。
変異体の発現は、発現ベクターを従来公知の手法により宿主細胞に導入することにより行えばよい。
宿主細胞は、特に限定されないが、細菌として、大腸菌、Rhodococcus属、Pseudomonas属、Corynebacterium属、Bacillus属、Streptococcus属、Streptomyces属などが挙げられ、酵母ではSaccharomyces属、Candida属、Shizosaccharomyces属、Pichia属、糸状菌ではAspergillus属などが挙げられる。これらの中で、特に大腸菌を用いることが簡便であり、効率もよく好ましい。
必要に応じて、工程(1)で作成された変異体のそれぞれの組換体あたりの酵素活性を測定すればよい。
変異体の組換体あたりの酵素活性の測定は、変異体のアミノ酸配列をコードするDNAを含む発現ベクターが導入された一定量の組換体から、変異体を含む細胞抽出液あるいは細胞破砕液を調製し、細胞抽出液等中の酵素活性を測定することにより行えばよい。酵素反応の基質と細胞抽出液等とを混合し、反応生成物の生成量をクロマトグラフィー等の公知の手段を用いて検出することにより酵素活性を測定できる。
[工程(2)]
本工程は、基準体の活性100%に比して50%以上の組換体あたりの活性を示す複数の変異体を選択する工程である。ここで、「変異体の組換体あたりの活性が基準体の活性100%に比して50%以上である」とは、一定量の組換体から発現した変異体によって触媒される反応生成物の量が、当該変異体の高い活性と可溶性に起因して、同一条件下において同一量の組換体から発現させた基準体の触媒による反応生成物の量の50%以上となることを意味する。
例えば、工程(1)において、基準体のアミノ酸配列中にシステインが10個存在し、各システインをシステイン以外のアミノ酸に置換して変異体を10種類作成した場合に、基準体の活性100%に比して50%以上の組換体あたりの活性を示す変異体が5種類存在した場合、それら5種の変異体を選択する。
基準体のアミノ酸配列中に存在するシステインのうち、これを変異体において他のアミノ酸に置換した場合にも一定の酵素活性が維持されるシステインは、基準体の正常なタンパク質フォールディングへの寄与が小さく、むしろ基準体を由来種とは異なる宿主細胞中で発現させた場合に過剰なジスルフィド結合を形成することで正常なタンパク質フォールディングを妨げる可能性があると考えられる。
変異体の選択基準は、基準体の活性100%に比して50%以上の組換体あたりの活性を示すことを一応の指標とするが、基準体の活性100%に比してより高い活性、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは100%以上の組換体あたりの活性を示す基準体を選択することも可能である。
[工程(3)]
本工程は、工程(2)で選択したそれぞれの変異体が有するアミノ酸残基が置換された部位のうち2以上の部位においてそれぞれ対応するアミノ酸残基が置換された変異体を発現させる工程である。
例えば、上述の基準体のアミノ酸配列中にシステインが10個存在する例では、基準体の活性100%に比して50%以上の組換体あたりの活性を示した5種類の変異体が存在するので、その5種類の変異体がそれぞれ有する変異部位(合計5ヶ所)のうち2ヶ所以上の変異部位(2ヶ所以上のシステインの他のアミノ酸への置換)を有する変異体を発現させる。3ヶ所以上の変異部位を有する変異体を発現させることが好ましく、4ヶ所以上の変異部位を有する変異体を発現させることがより好ましく、全ての変異部位を有する変異体を発現させることがさらに好ましい。
上述の通り、基準体のアミノ酸配列中に存在するシステインのうち、これを変異体において他のアミノ酸に置換した場合にも一定の酵素活性が維持されるシステインは、基準体を由来種とは異なる宿主細胞中で発現させた場合に正常なタンパク質フォールディングを妨げる可能性がある。これらのシステインを全て他のアミノ酸に置換した変異体は、由来種とは異なる宿主細胞中で発現させた場合にも正常かあるいは正常に近いフォールディンが行われ、これによって当該宿主細胞中で発現させた基準体に比して高活性、高可溶性となるものと考えられる。
本工程の変異体においてシステインから置換されるアミノ酸は、工程(2)で選択された変異体においてシステインから置換されているアミノ酸と同じであることが好ましいが、異なっていてもよい。システインから置換されるアミノ酸の種類を種々変更することで、組換体の活性をさらに向上させることができる場合がある。
本工程の変異体のアミノ酸配列をコードするDNAも、従来公知の遺伝子工学的手法により、基準体のアミノ酸配列をコードするDNAに変異を導入することにより作成できる。作成された変異体をコードするDNAは、工程(1)と同様に、従来汎用の発現ベクターに組み込まれ、宿主細胞にトランスフェクトされて発現させられる。
2.変異型アルコールアシルトランスフェラーゼI
本発明は、上述の変異型酵素の製造方法により得られる変異型AATをも提供する。
本発明に係る変異型AATは、基準体に比して活性が向上した、変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、基準体のアミノ酸配列において1以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する、変異型アルコールアシルトランスフェラーゼである。
本発明に係る変異型AATは、基準体のアミノ酸配列において、以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有することを特徴とする。基準体は、野生型リンゴAAT(配列番号1)、野生型リンゴAATのアミノ酸配列において2番目のメチオニンがリジンに置換された変異型AAT(配列番号2、リンゴM2K型)、又は野生型リンゴAATのアミノ酸配列において64番目のアラニンがバリンに、248番目のバリンがアラニンに、363番目のグルタミンがリジンに、117番目のリジンがグルタミンに置換された変異型AAT(配列番号3)であってよい。
(1)48番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(2)150番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(3)167番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(4)270番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(5)274番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(6)447番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
本発明に係る変異型AATにおいて、48番目、150番目、167番目、270番目、274番目及び447番目の各システインは、2以上組み合わされて置換されることが好ましく、3以上組み合わされて置換されることがより好ましく、4以上組み合わされて置換されることがさらに好ましく、5以上組み合わされて置換されることが特に好ましく、全て組み合わされて置換されることが最も好ましい。システインから置換されるアミノ酸は、システイン以外のアミノ酸であればよく、特に限定されないが、例えばアラニン又はアルギニンとできる。特に150番目のシステインをアルギニンに置換することで、変異型AATの活性をさらに向上させることができる。
本発明に係る変異型AATとして、具体的には、リンゴM2K型AAT(配列番号2)を基準体として作成された、配列番号4又は7に記載のアミノ酸配列からなる変異型AATが挙げられる。配列番号4のアミノ酸配列を有する変異型AATは、リンゴM2K型AAT(配列番号2)の48番目、150番目、167番目、270番目、274番目及び447番目のシステインを全てアラニンに置換したものである。また、配列番号7のアミノ酸配列を有する変異型AATは、48番目、167番目、270番目、274番目及び447番目のシステインをアラニンに、150番目のシステインをアルギニンに置換したものである。
本発明に係る変異型AATの他の具体例として、変異型AAT(配列番号3)を基準体として作成された、配列番号5,6,8〜11,13のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる変異型AATも挙げられる。配列番号5,6,8〜11,13のアミノ酸配列における変異及びシステイン置換の導入箇所を「表1」に示す。
上記表において64番目のアラニンはイソロイシン又はスレオニンとされてもよい。また、363番目のグルタミンは、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンとされてもよい。これらの場合にも、高活性の変異型AATを得ることが可能である。
また、本発明に係る変異型AATは、基準体のアミノ酸配列において、以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有することを特徴とする。基準体は、トマト(野生種)野生型AAT(配列番号66)、トマト(野生種)野生型AATのアミノ酸配列において2番目のアラニンがリジンに置換された変異型AAT(配列番号64、トマト(野生種)A2K型)であってよい。
(1)206番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(2)209番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(3)256番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(4)269番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(5)322番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
本発明に係る変異型AATにおいて、206番目、209番目、256番目、269番目及び322番目の各システインは、2以上組み合わされて置換されることが好ましく、3以上組み合わされて置換されることがより好ましく、4以上組み合わされて置換されることがさらに好ましく、全て組み合わされて置換されることが最も好ましい。システインから置換されるアミノ酸は、システイン以外のアミノ酸であればよく、特に限定されないが、例えばアラニン又はアルギニンとすることができる。
さらに、本発明に係る変異型AATは、基準体のアミノ酸配列において、以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有することを特徴とする。基準体は、配列番号65に示すアミノ酸配列からなる野生型イチゴAATであってよい。
(1)115番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(2)167番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(3)179番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(4)325番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(5)356番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
本発明に係る変異型AATにおいて、115番目、167番目、179番目、325番目及び356番目の各システインは、2以上組み合わされて置換されることが好ましく、3以上組み合わされて置換されることがより好ましく、4以上組み合わされて置換されることがさらに好ましく、全て組み合わされて置換されることが最も好ましい。システインから置換されるアミノ酸は、システイン以外のアミノ酸であればよく、特に限定されないが、例えばアラニン又はアルギニンとすることができる。
本発明によれば、配列番号1のリンゴ野生型AAT又は配列番号2のリンゴM2K型AATのアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる変異型AATであって、以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型AATも提供される。
(1)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて48番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(2)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて150番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(3)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて167番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(4)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて270番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(5)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて274番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
(6)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて447番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
本発明に係る変異型AATにおいて、48番目、150番目、167番目、270番目、274番目及び447番目の各システインは、2以上組み合わされて置換されることが好ましく、3以上組み合わされて置換されることがより好ましく、4以上組み合わされて置換されることがさらに好ましく、5以上組み合わされて置換されることが特に好ましく、全て組み合わされて置換されることが最も好ましい。システインから置換されるアミノ酸は、システイン以外のアミノ酸であればよく、特に限定されないが、例えばアラニン又はアルギニンとすることができる。特に150番目のシステインをアルギニンに置換することで、変異型AATの活性をさらに向上させることができる。
また、本発明によれば、配列番号66のトマト(野生種)AAT又は配列番号64のトマト(野生種)A2K型AATのアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる変異型AATであって、以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型AATも提供される。
(1)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて206番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(2)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて209番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(3)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて256番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(4)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて269番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(5)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて322番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
本発明に係る変異型AATにおいて、206番目、209番目、256番目、269番目及び322番目の各システインは、2以上組み合わされて置換されることが好ましく、3以上組み合わされて置換されることがより好ましく、4以上組み合わされて置換されることがさらに好ましく、全て組み合わされて置換されることが最も好ましいていてよい。システインから置換されるアミノ酸は、システイン以外のアミノ酸であればよく、特に限定されないが、例えばアラニン又はアルギニンとすることができる。
さらに、本発明によれば、配列番号65のイチゴ野生型AATのアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる変異型AATであって、以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型AATも提供される。
(1)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて115番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(2)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて167番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(3)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて179番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(4)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて325番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
(5)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて356番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
本発明に係る変異型AATにおいて、115番目、167番目、179番目、325番目及び356番目の各システインは、2以上組み合わされて置換されることが好ましく、3以上組み合わされて置換されることがより好ましく、4以上組み合わされて置換されることがさらに好ましく、全て組み合わされて置換されることが最も好ましいていてよい。システインから置換されるアミノ酸は、システイン以外のアミノ酸であればよく、特に限定されないが、例えばアラニン又はアルギニンとすることができる。
システインの置換を導入する対象となるAATのアミノ酸配列は、配列番号1のリンゴ野生型AAT又は配列番号2のリンゴM2K型AATのアミノ酸配列、配列番号66のトマト(野生種)野生型AAT又は配列番号64のトマト(野生種)A2K型AATのアミノ酸配列、あるいは配列番号65のイチゴ野生型AATのアミノ酸配列とのアラインメントを可能とするため、配列番号1、2、64、65あるいは66のアミノ酸配列と50%以上、60%以上、70%以上、好ましくは80以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなることが好ましい。アラインメントは、比較すべき2つの配列のアミノ酸残基ができるだけ多く一致するように両配列を整列させることにより行われる。整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方又は双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化は、例えばBLAST、FASTA、CLUSTALW等の周知のプログラムを用いて行なうことができる。
また、システインの置換を導入する対象となるAATのアミノ酸配列と、配列番号1、2、64、65、66のアミノ酸配列との配列同一性は、アラインメントを行って、一致したアミノ酸数を全アミノ酸数で除すことにより得られる。ギャップが挿入される場合、上記全アミノ酸数は、1つのギャップを1つのアミノ酸残基として数えた残基数となる。このようにして数えた全アミノ酸数が、比較する2つの配列間で異なる場合には、同一性(%)は、長い方の配列の全アミノ酸数で、一致したアミノ酸数を除して算出される。
配列番号1のリンゴ野生型AAT又は配列番号2のリンゴM2K型AATのアミノ酸配列と高い配列同一性を有するアミノ酸配列からなるAATでは、配列番号1のリンゴ野生型AAT又は配列番号2のリンゴM2K型AATのアミノ酸配列にみられる48番目、150番目、167番目、270番目、274番目及び447番目のシステインが保存されている可能性が高く、これらのシステインを他のアミノ酸に置換することで、各種AAT(好ましくは植物由来の各種AAT)においても、高活性の変異体を得ることが可能と考えられる。
例えば、配列番号1のリンゴ野生型AATと88%の配列同一性を示すAATとして、リンゴ属の異なる亜種に由来する配列番号12に示すアミノ酸配列からなるリンゴAATがある。配列番号1のリンゴ野生型AATのアミノ酸配列にみられるシステインのうち、48番目、150番目、167番目、270番目、274番目及び447番目のシステインは、配列番号12に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。
また、配列番号1のリンゴ野生型AATと91%の配列同一性を示すAATとして、配列番号61に示すアミノ酸配列からなるナシAATがある。配列番号1のリンゴ野生型AATのアミノ酸配列にみられるシステインのうち、48番目、150番目、167番目、270番目及び274番目のシステインは、配列番号61に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。
さらに、配列番号1のリンゴ野生型AATと91%の配列同一性を示すAATとして、配列番号62に示すアミノ酸配列からなるビワAATがある。配列番号1のリンゴ野生型AATのアミノ酸配列にみられるシステインのうち、48番目、150番目、167番目、270番目、274番目及び447番目のシステインのシステインは、配列番号62に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。
加えて、配列番号1のリンゴ野生型AATと90%の配列同一性を示すAATとして、配列番号63に示すアミノ酸配列からなるカキAATがある。配列番号1のリンゴ野生型AATのアミノ酸配列にみられるシステインのうち、150番目、167番目、270番目、274番目及び447番目のシステインのシステインは、配列番号63に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。
配列番号1,12,61〜63のアミノ酸配列のアラインメントを図1に示す。
また、配列番号66のトマト(野生種)野生型AAT又は配列番号64のトマト(野生種)A2K型AATのアミノ酸配列と高い配列同一性を有するアミノ酸配列からなるAATでは、トマト(野生種)野生型AAT又はトマト(野生種)A2K型AATのアミノ酸配列にみられる206番目、209番目、256番目、269番目及び322番目のシステインが保存されている可能性が高く、これらのシステインを他のアミノ酸に置換することで、各種AAT(好ましくは植物由来の各種AAT)においても、高活性の変異体を得ることが可能と考えられる。
例えば、配列番号66のトマト(野生種)野生型AATと93%の配列同一性を示すAATとして、トマト(栽培種)に由来する配列番号67に示すアミノ酸配列からなるトマトAATがある。トマト(野生種)野生型AATのアミノ酸配列にみられるシステインのうち、209番目、256番目、269番目及び322番目のシステインは、配列番号67に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。
また、配列番号66のトマト(野生種)野生型AATと84%の配列同一性を示すAATとして、配列番号68示すアミノ酸配列からなるバレイショAATがある。トマト(野生種)野生型AATのアミノ酸配列にみられるシステインのうち、206番目、209番目、256番目、269番目及び322番目のシステインは、配列番号68に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。
さらに、配列番号66のトマト(野生種)野生型AATと78%の配列同一性を示すAATとして、配列番号69示すアミノ酸配列からなるトウガラシAATがある。トマト(野生種)野生型AATのアミノ酸配列にみられるシステインのうち、206番目、209番目、269番目及び322番目のシステインは、配列番号69に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。
加えて、配列番号66のトマト(野生種)野生型AATと74%の配列同一性を示すAATとして、配列番号70に示すアミノ酸配列からなるタバコAATがある。トマト(野生種)野生型AATのアミノ酸配列にみられるシステインのうち、206番目、209番目及び322番目のシステインは、配列番号70に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。
配列番号66〜70のアミノ酸配列のアラインメントを図2に示す。
さらに、配列番号65のイチゴ野生型AATのアミノ酸配列と高い配列同一性を有するアミノ酸配列からなるAATでは、イチゴ野生型AATのアミノ酸配列にみられる115番目、167番目、179番目、325番目及び356番目のシステインが保存されている可能性が高く、これらのシステインを他のアミノ酸に置換することで、各種AAT(好ましくは植物由来の各種AAT)においても、高活性の変異体を得ることが可能と考えられる。
例えば、配列番号65のイチゴ野生型AATと94%の配列同一性を示すAATとして、配列番号71に示すアミノ酸配列からなるチリイチゴAATがある。イチゴ野生型AATのアミノ酸配列にみられるシステインのうち、115番目、167番目、179番目、325番目及び356番目のシステインは、配列番号71に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。
例えば、配列番号65のイチゴ野生型AATと91%の配列同一性を示すAATとして、配列番号72示すアミノ酸配列からなるエゾヘビイチゴAATがある。イチゴ野生型AATのアミノ酸配列にみられるシステインのうち、115番目、167番目、179番目、325番目及び356番目のシステインは、配列番号71に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。
例えば、配列番号65のイチゴ野生型AATと67%の配列同一性を示すAATとして、配列番号73に示すアミノ酸配列からなるハマナスAATがある。イチゴ野生型AATのアミノ酸配列にみられるシステインのうち、167番目、325番目及び356番目のシステインは、配列番号73に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。
配列番号65,71〜73のアミノ酸配列のアラインメントを図3に示す。
3.変異型アルコールアシルトランスフェラーゼII
また、本発明は、リンゴ野生型AAT又はリンゴM2K型AATのアミノ酸配列において64番目のアラニン、248番目のバリン、363番目のグルタミン、117番目のリジンが置換された変異型AATをも提供する。この変異型AATは、野生型AATに比して高い活性と可溶性を示す。
すなわち、本発明に係る変異型AATは、配列番号1又は2に示すアミノ酸配列において以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有することを特徴とする。
(1)64番目のアラニンのバリン、イソロイシン又はスレオニンへの置換。
(2)117番目のリジンのグルタミンへの置換。
(3)248番目のバリンのアラニンへの置換。
(4)363番目のグルタミンのリジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンへの置換。
本発明に係る変異型AATにおいて、64番目のアラニン、117番目のリジン、248番目のバリン、363番目のグルタミンは、2以上組み合わされて置換されることが好ましく、3以上組み合わされて置換されることがより好ましく、全て組み合わされて置換されることが最も好ましい。
本発明に係る変異型AATとして、具体的には、配列番号3,5,6,8〜13のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる変異型アルコールアシルトランスフェラーゼが挙げられる(表1参照)。
上述のリンゴ変異型AATにおける変異導入による高活性化は、配列番号1のリンゴ野生型AAT又は配列番号2のリンゴM2K型AATのアミノ酸配列と高い配列同一性を有するアミノ酸配列からなる各種AAT(好ましくは各種植物由来AAT)にも適用が可能と考えられる。
従って、本発明によれば、配列番号1のリンゴ野生型AAT又は配列番号2のリンゴM2K型AATのアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるAATであって、以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型AATが提供される。
(1)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて64番目のアラニンに相当するアミノ酸残基のバリン、イソロイシン又はスレオニンへの置換。
(2)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて117番目のリジンに相当するアミノ酸のグルタミンへの置換。
(3)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて248番目のバリンに相当するアミノ酸のアラニンへの置換。
(4)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて363番目のグルタミンに相当するアミノ酸のリジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンへの置換。
本発明に係る変異型AATにおいて、64番目のアラニンに相当するアミノ酸残基、117番目のリジンに相当するアミノ酸残基、248番目のバリンに相当するアミノ酸残基、363番目のグルタミンに相当するアミノ酸残基は、2以上組み合わされて置換されることが好ましく、3以上組み合わされて置換されることがより好ましく、全て組み合わされて置換されることが最も好ましい。
配列番号1のリンゴ野生型AAT又は配列番号2のリンゴM2K型AATのアミノ酸配列にみられる117番目のリジン、248番目のバリン及び363番目のグルタミンは、配列番号12,61,62,63に示すアミノ酸配列においていずれも保存されている。従って、これらのアミノ酸をそれぞれイソロイシン又はスレオニン;グルタミン;アラニン;リジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンに置換することで、各種AAT(好ましくは植物由来AAT,特に好ましくはリンゴ属の各種植物由来AAT)においても、高活性の変異体を得ることが可能と考えられる。アミノ酸の置換を導入する対象となるAATのアミノ酸配列は、配列番号1のリンゴ野生型AAT又は配列番号2のリンゴM2K型AATのアミノ酸配列とのアラインメントを可能とするため、配列番号1又は2のアミノ酸配列と50%以上、60%以上、70%以上、好ましくは80以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなることが好ましい。
4.ベクター・形質転換体
本発明に係る変異型AAT及び変異型AATをコードするDNAを挿入した発現ベクターは、従来公知の遺伝子工学的手法を用いて作成できる。
ベクターは宿主細胞中で自立複製可能なものであればく、宿主細胞に適したベクターを用いることができる。ベクターへの変異型AAT遺伝子の挿入は、当業者に知られた遺伝子組換え技術を用いて行うことができる。例えば、制限酵素切断とライゲーションキットを用いる方法、トポイソメラーゼを用いる方法、In Fusionキット(タカラバイオ)等を利用することができる。ベクターに挿入される遺伝子は、宿主細胞中で各遺伝子にコードされるタンパク質の転写翻訳を調節することが可能なプロモーターの下流に連結して挿入される。また、挿入の際に必要であれば、適当なリンカーを付加してもよい。また、必要に応じて、遺伝子を導入しようとする宿主生物において利用可能なターミネーター配列、エンハンサー配列、スプライシングシグナル配列、ポリA付加シグナル配列、SD配列やKozak配列などのリボソーム結合配列、選択マーカー遺伝子などを連結することができる。選択マーカー遺伝子の例としては、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子の他、アミノ酸や核酸等の栄養素の細胞内生合成に関与する遺伝子、あるいはルシフェラーゼ等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子などを挙げることができる。挿入にともない、DNAがコードするアミノ酸配列の一部を置換してもよい。
ベクターは、当業者に知られた方法によって、宿主細胞に導入され、形質転換体の作成に用いられる。宿主細胞へのベクターの導入方法としては、宿主細胞に適した方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、接合伝達法等が挙げられる。
宿主細胞は、特に限定されないが、細菌として、大腸菌、Rhodococcus属、Pseudomonas属、Corynebacterium属、Bacillus属、Streptococcus属、Streptomyces属などが挙げられ、酵母ではSaccharomyces属、Candida属、Shizosaccharomyces属、Pichia属、糸状菌ではAspergillus属などが挙げられる。これらの中で、特に大腸菌を用いることが簡便であり、効率もよく好ましい。
[参考例1:リンゴAAT(MpAAT1)遺伝子発現プラスミドpAAT012・pAAT115・pAAT116の作製]
リンゴAAT(MpAAT1)遺伝子を発現するプラスミドを3種類作成した。
プラスミドpAAT012は、野生型リンゴAAT(配列番号1)を含む。
プラスミドpAAT115は、野生型リンゴAATの2番目のアミノ酸がメチオニンからバリンに置換された改変リンゴAATを含む。
プラスミドpAAT116は、野生型リンゴAATの2番目のアミノ酸がメチオニンからリジンに置換された改変リンゴAAT(配列番号2)を含む。
はじめに、大腸菌コドンに最適化した野生型リンゴAAT遺伝子(配列番号14)を合成した(DNA2.0社に委託)。AAT遺伝子を発現ベクター(pJexpress404)に挿入し、pAAT012と命名した。
以下の方法によって、AAT遺伝子を、T7プロモーターを有する発現ベクター(pJexpress404)から、trcプロモーターを有する発現ベクター(pTrc99A)に移し替えた。
プライマーMMA−156、MMA−163を用いてpAAT012を鋳型としてPCR反応を行い、AAT遺伝子を含む断片を増幅した。この際、NcoI制限酵素部位を導入するために、AAT遺伝子の2番目のコドンATG(Met)をGTG(Val)に変換した。
プライマーMMA−156(配列番号15):
CACAGGAAACAGACCATGGTGAGCTTTTCTGTACTCCAAGTCAAACG
プライマーMMA−163(配列番号16):
GCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTTACTGGCTGGTGCTACGCAG
増幅産物をGel/PCR Purification Kit(FAVORGEN社製)を用いて精製し、これを挿入断片とした。制限酵素NcoIおよびSse8387Iにより予め切断しておいたベクターpTrc99Aと挿入断片を混合し、In−Fusion HD Cloning Kitを用いて連結を行った。
反応液を50℃で15分間インキュベートした後、氷上で冷却し、大腸菌JM109株の形質転換に用いた。大腸菌形質転換体をアンピシリン100mg/Lを含むLB培地(LBAmp培地)で液体培養し、Mini prep Kit(QIAGEN社)を用いて目的のプラスミドpAAT115を調製した。
pAAT115に挿入したリンゴAAT遺伝子の遺伝子産物の2番目のアミノ酸残基はバリンであるが、2番目のアミノ酸残基をリジンやアルギニン等に置換することによりタンパク質の発現量が向上するという例が知られている(特開2008−61547号公報)。そこで、以下のようにして、AAT遺伝子の2番目のコドンの変換を行った。
まず、pAAT115をNcoIとSmaIで切断し、約5.1kbのベクター領域を含む断片を調製した。
プライマーMMA−166、MMA−169を用いてpAAT115を鋳型としてPCR反応を行い、AAT遺伝子を含む断片(約400bp)を増幅し、上述の方法で精製して挿入断片を得た。
プライマーMMA−166(配列番号17):
CACAGGAAACAGACCATGAAAAGCTTTTCTGTACTCCAAGTC
プライマーMMA−169(配列番号18):
CGATGATACCATCGCTGCCCGGGAAGTTGTACAG
ベクター領域を含む断片と挿入断片を、In−Fusion HD Cloning Kitを用いて連結させた後、大腸菌JM109株の形質転換に供した。大腸菌形質転換体(組換体)を液体培養し、目的のプラスミドpAAT116を調製した。pAAT116では、AAT遺伝子の2番目のコドンGTG(Val)がAAA(Lys)に置換されていた。
[実施例1:高活性リンゴAATの製造]
(1)システイン残基がアラニン残基に置換された変異体を発現する組換体の作成
参考例1で作製したプラスミドpAAT116中のリンゴAAT遺伝子がコードするタンパク質には、15個のシステインが存在する。それぞれのシステインがアラニンに置換された15種のプラスミドを委託合成(Genscript社)した(表2)。
「表2」に示した16種のプラスミドにより大腸菌JM109株を形質転換した。アンピシリンを含むLB(1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、1%NaCl)培地に大腸菌形質転換体を植菌し、37℃にて7時間前培養を行った。培養液を0.1ml取り、100mlの同培地(1mMIPTG含有)に加え、37℃にて15時間振盪培養した。培養液から菌体を回収し、50mMリン酸−ナトリウム緩衝液(pH7.0)で洗浄した後、同緩衝液に懸濁した。
(2)変異体を含む細胞抽出液の調製
得られた菌体懸濁液をOD630が10となるように調整した。超音波処理により細胞を破砕し、遠心分離により菌体及び膜画分を除き、細胞抽出液を調製した。
(3)変異体を含む細胞抽出液のAAT活性測定
メタクリリル−CoA 1mMとn−ブタノール 40mMを含む反応液0.8mlに0.2mlの細胞抽出液を添加し、ブチリル酸エステルの生成反応を開始した。反応は、10ml容量のセプタム付サンプル瓶(GC用)中で行った。サンプル瓶を30℃で1〜2時間インキュベートして反応を進行させた。反応終了後、サンプル瓶中の反応液に1mlのアセトニトリルを添加し混和した。その後、シリンジフィルターDISMIC(穴径0.45μm、ADVANTEC社製)を用いて濾過後、HPLC分析に供した。
HPLC分析条件:
装置:Waters 2695
カラム:Shiseido CAPCELL PAK C18 UG120 5μm
移動相:65%MeOH、0.2%リン酸
流量:0.25ml/min
カラム温度:35℃
検出:UV210nm
注入量:10μL
結果を図4に示す。pAAT116から発現する基準体の活性100%に比して50%以上の組換体あたりのAAT活性を示した変異体は8つ得られ、その中でも、pAAT116C48A、pAAT116C150A、pAAT116C167A、pAAT116C270A、pAAT116C274A及びpAAT116C447Aから発現する変異体は、pAAT116から発現する基準体の活性100%に比して70%以上の組換体あたりのAAT活性を示した。そこでこれら6つの変異体が有する全てのアミノ酸置換C48A、C150A、C167A、C270A、C274A及びC447Aが全て導入された変異体を作成した。なお、ここで、「AAT活性」とは、CoA化合物からのエステルの生成を触媒する活性を意味する。また、「変異体の組換体あたりのAAT活性が基準体の活性100%に比して50%以上である」とは、一定量の大腸菌組換体から発現した変異体によって触媒されるエステルの生成量が、当該変異体の高い活性と可溶性に起因して、同一条件下において大腸菌組換体から発現させた基準体の触媒により生成するエステル量の50%以上となることを意味する。
(4)システイン残基がアラニン残基に6置換された変異体を発現する組換体の作成
48位、150位、167位、270位、274位及び447位のシステインが全てアラニンに置換されたAAT遺伝子を委託合成(Genscript社)し、ベクターpTrc99Aへ挿入してプラスミドpAAT024を取得した。
上述の方法により、変異体を含む細胞抽出液を調製し、細胞抽出液のAAT活性を測定した。さらに、細胞抽出液(可溶性画分)と、遠心分離によって細胞抽出液から分離された不溶性画分(菌体及び膜画分)とを、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、組換体AATタンパク質のバンドを検出した。
結果を図5に示す。グラフ縦軸は、菌体重量あたりのAAT活性を、pAAT116から発現する基準体のAAT活性を1として示す。pAAT024から発現する変異体の組換体あたりのAAT活性は、基準体の活性に比して約5倍を示した。また、pAAT024から発現する変異体は、基準体に比べて、可溶性画分により多く存在していた。この結果により、48位、150位、167位、270位、274位及び447位のシステインのアラニンへの置換によってAATの可溶性を高め、組換体あたりの活性を向上させられることが明らかとなった。
[参考例2:AAT−クロラムフェニコール(CAT)融合タンパク質を利用した高可溶性変異体のスクリーニング]
リンゴAATの高可溶性変異体の取得のために、まず、AAT遺伝子のランダム変異ライブラリーを作製した。次に、変異型AAT遺伝子にクロラムフェニコール(CAT)耐性遺伝子を連結させた変異AAT−CAT融合遺伝子を含む発現プラスミドライブラリーを作製し、これらにより形質転換された大腸菌形質転換体から、クロラムフェニコール耐性を指標にして高可溶性AATのスクリーニングを行った。AATタンパク質の可溶性が向上すれば、AAT−クロラムフェニコール融合タンパク質の可溶性も向上し、結果として大腸菌形質転換体のクロラムフェニコール耐性が向上する。具体的には、以下の手順で行った。
(1)ランダム変異遺伝子ライブラリーの作製
GeneMorph II Random Mutagenesis Kit(STRATAGENE社)とプライマーMMA−185、MMA−157を用いて、pAAT116を鋳型としたPCRを行い、増幅断片(1.4Kb)を得た。
プライマーMMA−185(配列番号19):
GGATCATGAAAAGCTTTTCTGTACTCCAAGTC
プライマーMMA−157(配列番号20):
GTGATTTTTTTCTCCGCACTAGTCTACTGGCTGGTGCTACGCAG
増幅断片を制限酵素BspHI及びSpeIで処理し、アガロースゲル電気泳動により断片を分離後、Gel/PCR Purification Kit(FAVORGEN社)を用いてゲルより抽出し、これをランダム変異遺伝子ライブラリー(変異AAT(M2K)遺伝子ライブラリー)とした。
(2)AAT−CAT融合遺伝子を含む発現プラスミドpAAT113の作製
プラスミドベクターpSTV28Nの作製
CAT遺伝子には、プラスミドベクターpSTV28(タカラバイオ)由来のものを用いた。本CAT遺伝子内にはNcoI制限酵素部位が存在するが、後のライブラリーの作製において不都合が生じるため、NcoI部位である配列をNcoIにより切断されない配列に変換した。変換は、プラスミドpSTV28を鋳型としたPCR反応により以下のようにして行った。
フォワードプライマーMMA−152(配列番号21):
GCCCCCGTTTTCACGATGGGCAAATAT
リバースプライマーMMA−153(配列番号22):
ATATTTGCCCATCGTGAAAACGGGGGC
PCR反応液12.5μlにDpnIを0.5μl添加し、37℃で1時間インキュベートし、処理後の反応液を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。大腸菌形質転換体からプラスミドを調製し、pSTV28Nと命名した。
AAT−CAT融合遺伝子を発現するプラスミドpAAT113の作製
参考例1に記載のプラスミドpAAT012を鋳型として、プライマーMMA−156、157を用いて、PCRによりAAT遺伝子断片を増幅した後、精製を行った。
プライマーMMA−156(配列番号23):
CACAGGAAACAGACCATGGTGAGCTTTTCTGTACTCCAAGTCAAACG
プライマーMMA−157(配列番号24):
GTGATTTTTTTCTCCGCACTAGTCTACTGGCTGGTGCTACGCAG
pSTV28Nを鋳型として、プライマーMMA−159、160を用いて、PCRによりCAT遺伝子断片を増幅した後、精製を行った。
プライマーMMA−159(配列番号25):
CTGCGTAGCACCAGCCAGTAGACTAGTGCGGAGAAAAAAATCAC
プライマーMMA−160(配列番号26):
GCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTTACGCCCCGCCCTGCCACTCATCG
AAT遺伝子断片及びCAT遺伝子断片と、NcoIおよびSse8387Iにより予め切断しておいたベクターpTrc99Aとを混合し、In−Fusion HD Cloning Kitを用いて3断片を連結した。反応液を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。大腸菌形質転換体からプラスミドを調製し、pAAT113と命名した。pAAT113中のAAT遺伝子の2番目のアミノ酸はバリンである。
AAT(V2K)−CAT融合遺伝子を発現するプラスミドpAAT117の作製
pAAT113中のAAT遺伝子の2番目のアミノ酸をバリンからリジンに変換し、プラスミドpAAT117を作製した。アミノ酸の置換は、参考例1におけるpAAT115からのpAAT116の作製にならって行った。
(3)変異AAT−CAT融合遺伝子プラスミドライブラリーの作製
pAAT113をNcoIとSpeIにより切断後、SAP(Shrimp Alkaline Phosphatase)処理を行った。アガロースゲル電気泳動とGel/PCR Purification Kit(FAVORGEN社)によりDNA断片を精製した。DNA断片と上記(1)で得られたランダム変異遺伝子ライブラリーをDNA ligation kit ver.2(タカラバイオ)を用いて連結した。反応液を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。
大腸菌形質転換体をLBAmp寒天培地上で培養し、約12,000個のコロニーを回収し、菌体懸濁液を調製した。菌体懸濁液の一部を取り、Mini prep Kit(QIAGEN社)を用いてプラスミドを調製し、変異AAT(M2K)−CAT融合遺伝子プラスミドライブラリーとした。
(4)クロラムフェニコール耐性を指標とした高可溶性AATのスクリーニングと変異箇所の同定
上記(3)で得られた変異AAT(M2K)−CAT融合遺伝子プラスミドライブラリーを用いて大腸菌JM109株を形質転換した。大腸菌形質転換体の培養液を、30mg/l クロラムフェニコールと0.4mM IPTGを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。得られたコロニーを液体培養し、プラスミドを調製した。プラスミド中のAAT遺伝子配列を解析し、変異箇所を同定した(表3)。
(5)同定された変異を導入した変異体のAAT活性評価
「表3」に示す変異を導入した変異体を発現するプラスミドを作製した(表4)。
まず、pAAT116を鋳型として下記の「表4」に示すプライマーセットを用いてPCRを行った。反応液にDpnIを1μl添加し、37℃で1時間インキュベートした。DpnI処理液を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。大腸菌形質転換体より変異型AAT遺伝子を含むプラスミドを調製した。
「表4」に示すプラスミドにより大腸菌JM109株を形質転換し、大腸菌形質転換体の細胞破砕液のAAT活性を、実施例1に記載の方法により測定した。「表5」に結果を示す。表中、活性値は、pAAT116から発現する基準体の活性を1とした相対値により示す。
A64V、V248A及びQ363Kの変異の導入によりAAT活性の向上が認められた。K117Qの変異も若干の活性向上を示した。表には示していないが、64位のアラニンをイソロイシン又はスレオニンに置換した場合、及び363位のグルタミンをプロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンに置換した場合にも、pAAT116から発現する基準体の活性に比して120%以上の活性が確認された。
次に、A64V、K117Q、V248A及びQ363Kの4重変異体を作成した。
(6)4重変異体の作成及び活性評価
A64V、K117Q、V248A及びQ363Kの4箇所の変異を有するAAT遺伝子を委託合成(Genscript社)し、ベクターpTrc99Aへ挿入してプラスミドpAAT021を取得した。プラスミドpAAT021により大腸菌JM109株を形質転換し、大腸菌形質転換体の細胞破砕液のAAT活性を、実施例1に記載の方法により測定した。
結果を図5に示す。pAAT116から発現する基準体に対して、4重変異体は約6倍の活性を示した。
[実施例2:システイン6置換4重変異体の作成及び活性評価]
AATの48位、150位、167位、270位、274位及び447位のシステインが全てアラニンに置換され、かつ、A64V、K117Q、V248A及びQ363Kの4箇所の変異を有するAAT遺伝子を委託合成(Genscript社)し、ベクターpTrc99Aへ挿入してプラスミドpAAT025を取得した。ラスミドpAAT025により大腸菌JM109株を形質転換し、大腸菌形質転換体の細胞破砕液のAAT活性を、実施例1に記載の方法により測定した。
結果を図5に示す。pAAT021から発現する基準体(4重変異体)に対して、システイン6置換4重変異体は約2.8倍の組換体あたりの活性を示した。
[実施例3:システイン6置換4重変異組換体の作成及び活性評価2]
プラスミドpAAT021(4重変異体)において、AATの150位のシステインがアルギニンに置換されたプラスミドpAAT155、pAAT025(システイン6置換4重変異体)において、AATの150位のシステインがアルギニンに置換されたプラスミドpAAT154を作成した。
プラスミドpAAT155は、AATの150位のシステインがアルギニンに置換され、かつ、A64V、K117Q、V248A及びQ363Kの4重変異を有する変異型AAT遺伝子を含む。
プラスミドpAAT154は、AATの48位、167位、270位、274位及び447位のシステインが全てアラニンに置換され、150位のシステインがアルギニンに置換され、かつA64V、K117Q、V248A及びQ363Kの4重変異を有する変異型AAT遺伝子を含む。
アミノ酸の置換は、参考例1におけるpAAT115からのpAAT116の作成にならって行った。PCR反応は、プライマーMMA−380、MMA−381を用い、鋳型をpAAT021又はpAAT025として行った。
プライマーMMA−380(配列番号59):
CTGATTCAAGTCACTCGTCTGACGTGTGGTGG
プライマーMMA−381(配列番号60):
CCACCACACGTCAGACGAGTGACTTGAATCAG
プラスミドpAAT155、pAAT154により大腸菌JM109株を形質転換し、大腸菌形質転換体の細胞破砕液のAAT活性を、実施例1に記載の方法により測定した。また、細胞抽出液(可溶性画分)と、遠心分離によって細胞抽出液から分離された不溶性画分(菌体及び膜画分)とを、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、組換体AATタンパク質のバンドを検出した。
結果を図5に示す。pAAT155、pAAT154から発現する組換体は、pAAT021から発現する基準体(4重変異体)に比してそれぞれ約3.7倍、約5倍の組換体あたりのAAT活性を示した。また、pAAT155、pAAT154を発現する組換体では、基準体を発現する組換体に比べて、可溶性画分により多くのタンパク質が存在していた。この結果により、150位のシステインを特にアルギニンに置換することによって基準体の可溶性をより高め、活性をさらに向上させられることが明らかとなった。
[実施例4:システイン4〜5置換4重変異体の作成及び活性評価]
AATの48位、150位、167位、270位、274位及び447位の6つのシステインのうち5つ又は4つがアラニンに置換され、かつ、A64V、K117Q、V248A及びQ363Kの4箇所の変異を有するAAT遺伝子を委託合成(Genscript社)し、ベクターpTrc99Aへ挿入して「表6」に示すプラスミドを取得した。各プラスミドにより大腸菌JM109株を形質転換し、大腸菌形質転換体の細胞破砕液のAAT活性を、実施例1に記載の方法により測定した。
結果を図6に示す。グラフ縦軸は、菌体重量あたりのAAT活性を、pAAT116から発現する基準体の活性を1として示す。システイン5置換4重変異体、及びシステイン4置換4重変異体はいずれも、pAAT021から発現する基準体(4重変異体)に比して高い可溶性及び組換体あたりの活性を示した。
[実施例5:高活性トマトAATの製造]
(1)システイン残基がアラニン残基に置換された変異体を発現する組換体の作成
トマトAAT(SpAAT)遺伝子を発現するプラスミドpAAT032を委託合成した(Genscript社、以下同じ)。pAAT032は、トマト(野生種)野生型AAT(配列番号66)の2番目のアミノ酸がアラニンからリジンに置換されたトマト(野生種)A2K型AAT(配列番号64)を含む。本遺伝子がコードするタンパク質には、8個のシステインが存在する。それぞれのシステインがアラニンに置換された8種のプラスミドを委託合成した(表7)。
「表7」に示した9種のプラスミドにより大腸菌JM109株を形質転換した。
(2)変異体を含む細胞抽出液のAAT活性測定
実施例1と同様にして大腸菌形質転回体を培養し、菌体を回収して、細胞抽出液を調製し、AAT活性を測定した。結果を図7に示す。
pAAT032から発現する基準体の活性100%に比して50%以上の組換体あたりのAAT活性を示した変異体は5つ得られた(pATM104、pATM105、pATM106、pATM107、pATM108から発現する変異体)。
(3)システイン残基がアラニン残基に5置換された変異体を発現する組換体の作成
そこでこれら5つの変異体が有する全てのアミノ酸置換C206A、C209A、C256A、C269A及びC322Aが導入された変異体を含むプラスミドpAAT164を委託合成した。AAT活性を測定した結果を図7に示す。
pAAT164から発現する変異体の組換体あたりのAAT活性は、基準体の活性に比して約3倍を示した。また、pAAT164から発現する変異体は、基準体に比べて、可能性画分により多く存在していた。この結果により、206位、209位、256位、269位及び322位のシステインのアラニンへの置換によってAATの可溶性を高め、組換体あたりの活性を向上させられることが明らかとなった。
[実施例6:高活性イチゴAATの製造]
(1)システイン残基がアラニン残基に置換された変異体を発現する組換体の作成
イチゴAAT(SAAT)遺伝子(配列番号65)を発現するプラスミドpAAT033を委託合成した。本遺伝子がコードされたタンパク質には、9個のシステインが存在する。それぞれのシステインがアラニンに置換された9種のプラスミドを委託合成した(表8)。
「表8」に示した10種のプラスミドにより大腸菌JM109株を形質転換した。
(2)変異体を含む細胞抽出液のAAT活性測定
実施例1と同様にして大腸菌形質転回体を培養し、菌体を回収して、細胞抽出液を調製し、AAT活性を測定した。結果を図8に示す。
pAAT033から発現する基準体の活性100%に比して50%以上の組換体あたりのAAT活性を示した変異体は7つ得られた(pATM202、pATM203、pATM204、pATM205、pATM206、pATM207、pATM208から発現する変異体)。
(3)システイン残基がアラニン残基に5置換された変異体を発現する組換体の作成
上記7つの変異体が有するアミノ酸置換のうち、C115A、C167A、C179A、C325A及びC356Aが導入された変異体を含むプラスミドpAAT037を委託合成した。AAT活性を測定した結果を図8に示す。
pAAT037から発現する変異体の組換体あたりのAAT活性は、基準体の活性に比して約1.7倍を示した。この結果により、115位、167位、179位、325位及び356位のシステインのアラニンへの置換によって組換体あたりの活性を向上させられることが明らかとなった。
配列番号1:リンゴ野生型AAT(Mp-AAT1_apple)
配列番号2:リンゴM2K型AAT
配列番号3:リンゴM2K型に4重変異を導入したAAT
配列番号4:リンゴM2K型にシステイン6置換を導入したAAT
配列番号5:リンゴM2K型に4重変異とシステイン6置換を導入したAAT
配列番号6:リンゴM2K型に4重変異とCys150Argを導入したAAT
配列番号7:リンゴM2K型に4重変異とシステイン6置換(うち150位はCys150Arg)を導入したAAT
配列番号8:リンゴM2K型に4重変異とシステイン5置換を導入したAAT
配列番号9:リンゴM2K型に4重変異とシステイン4置換を導入したAAT
配列番号10:リンゴM2K型に4重変異とシステイン4置換を導入したAAT
配列番号11:リンゴM2K型に4重変異とシステイン4置換を導入したAAT
配列番号12:リンゴ由来AATのアミノ酸配列(Md-AAT2_apple)
配列番号13:リンゴM2K型に4重変異とシステイン4置換を導入したAAT
配列番号14:大腸菌コドンに最適化した野生型リンゴAAT遺伝子
配列番号15:プライマーMMA−156
配列番号16:プライマーMMA−163
配列番号17:プライマーMMA−166
配列番号18:プライマーMMA−169
配列番号19:プライマーMMA−185
配列番号20:プライマーMMA−157
配列番号21:プライマーMMA−152
配列番号22:プライマーMMA−153
配列番号23:プライマーMMA−156
配列番号24:プライマーMMA−157
配列番号25:プライマーMMA−159
配列番号26:プライマーMMA−160
配列番号27:プライマーMMA−207
配列番号28:プライマーMMA−208
配列番号29:プライマーMMA−215
配列番号30:プライマーMMA−216
配列番号31:プライマーMMA−217
配列番号32:プライマーMMA−218
配列番号33:プライマーMMA−219
配列番号34:プライマーMMA−220
配列番号35:プライマーMMA−221
配列番号36:プライマーMMA−222
配列番号37:プライマーMMA−223
配列番号38:プライマーMMA−224
配列番号39:プライマーMMA−225
配列番号40:プライマーMMA−226
配列番号41:プライマーMMA−241
配列番号42:プライマーMMA−242
配列番号43:プライマーMMA−243
配列番号44:プライマーMMA−244
配列番号45:プライマーMMA−229
配列番号46:プライマーMMA−230
配列番号47:プライマーMMA−231
配列番号48:プライマーMMA−232
配列番号49:プライマーMMA−245
配列番号50:プライマーMMA−246
配列番号51:プライマーMMA−233
配列番号52:プライマーMMA−234
配列番号53:プライマーMMA−239
配列番号54:プライマーMMA−240
配列番号55:プライマーMMA−237
配列番号56:プライマーMMA−238
配列番号57:プライマーMMA−235
配列番号58:プライマーMMA−236
配列番号59:プライマーMMA−380
配列番号60:プライマーMMA−381
配列番号61:ナシ由来AATのアミノ酸配列
配列番号62:ビワ由来AATのアミノ酸配列
配列番号63:カキ由来AATのアミノ酸配列
配列番号64:トマト(野生種)A2K型AAT
配列番号65:イチゴ野生型AATのアミノ酸配列
配列番号66:トマト(野生種)野生型AATのアミノ酸配列
配列番号67:トマト(栽培種)由来AATのアミノ酸配列
配列番号68:バレイショ由来AATのアミノ酸配列
配列番号69:トウガラシ由来AATのアミノ酸配列
配列番号70:タバコ由来AATのアミノ酸配列
配列番号71:チリイチゴ由来AATのアミノ酸配列
配列番号72:エゾヘビイチゴ由来AATのアミノ酸配列
配列番号73:ハマナス由来AATのアミノ酸配列

Claims (22)

  1. 基準体のアミノ酸配列において2以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現させる工程、
    を含む、基準体に比して、組換体あたりの活性が向上した酵素の製造方法。
  2. 以下の工程を含む、請求項1に記載の酵素の製造方法;
    (1)基準体のアミノ酸配列において1以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異体を発現する組換体を作成する工程、
    (2)基準体の活性100%に比して50%以上の組換体あたりの活性を示す複数の変異体を選択する工程、
    (3)工程(2)において選択されたそれぞれの変異体が有するアミノ酸残基が置換された部位のうち、2以上の部位において、それぞれ対応するアミノ酸残基が置換された変異体を発現させる工程。
  3. 前記酵素がアルコールアシルトランスフェラーゼである請求項1又は2に記載の酵素の製造方法。
  4. 前記基準体のアミノ酸配列が、配列番号1、2、3、64、65及び66のいずれかに示されるアミノ酸配列である、請求項3記載の酵素の製造方法。
  5. 前記他のアミノ酸残基が、アラニン又はアルギニンである請求項1〜4のいずれか一項に記載の酵素の製造方法。
  6. 基準体に比して活性が向上した、変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
    基準体のアミノ酸配列において1以上のシステインが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する、変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
  7. 配列番号1又は2に示すアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる請求項6に記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
    以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
    (1)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて48番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (2)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて150番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (3)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて167番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (4)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて270番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (5)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて274番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (6)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて447番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
  8. 配列番号64又は66に示すアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる請求項6に記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
    以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
    (1)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて206番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (2)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて209番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (3)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて256番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (4)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて269番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (5)配列番号64又は66に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて322番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
  9. 配列番号65に示すアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる請求項6に記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
    以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
    (1)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて115番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (2)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて167番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (3)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて179番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (4)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて325番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (5)配列番号65に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて356番目のシステインに相当するシステインの他のアミノ酸残基への置換。
  10. 前記他のアミノ酸残基が、アラニン又はアルギニンである請求項6〜9のいずれか一項に記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
  11. 配列番号1又は2に示すアミノ酸配列において以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する請求項6に記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
    (1)48番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (2)150番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (3)167番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (4)270番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (5)274番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (6)447番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
  12. 配列番号64又は66に示すアミノ酸配列において以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する請求項6に記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
    (1)206番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (2)209番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (3)256番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (4)269番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (5)322番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
  13. 配列番号65に示すアミノ酸配列において以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する請求項6に記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
    (1)115番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (2)167番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (3)179番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (4)325番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換、
    (5)356番目のシステインの他のアミノ酸残基への置換。
  14. 前記他のアミノ酸残基が、アラニン又はアルギニンである請求項11〜13のいずれか一項に記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
  15. 配列番号4又は7に記載のアミノ酸配列からなる請求項11記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
  16. さらに以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する請求項7又は11記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
    (1)64番目のアラニンのバリン、イソロイシン又はスレオニンへの置換、
    (2)117番目のリジンのグルタミンへの置換、
    (3)248番目のバリンのアラニンへの置換、
    (4)363番目のグルタミンのリジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンへの置換。
  17. 配列番号5,6,8〜11,13のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる請求項16記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
  18. 配列番号1又は2に示すアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる変異型アルコールアシルトランスフェラーゼであって、
    以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
    (1)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて64番目のアラニンに相当するアミノ酸残基のバリン、イソロイシン又はスレオニンへの置換、
    (2)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて117番目のリジンに相当するアミノ酸のグルタミンへの置換、
    (3)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて248番目のバリンに相当するアミノ酸のアラニンへの置換、
    (4)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列とのアラインメントにおいて363番目のグルタミンに相当するアミノ酸のリジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンへの置換。
  19. 配列番号1又は2に示すアミノ酸配列において以下のアミノ酸置換から選択される一以上のアミノ酸置換を有する変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ;
    (1)64番目のアラニンのバリン、イソロイシン又はスレオニンへの置換、
    (2)117番目のリジンのグルタミンへの置換、
    (3)248番目のバリンのアラニンへの置換、
    (4)363番目のグルタミンのリジン、プロリン、アデニン、アルギニン、グリシン又はトリプトファンへの置換。
  20. 配列番号3,5,6,8〜11,13のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる請求項19記載の変異型アルコールアシルトランスフェラーゼ。
  21. 請求項6〜20のいずれか一項に記載のアルコールアシルトランスフェラーゼを発現するベクター。
  22. 請求項21記載のベクターが導入された形質転換体。


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