JPWO2017217516A1 - 脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体 - Google Patents
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Abstract
Description
この非特許文献1では、溶接部で強制的に発生させた脆性亀裂の伝播経路、伝播挙動を実験的に調査し、溶接部の破壊靱性がある程度確保されていれば、溶接残留応力の影響により脆性亀裂は溶接部から母材側に逸れてしまうことが多いという結果が記載されているが、溶接部に沿って脆性亀裂が伝播した例も複数例確認されている。このことは、脆性破壊が溶接部に沿って直進伝播する可能性が無いとは言い切れないことを示唆している。
また、非特許文献2には、とくに発生した脆性亀裂の伝播停止のために、特別な脆性亀裂伝播停止特性を有する厚鋼板を必要とするとの指摘もある。
この特許文献1に記載された技術では、骨材(補強材)として、表層部および裏層部で3mm以上の厚みにわたり0.5〜5μmの平均円相当粒径を有しさらに板厚面に平行な面で(100)結晶面のX線面強度比が1.5以上である、ミクロ組織を有する鋼板を用いるとしている。このようなミクロ組織を有する鋼板を補強材として隅肉溶接した構造とすることにより、突合せ溶接継手部に脆性亀裂が発生しても、補強材である骨材で脆性破壊を停止でき、溶接構造体が破壊するような致命的な損傷を防止できるとしている。
この特許文献2に記載された溶接構造体では、隅肉溶接継手断面におけるウェブの、フランジとの突合せ面に未溶着部を残存させ、その未溶着部の幅と、隅肉溶接部の左右の脚長とウェブ板厚との和との比、Xが、被接合部材(フランジ)の脆性亀裂伝播停止性能Kcaと特別な関係式を満足するように、未溶着部の幅を調整する。これにより、被接合部材(フランジ)として板厚:50mm以上の厚物材を用いたとしても、接合部材(ウェブ)で発生した脆性亀裂の伝播を、隅肉溶接部のウェブとフランジの突合せ面で停止させ、被接合部材(フランジ)への脆性亀裂の伝播を阻止することができるとしている。
そして、このような溶接構造体であれば、被接合部材で発生した脆性亀裂を、大規模破壊に至る前に隅肉溶接金属で伝播阻止することができるとしている。
そして、このような溶接構造体とすることにより、脆性亀裂は、隅肉溶接部または接合部材の母材で伝播停止できるとしている。
そして、このような溶接構造体とすることにより、脆性亀裂は、隅肉溶接部または接合部材の母材で停止できるとしている。
また、このような溶接構造体とすることにより、被接合部材溶接部から発生した脆性亀裂、または接合部材溶接部から発生した脆性亀裂を、隅肉溶接部あるいは接合部材の溶接部または被接合部材の溶接部で伝播阻止することができるとしている。
この理由は明確には解明されていないが、一因としてT継手部に亀裂が突入するときの破壊駆動力(応力拡大係数)が被接合部材(フランジ)に突入する場合よりも接合部材(ウェブ)に突入する場合のほうが大きくなることが考えられる。
また、部材の板厚が80mm未満の場合であっても、現場での実施工においては、隅肉溶接部の脚長のバラツキが大きいため、隅肉溶接部の強度確保(隅肉脚長確保)と脆性亀裂阻止性能の確保(隅肉脚長16mm以下に制限)とを両立させることは、現場での施工管理上多大な労力を要すると共に、手直し等の追加コストがかさむという問題があった。
その結果、フランジから発生した脆性亀裂の伝播を阻止ないし停止するには、フランジとダブラー部材との重ね合せ面に構造不連続部を確保すると共に、ダブラー部材の脆性亀裂伝播停止性能(アレスト性能)の向上が必須となることに想到した。
そしてさらに、構造不連続部の長さ、すなわち未溶着幅が短くなると、脆性亀裂の伝播が容易となるため、ダブラー部材のアレスト性能を構造不連続部の長さ(未溶着幅)に応じた性能とする必要があることも知見した。
Y(%):{(隅肉溶接継手の継手断面におけるダブラー部材とフランジとの重ね合わせ面の未溶着部の幅)/(ダブラー部材の板幅と左右の隅肉溶接部の脚長の和)}×100で定義した。
そして、特定関係として、次(2)式
Y(%)≧{6900−(Kca)T}/85 ‥‥(2)
(ここで、(Kca)T:供用温度T(℃)におけるダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(N/mm3/2))
を見出した。
そしてさらに、構造不連続部の長さ(未溶着部の幅)が短くなると、脆性亀裂の伝播が容易となるため、ダブラー部材のアレスト性能を構造不連続部の長さ、すなわち未溶着部の幅に応じた性能とする必要があることも知見した。なお、ダブラー部材のアレスト性能が優れていれば、未溶着部の残存も必要ない場合もあることも知見した。
X(%):{(隅肉溶接継手の継手断面におけるダブラー部材とウェブとの突合せ面の未溶着部の幅)/((ウェブの板厚と左右の隅肉溶接部の脚長の和)}×100
で定義した。なお、X(%)は0%を含むものとする。
そして、特定関係として、次(1)式
X(%)≧{5900−(Kca)T}/85 ‥‥(1)
(ここで、(Kca)T:供用温度T(℃)におけるダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(N/mm3/2))
を見出した。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
(1)ウェブとフランジの突合せ部分にダブラー部材を備えてなる溶接構造体であって、
前記ダブラー部材が前記ウェブと前記フランジに隅肉溶接されてなる脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体。
記
X(%):{(隅肉溶接継手の継手断面におけるウェブとダブラー部材との突合せ面に残存する未溶着部の幅)/(ウェブの板厚と左右の隅肉溶接部の脚長の和)}×100
X(%)≧{5900−(Kca)T}/85 ‥‥(1)
ここで、(Kca)T:供用温度T(℃)におけるダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(N/mm3/2)
記
Y(%):{(隅肉溶接継手の継手断面におけるダブラー部材とフランジとの重ね合わせ面の未溶着部の幅)/(ダブラー部材の板幅と左右の隅肉溶接部の脚長の和)}×100
Y(%)≧{6900−(Kca)T}/85 ‥‥(2)
ここで、(Kca)T:供用温度T(℃)におけるダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(N/mm3/2)
従って、本発明によれば、鋼構造物、とくに、大型コンテナ船やバルクキャリアーなどにおける船体分離などの大規模な脆性破壊の危険性を回避することができ、船体構造の安全性を確保するうえで大きな効果をもたらし、産業上格段の効果を奏する。
また、本発明によれば、施工時に、ダブラー部材とフランジの間の重ね合わせ面に残存する未溶着部の寸法を調整すると共に、未溶着部の寸法に応じた脆性亀裂伝播停止特性を有するダブラー部材を選定することにより、特殊な鋼板を大量に使用することなく、また安全性を損ねることなしに、容易に、脆性亀裂伝播停止特性に優れた溶接構造体を製造できる。この効果は、ダブラー部材とウェブの間の突合せ面に残存する未溶着部についても同様である。
本発明の溶接構造体は、ウェブ1とフランジ2の突合せ部分にダブラー部材10を備えてなる溶接構造体である。本発明の溶接構造体は、フランジ2の表面にダブラー部材10の表面を重ね合わせて隅肉溶接によりダブラー部材10とフランジ2とを接合し、かつダブラー部材10の表面にウェブ1の端面を突合せ隅肉溶接によりダブラー部材10とウェブ1とを接合してなる溶接構造体である。本発明の溶接構造体では、ウェブ1、フランジ2およびダブラー部材10がいずれも板厚50mm以上の厚肉鋼材とする。
なお、図2(a)は、隅肉溶接継手の外観を示し、図2(b)は突合せ溶接継手部11における継手断面形状を示す。
なお、図3(a)は隅肉溶接継手の外観を、図3(b)は突合せ溶接継手部11、12における継手断面形状を示す。
また、溶接構造体の製造方法はとくに限定する必要はなく、通常の製造方法がいずれも適用できる。例えば、フランジ用鋼板同士、ウェブ用鋼板同士を突合せ溶接し、得られた突合せ溶接継手をダブラー部材を介して隅肉溶接して溶接構造体を製造してもよい。また、突合せ溶接前の一組のウェブ用鋼板をフランジ表面のダブラー部材に仮付溶接しついでウェブ用鋼板同士を突合せ溶接し、得られた突合せ溶接継手をフランジに溶接して溶接構造体を製造してもよい。
Y(%)≧{6900−(Kca)T}/85 ‥‥(2)
(ここで、(Kca)T:供用温度T(℃)におけるダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(N/mm3/2))
を満足するように調整する。なお、好ましくは次(2)′式
Y(%)≧{7900−(Kca)T}/85 ‥‥(2)′
(ここで、(Kca)T:供用温度T(℃)におけるダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(N/mm3/2))
である。
ここに、比率Y(%)は、
Y(%):{(隅肉溶接継手の継手断面におけるダブラー部材とフランジとの重ね合わせ面の未溶着部の幅BF)/(ダブラー部材の板幅DWと左右の隅肉溶接部の脚長lFの和)}×100
で定義される。なお、図1では、隅肉溶接継手の継手断面におけるダブラー部材とフランジとの重ね合わせ面の未溶着部4の幅はBFで、隅肉溶接部の脚長はlFで示してある。
そして、「供用温度T」としては、通常、船舶の設計温度である「−10℃」を使用するものとする。
X(%)≧{5900−(Kca)T}/85 ‥‥(1)
(ここで、(Kca)T:供用温度T(℃)におけるダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(N/mm3/2))
を満足するように調整する。
ここに、比率X(%)は、
X(%):{(隅肉溶接継手の継手断面におけるダブラー部材とウェブとの突合せ面の未溶着部の幅BW)/((ウェブの板厚tWと左右の隅肉溶接部の脚長lWの和)}×100
で定義した。
なお、ウェブからの脆性亀裂であれば、使用するダブラー部材の(Kca)Tが高い場合には、未溶着部の比率X(%)が0%である場合でも、(1)式を満足でき、脆性亀裂をダブラー部材で停止させることもできる。しかし、フランジから発生した脆性亀裂の伝播をダブラー部材で停止させるためには、使用できるダブラー部材の(Kca)Tに限界があり、(2)式を満足させるためには、未溶着部の比率Y(%)は大きくする必要がある。
なお、実際の鋼構造物では、(1)式および(2)式を同時に満足できるように、未溶着部の比率X、Yと、使用するダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(Kca)Tを調整することが好ましい。
なお、上記した隅肉溶接継手を備える本発明の溶接構造体は、例えば、船舶の船体外板をフランジとし、隔壁をウェブとする船体構造、あるいはデッキをフランジとし、ハッチをウェブとする船体構造などに適用可能である。
表1−1、表1−2に示す板厚の厚鋼板を、ウェブおよびフランジとして、ウェブとフランジの突合せ部分に表1−1、表1−2に示すダブラー部材を備え、図4(a)、(b)、(c)および図5(a)、(b)、(c)に示す形状の、実構造サイズの大型溶接構造継手9を作製した。図4(a)、(b)、(c)は、フランジから脆性亀裂が発生・伝播するケースを、図5(a)、(b)、(c)は、ウェブから脆性亀裂が発生・伝播するケースを想定している。
いずれの試験も、応力100〜283N/mm2、温度:−10℃の条件で実施した。応力100N/mm2は、船体に定常的に作用する応力の平均的な値であり、応力257N/mm2は、船体に適用されている降伏強度390N/mm2級鋼板の最大許容応力相当の値、応力283N/mm2は、船体に適用されている降伏強度460N/mm2級鋼板の最大許容応力相当の値である。温度−10℃は船舶の設計温度である。
得られた結果を表3、表4に示す。表3はウェブを亀裂導入部とした場合、表4はフランジを亀裂導入部とした場合の脆性亀裂伝播停止試験結果である。
一方、本発明の範囲を外れる比較例では、脆性亀裂はダブラー部材で停止することなく伝播し、脆性亀裂の伝播を阻止することができなかった。
2 フランジ
4 未溶着部
5 隅肉溶接金属
51 隅肉溶接金属
7 機械ノッチ
8 仮付け溶接
9 ダブラー部材付き大型溶接構造継手(大型溶接継手)
10 ダブラー部材
11 フランジ突合せ溶接継手部
12 ウェブ突合せ溶接継手部
θ 交差角
Claims (9)
- ウェブとフランジの突合せ部分にダブラー部材を備えてなる溶接構造体であって、
前記ダブラー部材が前記ウェブと前記フランジに隅肉溶接されてなる脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体。 - 前記ウェブが前記ダブラー部材に突合せ隅肉溶接され、かつ該突合せ面に未溶着部が残存し、および/または、前記ダブラー部材が前記フランジに重ね合わせ隅肉溶接され、かつ該重ね合わせ面に未溶着部が残存する隅肉溶接継手をそなえる請求項1に記載の溶接構造体。
- 前記ウェブ、前記フランジおよび前記ダブラー部材の板厚がいずれも50mm以上である請求項1または2に記載の溶接構造体。
- 前記隅肉溶接継手の継手断面における前記ダブラー部材と前記ウェブの突合せ面に残存する、下記に定義する前記未溶着部の、比率X(%)(0%を含む)と、供用温度T(℃)における前記ダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(Kca)T(N/mm3/2)とが、下記(1)式を満足する請求項2または3に記載の溶接構造体。
記
X(%):{(隅肉溶接継手の継手断面におけるウェブとダブラー部材との突合せ面に残存する未溶着部の幅)/(ウェブの板厚と左右の隅肉溶接部の脚長の和)}×100
X(%)≧{5900−(Kca)T}/85 ‥‥(1)
ここで、(Kca)T:供用温度T(℃)におけるダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(N/mm3/2) - 前記隅肉溶接継手の継手断面における前記ダブラー部材と前記フランジとの重ね合わせ面に残存する、下記に定義する前記未溶着部の、比率Y(%)と、供用温度T(℃)における前記ダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(Kca)T(N/mm3/2)とが、下記(2)式を満足する請求項2ないし4のいずれかに記載の溶接構造体。
記
Y(%):{(隅肉溶接継手の継手断面におけるダブラー部材とフランジとの重ね合わせ面の未溶着部の幅)/(ダブラー部材の板幅と左右の隅肉溶接部の脚長の和)}×100
Y(%)≧{6900−(Kca)T}/85 ‥‥(2)
ここで、(Kca)T:供用温度T(℃)におけるダブラー部材の脆性亀裂伝播停止靭性(N/mm3/2) - 前記フランジまたはウェブが、前記ウェブまたはフランジに交差する形で突合せ溶接継手部を有する請求項1ないし5のいずれかに記載の溶接構造体。
- 前記ウェブが突合せ溶接継手部を有し、該ウェブの突合せ溶接継手部が前記フランジの突合せ溶接継手部と交差するように該ウェブを配設してなることを特徴とする請求項6に記載の溶接構造体。
- ダブラー部材が、オーステナイト鋼または低温用ニッケル鋼板である請求項1ないし3のいずれかに記載の溶接構造体。
- 前記溶接構造体において、前記ダブラー部材と前記フランジの重ね合わせ面の未溶着部の高さ(すきま)が5mm以上である請求項2ないし8のいずれかに記載の溶接構造体。
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