JP2012096790A - 脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体 - Google Patents

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Abstract

【課題】船体構造に好適な、脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体を提供する。
【解決手段】ウェブ1のフランジ2との突合せ面に未溶着部4が残存する隅肉溶接継手を備え、好ましくは、前記隅肉溶接継手の継手断面における未溶着部の幅と、ウェブの板厚と左右の隅肉溶接部の脚長3の和に対する比率X(%)と、前記フランジの供用温度における脆性亀裂伝播停止靭性Kca(N/mm3/2)が、X(%)≧{5900−Kca(N/mm3/2)}/85を満足する。更に好ましくは、前記隅肉溶接継手における未溶着部を、隅肉溶接継手断面において、ウェブの板厚と左右の隅肉溶接部の脚長の和の15〜90%の幅とする。ウェブに突合せ溶接継手部を有する場合は、突合せ溶接継手部の板厚と左右の隅肉溶接部の脚長の和に対する比率X(%)と、フランジの供用温度における脆性亀裂伝播停止靭性Kca(N/mm3/2)が上式を満たす。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えば、大型コンテナ船やバルクキャリアーなどの厚鋼板を用いて溶接施工された構造物の母材および溶接継手に発生する可能性のある脆性亀裂の伝播を、大規模破壊に至る前に停止させる脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体に関し、具体的には、隅肉溶接継手の接合部材(ウェブ)に脆性亀裂が発生しても、被接合部材(フランジ)への脆性亀裂の伝播を停止する脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体に関する。
溶接構造体であるコンテナ船やバルクキャリアーは、積載能力の向上や荷役効率の向上等のため、上部開口部を大きくとった構造となっている。このため、これらの船では特に船体外板を厚肉化する必要がある。
近年、コンテナ船は大型化し、6,000〜20,000TEUの大型船が建造されるようになってきており、それに伴い、用いられる船体外板は50mm以上の厚肉化の傾向にある。
船体構造においては、万一溶接部から脆性破壊が発生した場合にも、脆性亀裂の伝播を停止させ船体分離を防止することが必要と考えられ、例えば特許文献1には、船舶の船殻外板の補強材に、特定のミクロ組織を有し、耐脆性破壊に優れた鋼板を用いることが記載されている。
板厚50mm未満の造船用鋼板溶接部の脆性亀裂伝播挙動については、日本造船研究協会第147委員会において、実験的に検討がなされている。
第147委員会では、溶接部にて強制的に発生させた脆性亀裂の伝播経路、伝播挙動を実験的に調査した結果、溶接部の破壊靱性がある程度確保されていれば、溶接残留応力の影響により脆性亀裂は溶接部から母材側に逸れてしまうことが多いが、溶接部に沿って脆性亀裂が伝播した例も複数確認された。このことは、脆性破壊が溶接部に沿って直進伝播する可能性が無いとは言い切れないことを示唆している。
しかしながら、第147委員会で適用した溶接と同等の溶接を板厚50mm未満の鋼板に適用して建造された船舶が異常なく就航しているという多くの実績があることに加え、靱性が良好な鋼板母材(造船E級鋼など)は脆性亀裂を停止する能力が十分にあるとの認識から、造船用鋼材溶接部の脆性亀裂伝播停止特性は船級規則等には要求されてこなかった。
特開2004−232052号公報
しかし、最近の6,000TEUを越える大型コンテナ船では鋼板の板厚は50mmを超え、板厚効果により破壊靱性が低下することに加え、溶接入熱もより大きくなるため、溶接部の破壊靭性が一層低下する傾向にある。
最近、このような厚肉大入熱溶接継手では、溶接部から発生した脆性亀裂は母材側に反れずに直進し、骨材等の鋼板母材部でも停止しない可能性があることが実験的に示され(山口ら:「超大型コンテナ船の開発―新しい高強度極厚鋼板の実用―」,日本船舶海洋工学会誌,3,(2005),P70.)、50mm以上の板厚の鋼板を適用した船体構造の安全確保の上で大きな問題となっている。また、亀裂停止のために特別な特性を有する鋼板が必要との指摘もされている。
そこで、本発明は、厚肉の鋼板およびその溶接部において、万一、脆性破壊が発生した場合でも、大規模破壊に至る前に脆性亀裂を停止させる溶接構造体を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討し、隅肉溶接部の継手断面における接合部材(ウェブ)の、被接合部材(フランジ)との突合せ面に、被接合部材(フランジ)の脆性亀裂伝播停止性能に応じた寸法の未溶着部を確保することにより、板厚50mm以上の厚物材における脆性亀裂の伝播を隅肉溶接部のウェブとフランジの突合せ面で停止させ得ることを見出した。
また、接合部材(ウェブ)が突合せ溶接継手で接合された鋼板の場合は、被接合部材(フランジ)の脆性亀裂伝播停止性能に応じた寸法の未溶着部を、前記突合せ溶接継手の溶接部とフランジとの突合せ面に確保することで同様の脆性亀裂伝播停止特性が得られることを見出した。すなわち、本発明は、
1.ウェブが突合せ溶接継手で接合された鋼板で、当該突合せ溶接継手の溶接部がフランジと交差する隅肉溶接継手を備えた溶接構造体であって、少なくとも前記突合せ溶接継手の溶接部とフランジの突合せ面に未溶着部が残存することを特徴とする脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体。
2.前記突合せ溶接継手の溶接部とフランジが交差する隅肉溶接継手の交差部の継手断面における未溶着部の幅と、交差部の板厚と左右の隅肉溶接部の脚長の和に対する比率X(%)と、前記フランジの供用温度における脆性亀裂伝播停止靭性Kca(N/mm3/2)の関係が、下式を満足することを特徴とする脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体。
X(%)≧{5900−Kca(N/mm3/2)}/85
3.前記未溶着部の幅が、隅肉溶接継手断面において、突合わせ溶接部の幅と左右の隅肉溶接部の脚長の和の15〜90%となることを特徴とする2記載の脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体。
本発明は、フランジとなる鋼板の脆性亀裂伝播停止性能に応じて、隅肉溶接部のウェブの、フランジとの突合せ面に適切な寸法の未溶着部を残し、従来困難であった板厚50mm以上の厚物材における脆性亀裂の伝播を停止させることが可能である。
その結果、船体などに万一脆性亀裂が発生し伝播した場合でも、船体分離などの大規模な脆性破壊の危険性を回避でき、鋼構造物とりわけ船体構造の安全性を確保するうえで大きく寄与し、産業上極めて有用である。
また、施工時に未溶着部の寸法を調整することにより脆性亀裂伝播停止性能の異なる鋼板(製造コストの異なる鋼板)を適切に使い分け、特別な鋼板を使用せずに、安全性を損ねることなしに溶接構造体製造のトータルコスト低減が可能である。
隅肉溶接継手の各部を説明する図で(a)はウェブとフランジが直交している場合、(b)はウェブとフランジが斜めに交差している場合を示す。 ウェブが突合せ溶接継手で接合された鋼板で、突合せ溶接継手部がフランジと交差する隅肉溶接継手を示し、(a)は外観図、(b)は突合せ溶接継手部における継手断面形状を模式的に示す図。 十字型ESSO試験片の形状を説明する図で(a)はウェブが母材からなる場合、(b)はウェブが突合せ溶接継手部を有する場合を示す図。 図3(a)の十字型ESSO試験片による試験結果を示す図。 図3(b)の十字型ESSO試験片による試験結果を示す図。
図1は、隅肉溶接継手の継手断面形状を示し、(a)は接合部材(ウェブ)1(以下ウェブ1)が被接合部材(フランジ)2(以下、フランジ2)に対して直立して取り付けられている場合、(b)は、ウェブ1がフランジ2に対して、斜めに取り付けれらている場合を示す。
以下の本発明の限定理由の説明における各部は図1に示すものとする。但し、図1(b)に示す隅肉溶接継手の場合は、後記の比率X(%)を求める場合のウェブ板厚として、ウェブ1とフランジ2と交差部の長さ、すなわち、ウェブ板厚/COS(90°−θ)(但し、θはウェブとフランジの交差角でθ<90°)を用いる。
本発明では、隅肉溶接継手のウェブ1の、フランジ2との突合せ面に未溶着部4を残存させる。隅肉溶接継手において、ウェブ1のフランジ2との突合せ面は亀裂伝播面となるので、当該突合せ面に未溶着部4を残存させる。
未溶着部4が残存することにより、ウェブ1を伝播してきた脆性亀裂先端のエネルギー解放率(亀裂進展駆動力)が低下し、当該突合せ面において、脆性亀裂は停止しやすくなる。
未溶着部4の存在により、脆性亀裂先端のエネルギー解放率(亀裂進展駆動力)が低下するので、例え、フランジ2側に伝播したとしても、亀裂は隅肉溶接部のあらゆる部位(隅肉溶接金属5、熱影響部(図1では省略))およびフランジ2の母材で停止する。
隅肉溶接継手の継手断面における、ウェブ1の、フランジ2との突合せ面における未溶着部4の寸法は、フランジ2の脆性亀裂伝播停止靭性Kca(N/mm3/2)との関係において規定することが望ましい。
隅肉溶接継手の継手断面における未溶着部4の幅長さと、ウェブ1の板厚と左右の隅肉溶接金属5の脚長3の和に対する比率X(%)と、前記フランジ2に用いる鋼板の供用温度における脆性亀裂伝播停止靭性Kca(N/mm3/2)の関係を、(1)式を満足するように設定する。
X(%)≧{5900−Kca(N/mm3/2)}/85・・・(1)
比率X(%)が小さくなると脆性亀裂先端のエネルギー解放率(亀裂進展駆動力)の低下が少なくなり、脆性亀裂が停止しにくくなるが、フランジ2に用いる鋼板のKca値が大きければ脆性亀裂を停止させることが可能である。
更に、隅肉溶接継手における未溶着部4はその幅を、隅肉溶接の継手断面において、ウェブ1の板厚と左右の隅肉溶接金属5の脚長3の和の15〜90%の長さとすることが好ましい。
未溶着部4の幅長さがウェブ1の板厚とウェブ1の左右の隅肉溶接金属5の脚長3の和の15%未満となると、脆性亀裂先端のエネルギー解放率(亀裂進展駆動力)の低下が少なくなり、脆性亀裂が停止しにくくなる。
また、未溶着部4の幅長さがウェブ1の板厚とウェブ1の左右の隅肉溶接金属5の脚長3の和の90%超えとなると、継手強度の確保が困難となる。よって、本発明においては、15%以上、90%以下の範囲に限定することが好ましい。
尚、脆性破壊は、欠陥の少ない鋼板母材部で発生することは極めて稀であり、過去の脆性破壊事故の多くは溶接部で発生している。図2はウェブ1が突合せ溶接継手で接合された鋼板で、突合せ溶接継手部の溶接部(以下、突合せ溶接継手部11)がフランジ2と交差する隅肉溶接継手を示し、(a)は外観図、(b)は突合せ溶接継手部11における継手断面形状を模式的に示す。
図2に示す隅肉溶接継手の場合は、突合せ溶接継手部11から発生する脆性亀裂の伝播を防止するため、少なくとも突合せ溶接継手11とフランジ2の突合せ面に未溶着部4を残存させることが必要である。
上述したように未溶着部4をウェブ1の母材とフランジ2との突合せ面に残存させると、ウェブ1の母材部で脆性亀裂が発生した場合でも脆性亀裂は停止しやすくなるので、未溶着部4をウェブ1の全長に亘って残存させても良い。
隅肉溶接継手において、突合せ溶接継手部11とフランジ2が交差する交差部の継手断面における未溶着部の幅4と、突合せ溶接継手部11の、ウェブ1の板厚方向の厚み、すなわち、突合せ溶接継手部11の溶接金属高さの平均値と左右の隅肉溶接金属5の脚長(図1と同じ定義とする)の和に対する比率X(%)と、フランジ2に用いる鋼板の供用温度における脆性亀裂伝播停止靭性Kca(N/mm3/2)は、上記(1)式を満足するように規定すると好ましい。比率X(%)は突合せ溶接継手部11の最脆化部であるBOND部における継手断面形状において求めた値とすることが望ましい。
更に、突合せ溶接継手部11とフランジ2の交差部においても、未溶着部4の幅を、隅肉溶接継手断面において、突合せ溶接継手部11の溶接金属高さの平均値と左右の隅肉溶接金属5の脚長の和の15〜90%とすることが好ましい。
図2はウェブ1の突合せ溶接継手部11とフランジ2が直交する場合を示したが、斜めに交差させても良い。図2の隅肉溶接継手は、まずウエブ同士を突合せ溶接し、次に、得られた突合せ溶接継手をフランジに隅肉溶接して製造する。
本発明に係る溶接構造体は上述した隅肉溶接継手を有するもので、例えば、船舶の船体外板を、フランジとし、隔壁をウェブとする船体構造、あるいはデッキをフランジとし、ハッチをウェブとする船体構造などに適用可能である。
本発明に係る溶接構造体は板厚50mmを超える厚板を用いる場合に特に優れた効果を発揮するが、鋼板厚さが50mm未満であっても良い。尚、従来の船体構造においては隅肉溶接継手のウェブの突合せ溶接継手部とフランジの突合せ面には、未溶着部は存在しない。
種々の板厚および脆性亀裂伝播停止靱性(−10℃におけるKca)を有する鋼板を用いて、様々な未溶着部の比率X(ウェブの板厚とウェブの左右の隅肉溶接部の脚長の和に対する未溶着部の幅長さの比率)を有するT字型の隅肉溶接継手を作製した。T字型の隅肉溶接継手はウェブが鋼板の母材のみの場合とウェブを突合せ溶接継手とする場合について作成した。なお、突合せ溶接継手は1パス大入熱溶接もしくは多層CO溶接にて作製した。
得られたT字型隅肉溶接継手を用いて、図3に示す十字型ESSO試験片を作製し、脆性亀裂伝播停止試験(ESSO試験)に供した。十字型ESSO試験片はT字型隅肉溶接継手9のフランジの下方に仮付け溶接8で、ウェブと同じ板厚の鋼板を溶接した。
図3(a)に示す十字型ESSO試験片はウェブが母材のみで、図3(b)に示す十字型ESSO試験片はウェブの突合せ溶接継手部11をフランジと直交するように作成し、機械ノッチ7の先端を突合せ溶接継手部11のBOND部とし、隅肉溶接を試験片の全長500mmに実施した。
ESSO試験は、機械ノッチに打撃を与え脆性亀裂を発生させ、伝播した脆性亀裂が、隅肉溶接部で停止するか否かを調査した。いずれの試験も、応力24kgf/mm、温度−10℃の条件にて実施した。応力24kgf/mmは、船体に多用されている降伏強度36kgf/mm級鋼板の最大許容応力であり、温度−10℃は船舶の設計温度である。
表1、2に鋼板の板厚、Kcaと併せて試験結果を示す。また、表1の試験結果を図4に、表2の試験結果を図5に示す。表1は図3(a)の十字型ESSO試験片による試験結果を示し、(1)式を満足する発明例では脆性亀裂が隅肉溶接部のウェブからフランジに伝播することなく停止した。
表2は図3(b)の十字型ESSO試験片による試験結果を示し、(1)式を満足する発明例では脆性亀裂が隅肉溶接部のウェブからフランジに伝播することなく停止した。表2中、No.2−0,3−0,4−0はウェブの突合せ溶接継手部11とフランジとの交差部に未溶着部がないため、亀裂が貫通した場合の試験結果を示す。
尚、表1、2における隅肉溶接部の未溶着比率X(%)は任意の一つの継手断面形状において求めた値を示す。
Figure 2012096790
Figure 2012096790
1 ウェブ
2 フランジ
3 脚長
4 未溶着部
5 隅肉溶接金属
6 分離面
7 機械ノッチ
8 仮付け溶接
9 T字型溶接継手
11 突合せ溶接継手部
a 間隔
θ 交差角

Claims (3)

  1. ウェブが突合せ溶接継手で接合された鋼板で、当該突合せ溶接継手の溶接部がフランジと交差する隅肉溶接継手を備えた溶接構造体であって、少なくとも前記突合せ溶接継手の溶接部とフランジの突合せ面に未溶着部が残存することを特徴とする脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体。
  2. 前記突合せ溶接継手の溶接部とフランジが交差する隅肉溶接継手の交差部の継手断面における未溶着部の幅と、交差部の板厚と左右の隅肉溶接部の脚長の和に対する比率X(%)と、前記フランジの供用温度における脆性亀裂伝播停止靭性Kca(N/mm3/2)の関係が、下式を満足することを特徴とする脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体。
    X(%)≧{5900−Kca(N/mm3/2)}/85
  3. 前記未溶着部の幅が、隅肉溶接継手断面において、突合せ溶接部の幅と左右の隅肉溶接部の脚長の和の15〜90%となることを特徴とする請求項2記載の脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体。
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