JP2005111520A - 耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属、その施工方法、および溶接構造体 - Google Patents
耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属、その施工方法、および溶接構造体 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】突合せ溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属であって、前記溶接金属は、前記突合せ溶接継手の端部、あるいは中間部に、母材の板厚の一部あるいは全域にわたり多層溶接されており、前記溶接金属の化学成分はNi量が2.5質量%以上であり、かつ、前記溶接金属における残留応力σRが、下記(式1)を満足することを特徴とする耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属、その施工方法、および溶接構造体。
σR≦−0.5*Yp・・・(式1)
【選択図】 なし
Description
具体的には、厚板を用いて大入熱溶接を適用した溶接構造物の突合せ溶接継手に発生する可能性のある脆性破壊の伝播を妨げる耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属、その施工方法、および溶接構造体に関するものであり、建築構造物や土木鋼構造物等の安全性を向上させうる技術に関する。
特に、鋼板の板厚が増大すると、溶接工数が飛躍的に増加するため、極限まで大入熱で溶接しようとする要求が高い。
しかし、大入熱溶接を適用すると、溶接熱影響(HAZ)部の靭性値が低下し、HAZ部の幅も増大するため、脆性破壊に対する破壊靭性値が低下する傾向にある。
そのため、大入熱溶接を適用してもHAZ部の破壊靭性が低下しにくい鋼材として、たとえば特許文献1、2、等の発明がなされている。これらの発明では脆性破壊の発生に対する抵抗値である破壊靭性値は向上されているため、通常の使用環境では脆性破壊する可能性は極めて低く抑えられているが、地震や構造物同士の衝突、といった事故、災害等の非常時に万一脆性破壊が発生してしまうと、脆性き裂はHAZ部を伝播し、大規模な破壊に至る危険性がある。
しかしながら、鋼構造物が大型化することで、より板厚の大きい鋼板が使用されるようになり、また構造を簡素化するためにも鋼板の厚肉化が有効であるため、設計応力が高い高張力鋼の厚鋼板が使用されるようになってきている。このような厚鋼板では、溶接継手部の破壊靭性の程度によっては、脆性き裂が母材に逸れることなく、溶接継手部の熱影響域に沿って伝播することが本発明者の8000トン大型試験機による大型破壊試験により明らかとなった。
しかし、板厚が厚くなると、骨材自体のアレスト性能の確保も充分でなくなり、特に板厚方向に大きな靭性分布が生じるため、脆性き裂が矢印(⇒)に示すように船殻外板である鋼板と骨材を取り付けている隅肉溶接部を通って、骨材に突入すると、伝播してくる。そして、板厚内部の靭性の低い領域を脆性き裂が先行して伝播し、その後、鋼板の表層部へも伝播して鋼板を破断させてしまう。即ち、例えば70mm以上の厚肉鋼板については、骨材を隅肉溶接で取り付けても、構造的なクラックアレスターとして機能し得ないことのあることを見出した。
すなわち、たとえ骨材3が溶接で接合されている構造体であっても、HAZ部あるいは溶接金属部に沿って、脆性き裂が伝播し、大規模な破壊を招く恐れがあった。
前記溶接金属は、前記突合せ溶接継手の端部、あるいは中間部に、母材の板厚の一部あるいは全域にわたり多層溶接されており、
前記溶接金属の化学成分はNi量が2.5質量%以上であり、かつ、前記溶接金属における残留応力σRが、下記(式1)を満足することを特徴とする耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属。
σR≦−0.5*Yp・・・(式1)
ここに、σR:溶接金属における溶接後の残留応力(Mpa)
Yp:母材の降伏応力(Mpa)
(2)(1)に記載の耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属の施工方法であって、
前記多層溶接の入熱量を5.0kJ/mm以下とし、パス間温度を400℃以下とし、
前記突合せ溶接継手と多層溶接部が交差する角度φを、10度以上、45度以下とすることを特徴とする耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属の施工方法。
(3)突合せ溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体であって、前記溶接構造物の垂直部材の溶接継手と水平部材の溶接継手が交差する領域の一部あるいは全部の領域に対し、当該領域の一部をガウジング、あるいは機械加工により除去した部分に、(1)に記載の溶接金属を補修溶接により埋め込んだことを特徴とする耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体。
図2は、本発明の溶接金属を適用する鋼板の突合せ溶接継手を示す図である。
図2において、継手Aは垂直部材5(母材−1)同士の突合せ溶接継手、継手Bは多層溶接継手、継手Cは垂直部材5(母材−1)と水平部材6(母材−2)との突合せ溶接継手、継手Dは水平部材6(母材−2)同士の突合せ溶接継手を示す。
突合せ溶接部にて発生した脆性き裂は、溶接線を伝播するが、この突合せ溶接部の端部、あるいは中間部に破壊靭性の優れた溶接材料で多層溶接することによって、この部分の靭性を高くしてき裂の伝播を防止することができる。
本発明の溶接金属の化学成分はNi量が2.5質量%以上であり、かつ、前記溶接金属における残留応力σRが、下記(式1)を満足することを特徴とする。
σR≦−0.5*YP・・・(式1)
ここに、σR:溶接金属における溶接後の残留応力(Mpa)
Yp:母材の降伏応力(Mpa)
Ni量を2.5質量%以上とすることによって溶接金属の靭性を高くし、かつ、前記溶接金属における残留応力σRが、下記(式1)を満足することによって、溶接金属に引張力が働いた場合でも、圧縮残留応力によりこの引張応力を緩和することができるので、脆性き裂の伝播を抑制することができる。
図3において、継手Aは突合せ溶接継手、継手Bは多層溶接部を示す。
本発明に用いる多層溶接は、図3に示すような、脆性き裂が伝播する可能性のある突合せ溶接継手Aにおいて、脆性き裂を停止させる領域に対し、当該領域の突合せ溶接継手の一部をガウジング、あるいは機械加工により除去した後、当該部分に破壊靭性の優れた溶接材料で補修溶接を実施することを特徴とする。
溶接継手にて発生した脆性き裂は、突合せ溶接継手Aを伝播するが、脆性き裂を停止させる領域に対し、当該領域の突合せ溶接継手の一部をガウジング、あるいは機械加工により除去した後、当該部分に破壊靭性の優れた溶接材料で補修溶接を実施することによって、この部分の靭性を高くしてき裂の伝播を防止することができる。
本発明においては、ガウジングあるいは機械加工の深さは特に規定しないが、垂直部材の板厚の1/2以上をガウジングあるいは機械加工により除去することにより、耐脆性破壊伝播性をさらに向上させることができる
そこで、本発明においては多層溶接部に、Niを2.5質量%以上含有する破壊靭性の優れた溶接材料を使用することにより、多層溶接部の破壊靭性値を十分に確保しつつ、当該追加溶接によって溶接金属周辺に発生する圧縮残留応力の影響により、脆性き裂が多層溶接部に突入することなく多層溶接部にき裂を近づけさせないようにすることができるので、突合せ溶接継手に沿って伝播する脆性き裂を当該突合せ溶接部から逸らせて母材部に導き出すことができる。
なお、本発明においては溶接金属中に含有するのNiの上限は問わないが、Ni原料のコストを低減するため、Niの含有量の上限は10質量%以下が好ましい。
図4において、5は垂直部材、6水平部材、継手Aは突合せ溶接継手、継手Bは本発明に用いる多層溶接による補修溶接継手を示す。
本発明者等は、脆性き裂が伝播する可能性のある突合せ溶接継手Aにおいて、脆性き裂を停止させる領域に対し、破壊靭性値の優れた溶接材料を用いて当該部分を追加溶接する方法について種々の実験を行った結果、当該突合せ溶接継手の長手方向に対し、多層溶接の入熱量やパス間温度を制御することが好ましいことを見出した。
即ち、多層溶接の入熱を5.0kJ/mm以下とし、パス間温度を400℃以下とすることにより、溶接金属そのものの靭性を維持、向上しつつ、追加溶接による熱影響を最小限に抑制し、1パス毎に発生する当該溶接部周辺の残留応力を累積させ、変形を拘束することによって、溶接後の圧縮残留応力を大きくすることができる。
多層溶接部に発生する圧縮残留応力の影響により、突合せ溶接部に沿って伝播してくる脆性き裂を突合せ多層溶接部に近づけさせないことが本発明の主眼であり、突合せ溶接部と多層溶接部との交差する角度φを変化させて、突合せ溶接部から脆性き裂を逸らせることが出来るかを実験した結果、角度φが45度以上だと、多層溶接部に脆性き裂が突入してくることが多いため、多層溶接部の破壊靭性が十分高くないと脆性き裂を停止させることはできないが、45度以下であれば、脆性き裂を多層溶接部に近づけさせないで母材に伝播させることができることを知見した。しかし、角度φが10度以下になると、脆性き裂は多層溶接部と母材との境界部に沿って伝播するものの、多層溶接部の領域を抜けた位置の周辺で、突合せ溶接部との距離が近すぎるため、再び突合せ溶接部に沿って脆性き裂が再伝播してしまうことがあるので、下限を10度とした。
検討にあたっては、直進してくる脆性き裂を阻止し得るか否かを評価するため、図5に示すように、2500mmx2500mmx板厚の鋼板を用い、その試験片中央部に深さを板厚の1/2程度、試験片表面での径が板厚と同じ程度の寸法となるようなクボミを機械加工し、その中を種々の化学成分、溶接条件を変化させて、溶接金属の化学成分と溶接金属の組織を変化させた試験片を作製した。
そして、その試験片端部から200mmの位置に楔8を挿入して脆性き裂を発生させるためのV字の切り欠き加工を突合せ溶接部(エレクトロガス溶接による大入熱溶接継手)のフュージョンラインに一致するように施し、試験片端部を−40℃程度の低温に冷却し、試験片中央部を−10℃にコントロールして、所定の応力を負荷した後、V字切り欠き部に楔を打ち込み、脆性き裂を発生させ、突合せ溶接部のフュージョンラインに沿って、脆性き裂を伝播させた。伝播した脆性き裂が、付加溶接部に到達した後、その脆性き裂が伝播するか否かを評価した。
表1に示すように溶接金属のNi量は2.5質量%以上が必要である。
また、母材の(100)面強度比は1.5以上であることが好ましい。母材の(100)面強度比を大きくすることによって、異方性も大きくなることからき裂が直進しにいため、き裂の伝播を抑制することができるからである。
No.7,8は母材の(100)面強度比は1.5未満であるため、負荷応力が他の発明例に比べて小さい条件でアレストできることを確認した。
No.9,10は、溶接金属のNi量が所定の値より小さく、かつ溶接入熱、パス間温度とも所定の範囲外であるため当該部の残留応力が小さいので、突き合せ溶接部を伝播してきた脆性き裂は当該溶接部に近づいた際に、当該溶接部にき裂が突入してしまい、当該溶接部でき裂が停止されることなく、当該溶接部を通過したので、そのまま溶接部に沿ってき裂が伝播し、破断に至った。
No.13は、当該部の残留応力が十分でなく、かつφが所定の値より大きかったので、当該溶接部に突入し、そのまま破断に至ったものである。
No.14は、当該部の残留応力が十分でなかったので、当該溶接部に突入する際に、当該溶接部にき裂が突入、伝播してしまい、そのまま破断に至ったものである。
No.15は、φが所定の値より小さかったので、当該溶接部に突入する際に、当該溶接部のフュージョンラインに沿ってき裂が伝播経路を変化させたが、その後当該溶接部にもき裂が伝播してしまい、そのまま破断に至ったものである。
No.16は、φが所定の値より大きすぎたため、当該溶接部に突入する際に、き裂の伝播方向は変化したものの、結局は当該溶接部にき裂が突入してしまい、破断に至った。
No.17,18は、当該部の残留応力が不十分であり、かつφが所定の値より小さすぎたため、当該溶接部に突入する際にき裂の伝播方向を変化させることなく、き裂はほぼ直進し、当該溶接部にき裂が突入し、破断に至った。
2 溶接継手部
3 骨材(補強材)
4 隅肉溶接部
5 垂直部材(母材-1)
6 水平部材(母材-2)
7 溶接部
8 楔
9 切欠き
Claims (3)
- 突合せ溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属であって、
前記溶接金属は、前記突合せ溶接継手の端部、あるいは中間部に、母材の板厚の一部あるいは全域にわたり多層溶接されており、
前記溶接金属の化学成分はNi量が2.5質量%以上であり、かつ、前記溶接金属における残留応力σRが、下記(式1)を満足することを特徴とする耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属。
σR≦−0.5*Yp・・・(式1)
ここに、σR:溶接金属における溶接後の残留応力(Mpa)
Yp:母材の降伏応力(Mpa) - 請求項1に記載の耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属の施工方法であって、
前記多層溶接の入熱量を5.0kJ/mm以下とし、パス間温度を400℃以下とし、
前記突合せ溶接継手と多層溶接部が交差する角度φを、10度以上、45度以下とすることを特徴とする耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体用溶接金属の施工方法。 - 突合せ溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体であって、前記溶接構造物の垂直部材の溶接継手と水平部材の溶接継手が交差する領域の一部あるいは全部の領域に対し、当該領域の一部をガウジング、あるいは機械加工により除去した部分に、請求項1に記載の溶接金属を補修溶接により埋め込んだことを特徴とする耐脆性破壊伝播性に優れた溶接構造体。
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