JP7104368B2 - 溶接継手 - Google Patents

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Description

本発明は、突き合わせ溶接された溶接継手に関する。
船舶および低温貯槽タンクなどの大型の鋼構造物は、一枚の鋼板で作ることが出来ないため、多くの鋼板を突合せ溶接することで組み立てられている。このような大型の構造物においては、脆性破壊による大規模破壊事故を防ぐ必要がある。脆性破壊による大規模破壊事故は、一般に、溶接部で発生した脆性亀裂が鋼板を伝播し、その脆性亀裂と交差するような、別の溶接部を突き抜けて隣の鋼板にも伝播することによって生じる。このため、大型の構造物において使用される溶接継手には、上記のような脆性亀裂の伝播を防止することができる特性(アレスト特性)が求められる。以下、一例を挙げて、大型の構造物における脆性破壊について図面を用いて簡単に説明する。
図8は、低温貯槽タンクの一部を示す概念図である。図8を参照して、低温貯槽タンク100(以下、タンク100と略記する。)は、略円筒形状を有し、周方向および軸方向に並ぶように設けられた複数の鋼板102を有する。複数の鋼板102は、タンク100の周方向に延びる複数の溶接部104およびタンク100の軸方向に延びる複数の溶接部106によって互いに接合されている。図8に示すように、タンク100においては、内圧によって、溶接部104において亀裂108が発生したり、溶接部106において亀裂110が発生したりする。また、タンク100においては、内圧によって、図8に実線の矢印で示すように周方向に引張応力が発生する。これにより、亀裂108および亀裂110が、破線の矢印で示すように、鋼板102中をタンク100の軸方向に伝播し、溶接部104を突き抜けて隣の鋼板102に伝播する場合がある。このようにして、大規模破壊事故が発生する場合がある。
上記のような構造物において利用される溶接継手の靭性を向上させるための技術は、これまでにも提案されている。例えば、特許文献1に開示された溶接構造では、第1極厚鋼板と第2極厚鋼板との溶接部に、複数の段差部が形成されている。特許文献1には、上記のような構成により、溶接継手の引張強度を確保しつつ、大入熱溶接による継手靭性の低下を抑制できることが記載されている。
特開2016-198811号公報
しかしながら、特許文献1に開示された溶接継手では、脆性亀裂の伝播を十分に抑制できない場合があると考えられる。具体的には、第1極厚鋼板および第2極厚鋼板がそれぞれ1枚の鋼板の場合、一般に、各鋼板の厚み方向における中心部は、中心偏析によって表層部に比べて靭性が低下する。このため、各鋼板の厚み方向における中心部では、脆性亀裂が進展しやすい。この点に関して、特許文献1の溶接継手では、厚み方向における中心部において溶接部から鋼板に脆性亀裂が伝播することを抑制するための措置がとられていない。
そこで、本発明の目的は、亀裂の伝播が抑制された溶接継手を提供することにある。
本発明は、下記の溶接継手を要旨とする。
(1)厚み方向に対して垂直な突き合わせ方向において互いに突き合わせ溶接された第1金属板および第2金属板を備えた溶接継手であって、
前記第1金属板は、所定の厚みを有する第1板状部と、前記第1板状部の前記厚み方向における一端部から前記第2金属板に向かって前記突き合わせ方向に突出する板状の第1突出部とを有し、
前記第2金属板は、所定の厚みを有する第2板状部を有し、
前記厚み方向における前記第1突出部の他端側に、1以上の第3金属板が積層されており、
前記1以上の第3金属板はそれぞれ、前記突き合わせ方向における一端部において前記第1板状部に溶接されており、前記突き合わせ方向における他端部において前記第2板状部に溶接されており、
前記第2板状部の前記厚み方向における一端部は、前記第1金属板の前記第1突出部の先端部に溶接されており、
前記第2板状部の前記厚み方向における他端部は、前記1以上の第3金属板よりも前記厚み方向における他端側において前記第2板状部の前記他端部から前記第1金属板に向かって前記突き合わせ方向に突出するように設けられた板状の第2突出部を介して前記第1板状部に溶接されており、
前記第1突出部、前記第2突出部および前記1以上の第3金属板それぞれの厚みは、前記第1板状部および前記第2板状部の厚みよりも小さい、溶接継手。
(2)前記第2突出部は、前記第2金属板の一部である、上記(1)に記載の溶接継手。
(3)前記第3金属板のシャルピー衝撃値は、前記第1金属板および前記第2金属板のシャルピー衝撃値よりも大きい、上記(1)または(2)に記載の溶接継手。
(4)前記突き合わせ方向における前記第1突出部の長さは、前記第1突出部の厚みの2.75倍以上であり、前記突き合わせ方向における前記第2突出部の長さは、前記第2突出部の厚みの2.75倍以上であり、前記突き合わせ方向における前記第3金属板の長さは、前記第3金属板の厚みの2.75倍以上である、上記(1)から(3)のいずれかに記載の溶接継手。
本発明によれば、亀裂が伝播することを抑制できる。
図1は、本発明の一実施形態に係る溶接継手を模式的に示す側面図である。 図2は、溶接継手の製造方法の一例を説明するための図である。 図3は、溶接継手の比較例を示す側面図である。 図4は、本発明の他の実施形態に係る溶接継手を模式的に示す側面図である。 図5は、本発明のその他の実施形態に係る溶接継手を模式的に示す側面図である。 図6は、本発明が利用された溶接構造物の一例を示す図である。 図7は、本発明が利用された溶接構造物の一例を示す図である。 図8は、大型の構造物における脆性破壊を説明するための図である。
以下、本発明の一実施形態に係る溶接継手について説明する。
(溶接継手の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る溶接継手を模式的に示す側面図である。なお、図1には、溶接継手の厚み方向および該厚み方向に垂直な突き合わせ方向を矢印で示している。
図1を参照して、本実施形態に係る溶接継手10は、第1金属板12、第2金属板14および第3金属板16を備えている。第1金属板12と第2金属板14とは、第3金属板16を間に挟んだ状態で、溶接部18,20によって突き合わせ溶接されている。本実施形態では、第1金属板12、第2金属板14および第3金属板16はそれぞれ、鋼からなる。
第1金属板12は、所定の厚みt11を有する第1板状部12aと、第1板状部12aの厚み方向における一端側の端部(以下、厚み方向における一端部と記載する。)から第2金属板14に向かって突き合わせ方向に突出する板状の第1突出部12bとを有している。第1板状部12aの厚みt11は、例えば、50mm以上である。なお、第1金属板12は、例えば、厚みt11の1枚の金属板から機械加工によって切り出すことによって得ることができる。
第2金属板14は、所定の厚みt21を有する第2板状部14aと、第2板状部14aの厚み方向における他端側の端部(以下、厚み方向における他端部と記載する。)から第1金属板12に向かって突き合わせ方向に突出する板状の第2突出部14bとを有している。第2板状部14aの厚みt21は、例えば、50mm以上である。本実施形態では、第1板状部12aの厚みt11と第2板状部14aの厚みt21とは略等しい。なお、第2金属板14は、例えば、厚みt21の1枚の金属板から機械加工によって切り出すことによって得ることができる。
本実施形態では、厚み方向において第1突出部12bの他端側に第3金属板16が積層されている。本実施形態では、厚み方向において、第1突出部12bと第2突出部14bとの間に第3金属板16が設けられている。
第1突出部12bの厚みt12、第2突出部14bの厚みt22および第3金属板16の厚みt31はそれぞれ、第1板状部12aの厚みt11および第2板状部14aの厚みt21よりも小さい。第1突出部12bの厚みt12、第2突出部14bの厚みt22および第3金属板16の厚みt31はそれぞれ、第1板状部12aの厚みt11および第2板状部14aの厚みt21の1/2以下に設定される。本実施形態では、第1突出部12bの厚みt12、第2突出部14bの厚みt22および第3金属板16の厚みt31はそれぞれ、第1板状部12aの厚みt11および第2板状部14aの厚みt21の略1/3の大きさに設定されている。
第1突出部12bの先端部(突き合わせ方向において第2金属板14側の端部)は、溶接部20によって第2板状部14aの厚み方向における一端部に接合されている。第2突出部14bの先端部(突き合わせ方向において第1金属板12側の端部)は、溶接部18によって第1板状部12aの厚み方向における他端部に接合されている。
第3金属板16の突き合わせ方向における一端部は、溶接部18によって第1板状部12aに接合され、第3金属板16の突き合わせ方向における他端部は、溶接部20によって第2板状部14aに接合されている。本実施形態では、突き合わせ方向における第1突出部12bの長さL1は、第1突出部12bの厚みt12の2.75倍以上に設定され、突き合わせ方向における第2突出部14bの長さL2は、第2突出部14bの厚みt22の2.75倍以上に設定され、突き合わせ方向における第3金属板16の長さL3は、第3金属板16の厚みt31の2.75倍以上に設定される。
また、本実施形態では、第3金属板16は、第1金属板12および第2金属板14とは異なる金属材料からなる。本実施形態では、第3金属板16のシャルピー衝撃値は、第1金属板12および第2金属板14のシャルピー衝撃値よりも大きい。第1金属板12、第2金属板14および第3金属板16のシャルピー衝撃値は、JIS Z2242 2005に準拠した試験を実施することによって測定される。
なお、シャルピー衝撃試験の衝撃値は、試験温度により変化する。このため、本実施形態では、例えば、異なる複数の温度にてシャルピー衝撃試験を行い、第1金属板12、第2金属板14および第3金属板16それぞれの破面遷移温度を求める。本実施形態では、例えば、破面遷移温度における第3金属板16のシャルピー衝撃値(衝撃吸収エネルギー)が、破面遷移温度における第1金属板12のシャルピー衝撃値(衝撃吸収エネルギー)および破面遷移温度における第2金属板14のシャルピー衝撃値(衝撃吸収エネルギー)よりも大きい。また、本実施形態では、例えば、破面遷移領域の任意の温度における第3金属板16のシャルピー衝撃値および延性破面率が、破面遷移領域の任意の温度における第1金属板12のシャルピー衝撃値および延性破面率、ならびに破面遷移領域の任意の温度における第2金属板14のシャルピー衝撃値および延性破面率よりも大きいことが好ましい。また、本実施形態では、例えば、第3金属板16の遷移温度領域が、第1金属板12および第2金属板14の遷移温度領域よりも低いことが好ましい。具体的には、例えば、第3金属板16の方が第1金属板12および第2金属板14よりも、破面遷移温度が低いことが好ましい。また、例えば、第3金属板16の方が第1金属板12および第2金属板14よりも、エネルギー遷移温度が低いことが好ましい。
なお、溶接継手10の使用温度範囲内の任意の温度において、第3金属板16のシャルピー衝撃値は、第1金属板12および第2金属板14のシャルピー衝撃値よりも大きいことが好ましい。本実施形態では、例えば、第1金属板12および第2金属板14として、造船用Eグレード鋼板が用いられ、第3金属板16として、LNGタンク用低温用鋼板(SL9N)が用いられる。また、本実施形態では、第3金属板16の方が第1金属板12および第2金属板14よりも、降伏応力および引張強さが高いことが好ましい。言い換えると、溶接継手10において、第3金属板16が第1金属板12および第2金属板14よりも先に降伏しないように、第1金属板12、第2金属板14および第3金属板16の材料を選定することが好ましい。
(溶接継手の製造方法)
次に、上述の溶接継手10の製造方法の一例について簡単に説明する。図2は、溶接継手10の製造方法の一例を説明するための図である。
図2(a)を参照して、溶接継手10を製造する際には、まず、溶接部18aによって、第2金属板14の第2突出部14bと第3金属板16とを仮付けする。次に、図2(b)に示すように、溶接部20aによって、第3金属板16と第2金属板14の第2板状部14aとを接合する。その後、図2(c)に示すように、溶接部20bによって、第1金属板12の第1突出部12bと第2金属板14の第2板状部14aとを接合する。最後に、図2(d)に示すように、第1板状部12aと第3金属板16とを接合するとともに、第1板状部12aと第2突出部14bとを接合する。これにより、溶接継手10が得られる。
なお、溶接方法および溶接材料は特に制限されず、突き合わせ溶接において従来利用されている溶接方法および溶接材料を利用することができる。
(本実施形態の効果)
本実施形態に係る溶接継手10では、突き合わせ方向において溶接部18と溶接部20との間に、第1突出部12b、第2突出部14bおよび第3金属板16が設けられている。第1突出部12b、第2突出部14bおよび第3金属板16それぞれの厚みは、第1金属板12の第1板状部12aおよび第2金属板14の第2板状部14aの厚みよりも小さい。このため、板厚効果によって、第1突出部12b、第2突出部14bおよび第3金属板16のアレスト靭性Kca(脆性亀裂伝播停止特性値)を、第1板状部12aおよび第2板状部14aよりも大きくすることができる。
ここで、図1を参照して、溶接継手10において、突き合わせ方向と厚み方向とに直交する方向(すなわち、図1において紙面の奥行き方向)に引張応力が発生している状態において、一点鎖線の矢印で示すように、第1板状部12a中を第2金属板14側に向かって亀裂が伝播したとする。この亀裂は、図1に破線の矢印で示すように、第1突出部12b、第3金属板16および第2突出部14bにおいて3つの亀裂に分離しつつ、第1板状部12aから第2板状部14aへ伝播しようとする。しかしながら、本実施形態に係る溶接継手10では、上記のような構成により、第1突出部12b、第2突出部14bおよび第3金属板16のアレスト靭性Kcaを大きくすることができるので、亀裂が第1突出部12b、第2突出部14bまたは第3金属板16を突き抜けて第2板状部14aに伝播することを抑制できる。詳細な説明は省略するが、同様に、亀裂が第2板状部14aから第1突出部12b、第2突出部14bまたは第3金属板16を突き抜けて第1板状部12aに伝播することを抑制できる。
なお、本実施形態に係る溶接継手10は、例えば、図8に示したような大型の溶接構造物において好適に利用できる。例えば、図8に示したタンク100において溶接継手10を利用する場合には、図6に示すように、各鋼板102として、第1金属板12または第2金属板14を使用し、周方向に延びる溶接部104(図8参照)の代わりに、第1突出部12b、第2突出部14b、第3金属板16、溶接部18および溶接部20を設ければよい。この場合、溶接部18において亀裂108が発生したり、溶接部106において亀裂110が発生したりしたとしても、図6に破線の矢印で示すように、亀裂108,110が第1突出部12b、第2突出部14bまたは第3金属板16を突き抜けて伝播することを抑制することができる。すなわち、亀裂108,110の伝播を、第1突出部12b、第2突出部14bおよび第3金属板16において停止することができる。なお、本実施形態に係る溶接継手10は、例えば、図7に示すような溶接構造物としても利用できる。具体的には、図7に示す溶接構造物200は、第1金属板12からなる金属管と、第2金属板14からなる金属管とを接合した構成を有する。溶接構造物200では、第1金属板12と第2金属板14との接合部204が、上述の第1突出部12b、第2突出部14b、第3金属板16、溶接部18および溶接部20によって構成される。溶接構造物200では、例えば、内圧によって第1金属板(金属管)12の軸方向に延びる溶接部206において亀裂が発生した場合でも、その亀裂が、接合部204を突き抜けて第2金属板14へ伝播することを抑制することができる。
また、本実施形態では、第1突出部12bと第2突出部14bとの間に、第1金属板12および第2金属板14とは異なる第3金属板16が設けられている。この点に関して、図3に示すように、図1の第2金属板14の代わりに第2金属板140を設けた溶接継手100と比較しつつ説明する。
図3に示した溶接継手100の第2金属板140では、第2板状部14aの厚み方向における中央部から第1金属板12側に向かって突出するように板状の第2突出部140bが設けられ、厚み方向において第2突出部140bの他端側に第3金属板16が設けられている。突き合わせ方向における第3金属板16の両端部は、第1板状部12aおよび第2板状部14aに溶接されている。このような構成においては、第2突出部140bの靭性は、中心偏析の影響により、第2金属板140の表層部の靭性に比べて低くなる。このため、溶接部18で発生した亀裂が第2突出部140bを介して第2板状部14aに伝播しやすい。また、第1板状部12aと第2板状部14aとの間で、第2突出部140bを介して亀裂が伝播しやすい。
一方、上述したように、本実施形態に係る溶接継手10では、厚み方向における中央部に、第1金属板12および第2金属板14とは異なる第3金属板16が設けられている。この場合、第3金属板16は、溶接継手100の第2突出部140bに比べて、中心偏析の影響を大きく受けない。したがって、第3金属板16のアレスト靭性Kcaを、第2突出部140bのアレスト靭性Kcaに比べて大きくすることができる。その結果、溶接部18,20から第3金属板16を介して第1板状部12aおよび第2板状部14aに亀裂が伝播すること、ならびに第1金属板12と第2金属板14との間で第3金属板16を介して亀裂が伝播することを抑制することができる。
以上のように、本実施形態に係る溶接継手10によれば、溶接部18,20から第1金属板12の第1板状部12aおよび第2金属板14の第2板状部14aに亀裂が伝播すること、ならびに第1金属板12と第2金属板14との間で亀裂が伝播すること抑制することができる。
また、本実施形態では、第3金属板16のシャルピー衝撃値は、第1金属板12および第2金属板14のシャルピー衝撃値よりも大きい。これにより、亀裂が第3金属板16を突き抜けて伝播することを十分に抑制できる。また、第1板状部12a(または第2板状部14a)の厚み方向における中心部において突き合わせ方向に進展する亀裂が生じたとしても、その亀裂が第3金属板16を突き抜けて第2板状部14a(または第1板状部12a)に伝播することを十分に抑制できる。
また、本実施形態では、突き合わせ方向における第1突出部12bの長さL1は、第1突出部12bの厚みt12の2.75倍以上に設定され、突き合わせ方向における第2突出部14bの長さL2は、第2突出部14bの厚みt22の2.75倍以上に設定され、突き合わせ方向における第3金属板16の長さL3は、第3金属板16の厚みt31の2.75倍以上に設定される。ここで、低温貯槽タンクなどの鋼構造物で利用される溶接継手において、突き合わせ方向と厚み方向とに直交する方向に引張応力が発生している状態で、溶接部に脆性亀裂が発生したと仮定する。溶接継手は、例えば、このような状態において、突き合わせ方向における亀裂長さが板厚と同程度の長さになったときに応力拡大係数が極大値を示し、その後、亀裂長さが板厚の5.5倍程度の長さになるまで応力拡大係数が上記極大値を超えないように、設計される。このように溶接継手を設計した場合、上記直交する方向に設計上許容される最大応力以下の引張応力が発生している状態において溶接部で脆性亀裂が発生しても、その亀裂長さが板厚の5.5倍未満の大きさである場合には、亀裂の拡大が抑制される。本実施形態に係る溶接継手10では、上記のように、第1突出部12b、第2突出部14bおよび第3金属板16の長さL1,L2,L3が厚みt12,t22,t31の2.75倍以上に設定されている。したがって、溶接部18,20において脆性亀裂が発生しても、その亀裂(具体的には、溶接部18において発生した亀裂のうち溶接部18よりも第2金属板14側の部分、および溶接部20において発生した亀裂のうち溶接部20よりも第1金属板12側の部分)の拡大を、第1突出部12b、第2突出部14bまたは第3金属板16において抑制することができる。さらに、本実施形態では、上述したように、板厚効果によって、第1突出部12b、第2突出部14bおよび第3金属板16のアレスト靭性Kcaを大きくすることができる。これらの結果、第1金属板12と第2金属板14との間で亀裂が伝播することを十分に抑制できる。すなわち、ショートクラックアレストを実現できる。
(他の実施形態1)
図4は、本発明の他の実施形態に係る溶接継手を模式的に示す側面図である。図4に示す溶接継手10aが図1の溶接継手10と異なるのは、第2金属板14の代わりに、第2金属板30および板状の第2突出部32が設けられている点である。具体的には、第2金属板30は、第2突出部14bを有していない点で、溶接継手10の第2金属板14と異なる。また、溶接継手10aでは、溶接継手10の第2突出部14bの代わりに第2突出部32が設けられている。
本実施形態においても、第2突出部32は、第2板状部14aの厚み方向における他端部から第1金属板12に向かって突き合わせ方向に突出するように設けられている。ただし、本実施形態では、第2突出部32は、溶接部20によって第2板状部14aの厚み方向における他端部に溶接された、第2金属板30とは別の金属板である。なお、第2突出部32は、第1金属板12および第2金属板30と同じ材料からなってもよく、第3金属板16と同じ材料からなってもよい。
詳細な説明は省略するが、本実施形態に係る溶接継手10aにおいても、上述の溶接継手10と同様の効果が得られる。
(他の実施形態2)
上述の実施形態では、1枚の第3金属板16を有する溶接継手について説明したが、第3金属板16の数は上述の例に限定されず、2枚以上の第3金属板16が設けられてもよい。図5は、本発明のその他の実施形態に係る溶接継手を模式的に示す側面図である。
図5に示す溶接継手10bが、図1の溶接継手10と異なるのは、第1突出部12bと第2突出部14bとの間に、厚み方向に積層された複数(本実施形態では、2枚)の第3金属板16を備えている点である。
溶接継手10bにおいても、上述の溶接継手10と同様に、第1突出部12bの厚み、第2突出部14bの厚み、および第3金属板16の厚みはそれぞれ、第1板状部12aの厚みおよび第2板状部14aの厚みよりも小さい。また、本実施形態では、第1突出部12bの厚み、第2突出部14bの厚みおよび第3金属板16の厚みはそれぞれ、第1板状部12aの厚みおよび第2板状部14aの厚みの1/3以下に設定される。本実施形態では、第1突出部12bの厚み、第2突出部14bの厚みおよび第3金属板16の厚みはそれぞれ、第1板状部12aの厚みおよび第2板状部14aの厚みの略1/4の大きさに設定されている。
なお、溶接継手10bは、例えば、以下のようにして製造できる。まず、第2金属板14の第2突出部14bと2枚の第3金属板16とを仮付け溶接する。次に、2枚の第3金属板16と第2金属板14の第2板状部14aとを溶接する。その後、第1金属板12の第1突出部12bと第2金属板14の第2板状部14aとを溶接する。最後に、第1板状部12aと2枚の第3金属板16とを接合するとともに、第1板状部12aと第2突出部14bとを溶接する。これにより、溶接継手10bが得られる。
詳細な説明は省略するが、本実施形態に係る溶接継手10bにおいても、上述の溶接継手10と同様の効果が得られる。
(変形例)
上述の実施形態では、第1突出部12b、第2突出部14bおよび第3金属板16の長さL1,L2,L3(図1参照)が、第1突出部12b、第2突出部14bおよび第3金属板16の厚みt12,t22,t31(図1参照)の2.75倍以上に設定される場合について説明したが、第1突出部12b、第2突出部14bおよび第3金属板16の長さL1,L2,L3が第1突出部12b、第2突出部14bおよび第3金属板16の厚みt12,t22,t31の2.75倍未満に設定されてもよい。
また、上述の実施形態では、第3金属板16が、第1金属板12および第2金属板14,30と異なる材料からなる場合について説明したが、第3金属板16が、第1金属板12および/または第2金属板14,30と同じ材料からなってもよい。
本発明によれば、溶接部から第1金属板の第1板状部および第2金属板の第2板状部に亀裂が伝播すること、ならびに第1金属板と第2金属板との間で亀裂が伝播すること抑制することができる。したがって、本発明は、大型の構造物において利用される溶接継手において好適に利用できる。
10,10a,10b 溶接継手
12 第1金属板
12a 第1板状部
12b 第1突出部
14,30 第2金属板
16 第3金属板

Claims (6)

  1. 厚み方向に対して垂直な突き合わせ方向において互いに突き合わせ溶接された第1金属板および第2金属板を備えた溶接継手であって、
    前記第1金属板は、所定の厚みを有する第1板状部と、前記第1板状部の前記厚み方向における一端部から前記第2金属板に向かって前記突き合わせ方向に突出する板状の第1突出部とを有し、
    前記第2金属板は、所定の厚みを有する第2板状部を有し、
    前記厚み方向における前記第1突出部の他端側に、1以上の第3金属板が積層されており、
    前記1以上の第3金属板はそれぞれ、前記突き合わせ方向における一端部において前記第1板状部に溶接されており、前記突き合わせ方向における他端部において前記第2板状部に溶接されており、
    前記第2板状部の前記厚み方向における一端部は、前記第1金属板の前記第1突出部の先端部に溶接されており、
    前記第2板状部の前記厚み方向における他端部は、前記1以上の第3金属板よりも前記厚み方向における他端側において前記第2板状部の前記他端部から前記第1金属板に向かって前記突き合わせ方向に突出するように設けられた板状の第2突出部を介して前記第1板状部に溶接されており、
    前記第2突出部と前記第3金属板とは前記第1板状部側で仮付けされており、
    前記第1板状部と、前記第2突出部及び前記第3金属板との溶接部は前記厚み方向に連続しており、
    前記第1突出部、前記第2突出部および前記1以上の第3金属板それぞれの厚みは、前記第1板状部および前記第2板状部の厚みよりも小さい、溶接継手。
  2. 突き合わせ方向における前記第1突出部の長さを、前記第1突出部の突き合わせ方向における、前記第1板状部と前記第2突出部又は前記第3金属板との溶接部と、前記第1突出部と前記第2板状部との溶接部と、の最小の長さとし、
    突き合わせ方向における前記第2突出部の長さを、前記第2突出部の突き合わせ方向における、前記第2板状部と前記第1突出部又は前記第3金属板との溶接部と、前記第2突出部と前記第1板状部との溶接部と、の最小の長さとしたとき、
    前記突き合わせ方向における前記第1突出部の長さは、前記第1突出部の厚みの2.75倍以上であり、前記突き合わせ方向における前記第2突出部の長さは、前記第2突出部の厚みの2.75倍以上であり、前記突き合わせ方向における前記第3金属板の長さは、前記第3金属板の厚みの2.75倍以上である、請求項1に記載の溶接継手。
  3. 前記第3金属板のシャルピー衝撃値は、前記第1金属板および前記第2金属板のシャルピー衝撃値よりも大きい、請求項1または2に記載の溶接継手。
  4. 前記第1板状部及び前記第2板状部の厚みが50mm以上である、請求項1から3のいずれかに記載の溶接継手。
  5. 前記突き合わせ方向と前記厚み方向とに直交する方向に引張応力が発生している、請求項1からのいずれかに記載の溶接継手。
  6. 前記第2突出部は、前記第2金属板の一部である、請求項1からのいずれかに記載の溶接継手。
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