JP6120476B2 - 溶接用継手材 - Google Patents

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本発明は、異種金属同士の溶接接合に用いる溶接用継手材に関する。
産業用設備・装置には、様々な金属材料が使用されており、そのため、多くの異種金属同士の接合部が存在している。これらの異種金属を接合するとき、溶接できない金属材料の場合は、主にフランジを用いてボルト締めによる機械的な接合を施しているが、フランジのような機械的接合は、非常に簡便でかつコスト的に優れているものの、構造的な問題から定期的なメンテナンスが必要であり、かつリーク性能などの性能面で信頼性が低いといった問題がある。
一方、溶接が可能な異種金属同士の場合、フランジ同様、非常に簡便で製作コストが安くできるものの、もともとの特性が異なっている金属であるため、溶接すること自体が難しく、かつ合金の形成や溶接不良等が発生するため、溶接部の接合特性や機械的特性が低いといった問題がある。
そのため、過酷な環境下で使用される場合や非常に高い接合特性や機械特性を必要とする場合は、同種の金属同士が溶接できるように、予め異材同士を冶金的に接合させた溶接用継手材を用いることが多くなってきている。
特に、近年では極低温や高真空性能が必要な設備・装置のアルミニウム配管と各種金属配管との接合において、高いリーク性能及び低温環境下でも優れた機械特性を持つアルミニウム合金と各種金属からなる溶接用継手材が広く使用されている。
このような異種金属からなる溶接用継手材を製作する方法としては、爆発圧着、HIP、ロウ付けなどがある。継手材の部材構成は、両端は同種溶接となる材料であるが、その間に両端の金属材料を接合し易くするため、又は性能を向上させるために別の材料を挿入している構成のものもある。
しかしながら、このような高い性能を有するアルミニウム合金と各種金属からなる異材継手材においても、アルミニウム合金部にR加工のような段差を施した形状のものでは、溶接時の入熱でその段差部周辺でミクロクラックが発生し、リーク性能や機械特性が悪化することが明らかになった。
極低温環境下や高真空性能が求められる設備・装置では、媒体が高圧力や危険物質であることが多く、それらの部材が損傷すると、経済的損失だけではなく、人的被害を起こす可能性がある。このため、溶接によって異材継手部にクラックが存在すると、経時変化や不慮の応力集中によってクラックが進展し、上述したような問題に繋がりかねない。
ところで、以下の特許文献1には、爆発圧着によって製作されたアルミニウムと鋼の接合界面の波形(波の高さ、長さ)を制御することで、接合界面での機械的強度向上させ、溶接熱に対する界面での接合強さを向上させる方法が記載されている。
以下の特許文献2には、接合させる材料のそれぞれの接合面に、凹凸加工し、その凹凸をかみ合わせた状態で接合させることで、溶接熱に対する接合界面での接合強さを向上させる方法が記載されている。
以下の特許文献3には、アルミニウム又はアルミニウム合金とステンレス鋼との間にチタン、ニッケル層を設けることで、接合界面での接合強さを向上させ、溶接熱に対する接合強さを向上させる方法が記載されている。
以下の特許文献4には、アルミニウム+チタン+ニッケル+鋼の多層クラッド材の製造方法として、アルゴンガスを使用することで接合界面の合金を低減させる方法が記載されている。
以下の特許文献5には、アルミニウム合金と鋼の間にAg又はAg合金層を介在させる方法が記載されている。
以下の特許文献6には、アルミニウム合金+Ag+ステンレス鋼においてアルミニウム合金とAgの間に純アルミ層を介在させることが記載されている。
しかしながら、上述した文献のいずれにも、段差のあるアルミニウム合金と各種金属からなる溶接用継手材において、溶接時のアルミニウム合金の割れやクラックについての記載はない。また、これまで、アルミニウム合金成分が溶接熱による割れやクラック発生防止に及ぼす影響については何も検討されていない。
特許第3821966号公報 特開2000−135574号公報 特許第0980251号公報 特許第3323311号公報 特許第0947263号公報 特許第3431358号公報
本発明が解決しようとする課題は、段差のあるアルミニウム合金の層が少なくとも片側の最外端に配置された溶接用継手材において、溶接によるアルミニウム合金の割れを発生させない継手材を提供することである。
本発明者らは、前記課題を解決すべき鋭意検討し実験を重ねた結果、アルミニウム合金成分であるFe成分とMn成分の含有量を特定の値以下にすることで、溶接時の割れを防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]2mm以上のR部である段差を有するアルミニウム合金の層が片側の最外端に配置され、鋼又はステンレス鋼の層が、該アルミニウム合金の層が配置されている側と反対の最外端に配置されており、かつ、これらの層の間に中間材として、純アルミ、チタン若しくはチタン合金、ニッケル若しくはニッケル合金を、この順に、金属冶金的に接合した層を有する配管溶接用継手材において、該段差は、該継手材の直径が配管以上になることにより生じたものであり、該アルミニウム合金中のFe成分の含有量が0.18wt%以下であり、かつ、Mn成分の含有量が0.63wt%以下であることを特徴とする前記配管溶接用継手材。
]前記アルミニウム合金の層と、前記鋼又はステンレス鋼の層と、前記純アルミ、チタン若しくはチタン合金、ニッケル若しくはニッケル合金を、この順に、金属冶金的に接合した層とを、爆発圧着によって接合する工程を含む、前記[]に記載の配管溶接用継手材の製造方法。
溶接用継手材では、溶接時の熱影響でアルミニウム合金の割れやクラックが発生しない。
本発明の実施例及び比較例で用いた溶接用継手材の模式図である。 MIG溶接後のアルミニウム合金に発生したクラックのミクロ観察、及び成分分析結果を示す図面に代わる写真。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、段差を有するアルミニウム合金の層が少なくとも片側の最外端に配置された溶接用継手材において、該アルミニウム合金のFe成分とMn成分の含有量をそれぞれ特定の値以下にすることにより、溶接時の熱影響でアルミニウム合金の割れが生じず、また溶接性能が従来製品に比べ格段に向上した継手材である。
本明細書中、「アルミニウム」とは、JIS規格における合金番号1085、1080、1070、1050又は同等品の純アルミニウムをいう。
一方、本明細書中、「アルミニウム合金」とは、前述した純アルミニウム以外の、アルミニウムを主成分としFe成分及びMn成分を含む合金をいう。
本発明においては、アルミニウム合金中のFe成分の含有量は0.18wt%以下であり、かつ、Mn成分の含有量は0.63wt%以下である。Fe成分の含有量は、好ましくは0.01wt%以上0.16wt%以下であり、Mn成分の含有量は、好ましくは0.01wt%以上0.59wt%以下である。
本明細書中、「鋼又はステンレス鋼」とは、Feを主成分とするJIS規格記載のもの、又はJIS規格同等の成分構成をもつものである。
本明細書中、「段差」とは、機械加工などによって施された凹凸部やR加工をいう。
溶接用継手材は、通常、界面の接合強度やリーク性能、設計圧力を考慮した上で肉厚を決めるが、殆どの場合、溶接する部材の厚み以上になる。つまり配管形状の場合、継手の直径は、配管以上の直径になる。その場合、溶接しやすくするためにアルミニウム合金を開先加工する必要がある。具体的にはアルミニウム合金端部を切削加工によって肉厚を減らし、直径を配管と同じにしている。したがって、異種金属の溶接用継手材には「段差」が発生し、このような段差があるために、段差及び周辺部には、溶接時又は溶接後に、自重又はその他荷重が集中しやすくなっている。それ故、溶接時の熱影響で発生したクラックがさらに大きく進展する現象が現れる。
段差の形状及び高さは、用途に応じた設計寸法になる。高さに制限は無いものの、段差形状は、上述したように応力が集中しない形状が望ましい。一般的なR加工においては、Rはなるべく大きい方が望ましく、好ましくはR=2mm以上、より好ましくはR=5mm以上である。
溶接時の入熱については、できるだけ少ない方が好ましく、アルミニウム合金の接合界面への入熱は350℃×30min以内にすることが好ましい。
本発明の溶接用継手は、前述した産業装置・設備の各種配管だけでなく、建築構造物や輸送機器などのアルミニウム又はアルミニウム合金とその他各種金属を溶接接合する場合に用いることも可能である。
また、本発明の溶接用継手の形状についても制限は無く、配管溶接の場合はパイプ形状に、角柱同士の溶接であれば角柱にすることも可能である。継手の長さについても制限は無いが、アルミニウム合金とその他金属の接合界面への熱影響を抑制するため、かつアルミニウム合金先端部に溶接するための開先加工を施すため、アルミニウム合金部の長さは10mm以上が好ましく。より好ましくは20mm以上である。
本明細書中、「爆発圧着」とは、爆薬の高い圧力を利用した金属接合方法の1つであり、特に異種金属同士を熱負荷なしで強固に接合することのできる技術をいう。この技術の大きな特徴は、金属素材に熱を負荷させることなく、接合させることができるので、通常の方法では接合できない金属同士の組み合わせでも強固に接合することができることである。
また、本明細書中、「金属冶金的」とは、溶接などの融接、摩擦圧接や爆発圧着などの圧接、ロウ付けなどのろう接によって、金属同士を金属接合させることをいう。
また、爆薬とは爆轟波を発生する火薬類である。金属板を強固に接合させるためには、爆速が1,000m毎秒以上の爆薬を用いることが好ましく、より最適な接合力とするために、音速の1/3〜1/2となる1,500m〜3000m毎秒の爆薬を用いることがより好ましい。
爆薬としては、具体的には硝酸アンモニウムや硝酸エステル類のPETN(ペンタエリスリトールテトラナイトレート)やニトログリセリン、ニトロ化合物のTNT(トリニトロトルエン)、ニトラミンのシクロトリメチレントリニトラミンやシクロテトラメチレンテトラニトラミンなどが挙げられる。これらを単独で又は他爆薬成分あるいは他爆薬以外の成分を混合したものを用いてもよい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
下記材料を用いて爆発圧着によって製作した5層のクラッド板から、図1に示す形状の溶接用継手材を作製した。図1中、a=273mm、b=25.4mm、c=25mm,d=80mm、e=442mm、そしてR=5mmであった。尚、ステンレス鋼の上にニッケル、チタン、アルミニウム、アルミニウム合金を順番に、爆発圧着を合計4回実施した。アルミニウム合金としては、Fe成分:0.10wt%、Mn成分:0.53wt%のものを使用した。
それぞれ両端を同材同士で下記条件にてMIG溶接し、R部及びR部近傍について浸透探傷試験を実施した。尚、浸透探傷試験はJISZ2343-1〜3の規格とし、浸透液はタイプII(染色浸透液)、余剰浸透液の除去は方法C(有機溶剤)、現像剤はd(速乾式)を用いた。浸透探傷試験結果、R部及びR部近傍には指示模様も見られなかった。
また、継手材一部を機械加工で取り出し、アクリル樹脂に埋め込んだ後、観察面を150#〜2000#の湿式ペーパーで研磨し、1.0μmのアルミナ研磨で仕上げたサンプルを金属顕微鏡及びデジタルマイクロスコープを用いてミクロ観察を実施した。ミクロ観察でもクラックの発生の無いことを確認した。
(クラッド材に使用した材料及び寸法)
アルミニウム合金:JISA5083 40×1185×1522mm
アルミニウム :JISA1100 12×1185×1522mm
チタン :JISTP270 2×1185×1522mm
ニッケル :JISNW2200 2×1185×1522mm
ステンレス鋼 :JISSUS304L 35×1185×1522mm
(溶接条件)
室内温度:13℃
溶接熱:アルミニウム/チタン界面で最高220℃
溶接回数:3ビード(1st layer:130Amp,2.0mmφRod、2,3 Layer:200Amp,1.2mmφwire)
[実施例2]
アルミニウム合金として、Fe成分:0.18wt%、Mn成分:0.63wt%のものを使用した以外は、実施例1に使用したものと同じ金属材料を用いて爆発圧着によって製作したクラッド板から、図1と同じ形状の継手材を製作した。、継手材の両端を実施例1と同じ条件でMIG溶接し、浸透探傷試験を行った結果、実施例1と同様にR部及びR部近傍には指示模様も見られず、また、ミクロ観察でもクラックの発生の無いことを確認した。
[実施例3]
アルミニウム合金として、Fe成分:0.17wt%、Mn成分:0.40wt%のものを使用した以外は、実施例1に使用したものと同じ金属材料を用いて爆発圧着によって製作したクラッド板から、図1と同じ形状の継手材を製作した。継手材の両端を実施例1と同じ条件でMIG溶接し、浸透探傷試験を行った結果、実施例1と同様にR部及びR部近傍には指示模様も見られず、また、ミクロ観察でもクラックの発生の無いことを確認した。
[実施例4]
アルミニウム合金として、Fe成分:0.18wt%、Mn成分:0.09wt%のものを使用した以外は、実施例1に使用したものと同じ金属材料を用いて爆発圧着によって製作したクラッド板から、図1と同じ形状の継手材を製作した。継手材の両端を実施例1と同じ条件でMIG溶接し、浸透探傷試験を行った結果、実施例1と同様にR部及びR部近傍には指示模様も見られず、また、ミクロ観察でもクラックの発生の無いことを確認した。
[比較例1]
アルミニウム合金として、Fe成分:0.21wt%、Mn成分:0.41wt%のものを使用した以外は、実施例1に使用したものと同じ金属材料を用いて爆発圧着によって製作したクラッド板から、図1と同じ形状の継手材を製作した。継手の両端を実施例1と同じ条件でMIG溶接し、浸透探傷試験を行った結果、R部に指示模様が見られ、ミクロ観察にてクラックが発生していることを確認した。また、EPMA(測定機器:(株)島津製作所製EPMA-C1)にて、クラック周辺の成分分析を行ったところ、多くのクラックはFe及びMn成分が偏析している部分から発生していることを確認した(図2参照)。
[比較例2]
アルミニウム合金として、Fe成分:0.20wt%、Mn成分:0.66wt%のものを使用した以外は、実施例1に使用したものと同じ金属材料を用いて爆発圧着によって製作したクラッド板から、図1と同じ形状の継手材を製作した。継手の両端を実施例1と同じ条件でMIG溶接し、浸透探傷試験した結果、比較例1と同様に、R部に指示模様が見られ、ミクロ観察にてクラックが発生していることを確認した。また、EPMAにて、クラック周辺の成分分析を行ったところ、多くのクラックはFe及びMn成分が偏析している部分から発生していることを確認した。
[比較例3]
アルミニウム合金として、Fe成分:0.10wt%、Mn成分:0.65wt%のものを使用した以外は、実施例1に使用したものと同じ金属材料を用いて爆発圧着によって製作したクラッド板から、図1と同じ形状の継手材を製作した。継手の両端を実施例1と同じ条件でMIG溶接し、浸透探傷試験した結果、比較例1及び2と同様に、R部に指示模様がみられ、ミクロ観察にてクラックが発生していることを確認した。また、EPMAにて、クラック周辺の成分分析を行ったところ、多くのクラックはFe及びMn成分が偏析している部分から発生していることを確認した。
極低温環境下や高真空性能が求められる設備・装置は、媒体が高圧力や危険物質であることが多く、それらの部材が損傷すると、経済的損失だけではなく、人的被害を起こす可能性がある。このため、溶接によって異材継手部にクラックが存在すると、経時変化や不慮の応力集中によってクラックが進展し、上述したような問題に繋がりかねない。
本発明の溶接用継手材であれば、溶接でのクラック発生が抑えられ、継手材として本来の優れた性能を十分に発揮することができるため、上記設備・装置におうて好適に利用可能である。
1 アルミニウム合金の層
2 アルミニウムの層
3 チタンの層
4 ニッケルの層
5 ステンレス鋼の層

Claims (2)

  1. 2mm以上のR部である段差を有するアルミニウム合金の層が片側の最外端に配置され、鋼又はステンレス鋼の層が、該アルミニウム合金の層が配置されている側と反対の最外端に配置されており、かつ、これらの層の間に中間材として、純アルミ、チタン若しくはチタン合金、ニッケル若しくはニッケル合金を、この順に、金属冶金的に接合した層を有する配管溶接用継手材において、該段差は、該継手材の直径が配管以上になることにより生じたものであり、該アルミニウム合金中のFe成分の含有量が0.18wt%以下であり、かつ、Mn成分の含有量が0.63wt%以下であることを特徴とする前記配管溶接用継手材。
  2. 前記アルミニウム合金の層と、前記鋼又はステンレス鋼の層と、前記純アルミ、チタン若しくはチタン合金、ニッケル若しくはニッケル合金を、この順に、金属冶金的に接合した層とを、爆発圧着によって接合する工程を含む、請求項に記載の配管溶接用継手材の製造方法。
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