JP4074524B2 - 耐脆性破壊に優れた溶接構造体 - Google Patents
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Description
本発明は、突合せ溶接部が万一脆性破壊を生じても大規模な破断に至らない板厚が50mm以上の鋼板を突合せ溶接した溶接構造体、例えば大型コンテナ船、バルクキャリアー、建築鉄骨構造体、浮体構造体や海洋構造物等の耐脆性破壊に優れた溶接構造体に関するもので、特に大型コンテナ船やバルクキャリアー等の安全性を向上させた船殻の溶接構造体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶接構造体であるコンテナ船やバルクキャリアーは、タンカー等と異なり船倉内の仕切り壁が少なく、船上部の開口部が大きく開いている。即ち、タンカーは油槽により内部が細かく仕切られており、内部壁や上甲板に強度を分担させた構造となっている。これに対して、コンテナ船は、積載能力の向上や荷役効率の向上等のため上部開口部を大きくとった構造となっている。このため、コンテナ船では特に船体外板の強度を確保する必要がある。
【0003】
近年、コンテナ船は大型化し、6000〜20000TEUの大型コンテナ船が製造されたり、計画されたりするようになってきて、船体外板の鋼板は厚肉化、高強度化し、板厚50mm以上で降伏強度390N/mm2級以上の鋼板が用いられるようになってきている。なお、TEU(Twenty feet Equivalent Unit)は、長さ20フィートのコンテナに換算した個数を表し、コンテナ船の積載能力の指標を示している。
【0004】
船体外板となる鋼板は大入熱溶接である例えばエレクトロガスアーク溶接方法により溶接されているが、溶接入熱が大きいため大きな溶接熱影響部が形成され、溶接継手での脆性亀裂発生の原因となっていた。
【0005】
このため、溶接継手等での脆性亀裂を防止するために、脆性破壊特性と疲労特性に優れた鋼板(TMCP鋼板)が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
これまで、6000TEU以下のコンテナ船では、板厚50mm程度のTMCP鋼板等が使用されていて、溶接継手で亀裂が発生しても、溶接部の残留応力により、脆性亀裂が溶接継手部から母材側に逸れていくので、母材のアレスト性能を確保しさえすれば、万一、溶接継手部で脆性亀裂が発生しても母材で脆性亀裂を停止できると考えられてきた。
【0007】
また、板厚25mm程度の鋼板を用いた船殻の溶接構造体に関しては、複数の鋼板を交差状態に複合化して補強した構造が採用されていて、構造的に脆性亀裂伝播停止性能が飛躍的に改善されている。例えば、図1に示すように隔壁1が複数枚の平板を突合せ溶接継手2によって接合して一体に形成されると共に、隔壁1の表面に、補強材3が突合せ溶接継手2と交差するように隅肉溶接部4により取り付けられており、かつ、突合せ溶接継手2と隅肉溶接部4との干渉を逃し穴5の形成によって避けるようにしているものがある(例えば、特許文献2)。
しかし、この逃がし穴部の溶接部が廻し溶接継手の形状となり、疲労亀裂が発生しやすい最も危険度の高い構造となるため、船体外殻のように疲労亀裂の発生も懸念される溶接構造物に採用するには大きな問題がある。
【0008】
【特許文献1】
特開平6−88161号公報
【特許文献2】
特開平6−336188号公報(第4図)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しなしながら、コンテナ船の大型化が進み、6000TEUを超えるコンテナ船では板厚50mmを超える、かつ設計応力が高い高張力鋼の厚鋼板が使用されるようになってきている。このような厚鋼板では、溶接継手部の破壊靭性の程度によっては、脆性亀裂が母材に逸れることなく、溶接継手部の熱影響域に沿って伝播することが本発明者の8000トン大型試験機による大型破壊試験により明らかとなった。
【0010】
そこで、本発明では、50mm以上の板厚の鋼板であっても、万一、突合せ溶接継手に脆性亀裂が発生、伝播しても、船体構造等の溶接構造体の致命的な破断を防止できる溶接構造体を提供することを課題とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、板厚が50mm以上の鋼板を突合せ溶接した溶接構造体において、突合せ溶接部に交差するように補強材となる骨材を隅肉溶接で取り付け、該骨材として脆性破壊特性に優れた表層細粒鋼を用いることにより、突合せ溶接継手に脆性亀裂が発生、伝播しても、隅肉溶接で取り付けた骨材へ脆性亀裂が突入しないので、骨材が破断せずに、脆性亀裂伝播が防止でき溶接構造体の致命的な破断を防止できることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0013】
(1) 板厚が50mm以上の鋼板を突合せ溶接した溶接構造体において、突合せ溶接部に交差するように配置された骨材に、表層部及び裏層部において3mm以上の厚み領域にわたり、0.5〜5μmの平均円相当粒径を有すると共に板面に平行な面において(100)結晶面のX線面強度比が1.5以上である鋼板を用い、その骨材を突合せ溶接部を有する構造部位に対し隅肉溶接で接合したことを特徴とする耐脆性破壊に優れた溶接構造体。
【0014】
(2)前記溶接構造体が船舶の船殻外板であることを特徴とする上記(1)記載の耐脆性破壊に優れた溶接構造体。
【0016】
(3)前記骨材が、前記鋼板のみを少なくとも2枚以上積層させたものであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の耐脆性破壊に優れた溶接構造体。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明者による鋼板の脆性破壊に係る試験によれば、板厚50mm未満の鋼板に、図2に示すように、鋼板1の突合せ溶接継手部2と交差するように隅肉溶接4により一般鋼で製作した骨材(補強板)を取り付けると、突合せ溶接継手部2(溶接金属と鋼板1の境目)に脆性亀裂が発生しても骨材3により脆性亀裂の伝播が止められて(アレスト)、破断に至らないことも多い。しかし、板厚が50mm以上、70mm程度と板厚が厚くなると、骨材自体のアレスト性能の確保も充分でなくなり、特に板厚方向に大きな靭性分布が生じるため、脆性亀裂が矢印(→)に示すように船殻外板である鋼板1と骨材3を取り付けている隅肉溶接部2の境目を通って、該骨材に突入して、伝播が始まる。そして、骨材の板厚内部の靭性の低い領域を脆性亀裂が先行して伝播し、その後、骨材3の表層部へも伝播して該骨材3を破断させてしまう。即ち、50mm以上、特に70mm以上の厚肉鋼板については、骨材を隅肉溶接で取り付けても、構造的なクラックアレスターとして機能し得ないことのあることを見出した。
【0019】
そこで、骨材に脆性亀裂が突入した経路が隅肉溶接部であったので、船殻外板の鋼板突合せ溶接部の熱影響部(HAZ部)と交差する骨材部分の隅肉溶接をしない試験体を作製し、骨材への脆性亀裂の突入経路をなくしてしまった実験を行った。その結果、骨材は脆性破断することなく、構造体としてのクラックアレスターの機能は発揮できることを知見した。即ち、骨材の破壊の原因が隅肉溶接に大きく影響されることが分かった。
【0020】
そこで、隅肉溶接していても骨材に脆性亀裂が侵入しない鋼板を使用すれば、隅肉溶接部からの脆性亀裂の突入を防止できると考え、図3(b)に示すように、鋼板の表裏層部に、0.5〜5μmの結晶粒径を有し、かつ当該部位の集合組織が鋼板の表裏面における(100)結晶面のX線面強度比が、1.5以上である表層細粒層6を有する脆性破壊特性に優れた鋼板を骨材(補強板)3として、鋼板1を突き合わせ溶接して構成した船体構造の少なくともハッチコーミングの上部、あるいはシアストレーキの上部に隅肉溶接4により適用することを行った。その結果、突合せ溶接継手部2が脆性破壊を起こし、突合せ溶接した際の溶接熱影響部に沿って脆性亀裂が伝播しても、骨材3の接合位置より多くとも数十mm伝播するだけで停止でき、致命的な損傷を与えることを防止できることを確認した。
【0021】
なお、突合せ溶接継手の溶接ビードは、必要に応じてその表面を平らにし、骨材を隅肉溶接により接合すればよい。
【0022】
また、アレスターとして使用する骨材は、船殻外板の板厚が70mmであったとしても、その板厚より薄い50mm程度であっても、十分なアレスターとしての機能を有する。しかし、骨材と船殻外板の板厚とをほぼ同厚とすることが好ましい。
【0023】
また、船体構造の剛性を確保するために、骨材に50mm以上の鋼板が必要な場合には、図3(a)に示すように、アレスターとして機能させる薄肉の鋼板のみを少なくとも2枚以上積層させて50mm以上とした積層鋼板7を骨材3とすることにより、50mm以上の厚肉の鋼板と同等の骨材(補強板)3とすることができる。
【0024】
本発明は、船体構造のみならず、溶接継手において脆性亀裂の発生、伝播を防止するために溶接構造物に広く適用可能な溶接構造体であり、建築鉄骨の溶接継手構造、海洋構造物の溶接構造、橋梁の溶接構造、メガフロートと称される浮体構造等に適用できる。
【0025】
本発明では、表裏層結晶粒を細粒化した脆性破壊特性に優れた鋼材を骨材として用いることにより、鋼板母材の脆性亀裂の伝播を効果的に防止することができる。例えば、鋼板の表層部及び裏層部において3mm以上の厚み領域にわたり、0.5〜5μmの平均円相当粒径を有し、かつ板面に平行な面において(100)結晶面のX線面強度比が1.5以上である鋼板である。
【0026】
本発明の骨材としての鋼板又は、船殻外板としては公知の成分の溶接用構造用鋼から製造することができる。その成分は、例えば、質量%で、C:0.02〜0.20%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.3〜2.0%、Al:0.001〜0.20%、N:0.02%以下、P:0.01%以下、S:0.01%以下を含有する鋼を基本成分とし、母材強度の上昇、継手靭性の向上等の目的のため、要求される性質に応じて、Ni、Cr、Mo、Cu、W、Co、V、Nb、Ti、Zr、Ta、Hf、REM、Y、Ca、Mg、Te、Se、Bの内の1種又は2種以上を含有した鋼である。
【0027】
また、骨材としての鋼板は、例えば、上記成分の溶接用構造用鋼の鋼材をAc3点以上の温度にて圧延し、圧延途中に鋼材表層から
3×(冷却時のスラブ厚み)/(圧延終了後の鋼板の厚み)mm
以上の領域を2℃/sec以上の冷速でAr1点以下まで急冷して、その後、当該表層部をAr3点以上の温度としてから圧延を開始もしくは再開し、(Ac3−50)℃から(Ac3)℃の範囲で圧延を終了し、その後Ac3点以上に復熱させることなく、少なくともAr1点迄を当該表層部を1℃/sec以上の冷速で冷却することによって製造することができる。
【0028】
集合組織の発達した鋼板のセパレーションは板厚方向で割れを生じるために、亀裂や切欠先端の応力集中度の低下が期待でき、鋼材の脆性破壊に対して有利である。
【0029】
このセパレーションは(100)面と(111)面の集合組織が発達している組織において、応力が負荷されると、それに応じた歪(変位)が結晶方位により異なるため、(100)集合組織と(111)集合組織の界面でずれが生じ、亀裂の芽が発生した結果形成されることが知られている。しかし、脆性亀裂伝播においては、セパレーションがほとんど観察されない。歪速度が大きい脆性破壊伝播において、亀裂先端の応力状態を緩和させるには、集合組織コロニーが0.5〜5μm以下の平均円相当粒径を有し、板面に平行な面において(100)結晶面のX線面強度比が1.5以上の強度比を有することが必要である。そして、鋼板の表層部及び裏層部において3mm以上の領域にわたって上記細粒組織を設けることにより、脆性破壊特性と疲労強度特性が著しく向上する。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基いて詳細に説明する。
【0031】
板厚が25mm、50mm、及び70mmの3種類の厚みの表面改質鋼板及び一般鋼板(構造用鋼板)を骨材として準備した。
【0032】
なお、表面改質鋼板は、表裏層の微細結晶粒層の厚み(深さ領域)、結晶粒径及び(100)面強度比が異なる鋼板を準備した。
また、一般鋼板は造船用降伏強度390MPa級Dグレード鋼板である。
【0033】
図4(a)〜(c)は溶接構造体の亀裂伝播試験のための試験片を示す図であり、(b)は(a)のI−I側断面、(c)は試験片8の部分拡大図である。試験片8は、図4(a)に示すように、板厚70mm×板幅1250mmの2枚の鋼板(構造用鋼板)をエレクトロガスアーク溶接により突合せ溶接し、その両端にはピン11を有するタブ板14を連接15している。また、図4(b)及び(c)に示すように、試験片8のエッジ(上端)から1000mmの位置で突合せ溶接部9に交差するように1枚、2枚重ね又は3枚重ね状態の板幅500mmの骨材3を隅肉溶接で接合して製作している。そして図4(c)に示すように、溶接部9のエッジから200〜400mmの位置に切欠10を設けた。
【0034】
亀裂伝播試験は、試験片8の亀裂伝播部分である溶接部9を冷却し、その温度を−10℃の試験温度(一定温度試験)とし、ピン11により矢印方向に荷重12を負荷して、亀裂伝播状態とし、亀裂が停止する位置13までの停止亀裂長(mm)16を調査した。また、亀裂伝播領域の応力は、歪ゲージにより確認した。
【0035】
亀裂伝播試験の試験条件及び結果を表1に示す。
【0036】
表1に示すように、本発明例のNo.1〜3は、骨材として本発明範囲内の表面改質鋼を使用したもので、特に、本発明例のNo.2、3は同質の表面改質鋼を重ねて用いた例である。No.1〜3のいずれも停止亀裂長(切欠長200mm+亀裂伝播長さの合計)が1000mm以下であり、骨材により亀裂伝播がアレストされた。
【0038】
これに対して、比較例No.1は表層改質鋼の骨材を用いているが、表裏層の細粒化層の厚みが2mmであって本発明の厚み3mm以上の要件を満たしていないので、溶接部に亀裂伝播が発生し、骨材の役割を果たしていなかった。比較例のNo.2は、表層改質鋼の骨材を用いているが、細粒化層の結晶粒径が6.2μmと大きく、1〜5μmの本発明の範囲外となっているので、亀裂伝播を防止できなかった。
【0039】
比較例No.3は、表層改質鋼の骨材を用いているが改質層の(100)結晶面のX線面強度比が1.06であって、1.5以上の本発明の範囲外となっているので、亀裂伝播を防止できなかった。
比較例No.4、5は骨材として表層も含めて厚さ方向全体における結晶粒は本発明の上限を外れ、かつ、比較例No.5は(100)面強度比も本発明の下限を外れた一般鋼を使用した場合の例であり、いずれも亀裂伝播を防止できなかった。
【0040】
【表1】
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、溶接構造体に、万一、突合せ溶接継手に脆性亀裂が発生し、伝播してもその脆性亀裂の伝播を止めることができ、溶接構造体が破壊するような致命的な損傷を防止することができるという顕著な作用効果を生じる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 船殻の補強溶接構造体を示す図である。
【図2】 溶接構造体の脆性亀裂伝播を説明するための図である。
【図3】 脆性亀裂伝播を防止するための溶接構造体を示す図である
【図4】 溶接構造体の亀裂伝播試験のための溶接構造体の試験片を示す図である。
【符号の説明】
1 鋼板(隔壁)
2 突合せ溶接継手部
3 骨材(補強板)
4 隅肉溶接部
5 逃がし穴
6 1〜5μmの結晶粒径を有する表層細粒層
7 積層鋼板
8 試験片
9 溶接部
10 切欠き
11 ピン
12 荷重
13 停止位置
14 タブ板
15 連接
16 停止亀裂長
17 隅肉溶接
Claims (3)
- 板厚が50mm以上の鋼板を突合せ溶接した溶接構造体において、突合せ溶接部に交差するように配置された骨材に、表層部及び裏層部において3mm以上の厚み領域にわたり、0.5〜5μmの平均円相当粒径を有すると共に板面に平行な面において(100)結晶面のX線面強度比が1.5以上である鋼板を用い、その骨材を突合せ溶接部を有する構造部位に対し隅肉溶接で接合したことを特徴とする耐脆性破壊に優れた溶接構造体。
- 前記溶接構造体が船舶の船殻外板であることを特徴とする請求項1記載の耐脆性破壊に優れた溶接構造体。
- 前記骨材が、前記鋼板のみを少なくとも2枚以上積層させたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐脆性破壊に優れた溶接構造体。
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