JP4772921B2 - 耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体 - Google Patents
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Description
特に、厚鋼板を用いて溶接を適用した溶接構造物の溶接継手において脆性き裂が発生した場合でも、その伝播を制御、抑制して安全性を向上させることができる耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体に関する。
ここで、TEU(Twenty feet Equivalent Unit)とは、長さ20フィートのコンテナに換算した個数を表し、コンテナ船の積載能力の指標を示している。
このような大型コンテナ船は、積載能力や荷役効率の向上のため、仕切り壁を無くして上部開口部を大きく確保した構造とされており、特に、船殻外板や内板の強度を確保する必要があるため、上記のような高強度鋼板が用いられている。
この結果、アレスタ部材の形状並びに鋼材特性を適正化することにより、溶接継手及び母材における脆性き裂の伝播を抑制し、溶接構造体に大規模な破壊が発生するのを防止できることを見出し、次のような基本態様を見出した。
前記鋼板溶接継手の少なくとも一箇所に、鋼板溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を制御する耐き裂制御部が設けられており、該耐き裂制御部は、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm 1.5 以上の鋼材からなり、前記鋼板溶接継手から前記鋼板にまたがって形成された貫通穴に挿入されたアレスタ部材、及び、該アレスタ部材の外縁部と、それに対向する鋼板母材とが突合せ溶接されて形成されたアレスタ溶接継手を有しており、前記アレスタ部材は、前記鋼板溶接継手の長手方向に沿った高さH(mm)、鋼板溶接継手の長手方向と交差する方向における横幅W(mm)、及び板厚t(mm)の各々の寸法が、下記(1)〜(3)式で表される関係を満足するように形成され、かつ、該アレスタ部材の脆性き裂主対抗側の外縁部は、前記鋼板溶接継手の溶接金属部から前記鋼板溶接継手の両側に、鋼板溶接継手の長手方向に対して15°以上50°以下の角度で傾斜して延伸するとともに、他方の脆性き裂副対抗側の外縁部は、70°以上110°以下の角度で前記鋼板溶接継手と交差しており、少なくとも、前記アレスタ部材の横幅方向端部が、前記鋼板のKcaが4000N/mm 1.5 以上である領域に向かい合うように、前記耐き裂制御部を設けたこと、を特徴とする耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
1.2T ≦ H ・・・・・ (1)
3.2d ≦ W ・・・・・ (2)
0.75T ≦ t ≦ 1.5T ・・・・・(3)
但し、上記(1)〜(3)式中において、Tは前記鋼板の板厚(mm)を表し、dは前記鋼板溶接継手における溶接金属部の幅(mm)を表す。
[B]前記アレスタ材の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs2(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次式、vTrs2 ≦ vTrs1−20で表される関係を満たすこと、を特徴とする上記[B]に記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
[C]前記アレスタ溶接継手における溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs3(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次式、vTrs3 ≦ vTrs1−20で表される関係を満たすこと、を特徴とする上記[A]又は[B]に記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
[D] 前記アレスタ溶接継手における溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs3(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次式、vTrs1+20 ≦ vTrs3 ≦ 0で表される関係を満たすこと、を特徴とする上記[A]又は[B]に記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
[E] 前記鋼板の板厚が25mm以上150mm以下であること、を特徴とする上記[A]〜[D]の何れかに記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
[F] 前記鋼板は、少なくとも一部の領域の脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm 1.5 以上であり、前記耐き裂制御部は、少なくとも、前記アレスタ部材の横幅方向端部が、前記鋼板のKcaが6000N/mm 1.5 以上である領域に向かい合うように設けられていること、を特徴とする上記[A]〜[E]の何れか記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
前記鋼板溶接継手の少なくとも一箇所に、鋼板溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を制御する耐き裂制御部が設けられており、
該耐き裂制御部は、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上の鋼材からなり、前記鋼板溶接継手から前記鋼板にまたがって形成された貫通穴に挿入されたアレスタ部材、及び、該アレスタ部材の外縁部と、それに対向する鋼板母材とが突合せ溶接されて形成されたアレスタ溶接継手を有しており、
前記アレスタ部材は、前記鋼板溶接継手の長手方向に沿った高さH(mm)、鋼板溶接継手の長手方向と交差する方向における横幅W(mm)、及び板厚t(mm)の各々の寸法が、下記(1)〜(3)式で表される関係を満足するように形成され、かつ、
該アレスタ部材の脆性き裂主対抗側の外縁部は、前記鋼板溶接継手の溶接金属部から前記鋼板溶接継手の両側に、鋼板溶接継手の長手方向に対して15°以上50°以下の角度で傾斜して延伸するとともに、他方の脆性き裂副対抗側の外縁部は、70°以上110°以下の角度で前記鋼板溶接継手と交差しており、
少なくとも、前記アレスタ部材の横幅方向端部が、前記鋼板のKcaが4000N/mm1.5以上である領域に向かい合うように、前記耐き裂制御部を設けられており、
前記鋼板は、前記鋼板溶接継手の長手方向で配列される少なくとも2以上の鋼板からなるとともに、該長手配列鋼板を互いに突合せ溶接することで長手配列溶接継手が形成されており、
前記耐き裂制御部は、前記アレスタ部材の脆性き裂副対抗側に形成される前記アレスタ溶接継手が前記長手配列溶接継手に接するように設けられていること、を特徴とする耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
1.2T ≦ H ・・・・・ (1)
3.2d ≦ W ・・・・・ (2)
0.75T ≦ t ≦ 1.5T ・・・・・(3)
但し、上記(1)〜(3)式中において、Tは前記鋼板の板厚(mm)を表し、dは前記鋼板溶接継手における溶接金属部の幅(mm)を表す。
前記鋼板溶接継手の少なくとも一箇所に、鋼板溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を制御する耐き裂制御部が設けられており、
該耐き裂制御部は、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm 1.5 以上の鋼材からなり、前記鋼板溶接継手から前記鋼板にまたがって形成された貫通穴に挿入されたアレスタ部材、及び、該アレスタ部材の外縁部とそれに対向する鋼板母材とが突合せ溶接されて形成されたアレスタ溶接継手を有しており、
前記アレスタ部材は、前記鋼板溶接継手の長手方向に沿った高さH(mm)、鋼板溶接継手の長手方向と交差する方向における横幅W(mm)、及び板厚t(mm)の各々の寸法が、下記(1)〜(3)式で表される関係を満足するように形成され、かつ、
該アレスタ部材の脆性き裂主対抗側の外縁部は、前記鋼板溶接継手の溶接金属部から前記鋼板溶接継手の両側に、鋼板溶接継手の長手方向に対して15°以上50°以下の角度で傾斜して延伸するとともに、他方の脆性き裂副対抗側の外縁部は、70°以上110°以下の角度で前記鋼板溶接継手と交差しており、
少なくとも、前記アレスタ部材の横幅方向端部が、前記鋼板のKcaが4000N/mm 1.5 以上である領域に向かい合うように、前記耐き裂制御部を設けられており、
前記鋼板は、前記鋼板溶接継手の長手方向で配列される少なくとも2以上の鋼板からなるとともに、該長手配列鋼板を互いに突合せ溶接することで長手配列溶接継手が形成されており、
前記耐き裂制御部は、前記アレスタ部材の脆性き裂副対抗側に形成される前記アレスタ溶接継手が前記長手配列溶接継手を含むように設けられ、
さらに、前記長手配列溶接継手をなす溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs4(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次式、
vTrs4 ≦ vTrs1−20
で表される関係を満たすこと、を特徴とする耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
1.2T ≦ H ・・・・・ (1)
3.2d ≦ W ・・・・・ (2)
0.75T ≦ t ≦ 1.5T ・・・・・(3)
但し、上記(1)〜(3)式中において、Tは前記鋼板の板厚(mm)を表し、dは前記鋼板溶接継手における溶接金属部の幅(mm)を表す。
[3] 前記アレスタ材の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs2(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次式、vTrs2 ≦ vTrs1−20で表される関係を満たすこと、を特徴とする上記[1]又は[2]に記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
[4] 前記アレスタ溶接継手における溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs3(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次式、
vTrs3 ≦ vTrs1−20
で表される関係を満たすこと、を特徴とする上記[1]〜[3]の何れかに記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
[5] 前記アレスタ溶接継手における溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs3(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次式、
vTrs1+20 ≦ vTrs3 ≦ 0
で表される関係を満たすこと、を特徴とする上記[1]〜[3]の何れかに記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
[7] 前記鋼板は、少なくとも一部の領域の脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上であり、前記耐き裂制御部は、少なくとも、前記アレスタ部材の横幅方向端部が、前記鋼板のKcaが6000N/mm1.5以上である領域に向かい合うように設けられていること、を特徴とする上記[1]〜[6]の何れか記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
このような本発明に係る溶接構造体が、大型船舶をはじめ、建築構造物や土木鋼構造物等の各種溶接構造物に使用されることで、溶接構造物の大型化、破壊に対する高い安全性、建造における溶接の高能率化、鋼材の経済性等々が同時に満たされことから、その産業上の効果は計り知れない。
本発明者等は、上述のような脆性き裂の伝播方向を効果的に制御し、溶接構造体においてき裂が伝播するのを抑制するためには、上記従来技術において、さらにアレスタ部材の形状並びに鋼材特性を適正化することが重要であることを知見した。
本発明の基本原理について図1、2を用いて説明する。
本発明では、鋼板溶接継手2に対して傾斜したアレスタ溶接継手6を、鋼板溶接継手2に連続して形成することで、脆性き裂の進展を鋼板溶接継手2からアレスタ溶接継手に容易に導くことができる。
例えば、アレスタ部材5の厚みが、鋼板1の厚みより小さい場合には、アレスタ溶接継手6に突入したき裂CRは、次いでアレスタ部材5に突入することもある。このような場合でも、アレスタ部材5のKcaを高くし、かつアレスタ部材の鋼板溶接継手に沿った方向の高さを十分なものにしておけば、アレスタ部材5内部でき裂CRの進展を停止することができる。
逆に、アレスタ部材5のKcaが低い場合やアレスタ部材の高さが十分でない場合などでは、図2−dのように、アレスタ部材5を貫通して鋼板溶接継手に戻り、再び鋼板溶接継手を伝播することもあり得る。
<全体の構成>
第1の実施形態は、図3に示すように、母材の少なくとも一部の領域1A、1Aの脆性き裂伝播停止特性Kcaが4000N/mm1.5以上である鋼板1、1を突合せ溶接することで鋼板溶接継手2が形成されている場合の例であり、以下、この継手に適用した形態を溶接構造体Aと呼称して説明する。
溶接構造体Aにおいては、鋼板溶接継手2の少なくとも一箇所に、耐き裂制御部4が前記領域1Aに隣接するように設けられる。耐き裂制御部4が設けられる位置は、衝突や地震などによる大きな破壊エネルギーにさらされたときに、き裂の発生・伝播が予想される鋼板溶接継手の途中が望ましい。
耐き裂制御部4は、鋼板1を貫通するように設けられ、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上の鋼材からなるアレスタ部材5と、該アレスタ部材5が鋼板1に対して突合せ溶接されることで形成されるアレスタ溶接継手6とからなっている。
アレスタ溶接継手6は、脆性き裂の伝播が予想される主対抗側を、鋼板溶接継手2に連続して形成し、かつ鋼板溶接継手2に対して傾斜して形成することで、脆性き裂の進展を鋼板溶接継手2からアレスタ溶接継手に導くようにする。このため、アレスタ部材5は、鋼板溶接継手2の溶接線L上から延在する外縁部51、52が、鋼板溶接継手2の長手方向に対して15°以上50°以下の範囲の角度で傾斜するように形成されている。図3の溶接構造体Aでは、アレスタ部材5が、平面視略正三角形として形成されている例を示している。
鋼板1は、母材の少なくとも一部の脆性き裂伝播停止特性Kcaが4000N/mm1.5以上とされる鋼材からなる。
大型の構造物を形成する溶接構造体においては、全領域がKca4000N/mm1.5以上の高い領域の脆性き裂伝播停止特性を有する鋼材を用いて構築されているものばかりではなく、製造過程の熱処理により鋼板の一部領域で脆性き裂伝播停止特性を高めた鋼板や、全領域がKca4000N/mm1.5以上の鋼板であっても、途中の曲げ加工などで加熱処理を受けて一部領域のKcaが低下した鋼板を用いる場合がある。
例えば、質量%で、C:0.01〜0.18%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.3〜2.5%、P:0.01%以下、S:0.001〜0.02%を含有する組成を基本とし、この組成に、求められる性能に応じて、さらに、N:0.001〜0.008%、B:0.0001〜0.005%、Mo:0.01〜1.0%、Al:0.002〜0.1%、Ti:0.003〜0.05%、Ca:0.0001〜0.003%、Mg:0.001〜0.005%、V:0.001〜0.18%、Ni:0.01〜5.5%、Nb:0.005〜0.05%、Cu:0.01〜3.0%、Cr:0.01〜1.0%、REM::0.0005〜0.005%の1種または2種以上を含有させ、残部はFe及び不可避不純物によって構成される鋼があげられる。
特に、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上の鋼板としては、特開2007−302993号公報や、特開2008−248382号公報などに示されるような組成の厚鋼板が好適に使用できる。
アレスタ部材5は、図3に示すように、鋼板溶接継手2によって接合される鋼板1の各々に形成された貫通孔3に、鋼板溶接継手2の溶接線Lを中心として鋼板1の各々において好ましくは対称となるように配置される。また、アレスタ部材5は、鋼板1に形成された貫通孔3内に露出する溶接端に対して突合せ溶接されることで形成されるアレスタ溶接継手6とともに、耐き裂制御部4を構成する。
アレスタ部材5は、上述したような耐き裂制御部4を構成することにより、仮に、鋼板溶接継手2にき裂が生じた場合でも、該き裂の伝播方向を制御し、鋼板溶接継手2を貫くようにき裂が伝播して互いに溶接された鋼板1同士が分断するのを防止するものである。
また、傾斜角度θ1が50°を超えると、鋼板溶接継手の長手方向と外縁部とが直交する角度、つまり90°に近づくため、鋼板溶接継手を伝播した脆性き裂を、鋼板1とアレスタ溶接継手6に沿って伝播するように制御するのが困難になる。このため、アレスタ部材に直接的に脆性き裂が突入し、き裂の伝播が停止しきれずにアレスタ部材を通過し、再び鋼板溶接継手に突入して伝播するおそれがある。
脆性き裂がアレスタ溶接継手6に沿って伝播するように導くための傾斜角度θ1の好ましい範囲は、20°以上45°以下であり、より好ましい範囲は25°以上40°以下である。
何れの場合でも、アレスタ部材の傾斜外縁部51、52の後端51a、52aを結ぶ副対抗側の外縁部53と溶接線Lとのなす角度θ2が70°以上110°以下であることが好ましい。
この角度が70°未満の場合には、アレスタ溶接継手6に沿って伝播してきた脆性き裂が、鋼板の母材側に逸れず、副対抗側の外縁部53を伝播して、再び鋼板溶接継手に突入するおそれがある。また、角度が110°超であると、アレスタ部材の形状によっては、アレスタ部材に脆性き裂が突入した場合に、き裂の伝播を停止できないおそれがある。角度θ2のより好ましい範囲は、80°以上100°以下である。
なお、図4では、溶接線Lに対して片側にθ2を示したが、他側も同様である。
1.2T ≦ H ・・・・・ (1)
3.2d ≦ W ・・・・・ (2)
0.75T ≦ t ≦ 1.5T ・・・・・(3)
但し、上記(1)〜(3)式中において、Tは前記鋼板の板厚(mm)を表し、dは前記鋼板溶接継手における溶接金属部の幅(mm)を表す。
なお、アレスタ部材の高さHと横幅Wは、アレスタ溶接継手の溶接金属部の中点を基準とする。図4に示すような場合のアレスタ部材の高さHは、アレスタ溶接継手と鋼板溶接継手の交差する箇所の間の距離であり、横幅Wは鋼板溶接継手に直角な方向の最大幅である。また、溶接金属部の幅dは、鋼の両面に溶接金属部が形成されている場合は、広い方の幅とする。
アレスタ溶接継手における溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs3が鋼板の母材靱性を表すvTrs1より劣っている場合などでは、鋼板溶接継手を進展してきた脆性き裂は、ついで、アレスタ溶接継手に進入する。その際、アレスタ部材5の高さ寸法Hが、鋼板1の板厚Tの1.2倍に比して、より小さい場合には、どの板厚の場合でも、進展してきたき裂はアレスタ部材の傾斜外縁部に沿って逸れることなく、アレスタ部材5に突入し、なおかつ、アレスタ部材5の内部でき裂の進展を停止させることができない。
進展してきたき裂のエネルギーは、鋼板板厚Tに比例しており、また、き裂の進展方向を逸らせる駆動力は、アレスタ部材5に加わる応力に依ると考えられているが、この応力は、アレスタ部材5の高さ寸法Hに比例するから、両者の相関関係に基づき、アレスタ部材の高さ寸法Hの下限値として、上記(1)式を規定した。Hの上限値は設けていないが、実施時には、溶接継手2の寸法に収まる範囲に自ずと規定される。
鋼板溶接継手2を進展してきたき裂は、アレスタ部材5によって進展方向を変化させられ、外縁部である51または52に沿って進展する。その際、アレスタ部材5の幅寸法Wが、溶接金属部の幅dの3.2倍に比してより小さい場合には、後端51aまたは52aに到達したき裂は、副対抗側の外縁部53のうちの左右どちらかを伝播し、再度、鋼板溶接継手2に戻り、そのまま進展して、停止しない可能性がある。
傾斜外縁部51、52の後端51a、52aに到達したき裂が、鋼板1に向かって、鋼板溶接継手の溶接金属にほぼ平行方向に進展させるための駆動力は、アレスタ部材5に加わる応力に依ると考えられているが、この応力は、溶接継手2の中心を通る溶接線Lと副対抗側の外縁部53の交点から、後端51aあるいは52aまでの距離に比例するからである。上記の相関関係により、アレスタ部材の幅寸法Wの下限値として、上記(2)式を規定した。Wの上限値は設けていないが、実施時には、溶接継手2の寸法に収まる範囲に自ずと規定される。
アレスタ部材5の板厚tが、鋼板1の板厚の0.75倍に比して、より小さい場合には、進展してきたき裂は逸れることなく、アレスタ部材5に突入し、なおかつ、アレスタ部材5の内部にて、き裂を停止させることができなかった。これは進展してきたき裂のエネルギーは板厚Tに比例しているが、アレスタ部材5の脆性き裂伝播停止特性Kcaがちょうど6000N/mm1.5である場合、アレスタ部材5の板厚tが、鋼板1の板厚の0.75倍に比してより小さい場合には、試験した鋼板板厚の範囲内では、アレスタ部材の内部の応力が高いため、き裂を停止できなかった。一方、アレスタ部材5の板厚tが、鋼板1の板厚の1.5倍よりも大きい場合には、アレスタ溶接継手の溶接金属止端部の応力集中の影響により、脆性き裂がアレスタ溶接継手と鋼板溶接継手の境界部を伝播し、脆性き裂副対抗側の外縁部を回り込むことが実験により明らかとなった。この理由は、き裂の進展方向を逸らせる駆動力としてのアレスタ部材5に加わる応力が、板厚tが大きくなることにより弱まることになるからと考えられる。
さらに、アレスタ部材の高さHは、250mm以上、または300mm以上、さらには、400mm以上がより好ましく、横幅Wは、200mm以上、または250mm以上、さらには、300mm以上がより好ましい。
vTrs2 ≦ vTrs1−20 ・・・(4)
で表される関係を満たすことがより好ましい。
アレスタ部材5の靱性と鋼板1の母材靱性との関係が上記関係式を満たすことにより、仮に、脆性き裂がアレスタ溶接継手に進入する事態が生じた場合であっても、確実にき裂の伝播方向を鋼板1の母材側へ効果的に逸らすことが可能となる。アレスタ部材の靱性と鋼板の母材靱性との関係が上記関係を満たさない場合、脆性き裂の状態によっては、このき裂がアレスタ部材に進入し、かつ、アレスタ部材を貫通して、鋼板溶接継手を伝播してしまうおそれがある。
上記構成とされた溶接構造体Aにおいて、鋼板溶接継手2に脆性き裂が発生した場合の、き裂伝播方向の制御作用について、以下に説明する。
vTrs3 ≦ vTrs1−20 ・・・(5)
アレスタ溶接継手をなす溶接金属部の靱性と鋼板の母材靱性との関係が上記関係式を満たさない場合、鋼板溶接継手に生じたき裂の状態によっては、このき裂がアレスタ溶接継手に進入し、さらには、アレスタ部材に進入する場合が生じる。
0 ≧ vTrs3 ≧ vTrs1+20 ・・・ (6)
なお、vTrs3の上限は、アレスタ溶接継手で脆性き裂の起点とならないように、0℃以下とする必要がある。
なお、2個のアレスタ部材を向きを変えて設ける場合、両者の距離が非常に短くなるか、両者が接触するようになる(その結果、ひし形状になる)と、アレスタ溶接継手による伝播経路が形成されるため、き裂がアレスタ溶接継手を経由して溶接継手2にまた戻っていってしまい、き裂停止の効果を発揮できなくなる。
以下に、上述したような溶接構造体Aにおいて、耐き裂制御部4を作製する方法の一例について説明する。
耐き裂制御部は、衝突や地震などによる大きな破壊エネルギーにさらされたときに、き裂の発生・伝播が予想される鋼板溶接継手の途中に、少なくとも1箇所設けられる。その際、鋼板溶接継手から連続的に形成されるアレスタ溶接継手の横幅方向端部が、鋼板のKca4000N/mm1.5以上の領域に少なくとも隣接するように耐き裂制御部4を設ける必要がある。
また、アレスタ部材5の形状は、図3、4に示すように、全体を平面視略三角形とし、アレスタ部材5の頂部5aが、鋼板溶接継手2の溶接線L上に位置するように配置するとともに、アレスタ部材5の頂部5aから延在する傾斜外縁部51、52を、鋼板溶接継手2の長手方向に対して15°以上50°以下の範囲の角度で傾斜するように形成し、それぞれの傾斜外縁部51、52の後端51a、52aを結ぶ副対抗側の外縁部53は、溶接線Lと70°以上110°以下の範囲の角度で交差するように形成している。
また、脆性き裂伝播を可能な限り抑制し、さらに、鋼板溶接継手2及びアレスタ溶接継手6において新たな疲労き裂や脆性き裂の起点が生じるのを防止するため、各溶接継手を、溶接欠陥の無いように、溶接金属で完全に充填することが好ましい。
上述した溶接構造体Aを適用した船舶構造体の一例を図5の概略図に示す。
図5に示すように、船舶構造体70は、骨材(補強材)71、デッキプレート(水平部材)72、船殻内板(垂直部材)73、船殻外板74を備えて概略構成される。また、図示例の船舶構造体70は、船殻内板73をなす複数の鋼板1同士を突合せ溶接することで形成される鋼板溶接継手(図5中では図示略)の長手方向の一部に耐き裂制御部4が設けられることで、本実施形態の溶接構造体Aを具備する構造とされている。
上記構成の船舶構造体70によれば、本実施形態の溶接構造体Aの構成を適用することにより、例え、鋼板溶接継手を伝播する脆性き裂が発生した場合であっても、耐き裂制御部4により、き裂の伝播方向を効果的に制御できる。これにより、鋼板溶接継手に生じた脆性き裂を安定的に停止させることができ、船殻内板73、ひいては船舶構造体70に大規模な破壊が生じるのを防止することが可能となる。
以下、本発明の第2の実施形態である溶接構造体Bについて、主に図6を参照しながら詳述する。なお、以下の説明において、上述の第1の実施形態の溶接構造体Aと共通する構成については、同じ符号を付与するとともに、その詳細な説明を省略する。また、第3、4の実施態様の説明においても同様とする。
そして、溶接構造体Aと同様、鋼板10の母材側に逸れたき裂は、鋼板10において直ちに停止するので、鋼板溶接継手20が破断せず、また、溶接構造体Bに大規模な破壊が生じるのを防止することが可能となる。
また、本実施形態の溶接構造体Bは、鋼板10をなす母材全体が、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上とされていることがより好ましい。
以下、本発明の第3の実施形態である溶接構造体Cについて、主に図7を参照しながら詳述する。
溶接構造体Cは、耐き裂制御部が設けられる鋼板溶接継手を形成する突合せ溶接で被溶接対象となる鋼板が、その突合せ溶接の長手方向で複数の鋼板を配列し突合せ溶接して形成された鋼板である場合の例である。
すなわち、図7に示すように、鋼板10Aが、鋼板溶接継手20Aの長手方向で配列される少なくとも2以上の長手配列鋼板(図7中の符号21〜24を参照)を突合せ溶接して形成され、この鋼板10A、10Aを突合せ溶接して形成された鋼板溶接継手20Aに、耐き裂制御部4が設けられる。
このように、溶接構造体Cは長手配列溶接継手がある点で上述の第1及び第2の実施形態の溶接構造体A、Bとは異なっている。
また、本実施形態の溶接構造体Cは、長手配列鋼板22及び長手配列鋼板24をなす母材の脆性き裂伝播停止特性Kcaが4000N/mm1.5以上とされている一方、長手配列鋼板21及び長手配列鋼板23の脆性き裂伝播停止特性Kcaは特に限定されない。
このように、鋼板10Aの母材側に逸れたき裂は、脆性き裂伝播停止特性Kcaの高い長手配列鋼板22において直ちに停止するので、鋼板溶接継手20Aが破断せず、また、溶接構造体Cに大規模な破壊が生じるのを防止することが可能となる。
また、本実施形態の溶接構造体Cは、鋼板10Aをなす長手配列鋼板22、24の母材が、脆性き裂伝播停止特性Kca=6000N/mm1.5以上であることがより好ましい。
以下、本発明の第4の実施形態である溶接構造体Dについて、主に図8を参照しながら詳述する。
溶接構造体Dは、図8に示すように、鋼板10Bが、鋼板溶接継手20Bの長手方向で配列される少なくとも2以上の長手配列鋼板(図8中の符号31〜34を参照)を突合せ溶接して形成され、この鋼板10B、10Bを突合せ溶接して形成された鋼板溶接継手20Bに、耐き裂制御部4が設けられる点で、第3の実施形態の溶接構造体Cと構成が一部共通している。
またさらに、溶接構造体Dは、長手配列溶接継手35、36をなす溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs4(℃)と、鋼板10Bの母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次の(7)式
vTrs4 ≦ vTrs1−20 ・・・(7)
で表される関係を満たす関係とされている点においても、第3の実施形態の溶接構造体Cとは異なる構成とされている。
また、溶接構造体Dは、鋼板10Bをなす全ての長手配列鋼板31〜34の母材の脆性き裂伝播停止特性Kcaが4000N/mm1.5以上とされている。また、図示例の溶接構造体Dは、長手配列溶接継手35、36が連なって直線状に形成されている。
このように、鋼板10Bの母材側に逸れたき裂は、脆性き裂伝播停止特性Kcaの高い長手配列鋼板32において直ちに停止するので、鋼板溶接継手20Bが破断せず、また、溶接構造体Dに大規模な破壊が生じるのを防止することが可能となる。
また、本実施形態の溶接構造体Dは、鋼板10Bをなす全ての長手配列鋼板31〜34の母材が、脆性き裂伝播停止特性Kca=6000N/mm1.5以上であることがより好ましい。
まず、製鋼工程において溶鋼の脱酸・脱硫と化学成分を制御し、連続鋳造によって下記表1に示す化学成分の鋳塊を作製した。そして、日本海事協会(NK)規格船体用圧延鋼材KA32、KA36、KA40の規格に準じた製造条件で、前記鋳塊を再加熱して厚板圧延することで、板厚が25mm〜150mmの鋼板を製造した。さらに、この鋼板に対して各種熱処理を施すとともに、この際の条件を制御することにより、母材の脆性き裂伝播停止特性Kca(N/mm1.5)が種々の値になるように適宜調整した。製造した鋼板から、試験片のサイズが500mm×500mm×板厚のESSO試験(脆性き裂伝播停止試験)片を適宜採取し、−10℃におけるKca特性を評価・確認した。表1にKca特性を合わせて示した。
また、上記同様、各鋼板及びアレスタ部材を接合することにより、図6〜図8に示すような溶接構造体(本発明例、参考例、比較例)を製造した。
また、従来技術の例として、耐き裂制御部として鋼板製のアレスタ部材を用いるのではなく、アレスト部材をはめこむべき領域をすべて溶接金属による穴埋めで実施した。製作方法は、まず、鋼板溶接継手の片面側より、板厚の約半分をガウジングにより削除し、溶接金属にて埋め戻す。次に、鋼板溶接継手の裏側より、同様に対応する同じ領域を、ガウジング後、溶接金属で穴埋めを行った。溶接施工は、鋼板1とアレスタ部材5との突合せ溶接部の施工と同様、炭酸ガスアーク溶接(CO2溶接)によって行なうとともに、溶接材料として、高Ni成分とした溶接ワイヤを用いた。
上記手順によって製造した溶接構造体について、以下のような評価試験を行った。
まず、図10(a)に示すような試験装置90を準備するとともに、上記手順で作製した溶接構造体のサンプルの各々を適宜調整し、試験装置90に取り付けた。ここで、図10(b)、(c)中に示す鋼板溶接継手2に設けたき裂発生部である窓枠81は、楔をあてがって所定の応力を印加することで強制的に脆性き裂を発生させるためのものであり、切欠き状の先端部は0.2mm幅のスリット加工を施したものである。
次いで、鋼板溶接継手2の溶接線Lと垂直方向に262N/mm2あるいは300N/mm2の引張応力を付与することにより、鋼板溶接継手2に脆性き裂を発生させた。そして、この脆性き裂を、鋼板溶接継手2の溶接線L上で伝播させることにより、溶接構造体の耐脆性き裂伝播性を評価した。この際の雰囲気温度は−10℃とした。
[a]…脆性き裂がアレスタ溶接継手に到達した後、鋼板母材とアレスタ溶接継手の境界に沿って進展し、鋼板の母材側に逸れ、鋼板において直ちに停止した(図2−aの形態)。
[b]…脆性き裂がアレスタ溶接継手に到達した後、このアレスタ溶接継手に進入したが、アレスタ部材に到達した後にアレスタ溶接継手とアレスタ部材の境界に沿って進展し、鋼板の母材側に逸れ、鋼板において直ちに停止した(図2−bの形態)。
[c]…脆性き裂がアレスタ溶接継手に到達した後、アレスタ溶接継手及びアレスタ部材に順次進入したが、アレスタ部材内部において停止した(図2−cの形態)。
[d1]…脆性き裂がアレスタ溶接継手及びアレスタ部材に進入した後、そのまま鋼板溶接継手に戻り、再び鋼板溶接継手を伝播した(図2−dの形態)。
[d2]…アレスタ部材の横幅Wが小さい場合、または、アレスト部材の板厚tが大きい場合、脆性き裂が、アレスタ部材に進入せずに、アレスタ溶接継手に沿って伝播し、アレスタ溶接継手の横幅方向端部から鋼板溶接継手にジャンプし、再び鋼板溶接継手を伝播した。
[d3]…[a]の経路をたどった後、母材側の鋼板を伝播した。
[e]…脆性き裂が副対抗側から伝播し、アレスタ溶接継手及びアレスタ部材に順次進入したが、アレスタ部材内部において停止した(図2−eの形態)。
また、[a]〜[c]、[e]の場合について、き裂の伝播距離に基づいて算出した点数(最高値10)により耐きれつ伝播性能を評価した。
注1: 鋼板1の内の領域1A以外の領域を意味する。
注2: 図に基づいた、2種類の鋼板の組み合わせを示す。
注3: 板厚を4:1に分割したX開先に対し、鋼板の両面より、エレクトロガスアーク溶接により突合せ溶接した。このときの大きい方の適用入熱量を示す。
注4: 板厚の半分ずつ、鋼板の両面からエレクトロガスアーク溶接により突合せ溶接した。このときの入熱量を示す。
注5: 切削加工により、素材鋼板の表と裏の両面から等しい厚さを削除して、板厚を減じた鋼板を作製した。
注6: 板厚70mmのアレスタ材を2枚重ねて耐き裂制御部を形成している。
表2、3に示す参考例1〜34は、図6に示す第2の実施形態(参考例)の溶接構造体Bに関する例であり、表4、5に示す本発明例35〜37は、図7に示す本発明の第3の実施形態の溶接構造体C、同じく本発明例38、39は、図8に示す第4の実施形態の溶接構造体D、同じく参考例40は、図3に示す第1の実施形態(参考例)の溶接構造体Aに関する例である。
また、表4、5に示す比較例1は溶接構造体Aと同様の構造を有する比較例であり、比較例2〜13は溶接構造体Bと、比較例14〜16は溶接構造体Cと、比較例17は溶接構造体Dとそれぞれ同様の構造を有する比較例である。また、比較例18は上記の補修溶接による従来例である。
比較例1および比較例14の溶接構造体は、鋼板母材のうち、1Aおよび22、24の領域の脆性き裂伝播停止特性(Kca1)の値が不適であり、この領域に突入したき裂を停止できなかった例である。
比較例2の溶接構造体は、アレスタ溶接継手の溶接金属のvTrs3がやや不十分な水準であり、き裂がアレスタ部材に突入したが、アレスタ部材のKca値も不適であり、突入したき裂を停止できなかった例である。
比較例3の溶接構造体は、アレスタ部材の角度θ1が過小側に不適な例であり、脆性き裂主対抗側の外縁部に沿ってき裂を逸らせることができたものの、その後、き裂副対抗側の外延部に沿って伝播してしまい、破断に至ったものである。
比較例5の溶接構造体は、アレスタ部材の角度θ2が過小側に不適な例であり、脆性き裂主対抗側の外縁部に沿ってき裂を逸らせることができたものの、その後、き裂副対抗側の外延部に沿って伝播してしまい、破断に至ったものである。
比較例6の溶接構造体は、アレスタ部材の角度θ2が過大側に不適な例であり、進展方向を制御することができず、鋼板溶接継手にて発生した脆性き裂がそのまま直進し、破断に至った例である。
比較例7の溶接構造体は、アレスタ溶接継手の溶接金属のvTrs3が不充分であり、アレスタ部材の高さHが過小側に不適なために、アレスタ部材にてき裂を停止できなかった例である。
比較例9の溶接構造体は、アレスタ溶接継手の溶接金属のvTrs3が不充分であり、アレスタ部材にき裂が突入したが、アレスタ部材の板厚tが過小側に不適なために、アレスタ部材にてき裂を停止できなかった例である。
比較例10の溶接構造体は、アレスタ部材の板厚tが過小側に不適であり、アレスタ部材が実質的に、き裂を鋼板母材側へ逸らせる能力を失ったため、進展方向を制御することができず、鋼板溶接継手にて発生した脆性き裂がそのまま直進し、破断に至った例である。
比較例11の溶接構造体は、アレスタ溶接継手の溶接金属止端部の応力集中の影響により、脆性き裂がアレスタ溶接継手と鋼板溶接継手の境界部を伝播し、脆性き裂副対抗側の外縁部を回り込んだ結果、鋼板溶接継手に再度進入し、破断に至った例である。
比較例13の溶接構造体は、アレスタ部材の外縁部の角度θ1が、比較例4よりもさらに、鋼板溶接継手の長手方向に対し50°を超えており、進展方向をそもそも制御することができず、また、アレスタ部材のKca値が不充分であるため、発生した脆性き裂がアレスタ部材に突入したのち、そのまま直進し破断に至った例である。
比較例15の溶接構造体は、比較例3と同様に、アレスタ部材の角度θ1が過小側に不適な例であり、脆性き裂主対抗側の外縁部に沿ってき裂を逸らせることができたものの、その後、き裂副対抗側の外延部に沿って伝播してしまい、破断に至ったものである。
比較例17の溶接構造体は、長手配列溶接継手の溶接金属部のvTrsが不十分であり、発生した脆性き裂は、脆性き裂主対抗側の外縁部に沿って逸らせることができたものの、その後、長手配列溶接継手の溶接金属部に沿って伝播し、破断に至ったものである。
比較例18の溶接構造体は、補修溶接によるもので、補修溶接部の形状は、本発明例4と同様の形状としたが、脆性き裂の進展をとめることができなかった例である。
[溶接構造体の製造]
実施例1と同様に、表1に示す化学成分、表6、8に示す板厚及び特性を有する鋼板を作製した。ついで、表1に示す化学成分並びに表6、8に示す鋼特性及び形状とされた鋼板からなるアレスタ部材5を準備し、表6、8に示すような溶接条件を用いて、実施例1と同様の方法で2枚の鋼板の突合せ溶接及び鋼板とアレスタ部材との突合せ溶接を実施した。以上の手順により、表7、9に示すような継手特性を有し、図3及び図6〜図8に示す構成の溶接構造体(本発明例、参考例、比較例)を作製した。
上記手順によって製造した溶接構造体について、実施例1と同様に評価試験を行い、脆性き裂が伝播する方向及び停止位置を確認し、実施例1と同様に、き裂の伝播、停止の態様を、[b]、[c]、[e]に分けるとともに、伝播が停止しない場合を、「d1」〜「d3」に分け、下記表7、9に示した。
また、[a]〜[c]、[e]の場合について、き裂の伝播距離に基づいて算出した点数(最高値10)により耐き裂伝播性能を評価した。評価結果を表7、9に示す。
また、表8、9に示す比較例1は、溶接構造体Aと同様の構造を有する比較例であり、比較例2〜13は溶接構造体Bと、比較例14は溶接構造体Cと、比較例15は溶接構造体Dとそれぞれ同様の構造を有する比較例である。
比較例1および比較例14の溶接構造体は、鋼板母材のうち、1Aおよび22,24の領域の脆性き裂伝播停止特性(Kca1)の値が不適であり、この領域に突入したき裂を停止できなかった例である。
比較例2の溶接構造体は、き裂がアレスタ部材に突入したが、アレスタ部材のKca値も不適であり、突入したき裂を停止できなかった例である。
比較例4の溶接構造体は、アレスタ部材の角度θ2が過小側に不適な例であり、脆性き裂主対抗側の外縁部に沿ってき裂を逸らせることができたものの、その後、き裂副対抗側の外延部に沿って伝播してしまい、破断に至ったものである。
比較例5の溶接構造体は、アレスタ部材の角度θ2が過大側に不適な例であり、進展方向を制御することができず、鋼板溶接継手にて発生した脆性き裂がそのまま直進し、破断に至った例である。
比較例8の溶接構造体は、アレスタ部材の角度θ1が過大側に不適な例であり、き裂を鋼板母材側に逸らせるように、進展方向をそもそも制御することができず、鋼板溶接継手にて発生した脆性き裂がそのまま直進し、破断に至ったものである。
比較例9の溶接構造体は、アレスタ部材の横幅Wが過小側に不適であり、脆性き裂主対抗側の外縁部に沿ってき裂を逸らせることができたものの、その後、き裂副対抗側の外延部に沿って伝播してしまい、破断に至ったものである。
比較例13の溶接構造体は、アレスタ部材の板厚tが過剰側に不適であり、アレスタ部材が実質的に、き裂を鋼板母材側へ逸らせる能力を失ったため、進展方向を制御することができず、鋼板溶接継手にて発生した脆性き裂がそのまま直進し、破断に至った例である。
比較例15の溶接構造体は、長手配列溶接継手の溶接金属部のvTrsが不十分であり、発生した脆性き裂は、脆性き裂主対抗側の外縁部に沿って逸らせることができたものの、その後、長手配列溶接継手の溶接金属部に沿って伝播し、破断に至ったものである。
1、10、10A、10B 鋼板
1A 領域(少なくともアレスタ部材及びアレスタ溶接継手の横幅方向端部に向かい合って位置する鋼板の部位)
2、20、20A、20B 鋼板溶接継手
3、3a、3b 貫通孔
4 耐き裂制御部
5 アレスタ部材
51、52 アレスタ部材の脆性き裂主対抗側から延伸する傾斜外縁部
51a、51b アレスタ部材の傾斜外縁部の後端(アレスタ部材の横幅方向端部)
53 脆性き裂に対して副対抗側となるアレスタ部材の外縁部
6、60 アレスタ溶接継手
25、26、35、36 長手配列溶接継手
21、22、23、24、31、32、33、34 長手配列鋼板
70 船舶構造体
L 溶接線
θ1 アレスタ部材の傾斜外縁部の鋼板溶接継手の長手方向に対する傾斜角度
θ2 アレスタ部材の脆性き裂副対抗側の外縁部が鋼板溶接継手と交差する角度
Claims (7)
- 少なくとも一部の領域の脆性き裂伝播停止特性Kcaが4000N/mm1.5以上である鋼板を、互いに突合せ溶接することで鋼板溶接継手が形成されてなる溶接構造体において、
前記鋼板溶接継手の少なくとも一箇所に、鋼板溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を制御する耐き裂制御部が設けられており、
該耐き裂制御部は、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上の鋼材からなり、前記鋼板溶接継手から前記鋼板にまたがって形成された貫通穴に挿入されたアレスタ部材、及び、該アレスタ部材の外縁部とそれに対向する鋼板母材とが突合せ溶接されて形成されたアレスタ溶接継手を有しており、
前記アレスタ部材は、前記鋼板溶接継手の長手方向に沿った高さH(mm)、鋼板溶接継手の長手方向と交差する方向における横幅W(mm)、及び板厚t(mm)の各々の寸法が、下記(1)〜(3)式で表される関係を満足するように形成され、かつ、
該アレスタ部材の脆性き裂主対抗側の外縁部は、前記鋼板溶接継手の溶接金属部から前記鋼板溶接継手の両側に、鋼板溶接継手の長手方向に対して15°以上50°以下の角度で傾斜して延伸するとともに、他方の脆性き裂副対抗側の外縁部は、70°以上110°以下の角度で前記鋼板溶接継手と交差しており、
少なくとも、前記アレスタ部材の横幅方向端部が、前記鋼板のKcaが4000N/mm1.5以上である領域に向かい合うように、前記耐き裂制御部を設けられており、
前記鋼板は、前記鋼板溶接継手の長手方向で配列される少なくとも2以上の鋼板からなるとともに、該長手配列鋼板を互いに突合せ溶接することで長手配列溶接継手が形成されており、
前記耐き裂制御部は、前記アレスタ部材の脆性き裂副対抗側に形成される前記アレスタ溶接継手が前記長手配列溶接継手に接するように設けられていること、を特徴とする耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
1.2T ≦ H ・・・・・ (1)
3.2d ≦ W ・・・・・ (2)
0.75T ≦ t ≦ 1.5T ・・・・・(3)
但し、上記(1)〜(3)式中において、Tは前記鋼板の板厚(mm)を表し、dは前記鋼板溶接継手における溶接金属部の幅(mm)を表す。 - 少なくとも一部の領域の脆性き裂伝播停止特性Kcaが4000N/mm 1.5 以上である鋼板を、互いに突合せ溶接することで鋼板溶接継手が形成されてなる溶接構造体において、
前記鋼板溶接継手の少なくとも一箇所に、鋼板溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を制御する耐き裂制御部が設けられており、
該耐き裂制御部は、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm 1.5 以上の鋼材からなり、前記鋼板溶接継手から前記鋼板にまたがって形成された貫通穴に挿入されたアレスタ部材、及び、該アレスタ部材の外縁部とそれに対向する鋼板母材とが突合せ溶接されて形成されたアレスタ溶接継手を有しており、
前記アレスタ部材は、前記鋼板溶接継手の長手方向に沿った高さH(mm)、鋼板溶接継手の長手方向と交差する方向における横幅W(mm)、及び板厚t(mm)の各々の寸法が、下記(1)〜(3)式で表される関係を満足するように形成され、かつ、
該アレスタ部材の脆性き裂主対抗側の外縁部は、前記鋼板溶接継手の溶接金属部から前記鋼板溶接継手の両側に、鋼板溶接継手の長手方向に対して15°以上50°以下の角度で傾斜して延伸するとともに、他方の脆性き裂副対抗側の外縁部は、70°以上110°以下の角度で前記鋼板溶接継手と交差しており、
少なくとも、前記アレスタ部材の横幅方向端部が、前記鋼板のKcaが4000N/mm 1.5 以上である領域に向かい合うように、前記耐き裂制御部を設けられており、
前記鋼板は、前記鋼板溶接継手の長手方向で配列される少なくとも2以上の鋼板からなるとともに、該長手配列鋼板を互いに突合せ溶接することで長手配列溶接継手が形成されており、
前記耐き裂制御部は、前記アレスタ部材の脆性き裂副対抗側に形成される前記アレスタ溶接継手が前記長手配列溶接継手を含むように設けられ、
さらに、前記長手配列溶接継手をなす溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs4(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次式、
vTrs4 ≦ vTrs1−20
で表される関係を満たすこと、を特徴とする耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
1.2T ≦ H ・・・・・ (1)
3.2d ≦ W ・・・・・ (2)
0.75T ≦ t ≦ 1.5T ・・・・・(3)
但し、上記(1)〜(3)式中において、Tは前記鋼板の板厚(mm)を表し、dは前記鋼板溶接継手における溶接金属部の幅(mm)を表す。 - 前記アレスタ部材の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs2(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次式、
vTrs2 ≦ vTrs1−20
で表される関係を満たすこと、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。 - 前記アレスタ溶接継手における溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs3(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次式、
vTrs3 ≦ vTrs1−20
で表される関係を満たすこと、を特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。 - 前記アレスタ溶接継手における溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs3(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrs1(℃)との関係が、次式、
vTrs1+20 ≦ vTrs3 ≦ 0
で表される関係を満たすこと、を特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。 - 前記鋼板の板厚が25mm以上150mm以下であること、を特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
- 前記鋼板は、少なくとも一部の領域の脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上であり、前記耐き裂制御部は、少なくとも、前記アレスタ部材の横幅方向端部が、前記鋼板のKcaが6000N/mm1.5以上である領域に向かい合うように設けられていること、を特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体。
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