JP2008212992A - 耐脆性破壊亀裂伝播停止特性に優れたt型溶接継手構造 - Google Patents

耐脆性破壊亀裂伝播停止特性に優れたt型溶接継手構造 Download PDF

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Abstract

【課題】万が一大入熱溶接部で脆性破壊が発生した場合においても、確実に脆性亀裂の伝播を妨げることのできる耐脆性破壊亀裂伝播停止特性に優れたT型溶接継手構造を提供する。
【解決手段】本発明のT型溶接継手構造、高強度鋼板を突き合わせ溶接した垂直部材と、高強度鋼板を突き合わせ溶接した水平部材を溶接によって接合してなるT型溶接継手構造において、前記垂直部材と水平部材の溶接線を一致させない構造とし、且つ前記水平部材を構成する高強度鋼板は、下記(1)および(2)の特性を満足するものである。
(1)アレスト特性を示すKca値が、−10℃で7000N/mm3/2以上である、
(2)板厚方向1/2部の−100℃での平均吸収エネルギー値が70J以上である。
【選択図】図9

Description

本発明は、大入熱溶接部に発生した脆性亀裂の伝播を極力防止することのできるT型溶接継手構造に関するものある。本発明のT型溶接継手構造は、造船、海洋構造物、低温タンク、ラインパイプ、土木・建築構造物等、T型溶接継手構造が採用される様々な分野で適用できるものであるが、以下では代表的な例として、大型コンテナ船やバルクキャリアー等の上甲板付近の縦通し部材を取り上げて説明する。
大型コンテナ船やバルクキャリアーにおいては、脆性破壊発生を考慮した場合、一般には甲板付近の縦通し部材で実施される大入熱溶接時での溶接欠陥を起点とした疲労亀裂が進展し、ある段階で脆性破壊に至ると考えられている。
こうしたことから、万が一大入熱溶接部で脆性破壊が発生した場合においても、脆性亀裂の進展を停止させることが必要になってくる。こうした事態への対応策としては、縦通し部材や上甲板の素材として、亀裂進展停止特性(以下、「アレスト特性」と呼ぶ)に優れた鋼板を用いることが有効であるとされていた。
しかしながら、アレスト特性に優れた鋼板を用いた場合であっても、特に板厚(例えば、50mm超)の厚い鋼板を素材として用いたときには、縦通し部材で発生した脆性亀裂は停止することなく、上甲板まで進展する可能性があることが最近の研究で明らかになった。
図1は、大型コンテナ船の横断面構造を示す概略説明図であり、図中1は上甲板、2は縦通し部材を夫々示している。こうした構成において、上甲板1(水平部材)と縦通し部材2(垂直部材)は、T型溶接継手構造が構築されるのであるが、縦通し部材2に発生した脆性亀裂が上甲板まで進展することになる。このため、縦通し部材2で発生した亀裂の進展を確実かつ安定的に停止させて、上甲板1に達しないようにする技術が望まれているのが実情である。
脆性亀裂の進展を抑制するために、これまで様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、甲板の素材として、アレスト特性を示すKca値が−10℃で4000N/mm3/2以上の鋼板を用いることが提案されている。しかしながら、上記の如く、アレスト特性に優れた鋼板を用いるだけでは、上記のようなT型溶接継手構造での脆性亀裂進展が抑制されるとは限らないのが実情である。特に、この技術では、上記Kca値は板厚が35mmにおけるデータによって決定されており、しかも複合部材による溶接混成ESSO試験(「SOD試験」とも呼ぶ)によって脆性亀裂の停止の有無が確認されているだけであって、板厚が50mmを超えるような鋼板を用いたT型溶接継手構造での脆性亀裂進展抑制についてその効果が発揮されるとは言いがたいものである。
例えば特許文献2においては、縦通し部材の溶接部に、所定のアレスト特性を有する部材を装入することによって、脆性亀裂の進展を確実に停止させ得ることが提案されている。この技術では、上記の様な部材を挿入するような構造を採用することによって、脆性亀裂の進展抑制をするものであるが、こうした技術を現場で施工するには、刳り抜き、再溶接等の多くの付加作業が必要となり、多くの労力が必要になるという問題がある。特に、再溶接を行うことによって、脆性亀裂の発生の起点となる溶接欠陥が発生する可能性も高くなり、必ずしも安全性に優れた技術とは言えないものであった。
また、縦通し部材の溶接部の一部に、ガウジングを行って穴を開け、その部分にNi等の脆性破壊停止特性に優れた添加元素を多く含有する特殊な溶接材料で補修溶接を行うことによって、脆性亀裂の進展を停止させる各種技術も提案されている(例えば、特許文献3〜6)。
しかしながら、これらの技術も現場で施工を行うものであり、余分な付加作業が必要となり、多くの労力が必要になる。しかも、これらの技術では上記技術と同様に、再溶接を行うことによって、脆性亀裂の発生の起点となる溶接欠陥が発生しやすくなり、必ずしも安全性に優れた技術とは言えないものであった。
特許文献7においては、縦通し部材の溶接部(溶接線)に交差する様に、すみ肉溶接接合を行った骨材に、特殊な表層部の組織(表層部および裏層部の3mm以上の領域で、平均円相当粒径:0.5〜5μmでかつ板厚面に平行な面で(100)結晶面のX線面強度比が1.5以上)を有する鋼材を用いることによって、脆性亀裂の進展抑制が図れることが示されている。
しかしながら、この技術を実施するためには、評価が一般的でない(100)結晶面のX線面強度比が保証された鋼板を使用することが必要な要件とされており、骨材に使用する鋼材の品質確保が困難なことが、実際の溶接構造物への適用に対して大きな障害になる。
一方、特許文献8においては、鋼板の表層部のフェライト粒径を3μm以下の超細粒化することによって、鋼板の脆性亀裂伝播特性を向上させる技術が提案されている。この技術では、表層部を脆性亀裂の伝播進展の抵抗として機能させるべく、超細粒化を図って鋼板の高靭性化を図るものである。また、このような鋼板を用いて、脆性亀裂伝播を停止させるための構成についても示されている(例えば、非特許文献1)。
この技術では、T型溶接継手に加えて水平部材(図1における上甲板1に相当)に、更に垂直に伸びる部材を取り付けることによって、脆性亀裂伝播停止を達成する構成を実現するものである。しかしながら、こうした構成では、脆性亀裂の伝播を確実に停止させ得るとは言えないものである。特に、T型溶接継手において、垂直部材から進展する脆性亀裂を水平部材で確実に停止させるためには、通常のアレスト特性の向上に有効とされる表層部の特性に加えて、板厚方向の特性も重要となってくるのであるが、特許文献8に開示された鋼板では、板厚方向の温度分布が冷却中に不均一になることを利用して、鋼板表層部のみを改質する技術であるので、T型溶接継手における脆性破壊を確実に停止させることは困難になることが十分予想される。
しかも、この技術では、水平部材の板厚を50mmの鋼板を適用して脆性破壊の試験を行っているが、鋼板の厚さが厚くなると、鋼板板厚方向の温度分布の制御が困難になるので、コンテナ船の大型化に伴って必要とされる板厚50mmを超えるような部材に対しては、有効な手段とは言えないものである。
特開2006−131056号公報 特開2005−31516号公報 特開2005−111520号公報 特開2005−131709号公報 特開2005−296986号公報 特開2006−07874号公報 特開2004−232052号公報 特開平5−138542号公報 「日本船舶海洋工学会 ’06秋期大会/厚手造船用鋼における長大脆性き裂伝播挙動」平成18年11月 発行
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、高強度鋼板を大入熱突き合わせ溶接した垂直部材と、高強度鋼板を突き合わせ溶接した水平部材を溶接によって接合してなるT型溶接継手構造において、万が一大入熱溶接部で脆性破壊が発生した場合においても、確実に脆性亀裂の伝播を妨げることのできる耐脆性破壊亀裂伝播停止特性に優れたT型溶接継手構造を提供することにある。
上記目的を達成し得た本発明のT型溶接継手構造とは、高強度鋼板を突き合わせ溶接した垂直部材と、高強度鋼板を突き合わせ溶接した水平部材を溶接によって接合してなるT型溶接継手構造において、前記垂直部材と水平部材の溶接線を一致させない構造とし、且つ前記水平部材を構成する高強度鋼板は、下記(1)および(2)の特性を満足するものである点に要旨を有するものである。
(1)アレスト特性を示すKca値が、−10℃で7000N/mm3/2以上である、
(2)板厚方向1/2部の−100℃での平均シャルピー吸収エネルギー値が70J以上である。
本発明のT型溶接継手構造においては、(a)垂直部材の突き合わせ溶接ボンド部における板厚方向1/2部の−20℃での平均シャルピー吸収エネルギー値が50J以上であること、(b)前記垂直部材および水平部材は、板厚が50mm超であること、等の要件を満足することが好ましい。また前記垂直部材と水平部材との溶接接合は、完全溶け込みまたは部分溶け込みの何れも採用できる。
本発明のT型溶接継手においては、高強度鋼板を突き合わせ溶接した垂直部材と、高強度鋼板を突き合わせ溶接した水平部材の溶接線を一致させない構造とすると共に、水平部材を構成する高強度鋼板を所定の特性を満足するものとすることによって、万が一大入熱溶接部で脆性破壊が発生した場合においても、脆性亀裂の伝播を効果的に防止できるものとなる。また本発明のT型継手構造は、その構成が比較的簡便であり、使用する鋼板の特性や、目標とする品質を確保するための溶接施工方法や品質管理方法も明確であるので、確実に脆性亀裂の伝播を防止できるものとなる。
従来では、鋼板のアレスト特性は、表層部を細粒化するなどの改質を施すことによって、脆性亀裂が進展する際にシェアリップと抵抗となって亀裂を停止させることが可能であることが知られている(前記特許文献8、非特許文献1)。しかしながら、こうした技術は、鋼板の平面方向に対して進展する脆性亀裂に対して有効であるが、T型溶接継手で垂直方向から進展する亀裂を水平部材で停止させる場合においては、必ずしも有効であるとは言えないものである。
そこで本発明者らは、T型溶接継手で垂直方向から進展する亀裂を水平部材で停止させるために構成について、様々な角度から検討した。その結果、高強度鋼板を突き合わせ溶接した垂直部材と、高強度鋼板を突き合わせ溶接した水平部材の溶接線を一致させない構造とすると共に、水平部材を構成する高強度鋼板を所定の特性を満足するものとすることによって上記目的が見事に達成されることを見出し、本発明を完成した。
図2は、本発明のT型溶接継手構造を例示する説明図であり、図中5は垂直部材、6は水平部材、7a〜7cは溶接線の夫々を示す。垂直部材5は複数の高強度鋼板5a,5bを溶接線7aで大入熱突き合わせ溶接して構成され、水平部材6は複数の高強度鋼板6a〜6cを溶接線7b,7cで突き合わせ溶接して構成され、これら垂直部材5と水平部材6は、溶接線7aと溶接線7b,7cを一致させることなく、溶接接合されてT型溶接継手10が構成される。尚、図2に示した構成は、大型コンテナ船を想定した場合には、水平部材6が図1の上甲板1に、垂直部材5が図1の縦通し部材2に相当するものである。
本発明のT型溶接継手構造は、垂直部材5の大入熱溶接部(前記溶接線7a)で発生した脆性亀裂の伝播を、水平部材6の溶接線7b,7cと前記溶接線7aを一致させない様な構成とすることによって、脆性亀裂の伝播を水平部材6に突入させ、水平部材6を構成する高強度鋼板6a〜6c自体の特性(アレスト特性)によって脆性亀裂の伝播を停止させるものである。
図2に示した構造を採用するだけでも、脆性亀裂の伝播を停止させるのに有効なのであるが、こうした構造だけでは、脆性亀裂の伝播を確実に停止させることはできない。上述のように、水平部材を構成する高強度鋼板(前記6a〜6c)自体の特性も重要な要件となる。
本発明者らは、水平部材を構成する高強度鋼板として、様々な特性を有する鋼板を用いてT型溶接継手を作製し、その特性が脆性亀裂の伝播に与える影響について検討した(試験方法の詳細については後述する)。その結果、水平部材を構成する高強度鋼板の特性として、−10℃におけるアレスト特性(脆性亀裂伝播停止特性:Kca値)が7000N/mm3/2以上で、板厚1/2部(中央部)での−100℃における平均シャルピー吸収エネルギーvE-100が70J以上であれば、水平部材で脆性亀裂の伝播を効果的に停止させ得ることが判明した。
水平部材を構成する高強度鋼板は、−10℃でのKca値が7000N/mm3/2以上であれば良いが、Kca値を必要以上に高めることは、Niの高価な元素を大量に添加させたり、非常に低温で圧延を行ったり、複熱を利用した高度な温度制御が必要な圧延を行うことが必要になる。こうした作業は、生産性を著しく低下させることになるので、生産性を低下させることなく、上記特性を満足させ得るKca値としては、15000N/mm3/2以下であることが好ましい。
水平部材を構成する高強度鋼板は、板厚1/2部の−100℃における平均シャルピー吸収エネルギーvE-100が所定の値以上となることも重要な要件である。即ち、板厚方向に対する脆性亀裂進展の抑制機能は、表層部のみの特性でアレスト性能を有した鋼板よりも板厚方向の特性の差異の小さな鋼板が望ましいという観点から、板厚方向1/2部(板厚中央部)における靭性が重要な要件であるという着想の下で検討したところ、鋼厚中央部の−100℃における平均シャルピー吸収エネルギーvE-100が70J以上となるようにすれば、脆性亀裂の伝播停止に有効に作用することが判明したのである。このシャルピー吸収エネルギーvE-100は、安全性をより高めるためには、100J以上であることが好ましい。尚、板厚1/2部におけるシャルピー吸収エネルギーvE-100を高めるためには、例えば低いC(C≦0.05%)とする等、化学成分を規定し、強圧下を加えることにより、微細なアシュキュラーフェライト組織とすれば良い。
本発明の水平部材で用いる高強度鋼板の種類については、上記の特性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば特開昭62−205230号に示されるような脆性亀裂伝播特性に優れた鋼板を用いることができる。この鋼板は、所定の化学成分組成(C:0.005〜0.05%、Si:0.05〜0.70%、Mn:0.80〜1.80%、Al:0.01〜0.08%、Nb:0.02〜0.08%、Ni:0.20〜0.80%を含有し、残部が鉄および不可避不純物)を有する鋼スラブを、添加したNbが0.02%以上固溶する温度に加熱後、組成をアシュキュラーフェライトにするために、仕上げ温度が(Ar3+40℃)〜(Ar3−20℃)となる温度条件で、且つオーステナイト未再結晶域圧下量が50%以上の圧延を行い、該圧延終了後直ちに5℃/秒以上の冷却速度で冷却するような製造条件によって得られるものであり、上記Kca値および平均シャルピー吸収エネルギーvE-100を満足する鋼板として使用できる。
上記した構成は、基本的に水平部材によって脆性亀裂伝播を停止させるものであるが、垂直部材の大入熱溶接部(図2の溶接線7a)に発生した脆性亀裂の伝播速度を低下させることも、脆性破壊の停止に大きく影響を与えることが予想される。本発明者らが、垂直部材における好ましい要件について検討したところ、上記伝播速度は大入熱溶接ボンド部[溶接金属と溶接母材(鋼板)との境界]の板厚方向1/2部の靭性で管理できること、および必要とされる靭性値は鋼厚中央部における−20℃での平均シャルピー吸収エネルギーvE-20(JIS Z 2201 Vノッチ4号試験片、圧延方向で採取、3回の平均値)が50J以上(好ましくは70J以上)であれば良いことが明らかになった。
本発明者らは、種々のボンド部特性を有する試験体を溶接によって作製し(溶接条件については、後記実施例参照)、溶接ボンド部にノッチ加工を施して、溶接線方向に亀裂を伝播させるESSO試験を行い、−10℃(温度一定)での脆性亀裂進展速度を測定し(応力負荷条件:257MPa)、脆性亀裂進展速度と、溶接ボンド部の平均シャルピー吸収エネルギーvE-20の関係について調査した。脆性亀裂進展速度は、試験体の3箇所に設置したクラックゲージの破断時間を周波数5kHzで測定し、その平均値を求めた。試験体(ESSO試験体)の形状(厚さ:60mm×幅:400mm×高さ:500mm)を図3に示す(図3において、11は試験体、12はノッチ部、13は溶接線を夫々示す)。尚、垂直部材を構成する高強度鋼板としては、−10℃でのKca値が3900N/mm3/2以上のものを用いた。
その結果を、下記表1に示す。またこのデータに基づいて、平均脆性亀裂進展速度(m/秒)と、溶接ボンド部(板厚方向1/2部)の平均シャルピー吸収エネルギーvE-20(JIS Z 2201 Vノッチ4号試験片、圧延方向で採取、3回の平均値)の関係を図4に示す。
Figure 2008212992
これらの結果から明らかなように、垂直部材の溶接ボンド部の板厚方向1/2部の−20℃での平均吸収エネルギーvE-20を50J以上となるようにすることによって、脆性亀裂伝播速度が1000m/秒以下程度まで低減できることが分かる。また、平均シャルピー吸収エネルギーvE-20が70J以上であれば、脆性亀裂伝播速度は700m/秒程度まで低減でき、平均シャルピー吸収エネルギーvE-20をそれ以上の高い値に管理しても、亀裂伝播速度が大きく低減しないので、上記vE-20は70J以上に管理することが好ましい。
こうした結果が得られる理由については、おそらく次の様に考えることができる。即ち、脆性亀裂は最も脆弱な大入熱溶接ボンド部を進展すること、およびその進展に対して鋼板板厚1/2部における靭性を高くすることによって、亀裂進展の抵抗となるものと考えられる。
本発明の垂直部材で用いる高強度鋼板の種類については、大入熱用鋼で上記の特性を有するものであれば特に限定されるものではないが、上記した水平部材に適用される鋼板は勿論のこと、例えば仕上げ圧延温度を2相域としてその圧下率を50%以上とするような低温圧延材を用いることができる。このような鋼板では、基本的な降伏強度[0.2%耐力(σ0.2)で表示]が355〜460N/mm2のものとなる。
垂直部材に関する上記試験では、高強度鋼板として−10℃でのKca値が3900N/mm3/2以上のものを用いたが、ボンド部での亀裂伝播については鋼板(母材)のKca値は直接的には影響しないものである。しかしながら、万が一脆性亀裂がそれて母材に達した場合や、垂直部材に取り付けられた付加構造物の溶接部から発生した脆性亀裂が垂直部材に伝播する場合においても、確実に脆性破壊を招く脆性亀裂の進展を停止する特性を具備したものであることが好ましい。こうした観点からして、垂直部材を構成する高強度鋼板が有する特性として、−10℃でのKca値が3900N/mm3/2以上であるようなアレスト特性を有していることが好ましい。
本発明のT型溶接継手では、上記のような垂直部材と水平部材を溶接によって接合されて構成されるものであるが、用いる垂直部材および水平部材の板厚については、脆性亀裂を確実に停止する技術が確立されていない板厚:50mm超において特に有効であるが、板厚が50mm以下となるような構成においても適用できるものである。但し、Ni等の高価な元素の添加や生産性を低下させる定温圧延に頼ることなく、経済的に生産するためには、板厚は70mm以下であることが好ましい。
垂直部材と水平部材を接合するための溶接方法については、特に限定されるものではなく、例えばサブマージアーク溶接法や炭酸ガスアーク溶接法が挙げられる。こうした溶接法によって、垂直部材と水平部材の接合状態は、接合部分全体に亘って溶込ませた完全溶け込み(鋼板が溶接によって溶接金属になった部分を「溶け込み」と呼ぶ)は勿論のこと、継手の途中まで溶け込ますような部分溶け込みのいずれも採用できる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
垂直部材として、板厚中央部における−20℃での平均シャルピー吸収エネルギーが70J以上の鋼板をエレクトロガスアーク溶接によって接合したものを用い、これに種々の特性を有する鋼板を水平部材として用い、これらを組み合わせてT型溶接継手を作製し(前記図2参照)、この溶接継手に対して脆性破壊試験(温度一定ESSO試験)を行った。
図5は、上記試験の状況を説明する図であり、図中20は垂直部材5と水平部材6とから構成される試験体を示し、水平部材6の下部には、脆性破壊後の試験体の偏心を抑制するための補剛材16が溶接(例えば、隅肉CO2溶接)によって固定されている。試験体20には、リブ17a,17bおよびタブ板18a,18bが関連して設けられており、ピン部分19a,19b間に離反する方向の荷重を負荷することによって、試験体20の溶接線7aに離反方向の荷重が負荷されるように構成されている。
板厚が50mm超で、0.2%耐力(σ0.2)が390N/mm2以上の各種鋼板を組み合わせて、実際の構造物で用いられているT型溶接継手部を模した試験体20を作製し、大型3000t(トン)の引張試験機を用いて、図5に示した状態で試験体の脆性亀裂停止特性を評価した。このとき、試験温度は、コンテナ船の設計温度である−10℃とし、荷重は水平部材にコンテナ船の甲板の最大設計荷重である257N/mm2以上の荷重を負荷して実施した。
上記試験においては、図6(図5のT型溶接継手部分Aの説明図)および図7(ノッチ部分の拡大図)に示すように、垂直部材の上端部に機械加工によるノッチ12aを設け、このノッチ12aについては溶接部21と鋼板部22(母材部)が半々となる様に(図8)加工した。そして、このノッチを脆性破壊の発生起点として、脆性亀裂の伝播に関する検討を行った。
下記表2に、試験で用いた垂直部材または水平部材の素材の高強度鋼板の化学成分組成を示す。垂直部材は、エレクトロガスアーク溶接によって高強度鋼板を突き合わせ溶接することによって構成したものであるが、このときの溶接条件は下記の通りである。また、垂直部材と水平部材の溶接は、炭酸ガスアーク溶接による完全溶け込み溶接としたが、このときの溶接条件は下記の通りである。
[垂直部材のエレクトロガスアーク溶接条件]
裏当て材:KL−4GT
シールドガス:100%CO2(流量:40L/mm)
ルート間隔:10mm
開先:V開先(開先角度:20°)
溶接電流:390〜410A
溶接電圧:42〜44V
溶接速度:2.3〜2.44cm/min
入熱量:200〜650kJ/cm
溶接ワイヤ:DWS−1LG(神戸製鋼所製;C:0.05%、Si:0.25%、Mn:1.6%、P:0.009%、S:0.007%、N:1.40%、Mo:0.13%相当鋼、1.6mmφ)
[垂直部材と水平部材の完全溶込み溶接条件]
シールドガス:100%CO2(流量:25L/mm)
層数:11層(33パス)
開先:K開先(開先角度:30°)
溶接電流:190〜235A
溶接電圧:23〜29V
溶接速度:18〜60cm/min
入熱量:10〜50kJ/mm
溶接ワイヤ:DW−55E(C:0.05%、Si:0.40%、Mn:1.28%、P:0.012%、S:0.010%、N:0.41%相当鋼1.2mmφ)
Figure 2008212992
脆性亀裂停止特性の評価に当たっては、垂直部材の大入熱溶接ボンド部に沿って進展した亀裂が水平部材に達した後、(a)水平部材の1〜3mmで停止する場合(脆性亀裂停止特性良好:「Arrest」と表示)、(b)亀裂が停止せずに水平部材を貫通した場合(脆性亀裂停止特性良好:「Go」と表示)の2通りで評価した。
試験結果(脆性亀裂停止試験結果)を、垂直部材を構成する鋼板の特性(板厚、0.2%耐力(σ0.2)、引張強度TS、−10℃でのKca値、溶接ボンド部のvE-20)、および水平部材を構成する鋼板の特性(板厚、0.2%耐力(σ0.2)、引張強度TS、−10℃でのKca値、鋼板板厚1/2部のvE-100)と共に、下記表3に示す(いずれも3回の平均値)。尚垂直部材および水平部材を構成する鋼板において、同じ鋼種を用いても、特性の違いがあるのは、パススケジュール、未再結晶圧下量や加速冷却条件によって調整したものである。特に、水平部材を構成する鋼板において、−10℃でのKca値は最終3パスの圧下量と冷却条件の組み合わせによって、板厚1/2部のvE-100は未再結晶圧下量によって調整した。
具体的には、試験No.5で用いた水平部材は、粗圧延段階での温度調整圧延(大圧下圧延)+仕上げ圧延時の圧延温度とパス間圧延を短くした圧延(制御された)を行い、複熱後に直接焼入れしたものである。また、試験No.8で用いた水平部材は、仕上げ圧延についてAr3変態点以下の温度域(より低温側)での圧下により表層部を細粒化してアレスト特性の向上を図ったものである(但し、低温圧延のため板厚中心部まで十分な圧下がかからず、板厚方向に粒径のばらつきがでる)。試験No.9で用いた水平部材は、仕上げ圧延を900〜820℃とした上で、加速冷却(高温途中停止)によって製造したものであり、圧延温度が高いため中心部まで十分に圧下がかかり、冷却速度が速いため中心部の靭性が良好になったものである。
また各種高強度鋼板の引張特性[0.2%耐力(σ0.2)、引張強度(TS)]は、鋼板の板厚方向1/2部からJIS Z 2201 4号試験片を採取し、JIS Z 2241の要領で引張り試験を行なって求めたものである。またKca値は、WES(日本溶接協会)が規定する勾配型二重引張試験によって測定した。
Figure 2008212992
表3の結果に基づき、水平部材を構成する鋼板の−10℃でのKca値および板厚1/2部のvE-100が、脆性亀裂停止特性に与える影響(「Arrest」または「Go」)、を図9に示す。これらの結果から明らかなように、水平部材を構成する鋼板の−10℃でのKca値を7000N/mm3/2以上とすると共に、板厚方向1/2部のvE-100を70J以上とすることによって、水平部材で亀裂を効果的に停止できることが分かる。
大型コンテナ船の横断面構造を示す概略説明図である。 本発明のT型溶接継手構造を例示する説明図である。 ESSO試験体の形状を示す概略説明図である。 平均脆性亀裂進展速度と、垂直部材の溶接ボンド部の板厚方向中心部における平均シャルピー吸収エネルギーvE-20の関係を示すグラフである。 脆性破壊試験の状況を説明するための図である。 図5のT型溶接継手部分Aを説明するための図である。 ノッチ部分12aの拡大図である。 ノッチを形成した位置を説明するための図である。 水平部材を構成する鋼板の−10℃でのKca値および板厚1/2部のvE-100が、脆性亀裂停止特性に与える影響を示グラフである。
符号の説明
1 上甲板
2 縦通し部材
5 垂直部材
6 水平部材
7a〜7c 溶接線
20 試験体
17a,17b リブ
18a,18b タブ板
19a,19b ピン部分

Claims (4)

  1. 高強度鋼板を突き合わせ溶接した垂直部材と、高強度鋼板を突き合わせ溶接した水平部材を溶接によって接合してなるT型溶接継手構造において、
    前記垂直部材と水平部材の溶接線を一致させない構造とし、且つ前記水平部材を構成する高強度鋼板は、下記(1)および(2)の特性を満足するものである耐脆性破壊亀裂伝播停止特性に優れたT型溶接継手構造。
    (1)アレスト特性を示すKca値が、−10℃で7000N/mm3/2以上である、
    (2)板厚方向1/2部の−100℃での平均シャルピー吸収エネルギー値が70J以上である。
  2. 垂直部材の突き合わせ溶接ボンド部における板厚方向1/2部の−20℃での平均シャルピー吸収エネルギー値が50J以上である請求項1に記載のT型溶接継手構造。
  3. 前記垂直部材および水平部材は、板厚が50mm超である請求項1または2に記載のT型溶接継手構造。
  4. 前記垂直部材と水平部材との溶接接合は、完全溶け込みまたは部分溶け込みによるものである請求項1〜3のいずれかに記載のT型溶接継手構造。
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