JPWO2017057319A1 - 乳酸菌スターターの調製方法及び発酵乳の製造方法 - Google Patents

乳酸菌スターターの調製方法及び発酵乳の製造方法 Download PDF

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Abstract

【解決課題】 原料乳の組成や配合を変更せずに,発酵乳におけるブルガリア菌の菌数を増加させる。【解決手段】 無脂乳固形分を9重量%以上で含む培地に乳酸菌を添加するとともに,乳酸菌を前記培地で7時間以上,かつ培地のpHが4.2以下となるまで培養して,乳酸菌スターターを調製する。そして,このようにして調製した乳酸菌スターターを原料乳に添加して,原料乳を発酵させて発酵乳を製造することで,発酵乳におけるブルガリア菌の菌数を効果的に増加させることができる。【選択図】なし

Description

本発明は,乳酸菌スターターの調製方法,及びこの調整方法によって得られた乳酸菌スターターを用いた発酵乳の製造方法に関する。
以前から,発酵乳を製造するにあたり,まず,乳酸菌用の培地で乳酸菌を培養して,乳酸菌スターターを調製することが知られている。そして,この調整された乳酸菌スターターを原料乳に添加し,原料乳を所定温度と所定時間で保持して発酵させることで,発酵乳を製造することとなる。ここで,乳酸菌スターターの調製工程において従来,培地の無脂乳固形分(SNF:Solid Not Fat)を10重量%以下に調整するとともに,乳酸菌用の培地で乳酸菌を培養する時間を4〜6時間程度に設定し,定常期の手前まで乳酸菌を培養することが一般的であった。
また,以前から,発酵乳の製造やこれに使用する乳酸菌スターターの調製に関して,種々の方法が提案されている。
特許文献1及び特許文献2には,NK細胞活性化作用を有する発酵乳や酸性多糖類の製造方法が知られている。これらの文献には,ブルガリア菌(L. bulgaricus 1073R-1)とサーモフィラス菌(S. thermophilus OLS3059)をスターター菌として,発酵乳を製造する方法や,乳清・生乳・脱脂粉乳等を含む溶液に,ブルガリア菌とサーモフィラス菌を添加して,発酵乳を製造する方法が記載されている。
特許文献3には,自己免疫疾患の予防組成物が記載されている。この予防組成物は,ガラクトースとグルコースを構成糖とし,リンを含む多糖類生産性を有する乳酸菌(L. bulgaricus 1073R-1),乳酸菌含有物,乳酸菌処理物を含んで構成される。
特許文献4には,ビフィズス菌を有効成分とする発酵乳の離水防止などに有用な保水安定剤が記載されている。この文献には,ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)に属し,グルコースから構成された多量の多糖を菌体外に生産するビフィズス菌が記載されている。
特許文献5には,ケフィア顆粒から,多量に多糖質の粘性物質を産生する乳酸菌を分離して使用し,発酵基質に多糖質の粘性物質を産生させる,ホエー分離や離水しない安定した発酵乳や乳酸菌飲料の製造方法が記載されている。この文献には,ラクトバチルスに属するNo.14菌株の分離用培地,同菌株の乳培地への訓化方法,及び同菌株を使用した発酵乳や乳酸菌飲料の製造方法が記載されている。
特許文献6には,濃厚でクリーミーな食感の無脂肪や低脂肪のヨーグルトの製造方法が記載されている。この文献には,ヨーグルトがカゼインなどのタンパク質を含むものであり,無脂肪や低脂肪の原料乳を調製し,タンパク質の脱アミド酵素を添加して作用させ,乳タンパク質の脱アミド化率を所定値に調整してから,乳酸菌スターターを添加して発酵させる方法が記載されている。
特許文献7には,乳酸菌やビフィズス菌の産生する多糖類の濃度を制御した発酵乳の製造方法が記載されている。この文献には,原料乳の発酵処理において,乳酸菌やビフィズス菌の菌数,酸度,pHなどの数値と,乳酸菌やビフィズス菌の産生する多糖類の濃度の関係を一次式で近似し,多糖類の濃度を所定値に制御しながら,発酵の程度を制御して,多糖類の濃度を調整する方法が記載されている。つまり,この文献には,発酵乳製品の酸度が高い状態(pHが低い状態)では,微生物の産生する多糖類が増加することが示唆されている。
特開2005−194259号公報 特開2011−037888号公報 特開2000−247895号公報 特開平07−255465号公報 特開平05−268943号公報 国際公開公報WO2011/024994号パンフレット 特開2011−109997号公報
しかしながら,従来技術では,発酵乳におけるブルガリア菌(Lactobacillus delbrueckii sbsp. bulgaricus)の菌数や,菌体外多糖(EPS:Exopolysaccharide)の産生量を増加させるために,原料乳(発酵乳ミックス)の組成や配合を変更する必要があると記載されていた。つまり,上記した,いずれの文献にも,原料乳の組成や配合を変更せずに,発酵乳におけるブルガリア菌の菌数を増加させたり,菌体外多糖の産生量を増加させる方法は開示されていない。
そこで,本発明は,原料乳の組成や配合を変更せずに,発酵乳におけるブルガリア菌の菌数を増加させることを目的の1つとする。また,本発明は,原料乳の組成や配合を変更せずに,発酵乳における菌体外多糖の産生量を増加させることを目的の1つとする。
本発明は,基本的に,乳酸菌用の培地の無脂乳固形分を9重量%以上に調整するとともに,乳酸菌の培養の時間を7時間以上に設定し,かつ,前記培地のpHが4.2以下となる乳酸菌の培養の定常期の中盤から後半まで,乳酸菌を培養することによって,発酵乳におけるブルガリア菌の菌数や菌体外多糖の産生量を増加させることが可能な乳酸菌スターターを得ることができるという知見に基づくものである。つまり,従来の乳酸菌スターターの調製方法では,乳酸菌の培養の時間を比較的に短く設定し,定常期の手前まで培養することが一般的であった。これに対して,本発明に係る乳酸菌スターターの調製方法では,無脂乳固形分が9重量%以上の培地に乳酸菌を添加して培養するとともに,乳酸菌の培養の時間を7時間以上に設定し,培養の終了のpHを4.2以下として,培養時間を比較的に長時間に設定することによって,乳酸菌を定常期の後期まで培養することとなる。このように,定常期の中盤から後期まで,乳酸菌を培養して得られた乳酸菌スターターを発酵乳に添加することで,予想外にも,発酵乳におけるブルガリア菌の菌数を増加させることに成功した。併せて,発酵乳における菌体外多糖の産生量を増加させることにも成功した。さらに,本発明によれば,乳酸菌を中和培養しなくても良いため,余計な設備や手間などが不要となり,乳酸菌スターターを効率的に調製することができる。本発明は,このような知見に基づいて完成されたものである。具体的に説明すると,本発明は,以下の工程を有する。
本発明の第1の側面は,乳酸菌スターターの調製方法に関する。本発明に係る乳酸菌スターターの調製方法は,無脂乳固形分を9重量%以上で含む培地に乳酸菌を添加する工程と,この培地で7時間以上,かつこの培地のpHが4.2以下となる,乳酸菌の培養の定常期の中盤から後半まで,乳酸菌を培養して,乳酸菌スターターを得る工程とを含む。このとき,本発明に係る乳酸菌スターターの調製方法によれば,発酵乳の製造に好適に利用することができる乳酸菌スターターを得ることができる。
本発明において,培地の無脂乳固形分は,12重量%以上25重量%以下であることが好ましい。特に,培地の無脂乳固形分は,14重量%以上であることが好ましい。
本発明において,培地内の乳酸菌の培養は,培地の温度を30℃以上50℃以下とし,培養の時間を15時間以上30時間以下とすることが好ましい。
本発明において,乳酸菌は,ブルガリア菌とサーモフィラス菌を含むことが好ましい。そして,ブルガリア菌は,L.bulgaricus 1073R-1株(ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス 1073R−1株, 寄託番号:FERM BP−10741)であることが好ましい。
本発明において,乳酸菌の培養は,培地のpHが4以下となることが好ましい。乳酸菌の培養において,酸度を目安とする場合には,培養の終了の酸度が1.2%以上であることが好ましい。
本発明の第2の側面は,発酵乳の製造方法に関する。本発明に係る発酵乳の製造方法は,上記した本発明に係る乳酸菌スターターの調製方法で得られた乳酸菌スターターを用いる。つまり,本発明に係る発酵乳の製造方法は,第1の側面に係る方法によって得られた乳酸菌スターターを原料乳に添加する工程と,この原料乳を発酵させて発酵乳を得る工程とを含む。
本発明において,乳酸菌スターターは,ブルガリア菌とサーモフィラス菌を含むことが好ましい。このとき,発酵乳を得る工程では,乳酸菌スターターの増加量として,発酵乳の酸度が0.8%となった時点のブルガリア菌の菌数が,乳酸菌スターターの添加時のブルガリア菌の菌数と比較して30倍以上に増加することが好ましい。すなわち,従来技術によれば,発酵乳の酸度が0.8%となった時点において,乳酸菌スターターの増加量は20倍程度であった。これに対して,本発明によれば,発酵乳の酸度が0.8%となった時点において,乳酸菌スターターの増加量は30倍以上まで改良することができる。特に,発酵乳を得る工程では,乳酸菌スターターの増加量として,発酵乳の酸度が0.8%となった時点のブルガリア菌の菌数は,乳酸菌スターターの添加時のブルガリア菌の菌数と比較して50倍以上に増加することが好ましい。
本発明では,乳酸菌スターターの調製方法を工夫することにより,発酵乳の製造に好適な乳酸菌スターターを得ることができる。具体的には,本発明に係る乳酸菌スターターの調製方法では,無脂乳固形分が9重量%以上の培地に乳酸菌を添加して培養するとともに,培養の時間を7時間以上に設定し,pHが4.2以下となる乳酸菌の培養の定常期の中盤から後半まで,乳酸菌を培養して,乳酸菌スターターを得る。そして,このようにして得られた乳酸菌スターターを発酵乳の製造に用いることで,原料乳の組成や配合を変更せずに,発酵乳におけるブルガリア菌の菌数を増加させることができる。また,原料乳の組成や配合を変更せずに,発酵乳における菌体外多糖の産生量を増加させることもできる。さらに,本発明によれば,乳酸菌を中和培養しなくても良いため,余計な設備や手間などが不要となり,乳酸菌スターターを効率的に調製することができる。
図1は,実施例3における発酵乳の風味について官能評価の結果を示している。
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
以前から,発酵乳を製造するにあたり,まず,乳酸菌用の培地で乳酸菌を培養して,乳酸菌スターターを調製することが知られている。そして,乳酸菌スターターの調製方法において,従来,培地の無脂乳固形分(SNF)を10重量%程度に調整するとともに,乳酸菌用の培地で乳酸菌を培養する時間を4〜6時間程度に設定し,定常期手前まで培養することが一般的であった。しかしながら,このようにして得られた乳酸菌スターターを利用して発酵乳を製造しても,乳酸菌(特にブルガリア菌)の菌数の増加量が十分ではなく,発酵乳における菌体外多糖の産生量(EPS量)も十分ではないという問題もあった。このため,従来技術では,乳酸菌の菌数やEPS量を増加させるためには,例えば,発酵乳の元となる原料乳の組成や配合を調整する必要があった。
本発明は,このような問題を解決するために提案されたものであり,原料乳の組成や配合を変更せずに,発酵乳におけるブルガリア菌の菌数を増加させるとともに,発酵乳におけるEPS量を増加させることを目的としている。
本発明では,まず,乳酸菌スターターを調製する。乳酸菌スターターの調製方法は,無脂乳固形分を9重量%以上,好ましくは12重量%以上で含む培地に乳酸菌を添加する工程と,この培地において乳酸菌を7時間以上で培養して,乳酸菌スターターを得る工程とを含む。
乳酸菌は,ブルガリア菌を含むことが好ましい。ここで,「ブルガリア菌」とは,ラクトバチルス・ブルガリカス(L. bulgaricus)である。そして,ブルガリア菌の例として,L.bulgaricus1073R-1株(ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス 1073R−1株, 寄託番号:FERM BP−10741)や,L.bulgaricus OLL1171株(ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1171株)を挙げることができる。このとき,少なくとも,乳酸菌は,L.bulgaricus 1073R-1株を含むことが好ましい。また,乳酸菌は,サーモフィラス菌を含むことが好ましい。ここで,「サーモフィルス菌」とは,ストレプトコッカス・サーモフィルス(S.t hermophilus)である。そして,サーモフィラス菌の例として,S.thermophilus 1131株(ストレプトコッカス・サーモフィラス 1131株)や,S.thermophilus OLS3615株(ストレプトコッカス・サーモフィラス 3615株)を挙げることができる。特に,本発明において,乳酸菌は,L.bulgaricus 1073R-1株を40〜100重量%以上,50〜90重量%以上,又は60〜85重量%以上で含むことが好ましい。なお,L.bulgaricus 1073R-1株とS.thermophilus 1131株は,「明治プロビオヨーグルトR−1」より単離された乳酸菌である。また,L.bulgaricus OLL1171株とS.thermophilus OLS3615株は,「明治ブルガリアつぶごとブルーベリー」より単離された乳酸菌である。
培地は,乳酸菌を培養するための溶液である。乳酸菌を培地に添加し,その培地で乳酸菌を培養することで,乳酸菌スターターを得ることができる。培地は,無脂乳固形分(SNF)を,少なくとも9重量%,好ましくは12重量%で有する。具体的には,培地の無脂乳固形分は,12重量%以上,14重量%以上,15重量%以上,18重量%以上,又は20重量%以上であることが好ましい。培地の無脂乳固形分の上限は,特に限定されないが,例えば,30重量%又は25重量%であることが好ましい。特に,無脂乳固形分は,脱脂粉乳由来のものであることが好ましい。なお,脱脂粉乳では,およそ95%が無脂乳固形分であり,残余の大部分が水分である。
培地は,無脂乳固形分と水分のみからなるものであることが好ましい。つまり,培地は,無脂乳固形分を,少なくとも9重量%,好ましくは12重量%以上で含み,残余が水分からなる。なお,培地は,酵母エキスを含まないことが好ましい。また,培地は,乳化剤を含まないことが好ましい。このように,無脂乳固形分と水分のみで培地を調製し,その他の余剰物を添加しないようにすることで,この培地で乳酸菌を効果的に培養することができる。つまり,培地が無脂乳固形分と水分以外のものを含むと,乳酸菌の活性化が阻害されるおそれがある。これに対して,培地が無脂乳固形分と水分のみを含むと,乳酸菌を効果的に活性化させることができる。特に,乳酸菌用の培地に酵母エキスが含まれていないことで,この培地で培養した乳酸菌スターターを添加して製造した発酵乳の風味を向上させることができる。具体的には,培地は,脱脂粉乳と原料水(純水,水道水,井水など)のみから調製されることが好ましい。
ブルガリア菌を含む乳酸菌を培地に対して,0.1重量%以上で添加することが好ましい。具体的には,乳酸菌を培地に対して,0.1〜1重量%,0.15〜0.9重量%,又は0.2〜0.8重量%で添加すればよい。
このように,ブルガリア菌を含む乳酸菌を培地に添加した後に,この乳酸菌をこの培地で培養する。そして,乳酸菌の培養の時間は,7時間以上に設定することが好ましい。具体的には,乳酸菌の培養の時間は,7時間以上,8時間以上,又は9時間以上であることが好ましく,15時間以上,20時間以上,又は24時間以上としてもよい。
乳酸菌の培養は,培地のpHを目安にして終了させることができる。乳酸菌の培養の時間の上限は,特に限定されないが,例えば,培地のpHが所定値となった段階で培養を終了させればよい。ここで,乳酸菌用の培地の培養の終了のpHは,4.2以下(弱酸性又は酸性)に設定することが好ましい。具体的には,乳酸菌用の培地の培養の終了のpHは,4.1以下であることが好ましく,3.5〜4.0であることが特に好ましい。なお,乳酸菌用の培地の培養の終了のpHの下限は,例えば3.5である。
乳酸菌の培養は,培地の酸度を目安にして終了させることもできる。乳酸菌の培養の時間の上限は,特に限定されないが,例えば,培地の酸度が所定値となった段階で培養を終了させればよい。ここで,例えば,乳酸菌用の培地の培養の終了の酸度は,1.2%以上に設定することが好ましい。なお,本発明において,培地の酸度(乳酸酸度)は,乳等省令の「乳等の成分規格の試験法」に従って測定される。具体的には,試料の10gに,炭酸ガスを含まないイオン交換水を10mlで添加してから,指示薬として,フェノールフタレイン溶液を0.5mlで添加する。そして,水酸化ナトリウム溶液(0.1mol/L)を添加しながら,微紅色が消失しないところを限度として滴定し,その水酸化ナトリウム溶液の滴定量から試料の100g当たりの乳酸の含量を求めて,酸度(乳酸酸度)とする。なお,フェノールフタレイン溶液は,フェノールフタレインの1gをエタノール溶液(50%)に溶かして100mlにフィルアップして調製される。
また,乳酸菌の培養工程において,培地の温度は,30℃以上で保持されていることが好ましい。特に,培地の温度は,30℃〜50℃で保持されていることが好ましく,33℃〜47℃で保持されていることがより好ましく,35℃〜44℃で保持されていることがさらに好ましい。ただし,乳酸菌の培養では,培養の時間を7時間以上に設定し,培地のpHが4.2以下となる条件であればよく,培地の温度は,上記したものに限定されない。
このように,ブルガリア菌を含む乳酸菌を,無脂乳固形分が9重量%,好ましくは12重量%以上の培地に添加して,この培地において7時間以上で培養し,乳酸菌スターターを調製する。その後に,このようにして得られた乳酸菌スターターを原料乳に添加して,原料乳を発酵させて,発酵乳を製造する。このように,本発明の方法に従って調整された乳酸菌スターターは,発酵乳の製造方法に利用することができる。本発明によれば,乳酸菌を中和培養しなくても良いため,余計な設備や手間などが不要となり,乳酸菌スターターを効率的に調製することができる。
本発明によって製造される発酵乳の例として,ヨーグルトを挙げることができる。ヨーグルトは,プレーンタイプやハードタイプやソフトタイプであってもよいし,ドリンクタイプであってもよい。また,本発明によって製造される発酵乳の例として,フローズンヨーグルトや,チーズの材料を挙げることができる。本発明において,発酵乳とは,乳等省令で定義される「発酵乳」,「乳製品乳酸菌飲料」,「乳酸菌飲料」などのいずれであってもよい。
発酵乳の元となるのは,原料乳である。原料乳は,ヨーグルトミックスとも呼ばれる。本発明において,原料乳には公知のものを用いることができる。例えば,原料乳は,生乳のみからなるもの(生乳が100%のもの)であってもよい。また,原料乳は,生乳に,脱脂粉乳,クリーム,水などを混合して調製したものであってもよい。また,原料乳は,これらの他に,殺菌乳,全脂乳,脱脂乳,全脂濃縮乳,脱脂濃縮乳,全脂粉乳,バターミルク,有塩バター,無塩バター,ホエー,ホエー粉,ホエータンパク質濃縮物(WPC),ホエータンパク質単離物(WPI),α−La(アルファ−ラクトアルブミン),β−Lg(ベータ−ラクトグロブリン),乳糖などを混合(添加)して調製したものであってもよい。また,原料乳は,予め温めたゼラチン,寒天,増粘剤,ゲル化剤,安定剤,乳化剤,ショ糖,甘味料,香料,ビタミン,ミネラルなどを適宜添加して調製したものであってもよい。そして,原料乳の調製工程では,原料乳を均質化することで,原料乳に含まれる脂肪球などを微粒化(粉砕)することが好ましい。つまり,原料乳を均質化することで,発酵乳の製造過程や製造後において,原料乳,発酵乳基材,発酵乳の脂肪分が分離することや浮上することを抑制できる。
本発明では,上記した原料乳に,上記した乳酸菌スターターの調製方法によって得られた乳酸菌スターターを添加(配合)する。ここで,乳酸菌スターターの添加量は,公知の発酵乳の製造方法において採用されているものであればよく,例えば,0.1〜5重量%,0.5〜4重量%,又は1〜3重量%とすればよい。
次に,乳酸菌スターターが添加された原料乳を発酵させて,発酵乳を製造する。つまり,発酵工程では,原料乳を所定温度(例えば,30℃〜50℃)に保持しながら発酵させて,発酵乳を得る。ここで,原料乳の発酵には,公知の方法を用いることができる。例えば,発酵室などによって,原料乳を発酵させればよく,ジャケット付のタンクによって,原料乳を発酵させればよい。そして,発酵工程では,ヨーグルトがプレーンタイプやハードタイプの場合などにおいて,後発酵処理を適用すればよく,ヨーグルトがソフトタイプやドリンクタイプの場合などにおいて,前発酵処理を適用すればよい。また,発酵工程では,原料乳を発酵させる条件を,原料乳や乳酸菌の種類や数量,発酵乳の風味や食感などを考慮して,発酵の温度や発酵の時間などを適宜調整すればよい。具体的に,発酵工程では,乳酸菌スターターが添加された原料乳は30℃以上,1時間以上で保持されていることが好ましい。さらに,発酵工程では,原料乳(発酵乳基材)が30℃〜50℃で保持されていることが好ましく,33℃〜47℃で保持されていることがより好ましく,35℃〜44℃で保持されていることがさらに好ましい。また,発酵工程では,原料乳が1時間〜30時間で保持されていることが好ましく,2時間〜24時間で保持されていることがより好ましく,3時間〜12時間で保持されていることがさらに好ましい。
発酵工程では,原料乳を発酵させる条件を,原料乳や乳酸菌の種類や数量,発酵乳の風味や食感などを考慮して,酸度(乳酸酸度)を適宜調節してもよい。具体的に,発酵工程では,原料乳(発酵乳)の酸度が0.8%以上となるまで発酵させる(保持する)ことが好ましい。さらに,発酵工程では,原料乳(発酵乳)の酸度が0.8〜2.0%,0.9〜2.0%,1.5〜2.0%,又は1.6%〜2.0%となるまで発酵させることが好ましい。原料乳の酸度を調整する場合には,所定の酸度に達した段階で,原料乳の発酵を終了させればよい。なお,本発明において,原料乳(発酵乳)の酸度は,上記したとおり,乳等省令の「乳等の成分規格の試験法」に従って測定される。
このようにして,本発明に係る方法によって調整された乳酸菌スターターを用いて,発酵乳を製造することができる。本発明によれば,乳酸菌スターターを効果的に活性化させることができる。このため,この活性化された乳酸菌スターターを用いて,発酵乳を製造することで,発酵乳の元となる原料乳の組成や配合を変更せずに,発酵乳における乳酸菌(特にブルガリア菌)の菌数を増加させることができる。
具体的には,原料乳に乳酸菌スターターを添加した時点のブルガリア菌の菌数と,発酵乳の酸度が0.8%となった時点のブルガリア菌の菌数を比較すると,本発明によれば,ブルガリア菌の菌数の増加量として,発酵乳の酸度が0.8%となった時点のブルガリア菌の菌数は,乳酸菌スターターの添加時のブルガリア菌の菌数と比較して30倍以上に増加する。このとき,ブルガリア菌の菌数の増加量は,30倍以上,50倍以上,60倍以上,又は80倍以上であることが好ましい。なお,ブルガリア菌の菌数の増加量の上限は,特に限定されないが,例えば100倍程度である。なお,従来技術に従って,ブルガリア菌を含む乳酸菌を培養して,乳酸菌スターターを調製した場合には,この乳酸菌スターターを原料乳に添加して発酵させても,発酵乳におけるブルガリア菌の菌数の増加量は,15倍〜20倍程度が限界であった。これに対して,本発明の方法に従って,ブルガリア菌を含む乳酸菌を培養して,乳酸菌スターターを調製し,この乳酸菌スターターを原料乳に添加して発酵させると,発酵乳におけるブルガリア菌の菌数の増加量は,30倍以上にまで改良することができる。また,ブルガリア菌には,機能性の菌体外多糖(EPS)を生産するものがある。従って,ブルガリア菌の菌数を相対的に増加させることで,菌体外多糖を多く含む発酵乳を製造することができる。
そこで,発酵乳の酸度が0.8%となった時点において,発酵乳における菌体外多糖の産生量(EPS量)は,4.0mg/112g以上,4.7mg/112g以上,5.0mg/112g以上,5.5mg/112g以上,6.0mg/112g以上,6.5mg/112g以上,又は7.0mg/112g以上であることが好ましい。ここで,EPS量の上限は,特に限定さないが,例えば10.0mg/112gである。つまり,本発明によれば,発酵乳におけるブルガリア菌の菌数を効率的に増加させることができるため,この結果として,発酵乳におけるEPS量も効率的に増加させることができる。
ところで,本発明は,発酵乳における多糖類の製造方法として捉えることもできる。すなわち,本発明に係る多糖類の製造方法では,まず,無脂乳固形分を9重量%以上で含む培地に乳酸菌を添加する。ここで,この乳酸菌にはブルガリア菌が含まれることが好ましい。そして,乳酸菌を前記培地で7時間以上,かつ培地のpHが4.2以下となるまで培養して,乳酸菌スターターを調製する。その後に,このようにして調製された乳酸菌スターターを原料乳に添加する。そして,乳酸菌スターターが添加された原料乳を発酵させて,発酵乳を得る。この結果として,発酵過程において,乳酸菌スターターが多糖類を生産する。本発明に係る多糖類の製造方法では,上記した乳酸菌の培養条件や原料乳の発酵条件を適宜採用することができる。
以下,実施例を用いて,本発明を具体的に説明する。ただし,本発明は,以下の実施例に限定されることなく,公知の手法に基づく様々な改良を加えることができるものである。
実施例1では,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳の配合濃度・乳酸菌の培養の時間と,発酵乳におけるL.bulgaricus 1073R-1株(以下,「ブルガリア菌1073R−1」という)の菌数・菌体外多糖の産生量の関係について検証した。
乳酸菌用の培地における脱脂粉乳の配合濃度(脱脂粉乳率)を10〜15重量%(無脂乳固形分(SNF)を9.5〜14.3重量%)に調整するとともに,乳酸菌の培養の時間を6.5〜24時間(乳酸菌の培養の終了のpHを4.6〜3.8)に設定して,ブルガリア菌1073R−1を含む乳酸菌スターターを5種類で調製した(表1)。そして,これらの乳酸菌スターターの5種類におけるブルガリア菌1073R−1の菌数(1073R−1菌数)を測定した(表1)。なお,乳酸菌用の培地は,脱脂粉乳と原料水(純水)のみからなるものを用いた。また,それぞれの乳酸菌スターターは,ブルガリア菌1073R−1に加えて,「明治プロビオヨーグルトR−1」より単離したS.thermophilus 1131(以下,「サーモフィラス菌1131」という)を含むものとした。また,培養開始前の状態において,培地には,ブルガリア菌1073R−1とサーモフィラス菌1131を,それぞれ2×10cfu/mlで添加した。脱脂粉乳の培地に対する乳酸菌スターターの添加量は,0.15重量%であった。脱脂粉乳は,およそ95%が無脂乳固形分であり,残余が水分であった。
[表1] 乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率・乳酸菌の培養時間と,乳酸菌用の培地における1073R−1菌数の関係
Figure 2017057319
表1に示されるように,乳酸菌スターター1及び2は,本発明の比較例であり,乳酸菌スターター3,4,及び5は,本発明の実施例である。このとき,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を10〜15重量%に調整した場合には,各培地における1073R−1菌数は,16×10〜22×10cfu/gであり,それぞれが同程度であった。
これら5種類の乳酸菌スターターを,それぞれの菌数がほぼ等しくなるように調整したうえで,原料乳に添加した。原料乳へ添加する時において,これら5種類の乳酸菌スターターは,それぞれ,ブルガリア菌1073R−1を6×10cfu/mlで含み,サーモフィラス菌1131を2×10cfu/mlで含むものとした。これら5種類の乳酸菌スターターを添加した原料乳を43℃に保持して発酵させて,ブルガリア菌1073R−1を含む発酵乳を5種類で製造した。ここで,これら5種類の発酵乳の酸度が0.8%となったところで発酵を終了し,発酵乳におけるブルガリア菌1073R−1の菌数(1073R−1菌数)と,発酵乳における菌体外多糖の産生量(EPS量)を測定した(表2)。
乳酸菌スターターが添加された原料乳の組成は,牛乳77重量%,脱脂粉乳3重量%,砂糖5重量%,乳酸菌スターター3重量%,原料水12重量%であった。
[表2] 乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率・乳酸菌の培養時間と,発酵乳における1073R−1菌数・EPS量の関係
Figure 2017057319
ここで,EPS量では,以下の手順で分析した。
(1)10gの発酵乳(ヨーグルト)に対してTCAによる除タンパクを行う。
(2)エタノール沈澱によりEPSを精製する。
(3)0.45μmフィルターにより夾雑物を除去する。
(4)ゲル濾過カラムを用いたHPLC(High performance liquid chromatography)によりEPS量を分析する。
なお,HPLC分析装置としては,Aquity H-class (Waters)を用いた。
このとき,乳酸菌スターター1(比較例)のように,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を10重量%に調整し,乳酸菌の培養の時間を6.5時間に設定した場合には,発酵乳における1073R−1菌数は,13×10cfu/gであり,発酵乳におけるEPS量は,4.7mg/112gであった。ここで,乳酸菌スターターの添加時と発酵の終了時を比較すると,1073R−1菌数は,約21倍に増加した。
また,乳酸菌スターター2(比較例)のように,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を15重量%に調整し,乳酸菌の培養の時間を4.5時間に設定した場合には,発酵乳における1073R−1菌数は,9.7×10cfu/gであり,発酵乳におけるEPS量は,4mg/112gであった。ここで,乳酸菌スターターの添加時と発酵の終了時を比較すると,1073R−1菌数は,約16倍に増加した。
そして,乳酸菌スターター3(実施例)のように,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を15重量%に調整し,乳酸菌の培養の時間を7時間に設定した場合には,発酵乳における1073R−1菌数は,19×10cfu/gであり,発酵乳におけるEPS量は,4.7mg/112gであった。ここで,乳酸菌スターターの添加時と発酵の終了時を比較すると,1073R−1菌数は,約31倍に増加した。
また,乳酸菌スターター4(実施例)のように,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を15重量%に調整し,乳酸菌の培養の時間を15時間に設定した場合には,発酵乳における1073R−1菌数は,35×10cfu/gであり,発酵乳におけるEPS量は,6.5mg/112gであった。ここで,乳酸菌スターターの添加時と発酵の終了時を比較すると,1073R−1菌数は,約58倍に増加した。
また,乳酸菌スターター5(実施例)のように,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を15重量%に調整し,乳酸菌の培養時間を24時間に設定した場合には,発酵乳における1073R−1菌数は,53×10cfu/gであり,発酵乳におけるEPS量は,7.3mg/112gであった。ここで,乳酸菌スターターの添加時と発酵の終了時を比較すると,1073R−1菌数は,約88倍に増加した。
このようにして,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を15重量%に調整し,乳酸菌の培養時間を15時間以上に設定し,培養終了時のpHを3.9以下にした場合には,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を10重量%に調整し,乳酸菌の培養時間を6.5時間に設定し,培養終了時のpHを4.4にした場合や,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を15重量%に調整し,乳酸菌の培養時間を7時間以下でpH4.3以上に設定した場合に比較して,発酵乳における1073R−1菌数が2.5〜4倍で増加することが確認された。
また,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を15重量%に調整し,乳酸菌の培養時間を15時間以上に設定し,培養終了時のpHを3.9以下にした場合には,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を10重量%に調整し,乳酸菌の培養時間を6.5時間に設定し,培養終了時のpHを4.4にした場合や,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を15重量%に調整し,乳酸菌の培養時間を7時間以下でpH4.3以上に設定した場合に比較して,発酵乳におけるEPS量が1.3〜2倍で増加することが確認された。
従って,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率は15重量%以上であることが好ましく,また,培地内での乳酸菌の培養時間は15時間以上であることが好ましいことが認められた。さらに,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率が同じであっても,乳酸菌用の培地における乳酸菌の培養時間を長く設定し,培養の終了時のpHを低く設定することで,発酵乳の発酵過程における乳酸菌の増加量が大きくなることが明らかになった。
実施例2では,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳の配合濃度と,発酵乳におけるブルガリア菌1073R−1の菌数・菌体外多糖の産生量の関係について検証した。
乳酸菌用の培地における脱脂粉乳の配合濃度(脱脂粉乳率)を10〜20重量%(無脂乳固形分(SNF)を9.5〜17.1重量%)に調整するとともに,乳酸菌の培養の時間を6.6時間又は15時間に設定して,ブルガリア菌1073R−1を含む乳酸菌スターターを6種類で調製した(表3)。そして,これら6種類の乳酸菌スターターにおけるブルガリア菌1073R−1の菌数(1073R−1菌数)を測定した(表3)。なお,乳酸菌用の培地は,脱脂粉乳と原料水(純水)のみからなるものを用いた。また,それぞれの乳酸菌スターターは,ブルガリア菌1073R−1に加えて,サーモフィラス菌1131を含むものとした。また,培養開始前の状態において,培地には,ブルガリア菌1073R−1とサーモフィラス菌1131を,それぞれ2×10cfu/mlで添加した。脱脂粉乳の培地に対する乳酸菌スターターの添加量は,0.15重量%であった。脱脂粉乳は,およそ95%が無脂乳固形分であり,残余が水分であった。
[表3] 乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率と,乳酸菌用の培地における1073R−1菌数の関係
Figure 2017057319
このとき,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を10〜15重量%に調整した場合には,乳酸菌の培養の時間に関わらず,乳酸菌用の培地における1073R−1菌数は,16×10〜22×10cfu/gであり,それぞれが同程度であった。また,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を18〜20重量%に調整した場合には,乳酸菌用の培地における1073R−1菌数は,30×10〜35×10cfu/gであり,それぞれが同程度であった。
これら6種類の乳酸菌スターターを,それぞれの菌数がほぼ等しくなるように調整したうえで,原料乳に添加した。原料乳へ添加する時において,これら6種類の乳酸菌スターターは,それぞれ,ブルガリア菌1073R−1を6×10cfu/mlで含み,サーモフィラス菌1131を2×10cfu/mlで含むものとした。これらの乳酸菌スターターを添加した原料乳を43℃に保持して発酵させて,ブルガリア菌1073R−1を含む発酵乳を6種類で製造した。ここで,これら6種類の発酵乳の酸度が0.8%となったところで発酵を終了し,発酵乳におけるブルガリア菌1073R−1の菌数(1073R−1菌数)と,発酵乳における菌体外多糖の産生量(EPS量)を測定した(表4)。
乳酸菌スターターが添加された原料乳の組成は,牛乳77重量%,脱脂粉乳3重量%,砂糖5重量%,乳酸菌スターター3重量%,原料水12重量%であった。
[表4] 乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率と,発酵乳における1073R−1菌数・EPS量の関係
Figure 2017057319
このとき,乳酸菌スターター6(比較例)のように,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を10重量%に調整し,培養時間を7時間に設定し,培養の終了のpHを4.3に設定した場合には,発酵乳における1073R−1菌数は,16×10cfu/gであり,発酵乳におけるEPS量は,4.8mg/112gであった。ここで,乳酸菌スターターの添加時と発酵の終了時を比較すると,1073R−1菌数は,約26倍に増加した。
他方,乳酸菌スターター7(実施例)のように,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を10重量%に調整し,培養時間を15時間に設定し,培養の終了のpHを3.7に設定した場合には,発酵乳における1073R−1菌数は,30×10cfu/gであり,発酵乳におけるEPS量は,5.6mg/112gであった。ここで,乳酸菌スターターの添加時と発酵の終了時を比較すると,1073R−1菌数は,約50倍に増加した。
また,乳酸菌スターター8,9,10(実施例)のように,乳酸菌用の培養時間を15時間に設定し,培養終了pHを4以下に設定した場合には,発酵乳における1073R−1菌数は,41×10cfu/gであり,発酵乳におけるEPS量は,7.4mg/112gであった。ここで,乳酸菌スターターの添加時と発酵の終了時を比較すると,1073R−1菌数は,約68倍に増加した。
乳酸菌スターター6(比較例)と乳酸菌スターター7(実施例)を比較すれば明らかなように,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率が同じであっても,乳酸菌用の培地における乳酸菌の培養の時間を長く設定し,培養の終了時のpHを定常期の中盤から後半である4.0以下に設定した乳酸菌スターターを用いた場合には,発酵乳の発酵過程における乳酸菌の増加量が大きくなることが確認された。また,乳酸菌スターター7〜11を比較すれば明らかなように,乳酸菌用の培地における乳酸菌の培養の時間が同じであっても,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳率を高く設定することで,発酵乳の発酵過程における乳酸菌の増加量が大きくなることが確認された。
実施例3では,乳酸菌用の培地における培養終了pHと,発酵乳におけるブルガリア菌1073R−1の菌数・菌体外多糖の産生量・発酵乳の風味の関係について検証した。
本発明の実施例として,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳の配合濃度(脱脂粉乳率)を10.5重量%(無脂乳固形分(SNF)を10重量%)に調整するとともに,乳酸菌の培養時間を7.7時間に設定して,このpHが4.3となったところで発酵(培養)を終了し,ブルガリア菌1073R−1を含む乳酸菌スターター(乳酸菌スターター12)を調製した(表5)。そして,この乳酸菌スターター12におけるブルガリア菌1073R−1の菌数(1073R−1菌数)を測定した(表5)。
また,本発明の実施例として,乳酸菌用の培地における脱脂粉乳の配合濃度(脱脂粉乳率)を12重量%(無脂乳固形分(SNF)を11.4重量%)に調整するとともに,乳酸菌の培養時間を15時間に設定して,このpHが3.9となったところで発酵(培養)を終了し,ブルガリア菌1073R−1を含む本発明の乳酸菌スターター(乳酸菌スターター13)を調製した(表5)。そして,この乳酸菌スターター13におけるブルガリア菌1073R−1の菌数(1073R−1菌数)を測定した(表5)。
なお,乳酸菌スターター12及び13(実施例)は,ブルガリア菌1073R−1に加えて,サーモフィラス菌1131を含むものとした。また,培養開始前の状態において,培地には,ブルガリア菌1073R−1とサーモフィラス菌1131を,それぞれ2×10cfu/mlで添加した。脱脂粉乳の培地に対する乳酸菌スターターの添加量は,0.15重量%であった。脱脂粉乳は,およそ95%が無脂乳固形分であり,残余が水分であった。
[表5] 乳酸菌用の培地における培養終了pHと,乳酸菌用の培地における1073R−1菌数の関係
Figure 2017057319
このとき,乳酸菌スターター12(比較例)のように,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを4.3に調整した場合には,培地における1073R−1菌数は,17×10cfu/gであった。また,乳酸菌スターター13のように,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを3.9に調整した場合には,培地における1073R−1菌数は,19×10cfu/gであった。つまり,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHが増加しても,培地における1073R−1菌数は,同程度であることが確認された。
乳酸菌スターター12,13を原料乳に添加して43℃に保持して発酵させて,ブルガリア菌1073R−1を含む発酵乳を製造した。ここで,これらの発酵乳の酸度が0.8%となったところで発酵を終了し,発酵乳におけるブルガリア菌1073R−1の菌数(1073R−1菌数)と,発酵乳における菌体外多糖の産生量(EPS量)を測定する(表6)とともに,専門パネルの20名により,発酵乳の風味について官能評価した(図1)。この官能評価では,図1に示したパラメータのそれぞれについて,−3,−2,−1,0,1,2,3の7段階を指標とした。
なお,乳酸菌スターター12比較例)と乳酸菌スターター13(実施例)は,乳酸菌の菌数がほぼ等しくなるように調整したうえで,原料乳に添加した。原料乳へ添加する時において,それぞれの乳酸菌スターターは,ブルガリア菌1073R−1を6×10cfu/mlで含み,サーモフィラス菌1131を2×10cfu/mlで含むものとした。
乳酸菌スターターが添加された原料乳の組成は,牛乳77重量%,脱脂粉乳3重量%,砂糖5重量%,乳酸菌スターター3重量%,原料水12重量%であった。
[表6] 乳酸菌用の培地における培養終了pHと,発酵乳における1073R−1菌数・EPS量の関係
Figure 2017057319
このとき,乳酸菌スターター12(比較例)のように,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを4.3に調整した場合には,発酵乳における1073R−1菌数は,18×10cfu/gであり,発酵乳におけるEPS量は,5.2mg/112gであった。ここで,乳酸菌スターターの添加時と発酵の終了時を比較すると,1073R−1菌数は,約30倍に増加した。
また,乳酸菌スターター13(実施例)のように,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを3.9に調整した場合には,発酵乳における1073R−1菌数は,35×10cfu/gであり,発酵乳におけるEPS量は,6.9mg/112gであった。ここで,乳酸菌スターターの添加時と発酵の終了時を比較すると,1073R−1菌数は,約58倍に増加した。
従って,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHが4.3から3.9に低下することに伴い,発酵乳における1073R−1菌数は約2倍に増加し,発酵乳におけるEPS量は約1.3倍に増加することが確認された。
また,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを4.3に調整して製造した発酵乳の風味は,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを3.9に調整して製造した発酵乳の風味に比較して,食べ応え,濃厚感,粘性の程度,及び組織の緻密さが有意に向上した。なお,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを3.9に調整して製造した発酵乳の風味は,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを4.3に調整して製造した発酵乳の風味に比較して,後味のスッキリ感は有意に低下した。つまり,乳酸菌スターター13を利用した発酵乳の風味は,比較例の発酵乳の風味に比較して,後味のスッキリ感が劣るものの,食べ応え, 濃厚感,粘性の程度, 及び組織の緻密さが優れていると認められた。このため,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを低く設定(調整)して,無脂肪・低脂肪や低タンパク質の発酵乳を製造すれば,通常の脂肪濃度や通常のタンパク質濃度の発酵乳と同程度の風味を達成できることが確認された。
実施例4では,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHと,発酵乳におけるL.bulgaricus OLL1171株(以下,「ブルガリア菌OLL1171」という)の菌数と発酵乳の風味の関係について検証した。なお,ブルガリア菌OLL1171は,「明治ブルガリアヨーグルトつぶごとブルーベリー」より単離した。
本発明の比較例として,乳酸菌用の培地おける脱脂粉乳の配合濃度(脱脂粉乳率)を10重量%(無脂乳固形分(SNF)を9.6重量%)に調整するとともに,乳酸菌の培養の時間を6時間に設定して,培地のpHが4.3となったところで発酵(培養)を終了し,ブルガリア菌OLL1171を含む乳酸菌スターター(乳酸菌スターター14)を調製した(表7)。そして,この乳酸菌スターター14におけるブルガリア菌OLL1171の菌数を測定した(表7)。
また,本発明の実施例として,乳酸菌用の培地おける脱脂粉乳の配合濃度(脱脂粉乳率)を15重量%(無脂乳固形分(SNF)を14.3重量%)に調整するとともに,乳酸菌の培養の時間を15時間に設定して,培地のpHが3.9となったところで発酵(培養)を終了し,ブルガリア菌OLL1171を含む乳酸菌スターター(乳酸菌スターター15)を調製した(表7)。そして,この乳酸菌スターター14におけるブルガリア菌OLL1171の菌数を測定した(表7)。
なお,乳酸菌スターター14(比較例)と乳酸菌スターター15(実施例)は,ブルガリア菌OLL1171に加えて,「明治ブルガリアヨーグルトつぶごとブルーベリー」より単離したS.thermophilus 3615(以下,「サーモフィラス菌OLS3615」という)を含むものとした。また,培養開始前の状態において,培地には,ブルガリア菌OLL1171を9×10cfu/ml,サーモフィラス菌OLS3615を6×10cfu/ml,それぞれで添加した。脱脂粉乳の培地に対する乳酸菌スターターの添加量は,0.15重量%であった。脱脂粉乳は,およそ95%が無脂乳固形分であり,残余が水分であった。
[表7] 乳酸菌用の培地における培養終了pHと,乳酸菌用の培地におけるブルガリア菌OLL1171の菌数の関係
Figure 2017057319
このとき,乳酸菌スターター14(比較例)のように,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを4.3に調整した場合には,培地におけるブルガリア菌OLL1171の菌数は,11.5×10cfu/gであった。他方,乳酸菌スターター15(実施例)のように,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを3.9に調整した場合には,培地におけるブルガリア菌OLL1171の菌数は,25.0×10cfu/gであった。つまり,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHが増加すると,培地におけるブルガリア菌OLL1171の菌数は,約2倍量となった。
乳酸菌スターター14(比較例)及び乳酸菌スターター15(実施例)を原料乳に添加して発酵させて,ブルガリア菌OLL1171を含む発酵乳(比較例,実施例)を製造した。ここで,これらの発酵乳の酸度が0.8%となったところで発酵を終了し,発酵乳におけるブルガリア菌OLL1171の菌数を測定した(表8)。なお,乳酸菌スターター14(比較例)と乳酸菌スターター15(実施例)は,乳酸菌の菌数がほぼ等しくなるように調整したうえで,原料乳に添加した。原料乳へ添加する時において,それぞれの乳酸菌スターターは,ブルガリア菌OLL1171を6×10cfu/mlで含み,サーモフィラス菌OLS3615を3×10cfu/mlで含むものとした。
[表8] 乳酸菌用の培地における培養終了pHと,発酵乳におけるブルガリア菌OLL1171の菌数の関係
Figure 2017057319
このとき,乳酸菌スターター14(比較例)のように,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを4.3に調整した場合には,発酵乳におけるブルガリア菌OLL1171の菌数は,2.0×10cfu/gであった。乳酸菌スターターの添加時と発酵の終了時を比較すると,ブルガリア菌OLL1171の菌数は,約3倍に増加した。
他方,乳酸菌スターター15(実施例)のように,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHを3.9に調整した場合には,発酵乳におけるブルガリア菌OLL1171の菌数は,19.5×10cfu/gであった。ブルガリア菌OLL1171の菌数は,約32倍に増加した。
つまり,乳酸菌用の培地における培養の終了のpHが4.3から3.9に低下することに伴い,発酵乳におけるブルガリア菌OLL1171菌数は,約10倍に増加した。
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,図面を参照しながら,本発明の実施例について説明した。ただし,本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて,当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
本発明は,乳酸菌スターターの調製方法及び発酵乳の製造方法に関する,従って,本発明は,ヨーグルトなどの発酵乳の製造業において好適に利用しうる。

Claims (7)

  1. 無脂乳固形分を9重量%以上で含む培地に乳酸菌を添加する工程と,
    前記乳酸菌を前記培地で7時間以上,かつ培地のpHが4.2以下となるまで培養して,乳酸菌スターターを得る工程と,を含む
    乳酸菌スターターの調製方法。
  2. 前記培地の無脂乳固形分は,12重量%以上25重量%以下である
    請求項1に記載の調製方法。
  3. 前記培養は,前記培地の温度を30℃以上50℃以下とし,培養の時間を15時間以上30時間以下とする
    請求項1又は請求項2に記載の調製方法。
  4. 前記乳酸菌は,ブルガリア菌とサーモフィラス菌を含む
    請求項1から請求項3のいずれかに記載の調製方法。
  5. 前記培養は,前記培地のpHが4以下となるまでとする
    請求項1から請求項4のいずれかに記載の調製方法。
  6. 請求項1から請求項5のいずれかに記載の調製方法によって調製された前記乳酸菌スターターを原料乳に添加する工程と,
    前記原料乳を発酵させて発酵乳を得る工程と,を含む
    発酵乳の製造方法。
  7. 前記乳酸菌スターターは,ブルガリア菌とサーモフィラス菌を含み,
    前記発酵乳を得る工程において,前記発酵乳の酸度が0.8%となった時点の前記ブルガリア菌の菌数は,前記乳酸菌スターターの添加時の前記ブルガリア菌の菌数と比較して30倍以上に増加する
    請求項6に記載の製造方法。
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