JPWO2016152293A1 - 癌細胞のglut1の発現抑制用組成物および発現抑制方法 - Google Patents
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Abstract
Description
また、現在では疾患の治療にターゲットを置いた薬剤より、むしろその予防にターゲットを置いた薬剤又は食品(機能性食品)に対する意識や期待が高まっている。糖と癌との関係では、オリゴ糖が整腸作用を持つことを利用して便秘を解消し大腸癌などになりにくい効果を有することや、最近ではアガリクスなどの多糖体が癌抑制効果を持つことなどの報告、糖鎖と癌転移などの関連の報告などはあるが、単糖そのものが癌細胞増殖抑制効果を持つことについてはほとんど報告がない。例えば、特許文献1に記載されているように、癌の予防に有効である多糖類「アラビノキシランを主成分とする水溶性多糖類を有効成分とする大腸癌抑制剤」が知られている。また、オリゴ糖が整腸作用を持つことを利用して便秘を解消し大腸癌などになりにくい効果をもつことや、最近ではアガリスクなどの多糖体が癌抑制効果を持つことなどの報告、糖鎖と癌転移関連の報告もある。
癌細胞は培養液により十分な栄養と酸素を供給すれば急速に増殖する。この培養液にD−アロースを作用すると、癌細胞の増殖が抑制される。希少糖に属するアルドースやケトースの各種の株化癌細胞に対する増殖の影響を検討し、これにより、希少糖に属するアルドースが株化癌細胞の増殖抑制が確認された。糖代謝に影響を及ぼさない希少糖に属するアルドースが株化癌細胞の増殖を抑制させる効果が確認されたことは、副作用の少ない癌の治療剤、予防剤、増殖抑制剤として期待される。また、希少糖に属するアルドースは機能性食品としての付加価値が高まることが期待される。希少糖に属するアルドースとしてはD−アロースが最も有効であった。癌細胞の増殖を抑制効果があることは、それまでは全く知られていない新規な働きであったが、そのメカニズムについては明らかでなく、D−アロースは細胞増殖を抑制するものの細胞を殺す働きはないこと、細胞周期G2期を遅延させる効果があることがわかっただけである。
本発明者は、D−アロースがグルコーストランスポ−ター1(GLUT1)の発現を抑制することで癌細胞の代謝に不可欠なD−グルコースの細胞内濃度を高めることを強力に抑制し、癌細胞の増殖を抑えることを見出した。この効果はさらに、癌細胞の浸潤、及び転移を抑制する可能性も示している。したがって、本発明は、D−アロースをGLUT1の発現抑制剤として利用可能であること、すなわち、癌細胞に依存した各種疾患の治療薬や予防薬、もしくはそれらの医薬品原料としてのD−アロースの利用法を提供するものであり、その代表的な利用法は癌細胞のGLUT1発現抑制剤である。
(1)D−アロースを含有してなる癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
(2)前記D−アロースが、D−アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物である、上記(1)に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
(3)D−アロースの誘導体が、D−アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D−アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D−アロースのアルコール基がNH2基で置換されたアミノ糖から選ばれるD−アロース誘導体である、上記(2)に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
(4)医薬品である、上記(1)、(2)または(3)に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
(5)ヒトまたはヒト以外の動物における、グルコーストランスポ−ター1発現に起因する癌細胞の疾患の治療または予防を必要とする患者に有効量にて投与するための医薬品である、上記(4)に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
(6)食品である、上記(1)、(2)または(3)に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
(7)食品が保健機能食品またはダイエタリーサプリメントである、上記(6)に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
(8)保健機能食品が特定保健用食品または栄養機能食品である、上記(7)に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
(9)D−アロースを含有してなる癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象における癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現を抑制する方法。
(10)前記D−アロースが、D−アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物である、上記(9)に記載の方法。
(11)D−アロースの誘導体が、D−アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D−アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D−アロースのアルコール基がNH2基で置換されたアミノ糖から選ばれるD−アロース誘導体である、上記(10)に記載の方法。
(12)医薬品として有効量にて投与することを含む、上記(9),(10)または(11)に記載の方法。
(13)ヒトまたはヒト以外の動物における、グルコーストランスポ−ター1発現に起因する癌細胞の疾患の治療または予防を必要とする患者に有効量にて投与することを含む、上記(12)に記載の方法。
(14)食品として経口投与することを含む、上記(9),(10)または(11)に記載の方法。
(15)保健機能食品またはダイエタリーサプリメントとして経口投与することを含む、上記(14)に記載の方法。
(16)特定保健用食品または栄養機能食品として経口投与することを含む、上記(15)に記載の方法。
本発明者は、D−アロースが癌細胞のGLUT1発現を抑制することで癌細胞の増殖を抑制することは初めて見出した。これまでの研究の成果を併せると、希少糖D−アロースはTXNIPの誘導とGLUT1の発現抑制によって癌細胞増殖を抑制することを見出したことを意味する。したがって、本発明の癌細胞のGLUT1の発現が抑制剤は、医薬組成物(医薬品)の他に、例えば、医療用食品、特定保健用食品、健康補助食品、健康食品、サプリメント、またはハーブティなどとして有用である。すなわち本発明は、GLUT1の発現抑制に依存した各種疾患の治療薬や予防薬、もしくはそれらの医薬品原料としてのD−アロースの利用法を提供するものであり、その代表的な利用法はGLUT11発現癌の分子標的治療薬である。
さらにまた、本発明は、それを必要とする対象(グルコーストランスポ−ター1発現に起因する癌の治療または予防を必要とする患者)に投与することを含む、対象における癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現を抑制する方法を提供する。本発明は、患者において癌を治療または予防する方法であって、かかる治療または予防を必要とする患者にD−アロースまたは薬学上許容されるその塩を有効量にて投与することを含む前記方法を提供する。
D−アロースは、既存の癌のさらなる増殖を低下させ得るか、処置された癌の再発を低下させ得るか、または以前の処置によって死滅しなかった癌細胞の疾患進行を変化させ得る。
例えば、D-フラクトースを原料とした希少糖含有シロップは、D-プシコース5.2%、D-アロース1.8%、グルコース15.0%、D-フラクトース69.3%を含んでいる。また、異性化糖を原料とした希少糖含有シロップは、D-プシコース3.7%、D-アロース1.5%、グルコース45.9%、D-フラクトース37.7%を含み、D-グルコースを原料とすると、D-プシコース5.7%、D-アロース2.7%、グルコース47.4%、D-フラクトース32.1%を含んでいるが、原料および処理方法の違いにより含有糖組成は変化する。これらのシロップからD−アロースを分離精製して使用しても良いが、シロップのままでの使用も考えられる。
なお、以下の記述において、「D−アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物」を単に「D−アロース」と省略して記載することもある。
医薬品・医薬部外品や食品等の開発において最も重要で大きなハードルは新規物質としての希少糖の安全性の検証である。変異原性、生分解度試験および3種類の急性毒性試験(経口急性毒性試験、皮膚一次刺激試験、眼一次刺激試験)が最も基本的な安全性試験として定められている。希少糖は微量ながらも自然界に存在する単糖であるので、安全であろうとの予想はできるものの、きちんとした検証が必要である。すでに我々は希少糖のうちD−プシコース、D−アロース、アリトールの3種に対し、基本部分の安全性試験を指定機関に依頼し実施した。その結果、どの希少糖もその安全性において問題がないことが確認された。
D−アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物のみで用いるほか、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤等の適当な添加剤を配合し、液剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、錠剤等の適宜な剤型を選んで製剤することができる。本発明の癌細胞のGLUT1の発現抑制剤の剤型(医薬品)としては、有効成分を医学的に許容される担体、賦形剤、滑沢剤、結合剤等の添加物を含有する種々の形態、例えば水または各種の輸液用製剤に溶解させた液剤、散剤、顆粒剤、錠剤、注射剤、坐剤、または外用製剤等が、公知の製剤技術により製造できる。非経口剤としては、注射剤、点滴剤、外用薬剤、あるいは座剤等の剤型を選択することができる。注射剤には、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を示すことができる。外用薬剤には、軟膏剤等を示すことができる。主成分である本発明の薬剤を含むように、上記の剤型とする製剤技術は公知である。投与量は、経口投与の場合、成人に対しD−アロースとして、1日量0.3〜50gを内服するのが好ましいが、年令、症状により適宜増減することも可能である。本発明の製剤(医薬品)は、癌細胞のGLUT1の発現を効率良く抑制することができ、かつ毒性が低い。
固形製剤としては希少糖D−アロース、あるいはその薬理的に許容される塩とともに製剤学上許容されている添加物を含み、例えば充填剤類や増量剤類、結合剤類、崩壊剤類、溶解促進剤類、湿潤剤類、または潤滑剤類等を必要に応じて選択して混合し、製剤化することができる。本発明の希少糖D−アロースあるいはその薬理的に許容される塩、または/および水和物に賦形剤、崩壊剤、結合剤、および滑沢剤等を加えて混合し、圧縮整形することにより製造することができる。賦形剤には、乳糖、デンプン、あるいはマンニトール等が一般に用いられる。崩壊剤としては、炭酸カルシウムやカルボキシメチルセルロースカルシウム等が一般に用いられる。結合剤には、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、あるいはポリビニルピロリドンが用いられる。滑沢剤としては、タルクやステアリン酸マグネシウム等が公知である。
錠剤は、マスキングや、腸溶性製剤とするために、公知のコーティングを施すことができる。コーティング剤には、エチルセルロースやポリオキシエチレングリコール等を用いることができる。
また外用製剤として固形、液状、あるいは半固形状の組成物、具体的には溶液剤、懸濁液、乳濁液、軟膏、ゲル、クリーム、ローション、およびスプレー等とすることができる。固形、あるいは液状の組成物については、先に述べたものと同様の組成物とすることで外用剤とすることができる。半固形状の組成物は、適当な溶剤に必要に応じて増粘剤を加えて調製することができる。溶剤には、水、エチルアルコール、あるいはポリエチレングリコール等を用いることができる。増粘剤には、一般にベントナイト、ポリビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、あるいはポリビニルピロリドン等が用いられる。この組成物には、塩化ベンザルコニウム等の保存剤を加えることができる。
また、本発明の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物抑制用組成物は、含有するD−アロースの生物学的作用を有効に発揮させるためには、特定保健用食品または栄養機能食品として用いられることが好ましく、その際、「グルコーストランスポ−ター1発現に起因する癌細胞の疾患の改善または予防のために用いられる」という表示を付すことが推奨される。
本発明は、好ましくはGLUT1の発現抑制に依存した各種疾患の治療薬や予防薬、もしくはそれらの医薬品原料としてのD−アロースの利用法を提供するものであり、その代表的な利用法はGLUT11発現癌の分子標的治療薬である。したがって、D−アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物を有効成分とするGLUT1発現癌特異的抗癌剤もまた本発明に含まれる。
本発明の対象とする飼料の形態は、家畜、家禽などの飼育動物のための飼料であって、D−アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物を配合した組成物がD−アロースとして飼料中の炭水化物量(糖質量)に対して0.1〜50重量%となるように配合されていることを特徴とする。このような飼料を家畜、家禽などの飼育動物のための飼料動物に投与した場合、癌細胞のGLUT1の発現が抑制される。
(D−アロースの培養細胞増殖に及ぼす影響)
以下の条件により、各種の希少糖を培養液中に50mMの濃度で添加して、D−アロースが株化癌細胞の増殖進行に及ぼす影響を調べた。
(1)添加対象細胞:ヒト癌細胞株3種(ヒト肝臓癌細胞(HuH−7)、ヒト乳腺癌細胞(MB231)、ヒト神経芽細胞腫(SHSY5Y)を、添加する対象細胞とした。
(2)添加した希少糖:D−アロースの他に、比較する他の糖として、D−プシコースを各添加対象細胞に添加した。
(3)実験方法:96穴のマルチウェルプラスティックディッシュ(ウェル)に各添加対象細胞を5,000個撒き、細胞種により5〜10%のFetal Bovine Serum(FBS)を添加し、栄養源としてのD−グルコースを1g/l含む培地で培養した。1日後D−アロース、D−プシコースを、各々50mMの濃度で各添加対象細胞に添加し、7日間培養した。
<MTT法>
(i)試薬の調製:MTT(tetrazolium salt)の所定量をオートクレープで滅菌したPBS(−)で溶解し、濾過滅菌しMTT溶液を得る。酸性溶液としては、SDSの所定量(20g)にN,N−ジメチルホルムアミドの50mL及び水を加えて100mLとし、1Nの塩酸約200mLを加えてpH4.7に調整する。室温で保存して使用前に37℃とする。
(ii)試験方法:細胞をTEPで処理し、細胞浮遊液を調製する。その細胞浮遊液を所定数(300〜52000細胞/ウェル)、各ウェルに分注する(96ウェルプレート:培地0.1mL)。薬剤としての糖を所定量添加し、炭酸ガスインキュベーターで一昼夜前培養する。上述のMTT液0.5mg/mLを添加し、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養後、培地を完全に取り除く。さらに、37℃に保たれた室内で酸性溶液を0.1mL/ウェルの量で加え、マイクロプレートミキサーに載せ、37℃で20分間振動させながら溶解させる(formazanを酸性溶液で溶解させる)。分光光度計を用いて、570〜600nmの波長で吸光度を測定する。着色物質(formazan)酸性溶液で溶解させた後、そのままプレートリーダで吸光度を測定できる。
図2のウェスタンブロット(Western blot)で検出した蛋白質が示すとおり、これらの細胞において、GLUT1の発現抑制と癌抑制遺伝子産物(TXNIP)の発現増加が起こっていた。D−アロースの投与により、癌抑制遺伝子であるTXNIPが増えることは既に報告している(特許文献2)。今回癌細胞であるヒト肝臓癌細胞(HuH−7)、ヒト乳腺癌細胞(MB231)、ヒト神経芽細胞腫(SHSY5Y)がD−グルコースを取り込み栄養補給をする通り道となるグルコーストランスポーター1(GLUT1)の発現が抑制されることを発見した。このことにより、癌細胞は栄養補給が十分に行えなくなるため、細胞増殖速度が遅くなると考えられる。D−アロースの新しい作用機序と考えられる。
(1)実験方法:添加対象細胞として、ヒト肝臓癌細胞(HuH−7)の7日目を選択し、D−アロース濃度を12.5mM、25mM、50mMとして添加した。比較のためD−プシコース、D−グルコースについては50mMとして添加した。ヒト肝臓癌細胞(HuH−7)の7日目の培養方法は前記と同様である。
(2)実験結果:その結果、図3に示すとおり、D−アロースの濃度依存的にGLUT1の発現抑制が認められた。またその逆にTXNIPの発現は濃度依存的に増加した。D−プシコースやD−グルコースにはその効果は無かった。
(1)実験方法:HuH−7(2×104 cells/well)を24−well plateの各ウェルにDMEM中に分注し、GLUT1、HRE(熱ショック因子)、または、HIF−1α(低酸素誘導因子)遺伝子導入レポータープラスミド(200ng/well)およびpGl4.74(コントロールベクター)プラスミドをFuGEN6トランスフェクション試薬を用いて導入した。24時間後、新鮮なDMEMに交換し、D−アロース(25µM)を添加する。その処理後ルシフェラーゼ (luciferase) 活性はLumimoskanTM付きのDual−GloTM Luciferase Assay Systemで24時間測定した。試料間のトランスフェクション効率のバラツキはコントロールレポーターの発光で標準化した。結果は標準誤差(n=3)で表した。
(2)実験結果:その結果、図5に示すようにD−アロースによるGLUT1のmRNAの発現抑制が認められた。またその逆TXNIPのmRNAの発現は増加した。mRNAレベルでも裏付けられたことになる。図4には、にHuH−7 細胞(3日目と7日目)を用いてmRNAレベルをリアルタイムPCRで解析した結果を、図5にはGLUT1の発現を制御している転写因子の活性を調べた結果を示す。図5によると、HIF−1αがHREに結合し、その結果GLUT1プロモーター活性が高まるのを、D−アロースはそのどのステップも抑えることが示されている。
D−アロースを作用させた細胞ではD−グルコースの取り込みに変化が起こっているかどうかを調べるため、D−グルコースの取り込みを調べた。D−グルコースの取り込みは、D−グルコースと似た構造を持ち細胞内に入っても代謝を受けない2−デオキシD−グルコース(2−DG)の取り込みにより測定した。結果は図6に示す。また細胞外にD−アロースが存在すると、D−グルコースと構造のよく似たD−アロースは、グルコーストランスポーターを通ろうとするためにD−グルコースの取り込みが抑制されるため、この実験では細胞外にはD−アロースを一切加えていない。D−アロースを7日間処理して図2、図3で示したようにGLUT1の発現の抑制が起こっている細胞を用いて、2−DGの取り込みを調べた結果、コントロールに比べて有意に減少していた。これはGLUT1の発現抑制のためにD−グルコースの細胞への取り込みが少なくなっていると解釈できる。その結果として細胞増殖が抑えられていると考えられる。
なお、グルコーストランスポーター1は正常細胞にも存在するが、癌細胞になるとその発現量が著しく増えるものが多い。グルコーストランスポーター1の発現レベルについて細胞検査を行い、癌細胞の疾患ステージを決定することが期待される。
D−アロースは正常細胞(肝臓細胞や皮膚細胞)の増殖を抑えることがなく、これらの結果は、D−アロースが正常細胞には影響がなかったことを示している。D−アロースが癌細胞に対して(例えば正常細胞と比較して)選択的であることを示している。
D−アロースは、既存の癌のさらなる増殖を低下させ得るか、処置された癌の再発を低下させ得るか、または以前の処置によって死滅しなかった癌細胞の疾患進行を変化させ得る。
グルコーストランスポーターは、大部分の哺乳類の細胞に見出される一連の膜タンパクファミリーであり、グルコース輸送を促進する。勿論、グルコーストランスポーター1(Gult1)は、細胞膜のグルコースの通過{たいない}に関与し、赤血球および内皮細胞の中で高度に発現する。興味深いことに、Gult1は多くの癌細胞の中で過剰に発現され、細胞の増殖に重要な役割を担っている。希少糖D−アロースはヒト肝臓癌細胞(HuH−7)、ヒト乳腺癌細胞(MB231)、ヒト神経芽細胞腫(SHSY5Y)において濃度依存的{ようりょういそん てき}にTXNIP発現を誘発し、Gult1発現を阻害した。そして、HuH−7においてグルコースの膜通過はD−アロース処理により顕著に阻害された。D−アロース処理により、TXNIPの過剰な発現、およびGult1の転写因子であり、多くの癌細胞で過剰発現している低酸素誘導因子HIF−1α発現の両方を阻害したことは、Gult1発現の減少の結果である。チオレドキシンは核内因子κB (NF-κB)のp50−RelAサブユニットに結合することによってHIF−1αのプロモーター活性を増加させることが知られている。TXNIPはチオレドキシン活性を阻害するので、TXNIPの過剰発現、またはD−アロース処理はNF-κBのプロモーター活性を減少させ、HIF−1α発現を減少させた。
特許文献2において、細胞周期阻害物質p27を安定化し、G1細胞周期を停止させるというD−アロースの癌細胞増殖を阻害するメカニズムを明らかとしたが、本発明においては、Gult1発現を減少させるD−アロースによる癌細胞の増殖を阻害する新規メカニズムを明らかにした。
D-アロースによりTXNIの発現が増加することを示したが、より直接的に細胞内のTXNIを増加するため、TXNI遺伝子を含むベクターをHuH−7細胞に導入することでTXNIの過剰発現を行った。
図7は、TXNIPの過剰発現はGLUT1の発現を抑制することを示す。ヒト肝臓癌細胞HuH−7 細胞においてpME-FLAG-TXNIP(ヒトTXNIPを配列表の配列番号2および3の5’−GTGAATTCATGGTGATGTTCAAGAAGATCAAG−3’;antisense primer, 5’−TCCTCTAGATCACTGCACATTGTTGTTGAGGAT−3’でクローニングしてpME-FLAGに導入したベクター)を導入して過剰発現させ7日間培養した。蛋白質発現はウエスタンブロットで、mRNAの発現はTaqman proveを用いたリアルタイムPCRで解析した。
その結果、HuH−7 細胞においてTXNIPを過剰発現させると、TXNIPの蛋白質量は約3倍に、mRNA量は約8倍に増加した。その時、GLUT1蛋白質の量は約20%減少し、mRNA量も約20%低下した。
D-アロースによるGLUT1の発現抑制にTXNIPが関連しているということを示すことができた。
GLUT1遺伝子の発現調節メカニズムを説明する図面を図8に示す。
GLUT1遺伝子のプロモーターには、いくつかの転写因子結合サイトがあり、遺伝子発現を抑制している。
HREサイトにはHypoxia−inducible factor 1α(HIF−1α)が結合し、GLUT1の発現を誘導する。Thioredxinによる制御を受ける可能性があり、TXNIPのターゲットとなる。
D−アロースによるGLUT1遺伝子の発現調節メカニズムについての解析を行った。
GLUT1遺伝子のプロモーター部分には低酸素状態に反応するHypoxia Response Elememnt、通称HREが存在する。HREサイトにはHypoxia−inducible factor 1α、HIF−1αが結合しGLUT1の発現を誘導する。癌細胞では癌組織内の低酸素や遺伝子変異によってHIF−1αの発現が亢進しているという報告もある。この制御にThioredxinが関与しており、Thioredxinの結合蛋白質であるTXNIPも制御機構に関与している可能性が高いことが想定された。HREの遺伝子活性とGLUT1のプロモーター活性とがD−アロースおよびTXNIPにより調節される機構について調べた。
HREサイトを含むルシフェラーゼベクター(pGL4.42−HRE)を24ウェルのプレートに培養したHuH−7細胞に導入し、50mMD−アロースを添加、24時間培養した後に、Dual-Glo® Luciferase Assay System(Promega)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。また、pME-FLAG-TXNIPを導入して48時間培養しTXNIPを過剰発現した細胞にルシフェラーゼベクターを導入し24時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。対象としては、TXNIP遺伝子を含まない空ベクターを用いた。
その結果、D−アロースの添加によって、HREのルシフェラーゼ活性は有意に減少しており、また、TXNIPを過剰発現した細胞においても、HREのルシフェラーゼ活性は減少していた。従ってD−アロース添加により増加したTXNIP、あるいは遺伝子過剰発現により増加したTXNIPはHRE活性を抑えることが判った。
HRE領域を含むGLUT1プロモーターの下流にルシフェラーゼを含む発現ベクター(配列表の配列番号4および5のsense 5’-GCCCGGTACCCAACAGAGCCTTTTCCGGGGTGTC-3’; antisense: 5’-GCCAAGCTTGAGCTCCCAGGAACTTGGGGGGAG-3’によってクローニングしてpGL4.16に導入したベクター)を、24ウェルプレートに培養したHuH−7細胞に導入した。GLUT1のプロモーター活性の変化を先述のキットでルシフェラーゼ活性を測定することで調べた。
その結果、50mMD−アロース添加後24時間培養することによりTXNIPが増加した細胞、あるいはpME-FLAG-TXNIPを導入して48時間培養しTXNIPの過剰発現を行った細胞のどちらにおいても、GLUT1のプロモーター活性が有意に減少しているということが分かった。
以上の結果より、D-アロースは細胞内にTXNIPを増加させることにより、HREサイトの活性低下を通じてGLUT1プロモーター活性の低下を起こすことで、GLUT1発現を下げるという、遺伝子発現調節機構が判明した。
D−アロースは癌抑制因子であるthioredoxin interacting protein略してTXNIPの発現を誘導する。TXNIPは細胞周期調節因子p27kip1を安定化させ、G1期で細胞周期を停止させることで細胞増殖を抑制する。
今回は、それと同時にD−アロースにより増加したTXNIがGLUT1プロモーター上のHRE活性を抑制することでGLUT1の発現を抑制し、その結果として癌細胞内への糖の取り込みを阻害することで癌細胞の増殖を抑える機構も存在することを示した。
今後はGLUT1の有意な発現減少が認められる最低の濃度や投与方法検証する実験を行う必要がある。更に、癌細胞を移植した動物モデルを使って同様の効果があるかどうかについて研究を進める必要がある。
Claims (16)
- D−アロースを含有してなる癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
- 前記D−アロースが、D−アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物である、請求項1に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
- D−アロースの誘導体が、D−アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D−アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D−アロースのアルコール基がNH2基で置換されたアミノ糖から選ばれるD−アロース誘導体である、請求項2に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
- 医薬品である、請求項1、2または3に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
- ヒトまたはヒト以外の動物における、グルコーストランスポ−ター1発現に起因する癌細胞の疾患の治療または予防を必要とする患者に有効量にて投与するための医薬品である、請求項4に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
- 食品である、請求項1,2または3に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
- 食品が保健機能食品またはダイエタリーサプリメントである、請求項6に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
- 保健機能食品が特定保健用食品または栄養機能食品である、請求項7に記載の癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物。
- D−アロースを含有してなる癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現抑制用組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象における癌細胞のグルコーストランスポ−ター1発現を抑制する方法。
- 前記D−アロースが、D−アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物である、請求項9に記載の方法。
- D−アロースの誘導体が、D−アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D−アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D−アロースのアルコール基がNH2基で置換されたアミノ糖から選ばれるD−アロース誘導体である、請求項10に記載の方法。
- 医薬品として有効量にて投与することを含む、請求項9,10または11に記載の方法。
- ヒトまたはヒト以外の動物における、グルコーストランスポ−ター1発現に起因する癌細胞の疾患の治療または予防を必要とする患者に有効量にて投与することを含む、請求項12に記載の方法。
- 食品として経口投与することを含む、請求項9,10または11に記載の方法。
- 保健機能食品またはダイエタリーサプリメントとして経口投与することを含む、請求項14に記載の方法。
- 特定保健用食品または栄養機能食品として経口投与することを含む、請求項15に記載の方法。
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