以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。以下では、式(1)に示すようなフェレニウス法と呼ばれる斜面安定解析式を用いて斜面の安全性を監視および予測する場合を例に各実施形態を説明するが、本発明で用いられる斜面安定解析式はフェレニウス法に限られない。
まず、フェレニウス法による斜面の安全性の解析方法の原理を説明する。フェレニウス法における斜面の安全性は、各分割片の斜面方向に働くせん断応力と、そのせん断応力による滑落を阻止するせん断抵抗力とを用いて算出される安全率Fsによって評価される。
ところで、地盤の強度を表す指標の1つにせん断強さがある。せん断強さは、滑落力であるせん断応力に抵抗する最大のせん断抵抗力と定義されており、クーロンの式と呼ばれる以下の式(2)によれば、土壌がもつ粘着力cと、せん断面上に働く垂直応力σにもとづく抵抗力(σtanφ)の和で表わされる。ここで、sはせん断強さであり、tanφは土壌の性質を表すパラメータの1つである内部摩擦角φに基づく有効摩擦係数である。
s=c+σtanφ ・・・(2)
式(2)により示される、せん断面上に働く垂直応力σとせん断強さsの関係は、破壊基準または破壊包絡線と呼ばれている。このような破壊基準に基づき、例えば、一面せん断試験等により、試験体(土塊等)に加える垂直荷重を変化させながら、破壊時のせん断応力を求めることにより、その試験体のもつ粘着力cと内部摩擦角φとを求めることができる。
フェレニウス法において、各分割片のせん断応力は、当該分割片(土塊等)の、当該分割片に加わる重力としての重量Wと傾斜勾配角αとで表される(式(1)の分母参照)。一方、各分割片のせん断抵抗力は、上述したクーロンの式に基づいて、当該分割片(土塊)の、粘着力cと、垂直応力に基づく抵抗力((W−u)cosα・tanφ)とで表される(式(1)の分子参照)。なお、uは間隙水圧である。
フェレニウス法以外の例として、ビショップ法がある。ビショップ法では、回転モーメントのつり合い式から円弧すべり対応の式である以下の式(3)を斜面安定解析式として導出している。なお、式(3)に用いられているパラメータは、フェレニウス法と同一である。
他には、ヤンブ法がある。ヤンブ法ではフェレニウス法、ビショップ法と共通のパラメータに加え、水平外力Qおよび土塊側面の鉛直力の差ΔXが組み込まれる。具体的には、以下の式(4)を斜面安定解析式として用いる。式(4)において、水平外力Qおよび土塊側面の鉛直力の差ΔXは外力依存のパラメータであるため、土質そのものに影響されるパラメータはフェレニウス法、ビショップ法と同一である。
また、沖村らが提案している斜面安定解析式(1985)として、以下の式(5)がある。
式(5)において、A=(γsat−γw)h+γt(H−h)であり、B=γsat・h+γt(H−h)である。また、crは根系の粘着力、γsatは土の飽和単位体積重量、γwは水の単位体積重量、γtは土の湿潤単位体積重量、Hは基岩面からの表土層圧、hは基岩面からの地下水位である。土の単位体積重量γtはフェレニウス法における重量Wに相当するものであるため、フェレニウス法にない新たな変動パラメータは根系の粘着力crと水の単位体積重量γwのみとなる。なお、両パラメータ(crおよびγw)は土質そのものに影響されるわけではないので、沖らの手法においても、土質そのものに影響されるパラメータはフェレニウス法と同一とみなすことができる。
また、以下の式(6)は、Nashによる斜面安定解析式(1987)である。
式(6)において、γは土の密度、γwは水の密度、zは表土層の厚さ、hは地下水面の高さである。土の密度γはフェレニウス法における重量wに相当する。また、zおよびhは斜面ごとの固定パラメータである。このため、Nashによる手法においても、土質そのものに影響されるパラメータはフェレニウス法、ビショップ法と同一である。
また、以下の式(7)は、Taylorらが提案している斜面安定解析式(2007)である。
式(7)において、zは安全率算出対象深さである。また、Ψ(z)は圧力水頭であって、降雨量に関係するパラメータである。Taylorらの手法においても、土質に影響されるパラメータはフェレニウス法、ビショップ法と同一である。
また、以下の式(8)は、Rossiらが提案している斜面安定解析式(2012)である。
式(8)において、γdは乾燥土塊密度である。なお、他のパラメータは上述のとおりである。ここでも、乾燥土塊密度γdが土塊重量Wに相当する。このため、Rossiらの手法においても、土質に影響されるパラメータはフェレニウス法、ビショップ法と同一である。
土塊は、土の粒子と、粒子間の隙間に介在する間隙空気および間隙水とで構成される。土塊の重量を支える抗力として、土粒子による垂直抗力、間隙空気圧および間隙水圧が作用する。ただし、これらの力のうち、せん断強さに寄与するのは土粒子による垂直抗力のみであるため、せん断強さすなわち最大のせん断抵抗力を算出する際には、間隙水圧と間隙空気圧を土塊に加わる重力である重量から差し引いて得られる見かけの垂直応力を用いなければならない。なお、上記の式(1)では、間隙空気圧は無視できる程度であるとして省略されている。
ところで、土壌の含水比が大きくなると、この見かけの垂直応力は小さくなる。さらに、この垂直応力に乗算または加算される係数である有効摩擦係数および粘着力は、斜面が滑落するときにせん断応力とせん断強さが釣り合うように設定される係数である。これらの値も、土壌の含水比の上昇とともに減少することがわかっている。このため、土壌の含水比が増加すると、滑落力であるせん断応力が大きくなり、抵抗力であるせん断強さが小さくなるため、斜面崩壊が起こる。
以下の実施形態では、土壌に含まれる水分量または土壌に振動を加えたときに得られる振動波形を計測することによって、土壌の含水比の増加を検知し、それを基に斜面崩壊の危険性を評価するための構成について説明する。土壌に含まれる水分量が増加すれば、当然、含水比が増加する。また、土壌の含水比が増加すると、単位体積当たりの質量が大きくなることにより土壌の共振周波数の値が変化する。これにより、共振周波数に関する共振尖鋭度の値も変化する。共振尖鋭度と振動波形の減衰率は反比例関係にあるため、減衰率も質量の変化に伴い変化する。したがって、土壌に含まれる水分量の変化や土壌において発生した振動波形から算出される減衰率の変化を、含水比の変化ひいては斜面崩壊の危険性の変化としてとらえることができる。
このように、本発明では、斜面崩壊の危険性の変化を、斜面を構成する物質層(土壌等)の状態に応じて変化する所定の量(上記の例では、含水比)に影響を与える所定の可観測量(水分量や振動波形)を計測することによって捉えられるようにする。これにより、その可観測量の計測だけで、監視対象斜面の安全性を精度よく監視または予測できる。なお、斜面崩壊の危険性に変化をもたらす量は、含水比に限られない。該量は、斜面を構成する物質層の状態に応じて変化する量であればよく、例えば、斜面を構成する物質層に含まれる粒子の密度や、締固め度などであってもよい。そして、実際に計測する可観測量は、該量を直接または間接的に観測できる量であれば特に限定されない。また、斜面を構成する物質層は土壌に限られず、例えば、コンクリート等であってもよい。
実施形態1.
図1は、本実施形態の斜面監視システムの構成例を示すブロック図である。図1に示す斜面監視システム100は、各種センサ(応力センサ101、応力センサ102、水分計103、水分計104、振動センサ105、間隙水圧計106、重量計107および振動センサ108)と、第1のモデル化手段110と、第2のモデル化手段120と、モデル変換手段130と、モデル情報記憶手段140と、実斜面監視手段150とを備える。
なお、本実施形態では、監視の前処理として、2種類の試験を行う。第1の試験は、第1のモデル化手段110におけるモデル学習に用いるデータを得るための試験であって、含水比の異なる試験層を有する試験体の各々に対して、加える垂直荷重Pの値を変化させながら破壊されるまでせん断力を加えてその時のせん断応力τを計測するせん断試験である。試験体は、少なくとも監視対象斜面を構成している物質層のうち崩壊するおそれのある物質層(以下、すべり層という)と略同質の物質層である試験層を有していればよい。例えば、試験体は、監視対象斜面のすべり層を構成している土砂等の物質群と略同一の種類、乾燥密度および締固め度を有する物質群からなる試験層を有する試料であってもよい。
第2の試験は、第2のモデル化手段120によるモデル学習に用いるデータを得るための試験であって、含水比を予め小さな値に調整した試験層を有する試験体を用いて該試験層に対して加水を行い、段階的に試験層に含まれる水分量を増加させていく過程で、適宜振動を加えて振動波形を取得するとともに、該試験層の重量Wと間隙水圧uを計測する加水・加振試験である。
応力センサ101は、第1の試験であるせん断試験において、試験層に作用する垂直応力σを計測する。
応力センサ101は、例えば、異なる含水比の試験層を有する試験体の各々に対して行うせん断試験において、該試験体に垂直荷重(圧縮力)Pを作用させたときに応じる応力である垂直応力σを計測し、計測結果を示す垂直応力データを出力するセンサであってもよい。
応力センサ102は、第1の試験であるせん断試験において、試験層に作用するせん断応力τを計測する。応力センサ102は、例えば、異なる含水比の試験層を有する試験体の各々に対して行うせん断試験において、該試験体のせん断面に平行に、互いに反対向きの一対のせん断力を作用させたときに生じる応力であるせん断応力τを計測し、計測結果を示すせん断応力データを出力するセンサであってもよい。
応力センサ101および応力センサ102は、例えば、三軸圧縮試験装置に設けられたセンサであって、該三軸圧縮試験装置を用いて行われるせん断試験において垂直応力σおよびせん断応力τを計測し、計測された垂直応力σおよびせん断応力τを各々示す垂直応力データおよびせん断応力データを、ユーザ操作に応じて出力してもよい。
水分計103は、第1の試験であるせん断試験において、試験層に含まれる水分量mを計測する。水分計103は、例えば、用意された含水比が異なる試験層の各々に含まれる水分量mを計測し、計測結果を示す水分量データを出力するセンサであってもよい。水分計103は、例えば試験層が土の層である場合には、土中の水分量を計測できる計測機器であってもよい。計測される水分量の値の形式は特に問わない。例えば、体積含水率であってもよいし、重量含水率であってもよい。なお、試験体の試験層が所定の含水比になるよう予め調整されている場合など、試験層に含まれる水分量が既知の場合は、水分計103を省略してユーザが直接水分量データを入力することも可能である。このときの水分量mとして含水比を用いてもよい。
第1のモデル化手段110は、含水比の異なる試験層を有する複数の試験体を用いたせん断試験により得られる粘着力cおよび内部摩擦角φの各々の値と、そのときの水分量mとに基づいて、粘着力cと水分量mの関係を規定する粘着力−水分量モデルおよび内部摩擦角φと水分量mの関係を規定する内部摩擦角−水分量モデルを構築する。
第1のモデル化手段110は、より具体的には、粘着力・内部摩擦角算出手段111と、粘着力・内部摩擦角モデル化手段112とを含む。
粘着力・内部摩擦角算出手段111は、含水比が異なる試験層に対して各々せん断実験を行った結果、応力センサ101および応力センサ102より得られる垂直応力データおよびせん断応力データに基づいて、各試験層の粘着力cおよび内部摩擦角φを算出する。粘着力・内部摩擦角算出手段111は、例えば、各試験層について、垂直応力データおよびせん断応力データにより示される破壊時のせん断応力τをせん断強さsとして、その時の垂直応力σとともに、式(2)に示されるクーロンの式に当てはめることにより、粘着力cおよび内部摩擦角φを算出してもよい。
粘着力・内部摩擦角モデル化手段112は、水分計103より得られる各試験層の水分量mと、粘着力・内部摩擦角算出手段111によって算出された各試験層の粘着力cおよび内部摩擦角φとに基づいて、粘着力cを水分量mの関数としてモデル化した粘着力−水分量モデルおよび内部摩擦角φを水分量mの関数としてモデル化した内部摩擦角−水分量モデルを構築する。
水分計104は、第2の試験である加水・加振試験において、試験層に含まれる水分量を計測する。水分計104は、例えば、試験層の水分量mを、常時または所定の間隔でもしくはユーザ指示に応じて計測し、計測結果を示す水分量データを出力するセンサであってもよい。
振動センサ105は、第2の試験である加水・加振試験において、試験層に対して振動を加えた際に発生する振動波形を計測する。振動センサ105は、例えば、試験層において発生する振動波形を、常時または所定の間隔でもしくはユーザ指示に応じて計測し、計測結果を示す波形データを出力するセンサであってもよい。
間隙水圧計106は、第2の試験である加水・加振試験において、試験層の間隙水圧uを計測する。間隙水圧計106は、例えば、試験層の間隙水圧uを、常時または所定の間隔でもしくはユーザ指示に応じて計測し、計測結果を示す間隙水圧データを出力するセンサであってもよい。
重量計107は、第2の試験である加水・加振試験において、試験層の重量Wを計測する。重量計107は、例えば、試験層の重量を、常時または所定の間隔でもしくはユーザの操作に応じて計測し、計測結果を示す重量データを出力するセンサであってもよい。
また、第2のモデル化手段120は、第2の試験である加水・加振試験により得られる加水過程における、重量Wおよび間隙水圧uの各々の値および波形データに基づいて、振動波形の減衰率δを算出するとともに、重量Wと減衰率δの関係を規定する重量−減衰率モデルおよび間隙水圧uと減衰率δの関係を規定する間隙水圧−減衰率モデルを構築する。また、第2のモデル化手段120は、第2の試験である加水・加振試験により得られる、加水過程における水分量mの値および波形データに基づいて、水分量mと振動波形の減衰率δとの関係を規定する水分量−減衰率モデルを構築する。
第2のモデル化手段120は、より具体的には、減衰率算出手段121と、水分量モデル化手段122と、間隙水圧モデル化手段123と、重量モデル化手段124とを含む。
減衰率算出手段121は、振動センサ105により得られる加水過程における振動波形を基に、加水過程における振動波形の減衰率δを算出する。
水分量モデル化手段122は、水分計104により得られる加水過程における試験層の水分量mと、減衰率算出手段121によって算出された同過程における変動波形の減衰率δとに基づいて、水分量mを減衰率δの関数としてモデル化した水分量−減衰率モデルを構築する。
なお、加水前の試験層の含水比、重量、加水量等から加水毎の試験層の水分量mが算出できる場合には、水分計104を省略してもよい。そのような場合には、例えば、水分量モデル化手段122が、加水前の試験層の含水比、重量、加水量等から現在の試験層の水分量mを算出した上で、水分量mを減衰率δの関数としてモデル化した水分量−減衰率モデルを構築する。このとき、水分量mとして含水比を用いてもよい。
間隙水圧モデル化手段123は、間隙水圧計106により得られる加水過程における試験層の間隙水圧uと、減衰率算出手段121により得られる同過程における変動波形の減衰率δとに基づいて、間隙水圧uを減衰率δの関数としてモデル化した間隙水圧−減衰率モデルを構築する。
重量モデル化手段124は、重量計107により得られる加水過程における試験層の重量Wと、減衰率算出手段121により得られる同過程における変動波形の減衰率δとに基づいて、重量Wを減衰率δの関数としてモデル化した重量−減衰率モデルを構築する。
なお、加水前の試験層の含水比、重量および加水量から加水毎の試験層の重量Wが算出できる場合には、重量計107を省略してもよい。そのような場合には、例えば、重量モデル化手段124が、加水前の試験層の含水比、重量、加水量等から現在の試験層の重量Wを算出した上で、重量Wを減衰率δの関数としてモデル化した水分量−減衰率モデルを構築する。
モデル変換手段130は、水分量モデル化手段122が作成した水分量−減衰率モデルに基づいて、粘着力・内部摩擦角モデル化手段112が作成した粘着力−水分量モデルおよび内部摩擦角−水分量モデルをそれぞれ、振動波形の減衰率δを関数とするモデルに変換する。すなわち、モデル変換手段130は、粘着力−水分量モデルおよび内部摩擦角−水分量モデルのモデル化入力変数を水分量mから振動波形の減衰率δに変換して、粘着力−減衰率モデルおよび内部摩擦角−減衰率モデルを構築する。
モデル情報記憶手段140は、斜面安定解析式に用いられる変数である解析式変数の各々を監視対象斜面である実斜面で計測可能な可観測量により学習したモデルの情報として、上記の重量−減衰率モデル、間隙水圧−減衰率モデル、粘着力−減衰率モデルおよび内部摩擦角−減衰率モデルの情報を少なくとも記憶する。
モデル情報記憶手段140は、例えば、上記の各モデルについて、関数モデルを同定するパラメータや、モデル化入力変数を引数にして解析式変数の値を返す処理を実装したモジュールのアドレス等をモデルの情報として記憶してもよい。
振動センサ108は、実斜面のすべり層において発生する振動波形を計測する。振動センサ108は、例えば、実斜面のすべり層に設置され、該すべり層において落下物または降水による加振により生じる振動波形を計測し、計測結果を示す波形データを出力するセンサであってもよい。
実斜面監視手段150は、振動センサ108により得られる実斜面のすべり層において発生する振動波形に基づいて、実斜面の安全率を算出して、必要に応じて警報を出力する。実斜面監視手段150は、より具体的には、安全率算出手段151と、判定手段152と、警報手段153とを含む。
安全率算出手段151は、振動センサ108より得られる実斜面のすべり層において発生した振動波形と、モデル情報記憶手段140に記憶されている重量−減衰率モデル、間隙水圧−減衰率モデル、粘着力−減衰率モデルおよび内部摩擦角−減衰率モデルの情報とに基づき、該振動波形計測時の実斜面の安全率Fsを算出する。安全率算出手段151は、具体的には、実斜面の振動波形から減衰率δを算出し、算出された減衰率δの値を基に、上記各モデルを用いて各解析式変数の値、すなわち重量W、間隙水圧u、粘着力cおよび内部摩擦角φの値を算出し、得られた値を上記の式(1)に適用して安全率Fsを算出する。
判定手段152は、安全率算出手段151によって算出された安全率に基づき、警報を出すか否かを判定する。
警報手段153は、判定手段152からの要求に応じて、警報を出す。
本実施形態において、第1のモデル化手段110、第2のモデル化手段120、モデル変換手段130および実斜面監視手段150は、例えば、斜面監視プログラムに従って動作するCPU等によって実現される。この場合、CPUが斜面監視プログラムを読み込み、そのプログラムに従って、第1のモデル化手段110、第2のモデル化手段120、モデル変換手段130および実斜面監視手段150として動作すればよい。また、斜面監視プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。また、モデル情報記憶手段140は、記憶装置によって実現される。
なお、図示省略しているが、本実施形態の斜面監視システム100は、センサデータ受付手段を備え、該センサデータ受付手段が、各種センサからセンサデータ(垂直応力データ、せん断応力データ、水分量データ、波形データ等)を試験条件とともに受け付けて、必要に応じて第1のモデル化手段110、第2のモデル化手段120または実斜面監視手段150に出力する構成としている。なお、第1のモデル化手段110、第2のモデル化手段120または実斜面監視手段150といったセンサデータ処理手段が直接センサデータを受け付けてもよいし、また、これらセンサデータ処理手段がセンサと同じ装置(試験装置や監視装置等)に含まれていてもよい。
次に、本実施形態の動作を説明する。図2〜図7は、本実施形態の斜面監視システムの動作の一例を示すフローチャートである。本実施形態の動作は、大別して、モデル学習フェーズと、実斜面監視フェーズの2つのフェーズに分けることができる。なお、以下では、監視対象斜面を構成している物質層が土の層である場合を例に用いて説明するが、監視対象斜面の物質層は土の層に限られない。
まず、モデル学習フェーズの動作について説明する。図2は、モデル学習フェーズにおける本実施形態の動作の一例を示すフローチャートである。図2に示す例では、まず三軸圧縮試験(せん断試験)を実施する(ステップS11)。
図3は、せん断試験の例を示すフローチャートである。図3に示すせん断試験では、初めに、所定の含水比に調整した土塊(試験体)を用意する(ステップS111)。試験体の土は、実斜面の土と同質のものを用いる。ここでは、試験体として、実斜面の土と同一の種類、乾燥密度および締固め度の土からなる土塊を、含水比を変えて複数作成する。
次に、水分計103を用いて、用意した土塊の水分量を計測する(ステップS112)。
次に、用意した土塊を、応力センサ101および応力センサ102を備えた三軸圧縮試験装置にセットして圧縮を行い、圧縮時の垂直応力σとせん断応力τを計測する(ステップS113〜ステップS115)。
必要回数に達するまで、ステップS114〜S115の圧縮および応力測定を繰り返し実施する(ステップS116)。通常は最低3回実施する。これにより、1つの土塊に対して、少なくとも複数の垂直荷重に対応したせん断時の垂直応力データおよびせん断応力データを得る。
モデル化必要サンプル数に達するまで、含水比を変えた土塊に対して同様の動作を行う(ステップS117)。これにより、含水比の異なる土塊の各々に対して、水分量データと、複数の垂直荷重に対応したせん断時の垂直応力データおよびせん断応力データとを得る。
せん断試験により、含水比の異なる土塊の各々に対して、水分量データと、複数の垂直荷重に対応したせん断時の垂直応力データおよびせん断応力データとを得ると、粘着力・内部摩擦角算出手段111は、得られた垂直応力データおよびせん断応力データに基づいて、粘着力cおよび内部摩擦角φを算出する(図2のステップS12)。
次に、粘着力・内部摩擦角モデル化手段112は、得られた水分量データと、算出された粘着力cおよび内部摩擦角φとに基づいて、水分量mの変化に対する粘着力cの変化および水分量mの変化に対する内部摩擦角φの変化を学習し、粘着力−水分量モデルおよび内部摩擦角−水分量モデルを構築する(ステップS13)。
次に、ステップS11のせん断試験で用いた土と同質、すなわち同一の種類、乾燥密度および締固め度の土からなる試験体を用いて、加水・加振試験を実施する(ステップS14)。
図4は、加水・加振試験の例を示すフローチャートである。図4に示す加水・加振試験では、初めに、せん断試験で用いた土と同一の種類、乾燥密度および締固め度の土からなり、かつ含水比が相対的に少ない土塊(試験体)を用意する(ステップS121)。ここでは、試験体として、せん断試験で用いた試験体のうち最小の含水比の試験層を有する試験体よりも少ない含水比の試験層になるように調整された土塊を作成する。
次に、用意した土塊を、水分計104、振動センサ105、間隙水圧計106および重量計107を備える試験機にセットして、水分量m、間隙水圧uおよび重量Wを計測する(ステップS122〜ステップS124)。これにより、少なくとも加水前の含水比が既知の状態における土塊の水分量データ、間隙水圧データおよび重量データを得る。
次に、土塊に振動を加えて、その振動波形を計測する(ステップS125,ステップS126)。これにより、少なくとも加水前の含水比が既知の状態における土塊の波形データを得る。
次に、土が飽和するまで土塊に一定量ずつ加水して(ステップS127,ステップS128)、同様の計測を行う(ステップS122に戻る)。これにより、土が飽和するまでの加水過程における各状態(加水前および加水毎)の土塊の水分量データ、間隙水圧データ、重量データおよび波形データを得る。なお、「土が飽和する」とは、具体的には、土に水がしみ込まなくなる状態になることである。なお、土が飽和するまで加水を行う方法以外に、所定回数分加水を行う方法もある。
加水・加振試験により、少なくとも1つの土塊(試験体)に対して、含水比が異なる状態における水分量データ、間隙水圧データ、重量データおよび波形データを得ると、まず、減衰率算出手段121が、得られた波形データに基づいて、各状態における振動波形の減衰率δを算出する(図2のステップS15)。
図5は、減衰率の算出方法の例を示すフローチャートである。減衰率算出手段121は、例えば、図5に示す方法により、振動波形の減衰率δを求めてもよい。図5に示す例では、減衰率算出手段121は、まず、得られた波形データから分析対象とする周波数領域をフィルタリングし(ステップS131)、得られた周波数領域の時系列波形データから第1ピーク値(振幅の最大値)を検出する(ステップS132)。
次に、減衰率算出手段121は、検出した第1ピーク値を基準に切り出し期間を決定し、周波数領域の時系列波形データからその期間のデータを切り出す(ステップS133)。次に、減衰率算出手段121は、切り出した波形データから第2ピーク値(振幅の2番目に大きな値)を検出する(ステップS134)。
次に、減衰率算出手段121は、検出した第1ピーク値と第2ピーク値の差分すなわちPeaktoPeak値から、減衰率δを算出する(ステップS135)。このとき、第3ピーク以降の値も検出して、その前のピーク値との差分から各々減衰率を算出し、これらの平均をとってもよい。
また、図6は、減衰率の算出方法の他の例を示すフローチャートである。減衰率算出手段121は、例えば、図6に示す方法により、振動波形の減衰率δを求めてもよい。図6に示す例では、減衰率算出手段121は、まず、得られた波形データから分析対象とする周波数領域をフィルタリングする(ステップS141)。
減衰率算出手段121は、フィルタリングして得られた周波数領域の時系列波形データに対して周波数変換を施し、周波数応答を得る(ステップS142)。そして、その周波数応答におけるピーク周波数を取得する(ステップS143)。
次いで、減衰率算出手段121は、得られたピーク周波数を、物理モデルから導出できる周波数応答関数の共振周波数とみなして、減衰比を変数とした周波数応答関数を生成する(ステップS144)。
次いで、減衰率算出手段121は、ステップS142で得られた周波数応答のデータに対して、生成した周波数応答関数をフィッティング(近似)し、最適な減衰比を同定する(ステップS145)。減衰率算出手段121は、例えば、カーブ・フィッティングと呼ばれる手法を用いて、想定した周波数応答関数の解析式中の固有振動数、減衰比、振動モードなどのモーダル・パラメータを適当な値にすることにより、実測された周波数応答関数とモデルの周波数応答関数をできるだけ近似させる処理を行い、その結果得られる最適なモーダル・パラメータの1つである減衰比を、最適な減衰比として同定してもよい。そして、得られた減衰比に基づいて、減衰率δを算出する(ステップS146)。
このようにして、減衰率算出手段121は、加水・加振試験によって得られた加水過程における各状態(加水前および加水毎)の波形データに基づいて、各状態の減衰率δを算出する。なお、各波形データには取得の時刻情報や所定の識別番号が付与される等によって、どの状態のときの波形データであるかが識別可能であるとする。
ステップS16では、重量モデル化手段124が、算出された加水過程における各状態の減衰率δと、加水・加振試験によって得られた加水過程における各状態の重量データとに基づいて、重量Wを減衰率δの関数として学習して、重量−減衰率モデルを構築する。また、間隙水圧モデル化手段123が、算出された加水過程における各状態の減衰率δと、加水・加振試験によって得られた加水過程における各状態の間隙水圧データとに基づいて、間隙水圧uを減衰率δの関数として学習して、間隙水圧−減衰率モデルを構築する。
さらに、水分量モデル化手段122が、算出された加水過程における各状態の減衰率δと、加水・加振試験によって得られた加水過程における各状態の水分量データとに基づいて、水分量mを減衰率δの関数として学習して、水分量−減衰率モデルを構築する(ステップS17)。
次に、モデル変換手段130は、ステップS17で得られた水分量−減衰率モデルを用いて、ステップS13で得られた粘着力−水分量モデルおよび内部摩擦角−水分量モデルを、各々減衰率をモデル化入力変数とするモデルである粘着力−減衰率モデルおよび内部摩擦角−減衰率モデルに変換する(ステップS18)。
最後に、ステップS16およびステップS18で得られたモデルの情報、すなわち重量−減衰率モデル、間隙水圧−減衰率モデル、粘着力−減衰率モデルおよび内部摩擦角−減衰率モデルの情報をモデル情報記憶手段140に記憶する。
以上の動作により、4つの解析式変数の全てについて、減衰率δによる関数モデルを構築するモデル学習フェーズが完了する。なお、上記の例では、せん断試験を行った後に、加水・加振試験を行っているが、試験の順序は特に問わない。
また、上記では、粘着力・内部摩擦角モデル化手段112が、せん断試験によって状態変化時の値が得られた解析式変数(本例の場合、粘着力cおよび内部摩擦角φ)について、同せん断試験で得られた可観測量(本例の場合、水分量m)でモデル化した後で、モデル変換手段130が、水分量モデル化手段122により構築された水分量−減衰率モデルに基づいて、実斜面で計測される可観測量である減衰率δをモデル化入力変数とするモデルに変換する例を示したが、粘着力・内部摩擦角モデル化手段112が、直接、減衰率をモデル化入力変数とするモデルを構築することも可能である。
そのような場合、粘着力・内部摩擦角モデル化手段112は、上記のステップS13のタイミングではなく、上記のステップS18のタイミングで下記のようなモデル構築処理を行えばよい。すなわち、粘着力・内部摩擦角モデル化手段112は、2つの試験が完了して全てのデータが揃った後で、水分量モデル化手段122により構築される水分量−減衰率モデルを利用して、せん断試験に用いた各試験体の水分量mを減衰率δに変換した上で、粘着力cおよび内部摩擦角φを各々、減衰率δの関数として学習して粘着力−減衰率モデルおよび内部摩擦角−減衰率モデルを構築してもよい。このとき、上記のステップS18の動作は省略される。なお、加水・加振試験で、粘着力cおよび内部摩擦角φの算出に用いた垂直応力データおよびせん断応力データを得たときと同じ条件下での波形データ、すなわち、せん断試験に用いた各試験体の水分量mと同じ水分量mのときの波形データが得られる場合には、水分量−減衰率モデルを利用せずとも水分量mを減衰率δに変換できるため、ステップS17の水分量−減衰率モデルの構築処理も省略可能である。
次に、実斜面監視フェーズの動作について説明する。図7は、実斜面監視フェーズにおける本実施形態の動作の一例を示すフローチャートである。図7に示す例では、まず実斜面に設置された振動センサ108を用いて、監視対象斜面のすべり層において発生する振動波形を計測する(ステップS21)。これにより、現在のすべり層の含水比に影響のある可観測量である振動波形を示す波形データを得る。
次に、安全率算出手段151は、得られた波形データから対象斜面の振動波形の減衰率δを算出する(ステップS22)。
次に、安全率算出手段151は、算出した減衰率δに基づいて、モデル情報記憶手段140に記憶されている4つのモデルを用いて、監視対象斜面の振動波形計測時における4つの解析式変数の値を推定する。そして、推定された各値を斜面安定解析式に適用して、安全率Fsを算出する(ステップS23)。
判定手段152は、算出された安全率Fsに基づいて、警報を出すか否かを判定する(ステップS24)。判定手段152は、例えば、算出された安全率Fsが所定の閾値を下回っていれば、警報を出すと判定してもよい(ステップS24のYes)。
警報手段153は、判定手段152によって警報を出すと判定された場合に、警報を出力する(ステップS25)。
ステップS21〜S25の動作を、例えば、監視終了の指示があるまで繰り返す(ステップS26)。
以上のように、本実施形態によれば、予め実斜面と同質の土を用いて解析式変数全てについて、その変動の様子を、実斜面を構成する物質層(土砂等)の状態に応じて変化する可観測量から算出可能な所定の変数(ここでは、振動波形の減衰率)と結び付けて学習しておくことにより、実斜面にはその可観測量を計測可能なセンサ(振動センサ)を設けるだけで、精度よく安全率Fsを算出することができる。したがって、実斜面に対する計測困難性を回避しつつ、斜面の安全性を精度よく監視することができる。
また、本実施形態によれば、1種類のセンサ(振動センサ)を実斜面に設けるだけで、斜面の安全性を精度よく監視することができる。
実施形態2.
次に、本発明の第2の実施形態について図面を参照して説明する。以下では、第1の実施形態と同様のものについては同一の符号を付し、説明を省略する。
図8は、本発明の第2の実施形態の斜面監視システムの構成例を示すブロック図である。図8に示す斜面監視システム200は、各種センサ(応力センサ101、応力センサ102、水分計103、水分計104、間隙水圧計106、重量計107および水分計208)と、第1のモデル化手段110と、第2のモデル化手段220と、モデル情報記憶手段240と、実斜面監視手段250とを備える。
なお、本実施形態でも、監視の前処理として、2種類の試験を行う。第1の試験は、第1のモデル化手段110におけるモデル学習に用いるデータを得るためのせん断試験である。第2の試験は、第2のモデル化手段220によるモデル学習に用いるデータを得るための試験であって、含水比を小さな値に調整した試験層に対して加水を行い、段階的に水分量を増加させていく過程で、試験層に含まれる水分量mを取得するとともに、重量Wと間隙水圧uを計測する加水試験である。
本実施形態において、第2のモデル化手段220は、加水試験により得られる、加水過程における試験層の水分量m、重量Wおよび間隙水圧uの各々の値に基づいて、重量Wと水分量mの関係を規定する重量−水分量モデルおよび間隙水圧uと水分量mの関係を規定する間隙水圧−水分量モデルを構築する。
第2のモデル化手段220は、より具体的には、間隙水圧モデル化手段223と、重量モデル化手段224とを含む。
間隙水圧モデル化手段223は、間隙水圧計106により得られる加水過程における試験層の間隙水圧uと、水分計104により得られる加水過程における試験層の水分量mとに基づいて、間隙水圧uを水分量mの関数としてモデル化した間隙水圧−水分量モデルを構築する。
重量モデル化手段224は、重量計107により得られる加水過程における試験層に加わる重力である重量Wと、水分計104により得られる加水過程における試験層の水分量mとに基づいて、重量Wを水分量mの関数としてモデル化した重量−水分量モデルを構築する。
モデル情報記憶手段240は、解析式変数の各々を実斜面で計測可能な可観測量により学習したモデルの情報として、重量−水分量モデル、間隙水圧−水分量モデル、粘着力−水分量モデルおよび内部摩擦角−水分量モデルの情報を少なくとも記憶する。
モデル情報記憶手段240は、例えば、上記の各モデルについて、関数モデルを同定するパラメータや、モデル化入力変数を引数にして解析式変数の値を返す処理を実装したモジュールのアドレス等をモデルの情報として記憶してもよい。
水分計208は、実斜面のすべり層に含まれる水分量mを計測する。水分計208は、例えば、実斜面のすべり層に設置され、該すべり層に含まれる水分量mを計測し、計測結果を示す水分量データを出力するセンサであってもよい。
実斜面監視手段250は、水分計208により得られる実斜面のすべり層の水分量mに基づいて、実斜面の安全率を算出して、必要に応じて警報を出力する。実斜面監視手段250は、より具体的には、安全率算出手段251と、判定手段152と、警報手段153とを含む。
安全率算出手段251は、水分計208により得られる実斜面のすべり層に含まれる水分量mと、モデル情報記憶手段240に記憶されている重量−水分量モデル、間隙水圧−水分量モデル、粘着力−水分量モデルおよび内部摩擦角−水分量モデルの情報とに基づき、該水分量計測時の実斜面の安全率Fsを算出する。安全率算出手段251は、具体的には、実斜面の水分量mの値を基に、上記各モデルを用いて各解析式変数の値、すなわち重量W、間隙水圧u、粘着力cおよび内部摩擦角φの値を算出し、得られた値を上記の式(1)に適用して安全率Fsを算出する。
また、本実施形態の安全率算出手段251は、水分量データに加えて、予測雨量を示す予測雨量データが入力された場合には、該水分量データと該予測雨量データとに基づき、将来の実斜面のすべり層に含まれる水分量mを予測して、その予測した水分量mを用いて、将来の実斜面の安全率Fsを算出してもよい。これにより、地すべりの危険性をより早く検知できる。
なお、水分量データと予測雨量データとから将来の水分量mの予測を容易にするために、例えば、重量モデル化手段224が、加水試験における加水量より示される累積加水量を累積降水量とみなして、各状態での水分量mを、累積降水量でモデル化した水分量−累積降水量モデルを構築してもよい。
そのような場合には、安全率算出手段251は、水分量−累積降水量モデルを用いて、水分量データが示す現在の水分量mから現在の累積降水量を求めるとともに、さらに予測雨量データを用いて将来の累積降水量を求め、求めた将来の累積降水量と、水分量−累積降水量モデルとに基づいて、将来の水分量mを推定してもよい。このようにして、将来の水分量mが得られれば、各解析式変数のモデルを用いて、将来の安全率Fsが求まる。
なお、安全率Fsを予測する方法として、実斜面における可観測量(本例では水分量m)−累積降水量モデルを構築する以外にも、加水量を所定の単位時間あたりの降水量とみなして、該降水量に対する可観測量の変動モデルを構築してもよい。該変動モデルを利用して、実斜面から得られた現在の可観測量と予測雨量データとから将来の可観測量を予測して、将来の安全率Fsを予測できる。
次に、本実施形態の動作を説明する。図9および図10は、本実施形態の斜面監視システムの動作の一例を示すフローチャートである。動作についても、第1の実施形態と同様のものは同じ符号を付し、説明を省略する。
図9は、モデル学習フェーズにおける本実施形態の動作の一例を示すフローチャートである。図9に示すように、本実施形態では、加水・加振試験の代わりに、加水試験を行う(ステップS31)。なお、本実施形態の加水試験は、図4に示される加水・加試験の動作のステップS125〜ステップS126の動作を省略すればよい。これにより、土が飽和するまでの加水過程における各状態(加水前および加水毎)の水分量データ、間隙水圧データおよび重量データを得る。
加水試験により、少なくとも1つの土塊(試験体)に対して、含水比が異なる状態における水分量データ、間隙水圧データおよび重量データを得ると、ステップS32に進む。
ステップS32では、重量モデル化手段224が、加水試験によって得られた加水過程における各状態の水分量データおよび重量データに基づいて、重量Wを水分量mの関数として学習して、重量−水分量モデルを構築する。また、間隙水圧モデル化手段223が、加水試験によって得られた加水過程における各状態の水分量データおよび間隙水圧データに基づいて、間隙水圧uを水分量mの関数として学習して、間隙水圧−水分量モデルを構築する。
そして、ステップS13およびステップS32で得られたモデルの情報、すなわち粘着力−水分量モデル、内部摩擦角−水分量モデル、重量−水分量モデルおよび間隙水圧−水分量モデルの情報をモデル情報記憶手段240に記憶する。
以上の動作により、4つの解析式変数の全てについて、水分量mによる関数モデルを構築するモデル学習フェーズが完了する。なお、上記の例では、せん断試験を行った後に、加水試験を行っているが、試験の順序は特に問わない。
次に、実斜面監視フェーズの動作について説明する。図10は、実斜面監視フェーズにおける本実施形態の動作の一例を示すフローチャートである。図10に示すように、本実施形態では、まず実斜面に設置された水分計208を用いて、監視対象斜面のすべり層に含まれる水分量mを計測する(ステップS41)。これにより、現在のすべり層の含水比に影響のある可観測量である水分量を示す水分量データを得る。
本例では、次いで、予測雨量データが入力される(ステップS42)。
次に、安全率算出手段251は、得られた水分量データによって示される水分量mに基づいて、モデル情報記憶手段240に記憶されている4つのモデルを用いて、監視対象斜面の振動波形計測時における4つの解析式変数の値を推定する。そして、推定された各値を斜面安定解析式に適用して、安全率Fsを算出する(ステップS43)。
ステップS42では、安全率算出手段251は、さらに、水分量データと予測雨量データとに基づき、予測雨量データで予測雨量が示された将来の任意の時間の実斜面の安全率Fsを算出する。
次に、判定手段152は、算出された安全率Fsに基づいて、警報を出すか否かを判定する(ステップS24)。判定手段152は、例えば、算出された安全率Fsの1つでも所定の閾値を下回るものがあれば、警報を出すと判定してもよい。
以上のように、本実施形態によれば、予め実斜面と同質の土を用いて解析式変数全てについて、その変動の様子を、実斜面を構成する物質層(土砂等)の状態に応じて変化する可観測量の値(ここでは、水分量)と結び付けて学習しておくことにより、実斜面にはその可観測量を計測可能なセンサ(水分計)を設けるだけで、精度よく安全率Fsを算出することができる。したがって、上述した計測困難性を回避しつつ、斜面の安全性を精度よく監視することができる。
また、本実施形態においても、1種類のセンサ(水分計)を実斜面に設けるだけで、斜面の安全性を精度よく監視することができる。
また、本実施形態によれば、加水試験中に波形データを取得する必要がないため、試験装置を簡素化できる。
また、本実施形態によれば、予測雨量に基づく将来の安全率も簡単かつ精度よく算出できるので、斜面の崩壊に至る際の警報をより早く出力することができる。
なお、第1の実施形態においても、実斜面監視手段150に予測雨量データを入力させて、安全率算出手段151に、波形データと該予測雨量データとに基づき、予測雨量データで予測雨量が示された将来の任意の時間の実斜面の安全率Fsを算出させてもよい。
なお、そのような場合において、波形データと予測雨量データとから将来の減衰率δの予測を容易にするために、例えば、減衰率算出手段121が、加水試験における加水量より示される累積加水量を累積降水量とみなして、各状態での減衰率δを、累積降水量でモデル化した減衰率−累積降水量モデルを構築してもよい。そのような場合には、安全率算出手段151は、減衰率−累積降水量モデルを用いて、現在の減衰率δから現在の累積降水量を求めるとともに、さらに予測雨量データを用いて将来の累積降水量を求め、求めた将来の累積降水量と、減衰率−累積加水量モデルとに基づいて、将来の減衰率δを推定してもよい。このようにして、将来の減衰率δが得られれば、各解析式変数のモデルを用いて、将来の安全率Fsが求まる。
なお、実斜面から得られる可観測量(本例では、該可観測量から算出可能な所定の変数である減衰率δ)を用いて、可観測量−累積降水量モデルを構築する以外にも、加水量を所定の単位時間あたりの降水量とみなして、該降水量に対する可観測量の変動モデルを構築してもよい。該変動モデルを利用して、実斜面から得られた現在の可観測量と予測雨量データとから将来の可観測量を予測して、将来の安全率Fsを予測できる。
実施形態3.
次に、本発明の第3の実施形態について図面を参照して説明する。以下では、第1の実施形態と同様のものについては同一の符号を付し、説明を省略する。また、以下では、第1の実施形態の斜面監視システムにおいて解析式変数の各々について実斜面の可観測量に対応したモデルを学習するための手段をまとめて「モデル学習手段510」と呼ぶ場合がある。例えば、図11に示す例においてモデル学習手段510は、試験用の各種センサである応力センサ101、応力センサ102、水分計103、水分計104、振動センサ105、間隙水圧計106および重量計107と、第1のモデル化手段110と第2のモデル化手段120とモデル変換手段130とを含む。
図11は、本発明の第3の実施形態の解析式変数モデル提供システム500の構成例を示すブロック図である。図11に示す解析式変数モデル提供システム500は、モデル学習手段510に加えて、モデル情報記憶手段540と、振動センサ571と、水分計572と、モデル適否判定手段560とを備える。なお、解析式変数モデル提供システムを、斜面監視システムとして動作させることも可能である。その場合は、図11に示す構成に加えて、実斜面の監視を行うための手段(振動センサ108および実斜面監視手段150)を備えればよい。以下、本実施形態の解析式変数モデル提供システム500に実斜面の監視を行うための手段を加えた構成を、斜面監視システム501と呼ぶ場合がある。
モデル学習手段510の動作は、基本的に第1の実施形態と同様である。ただし、本実施形態において、第2のモデル化手段120(より具体的には、水分量モデル化手段122)は、第2の試験である加水・加振試験で得られる、加水過程における試験層の水分量mおよび減衰率δ等の、モデル生成に用いた物質層である試験層の土質に関するデータ(以下、モデル生成物質データという)を、モデル情報記憶手段540に記憶させる機能を有する。また例えば、第2のモデル化手段120は、第2の実施形態の機能に加えて、加水・加振試験により得られる、加水過程における試験層の減衰率δおよび水分量mの値に基づいて、水分量mと減衰率δの関係を規定する水分量−減衰率モデルを構築し、構築した水分量−減衰率モデルの情報を、モデル生成物質データとしてモデル情報記憶手段540に記憶させる機能を有していてもよい。
本実施形態のモデル情報記憶手段540は、第1の実施形態のモデル情報記憶手段140の機能に加えて、上記のモデル生成物質データを少なくとも記憶する。モデル情報記憶手段540は、例えば、解析式変数の各々を実斜面で計測可能な可観測量により学習したモデルの情報として、重量−減衰率モデル、間隙水圧−減衰率モデル、粘着力−減衰率モデルおよび内部摩擦角−減衰率モデルの情報を記憶するとともに、これらのモデル生成に用いた試験層から加水過程において取得された水分量とそれに対応する減衰率のデータをモデル生成物質データとして記憶してもよい。また、モデル情報記憶手段540は、例えば、モデル生成物質データとして、加水・加振試験で得られた、加水毎の試験層の水分量と減衰率の組を複数記憶してもよいし、水分量−減衰率モデルの情報を記憶してもよい。
振動センサ571および水分計572は、監視対象とされる斜面(実斜面)のすべり層(実斜面の土塊等)または該すべり層と実質的に同一とされる物質層から土質に関するデータを取得するためのセンサの例である。図11に示す例において、振動センサ571および水分計572は、実斜面のすべり層の、加水状態の異なる複数の状態時における振動波形および水分量を計測する。振動センサ571は、例えば、実斜面のすべり層において発生する振動波形を計測し、計測結果を示す波形データを出力するセンサであってもよい。また、水分計572は、例えば、実斜面のすべり層の土中水分量を計測し、計測結果を示す水分量データを出力するセンサであってもよい。なお、振動センサ571および/または水分計572は、実斜面のすべり層から直接、振動波形および/または水分量を計測することが困難な場合には、該すべり層から持ち出した物質層を用いた加水・加振試験等により、振動波形および/または水分量を収集してもよい。以下、このようにして実斜面のすべり層から直接または該すべり層から持ち出す等により実質的に同一とされる物質層から計測または収集された、該物質層の土質に関するデータを、実斜面物質データと呼ぶ。なお、図15に示す例は、実斜面物質データとして、加水状態の異なる複数の状態時における水分量mとそれに対応する減衰率δを収集する例である。
なお、振動センサ571および/または水分計572は、システムが実斜面の監視を行うための手段として同様の計測を行う振動センサ108や水分計208を備える場合には省略されてもよい。その場合、振動センサ108や水分計208を用いて、実斜面物質データを収集すればよい。
モデル適否判定手段560は、監視対象となる斜面に対して、モデル情報記憶手段540に格納されているモデルを適用して監視しても可能か否かを判定する。モデル適否判定手段560は、より具体的には、実斜面物質データが示す減衰率δと水分量mの関係と、モデル情報記憶手段540に格納されているモデル生成物質データが示す減衰率δと水分量mの関係とを比較し、両者の類似度を評価することにより、モデル情報記憶手段540に格納されているモデルの適用可否を判定する。また、モデル適否判定手段560は、ユーザに判定結果を出力してもよい。
また、斜面監視システム501は、モデル適否判定手段560によりモデル適用可能と判定された場合、安全率算出手段151に、モデル情報記憶手段540に記憶されている重量−減衰率モデル、間隙水圧−減衰率モデル、粘着力−減衰率モデルおよび内部摩擦角−減衰率モデルの情報とに基づき、該減衰率算出時の実斜面の安全率Fsを算出する処理を行わせてもよい。一方、モデル適否判定手段560によりモデル適用不可と判定された場合には、斜面監視システム501は、斜面監視対象のすべり層と同質の物質層を用いた試験データの収集からやり直して、新たに監視対象斜面用のモデルを生成してもよい。
なお、実斜面物質データおよびモデル生成物質データとしては、水分量と減衰率といった、実斜面の監視に用いられる可観測量を少なくとも含む2種以上の可観測量もしくは該可観測量から算出可能な物理量(変数)を用いるのが好ましいが、実斜面物質データおよびモデル生成物質データはこれに限られない。例えば、水分量mの代わりに含水比を用いてもよい。その場合、水分計103、水分計104および水分計572を各々、含水比試験等により含水比を計測可能な手段(含水比計測手段)に置き換えてもよい。含水比計測手段は、例えば、土塊の乾燥重量と該土塊に加えられた水の重量とを測定もしくは収集して、これらから含水比を算出するものであってもよい。なお、試験体の含水比が既知であって、試験体データとして該試験体の含水比を示す含水比データが入力される場合には、含水比計測手段は省略されてもよい。
なお、実斜面物質データおよびモデル生成物質データは、含水比または含水比に影響のある物質量に限られず、土質を表す物理量であって、モデル生成用に用いた試験体および実斜面のすべり層または該すべり層と実質的に同一とされる物質層から収集可能な物理量であればよい。
また、そのような場合には、第2の実施形態のように、間隙水圧モデル化手段および量モデル化手段が、水分量計104から得られた水分量mで間隙水圧および重量をモデル化してもよい。その場合、振動センサ571および振動センサ108を、水分計572および水分計208に交換すればよい。そのようにすれば、モデル変換手段130を省略できるとともに、安全率算出手段151での減衰率の算出処理が不要となる。なお、本例の場合、第2のモデル化手段(より具体的には、重量モデル化手段等)は、モデル生成物質データとして、例えば、水分量と該水分量に対応する含水比をモデル情報記憶手段に記憶すればよい。そのような解析式変数モデル提供システムの構成例および動作については第4の実施形態として後述する。
次に、本実施形態の動作を説明する。本実施形態の解析式変数モデル提供システムが適用される斜面監視システムの動作は、大別して、モデル学習フェーズと、モデル判定フェーズと、実斜面監視フェーズの3つのフェーズに分けることができる。解析式変数モデル提供システム500は、そのうちの、モデル学習フェーズと、モデル判定フェーズとを行う。なお、モデル学習フェーズの動作は基本的に第1の実施形態と同様である。また、斜面監視システム501における実斜面監視フェーズの動作も第1の実施形態と同様でよい。ただし、本実施形態では、モデル学習フェーズ(例えば、図2のステップS17等)で、第2のモデル化手段が、加水過程における各状態の減衰率δと水分量mとを対応づけた情報を、モデル生成物質データとしてモデル情報記憶手段540に記憶させる。以下、第1の実施形態と同様のものは同じ符号を付し、説明を省略する。
図12は、モデル判定フェーズにおける本実施形態の動作の一例を示すフローチャートである。図12に示す例では、まず水分計572を用いて、監視対象とされる斜面である実斜面のすべり層の水分量を計測する(ステップS51)。これにより、モデル適否判定手段560は、水分量データを得る。
また、ステップS51の水分量の計測と同時に、振動センサ571を用いて、そのときの振動波形を計測する(ステップS52)。これにより、モデル適否判定手段560は、波形データを得る。なお、ステップS52で、モデル適否判定手段560は、得られた波形データから減衰率を算出する。
次に、実斜面のすべり層に対して加水を行うなどの含水調整を行って、水分量計測および波形データ計測を必要な回数繰り返す(ステップS53)。これにより、モデル適否判定手段560は、実斜面物質データとして、水分量mとこれに対応する減衰率δの組を複数含む情報を得る。なお、モデル判定フェーズは、水分量mとこれに対応する減衰率δの組を複数含む実斜面物質データが入力されるところから開始してもよい。
必要な回数分の水分量mと減衰率δを含む実斜面物質データを得ると(ステップS53のYes)、モデル適否判定手段560は、得られた実斜面物質データから、監視対象とされる斜面の物質層における水分量と減衰率の関係を示す水分量−減衰率関係式を作成する(ステップS54)。
次いで、モデル適否判定手段560は、作成した関係式から得られる水分量−減衰率の分布が、モデル情報記憶手段540内にあるモデル生成物質データによる水分量−減衰率の分布から設定される所定の基準を満たしているか否かを判定する(ステップS55)。ここで、所定の基準を満たしていれば(ステップS55のYes)、モデル適否判定手段560は、現在、モデル情報記憶手段540に記憶されているモデルを、監視対象とされた斜面の監視に適用可能であると判定する(ステップS56)。一方、所定の基準を満たしていなければ(ステップS55のNo)、モデル適否判定手段560は、該モデルを適用不可であるとして、新規モデルを作成する処理へと移行してもよい(ステップS57)。
所定の基準は、例えば、作成した関係式から得られる分布が、モデル生成物質データから設定される関係式上限値と関係式下限値の間に収まっているかどうか、であってもよい。モデル適否判定手段560は、例えば、作成した関係式から得られる水分量−減衰率の分布が、モデル生成物質データから設定される関係式上限値と関係式下限値の間に収まっていればモデル適用可能と判定し、収まっていなければモデル適用不可と判定してもよい。一例として、モデル適否判定手段560は、以下の式(9)で示されるような判定条件を満たすか否かにより、モデル適用可否の判定を行ってもよい。
(平均−3β)<得られた各値<(平均+3β) ・・・(9)
式(9)において、「得られた値」は比較先である実斜面物質データの値(例えば、水分量)である。また、βはばらつき指標であって、例えば標準偏差である。ここで、「平均+3β」が関係式上限値に相当し、「平均−3β」が関係式下限値に相当する。なお、平均およびばらつき指標は、比較元であるモデル生成物質データから算出される。図13は、分布の類否判定の例を示す説明図である。モデル適否判定手段560は、図13に示すように、式(9)に基づき、実斜面物質データの各値が、モデル生成物質データの平均に対してばらつき指数の所定倍(例えば、3倍)以内であれば、両分布は類似であるとして、モデル適用可能と判定してもよい。なお、式(9)では、ばらつき指数は標準偏差に限られない。例えば、ばらつき指数として、各点のモデル式に対する距離の平均等を用いてもよい。
なお、モデル適否判定手段560は、ステップS54で水分量−減衰率関係式を作成せずに、ステップS56で直接、モデル生成物質データによる水分量−減衰率の分布と、実斜面データによる水分量−減衰率の分布との間の類似度を算出し、算出された類似度に基づいて、モデル適用可否を判定してもよい。
また、モデル適否判定手段560は、例えば、モデル生成物質データと実斜面物質データを各々ベクトルで表現して、それらのベクトル空間モデルの類似度を算出することにより、モデル適用可否を判定してもよい。ベクトル空間モデルの類似度の算出方法としては、例えば、内積を利用する方法や、コサイン相関値を利用する方法などが挙げられる。
また、モデル適否判定手段560は、例えば、実斜面物質データを、モデル生成物質データから得られる水分量−減衰率関係式にフィッティングしたときの各値の標準偏差と平均の比を、類似度として算出し、算出された類似度に基づいてモデル適用可否を判定してもよい。
また、モデル生成物質データと実斜面物質データとの間の類似度の他の例としては、モデル生成物質データの点情報(水分量−減衰率グラフ上の位置座標等)と、実斜面物質データの点情報どうしの距離を算出し、算出された距離のデータを基に算出される類似度などが挙げられる。モデル適否判定手段560は、例えば、モデル生成物質データの点情報と、実斜面物質データの点情報どうしの距離を算出し、複数点で算出された距離を加算して総距離を算出してもよい。そして、モデル適否判定手段560は、そのような総距離を加算した数で割ることで、1点あたりの距離の平均を算出し、類似度の指標としてもよい。図14は、分布の類似度の算出方法の例を示す説明図である。モデル適否判定手段560は、例えば、図14に示すように、実斜面物質データの点情報の各々について、モデル生成物質データの全ての点情報との距離を算出して1点あたりの距離の平均を算出してもよい。そして、モデル適否判定手段560は、各点情報に対して求めた1点当たりの距離の平均が全て所定の範囲内であれば、両分布は類似であるとして、モデル適用可能と判定してもよい。
さらに、モデル適用可否を判定する部分は、監視対象とされた斜面の土の土質(構成要素や土質分類や密度や締め固め度等)を調査して、モデル情報記憶手段540に格納されているモデルの作成に用いた土と同等であるか否かを地質学的に判断することにより、モデル適用可否を判断してもよい。
また、モデル適用可能と判定された後は、判定結果を出力して処理を終了してもよいし、そのまま実斜面監視フェーズに移行してもよい。
以上のように、本実施形態によれば、監視対象斜面が変わるごとに必ずしもモデル学習をしなくてもよく、モデルを再利用できるため、モデル学習にかかるコストの削減、処理の効率化が図れる。
実施形態4.
次に、本発明の第4の実施形態について図面を参照して説明する。以下では第2、第3の実施形態と同様のものについては同一の符号を付し、説明を省略する。また、以下では、第2の実施形態の斜面監視システムにおいて解析式変数の各々について実斜面の可観測量に対応したモデルを学習するための手段をまとめて「モデル学習手段610」と呼ぶ場合がある。例えば、図8に示す例において、モデル学習手段610は、試験用の各種センサである応力センサ101、応力センサ102、水分計103、水分計104、間隙水圧計106および重量計107と、第1のモデル化手段110と第2のモデル化手段220とを含む。
図15は、本発明の第4の実施形態の解析式変数モデル提供システム600の構成例を示すブロック図である。図15に示す解析式変数モデル提供システム600は、モデル学習手段610に加えて、モデル情報記憶手段640と、含水比計測手段671と、水分計672と、モデル適否判定手段660とを備える。本実施形態においても、解析式変数モデル提供システムを斜面監視システムとして動作させることも可能である。その場合は、図12に示す構成に加えて、実斜面の監視を行うための手段(振動センサ108および実斜面監視手段150)を備えればよい。以下、本実施形態の解析式変数モデル提供システム600に実斜面の監視を行うための手段を加えた構成を、斜面監視システム601と呼ぶ場合がある。
モデル学習手段610の動作は、基本的に第2の実施形態と同様である。ただし、本実施形態においても、第2のモデル化手段220(より具体的には、重量モデル化手段224等)は、第2の試験である加水試験で得られる、加水過程における試験層の水分量mおよび含水比s等の、、モデル生成物質データをモデル情報記憶手段540に記憶させる機能を有する。ここで、含水比sは、試験条件等として入力された値をそのまま用いてもよい。また、例えば、重量モデル化手段224が、重量計107で計測される重量Wとそのときの水分量mとから、加水過程における試験層の含水比sを算出する場合には、算出された値を用いてもよい。また、例えば、第2のモデル化手段220は、加水試験により得られる、加水過程における試験層の水分量mおよび含水比sの値に基づいて、含水比sと水分量mの関係を規定する含水比−水分量モデルを構築し、構築した含水比−水分量モデルの情報を、モデル生成物質データとしてモデル情報記憶手段640に記憶させる機能を有していてもよい。
本実施形態のモデル情報記憶手段640は、第2の実施形態のモデル情報記憶手段240の機能に加えて、上記のモデル生成物質データを少なくとも記憶する。モデル情報記憶手段640は、例えば、解析式変数の各々を実斜面で計測可能な可観測量により学習したモデルの情報として、重量−水分量モデル、間隙水圧−水分量モデル、粘着力−水分量モデルおよび内部摩擦角−水分量モデルの情報を記憶するとともに、これらのモデル生成に用いた試験層から加水過程において取得された水分量とそれに対応する含水比のデータをモデル生成物質データとして記憶してもよい。また、モデル情報記憶手段640は、例えば、モデル生成物質データとして、加水試験で得られた加水毎の試験層の水分量と含水比の組を複数記憶してもよいし、含水比−水分量モデルの情報を記憶してもよい。
含水比計測手段671および水分計672は、実斜面物質データを収集するための計測手段およびセンサの例である。図15に示す例において、含水比計測手段671および水分計672は、監視対象とされる斜面(実斜面)のすべり層または該すべり層と実質的に同一とされる物質層の、加水状態の異なる複数の状態時における含水比および水分量を計測する。含水比計測手段671は、例えば、実斜面のすべり層から取得した土塊の乾燥重量と該土塊に加えられた水の重量とを測定もしくは収集して、これらから含水比を算出し、算出結果を示す含水比データを出力する手段であってもよい。また、水分計672は、例えば、実斜面のすべり層の土中水分量を計測し、計測結果を示す水分量データを出力するセンサであってもよい。なお、含水比計測手段671および/または水分計672は、第3の実施形態と同様、実斜面のすべり層から直接、含水比および/または水分量を計測することが困難な場合には、該すべり層から持ち出した物質層を用いた含水比試験等により、含水比および/または水分量を収集してもよい。なお、図11に示す例は、実斜面物質データとして、実斜面のすべり層または該すべり層と実質的に同一とされる物質層の、加水状態の異なる複数の状態時における含水比sとそれに対応する水分量mを収集する例である。
なお、第3の実施形態と同様、水分計672は、システムが実斜面の監視を行うための手段として同様の計測を行う水分計208を備える場合には省略されてもよい。その場合、水分計208を用いて、実斜面物質データを収集すればよい。
モデル適否判定手段660は、監視対象となる斜面に対して、モデル情報記憶手段640に格納されているモデルを適用して監視しても可能か判断する。モデル適否判定手段660は、より具体的には、実斜面物質データが示す水分量mと含水比sの関係と、モデル情報記憶手段640に格納されているモデル生成物質データが示す水分量mと含水比sの関係とを比較し、両者の類似度を評価することにより、モデル情報記憶手段640に格納されているモデルの適用可否を判定する。また、モデル適否判定手段660は、ユーザに判定結果を出力してもよい。
また、斜面監視システム601は、モデル適否判定手段660によりモデル適用可能と判定された場合、安全率算出手段251に、モデル情報記憶手段640に記憶されている重量−水分量モデル、間隙水圧−水分量モデル、粘着力−水分量モデルおよび内部摩擦角−水分量モデルの情報とに基づき、該水分量算出時の実斜面の安全率Fsを算出する処理を行わせてもよい。一方、モデル適否判定手段660によりモデル適用不可と判定された場合には、斜面監視システム601は、斜面監視対象のすべり層と同質の物質層を用いた試験データの収集からやり直して、新たに監視対象斜面用のモデルを生成してもよい。
次に、本実施形態の動作を説明する。本実施形態においても、斜面監視システムの動作は、大別して、モデル学習フェーズと、モデル判定フェーズと、実斜面監視フェーズの3つのフェーズに分けることができる。解析式変数モデル提供システム600は、そのうちの、モデル学習フェーズと、モデル判定フェーズとを行う。なお、モデル学習フェーズの動作は第2の実施形態と基本的に同様である。また、斜面監視システム601における実斜面監視フェーズの動作も第1の実施形態と同様でよい。ただし、本実施形態でも、第3の実施形態と同様、モデル学習フェーズ(例えば、図9のステップS32等)で、第2のモデル化手段が、加水過程における各状態の水分量mと含水比sとを対応づけた情報を、モデル生成物質データとしてモデル情報記憶手段640に記憶させる。以下、第2または第3の実施形態と同様のものは同じ符号を付し、説明を省略する。
図16は、モデル判定フェーズにおける本実施形態の動作の一例を示すフローチャートである。図16に示す例では、まず監視対象とされる斜面のすべり層または該すべり層と実質的に同一とされる物質層の含水量を調整する(ステップS61)。このとき、含水比計測手段671を用いて、該すべり層または該物質層の含水比を計測する。これにより、モデル適否判定手段660は、含水比データを得る。
また、水分計572を用いて、ステップS61の含水比の計測と同時にまたはステップS61で含水比を計測したときの物質層を用いて、該すべり層または該物質層の水分量を計測する(ステップS62)。これにより、モデル適否判定手段660は、水分量データを得る。
次に実斜面のすべり層または該すべり層と実質的に同一の物質層の含水調整を行って、含水比計測および水分量計測を必要な回数繰り返す(ステップS63)。これにより、モデル適否判定手段660は、実斜面物質データとして、含水比sとこれに対応する水分量mの組を複数含む情報を得る。なお、モデル判定フェーズは、含水比sとこれに対応する水分量mの組を複数含む実斜面物質データが入力されるところから開始してもよい。
必要な回数分の含水比sと水分量mを含む実斜面物質データを得ると(ステップS63のYes)、モデル適否判定手段660は、得られた実斜面物質データから、監視対象とされる斜面の物質層における含水比と水分量の関係を示す含水比−水分量関係式を作成する(ステップS64)。
次いで、モデル適否判定手段660は、作成した関係式から得られる含水比−水分量の分布が、モデル情報記憶手段640内にあるモデル生成物質データによる含水比−水分量の分布から設定される所定の基準を満たしているか否かを判定する(ステップS65)。ここで、所定の基準を満たしていれば(ステップS65のYes)、第3の実施形態と同様、モデル適否判定手段660は、現在、モデル情報記憶手段640に記憶されているモデルを、監視対象とされた斜面の監視に適用可能であると判定する(ステップS66)。一方、所定の基準を満たしていなければ(ステップS65のNo)、モデル適否判定手段660は、該モデルを適用不可であるとして、新規モデルを作成する処理へと移行してもよい(ステップS67)。
モデル適否判定手段660は、例えば、作成した関係式から得られる含水比−水分量の分布が、モデル生成物質データから設定される関係式上限値と関係式下限値の間に収まっていればモデル適用可能と判定し、収まっていなければモデル適用不可と判定してもよい。また、モデル適否判定手段660は、ステップS64で含水比−水分量関係式を作成せずに、ステップS66で直接、モデル生成物質データによる含水比−水分量の分布と、実斜面データによる含水比−水分量の分布との間の類似度を算出し、算出された類似度に基づいて、モデル適用可否を判定してもよい。他の例についても同様である。本実施形態のモデル適否判定手段660は、モデル適用可否を判定する処理において、第3の実施形態のモデル適否判定手段560が水分量−減衰率の分布を用いて行った判定処理を、含水比−水分量の分布を用いて行えばよい。
また、モデルの適用が可能と判定された後は、判定結果を出力して処理を終了してもよいし、そのまま実斜面監視フェーズに移行してもよい。
以上のように、本実施形態によれば、第3の実施形態と同様、監視対象斜面が変わるごとに必ずしもモデル学習をしなくてもよく、モデルを再利用できるため、モデル学習にかかるコストの削減、処理の効率化が図れる。
次に、具体的な例を用いて上記各実施形態をより詳細に説明する。
実施例1.
以下では、第1の実施形態の斜面監視システムの具体的な例である第1の実施例を説明する。図17は、第1の実施例にかかる斜面監視システムの構成図である。図17に示す斜面監視システム300は、三軸圧縮試験装置31と、プランター32と、コンピュータ33と、実斜面計測機器34と、ディスプレイ装置35とを備えている。
三軸圧縮試験装置31は、応力センサ101と、応力センサ102とを含んでいる。また、プランター32は、水分計104と、振動センサ105と、間隙水圧計106とを含んでいる。また、実斜面計測機器34は、振動センサ108を含んでいる。
データを収集、処理するコンピュータ33は、例えば、プログラムに従って動作するCPU(図示せず)と、記憶装置としてのデータベース336とを備えた一般的なコンピュータである。
本例のコンピュータ33には、プログラムモジュールとして、粘着力・内部摩擦角算出モジュール331、粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール332、水分量対応化モジュール333、減衰率算出モジュール334、重量・間隙水圧モデル化モジュール335および実斜面監視モジュール337を含む斜面監視プログラムが実行可能な態様でインストールされているものとする。すなわち、コンピュータ33は、そのような斜面監視プログラムがCPUに読み込まれており、該CPUが斜面監視プログラムに含まれる各モジュールに規定されている所定の処理を実行可能な状態であるとする。
本例において、粘着力・内部摩擦角算出モジュール331は、第1の実施形態における粘着力・内部摩擦角算出手段111に相当する。粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール332は、第1の実施形態における粘着力・内部摩擦角モデル化手段112およびモデル変換手段130に相当する。また、水分量対応化モジュール333は、第1の実施形態における水分量モデル化手段122またはセンサデータ受付手段の一部機能に相当する。また、減衰率算出モジュール334は、第1の実施形態における減衰率算出手段121に相当する。また、重量・間隙水圧モデル化モジュール335は、第1の実施形態における間隙水圧モデル化手段123および重量モデル化手段124に相当する。また、実斜面監視モジュール337は、第1の実施形態における実斜面監視手段150すなわち安全率算出手段151、判定手段152および警報手段153に相当する。
なお、本例の三軸圧縮試験装置31は水分計103を備えていない。したがって、ユーザが、試験条件として予め測っておいた各試験体の試験層の水分量m(含水比)等を示すデータをコンピュータ33に入力する。同様に、プランター32は重量計107を備えていない。したがって、重量・間隙水圧モデル化モジュール335が、加水前の試験層の含水比、重量および加水毎の加水量から加水毎の試験層の重量Wを算出する。なお、算出に必要なこれらのデータは、例えば、試験条件としてユーザがコンピュータ33に入力すればよい。
粘着力・内部摩擦角算出モジュール331は、応力センサ101および応力センサ102によって計測された計測値である垂直応力τおよびせん断応力σから、三軸圧縮試験の試験体の粘着力cと内部摩擦角φを算出する。
粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール332は、三軸圧縮試験の試験条件として示される三軸圧縮試験の各試験体の含水比と、算出された三軸圧縮試験の各試験体の粘着力cおよび内部摩擦角φと、後述の水分量対応化モジュール333による対応づけにより得られる三軸圧縮試験の各試験体の含水比に対応する減衰率δとに基づいて、粘着力cと内部摩擦角φとを各々、振動波形の減衰率δの関数としてモデル化する。
減衰率算出モジュール334は、振動センサ105によって計測された計測値である振動波形から、加水過程における各状態での振動波形の減衰率δを算出する。
水分量対応化モジュール333は、三軸圧縮試験で得られる水分量としての含水比と、少なくとも加水・加振試験で得られる減衰率δとを対応づける。本例では、水分量対応化モジュール333は、プランター32において加水した量から加水過程における各状態での試験体の含水比を求め、求めた含水比とともに、加水過程における各状態でのセンサデータおよび算出した値(少なくとも減衰率δを含む)をデータベース336に記憶することにより三軸圧縮試験で得られる水分量としての含水比と、少なくとも加水・加振試験で得られる減衰率δとを対応づける(後述の図20参照)。なお、三軸圧縮試験で得られる水分量と、加水・加振試験で得られる水分量とが同じデータ形式である場合には、水分量対応化モジュール333は、単に、加水過程における各状態でのセンサデータおよび算出した値(減衰率δ)をデータベース336に記憶するだけでもよい。
なお、本例では、加水・加振試験で、粘着力cおよび内部摩擦角φの算出に用いた垂直応力データおよびせん断応力データを得たときと同じ条件下での波形データが得られることを前提としているが、もしそのような波形データが得られない場合には、水分量対応化モジュール333は、三軸圧縮試験で得られる水分量としての含水比と、減衰率δとの関係を規定した含水比−減衰率モデルを構築すればよい。
重量・間隙水圧モデル化モジュール335は、加水過程における各状態での、間隙水圧計106で計測された計測値である間隙水圧u、加水量から求まる試験体の重量Wおよび算出された振動波形の減衰率δから、重量Wと間隙水圧uとを各々、振動波形の減衰率δの関数としてモデル化する。
データベース336は、粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール332によってモデル化された粘着力cの関数モデル(粘着力−減衰率モデル)および内部摩擦角φの関数モデル(内部摩擦角−減衰率モデル)と、重量・間隙水圧モデル化モジュール335によってモデル化された重量Wの関数モデル(重量−減衰率モデル)および間隙水圧uの関数モデル(間隙水圧−減衰率モデル)との情報を記憶する。
実斜面監視モジュール337は、実斜面に設置された振動センサ108によって計測された計測値である振動波形から減衰率δを算出し、算出された減衰率δを基に斜面の安全率Fsを算出して、算出された安全率Fsに基づき斜面の安全性を判定する。実斜面監視モジュール337は、安全性の判定結果として、例えば警報の有無を安全率Fsとともに出力してもよい。
ディスプレイ装置35は、実斜面監視モジュール337の判定結果を表示する。
次に、本実施例の動作を説明する。以下では、造成された斜面を監視対象斜面として、該斜面のすべり層を構成している物質群が土、より具体的には締固め度85%の山砂によって構成されている場合を例とする。
まず、実斜面のすべり層を構成している山砂と同じ構成、乾燥密度および締固め度の試料を用い、複数の含水比に調整した試験体(土塊)を用意する。
次に、三軸圧縮試験装置31を用いて、用意した試験体の各々に対して三軸圧縮試験を実施する。
図18は、本例の三軸圧縮試験により得られた粘着力cおよび内部摩擦角φの値を示す説明図である。なお、図18には、含水比が14〜24%に調整された計11個の試験体について、三軸圧縮試験により得られた粘着力cおよび内部摩擦角φとともに、有効摩擦係数であるtanφの値が示されている。データをデータベース336は、上述したモデルの情報以外に、例えば図18に示されるようなデータを記憶してもよい。
また、図19は、加水・加振試験に用いるプランターの例を示す説明図である。加水・加振試験は、例えば、図19に示すような小型プランターを用いてもよい。図19に示すプランター32は、3つの水分計104(土壌水分計104A、土壌水分計104Bおよび土壌水分計104C)と、2つの振動センサ105(振動センサ105Aおよび振動センサ105B)と、2つの間隙水圧計106(間隙水圧計106Aおよび間隙水圧計106B)とを備えている。なお、複数の土壌水分計および振動センサは高さが異なる位置に設けられており、モデル化に用いる際にはその平均値を利用する。
本例の加水・加振試験では、図19に示す小型プランターを利用する。まず、図19に示すプランター32に、実斜面のすべり層を構成している山砂と同じ構成、乾燥密度および締固め度の試料からなり、三軸圧縮試験で用いた試験体よりも小さい含水比に調整された土を盛り、試験体(盛土)を形成する。
そのまま土壌水分計104A,土壌水分計104B,土壌水分計104C、間隙水圧計106Aおよび間隙水圧計106Bの値を計測するとともに、シャワーをかけ、その時の振動センサ105Aおよび振動センサ105Bの値を計測する。シャワーの強度は100mm/hの降水量相当の強さとし、降水時間は5秒程度とする。なお、本例では、加水動作でもあるシャワーをかける動作が加振動作に相当する。
引き続きシャワーによって所定の量加水した上で、上記と同様の方法で、土壌水分計104A,土壌水分計104B,土壌水分計104C、間隙水圧計106A,間隙水圧計106B,振動センサ105Aおよび振動センサ105Bの値を計測する。このような加水・計測サイクルを、土が飽和するまで繰り返す。
1回の操作あたり、複数の水分量データ、間隙水圧データおよび波形データを計測する。なお、モデル学習に用いる水分量mおよび間隙水圧uは、各測定値の平均値を算出する。また、減衰率δは、得られた各波形データから図6に示す方法により求める。
すなわち、図6に示す方法に従って、各波形データを周波数フィルタリングし、フィルタリングしたデータを周波数変換して周波数応答を取得する。そして、その周波数応答におけるピーク周波数を取得し、得られたピーク周波数を物理モデルから導出できる周波数応答関数の共振周波数として、減衰比を変数とした周波数応答関数を生成する。ここで、生成された周波数応答関数を、上記の周波数変換して得られた各周波数応答のデータに合うようにフィッティングして、最適な減衰比を同定する。そして、得られた減衰比に基づいて減衰率δを算出する。
図20は、本例の加水・加振試験により得られた各種値を示す説明図である。なお、図20には、計6回の加水・計測サイクルにおいて取得された計測値(水分量m、減衰率δおよび間隙水圧u)、加水量、含水比、重量W等の値が示されている。図20において、水分量の”水分計A”の欄は土壌水分計104Aによる計測値を表している。また、”水分計B”の欄は土壌水分計104Bによる計測値を表している。また、”水分計C”の欄は土壌水分計104Cによる計測値を表している。また、減衰率の”CH1”の欄は振動センサ105Aから得られた波形データより求めた減衰率を表している。また、減衰率の”CH2”の欄は振動センサ105Bから得られた波形データより求めた減衰率を表している。また、間隙水圧の”CH1”の欄は間隙水圧計106Aによる計測値を表している。また、間隙水圧の”CH2”の欄は間隙水圧計106Bによる計測値を表している。なお、表中の”[−]”は無単位を表している。
データベース336は、上述したモデルの情報以外に、例えば図20に示されるようなデータを記憶してもよい。なお、図20において、含水比および土塊重量の値は、加水量、初期の土塊重量および初期の含水比から求めた。
このようにして、実斜面のすべり層を構成している山砂と同じ構成、乾燥密度および締固め度の土の複数の含水比に対する粘着力c、内部摩擦角φ、水分量m、間隙水圧u、重量Wおよび減衰率δのデータを得ると、粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール332および重量・間隙水圧モデル化モジュール335は、得られたデータを基に、解析式変数の各々について減衰率δに対する関数モデルを学習する。本例では、重量W、間隙水圧u、粘着力cおよび内部摩擦角φについて減衰率δに対する回帰式を学習する。なお、含水比が高い場合と低い場合とで粘着力cの傾向が異なる場合には、回帰式の学習においてこの場合は含水比の高い部分の粘着力cのみを用いてもよい。すなわち、得られたデータの一部のみを用いてモデルを構築してもよい。
次に、監視動作について説明する。本例では、図21に示す造成した斜面を監視対象斜面(実斜面)として、本発明の斜面監視方法を評価した。図21において四角印で示すように、造成した実斜面には3×2個の振動センサ108が埋設されている。この他、当該実斜面には、評価用に、3×2個の土壌水分計(丸印参照)と、4個の間隙水圧計とが埋設されている。なお、振動センサ108は、斜面の3個所に、各々2種類の深さ位置に埋設されている。また、土壌水分計および間隙水圧計は、振動センサ108のすぐ近くに配置されている。ただし、間隙水圧計については、斜面の3個所中の真ん中の位置以外の個所には浅い方の深さ位置にのみ配置した。
斜面の監視動作としては、造成した実斜面にシャワーを用いて加水していく過程で、約20分毎に振動センサ108の各々の値を計測し、振動波形の波形データを得る。そして、得られた各振動波形の波形データを基に減衰率δを求め、求めた減衰率δを基に、実斜面監視モジュール337が安全率Fsを求めることにより、安全性を評価する。複数個所で計測している振動センサそれぞれから、減衰率を算出し、平均の値を使用してもよい。また、本例では、上記の監視動作を評価のために加水を斜面が崩壊するまで行い、斜面が崩壊した際の時刻を記録する。
実斜面監視モジュール337は、6個の振動センサ108により計測された振動波形の波形データを基に、図6に示されるフローに従い減衰率δを算出し、算出された減衰率δから、データベース336に記憶されている各モデルの情報を用いて各解析式変数の値を予測し、安全率Fsを算出する。そして、算出された安全率Fsが1を下回った場合に斜面の崩壊の可能性ありとして、警報を出力する。なお、複数個所で計測している振動センサそれぞれから、図5に示す方法等を用いて減衰率δを算出し、平均の値を使用してもよい。
図22は、加水動作により本例における実斜面から得られた各種値の例を示す説明図である。図22には、本例の実斜面に対する加水過程における波形データ取得時の経過時間、減衰率δ、時刻および安全率Fsが示されている。なお、本例では、実験を開始してから7時間59分後に斜面が崩壊した。
図22に示す例では、実際の斜面崩壊時間が実験開始から7時間59分後であったのに対し、安全率Fsが1を下回った時間は実験開始から7時間06分後であった。なお、その1つ前に計測したとき(安全率が1よりも大きかったとき)の経過時間は6時間49分であるため、実際の崩壊と警報出力との間の時間差は53〜70分の間であることがわかる。
実施例2.
第1の実施例では、加水・加振試験および実斜面監視時ともに、シャワーによる水の圧力を利用して加振を行ったが、以下では、加水・加振試験および実斜面監視時の加振方法として、鉄球の落下を利用する第2の実施例を説明する。第2の実施例では、第1の実施例と同一の構成に、プランター32の直上または実斜面に設けられた振動センサの直上から、鉄球を落下する装置を追加する。
本例でも、造成された斜面を監視対象斜面として、該斜面のすべり層を構成している物質群が土、より具体的には締固め度85%の山砂によって構成されている場合を例とする。
まず、第1の実施例と同様の方法で、図18に示す、複数の含水比に対する粘着力c、内部摩擦角φのデータを得て、データベース336に格納する。
次に、第1の実施例と同様に、図19に示すプランター32内に、実斜面のすべり層を構成している山砂と同じ構成、乾燥密度および締固め度の試料からなり、三軸圧縮試験で用いた試験体よりも小さい含水比に調整された試験体(盛土)を造成する。
最初の状態のまま土壌水分計104A,土壌水分計104B,土壌水分計104C、間隙水圧計106Aおよび間隙水圧計106Bの値を計測するとともに、プランター32内の試験体に向けて真上から鉄球を落下させ、その時の振動センサ105Aおよび振動センサ105Bの値を計測する。鉄球は直径1cm程度のものとし、土表面から10cmほどの高さから落下させる。なお、プランター32の振動センサ105Aおよび振動センサ105Bが設置されている位置の真上から、鉄球を落下させるのが好ましい。
所定の量加水した上で、上記と同様の方法で、土壌水分計104A,土壌水分計104B,土壌水分計104C、間隙水圧計106A,間隙水圧計106B,振動センサ105Aおよび振動センサ105Bの値を計測する。このような加水・計測サイクルを、土が飽和するまで繰り返す。なお、本例の加水方法は特に問わないが、第1の実施例と同様シャワーを用いた。
本例でも、1回の操作あたり、複数の水分量データおよび間隙水圧データを計測する。なお、モデル学習に用いる水分量mおよび間隙水圧uは、各測定値の平均値を算出する。また、含水比および(土塊)重量Wの値は、加水量、初期の土塊重および初期の含水比から求める。また、減衰率δは、得られた各波形データから図6に示す方法により求める。これにより、1つの試験体における複数の含水比に対する水分量m、間隙水圧u、重量Wおよび減衰率δのデータを得て、データベース336に格納する。
このようにして、実斜面のすべり層を構成している山砂と同じ構成、乾燥密度および締固め度の土の複数の含水比に対する粘着力c、内部摩擦角φ、水分量m、間隙水圧u、重量Wおよび減衰率δのデータを得ると、粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール332および重量・間隙水圧モデル化モジュール335は、得られたデータを基に、解析式変数の各々の減衰率δに対する関数モデルを学習する。モデルの学習方法は第1の実施例と同様である。
次に、監視動作について説明する。本例でも、図21に示す造成した斜面を監視対象斜面(実斜面)として、本発明の斜面監視方法を評価した。本例の監視動作としては、造成した実斜面にシャワーを用いて加水していく過程で、一定間隔で設置されている振動センサ108の各々の直上から鉄球を落下させ、そのときの振動センサ108の各々からの値を計測し、振動波形の波形データを得る。そして、得られた各振動波形の波形データを基に減衰率δを求め、求めた減衰率δを基に、実斜面監視モジュール337が安全率Fsを求めることにより、安全性を評価する。複数個所で計測している振動センサそれぞれから、減衰率を算出し、平均の値を使用してもよい。本例でも約20分毎に波形データを取得するとともに、上記の監視動作を評価のために加水を斜面が崩壊するまで行い、斜面が崩壊した際の時刻を記録する。
本実施例によっても、第1の実施例と同様、斜面の崩壊の可能性を検知できる。
実施例3.
以下では、第2の実施形態の斜面監視システムの具体的な例である第3の実施例を説明する。図23は、第3の実施例にかかる斜面監視システムの構成図である。図23に示す斜面監視システム400は、三軸圧縮試験装置41と、プランター42と、コンピュータ43と、実斜面計測機器44と、ディスプレイ装置45とを備えている。
三軸圧縮試験装置41は、第1の実施例の三軸圧縮試験装置31と同様である。
プランター42は、第1の実施例のプランター32と比べて、振動センサ105を備えていない点で異なる。なお、他の点は第1の実施例のプランター32と同様である。
実斜面計測機器44は、水分計208を含んでいる。
コンピュータ43も、例えば、プログラムに従って動作するCPU(図示せず)と、記憶装置としてのデータベース436とを備えた一般的なコンピュータである。
本例のコンピュータ43には、プログラムモジュールとして、粘着力・内部摩擦角算出モジュール431、粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール432、水分量対応化モジュール433、重量・間隙水圧モデル化モジュール435および実斜面監視モジュール437を含む斜面監視プログラムが実行可能な態様でインストールされているものとする。すなわち、コンピュータ43は、そのような斜面監視プログラムがCPUに読み込まれており、該CPUが斜面監視プログラムに含まれる各モジュールに規定されている所定の処理を実行可能な状態であるとする。
本例において、粘着力・内部摩擦角算出モジュール431は、第2の実施形態における粘着力・内部摩擦角算出手段111に相当する。粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール432は、第2の実施形態における粘着力・内部摩擦角モデル化手段112に相当する。また、重量・間隙水圧モデル化モジュール435は、第2の実施形態における間隙水圧モデル化手段223および重量モデル化手段224に相当する。また、実斜面監視モジュール437は、第2の実施形態における実斜面監視手段250すなわち安全率算出手段251、判定手段152および警報手段153に相当する。
なお、水分量対応化モジュール433は、上記の第2の実施形態では明示されていないが、各試験で得られる水分量と、実斜面の監視に用いる水分計208の計測値から得られる水分量とでデータ形式が異なる場合に、これらを対応づける。これにより、各モデル化モジュールが、各解析式変数を、実斜面の監視に用いる水分計208の計測値から得られる水分量でモデル化できるようにする。本例では、水分量対応化モジュール433は、プランター42において加水した量から加水過程における各状態での試験体の含水比を求め、求めた含水比とともに、加水過程における各状態でのセンサデータおよび算出した値(少なくともモデル化入力変数とされる水分量としての水分計計測値の平均値を含む)をデータベース436に記憶することにより、三軸圧縮試験で得られる水分量としての含水比と、少なくとも加水試験で得られる水分量としての水分計計測値の平均値とを対応づける(後述の図20参照)。
なお、本例でも、加水試験で、粘着力cおよび内部摩擦角φの算出に用いた垂直応力データおよびせん断応力データを得たときと同じ条件下での水分量データが得られることを前提としているが、もしそのような水分量データが得られない場合には、水分量対応化モジュール433は、三軸圧縮試験で得られる水分量としての含水比と、モデル化入力変数とされる水分量mとしての水分計計測値の平均値との関係を規定した含水比−水分計計測値モデルを構築すればよい。
粘着力・内部摩擦角算出モジュール431は、第1の実施例の粘着力・内部摩擦角算出モジュール331と同様である。
粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール432は、試験条件として示される各試験体の含水比と、算出された各試験体の粘着力cおよび内部摩擦角φと、水分量対応化モジュール433による対応づけにより得られる三軸圧縮試験の各試験体の含水比に対応する水分計計測値(の平均値)とに基づいて、粘着力cと内部摩擦角φとを各々、水分量mより具体的には水分計計測値(の平均値)の関数としてモデル化する。
重量・間隙水圧モデル化モジュール435は、加水過程における各状態での、間隙水圧計106で計測された計測値である間隙水圧u、加水量から求まる試験体の重量Wおよび水分計104で計測された計測値である水分量mから、重量Wと間隙水圧uとを各々、水分量mすなわち水分計計測値(の平均値)の関数としてモデル化する。
データベース436は、粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール432によってモデル化された粘着力cの関数モデル(粘着力−水分量モデル)および内部摩擦角φの関数モデル(内部摩擦角−水分量モデル)と、重量・間隙水圧モデル化モジュール335によってモデル化された重量Wの関数モデル(重量−水分量モデル)および間隙水圧uの関数モデル(間隙水圧−水分量モデル)との情報を記憶する。
実斜面監視モジュール437は、実斜面に設置された水分計208によって計測された計測値である水分量mを基に斜面の安全率Fsを算出して、算出された安全率Fsに基づき斜面の安全性を判定する。実斜面監視モジュール437は、安全性の判定結果として、例えば警報の有無を安全率Fsとともに出力してもよい。
ディスプレイ装置45は、実斜面監視モジュール437の判定結果を表示する。
次に、本実施例の動作を説明する。以下では、造成された斜面を監視対象斜面として、該斜面のすべり層を構成している物質群が土、より具体的には締固め度85%の山砂によって構成されている場合を例とする。
まず、実斜面のすべり層を構成している山砂と同じ構成、乾燥密度および締固め度の試料を用い、複数の含水比に調整した試験体(土塊)を用意する。
次に、三軸圧縮試験装置41を用いて、第1の実施例と同様の方法により、三軸圧縮試験を実施する。そして、図18に示すデータを得る。
本例の加水試験では、図19に示すような小型プランターを利用する。ただし、本例のプランター42には振動センサは不要である。小型のプランター42に、実斜面のすべり層を構成している山砂と同じ構成、乾燥密度および締固め度の試料からなり、三軸圧縮試験で用いた試験体よりも小さい含水比に調整された土を盛り、試験体(盛土)を形成する。
そのまま土壌水分計104A,土壌水分計104B,土壌水分計104C、間隙水圧計106Aおよび間隙水圧計106Bの値を計測する。
その後、シャワーにより所定の量加水した上で、上記と同様の方法で、土壌水分計104A,土壌水分計104B,土壌水分計104C、間隙水圧計106Aおよび間隙水圧計106Bの値を計測する。このような加水・計測サイクルを、土が飽和するまで繰り返す。
本例でも、1回の操作あたり、複数の水分量データおよび間隙水圧データを計測する。なお、モデル学習に用いる水分量mおよび間隙水圧uは、各測定値の平均値を算出する。そして、図20に示すデータ(ただし、減衰率は除く)を得る。
このようにして、実斜面のすべり層を構成している山砂と同じ構成、乾燥密度および締固め度の土の複数の含水比に対する粘着力c、内部摩擦角φ、間隙水圧u、重量Wおよび水分量mのデータを得ると、粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール332および重量・間隙水圧モデル化モジュール435は、得られたデータを基に、解析式変数の各々について、水分量mに対する関数モデルを学習する。本例では、重量W、間隙水圧u、粘着力cおよび内部摩擦角φについて水分量mに対する回帰式を学習する。なお、含水比が高い場合と低い場合とで粘着力cの傾向が異なる場合には、回帰式の学習において含水比の高い部分の粘着力cのみを用いてもよい。
次に、監視動作について説明する。本例でも、図21に示す造成した斜面を監視対象斜面(実斜面)として、本発明の斜面監視方法を評価した。ただし、第1の実施例および第2の実施例では、評価用として説明した3×2個の土壌水分計(丸印参照)が、監視用の水分計208となる。
斜面の監視動作としては、造成した実斜面にシャワーを用いて加水していく過程で、約20分毎に各水分計208の値を計測し、水分量データを得る。そして、得られた各水分量データを基に、水分量m(ここでは水分計計測値の平均値)を求め、求めた水分量mを基に、実斜面監視モジュール437が安全率Fsを求めることにより、安全性を評価する。本例でも、上記の監視動作を評価のために加水を斜面が崩壊するまで行い、斜面が崩壊した際の時刻を記録する。
図24および図25は、加水動作により本例の実斜面から得られた各種値を示す説明図である。図24および図25には、本例の実斜面に対する加水過程における水分量データ取得時の経過時間、各水分計計測値、その平均値である水分量m、時刻および安全率Fsが示されている。なお、本例では、実験を開始してから7時間59分後に斜面が崩壊した。
図24および図25に示すように、実際の斜面崩壊時間が実験開始から7時間59分後であったのに対し、安全率が1を下回った時間は実験開始から7時間39分後であった。なお、その1つ前に計測したとき(安全率が1よりも大きかったとき)の経過時間は7時間22分であるため、実際の崩壊と警報出力との間の時間差は20〜37分の間であることがわかる。
実施例4.
以下では、第1の実施例の構成に通信手段を追加した第4の実施例を説明する。通信手段は、例えば、インターネット回線や無線LAN(Local Area Network)などを介して監視斜面がある地域の予測雨量データを受信する。
本実施例では、実斜面の深さを計測し、プランター32に盛る土の深さを合わせる。実斜面の深さとして、例えば、実斜面を構成している物質層ごとの界面の深さを計測してもよい。この条件下で第1の実施例と同様の方法で、プランター32に加水し、加振した際の波形データを取得する。このとき、加水した量を記録する。
また、本実施例では、減衰率算出モジュール334が、記録した加水量より算出される累積加水量を累積降水量とみなして、算出した減衰率δを、累積降水量による関数モデルとして学習することにより、減衰率−累積降水量モデルを構築する。なお、他の点は第1の実施例と同様である。
実斜面での監視時、実斜面監視モジュール337は、第1の実施例と同様、各振動センサ108から振動波形を示す波形データを各々取得し、減衰率δ(平均値)を算出する。そして、算出した減衰率δを基に、各解析式変数の値を算出して、安全率Fsを算出する。また、本実施例では、実斜面監視モジュール337は、この動作と並行して、通信手段を経由して予測雨量データを取得し、取得した予測雨量データと上記の減衰率−累積降水量モデルとに基づいて、将来の減衰率δを予測する。そして、予測した将来の減衰率δを基に、各解析式変数の値を算出して、将来の安全率Fsを予測(算出)する。
実施例5.
以下では、第1の実施例の構成に通信手段を追加した第5の実施例を説明する。通信手段は、例えば、インターネット回線や無線LANなどを介して監視斜面がある地域の予測雨量データを受信する。
本実施例でも、実斜面の深さを計測し、プランター32に盛る土の深さを合わせる。実斜面の深さとして、例えば、実斜面を構成している物質層ごとの界面の深さを計測してもよい。この条件下で第1の実施例と同様の方法で、プランター32に加水し、加振した際の波形データを取得する。このとき、加水した量を記録する。
本実施例では、減衰率算出モジュール334が、加水量を降水量とみなして、土の特性に合わせて、該降水量に対する減衰率の変動モデルを構築する。なお、他の点は第1の実施例と同様である。
実斜面での監視時、実斜面監視モジュール337は、第1の実施例と同様、各振動センサ108から振動波形を示す波形データを各々取得し、減衰率δ(平均値)を算出する。そして、算出した減衰率δを基に、各解析式変数の値を算出して、安全率Fsを算出する。また、本実施例では、実斜面監視モジュール337は、この動作と並行して、通信手段を経由して予測雨量データを取得し、取得した予測雨量データを基に、上記の降水量に対する減衰率の変動モデルを用いて、将来の減衰率δを予測する。そして、予測した将来の減衰率δを基に、各解析式変数の値を算出して、将来の安全率Fsを予測(算出)する。
実施例6.
以下では、第3の実施例の構成に通信手段を追加した第6の実施例を説明する。通信手段は、例えば、インターネット回線や無線LANなどを介して監視斜面がある地域の予測雨量データを受信する。
本実施例では、実斜面の深さを計測し、プランター42に盛る土の深さを合わせる。実斜面の深さとして、例えば、実斜面を構成している物質層ごとの界面の深さを計測してもよい。この条件下で第1の実施例と同様の方法で、プランター42に加水し、各状態における水分量データを取得する。このとき、加水した量を記録する。
また、本実施例では、水分量対応化モジュール433または重量・間隙水圧モデル化モジュール435が、記録した加水量より算出される累積加水量を累積降水量とみなして、取得した水分計104の測定値である水分量mを、累積降水量による関数モデルとして学習することにより、水分量−累積降水量モデルを構築する。なお、他の点は第3の実施例と同様である。
実斜面での監視時、実斜面監視モジュール437は、第3の実施例と同様、各水分計208から水分量を示す水分量データを各々取得し、水分量m(水分計計測値の平均値)を算出する。そして、算出した水分量mの平均値を基に、各解析式変数の値を算出して、安全率Fsを算出する。また、本実施例では、実斜面監視モジュール437は、この動作と並行して、通信手段を経由して予測雨量データを取得し、取得した予測雨量データと上記の水分量−累積降水量モデルとに基づいて、将来の水分量mを予測する。そして、予測した将来の水分量mを基に、各解析式変数の値を算出して、将来の安全率Fsを予測(算出)する。
実施例7.
以下では、第3の実施例の構成に通信手段を追加した第7の実施例を説明する。通信手段は、例えば、インターネット回線や無線LANなどを介して監視斜面がある地域の予測雨量データを受信する。
本実施例でも、実斜面の深さを計測し、プランター42に盛る土の深さを合わせる。実斜面の深さとして、例えば、実斜面を構成している物質層ごとの界面の深さを計測してもよい。この条件下で第1の実施例と同様の方法で、プランター42に加水し、各状態における水分量データを取得する。このとき、加水した量を記録する。
また、本実施例では、水分量対応化モジュール433または重量・間隙水圧モデル化モジュール435が、記録された加水量を降水量とみなして、土の特性に合わせて、該降水量に対する水分量mの変動モデルを構築する。なお、他の点は第3の実施例と同様である。
実斜面での監視時、実斜面監視モジュール437は、第3の実施例と同様、各水分計208から水分量を示す水分量データを各々取得し、水分量m(水分計計測値の平均値)を算出する。そして、算出した水分量mを基に、各解析式変数の値を算出して、安全率Fsを算出する。また、本実施例では、実斜面監視モジュール437は、この動作と並行して、通信手段を経由して予測雨量データを取得し、取得した予測雨量データを基に、上記の降水量に対する水分量の変動モデルを用いて、将来の水分量mを予測する。そして、予測した将来の水分量mを基に、各解析式変数の値を算出して、将来の安全率Fsを予測(算出)する。
実施例8.
以下では、第3の実施形態の斜面監視システム501の具体的な例である第8の実施例を説明する。図26は、第8の実施例にかかる斜面監視システム501の構成図である。図26に示すように、本実施例の斜面監視システム501は、三軸圧縮試験装置31と、プランター32と、コンピュータ53と、実斜面計測機器54と、ディスプレイ装置35とを備えている。以下、本例において上記のいずれかの実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
なお、図26に示す斜面監視システム501は、図17に示した第1の実施例の構成と比べて、モデル適否判定手段560に相当するモデル適否判定モジュール538と、水分計572とが追加されている点が異なる。また、データベース336がデータベース536となっている点が異なる。
本例のコンピュータ53は、例えば、プログラムに従って動作するCPU(図示せず)と、記憶装置としてのデータベース536とを備えた一般的なコンピュータである。本例のコンピュータ53には、プログラムモジュールとして、第1の実施例が備えるプログラムモジュールに加えて、モデル適否判定モジュール538を含む斜面監視プログラムが実行可能な態様でインストールされているものとする。
また、本例のデータベース536は、第1の実施例のデータベース336が記憶する情報に加えて、モデル生成物質データとして、加水・加振試験で得られる、加水過程における試験層の水分量mおよび減衰率δを記憶する。
本例において、モデル適否判定モジュール538は、実斜面計測機器34を用いて計測、収集される実斜面物質データと、プランター42を用いて計測、取得されてデータベース536に格納されるモデル生成物質データとを基に、データベース536中に格納されているモデルを監視斜面に対し適用可能か否かを判定する。
本実施例では、加水・加振試験で、図26のプランター32において試験体の含水比を変化させていきながら、波形データと水分量データとを取得して、図13に示すようなモデル生成物質データ、より具体的にはモデル生成土(試験体)における水分量−減衰率のデータ分布を得る。このとき、例えば、水分量対応化モジュール333が、得られた分布に対して線形関係式を導出し、取得された各値について、ばらつき指数(導出した線形関係式との距離の平均や標準偏差等)を算出する。そして、得られた水分量―減衰率のデータ分布、線形関係式のパラメータおよびばらつき指数の値をモデル生成物質データとして、モデル情報とともにデータベース536に格納する。なお、水分量対応化モジュール433および実斜面監視モジュール337が水分量mではなく、得られた含水比をそのまま、解析式変数に対応づける可観測量の変数(モデル化入力変数)として扱う場合は、上記の水分量を含水比に置き換えてもよい。
また、本実施例では、実斜面において含水比を変化させていきながら、振動センサ108および水分計572を用いて振動波形および水分量を計測する。モデル適否判定モジュール538は、計測されたデータを基に、図13に示すような実斜面物質データ、より具体的には監視対象土における水分量−減衰率のデータ分布を得る。また、モデル適否判定モジュール538は、ここで得られた実斜面物質データが、データベース536に記憶されているモデル生成物質データによって示される線形関係式から得られる値(理論値)に対して、求めたばらつき指数の所定倍(例えば、3倍)の範囲に収まっているか否かを判定する。そして、収まっていれば、モデル適否判定モジュール538は、実斜面の土から得られるデータの傾向がモデル作成時に用いた土と類似であるとして、データベース536内にあるモデルを斜面の安全監視に適用可能と判定する。
モデル適否判定モジュール538により適用可能と判定された場合、実斜面監視モジュール337が、データベース536内にあるモデルを用いて実斜面の安全率Fsを算出することにより、実斜面の監視を行う。実斜面監視モジュール337は、例えば、第1の実施例と同様、実斜面に設置された振動センサ108によって計測された計測値である振動波形から減衰率δを算出し、算出された減衰率δを基にデータベース536内にあるモデルを用いて斜面の安全率Fsを算出して、算出された安全率Fsに基づき斜面の安全性を判定する。
一方、モデル適否判定モジュール538は、得られた実斜面物質データが、上記の線形関係式から得られる値に対してばらつき指数の所定倍(例えば、3倍)の範囲に収まっていなければ、実斜面の土から得られるデータの傾向がモデル作成時に用いた土とは異なるとして、データベース536内にあるモデルを斜面の安全監視に適用不可と判定する。この場合、ユーザは、三軸圧縮試験装置31およびプランター32を動作させて、その斜面専用のモデル作成から取り組んでもよい。
なお、図13に示す例の場合、得られた実斜面物質データが、上記の線形関係式から得られる値に対してばらつき指数の所定倍(例えば、3倍)の範囲に収まっているため、実斜面監視モジュール337によって、データベース536内にあるモデルを用いた実斜面の監視が行われる。
実施例9.
以下では、第4の実施形態の斜面監視システム501の具体的な例である第9の実施例を説明する。図27は、第9の実施例にかかる斜面監視システム601の構成図である。図27に示すように、本実施例の斜面監視システム601は、三軸圧縮試験装置41と、プランター42と、コンピュータ63と、実斜面計測機器44と、実斜面物質計測機器64と、ディスプレイ装置35とを備えている。以下、本例において上記のいずれかの実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
図27に示す斜面監視システム601は、図23に示した第3の実施例の構成と比べて、モデル適否判定手段660に相当するモデル適否判定モジュール638が追加されるとともに、含水比計測手段671と水分計672とを含む実斜面土計測機64が追加されている点が異なる。また、データベース436がデータベース636となっている点が異なる。
本例のコンピュータ63は、例えば、プログラムに従って動作するCPU(図示せず)と、記憶装置としてのデータベース636とを備えた一般的なコンピュータである。本例のコンピュータ63には、プログラムモジュールとして、第2の実施例が備えるプログラムモジュールに加えて、モデル適否判定モジュール638を含む斜面監視プログラムが実行可能な態様でインストールされているものとする。
また、本例のデータベース636は、第3の実施例のデータベース436が記憶する情報に加えて、モデル生成物質データとして、加水試験で得られる、加水過程における試験層の含水比sおよび水分量mを記憶する。なお、含水比sには試験条件として入力される値が用いられてもよい。
本例において、モデル適否判定モジュール638は、実斜面物質計測機器64を用いて計測、収集される実斜面物質データと、プランター42を用いて計測、取得されてデータベース636に格納されるモデル生成物質データとを基に、データベース636中に格納されているモデルを監視斜面に対し適用可能か否かを判定する。
本実施例では、加水試験で、図27のプランター42において試験体の含水比を変化させていきながら、含水比データと水分量データとを取得して、モデル生成物質データ、より具体的にはモデル生成土(試験体)における含水比−水分量のデータ分布を得る。このとき、例えば、水分量対応化モジュール433や重量・間隙水圧モデル化モジュール435等が、得られた分布に対して線形関係式を導出し、取得された各値について、ばらつき指数(導出した線形関係式との距離の平均や標準偏差等)を算出する。そして、得られた含水比−水分量のデータ分布、線形関係式のパラメータおよびばらつき指数の値をモデル生成物質データとして、モデル情報とともにデータベース636に格納する。
また、本実施例では、実斜面物質計測機器64において実斜面の土の含水比を変化させていきながら、含水比計測手段671および水分計672を用いて含水比および水分量を計測する。モデル適否判定モジュール638は、計測されたデータを基に、実斜面物質データ、より具体的には監視対象土における含水比−水分量のデータ分布を得る。また、モデル適否判定モジュール638は、ここで得られた実斜面物質データが、データベース636に記憶されているモデル生成物質データによって示される線形関係式から得られる値(理論値)に対して、求めたばらつき指数の所定倍(例えば、3倍)の範囲に収まっているか否かを判定する。そして、収まっていれば、モデル適否判定モジュール638は、実斜面の土から得られるデータの傾向がモデル作成時に用いた土と類似であるとして、データベース636内にあるモデルを斜面の安全監視に適用可能と判定する。
モデル適否判定モジュール638により適用可能と判定された場合、実斜面監視モジュール437が、データベース636内にあるモデルを用いて実斜面の安全率Fsを算出することにより、実斜面の監視を行う。実斜面監視モジュール437は、例えば、第3の実施例と同様、実斜面に設置された水分計208によって計測された計測値である水分量mを基にデータベース636内にあるモデルを用いて斜面の安全率Fsを算出して、算出された安全率Fsに基づき斜面の安全性を判定する。
一方、モデル適否判定モジュール638は、得られた実斜面物質データが、上記の線形関係式から得られる値に対してばらつき指数の所定倍(例えば、3倍)の範囲に収まっていなければ、実斜面の土から得られるデータの傾向がモデル作成時に用いた土とは異なるとして、データベース636内にあるモデルを斜面の安全監視に適用不可と判定する。この場合、ユーザは、三軸圧縮試験装置41およびプランター42を動作させて、その斜面専用のモデル作成から取り組んでもよい。
次に、本発明の概要を説明する。図28は、本発明による斜面監視システムの概要を示すブロック図である。
図28に示すように、本発明による斜面監視システムは、解析式変数計測手段81と、実斜面計測手段82と、斜面安全性解析装置83とを備えている。
また、斜面安全性解析装置83は、解析式変数モデル化手段831と、モデル情報記憶手段832と、安全率算出手段833とを含んでいる。
解析式変数計測手段81(例えば、三軸圧縮試験装置31、プランター32、三軸圧縮試験装置41、プランター42等)は、監視対象斜面を構成している物質層と略同一の種類、乾燥密度および締固め度を有する物質群からなる物質層である試験層を少なくとも有する試験環境から、試験層の状態を変化させたときの、所定の斜面安定解析式に必要となる変数である解析式変数の各々の値と、試験層の状態に応じて変化する所定の第1可観測量の値とを計測する。
ここで、「略同一」について、例えば、一方の物質層(例えば、試験層)の土中水分量または含水比に対する各解析式変数の分布が、それぞれの土中水分量または含水比において他方の物質層(例えば、監視対象斜面の物質層)から取得される同分布から算出できる標準偏差をβとしたとき、平均±3βの範囲内に収まっていれば、両物質層は略同一の種類、乾燥密度および締め固め度を有しているとしてもよい。また、例えば、土の粒度分布を用いて、一方の物質層の透水試験の結果得られる透水係数が、他方の物質層の粒度分布等から推定される透水係数のばらつき分布から算出される標準偏差をβとしたとき、平均±3βの範囲内に収まっていれば、両物質層は略同一の種類、乾燥密度および締め固め度を有しているとしてもよい。例えば、モデル情報記憶手段等にモデル生成に用いた試験層の、土中水分量に対するそれぞれの解析式変数(土塊重量や間隙水圧や粘着力や内部摩擦角)のデータとともに、平均と標準偏差βとを各々格納しておき、監視対象斜面の物理層を構成している物質群を用いた試験等により計測される、土中水分量を変化させたときのそれぞれの解析式変数のデータが平均±3βの範囲に収まっていれば、両物質層は略同一の種類、乾燥密度および締め固め度を有しているとしてもよい。また、例えば、モデル情報記憶手段等にモデル生成に用いた試験層の土中水分量に対するそれぞれの解析式変数(土塊重量や間隙水圧や粘着力や内部摩擦角)のデータとともに、透水係数のデータの平均と標準偏差βとを格納しておき、監視対象斜面の物理層を構成している物質群を用いた透水試験により計測される透水係数が平均±3βの範囲に収まっていれば、両物質層は略同一の種類、乾燥密度および締め固め度を有しているとしてもよい。
実斜面計測手段82(例えば、実斜面計測機器34、実斜面計測機器44等)は、監視対象斜面から、監視対象斜面を構成している物質層の状態に応じて変化する所定の第2可観測量の値を計測する。ここで、第2可観測量は、第1可観測量と同じまたは第1可観測量との関係が既知である所定の可観測量である。
解析式変数モデル化手段831(例えば、第1のモデル化手段110、第2のモデル化手段120、第2のモデル化手段220、粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール332、水分量対応化モジュール333、重量・間隙水圧モデル化モジュール335、粘着力・内部摩擦角モデル化モジュール432、水分量対応化モジュール433、重量・間隙水圧モデル化モジュール435等)は、解析式変数計測手段81により得られる、解析式変数の各々の値と、第1可観測量の値とに基づいて、解析式変数の各々について、第2可観測量または第2可観測量から算出可能な所定の第3変数との関係を規定するモデルを構築する。
モデル情報記憶手段832(例えば、モデル情報記憶手段140、モデル情報記憶手段240、モデル情報記憶手段540、モデル情報記憶手段640、データベース336、データベース436、データベース536、データベース636等)は、解析式変数モデル化手段831が構築したモデルの情報を記憶する。
安全率算出手段833(例えば、安全率算出手段151、安全率算出手段251、実斜面監視モジュール337、実斜面監視モジュール437等)は、実斜面計測手段82により得られる第2可観測量の値と、モデル情報記憶手段に記憶されているモデルの情報とに基づいて、第2可観測量の値を計測したときの各解析式変数の値を算出し、算出された各解析式変数の値を基に、斜面安定解析式を用いて監視対象斜面の安全率を算出する。
このような特徴的要素を備えているので、監視対象斜面に対する計測困難性を回避しつつ、該斜面の安全性を精度よく監視することができる。例えば、本発明によれば、例えば、実斜面計測手段82として1種類のセンサを監視対象斜面に設けるだけで、該斜面の安全性を精度よく監視することができる。
また、第1可観測量および第2可観測量は、計測対象の物質層の含水比に影響する可観測量であってもよい。
また、解析式変数計測手段は、解析式変数計測手段は、第1可観測量の少なくとも1つとして、試験層において発生する振動波形を計測する振動センサを少なくとも含み、実斜面計測手段は、第2可観測量として、監視対象斜面を構成している物質層において発生する振動波形を計測する振動センサを含み、解析式変数モデル化手段は、解析式変数の各々について、第2可観測量から算出可能な第3変数である減衰率との関係を規定するモデルを構築してもよい。
また、該振動センサは、計測対象の物質層において落下物または降水により発生する振動の波形である振動波形を計測する振動センサであってもよい。
また、解析式変数計測手段は、第1可観測量の少なくとも1つとして、試験層に含まれる水分量を計測する水分計を含み、実斜面計測手段は、第2可観測量として、監視対象斜面を構成している物質層に含まれる水分量を計測する水分計を含み、解析式変数モデル化手段は、解析式変数の各々について、第2可観測量である水分量との関係を規定するモデルを構築してもよい。
また、解析変数計測手段は、少なくとも2つの異なる試験のうちの第1試験において、解析式変数のうちの少なくとも1つの値とともに、第2可観測量とは異なる第1可観測量を測定する第1試験解析変数計測手段と、少なくとも2つの異なる試験のうちの第2試験において、解析式変数のうちの少なくとも1つの値とともに、第1試験の第1可観測量と同じ可観測量と、第2可観測量と同じ可観測量とを含む2種以上の第1可観測量の値を計測する第2試験解析変数計測手段とを含み、解析式変数モデル化手段は、第1試験解析変数計測手段により得られる、解析式変数の値と、第2可観測量とは異なる第1可観測量の値とに基づいて、該解析式変数について、該第1可観測量との関係を規定するモデルを構築する第1解析式変数モデル化手段と、第2試験解析変数計測手段により得られる、解析式変数の値と、第2可観測量と同じ第1可観測量の値とに基づいて、該解析式変数について、第2可観測量または第3変数との関係を規定するモデルを構築する第2解析式変数モデル化手段と、第2試験解析変数計測手段により得られる、第1試験の第1可観測量と同じ第1可観測量の値と、第2可観測量と同じ第1可観測量の値とに基づいて、第1試験と同じ第1可観測量について、第2可観測量または第3の変数との関係を規定するモデルを構築する第1可観測量モデル化手段と、第1可観測量モデル化手段によって構築されたモデルを用いて、第1解析式変数モデル化手段が構築されたモデルを、第2可観測量または第3変数をモデル化入力変数とするモデルに変換するモデル変換手段とを有していてもよい。
また、解析式変数モデル化手段は、解析式変数の少なくとも1つについて、試験層の状態を変化させたときの、該解析式変数の値のうち所定の条件を満たす一部の値と、第1可観測量の値とに基づいて、第2可観測量または第3変数との関係を規定するモデルを構築してもよい。
また、解析式変数計測手段は、加水により試験層の状態を変化させたときの、解析式変数の各々の値と、試験層の状態に応じて変化する所定の第1可観測量の値とを計測し、斜面安全性解析装置は、解析式変数計測手段により得られる第1可観測量の値と、該値を計測したときの加水量とに基づいて、解析式変数モデル化手段が各解析式変数のモデル化に用いるモデル化入力変数である第2可観測量または第3変数の、累積降水量との関係を規定したモデルまたは所定の単位時間あたりの予測雨量に対する変動モデルを構築するモデル化入力変数モデル化手段を含み、安全率算出手段は、モデル化入力変数モデル化手段が構築したモデルと、実斜面計測手段により得られた第2可観測量の値と、予測雨量データとに基づいて将来の第2可観測量を予測して、将来の安全率を予測してもよい。
また、図29は、本発明による斜面監視システムの他の構成例を示すブロック図である。図29に示すように、斜面監視システムは、解析式変数計測手段81と、解析式変数モデル化手段831とを備える構成であってもよい。解析式変数計測手段81および解析式変数モデル化手段831は上述した通りである。図29に示す斜面監視システムは、例えば、解析式変数の各々について、第2可観測量または第2可観測量から算出可能な所定の第3変数との関係を規定するモデルを構築して、出力するシステムであってもよい。
また、図30は、本発明による斜面監視システムの他の構成例を示すブロック図である。図30に示すように、斜面監視システムは、解析式変数計測手段81と、実斜面物質計測手段84と、解析式変数モデル化手段831と、モデル情報記憶手段832と、モデル適否判定手段834とを備える構成であってもよい。
解析式変数計測手段81、解析式変数モデル化手段831およびモデル情報記憶手段832は上述した通りである。ただし、図30に示すシステムにおいて、解析式変数計測手段81は、必ずしも、監視対象斜面を構成している物質層と略同一の種類、乾燥密度および締固め度を有する物質群からなる物質層である試験層を有する試験環境を用いなくてもよい。換言すると、解析式変数モデル化手段は、任意の試験層を有する試験環境から計測される、試験層の状態を変化させたときの解析式変数の各々の値と、試験層の状態に応じて変化する所定の第1可観測量の値とに基づいて、モデルを構築する。また、解析式変数モデル化手段は、モデルを構築するとともに、モデルの構築の際に試験層から取得された所定の2種の物理量の値を所定の記憶手段(本例の場合、モデル情報記憶手段832)に記憶させる。
また、モデル情報記憶手段832は、解析式変数モデル化手段831においてモデルの構築に用いられた、該試験層から取得された前記試験層の状態に応じて変化する所定の2種の物理量の値を、さらに記憶する。
実斜面物質計測手段84(例えば、実斜面計測機器54や実斜面物質計測機器64等)は、監視対象斜面を構成している物質層を用いて、該物質層の状態を変化させたときの、上記所定の2種の物理量を計測する。
また、モデル適否判定手段834(例えば、モデル適否判定手段560、モデル適否判定手段660、モデル適否判定モジュール538、モデル適否判定モジュール638等)は、モデル情報記憶手段832に記憶されている上記所定の2種の物理量の値と、実斜面物質計測手段84によって計測された上記所定の2種の物理量の値とに基づいて、解析式変数モデル化手段が構築した上記モデルの監視対象斜面への適用可否を判定する。
モデル適否判定手段834は、例えば、モデル情報記憶手段832に記憶されている上記所定の2種の物理量の値から構築される、上記所定の2種の物理量の関係を規定したモデル生成物質のモデルと、実斜面物質計測手段84によって計測された上記所定の2種の物理量の値から構築される、上記所定の2種の物理量の関係を規定した実斜面物質のモデルとの類似度であるモデル類似度、または、デル情報記憶手段832に記憶されている上記所定の2種の物理量の値が示す分布と、実斜面物質計測手段84によって計測された上記所定の2種の物理量の値が示す分布との類似度である分布類似度を算出し、算出された上記のモデル類似度または分布類似度に基づいて、モデルの適用可否を判定してもよい。
また、上記所定の2種の物理量は、例えば、水分量と減衰率であってもよいし、含水比と水分量であってもよい。
また、図31は、本発明による斜面監視システムの他の構成例を示すブロック図である。図31に示すように、斜面監視システムは、解析式変数計測手段81と、実斜面計測手段82と、実斜面物質計測手段84と、解析式変数モデル化手段831と、モデル情報記憶手段832と、モデル適否判定手段834と、安全率算出手段833を備える構成であってもよい。なお、図31に示すシステムは、図28に示す構成と、図30に示す構成とを合わせたものである。
また、上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)監視対象斜面を構成している物質層と略同一の種類、乾燥密度および締固め度を有する物質群からなる物質層である試験層を少なくとも有する試験環境から計測される、試験層の状態を変化させたときの、所定の斜面安定解析式に必要となる変数である解析式変数の各々の値と、試験層の状態に応じて変化する所定の第1可観測量の値とに基づいて、解析式変数の各々について、監視対象斜面を構成している物質層の状態に応じて変化する所定の第2可観測量であって第1可観測量と同じもしくは第1可観測量との関係が既知である所定の第2可観測量、または第2可観測量から算出可能な所定の第3変数との関係を規定するモデルを構築する解析式変数モデル化手段と、解析式変数モデル化手段が構築したモデルの情報を記憶するモデル情報記憶手段と、監視対象斜面から計測される第2可観測量の値と、モデル情報記憶手段に記憶されているモデルの情報とに基づいて、第2可観測量の値を計測したときの各解析式変数の値を算出し、算出された各解析式変数の値を基に、斜面安定解析式を用いて監視対象斜面の安全率を算出する安全率算出手段とを備えたことを特徴とする斜面安全性解析装置。
(付記2)コンピュータが、監視対象斜面を構成している物質層と略同一の種類、乾燥密度および締固め度を有する物質群からなる物質層である試験層を少なくとも有する試験環境から計測される、試験層の状態を変化させたときの、所定の斜面安定解析式に必要となる変数である解析式変数の各々の値と、試験層の状態に応じて変化する所定の第1可観測量の値とに基づいて、解析式変数の各々について、監視対象斜面を構成している物質層の状態に応じて変化する所定の第2可観測量であって第1可観測量と同じもしくは第1可観測量との関係が既知である所定の第2可観測量、または第2可観測量から算出可能な所定の第3変数との関係を規定するモデルを構築し、コンピュータが、監視対象斜面から計測される第2可観測量の値を基に、構築されたモデルを用いて第2可観測量の値を計測したときの各解析式変数の値を算出し、算出された各解析式変数の値を基に、斜面安定解析式を用いて監視対象斜面の安全率を算出することを特徴とする斜面監視方法。
(付記3)第1可観測量および第2可観測量が、計測対象の物質層の含水比に影響する可観測量である付記2に記載の斜面監視方法。
(付記4)試験環境には、第1可観測量の少なくとも1つとして、試験層において発生する振動波形を計測する振動センサが設置されており、監視対象斜面には、第2可観測量として、監視対象斜面を構成している物質層において発生する振動波形を計測する振動センサが設置されており、コンピュータが、試験環境から計測される、試験層の状態を変化させたときの、解析式変数の各々の値と、試験層において発生する振動波形の波形データとに基づいて、解析式変数の各々について、監視対象斜面を構成している物質層において発生する振動波形の減衰率との関係を規定するモデルを構築する付記2に記載の斜面監視方法。
(付記5)試験環境には、第1可観測量の少なくとも1つとして、試験層に含まれる水分量を計測する水分計が設置されており、監視対象斜面には、第2可観測量として、監視対象斜面を構成している物質層に含まれる水分量を計測する水分計が設置されており、コンピュータが、試験環境から計測される、試験層の状態を変化させたときの、解析式変数の各々の値と、試験層に含まれる水分量の値とに基づいて、解析式変数の各々について、監視対象斜面を構成する物質層に含まれる水分量との関係を規定するモデルを構築する付記2に記載の斜面監視方法。
(付記6)コンピュータが、少なくとも2つの異なる試験のうちの第1試験において、解析式変数のうちの少なくとも1つの値とともに、第2可観測量とは異なる第1可観測量を測定した結果と、少なくとも2つの異なる試験のうちの第2試験において、解析式変数のうちの少なくとも1つの値とともに、第1試験の第1可観測量と同じ可観測量と、第2可観測量と同じ可観測量とを含む2種以上の第1可観測量の値を計測した結果とを入力し、コンピュータが、第1試験の結果得られる、解析式変数の値と、第2可観測量とは異なる第1可観測量の値とに基づいて、該解析式変数について、該第1可観測量との関係を規定するモデルを構築し、コンピュータが、第2試験の結果得られる、解析式変数の値と、第2可観測量と同じ第1可観測量の値とに基づいて、該解析式変数について、第2可観測量または第3変数との関係を規定するモデルを構築し、コンピュータが、第2試験の結果得られる、第1試験の第1可観測量と同じ第1可観測量の値と、第2可観測量と同じ第1可観測量の値とに基づいて、第1試験と同じ第1可観測量について、第2可観測量または第3の変数との関係を規定するモデルである第1可観測量モデルを構築し、コンピュータが、構築された第1可観測量モデルを用いて、第1解析式変数モデル化手段が構築されたモデルを、第2可観測量または第3変数をモデル化入力変数とするモデルに変換する付記2から付記5のうちのいずれかに記載の斜面監視方法。
(付記7)コンピュータが、解析式変数の少なくとも1つについて、試験層の状態を変化させたときの、該解析式変数の値のうち所定の条件を満たす一部の値と、第1可観測量の値とに基づいて、第2可観測量または第3変数との関係を規定するモデルを構築する付記2から付記6のうちのいずれかに記載の斜面監視方法。
(付記8)コンピュータが、試験環境から計測される、加水により試験層の状態を変化させたときの、第1可観測量の値と、該値を計測したときの加水量とに基づいて、各解析式変数のモデル化に用いるモデル化入力変数である第2可観測量または第3変数の、累積降水量との関係を規定したモデルまたは所定の単位時間あたりの予測雨量に対する変動モデルを構築し、コンピュータが、構築されたモデル化入力変数である第2可観測量または第3変数のモデルと、監視対象斜面から計測される第2可観測量の値と、予測雨量データとに基づいて将来の第2可観測量の値を予測し、予測した第2可観測量の値を基に将来の安全率を予測する付記2から付記7のうちのいずれかに記載の斜面監視方法。
(付記9)監視対象斜面を構成している物質層と略同一の種類、乾燥密度および締固め度を有する物質群からなる物質層である試験層を少なくとも有する試験環境から計測される、試験層の状態を変化させたときの、所定の斜面安定解析式に必要となる変数である解析式変数の各々の値と、試験層の状態に応じて変化する所定の第1可観測量の値とに基づいて、解析式変数の各々について、監視対象斜面を構成している物質層の状態に応じて変化する所定の第2可観測量であって第1可観測量と同じもしくは第1可観測量との関係が既知である所定の第2可観測量、または第2可観測量から算出可能な所定の第3変数との関係を規定するモデルを構築する解析式変数モデル化手段を備えたことを特徴とする斜面安全性解析装置。
(付記10)コンピュータに、監視対象斜面を構成している物質層と略同一の種類、乾燥密度および締固め度を有する物質群からなる物質層である試験層を少なくとも有する試験環境から計測される、前記試験質層の状態を変化させたときの、所定の斜面安定解析式に必要となる変数である解析式変数の各々の値と、前記試験層の状態に応じて変化する所定の第1可観測量の値とに基づいて、前記解析式変数の各々について、前記監視対象斜面を構成している物質層の状態に応じて変化する所定の第2可観測量であって前記第1可観測量と同じもしくは前記第1可観測量との関係が既知である所定の第2可観測量、または前記第2可観測量から算出可能な所定の第3変数との関係を規定するモデルを構築する処理を実行させるための斜面安全性解析プログラム。
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
この出願は、2004年8月21日に出願された国際出願PCT/JP2014/004303を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。