JPWO2016010118A1 - ガスバリア性フィルムおよびガスバリア性フィルムの製造方法 - Google Patents

ガスバリア性フィルムおよびガスバリア性フィルムの製造方法 Download PDF

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Abstract

長尺体を製造した場合にも、改質度合いの差異によるバリア性能の劣化が防止されたガスバリア性フィルムを提供する。本発明によれば樹脂基材上に、ケイ素化合物および金属原子を含むバリア層を有し、前記バリア層は、ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:xであり、x≧2である、膜厚Th1の領域Aと、ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:1〜1:0.1である、膜厚Th2の領域Bと、を含み、前記Th1および前記Th2とは下記式(1)および(2):(1) Th1/Th2≧2、(2) 20nm≦Th1<300nm、を満たす、ガスバリア性フィルムが提供される。

Description

本発明は、ガスバリア性フィルムおよびガスバリア性フィルムの製造方法に関する。より詳細には、バリア性の劣化が低減されたガスバリア性フィルムおよびその製造方法に関する。
食品、包装材料、医薬品などの分野で、従来から樹脂フィルムの表面に金属酸化物などの蒸着膜や樹脂などの塗布膜を設けた、比較的簡易な水蒸気や酸素などの透過を防ぐガスバリア性フィルムが知られている。また、近年、液晶表示素子(LCD)、太陽電池(PV)、有機エレクトロルミネッセンス(EL)などの電子デバイス分野においても、軽くて割れにくく、フレキシブル性を持たせることを目的として樹脂基材を用いたガスバリア性フィルムへの要望が高まっている。これらの電子デバイスにおいては、その使用形態から高温高湿下でも耐えうる、さらに高いレベルの水蒸気ガスバリア性が求められている。
このようなガスバリア性フィルムを製造する方法としては、主に、ドライ法として、プラズマCVD法(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法、化学蒸着法)によってフィルムなどの基材上にガスバリア層を形成する方法や、ウェット法として、ポリシラザンを主成分とする塗布液を基材上に塗布した後、塗膜に表面処理(改質処理)を施してガスバリア層を形成する方法が知られている。ドライ法とは異なり、ウェット法は大型の設備を必要とせず、さらに基材の表面粗さに影響されず、ピンホールもできないので、再現性良く均一なガスバリア膜を得る手法として注目されている。
従来知られているポリシラザンの改質方法としては、プラズマ処理する方法や真空紫外光照射する方法がある(例えば、特開平8−281861号公報、特開2009−255040号公報、および国際公開第2011/007543号を参照)。
特開平8−281861号公報には、プラズマCVD法により形成した10〜200nm厚さのケイ素酸化物層と、ポリシラザンが転化されてなる0.1〜2μm厚さのケイ素酸化物層を備えるガスバリア性フィルムが開示されている。しかしながら、有機ELの基板に用いる場合など、高いバリア性が求められるバリアフィルムとしては、性能が充分ではなかった。
特開2009−255040号公報には、真空紫外エキシマランプ照射したポリシラザン膜を積層することにより、フレキシブルなガスバリア性フィルムを製造することが記載される。当該方法により得られるガスバリア性フィルムは、欠陥がなく表面が平滑であり、クラックも生じにくく、ガスバリア性に優れる。
国際公開第2011/007543号には、酸素または水蒸気を実質的に含まない雰囲気下で、ポリシラザン膜にプラズマ照射または紫外線照射することにより、ガスバリア性フィルムを製造することが記載される。当該方法により得られるガスバリア性フィルムは、水蒸気ガスバリア性や酸素ガスバリア性等のガスバリア性や耐擦傷性に優れる。
しかしながら、上記のポリシラザン膜を改質して用いる従来技術においては、特にロールに巻回して使用する、長尺体の成膜を行った際、長手方向においてポリシラザン膜の改質度合いに差異が生じて、バリア性能を劣化させるという問題があることが分かった。また、高温高湿環境下に置いた際に、ガスバリア性フィルムにクラックが発生し、バリア性能が劣化する場合があった。また、塗布方法を用いたガスバリア性フィルムの製造方法としては、より生産性の高い方法が要求されていた。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、長尺体を成膜した場合にも、ポリシラザン膜の改質度合いに差異が生じることを防止し、さらに高温高湿下でのクラック発生を防止しうる、優れたガスバリア性能を有するガスバリア性フィルムを提供することを目的とする。さらに、そのようなガスバリア性フィルムを、高い生産性で製造し得る製造方法を提供することを今一つの目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に至った。本発明の上記課題は以下の手段により達成される。
すなわち、本発明の第一の態様は、樹脂基材上に、ケイ素化合物および金属原子を含むバリア層を有し、前記バリア層は、
ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:xであり、x≧2である、膜厚Th1の領域Aと、
ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:1〜1:0.1である、膜厚Th2の領域Bと、を含み、
前記Th1および前記Th2とは下記式(1)および(2):
(1) Th1/Th2≧2
(2) 20nm≦Th1<300nm
を満たす、ガスバリア性フィルムである。
また、本発明の第二の態様は、樹脂基材上に、ケイ素化合物前駆体および溶解度パラメーターが15.5〜20.0の溶媒を含む第1バリア層前駆体液と、金属化合物および溶解度パラメーターが26.0〜32.0の溶媒を含む第2バリア層前駆体液と、を塗布することを含む成膜工程を有する、ガスバリア性フィルムの製造方法である。
本発明のガスバリア性フィルムの概略構成を示す断面図である。図1において、10はガスバリア性フィルムを表し、11は(樹脂)基材を表し、12は無機バリア層を表し、13はバリア層を表し、14は第1バリア層に由来する領域を表し、15は領域Bを表し、16は領域Aを表し、17は第2バリア層に由来する領域を表し、18は第1バリア層を表し、19は第2バリア層を表し、20は前駆体フィルムを表す。 本発明に係る無機バリア層の形成に用いられる製造装置の一例を示す模式図である。図2において、1はガスバリア性フィルムを表し、2は(樹脂)基材を表し、3は無機バリア層を表し、31は製造装置を表し、32は送り出しローラーを表し、33、34、35、36は搬送ローラーを表し、39、40は成膜ローラーを表し、41はガス供給管を表し、42はプラズマ発生用電源を表し、43、44は磁場発生装置を表し、45は巻取りローラーを表す。 本発明に係る無機バリア層の形成に用いられる他の製造装置(真空プラズマCVD装置)の一例を示す模式図である。図3において、101は(真空)プラズマCVD装置を表し、102は真空槽を表し、103はカソード電極を表し、105はサセプタを表し、106は熱媒体循環系を表し、107は真空排気系を表し、108はガス導入系を表し、109は高周波電源を表し、110は基材を表し、160は加熱冷却装置を表す。
以下、本発明を実施するための形態について説明する。初めに本発明のガスバリア性フィルムの特徴および各要素について説明し、次にガスバリア性フィルムの製造方法について説明する。
[ガスバリア性フィルム]
本発明のガスバリア性フィルムは、樹脂基材上に、ケイ素化合物および金属原子を含むバリア層を有し、ケイ素元素量および金属元素量が上記した所定の関係を満たす。
本発明によれば、バリア層が、特定の厚み条件を満たす金属原子を含む層を含むことにより、ポリシラザン膜の改質度合いに差異が生じてバリア性が低下することを防止でき、さらには、高温高湿時のクラック発生も防止できる、ガスバリア性フィルムが提供される。また、本発明の製造方法によれば、溶解度パラメーターの互いに異なる溶媒を第1バリア層と第2バリア層との塗布液にそれぞれ用いることにより、より高い生産性で、優れたバリア性能のガスバリア性フィルムを製造しうる。また、本発明のガスバリア性フィルムを使用した電子デバイスは、バリア性能の高いフィルムを使用することにより、耐久性を向上し得る。
図1は、本発明のガスバリア性フィルム10の一例の構成を示す概略断面図である。本発明のガスバリア性フィルム10は、前駆体フィルム20を改質して得られる。ガスバリア性フィルム10は、樹脂基材11、無機バリア層12、バリア層13がこの順に積層されている。前駆体フィルム20は、樹脂基材11、無機バリア層12、改質前のケイ素化合物前駆体を含む塗布膜である第1バリア層18、金属化合物を含む塗布膜である第2バリア層19がこの順に積層されている。ガスバリア性フィルム10のバリア層13は、前駆体フィルム20の第1バリア層18および第2バリア層19が改質処理されることにより、構成される。ガスバリア性フィルム10のバリア層13は、第1バリア層18由来の領域14と、ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:1〜1:0.1である、膜厚Th2の領域B 15と、第2バリア層由来の領域17で構成される。さらに、バリア層13の領域17は、ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:xであり、x≧2である、膜厚Th1の領域A 16を含んでいる。以下、ガスバリア性フィルム10の構成要素について説明する。
<樹脂基材>
本発明に係るガスバリア性フィルムは、通常、樹脂基材(プラスチックフィルムまたはシート)が用いられ、無色透明な樹脂からなるフィルムまたはシート(樹脂基材)が基材として好ましく用いられる。用いられる樹脂基材は、バリア層、ハードコート層等を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記樹脂基材としては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
また、本発明において、特開2012−116101号公報の段落「0056」〜「0075」や特開2013−226758号公報の段落「0125」〜「0131」などに開示されている基材も適宜採用される。
本発明に係るガスバリア性フィルムに用いられる樹脂基材の厚みは、用途によって適宜選択されるため特に制限がないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは5μm〜500μmであり、より好ましくは25〜250μmである。これらの樹脂基材は、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号「0036」〜「0038」に記載されているものを好ましく採用できる。
基材は、表面の平滑性が高いものが好ましい。表面の平滑性としては、平均表面粗さ(Ra)が2nm以下であるものが好ましい。下限は特にないが、実用上、0.01nm以上である。必要に応じて、基材の両面、少なくともバリア層を設ける側を研摩し、平滑性を向上させておいてもよい。
基材の少なくとも本発明に係るガスバリア層(無機バリア層及び第2層)を設ける側には、密着性向上のための公知の種々の処理、例えばコロナ放電処理、火炎処理、酸化処理、またはプラズマ処理や、後述するプライマー層の積層等を行うことが好ましく、必要に応じて上記処理を組み合わせて行うことがより好ましい。
また、基材上にアンカーコート層(易接着層)を形成してもよい。また、シランカップリング剤のように単分子レベル〜ナノレベルの薄膜を形成し、層界面で分子結合を形成できるような材料でアンカーコート層を設けることも、より高い密着性が期待できる点で好ましく用いることができる。また、基材上に更に樹脂などから成る応力緩和層や樹脂基材の表面を平滑化するための平滑層、樹脂基材からのブリードアウトを防止するためのブリードアウト防止層などを別途設けてもよい。
<バリア層>
本発明のバリア層は、ケイ素化合物および金属原子を含む。バリア層は、ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:xであり、x≧2である、膜厚Th1の領域Aと、ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:1〜1:0.1である、膜厚Th2の領域Bと、を含んでいる。さらに、Th1およびTh2は下記式(1)および(2):
(1) Th1/Th2≧2
(2) 20nm≦Th1<300nm
を満たす。
本発明のガスバリア性フィルムにおいて、バリア層は、改質前の第1バリア層に由来する、主としてケイ素化合物を含む領域と、第2バリア層に由来する、主として金属化合物(金属原子を含む化合物)を含む領域と、その間の第1バリア層と第2バリア層とがわずかに混合した、ケイ素化合物および金属原子が混合した領域と、で構成される。ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:1〜1:0.1である領域Bは、ケイ素化合物と金属原子とが混合した領域に相当する。ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:xであり、x≧2である、領域Aは、金属元素量が多く、主として金属化合物で構成される領域に含まれる。領域Aの膜厚Th1は、領域Bの膜厚Th2に比較して厚く、Th1およびTh2は、式(1)Th1/Th2≧2を満たしている。すなわち、主として金属化合物で構成される領域Aは、ケイ素化合物が混合された領域Bの2倍以上の厚さを有し、いわば下層と混合されずに残存している。言い換えれば、本発明においては混合領域はより膜厚が薄く、ケイ素化合物と金属原子とがなるべく混合しない方が好ましい。さらに、領域Aの膜厚Th1は、式(2)20nm≦Th1<300nmを満たす。すなわち、主として金属化合物で構成される領域Aは、領域Bの2倍以上であるとともに、ある程度の実質的な膜厚を有して残存している。
このように、主として金属化合物で構成される領域Aが所定の膜厚を有して残存していることにより、ガスバリア性フィルムが、特に高温高湿下において、未改質のケイ素化合物前駆体が改質されて発生する歪みを領域Aが吸収し得る。したがって、高温高湿下でのガスバリア性フィルムのクラック発生が防止され、高いガスバリア性能のガスバリア性フィルムとなる。クラック防止の効果は、特にケイ素化合物を含む第2バリア層の膜厚が厚い場合に顕著である。
また、長尺体のガスバリア性フィルムを製造する際にも、領域Bの膜厚がより薄く、領域Aがある程度の膜厚で残存する、上記の条件が満たされるようにしておくことにより、ケイ素化合物前躯体の改質度合いに差異が生じることを防止できることが分かった。これは、改質時にケイ素化合物の低分子成分が揮発し、改質用ランプに付着して、ランプの照度が低下するために、経時的に改質度合いに差が生じていたためと考えられる。領域Aが所定の厚さで残存していることにより、ケイ素化合物の低分子成分の揮発および飛散が防止され、改質用ランプの照度低下が抑制されたものと考えられる。その結果、本発明のガスバリア性フィルムは、長尺体の全体にわたって優れたバリア性能を示すフィルムとなる。
従来は、例えば、ケイ素化合物前駆体を含む第1バリア層塗布液と、金属化合物を含む第2バリア層塗布液とを、同時重層塗布した場合には、バリア層の改質前に二層が混合してしまうことにより、金属原子を多量に含む部分が上記の領域Aのような厚さでは残らなかった。また、金属化合物を含む層を残存させようとすると、下層のケイ素化合物前駆体を含む層を予め改質しておかなければならなかった。それ故に、改質時に低分子のケイ素化合物が揮発または飛散しており、ランプの照度低下および改質度合いの差異を生じていたものと考えられる。
Th1およびTh2の比率は、より好ましくは、5.0≧Th1/Th2≧2.5、さらに好ましくは4.0≧Th1/Th2≧3.2である。Th1およびTh2の比率がかかる範囲であると、本発明の所期の効果、高温高湿時のクラック発生防止および改質度合いの差異の抑制による均一なバリア性能の実現、がより高いため好ましい。また、Th1の膜厚は、20nm以上であり、好ましくは20nm超であり、より好ましくは50nm以上である。また、Th1<300nmであり、好ましくは、Th1≦200nmであり、さらに好ましくはTh1≦100nmを満たす。Th1が20nm以上であると、低分子のケイ素化合物の揮発または飛散防止の効果がより確実であり、200nm以下であれば、ガスバリア性フィルムの柔軟性も高いものとなる。
Th1およびTh2を求めるには、XPSデプスプロファイルを測定し、Si元素量と金属元素量との分布を得る。その分布を基に、Si:Mが、1:1〜1:0.1となる領域BおよびSi:Mが、1:xであり、x≧2である領域Aの厚さを算出する。具体的な測定条件は、後述する実施例に記載の条件を用いる。
(ケイ素化合物)
バリア層を形成するケイ素化合物は、下記一般式(1):
Figure 2016010118
上記一般式(1)において、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基を表わす、
で示される構造を有するケイ素化合物前駆体を、活性エネルギー線を照射することによって改質して得られたものであることが好ましい。
ケイ素化合物前駆体としては、上記一般式(1)で示される構造を有するケイ素化合物前駆体が挙げられる。一般式(1)のケイ素化合物は、構造内に珪素−窒素(Si−N)結合を有するポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等の結合を有するSiO、Si及びこれらの中間固溶体SiO等のセラミック前駆体無機ポリマーである。なお、本明細書では、一般式(1)のケイ素化合物前駆体を「ポリシラザン」とも称する。上記一般式(1)で示される構造を有するケイ素化合物前駆体は1種単独で含んでも、または2種以上の式(1)のケイ素化合物前駆体を含んでもよい。
ここで、アルキル基としては、炭素原子数1〜8の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基が挙げられる。より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などがある。また、アリール基としては、炭素原子数6〜30のアリール基が挙げられる。より具体的には、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基などの非縮合炭化水素基;ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基などの縮合多環炭化水素基が挙げられる。(トリアルコキシシリル)アルキル基としては、炭素原子数1〜8のアルコキシ基で置換されたシリル基を有する炭素原子数1〜8のアルキル基が挙げられる。より具体的には、3−(トリエトキシシリル)プロピル基、3−(トリメトキシシリル)プロピル基などが挙げられる。上記R〜Rに場合によって存在する置換基は、特に制限はないが、例えば、アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基(−OH)、メルカプト基(−SH)、シアノ基(−CN)、スルホ基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、ニトロ基(−NO)などがある。なお、場合によって存在する置換基は、置換するR〜Rと同じとなることはない。例えば、R〜Rがアルキル基の場合には、さらにアルキル基で置換されることはない。これらのうち、好ましくは、R、R及びRは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、ビニル基、3−(トリエトキシシリル)プロピル基または3−(トリメトキシシリルプロピル)基である。R、R及びRすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザン(PHPS)が特に好ましい。このようなポリシラザンから形成されるガスバリア層(ガスバリア膜)は高い緻密性を示す。
また、上記一般式(1)において、nは、式:−[Si(R)(R)−N(R)]−の構成単位の数を表わす整数であり、一般式(1)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。
ガスバリア層の膜としての緻密性の観点からは、R、RおよびRのすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザンが特に好ましい。パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6員環および8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されており、その分子量は、数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算)であり、液体または固体の物質である。ポリシラザンは、有機溶媒に溶解した溶液の状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有塗布液として使用することができる。ポリシラザン溶液の市販品としては、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のアクアミカ(登録商標) NN120−10、NN120−20、NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL120−20、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。
本発明に用いられるポリシラザンの例としては、特に限定されず、公知のものが挙げられる。例えば、特開2013−022799号公報の段落「0043」〜「0058」や特開2013−226758号公報の段落「0038」〜「0056」などに開示されているものが適宜採用される。これらの中では、パーヒドロポリシラザンが最も好ましく用いられる。
ポリシラザンの別の例としては、以下に制限されないが、例えば、上記ポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(特開平7−196986号公報)等の、低温でセラミック化するポリシラザンが挙げられる。
(シラザン化合物)
バリア層を形成するためのケイ素化合物前駆体としては、塗布液の調製が可能であれば特に限定はされず、上記の一般式(1)で表されるポリシラザンの他、シラザン化合物、アミノシラン化合物、シリルアセトアミド化合物、シリルイミダゾール化合物などが用いられる。
本発明に好ましく用いられるシラザン化合物の例としては、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、および1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
(金属化合物)
金属化合物は、金属原子を含む化合物であれば特に制限されない。
(金属原子)
本発明のバリア層に含まれる金属原子は、上記効果を奏するものであれば特に制限されない。具体的には、ホウ素原子(B)、アルミニウム原子(Al)、チタン原子(Ti)、ジルコニウム原子(Zr)、亜鉛原子(Zn)、ガリウム原子(Ga)、インジウム原子(In)、クロム原子(Cr)、鉄原子(Fe)、マグネシウム原子(Mg)、スズ原子(Sn)、ニッケル原子(Ni)、パラジウム原子(Pd)、鉛原子(Pb)、マンガン原子(Mn)、リチウム原子(Li)、ゲルマニウム原子(Ge)、銅原子(Cu)、ナトリウム原子(Na)、カリウム原子(K)、カルシウム原子(Ca)、及びコバルト原子(Co)が挙げられる。これらのうち、ホウ素原子(B)、アルミニウム原子(Al)、チタン原子(Ti)およびジルコニウム原子(Zr)がより好ましい。上記金属原子は、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。これらの金属原子を含むことによって、低分子のケイ素化合物の揮発や飛散防止、および、高温高湿時のクラック発生防止の効果をより向上できる。
金属原子は、バリア層に含まれる金属化合物に含まれる。金属化合物は、好ましくは、金属原子、酸素原子及び炭素原子を有する化合物である。金属化合物は1種単独で含まれていても、2種以上の金属化合物が含まれていてもよい。
金属化合物が酸素(O)原子を含有すると、ケイ素化合物前駆体の活性エネルギー線照射による改質時にダングリングボンドが少なく、酸素組成比率の高いガスバリア層を形成することが可能である。ここで、金属化合物は、金属原子、酸素原子及び炭素原子を有するものであれば特に制限されない。具体的には、アルカリ金属のアルコキシド、下記一般式(2):
Figure 2016010118
で示される構成単位を有する金属化合物などが挙げられる。上記金属化合物は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
アルカリ金属のアルコキシドとしては、特に制限されないが、炭素原子数1〜10のアルコキシ基がアルカリ金属に結合したものが好ましい。具体的には、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、カリウムブトキシドなどが挙げられる。
また、上記一般式(2)で示される構造単位を有する金属化合物が金属化合物として使用できる。上記一般式(2)において、Mは、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、ゲルマニウム(Ge)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、またはコバルト(Co)を表わす。ここで、nが2以上である(即ち、−[M(Rm1]−が複数個存在する)場合では、各−[M(Rm1]−単位中のMは、それぞれ、同じであってもまたは異なるものであってもよい。これらのうち、VUV光の透過性、ポリシラザンとの反応性などの観点から、Mは、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)が好ましく、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)がより好ましい。
また、Yは、単結合または酸素原子(−O−)を表わす。
、R及びRは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO)、メルカプト基(−SH)、エポキシ基(3員環のエーテルであるオキサシクロプロピル基)、水酸基(−OH)、炭素原子数1〜10の置換若しくは非置換のアルキル基、炭素原子数3〜10の置換若しくは非置換のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10の置換若しくは非置換のアルケニル基、炭素原子数2〜10の置換若しくは非置換のアルキニル基、炭素原子数1〜10の置換若しくは非置換のアルコキシ基、アセトアセテート基(−O−C(CH)=CH−C(=O)−CH)、炭素原子数4〜25の置換若しくは非置換の(アルキル)アセトアセテート基、炭素原子数6〜30の置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換の複素環基またはアミノ基(−NH)を表わす。ここで、R、R及びRは、それぞれ、同じであってもまたは異なるものであってもよい。また、nが2以上である(即ち、−[M(Rm1]−が複数個存在する)場合では、各−[M(Rm1]−単位中のRは、それぞれ、同じであってもまたは異なるものであってもよい。
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子のいずれでもよい。
炭素原子数1〜10のアルキル基としては、特に制限されないが、炭素原子数1〜10の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基及び2−エチルヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、VUV光の透過性、膜の緻密性などの観点から、炭素原子数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、炭素原子数1〜5の直鎖または分岐鎖のアルキル基がより好ましい。
炭素原子数3〜10のシクロアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及びシクロオクチル基などが挙げられる。
炭素原子数2〜10のアルケニル基としては、特に制限されないが、炭素原子数2〜10の直鎖または分岐鎖のアルケニル基である。例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、2−ヘプテニル基、5−ヘプテニル基、1−オクテニル基、3−オクテニル基、5−オクテニル基などが挙げられる。
炭素原子数2〜10のアルキニル基としては、特に制限されないが、炭素原子数2〜10の直鎖もしくは分岐状のアルキニル基である。例えば、アセチレニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンテチル基、2−ペンテチル基、3−ペンテチル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、3−ヘキシニル基、1−ヘプチニル基、2−ヘプチニル基、5−ヘプチニル基、1−オクチニル基、3−オクチニル基、5−オクチニル基などが挙げられる。
炭素原子数1〜10のアルコキシ基としては、特に制限されないが、炭素原子数1〜10の直鎖もしくは分岐状のアルコキシ基である。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基などが挙げられる。これらのうち、VUV光の透過性、ポリシラザンとの反応性、膜の緻密性などの観点から、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基が好ましく、炭素原子数1〜5の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基が好ましい。
炭素原子数4〜25の(アルキル)アセトアセテート基としては、特に制限されないが、水素原子または炭素原子数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキル基がアセトアセテート基に結合した基を表わす。例えば、アセトアセテート基(−O−C(CH)=CH−C(=O)−OH)、メチルアセトアセテート基(−O−C(CH)=CH−C(=O)−C−O−CH)、エチルアセトアセテート基(−O−C(CH)=CHC(=O)−C−O−C)、プロピルアセトアセテート基、イソプロピルアセトアセテート基、オクタデシルアセトアセテート基などが挙げられる。これらのうち、VUV光の透過性、膜の緻密性などの観点から、エチルアセトアセテート基、メチルアセトアセテート基、アセトアセテート基が好ましい。
炭素原子数6〜30のアリール基としては、特に制限されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フルオレニル基、アンスリル基、ピレニル基、アズレニル基、アセナフチレニル基、ターフェニル基、フェナンスリル基などが挙げられる。
複素環基としては、特に制限されないが、チオフェン環、ジチエノチオフェン環、シクロペンタジチオフェン環、フェニルチオフェン環、ジフェニルチオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、ピロール環、フラン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、クマリン環(例えば、3,4−ジヒドロクマリン)、ベンズイミダゾール環、ベンズオキサゾール環、ローダニン環、ピラゾロン環、イミダゾロン環、ピラン環、ピリジン環、ピラジン環、ピラゾール環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、フルオレン環、ベンゾチオフェン環、ベンゾ(c)チオフェン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイソキサゾール環、ベンゾチアゾール環、インドール環、フタラジン環、シナノリン環、キナゾリン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルボリン環(カルボリンの任意の炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったもの)、1,10−フェナントロリン環、キノン環、ローダニン環、ジローダニン環、チオヒダントイン環、ピラゾロン環、ピラゾリン環から導かれる基などが挙げられる。
また、上記R、R及びRに場合によって存在する置換基は、特に限定されない。具体的には、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素原子数1〜24の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、炭素原子数3〜24のシクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基)、炭素原子数1〜24のヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基)、炭素原子数2〜24のアルコキシアルキル基(例えば、メトキシエチル基等)、炭素原子数1〜24のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、炭素原子数3〜24のシクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基)アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アリール基、炭素原子数6〜24のアリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基)、炭素原子数1〜24のアルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基)、炭素原子数3〜24のシクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基)、炭素原子数6〜24のアリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基)、炭素原子数1〜24のアルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基)、炭素原子数7〜24のアリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基)、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、チオール基(−SH)、シアノ基(−CN)等が挙げられる。なお、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アリール基は上記と同様の定義であるため、ここでは説明を省略する。また、置換基の数は特に制限はなく、所望の効果(VUV光の透過性、溶解性、ポリシラザンとの反応性など)を考慮して適宜選択されうる。上記において、同一の置換基で置換されることはない。すなわち、置換のアルキル基は、アルキル基で置換されることはない。
これらのうち、R、R及びRの少なくとも1つは、水酸基、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基を表わすことが好ましい。アルコキシ基またはヒドロキシル基を含有する化合物は、VUV光によりアルコキシ基部分またはヒドロキシル基部分の結合が開裂しやすく、開裂したアルコキシ基部分またはヒドロキシル基部分は速やかにポリシラザンと反応するため、転化反応への反応促進効果が大きい。また、アルキル基を含有する化合物は、可撓性を付与した膜の形成が可能である。また、R 、R及びRの少なくとも1つは、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基または炭素原子数4〜25の(アルキル)アセトアセテート基を表わすことがより好ましく、炭素原子数1〜10のアルキル基または炭素原子数1〜10のアルコキシ基を表わすことがさらにより好ましく、炭素原子数1〜10のアルコキシ基を表わすことが特に好ましい。
上記一般式(2)において、m1およびm2は、1以上の整数であり、m1+m2は、Mによって規定される整数であり、Mの結合手の数によって一義的に規定される。ここで、m1およびm2は、同じ整数であってもあるいは異なる整数であってもよい。nは、1以上の整数であり、VUV光の透過性、膜の緻密性などの観点から、1〜10の整数であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。
上記一般式(2)で示される金属化合物としては、ホウ酸トリイソプロピル、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム−sec−ブチレート、チタンイソプロポキシド、アルミニウムトリエチレート、アルミニウムトリイソプロピレート、アルミニウムトリtert−ブチレート、アルミニウムトリn−ブチレート、アルミニウムトリsec−ブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、カルシウムイソプロピレート、チタンテトライソプロポキシド(チタン(IV)イソプロピレート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、アルミニウムジイソプロピレートモノアルミニウムt−ブチレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムオキシドイソプロポキサイドトリマー、ジルコニウム(IV)イソプロピレート、トリス(2,4−ペンタンジオナト)チタニウム(V)、テトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム(IV)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)鉄(III)、ビス(2,4−ペンタジオナト)パラジウム(II)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)イリジウム(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル(II)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)亜鉛(II)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)マンガン(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)クロム(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)インジウム(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)カルシウム(III)、マグネシウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、トリメチルガリウム、ジ−n−ブチルジメトキシ錫、テトラエチル鉛、マンガン(III)アセチルアセトナート、ジエチルジエトキシゲルマンなどが挙げられる。
これらのうち、VUV光の透過性などの観点から、ホウ酸トリイソプロピル、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムsec−ブチレート、チタンイソプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド(チタン(IV)イソプロピレート)が好ましく、ホウ酸トリイソプロピル、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、チタンテトライソプロポキシド(チタン(IV)イソプロピレート)がより好ましい。上記金属化合物は、合成してもまたは市販品を使用してもよい。
<無機バリア層>
本発明のガスバリア性フィルムは、前記樹脂基材と前記バリア層との間に、化学気相成長(CVD)法により形成された無機バリア層をさらに含むことが好ましい。無機バリア層を設けることによって、樹脂基材側からのバリア層への水分の侵入を抑制・防止できるため、ガスバリア性フィルム全体のガスバリア性能がより向上する。また、バリア層中のケイ素化合物前駆体の改質(酸化)反応を低湿度条件下で緩やかに(より遅い速度で)進行させうる。このため、ガスバリア性フィルムの柔軟性および耐屈曲性を向上することもできる。
無機バリア層は無機化合物を含むことで、高い緻密性を有し、さらにガスバリア性を有する。無機バリア層のガスバリア性は、基材上に無機バリア層を形成させた積層体で算出した際、水蒸気透過度(WVTR)が0.1g/(m・day)以下であることが好ましく、0.01g/(m・day)以下であることがより好ましい。
無機バリア層は、無機化合物を含む。ここで、無機化合物としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物または金属酸炭化物が挙げられる。中でも、ガスバリア性能の点で、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、CeおよびTaから選ばれる1種以上の金属を含む、酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物または酸炭化物などを好ましく用いることができ、Si、Al、In、Sn、ZnおよびTiから選ばれる金属の酸化物、窒化物または酸窒化物がより好ましく、特にSiおよびAlの少なくとも1種の、酸化物、窒化物または酸窒化物が好ましい。好適な無機化合物として、具体的には、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、またはアルミニウムシリケートなどの複合体が挙げられる。副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
無機バリア層に含まれる無機化合物の含有量は特に限定されないが、無機バリア層中、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることが特に好ましく、100質量%である(すなわち、無機バリア層は無機化合物からなる)ことが最も好ましい。
無機バリア層の1層当たりの膜厚は、20〜3000nmであることが好ましく、50〜2500nmであることがより好ましく、30〜1000nmであることが特に好ましい。このような膜厚であれば、ガスバリア性フィルムは、優れたガスバリア性および屈曲時のクラック発生抑制/防止効果を発揮できる。なお、上記のプラズマCVD法により形成される無機バリア層が2層以上から構成される場合には、各無機バリア層が上記したような膜厚を有することが好ましい。
無機バリア層は、樹脂基材表面に形成される必要はなく、樹脂基材との間に下地層(平滑層、プライマー層)、アンカーコート層(アンカー層)、保護層、吸湿層や帯電防止層の機能化層などが設けられてもよい。
無機バリア層の形成方法は、化学気相成長法(CVD法)に制限されない。物理気相成長法(PVD法)などの真空成膜法、または無機化合物を含む液、好ましくはケイ素化合物を含有する液を塗布して形成される塗膜を改質処理して形成する方法(以下、単に塗布法とも称する)などを用いることができる。これらのうち、物理気相成長法または化学気相成長法がより好ましく、化学気相成長法が特に好ましい。
(平滑層(下地層、プライマー層))
本発明のガスバリア性フィルムにおいては、基材とバリア層との間に、平滑層を有してもよい。本発明に用いられる平滑層は突起等が存在する透明樹脂フィルム支持体の粗面を平坦化し、あるいは、透明樹脂フィルム支持体に存在する突起により透明無機化合物層に生じた凹凸やピンホールを埋めて平坦化するために設けられる。平滑層の構成材料、形成方法、表面粗さ、膜厚等は、特開2013−52561号公報の段落「0233」〜「0248」に開示される材料、方法等が適宜採用される。
(アンカーコート層(アンカー層))
本発明に係る基材の表面には、接着性(密着性)の向上を目的として、アンカーコート層(アンカー層)を易接着層として形成してもよい。このアンカーコート層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を、1種または2種以上併せて使用することができる。上記アンカーコート剤は、市販品を使用してもよい。具体的には、シロキサン系UV硬化型ポリマー溶液(信越化学工業株式会社製、「X−12−2400」の3%イソプロピルアルコール溶液)、UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材(JSR株式会社製OPSTARZ7501)等を用いることができる。
これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により基材上にコーティングし、溶媒、希釈剤等を乾燥除去することによりコーティングすることができる。上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5g/m(乾燥状態)程度が好ましい。なお、市販の易接着層付き基材を用いてもよい。
または、アンカーコート層は、物理蒸着法または化学蒸着法といった気相法により形成することもできる。例えば、特開2008−142941号公報に記載のように、接着性等を改善する目的で酸化ケイ素を主体とした無機膜を形成することもできる。
また、アンカーコート層の厚さは、特に制限されないが、0.5〜10.0μm程度が好ましい。
(ブリードアウト防止層)
本発明のガスバリア性フィルムは、上記平滑層を設けた面とは反対側の基材面にブリードアウト防止層を有してもよい。
ブリードアウト防止層は、平滑層を有するフィルムを加熱した際に、平滑層を有するフィルム中から未反応のオリゴマー等が表面へ移行して、接触する面を汚染してしまう現象を抑制する目的で、平滑層を有する基材の反対面に設けられる。ブリードアウト防止層は、この機能を有していれば基本的に平滑層と同じ構成をとっても構わない。
ブリードアウト防止層の構成材料、形成方法、膜厚等は、特開2013−52561号公報の段落「0249」〜「0262」に開示される材料、方法等が適宜採用される。
(中間層)
本発明において、バリア層が2層以上積層している場合、各バリア層の間、またはバリア層と基材との間に、中間層を形成してもよい。本発明において、中間層を形成する方法として、ポリシロキサン改質層を形成する方法を適用することができる。この方法は、ポリシロキサンを含有した塗布液を湿式塗布法によりバリア層上に塗布して乾燥した後、その乾燥した塗膜に真空紫外光を照射することによってポリシロキサン改質層とした中間層を形成する方法である。
本発明における中間層を形成するために用いる塗布液は、主には、ポリシロキサン及び有機溶媒を含有する。中間層の構成材料、形成方法などの具体的な形態は、例えば、特開2014−046272号公報の段落「0161」〜「0185」に開示される材料、方法などが適宜採用されうる。
(保護層)
本発明に係るガスバリア性フィルムは、バリア層の上部に、有機化合物を含む保護層を設けてもよい。保護層に用いられる有機化合物としては、有機モノマー、オリゴマー、ポリマー等の有機樹脂、有機基を有するシロキサンやシルセスキオキサンのモノマー、オリゴマー、ポリマー等を用いた有機無機複合樹脂層を好ましく用いることができる。
[ガスバリア性フィルムの製造方法]
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、樹脂基材上に、ケイ素化合物前駆体および溶解度パラメーターが15.5〜20.0の溶媒を含む第1バリア層前駆体液と、金属化合物および溶解度パラメーターが26.0〜32.0の溶媒を含む第2バリア層前駆体液と、を塗布することを含む成膜工程を有する。本発明においては、溶媒(溶解度パラメーター)、塗布方法、塗膜の厚さなどを適切に制御することによって、上記のTh1およびTh2が上記の式(1)および(2)の関係を満たすバリア層を有する本発明のガスバリア性フィルムを達成できる。
一実施形態として、第1バリア層前駆体液を塗布し、第1バリア層を形成した後に、第2バリア層前駆体液を塗布し、第2バリア層を形成する、逐次塗布を実施してもよい。すなわち、成膜工程が、樹脂基材上に、ケイ素化合物前駆体および溶解度パラメーターが15.5〜20.0の溶媒を含む第1バリア層前駆体液を塗布することを含む、第1バリア層を形成する第1成膜工程と、金属化合物および溶解度パラメーターが26.0〜32.0の溶媒を含む第2バリア層前駆体液を塗布することを含む、第2バリア層を形成する第2成膜工程と、を有していてもよい。また、別の実施形態として、成膜工程は、第1バリア層前駆体液と第2バリア層前駆体液とを同時重層塗布方式により塗布し、第1バリア層と第2バリア層とを同時に形成してもよい。
溶解度パラメーター(SP値)とは、ヒルデブラント(Hildebrand)によって導入された正則溶液論により定義された値であり、溶媒や有機化合物の溶解性や相溶性の指標として用いられる。2種類の溶媒の溶解度パラメーターが同じである場合には、それらの溶媒は混ざり合いやすく、溶解度パラメーターが互いに異なる場合には、それらの溶媒は混じりにくいと言える。溶解度パラメーターは、化学物質の構造や物理特性から公知の方法で求めることができる。
ここで、第1バリア層とは、第1バリア層前駆体液を塗布して形成された塗布膜を称し、第2バリア層とは、第2バリア層前駆体液を塗布して形成された塗布膜をいう。第1バリア層と第2バリア層とは、改質時に界面でわずかに混合する。そのため、本発明のガスバリア性フィルムのバリア層は、第1バリア層に由来する主としてケイ素化合物を含む部分と、第2バリア層に由来する主として金属化合物を含む部分と、その間の第1バリア層と第2バリア層とが混合した部分とで構成される。
上記式(1)および(2)が示すように、本発明のガスバリア性フィルムは、金属原子を多量に含む領域Aが所定の厚さで残存し、ケイ素化合物と金属原子とが混合した領域Bが、所定の関係を満たすより薄い膜厚で存在する。ケイ素化合物と金属原子とがなるべく混合していないことが好ましい。したがって、本発明の製造方法においては、ケイ素化合物前駆体を含む第1バリア層前駆体液と、金属化合物を含む第2バリア層前駆体液とが、互いに混合しにくい。すなわち、互いに溶解度パラメーターの異なる溶媒を、第1バリア層前駆体液と第2バリア層前駆体液とにそれぞれ使用する。より詳細には、第1バリア層前駆体液には、溶解度パラメーターが15.5〜20.0の溶媒を使用し、第2バリア層前駆体液には、溶解度パラメーターが26.0〜32.0の溶媒を使用する。かかる溶解度パラメーター範囲の溶媒をそれぞれ使用することにより、第2バリア層に由来する、金属原子を含む領域Aを所定の厚さで残存させることができ、第1バリア層と第2バリア層との混合領域を薄くすることができる。かかる金属化合物を含む層が存在することにより、改質時に低分子のケイ素化合物が揮発または飛散し、改質用ランプに付着することを防止できる。したがって、長尺体のガスバリア性フィルムを製造する際にも、ランプの照度低下が防止され、改質度合いに差異がなく、均質で優れたバリア性能のガスバリア性フィルムが提供される。
また、本発明によれば、第1バリア層前駆体液および第2バリア層前駆体液に、互いに異なる溶解度パラメーターの溶媒をそれぞれ使用することにより、同時重層塗布法を用いても、第1バリア層と第2バリア層とが所定量以上に混合することを防止できる。したがって、従来の、第1バリア層を改質する等した後に第2バリア層を形成する方法よりも、製造工程が簡単かつ短時間となり、生産性が向上する。逐次塗布法の場合にも、成膜毎の改質の必要がなく、乾燥も短時間で済むことからにより生産性向上の効果が得られる。
さらに、第1バリア層前駆体液に含まれる溶媒の溶解度パラメーターと、第2バリア層前駆体液に含まれる溶媒の溶解度パラメーターとの差が、7.5〜17.5であることがより好ましく、さらに好ましくは11〜17.5である。溶解度パラメーターの差が7.5〜17.5であると、本発明の所期の効果である、高温高湿下でのクラック発生防止、および、改質度合いの差異の防止による均質なバリア性能の向上、生産性の向上の効果がより高い。溶解度パラメーター差が11以上であれば、第1バリア層が確実に製膜され、溶解度パラメーター差が17.5以下であれば、第2バリア層が所定の厚さで確実に残存し、製膜される。特に、第1バリア層と第2バリア層とを同時重層塗布によって形成する場合は、溶解度パラメーターの差が11以上であれば、上記のTh1およびTh2が上記式(1)および(2)の関係を満たすバリア層をより効率的に得ることができる。
<無機バリア層成膜工程>
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、好ましくは、成膜工程の前に、樹脂基材上に化学気相成長(CVD)法により無機バリア層を形成する、無機バリア層成膜工程をさらに有する。無機バリア層の形成方法は、特に制限されないが、物理気相成長法(PVD法)、化学気相成長法(CVD法)などの真空成膜法、または無機化合物を含む液、好ましくはケイ素化合物を含有する液を塗布して形成される塗膜を改質処理して形成する方法(以下、単に塗布法とも称する)などが挙げられる。これらのうち、物理気相成長法または化学気相成長法がより好ましく、化学気相成長法が特に好ましい。すなわち、無機バリア層は、化学気相成長(CVD)法によって形成されることが好ましい。以下、真空成膜法について説明する。
(真空成膜法)
物理気相成長法(Physical Vapor Deposition、PVD法)は、気相中で物質の表面に物理的手法により、目的とする物質、例えば、炭素膜等の薄膜を堆積する方法であり、例えば、スパッタ法(DCスパッタ法、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法、およびマグネトロンスパッタ法等)、真空蒸着法、イオンプレーティング法などが挙げられる。
化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD法)は、基材上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基材表面または気相での化学反応により膜を堆積する方法である。また、化学反応を活性化する目的で、プラズマなどを発生させる方法などがあり、熱CVD法、触媒化学気相成長法、光CVD法、真空プラズマCVD法、大気圧プラズマCVD法など公知のCVD方式等が挙げられる。特に限定されるものではないが、製膜速度や処理面積の観点から、プラズマCVD法を適用することが好ましい。
真空プラズマCVD法、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法により得られる無機バリア層は、原材料(原料ともいう)である金属化合物、分解ガス、分解温度、投入電力などの条件を選ぶことで、目的の化合物を製造できるため好ましい。
例えば、ケイ素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いれば、ケイ素酸化物が生成する。これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
原料化合物としては、ケイ素化合物、チタン化合物、およびアルミニウム化合物を用いることが好ましい。これら原料化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
これらのうち、ケイ素化合物として、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、Mシリケート51等が挙げられる。また、後述の好適な形態である(i)〜(iii)の要件を満たすバリア層の形成の際に用いられる原料化合物であるケイ素化合物が挙げられる。
チタン化合物としては、例えば、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンn−ブトキシド、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−エチルアセトアセテート)、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンアセチルアセトネート、ブチルチタネートダイマー等が挙げられる。
アルミニウム化合物としては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、トリエチルジアルミニウムトリ−s−ブトキシド等が挙げられる。
また、これらの金属を含む原料ガスを分解して無機化合物を得るための分解ガスとしては、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気などが挙げられる。また、上記分解ガスを、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスと混合してもよい。
原料化合物を含む原料ガスと、分解ガスを適宜選択することで所望の無機バリア層を得ることができる。CVD法により形成される無機バリア層は、酸化物、窒化物、酸窒化物または酸炭化物を含む層であることが好ましい。
以下、CVD法のうち、好適な形態である真空プラズマCVD法について具体的に説明する。
図3は、本発明に係る無機バリア層の形成に用いられる真空プラズマCVD装置の一例を示す模式図である。
図3において、真空プラズマCVD装置101は、真空槽102を有しており、真空槽102の内部の底面側には、サセプタ105が配置されている。成膜対象である基材110はサセプタ105上に配置される。また、真空槽102の内部の天井側には、サセプタ105と対向する位置にカソード電極103が配置されている。真空槽102の外部には、熱媒体循環系106と、真空排気系107と、ガス導入系108と、高周波電源109が配置されている。熱媒体循環系106内には熱媒体が配置されている。熱媒体循環系106には、熱媒体を移動させるポンプと、熱媒体を加熱する加熱装置と、冷却する冷却装置と、熱媒体の温度を測定する温度センサと、熱媒体の設定温度を記憶する記憶装置とを有する加熱冷却装置160が設けられている。
また、本発明に係るCVD法により形成される無機バリア層の好適な一実施形態として、無機バリア層は構成元素に炭素、ケイ素、および酸素を含むことが好ましい。より好適な形態は、以下の(i)〜(iii)の要件を満たす層である。
(i)無機バリア層の膜厚方向における前記無機バリア層表面からの距離(L)と、ケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)との関係を示すケイ素分布曲線、前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率(酸素の原子比)との関係を示す酸素分布曲線、ならびに前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線において、前記無機バリア層の膜厚の90%以上(上限:100%)の領域で、(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)、(炭素の原子比)の順で多い(原子比がO>Si>C);
(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有する;
(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値(以下、単に「Cmax−Cmin差」とも称する)が3at%以上である。
以下、(i)〜(iii)の要件について説明する。
該無機バリア層は、(i)前記無機バリア層の膜厚方向における前記無機バリア層表面からの距離(L)と、ケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)との関係を示すケイ素分布曲線、前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率(酸素の原子比)との関係を示す酸素分布曲線、ならびに前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線において、前記無機バリア層の膜厚の90%以上(上限:100%)の領域で、(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)、(炭素の原子比)の順で多い(原子比がO>Si>C)ことが好ましい。前記の条件(i)を満たすと、得られるガスバリア性フィルムのガスバリア性や屈曲性が向上しうる。ここで、上記炭素分布曲線において、上記(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)および(炭素の原子比)の関係は、無機バリア層の膜厚の、少なくとも90%以上(上限:100%)の領域で満たされることがより好ましく、少なくとも93%以上(上限:100%)の領域で満たされることがより好ましい。ここで、該無機バリア層の膜厚の少なくとも90%以上とは、無機バリア層中で連続していなくてもよく、単に90%以上の部分で上記した関係を満たしていればよい。
また、該無機バリア層は、(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することが好ましい。該無機バリア層は、前記炭素分布曲線が少なくとも3つの極値を有することがより好ましく、少なくとも4つの極値を有することがさらに好ましいが、5つ以上有していてもよい。前記炭素分布曲線の極値が2つ以上であれば、得られるガスバリア性フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が向上しうる。なお、炭素分布曲線の極値の上限は、特に制限されないが、例えば、好ましくは30以下、より好ましくは25以下であるが、極値の数は、無機バリア層の膜厚にも起因するため、一概に規定することはできない。
ここで、少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記炭素分布曲線の有する1つの極値および該極値に隣接する極値における前記無機バリア層の膜厚方向における前記無機バリア層の表面からの距離(L)の差の絶対値(以下、単に「極値間の距離」とも称する)が、いずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、75nm以下であることが特に好ましい。このような極値間の距離であれば、無機バリア層中に炭素原子比が多い部位(極大値)が適度な周期で存在するため、無機バリア層に適度な屈曲性を付与し、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラックの発生をより有効に抑制・防止できる。なお、本明細書において「極値」とは、前記無機バリア層の膜厚方向における前記無機バリア層の表面からの距離(L)に対する元素の原子比の極大値または極小値のことをいう。また、本明細書において「極大値」とは、無機バリア層の表面からの距離を変化させた場合に元素(酸素、ケイ素または炭素)の原子比の値が増加から減少に変わる点であって、かつその点の元素の原子比の値よりも、該点から無機バリア層の膜厚方向における無機バリア層の表面からの距離をさらに4〜20nmの範囲で変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点のことをいう。すなわち、4〜20nmの範囲で変化させた際に、いずれかの範囲で元素の原子比の値が3at%以上減少していればよい。同様にして、本明細書において「極小値」とは、無機バリア層の表面からの距離を変化させた場合に元素(酸素、ケイ素または炭素)の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、かつその点の元素の原子比の値よりも、該点から無機バリア層の膜厚方向における無機バリア層の表面からの距離をさらに4〜20nmの範囲で変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上増加する点のことをいう。すなわち、4〜20nmの範囲で変化させた際に、いずれかの範囲で元素の原子比の値が3at%以上増加していればよい。ここで、少なくとも3つの極値を有する場合の、極値間の距離の下限は、極値間の距離が小さいほどガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果が高いため、特に制限されないが、無機バリア層の屈曲性、クラックの抑制/防止効果、熱膨張性などを考慮すると、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。
さらに、該無機バリア層は、(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値(以下、単に「Cmax−Cmin差」とも称する)が3at%以上であることが好ましい。前記絶対値が3at%以上であれば、得られるガスバリア性フィルムを屈曲させた場合のガスバリア性が向上しうる。Cmax−Cmin差は5at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることがさらに好ましく、10at%以上であることが特に好ましい。上記Cmax−Cmin差とすることによって、ガスバリア性をより向上することができる。なお、本明細書において、「最大値」とは、各元素の分布曲線において最大となる各元素の原子比であり、極大値の中で最も高い値である。同様にして、本明細書において、「最小値」とは、各元素の分布曲線において最小となる各元素の原子比であり、極小値の中で最も低い値である。ここで、Cmax−C in差の上限は、特に制限されないが、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果などを考慮すると、50at%以下であることが好ましく、40at%以下であることがより好ましい。
本発明において、前記無機バリア層の前記酸素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが好ましく、少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することがさらに好ましい。前記酸素分布曲線が極値を少なくとも1つ有する場合、得られるガスバリア性フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が極値を有さないガスバリア性フィルムと比較してより向上する。なお、酸素分布曲線の極値の上限は、特に制限されないが、例えば、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。酸素分布曲線の極値の数においても、無機バリア層の膜厚に起因する部分があり一概に規定できない。また、少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記酸素分布曲線の有する1つの極値および該極値に隣接する極値における前記無機バリア層の膜厚方向における無機バリア層の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。このような極値間の距離であれば、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラックの発生をより有効に抑制・防止できる。ここで、少なくとも3つの極値を有する場合の、極値間の距離の下限は、特に制限されないが、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果、熱膨張性などを考慮すると、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。
加えて、前記無機バリア層の前記酸素分布曲線における酸素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値(以下、単に「Omax−Omin差」とも称する)が3at%以上であることが好ましく、6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることがさらに好ましい。前記絶対値が3at%以上であれば、得られるガスバリア性フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性がより向上する。ここで、Omax−Omin差の上限は、特に制限されないが、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果などを考慮すると、50at%以下であることが好ましく、40at%以下であることがより好ましい。
前記無機バリア層の前記ケイ素分布曲線におけるケイ素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値(以下、単に「Simax−Simin差」とも称する)が10at%以下であることが好ましく、7at%以下であることがより好ましく、3at%以下であることがさらに好ましい。前記絶対値が10at%以下である場合、得られるガスバリア性フィルムのガスバリア性がより向上する。ここで、Simax−Simin差の下限は、Simax−Simin差が小さいほどガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果が高いため、特に制限されないが、ガスバリア性などを考慮すると、1at%以上であることが好ましく、2at%以上であることがより好ましい。
無機バリア層の膜厚方向に対する炭素および酸素原子の合計量はほぼ一定であることが好ましい。これにより、無機バリア層は適度な屈曲性を発揮し、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生がより有効に抑制・防止される。より具体的には、無機バリア層の膜厚方向における該無機バリア層の表面からの距離(L)とケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する、酸素原子および炭素原子の合計量の比率(酸素および炭素の原子比)との関係を示す酸素炭素分布曲線において、前記酸素炭素分布曲線における酸素および炭素の原子比の合計の最大値および最小値の差の絶対値(以下、単に「OCma −OCmin差」とも称する)が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることがさらに好ましい。前記絶対値が5at%未満であれば、得られるガスバリア性フィルムのガスバリア性がより向上する。なお、OCmax−OCmin差の下限は、OCmax−OCmin差が小さいほど好ましいため、0at%であるが、0.1at%以上であれば十分である。
前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線、および前記酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は膜厚方向における前記無機バリア層の膜厚方向における前記無機バリア層の表面からの距離(L)に概ね相関することから、「無機バリア層の膜厚方向における無機バリア層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される無機バリア層の表面からの距離を採用することができる。なお、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線および酸素炭素分布曲線は、下記測定条件にて作成することができる。
(測定条件)
エッチングイオン種:アルゴン(Ar
エッチング速度(SiO熱酸化膜換算値):0.05nm/sec
エッチング間隔(SiO換算値):10nm
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名”VG Theta Probe”
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポットおよびそのサイズ:800×400μmの楕円形。
上記のプラズマCVD法により形成される無機バリア層の膜厚(乾燥膜厚)は、特に制限されない。例えば、該無機バリア層の1層当たりの膜厚は、20〜3000nmであることが好ましく、50〜2500nmであることがより好ましく、30〜1000nmであることが特に好ましい。このような膜厚であれば、ガスバリア性フィルムは、優れたガスバリア性および屈曲時のクラック発生抑制/防止効果を発揮できる。なお、上記のプラズマCVD法により形成される無機バリア層が2層以上から構成される場合には、各無機バリア層が上記したような膜厚を有することが好ましい。
本発明において、膜面全体において均一でかつ優れたガスバリア性を有する無機バリア層を形成するという観点から、前記無機バリア層が膜面方向(無機バリア層の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。ここで、無機バリア層が膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により無機バリア層の膜面の任意の2箇所の測定箇所について前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線および前記酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
さらに、本発明においては、前記炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。ここで、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される前記無機バリア層のうちの少なくとも1層の膜厚方向における該無機バリア層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:at%)との関係において、下記数式1で表される条件を満たすことをいう。
Figure 2016010118
本発明に係るガスバリア性フィルムにおいて、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす無機バリア層は、1層のみを備えていてもよいし2層以上を備えていてもよい。さらに、このような無機バリア層を2層以上備える場合には、複数の無機バリア層の材質は、同一であってもよいし異なっていてもよい。
前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線、および前記炭素分布曲線において、ケイ素の原子比、酸素の原子比、および炭素の原子比が、該無機バリア層の膜厚の90%以上の領域において前記(i)で表される条件を満たす場合には、前記無機バリア層中におけるケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の含有量の原子比率は、20〜45at%であることが好ましく、25〜40at%であることがより好ましい。また、前記無機バリア層中におけるケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、45〜75at%であることが好ましく、50〜70at%であることがより好ましい。さらに、前記無機バリア層中におけるケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、0.5〜25at%であることが好ましく、1〜20at%であることがより好ましい。
本発明では、無機バリア層の形成方法は特に制限されず、従来と方法を同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。無機バリア層は、好ましくは化学気相成長(CVD)法、特に、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD、PECVD(plasma−enhanced chemical vapor deposition)、以下、単に「プラズマCVD法」とも称する)により形成され、基材を一対の成膜ローラー上に配置し、前記一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させるプラズマCVD法により形成されることがより好ましい。
以下では、基材を一対の成膜ローラー上に配置し、前記一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させるプラズマCVD法により、基材上に無機バリア層を形成する方法を説明する。
(プラズマCVD法による無機バリア層の形成方法)
本発明に係る無機バリア層を基材の表面上に形成させる方法としては、ガスバリア性の観点から、プラズマCVD法を採用することが好ましい。なお、前記プラズマCVD法はペニング放電プラズマ方式のプラズマCVD法であってもよい。
また、プラズマCVD法においてプラズマを発生させる際には、複数の成膜ローラーの間の空間にプラズマ放電を発生させることが好ましく、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラーのそれぞれに基材を配置して、一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させることがより好ましい。このようにして、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラー上に基材を配置して、かかる一対の成膜ローラー間に放電することにより、成膜時に一方の成膜ローラー上に存在する基材の表面部分を成膜しつつ、もう一方の成膜ローラー上に存在する基材の表面部分も同時に成膜することが可能となって効率よく薄膜を製造できるばかりか、通常のローラーを使用しないプラズマCVD法と比較して成膜レートを倍にでき、なおかつ、略同一である構造の膜を成膜できるので前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となり、効率よく上記条件(i)〜(iii)を全て満たす層を形成することが可能となる。
また、このようにして一対の成膜ローラー間に放電する際には、前記一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが好ましい。さらに、このようなプラズマCVD法に用いる成膜ガスとしては、有機ケイ素化合物と酸素とを含むものが好ましく、その成膜ガス中の酸素の含有量は、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量未満であることが好ましい。また、本発明のガスバリア性フィルムにおいては、前記無機バリア層が連続的な成膜プロセスにより形成された層であることが好ましい。
また、本発明に係るガスバリア性フィルムは、生産性の観点から、ロールツーロール方式で前記基材の表面上に前記無機バリア層を形成させることが好ましい。また、このようなプラズマCVD法により無機バリア層を製造する際に用いることが可能な装置としては、特に制限されないが、少なくとも一対の成膜ローラーと、プラズマ電源とを備え、かつ前記一対の成膜ローラー間において放電することが可能な構成となっている装置であることが好ましく、例えば、図2に示す製造装置を用いた場合には、プラズマCVD法を利用しながらロールツーロール方式で製造することも可能となる。
以下、図2を参照しながら、基材を一対の成膜ローラー上に配置し、前記一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させるプラズマCVD法による無機バリア層の形成方法について、より詳細に説明する。なお、図2は、本製造方法より無機バリア層を製造するために好適に利用することが可能な製造装置の一例を示す模式図である。また、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図2に示す製造装置31は、送り出しローラー32と、搬送ローラー33、34、35、36と、成膜ローラー39、40と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源42と、成膜ローラー39および40の内部に設置された磁場発生装置43、44と、巻取りローラー45とを備えている。また、このような製造装置においては、少なくとも成膜ローラー39、40と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源42と、磁場発生装置43、44とが図示を省略した真空チャンバ内に配置されている。さらに、このような製造装置31において前記真空チャンバは図示を省略した真空ポンプに接続されており、かかる真空ポンプにより真空チャンバ内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
このような製造装置においては、一対の成膜ローラー(成膜ローラー39と成膜ローラー40)を一対の対向電極として機能させることが可能となるように、各成膜ローラーがそれぞれプラズマ発生用電源42に接続されている。そのため、このような製造装置31においては、プラズマ発生用電源42により電力を供給することにより、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間の空間に放電することが可能であり、これにより成膜ローラー39と成膜ローラー40との間の空間にプラズマを発生させることができる。なお、このように、成膜ローラー39と成膜ローラー40とを電極としても利用する場合には、電極としても利用可能なようにその材質や設計を適宜変更すればよい。また、このような製造装置においては、一対の成膜ローラー(成膜ローラー39および40)は、その中心軸が同一平面上において略平行となるようにして配置することが好ましい。このようにして、一対の成膜ローラー(成膜ローラー39および40)を配置することにより、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となる。そして、このような製造装置によれば、CVD法により基材2の表面上に無機バリア層3を形成することが可能であり、成膜ローラー39上において基材2の表面上に無機バリア層成分を堆積させつつ、さらに成膜ローラー40上においても基材2の表面上に無機バリア層成分を堆積させることもできるため、基材2の表面上に無機バリア層を効率よく形成することができる。
成膜ローラー39および成膜ローラー40の内部には、成膜ローラーが回転しても回転しないようにして固定された磁場発生装置43および44がそれぞれ設けられている。
成膜ローラー39および成膜ローラー40にそれぞれ設けられた磁場発生装置43および44は、一方の成膜ローラー39に設けられた磁場発生装置43と他方の成膜ローラー40に設けられた磁場発生装置44との間で磁力線がまたがらず、それぞれの磁場発生装置43、44がほぼ閉じた磁気回路を形成するように磁極を配置することが好ましい。このような磁場発生装置43、44を設けることにより、各成膜ローラー39、40の対向側表面付近に磁力線が膨らんだ磁場の形成を促進することができ、その膨出部にプラズマが収束され易くなるため、成膜効率を向上させることができる点で優れている。
また、成膜ローラー39および成膜ローラー40にそれぞれ設けられた磁場発生装置43、44は、それぞれローラー軸方向に長いレーストラック状の磁極を備え、一方の磁場発生装置43と他方の磁場発生装置44とは向かい合う磁極が同一極性となるように磁極を配置することが好ましい。このような磁場発生装置43、44を設けることにより、それぞれの磁場発生装置43、44について、磁力線が対向するローラー側の磁場発生装置にまたがることなく、ローラー軸の長さ方向に沿って対向空間(放電領域)に面したローラー表面付近にレーストラック状の磁場を容易に形成することができ、その磁場にプラズマを収束させることができため、ローラー幅方向に沿って巻き掛けられた幅広の基材2を用いて効率的に蒸着膜である無機バリア層3を形成することができる点で優れている。
成膜ローラー39および成膜ローラー40としては適宜公知のローラーを用いることができる。このような成膜ローラー39および40としては、より効率よく薄膜を形成せしめるという観点から、直径が同一のものを使うことが好ましい。また、このような成膜ローラー39および40の直径としては、放電条件、チャンバのスペース等の観点から、直径が300〜1000mmφの範囲、特に300〜700mmφの範囲が好ましい。成膜ローラーの直径が300mmφ以上であれば、プラズマ放電空間が小さくなることがないため生産性の劣化もなく、短時間でプラズマ放電の全熱量が基材2にかかることを回避できることから、基材2へのダメージを軽減でき好ましい。一方、成膜ローラーの直径が1000mmφ以下であれば、プラズマ放電空間の均一性等も含めて装置設計上、実用性を保持することができるため好ましい。
このような製造装置31においては、基材2の表面がそれぞれ対向するように、一対の成膜ローラー(成膜ローラー39と成膜ローラー40)上に、基材2が配置されている。このようにして基材2を配置することにより、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間の対向空間に放電を行ってプラズマを発生させる際に、一対の成膜ローラー間に存在する基材2のそれぞれの表面を同時に成膜することが可能となる。すなわち、このような製造装置によれば、プラズマCVD法により、成膜ローラー39上にて基材2の表面上に無機バリア層成分を堆積させ、さらに成膜ローラー40上にて無機バリア層成分を堆積させることができるため、基材2の表面上に無機バリア層を効率よく形成することが可能となる。
このような製造装置に用いる送り出しローラー32および搬送ローラー33、34、35、36としては適宜公知のローラーを用いることができる。また、巻取りローラー45としても、基材2上に無機バリア層3を形成したガスバリア性フィルム1を巻き取ることが可能なものであればよく、特に制限されず、適宜公知のローラーを用いることができる。
また、ガス供給管41および真空ポンプとしては、原料ガス等を所定の速度で供給または排出することが可能なものを適宜用いることができる。
また、ガス供給手段であるガス供給管41は、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間の対向空間(放電領域;成膜ゾーン)の一方に設けることが好ましく、真空排気手段である真空ポンプ(図示せず)は、前記対向空間の他方に設けることが好ましい。このようにガス供給手段であるガス供給管41と、真空排気手段である真空ポンプを配置することにより、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間の対向空間に効率良く成膜ガスを供給することができ、成膜効率を向上させることができる点で優れている。
さらに、プラズマ発生用電源42としては、適宜公知のプラズマ発生装置の電源を用いることができる。このようなプラズマ発生用電源42は、これに接続された成膜ローラー39と成膜ローラー40とに電力を供給して、これらを放電のための対向電極として利用することを可能とする。このようなプラズマ発生用電源42としては、より効率よくプラズマCVDを実施することが可能となることから、前記一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが可能なもの(交流電源など)を利用することが好ましい。また、このようなプラズマ発生用電源42としては、より効率よくプラズマCVDを実施することが可能となることから、印加電力を100W〜10kWとすることができ、かつ交流の周波数を50Hz〜500kHzとすることが可能なものであることがより好ましい。また、磁場発生装置43、44としては適宜公知の磁場発生装置を用いることができる。さらに、基材2としては、本発明で用いられる基材の他に、無機バリア層3を予め形成させたものを用いることができる。このように、基材2として無機バリア層3を予め形成させたものを用いることにより、無機バリア層3の膜厚を厚くすることも可能である。
このような図2に示す製造装置31を用いて、例えば、原料ガスの種類、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力、真空チャンバ内の圧力、成膜ローラーの直径、ならびにフィルム(基材)の搬送速度を適宜調整することにより、本発明に係る無機バリア層を製造することができる。すなわち、図2に示す製造装置31を用いて、成膜ガス(原料ガス等)を真空チャンバ内に供給しつつ、一対の成膜ローラー(成膜ローラー39および40)間に放電を発生させることにより、前記成膜ガス(原料ガス等)がプラズマによって分解され、成膜ローラー39上の基材2の表面上および成膜ローラー40上の基材2の表面上に、無機バリア層3がプラズマCVD法により形成される。この際、成膜ローラー39、40のローラー軸の長さ方向に沿って対向空間(放電領域)に面したローラー表面付近にレーストラック状の磁場が形成して、磁場にプラズマを収束させる。このため、基材2が、図2中の成膜ローラー39のA地点および成膜ローラー40のB地点を通過する際に、無機バリア層で炭素分布曲線の極大値が形成される。これに対して、基材2が、図2中の成膜ローラー39のC1およびC2地点、ならびに成膜ローラー40のC3およびC4地点を通過する際に、無機バリア層で炭素分布曲線の極小値が形成される。このため、2つの成膜ローラーに対して、通常、5つの極値が生成する。また、無機バリア層の極値間の距離(炭素分布曲線の有する1つの極値および該極値に隣接する極値における無機バリア層の膜厚方向における無機バリア層の表面からの距離(L)の差の絶対値)は、成膜ローラー39、40の回転速度(基材の搬送速度)によって調節できる。なお、このような成膜に際しては、基材2が送り出しローラー32や成膜ローラー39等により、それぞれ搬送されることにより、ロールツーロール方式の連続的な成膜プロセスにより基材2の表面上に無機バリア層3が形成される。
前記ガス供給管41から対向空間に供給される成膜ガス(原料ガス等)としては、原料ガス、反応ガス、キャリアガス、放電ガスが単独または2種以上を混合して用いることができる。無機バリア層3の形成に用いる前記成膜ガス中の原料ガスとしては、形成する無機バリア層3の材質に応じて適宜選択して使用することができる。このような原料ガスとしては、例えば、ケイ素を含有する有機ケイ素化合物や炭素を含有する有機化合物ガスを用いることができる。このような有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ヘキサメチルジシラン(HMDS)、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサンが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性および得られる無機バリア層のガスバリア性等の特性の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。これらの有機ケイ素化合物は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。また、炭素を含有する有機化合物ガスとしては、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレンを例示することができる。これら有機ケイ素化合物ガスや有機化合物ガスは、無機バリア層3の種類に応じて適切な原料ガスが選択される。
また、前記成膜ガスとしては、前記原料ガスの他に反応ガスを用いてもよい。このような反応ガスとしては、前記原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用することができる。
前記成膜ガスとしては、前記原料ガスを真空チャンバ内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、前記成膜ガスとしては、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガスおよび放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
このような成膜ガスが原料ガスと反応ガスを含有する場合には、原料ガスと反応ガスの比率としては、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させるために理論上必要となる反応ガスの量の比率よりも、反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことが好ましい。反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことで、形成される無機バリア層3によって、優れたガスバリア性や耐屈曲性を得ることができる点で優れている。また、前記成膜ガスが前記有機ケイ素化合物と酸素とを含有するものである場合には、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。
以下、前記成膜ガスとして、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(有機ケイ素化合物、HMDSO、(CHSiO)と、反応ガスとしての酸素(O)とを含有するものを用い、ケイ素−酸素系の薄膜を製造する場合を例に挙げて、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスとの好適な比率等について、より詳細に説明する。
原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO、(CHSiO)と、反応ガスとしての酸素(O)と、を含有する成膜ガスをプラズマCVDにより反応させてケイ素−酸素系の薄膜を作製する場合、その成膜ガスにより下記反応式1で表されるような反応が起こり、二酸化ケイ素が生成する。
Figure 2016010118
このような反応においては、ヘキサメチルジシロキサン1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜ガス中に、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素を12モル以上含有させて完全に反応させた場合には、均一な二酸化ケイ素膜が形成されてしまう(炭素分布曲線が存在しない)ため、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす無機バリア層を形成することができなくなってしまう。そのため、本発明において、無機バリア層を形成する際には、上記反応式1の反応が完全に進行してしまわないように、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素量を化学量論比の12モルより少なくすることが好ましい。なお、実際のプラズマCVDチャンバ内の反応では、原料のヘキサメチルジシロキサンと反応ガスの酸素とは、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる(例えば、CVDにより完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある)。そのため、原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。このような比でヘキサメチルジシロキサンおよび酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったヘキサメチルジシロキサン中の炭素原子や水素原子が無機バリア層中に取り込まれ、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす無機バリア層を形成することが可能となって、得られるガスバリア性フィルムにおいて優れたガスバリア性および耐屈曲性を発揮させることが可能となる。なお、有機EL素子や太陽電池などのような透明性を必要とするデバイス用のフレキシブル基板への利用の観点から、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)の下限は、ヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の0.1倍より多い量とすることが好ましく、0.5倍より多い量とすることがより好ましい。
また、真空チャンバ内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、0.5Pa〜50Paの範囲とすることが好ましい。
また、このようなプラズマCVD法において、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に放電するために、プラズマ発生用電源42に接続された電極ドラム(本実施形態においては、成膜ローラー39および40に設置されている)に印加する電力は、原料ガスの種類や真空チャンバ内の圧力等に応じて適宜調整することができるものであり一概に言えるものでないが、0.1〜10kWの範囲とすることが好ましい。このような印加電力が100W以上であれば、パーティクルの発生を十分に抑制することができ、他方、10kW以下であれば、成膜時に発生する熱量を抑えることができ、成膜時の基材表面の温度が上昇するのを抑制できる。そのため基材が熱負けすることなく、成膜時に皺が発生するのを防止できる点で優れている。
基材2の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバ内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.25〜100m/minの範囲とすることが好ましく、0.5〜20m/minの範囲とすることがより好ましい。ライン速度が0.25m/min以上であれば、基材に熱に起因する皺の発生を効果的に抑制することができる。他方、100m/min以下であれば、生産性を損なうことなく、無機バリア層として十分な膜厚を確保することができる点で優れている。
上記したように、本実施形態のより好ましい態様としては、本発明に係る無機バリア層を、図2に示す対向ロール電極を有するプラズマCVD装置(ロールツーロール方式)を用いたプラズマCVD法によって成膜することを特徴とするものである。これは、対向ロール電極を有するプラズマCVD装置(ロールツーロール方式)を用いて量産する場合に、可撓性(屈曲性)に優れ、機械的強度、特にロールツーロールでの搬送時の耐久性と、ガスバリア性能とが両立する無機バリア層を効率よく製造することができるためである。このような製造装置は、太陽電池や電子部品などに使用される温度変化に対する耐久性が求められるガスバリア性フィルムを、安価でかつ容易に量産することができる点でも優れている。
<バリア層成膜工程>
<第1成膜工程>
本発明の一実施形態として、成膜工程は、第1成膜工程と第2成膜工程とに分けて実施することができる。第1成膜工程は、第1バリア層を形成する工程であり、ケイ素化合物前駆体および溶解度パラメーターが15.5〜20.0の溶媒を含む第1バリア層前駆体液を塗布することを含む。ケイ素化合物前駆体は、上記の(ケイ素化合物)の項目で説明したものを使用し得る。
第1バリア層前駆体液(塗布液)は、上記のケイ素化合物前駆体及び必要に応じて触媒を、溶解度パラメーターが15.5〜20.0の溶媒に溶解して調製できる。ここで、塗布液を調製するための溶媒としては、一般式(1)のケイ素化合物前駆体(ポリシラザン)を溶解できるものが好ましい。ポリシラザンと容易に反応してしまう水及び反応性基(例えば、ヒドロキシル基、あるいはアミン基等)を含まず、ポリシラザンに対して不活性の有機溶媒が好ましく、非プロトン性の有機溶媒がより好ましい。
溶解度パラメーターが15.5〜20.0の溶媒としては、具体的には、シクロヘキサン、ドデカン、メチルシクロヘキサン、オクタン、水添トリイソブチレン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、o−キシレン等の芳香族炭化水素;ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類;ピリジン、1−メチルピペリジン、1−エチルピペリジン、2−ヒドロキシメチルピペリジン、3−ヒドロキシメチルピペリジン、N,N’−ジメチルピペラジン等のアミン化合物;クロロホルム、1,2ジクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン系炭化水素が挙げられる。このうち、特にo−キシレン(SP値:18.1)、トルエン(SP値:18.2)、シクロヘキサン(SP値:17.3)、n−ブチルアセテート(SP値:17.4)、ジエチルエーテル(SP値:15.5)、ジブチルエーテル(SP値:15.9)、ピペリジン(SP値:19.7)が好ましい。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
また、上記溶媒は、使用する前にあらかじめ酸素濃度や水分含量を低減させておくことが好ましい。溶媒中の酸素濃度や水分含量を低減する手段は特に限定されず、従来公知の手法が適用されうる。
第1バリア層前駆体液における一般式(1)のケイ素化合物前駆体の濃度は、特に制限されず、ガスバリア層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、好ましくは0.2〜80質量%、より好ましくは1〜50質量%、特に好ましくは1.5〜35質量%である。
第1バリア層前駆体液は、酸窒化ケイ素への変性を促進するために、ポリシラザンとともに触媒を含有させてもよい。本発明に適用可能な触媒としては、塩基性触媒が好ましく、特に、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、3−モルホリノプロピルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン等のアミン触媒、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒、N−複素環式化合物が挙げられる。これらのうち、アミン触媒を用いることが好ましい。この際添加する触媒の濃度としては、ポリシラザンを基準としたとき、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%の範囲である。触媒添加量をこの範囲とすることで、反応の急激な進行よる過剰なシラノール形成、および膜密度の低下、膜欠陥の増大のなどを避けることができる。
また、第1バリア層前駆体液に、必要に応じて下記に挙げる添加剤を用いることができる。例えば、セルロースエーテル類、セルロースエステル類;例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセトブチレート等、天然樹脂;例えば、ゴム、ロジン樹脂等、合成樹脂;例えば、重合樹脂等、縮合樹脂;例えば、アミノプラスト、特に尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステルもしくは変性ポリエステル、エポキシド、ポリイソシアネートもしくはブロック化ポリイソシアネート、ポリシロキサン等である。
第1バリア層(塗膜)の形成方法は特に制限されず、いずれの方法によって形成されてもよいが、ケイ素化合物前駆体を含有する第1バリア層前駆体液を湿式塗布することにより作製されることが好ましい。塗布方法としては、従来公知の適切な湿式塗布方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、ワイヤレスバーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。第1バリア層は、2層以上の積層体であってもよい。第1バリア層が2層以上の積層体である場合の塗膜の形成方法としては、特に制限されず、逐次重層塗布方式であってもまたは同時重層塗布方式であってもよい。
また、本発明の別の実施形態として、第1バリア層前駆体液は、後述する第2バリア層前駆体液と共に、同時重層塗布方式により樹脂基材上に塗布し、第1バリア層と第2バリア層とを同時に形成してもよい。同時重層塗布方式としては、複数のコーターを用いて既塗布層の乾燥前に次の層を塗布して複数層を同時に乾燥させたり、スライドコーティングやカーテンコーティングを用いて、スライド面で複数の塗布液を積層させて塗布したりする方式がある。本発明によれば、互いの溶媒の溶解度パラメーターに差があるため、同時重層塗布方式によっても、第1バリア層と第2バリア層とが一定量以上に混合することがなく、上記した領域Aが所定の厚さで残存する。したがって、より生産性に優れる同時重層塗布法を好ましく適用できる。
第1バリア層の塗膜の厚さ(塗布厚さ)は、特に制限されず、所望の第1バリア層の厚さ(乾燥膜厚)に応じて適切に設定され得る。例えば、塗膜の厚さ(塗布厚さ)は、乾燥後の厚さ(乾燥膜厚)として、1nm〜100μm程度であることが好ましく、5nm〜10μm程度であることがより好ましく、10nm〜1μmであることがさらにより好ましく、30〜500nmであることが特に好ましい。塗膜の膜厚が1nm以上であれば、ガスバリア性(例えば、低酸素透過性、低水蒸気透過性)を得ることができ、100μm以下であれば、第1バリア層形成時に安定した塗布性を得ることができ、かつ高い光線透過性を実現できる。なお、塗膜が積層される場合には、塗膜全体の厚さが上記したような厚さになることが好ましい。
本明細書において、層(塗膜)の厚さ(乾燥膜厚)は、各試料を、以下のFIB加工装置により薄片を作製した後、断面のTEM観察を行うことによって測定される。また、層(塗膜)の改質の有無は、上記と同様にして、以下のFIB加工装置により薄片を作製した後、この試料に電子線を照射し続けると、電子線ダメージを受ける部分とそうでない部分にコントラスト差が現れる。この際、改質処理を受けた部分は緻密化するために電子線ダメージを受けにくいが、そうでない部分は電子線ダメージを受け変質が確認される。このようにして確認できた断面TEM観察により、改質部分及び未改質部分の膜厚の算出も可能になる。
Figure 2016010118
第1バリア層前駆体液を塗布後は、塗布膜を乾燥することによって、第1バリア層が形成される。ここで、乾燥条件は、塗膜が形成されれば特に制限されない。具体的には、乾燥温度は、好ましくは50〜150℃であり、より好ましくは80〜100℃である。乾燥時間は、好ましくは0.5〜60分であり、より好ましくは1〜10分である。
<第2成膜工程>
本発明の一実施形態では、上記のように第1バリア層を形成した後、金属化合物および溶解度パラメーターが26.0〜32.0の溶媒を含む第2バリア層前駆体液を塗布することを含む、第2バリア層を形成する第2成膜工程を実施する。金属化合物については、上記(金属化合物)の項で述べたものを適宜使用できる。
第2バリア層前駆体液(塗布液)は、金属化合物を、溶媒に溶解して調製できる。ここで、塗布液を調製するための溶媒としては、上記の溶解度パラメーター範囲を満たし金属化合物を溶解できるものであれば特に制限されない。しかし、金属化合物と容易に反応してしまう水及び反応性基(例えば、アミン基等)を含まず、金属化合物に対して不活性の有機溶媒が好ましく、極性有機溶媒がより好ましい。
具体的には、第2バリア層前駆体液を調製するための溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール等の2価アルコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール、ペンタエリスリトール等の4価以上のアルコール、ソルビトール等のヘキシトール、グルコース等のアルドース、ショ糖等の糖骨格を有する化合物、イソプロパノール、ブタノール、エタノール等の低級アルコール等が挙げられる。このうち、特にエタノール(SP値:26.5)、プロピレングリコール(SP値:29.1)、1,3−プロパンジオール(SP値:31.7)、ジエチレングリコール(SP値:27.9)、ジプロピレングリコール(SP値:26.4)、メトキシメタノール(SP値:26.1)が好ましい。これらは1種以上併用してもよい。
第2バリア層前駆体液における金属化合物の濃度は、特に制限されず、バリア層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、好ましくは0.2〜80質量%、より好ましくは1〜50質量%、特に好ましくは1.5〜35質量%である。
上記金属化合物を含有する第2バリア層前駆体液を、第1バリア層上に湿式塗布して、塗膜を形成する。塗布方法としては、従来公知の適切な湿式塗布方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、ワイヤレスバーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
また、第2バリア層は2層以上の積層体であってもよい。第2バリア層が2層以上の積層体である場合の塗膜の形成方法としては、特に制限されず、逐次重層塗布方式であってもまたは同時重層塗布方式であってもよい。
本発明の別の実施形態として、上記したように、第2バリア層前駆体液は、第1バリア層前駆体液と共に、同時重層塗布方式により樹脂基材上に同時に塗布し、第1バリア層と第2バリア層とを同時に形成してもよい。同時重層塗布方式としては、複数のコーターを用いて既塗布層の乾燥前に次の層を塗布して複数層を同時に乾燥させたり、スライドコーティングやカーテンコーティングを用いて、スライド面で複数の塗布液を積層させて塗布したりする方式がある。本発明によれば、第1バリア層前駆体液と第2バリア層前駆体液の互いの溶媒の溶解度パラメーターに差があるため、同時重層塗布方式によっても、第1バリア層と第2バリア層とが一定量以上に混合することがない。したがって、上記した領域Aが所定の厚さで残存する。
(改質工程)
本発明の好ましい実施形態は、ケイ素化合物前駆体が、下記一般式(1):
Figure 2016010118
上記一般式(1)において、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基を表わす、
で示される構造を有する前駆体であり、
前記成膜工程の後、活性エネルギー線を照射することにより、ケイ素化合物前駆体(第1バリア層)を改質する改質工程を含む。
すなわち、本発明の好ましい製造方法では、第1バリア層を塗布形成後、改質前に第2バリア層を塗布形成し、その後に第2バリア層を介して活性エネルギー線を照射し、第1バリア層を改質する。または、第1バリア層と第2バリア層とを同時重層塗布により同時に形成した後、第2バリア層を介して活性エネルギー線を照射する等して、第1バリア層を改質する。本発明においては、溶解度パラメーターの互いに異なる溶媒をそれぞれ使用するため、第1バリア層と第2バリア層とは、改質時に界面近傍でわずかに混合するだけであり、第2バリア層由来の部分は所定の厚さで残存する。したがって、第1バリア層と第2バリア層とを同時重層塗布方式で積層することができ、2層を積層後に、改質処理を行ってバリア層を完成させることができる。従来は、第1バリア層を形成後に改質処理をし、第2バリア層を形成する手順であったため、第1バリア層の改質時に低分子のケイ素化合物の揮発や飛散によりランプ照度が低下し、改質度合いに差が生じることを避けられなかった。しかし、本実施形態の方法によれば、第2バリア層が第1バリア層上に形成された状態で改質処理を行うため、ケイ素化合物の揮発または飛散を防止でき、均質で優れたバリア性能のガスバリア性フィルムを製造できる。
(改質処理)
本発明における改質処理とは、ケイ素化合物前駆体(ポリシラザン)の一部または全部が、酸化珪素または酸化窒化珪素への転化する反応をいう。これによって、本発明のガスバリア性フィルムが全体としてガスバリア性(水蒸気透過率が、1×10−3g/m・day以下)を発現するに貢献できるレベルの無機薄膜を形成することができる。具体的には、改質処理は、加熱処理、プラズマ処理、活性エネルギー線照射処理等が挙げられる。中でも、低温で改質可能であり基材種の選択の自由度が高いという観点から、活性エネルギー線照射による処理が好ましい。
(加熱処理)
加熱処理の方法としては、例えば、ヒートブロック等の発熱体に基板を接触させ熱伝導により塗膜を加熱する方法、抵抗線等による外部ヒーターにより塗膜が載置される環境を加熱する方法、IRヒーターといった赤外領域の光を用いた方法等が挙げられるが、これらに限定されない。加熱処理を行う場合、塗膜の平滑性を維持できる方法を適宜選択すればよい。
塗膜を加熱する温度としては、40〜250℃の範囲が好ましく、60〜150℃の範囲がより好ましい。加熱時間としては、10秒〜100時間の範囲が好ましく、30秒〜5分の範囲が好ましい。
(プラズマ処理)
本発明において、改質処理として用いることのできるプラズマ処理は、公知の方法を用いることができるが、好ましくは大気圧プラズマ処理等を挙げることが出来る。大気圧近傍でのプラズマCVD処理を行う大気圧プラズマCVD法は、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために成膜速度が速く、更には通常のCVD法の条件に比較して、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、極めて均質の膜が得られる。
大気圧プラズマ処理の場合は、放電ガスとしては窒素ガスまたは長周期型周期表の第18族原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。
(活性エネルギー線照射処理)
活性エネルギー線としては、例えば、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等が使用可能であるが、電子線または紫外線が好ましく、紫外線がより好ましい。紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性とを有するケイ素含有膜を形成することが可能である。
(紫外線照射処理)
第1バリア層の改質処理の方法の1つとして、紫外線照射による処理が好ましい。紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性を有する酸化ケイ素膜または酸窒化ケイ素膜を形成することが可能である。
この紫外線照射により、基材が加熱され、セラミックス化(シリカ転化)に寄与するO とHOや、紫外線吸収剤、ポリシラザン自身が励起、活性化されるため、ポリシラザンが励起し、ポリシラザンのセラミックス化が促進され、また得られる第1バリア層が一層緻密になる。紫外線照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
紫外線照射処理においては、常用されているいずれの紫外線発生装置を使用することも可能である。なお、本発明でいう紫外線とは、一般には、10〜400nmの波長を有する電磁波をいうが、後述する真空紫外線(10〜200nm)処理以外の紫外線照射処理の場合は、好ましくは210〜375nmの紫外線を用いる。
紫外線の照射は、照射される第1バリア層を担持している基材がダメージを受けない範囲で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。基材としてプラスチックフィルムを用いた場合を例にとると、例えば、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基材表面の強度が20〜300mW/cm、好ましくは50〜200mW/cmになるように基材−紫外線照射ランプ間の距離を設定し、0.1秒〜10分間の照射を行うことができる。
このような紫外線の発生手段としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機株式会社製、MDエキシマ社製など)、UV光レーザー、等が挙げられるが、特に限定されない。また、発生させた紫外線を第1バリア層に照射する際には、効率向上と均一な照射を達成する観点から、発生源からの紫外線を反射板で反射させてから第1バリア層に当てることが好ましい。
紫外線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、使用する基材の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、第1バリア層を表面に有する積層体を上記のような紫外線発生源を具備した紫外線焼成炉で処理することができる。紫外線焼成炉自体は一般に知られており、例えば、アイグラフィクス株式会社製の紫外線焼成炉を使用することができる。また、第1バリア層を表面に有する積層体が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することによりセラミックス化することができる。紫外線照射に要する時間は、使用する基材や第1バリア層の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒〜10分であり、好ましくは0.5秒〜3分である。
(真空紫外線照射処理:エキシマ照射処理)
本発明において、最も好ましい改質処理方法は、真空紫外線照射による処理(エキシマ照射処理)である。真空紫外線照射による処理は、ポリシラザン化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nmの光エネルギーを用い、好ましくは100〜180nmの波長の光エネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみの作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温(約200℃以下)で、酸化ケイ素膜の形成を行う方法である。
本発明においての放射線源は、100〜180nmの波長の光を発生させるものであれば良いが、好適には約172nmに最大放射を有するエキシマラジエータ(例えば、Xeエキシマランプ)、約185nmに輝線を有する低圧水銀蒸気ランプ、並びに230nm以下の波長成分を有する中圧および高圧水銀蒸気ランプ、および約222nmに最大放射を有するエキシマランプである。
このうち、Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから、発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。
また、波長の短い172nmの光のエネルギーは、有機物の結合を解離させる能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン塗膜の改質を実現できる。
エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域で、すなわち短い波長でエネルギーを照射するため、解射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を持っている。このため、熱の影響を受けやすいとされるPETなどのフレシキブルフィルム材料に適している。
紫外線照射時の反応には、酸素が必要であるが、真空紫外線は、酸素による吸収があるため紫外線照射工程での効率が低下しやすいことから、真空紫外線の照射は、可能な限り酸素濃度および水蒸気濃度の低い状態で行うことが好ましい。すなわち、真空紫外線照射時の酸素濃度は、10〜20,000体積ppmとすることが好ましく、より好ましくは50〜10,000体積ppmである。また、転化プロセスの間の水蒸気濃度は、好ましくは1000〜4000体積ppmの範囲である。
真空紫外線照射時に用いられる、照射雰囲気を満たすガスとしては乾燥不活性ガスとすることが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスにすることが好ましい。酸素濃度の調整は照射庫内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
真空紫外線照射工程において、ポリシラザン塗膜が受ける塗膜面での該真空紫外線の照度は1mW/cm〜10W/cmであると好ましく、30mW/cm〜200mW/cmであることがより好ましく、50mW/cm〜160mW/cmであるとさらに好ましい。1mW/cm以上であれば、十分な改質効率が得られ、10W/cm以下であれば、塗膜にアブレーションを生じにくく、基材にダメージを与えにくい。
塗膜面における真空紫外線の照射エネルギー量(積算光量)は、10〜10000mJ/cmであることが好ましく、100〜8000mJ/cmであることがより好ましく、200〜6000mJ/cmであることがさらに好ましい。10mJ/cm以上であれば、改質が十分に進行しうる。10000mJ/cm以下であれば、過剰改質によるクラック発生や、基材の熱変形が生じにくい。
また、真空紫外光(VUV)を照射する際の、酸素濃度は300〜10000体積ppm(1体積%)とすることが好ましく、更に好ましくは、500〜5000体積ppmである。このような酸素濃度の範囲に調整することにより、酸素過多のバリア層の生成を防止してバリア性の劣化を防止することができる。
Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。また、有機物の結合を解離させる波長の短い172nmの光のエネルギーは能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン化合物を含む塗布層の改質を実現できる。従って、波長185nm、254nmの発する低圧水銀ランプやプラズマ洗浄と比べて高スループットに伴うプロセス時間の短縮や設備面積の縮小、熱によるダメージを受けやすい有機材料やプラスチック基板、樹脂フィルム等への照射を可能としている。
上記の塗布によって形成される層は、ポリシラザン化合物を含む塗膜に真空紫外線を照射する工程において、ポリシラザンの少なくとも一部が改質されることで、層全体としてSiOの組成で示される酸化窒化ケイ素を含むバリア層が形成される。
なお、膜組成は、XPS表面分析装置を用いて、原子組成比を測定することで測定できる。また、ポリシラザン化合物を含有する溶液を塗布して形成されたバリア層を切断して切断面をXPS表面分析装置で原子組成比を測定することでも測定することができる。
また、膜密度は、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、ポリシラザン化合物を含有する溶液を塗布して形成されたバリア層の膜密度は、1.5〜2.6g/cmの範囲にあることが好ましい。この範囲内であれば、膜の緻密さが向上しガスバリア性の劣化や、高温高湿条件下での膜の劣化を防止することができる。
また、改質に用いられる真空紫外光は、CO、COおよびCHの少なくとも一種を含むガスで形成されたプラズマにより発生させてもよい。さらに、CO、COおよびCHの少なくとも一種を含むガス(以下、炭素含有ガスとも称する)は、炭素含有ガスを単独で使用してもよいが、希ガスまたはHを主ガスとして、炭素含有ガスを少量添加することが好ましい。プラズマの生成方式としては容量結合プラズマなどが挙げられる。
上記のように改質処理を行うことによって、バリア層が完成され、本発明のガスバリア性フィルムが得られる。
(後処理)
ポリシラザン化合物を含む溶液を塗布することによって形成されたバリア層は、塗布した後または改質処理した後、特には改質処理した後、後処理を施してもよい。ここで述べる後処理とは、温度40〜120℃の温度処理(熱処理)あるいは湿度:30%以上100%以下、または、水浴に浸漬した湿度処理も含み、処理時間は、30秒から100時間の範囲より選択される範囲と定義する。温度と湿度の両方の処理を施しても良く、どちらか一方だけでも良いが、少なくとも温度処理(熱処理)を施すことが好ましい。好ましい条件は、温度40〜120℃、湿度30%から85%、処理時間は30秒から100時間である。
温度処理を施す際は、ホットプレート上に置く等の接触式方式、オーブンにつるして放置する非接触方式等特に方式は問わず、併用でも、単式でも良い。
なお、ポリシラザン化合物を含有する溶液を塗布して形成されたバリア層は、1層のみを形成してもよく、2層以上を積層してもよい。このように複数の塗布層を設けることでガスバリア性がより向上しうる。好ましくは、基材上に、気相成膜によって形成されたバリア層を形成し、次いで、添加元素を含むポリシラザン化合物を含有する溶液を塗布して形成されたバリア層を、2層以上、例えば2層または3層、積層する。
[電子デバイス]
本発明のガスバリア性フィルムは、空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。したがって、本発明は、電子デバイス本体と本発明の方法によって製造されるガスバリア性フィルムまたは本発明に係るガスバリア性フィルムとを含む、電子デバイスをも提供する。
前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子(LCD)、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池(PV)等の電子デバイスを挙げることができる。本発明の効果がより効率的に得られるという観点から、有機EL素子または太陽電池に好ましく用いられ、有機EL素子に特に好ましく用いられる。
本発明のガスバリア性フィルムは、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、本発明は、電子デバイス本体と、本発明のガスバリア性フィルムとを含む電子デバイスをも提供する。具体的には、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のガスバリア性フィルムを設ける。なお、ガスバリア性フィルムを設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
本発明のガスバリア性フィルムは、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、ガスバリア性フィルムを重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
有機EL素子としては、ガスバリア性フィルムを用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
液晶表示素子としては、反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるガスバリア性フィルムは、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。
太陽電池としては、本発明のガスバリア性フィルムは、太陽電池素子の封止フィルムとしても用いることができる。ここで、本発明のガスバリア性フィルムは、バリア層が太陽電池素子に近い側となるように封止することが好ましい。
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー等が挙げられる。
本発明のガスバリア性フィルムは、光学部材としても用いることができる。光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
円偏光板は、本発明におけるガスバリア性フィルムを基板としλ/4板と偏光板とを積層し、作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角が45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
以下、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例には限定されない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
<実施例1−1>
《ガスバリア性フィルムの作製》
〔ガスバリア性フィルム1の作製〕
(樹脂基材の準備)
厚さ125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テイジンテトロンフィルム」)を、樹脂基材として用いた。
(アンカー層の形成)
上記樹脂基材の易接着面側に、JSR株式会社製のUV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTARZ7501を用い、乾燥後の層厚が4μmになるようにバーコーターで塗布した後、乾燥条件として、80℃で3分間の乾燥を行った。次いで、空気雰囲気下で、高圧水銀ランプを使用し、硬化条件;500mW/cm・250mJ/cmで硬化を行い、アンカー層を形成した。
(無機バリア層の形成:ローラーCVD法)
図2に記載の磁場を印加したローラー間放電プラズマCVD装置(以下、この方法をローラーCVD法と称す。)を用い、樹脂基材の裏面(アンカー層を設けた側と反対側の面)が成膜ローラーと接触するようにして、樹脂基材を装置に装着し、下記の成膜条件(プラズマCVD条件)により、アンカー層上に無機バリア層を、厚さが100nmとなる条件で成膜した。
〈プラズマCVD条件〉
原料ガス(ヘキサメチルジシロキサン、略称:HMDSO)の供給量:50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)
酸素ガス(O)の供給量:500sccm
真空チャンバ内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
樹脂基材の搬送速度:2m/min
(第1バリア層の形成:シラザン層)
続いて、下記の第1バリア層前駆体液を、無機バリア層の上にヘキサメチルジシラザン(シラザンとも称する)層としてダイコーター法により塗布成膜した後、80℃で乾燥させた。このようにして、無機バリア層の上に、厚さ50nmの第1バリア層を形成した。
〈第1バリア層前駆体液(塗布液)の調製〉
ヘキサメチルジシラザン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)を、溶媒として酢酸n−ブチル(n−buthyl acetate)を用いて固形分濃度が5質量%の溶液に調製した。
(第2バリア層の形成:金属化合物層)
続いて、第1バリア層の上に[B(OCH(CH](東京化成工業株式会社製、ほう酸トリイソプロピル)をメトキシメタノールで2質量%に希釈した液をダイコーター法で塗布成膜した。その後、80℃で乾燥させることにより、第2層である第1バリア層の上に、厚さ80nmの第2バリア層を形成した。その後下記の真空紫外線処理を行い第2層(第1バリア層)、第3層(第2バリア層)の改質を行った。
さらに、上記方法で長さ2000mのフィルムを連続成膜した。
(真空紫外線(VUV光)照射処理条件)
本発明における真空紫外線(VUV光)の照射は、下記条件にて、下記の装置を用いランプと試料との間隔(Gapともいう)を6mmとなるように試料を設置し、照射した。
また、真空紫外線(VUV光)照射時の酸素濃度の調整は、照射庫内に導入する窒素ガス、及び酸素ガスの流量をフローメーターにより測定し、庫内に導入するガスの窒素ガス/酸素ガス流量比により調整した。
真空紫外線照射装置:キセノンエキシマ照射装置
(MDエキシマ社製、MECL−M−1−200)
照度:140mW/cm(172nm)
処理環境:ドライ窒素ガス雰囲気下
処理環境の酸素濃度:0.1体積%
基材の搬送スピード:5m/min
エキシマ光露光積算量:6000mJ/cm
<実施例1−2〜1−8>
下記表1−1に記載の材料および条件を使用した以外は、実施例1−1と同様にして、ガスバリア性フィルムを製造した。表中、ALCHは川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレートを意味する。また、表中Ti(OR)のRは、プロピル基を意味する。また、表中DBEはジブチルエーテル、PHPSはパーヒドロポリシラザンを意味する。
なお、PHPSを用いた場合の第1バリア層の形成方法は以下の通りである。以下は溶媒としてn−buthyl acetateを用いた場合の形成方法の例であるが、各実施例において、溶媒は下記表1−1に記載の溶媒を用いた。
(PHPSを用いた第1バリア層の形成:ポリシラザン層)
無機バリア層を形成した後、下記のPHPSを用いた第1バリア層前駆体液を、無機バリア層の上にパーヒドロポリシラザン層としてダイコーター法により塗布成膜し、その後、80℃で乾燥させた。このようにして、無機バリア層の上に、厚さ50nmの第1バリア層を形成した。
〈PHPSを用いた第1バリア層前駆体液(塗布液)の調製〉
パーヒドロポリシラザン(PHPS)溶液は、無触媒のパーヒドロポリシラザン20質量%ジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製、アクアミカ(登録商標) NN120−20)、アミン触媒(N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン)をパーヒドロポリシラザンに対して5質量%含有するパーヒドロポリシラザン20質量%ジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製、アクアミカ NAX120−20)を混合して用いた。この混合液を、n−buthyl acetateで適宜希釈することにより、アミン触媒をパーヒドロポリシラザンに対して1質量%、さらにパーヒドロポリシラザン1.7質量%を含むn−buthyl acetate溶液として調製した。
なお、後述の比較例1−1〜1〜5、実施例2−1〜2−3、比較例2−1、実施例3−1〜3−3、比較例3−1の第1バリア層についても上記(PHPSを用いた第1バリア層の形成:ポリシラザン層)と同様の方法で、ただし、溶媒および条件は表1−1、表2−1、表3−1に記載の溶媒および条件を用いて調製した。
<比較例1−1〜1−5>
下記表1−1に記載の材料および条件を使用した以外は、実施例1−1と同様にして、ガスバリア性フィルムを製造した。なお、比較例1−4〜1−5については、第2バリア層を形成しなかった。また、比較例1−5については無機バリア層を形成しなかった。
<実施例2−1〜2−3>
下記表2−1に記載の材料および条件を使用した以外は、実施例1−1と同様にして、ガスバリア性フィルムを製造した。なお、実施例2−1〜2−3については、第2バリア層の厚さが200nmと厚いフィルムを製造した。
<比較例2−1>
下記表2−1に記載の材料および条件を使用した以外は、実施例1−1と同様にして、ガスバリア性フィルムを製造した。なお、比較例2−1については、第2バリア層を形成しなかった。
<実施例3−1〜3−3>
下記表3−1に記載の材料および条件を使用した以外は、実施例1−1と同様にして、ガスバリア性フィルムを製造した。なお、実施例3−1〜3−3については、第1バリア層および第2バリア層を同時重層塗布法により形成した。
<比較例3−1>
下記表3−1に記載の材料および条件を使用した以外は、実施例1−1と同様にして、ガスバリア性フィルムを製造した。なお、比較例3−1については、第2バリア層を形成しなかった。
<評価方法>
上記実施例1−1〜1−8、2−1〜2−3、3−1〜3−3、および、比較例1−1〜1−5、2−1、3−1で得られたガスバリア性フィルムについて、以下の項目で評価した。評価結果は、下記表1−2、2−2、3−2に示した。
(Th1/Th2の算出方法)
得られた各ガスバリア性フィルムについて、以下の測定条件で、XPSデプスプロファイルを測定した。
(測定条件)
エッチングイオン種:アルゴン(Ar
エッチング速度(SiO熱酸化膜換算値):0.01nm/sec
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名“VG Theta Probe”
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポットおよびそのサイズ:800×400μmの楕円形。
得られた膜厚方向のXPS測定結果により、Si元素量と金属化合物に含まれる金属(M)元素量との分布を得た。その分布から、M/Si≧2となる領域の厚みをTh1、0.1≦M/Si≦1となる領域の厚みをTh2とした。
(水蒸気バリア性の評価)
水蒸気バリア性は、各ガスバリア性フィルムについて、成膜開始直後および2000m成膜後の2つの状態でそれぞれ評価した。評価結果は、下記表中「WVTR」の項目に記載した。
・装置
蒸着装置:日本電子(株)製真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3〜5mm、粒状)
・水蒸気バリア性評価用セルの作製
真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置 JEE−400)を用い、それぞれのガスバリア性フィルムの表面に金属カルシウムを蒸着させた。その後、乾燥窒素ガス雰囲気下で、厚さ0.2mmの石英ガラスに封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス製)を介して金属カルシウム蒸着面を対面させて接着し、紫外線を照射することで、評価用セルを作製した。
得られた試料(評価用セル)を85℃、85%RHの高温高湿下で保存し、金属カルシウムが100%腐食するまでにかかる時間を測定した。
なお、ガスバリア性フィルム面以外からの水蒸気の透過がないことを確認するために、比較試料としてガスバリア性フィルムの代わりに、厚さ0.2mmの石英ガラス板を用いて金属カルシウムを蒸着した試料を、同様な85℃、85%RHの高温高湿下保存を行い、1000時間経過後でも金属カルシウム腐食が発生しないことを確認した。
こうして得られた各ガスバリア性フィルムの100%腐食時間を下記6段階にて評価した。
×:30時間以下
△×:30時間を超えて100時間以下
△ :100時間を超えて300時間以下
〇△:300時間を超えて600時間以下
○ :600時間を超えて1000時間以下
◎ :1000時間超。
(屈曲評価)
得られたガスバリア性フィルムそれぞれについて、85℃、85%RHで100時間保存した後、3cm×12cmのサンプル計5枚を直径5mmφの棒に巻き付け、生じたクラックの本数測定・5サンプルの合計値を計測し評価した。評価結果は、下記表中「クラック」の項目に記載した。
×:21本以上
△ :11〜20本
△○:4〜10本
○ :1〜3本
◎ :発生なし。
(ランプ照度)
各ガスバリア性フィルムを2000mに亘って製膜した後、改質に用いたランプの照度をUV(VUV)照度計で測定することによりで調査した。2000m製膜前のUV照度に対する2000m製膜後のUV照度の割合を算出した。ランプ照度は、下記の評価基準で評価した。
◎ :98%以上
○ :93%以上、98%未満
△ :85%以上、93%未満
△×:70%以上、85%未満
×:70%未満。
Figure 2016010118
Figure 2016010118
Figure 2016010118
Figure 2016010118
Figure 2016010118
Figure 2016010118
上記表1−2が示すように、第1バリア層形成と第2バリア層形成とにそれぞれ特定の範囲の溶解度パラメーターの溶媒を使用することにより、実施例1−1〜1−8は、比較例1−3〜1−5に対比して、高温高湿下においても優れたバリア性能を示し、クラック発生が防止できたことが分かる。また、比較例1−3〜1−5に対比すると、実施例1−1〜1−8では、2000mの長尺体のフィルムを製造した場合にも、改質度合いの差に由来するバリア性能の低下が抑制されていることが分かる。
また、第1バリア層前駆体液の溶媒の溶解度パラメーターが本発明の製造方法の規定よりも小さい比較例1−1は、第1バリア層(第2層目)が形成されなかった。第2バリア層前駆体液の溶媒の溶解度パラメーターが本発明の製造方法の規定範囲よりも大きい比較例1−2は、第2バリア層(第3層目)が形成されなかった。
また、上記表2−2の実施例2−1〜2−3と、比較例2−1とを対比すると、実施例2−1〜2−3では、第2バリア層の膜厚が200nmと厚くなっても、高温高湿下のクラック発生によるバリア性能低下が抑制され、さらに、長尺体を成膜した後のバリア性能の低下も抑制されていることが分かる。
また、上記表3−2の実施例では、第1バリア層と第2バリア層とを同時重層塗布によって形成している。同時重層塗布法の場合にも、第1バリア層の溶媒と第2バリア層の溶媒とにそれぞれ特定範囲の溶解度パラメーターのものを使用することにより、第1バリア層と第2バリア層とがほとんど混合せず、Th1が所定の厚さで形成されている。そのために、高温高湿時のクラック発生によるバリア性能の低下、および、ランプ照度の経時的な低下が抑制されていることが分かる。
なお、本出願は、2014年7月16日に出願された日本特許出願第2014−146138号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。

Claims (9)

  1. 樹脂基材上に、ケイ素化合物および金属原子を含むバリア層を有し、前記バリア層は、
    ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:xであり、x≧2である、膜厚Th1の領域Aと、
    ケイ素元素量Siと金属元素量Mの比率Si:Mが、1:1〜1:0.1である、膜厚Th2の領域Bと、を含み、
    前記Th1および前記Th2とは下記式(1)および(2):
    (1) Th1/Th2≧2
    (2) 20nm≦Th1<300nm
    を満たす、ガスバリア性フィルム。
  2. 前記金属原子は、ホウ素原子(B)、アルミニウム原子(Al)、チタン原子(Ti)およびジルコニウム原子(Zr)からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
  3. 前記ケイ素化合物は、下記一般式(1):
    Figure 2016010118
    上記一般式(1)において、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基を表わす、
    で示される構造を有するケイ素化合物前駆体を、活性エネルギー線を照射することによって改質して得られたものである、請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
  4. 前記樹脂基材と前記バリア層との間に、化学気相成長(CVD)法により形成された無機バリア層をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
  5. 樹脂基材上に、ケイ素化合物前駆体および溶解度パラメーターが15.5〜20.0の溶媒を含む第1バリア層前駆体液と、金属化合物および溶解度パラメーターが26.0〜32.0の溶媒を含む第2バリア層前駆体液と、を塗布することを含む成膜工程を有する、ガスバリア性フィルムの製造方法。
  6. 前記第1バリア層前駆体液に含まれる前記溶媒の溶解度パラメーターと、前記第2バリア層前駆体液に含まれる前記溶媒の溶解度パラメーターとの差が、7.5〜17.5である請求項5に記載の製造方法。
  7. 前記ケイ素化合物前駆体が、下記一般式(1):
    Figure 2016010118
    上記一般式(1)において、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基を表わす、
    で示される構造を有する前駆体であり、
    前記成膜工程の後、活性エネルギー線を照射することにより、前記ケイ素化合物前駆体を改質する改質工程を含む、請求項5または6に記載の製造方法。
  8. 前記成膜工程の前に、前記樹脂基材上に化学気相成長(CVD)法により無機バリア層を形成する、無機バリア層成膜工程をさらに有する、請求項5〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
  9. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム、または、請求項5〜8のずれか一項に記載の製造方法により得られたガスバリア性フィルムを含む、電子デバイス。
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