JPWO2014051053A1 - 磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、及び磁気ディスク用ガラスブランク - Google Patents

磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、及び磁気ディスク用ガラスブランク Download PDF

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Abstract

機械加工を行うことにより、磁気ディスク用ガラス基板を効率よく作製することができる磁気ディスク用ガラスブランクは、溶融ガラスの塊を一対の型のプレス面によって挟み込むことにより、ガラスブランクを成形する際、前記一対の型のプレス面の温度が前記溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度で、かつ前記一対の型のプレス面の温度が互いに揃うように前記溶融ガラスの塊をプレスすることにより得られる。この磁気ディスク用ガラスブランクの平面度は4μm以下であり、前記磁気ディスク用ガラスブランクの目標厚さに対する板厚差は1μm〜8μmであり、バビネ補正器法により測定された引張応力値は0.4kgf/cm2以下である。

Description

本発明は、磁気ディスク用ガラス基板に加工される磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、及び磁気ディスク用ガラスブランクに関する。
近年の磁気記録媒体の記録密度の向上に伴い、磁気記録媒体の作製に用いる磁気ディスク用ガラス基板には、板厚差および平面度を改善することが求められている。
機械加工をすることにより磁気ディスク用ガラス基板となる磁気ディスク用ガラスブランクを作製する方式としては、代表的には、
(1)溶融ガラスの塊を一対のプレス成形型によりプレス成形するプレス成形工程を経て磁気ディスク用ガラスブランクを作製するプレス方式、及び
(2)フロート法、ダウンドロー法などによって形成されたシート状ガラスを円盤状に切断加工する工程を経て磁気ディスク用ガラスブランクを作製するシートガラス切断方式、が知られている。
プレス方式の一例として、落下中の溶融ガラス塊を、当該溶融ガラス塊の落下方向に対して交差する方向に対向配置された第一のプレス成形型および第二のプレス成形型によりプレスする方法が知られている(特許文献1)。
具体的には、第一のプレス成形型および第二のプレス成形型を用いて落下中の溶融ガラス塊を挟んでプレスし(1次プレス)、板状のガラスブランクに成形する。この後、前記第一のプレス成形型と前記第二のプレス成形型とにより1次プレスよる小さいプレス圧力で前記ガラスブランクをプレスし続ける(2次プレス)。第2プレスを経た後に、前記第一のプレス成形型と前記第二のプレス成形型とを離間して、前記第一のプレス成形型と前記第二のプレス成形型との間に挟持されたガラスブランクを取り出す。
その際、少なくとも1次プレスおよび2次プレスの実施期間中において、前記第一のプレス成形型のプレス成形面の温度と、前記第二のプレス成形型のプレス成形面の温度とが、実質的に同一であり、前記第一のプレスにおいて、前記第一のプレス成形型のプレス成形面と、前記第二のプレス成形型のプレス成形面とを、溶融ガラス塊に対して略同時に接触させた後に前記溶融ガラス塊をプレスする。前記2次プレスの継続時間は前記磁気ディスク用ガラスブランクの平面度が10μm以下になるよう制御される。前記第一のプレス成形型と前記第二のプレス成形型との間に挟持されたガラスブランクの温度が、ガラス材料の歪点温度に10℃を加えた温度以下となるように冷却した後、ガラスブランクが金型から取り出される。これにより、磁気ディスク用ガラスブランクの平面度が向上するとされている。さらに、ガラスブランクの板厚差も小さくなるとされている。
また、予めガラスブランクを成形する金型を軟化点温度近傍まで加熱した後、この金型を用いてガラスブランクをプレス成形し、その後、ガラス転移点以下まで所定の冷却速度でガラスブランクおよび金型を冷却するプリフォーム(リヒートプレス)方式のプレス成形も知られている(特許文献2)。
国際公開第2012/043704号 特開2003−128425号公報
上述した特許文献1に記載の方法では、プレス時点において、第一のプレス成形型と第二のプレス成形型とのそれぞれのプレス成形面の温度が、ガラス材料の歪点温度に10℃を加えた温度以下とされている。このため、プレス時点において、溶融ガラスのうち第一のプレス成形型および第二のプレス成形型との接触部分が最初に冷え固まる。そして、溶融ガラスの冷え固まる領域が板厚方向中心側(プレス方向)へ順次広がっていく。
ここで、プレス時点において、溶融ガラスの第一のプレス成形型および第二のプレス成形型との接触部分がガラス転移点以下であるため、その冷え固まった部分でガラスの流動が抑制されることとなる。また、溶融ガラスは、プレスされた時点において、その厚さ方向に温度分布が生じているため、溶融ガラスの板厚方向中心側の部分の固化の際に生じた歪が逃げ場を失いガラスブランク内に比較的大きな残留応力が生じる。こうして取り出されたガラスブランクには比較的大きな残留応力が生じる。このような残留応力が生じている場合には、コアリングやスクライブなどの後加工の際に、残留応力の影響によりガラスブランクが破損しやすくなるという問題がある。他方、プレス成形後のガラスブランクにアニール処理(除冷)を施すことによって、ガラスブランクの残留応力が解消されるものの、アニール処理による加熱によって、ガラスブランクの内部の残留応力の開放に伴ってガラスブランクに変形が生じ、逆にガラスブランクの平面度が大きくなる(反りが生じる)という問題が生じる。このため、磁気ディスク用ガラス基板として所望の平面度を得るためには、ガラスブランクに対する研削・研磨等の後加工の加工量(取り代)を比較的大きく設定する必要があり、加工性が低下するという問題が生じる。
例えば、平面度の低下のために研削工程における取り代(削り量)を大きくすると、ガラスブランクの表面に深いクラックが入るため、深いクラックが残留しないように、後工程である研磨工程においても取り代(研磨量)は必然的に大きくなる。しかし、遊離砥粒および樹脂ポリッシャを用いる研磨工程において取り代を大きくすると、ガラスブランクの主表面の外周エッジ部近傍が丸く削られて、エッジ部の「だれの問題」が発生する。すなわち、ガラスブランクの外周エッジ部近傍が丸く削られるため、このガラスブランクをガラス基板として用いて磁気ディスクを作製したとき、外周エッジ部近傍の磁性層と磁気ヘッドとの間の距離が、ガラス基板の別の部分における磁気ヘッドの浮上距離より大きくなる。また、外周エッジ部近傍が丸みを持った形状となるため、表面凹凸が発生する。この結果、外周エッジ部近傍の磁性層において磁気ヘッドの記録及び読み出しの動作が正確でない。これが「だれの問題」である。
また、研磨工程における取り代が大きくなるため、研磨工程は長時間を要する等により実用上好ましくない。
このように、磁気ディスク用ガラスブランクから磁気ディスク用ガラス基板の生産性を高めるためには、磁気ディスク用ガラスブランクの平坦性および板厚の均一性の確保、ならびに、残留応力の抑制が効果的である。
さらに、上述した特許文献1に記載の方法では、プレス成形されたガラスブランクは、アニール処理が施されて、ガラスブランク内の残留応力(残留歪み)が低減、除去される。ガラスブランクにアニール処理を施さない場合、ガラスブランクの中心部分に円形状の貫通孔を設けるためにガラスブランクにスクライブ加工を施して孔加工をするとき、ガラスブランク内の残留応力に起因してガラスブランクが破損する場合がある。したがって、ガラスブランクの残留応力を低減、除去するために、前記特許文献1の方法で得られたガラスブランクには、磁気ディスク用ガラス基板に加工する前に、アニール処理が施される。しかし、アニール処理を施すことにより残留応力は低下するが、アニール処理による加熱によって、ガラスブランクの内部の残留応力の開放に伴ってガラスブランクに変形が生じ、ガラスブランクの平面度が大きくなる(反りが生じる)といった問題がある。この場合、ガラスブランクの平面度を小さくするために、ガラスブランクの主表面の研削、研磨の加工量(取り代)を大きくしなければならず、加工時間が長くなり、効率的に磁気ディスク用ガラス基板を作製することはできない。
また、従来より知られるフロート法を用いて成形した広いガラス板からガラスブランクを切り出す方式もある。しかし、この方式では、ガラスブランクの研削、研磨を行って平面度を高めようとしても、研削、研磨によって平面度の改善幅は小さく、目標とする平面度を有する磁気ディスク用ガラス基板に加工するのは難しい場合が多い。
また、特許文献2に記載されるプリフォーム(リヒートプレス)方式のプレス成形は、モールドプレス方式であり、ガラス材料を軟化させる工程が必要である。一旦、金型の下型に載置したガラス材料を加熱して軟化させるため、上型と下型との温度差を揃えることができず、金型によるプレスの際のガラス材料の熱履歴が上型側と下型側とで均一にならい。このため、金型のプレス成形面の熱膨張も、温度の不均一に起因して不均一となり、プラス成形面の不均一な熱膨張によって生じた表面凹凸がガラスブランクの表面に転写される。このため、ガラスブランクの平面度は低下しない。
そこで、本発明は、機械加工を行うことにより、磁気ディスク用ガラス基板を効率よく作製することができる磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、及び磁気ディスク用ガラスブランクを提供すること、特に、ガラスブランク内の残留応力の抑制と平面度の低下を実現し、かつ、板厚差を抑制する磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法及び磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、以下の種々の態様を含む。
本発明の一態様は、磁気ディスク用ガラス基板に加工される磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法である。
[態様1]
当該製造方法は、
溶融ガラスの塊を一対の型のプレス面によって挟み込むことにより、ガラスブランクを成形するプレス工程と、
前記ガラスブランクを、前記一対の型のプレス面を離間させて取り出す取出工程と、を含み、
前記プレス工程では、溶融ガラスの塊を一対の型のプレス面によって挟み込んでから前記取出工程で前記一対の型のプレス面を離間させるまでの間、前記一対の型のプレス面の温度が前記溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度で、かつ前記一対の型のプレス面の温度が互いに揃うように前記溶融ガラスの塊をプレスする。
[態様2]
前記プレス工程は、前記溶融ガラスの塊を板状のガラスブランクとするための1次プレス工程と、前記ガラスブランクが破損しない程度の時間、前記1次プレス工程を行った後、前記1次プレス工程に用いる前記プレス面のプレス圧よりも低いプレス圧力で前記ガラスブランクを前記一対の型で保持する2次プレス工程と、を含む、態様1に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
[態様3]
前記プレス工程では、前記ガラスブランクの残留応力値が、前記ガラスブランクの機械加工で破断が生じない許容値以下となるように、前記2次プレス工程を行う、態様1または2に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
[態様4]
前記許容値は、バビネ補正器法で測定した場合の引張応力値として0.4kgf/mmである、態様3に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
[態様5]
前記プレス工程では、プレス開始からプレス終了までの時間が300秒以下である、態様3又は4に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
[態様6]
前記プレス工程は、溶融ガラスの塊を落下させ、落下中の前記塊を水平方向から前記一対の型で挟み込んで、前記ガラスブランクを成形する工程である、態様1〜5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
[態様7]
前記プレス工程では、前記ガラスブランクの外周の端が、前記プレス面の端に達しないように前記ガラスブランクが成形される、態様1〜6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法
本発明の他の態様は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。
[態様8]
当該製造方法は、
態様1〜7のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法にて成形されたガラスブランクを加工して、磁気ディスク用ガラス基板とする加工工程を含む、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
[態様9]
前記ガラスブランクの加工前、前記ガラスブランクはアニール処理されない、態様8に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
本発明の他の態様は、磁気ディスク用ガラスブランクである。
[態様10]
当該磁気ディスク用ガラスブランクは、
機械加工をすることにより磁気ディスク用ガラス基板となる磁気ディスク用ガラスブランクであって、
平面度が4μm以下であり、
前記磁気ディスク用ガラスブランクの目標厚さに対する板厚差が1μm〜8μmであり、
バビネ補正器法により測定された引張応力値が0.4kgf/cm2以下である。
[態様11]
前記磁気ディスク用ガラスブランクの最大の厚さと最小の厚さとの差分が1μm以上である、態様10に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
[態様12]
前記目標厚さが0.5mm〜1.0mmである、態様10または11に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
[態様13]
前記磁気ディスク用ガラスブランクの端面が自由曲面である、態様10〜12のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
[態様14]
前記磁気ディスク用ガラスブランクの主表面がプレスによる成形面である、態様10〜13のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
[態様15]
ガラス転移点が650℃以上である、態様10〜14のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
[態様16]
溶融ガラスの塊を一対の型のプレス面によって挟み込むことにより、ガラスブランクを成形する際、前記一対の型のプレス面の温度が前記溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度で、かつ前記一対の型のプレス面の温度が互いに揃うように前記溶融ガラスの塊をプレスすることにより得られた、態様10〜15のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
上述の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、及び磁気ディスク用ガラスブランクによれば、残留応力と平面度を小さくし、かつ、板厚差を抑制した磁気ディスク用ガラスブランク及び磁気ディスク用ガラス基板を作製することができる。また、機械加工を行うことにより、磁気ディスク用ガラス基板を効率よく作製することができる。
(a)は、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を用いて作製される磁気ディスク用ガラス基板から作製される磁気ディスクの一例を説明する図であり、(b)は、磁気ディスク用ガラス基板の一例を説明する断面図であり、(c)は、本発明の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法を用いて作製される磁気ディスク用ガラスブランクの一例を説明する図である。 本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法のフローの一例を示す図である。 本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に用いる両面研削装置の一例を説明する図である。 本実施形態の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法で行われる切断工程の一例を説明する図である。 本実施形態の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法で行われる1次プレス工程の一例を説明する図である。 本実施形態の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法で行われる1次プレス工程の他の例を説明する図である。 本実施形態の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法で行われる1次プレス工程の他の例を説明する図である。 本実施形態の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法で行われる1次プレス工程及び2次プレス工程におけるガラスブランクとプレス成形型の温度履歴の計測結果の一例を示す図である。 本実施形態の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法で行われる取出工程の一例を示す図である。 (a)は、本実施形態のガラスブランクの断面形状を模式的に説明する図であり、(b)は、従来のガラスブランク断面形状を模式的に説明する図である。 (a)は、図10(a)に示す断面形状を有するガラス基板の研削前後の平面度の測定結果を示す図であり、(b)は、図10(b)に示す断面形状を有するガラス基板の研削前後の平面度の測定結果の例を示す図である。
まず、本発明の磁気ディスク用ガラスブランクについて詳細に説明する。
(磁気ディスク、磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスク用ガラスブランク)
まず、図1を参照して、磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製される磁気ディスクについて説明する。図1(a)は、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を用いて作製される磁気ディスク用ガラス基板から作製される磁気ディスクの一例を説明する図である。図1(b)は、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を用いて作製される磁気ディスク用ガラス基板の一例を説明する断面図である。図1(c)は、本発明の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法を用いて作製される磁気ディスク用ガラスブランクの一例を説明する図である。
図1(a)に示されるように、磁気ディスク1は、円板形状であって、中心部分が同心円形状にくり抜かれたリング状を成し、リングの中心を通る軸を回転軸として回転する。図1(b)に示されるように、磁気ディスク1は、磁気ディスク用ガラス基板(以降、単にガラス基板という)2と、少なくとも磁性層3A,3Bと、を備える。
なお、磁性層3A,3B以外には、例えば、図示されない付着層、軟磁性層、非磁性下地層、垂直磁気記録層、保護層および潤滑層等が成膜される。付着層には、例えばCr合金等が用いられる。付着層は、ガラス基板2との接着層として機能する。軟磁性層には、例えばCoTaZr合金等が用いられる。非磁性下地層には、例えばグラニュラー非磁性層等が用いられる。垂直磁気記録層には、例えばグラニュラー磁性層等が用いられる。保護層には、水素カーボンからなる材料が用いられる。潤滑層には、例えばフッ素系樹脂等が用いられる。
図1(c)は、ガラス基板2の元となる磁気ディスク用ガラスブランク3を示す。
磁気ディスク用ガラスブランク(以降、単にガラスブランクという)3は、後述するプレス成形により作製される円形状のガラス板であって、中心部分が同心円形状にくり抜かれる前の形態である。
ガラスブランク3の平面度は、4μm以下であり、ガラスブランク3の目標厚さに対する板厚差は1μm〜8μmであり、ガラスブランク3の厚さ中心部における残留応力を、バビネ補正器法で測定したとき、引張応力値(残留応力の値)は0.4kgf/cm2以下である。このようなガラスブランク3は、後述する磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法(プレス成形)によってはじめて作製することができる。板厚差とは、ガラスブランク3の予め定められた目標厚さに対するガラスブランク3の厚さの差の絶対値のうち、最大の差の絶対値の2倍をいう。例えば、目標厚さがtmmであり、目標厚さtに対する最大板厚あるいは最小板厚をt+αmm(αは正値でも負値でもよい)とすると、2×αmmの絶対値をいう。
その際、ガラスブランク3の最大の厚さと最小の厚さとの差分が1μm以上であることが、効率よくガラスブランク3の研削を行うことができる点から、好ましい。
ガラスブランク3の目標厚さは、例えば0.5mm〜1.0mmである。
ガラスブランク3の端面は、自由曲面であることが好ましい。このようなガラスブランク3は、後述するプレス成形によって行われる。ガラスブランク3の端面が自由曲面か否かは、例えば端面の表面に、残留応力として圧縮応力層が形成されているか否かによって判断することができる。自由曲面は、プレス成形の際、金型により端面が型押しされることなく形成される面であり、金型を介すること無く金型内の気相雰囲気に熱を与えて放冷するので、圧縮応力層が形成されないか、形成されたとしてもその圧縮の程度は極めて小さい。このような圧縮応力層は、周知のバビネ補正器法による応力測定によって検出することができる。また、フロート法によって作製されたガラス板から切り出されるガラスブランクは、自由曲面ではなく、圧縮応力層が端面に形成される。この点で、自由曲面を有するガラスブランクは、フロート法を用いて作製されたガラスブランクと区別され得る。したがって、本実施形態のガラスブランク3の主表面は、プレスによる成形面である。
本明細書でいう平面度とは、JIS B 0621 でいう平面度を意味し、具体的には、ガラス表面の表面凹凸であって、ガラスブランク3の表面を幾何学的平行二平面で挟んだとき、平行二平面の間隔が最小となる場合の二平面間の間隔である。平面度は、例えば、Nidek社製フラットネステスターFT−900を用いて測定することができる。
板厚差は、キーエンス社製レーザー変位計(SI−Fシリーズ)を用いて測定することができる。
残留応力は、周知のバビネ補正器法にて測定することができる。
ガラスブランク3の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平面度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
近年、磁気ディスクにおいて、例えば面記録密度が1テラバイト/inch2を超える高密度記録を実現するために、エネルギーアシスト記録方式が注目されている。エネルギーアシスト記録方式は、記録ヘッドによる磁気ディスクへの情報の書き込み時に記録ヘッドからデータ書き込み領域に瞬間的にエネルギーを加え、保磁力を低下させることで高Ku磁性材料の磁化反転をアシストする記録方式である。このエネルギーアシスト記録方式には、レーザー光の照射により磁化反転をアシストする熱アシスト記録方式や、マイクロ波によりアシストするマイクロ波アシスト記録方式が含まれる。このようなエネルギーアシスト記録方式では、ガラス転移点が比較的高いガラスが要求される。したがって、エネルギーアシスト記録方式に対応させる場合には、ガラスブランク3に用いるガラスとして、例えば、ガラス転移点が比較的高いガラス、例えばガラス転移点が650℃以上のガラスを用いることが好ましい。
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
次に、図2を参照して、ガラスブランク3から磁気ディスク用ガラス基板を製造する製造方法のフローを説明する。図2は、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法のフローの一例を示す図である。図2に示すように、先ず、一対の主表面を有する板状の磁気ディスク用ガラス基板の素材となるガラスブランクをプレス成形により作製する(ステップS10)。次に、作製されたガラスブランクをスクライブして、中心部分に孔のあいたリング形状(円環状)のガラス基板を作製する(ステップS20)。次に、スクライブされたガラス基板に対して形状加工(チャンファリング)を行う(ステップS30)。これにより、ガラス基板が生成される。次に、形状加工されたガラス基板に対して端面研磨を行う(ステップS40)。端面研磨の行われたガラス基板に、固定砥粒による研削を行う(ステップS50)。次に、ガラス基板の主表面に第1研磨を行う(ステップS60)。次に、ガラス基板に対して化学強化を行う(ステップS70)。次に、化学強化されたガラス基板に対して第2研磨を行う(ステップS80)。以上の工程を経て、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。以下、各工程について、詳細に説明する。スクライブ工程〜第1研磨工程及び第2研磨工程は、ガラスブランクあるいはガラス基板に対して施す機械加工である。
(a)プレス成形工程(ステップS10)
先ず、プレス成形工程について説明する。プレス成形工程は、切断工程とプレス工程と取出工程を含む。
溶融ガラスが溶融ガラスから所定の量流出したとき、溶融ガラス流を切断ユニットにより切断することによって、溶融ガラスの塊を落下させる。落下する溶融ガラスの塊を水平方向に移動する一対の金型で挟み込んで、落下中の溶融ガラスの塊を水平方向から一対の金型のプレス成形面によって挟むことによりプレスしてガラスブランクを成形する水平プレス方式が用いられる。所定時間プレスを行った後、金型を開いてガラスブランクが取り出される。プレスの際、一対の金型のプレス成形の温度が互いに揃うように溶融ガラスの塊がプレスされる。このような水平プレス方式については、後述する。なお、本実施形態の水平プレス方式では、ボロンナイトライド等の離型剤が用いられず、成形されるガラスブランクの主表面が、成形中、プレス成形面と接触するようになっている。このため、金型のプレス成形面が鏡面加工されて平滑な面になっていることにより、プレス成形面の形状がガラスブランクに転写される。
(b)スクライブ工程(ステップS20)
次に、スクライブ工程について説明する。プレス成形工程の後、スクライブ工程では、成形されたガラスブランクに対してスクライブが行われる。
ここでスクライブとは、成形されたガラスブランクを所定のサイズのリング形状のガラス基板とするために、ガラスブランクの表面に超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子を含んだスクライバにより2つの同心円(内側同心円および外側同心円)状の切断線(線状のキズ)を設けることをいう。2つの同心円の形状にスクライブされたガラスブランクは、部分的に加熱され、ガラスブランクの熱膨張の差異により、外側同心円の外側部分および内側同心円の内側部分が除去される。これにより、円形状の孔があいたリング状のガラス基板が得られる。なお、ガラスブランクに対してコアドリル等を用いて円孔を形成することにより円形状の孔があいたディスク状のガラス基板を得ることもできる。
(c)形状加工工程(ステップS30)
次に、形状加工工程について説明する。形状加工工程では、スクライブ工程後のガラス基板の端部に対するチャンファリング加工(外周側端面および内側端面の面取り加工)を含む。チャンファリング加工は、スクライブ工程後のガラス基板の外周側端面および内側端面において、ダイヤモンド砥石により面取りを施す形状加工である。この形状加工により所定の形状をしたガラス基板2が生成される。面取りの傾斜角度は、主表面に対して例えば40〜50度であり、略45度であることが好ましい。
(d)端面研磨工程(ステップS40)
次に、端面研磨工程を説明する。端面研磨では、ガラス基板の内側端面及び外周側端面に対して、ブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含む砥粒スラリが用いられる。端面研磨を行うことにより、ガラス基板の端面での塵等が付着した汚染、傷等の損傷の除去を行うことにより、サーマルアスペリティ障害の発生の防止や、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
(e)固定砥粒による研削工程(ステップS50)
固定砥粒による研削工程では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて、ガラス基板の主表面に対して研削加工を行う。図3は、両面研削装置100を説明する図である。具体的には、ガラスブランク3から生成されたガラス基板2の外周側端面を、両面研削装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながらガラス基板2の両側の主表面の研削を行う。研削による取り代は、例えば数μm〜100μm程度である。固定砥粒の粒子サイズは、例えば10μm程度である。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤104(図3参照)及び下定盤102(図3参照)の間にガラス基板2が狭持される。そして、上定盤104または下定盤102のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス基板2と各定盤とを相対的に移動させることにより、このガラス基板2の両主表面を研削することができる。
図3に示す両面研削装置100は、下定盤102、上定盤104、インターナルギヤ106、キャリヤ(保持部材)108、及び太陽ギヤ112、を有する。両面研削装置100は、下定盤102と上定盤104との間に、インターナルギヤ106を上下方向から挟む。インターナルギヤ106内には、研削時に複数のキャリヤ108が保持される。図3では、4つのキャリヤ108が保持されている。なお、キャリヤ108の数は4つに限定されず、1つ、2つ、3つ、あるいは5つ以上であってもよく、1つのキャリヤ108に保持されるガラス基板2の数は複数であってもとく、ガラス基板2の保持される数は特に制限されない。下定盤102および上定磐104に平面的に接着した図示されないダイヤモンドシートの面が研削面となる。すなわち、ガラス基板2は、ダイヤモンドシートを用いた固定砥粒による研削が行われる。
(f)第1研磨工程(ステップS60)
次に、研削のガラス基板2の主表面に第1研磨が施される。第1研磨は、主表面加工工程の1つである。具体的には、ガラス基板2の外周側端面を、両面研磨装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながらガラス基板2の両側の主表面の研磨が行われる。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜50μm程度である。第1研磨は、例えば固定砥粒による研削を行った場合に主表面に残留したキズや歪みの除去、あるいは微小な表面凹凸(マイクロウェービネス、粗さ)の調整を目的とする。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜50μm程度である。
第1研磨工程では、固定砥粒による研削(ステップS60)に用いる両面研削装置100と同様の構成を備えた両面研磨装置を用いて、研磨スラリを与えながらガラス基板2が研磨される。第1研磨工程では、固定砥粒による研削と異なり、固定砥粒の代わりに遊離砥粒を含んだ研磨スラリが用いられる。第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、酸化セリウム砥粒、あるいはジルコニア砥粒など(粒子サイズ:直径1〜2μm程度)が用いられる。両面研磨装置も、両面研削装置100と同様に、上下一対の定盤の間にガラス基板2が狭持される。下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッド(例えば、樹脂ポリッシャ)が取り付けられている。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス基板2と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス基板2の両主表面を研磨する。
(g)化学強化工程(ステップS70)
次に、ガラス基板2は化学強化される。化学強化液として、例えば硝酸カリウム(60重量%)と硫酸ナトリウム(40重量%)の混合液等を用いることができる。化学強化工程では、化学強化液を例えば300℃〜400℃に加熱し、洗浄したガラス基板2を例えば200℃〜300℃に予熱した後、ガラス基板2を化学強化液中に、例えば3時間〜4時間浸漬する。
ガラス基板2を化学強化液に浸漬することによって、ガラス基板2の表層にあるガラス組成中のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換されることで表層部分に圧縮応力層が形成され、ガラス基板2が強化される。
なお、化学強化処理されたガラス基板2は洗浄される。例えば、硫酸で洗浄された後に、純水等で洗浄される。
(h)第2研磨(最終研磨)工程(ステップS80)
次に、化学強化工程後のガラス基板2に第2研磨が施される。第2研磨工程は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨においても、第1研磨に用いる両面研磨装置と同様の構成を有する両面研磨装置が用いられる。第2研磨による取り代は、例えば1μm程度である。第2研磨工程が第1研磨工程と異なる点は、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、樹脂ポリッシャの硬度が異なることである。
第2研磨工程に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子(粒子サイズ:直径10〜50nm程度)が用いられる。研磨されたガラス基板2を中性洗剤、純水、IPA等を用いて洗浄することで、磁気ディスク用ガラス基板2が得られる。
第2研磨工程は、必ずしも必須な工程ではないが、ガラス基板2の主表面の表面凹凸のレベルをさらに良好なものとすることができる点で実施することが好ましい。第2研磨工程を実施することで、主表面の粗さ(Ra)を0.1nm以下かつ主表面のマイクロウェー
ビネスを0.1nm以下とすることができる。このようにして、第2研磨の施されたガラス基板2は、水洗いされて磁気ディスク用ガラス基板となる。
なお、端面研磨工程(ステップS40)と固定砥粒による研削(ステップS50)工程の順番を入れ替えることも可能である。化学強化工程(ステップS70)と第2研磨工程(ステップS80)の順番を入れ替えることも可能である。
(プレス成形工程の詳細説明)
次に、ステップS10のプレス成形工程について詳細に説明する。プレス成形工程は、溶融ガラスの塊を溶融ガラス流から切り出す切断工程と、一対の金型のプレス面によって挟み込むことにより、ガラスブランクを成形するプレス工程と、このガラスブランクを、一対の型のプレス面を離間させて取り出す取出工程と、を含む。プレス工程は、溶融ガラスの塊を板状のガラスブランクとするための1次プレス工程と、このガラスブランクが破損しない程度の時間、1次プレス工程を行った後、1次プレス工程に用いたプレス成形面のプレス圧力よりも低いプレス圧力でガラスブランクを一対の型で保持する2次プレス工程と、を含む。
(1)切断工程
切断工程では、プレス成形の対象物である溶融ガラスの塊を作製する。溶融ガラスの塊の作製方法としては特に限定されないが、通常は、溶融ガラスをガラス流出口から垂下させて溶融ガラス流をつくり、鉛直方向の下方側へと連続的に流出する溶融ガラス流の先端部を切断することで、溶融ガラスの塊を形成する。なお、溶融ガラス流からその先端部を分離するように実施される切断には、一対のシアブレードを用いることができる。また、溶融ガラスの粘度としては先端部の切断や、プレス成形に適した粘度であれば特に限定されないが、通常は、500dPa・秒〜1050dPa・秒の範囲内で、一定の値に制御されることが好ましい。
図4は、本実施形態の切断工程の一例を説明する図である。
切断工程では、図4に示すように、上端部が図示されない溶融ガラス供給源に接続された溶融ガラス流出管10の下端部に設けられたガラス流出口12から、溶融ガラス流20を鉛直方向の下方側へと連続的に流出させる。一方、ガラス流出口12よりも下方側には、溶融ガラス流20の両側に、各々、第一のシアブレード(下側ブレード)30と、第二のシアブレード(上側ブレード)40とが、溶融ガラス流20の垂下する方向の中心軸Dに対して略直交する方向に、配置されている。下側ブレード30および上側ブレード40は、各々、中心軸Dに対して直交するX1方向、および、中心軸Dに対して直交するX2方向に移動することで、溶融ガラス流20の両側から、溶融ガラス流20の先端部22側へと接近する。なお、溶融ガラス流20の粘度は、溶融ガラス流出管10や、その上流の溶融ガラス供給源の温度を調整することで制御される。
下側ブレード30、上側ブレード40は、先端部に刃部34、44を有する。鉛直方向に対して、刃部34の上面34Uと、刃部44の下面44Bとは、略同程度の高さ位置となるように、下側ブレード30および上側ブレード40が配置される。
溶融ガラス流20の切断時、下側ブレード30および上側ブレード40を、各々、X1方向およびX2方向に移動させる。これにより、刃部34の上面34Uと刃部44の下面44Bとが、部分的にほぼ隙間無く重なり合う。すなわち、中心軸Dに対して下側ブレード30および上側ブレード40を垂直に交差させる。これにより、溶融ガラス流20に対して、その中心軸Dの近傍まで下側ブレード30および上側ブレード40が貫入して、先端部22が、略球状の溶融ガラスとして切断される。切断されて生成された溶融ガラスの塊は、図4に示す鉛直方向下方であるY1方向に落下する。
(2)1次プレス工程
図5〜7は、1次プレス工程を説明する図である。
1次プレス工程では、落下中の溶融ガラスの塊24を、塊24の落下方向に対して交差する方向に対向配置された第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60によりプレスし、板状のガラスブランクを成形する。ここで、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60は、塊24の落下方向(Y1方向)に対して略90度(90度±1度)の範囲内の角度を成すように略直交する方向に対向配置されていることが好ましく、溶融ガラスの塊24の落下方向に対して直交する方向に対向配置されていることが特に好ましい。このように溶融ガラスの塊24の落下方向に対して一対のプレス成形型を対向配置することにより、溶融ガラスの塊24を両側から均等にプレスして板状のガラスブランクに成形することがより容易となる。
1次プレス工程を実施する直前における、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60のプレス成形面52A、62Aの温度は、溶融ガラスの塊24を構成するガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度で加熱され平衡状態にある。ガラス転移点は、本実施形態では、例えば500℃である。一方、屈服点は、本実施形態では、例えば560℃である。プレス成形面の温度を、上述した範囲内とすることにより、後述するように、溶融ガラスの塊24において温度分布があったとしても、後述する2次プレス工程において、ガラス転移点以上の温度で、ガラスブランクの温度分布を略均一にすることができる。これにより、温度分布が略均一になったガラスブランクを第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60から取り出して、大気中で放冷することにより、残留応力の少ないガラスブランクを作製することができる。プレス成形面の温度を屈服点未満とするのは、ガラスブランクをプレス成形型から離型した後に平面度が大きく悪化してしまうことを防ぐためである。
金型を構成する第一のプレス成形型50及び第二のプレス成形型60について、図4を参照しながら説明する。第一のプレス成形型50及び第二のプレス成形型60は、超硬合金(例えばVM30やVM40など)で構成されることが、機械的強度及び後述する熱伝導度を高くする点で好ましい。第一のプレス成形型50及び第二のプレス成形型60は、略円盤形状を有するプレス成形型本体52、62と、このプレス成形型本体52、62の外周端を囲うように配置されたガイド部材54、64とを有する。なお、図4は断面図であるため、図4中において、ガイド部材54、64は、プレス成形型本体52、62の上下両側に位置するように記されている。また、プレス成形型50をX1方向へ移動させ、第二のプレス成形型60をX2方向に移動させるように、第一のプレス成形型50及び第二のプレス成形型60は、図示されない駆動装置と機械的に接続されている。
プレス成形型本体52、62の一方の面は、それぞれプレス成形面52A、62Aとなっている。プレス成形面52Aとプレス成形面62Aとは互いに対向するように配置されている。ガイド部材54には、プレス成形面52Aに対してX1方向に少しだけ突出した高さ位置にガイド面54Aが設けられ、ガイド部材64には、プレス成形面62Aに対してX2方向に少しだけ突出した高さ位置にガイド面64Aが設けられている。このため、プレス成形に際しては、ガイド面54Aとガイド面64Aとが突き当たり接触するため、プレス成形面52Aとプレス成形面62Aとの間には隙間が形成される。この隙間の厚さが、第一のプレス成形型50と第二のプレス成形型60との間でプレスされてガラスブランクの厚さとなる。プレス成形面52A、62Aは、鏡面仕上げされている。なお、第一のプレス成形型50と第二のプレス成形型60によるプレスにより、溶融ガラスの塊24が押し広げられてガラスブランクとなるときのプレス成形面52A、62Aの領域である溶融ガラス延伸領域S1(図5,6参照)を含むプレス成形面52A、および、溶融ガラス延伸領域S2(図5,6参照)を含むプレス成形面62Aの全面が、曲率が0である平面を成している。
図4中の第一のプレス成形型50のプレス成形本体52のプレス成形面52Aと反対側には、第1の押出部材56及び第2の押出部材58が設けられている。
第1の押出部材56の一方の押出面56Aは、プレス成形型本体52の端面である被押出面52Bとガイド部材54の端面である押出面54Bとに接触している。また、プレス成形型本体52の被押出面52Bに対向する領域の一部に、第1の押出部材56の厚み方向に貫通する貫通穴56Hが設けられている。なお、押出面56Aと反対側の面56Bは、図示されない駆動装置に機械的に接続されている。このため、プレス成形に際しては、上記駆動装置によって、第1の押出部材56を介して、プレス成形型本体52とガイド部材54とを同時に、図中の軸方向Xの第1の押出部材56が配置された側からプレス成形型本体52およびガイド部材54が配置された側へと押し出すことができる。これにより、第1の押出部材56からプレス成形型本体52にプレス圧力となる押圧荷重が与えられる。
第2の押出部材58は、貫通穴56H内に挿入されると共に、プレス成形型本体52の被押出面52B側に接続されている。第2の押出部材58は、図4に示す例では円柱状の棒状を成すが、プレス成形型本体52に対して荷重を自在にかけることができるのであれば、その形状は特に限定されない。なお、第2の押出部材58の被押出面52B側に接続された端と反対側の端は、図示されない駆動装置に機械的に接続されている。このため、プレス成形に際しては、上記駆動装置及び第2の押出部材58によって、第1の押出部材56がプレス成形型本体52に与える押圧荷重に、押圧荷重を付加させることができ、あるいは、この付加した押圧荷重を除去させることができる。この押圧荷重の除去によって、後述する2次プレス成形においてプレス圧力が調整される。この点は後述する。
1次プレス工程では、図5、6に示すように、溶融ガラスの塊24は、下方へ落下し、2つのプレス成形面52A、62A間に進入する。そして、図6に示すように、落下方向Y1と平行を成すプレス成形面52A、62Aの上下方向の略中央部近傍に到達した時点で、溶融ガラスの塊24の両側表面が、プレス成形面52A、62Aに同時または略同時に接触する。
その後、図7に示すように、溶融ガラスの塊24を、その両側から第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60により押圧し続けると、溶融ガラスの塊24は、溶融ガラスの塊24とプレス成形面52A、62Aとが最初に接触した位置を中心に均等な厚さで押し広げられる。図7に示すようにガイド面54Aとガイド面64Aとが接触するところまで、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60により押圧し続けることで、プレス成形面52A、62A間に、円盤状もしくは略円盤状の板状ガラス26に成形される。このとき、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60により成形されるガラスブランクの外周の端は、ガイド面54Aとガイド面64Aの端部まで達しない。すなわち、ガラスブランクの外周の端が、ガイド面54Aとガイド面64Aの端部であるプレス面52A、62Aの端に達しないようにガラスブランクが成形されることが好ましい。ガラスブランクの端面は、自由曲面となっている。この状態で、1次プレス工程は終了する。したがって、ガラスブランクの端面における熱は、プレス成形面52A、62Aと接触せず、プレス成形面52A、62A内の気相空間の空気に対して放冷される。したがって、ガラスブランクの端面では、冷却に伴って表面に形成される圧縮応力層はほとんどないか、あるいは極めて小さい。すなわち、ガラスブランクの端面には残留応力がないか、あっても極めて小さい。
(3)2次プレス工程
2次プレス工程では、ガラスブランクが破損しない程度の時間、1次プレス工程を行った後、1次プレス工程後に1次プレス工程に用いるプレス面(プレス成形面52A、62A)のプレス圧よりも低いプレス圧力でガラスブランクを一対の型で保持する工程である。
プレス圧力は、第1プレス工程時、第2の押出部材58が第一のプレス成形型50に与えた押圧荷重を除去することにより、低下することができる。したがって、2次プレス工程では、図7に示す状態と変化はない。
1次プレス工程における、プレス成形面52A、62Aのプレス圧力は、例えば0.04〜0.40トン/cm2であり、2次プレス工程におけるプレス圧力は、例えば1×10−5〜4×10−3トン/cm2である。
このように1次プレス工程と2次プレス工程でプレス圧力を変化させるのは、1次プレス工程の機能と、2次プレス工程の機能とを異なるものとするためである。
1次プレス工程において高いプレス圧力を用いてプレスをすることにより、ガラスブランクを所定の厚さ(薄さ)にするとともに、板厚差を低下させることができる。2次プレス工程において低いプレス圧力を用いてプレスすることにより、ガラスブランクの温度分布を均一に近づけることができ、平面度を向上することができる。
具体的に説明すると、2次プレス工程前の1次プレス工程では、高いプレス圧力により、熔融ガラスの塊24の不均一な温度分布に起因して成形直後のガラスブランクの温度分布は不均一である。この不均一な温度分布のガラスブランクから熱が第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60に移動して、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60に不均一の温度分布を生じさせる。2次プレス工程において低いプレス圧力を用いることにより、2次プレス工程では、ガラスブランクとプレス成形面52A、62Aとの間の実質的な接触面積が低下する。その結果、ガラスブランクから第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60への熱移動が低下する。その間、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の不均一な温度分布は、熱伝導による拡散により均一に近づき、温度分布が均一に近づいた第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60が、ガラスブランクと接触することにより、ガラスブランクの温度分布は均一に近づく。
また、1次プレス工程では、上述したように第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60に不均一の温度分布を生じさせるので、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の不均一の温度分布により、プレス成形面52A、62Aの表面は不均一な熱膨張を起こし、プレス成形面52A、62Aに表面凹凸をつくる。この表面凹凸は、ガラスブランクの表面に転写されるので一定の厚さのガラスブランクを作製する上で好ましくない。第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の不均一な温度分布を解消するために、2次プレス成形では、プレス圧力の低下により、ガラスブランクから第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60への熱移動を低下させることができる。そして、2次プレス工程中、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60内での熱伝導による熱拡散により第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の温度分布を均一に近づけることができる。これにより、プレス成形面52A、62Aの表面凹凸は均一に近づく。しかも、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の温度は、ガラス転移点以上であるので、ガラスブランクもガラス転移点以上である。このため、ガラスブランクの表面には、プレス成形面52A、62Aの均一な表面に近づいた表面形状が転写される。したがって、平面度の小さいガラスブランクが形成される。
このように、2次プレス工程の作用により、ガラスブランクは、ガラス転移点以上の温度で温度分布は均一に近づき、平面度が小さくなる。
1次プレス工程は、ガラスブランクに一定の厚さを確保するために行われるため、1次プレスの継続時間は、ガラスブランクが一定の厚さの形状を確保する時間であればよい。この継続時間が過度に長いと、ガラスブランクが不均一な温度分布に起因する熱歪み(熱応力)によって、あるいは、プレス成形面52A,62Aの不均一な表面凹凸等によって破損する。このため、1次プレス工程の継続時間は、ガラスブランクが温度分布に起因する熱歪み(熱応力)によって破損しない程度の時間であり、例えば0.1〜2秒である。一方、2次プレス工程の継続時間は、ガラスブランクの温度分布が略均一になる時間であればよい。2次プレス工程の継続時間は長いことが、ガラスブランクの温度分布は均一に近づく点から好ましいが、ガラスブランクの生産効率は低下する。したがって、2次プレス工程の継続時間は、例えば10〜298秒である。このような1次プレス工程及び2次プレス工程の継続時間は、予め定められている。したがって、1次プレス工程及び2次プレス工程の合計の継続時間である、プレス開始からプレス終了までの時間が300秒以下であることが好ましい。
図8は、1次プレス工程及び2次プレス工程におけるガラスブランクの2箇所の位置における温度履歴A1,A2と、第一のプレス成形型50の2箇所における温度履歴A3,A4の計測結果の一例を示す図である。
1次プレス工程の開始時、溶融ガラスの塊24は、図4に示す下側ブレード30と上側ブレード40とによる切断で冷やされるため、塊24の切断された部分は、塊24の内部に比べて低温になっている。すなわち、塊24の温度分布は不均一である。このため、1次プレス工程の開始時においても、ガラスブランクの温度分布は不均一であり、場所によって温度はばらついている。図8の例では、温度T1と温度T2が温度のばらつきを示す一例である。一方、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の温度は、溶融ガラスの塊24を構成するガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度で加熱されて、均一な熱平衡状態にある。この状態で、1次プレス工程が開始されると、ガラスブランクの温度は第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の温度に比べて高いので、ガラスブランクから第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60に多量の熱が移動する。これによって、ガラスブランクの温度は温度履歴A1,A2に示すように急激に低下する。一方、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60は、ガラスブランクから多量の熱が移動するので、ガラスブランクの各場所の温度に応じた熱移動を受けて温度履歴A3,A4に示すように異なる温度履歴を示す。この状態で予め定められた1次プレス工程の継続時間が過ぎると、2次プレス工程に移行する。
2次プレス工程では、1次プレス工程に比べて第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60のプレス圧力は低下しているので、ガラスブランクとプレス成形面52A、62Aとの間の実質的な接触面積が低下し、その結果、ガラスブランクから第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60への熱移動が低下する。この間、第一のプレス成形型および第二のプレス成形型の不均一な温度分布は、熱伝導による拡散により、温度履歴A3、A4に示すように温度分布は均一に近づく。温度分布が均一に近づいた第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60は、ガラスブランクと接触することにより、ガラスブランクの温度分布も温度履歴A1,A2に示すように、均一に近づく。しかし、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の温度は、溶融ガラスの塊24を構成するガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度で常時加熱されているので、ガラスブランクの温度は、ガラス転移点以上、屈服点未満のある温度に近づく。このような状態で、2次プレス工程は終了する。したがって、2次プレス工程は、上記ガラスブランクの温度状態が達成される時間を予め計測することにより、2次プレス工程の継続時間を定めることが好ましい。しかも、プレス成形面52A,62Aの熱膨張も、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の均一に近づいた温度分布により、均一に近づくため、ガラスブランクは、プレス成形面52A,62Aの表面凹凸の少ない表面形状が転写される。したがって、平面度の小さいガラスブランクが形成される。
(4)取出工程
取出工程では、ガラスブランクは、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60のプレス成形面を離間して取り出される。図9は、取出工程を示す図である。図9に示すように、第一のプレス成形型50と第二のプレス成形型60とを互いに離間させるように、第一のプレス成形型50をX2方向へ移動させ、第二のプレス成形型60をX1方向へ移動させる。これにより、プレス成形面62Aと、ガラスブランク26とを離型させる。次いで、プレス成形面52Aと、ガラスブランク26とを離型させて、ガラスブランク26を鉛直方向下方に落下させて取り出す。ここで、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60のプレス成形面52A,62Aで熔融ガラスの塊24を挟み込んでから、ガラスブランクを取り出すまでの間、プレス成形面52A,62Aの温度がガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度となっている。なお、プレス成形面52Aと板状ガラス26とを離型させる際には、ガラスブランク26の外周方向から力を加えてガラスブランク26を剥がすように離型することができる。この場合、板状ガラス26に大きな力を加えることなく、取出しを行うことができる。なお、取出しの際、プレス成形面52Aとガラスブランク26とを離型した後に、プレス成形面62Aとガラスブランク26とを離型してもよい。こうして、ガラスブランク26を得る。ガラスブランク26は、図示されない断熱板上に載せられて、大気中で放冷される。このとき、ガラスブランク26は、均一な温度分布を持ってガラス転移点以上の温度を有するので、この状態で冷却しても、均一な温度分布を保ってガラスブランクは冷えるので、冷却に起因する不均一な残留応力は小さくなる。
なお、プレス成形面52A及びプレス成形面62Aには、従来より用いられてきたボロンナイトライド等の離型剤は用いられない。これは、1次プレス工程及び2次プレス工程におけるガラスブランクとプレス成形面52A及びプレス成形面62Aとの間の面接触を増やして、ガラスブランクとプレス成形面52A及びプレス成形面62Aとの間の熱移動を利用するためである。また、離型剤の使用は、離型剤の形状がガラスブランクの表面に転写されて平面度が大きくなることから好ましくない。
なお、本実施形態は、1次プレス工程及び2次プレス工程を行うが、プレス圧力を変化させず一定のプレス圧力でプレスする1つのプレス工程を採用することもできる。この場合においても、溶融ガラスの塊を一対の型のプレス面によって挟み込んでから一対の型のプレス面を離間させるまでの間、一対の型のプレス面の温度が溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度で、かつ一対の型のプレス面の温度が互いに揃うように溶融ガラスの塊をプレスすればよい。
以上がプレス成形工程の説明である。得られたガラスブランクは、図2に示すスクライブ工程(ステップS20)に進む。
なお、得られるガラスブランクの残留応力値は、上述したスクライブ工程(S20)や形状加工工程(S30)における機械加工で破断が生じない許容値以下となるように、2次プレス工程が行われることが好ましい。例えば、2次プレス工程におけるプレス圧力及び継続時間等が調整される。この場合、上記許容値は、例えば、0.4kgf/mmであることが好ましい。
例えば、1次プレス工程におけるプレス圧力を0.2トン/cm2とし、1次プレス工程の継続時間を1秒とし、2次プレス工程におけるプレス圧力を1.0×10−3トン/cm2とし、2次プレス工程の継続時間を60秒とし、第一のプレス成形型50と第二のプレス成形型60の温度を515℃とした条件で、平面度の平均値は3.87μmであり、ガラスブランクの板厚差は5μm以下とすることができる。
また、本実施形態で得られるガラスブランクは、平坦性に優れ(平面度が小さく)、残留応力も小さいことから、従来のように、ガラスブランクにアニール処理を施す必要がない。
なお、上述したように、エネルギーアシスト記録方式の磁気ディスクが注目されているが、このような磁気ディスク用ガラス基板には、ガラス転移点が比較的高いガラスが要求される。しかし、上述した特開2003−128425号公報に記載される、ガラスの軟化点温度まで金型を加熱するプリフォーム(リヒートプレス)方式では、ガラス転移点が比較的高いガラスを用いて、金型を軟化点温度まで加熱することは難しい。この点で、本実施形態のガラスブランクの製造方法は優れている。すなわち、本実施形態のガラスブランクの製造方法は、ガラス転移点が高いガラス材料であっても、平面度と板厚差を小さくすることができるとともに、ガラスブランクの加工性を向上させることができる。
(ガラスブランクの平面度、板厚及び残留応力)
このようなプレス成形により、平面度が4μm以下であり、目標厚さに対する板厚差が1μm〜8μmであり、バビネ補正器法で測定した場合の引張応力値(残留応力)が0.4kgf/cm2以下であるガラスブランク3を作製することができる。
上述したように、1次プレス工程において高いプレス圧力を用いてプレスをすることにより、ガラスブランクを所定の厚さにする板厚差を1〜8μmにすることができる。また、2次プレス工程の作用により、ガラスブランクは、ガラス転移点以上の温度で温度分布は均一に近づき、平面度を4μm以下にすることができる。さらに、2次プレス工程において、ガラス転移点以上の温度で、ガラスブランクの温度分布を略均一にすることができるので、温度分布が略均一になったガラスブランクを第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60から取り出して、大気中で放冷することにより、バビネ補正器法で測定した場合の引張応力値(残留応力)を0.4kgf/cm2以下にすることができる。
上述した特許文献1に記載されるプレス方式では、2次プレス工程において、ガラス転移点以上の温度で、ガラスブランクの温度分布を略均一にすることはないので、バビネ補正器法で測定した場合の引張応力値(残留応力)を0.4kgf/cm2以下にすることはできない。このため、特許文献1に記載されるプレス方式では、プレス成形されたガラスブランクはアニール処理が施される。しかし、アニール処理が施されることにより、平面度が4μmを越えることになる。また、フロート法により作製されるガラスブランクでは、平面度を4μm以下とし、目標厚さに対する板厚差が1μm〜8μmを満足することはできない。フロート法により作製されるガラスブランクでは、フロート法の作製過程に起因して目標厚さに対する板厚差は1μm未満である。
すなわち、本実施形態のガラスブランク3の目標厚さに対する板厚差を1μm〜8μmとし、1μm未満としないのは、図2に示すステップS50の固定砥粒による研削によって平面度を効果的に向上させるためである。
(ガラスブランクの断面形状)
図10(a)は、計測された板厚分布と平面度の結果から得られる、上述のプレス成形で得られたガラスブランク3の断面形状を、板厚分布及び平面度の表面凹凸を強調して模式的に説明する図である。ガラスブランク3では、両側の主表面のうち、一方の主表面で凸部となっている場所では、他方の主表面でも凸部となっており、一方の主表面で凹部となっている場所では、他方の主表面でも凹部となっている。したがって、このような板厚分布を持つガラスブランク3を、ステップS50において研削することにより、両側の主表面の凸部を削ることができ、平面度を向上させることができる。
図10(b)は、板厚のガラスブランク3内の分布が極めて小さく最大厚さと最小厚さの差が略0μmであり、平面度が0μmより大きく4μm以下である一例のガラスブランク3’の断面形状の一例を模式的に説明する図である。このようなガラスブランク3’では、一方の主表面で凸部となっている場所では、他方の主表面では凹部となっており、一方の主表面で凹部となっている場所では、他方の主表面では凸部となっている。このようなガラスブランク3’をステップS50において研削した場合、図3に示す下定盤102と上定盤104との間で押圧されて挟まれるので、ガラスブランク3’は平面状に延ばされた状態で主表面が研削される。このため、研削が終了すると、ガラスブランク3’の弾性変形により形状が図3(b)に示すように復元される。したがって、ステップ50にいて固定砥粒による研削を行っても平面度は向上し難い。このようなガラスブランク3’はフロート法を用いて作製されたガラスブランクにより代表される。
図11(a),(b)は、図10(a)に示す断面形状を有するガラスブランク3と、図10(b)に示すガラスブランク3’におけるステップS50における固定砥粒による研削前後の平面度の測定結果の例を示す図である。ガラスブランク3は、本実施形態として説明したプレス方式で作製されたものであり、平面度が4μm以下であり、目標厚さに対する板厚差が1μm〜8μmであり、バビネ補正器法で測定した場合の引張応力値が0.4kgf/cm2以下の条件を満足する。一方、ガラスブランク3’は、フロート法で作製されたものであり、平面度が4μm以下、目標厚さに対する板厚差が1μm〜8μm、及びバビネ補正器法で測定した場合の引張応力値が0.4kgf/cm2以下の3つの条件を満足しない。
図11(a),(b)中の各グラフの横軸は、固定砥粒による研削前のガラスブランク3,3’の平面度を示し、縦軸は固定砥粒による研削後のガラスブランク3,3’の平面度を示す。各グラフには、研削加工前の平面度と研削加工後の平面度が一致する直線を点線Aで示している。図11(a)に示すプロットの分布からわかるように、ガラスブランク3では、研削により平面度が小さくなっていることがわかる。図11(b)に示すプロットの分布からわかるように、ガラスブランク3’では、固定砥粒による研削により平面度が変化し難いことがわかる。図11(a)に示すプロットでは、平面度が固定砥粒による研削により大きくなる例も見られる。
このように、本実施形態のガラスブランク3は、固定砥粒による研削により効果的に平面度を向上させることができ、効率よく磁気ディスク用ガラス基板を作製することができることがわかる。
(実験例1)
以下、本実施形態で作製されるガラスブランクの特性を調べるために、種々のガラスブランクを作製した。
以降に示す実施例では、本実施形態の製造方法を用い、1次プレス工程のプレス圧力、2次プレス工程の継続時間とプレス圧力、あるいは、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の設定温度(ガラス転移点以上屈服点未満の温度範囲内)等を調整してガラスブランクを作製した。従来例1,2のガラスブランクは、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の設定温度をガラス歪点近傍とし、それ以外は実施例と同様のプレス方法により作製した。但し、従来例1については、プレス後のガラスブランクの残留応力をアニール処理により低下させ、スクライブ工程によるコアリングを行った。また、従来例2については、アニール処理を行わずにスクライブ工程によるコアリングを行った。
また、ガラス基板の平面度(JIS B 0621)は、Nidek社製フラットネステスターFT−900を用いて測定した。板厚差は、キーエンス社製レーザー変位計(SI−Fシリーズ)を用いて測定した。残留応力(引張応力値)は、周知のバビネ補正器法にて測定した。
下記表1は、各ガラスブランクの平面度、板厚差及び残留応力の数値と、スクライブ工程におけるコアリング時のガラスブランクの破損の有無を示す。
Figure 2014051053
なお、従来例1において、アニール処理前の平面度は、3.2μmであり、アニール処理前の残留応力の値は、約0.45kgf/cm2であった。
表1の実施例1〜3に示すように、本実施形態のガラスブランクの製造方法は、研削前の平面度を3.2〜3.4μmとし、板厚差を3.0〜3.2μmとして略同一に揃え、残留応力を種々変えることができる。このとき、実施例1〜3と従来例1との比較より、従来例1のガラスブランクでは、アニール工程によって平面度が大きくなることがわかる。これは、アニール処理による加熱によって、ガラスブランクの内部の残留応力の開放に伴ってガラスブランクに変形が生じたためである。このような平面度が大きなガラスブランクを固定砥粒による研削加工により平面度を低下させる場合には、加工時間が増加し、好ましくない。
他方、表1の実施例1〜3と従来例2との比較より、残留応力が0.4kgf/cm2以下であるとき、図2に示す形状加工工程(ステップS30)におけるコアリング時の破損がないことがわかる。つまり、ガラスブランクの残留応力が0.4kgf/cm2以下であれば、アニール工程を省略して、コアリングを行うことができることがわかる。また、アニール工程の省略により、磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスク用ガラスブランクの製造工程の簡略化を図ることができ、製造効率を向上させることができる。
このように、本実施形態のガラスブランクの製造方法で作製されるガラスブランクは、アニール工程を省略して、平面度及び残留応力を従来に比べて低下させ、ガラスブランクの研削や形状加工工程において好ましい形態のガラスブランクを作製することができる。したがって、1次プレス工程のプレス圧力、2次プレス工程の継続時間とプレス圧力、あるいは、第一のプレス成形型50および第二のプレス成形型60の設定温度等を調整することにより、残留応力の抑制と平面度の低下を実現し、かつ、板厚差を抑制したガラスブランクを実現することができる。本実施形態のガラスブランクの作製方法を用いることにより、磁気ディスク用ガラス基板を効率よく製造することができる。
(実験例2)
次に、本実施形態のガラスブランクから作製されるガラス基板の固定砥粒による研削の効果を調べるために、種々のガラスブランクを作製して、図2に示すスクライブ工程、形状加工工程、端面研磨工程を経たガラス基板に対して、図3に示す両面研削装置100を用いてダイヤモンドシートを用いた固定砥粒による研削を行った。研削量は50μmとした。
以降に示す実施例、比較例(比較例1を除く)として作製したガラスブランクの平面度、残留応力は、2次プレス工程の継続時間とプレス圧力を変化して調整した。また、板厚差は1次プレス工程のプレス圧力を用いて調整した。比較例1のガラスブランクは、フロート法を用いて成形した広いガラス板から切り出したガラスブランクである。
研削前後のガラス基板の平面度(JIS B 0621)は、Nidek社製フラットネステスターFT−900を用いて測定した。板厚差は、キーエンス社製レーザー変位計(SI−Fシリーズ)を用いて測定した。残留応力は、周知のバビネ補正器法にて測定した。
下記表2〜5は、各ガラスブランクの平面度、板厚差、及び残留応力の数値と、評価項目である研削後の平面度、研削時間、スクライブ工程におけるコアリング時のガラスブランクの破損の有無を示す。
Figure 2014051053
Figure 2014051053
Figure 2014051053
Figure 2014051053
表2に示すように、実施例3〜6、比較例2では、研削前の平面度(3.2〜3.4μm)及び残留応力(約0.3kgf/cm2)を略同じに揃え、板厚差を種々変えた。比較例1の残留応力は、約0.1kgf/cm2であった。
表2の実施例3〜6、比較例2の結果より、板厚差を1〜8μm(表2の結果では、1〜7.8μm)とすることにより、研削時間を長くかけずに、研削による平面度が向上することがわかった。フロート法を用いた比較例1では、研削時間が61分もかかり、平面度の向上は小さかった。また、研削時間を60分以上とすることは、ガラス基板の製造効率を極端に低下させるため、好ましくない。
表3に示すように、実施例7、8及び比較例3、4では、研削前の平面度(1.8〜2.0μm)及び残留応力を略同じに揃え、板厚差を種々変えた。
表3の結果より、板厚差は、1〜8μmであることにより、研削時間を長くかけずに、研削による平面度が向上することがわかった。
表4に示すように、実施例9〜11及び比較例5では、研削前の平面度(3.2〜3.4μm)及び板厚差(3.0〜3.2μm)を揃え、残留応力を種々変えた。このとき、スクライブ工程におけるコアリング時のガラスブランクの破損の有無を評価した。表4の結果より、残留応力は、0.4kgf/cm2以下であることが、機械加工においてガラスブランクの破損を抑制する点で必要であることがわかった。
また、表4の比較例5と同等の性質のガラスブランクについて、アニール処理により残留応力を約0.2kgf/cm2まで低下させたところ、スクライブ工程におけるコアリング時にガラスブランクの破損は生じなかったが、アニール処理に伴って、平面度が20.1μmとなった。これは、アニール処理による加熱によって、ガラスブランクの内部の残留応力の開放に伴ってガラスブランクに変形が生じたためである。このような平面度が大きなガラスブランクを固定砥粒による研削加工により平面度を低下させる場合には、加工時間が増加するため、好ましくない。
表5に示すように、研削前の平面度(3.0〜3.2μm)及び残留応力(約0.3kgf/cm2)を揃え、ガラスブランクの最大厚さ−最小厚さを種々変えた。このとき、実施例12〜15の板厚差はいずれも1μm〜8μmの範囲であった。
表4に示す実施例12と実施例13〜15との対比により、最大厚さ−最小厚さが、1μm以上であることが、研削による平面度をより向上させる点で好ましいことがわかった。
以上の結果より、本実施形態のガラスブランクから作製されるガラス基板の効果は明らかである。
以上、本発明の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、及び磁気ディスク用ガラスブランクについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
1 磁気ディスク
2 磁気ディスク用ガラス基板
3 磁気ディスク用ガラスブランク
3A,3B 磁性層
10 溶融ガラス流出管
12 ガラス流出口
20 溶融ガラス流
22 先端部
24 塊
30 下側ブレード30
34、44 刃部
34U 上面
40 上側ブレード
44B 下面
50 第一のプレス成形型
52、62 プレス成形型本体
52A、62A プレス成形面
52B 被押出面
54、64 ガイド部材
54A、64A ガイド面
54B 押出面
56 第1の押出部材
56A 押出面
56B 面
56H 貫通穴
58 第2の押出部材
60 第二のプレス成形型
100 両面研削装置
102 下定盤
104 上定盤
106 インターナルギヤ
108 キャリヤ
112 太陽ギヤ

Claims (16)

  1. 磁気ディスク用ガラス基板に加工される磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法であって、
    溶融ガラスの塊を一対の型のプレス面によって挟み込むことにより、ガラスブランクを成形するプレス工程と、
    前記ガラスブランクを、前記一対の型のプレス面を離間させて取り出す取出工程と、を含み、
    前記プレス工程では、溶融ガラスの塊を一対の型のプレス面によって挟み込んでから前記取出工程で前記一対の型のプレス面を離間させるまでの間、前記一対の型のプレス面の温度が前記溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度で、かつ前記一対の型のプレス面の温度が互いに揃うように前記溶融ガラスの塊をプレスする、ことを特徴とする磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
  2. 前記プレス工程は、前記溶融ガラスの塊を板状のガラスブランクとするための1次プレス工程と、前記ガラスブランクが破損しない程度の時間、前記1次プレス工程を行った後、前記1次プレス工程に用いる前記プレス面のプレス圧よりも低いプレス圧力で前記ガラスブランクを前記一対の型で保持する2次プレス工程と、を含む、請求項1に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
  3. 前記プレス工程では、前記ガラスブランクの残留応力値が、前記ガラスブランクの機械加工で破断が生じない許容値以下となるように、前記2次プレス工程を行う、請求項1または2に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
  4. 前記許容値は、バビネ補正器法で測定した場合の引張応力値として0.4kgf/mmである、請求項3に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
  5. 前記プレス工程では、プレス開始からプレス終了までの時間が300秒以下である、請求項3又は4に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
  6. 前記プレス工程は、溶融ガラスの塊を落下させ、落下中の前記塊を水平方向から前記一対の型で挟み込んで、前記ガラスブランクを成形する工程である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
  7. 前記プレス工程では、前記ガラスブランクの外周の端が、前記プレス面の端に達しないように前記ガラスブランクが成形される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法にて成形されたガラスブランクを加工して、磁気ディスク用ガラス基板とする加工工程を含む、
    磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
  9. 前記ガラスブランクの加工前、前記ガラスブランクはアニール処理されない、請求項8に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
  10. 機械加工をすることにより磁気ディスク用ガラス基板となる磁気ディスク用ガラスブランクであって、
    平面度が4μm以下であり、
    前記磁気ディスク用ガラスブランクの目標厚さに対する板厚差が1μm〜8μmであり、
    バビネ補正器法により測定された引張応力値が0.4kgf/cm2以下である、ことを特徴とする磁気ディスク用ガラスブランク。
  11. 前記磁気ディスク用ガラスブランクの最大の厚さと最小の厚さとの差分が1μm以上である、請求項10に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
  12. 前記目標厚さが0.5mm〜1.0mmである、請求項10または11に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
  13. 前記磁気ディスク用ガラスブランクの端面が自由曲面である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
  14. 前記磁気ディスク用ガラスブランクの主表面がプレスによる成形面である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
  15. ガラス転移点が650℃以上である、請求項10〜14のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
  16. 溶融ガラスの塊を一対の型のプレス面によって挟み込んでから前記一対の型のプレス面を離間させるまでの間、前記一対の型のプレス面の温度が前記溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度で、かつ前記一対の型のプレス面の温度が互いに揃うように前記溶融ガラスの塊をプレスすることにより得られた、請求項10〜15のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラスブランク。
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