JP2015024939A - 磁気ディスク用ガラス基板の製造方法 - Google Patents

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明 村上
秀和 谷野
Hidekazu Yano
秀和 谷野
磯野 英樹
Hideki Isono
英樹 磯野
勝彦 花田
Katsuhiko Hanada
勝彦 花田
佐藤 崇
Takashi Sato
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Abstract

【課題】主表面にもとめられる平面度を確保しつつそのばらつきを抑制できる磁気ディスク用ガラスブランク製造方法を提供する。
【解決手段】落下中の溶融ガラスの塊24を一対の型52,62のプレス成形面52A,62Aで挟み込んで板状のガラスブランクとする1次プレス工程と、一対の型50,60のプレス成形面52A,62Aの温度を溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度とした状態で、ガラスブランクの残留応力値がガラスブランクの孔加工で破断が生じない許容値以下となるように、一対の型50,60で保持して残留応力値を低下させる2次プレス工程と、ガラスブランクに対して孔加工を行う孔加工工程と、を有する。第1および第2プレス工程では、プレス成形面52A,62Aにおける溶融ガラスの塊24が延び広げられて溶融ガラス24の径が拡大する領域と重なる位置に、凹部又は凸部の少なくともいずれか一方が形成された型を用いる。
【選択図】図5

Description

本発明は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
近年の磁気記録媒体の記録密度の向上に伴い、磁気記録媒体の作製に用いる磁気ディスク用ガラス基板や磁気ディスク用ガラスブランクには、板厚差および平坦性をより一層改善することが求められている。
機械加工をすることにより磁気ディスク用ガラス基板となる磁気ディスク用ガラスブランクを作製する方式としては、代表的には、
(1)溶融ガラスの塊を一対のプレス成形型によりプレス成形するプレス成形工程を経て磁気ディスク用ガラスブランクを作製するプレス方式、及び
(2)フロート法、ダウンドロー法などによって形成されたシート状ガラスを円盤状に切断加工する工程を経て磁気ディスク用ガラスブランクを作製するシートガラス切断方式、
が知られている。
プレス方式の一例として、上下の金型に溝を設けガラス成形品の離型性を向上させる技術が知られている(特許文献1)。また、プレス方式の他の例として、落下中の溶融ガラスの塊を落下方向の両側から一対の方で挟んでガラスブランクを成形する技術が知られている(特許文献2)。
特開2009−280410号公報 特開2012−79361号公報
ここで、一般的にプレス成形されてなる磁気ディスク用ガラスブランク(以下、適宜単に「ガラスブランク」という。)では、プレスの際の溶融ガラスの熱履歴の違いによってガラスの残留応力(歪)が大きくなる。また、中央に円孔が設けられた磁気ディスク用ガラス基板を得るためには、ガラスブランクに対して孔加工を行う必要があるが、残留応力の影響でガラスブランクに破損が生じてしまう。そこで、ガラスブランクに対して、アニール処理を行い、残留応力を低下させる必要がある。特に、特許文献1に記載の方法では、下型で一旦溶融ガラスの塊を受けて、上型を下型へ向けて降下させて、溶融ガラスの塊を挟み込む。このため、溶融ガラスの下型との接触部位から溶融ガラスの冷却が始まり、次いで、溶融ガラスの上型との接触部位で溶融ガラスが冷却される。このため、溶融ガラスの上型及び下型のそれぞれとの接触部位での冷却勾配が互いに異なることから、溶融ガラスの固化するタイミングが上面と下面とで異なり、プレスの際の上面と下面との熱履歴の違いによってガラスの残留応力が大きくなる。
また、上述した特許文献2に記載の方法では、プレス時点において、第1のプレス成形型と第2のプレス成形型とのそれぞれのプレス成形面の温度が、ガラス材料の歪点温度に10℃を加えた温度以下とされている。このため、プレス時点において、溶融ガラスのうち第1のプレス成形型および第2のプレス成形型との接触部分が最初に冷え固まる。そして、溶融ガラスの冷え固まる領域が板厚方向中心側(プレス方向)へ順次広がっていく。ここで、プレス時点において、溶融ガラスの第1のプレス成形型および第2のプレス成形型との接触部分がガラス転移点以下であるため、その冷え固まった部分でガラスの流動が抑制されることとなる。また、溶融ガラスは、プレスされた時点において、その厚さ方向に温度分布が生じているため、溶融ガラスの板厚方向中心側の部分の固化の際に生じた歪が逃げ場を失いガラスブランク内に比較的大きな残留応力が生じる。こうして取り出されたガラスブランクには比較的大きな残留応力が生じる。このような残留応力が生じている場合には、コアリングやスクライブなどの孔加工の際に、残留応力の影響によりガラスブランクが破損しやすくなるという問題がある。他方、プレス成形後のガラスブランクにアニール処理(徐冷)を施すことによって、ガラスブランクの残留応力が解消される。しかしながら、アニール処理には3〜12時間程度の処理時間を要し、生産性が低下する。
ここで、プレス後のガラスブランクに対するアニール処理を省略すべく、プレス後のガラスブランクの残留歪みを低下させるためには、型をガラス転移点以上の温度とした状態で溶融ガラスの塊を保持することが有効である。しかしながら、上述した特許文献2に記載された水平ダイレクトプレス方式で型をガラス転移点以上の温度とした状態で溶融ガラスの塊を保持してプレス成形したところ、複数の磁気ディスク用ガラスブランクの平面度のばらつきが大きくなることがわかった。具体的には、ガラスブランクの主表面に高さ3〜5μm程度のシワが観測され、このシワの程度の個体差によってガラスブランクの平面度のばらつきが大きくなることがわかった。このようなシワの発生は、平面度のばらつきを悪化させるのみならず外観上も好ましくない。そして、ガラスブランクの平面度の個体間のばらつきが大きい場合には、そのガラスブランクから得られる磁気ディスク用ガラス基板の個体間の平面度ばらつきも大きくなっていた。
そこで、本発明は、水平ダイレクトプレス方式によって磁気ディスク用ガラスブランクを製造する場合に、磁気ディスク用ガラス基板の平面度の個体間ばらつきを抑制できるようにした磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
従来の水平ダイレクトプレス方式を利用してプレス成形して複数の磁気ディスク用ガラスブランクを製造した場合に、主表面の平面度のばらつきが大きくなる原因について発明者らが鋭意検討したところ、ガラスブランクの主表面の平面度を向上させるために型のプレス成形面を平滑面とし、プレス成形面の平面度及び表面粗さを極めて小さくしたことが原因であると考えられた。発明者らの推定原因を図1Aおよび図1Bを参照して説明すると、以下の通りである。
水平ダイレクトプレス方式では、落下中の溶融ガラスの塊を一対の型で捕らえて連続的に挟み込む方式であるため、一対の型を水平方向に高速で移動させて型を開状態から閉状態にする必要があり、溶融ガラスの塊はプレス成形面上で高速で薄板状に押し広げられる。ここで、プレス後のガラスブランクに対するアニール処理を省略すべく、型をガラス転移点以上の温度とした状態で溶融ガラスの塊をプレスして、その状態で一定時間保持する場合、一対の型が閉じられた後の溶融ガラスは、プレス成形面上で薄板状に伸びきった状態で、かつ粘性流動可能な状態で金型間に一定期間保持される。溶融ガラスが伸びきった状態で金型間に保持されているときには、溶融ガラスから金型への熱の移動が生じ、溶融ガラスは急速に冷却されながら固化するが、この冷却に伴ってガラスの収縮が生ずる。図1Aは、従来の水平ダイレクトプレス方式によって成形される溶融ガラスの、冷却による収縮前後の状態の変化を示す図である。図1Aでは、収縮前後の薄板状の溶融ガラスの平面図を示している。図1Aにおいて、(a)は収縮前の状態を、(b)は収縮後の状態を示す。図1A(a)の収縮前の溶融ガラスにおいて、矢印は溶融ガラスが収縮する方向を示している。つまり、薄板状の溶融ガラスの冷却による収縮は、外縁から中心に向かう方向(半径方向)と、周方向とで行われる。その結果、図1A(b)に示すように、収縮後の溶融ガラスは、収縮前の状態と比べて外径が小さくなる。
上述した溶融ガラスの収縮の過程において、特にプレス成形面が平滑面(例えば表面粗さRaで0.25μm以下の状態)である場合には、平面度を悪化させるシワが生じやすくなると考えられる。図1Bに、図1AのS−S断面の、冷却による収縮前後の溶融ガラスの状態の変化を示す。図1Bにおいて、(a)は収縮前の状態を、(b)は収縮後の状態を示す。図1B(b)に示すように、溶融ガラスの収縮後において、収縮するガラスの方向が相対する箇所では局所的にガラスの逃げ場が無くなって膨れた状態となる。特に、プレス成形面が平滑面の場合には、プレス成形面上で溶融ガラスが伸びきった収縮前の状態で、溶融ガラスとプレス成形面の密着度合いが高くなっており、収縮時のガラスの板厚方向の逃げ場がほとんどないことから、図1B(b)に示す状態となりやすい。収縮するガラスの方向が相対することによる板厚方向の膨れが、プレス成形面に沿ったガラス面上の様々な箇所で生ずることで、局所的に平面度が悪化した領域であるシワが観測されたと考えられる。また、このシワの高さやシワが形成される範囲は、一方の金型と他方の金型の熱履歴(温度分布)の差などに起因してガラスブランクごとに個体差が生ずるものと考えられる。
上述した推定原因に基づき発明者らは、水平ダイレクトプレス方式において、成形されるガラスブランクにもとめられる平面度を確保しつつそのばらつきを抑制することを目的として鋭意研究した結果、型のプレス成形面に適切な凹部又は凸部を設けることで、上記目的が達成できることを見出した。
前述したように、プレス成形面の温度がプレス開始時点においてガラス転移点未満である場合、プレス中における溶融ガラスの厚さ方向の温度分布が生じ、成形されたガラスブランク内の残留応力が発生しやすい。ガラスブランクの内部に残留応力が生じている場合には、孔加工の際に、残留応力の影響によりガラスブランクが破損しやすくなるという問題がある。また、プレス成形後のガラスブランクにアニール処理(徐冷)を施すことによって、ガラスブランクの残留応力が解消されるが、アニール処理による加熱によって、ガラスブランクの内部の残留応力の開放に伴ってガラスブランクに変形が生じ、逆にガラスブランクの平面度が大きくなる(反りが生じる)という問題が生じる。そこで、これらの問題を回避するために、プレス中の一対の型のプレス成形面の温度を溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度とした状態で、ガラスブランクの残留応力値を前記ガラスブランクの孔加工で破断が生じない許容値以下となるように一対の型で溶融ガラスを保持する。
保持中の一対の型のプレス成形面の温度を溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度とすることで、プレス中の溶融ガラスは粘性流動しやすい状態となるが、そのような状態でも、型のプレス成形面に適切な凹部又凸部を設けることで、上述したシワが生じ難くなる。つまり、溶融ガラスが伸びきって金型間に保持された状態で、冷却に伴うガラスの収縮が生じたときに、プレス成形面に設けられた凹部又凸部が溶融ガラスの収縮方向への粘性流動を抑えるように機能するため、図1B(b)に示した局所的な膨れが生じ難くなり、ガラスブランクの主表面にシワが発生することが抑制され、シワの発生に起因するガラスブランクの平面度のばらつきが抑制される。結果として、磁気ディスク用ガラスブランクの主表面にもとめられる平面度を確保しつつそのばらつきを抑制することができる。
上述した観点から、本発明の第1の観点は、中央に円孔が設けられた円環状の磁気ディスク用ガラス基板を製造するための磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
溶融ガラス供給口から供給される前記溶融ガラスを切断することにより前記溶融ガラスの塊を落下させる工程と、
落下中の溶融ガラスの塊の落下方向に対する直交方向両側から一対の型のプレス成形面で前記落下中の溶融ガラスの塊を挟み込んで板状のガラスブランクとするための1次プレス工程と、
前記1次プレス工程を行った後、前記一対の型のプレス成形面の温度を前記溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度とした状態で、前記ガラスブランクの残留応力値が前記ガラスブランクの孔加工で破断が生じない許容値以下となるように、前記一対の型で前記ガラスブランクを保持して前記残留応力値を低下させる2次プレス工程と、
前記ガラスブランクに対して前記孔加工を行い、円環状の磁気ディスク用ガラス基板とする孔加工工程と、を有し、
前記第1および第2プレス工程では、前記プレス成形面における前記溶融ガラスの塊が延び広げられて前記溶融ガラスの径が拡大する領域と重なる位置に、凹部又は凸部の少なくともいずれか一方が形成された型を用いることを特徴とする。
前記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記凹部又は凸部は、前記プレス成形面において、前記ガラスブランクから得られる円環状の磁気ディスク用ガラス基板の内周及び外周に対応する箇所を除く部分に配置されてもよい。
前記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記許容値は、バビネ補正器法で測定した場合の引張応力値として0.4kgf/mmであってもよい。
前記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記凹部の深さ又は凸部の高さが、4〜10μmであってもよい。
前記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記ガラスブランクを、前記一対の型のプレス成形面を離間させて取り出す取出工程をさらに有し、前記取出工程では、前記一対の型を離間させる際に、前記一対の型の間に空気流を吹きつけて、前記一対の型から前記ガラスブランクを落下させてもよい。
前記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記凹部又は凸部を除いた部分のプレス成形面の平面度が4μm以下であってもよい。
本発明の第2の観点は、磁気ディスク用ガラス基板を製造するための磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法であって、
流下する溶融ガラスを切断することにより、落下する溶融ガラスの塊を得る切断処理と、
落下している溶融ガラスの塊を、落下方向に対して直交する方向に対向配置された1対の型のプレス成形面でプレスすることで、当該溶融ガラスの塊がプレス成形面によって延び広げられた板状のガラスブランクを得るプレス処理とを含み、
前記プレス処理では、プレスを開始するときの前記一対のプレス成形面の温度が前記溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度であり、かつ、プレス開始から終了までの間の前記ガラスブランクの両主表面における熱履歴が互いに等しくなる条件でプレスを行うものであり、
プレス成形面のうちの前記溶融ガラスの塊が延び広げられて溶融ガラスの径が拡大する領域と重なる位置に、他方の金型のプレス成形面の方向に突出した凸部、または、へこんだ凹部が形成されている一対の金型を用いてプレスを行うものであることを特徴とする。
前記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、両プレス成形面を閉じた状態におけるプレス成形面に形成された前記凸部又は凹部は、他方のプレス成形面に形成された前記凸部又は凹部と同じ位置に設けられてもよい。
上述の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、水平ダイレクトプレス方式によって磁気ディスク用ガラスブランクを製造する場合に、磁気ディスク用ガラスブランクの主表面にもとめられる平面度を確保しつつそのばらつきを抑制することができる。
従来の水平ダイレクトプレス方式によって成形される溶融ガラスの、冷却による収縮前後の状態の変化について説明する図。 図1AのS−S断面について、冷却による収縮前後の溶融ガラスの状態の変化を示す図。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に用いる両面研削装置の一例を説明する図である。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で行われる切断工程の一例を説明する図である。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で行われる1次プレス工程で使用されるプレス成形面の概略形状の一例を示す図である。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で行われる1次プレス工程で使用されるプレス成形面の概略形状の変形例を示す図である。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で行われる1次プレス工程で使用されるプレス成形面の概略形状の変形例を示す図である。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で行われる1次プレス工程で使用されるプレス成形面の概略形状の変形例を示す図である。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で行われる1次プレス工程の一例を説明する図である。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で行われる1次プレス工程の他の例を説明する図である。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で行われる1次プレス工程の他の例を説明する図である。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で行われる1次プレス工程において、プレス成形面に溝を設けることの作用効果を説明する図。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で行われる1次プレス工程及び2次プレス工程におけるガラスブランクとプレス成形型の温度履歴の計測結果の一例を示す図である。 実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で行われる取出工程の一例を示す図である。
以下、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法及び磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明する。
[磁気ディスク用ガラス基板]
磁気ディスク用ガラス基板の元となるガラスブランクは、薄板であって円形形状からなる。図示しないが、磁気ディスク用ガラス基板は、その中心に内孔が形成された、ドーナツ型の薄板のガラス基板である。
磁気ディスク用ガラス基板の大きさは特に限定するものではないが、例えば、外径(φ)と厚さの組合せとして、φ65mm(公称2.5インチ)−1.27mm厚、φ65mm−0.8mm厚、φ65mm−0.635mm厚、φ95mm(公称3.5インチ)−0.5mm厚などである。
本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板に用いられるガラス材料の組成を限定するものではないが、本実施形態のガラス基板は好ましくは、必須成分として、SiO、LiO、NaO、ならびに、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選ばれる一種以上のアルカリ土類金属酸化物を含み、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するCaOの含有量のモル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.20以下であって、ガラス転移点Tgが650℃以上であるアモルファスのアルミノシリケートガラスであってもよい。
このような組成の磁気ディスク用ガラス基板は、ガラス転移点Tgが650度以上であり耐熱性が高いのでエネルギーアシスト磁気記録用磁気ディスクに使用される磁気ディスク用ガラス基板に好適である。
本明細書でいう平面度とは、JIS B0621で規定する平面度を意味し、具体的には、ガラス表面の表面凹凸であって、ガラスブランクの表面を幾何学的平行二平面で挟んだとき、平行二平面の間隔が最小となる場合の二平面間の間隔である。平面度は、例えば、フラットネステスタを用いて測定することができる。
本実施形態で作製されるガラスブランクの平面度は、好ましくは4μm以下である。
[磁気ディスク用ガラス基板の製造方法]
以下、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について、工程毎に説明する。ただし、各工程の順番は適宜入れ替えてもよい。
(1)プレス成形工程
先ず、プレス成形工程について説明する。プレス成形工程は、切断工程とプレス工程と取出工程を含む。
溶融ガラス流が溶融ガラス供給口から所定の量流出したとき、溶融ガラス流を切断ユニットにより切断することによって、溶融ガラスの塊を落下させる。落下する溶融ガラスの塊を水平方向に移動する一対の金型で挟み込んで、落下中の溶融ガラスの塊を水平方向から一対の金型のプレス成形面によって挟むことによりプレスしてガラスブランクを成形する水平ダイレクトプレス方式が用いられる。所定時間プレスを行った後、金型を開いてガラスブランクが取り出される。プレスの際、一対の金型のプレス成形の温度が互いに揃うように溶融ガラスの塊がプレスされる。このような水平ダイレクトプレス方式については、後述する。
(2)孔加工工程
次に、孔加工工程について説明する。プレス成形工程の後、孔加工工程では、成形されたガラスブランクに対して孔加工を行い、円環状のガラス基板を形成する。孔加工方法としてガラスブランクをスクライブする方法を採ることができる。
ここでスクライブとは、成形されたガラスブランクを所定のサイズのリング形状のガラス基板とするために、ガラスブランクの表面に超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子を含んだスクライバにより2つの同心円(内側同心円および外側同心円)状の切断線(線状のキズ)を設けることをいう。2つの同心円の形状にスクライブされたガラスブランクは、部分的に加熱され、ガラスブランクの熱膨張の差異により、外側同心円の外側部分および内側同心円の内側部分が除去される。これにより、円形状の孔があいた円環状のガラス基板が得られる。
なお、後述するが、本実施形態のプレス成形工程では、中央近傍から周縁に向かって放射状に複数の凹部が形成されたプレス成形面で溶融ガラスをプレスするため、プレス成形面を形状転写したガラスブランクの主表面は、中央から周縁に向かって放射状に複数の筋(線状の突起)が形成されたものとなる。このとき、スクライバによる切断線(スクライブ切断線)上に、すなわち、ガラスブランクの内周および外周に対応する箇所にガラスブランクの筋が存在する場合には、切断線が不規則に形成される(正確な円とならない、又は切断線の深さが不均一となる)ことでスクライブ不良となる虞がある。そのため、スクライブ切断線の形成領域はガラスブランク上で平坦面となる領域内とし、ガラスブランクに形成される筋はスクライブ切断線の形成箇所(ガラスブランクの内周および外周に対応する箇所)から外すようにすることが好ましい。例えば、2.5インチ用の磁気ディスク用ガラス基板に対応するガラスブランクの場合、中心から20〜66mmの間に筋が形成されている場合には、筋をスクライブ切断線の形成箇所から外すことができる。
後述するように、本実施形態のプレス成形工程において、凹部の代わりに凸部が形成されたプレス成形面で溶融ガラスをプレスしてもよいが、その場合、プレス成形面を形状転写したガラスブランクの主表面は、中央から周縁に向かって放射状に複数の溝が形成されたものとなる。そのため、上述したスクライブ不良を回避するために、ガラスブランクに形成される溝はスクライブ切断線の形成箇所(ガラスブランクの内周および外周に対応する箇所)から外すようにすることが好ましい。
なお、他の孔加工の例としてコアドリルを用いてガラスブランクを加工する方法を採ってもよい。すなわち、ガラスブランクに対してコアドリルを用いて内外周加工して円孔を形成することにより円形状の孔があいたディスク状のガラス基板を得ることもできる。コアドリルで内外周加工する場合には、ガラスブランクに筋又は溝があった場合でも加工不良が生じ難いが、スクライブの方がコアドリルを用いる場合よりも加工後のガラス基板の真円度が向上する。
(3)形状加工工程、及び端面研磨工程
次に、形状加工工程について説明する。形状加工工程では、孔加工工程後のガラス基板の端部に対するチャンファリング加工(外周側端面および内側端面の面取り加工)を含む。チャンファリング加工は、孔加工工程後のガラス基板の外周側端面および内側端面において、ダイヤモンド砥石により面取りを施す形状加工である。この形状加工により所定の形状をしたガラス基板が生成される。面取りの傾斜角度は、主表面に対して例えば40〜50度であり、約45度であることが好ましい。次に、端面研磨工程を説明する。端面研磨では、ガラス基板の内側端面及び外周側端面に対して、ブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリが用いられる。
(4)固定砥粒による研削工程
固定砥粒による研削工程では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて、ガラス基板の主表面に対して研削加工を行う。図2は、両面研削装置100を説明する図である。具体的には、ガラスブランクから生成されたガラス基板2の外周側端面を、両面研削装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながらガラス基板2の両側の主表面の研削を行う。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤104(図2参照)及び下定盤102(図2参照)の間にガラス基板2が狭持される。そして、上定盤104または下定盤102のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス基板2と各定盤とを相対的に移動させることにより、このガラス基板2の両主表面を研削することができる。
図2に示す両面研削装置100は、下定盤102、上定盤104、インターナルギヤ106、キャリヤ(保持部材)108、及び太陽ギヤ112、を有する。両面研削装置100は、下定盤102と上定盤104との間に、インターナルギヤ106を上下方向から挟む。インターナルギヤ106内には、研削時に複数のキャリヤ108が保持される。図2では、4つのキャリヤ108が保持されている。下定盤102および上定磐104に平面的に接着した図示されないダイヤモンドシートの面が研削面となる。すなわち、ガラス基板2は、ダイヤモンドシートを用いた固定砥粒による研削が行われる。
(5)第1研磨工程
必要に応じて適宜主表面の研削工程を実施した後、研削されたガラス基板の主表面に第1研磨が施される。第1研磨は、固定砥粒による研削等により主表面に残留したキズ、歪みの除去、表面凹凸(マイクロウェービネス、粗さ)の調整を目的とする。
第1研磨工程では、遊星歯車機構を備えた両面研磨装置を用いてガラス基板の主表面に対する研磨を行う。両面研磨装置は、上定盤および下定盤を有している。下定盤の上面および上定盤の底面には、研磨パッドが取り付けられている。上定盤および下定盤の間に、キャリヤに収容した1又は複数のガラス基板が狭持され、研磨剤を含む遊離砥粒を供給しながら、遊星歯車機構により、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作することにより、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることで、このガラス基板の両主表面を研磨することができる。
(6)化学強化工程
さらに、必要に応じて、ガラス基板は化学強化されてもよい。
化学強化液として、例えば硝酸カリウムと硫酸ナトリウムの混合塩の溶融液等を用いることができる。化学強化では、化学強化液が、例えば300℃〜400℃に加熱され、洗浄したガラス基板が、例えば200℃〜300℃に予熱された後、ガラス基板が化学強化液中に、例えば1時間〜5時間浸漬される。
このように、ガラス基板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス基板の表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板が強化される。
(7)第2研磨(最終研磨)工程
次に、十分に洗浄されたガラス基板に第2研磨が施される。第2研磨は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨では例えば、第1研磨で用いた研磨装置を用いる。このとき、第1研磨と異なる点は、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、樹脂ポリッシャの硬度が異なることである。
第2研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子が用いられる。これにより、ガラス基板の主表面の表面粗さをさらに低減でき、端部形状を好ましい範囲に調整できる。
研磨されたガラス基板を中性洗剤、純水、IPA等を用いて洗浄することで、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
[プレス成形工程の詳細説明]
次に、プレス成形工程について詳細に説明する。プレス成形工程は、溶融ガラスの塊を溶融ガラス流から切り出す切断工程と、一対の型のプレス面によって挟み込むことにより、ガラスブランクを成形するプレス工程と、このガラスブランクを、一対の型のプレス面を離間させて取り出す取出工程と、を含む。プレス工程は、溶融ガラスの塊を板状のガラスブランクとするための1次プレス工程と、このガラスブランクが破損しない程度の時間、1次プレス工程を行った後、1次プレス工程に用いたプレス成形面のプレス圧力よりも低いプレス圧力でガラスブランクを一対の型で保持する2次プレス工程と、を含む。
(a)切断工程
切断工程では、プレス成形の対象物である溶融ガラスの塊を作製する。溶融ガラスの塊の作製方法としては特に限定されないが、通常は、溶融ガラスをガラス流出口から垂下させて溶融ガラス流をつくり、鉛直方向の下方側へと連続的に流出する溶融ガラス流の先端部を切断することで、溶融ガラスの塊を形成する。なお、溶融ガラス流からその先端部を分離するように実施される切断には、一対のシアブレードを用いることができる。
図3は、本実施形態の切断工程の一例を説明する図である。
切断工程では、図3に示すように、上端部が図示されない溶融ガラス供給源に接続された溶融ガラス流出管10の下端部に設けられたガラス流出口12から、溶融ガラス流20を鉛直方向の下方側へと連続的に流出させる。一方、ガラス流出口12よりも下方側には、溶融ガラス流20の両側に、各々、第1のシアブレード(下側ブレード)30と、第2のシアブレード(上側ブレード)40とが、溶融ガラス流20の垂下する方向の中心軸Dに対して略直交する方向に、配置されている。下側ブレード30および上側ブレード40は、各々、中心軸Dに対して直交するX1方向、および、中心軸Dに対して直交するX2方向に移動することで、溶融ガラス流20の両側から、溶融ガラス流20の先端部22側へと接近する。なお、溶融ガラス流20の粘度は、溶融ガラス流出管10や、その上流の溶融ガラス供給源の温度を調整することで制御される。
下側ブレード30、上側ブレード40は、先端部に刃部34、44を有する。鉛直方向に対して、刃部34の上面34Uと、刃部44の下面44Bとは、略同程度の高さ位置となるように、下側ブレード30および上側ブレード40が配置される。
溶融ガラス流20の切断時、下側ブレード30および上側ブレード40を、各々、X1方向およびX2方向に移動させる。これにより、刃部34の上面34Uと刃部44の下面44Bとが、部分的にほぼ隙間無く重なり合う。すなわち、中心軸Dに対して下側ブレード30および上側ブレード40を垂直に交差させる。これにより、溶融ガラス流20に対して、その中心軸Dの近傍まで下側ブレード30および上側ブレード40が貫入して、先端部22が、略球状の溶融ガラスとして切断される。切断されて生成された溶融ガラスの塊は、図3に示す鉛直方向下方であるY1方向に落下する。
(b)1次プレス工程
図4A〜Cおよび図5〜7は、1次プレス工程を説明する図である。
1次プレス工程では、落下中の溶融ガラスの塊24を、塊24の落下方向に対して交差する方向に対向配置された第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60によりプレスし、板状のガラスブランクを成形する。ここで、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60は、塊24の落下方向(Y1方向)に対して略90度(90度±1度)の範囲内の角度を成すように略直交する方向に対向配置されていることが好ましく、溶融ガラスの塊24の落下方向に対して直交する方向に対向配置されていることが特に好ましい。このように溶融ガラスの塊24の落下方向に対して一対のプレス成形型を対向配置することにより、溶融ガラスの塊24を両側から均等にプレスして板状のガラスブランクに成形することがより容易となる。
図4Aは、第1のプレス成形型50のプレス成形面52Aの概略形状を示す図である。図4Aに示すように、プレス成形面52Aには、溶融ガラスの塊24が接触を開始する中央近傍から周縁に向かって放射状に複数の凹部52dが形成されている。なお、図4Aには図示しないが、第2のプレス成形型60のプレス成形面62Aも同様の形状であり、複数の凹部62dが形成されている。以下では、プレス成形面52Aの凹部52dについてのみ説明するが、プレス成形面62Aの凹部62dについても同様である。
前述したように、凹部52dが形状転写されたガラスブランク(つまり、筋が形成されたガラスブランク)を適切にスクライブできるようにするため、凹部52dは、プレス成形面52Aにおいて、ガラスブランクのスクライブ切断線の形成領域を除く領域内に対応して形成されていることが好ましい。例えば、2.5インチ用の磁気ディスク用ガラス基板に対応するガラスブランクの場合、プレス成形面52Aの中心から20〜66mmの間に凹部を形成することが好ましい。後述するように、凹部52dは、1次プレスにおいて溶融ガラスの塊24がプレス成形面52A上で薄板状に押し広げられてから冷却に伴って収縮するときに、溶融ガラスの収縮方向への粘性流動を抑えるために設けられている。それによって、成形されたガラスブランクの平面度のばらつきを悪化させるシワの発生が抑制される。
図4Aには、凹部52dの断面形状(X−X拡大断面)の好ましい例についても示してある。この凹部52dには、溶融ガラスの塊24が入り込み固化する。この凹部が直角に形成されて尖った形状になっている場合には、溶融ガラスが冷えて収縮したときに割れてしまう。そのため、ガラスが破損することがないように、凹部52dはある程度広がりをもった形状であることが好ましい。一例としては、図4AのX−X拡大断面において、凹部52dの内壁面は、プレス成形面52Aに対して、傾斜している。凹部52dの内壁面の傾斜角度θは、プレス成形面52Aの平坦面を基準として30度以下であることが好ましい。なお、30度を超える場合(傾斜が急峻)である場合には、プレスの際に延び広がった溶融ガラスの収縮の規制度合いが強くなりすぎ、プレスの際にガラスブランクに割れが生じる場合がある。
図4Aにおいて、例えば凹部52dの幅Wは0.1〜5mm程度である。凹部52dの深さDは4〜10μm程度であるが、必ずしもこれらの範囲の値に限られない。なお、凹部52dの深さDが4μm未満では、ガラスの収縮規制の効果が不十分となり、シワの発生、即ち平面度のばらつきを抑えることができない場合がある。他方、凹部52dの深さDが10μmを超えると、ガラスブランクの両主表面に形成される筋の合計高さが20μmを越えるため、研削又は研磨の際の除去量が、筋が形成されない場合に比べて20μm余分に除去する必要があり、加工時間が長くなるため、加工効率の観点から好ましくない。
なお、以下の説明では、上述したようにプレス成形面に凹部を設ける場合について説明するが、凹部に代えて、凸部をプレス成形面に設けてもよい。凸部をプレス成形面に設けた場合でも、1次プレスにおいて溶融ガラスの塊24がプレス成形面52A上で薄板状に押し広げられてから冷却に伴って収縮するときの粘性流動を抑制することができる。凸部を設ける場合には、凸部の幅を0.1〜5mm程度とし、凸部の高さを4〜10μm程度とすることが好ましい。なお、凸部の高さが4〜10μmの範囲であれば、凹み部の場合と同様に、研削又は研磨の際の除去量を抑えつつ、ガラスの収縮規制の効果を得ることができる。
第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス成形面52A、62Aの凹部52d、62dを除く領域の平面度は4μm以下であることが好ましい。プレス成形面52A、62Aの平面度を4μm以下とすることで、プレスによって転写されるガラスブランクの主表面の平面度が磁気ディスク用ガラス基板にもとめられる目標平面度(例えば4μm以下)に近くなるため、後工程の研削工程における取しろを少なくすることができる。
1次プレス工程を実施する直前における、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス成形面52A、62Aの温度は、溶融ガラスの塊24を構成するガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度で加熱され平衡状態にあることが好ましい。プレス成形面の温度を、上述した範囲内とすることにより、後述するように、溶融ガラスの塊24において温度分布があったとしても、後述する2次プレス工程において、ガラス転移点以上の温度で、ガラスブランクの温度分布を略均一にすることができる。これにより、温度分布が略均一になったガラスブランクを第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60から取り出して、大気中で放冷することにより、残留応力の少ないガラスブランクを作製することができる。プレス成形面の温度を屈服点未満とするのは、ガラスブランクをプレス成形型から離型した後に平面度が大きく悪化してしまうことを防ぐためである。
次に、金型を構成する第1のプレス成形型50及び第2のプレス成形型60について、図3を参照しながら説明する。第1のプレス成形型50及び第2のプレス成形型60は、例えば超硬合金などで構成されることが、機械的強度及び後述する熱伝導度を高くする点で好ましい。第1のプレス成形型50及び第2のプレス成形型60は、略円盤形状を有するプレス成形型本体52、62と、このプレス成形型本体52、62の外周端を囲うように配置されたガイド部材54、64とを有する。なお、図3は断面図であるため、図3中において、ガイド部材54、64は、プレス成形型本体52、62の上下両側に位置するように記されている。また、プレス成形型50をX1方向へ移動させ、第2のプレス成形型60をX2方向に移動させるように、第1のプレス成形型50及び第2のプレス成形型60は、図示されない駆動装置と機械的に接続されている。
プレス成形型本体52、62の一方の面は、それぞれプレス成形面52A、62Aとなっている。プレス成形面52Aとプレス成形面62Aとは互いに対向するように配置されている。ガイド部材54には、プレス成形面52Aに対してX1方向に少しだけ突出した高さ位置にガイド面54Aが設けられ、ガイド部材64には、プレス成形面62Aに対してX2方向に少しだけ突出した高さ位置にガイド面64Aが設けられている。このため、プレス成形に際しては、ガイド面54Aとガイド面64Aとが突き当たり接触するため、プレス成形面52Aとプレス成形面62Aとの間には隙間が形成される。この隙間の厚さが、第1のプレス成形型50と第2のプレス成形型60との間でプレスされてガラスブランクの厚さとなる。プレス成形面52A、62Aは、鏡面仕上げされている。なお、第1のプレス成形型50と第2のプレス成形型60によるプレスにより、溶融ガラスの塊24が押し広げられてガラスブランクとなるときのプレス成形面52A、62Aの領域である溶融ガラス延伸領域S1を含むプレス成形面52A、および、溶融ガラス延伸領域S2を含むプレス成形面62Aの全面(但し、上述した凹部又は凸部を除く。)が、曲率が0である平坦面を成している。
図3中の第1のプレス成形型50のプレス成形本体52のプレス成形面52Aと反対側には、第1の押出部材56及び第2の押出部材58が設けられている。
第1の押出部材56の一方の押出面56Aは、プレス成形型本体52の端面である被押出面52Bとガイド部材54の端面である押出面54Bとに接触している。また、プレス成形型本体52の被押出面52Bに対向する領域の一部に、第1の押出部材56の厚み方向に貫通する貫通穴56Hが設けられている。なお、押出面56Aと反対側の面56Bは、図示されない駆動装置に機械的に接続されている。このため、プレス成形に際しては、上記駆動装置によって、第1の押出部材56を介して、プレス成形型本体52とガイド部材54とを同時に、図中の軸方向Xの第1の押出部材56が配置された側からプレス成形型本体52およびガイド部材54が配置された側へと押し出すことができる。これにより、第1の押出部材56からプレス成形型本体52にプレス圧力となる押圧荷重が与えられる。
第2の押出部材58は、貫通穴56H内に挿入されると共に、プレス成形型本体52の被押出面52B側に接続されている。第2の押出部材58は、図3に示す例では円柱状の棒状を成すが、プレス成形型本体52に対して荷重を自在にかけることができるのであれば、その形状は特に限定されない。なお、第2の押出部材58の被押出面52B側に接続された端と反対側の端は、図示されない駆動装置に機械的に接続されている。このため、プレス成形に際しては、上記駆動装置及び第2の押出部材58によって、第1の押出部材56がプレス成形型本体52に与える押圧荷重に、さらに押圧荷重を付加させることができ、あるいは、この付加した押圧荷重を除去させることができる。この押圧荷重の除去によって、後述する2次プレス成形においてプレス圧力が調整される。この点は後述する。
1次プレス工程では、図5、6に示すように、溶融ガラスの塊24は、下方へ落下し、2つのプレス成形面52A、62A間に進入する。そして、図6に示すように、落下方向Y1と平行を成すプレス成形面52A、62Aの上下方向の略中央部近傍に到達した時点で、溶融ガラスの塊24の両側表面が、プレス成形面52A、62Aに同時または略同時に接触する。
その後、図7に示すように、溶融ガラスの塊24を、その両側から第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60により押圧し続けると、溶融ガラスの塊24は、溶融ガラスの塊24とプレス成形面52A、62Aとが最初に接触した位置を中心に均等な厚みで押し広げられる。図7に示すようにガイド面54Aとガイド面64Aとが接触するところまで、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60により押圧し続けることで、プレス成形面52A、62A間に、円盤状もしくは略円盤状の板状ガラス(ガラスブランク)26に成形される。このとき、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60により成形されるガラスブランクは、ガイド面54Aとガイド面64Aの端部まで達しない。すなわち、ガラスブランクの端面は、自由曲面となっている。この状態で、1次プレス工程は終了する。したがって、ガラスブランクの端面における熱は、プレス成形面52A、62Aと接触せず、プレス成形面52A、62A内の気相空間の空気に対して放冷される。したがって、ガラスブランクの端面では、冷却に伴って表面に形成される圧縮応力層はほとんどないか、あるいは極めて小さい。すなわち、ガラスブランクの端面には残留応力がないか、あっても極めて小さい。
前述したように、1次プレス工程において、溶融ガラスの塊24がプレス成形面52A、62A上で薄板状に押し広げられてプレスされているときに、溶融ガラスの塊24とプレス成形面52A、62Aの間に溶融ガラスの一部が入り込むための凹部52d,62dが設けられている。この凹部52d,62dに、冷却に伴って溶融ガラスが収縮するときに溶融ガラスの一部を入り込ませることによって、ガラスブランクの平面度のばらつきを悪化させるシワを生じ難くするためである。この点についてさらに、図8を参照して説明する。
図8は、プレス成形面52A、62Aに凹部を設けたことの作用効果を説明するために、1次プレス工程において溶融ガラスの塊24がプレス成形面52A、62Aの間に到達してから押し広げられてガラスブランクとして成形されるまでの間の溶融ガラスの塊24の状態の変化について状態S1〜S3の順に示す図である。図8のプレス成形面52Aは図4AのY−Y断面(プレス成形面62Aについても同様)を示しており、(a)は、プレス成形面52A、62Aに凹部を設けないと仮定した場合であり、(b)は、本実施形態のプレス成形面52A、62Aの場合(つまり、凹部を設けた場合)である。
図8において状態S1は、プレス成形面52A、62Aと溶融ガラスの塊24が接触を開始する時点の状態である。状態S1では、溶融ガラスの塊24の状態について(a)および(b)で差はない。なお、状態S1では、説明の便宜上、プレス成形面52A、62Aが同時に溶融ガラスの塊24と接触を開始した場合を図示しているが、同時に接触を開始しなくてもよい。
図8において状態S2は、プレス成形面52A、62Aと溶融ガラスの塊24が接触してから溶融ガラスの塊24が完全に押し広げられているが、溶融ガラスからプレス成形面への熱移動による冷却に伴う溶融ガラスの収縮が行われる前の状態である。プレス成形面52A、62Aはプレス中において、ガラス転移点以上屈服点未満の温度に保たれているため、状態S2において溶融ガラスは、プレス成形面52A、62Aの間で粘性流動可能な状態で保持されている。状態S2において図8(a)の場合にはプレス成形面に凹部が設けられていないため、特にプレス成形面が平滑面の場合には、薄板状の溶融ガラスの全面でプレス成形面と密着した状態となっている。一方、状態S2において図8(b)の場合(本実施形態の場合)にはプレス成形面に凹部が設けられているため、溶融ガラスの形状は概ね、凹部を含むプレス成形面が転写されたものとなる。
図8において状態S3は、溶融ガラスからプレス成形面への熱移動による冷却に伴う溶融ガラスの収縮が行われた後の状態である。状態S3において、薄板状の溶融ガラスの冷却による収縮は、外縁から中心に向かう方向(半径方向)、周方向、さらには板厚方向に行われ、収縮後の溶融ガラスは、収縮前の状態と比べて外径が小さくなり、かつ薄くなる。状態S3において図8(a)の場合には、薄板状の溶融ガラスの全面でプレス成形面と密着した状態(S2)から半径方向および周方向に収縮が行われるが、プレス成形面が全面で平坦面であるために収縮時のガラスの粘性流動が大きいことから、収縮するガラスの方向が相対する箇所で膨れが生じ、局所的に平面度が悪化した領域であるシワが生ずる。このシワの高さやシワが形成される範囲は、一方の金型と他方の金型の熱履歴(温度分布)の差などに起因してガラスブランクごとに個体差が生ずるものと考えられる。つまり、図8(a)の場合には、シワの程度に応じた平面度のばらつきが生ずることになる。これに対して図8(b)の場合には、プレス成形面52A、62Aに凹部52d,62dが設けられているため、冷却に伴うガラスの収縮が生じたときに、凹部52d,62dが溶融ガラスの収縮方向への粘性流動を抑えるように機能することから、局所的に平面度が悪化した領域であるシワの発生が抑制される。
なお、図4Aの例では、円形のプレス成形面52Aの中心と周縁を結ぶ線の一部のみに凹部52dを形成した場合を示したが、この例に限られない。中心と周縁を結ぶ線の全域に凹部52dを形成してもよく、その場合には図4Aに示した例よりもさらに溶融ガラスを収容する効果の向上が期待できる。
また、図4Aの例では、凹部の数が8個の場合を例示したが、凹部の数のその場合に限られない。凹部の数は適宜設定することができ、例えば90度間隔で4個設けてもよい。
図4Aの例では、凹部52dが円形のプレス成形面52Aの中心付近から周縁に向けて形成される場合について示したが、凹部52dの形状は図4Aに示した例に限られない。凹部52dは、中心付近から外縁に向けて螺旋状に形成してもよいし、互いに平行な複数の線状の凹部をプレス成形面52Aの全域に形成してもよい。かかる形状によっても、溶融ガラスの塊24が押し広げられてから収縮するときに溶融ガラスの一部を凹部内に入り込むことができるため、局所的に平面度が悪化した領域であるシワの発生を抑制できる。但し、前述したように、スクライブ不良を防止する観点からは、スクライブ切断線が形成される領域を外すようにして凹部の位置を設定するのが良いため、図4Aに示したように、放射状に凹部を設けることが好ましい。
図4B〜4Dにそれぞれ、第1のプレス成形型50のプレス成形面52Aの凹部52dの位置についての変形例を示す。各図には、プレス成形面52A上で成形される磁気ディスク用ガラス基板の内周位置と外周位置とを点線で示してある。各図に示す凹部52dは、磁気ディスク用ガラス基板の内周位置と外周位置とを避けるようにして配置されている。
図4Bでは、複数の凹部52dがプレス成形面52Aの中央近傍から周縁に向かって放射状に延びている点は図4Aと同じであるが、図4Aの場合よりも凹部52dがさらに延びて周縁近傍まで達している。このとき、複数の凹部52dは、ガラスブランクから得られる磁気ディスク用ガラス基板の内周位置と外周位置の上には形成されない。図4Cは、円形の凹部52dがプレス成形面52Aの面上において磁気ディスク用ガラス基板の外周位置よりも外側に配置されている例である。図4Dは、複数の凹部52dが、磁気ディスク用ガラス基板の内周位置と外周位置の間でプレス成形面52Aの中央近傍から周縁に向かって放射状に延び、さらに円形の凹部52dが磁気ディスク用ガラス基板の外周位置よりも外側に配置されている例である。
図4B〜4Dの各図において、凹部52dの断面形状は、図4Aに示したものと同様でよい。
なお、凹部に代えて、凸部をプレス成形面に設ける場合には、図4B〜4Dの各図に示した凹部52dの位置と同じ位置に凸部を設ければよい。また、プレス成形面に凹部と凸部を混在させてもよい。
再度図3を参照すると、溶融ガラスを第1のシアブレード30と第2のシアブレード40を用いて切断して溶融ガラスの塊24を形成するときに、各シアブレードと接触する部分では、溶融ガラスの塊24が急冷され切断痕が形成される。この切断痕を含む溶融ガラスの塊24をプレス成形すると、成形されたガラスブランクにはシアマーク等の切断痕に起因した凹み等の欠陥が形成される。そのため、プレス成形時に生ずる切断痕を極力小さくすることが好ましい。切断痕に起因する欠陥を極力少なくするためには、溶融ガラスの切断直前の表面の粘度を低くすることが有効である。例えば、各シアブレードによる溶融ガラスの塊24の表面の冷却を考慮して切断直前の溶融ガラスの表面の温度を予め高くして粘度を低くする方法を採ることができる。それによって、溶融ガラスの塊24が保有する熱により塊上の切断痕の部分の表面は再加熱されるため、切断痕を小さくすることができる。
(c)2次プレス工程
2次プレス工程では、ガラスブランクが破損しない程度の時間、1次プレス工程を行った後、1次プレス工程後に1次プレス工程に用いるプレス面(プレス成形面52A、62A)のプレス圧よりも低いプレス圧力でガラスブランクを一対の型で保持する工程である。
プレス圧力は、第1プレス工程時、第2の押出部材58が第1のプレス成形型50に与えた押圧荷重を除去することにより、低下することができる。したがって、2次プレス工程では、図7に示す状態と変化はない。
1次プレス工程における、プレス成形面52A、62Aのプレス圧力は、例えば0.04〜0.40トン/cm2であり、2次プレス工程におけるプレス圧力は、例えば1×10−5〜4×10−3トン/cm2である。
このように1次プレス工程と2次プレス工程でプレス圧力を変化させるのは、1次プレス工程の機能と、2次プレス工程の機能とを異なるものとするためである。
1次プレス工程において高いプレス圧力を用いてプレスをすることにより、ガラスブランクを所定の厚さ(薄さ)にするとともに、板厚差を低下させることができる。2次プレス工程において低いプレス圧力を用いてプレスすることにより、ガラスブランクの温度分布を均一に近づけることができ、平面度を向上することができる。
具体的に説明すると、2次プレス工程前の1次プレス工程では、高いプレス圧力により、溶融ガラスの塊24の不均一な温度分布に起因して成形直後のガラスブランクの温度分布は不均一である。この不均一な温度分布のガラスブランクから熱が第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60に移動して、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60に不均一の温度分布を生じさせる。2次プレス工程において低いプレス圧力を用いることにより、2次プレス工程では、ガラスブランクとプレス成形面52A、62Aとの間の実質的な接触面積が低下する。その結果、ガラスブランクから第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60への熱移動が低下する。その間、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の不均一な温度分布は、熱伝導による拡散により均一に近づき、温度分布が均一に近づいた第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60が、ガラスブランクと接触することにより、ガラスブランクの温度分布は均一に近づく。
また、1次プレス工程では、上述したように第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60に不均一の温度分布を生じさせるので、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の不均一の温度分布により、プレス成形面52A、62Aの表面は不均一な熱膨張を起こし、プレス成形面52A、62Aに表面凹凸をつくる。この表面凹凸は、ガラスブランクの表面に転写されるので一定の厚さのガラスブランクを作製する上で好ましくない。第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の不均一な温度分布を解消するために、2次プレス成形では、プレス圧力の低下により、ガラスブランクから第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60への熱移動を低下させることができる。そして、2次プレス工程中、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60内での熱伝導による熱拡散により第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度分布を均一に近づけることができる。つまり、2次プレス工程では、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の両主表面における熱履歴が互いに等しくなる条件でプレスが行われる。これにより、プレス成形面52A、62Aの表面凹凸は均一に近づく。しかも、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度は、ガラス転移点以上であるので、ガラスブランクもガラス転移点以上である。このため、ガラスブランクの表面には、プレス成形面52A、62Aの均一な表面に近づいた表面形状が転写される。したがって、平面度の小さいガラスブランクが形成される。
なお、プレス成形面52A、62Aを閉じた状態における各プレス成形面に形成された凹部52d(または凸部)は、他方のプレス成形面に形成された凹部52d(または凸部)と同じ位置に設けられていることが好ましい。それによって、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60が対称構造になるため、2次プレス工程において温度分布をより均一に近付けやすくなる。
このように、2次プレス工程の作用により、ガラスブランクは、ガラス転移点以上の温度で温度分布は均一に近づき、平面度が小さくなる。
1次プレス工程は、ガラスブランクに一定の厚さを確保するために行われるため、1次プレスの継続時間は、ガラスブランクが一定の厚さの形状を確保する時間であればよい。この継続時間が過度に長いと、ガラスブランクが不均一な温度分布に起因する熱歪み(熱応力)によって、あるいは、プレス成形面52A,62Aの不均一な表面凹凸等によって破損する。このため、1次プレス工程の継続時間は、ガラスブランクが温度分布に起因する熱歪み(熱応力)によって破損しない程度の時間である。一方、2次プレス工程の継続時間は、ガラスブランクの温度分布が略均一になる時間であればよい。また、ガラスブランクの生産効率を高める点で、1次プレス工程及び2次プレス工程の合計の継続時間である、プレス開始からプレス終了までの時間が300秒以下であることが好ましい。さらに、1次プレス工程の継続時間と2次プレス工程の継続時間との比は、1:5〜1:100の範囲であることが好ましい。
図9は、1次プレス工程及び2次プレス工程におけるガラスブランクの温度履歴A1と、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度履歴A2の計測結果の一例を示す図である。
第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度は、溶融ガラスの塊24を構成するガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度で加熱されて、温度T2で均一な熱平衡状態にある。この状態で、1次プレス工程が開始されると、ガラスブランクの温度は第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度に比べて高いので、ガラスブランクから第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60に多量の熱が移動する。これによって、ガラスブランクの温度は温度履歴A1に示すように急激に低下する。一方、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60は、ガラスブランクから多量の熱が移動するので、ガラスブランクの各場所の温度に応じた熱移動を受けて温度履歴A2に示すように温度が上昇する。この状態で予め定められた1次プレス工程の継続時間が過ぎると、2次プレス工程に移行する。
2次プレス工程では、1次プレス工程に比べて第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス圧力は低下しているので、ガラスブランクとプレス成形面52A、62Aとの間の実質的な接触面積が低下し、その結果、ガラスブランクから第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60への熱の移動量が低下する。また、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度は、溶融ガラスの塊24を構成するガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度で常時加熱されているので、ガラスブランクの温度は、ガラス転移点以上、屈服点未満のある温度に近づく。このような状態で、2次プレス工程は終了する。したがって、2次プレス工程は、上記ガラスブランクの温度状態が達成される時間を予め計測することにより、2次プレス工程の継続時間を定めることが好ましい。しかも、プレス成形面52A,62Aの熱膨張も、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の均一に近づいた温度分布により、均一に近づくため、ガラスブランクは、プレス成形面52A,62Aの表面形状が均一に転写される。したがって、平面度の小さいガラスブランクが形成される。
ここで、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス面の温度がプレス開始時点においてガラス転移点未満である場合について説明する。第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス面の温度がプレス開始時点においてガラス転移点未満である場合には、溶融ガラスの第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60との接触部分がガラス転移点未満となり、その接触部分が急速に冷え固まる。この冷え固まった部分では、ガラスの流動が抑制される。また、溶融ガラスは、プレスされた時点において、その厚さ方向に温度分布が生じているため、溶融ガラスの板厚方向中心側の部分の固化の際に生じた歪が逃げ場を失いガラスブランク内に比較的大きな残留応力が生じる。こうして取り出されたガラスブランクには比較的大きな残留応力が生じる。
このような残留応力が生じている場合には、コアリングやスクライブなどの孔加工の際に、残留応力の影響によりガラスブランクが破損しやすくなるという問題がある。他方、プレス成形後のガラスブランクにアニール処理(徐冷)を施すことによって、ガラスブランクの残留応力が解消されるものの、アニール処理による加熱によって、ガラスブランクの内部の残留応力の開放に伴ってガラスブランクに変形が生じ、逆にガラスブランクの平面度が大きくなる(反りが生じる)という問題が生じる。このため、磁気ディスク用ガラス基板として所望の平面度を得るためには、ガラスブランクに対する研削・研磨等の後加工の加工量(取りしろ)を比較的大きく設定する必要があり、加工性が低下するという問題が生じる。このため、本実施形態では、プレス中の第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度をガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度とし、プレス工程を1次プレス工程と2次プレス工程とに分けることが好ましい。それによって、溶融ガラスの厚さ方向の温度分布を小さくした状態で溶融ガラスからガラスブランクを形成することができ、ガラスブランクの残留応力を小さくすることができる。なお、ガラスブランクの残留応力が大きい場合には、上述した孔加工工程でガラスブランクをスクライブするときに、切断線の形成の際にガラスブランクに残留応力によって破損が生じやすくなるため、ガラスブランクの残留応力を、スクライブ切断線を形成可能な程度の残留応力の許容値以下とすることが好ましい。
(d)取出工程
取出工程では、ガラスブランクは、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス成形面を離間して取り出される。図10は、取出工程を示す図である。図10に示すように、第1のプレス成形型50と第2のプレス成形型60とを互いに離間させるように、第1のプレス成形型50をX2方向へ移動させるとともに、第2のプレス成形型60をX1方向へ移動させる。これにより、プレス成形面62A及びプレス成形面52Aと、ガラスブランク26とを離型させて、ガラスブランク26を鉛直方向下方に落下させて取り出す。ここで、第1のプレス成形型50と第2のプレス成形型60とを離間する際に、第1のプレス成形型50と第2のプレス成形型60との間に向けて空気を吹き付けてもよい。この空気を吹き付けることにより、ガラスブランク26が第1のプレス成形型50又は第2のプレス成形型60に貼り付いた場合でも、空気流によってガラスブランク26を冷却することによって、第1のプレス成形型50、第2のプレス成形型60、及びガラスブランク26の熱収縮を促して、第1のプレス成形型50又は第2のプレス成形型60からガラスブランク26を剥離することができる。こうして、ガラスブランク26を得る。ガラスブランク26は、図示されない断熱板上に載せられて、大気中で放冷される。
なお、プレス成形面52A及びプレス成形面62Aには、従来より用いられてきたボロンナイトライド等の離型剤は用いられない。これは、1次プレス工程及び2次プレス工程におけるガラスブランクとプレス成形面52A及びプレス成形面62Aとの間の面接触を増やして、ガラスブランクとプレス成形面52A及びプレス成形面62Aとの間の熱移動を利用するためである。また、離型剤の使用は、離型剤の形状がガラスブランクの表面に転写されて平面度が大きくなることから好ましくない。
以上がプレス成形工程の説明である。本実施形態で得られるガラスブランクは、平坦性に優れ(平面度が小さく)、残留応力も小さいことから、従来のように、ガラスブランクにアニール処理を施す必要がない。
また、本実施形態のプレス成形工程では、プレス中の第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス成形面52A、62Aに凹部52d、62dを設け、プレス成形面52A、62Aの温度を溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度とした状態でプレス成形する。その結果、ガラスブランクの残留歪みを低減できるとともに、プレス成形面52A、62Aの間で伸びきった薄板状の溶融ガラスが冷却して収縮するときに、プレス成形面上の凹部が、溶融ガラスが収縮するときの収縮方向への粘性流動を抑えるように機能し、局所的に平面度が悪化した領域であるシワの発生が抑制され、成形されたガラスブランクの平面度のばらつきが抑制される。さらに、前記凹部を除いた部分のプレス成形面52A、62Aの平面度が4μm以下である場合には、プレスによって転写されるガラスブランクの主表面の平面度が磁気ディスク用ガラス基板にもとめられる目標平面度(例えば4μm以下)に近くなるため、後工程の研削工程における取しろを少なくすることができるので好ましい。
上記プレス成形工程では、プレス成形面52A、62Aに凹部が形成されているため、その凹部が転写されて形成されるガラスブランクの主表面には、凹部に対応した筋(線状の突起)が中心付近から外縁に向けて放射状に形成される。このようなガラスブランクに形成される筋は、後工程の研削工程で低下させることができる。前述したように、研削工程では固定砥粒が用いられているため、ガラスブランクの主表面に形成された筋が研削の起点となりやすく、高い加工レートでの研削加工を行うことができる。
(実験例)
以下、本実施形態で作製されるガラスブランクの特性を調べるために、種々のガラスブランクを作製した。
以降に示す実施例では、本実施形態の製造方法を用い、1次プレス工程のプレス圧力、2次プレス工程の継続時間とプレス圧力、あるいは、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の設定温度(ガラス転移点以上屈服点未満の温度範囲内)等を調整してガラスブランクを作製した。ここで、各実施例のプレスに使用した型は、図4Aに示したように、プレス成形面に8本の放射状の凹部が形成されたプレス成形面の型を用いてプレス成形を行ってガラスブランクを作製した。なお、各実施例では、凹部の幅を3mm、凹部の深さを10μmとした。
比較例1,2のガラスブランクは、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の設定温度をガラス歪点近傍とし、それ以外は実施例と同様のプレス方法により作製した。但し、比較例1については、プレス後のガラスブランクの残留応力をアニール処理により低下させ、孔加工工程においてコアリングを行った。また、比較例2については、アニール処理を行わずに孔加工工程においてコアリングを行った。
また、ガラス基板の平面度(JIS B0621)は、市販のフラットネステスタを用いて測定した。なお、ここでの平面度は、ガラスブランクの筋を除く部分の平面度である。残留応力(引張応力値)は、周知のバビネ補正器法にて測定した。
下記表1は、各ガラスブランクの平面度及び残留応力の数値と、孔加工工程においてコアリングを行った時のガラスブランクの破損の有無を示す。
Figure 2015024939
表1の実施例1〜3に示すように、本実施形態のガラスブランクの製造方法は、研削前の平面度を3.2〜3.4μmとして略同一に揃え、型の温度や保持時間を調整することにより、残留応力を種々変えることができる。このとき、実施例1〜3と比較例1との比較より、比較例1のガラスブランクでは、アニール工程によって平面度が大きくなることがわかる。これは、アニール処理による加熱によって、ガラスブランクの内部の残留応力の開放に伴ってガラスブランクに変形が生じたためである。このような平面度が大きなガラスブランクを固定砥粒による研削加工により平面度を低下させる場合には、加工時間が増加し、好ましくない。また、ガラス基板の製造に際して、アニール処理の1工程に3〜12時間要するため、製造効率上好ましくない。
他方、表1の実施例1〜3と従来例2との比較より、残留応力が0.4kgf/cm以下であるとき、孔加工工程におけるコアリング時の破損がないことがわかる。つまり、ガラスブランクの残留応力が0.4kgf/cm以下であれば、アニール工程を省略して、コアリングを行うことができることがわかる。従って、アニール工程の省略により、磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスク用ガラスブランクの製造工程の簡略化を図ることができ、製造効率を向上させることができる。
このように、本実施形態の製造方法で作製されるガラスブランクは、アニール工程を省略して、平面度及び残留応力を従来に比べて低下させるため、その後の研削や形状加工工程を実施するに当たって好ましい形態のガラスブランクを作製することができる。すなわち、1次プレス工程のプレス圧力、2次プレス工程の継続時間とプレス圧力、あるいは、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の設定温度等を調整することにより、残留応力の抑制と平面度の低下したガラスブランクを実現することができる。よって、本実施形態の方法を用いることにより、磁気ディスク用ガラス基板を効率よく製造することができる。
次に、型の凹部の効果を調べるために、実施例1のガラスブランクを100個作製した。比較例3のガラスブランクは、凹部が形成されていないプレス成形面の型を用いてプレス成形を行ったことを除いて実施例1と同条件で、100個作製した。実施例1、比較例3ともに、型のプレス成形面の平面度を4μmとし、プレス成形面の表面粗さを0.25μmとした。成形後は、ガラスブランクの平面度(JIS B0621)を、フラットネステスタを用いて測定した。その測定結果を表2に示す。
表2において「ガラスブランクの平面度のばらつき」は、成形した100個のサンプルの平面度を測定し、測定して得られた平面度の標準偏差を求めた。実施例1では、ガラスブランクの主表面には筋が形成されるが、平面度の測定範囲には、筋が形成された部分は含めなかった。なお、100個のサンプルの平面度の平均値は、4μm以下であった。
ガラスブランクの平面度のばらつき(平面度の標準偏差)の評価基準は、以下の通りである。
[平面度のばらつきの評価基準]
・平面度の標準偏差が1.0μm以上 … 不合格
・平面度の標準偏差が0.5μm以上〜1.0μm未満 … 合格
Figure 2015024939
表2から、実施例1のように、凹部が形成されたプレス成形面を用いてプレス成形を行った場合には、ガラスブランクの平面度のばらつきが少ないことがわかる。これは、プレス時に薄板状の溶融ガラスが冷却して収縮するときに、プレス成形面上の凹部が溶融ガラスが収縮するときの収縮方向への粘性流動を抑えるように機能し、局所的に平面度が悪化した領域であるシワの発生が抑制されたためであると考えられる。他方、比較例1のように、プレス成形面の凹部がなくその表面性状が全面で平滑である場合には、薄板状の溶融ガラスが冷却して収縮するときに、プレス成形面と溶融ガラスが全面で密着した状態で収縮が行われるため溶融ガラスの粘性流動が大きく板厚方向に膨れ、局所的に平面度が悪化した領域であるシワが発生する。このシワの高さやシワが形成される範囲は、金型間の熱履歴(温度分布)の差などに起因してガラスブランクごとに個体差が生ずるため、ガラスブランクの平面度のばらつきが大きかったと考えられる。
次いで、比較例3、実施例1のガラスブランクに対して、ダイヤモンドシートの固定砥粒を用いた研削加工を行い、加工レートを評価した。
評価項目としての「加工レート」は、研削における生産性を評価するための指標であり、速ければ速いほど良い。研削加工前後のガラス基板の板厚を測定し、板厚の減少量を加工時間で除することによって研磨レートを算出し、以下の評価基準を基に評価した。
[研削レートの評価基準]
合格:3.0μm/min以上
不合格:3.0μm/min未満
Figure 2015024939
表3から、成形されたガラスブランクの主表面に筋(線状の突起)がある場合には研削加工の加工レートが良好になることが確認された。これは、研削工程では固定砥粒が用いられているため、ガラスブランクの主表面に筋がある場合には、その筋が研削の起点となりやすいためであると考えられる。本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法では、プレス時の溶融ガラスの一部が入り込むための凹部を設けることで、ガラスブランクの平面度の個体差(つまり、ばらつき)を少なくするだけでなく、そのガラスブランクに対する後工程の研削工程における研削レートの向上も図ることができる。よって、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、平面度のばらつきの少ない磁気ディスク用ガラス基板を効率良く作製することができる。なお、ガラスブランクの主表面に筋状の凹部を設けた場合でも、実施例1と同様に加工レートの向上が確認できた。
以上、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
2 ガラス基板
10 溶融ガラス流出管
12 ガラス流出口
20 溶融ガラス流
22 先端部
24 塊
26 ガラスブランク
30 下側ブレード
34、44 刃部
34U 上面
40 上側ブレード
44B 下面
50 第1のプレス成形型
52、62 プレス成形型本体
52A、62A プレス成形面
52B 被押出面
54、64 ガイド部材
54A、64A ガイド面
54B 押出面
56 第1の押出部材
56A 押出面
56B 面
56H 貫通穴
58 第2の押出部材
60 第2のプレス成形型
100 両面研削装置
102 下定盤
104 上定盤
106 インターナルギヤ
108 キャリヤ
112 太陽ギヤ

Claims (8)

  1. 中央に円孔が設けられた円環状の磁気ディスク用ガラス基板を製造するための磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
    溶融ガラス供給口から供給される前記溶融ガラスを切断することにより前記溶融ガラスの塊を落下させる工程と、
    落下中の溶融ガラスの塊の落下方向に対する直交方向両側から一対の型のプレス成形面で前記落下中の溶融ガラスの塊を挟み込んで板状のガラスブランクとするための1次プレス工程と、
    前記1次プレス工程を行った後、前記一対の型のプレス成形面の温度を前記溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度とした状態で、前記ガラスブランクの残留応力値が前記ガラスブランクの孔加工で破断が生じない許容値以下となるように、前記一対の型で前記ガラスブランクを保持して前記残留応力値を低下させる2次プレス工程と、
    前記ガラスブランクに対して前記孔加工を行い、円環状の磁気ディスク用ガラス基板とする孔加工工程と
    を有し、
    前記第1および第2プレス工程では、前記プレス成形面における前記溶融ガラスの塊が延び広げられて前記溶融ガラスの径が拡大する領域と重なる位置に、凹部又は凸部の少なくともいずれか一方が形成された型を用いることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
  2. 前記凹部又は凸部は、前記プレス成形面において、前記ガラスブランクから得られる円環状の磁気ディスク用ガラス基板の内周及び外周に対応する箇所を除く部分に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
  3. 前記許容値は、バビネ補正器法で測定した場合の引張応力値として0.4kgf/mmである、請求項1又は請求項2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
  4. 前記凹部の深さ又は凸部の高さが、4〜10μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
  5. 前記ガラスブランクを、前記一対の型のプレス成形面を離間させて取り出す取出工程をさらに有し、
    前記取出工程では、前記一対の型を離間させる際に、前記一対の型の間に空気流を吹きつけて、前記一対の型から前記ガラスブランクを落下させる
    ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
  6. 前記凹部又は凸部を除いた部分のプレス成形面の平面度が4μm以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
  7. 磁気ディスク用ガラス基板を製造するための磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法であって、
    流下する溶融ガラスを切断することにより、落下する溶融ガラスの塊を得る切断処理と、
    落下している溶融ガラスの塊を、落下方向に対して直交する方向に対向配置された1対の型のプレス成形面でプレスすることで、当該溶融ガラスの塊がプレス成形面によって延び広げられた板状のガラスブランクを得るプレス処理とを含み、
    前記プレス処理では、プレスを開始するときの前記一対のプレス成形面の温度が前記溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度であり、かつ、プレス開始から終了までの間の前記ガラスブランクの両主表面における熱履歴が互いに等しくなる条件でプレスを行うものであり、
    プレス成形面のうちの前記溶融ガラスの塊が延び広げられて溶融ガラスの径が拡大する領域と重なる位置に、他方の金型のプレス成形面の方向に突出した凸部、または、へこんだ凹部が形成されている一対の金型を用いてプレスを行うものであることを特徴とする磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
  8. 両プレス成形面を閉じた状態におけるプレス成形面に形成された前記凸部又は凹部は、他方のプレス成形面に形成された前記凸部又は凹部と同じ位置に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
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