本発明の歯科用硬化性組成物は、10℃〜40℃で液状を示し、37℃における粘度が10〜3000Pa・sの範囲である液状ポリオレフィン(a)、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)、及び重合開始剤(c)を含有する。かかる組成を有することにより、本発明の歯科用硬化性組成物は、吐出しやすくも垂れにくく、さらに硬化後の可撤性と衝撃吸収性に優れることになる。ここで、可撤性とは、歯科用硬化性組成物を用いて合着した修復物を取り外す必要性が生じた際に、該修復物が容易に取り外し可能であることを意味し、本明細書においては、歯科用硬化性組成物の引張接着強さを測定することにより評価することができる。なお、本発明において(メタ)アクリレートの表記は、メタクリレートとアクリレートの両者を包含する意味で用いられる。
液状ポリオレフィン(a)
本発明の歯科用硬化性組成物において使用する液状ポリオレフィン(a)は、10℃〜40℃の範囲において液状である。
本発明において、「液状である」とは、室温〜口腔内温度、即ち10℃〜40℃の温度範囲で液状であり、固体状と区別されるものである。なお、10℃〜40℃の温度範囲で液状であるとは、前記温度範囲内では常に液状であるということである。
本発明の歯科用硬化性組成物において使用する液状ポリオレフィン(a)の種類は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリヘキセン、ポリシクロヘキセン、ポリオクテン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル及びそれらの共重合体等が挙げられる。これらは2種類以上の液状ポリオレフィンを併用することもできる。その中でも、本発明の歯科用硬化性組成物の硬化後の可撤性と衝撃吸収性に優れるため、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリイソブチレン−ポリブテン共重合体が好適に用いられる。
本発明の歯科用硬化性組成物は、吐出性と垂れない性質を両立しやすくし、かつ硬化物から液状オレフィン(a)を溶出しにくくするために、液状ポリオレフィン(a)の粘度が37℃において10Pa・s以上、好ましくは25Pa・s以上、より好ましくは50Pa・s以上であり、3000Pa・s以下、好ましくは2800Pa・s以下、より好ましくは2600Pa・s以下である。また、10〜3000Pa・sであり、25〜2800Pa・sであることが好ましく、50〜2600Pa・sであることがより好ましい。また、液状ポリオレフィン(a)が複数の液状ポリオレフィンを含有する場合は、加重平均により算出した粘度が前記範囲内であればよく、使用した全ての液状ポリオレフィンが前記範囲内の粘度を有することが好ましい。なお、本明細書において、ポリオレフィンの粘度は後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
さらに、液状ポリオレフィン(a)は、粘度の異なる2種類以上の液状ポリオレフィンから構成されることが好ましく、そのうち少なくとも1種類は37℃における粘度が好ましくは500Pa・s以上、より好ましくは750Pa・s以上で、好ましくは3000Pa・s以下、より好ましくは2600Pa・s以下の液状ポリオレフィン、また、好ましくは500〜3000Pa・s、より好ましくは750〜2600Pa・sの液状ポリオレフィンであることが好ましく、この粘度の液状ポリオレフィンは、液状ポリオレフィン(a)中に、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上で、好ましくは80重量%以下、より好ましくは60重量%以下であり、また、好ましくは0.1〜80重量%、より好ましくは0.2〜60重量%含有されることが好ましい。なお、「粘度が500〜3000Pa・sである液状ポリオレフィンの液状ポリオレフィン(a)中の含有量」とは、液状ポリオレフィン(a)における前記粘度の液状ポリオレフィンの含有量のことであり、液状ポリオレフィン(a)が前記粘度を有する液状ポリオレフィンを複数含有する場合には、その合計含有量を意味する。
また、液状ポリオレフィン(a)には、流動性や混和性などの物性の調整を目的として、スチレン、ブタジエン、イソプレン、(メタ)アクリル酸エステルなど他の重合性単量体を共重合させることができる。
また、液状ポリオレフィン(a)は、本発明の趣旨を損なわない限り、分子鎖中及び/又は分子末端に、(メタ)アクリロイル基、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基などの官能基を1種又は2種以上有していてもよい。
液状ポリオレフィン(a)の重量平均分子量は、液状であれば特に限定されないが、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上であり、好ましくは100000以下、より好ましくは50000以下の範囲内であり、また、好ましくは500〜100000、より好ましくは1000〜50000の範囲内である。液状ポリオレフィン(a)の重量平均分子量が500以上であると、歯科用硬化性組成物から液状ポリオレフィンが溶出するおそれが小さく、一方、100,000以下であると、著しく混和しにくくなるおそれや歯科用硬化性組成物の粘度が著しく上昇し実用性を損なうおそれが小さい。液状ポリオレフィン(a)が複数の液状ポリオレフィンを含有する場合、それぞれのポリオレフィンが前記範囲内の重量平均分子量を有することが好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって求まるポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
液状ポリオレフィン(a)の組成物中の含有量は、歯科用硬化性組成物の吐出性と垂れ性の観点から、1重量%以上が好ましく、2.5重量%以上がより好ましく、5重量%以上がさらに好ましく、10重量%以上がさらに好ましく、90重量%以下が好ましく、85重量%以下がより好ましく、80重量%以下がさらに好ましく、70重量%以下がさらに好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。また、1〜90重量%が好ましく、2.5〜70重量%がより好ましく、5〜50重量%がさらに好ましい。なお、液状ポリオレフィン(a)の含有量とは、液状ポリオレフィン(a)を複数用いる場合は、総含有量のことを意味する。
(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)
本発明における(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)としては、(メタ)アクリロイル基を1個有する単官能性単量体、及び(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能性単量体が例示される。(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)は、その性状に特に限定はなく、液状、固体状等のものが含まれる。
単官能性単量体の例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
多官能性単量体としては、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体等が挙げられる。
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(通称「Bis−GMA」)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート等が挙げられる。これらの中でも、硬化性及び得られる組成物の取り扱い性が優れる点で、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)等が挙げられる。これらの中でも、硬化性及び得られる組成物の取り扱い性が優れる点で、UDMA、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート及び1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
三官能性以上の重合性単量体の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等が挙げられる。これらの中でも、硬化性に優れる点で、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
単官能性単量体と多官能性単量体の重量比(単官能性/多官能性)の重量比としては、硬化性の観点から、0/100〜99/1が好ましく、0/100〜97.5/2.5がより好ましく、0/100〜95/5がさらに好ましい。
また、本発明の歯科用硬化性組成物は、歯質や補綴物に対する接着強さを調整するため、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)として、酸性基含有重合性単量体を含んでもよい。このような酸性基含有重合性単量体としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つ(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有するラジカル重合性単量体が挙げられる。
リン酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシ−(1−ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート;これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が例示される。
ピロリン酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、ピロリン酸ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕;これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が例示される。
チオリン酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート;これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が例示される。
ホスホン酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノアセテート;これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が例示される。
スルホン酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート等が例示される。
カルボン酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、分子内に1つのカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体と、分子内に複数のカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体とが挙げられる。
分子内に1つのカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート;これらの酸ハロゲン化物等が例示される。
分子内に複数のカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、9−(メタ)アクリロイルオキシノナン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデカン−1,1−ジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−(メタ)アクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート;これらの酸無水物、酸ハロゲン化物等が例示される。
これらの酸性基含有重合性単量体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。酸性基含有重合性単量体の配合量は、可撤性の観点から、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)の総量を100重量%とした場合、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、2.5重量%以下であることがさらに好ましい。また、酸性基含有重合性単量体の配合量が1重量%以上であると、良好な接着強さが得られる。なお、酸性基含有重合性単量体は、保存安定性の観点から、後述の重合促進剤(d)と併用する場合、それぞれ別々の容器に分包して保存することが好ましい。例えば、前記液状ポリマー(a)、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)に加えて、酸性基含有重合性単量体を含有する第1剤と、前記液状ポリマー(a)、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)に加えて、重合促進剤(d)を含有する第2剤とを含むものとして保存することができる。
(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)の組成物中の含有量は、硬化性の観点から、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましく、15重量%以上がさらに好ましく、20重量%以上がさらに好ましく、95重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましく、85重量%以下がさらに好ましく、80重量%以下がさらに好ましい。また、5〜95重量%が好ましく、10〜90重量%がより好ましく、20〜80重量%がさらに好ましい。
また、液状ポリオレフィン(a)と(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)の配合割合は、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)の総量100重量部に対して、液状ポリオレフィン(a)が1重量部以上が好ましく、5重量部以上がより好ましく、10重量部以上がさらに好ましく、250重量部以下が好ましく、200重量部以下がより好ましく、175重量部以下がさらに好ましい。また、1〜250重量部が好ましく、5〜200重量部がより好ましく、10〜175重量部がさらに好ましい。1重量部以上であると良好な賦形性を有する歯科用硬化性組成物が得られ、250重量部以下であると良好な吐出性を有する歯科用硬化性組成物が得られる。
重合開始剤(c)
本発明に用いられる重合開始剤(c)は、一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく用いられる。例えば、化学重合開始剤(c−1)及び光重合開始剤(c−2)が、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用される。
本発明に用いられる化学重合開始剤(c−1)としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるケトンパーオキサイドとしては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド及びシクロヘキサノンパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるハイドロパーオキサイドとしては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド及び1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるジアシルパーオキサイドとしては、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるジアルキルパーオキサイドとしては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシケタールとしては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン及び4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレリックアシッド−n−ブチルエステル等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシエステルとしては、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,2,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタラート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート及びt−ブチルパーオキシマレリックアシッド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシジカーボネートとしては、ジ−3−メトキシパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート及びジアリルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルパーオキサイド及び/又はハイドロパーオキサイドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド及び1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドがより好ましく用いられる。
光重合開始剤(c−2)としては、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α−ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン系化合物などが挙げられる。
これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、並びにα−ジケトン類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す組成物が得られる。
上記光重合開始剤として用いられる(ビス)アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド及び2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩が好ましい。
上記光重合開始剤として用いられるα−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが好ましい。
重合開始剤(c)の配合量は特に限定されないが、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)の総量100重量部に対して、0.01重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましく、20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。また、0.01〜20重量部であることが好ましく、0.01〜10重量部であることがより好ましく、0.1〜10重量部であることがさらに好ましく、0.1〜5重量部であることがさらに好ましい。なお、ここでいう重合開始剤(c)の配合量とは、化学重合開始剤(c−1)と光重合開始剤(c−2)の総量のことである。
本発明の歯科用硬化性組成物は、上記液状ポリオレフィン(a)、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)、及び重合開始剤(c)を含有していれば特に限定はなく、当業者に公知の方法により、容易に製造することができる。
重合促進剤(d)
本発明の歯科用硬化性組成物は、重合促進剤(d)を含むことが好ましい。即ち、本発明の歯科用硬化性組成物の一態様として、液状ポリオレフィン(a)、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)、重合開始剤(c)、及び重合促進剤(d)を含有する態様が挙げられる。重合促進剤(d)としては、アミン類、スルフィン酸及びその塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、アルデヒド類、チオ尿素化合物、有機リン化合物、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、チオール化合物などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができ、なかでも、アミン類、チオ尿素化合物、銅化合物、スズ化合物、及びバナジウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
重合促進剤(d)として用いられるアミン類としては、例えば、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミン;N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル等の芳香族アミンが挙げられる。これらの中でも、組成物に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル及び4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
重合促進剤(d)として用いられるチオ尿素化合物としては、1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素、チオ尿素、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素、N,N’−ジ−n−プロピルチオ尿素、N,N’−ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素、トリ−n−プロピルチオ尿素、トリシクロヘキシルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラ−n−プロピルチオ尿素、テトラシクロヘキシルチオ尿素、エチレンチオ尿素、4−メチル−2−イミダゾリジンチオン、4,4−ジメチル−2−イミダゾリジンチオン等が挙げられる。
重合促進剤(d)として用いられる銅化合物としては、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅等が好適に用いられる。
重合促進剤(d)として用いられるスズ化合物としては、例えば、ジ−n−ブチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫ジラウレート等が挙げられる。なかでも、好適なスズ化合物は、ジ−n−オクチル錫ジラウレート及びジ−n−ブチル錫ジラウレートである。
重合促進剤(d)として用いられるバナジウム化合物としては、好ましくはIV価及び/又はV価のバナジウム化合物類である。IV価及び/又はV価のバナジウム化合物類としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、バナジルアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等が好適に用いられる。
また、本発明においては、化学重合開始剤(c−1)及び重合促進剤(d)を組み合わせてレドックス重合開始剤としてもよい。このとき、保存安定性の観点から、前記の化学重合開始剤(c−1)と重合促進剤(d)とを、それぞれ別々の容器に分包して保存する。従って、歯科用硬化性組成物が前記液状ポリオレフィン(a)、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)に加えて、化学重合開始剤(c−1)及び重合促進剤(d)を含有する場合、少なくとも、化学重合開始剤(c−1)を含有する第1剤と重合促進剤(d)を含有する第2剤とを含むものとして提供され、好ましくは、前記第1剤と第2剤からなる、2剤型の形態で用いられるキットとして提供され、さらに好ましくは、前記2剤がいずれもペースト状である、2ペースト型の形態で用いられるキットとして提供される。2ペースト型の形態で用いられる場合、それぞれのペーストをペースト同士が隔離された状態で保存し、使用直前にその2つのペーストを混練して化学重合を進行させ、光重合開始剤をさらに含有する場合には、化学重合及び光重合を進行させて、硬化させることが好ましい。
重合促進剤(d)の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)の総量100重量部に対して、好ましくは0.0001重量部以上、より好ましくは0.0005重量部以上、さらに好ましくは0.001重量部以上、さらに好ましくは0.01重量部以上であり、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。また、好ましくは0.0001〜20重量部、より好ましくは0.0005〜10重量部、さらに好ましくは0.01〜10重量部である。重合促進剤を複数含有する場合は、総含有量のことである。
フィラー(e)
本発明の歯科用硬化性組成物には、硬化前の歯科用硬化性組成物のペースト性状を調整するために、また硬化物にX線造影性を付与するために、フィラー(e)をさらに配合することができる。即ち、本発明の歯科用硬化性組成物の一態様として、液状ポリオレフィン(a)、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)、重合開始剤(c)、重合促進剤(d)、及びフィラー(e)を含有する態様が挙げられる。このようなフィラーとして、有機フィラー、無機フィラー、及び有機−無機複合フィラー等が挙げられる。
有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。
無機フィラーの素材としては、石英、シリカ、アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。これらもまた、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。無機フィラーの形状は特に限定されず、不定形フィラー及び球状フィラーなどを適宜選択して使用することができる。
前記無機フィラーは、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)との混和性を調整するため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
表面処理の方法としては、公知の方法を特に限定されずに用いることができ、例えば、無機フィラーを激しく攪拌しながら上記表面処理剤をスプレー添加する方法、適当な溶媒へ無機フィラーと上記表面処理剤とを分散又は溶解させた後、溶媒を除去する方法、あるいは水溶液中で上記表面処理剤のアルコキシ基を酸触媒により加水分解してシラノール基へ変換し、該水溶液中で無機フィラー表面に付着させた後、水を除去する方法などがあり、いずれの方法においても、通常50〜150℃の範囲で加熱することにより、無機フィラー表面と上記表面処理剤との反応を完結させ、表面処理を行うことができる。なお、表面処理量は特に制限されず、例えば、処理前の無機フィラー100重量部に対して、表面処理剤を0.1〜10重量部用いることができる。
有機−無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーにモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。有機−無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機−無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。
フィラー(e)の平均粒子径は、得られる組成物の取り扱い性及びその硬化物の機械的強度などの観点から、0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。なお、本明細書において、フィラーの平均粒子径は、当業者に公知の任意の方法により測定され得、例えば、下記実施例に記載のレーザー回折型粒度分布測定装置により容易に測定され得る。
フィラー(e)の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)の総量100重量部に対して、好ましくは25重量部以上、より好ましくは50重量部以上、さらに好ましくは100重量部以上であり、好ましくは500重量部以下、より好ましくは400重量部以下である。また、好ましくは25〜500重量部、より好ましくは50〜500重量部、さらに好ましくは50〜400重量部、さらに好ましくは100〜400重量部である。フィラーを複数含有する場合は、総含有量のことである。
また、本発明の歯科用硬化性組成物には、性能を低下させない範囲内で、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、酸化防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、有機溶媒、粘度調整剤等が挙げられる。
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン等が挙げられる。重合禁止剤の含有量は、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)100重量部に対して0.001〜1.0重量部が好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物は、吐出しやすく垂れにくく操作性に優れる。従って、本発明の歯科用硬化性組成物は、シリンジ容器に収納されて使用される歯科用セメントとして好適に使用することができる。
本発明の歯科用硬化性組成物の好適な構成の一例を示す。歯科用硬化性組成物は、
(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)の総量100重量部に対し、液状ポリオレフィン(a)を1〜250重量部、化学重合開始剤(c−1)を0.05〜15重量部、光重合開始剤(c−2)を0.05〜15重量部、重合促進剤(d)を0.05〜20重量部、フィラー(e)を25〜500重量部含むことが好ましく、
(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)の総量100重量部に対し、液状ポリオレフィン(a)を1〜250重量部、化学重合開始剤(c−1)を0.05〜15重量部、光重合開始剤(c−2)を0.05〜15重量部、重合促進剤(d)を0.05〜20重量部、フィラー(e)を50〜500重量部含むことがより好ましく、
(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)の総量100重量部に対し、液状ポリオレフィン(a)を5〜200重量部、化学重合開始剤(c−1)を0.1〜10重量部、光重合開始剤(c−2)を0.1〜10重量部、重合促進剤(d)を0.1〜10重量部、フィラー(e)を50〜400重量部含むことがさらに好ましく、
(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)の総量100重量部に対し、液状ポリオレフィン(a)を5〜200重量部、化学重合開始剤(c−1)を0.1〜10重量部、光重合開始剤(c−2)を0.1〜10重量部、重合促進剤(d)を0.1〜10重量部、フィラー(e)を100〜400重量部含むことがさらに好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物は、シリンジ容器に収納して、製品形態の歯科用セメントとして好適に使用される。歯科用セメントは、並列に連結された2本のシリンジ容器に各材を収納した製品形態とすることができ、シリンジ容器が、その先端にミキシングチップ等の混合器をさらに備えていてもよい。さらに、液状ポリオレフィン(a)、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)、重合開始剤(c)、フィラー(e)を含有する第1剤のペーストと、液状ポリオレフィン(a)、(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)、重合促進剤(d)、フィラー(e)を含有する第2のペーストとすることができる。
本発明の歯科用硬化性組成物は、可撤性の調整や接着耐久性の向上を目的として、歯科用プライマーを併用することができる。歯科用プライマーとしては、歯科業界で一般的に使用されているものであれば特に制限はなく、被着体がジルコニア、セラミックスの場合には、重合性基を有するシランカップリング剤と有機溶媒の混合物が用いられ、被着体が金属である場合には、含硫黄基を有する重合性単量体と有機溶媒の混合物が用いられ、被着体が歯質である場合、酸性基を有する重合性単量体と水及び/又は有機溶媒の混合物が用いられる。なお、酸性基を有する重合性単量体と重合性基を有するシランカップリング剤、酸性基を有する重合性単量体と含硫黄基を有する重合性単量体は、併用して用いても良い。
歯科用プライマーに添加される有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、具体的には、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランが好ましく用いられる。これらは単独で使用しても、2種類以上を併用しても問題ない。また、前記有機溶媒の含有量は特に限定されない。
重合性基を有するシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、8−メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9−メタクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10−メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、12−メタクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、13−メタクリロイルオキシトリデシルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中で、接着性の保持効果が大きいことから、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシランが好ましい。
歯科用プライマーに添加される重合性基を有するシランカップリング剤の配合量は、接着の保持力の観点から、前記有機溶媒100重量部に対して、0.01〜20重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましい。
含硫黄基を有する重合性単量体としては、以下の構造式の化合物が挙げられる。
これらの含硫黄基を有する重合性単量体は、単独で使用しても、2種類以上を併用しても問題ない。
歯科用プライマーに添加される含硫黄基を有する重合性単量体の配合量は、接着の保持力の観点から、前記有機溶媒100重量部に対して、0.01〜20重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましい。
酸性基を有する重合性単量体としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも1個有する重合性単量体が挙げられる。酸性基を有する重合性単量体は、被着体との親和性を有する。リン酸基又はカルボン酸基を含有することが好ましい。酸性基を有する重合性単量体は、硬化性の観点から好ましくは、(メタ)アクリレート類又は(メタ)アクリルアミド類である。以下、酸性基を有する重合性単量体の具体例を下記する。
リン酸基含有重合性単量体としては、本発明の歯科用硬化性組成物に配合されるリン酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体と同じものが例示される。
カルボン酸基含有重合性単量体としては、分子内に1つのカルボキシル基を有する重合性単量体と、分子内に複数のカルボキシル基を有する重合性単量体とが挙げられる。
カルボキシル基を有する重合性単量体としては、本発明の歯科用硬化性組成物に配合される分子内に1つのカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体や分子内に複数のカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体と同じものが例示される。
歯科用プライマーに配合する酸性基を有する重合性単量体は、単独で使用しても、2種類以上を併用しても問題ない。
歯科用プライマーに添加される酸性基を有する重合性単量体の配合量は、接着の保持力の観点から、前記有機溶媒及び/又は水100重量部に対して、0.01〜20重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましい。なお、ここでいう有機溶媒及び/又は水100重量部とは、歯科用プライマーに配合される有機溶媒と水の総量が100重量部であることを意味する。
歯科用プライマーは、硬化性の向上を目的として、重合促進剤を含んでいてもよい。例えば、被着体がジルコニア、セラミックスの場合には、重合性基を有するシランカップリング剤、有機溶媒、及び重合促進剤の混合物が用いられ、被着体が金属である場合には、含硫黄基を有する重合性単量体、有機溶媒、及び重合促進剤の混合物が用いられ、被着体が歯質である場合、酸性基を有する重合性単量体、水及び/又は有機溶媒、ならびに重合促進剤の混合物が用いられる。ここで、酸性基を有する重合性単量体と重合性基を有するシランカップリング剤、酸性基を有する重合性単量体と含硫黄基を有する重合性単量体は、併用して用いても良い。
重合促進剤としては、アミン類、スルフィン酸及びその塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、アルデヒド類、チオ尿素化合物、有機リン化合物、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、チオール化合物などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができ、なかでも、アミン類、チオ尿素化合物、銅化合物及びバナジウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。なお、これら化合物としては、本発明の歯科用硬化性組成物に配合される重合促進剤と同じものが例示される。
歯科用プライマーは、その実施態様に応じて、その他の成分として、シラン及び酸性基を含有しない重合性単量体、重合開始剤、フィラーなどを含んでいてもよい。
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、ここで「室温」とは、18〜28℃のことである。
〔液状ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)〕
以下の実施例において使用した液状ポリオレフィンの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表す)測定よりポリスチレン換算から求めた。GPC測定に用いた装置及び条件は以下のとおりである。
(GPC測定の装置及び条件)
・装置:東ソー社製GPC装置「HLC−8020」
・分離カラム:東ソー社製「TSKgel GMHXL」、「G4000HXL」及び「G5000HXL」を直列に連結
・溶離液:テトラヒドロフラン
・溶離液流量:1.0ml/分
・検出方法:示差屈折率(RI)
〔液状ポリオレフィンの粘度〕
以下の実施例において使用した液状ポリオレフィンの粘度はブルックフィールド粘度計によって測定した。粘度測定に用いた装置及び条件は次のとおりである。
(粘度測定の装置及び条件)
・装置:ブルックフィールド粘度計
・温度:37℃
本実施例で用いた液状ポリオレフィンを以下の表1に示す。
次に、実施例及び比較例の歯科用硬化性組成物の成分を略号と共に以下に記す。
[(メタ)アクリレート系重合性単量体(b)]
D2.6E:2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
UDMA:2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
DD:1,10−デカンジオールジメタクリレート
[化学重合開始剤(c−1)]
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
THP:1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
[光重合開始剤(c−2)]
CQ:カンファーキノン
BAPO:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
[重合促進剤(d)]
DEPT:N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
PTU:1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素
VOAA:バナジルアセチルアセトナート
PDE:4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
[フィラー(e)]
フィラー(e)−1及び(e)−2は、以下の製造方法に従って得られた。
フィラー(e)−1:3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理バリウムガラス粉
バリウムガラス(エステック社製「E−3000」)を振動ボールミルで粉砕し、バリウムガラス粉を得た。得られたバリウムガラス粉100g、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン0.5g、及びトルエン200mLを500mLの一口ナスフラスコに入れ、室温で2時間撹拌した。続いて、減圧下トルエンを留去した後、40℃で16時間真空乾燥し、さらに90℃で3時間真空乾燥し、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理バリウムガラス粉(フィラー(e)−1)を得た。フィラー(e)−1の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、型式「SALD−2100」)を用いて測定したところ、2.4μmであった。
フィラー(e)−2:3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理コロイドシリカ粉
コロイドシリカ粉(日本アエロジル社製「アエロジルOX50」)100g、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン0.5g、及びトルエン200mLを500mLの一口ナスフラスコに入れ、室温で2時間撹拌した。続いて、減圧下トルエンを留去した後、40℃で16時間真空乾燥し、さらに90℃で3時間真空乾燥し、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理コロイドシリカ粉(フィラー(e)−2)を得た。フィラー(e)−2の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、型式「SALD−2100」)を用いて測定したところ、0.04μmであった。
[重合禁止剤]
BHT:3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン
実施例1〜6及び比較例1〜6
表2及び表3に示す原料を常温下(25℃)で混合して、Aペースト及びBペーストを調製し、実施例及び比較例の歯科用硬化性組成物を得た。得られた組成物の吐出性、垂れ性、曲げ強さ、可撤性(チタン及びジルコニアに対する接着性)、並びに37℃での衝撃吸収性(損失係数tanδ)は、以下の試験例1〜8に従って測定又は評価した。
試験例1 吐出性(吐出力)
吐出力の測定には、クリアフィル エステティックセメント(クラレノリタケデンタル社製 容量5mL)の容器を、容器の先端に内径0.8mmのミキシングチップを装着して用いた。
AペーストとBペーストそれぞれを2つの円筒が並列に結合された収納容器に分けて収納した後、1対の押出部材を1対の収納容器に進入させて、各収納容器内のペーストを混合器のミキシング部へ押出し、ミキシング部で2つのペーストが練和されて生成した練和物を吐出部から吐出させた。いずれの場合においても、このときの吐出力(ペーストを収納容器から混合器へ押出しするのに要する力)を万能試験機(島津製作所社製、商品コード「AGI−100」)を用いて測定した。収納容器を鉛直に立て、圧縮強度試験用の治具を装着したクロスヘッドを4mm/分で降下させて、ペーストに荷重負荷を与えながら吐出し、そのときの最大荷重を吐出力とした。吐出力の測定は25℃で行った。吐出力が50N以下の場合は、容器からペーストを押し出す際に、片手で容易に吐出可能であり、吐出性が極めて良い。50Nを超え80N以下では吐出性は比較的良好であるものの、吐出に両手を必要とする場合がある。80Nを超えた場合は両手でも吐出が困難である。
試験例2 垂れ性
縦59mm×横83mmの歯科用練和紙に直径3mmの円を描いておき、その円内に歯科用硬化性組成物を0.03g載せ、35℃の恒温器内に垂直に立て、その状態で3分間静置して歯科用硬化性組成物の円内からの移動距離を測定した。この試験を3回行い、3回の測定値の平均値を垂れ距離(mm)とした。垂れ距離が大きいほど歯科用硬化性組成物が流れやすいことを示す。この試験での垂れ距離が3mm以上のものは、垂れやすく、操作性が悪い。
試験例3 曲げ強さ
上記の例で作製した歯科用硬化性組成物をSUS製の金型(縦2mm×厚さ2mm×長さ25mm)に充填し、上下をスライドガラスで圧接し、37℃の恒温水槽に1時間浸漬して歯科用硬化性組成物を硬化させた。得られた硬化物の半分は万能試験機(島津製作所社製、オートグラフAG−100kNI)を用いて、クロスヘッドスピード2mm/minで曲げ試験を実施し、曲げ強さを測定した。残りの半分について、エタノール20重量%水溶液100mLに37℃で1週間浸漬し、減圧乾燥した後、同様に曲げ強さを測定した。なお、曲げ強さの変化が小さいことが要求されるが、その変化率が20%以下であることが好ましい。
試験例4 金属との接着性(歯科用プライマーなし)
直径15mm×厚さ10mmのチタン片(松風社製、チタン100、チタン含有率99.5%以上)を流水下にて#1000シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨して平滑面を得た後、表面の水を歯科用エアシリンジで吹き飛ばした。
チタン片の平滑面に、直径5mmの丸孔を有する厚さ150μmの粘着テープを貼付して接着面積を規定した。次いで、ステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)に下記に示す歯科用プライマー1を塗布、自然乾燥させた後、塗布面に歯科用硬化性組成物を盛り付け、丸孔を塞ぐように圧着した。圧着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。接着試験供試サンプルは計10個作製し、蒸留水に浸漬したすべてのサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間保管した(37℃24hrサンプル)。続いて、該37℃24hrサンプル10個のうち、半分の5個を4℃と60℃の水にそれぞれ1分ずつ浸漬する動作を3000回繰り返した(TC3000サンプル)。
歯科用プライマー1:
アセトン 99.0重量%、
6−(4−ビニルベンジル−n−プロピル)アミノ−1,3、5−トリアジン−2,4−ジチオン 0.6重量%、
10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート 0.4重量%
からなる混合物
上記の接着試験供試サンプルの引張接着強度を、万能試験機(島津製作所社製、オートグラフAG−100kNI)にて、クロスヘッドスピード2mm/minで測定し、平均値を引張接着強さとした。37℃24hrサンプル、TC3000サンプルともに、接着強さが0.5MPa未満の場合、接着力が低すぎて脱落原因となり、5MPaより大きい場合、接着力が強すぎるため可撤性が得られない。また、前記サンプルの接着強度の変化率が70%以下であることが好ましい。
試験例5 金属との接着性(歯科用プライマーあり)
ステンレス製円柱棒以外に、チタン片の平滑面に前記歯科用プライマー1を塗布し、表面の溶媒を歯科用エアシリンジで吹き飛ばした以外、試験例4と同様にして試験した。
試験例6 ジルコニアとの接着性(歯科用プライマーなし)
試験例4のチタン片をジルコニア片(クラレノリタケデンタル社製、カタナ)に代えたこと以外、試験例4と同様にして試験した。
試験例7 ジルコニアとの接着性(歯科用プライマーあり)
試験例4のチタン片をジルコニア片(クラレノリタケデンタル社製、カタナ)に代えたこと、ジルコニア片の平滑面に歯科用プライマー2を塗布し、表面の溶媒を歯科用エアシリンジで吹き飛ばした以外、試験例4と同様にして試験した。
歯科用プライマー2:
エタノール 95.0重量%、
3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン 5.0重量%、
10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート 1.0重量%
からなる混合物
試験例8 損失係数(tanδ)
レオメータ(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、AR2000)に歯科用硬化性組成物の硬化物を載せ、直径20mmのパラレルプレートを用い、0〜60℃の範囲で剪断速度100Hzの周波数で一定方向に回転させて、tanδを測定した。この測定での37℃でのtanδの値が0.01以下のものは衝撃吸収性が小さい。
表2の結果より、液状ポリオレフィン(a)に該当する液状ポリオレフィンを含有する実施例の歯科用硬化性組成物は、吐出性しやすくも垂れにくく、硬化物もエタノール水溶液浸漬後の物性の変化が小さい。また、チタン及びジルコニアのいずれに対しても仮着に適した接着性及びその保持性を有していることがわかる。さらに、歯科用セメントの硬化物の37℃におけるtanδの値が大きく、衝撃吸収性にも優れていることがわかる。一方、表3の結果より、液状ポリオレフィン(a)を含有しない比較例1の歯科用硬化性組成物や、他の粘度調整剤を含有する比較例2〜4の歯科用硬化性組成物は、吐出性、垂れにくさのバランスが悪い、あるいはエタノール水溶液浸漬後の物性の変化が大きいことが分かる。また、チタン及びジルコニアに対する接着性及びその保持性が適度でなく、比較例1及び2は、歯科用セメントの硬化物の37℃におけるtanδの値が小さく衝撃吸収性も有していないことがわかる。さらに、粘度調整剤としてポリオレフィンを使用する場合でも、比較例5のように粘度の高い粘度調整剤を含有する歯科用硬化性組成物は吐出性に劣っており、比較例6のように粘度の低い粘度調整剤を含有する歯科用硬化性組成物は、垂れたり、エタノール水溶液浸漬後の物性の変化が大きいことが分かる。以上より、本発明の歯科用硬化性組成物は、とりわけインプラント用の仮着セメントに好適であることがわかる。